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特許7356128自己免疫疾患の検出剤となるタンパク質複合体、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】自己免疫疾患の検出剤となるタンパク質複合体、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/531 20060101AFI20230927BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230927BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230927BHJP
   G01N 33/532 20060101ALI20230927BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230927BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
G01N33/531 A
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
G01N33/532 A
G01N33/53 N
C12P21/08
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019107179
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020201087
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】牛山 直子
(72)【発明者】
【氏名】竹下 勝
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝也
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-500502(JP,A)
【文献】OBUSE, C. et al.,A conserved Mis12 centromere complex is linked to heterochromatic HP1 and outer kinetochore protein Zwint-1,NATURE CELL BIOLOGY,2004年10月24日,vol.6/No.11,p.1135-1141
【文献】TSUKAMOTO, M. et al.,Clinical and Immunological Features of Anti-centromere Antibody-positive Primary Sjogren's Syndrome,RHEUMATOLOGY AND THERAPY,2018年09月25日,Vol.5,p.499-505
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C07K 1/00-19/00
C12P 1/08-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MIS12複合体を含む、自己免疫疾患の診断及び/又は分類のための検出剤。
【請求項2】
タグが付加されたものである、請求項1に記載の検出剤。
【請求項3】
タグがオリゴペプチド、ポリペプチド、酵素、蛍光タンパク質、放射性同位元素、金属微粒子、磁性微粒子、蛍光物質、及び発光物質からなる群から選択されるものである、請求項2に記載の検出剤。
【請求項4】
自己免疫疾患がシェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎からなる群から選択される自己免疫疾患である、請求項1~3のいずれか一に記載の検出剤。
【請求項5】
生体由来の試料において、請求項1に記載の検出剤に結合する抗体が存在することを指標とする方法であって、前記生体由来の試料に対して請求項2又は3に記載のタグが付加された検出剤を接触させることを含み、自己免疫疾患の検出及び/又は分類のためのものである、方法
【請求項6】
生体由来の試料が体液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
生体由来の試料が生検組織である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
自己免疫疾患がシェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎からなる群から選択される自己免疫疾患である、請求項5~7のいずれか一に記載の方法。
【請求項9】
生体由来の試料が自己免疫疾患と診断された患者又は自己免疫疾患の疑い例と診断された患者に由来する生体試料である、請求項5~8のいずれか一に記載の方法。
【請求項10】
生体由来の試料が、抗核抗体検査で陽性反応が認められた患者に由来する生体試料である、請求項5~9のいずれか一に記載の方法。
【請求項11】
生体由来の試料が、抗核抗体検査でdiscrete speckled型の陽性反応が認められた患者に由来する生体試料である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
生体由来の試料が、CENP-Bを用いた抗セントロメア抗体検査で陽性反応が認められた患者に由来する生体試料である、請求項5~11のいずれか一に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか一に記載の検出剤を含む組成物であって、自己免疫疾患の検出及び/又は分類用試薬である、組成物。
【請求項14】
自己免疫疾患の検出及び/又は分類用試薬が、シェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎からなる群から選択される自己免疫疾患の検出及び/又は分類用試薬である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の組成物を含むキットであって、自己免疫疾患の検出及び/又は分類のための、キット。
【請求項16】
自己免疫疾患の検出及び/又は分類のためのキットが、シェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎からなる群から選択される自己免疫疾患の検出及び/又は分類のためのキットである、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
請求項1~4のいずれか一に記載の検出剤を含む組成物であって、MIS12複合体に対する自己抗体の検出用試薬、又はMIS12複合体に対する抗体を産生する細胞又は組織の検出用試薬である、組成物。
【請求項18】
請求項17記載の組成物を含むキットであって、MIS12複合体に対する自己抗体の検出用の、キット。
【請求項19】
請求項17記載の組成物を含むキットであって、MIS12複合体に対する抗体を産生する細胞又は組織の検出用の、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患の検出剤となるタンパク質複合体、及びその使用に関する。より具体的には、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患において発現する自己抗体と結合するタンパク質複合体であって、自己免疫疾患の検出剤となるタンパク質複合体、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患とは、免疫系が正常に機能しなくなり、自分の免疫機能によって自身(自己組織)が攻撃されてしまう疾患である。また、全身性自己免疫疾患の患者の特徴の一つとして、内因性抗原(自己抗原)に対する自己抗体の出現が知られている。そのため、自己免疫疾患の診断には、問診、身体所見、一般的に用いられる血液検査に加えて、自己の組織に対する免疫応答を持つか、という検査が用いられる。
【0003】
内因性抗原(自己抗原)に対する自己抗体の検査とは、自己の成分(内因性抗原/自己抗原)に対する液性免疫があるかを調べるものである。代表的なもの一つが抗核抗体検査で、細胞核に存在する自己の成分と結合する抗体の存否を調べる検査である。具体的な手技の例としては、スライドグラスに貼り付けたHEp-2細胞等のヒト培養細胞に対し、希釈した被験者(患者)の血清を反応させ、ラベルした抗ヒトIgG抗体(例えば、抗ヒトIgG抗体-FITC)で検出する方法(間接蛍光抗体法)が挙げられる。このような手法によって、細胞の核の部分に自己抗体の存在を示すシグナルが検出された場合に「抗核抗体検査で陽性」と判断される。
【0004】
抗核抗体検査で陽性の場合、その染色パターンに応じて、homogenous型、speckled型、nucleolar型、discrete speckled型などに分類される。各パターンにおいて、それぞれ核内の何らかの対応タンパク質(内因性抗原/自己抗原)に対する抗体を検出しているとされるが、抗核抗体検査のみではどのような自己抗体が血清に含まれていたか明らかでない。そこで、抗核抗体検査で陽性となった患者に関して、どのタンパク質に対する自己抗体を持っているのかが検討される。具体的には、特定の自己タンパク質を固相に固着させ、そこに被験者(患者)由来の血清を反応させ、酵素標識抗ヒトIgG抗体(例えば抗ヒトIgG-HRP)で検出するELISA法によって自己抗体の種類を同定する手法が多く用いられる。そのように調べられた自己抗体は、ある特定の疾患群で特異的に陽性になる事が知られているため、診断、治療方針の決定、予後予測に有用であり、実臨床でも頻繁に用いられている。しかしながら、なぜ自己抗体が作られるのか、なぜ核内タンパクが全身性自己免疫疾患で主要な抗原になっているのか、なぜ患者の自己抗体と臨床病型が関連するのか、自己抗体が病因となっているのか、など、いまだ解明されていないことは多い。
【0005】
抗核抗体検査でdiscrete speckled型(散剤斑紋型)に分類される場合、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CBX5(HP1α)などのセントロメア構成タンパク質に対する自己抗体が存在することが知られている。とりわけ、抗CENP-B 抗体は、discrete speckled型を示す患者の97%で陽性になると報告されている(非特許文献1)。そのため、抗核抗体検査でdiscrete speckled型と判断された患者は、通常、次にCENP-Bに対する自己抗体の有無がELISAで検査される。この結果、陽性であれば、抗セントロメア抗体(ACA)陽性と判断される。一方、discrete speckled型で抗核抗体陽性であるが、抗CENP-B抗体陰性の場合には、対応抗原不明と分類され、それ以上の検査がなされないのが通例であった。
【0006】
以上のように、血清中の自己抗体の検査として、抗核抗体検査と抗CENP-B抗体ELISAとが存在し、これらの一致度は97%と高いものの、少数例ながら乖離が認められており、抗CENP-B抗体陰性の患者の病態は十分に明らかにされないままとなっている。また、従来の検査手法では、患者の患部の組織/細胞においては自己抗体が発現しているものの、血清中に自己抗体が出てくる以前の病態に関しては、自己抗体の存在を検出することができないため、その病態はほとんど調べられていないのが現状である。
【0007】
シェーグレン症候群(SjS、またはSSと略称される。以下では「SS」と言うことがある。)は我が国が指定する指定難病の一つであり、外分泌腺を主病変とする自己免疫疾患で、涙腺、唾液腺などの外分泌腺に慢性のリンパ球浸潤を認め、腺破壊が起こり、乾燥症状を招く疾患である。SSにおけるリンパ球浸潤は通常巣状に認められ、浸潤部位ではB細胞が中心に、T細胞がその周囲に存在する。25%程度の患者では、浸潤部位に異所性リンパ濾胞の構造も認められる。SSは多彩な自己抗体の出現(抗SS-A抗体、抗SS-B抗体など)や高ガンマグロブリン血症を呈し、涙腺や唾液腺を標的とする臓器特異的な自己免疫疾患であると同時に、全身性の臓器病変を伴う全身性の自己免疫疾患でもある。臓器特異的な症状としては、目の乾燥(ドライアイ)、口の乾燥、鼻腔の乾燥、唾液腺の腫れと痛みなどが代表的なものとして挙げられる。また、全身症状としては、疲労感、記憶力低下、頭痛が特に多く、他にめまい、集中力の低下、気分が移ろいやすい、うつ傾向などが挙げられる。
【0008】
SSは、1999年に改訂された厚生労働省の診断基準に基づいて、以下の4項目のうち2項目を満たすことにより診断される。
【0009】
1.生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)口唇腺組織でリンパ球浸潤が4mm当たり1 focus以上
B)涙腺組織でリンパ球浸潤が4mm当たり1 focus以上
【0010】
2.口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)唾液腺造影でstage I(直径1mm以下の小点状陰影)以上の異常所見
B)唾液分泌量低下(ガムテスト10分間で10mL以下、又はサクソンテスト2分間2g以下)があり、かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見
【0011】
3.眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)シルマー試験で5mm/5min以下で、かつローズベンガルテストで陽性
B)シルマー試験で5mm/5min以下で、かつ蛍光色素(フルオレセイン)試験で陽性
【0012】
4.血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)抗SS-A抗体陽性
B)抗SS-B抗体陽性
【0013】
SSは中年女性に好発し、患者の年齢層は50歳台にピークがあるが、子どもから80歳台の老人まで発症例が認められている。男女比は1:14で患者は女性の方が多い。厚生労働省研究班のデータでは、患者数は約66,300人とされている。しかし、医療機関で受療していない潜在的な患者を含めると、我が国のSS患者数は10~30万人にのぼると推定されている。
【0014】
抗SS-A抗体、抗SS-B抗体は、SS患者全体の60-70%程度で陽性になることが知られており、これらの抗体の性質に関しては多くの研究がなされてきた。例えば、SS患者の末梢血中の抗SS-A抗体/抗SS-B抗体のレパトアは健常人と比べて偏りがある事、SS患者の唾液中には主にIgG型の自己抗体が分泌されること、SS患者の唾液腺ではantigen-drivenにclonalに増殖したB細胞が存在する事、SS患者の唾液腺には抗SS-A抗体/抗SS-B抗体を産生する形質細胞が存在する事などが報告されている。
【0015】
SSの自己抗体としては、抗SS-A抗体/抗SS-B抗体以外にも、抗セントロメア抗体(ACA)、抗α-Fodrin抗体、抗M3R抗体などが報告されている。ACAはSS患者の3-27%に認められているが、ACA陽性はSSの診断基準には含まれていない。ACA陽性のSSについては、抗SS-A抗体/抗SS-B抗体陽性のSSとは臨床病型が異なることから、サブグループを作るのではないかという報告もある。ACAに関しては、全身性強皮症(SSc)のサブグループである限局皮膚硬化型全身性皮膚強皮症(lcSSc)患者の70%、原発性胆汁性胆管炎(PBC)の10-40%でも陽性になることが知られている。SSc(lcSScを含む)やPBCもSSと同様、自己免疫疾患であって指定難病に指定されているものであるが、SSとこれらの疾患との関係はよく分かっていない。
【0016】
前記のように、SS患者の病変部位である唾液腺の組織中には抗SS-A抗体/抗SS-B抗体を産生する形質細胞が見出されており、自己免疫疾患における自己抗体と病変局所との関係は以前から研究されてきた。しかしながら、ACAの出現と病変局所との関連については未だ報告が認められない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【文献】Earnshaw WC et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1987) vol. 84, pp. 4979-4983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、SSのような自己免疫疾患において出現する自己抗体やそれに対応する内因性抗原(自己抗原)の種類が十分に明らかにされていないこと、自己抗体の種類や存在態様と自己免疫疾患の病態との関連付けが十分にされていないこと、及び、臨床検査において内因性抗原(自己抗原)の同定が十分になされていない現状に鑑みて、自己免疫疾患において出現する自己抗体に対する内因性抗原(自己抗原)であって、自己免疫疾患の新たな検出剤の提供を課題とする。また、発明の一態様としては、当該検出剤の使用方法であって、自己免疫疾患の検出・分類のための使用方法、又は、内因性抗原(自己抗原)に対する自己抗体の検出若しくは当該自己抗体を発現する細胞・組織の検出のための使用方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、自己免疫疾患の病変局所に存在する形質細胞の性質を抗原特異性の面から明らかにするために、SSの唾液腺組織中からリンパ球を分離し、形質細胞をシングルセルとして取得すると共に、各形質細胞が産生している抗体の核酸配列を決定した。ついで、決定された配列情報に基づいて各抗体に対応するリコンビナント抗体を作成し、その抗体の反応性を調べることによって、どのようなタンパク質に対する抗体が存在し、どのような自己免疫反応が起こっているのかを網羅的に解析した。この結果、本発明者らは、SS-AやSS-Bといった既知の自己抗原に対する抗体のみならず、新規な自己抗体とそれに対応する自己抗原(タンパク質複合体)を同定することに成功すると共に、当該自己抗原を用いて血清中や病変組織において自己抗体の存否を確認し、自己免疫疾患の検出/分類をすることに成功し、本発明を完成させた。本発明者が見出したMIS12複合体は、セントロメアに位置するKMNアッセンブリ(KMNネットワーク)の構成成分としては既知のものであるが、自己免疫疾患における自己抗体に対応する自己抗原としては新たに同定されたものであり、SS等の自己免疫疾患を特徴づける新規な検出剤として本発明の一態様として提供される。
【0020】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(83)に関する。
(1)MIS12複合体を含む、自己免疫疾患の診断及び/又は分類のための検出剤。
(2)MIS12複合体が、ヒトのMIS12複合体である、前記(1)に記載の検出剤。
(3)MIS12複合体が、DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1によって構成される複合体である、前記(1)又は(2)に記載の検出剤。
(4)タグが付加されたものである、前記(1)~(3)のいずれか一に記載の検出剤。
(5)タグがオリゴペプチド、ポリペプチド、酵素、蛍光タンパク質、放射性同位元素、金属微粒子、磁性微粒子、蛍光物質、及び発光物質からなる群から選択されるものである、前記(4)に記載の検出剤。
(6)自己免疫疾患がシェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎からなる群から選択される自己免疫疾患である、前記(1)~(5)のいずれか一に記載の検出剤。
(7)自己免疫疾患がシェーグレン症候群である、前記(6)に記載の検出剤。
【0021】
(8)生体由来の試料において、前記(1)~(3)のいずれか一に記載の検出剤に結合する抗体が存在することを指標とする方法であって、前記生体試料に対して前記(4)又は(5)のタグが付加された検出剤を接触させることを含む、自己免疫疾患の検出及び/又は分類方法。
(9)生体由来の試料が体液である、前記(8)に記載の方法。
(10)体液が血清、唾液、涙及び汗からなる群から選択される体液である、前記(9)に記載の方法。
(11)生体由来の試料が生検組織である、前記(8)に記載の方法。
(12)生検組織が口唇腺又は涙腺由来の生検組織である、前記(11)に記載の方法。
(13)口唇腺が唾液腺である、前記(12)に記載の方法。
(14)自己免疫疾患がシェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎からなる群から選択される自己免疫疾患である、前記(8)~(13)のいずれか一に記載の方法。
(15)自己免疫疾患がシェーグレン症候群である、前記(14)に記載の方法。
(16)生体由来の試料が自己免疫疾患と診断された患者、又は自己免疫疾患の疑い例と診断された患者に由来する生体試料である、前記(8)~(15)のいずれか一に記載の方法。
(17)生体由来の試料が、抗核抗体検査で陽性反応が認められた患者に由来する生体試料である、前記(8)~(16)のいずれか一に記載の方法。
(18)生体由来の試料が、抗核抗体検査でdiscrete speckled型の陽性反応が認められた患者に由来する生体試料である、前記(17)に記載の方法。
(19)生体由来の試料が、抗セントロメア抗体検査で陽性反応が認められた患者に由来する生体試料であって、前記抗セントロメア抗体検査は、CENP-A、CENP-B、CENP-C、及びCBX5(HP1α)からなる群から選択されるセントロメア構成タンパク質を用いるものである、前記(8)~(18)のいずれか一に記載の方法。
(20)抗セントロメア抗体検査は、CENP-Bを用いるものである、前記(19)に記載の方法。
【0022】
(21)前記(1)~(7)のいずれか一に記載の検出剤を含む、組成物。
(22)自己免疫疾患の検出及び/又は分類用試薬である、前記(21)に記載の組成物。
(23)自己免疫疾患がシェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎からなる群から選択される自己免疫疾患である、前記(22)に記載の組成物。
(24)自己免疫疾患がシェーグレン症候群である、前記(23)に記載の組成物。
(25)MIS12複合体に対する抗体の検出用試薬である、前記(21)に記載の組成物。
(26)MIS12複合体に対する抗体を産生する細胞又は組織の検出用試薬である、前記(25)に記載の組成物。
(27)MIS12複合体に対する抗体がヒト抗体である、前記(25)又は(26)に記載の組成物。
(28)MIS12複合体に対する抗体は、MIS12複合体に対して特異的に結合し、MIS12複合体を形成していない状態のDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれとも実質的に結合しないものである、前記(25)~(27)のいずれか一に記載の組成物。
【0023】
(29)前記(21)に記載の組成物を含む、キット。
(30)自己免疫疾患の検出及び/又は分類のための、前記(29)に記載のキット。
(31)自己免疫疾患がシェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎からなる群から選択される自己免疫疾患である、前記(30)に記載のキット。
(32)自己免疫疾患がシェーグレン症候群である、前記(31)に記載のキット。
(33)対照用のMIS12複合体に対する抗体を含む、前記(29)~(32)のいずれか一に記載のキット。
(34)対照用のMIS12複合体に対する抗体は、MIS12複合体に対して特異的に結合し、MIS12複合体を形成していない状態のDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれとも実質的に結合しないものである、前記(33)に記載のキット。
(35)ELISA法に用いられる前記(29)~(34)のいずれか一に記載のキット。
【0024】
(36)前記(25)~(28)のいずれか一に記載の組成物を含む、キット。
(37)MIS12複合体に対する抗体の検出用の、前記(36)に記載のキット。
(38)MIS12複合体に対する抗体を産生する細胞又は組織の検出用、前記(36)に記載のキット。
(39)対照用のMIS12複合体に対する抗体を含む、前記(36)~(38)のいずれか一に記載のキット。
(40)対照用のMIS12複合体に対する抗体は、MIS12複合体に対して特異的に結合し、MIS12複合体を形成していない状態のDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれとも実質的に結合しないものである、前記(39)に記載のキット。
【0025】
(41)リコンビナントMIS12複合体を製造するためのcDNAを含む組成物であって、DSN1をコードするcDNA、MIS12をコードするcDNA、NSL1をコードするcDNA及びPMF1をコードするcDNAを含む、組成物。
(42)DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のうち少なくとも1つはタグにより修飾されたものである、前記(41)に記載の組成物。
(43)タグが、オリゴペプチドタグ、ポリペプチドタグ、酵素タンパク質タグ、及び蛍光タンパク質タグからなる群から選択されるタグを含むものである、前記(42)に記載の組成物。
(44)cDNAは発現用ベクターにクローニングされたものである、前記(41)~(43)のいずれか一に記載の組成物。
【0026】
(45)リコンビナントMIS12複合体を製造する方法であって、宿主細胞に前記(44)の組成物をトランスフェクトする工程を含む、方法。
【0027】
(46)リコンビナントMIS12複合体であって、当該複合体を形成するDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1はいずれもリコンビナントタンパク質であり、かつ、DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のうち少なくとも1つはタグにより修飾されたものである、リコンビナントMIS12複合体。
(47)タグがストレプトアビジン結合ペプチド、及び/又は蛍光タンパク質を含むタグである、前記(46)に記載のリコンビナントMIS12複合体。
(48)ストレプトアビジン結合ペプチドが、MDEKTTGWRGGHVVEGLAGELEQLRARLEHHPQGQREP(配列番号1)、又はWSHPQFEK(配列番号2)からなるアミノ酸配列を含むオリゴペプチドである、前記(47)に記載のリコンビナントMIS12複合体。
(49)蛍光タンパク質がGFPである、前記(47)又は(48)に記載のリコンビナントMIS12複合体。
【0028】
(50)MIS12複合体の使用であって、自己免疫疾患の検出及び/又は分類用試薬の製造のための、使用。
(51)自己免疫疾患がシェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎からなる群から選択される自己免疫疾患である、前記(50)に記載の使用。
(52)自己免疫疾患がシェーグレン症候群である、前記(50)又は(51)に記載の使用。
【0029】
(53)MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗体、又はその機能性断片。
(54)モノクローナル抗体である、前記(53)に記載の抗体、又はその機能性断片。
(55)完全ヒト抗体である、前記(53)又は(54)に記載の抗体、又はその機能性断片。
(56)重鎖定常領域及び軽鎖定常領域が非ヒト動物由来の重鎖定常領域及び軽鎖定常領域のアミノ酸配列を有する、前記(53)又は(54)に記載の抗体、又はその機能性断片。
(57)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域がヒト由来の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を有するキメラ抗体である、前記(56)に記載の抗体、又はその機能性断片。
(58)非ヒト動物が、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ニワトリ、及びラクダからなる群から選択される動物である、前記(56)又は(57)に記載の抗体、又はその機能性断片。
【0030】
(59)重鎖CDR1、CDR2及びCDR3がそれぞれ配列番号14、配列番号15、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなり、
軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3がそれぞれ配列番号17、配列番号18、及び配列番号19に示されるアミノ酸配列からなるものである、前記(53)~(58)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(60)重鎖可変領域が配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むものであり、
軽鎖可変領域が配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むものである、前記(53)~(58)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(61)MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗体が、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖、及び、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖からなるものである、前記(53)~(55)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(62)重鎖CDR1、CDR2及びCDR3がそれぞれ配列番号22、配列番号23、及び配列番号24に示されるアミノ酸配列からなり、
軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3がそれぞれ配列番号25、配列番号26、及び配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるものである、前記(53)~(58)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(63)重鎖可変領域が配列番号28に示されるアミノ酸配列を含むものであり、
軽鎖可変領域が配列番号29に示されるアミノ酸配列を含むものである、前記(53)~(58)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(64)MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗体が、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む重鎖、及び、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖からなるものである、前記(53)~(55)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(65)重鎖CDR1、CDR2及びCDR3がそれぞれ配列番号30、配列番号31、及び配列番号32に示されるアミノ酸配列からなり、
軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3がそれぞれ配列番号33、配列番号34、及び配列番号35に示されるアミノ酸配列からなるものである、前記(53)~(58)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(66)重鎖可変領域が配列番号36に示されるアミノ酸配列を含むものであり、
軽鎖可変領域が配列番号37に示されるアミノ酸配列を含むものである、前記(53)~(58)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(67)MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗体が、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖、及び、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖からなるものである、前記(53)~(55)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
【0031】
(68)レポーター物質により標識化されたものである、前記(53)~(67)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(69)レポーター物質が放射性同位元素、金属微粒子、酵素、蛍光物質、及び発光物質からなる群から選択されるものである、前記(68)に記載の抗体、又はその機能性断片。
(70)固体支持体に固定化されたものである、前記(53)~(69)のいずれか一に記載の抗体又はその機能性断片。
(71)固体支持体がマイクロプレート、ガラス製プレート、プラスチック製プレート、シリンジ、バイアル、カラム、磁性粒子、樹脂製マイクロビーズ、多孔性膜、多孔性担体、及びマイクロチップからなる群から選択されるものである、前記(70)に記載の抗体又はその機能性断片。
【0032】
(72)MIS12複合体は、ヒト由来のMIS12複合体である、前記(53)~(71)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(73)抗体が、IgG又はIgMの免疫グロブリン分子である、前記(53)~(72)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
(74)抗体が、IgGの免疫グロブリン分子である、前記(53)~(73)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
【0033】
(75)前記(53)~(74)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片を含む、組成物。
(76)MIS12複合体検出用試薬である、前記(75)に記載の組成物。
(77)前記(75)又は(76)に記載の組成物を含む、キット。
【0034】
(78)試料に対して、前記(53)~(74)のいずれか一に記載の抗体、若しくはその機能的断片、又は前記(75)若しくは(76)に記載の組成物を接触させる工程を含む、MIS12複合体の検出方法。
(79)前記(77)に記載のキットを使用して行われる、前記(78)に記載の方法。
(80)試料が細胞、生体組織、臓器、又は体液を含むものである、前記(78)又は(79)に記載の方法。
(81)体液が血清又は血液である、前記(80)に記載の方法。
(82)in vitroで行われるものである、前記(78)~(81)のいずれか一に記載の方法。
【0035】
(83)MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗体は、DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1からなるヘテロ4量体を形成していない単体としてのDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれとも実質的な結合活性を有しないものである、前記(53)~(68)のいずれか一に記載の抗体、又はその機能性断片。
【発明の効果】
【0036】
本発明は、自己免疫疾患の診断や検査といった場面において、自己免疫疾患の新たな検出剤を提供するものである。より具体的には、シェーグレン症候群、全身性強皮症及び原発性胆汁性胆管炎といった自己免疫疾患の検出剤として、新たにMIS12複合体を提供するものである。また、本発明において、当該検出剤を利用した自己免疫疾患の診断/分類用の検査キットや診断/分類のための方法が提供される。
抗核抗体検査でdiscrete speckled型に分類される場合、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CBX5(HP1α)などのセントロメア構成タンパク質に対する自己抗体が存在することが知られていたものの、discrete speckled型と判断された患者は、通常、次にCENP-Bに対する自己抗体の有無のみが従来検査されてきた。それゆえ、抗CENP-B抗体陰性の場合には、対応抗原不明と分類され、抗CENP-B抗体陰性の患者の病態は十分に明らかにされないままとなっているのが現状である。
本発明によれば、内因性抗原(自己抗原)として新たに見いだされたMIS12複合体に注目し、自己抗体である抗MIS12複合体抗体の存否をMIS12複合体を利用して検出することにより、SS等の自己免疫疾患の病態を新たな観点から特徴付けすることができる。
また、本発明によれば、MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗体が提供される。当該抗体はDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1からなるヘテロ4量体を形成していない単体としてのDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれとも実質的な結合活性を有しないものである。当該抗体は、モノクローナル抗体であって、完全ヒト抗体であり得る。現在、MIS12複合体を認識する抗体として一般に入手、利用可能な抗体は、ポリクローナル抗体であり、当該抗体はMIS12複合体のみならず、当該複合体の構成要素たるDSN1、MIS12、NSL1及び/又はPMF1とも結合活性を有する。本発明によって、初めて、MIS12複合体と、当該複合体の構成要素であるDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1とを免疫化学的に容易に区別することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、K562細胞溶解液とLB32-8抗体とを用いて免疫沈降(IP)を行い、沈殿物をSDS-PAGE法で電気泳動した後、銀染色した結果を表す(右側のレーン)。左側のレーンは陰性対照であり、細胞溶解液を含めずIPを行った結果を示す。右側のレーン脇に示されるDSN1、ZWINT、NSL1、PMF1、MIS12及びSPCは、それぞれのバンドを回収して質量分析法で解析した結果、同定されたポリペプチドの種類をそれぞれ示す。左右両レーンにおいて、50kDa及び25kDa付近に見られる太いバンドは、それぞれ抗体の重鎖及び軽鎖である。
【0038】
図2図2は、K562細胞溶解液とLB32-8抗体等、LB32由来の抗体とを用いて免疫沈降(IP)を行い、沈殿物をSDS-PAGE法で電気泳動した後、ウエスタンブロット解析を行った結果を表す。パネル最上段から順に、抗DSN1抗体、抗MIS12抗体、抗MIS12複合体(MIS12C)ポリクローナル抗体、及び抗ヒトIgG抗体を用いたウエスタンブロット解析の結果を示す。抗MIS12Cポリクローナル抗体を用いたパネル(下から2段目)では、MIS12Cの構成要素であるDSN1、NSL1、PMF1及びMIS12に対応するバンドが示される。抗ヒトIgG抗体を用いたパネル(最下段)では、IgG抗体の重鎖(H chain)及び軽鎖(L chain)に対応するバンドが示される。各パネルにおいて、左端のレーンは分子量マーカー(ladder)、左から2番目のレーンは免疫沈降前の細胞溶解液(input)を電気泳動した結果を示す。また、右端のレーンは陰性対照としてIgG1タンパク質を電気泳動した結果を示す。
【0039】
図3図3は、LB32-8抗体等、LB32(血清抗セントロメア抗体陽性患者)由来の抗体の反応性を抗原結合ビーズアッセイによって解析した結果を示す。抗原であるGFP、SPC24、SPC25、ZWINT、NUF2、DSN1、NSL1、MIS12、PMF1及びMIS12Cは、いずれも、ストレプトアビジンビーズと結合させた状態で使用された。抗体と各抗原結合ビーズとの反応性は、フローサイトメトリーにより測定された。図はフローサイトメトリーの結果を示し、抗体と抗原結合ビーズとの反応性が高い程、ピークは右にシフトして現れる。
【0040】
図4A図4Aは、図3と同様、LB32由来の抗体(LB32-8抗体、LB32-14抗体及びLB32-32抗体)の反応性を抗原結合ビーズアッセイによって解析した結果を示す。抗原であるGFP、MIS12、PMF1、DSN1、NSL1、及びMIS12Cは、いずれも、ストレプトアビジンビーズと結合させた状態で使用された。抗体と各抗原結合ビーズ(図中、上から順に、GFP、MIS12及びPMF1の組合せ、DSN1及びNSL1の組合せ、及びMIS12Cを示す。)との反応性は、フローサイトメトリーにより測定された。左パネルは、LB32-8抗体がMIS12Cとの間でのみ結合能を有することを示す。中パネルは、LB32-14抗体が、MIS12C、及び、DSN1及びNSL1との間で結合能を有することを示す。右パネルは、LB32-32抗体が、MIS12C、及び、MIS12及びPMF1との間で結合能を有することを示す。
【0041】
図4B図4Bは、図4Aと同様、LB32由来の抗体(LB32-8抗体、LB32-10抗体及びLB32-19抗体)の反応性を抗原結合ビーズアッセイによって解析した結果を示す。抗原であるGFP、MIS12、PMF1、DSN1、NSL1、及びMIS12Cは、いずれも、ストレプトアビジンビーズと結合させた状態で使用された。抗体と各抗原結合ビーズ(図中、上から順に、DSN1及びNSL1の組合せ、PMF1及びMIS12の組合せ、MIS12C、及びGFPを示す。)との反応性は、フローサイトメトリーにより測定された。中パネルのLB32-10抗体、及び、右パネルのLB32-19抗体は、左パネルのLB32-8抗体と同様、MIS12Cとの間でのみ結合能を有することを示す。
【0042】
図5図5は、抗MIS12複合体抗体に関する血清プロファイルを示す。MIS12Cを抗原とする抗原結合ビーズと患者由来の血清IgGとの反応性が図示される。血清サンプルは、対照である健常者(HC;n=68)、シェーグレン症候群が疑われる患者(SS;n=112)、全身性強皮症患者(SSc;n=35)、原発性胆汁性胆管炎患者(PBC;n=10)、および重複疾患の患者(OL;n=45)から採取されたものであり、血清サンプルとMIS12Cとの反応性が抗原結合ビーズアッセイによって解析された。MIS12Cビーズと血清IgGとの結合性をフローサイトメトリーで測定した結果が図示される。各プロットは各患者由来の血清サンプルを用いた結果に対応する。破線はROC解析で決定したカットオフ値を表し、破線より上にあるプロットは結合陽性と判断される。パネル下の0、19、54、40及び82は、HC、SS、SSc、PBC及びOL患者中、それぞれ0%、19%、54%、40%、及び82%が結合陽性であったことを示す。
【0043】
図6図6は、血清抗セントロメア抗体陽性(discrete speckled型)/陰性パターン(抗核抗体検査による)、抗CENP-B抗体陽性/陰性パターン(ELISA法による)、及び抗MIS12複合体抗体陽性/陰性パターン(抗原結合ビーズアッセイによる)の3つの観点から患者数の分布を解析した結果を示すベン図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本明細書においては、別段の定義がない限り、本発明に関連して使用される科学用語及び専門用語は、当業者が一般に理解する意味を有する。さらに、状況に応じて定義することが要求されない限り、単数の用語は複数を含み、複数の用語は単数を含むことが意図されている。「又は」という用語は、代替物のみを言及することが明確に示されない限り又は代替物が相互排他的でない限り、「及び/又は」を意味するために使用される。公知の方法及び技術は、他の例示がない限り、当技術分野で周知の通常の方法によって又は一般の参考文献において記載される方法によって実施される。
【0045】
(1)MIS12複合体の調製
本発明の一態様は、MIS12複合体である、自己免疫疾患の診断及び/又は分類のための検出剤に関する。MIS12複合体は、セントロメアに位置するKMNアッセンブリの構成要素であって、DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1によって構成される複合体(ヘテロ4量体)である。MIS12複合体は、Mtw1複合体又はMIND複合体とも呼ばれるものであり、動物、植物、菌類など任意の生物種に由来するものであって良いが、動物種に由来するものが好ましく、哺乳動物種に由来するものがより好ましく、ヒトに由来するものが特に好ましい。MIS12複合体の調製は、天然物を精製することでも、リコンビナントタンパク質を精製することでも可能である。MIS12複合体の各構成要素の調製も、上記MIS12複合体の調製と同様に行うことが可能である。
なお、KMNアッセンブリは、MIS12複合体の他に、KNL1複合体及びNDC80複合体を含む。KNL1複合体はKNL1及びZWINTから構成され、NDC80複合体はNDC80、NUF2、SPC24及びSPC25から構成される。KNL1複合体及びNDC80複合体、並びにこれらの複合体の各構成要素の調製についても、上記と同様である。
【0046】
DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1の配列情報(塩基配列情報、及びアミノ酸配列情報)は、GenBank等のデータベースから適宜入手できる。例えば、DSN1の配列情報は、NM_001145316.1(mRNA)及びNP_001138788.1(タンパク質)、MIS12の配列情報は、NM_001258217.1(mRNA)及びNP_001245146.1(タンパク質)、NSL1の配列情報はNM_015471.3(mRNA)及びNP_056286.3(タンパク質)、PMF1の配列情報はNM_007221.3(mRNA)及びNP_009152.2(タンパク質)というアクセッション番号で登録されている。前記のアクセッション番号に対応して、DSN1のコード領域の塩基配列を配列番号54、MIS12のコード領域の塩基配列を配列番号55、NSL1のコード領域の塩基配列を配列番号56、PMF1のコード領域の塩基配列を配列番号57に、それぞれ示す。また、前記のアクセッション番号に対応して、DSN1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号58、MIS12タンパク質のアミノ酸配列を配列番号59、NSL1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号60、PMF1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号61に、それぞれ示す。
一例として、N末端側から順に、ストレプトアビジン結合ペプチド(SBP;配列番号1)-第1のリンカーペプチド(配列番号62)-PreScissionプロテアーゼ認識部位(配列番号63)-GFP-第2のリンカーペプチド(配列番号64)が配置された、SBPタグ-GFP-リンカーをコードする塩基配列(配列番号65)を利用した組換え体タンパク質の発現を行うことができる。
配列番号65に示される塩基配列の下流にDSN1のコード領域の塩基配列(配列番号54)、MIS12のコード領域の塩基配列(配列番号55)、NSL1のコード領域の塩基配列(配列番号56)、又はPMF1のコード領域の塩基配列(配列番号57)をインフレームで配置した融合遺伝子を作成し、当該融合遺伝子から組換え体を発現させることにより、GFP由来の蛍光を発光可能であり、かつ、ストレプトアビジンによるアフィニティ精製が可能なDSN1タンパク質(配列番号58)、MIS12タンパク質(配列番号59)、NSL1タンパク質(配列番号60)、又はPMF1タンパク質(配列番号61)を調製することができる。後記実施例に示される、MIS12複合体の構成要素となる組換え体タンパク質は、実際にSBPタグ-GFP-リンカーとの融合タンパク質として調製されたものを含んでいる。
【0047】
DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1の構造は、上記のアクセッション番号で特定される配列のものに限定されることはない。DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれについても、データベースには複数のアイソフォームが登録されており、それらのアイソフォームはいずれも本発明において好適に利用できる。また、配列上のバリアントについても、データベースへの登録の如何によらず、利用することができる。別の表現をすれば、DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1をコードする遺伝子は、いずれも、データベースへの登録されたコード配列に対して1又は数個の塩基が欠失、置換、付加又は挿入されたものであっても、KMNアッセンブリの構成要素として機能的なMIS12複合体を構成するポリペプチドをコードする限り、任意の配列上の改変体であって良い。また、DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1は、データベースに登録されたアミノ酸配列に対して1又は数個のアミノ酸残基が欠失、置換、付加又は挿入されたものであっても、KMNアッセンブリの構成要素として機能的なMIS12複合体を構成するポリペプチドである限り、任意の配列上の改変体であって良い。
【0048】
リコンビナントタンパク質の合成及び精製は、当業者に公知の手法により行うことができる。DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のリコンビナントタンパク質はそれぞれ別異に調製し、それらを混合してMIS12複合体を形成させてもよいが、一の宿主細胞においてDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のリコンビナントタンパク質を同時に発現させ、当該宿主細胞内でMIS12複合体を形成させることの方が簡便、かつ効率的にMIS12複合体を調製でき、望ましい。同時に発現させる場合は、4種類の遺伝子をそれぞれ別異の発現ベクターにクローニングしてコトランスフェクションしても良いが、ポリシストロニックなベクターを利用して一のベクターに2以上、好ましくは4種類すべての遺伝子を搭載させ、宿主細胞にトランスフェクションすることが望ましい。ベクターには、プロモータ、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル等を適宜配置することができる。ベクターとしては、細菌、酵母又は動物細胞等の宿主細胞中で複製可能なものを用いればどのようなものでも良く、宿主に応じて市販のベクターが適宜利用できる。発現ベクターは公知の方法で宿主細胞に導入し、宿主細胞を形質転換することができる。例えば、エレクトロポレーション法、DEAE-デキストラントランスフェクション法、リン酸カルシウム沈殿法等がある。宿主細胞は特に限定されないが、真核細胞を用いることが好ましい。酵母、又は動物由来の培養細胞(HEK293細胞、CHO細胞、COS細胞、MEF等)が挙げられる。
【0049】
MIS12複合体の精製は、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を用いて行うことができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィー、その他のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜組み合わせて行うことができる。アフィニティ精製を適用することが好ましく、アフィニティ精製には、DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれかに対する抗体又はそれらの組合せが利用できる。また、後述の実施例において言及するMIS12複合体と特異的に抗体を利用することもできる。あるいは、リコンビナントタンパク質の調製において、DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1の一つ又は複数について、タグが付加された融合タンパク質として発現させ、当該ダグを利用した精製法を適用しても良い。例えば、ストレプトアビジン結合ペプチド(以下、「SBPタグ」と言うことがある。)との融合タンパク質として発現させた場合、MIS12複合体又はその各構成要素は、ストレプトアビジンを担持した固相(ストレプトアビジン結合ビーズ等)を用いることにより、容易にアフィニティ精製することができる。
【0050】
タグとしては、FLAGタグ、HAタグ、6xHisタグ、SBPタグ、Strep-tagIIなどのペプチドタグ(オリゴペプチドタグ)、GSTタグ、MBPタグ、チオレドキシンタグなどのポリペプチドタグが例示できるが、アフィニティ精製に使用できるタグである限り、任意のタグが利用できる。また、タグの利用において、アフィニティ精製用でない別異のタグ(例えば、酵素による切断用のプロテアーゼ認識配列)の一又は複数を更に組み合わせてリコンビナントタンパク質を構築しても良い。更に、タグの片端又は両端には、リンカー部位を任意に付加又は挿入しても良い。プロテアーゼ認識配列の例として、LEVLFQGP(PreScissionプロテアーゼ認識部位;配列番号63)を挙げることができる。また、リンカーの例として、配列番号62及び64のオリゴペプチドを挙げることができる。
【0051】
MIS12複合体の精製用に付加するタグの好ましい一例として、SBPタグ、及びStrep-tagIIが挙げられる。当該タグ(具体的なアミノ酸配列としては、MDEKTTGWRGGHVVEGLAGELEQLRARLEHHPQGQREP(SBPタグ;配列番号1)、及び、WSHPQFEK(Strep-tagII;配列番号:2))を付加することにより、ストレプトアビジンとの特異的な結合性を利用してMIS12複合体を効率よく精製することができる。磁性微粒子等の固相に担持させたストレプトアビジンを利用し、懸濁液中でストレプトアビジンとSBPタグ(又は、Strep-tagIIタグ)-リコンビナントMIS12複合体とを接触させ、次いで磁力を用いて分離を行うことにより、液層中のMIS12複合体を効率よく精製することができる。リコンビナントタンパク質としてMIS12複合体を調製するために、公知の文献、例えば、Petrovic A et al., J. Cell Biol. (2010) vol. 190, pp. 835-852を参考とすることもできる。細胞中に存在する天然のMIS12複合体は、生体由来の細胞を含む試料から核画分を分離し、限外濾過やアフィニティ精製などを適宜組み合わせることで調製できる。調製に至る各工程は、当業者に公知の手法が適用できる。
【0052】
タグを利用して精製する場合、MIS12複合体の精製後にタグを切断しても良いが、タグ付きのMIS12複合体が標的となる抗MIS12複合体抗体との特異的な結合に実質的な支障のない限り、タグをあえて切断する必要はない。通常、N末端又はC末端に付加されたペプチドタグであれば、いずれの種類のペプチドタグを使用した場合であっても、抗体との結合に実質的な支障は生じない。
【0053】
自己免疫疾患に伴って出現する抗MIS12複合体抗体の検出や定量などにMIS12複合体を用いる場合、MIS12複合体に付加するタグは、前記の精製用のタグに代えて、あるいは前記の精製用タグに加えて、別異のタグを利用することもできる。例えば、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、金属微粒子、酵素、磁性微粒子などは、MIS12複合体に付加するタグとして利用することができる。
【0054】
放射性同位元素としては、H、125Iなどが挙げられる。蛍光物質としては、GFP、RFPのような蛍光タンパク質、フルオレセイン及びその誘導体(例えば、FITC)、テトラメチルローダミン(TAMRA)及びその誘導体(例えば、TRITC)、Cy3、Cy5、Texas Red、フィコエリスリン(PE)、量子ドットなどが挙げられる。発光物質としては、ルミノール誘導体、アクリジニウム誘導体、エクオリン、ルテニウム錯体等が挙げられる。金属微粒子としては、金ナノ粒子や金と白金との合金からなるナノ粒子が挙げられる。金属微粒子の平均粒子径は、5nm~200nmの範囲から適宜決定できる。酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、β-ガラクトシダーゼ(β-GAL)、アルカリホスファターゼ(ALP)、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ルシフェラーゼ、エクオリンなどが挙げられる。それぞれの酵素について、適切な基質と組み合わせて使用することにより、発光法、比色法、又は蛍光法による解析が可能となる。磁性微粒子としては、磁気を帯びた粒子であって、液相中に分散又は懸濁することができ、分散液又は懸濁液から磁場の適用により分離することができる粒子であれば任意の粒子を使用することができる。例えば、鉄、コバルト、マンガン、クロム若しくはニッケルのような金属、該金属の合金、又は該金属の塩、酸化物、ホウ化物若しくは硫化物、高い磁化率を有する稀土類元素(例えば、ヘマタイト又はフェライト)等の磁性体を含む微粒子を挙げることができる。好ましい一例は、マグネタイト(Fe)の微粒子である。磁性微粒子の平均粒子径は、10nm~10μmの範囲から適宜決定できる。このようなタグを利用することにより、免疫組織化学的な解析等により抗MIS12複合体抗体の局在性を明らかにすることや抗MIS12複合体抗体の定量的な解析を容易に行うことができる。精製用とは別異のタグは、前記のように様々な物質が利用できるが、好ましい一例としてGFPのような蛍光タンパク質を挙げることができる。
【0055】
(2)検出剤として使用されるMIS12複合体
MIS12複合体は、NDC80複合体及びKNL1複合体と共にKMNアッセンブリを構成し、KMNアッセンブリを含むキネトコアの構成要素として細胞分裂時の染色体分配に関与することが知られている。MIS12複合体の細胞核局在性は知られているが、自己免疫疾患の患者に認められる抗核抗体の抗原(内因性抗原/自己抗原)としての報告はなく、MIS12複合体の自己免疫疾患の検出剤としての用途は、本発明により新たに提供されるものである。後述の実施例で開示されるとおり、MIS12複合体は、少なくともシェーグレン症候群(SS)、全身性強皮症(SSc)及び原発性胆汁性胆管炎(PBC)の検出剤として使用できる。SScとしては、特に、限局皮膚型全身性皮膚強皮症(lcSSc)の検出剤として有用である。SS、lcSSC及びPBCはいずれも自己免疫疾患であるが、これらの疾患についての特別な共通性はこれまで見出されていなかった。本発明を通じて抗MIS12複合体抗体陽性を示す自己免疫疾患という新たな疾患概念が提唱され、当該新たな疾患概念を特徴づける抗MIS12複合体抗体に対応する検出剤として本発明のMIS12複合体が提供される。
【0056】
(3)自己免疫疾患の検出及び/又は分類方法
本発明の一態様は、生体由来の試料において、前記の検出剤に結合する抗体が存在することを、前記生体試料に対して標識化された前記検出剤を接触させることを含む、自己免疫疾患の検出及び/又は分類方法である。より具体的に言えば、抗MIS12複合体抗体が生体由来の試料に存在するか否かを、当該試料と標識化されたMIS12複合体とを接触させる工程を含む、抗MIS12抗体陽性の自己免疫疾患の検出方法及び/又は自己免疫疾患の分類方法である。
【0057】
生体由来の試料としては、血液(全血、血漿、血清)、リンパ液、唾液、尿、汗、粘液、涙、随液、鼻汁、組織・細胞等の抽出液や破砕液等の生体液を含む、ほとんど全ての生体由来の液体試料が挙げられる。液体試料の好ましい例として、血清、唾液、涙及び汗からなる群から選択される体液を挙げることができる。体液試料は、生体から採取した体液をそのまま使用しても良く、必要に応じて希釈や濾過等の前処理をしたものを使用しても良い。体液試料又は前処理済みの体液試料に対して検出剤であるMIS12複合体と接触させることにより、試料中の抗MIS12複合体抗体の存否や抗MIS12複合体抗体の含有レベルがアッセイできる。当該存否や含有レベルは、例えば、後記実施例のように、フローサイトメトリーを使用した解析により、試料中の抗MIS12複合体抗体とMIS12複合体との反応性の程度として明らかにすることができる。
【0058】
生体由来の試料の別の例として、生検組織を挙げることができる。生検組織の例は、口唇腺、涙腺、顎下腺、及び腎臓由来の生検組織であるが、これに限定されない。口唇腺には唾液腺が含まれる。生検組織を試料とする場合、抗MIS12複合体抗体は細胞内、特に細胞核内に存在しており、外から添加したMIS12複合体(標識化MIS12複合体)が容易に接触できない可能性がある。そのため、生検組織を試料とする場合には、試料を固定するか、一部可溶化する前処理をすることが望ましい。例えば、検出剤としてGFPラベルしたMIS12複合体を使用する場合、生検組織試料に対して検出剤を接触させ、適宜洗浄後、蛍光顕微鏡下で観察することにより、試料中の抗MIS12複合体抗体の存否やその含有量のレベルを可視的に確認することができる。また、蛍光強度の測定による定量的な解析を行うことも可能である。
【0059】
MIS12複合体の標識化は、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、金属微粒子、酵素、及び磁性微粒子等のラベルをMIS12複合体に付加することにより行うことができる。放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、金属微粒子、酵素、及び磁性微粒子の具体的な例は、前記したとおりである。ラベルの付与は、いずれの種類のラベルについても公知の手法を適用することにより当業者が適宜実施できる。また、ラベルを利用した検出や定量的な測定も、ラベルの種類に応じて公知の手法により適宜実施することができる。
【0060】
本発明の自己免疫疾患の検出及び/又は分類方法を通じて、抗MIS12複合体抗体陽性の自己免疫疾患を検出することができる。そのような自己免疫疾患の例として、シェーグレン症候群(SS)、全身性強皮症(SSc)及び原発性胆汁性胆管炎(PBC)が挙げられる。SScについては、特に限局皮膚硬化型全身性強皮症(lcSSc)の検出が好ましく実施できる。SSの特徴や現行の診断基準については、公知のとおりであり、本件明細書でも背景技術欄で既に([0007]~[0016]段落で)記載されるとおりであるので、当該記載等にある診断基準に基づき、SSの検出は適宜実施できる。
【0061】
PBCは、胆汁うっ滞型の慢性肝疾患で、小葉間レベルの胆管の炎症性破壊を特徴とし、最終的には肝硬変に至る慢性進行性の肝疾患である。検査では抗ミトコンドリア抗体が84-99%で陽性に、ACAが10-40%で陽性になると報告されている。「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班による「原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン(2017年)」には、以下のいずれか1つに該当するものをPBCと診断する、という診断基準(平成27年版)が示されている(http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/primary-billary-cholangiti/primary-billary-cholangiti.pdf)。
1)組織学的に慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)を認め、検査所見がPBCとして矛盾しないもの。
2)抗ミトコンドリア抗体(AMA)が陽性で、組織学的にはCNSDCの所見を認めないが、PBCに矛盾しない(Compatible)組織像を示すもの。
3)組織学的検索の機会はないが、AMAが陽性で、しかも臨床像及び経過からPBCと考えられるもの。
【0062】
SScは、手指から始まる皮膚硬化が全身に及び、舌小帯の短縮や食道や肺などの内臓諸臓器の線維化を特徴とする自己免疫疾患である。American college of rheumatology (ACR)/European league against rheumatism collaborative initiative (EULAR)が2013年に公表した新分類基準(van den Hoogen et al., Ann. Rheum. Dis. (2013) vol. 72, pp. 1747-1755)によれば、以下の8つの観点から評価し、合計で9点以上であればSScと診断される。
1)両側中手指節間関節(MP関節)より中枢の皮膚硬化(9点)
2)手指皮膚硬化:腫脹のみ(2点)、近位指節間(PIP)-MP関節間の皮膚硬化(4点)
3)指尖部病変:潰瘍(2点),陥凹性瘢痕(3点)
4)毛細血管拡張症(2点)
5)爪郭部毛細血管異常(2点)
6)肺高血圧症/間質性肺炎(2点)
7)レイノー現象(3点)
8)抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼI抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体(3点)
【0063】
SScの病型はびまん性皮膚硬化と限局性皮膚硬化の2タイプに分かれる。限局性皮膚硬化のSSc(lcSSc)では抗セントロメア抗体が70%で陽性となることが報告されている。
【0064】
前記方法は、自己免疫疾患と診断された患者に由来する試料を用いて行うことにより、当該患者が抗MIS12複合体抗体陽性の病態であるのか、抗MIS12複合体抗体陰性の病態であるのかを分類することができる。また、抗核抗体検査で陽性と診断された患者に由来する試料を用いて行うことにより、当該患者が抗核抗体陽性であって抗MIS12複合体抗体陽性の病態であるのか、抗核抗体陽性ではあるが抗MIS12複合体抗体陰性の病態であるのかを分類することができる。ここで、抗核抗体陽性は、discrete speckled型で陽性反応を示したものに限定して前記方法を実施しても良い。また、CENP-Bに対する自己抗体陽性を指標とする抗セントロメア抗体(ACA)陽性と診断された患者に由来する試料を用いて行うことにより、当該患者がACA陽性であって抗MIS12複合体抗体陽性の病態であるのか、抗CENP-B抗体陽性としてのACA陽性ではあるが抗MIS12複合体抗体陰性の病態であるのかを分類することができる。抗セントロメア抗体検査は、CENP-Bに対する自己抗体の検査に限定されず、これに加えて、あるいはこれに代えてCENP-A、CENP-C、及びCBX5(HP1α)からなる群から選択されるセントロメア構成因子に対する自己抗体の検査としても良い。
【0065】
後記実施例の結果に基づけば、SSなどの自己免疫疾患において、抗MIS12複合体抗体は、病変部位においてantigen drivenに増殖した形質細胞から産生されるため、抗MIS12複合体抗体の存在は当初は病変部位においてのみ検出できるものと考えられる。しかしながら、時間の経過又は病態の進展に従って抗MIS12複合体抗体は体液中へも拡散されるようになるので、血清、唾液、涙といった体液成分を用いても検出可能となる。それゆえ、前記方法において、試料は必ずしも病変部位の生検試料でなくて良く、体液試料のように低侵襲的に採取可能な試料を用いても実施できる。
【0066】
標識化物質が定量的に測定することができるシグナルを生ずるものであれば、標的となる抗MIS12複合体抗体の存否のみならず、自己抗体(抗MIS12複合体抗体)の存在量を定量的に測定することも可能である。当該目的のために、本発明のタグ付き(標識化された)検出剤は、抗MIS12複合体抗体の定量的な測定用試薬として提供される。
【0067】
(4)検出剤としてのMIS12複合体を含む組成物
本発明の別の一態様は、検出剤としてのMIS12複合体を含む組成物である。当該組成物に含まれるMIS12複合体は、前記のとおり、天然物であっても、リコンビナントタンパク質の複合体であっても良い。また、タグの付加されたMIS12複合体や標識化されたMIS12複合体であっても良い。タグや標識化については前記のとおりである。タグ又は標識化物質の一例は、GFPのような蛍光タンパク質である。MIS12複合体を構成する要素となるDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1が由来する生物種はヒトが好ましいが、その他の生物種でも良いことは、前記のとおりである。DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1の配列情報としてデータベースのアクセッション番号で特定されたある種の配列が例示されるが、それに限定されず、アイソフォーム、バリアント等、MIS12複合体としての機能を保持する限り一定範囲の配列上の改変は許容されることも前記のとおりである。ここでMIS12複合体としての機能を保持するとは、MIS12複合体を構成し、KMNアッセンブリを構築できること、及び/又は自己免疫疾患において出現する抗MIS12複合体抗体と特異的に結合できることと言える。
【0068】
前記の組成物の一つの用途として、自己免疫疾患の検出及び/又は分類用試薬としての用途を挙げることができる。MIS12複合体を検出剤として自己免疫疾患の検出及び/又は分類を行う方法は、前記したとおりである。MIS12複合体に水、緩衝剤、安定化剤等を適宜配合することにより、当該方法に好適な試薬を調製することができる。
【0069】
検出剤としてのMIS12複合体を含む組成物の別の用途として、MIS12複合体に対する抗体の検出用試薬やMIS12複合体に対する抗体を産生する細胞又は組織の検出用試薬としての用途を挙げることができる。後記の実施例において具体的に開示されるとおり、SS等のある種の自己免疫疾患の患者の中には、MIS12複合体を内因性抗原(自己抗原)とする抗MIS12複合体抗体が産生されていることが本発明者らによって明らかとなった。また、抗MIS12複合体抗体は、病変部位のみならず、体液成分である血清にも認められた。MIS12複合体を利用することで、こうしたの抗MIS12複合体抗体を産生する細胞又は組織、及び抗MIS複合体抗体を検出する方法を実施することができる。MIS12複合体に水、緩衝剤、安定化剤等を適宜配合することにより、当該方法に好適な試薬を調製することができる。検出対象となる抗MIS12複合体抗体の例は、抗MIS12複合体ヒト抗体である。自己免疫疾患の患者から見出された抗MIS12複合体抗体には、DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1からなるMIS12複合体と特異的に結合し(MIS12複合体の立体構造を特異的に認識し)、複合体の各構成要素であるDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1の単体(あるいは、これら4者のうち、DSN1とNSL1との混合物(又はDSN1とNSL1とからなるサブコンプレックス)やPMF1とMIS12との混合物(又はPMF1とMIS12とからなるサブコンプレックス))とはいずれも実質的に結合しない(一般的な実験条件下で行うウエスタンブロッティングでバンドが認められないか、仮にフェイントなバンドが認められることはあっても、特異的な結合であるとまでは認められない程度にしか結合しない)ものが含まれていた。それゆえ、当該方法で検出対象とする抗MIS12複合体抗体の一つの例は、MIS12複合体と特異的に結合し、MIS12複合体を形成していない状態のDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれとも実質的に結合しないものであるが、MIS12複合体と結合活性を有する抗MIS12複合体抗体であれば、特に限定されるものでない。
【0070】
(5)MIS12複合体を含む組成物を構成要素として含むキット
前記のとおり、検出剤としてのMIS12複合体を含む組成物の用途としては、自己免疫疾患の検出及び/又は分類用試薬としての用途、MIS12複合体に対する抗体の検出用試薬としての用途、及びMIS12複合体に対する抗体を産生する細胞又は組織の検出用試薬としての用途を挙げることができる。これらの試薬は、それぞれの目的に応じて、更なる成分と共にキットを構築することができる。これらの各用途に向けた、MIS12複合体を含む組成物を構成要素として含むキットは、本発明の別の一態様である。
キットには、必須の構成要素としての濃度既知のMIS12複合体に加えて、ポジティブコントロール用の抗MIS12複合体抗体、緩衝液、保存料、希釈剤、ブロッキング液、洗浄液、使用説明書等の任意の構成要素が適宜組み合わされる。試料中の抗MIS12複合体の存在を、ELISA法で検出するためのキットとして構築することもできる。
【0071】
MIS12複合体を構成するDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれかにHRP等の酵素をタグとして融合させておいた場合、キットには当該酵素に対する基質(HRPに対しては、TMB、OPD、ABTS等)を含めることによりELISA法に好適なキットとすることができる。また、MIS12複合体を構成するDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1のいずれかに酵素以外のタグを付加した場合には、当該タグと特異的に結合する物質(抗体等)とHRP等の酵素とのコンジュゲート、及び、当該コンジュゲート中の酵素に対する基質(HRPに対しては、TMB、OPD、ABTS等)を構成要素として加入することにより、サンドイッチELISA法に好適なキットとすることができる。ELISA法に関して、上記においては酵素としてHRPを例示し、基質としてTMB、OPD及びABTSを例示したが、酵素-基質特異性を利用したアッセイが成立する限り、どのような酵素-基質の組合せであっても良い。別異の組合せとして、アルカリフォスファターゼとPNPPとの組合せ、及び、ガラクトシダーゼとONPGとの組合せが例示できる。また、基質はケミルミネッセンスを発生させるものであっても良く、HRPに対してSuperSignalELISA(商標)等、アルカリフォスファターゼに対してCDP-Star(商標)等の基質を組み合わせても良い。
【0072】
(6)MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗体、又はその機能性断片の調製
後記実施例で記載されるように、抗核抗体陽性の自己免疫症患者の生検試料を材料として抗体分泌細胞を単離し、単離された細胞からシングルセルcDNAライブラリーを構築して解析したところ、患者の組織には、MIS12複合体を自己抗原とする抗ヒトMIS12複合体ヒト抗体(自己抗体)を産生する抗体分泌細胞が存在することが明らかとなった。さらに、自己抗体としての抗ヒトMIS12複合体ヒト抗体には、MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗体、すなわち、MIS12複合体とは結合するが、MIS12複合体の構成要素であるDSN1、MIS12、NSL1及びPMF1の単体(あるいは、これら4者のうち、DSN1とNSL1との混合物(又はDSN1とNSL1とからなるサブコンプレックス)やPMF1とMIS12との混合物(又はPMF1とMIS12とからなるサブコンプレックス))とはいずれも実質的に結合しない抗体が存在することが明らかとなった。このようなMIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗MIS12複合体抗体やその機能的断片は、MIS12複合体の生化学的な解析や免疫化学的な解析等のための試薬として利用可能である。
一方、現在、MIS12複合体を認識する抗体として一般に入手、利用可能な抗体は、ポリクローナル抗体である。当該抗体はMIS12複合体のみならず、当該複合体の構成要素たるDSN1、MIS12、NSL1及び/又はPMF1とも結合活性を有する。このような事情に鑑みて、本発明の抗体、又はその機能性断片は、前例がないものであって、極めて有用なものである。
【0073】
本発明の抗体として、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号5に示されるアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、及び、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、並びにこれらの何れかの抗体の機能性断片を例示することができる。これらの抗体又はその機能性断片は、前記の配列情報と当業者に周知の技術に基づいて、組換えタンパク質として適宜調製することができる。
この際、抗体遺伝子をクローニングした発現用ベクターには、プロモータ、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル等を適宜配置することができる。ここで、発現ベクターとしては、細菌、酵母又は動物細胞等の宿主細胞中で複製可能なものを用いればどのようなものでも良く、宿主に応じて市販のベクターが適宜利用できる。発現ベクターは公知の方法で宿主細胞に導入し、宿主細胞を形質転換することができる。例えば、エレクトロポレーション法、DEAE-デキストラントランスフェクション法、リン酸カルシウム沈殿法等がある。
宿主細胞は特に限定されないが、真核細胞を用いることが好ましい。酵母、又は動物由来の培養細胞(HEK293細胞、CHO細胞、COS細胞、MEF等)が挙げられる。
産生された抗体の精製は、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を用いて行うことができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィー、その他のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜組み合わせて行うことができる。当該抗体は、完全ヒト配列のモノクローナル抗体として調製することができる。
【0074】
本発明の抗体として、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号21に示される配列を含む軽鎖可変領域を有する抗体、配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号29に示される配列を含む軽鎖可変領域を有する抗体、及び、配列番号36に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号37に示される配列を含む軽鎖可変領域を有する抗体、並びにこれらの何れかの抗体の機能性断片を例示することができる。これらの抗体及びその機能性断片も、前記と同様、前記の配列情報と当業者に周知の技術に基づいて、適宜調製することができる。
【0075】
本発明の抗体として、配列番号14、15及び16に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖、及び、配列番号17、18及び19に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖を有する抗体、配列番号22、23及び24に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖、及び、配列番号25、26及び27に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖を有する抗体、及び、配列番号30、31及び32に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖、及び、配列番号33、34及び35に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖を有する抗体、並びにこれらの何れかの抗体の機能性断片を例示することができる。これらの抗体及びその機能性断片も、前記と同様、前記の配列情報と当業者に周知の技術に基づいて、適宜調製することができる。
【0076】
本発明のMIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗MIS12複合体抗体は、LB32-8抗体、LB32-10抗体、及びLB32-19抗体と互いに配列の異なる少なくとも3種類の抗体が後記実施例で取得されたように、実施例の開示及び当業者に周知の技術を適用することにより、新たに適宜入手することが可能である。抗体は、後記実施例のように、抗体の重鎖及び軽鎖遺伝子をそれぞれ発現ベクターにクローニングし、組換えタンパク質として調製することができる。また、単離した抗体分泌細胞を材料の一つとしてハイブリドーマを作成し、クローン化したハイブリドーマからモノクローナル抗体を産生させても良い。
【0077】
(7)抗体分子の可変領域、及び可変領域中の相補性決定領域
免疫グロブリン分子は、基本的に2本の重鎖ポリペプチドと2本の軽鎖ポリペプチドからなるヘテロ4量体分子である。重鎖及び軽鎖は、それぞれ可変領域と定常領域とを含む。抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、3個の相補性決定領域(CDR)と4個のフレームワーク領域(FR)で構成され、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順番でアミノ末端からカルボキシ末端へ配置されている。抗体分子のアミノ酸配列情報を公知の手法により決定すれば、当該配列情報に基づいて可変領域や定常領域の部位を推定することができる。また、可変領域内のCDR1、CDR2及びCDR3の配列を推定することも、同様に周知の手法により行える。よって、前記段落のように、抗MIS12複合体抗体を新たに選抜する場合であっても、抗体分子中の可変領域や相補性決定領域は、適宜決定することができる。
【0078】
(8)抗体分子の改変体
本発明の抗体は、上記の重鎖及び軽鎖アミノ酸配列、又は上記の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を有する抗体の配列上の改変体であっても良い。例えば、重鎖可変領域が配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むものであり、軽鎖可変領域が配列番号21に示されるアミノ酸配列を含むものである抗体を改変元として、MIS12複合体の立体構造に特異的な結合能を実質的に維持する範囲(改変元抗体の有する特異的結合能と実質的に同等の特異的結合能を有する範囲)で、重鎖及び軽鎖それぞれの可変領域内や定常領域内に改変があっても良い。前記それぞれのアミノ酸配列において、1若しくは数個、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1若しくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入又は付加されていても良い。また、BLAST等のツールを用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有する範囲で改変があっても良い。ただし、いずれの改変体についても、CDRにおけるアミノ酸配列の改変は有しない(各CDRは、改変前の抗体と同一のアミノ酸配列を有する)ものである。すなわち、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の改変体ポリペプチドにおいては、配列番号14のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号15のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号16のアミノ酸配列からなるCDR3においては、配列上の改変を有しないものとする。同様に、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の改変体ポリペプチドにおいては、配列番号17のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号18のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号19のアミノ酸配列からなるCDR3においては、配列上の改変を有しないものとする。配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の改変体ポリペプチド、配列番号29に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の改変体ポリペプチド、配列番号36に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の改変体ポリペプチド、及び配列番号37に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域の改変体ポリペプチドにおいても同様である。
CDRの配列は、抗体のエピトープを決定する中心的な要素であることが広く知られている。本発明の抗体は、上記の配列上改変体であっても、重鎖及び軽鎖に含まれる合計6箇所のCDRは完全に保存されているので、改変前の抗MIS12複合体抗体と同じエピトープに対して特異的な結合能を有し、MIS12複合体の立体構造に対する特異的な結合能を維持することが合理的に推認できる。
【0079】
(9)分泌型抗体、及び非分泌型抗体の調製
抗体は、重鎖及び軽鎖それぞれの可変領域においてシグナル配列を有しないアミノ酸配列からなる、非分泌型の抗体として調製することも、重鎖及び軽鎖それぞれの可変領域においてシグナル配列を有するアミノ酸配列からなる、分泌型の抗体として調製することも可能である。
シグナル配列が除去された組換え体抗体は、当該組換え体抗体を発現する細胞から分泌されることなく、当該細胞内に蓄積するので、当該細胞から適宜分離、精製して利用できる。
シグナル配列を有する組換え体抗体は、当該組換え体抗体を発現する細胞から分泌されるので、当該細胞の培養上清などから適宜分離、精製して利用できる。シグナル配列は、抗体を産生する細胞において分泌シグナルとして機能する限り、どのような配列であっても良い。シグナル配列の非限定的な例として、MDPKGSLSWRILLFLSLAFELSYGLE(配列番号13)を挙げることができる。当該シグナル配列を重鎖及び軽鎖アミノ酸配列のN末端に配置することにより、抗体タンパク質を分泌型のタンパク質とすることができる。
【0080】
(10)抗体の機能性断片
本発明の抗体は、MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識することができれば、必ずしも免疫グロブリン分子全体の構造が維持されていなくてもよく、抗体の機能的断片(抗原結合性断片)であってもよい。抗体の抗原結合能は、抗体の可変部に支配されているので、免疫グロブリン分子のうち定常領域の部分は必ずしも存在しなくてもよい。従って、本発明の抗体の機能的断片としては、免疫グロブリン分子の可変部からなる断片である、Fab、Fab’、F(ab’)、FabからVLを取り除いたFd、一本鎖Fvフラグメント(scFv)及びその二量体であるdiabodyを挙げることができる。あるいは、scFvからVLを取り除いた単一ドメイン抗体(sdAb)などを用いることができるが、抗体の機能性断片はこれらに限定されない。
抗体の機能性断片は、公知の手法により調製することができる。例えば、免疫グロブリン分子を酵素処理することにより断片化できる。免疫グロブリン分子をパパインにより分解することでFabが得られ、ペプシンにより分解することでF(ab’)が得られ、F(ab’)を還元処理することによりFab’が得られる。また、遺伝子工学的手法により、抗体の重鎖可変部(VH)と軽鎖可変部(VL)を可動性に富むリンカーペプチドで連結することによりscFvを作製することもできる。
【0081】
(11)キメラ抗体、非ヒト化抗体
本発明の抗体として、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を有する抗体、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を有する抗体、及び、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を揺する抗体は、いずれも、抗ヒトMIS12複合体ヒト配列抗体であって、当該抗体分子中の定常領域は、重鎖のものも、軽鎖のものもヒト配列を有する。よって、当該抗体の存在を免疫学的に検出する場合の一手段は、抗ヒトIg抗体(例えば、抗ヒトIgG抗体。)を利用することである。しかしながら、抗ヒトIg抗体、特に、二次抗体として利用するようなラベル化された抗ヒトIg抗体は、抗マウスIg抗体、抗ウサギIg抗体、抗ヤギIg抗体といった抗非ヒトIg抗体と比べて、市場における供給が乏しく、比較的入手困難である。また、抗ヒトIg抗体は、入手可能であるとしても、抗非ヒトIg抗体よりも高価であることが、利用における不都合となり得る。そこで、本発明の抗体の存在を容易かつ安価に免疫学的に検出できるように、本発明の抗体の少なくとも定常領域を、非ヒト動物由来の免疫グロブリンの定常領域配列とすることができる。
マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ニワトリ、及びラクダといった非ヒト動物に由来する免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖定常領域のアミノ案配列は公知であり、そうしたアミノ酸配列をコードする核酸も当業者は容易に入手、又は作成することができる。それゆえ、本発明の抗体であって、抗MIS12複合体ヒト配列抗体については、少なくとも重鎖及び軽鎖可変領域を非ヒト動物由来の重鎖及び軽鎖可変領域とスワップすることにより、キメラ抗体とすること(非ヒト化すること)ができる。
また、非ヒト化抗体は、ヒト抗体のCDRを非ヒト抗体のCDRへ移植(CDRグラフト)することで調製可能である。その調製は、一般的な遺伝子組換え手法を適用して適宜実施することができる。例えば、抗ヒトMIS12ヒト抗体の各CDRと非ヒト抗体(例えばマウス抗体)のフレームワーク領域とを連結するアミノ酸配列をコードするように設計したDNA配列を、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した複数のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成すれば良い。
【0082】
(12)レポーター物質により標識化された抗体
本発明の抗MIS12複合体抗体又はその機能性断片は、場合によりレポーター物質により標識化された状態で使用される。レポーター物質は、抗MIS12複合体抗体又はその機能性断片を所望の機能(MIS12複合体との結合活性を有し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識すること)が維持された状態でラベル化できるものであればどのようなものでも良い。例えば、ラベルであって、MIS12複合体の存在を定量的に測定することができるシグナルを発生することができる物質はより好ましい。例えば、放射性同位元素、金属微粒子、酵素、蛍光物質、及び発光物質を挙げることができる。レポーター物質として、放射性同位元素、蛍光物質、又は発光物質を用いた場合には、それらが発生する放射線、蛍光、又は発光をシグナルとして定量的に測定することができる。レポーター物質が酵素の場合には、適切な基質を作用させ、最終的に生成した色素、蛍光物質、又は発光物質に由来する色、蛍光、又は発光をシグナルとして測定する。放射性同位元素としては、H、125Iなどが挙げられる。蛍光物質としては、GFP等の蛍光タンパク質、フルオレセイン及びその誘導体(例えば、FITC)、テトラメチルローダミン(TAMRA)及びその誘導体(例えば、TRITC)、Cy3、Cy5、Texas Red、フィコエリスリン(PE)、量子ドットなどが挙げられる。発光物質としては、ルミノール誘導体、アクリジニウム誘導体、エクオリン、ルテニウム錯体等が挙げられる。金属微粒子としては、金ナノ粒子や金と白金との合金からなるナノ粒子が挙げられる。酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、β-ガラクトシダーゼ(β-GAL)、アルカリホスファターゼ(ALP)、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ルシフェラーゼ、エクオリンなどが挙げられる。それぞれの酵素について、適切な基質と組み合わせて使用することにより、発光法、比色法、又は蛍光法による解析が可能となる。定量的な解析には、レポーター物質により標識化された本発明の抗体又はその機能性断片が好ましく用いられる。
【0083】
(13)固体支持体に固定化された抗体
本発明の抗MIS12複合体抗体又はその機能性断片は、場合により固体支持体に固定化された状態で使用される。固体支持体とは、抗体又はその機能性断片を所望の活性が維持された状態で固定化できるものであれば、どのような物質でも良い。抗体を用いた生物学的な解析に影響を与えない不活性な材質からなる物質が好ましい。例えば、マイクロプレート、ガラス製プレート、プラスチック製プレート、シリンジ、バイアル、カラム、磁性粒子、樹脂製マイクロビーズ、多孔性膜、多孔性担体、及びマイクロチップを例示することができる。マイクロプレート、シリンジ、バイアル、カラム及びマイクロチップは、いずれも不活性な樹脂製のものが好ましい。ガラス製であっても良い。固体支持体にストレプトアビジンを担持させ、抗体又はその機能性断片にはストレプトアビジン結合性ペプチド(例えば、配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)を含めることにより、ストレプトアビジンとストレプトアビジン結合性ペプチドとの親和性を利用して抗体又はその機能性断片を固体支持体に固定することもできる。
【0084】
(14)MIS12複合体検出用試薬
本発明の抗MIS12複合体抗体、又はその機能性断片は、MIS12複合体と結合し、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する能力を有することから、当該抗体、又はその機能性断片を含む組成物が提供できる。当該組成物は、MIS12複合体検出用試薬として提供できる。ここで、試薬に含まれる抗体又はその機能性断片は、上記(12)に記載されるようなレポーター物質により標識化されたものであっても良い。レポーター物質により標識化されたものであれば、二次抗体を用いることなく検出を行うことができる。別の態様として、試薬に含まれる抗体又はその機能性断片は、磁性微粒子のような固体支持体上に結合又は吸着されたものであっても良い。試薬中で溶液として本発明の抗MIS12複合体抗体又はその機能性断片が包含される場合、その濃度は目的や使用態様に応じて適宜決定できる。例えば、1ng/mL~10mg/mL、100ng/mL~1mg/mL、1μg/mL~300μg/mLの範囲で決定することが挙げられる。また、試薬は原液のまま使用しても良いが、目的に応じて10倍~10,000倍程度に希釈した状態でも好ましく使用される。溶媒は水又は緩衝液を適宜使用できる。当該組成物を試薬として含み、MIS12複合体を検出するためのキットを構築することもできる。試薬は、目的に応じて、更なる成分と共にキットの構成要素とされる。キットには、ポジティブコントロール用のMIS12複合体、標準試料としての濃度既知のMIS12複合体、二次抗体、酵素の基質、コファクター、補助成分、ネガティブコントロール用の非特異的蛋白質試料、緩衝液、保存料、希釈剤、使用説明書等の構成要素が適宜組み合わされる。さらに、ブロッキングや洗浄用の緩衝液等も適宜キットの構成要素として任意に追加できる。
【実施例
【0085】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0086】
実施例1 唾液腺組織に存在する形質細胞(抗体分泌細胞)の分離
シェーグレン症候群が疑われた9例の患者から、シェーグレン症候群の診断目的でバイオプシーを行い、小唾液腺の生検検体を得た。当該生検検体の一部を材料として、検体中に存在する形質細胞(抗体分泌細胞;ASC)をシングルセルで分離した。
具体的には、1mg/mlのコラゲナーゼを含むDMEM液体培地中で小唾液腺組織を機械的、及び酵素的に分解した。分解処理は、37℃で、5%CO環境下で30分間行った。次いで、孔径40μmの細胞濾過フィルターを通した後、蛍光色素がコンジュゲートされた抗体(抗CD3抗体(APC/Cy7,UCHT1)、抗CD4抗体(PE/Cy7,SK3)、抗CD8抗体(BV510,RPA-T8)、抗CD19抗体(BV421,HIB19)、抗CD38抗体(FITC,HIT2)、及び抗CD326抗体(PE,9C4))、及び7-アミノアクチノマイシンD(7AAD,ベイバイオサイエンス社、神戸)で細胞を染色した。そして、7AADCD3CD4CD8CD326CD19CD38highを指標として、フローサイトメーター(FACSAria III(BDバイオサイエンス社))で形質細胞の生細胞を分離した。
結果として、9例の患者由来の組織から合計352細胞がソートされた。
【0087】
実施例2 ASCのシングルセルcDNAライブラリーの構築
実施例1で分取したASC細胞を材料として、C1システム(Fluidigm)又はSmart-seq2を使用し、シングルセルcDNAライブラリーの構築した。C1システムは、マニュアルに従って適用した。また、Smart-seq2は、論文に公表された手順(Picelli S et al., Nat. Protocols (2014) vol. 9, pp. 171-181)に従った。
【0088】
実施例3 抗体発現ベクターの調製
実施例2で調製したcDNAライブラリーを材料として、ライブラリー中に含まれるIgH遺伝子、Igλ遺伝子、及びIgκ遺伝子をPCR法で増幅させた。手法は、基本的に、論文に公表された手順(Tiller T et al., J. Immunol. Methods (2008) vol. 329, pp. 112-114)に従った。PCR増幅は、1stPCR及び2ndPCRの2段階、又は3rdPCRを含む3段階で行い、増幅産物を発現ベクターにクローニングした。重鎖用発現ベクターには、シグナルペプチド(配列番号13)をコードする塩基配列、及び、重鎖定常領域をコードする塩基配列が含まれる。また、軽鎖用発現ベクターには、シグナルペプチド(配列番号13)をコードする塩基配列が含まれる。一方、軽鎖λ定常領域又は軽鎖κ定常領域をコードする塩基配列は、PCR増幅産物中に含まれる。ベクター中のインサートDNAは配列決定が行われた。
当該実施例により、259細胞から抗体の配列が得られた(抗体の配列情報は、後記実施例12に開示される。)。
【0089】
実施例4 組換え体抗体の製造及び精製
実施例3で得られた発現ベクターについて、Expi293 Expression System(Thermo)を用いてコトランスフェクションを行い、抗体のH鎖とL鎖を宿主細胞(HEK293細胞)中で同時発現させ、組換え体抗体を製造した。手順は製造者のマニュアルに従った。7日間の培養後、培養上清を回収し、Ab Capcher Mag(Protenova)を用いて抗体を精製した。
当該実施例の結果として、256細胞分に由来する精製組換え体抗体が得られた。抗体作成成功効率は約75%と非常に高率であった。
【0090】
実施例5 抗体の反応性の検討
臨床検体に由来する抗体では、特に全身性エリテマトーデス(SLE)の様な自己免疫疾患では、複数の抗原に結合するpolyreactiveな抗体が含まれることが知られている。そこで、まず精製された抗体の中にpolyreactiveな抗体が含まれるか、LPS(Sigma)、インスリン(Invitrogen)、及びdsDNA(プラスミド)に対する反応を調べ、2つ以上に反応したものをpolyreactiveとして検討した。具体的には、これらの物質でコートしたマイクロタイタープレートを調製し、洗浄、ブロッキングの後に希釈した組換え体抗体と反応させた。反応後に洗浄し、HRPでコンジュゲートされた抗ヒトIgG抗体(Jackson)で反応させ、TMBを基質(TMB Substrate Set(BioLegend))としたELISA法を実施した。
結果、256種類の抗体の中で、LB20-34、LB20-80、及びLB24-9の3種類のみがpolyreactiveであり、その余の抗体は非特異的な結合が見られなかった。
次にそれらの抗体の反応性を抗SS-A52抗体、抗SS-A60抗体、抗SS-B抗体のELISA(ORGENTEC)を用いて調べた。さらに、立体構造を持ったタンパク質抗原との反応性を見るため、ビーズ上に固定した抗原タンパクに対する抗体の反応(Antigen-binding beads assay)も調べた。
当該実施例において、SS-A52及びSS-Bは、それぞれSBPタグ付きのリコンビナントタンパク質として調製し、使用した。また、SS-A60はビオチン化リコンビナントSS-A60(DIARECT社)を使用した。
ELISAとビーズの反応性ではビーズの方が反応性が高く、SS-BはELISAが陰性でもビーズ上のSS-Bには結合する抗体を6種認めた。また、SS-A60はELISAが陰性でもビーズ上のSS-A60には結合する抗体を15種認めた。ELISAとビーズでどちらかで反応性が認められたものを陽性とみなした。SS-A52はFcレセプターであり、立体構造を持つSS-A52には全ての抗体が結合するため、抗体の反応性の検討はできなかった。
SS-A52、SS-A60及びSS-Bのうち複数に結合する抗体は、最も抗体価が高いものとしてカウントした。Polyreactiveな抗体のうち2つは3種の抗原全部に結合したため、最も抗体価が高かった抗SS-B抗体とした。
作成した組換え体抗体の中に含まれる自己抗体のプロファイル、患者の血清において認められた自己抗体のプロファイルをまとめ、コホート中の患者のプロファイルと共に解析したところ、血清抗SS-A抗体陽性の患者のみから抗SS-A抗体が、血清抗SS-B抗体陽性の患者のみから抗SS-B抗体が検出された。この結果は既報と矛盾しない。平均すると、抗SS-A/SS-B抗体陽性患者の唾液腺中のASCのうち、27%が抗SS-A抗体/SS-B抗体を産生していた。
【0091】
実施例6 血清セントロメア抗体陽性の患者由来の自己抗体の対応抗原の同定
実施例1で用いた9例からなるコホートには、血清中の抗SS-A抗体/抗SS-B抗体陰性であるが、抗核抗体(ANA)陽性かつ抗セントロメア(ACA)抗体陽性(抗CENP-B抗体陽性)の患者が1名(患者ID;LB32)含まれていた。
SSの疾患標識抗体は抗SS-A抗体/抗SS-B抗体とされているが、一部のSS患者では血清中で抗セントロメア抗体(ACA)が陽性になる事が知られている。そこで、本発明者らはこの患者に着目し、ACAも唾液腺で作られているかを検討した。初めに代表的なACA抗原であり、ANA検査におけるACAと一致率も高い抗CENP-B抗体に関して検討した。まずELISAを用いて、LB32から得られた抗体がCENP-B(ORGENTEC)に反応するのかを調べたが、意外なことに、39個の抗体は全てCENP-Bに反応しなかった。念のため、臨床で用いられている別の製造業者のELISA(MBL)でも確認したが、同様に一つもCENP-Bと反応しなかった。
次にこれらの抗体が何に反応しているのかを調べるため、K562細胞溶解液及びLB32由来の組換え体抗体を用いて免疫沈降(IP)を行った。
その結果、39個の抗体の一つであるLB32-8抗体でIPを行い、次いでSDS-PAGE及銀染色を行ったところ、銀染色で複数のバンドが得られた(図1右パネル)。これらのバンドを分離し、質量分析法(LC-MS/MS,LTQ Orbitrap,Thermo Fisher Scientific)を用いてタンパク同定を行ったところ、DSN1、ZWINT、NSL1、PMF1、MIS12及びSPC24に由来するペプチド断片が検出された(図1)。これらは、いずれもKMNアッセンブリーを構成するタンパク質であって、KMNアッセンブリーはMIS12複合体、KNL1複合体、NDC80複合体の3つの複合体からなる事が知られている。DSN1、MIS12、NSL1及びPMF1はMIS12複合体の構成要素であり、ZWINTはKNL1複合体の構成要素であり、SPC24はNDC80複合体の構成要素である。前記質量分析法で同定されたタンパク質について検討すると、KNL1複合体及びNDC80複合体は、いずれも複合体の構成要素の一つのみが同定されたのに対し、MIS12複合体は4種類の全ての構成要素が同定されていた。
そこで、抗DSN1抗体(バイオアカデミア社、大阪)、抗MIS12抗体(Bethyl Laboratories)、及び抗MIS12複合体ウサギ抗体(ABE2585,Merck Millipore,Darmstadt)を用いて、前記IPで得られたサンプル、およびLB32由来の複数の抗体を用いて同様にIPして得られたサンプルについてウエスタンブロット解析を行った(図2)。
その結果、LB32由来の抗体のうち、LB32-8、LB32-9、LB32-10、LB32-14、LB32-17、LB32-19、LB32-20、LB32-21、及びLB32-32の10種類の抗体は、いずれもDSN1、NSL1、及びPMF1及びMIS12と特異的な反応性を示した(図2の上3段のパネル)。これにより、LB32の患者由来の生検サンプルには、MIS12複合体を内因性抗原とする自己抗体を分泌するASCが存在し、抗MIS12複合体抗体が陽性となっていると考えられた。これまで、自己免疫疾患におけるACAとして抗MIS12複合体抗体が報告されたことはなく、新規な抗セントロメア抗体が見出されたことになる。
【0092】
実施例7 自己抗体の免疫組織化学的検出
実施例6に続いて、抗セントロメア抗体検査で陽性を示した患者(LB32)から得られた唾液腺の生検試料を用いて、自己抗体の免疫組織化学的検出を試みた。
生検組織からクライオスタットを用いて4μm厚の凍結切片を作成し、アセトンで固定した。続いてBSA入りのPBSでブロッキングした後、切片にCENP-A、CENP-B、CENP-C、MIS-12複合体、CBX5又は抗CD138マウス抗体を加え、インキュベートした(CENP-A、CENP-B、CENP-C、MIS-12複合体及びCBX-5は、いずれもSBP-GFPタグを融合させた組換え体タンパク質として調製し、使用した。)。洗浄後、Alexa Fluor594-結合抗マウスIgG抗体を加えてインキュベートし、次いで洗浄した。
CENP-A、CENP-B、CENP-C、MIS-12複合体、及びCBX5に対する自己抗体の存在をGFP蛍光により、CD138の存在をAlexa Fluor594由来の蛍光により、それぞれ検出を試みた。
その結果、抗CENP-A抗体、抗CENP-C抗体及び抗MIS-12複合体抗体の存在を示すGFPの蛍光シグナルは、組織中の同一の領域で認められた。また、当該領域には、抗体分泌細胞のマーカーであるCD138の存在も認められた(結果は図示せず)。これにより、自己免疫疾患患者又は自己免疫疾患疑い例の患者に由来する組織を試料とした免疫組織化学的試験により、抗MIS12複合体抗体、抗CENP-A抗体、抗CENP-C抗体といった自己抗体の発現を確認できることが明らかとなった。すなわち、MIS12複合体等が、自己免疫疾患の検出及び/又は分類用の検出剤として利用できることが確認された。
なお、上記LB32由来の唾液腺組織を用いた検出試験においては、抗CENP-B抗体及び抗CBX5抗体の存在を示す明確なシグナルは認められなかった。
【0093】
実施例8 フローサイトメトリーによる抗原-抗体特異性の解析[1]
前記実施例6を受けて、抗体の特異性に関する検討をさらに行った。組換え体タンパク質であるGFP(陰性対照)、SPC24、SPC25、ZWINT、NUF2、DSN1、NSL1、MIS12、及びPMF1をHEK293細胞中で発現させてビーズに結合し、それぞれをLB32-8抗体、LB32-9抗体又はLB32-20抗体と反応させ、フローサイトメトリーで解析した(図3)。また、LB32由来の抗体ではなく、抗ヒトIgG1抗体を用いた対照の解析も併せて行った(図3左端パネル)。その結果、SPC24、SPC25、ZWINT、及びNUF2は、いずれのLB32由来の抗体とも全く反応性を示さなかった(図3上パネル)。一方、DSN1、NSL1、MIS12、及びPMF1は、いずれも僅かな反応性を示した(図3下パネルの中央4段)。モノクローナル抗体であるLB32-8抗体、LB32-9抗体及びLB32-20抗体が、MIS12複合体の構成要素である4つのタンパク質のそれぞれと反応性を示すことは考えにくいので、組換え体タンパク質であるMIS12複合体の一構成要素が、宿主HEK293細胞の内生である他の三構成要素と共にMIS12複合体を構成しており、当該MIS12複合体がLB32-8抗体、LB32-9抗体及びLB32-20抗体と反応性を示す可能性が考えられた。そこで、MIS12複合体の全ての構成要素が同時発現するようにコトランスフェクションを行い、組換え体タンパク質によってMIS12複合体を発現させたところ、LB32-8抗体、LB32-9抗体及びLB32-20抗体との反応性は顕著に増大した(図3下パネル最下段)。これにより、LB32の患者由来の生検サンプルには、MIS12複合体を内因性抗原とする自己抗体を分泌するASCが存在し、抗MIS12複合体抗体が陽性となっていることが確認された。
さらに、LB32-9抗体、及びLB32-20抗体を用いて抗核抗体検査を行ったところ、いずれの抗体を用いた場合でもdiscrete speckled型で陽性反応が確認された(データは示さず)。
【0094】
実施例9 フローサイトメトリーによる抗原-抗体特異性の解析[2]
前記実施例の、フローサイトメトリーによる抗原-抗体特異性の解析をさらに行った。
MIS12複合体は、MIS12-PMF1からなるサブコンプレックスと、DSN1-NSL1からなるサブコンプレックスとで構成されることが知られている。そこで、MIS12とPMF1との組合せ、DSN1とNSL1との組合せ、又は全4構成要素の組合せが発現するよう、HEK293細胞にコトランスフェクションを行い、LB32由来の抗体との反応性を前記実施例と同様に解析した。
結果の一部を図4A及び図4Bに示す。図4Aに示されるように、DSN1-NSL1からなるサブコンプレックスと反応性を示す抗体(LB32-14)やMIS12-PMF1からなるサブコンプレックスと反応性を示す抗体(LB32-32)が見出された一方、MIS12複合体全体にのみ特異的な反応性を示し、いずれのサブコンプレックスとも実質的な反応性を示さなかった抗体(図4AにおいてLB32-8、図4BにおいてLB32-8、LB32-10、及びLB32-19)が見出された。
以上の結果から、複合体中の多様な部位を認識する多様な抗体が存在していることが明らかとなった。
【0095】
実施例10 血清中の抗セントロメア抗体プロファイルの解析
様々なセントロメア関連タンパク質のそれぞれについて、当該セントロメア関連タンパク質に対する抗体が血清中に検出できるか、解析を行った。セントロメア関連タンパク質としては、MIS12複合体、CBX5、CENP-A、CENP-B、及びCENP-Cを対象とした。サンプルは、112名の乾燥症候群を示すSS疑い例(SS)、35名のSSc患者(SSc)、10名のPBC患者(PBC)、及び、44名のSS、SSc及びPBCの合併症(左記のうち2以上の疾患が合併している)患者(OL)、並びに、68名の健常者(HC)のコホートから得られた血清が使用された。抗原に対する反応性を、抗原結合ビーズアッセイで評価し、血清中にMIS12複合体、CBX5、CENP-A、CENP-B及びCENP-Cのそれぞれに特異的な抗体(IgG抗体)が存在するかどうか検査した。
MIS12複合体に関する結果を図5に示す。
図中の各プロットはコホート中の個々の患者の結果に対応し、図の下の数値は各コホート中でカットオフ値以上の反応性が認められた陽性率(%)を示す。
図5に示されるとおり、MIS12複合体に対して特異的な抗体の陽性率は、HCで0%、SSで19%、SScで54%、PBCで40%、OLで82%であった。MIS12複合体に対する自己抗体は、HCで全く認められない一方、discrete speckled型の抗核抗体陽性が特徴として知られる疾患であるSS、SSc及びPBCではいずれも検出された。また、合併症患者では特に高い率で自己抗体の存在が認められた。これにより、MIS12複合体に対する自己抗体陽性が、自己免疫疾患の新たな特徴点であることが示された。
一方、抗CBX5抗体の陽性率は、7%(HC)、45%(SS)、40%(SSc)、10%(PBC)、及び66%(OL)であり、抗CENP-A抗体の陽性率は、0%(HC)、18%(SS)、34%(SSc)、30%(PBC)、及び64%(OL)であり、抗CENP-B抗体の陽性率は、0%(HC)、13%(SS)、34%(SSc)、30%(PBC)、及び73%(OL)であり、抗CENP-C抗体の陽性率は、4%(HC)、17%(SS)、29%(SSc)、60%(PBC)、及び70%(OL)であった(結果はいずれも図示せず)。
【0096】
実施例11 抗セントロメア抗体検査間の結果の一致性についての解析
抗核抗体検査、ELISA法による抗CENP-B抗体検査、及び抗原結合ビーズアッセイによる抗MIS12複合体抗体検査の間でどのぐらい結果が一致するか(裏返せば、検査結果間にどれ程の乖離が認められるか)解析を行った。
結果を図6(ベン図)に示す。
図中の数字は患者数を示す。最も多くのケース(57名)で3種類の検査結果は一致していたものの、21名の患者は抗MIS12複合体抗体検査でのみ陽性を示すことが明らかとなった。
以上の結果から、自己免疫疾患の検出において、MIS12複合体を内因性抗原とする抗MIS12複合体抗体の存否についての自己抗体検査を行うことが有用であることが示された。
【0097】
実施例12 MIS12複合体を認識する抗体の配列解析
実施例6に示される、MIS12複合体を認識する5種類の抗体(LB32-8、LB32-10、LB32-19、LB32-14及びLB32-32)のそれぞれについて、重鎖及び軽鎖の配列解析を行った。
結果を以下の表に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
【表5】
【0103】
【表6】
【0104】
上記に示される重鎖全長配列、軽鎖全長配列、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、いずれも分泌シグナルとなるシグナル配列を含んでいない。よって、これらの重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列を含む抗体分子は、基本的に非分泌型のタンパク質となる。しかしながら、例えば、これらLB32由来の抗体をクローニングした発現ベクターに含まれるシグナルペプチド(配列番号13)をコードする塩基配列を用い、当該塩基配列の下流に抗体遺伝子(重鎖及び軽鎖遺伝子)をインフレームで挿入した融合遺伝子から組換え体を発現させることにより、抗体タンパク質は、分泌型の抗体として適宜調製することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、病態の理解が十分でない自己免疫疾患の分野において、シェーグレン症候群、全身性強皮症、及び原発性胆汁性胆管炎を含む自己免疫疾患に対する新たな検出剤としてMIS12複合体を提供するものである。また、当該検出剤を利用した自己免疫疾患の検出及び/又は分類方法、並びに当該方法のための組成物やキットを提供するものである。本発明によれば、自己免疫疾患の病態に新たな理解が与えられると共に、新規な臨床検査が可能となるので、本発明は医学分野において有用であり、特に臨床検査の分野に有用であって、産業上の利用可能性を有している。また、本発明によって提供される、MIS12複合体の立体構造を特異的に認識する抗体は、MIS12複合体の生化学的解析や免疫化学的解析等を行う上で有用であるから、産業上の利用可能性を有している。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
【配列表】
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