(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 8/02 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
B43K8/02
(21)【出願番号】P 2019112979
(22)【出願日】2019-06-18
(62)【分割の表示】P 2019102612の分割
【原出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】河野 壮人
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-040133(JP,A)
【文献】特開2000-052682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを保持するインク保持部を内部に有する筆記具本体と、
前記筆記具本体から先端側に向かって延び且つ前記インク保持部から前記インクを前記先端側に誘導するインク誘導部と、前記インク誘導部の先端に設けられた筆記部と、
前記筆記部と前記筆記具本体との間に設けられた可視部と、を備え、
前記筆記部は、前記筆記具本体の軸方向に対して鋭角または鈍角に設けられ且つ筆記対象箇所と当接する当接部を有し、
前記筆記具本体の先端面は、前記軸方向と直交する平面に対して傾いており、前記当接部と前記先端面とは略平行である、
筆記具。
【請求項2】
インクを保持するインク保持部を内部に有する筆記具本体と、
前記筆記具本体から先端側に向かって延び且つ前記インク保持部から前記インクを前記先端側に誘導するインク誘導部と、前記インク誘導部の先端に設けられた筆記部と、
前記筆記部と前記筆記具本体との間に設けられた可視部と、を備え、
前記筆記部は、前記筆記具本体の軸方向に対して鋭角または鈍角に設けられ且つ筆記対象箇所と当接する当接部を有し、
前記筆記具本体の先端面に取付枠部が突設され、前記取付枠部は、前記軸方向と直交する平面に対して前記当接部と同じ方向に傾いており、前記当接部と前記取付枠部とは略平行である、
筆記具。
【請求項3】
前記可視部は、前記インク誘導部の下側に設けられ、
前記可視部の下側に前記インク誘導部は位置せず、
前記当接部の下端から上端までの長さをa、
前記当接部の下端と上端との間の中心を通り且つ前記軸方向に延びる線と、前記筆記部の下端と前記可視部の上端との間の中心を通り且つ前記軸方向に延びる線との間の距離をZ1、としたときに、
(Z1/a)×100≦10.0である、
請求項1又は2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記可視部は、前記インク誘導部の下側に設けられ、
前記可視部の下側に前記インク誘導部は位置せず、
前記当接部の下端から上端までの長さをa、
前記当接部の下端と上端との間の中心を通り且つ前記軸方向に延びる線と、前記可視部の下端と上端との間の中心を通り且つ前記軸方向に延びる線との間の距離をZ2、としたときに、
(Z2/a)×100≦17.0である、
請求項1又は2に記載の筆記具。
【請求項5】
前記インク誘導部と、前記当接部との間の角度θが、
70°≦θ≦80°または100°≦θ≦110°
である請求項1から4のいずれか1項に記載の筆記具。
【請求項6】
前記当接部の下端から上端までの長さをa、
前記インク誘導部の上下方向の幅をXとしたときに、
(X/a)×100≦42.5
である請求項1から5のいずれか1項に記載の筆記具。
【請求項7】
前記インク誘導部を保持する保持部と前記可視部と含む芯保持体を備え、
前記当接部の下端から上端までの長さをa、
前記芯保持体と前記インク誘導部と前記筆記部とを含む部分の上下方向の幅をペン先幅bとしたときに、
(b/a)×100≦150
である請求項1から6のいずれか1項に記載の筆記具。
【請求項8】
前記可視部の肉薄部の厚みtが、0.8mm≦t≦1.0mm
である請求項1から7のいずれか1項に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキングペン等の筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具本体からインクを誘導するインク誘導部及び筆記部を有する筆記芯と、筆記芯を保持するとともに筆記方向を視認できる可視部(窓部)を備えた芯保持体を有する筆記具が知られている。このような筆記具は、芯保持体の可視部から文字等が見えるため、狙った位置に筆記しやすい(特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-144581号公報
【文献】特許第3821609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、筆記芯の形状が、可視部から見て略コの字状の筆記芯を備えた筆記具が開示されている。しかし、このような筆記芯形状の場合、インク誘導部が、可視部の上側及び下側に位置するため、可視部から文字等が見えづらい。
特許文献2には、筆記芯の形状が、可視部から見てL字状の筆記具が開示されている。しかし、この筆記芯の場合、筆記部とインク誘導部との間の角度が、直角に形成されているため、筆記しづらいという問題がある。
本発明は、可視部からの視認性と、筆記しやすさが両立された筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、インクを保持するインク保持部を内部に有する筆記具本体と、前記筆記具本体から先端側に向かって延び且つ前記インク保持部から前記インクを前記先端側に誘導するインク誘導部と、前記インク誘導部の先端に設けられた筆記部と、前記筆記部と前記筆記具本体との間に設けられた可視部と、を備え、前記筆記部は、前記筆記具本体の軸方向に対して鋭角または鈍角に設けられ且つ筆記対象箇所と当接する当接部を有し、前記筆記具本体の先端面は、前記軸方向と直交する平面に対して傾いており、前記当接部と前記先端面とは略平行である、筆記具を提供する。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の他の態様は、インクを保持するインク保持部を内部に有する筆記具本体と、前記筆記具本体から先端側に向かって延び且つ前記インク保持部から前記インクを前記先端側に誘導するインク誘導部と、前記インク誘導部の先端に設けられた筆記部と、前記筆記部と前記筆記具本体との間に設けられた可視部と、を備え、前記筆記部は、前記筆記具本体の軸方向に対して鋭角または鈍角に設けられ且つ筆記対象箇所と当接する当接部を有し、前記筆記具本体の先端面に取付枠部が突設され、前記取付枠部は、前記軸方向と直交する平面に対して前記当接部と同じ方向に傾いており、前記当接部と前記取付枠部とは略平行である、筆記具を提供する。
【0007】
前記可視部は、前記インク誘導部の下側に設けられ、前記当接部の下端から上端までの長さをa、前記当接部の下端と上端との間の中心を通り且つ前記軸方向に延びる線と、前記筆記部の下端と前記可視部の上端との間の中心を通り且つ前記軸方向に延びる線との間の距離をZ1、としたときに、(Z1/a)×100≦10.0であってもよい。
【0008】
前記可視部は、前記インク誘導部の下側に設けられ、前記当接部の下端から上端までの長さをa、前記当接部の下端と上端との間の中心を通り且つ前記軸方向に延びる線と、前記可視部の下端と上端との間の中心を通り且つ前記軸方向に延びる線との間の距離をZ2、としたときに、(Z2/a)×100≦17.0であってもよい。
【0009】
前記インク誘導部と、前記当接部との間の角度θが、70°≦θ≦80°または100°≦θ≦110°あってもよい。
【0010】
前記当接部の下端から上端までの長さをa、前記インク誘導部の上下方向の幅をXとしたときに、(X/a)×100≦42.5であってもよい。
【0011】
前記インク誘導部を保持する保持部と前記可視部と含む芯保持体を備え、前記当接部の下端から上端までの長さをa、前記芯保持体と前記インク誘導部と前記筆記部とを含む部分の上下方向の幅をペン先幅bとしたときに、(b/a)×100≦150であってもよい。
【0012】
前記可視部の肉薄部の厚みtが、0.8mm≦t≦1.0mmであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、可視部からの視認性と、筆記しやすさが両立された筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の筆記具1を示す側面図である。
【
図3】連結筒3、芯保持体4及び筆記芯5を斜め上側から見た分解斜視図である。
【
図4】連結筒3、芯保持体4及び筆記芯5を斜め下側から見た分解斜視図である。
【
図5】連結筒3、芯保持体4及び筆記芯5の側断面図である。
【
図8】連結筒3、芯保持体4及び筆記芯5の
図6に示すZ方向の断面図である。
【
図9】実施例1,2,3,4,5と、比較例1,2,3との比較結果を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の筆記具の一実施形態について図面を参照しながら説明する。実施形態の筆記具1は、例えば、マーキングペンである。
図1は、実施形態の筆記具1を示す側面図である。
図2は、筆記具1の分解図である。筆記具1は、筆記具1の軸A方向の一方側に太字マーカ1aを備え、軸A方向の他方側に細字マーカ1bを備える。以下の説明において、太字マーカ1a側を先又は前、細字マーカ側を後として説明する。
【0016】
筆記具1は、筆記具本体10と、筆記具本体10の前側に取り付けられる芯保持体4と、芯保持体4に装着される太字側筆記芯(以下、筆記芯という)5と、筆記具1の太字マーカ1a側に装着される大キャップ6と、筆記具本体10の後側に取り付けられる細字側筆記芯8と、筆記具1の細字マーカ1b側に装着される小キャップ9と、を備える。
筆記具本体10は、本体筒2と、本体筒2の前側に取り付けられる連結筒3と、本体筒2及び連結筒3の内部に配置されるインク保持部7と、を備える。
【0017】
(インク保持部7)
インク保持部7は、本体筒2及び連結筒3の内部に収容される円柱部材であり、筆記用のインクが含浸され且つ軸A方向に延びる中綿部材と、その中綿部材の外周を覆う、例えばPETやPP等からなるフィルム状の樹脂と、を含んで構成される。
【0018】
(本体筒2)
本体筒2は円筒状で、太字マーカ1a側の端部側の内周面には、本体側ネジ溝21が形成されている。本体筒2の細字マーカ1b側は後部に行くにつれて段階的に径が細くなり、端部に細字側筆記芯8が装着され、また小キャップ9が取り付けられる。
【0019】
図3は、連結筒3、芯保持体4及び筆記芯5を斜め上側から見た分解斜視図である。
図4は、連結筒3、芯保持体4及び筆記芯5を斜め下側から見た分解斜視図である。
図5は、連結筒3、芯保持体4及び筆記芯5の側断面図である。
図6は、連結筒3、芯保持体4及び筆記芯5の側面図である。
なお、上下とは、後述するように、筆記具1を、軸A方向を水平にした状態で、前後に延びるインク誘導部51に対して筆記部52が延びる方向を下としたときの上下である。また、左右とは、筆記具1を後側からみたときの左右である。
【0020】
(連結筒3)
連結筒3は、筒部材で、後側からネジ筒部31と、ネジ筒部31の前側に設けられるフランジ部32と、フランジ部32より前側に延びる前側筒部33と、前側筒部33の先端面34からさらに前側に突出する取付枠部35とを有する。
【0021】
(ネジ筒部31)
ネジ筒部31は、連結筒3の後端側の外周面に形成され、
図2に示す本体筒2の本体側ネジ溝21に螺合される。
【0022】
(フランジ部32)
フランジ部32は、ネジ筒部31の前側の外周面から周方向の全域に亘って円環状に突出して設けられている。フランジ部32の後面には、本体筒2の前端面が当接する。フランジ部32の前面には、大キャップ6の後端面が当接する。
【0023】
(前側筒部33)
前側筒部33は、フランジ部32より前側に延びる。
【0024】
(先端面34)
先端面34は、前側筒部33の先端を部分的に覆い、軸Aと直交する平面に対して傾いている。すなわち、先端面34は、上から下に向かうにつれて前から後に向かうように傾斜している。先端面34は、後述する当接部52aと略平行である。
【0025】
(取付枠部35)
取付枠部35は、先端面34から先端側に向かって突出し、先端面34と略平行に設けられている。取付枠部35は、上面部35a、下面部35b、及び2つの側面部35cを有する略矩形の枠部材であり、前後に貫通する矩形開口36の縁部を形成する。取付枠部35も、先端面34と同様に上から下に向かうにつれて前から後に向かうように傾斜し、取付枠部35の先端と、先端面34と、当接部52aとは略平行である。なお、本明細書において「略平行」とは、取付枠部35、先端面34、及び当接部52aにおいて、2つの部分のなす角度がプラスマイナス10°の範囲に入ることをいう。
取付枠部35の下面部35bの中央部には、前後に延びる切り欠きが設けられており、切り欠きの底面は、前側を向く中央当接面37となっている。中央当接面37には、芯保持体4の後述の段差面48が当接する。取付枠部35の側面部35cの内面には、後側を向いた嵌合面38が設けられている。
また、取付枠部35の上面部35aの内面から、その奥の前側筒部33の内面に渡り、後述するインク誘導部51の傾斜部51bに食い込む突部36aが設けられている。
【0026】
(筆記芯5)
筆記芯5は多孔体部材で構成され、例えば繊維芯や焼結芯、フェルト等が用いられるが、インク誘導部に誘導されたインクを用いて筆記できるものであれば、これに限定されるものではない。
筆記芯5は、インク誘導部51と、インク誘導部51の先端側に設けられた筆記対象箇所と当接する当接部52aを有する筆記部52とを備える。
インク誘導部51と筆記部52とは略L字形状に一体的に製造されている。上述したように、筆記具1を、軸A方向を水平にした状態で、前後に延びるインク誘導部51に対して筆記部52が延びる方向を下とする。
【0027】
(インク誘導部51)
インク誘導部51は、筆記具本体10に収容されたインクを筆記部52側に誘導する。インク誘導部51は、前後に延び、軸Aと略平行な平行部51aと、平行部51aの後側に設けられ、軸Aに対して後側に行くにつれて下側に下がるように傾いた傾斜部51bとを有する。
平行部51aは、後述する芯挿入部42内に挿入され、傾斜部51bは、後述する連結筒取付部41の傾斜部載置部47に載置される。
【0028】
(筆記部52)
筆記部52は、インク誘導部51の前側に設けられ、先端に当接部52aを有する。当接部52aは、筆記対象箇所である紙面等に当接し、インク誘導部51より誘導されたインクを用いて、紙面等に文字を書いたり、すでに書かれている文字列にマーキングをしたりする。
当接部52aは、軸Aに対して傾斜している。すなわち、当接部52aは、上から下に向かうにつれて前側から後側に行くように傾斜している。また、前述したように当接部52aは、連結筒3の先端面34と略平行である。
筆記部52は、当接部52aの幅(長さ)が厚さ方向(左右方向)の幅(長さ)より大きく形成される。当接部52aは、好ましくは2.0mm以上であり、さらに好ましくは3.0mm以上である。
【0029】
ここで、
図6に示すように、インク誘導部51と当接部52aとの間の角度(ペン先角度)をθ(°)としたときに、実施形態において角度θは鋭角である。この角度θは、好ましくは70°≦θ≦80°であり、より好ましくは75°≦θ≦80°である。
また、当接部52aの長さ、つまり当接部52aの下端から上端までの長さをaとし、インク誘導部51(平行部51a)の上下方向の幅をXとしたときに、実施形態において、(X/a)×100≦42.5である。すなわち、インク誘導部51(平行部51a)の上下方向の幅Xは、当接部52aの長さaの42.5%以下である。
【0030】
なお、本実施形態では、前後に延びるインク誘導部51に対して筆記部52における角度θは鋭角であるが、これに限定されず、角度θは鈍角であってもよい。鈍角とする場合の角度θは、好ましくは100°≦θ≦110°であり、より好ましくは105°≦θ≦110°である。
角度θを鋭角とした本実施形態では、横書きの文字列の上から当接部52aの幅でマーキングするときに、使用者が自然な筆記具本体10の持ち方をすると、可視部Vが手前側でインク誘導部51が奥側となり、文字列を視認しやすい。
一方、角度θを鈍角とした場合は、縦書きの文字列の上から当接部52aの幅でマーキングする際に、自然な持ち方で可視部Vが使用者側に来るので文字列を視認しやすい。
【0031】
(芯保持体4)
図7は芯保持体4の側面図である。実施形態において、芯保持体4は、例えば、透明の樹脂材料又は半透明の樹脂材料により形成されている。芯保持体4は、筒状の芯挿入部42と、芯挿入部42の前側に設けられた筆記部受部45と、芯挿入部42の後側に設けられた連結筒取付部41と、芯挿入部42の下部に設けられた肉薄部44と、筆記部受部45の下端から前側に突出した壁部46とを有する。
【0032】
(芯挿入部42)
芯挿入部42は筒状であり、後述の筆記芯5の平行部51aを内部に保持する。
【0033】
(筆記部受部45)
筆記部受部45は、芯挿入部42の前側に設けられ、後述の筆記芯5の筆記部52を保持する。
【0034】
(連結筒取付部41)
連結筒取付部41は、芯挿入部42よりも後側に延び、連結筒3の取付枠部35に差し込まれる。連結筒取付部41の左右の外側面には、一対の取付凸部43が形成されている。取付凸部43は、連結筒3の取付枠部35の内面に設けられた嵌合面38と嵌合する(
図4参照)。連結筒取付部41の左右方向の中央部には、筆記芯5のインク誘導部51の傾斜部51bを保持する傾斜部載置部47が設けられている。
【0035】
(肉薄部44)
肉薄部44は、芯挿入部42の下側における、筆記部受部45と連結筒取付部41との間に設けられた薄板状の部分で、厚み(左右方向の幅)は他の部分より薄い。実施形態において肉薄部44の厚みtは、0.8mm≦t≦1.0mmであることが好ましい。
【0036】
(可視部V)
図7において斜線で示す部分は可視部Vである。可視部Vは、肉薄部44の略大部分と、肉薄部44よりも厚くなっている筆記部受部45及び芯挿入部42の一部を含む。可視部Vは、透明又は半透明の部材で製造された芯保持体4に筆記芯5を取り付けて連結筒3に挿入した時に、連結筒3及び筆記芯5によって遮られずに、左右の一方から他方を透視可能な部分である。すなわち、可視部Vは筆記時に筆記方向を視認可能な部分である。
なお、実施形態において芯保持体4は可視部Vも含めて全体が透明の材料で製造されているがこれに限定されず、少なくとも可視部Vが透明又は半透明であれば、他の部分は透明又は半透明でなくてもよい。また、可視部Vの一部に貫通孔が設けられていてもよい。さらに可視部Vは、一部又は全て貫通した開口部であってもよい。
【0037】
実施形態で可視部Vは、筆記芯5の下端よりも、壁部46の分だけ下に延びている。また、可視部Vは、後側に設けられた連結筒取付部41よりも下側に延びており、その下側の突出した部分の後面は段差面48となっている。段差面48は、連結筒3の取付枠部35の下面部35bに設けられた中央当接面37と当接する(
図5参照)。
【0038】
(壁部46)
壁部46は、筆記部受部45の下端から先端側に半円弧状に突出している。
壁部46が先端側に突出する長さは、壁部46の先端の位置が、筆記部52の壁部46側の端部の先端の位置よりも、例えば、定規の厚さよりも短い距離B(
図7)だけ、後方側に位置するように設定される。
「定規の厚さよりも短い距離B」は、筆記面である筆記部52の先端から1.5mm以下であり、好ましくは1.0mm以下であり、さらに好ましくは0.5mm以下である。
これにより、定規を用いて線を引く場合に、壁部46の側方の端部が定規に接触するため、筆記部52の露出された部分が定規に接触しない。よって、定規を用いて線を引く場合に、定規にインクが付着することが抑制されるため、定規が汚れることを防止でき、かつ、筆記部52と定規が擦れることにより生じる筆記部52の破損を防止することができる。
また、壁部46は、実施形態において筆記時に手前側にくる下面側に設けられているので、定規を用いた場合に自然な持ち方で、壁部46が定規に接触した状態での筆記が可能となる。
【0039】
図8は、連結筒3、芯保持体4及び筆記部52の
図6のZ方向の断面図である。
筆記部受部45の先端側の部分の外面と筆記部52の先端側の部分の外面とを繋ぐ傾斜線Kは、軸Aに対して、角度θ2の範囲に位置されるように形成されることが好ましい。筆記具本体2の軸Aに対する傾斜線Kの角度θ2は、例えば、45°以下が好ましく、35°以下が更に好ましい。
【0040】
これにより、筆記部受部45が筆記部52の先端側の部分よりも後方側に位置するため、筆記部52の先端の部分は、露出する部分が多くなる。よって、筆記部受部45を紙面側に倒すように傾けて筆記具1を使用する場合に、筆記部受部45は、筆記部受部45を紙面側に倒すように筆記具1を傾けても、筆記具本体2の軸Aが紙面に対して角度θ2となるまで紙面に接触しない。従って、筆記具本体2の軸Aに対する傾斜線Kの角度θ2とすることで、筆記部受部45を紙面側に倒すように傾けた状態での筆記を行い易い。
【0041】
特に、本発明の筆記具1は、筆記時に可視部Vを通して筆記方向を視認できるため、筆記具1をより倒した状態で筆記を行うことがある。このような場合でも、筆記部受部45を紙面側に倒すように傾けた状態での筆記を行い易いため、筆記部受部45を紙面側に倒した状態で、可視部Vを通して筆記方向を視認しながら、より好適に筆記を行うことができる。
【0042】
ここで、
図6に示すように、当接部52aの下端から上端までの長さをa、当接部52aの下端と上端との間の中心を通る軸方向に延びる線p1と、筆記部52の下端と可視部Vの上端との間の中心を通る軸方向に延びる線p2との間の距離Z1(mm)としたとき、実施形態において(Z1/a)×100≦10.0である。すなわち、線p1と線p2との間の距離Z1は当接部52aの下端から上端までの長さaの10%以下である。さらに、(Z1/a)×100≦3.5、すなわち、線p1と線p2との間の距離Z1は当接部52aの下端から上端までの長さaの3.5%以下であるとより好ましい。
【0043】
また、当接部52aの下端と上端との間の中心を通る軸A方向に延びる線p1と、可視部Vの下端と上端との間の中心を通る軸A方向に延びる線p3との間の距離Z2(mm)としたとき、(Z2/a)×100≦17である。すなわち、線p1と線p3との間の距離Z2は当接部52aの下端から上端までの長さaの17%以下である。さらに、Z2/a≦0.10、すなわち、線p1と線p3との間の距離Z2は当接部52aの下端から上端までの長さaの10%以下であるとより好ましい。
なお、
図6においては、可視部Vの下側は軸Aと平行であるが、例えば、可視部Vが、軸A方向の後側につれて幅が大きくなる場合、または幅が小さくなる場合は、筆記部受部45の内面と筆記部52の後面との当接する位置における、可視部Vの下端と上端との間の中心を通る軸A方向に延びる線を線p3とする。
【0044】
芯保持体4及び筆記芯5を含む部分全体としての上下方向の長さをペン先幅b(mm)としたとき、実施形態において(b/a)×100≦150であることが好ましい。
【0045】
(組み付け方)
次に、連結筒3、芯保持体4及び筆記芯5の、筆記具本体10へ組み付け方について説明する。
まず、筆記芯5を、芯保持体4の筆記部受部45の前側より挿入する。そうするとインク誘導部51は芯挿入部42を通り、筆記部52の後面が筆記部受部45の内面と当接する。これにより、筆記芯5が芯保持体4に対して位置決めされる。
【0046】
次いで、筆記芯5が保持された芯保持体4の連結筒取付部41を、連結筒3の矩形開口36に挿入する。取付枠部35の上面部35aの前面が、芯挿入部42の後面42aと当接する。また、筆記具本体10の中央当接面37には、芯保持体4の段差面48が当接する。これにより筆記芯5が保持された芯保持体4が、連結筒3に位置決めされる。
このとき、取付凸部43が、取付枠部35の内面に設けられた嵌合面38を乗り越え嵌合され、筆記芯5が保持された芯保持体4が、連結筒3に対して抜けないように取り付けられる。
芯保持体4の連結筒取付部41が板状に形成されると共に、連結筒3の矩形開口36が長方形状に開口するため、芯保持体4の連結筒取付部41は、筆記具本体10に対して回転しにくい。
【0047】
また、インク保持部7は筆記芯5より柔らかい材質により製造されている。したがって、
図5に示すように、筆記芯5の傾斜部51bの後端は、インク保持部7の先端に入り込む。また、連結筒3の内面に設けられた突部36aが筆記芯5の後ろ傾斜部51bの上面より食い込むことで、筆記芯5も連結筒3に対して抜けないように取り付けられる。
芯保持体4と筆記芯5との関係のみで筆記芯5を保持することに比べて、筆記具本体10と芯保持体4との間に、筆記芯5を挟みこむことで、容易に筆記芯を保持することができ、特に筆記芯5の軸方向への抜けを防止することができる。
【0048】
図9は、種々条件を変えた本実施形態の実施例である実施例1,2,3,4,5と、比較形態としての比較例1,2,3とを用意して、それぞれについて、(1)可視部Vからの文字の視認性、(2)筆記のしやすさ、(3)文字の狙いやすさを判断した結果を示した表である。インク保持部7には、蛍光色のインクを詰めた。
【0049】
表の記号は、上述したように以下を意味する。
b:芯保持体4及び筆記芯5を含む部分全体としての上下方向の幅(ペン先幅)(mm)
θ:インク誘導部51と当接部52aとの間の角度(ペン先角度)(°)
X:インク誘導部51の上下方向の幅(mm)
Z1:当接部52aの下端と上端との間の中心を通る軸A方向に延びる線p1と、筆記部の下端と可視部Vの上端との間の中心を通る軸A方向に延びる線p2との間の距離(mm)
Z2:当接部52aの下端と上端との間の中心を通る軸A方向に延びる線p1、可視部Vの下端と上端との間の中心を通る軸A方向に延びる線p3との間の距離(mm)
【0050】
実施例1,2,3,4,5と、比較例1,2,3とのいずれにおいても、筆記部52の当接部52aの長さ(筆記幅)aは4.00mmである。その他の値は、表に示す。
【0051】
表に示す(1)、(2)、(3)の評価は、実施例及び比較例の筆記具を使用し、複数人に、紙面にあらかじめ記載された文字サイズ10ptの横書きの文字列の上から当接部の長さでマーキングしてもらい、使用者に〇、△、Xの段階評価をしてもらった結果のうち最も評価人数の多い評価結果を示す。
(1)可視部Vからの文字の視認性において、〇は視認性良好と感じた場合、Xは視認性が悪いと感じた場合、△はどちらといえないと感じた場合である。
(2)筆記のしやすさにおいて、〇は筆記しやすいと感じた場合、Xは筆記しにくいと感じた場合、△はどちらといえないと感じた場合である。
(3)文字の狙いやすさにおいて、マーキングペンである筆記具1において、すでに書かれている文字にマーキングする場合に、マーキングする文字を狙いやすいかどうかで、〇は文字を狙いやすいと感じた場合、Xは文字を狙いにくいと感じた場合、△はどちらといえないと感じた場合である。
【0052】
(1)可視部Vからの文字の視認性
「可視部Vからの文字の視認性」は、Z1/a、又はZ2/aの値が影響する。
Z1/aが小さいと、当接部52aの中心と、可視部Vにおける筆記部52の後側から見えている部分の中心とのずれが小さいので、実際にマーキングを行う当接部52aを、マーキング対象である文字列と位置合わせしたときに、可視部Vから実際にマーキング対象である文字列を認識しやすい。
実際に、表に示すように、(Z1/a)×100≦10.0、すなわち、線p1と線p2との間の距離Z1が、当接部52aの下端から上端までの長さaの10%以下である実施例1,2,3,4,5及び比較例2,3においては、可視部Vからの文字の視認性が、△又は〇であった(図中、灰色の部分)。
これにより、実施形態の範囲は可視部Vからの文字の視認性がよいことがわかる。
【0053】
当接部52aが、インク誘導部51に対して鋭角に傾いている場合、横書きの文字列の上から当接部52aの幅でマーキングするときには、使用者が自然な筆記具本体10の持ち方をすると、可視部Vが手前側で、インク誘導部51が奥側となる。
使用者は、後斜め上からペン先を見下ろす形になるため、可視部Vを無理な姿勢での覗き込む必要はなく、自然な姿勢で手前側の可視部Vから文字列を見ることができる。
よって、当接部52aとインク誘導部51は、鋭角であることが好ましい。
【0054】
筆記部52の当接部52aの下端と筆記部52の後面との距離Y(
図7)は、3.0mm以下が好ましい。筆記部52の当接部52aの下端と筆記部52の後面との距離が近いことで、視認性がより良くなる。一方、筆記芯5の強度から、1.5mm以上であることが好ましい。
【0055】
さらに、実施形態の好ましい範囲である、(Z1/a)×100≦3.5、すなわち、線p1と線p2との間の距離Z1は当接部52aの下端から上端までに長さaの3.5%以下である、実施例1,2,3及び比較例2,3においては可視部Vからの文字の視認性が〇であった。
【0056】
また、Z2/aが大きい場合、使用時において可視部Vにおける筆記部52よりも下の部分も視界に入る。そうすると、実際にマーキングを行う場合に可視部Vの下端のラインが気になり、当接部52aの範囲と、可視部Vの範囲とのずれが大きくなるのでマーキング時の位置決めがしにくくなる場合がある。したがって、Z2/aも小さい方がよい。
実際に、表に示すように、(Z2/a)×100≦17.0、すなわち、線p1と線p3との間の距離Z1が、当接部52aの下端から上端までに長さaの17%以下である実施例1,2,3,4,5及び比較例2,3においては、可視部Vからの文字の視認性が、△又は〇であった(図中、灰色の部分)。
これにより、実施形態の範囲は可視部Vからの文字の視認性がよいことがわかる。
【0057】
さらに、実施形態の好ましい範囲である、(Z2/a)×100≦10、すなわち、線p1と線p2との間の距離Z2は当接部52aの下端から上端までに長さaの10%以下である、実施例1,2,3及び比較例2,3においては可視部Vからの文字の視認性が〇であった。
【0058】
(2)筆記しやすさ
「筆記しやすさ」は、ペン先角度θが大きく影響する。角度θが70°≦θ≦80°である実施例1,2,3,4,5及び比較例1は、筆記のしやすさが△又は〇であった(図中、灰色の部分)。
さらに、上述したより好ましい範囲である75°≦θ≦80°においては筆記のしやすさが〇であった。これにより、実施形態の範囲は、筆記がしやすいことがわかる。
【0059】
また、実施形態ではインク誘導部51の上下方向の幅Xとしたときに、(X/a)×100≦42.5である(図中、灰色の部分)。筆記部52(当接部52a)の幅に対してインク誘導部51の上下方向の幅Xが大きいと、可視部Vの上下方向の幅を大きく取ることができないからである。実施形態では、(X/a)×100≦42.5であるので、可視部Vの幅を十分に取ることができる。
一方で、インク誘導部51の幅Xが小さいと、インク保持部7から筆記部52に十分にインクを供給できないことや、筆記芯としての強度が不足するため、インク誘導部51の幅Xは、1.5mm以上であることが好ましい。
【0060】
(3)文字の狙いやすさ
「文字の狙いやすさ」については、必須要件ではないが、芯保持体4及び筆記芯5を含む部分全体としての上下方向のペン先幅b(mm)としたとき、(b/a)×100≦150であることが好ましい(図中、灰色の部分)。
これは(b/a)は文字の狙いやすさに影響するからである。すなわち、筆記部52の当接部52aの長さ(幅)aに対して芯保持体4及び筆記芯5を含む部分全体としての上下方向の幅(ペン先幅)bが大きいと、見えているペン先幅bに対して、実際に筆記される幅である当接部52aの長さ(筆記幅)が小さいので、マーキング対象である文字列への当接部52aの位置決めが難しくなる。
表に示すように(b/a)×100≦150にすると、文字の狙いやすさも向上する。
【0061】
(4)当接部52aと筆記具本体10の先端面34とが略平行であることの効果
また、実施形態では当接部52aと、筆記具本体10(連結筒3)の先端面34とは略平行である。
実施形態において当接部52aは筆記しやすさの観点から、軸Aと平行なインク誘導部51に対して鋭角に傾いている。この状態で連結筒3の先端面34を、仮に軸Aと直交させた場合、筆記時に可視部Vから文字列が見にくくなる。特に、筆記時において使用者は筆記具本体10を自然な姿勢で持った場合に、後斜め上から、ペン先を見下ろす形になる。そうすると、先端面34の下側が使用者の手前側にくるので、この先端面34の下側によって、可視部Vの後ろ側が遮られるので、文字列がより見にくくなる。
実施形態では当接部52aと、筆記具本体10(連結筒3)の先端面34とが略平行で、すなわち軸Aに対して傾いているので、筆記時において可視部Vを遮りにくく、文字列を認識しやすい。
【0062】
なお、連結筒3の先端面34を軸Aと直交させ且つ筆記時における可視部Vの視認性を確保するために先端面34をより後方に設けることも考えられるが、そうすると、芯挿入部42が長くなり、強度的に弱くなり、またインク誘導部51も長くなるのでインクが十分に筆記部52に供給されにくくなる。
【0063】
しかし、実施形態では、当接部52aと、このように筆記具本体10(連結筒3)の先端面34とが略平行で、すなわち軸Aに対して傾いているので、芯挿入部42を長くすることなく可視部Vからの文字列の認識性を向上することができる。ゆえに、強度を低下させることなく、また筆記部52へのインク供給も問題なく行うことができる。
【0064】
また、当接部52aと、筆記具本体10(連結筒3)の先端面34とを略平行にすると、見た目が美しく意匠的にも優れる。
【0065】
(5)可視部Vの肉薄部の厚みtの効果
可視部Vの肉薄部の厚みtは、上述のように、0.8mm≦t≦1.0mmである。この厚さ範囲であると屈折等によって可視部Vの視認性が劣ることなく、また十分な強度も確保される。
【0066】
(6)壁部46の効果
実施形態において壁部46が、筆記部52の下面を部分的に覆っているので、筆記部52の下面の露出範囲を制限し、定規を用いてインクを筆記する場合に、定規に筆記部52が接触しない。また、実施形態において壁部46は、筆記時に手前側にくる下面側に設けられているので、定規を用いた場合に自然な持ち方で、壁部46が定規に接触した状態で筆記可能となる。
【符号の説明】
【0067】
V 可視部
1 筆記具
7 インク保持部
10 筆記具本体
2 本体筒
3 連結筒
33 前側筒部
34 先端面
35 取付枠部
36 矩形開口
36a 突部
38 嵌合面
4 芯保持体
41 連結筒取付部
42 芯挿入部
43 取付凸部
44 肉薄部
45 筆記部受部
46 壁部
47 傾斜部載置部
5 筆記芯
51 インク誘導部
51a 平行部
51b 傾斜部
52 筆記部
52a 当接部