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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ロジンアルコキシレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20230927BHJP
   C07C 69/753 20060101ALI20230927BHJP
   C07C 209/68 20060101ALI20230927BHJP
   C07C 217/08 20060101ALI20230927BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/753 Z
C07C209/68
C07C217/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020000315
(22)【出願日】2020-01-06
(65)【公開番号】P2021109832
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和寿
(72)【発明者】
【氏名】古田 章宏
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105860549(CN,A)
【文献】米国特許第05614181(US,A)
【文献】特開2003-160736(JP,A)
【文献】特開2007-154114(JP,A)
【文献】特開平01-219051(JP,A)
【文献】特開平01-219052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンで構成される合物(A)、前記ロジンとともにエーテル化可能な化合物であって、分子中に活性水素を有し、40℃で液体の性状を呈し、下記の化1で示される化合物で構成される化合物(B)をそれぞれ所定の配合比率で溶解用容器に導入する溶解用容器導入工程と、
前記溶解用容器の内部を予め規定された温度及び圧力の溶解条件に調整する溶解条件調整工程と、
前記溶解条件に調整された前記溶解用容器で、前記混合物(A)及び前記化合物(B)を溶解させ、溶解混合物を生成する溶解工程と、
生成された前記溶解混合物を反応容器に導入する化合物導入工程と、
前記反応容器の内部を予め規定された温度及び圧力の反応初期条件に調整する反応初期条件調整工程と、
前記反応初期条件に調整された前記反応容器を用い、前記溶解混合物にアルキレンオキシドで構成される化合物(C)を加え、規定の温度及び圧力のエーテル化反応条件でエーテル化反応させ、ロジンアルコキシレートを生成するエーテル化反応工程と
を具備するロジンアルコキシレートの製造方法。
【化1】
(R は、水酸基、炭素数1~30のアルキルアルコールから活性水素を除いた残基、炭素数2~30のアルケニルアルコールから活性水素を除いた残基、炭素数6~30のフェノール類から活性水素を除いた残基、及び炭素数3~30の多価アルコールから活性水素を除いた残基、窒素原子、炭素数1~22のアルキル基を有するアミンから活性水素を除いた残基のいずれか一つを示し、AOは炭素数2~18のオキシアルキレン基であり、全体の50mol%以上がエチレンオキシドであることを示すものであり、mは0~20の整数を示し、nは1~6の整数を示し、m×nが0~20を示し、R が、窒素原子または炭素数1~22のアルキル基を有するアミンから活性水素を除いた残基の場合、mが0、m×nが0を除く。)
【請求項2】
前記化1において、R は炭素数6~20のアルキルアルコールから活性水素を除いた残基、炭素数6~20のアルケニルアルコールから活性水素を除いた残基、炭素数6~30のフェノール類から活性水素を除いた残基、及び炭素数6~20のアルキル基を有するアミンから活性水素を除いた残基のいずれか一つまたは二つ以上である請求項1に記載のロジンアルコキシレートの製造方法
【請求項3】
前記エーテル化反応工程は、エーテル化触媒存在下で行われる請求項1または2に記載のロジンアルコキシレートの製造方法。
【請求項4】
前記エーテル化触媒が、アルカリ触媒である請求項3に記載のロジンアルコキシレートの製造方法。
【請求項5】
前記化1において、前記AOはエチレンオキシド及びプロピレンオキシドのみによって構成され、前記エチレンオキシドが90mol%以上である請求項1~4のいずれか一つの項記載のロジンアルコキシレートの製造方法。
【請求項6】
前記エーテル化触媒は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムターシャリブトキシドから選ばれる一つまたは二つ以上である請求項3~のいずれか一つの項記載のロジンアルコキシレートの製造方法。
【請求項7】
前記混合物(A)として使用されるロジンは、
ガムロジンである請求項~6のいずれか一つの項記載のロジンアルコキシレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジンアルコキシレートの製造方法に関する。更に詳しくは、ロジンにエチレンオキシド等のアルキレンオキシド(以下、「AO」と称す。)を付加し、ロジンのAO付加物であるロジンアルコキシレートを製造するためのロジンアルコキシレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マツ科の植物の樹液から得られる松脂等を原料として精製されるロジンに、エチレンオキシド(以下、「EO」と称す。)やプロピレンオキシド(以下、「PO」と称す。)等のアルキレンオキシド(以下、「AO」と称す。)を付加したロジンのAO付加物である「ロジンアルコキシレート」は乳化剤、分散剤、及び金属油剤等の種々の用途に使用されている。
【0003】
ロジンアルコキシレートは、一般的にロジンにAOを付加する方法と、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのAO重合物とロジンをエステル化する方法の二つが主に知られている。前者の場合、出発原料としてのロジンに水酸化カリウム(KOH)等の塩基触媒存在下で、AOを添加し、オートクレーブで170℃~180℃の加熱温度で反応させることにより、ロジンがエーテル化され、ロジンのAO付加物が生成することが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)
【0004】
ロジン(Rosin)は、松脂等を原料として製造されるものであり、例えば、マツから紙の原料となるクラフトパルプを製造する過程で副生成物として生成される「トールロジン」、松脂を水蒸気で処理し、その後テレビン油を除去して精製することで得られた「ガムロジン」、及び、マツの根を細かく粉砕し、溶剤で抽出し、抽出物から水蒸気でテレビン油を取り除いた精製した「ウッドロジン」等が主に知られている。これらは、室温でガラス性状を呈する固体(固形物)であり、一般に75℃~80℃前後で軟化し、約100℃以上で液体となる性状を示すものである。また、ロジンは、一般的にアルコール、エーテル、ベンゼン、及びクロロホルム等の溶媒に可溶であり、一方、水には基本的に不溶な性質を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平01-219051号公報
【文献】特開平01-219052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、ロジンにAOを付加し、ロジンアルコキシレートを合成するエーテル化反応を行う場合、ロジンに添加されるAO付加モル数が少ないと、生成されたロジンアルコキシレートの水溶性が低くなることが経験的に知られている。そのため、生成されたロジンアルコキシレートがエーテル化反応を行った反応容器内に付着し、反応後の洗浄が容易にできないことがあった。
【0007】
一方、出発原料となるロジンは、前述のように、軟化点が80℃と比較的低い。そのため、ロジンは、AOとエーテル化反応を行う反応容器に導入する前に、予め溶解用容器に導入し、十分に溶解を行った後、反応容器に搬送されることがあった。搬送時に、反応容器及び溶解用容器の間を接続する搬送用配管の間で温度が軟化点以下まで下がり、搬送用配管の内部でロジンが固化して閉塞したり、或いは溶解用容器の内部で固化したりすることがあった。
【0008】
このように、ロジンエトキシレート等のロジンアルコキシレートの製造方法において、生成されたロジンアルコキシレートの洗浄性の問題、及びロジンの固化にかかる問題が生じることがあった。
【0009】
そこで、本発明は上記実情に鑑み、ロジンのエーテル化反応によってロジンアルコキシレートの製造を行う場合において、反応後の反応容器の水による洗浄性を良好にするとともに、溶解したロジンを搬送する際に搬送用配管等でロジンの固化を防止することの可能なロジンアルコキシレートの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ロジンアルコキシレートのエーテル化反応による製造において、ロジンとともにエーテル化可能な化合物を混合することにより、水による洗浄性が良好で、加えて搬送時のロジンの固化を防ぐことの可能なロジンアルコキシレートの製造方法を見出した。
【0011】
すなわち、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法は、ロジンで構成される合物(A)、前記ロジンとともにエーテル化可能な化合物であって、分子中に活性水素を有し、40℃で液体の性状を呈し、下記の化1で示される化合物で構成される化合物(B)をそれぞれ所定の配合比率で溶解用容器に導入する溶解用容器導入工程と、前記溶解用容器の内部を予め規定された温度及び圧力の溶解条件に調整する溶解条件調整工程と、前記溶解条件に調整された前記溶解用容器で、前記混合物(A)及び前記化合物(B)を溶解させ、溶解混合物を生成する溶解工程と、生成された前記溶解混合物を反応容器に導入する化合物導入工程と、前記反応容器の内部を予め規定された温度及び圧力の反応初期条件に調整する反応初期条件調整工程と、前記反応初期条件に調整された前記反応容器を用い、前記溶解混合物にアルキレンオキシドで構成される化合物(C)を加え、規定の温度及び圧力のエーテル化反応条件でエーテル化反応させ、ロジンアルコキシレートを生成するエーテル化反応工程とを具備するものである。
【0012】
ここで、合物(A)として使用されるロジンは、特に限定されるものではないが、例えば、マツ類から生成される天然ロジン、異性化ロジン、二量化ロジン、重合ロジン、不均化ロジン等のアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、デヒドロアビエチン酸、レポピマール酸等を主成分とするロジンなどを使用することができる。なお、天然ロジンの中には、上記した通り、「トールロジン」、「ガムロジン」、及び「ウッドロジン」等が知られているが、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法においては、特に「ガムロジン」の使用が好適である。
【0013】
一方、化合物(B)は、上記ロジンとともにエーテル化反応することが可能なものであり、化合物中に活性水素を有し、40℃で液体の性状を呈するものである。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の炭素数1~14の直鎖アルコールや炭素数3~22の分岐構造を有するアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール類、フェノール、炭素数1~24のアルキル基を有するアルキルフェノール、(モノ、ジ、トリ)スチレン化フェノール等のフェノール類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭素数1~22のアルキル基を有するモノアルキルアミン、ジアルキルアミン等のアミン類、また、これらの化合物のAO付加物が挙げられる。
【0014】
一方、化合物(C)は、アルキレンオキシドであり、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、スチレンオキシド、テトラヒドロフラン及び1,2-エポキシシクロヘキサン等が挙げられる。中でも、エチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましい。
【0015】
これらの合物(A)、化合物(B)がそれぞれ所定の配合比率で反応容器の中に導入され(化合物導入工程)、反応容器内の予め規定された温度及び圧力にかかる反応初期条件に調整し(反応初期条件調整工程)、かかる状態で化合物(C)を加え、規定の温度及び圧力のエーテル化反応条件でエーテル化反応が行われる(エーテル化反応工程)。化合物(C)が反応することで大きく発熱することから、合物(A)及び化合物(B)と混合した系に対して、エーテル化反応工程にて化合物(C)を、エーテル化反応条件を維持したまま、徐々に加えることが好ましい。なお、エーテル化反応工程において触媒を混合するものであってもよい。
【0016】
合物(A)であるロジンに、アルキレンオキシドからなる化合物(C)が付加されたロジンのAO付加物であるロジンアルコキシレートが生成される。更に、ロジンアルコキシレートとともに、化合物(B)がエーテル化された、化合物(B)のエーテル化物(以下、単に「エーテル化物」と称す。)が生成される。
【0017】
上記に示した通り、反応容器内にロジンとともに化合物(B)が導入されることで、エーテル化物が生成される。その結果、ロジンアルコキシレートが反応容器の内部等に付着することを防ぎ、かつ水溶性を高めることで水等による洗浄が可能となる。これにより、反応容器の洗浄等の作業を簡便化することができ、製造効率の向上及び作業時間の短縮を図ることができる。
【0018】
更に、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法において、化合物(B)は、下記の化1に示される化合物で構成され
【0019】
【化1】
【0020】
ここで上記化1において、Rは、水酸基、炭素数1~30のアルキルアルコールから活性水素を除いた残基、炭素数2~30のアルケニルアルコールから活性水素を除いた残基、炭素数6~30のフェノール類から活性水素を除いた残基、及び炭素数3~30の多価アルコールから活性水素を除いた残基、窒素原子、炭素数1~22のアルキル基を有するアミンから活性水素を除いた残基のいずれか一つを示し、AOは炭素数2~18のオキシアルキレン基であり、全体の50mol%以上がエチレンオキシドであることを示すものであり、mは0~20の整数を示し、nは1~6の整数を示し、m×nが0~20を示し、R が、窒素原子または炭素数1~22のアルキル基を有するアミンから活性水素を除いた残基の場合、mが0、m×nが0を除くものである。
【0021】
ここで、上記化1において、好ましくは、Rは炭素数6~20のアルキルアルコールから活性水素を除いた残基、炭素数6~20のアルケニルアルコールから活性水素を除いた残基、炭素数6~30のフェノール類から活性水素を除いた残基、炭素数6~20のアルキルアミンから活性水素を除いた残基のいずれか一つを更に示す。
【0022】
上記化1において、AOは更にエチレンオキシド及びプロピレンオキシドのみによって構成され、エチレンオキシドが90mol%以上であることを示すものがより好ましい。
【0023】
更に、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法において、反応初期条件調整工程で調整される条件は、温度は限定されるものではなく、圧力は任意の条件で行うことができる。中でも、ロジンを流動性のある状態で反応させるために、温度は80~200℃、圧力は、ゲージ圧にて0.0~10MPaとするのが好ましい。この範囲を外れると、反応速度が不十分であったり、反応が暴走したりするおそれが生じる。温度は好ましくは100~180℃である。圧力は、ゲージ圧で0.0~1.0MPaが好ましく、0.1~0.9MPaがより好ましい。
【0024】
更に、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法において、エーテル化反応工程で調整されるエーテル化反応条件は、温度は限定されるものではなく、圧力は任意の条件で行うことができる。反応初期条件調整工程と同一の条件でもよいし、別の条件でもよい。中でも、ロジンを流動性のある状態で反応させるために、温度は80~200℃、圧力は、ゲージ圧にて0.0~10MPaとするのが好ましい。この範囲を外れると、反応速度が不十分であったり、反応が暴走したりするおそれが生じる。温度は好ましくは100~180℃である。圧力は、ゲージ圧で0.0~1.0MPaが好ましく、0.1~0.9MPaがより好ましい。エーテル化反応は発熱反応であるため、反応初期条件での温度や圧力と比較し、エーテル化反応条件での温度や圧力は同一もしくは、それ以上であることが好ましい。
【0025】
更に、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法において、合物(A)及び化合物(B)を溶解用容器に導入する溶解用容器導入工程と、溶解用容器の内部を予め規定された温度及び圧力の溶解条件に調整する溶解条件調整工程と、溶解条件に調整された溶解用容器で、合物(A)及び化合物(B)を溶解させ、溶解混合物を生成する溶解工程とを更に具備し、化合物導入工程は、生成された溶解混合物を合物(A)及び化合物(B)の混合物として反応容器に導入する。なお、溶解用容器導入工程、溶解工程、および化合物導入工程のいずれかにおいて触媒を混合するものであってもよい。
【0026】
更に、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法において、溶解条件調整工程で調整される溶解条件は、溶解温度が80~200℃であり、溶解圧力がゲージ圧で-0.01~1.0MPaであってもよい。ゲージ圧がマイナスの意味は、減圧にて行うとの意味である。真空ポンプ等により減圧にし、溶解条件調整工程で脱水操作を行うことがより好ましい。
【0027】
更に、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法において、エーテル化反応工程は反応容器に触媒を添加し、触媒存在下でエーテル化を行っても良い。触媒には、酸触媒、塩基触媒(アルカリ触媒)、配位金属触媒等の公知のものを用いることができる。酸触媒としては、硫酸、リン酸などのブレンステッド酸の他、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、有機アルミニウムなどのルイス酸が挙げられる。塩基触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水素化ナトリウムなどのアルカリ金属水素化物、ナトリウムメトキシド、カリウムターシャリブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド、金属ナトリウムなどのアルカリ金属等が挙げられる。配位金属触媒としては、複合金属シアン化物錯体(DMC)等が挙げられる。好ましくは、アルカリ触媒であり、より好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムターシャリブトキシドから選ばれる一つまたは二つ以上である。
【0028】
更に、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法において、上記のエーテル化触媒は、溶解用容器に添加され、溶解混合物とともに反応容器に搬送されてもよい。すなわち、水酸化カリウム等のエーテル化触媒は、予め溶解用容器に導入され、合物(A)及び化合物(B)の溶解混合物とともに反応容器内に搬送されてもよい。触媒を用いたほうが、反応速度が早くなるといった点からも触媒を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のロジンアルコキシレートの製造方法によれば、ロジンのエーテル化によってロジンエトキシレート等のロジンアルコキシレートを製造する際において、エーテル化反応の反応後の反応容器の内部や配管等にロジンアルコキシレートが付着することを防ぎ、かつ水によって容易に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明のロジンアルコキシレートの製造方法の流れ、及び、製造装置の概略構成を示す説明図である。
図2】本発明のロジンアルコキシレートの製造方法の別例構成の流れ、及び製造装置の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、下記に掲げる実施形態及び実施例等を示すが、本発明はこれらの実施形態及び実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施形態、実施例及び比較例において、特に断りのない限り、“部”は質量部”、“%”は質量%を意味するものとする。
【0032】
1.ロジンアルコキシレートの製造方法
本発明の一実施形態のロジンアルコキシレートの製造方法1(以下、単に「製造方法1」と称す。)は、図1に示すように、合物(A)、化合物(B)を出発原料2とするものであり、予め規定された配合比率に基づいて、反応容器3の化合物導入口4から当該出発原料2を導入する化合物導入工程S1と、反応容器3の容器内部を規定の温度及び圧力の反応初期条件RSCに調整する反応初期条件調整工程S2と、調整された反応初期条件RSCで化合物(C)を加え、合物(A)及び化合物(B)をエーテル化反応条件ERCにてエーテル化するエーテル化反応工程S3と主に具備して構成されている。
【0033】
ここで、図1は本実施形態の製造方法1の流れを示すとともに、当該製造方法1に使用され、ロジンアルコキシレートRAを製造するために製造装置PD1の概略構成を示す説明図である。
【0034】
本実施形態の製造方法1では、化合物導入工程S1において、上記合物(A)等の出発原料2の導入とともに、水酸化カリウム等の触媒5(本発明におけるエーテル化触媒に相当)が反応容器3に添加されている。これにより、合物(A)等のエーテル化反応が促進される。
【0035】
更に、反応初期条件調整工程S2において調整される反応初期条件RSCとして、例えば、温度を120℃、ゲージ圧を0.01MPaに設定することができる。また、かかる反応初期条件RSCに加え、反応容器3の容器内部は、窒素ガスによる置換が行われ、窒素ガス(N)雰囲気下で反応が行われるように調整されている。これらの反応初期条件RSCは、あくまでも一例を示したものに過ぎず、本発明の製造方法1における反応初期条件RSCはこれに限定されるものではない。
【0036】
反応初期条件RSCとした後に、化合物(C)を導入しエーテル化反応工程S3をエーテル化反応条件ERCにて実施する。エーテル化反応条件ERCは例えば、温度を155±10℃、ゲージ圧を0.4MPaに設定することができる。これらのエーテル化反応条件ERCは、あくまでも一例を示したものに過ぎず、本発明の製造方法1におけるエーテル化反応条件ERCはこれに限定されるものではない。
【0037】
ここで、反応容器3の容器内部を加熱したり、圧力を調整したりするための加熱装置や加熱方法あるいは圧力調整機構や圧力調整方法、更には窒素ガス雰囲気下に置換する置換機構等は従来から周知の技術及び装置等を用いることが可能であり、ここでは詳細な説明は省略する。
【0038】
本実施形態の製造方法1は、エーテル化反応工程S3をエーテル化反応条件ERCにて実施した後に、熟成工程等を適宜行い、反応容器3の温度を90℃まで冷却し、生成された反応生成物(ロジンアルコキシレートRA及び化合物(B)のエーテル化物SB)を反応容器3の外に取り出す冷却取出工程S4を更に具備している。ここで、冷却取出工程S4は、反応容器3の下部と連通した取出用配管6を介して行われる。すなわち、反応容器3の容器内部から取出用配管6の中を通過してロジンアルコキシレートRA等が取り出される。
【0039】
更に、本実施形態の製造方法1は、上記の通りロジンアルコキシレートRA等が反応容器3から取り出された後に、反応容器3の容器内部及び取出用配管6の配管内部に付着或いは残存したロジンアルコキシレートRA及びエーテル化物SBを水によって除去し洗浄する水洗浄工程S5を備えていてもよい。
【0040】
なお、かかる水洗浄工程S5によるロジンアルコキシレートRAの洗浄性を評価するために、図1に示すように、反応容器3の内部の特定の地点、及び取出用配管6の配管内部の特定の地点に、洗浄後のロジンアルコキシレートRAの付着の有無や付着状態を目視等でチェックするために、評価位置P3及び評価位置P4がそれぞれ設定されている。閉塞性評価及び洗浄性評価の詳細については後述する。
【0041】
上記説明した通り、本実施形態の製造方法1によれば、合物(A)(ロジン)とともに、エーテル化可能な化合物(B)を反応容器3の中に導入し、更にAO等の化合物(C)及び水酸化カリウム等の触媒5を添加し、所定の反応初期条件RSCに調整し、エーテル化反応条件ERCにてエーテル化反応を実施することで、ロジンアルコキシレートRAを製造することができる。このとき、ロジンとともに化合物(B)が加えられていることで、従来のように、ロジンに添加されたAO付加モル数が少ない場合に生じる、水溶性の低下を抑えることができる。これにより、エーテル化反応後の反応容器3の内部を水等によって容易に洗浄することができる。
【0042】
2.別例構成のロジンアルコキシレートの製造方法
一方、本発明の別例構成のロジンアルコキシレートの製造方法1a(以下、単に「製造方法1a」と称する。)は、図2に示すように、合物(A)及び化合物(B)の第一出発原料2aとするものであり、予め規定された配合比率に基づいて、溶解用容器7の溶解用導入口8から当該第一出発原料2aを導入する溶解用容器導入工程T1と、溶解用容器7の容器内部を規定の溶解温度及び溶解圧力にかかる溶解条件SCに調整する溶解条件調整工程T2と、調整された溶解条件SCで合物(A)及び化合物(B)を溶解し、溶解混合物9を生成する溶解工程T3とを更に具備して構成されている。
【0043】
ここで、図2は本発明の別例構成の製造方法1aの流れを示すとともに、当該製造方法1aに使用され、ロジンアルコキシレートRAを製造するための製造装置PD2の概略構成を示す説明図である。なお、上記の製造方法1と同一構成のものについては同一符号を付し、詳細な説明は省略するものとする。
【0044】
そして、溶解物(A)及び溶解物(B)が溶解し混合して生成された溶解混合物9を、既に説明した製造方法1における化合物導入工程S1において反応容器3に導入する。なお、化合物導入工程S1以降は、既に説明した製造方法1a及び製造装置PD1と略同一である。以降についての詳細な説明は省略する。
【0045】
更に、溶解条件調整工程T2において調整される溶解条件として、例えば、溶解温度を80~200℃、溶解圧力をゲージ圧にて、-0.01~1.0MPaに設定することができる。第一出発原料2a等を溶解するための溶解条件SCに加え、溶解用容器7の容器内部は大気雰囲気下で溶解が行われるように調整され、溶解時間は1時間に設定されている。本発明は、これらの溶解条件SCに限定されるものではなく、本発明の製造方法1aにおける溶解条件SCはこれに限定されるものではない。また、溶解用容器7の容器内部を加熱したり、溶解圧力を調整するための加熱装置や加熱方法或いは圧力調整機構や圧力調整方法等については従来から周知の技術及び装置等を用いることが可能である。
【0046】
生成された溶解混合物9を溶解用容器7から反応容器3まで搬送するために、溶解用容器7及び反応容器3の間を連通する搬送用配管10が製造装置PD2に設けられている。更に、別例構成の製造方法1aによれば、最終的に反応容器3から取出用配管6を介してロジンアルコキシレートRA等が取り出された後で行われる水洗浄工程S5は、反応容器3の容器内部及び取出用配管6の配管内部に加え、溶解用容器7の容器内部及び搬送用配管10の配管内部を水による洗浄が行われる。
【0047】
更に、図2に示すように、ロジンアルコキシレートRAの洗浄性の評価のために、溶解用容器7の内部の特定の地点、及び搬送用配管10の配管内部の特定の地点に、洗浄後のロジンアルコキシレートRAの付着の有無や付着状態を目視等でチェックするために、評価位置P1及び評価位置P2がそれぞれ設定されている。閉塞性評価及び洗浄性評価の詳細については後述する。
【0048】
なお、製造方法1aにおいて、エーテル化反応を促進するために添加される水酸化カリウム等の触媒5は、溶解用容器7に第一出発原料2aとともに添加され、溶解混合物9とともに反応容器3まで搬送されるものであっても、或いは、第二出発原料(化合物(C))とともに反応容器3に直接添加されるものであってもよい。
【実施例
【0049】
1.合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び触媒について
下記表1に示す通り、出発原料として使用する合物(A)、化合物(B)、及び化合物(C)をそれぞれ組み合わせ、実施例1~5、参考例1~6及び比較例1,2のそれぞれについて、ロジンアルコキシレートの製造(合成)を行った。ここで、実施例1~5、参考例1~2、4~6及び比較例1,2において、合物(A)のロジンとして中華人民共和国(以下、中国)産の「ガムロジンXグレード」を用いており、参考はロジンとして「アビエチン酸」を用いている。なお、上述した通り、ガムロジンX等のロジンは、室温において固体の性状を呈し、軟化点が約75℃~80℃前後であり、融点が100℃程度のものである。
【0050】
【表1】
【0051】
一方、化合物(B)は、表1に示す通り、本発明のロジンアルコキシレートの製造方法において規定された化合物が実施例1~5、参考例1~6において使用されており、比較例1,2は化合物(B)に相当する化合物を使用しないものである。なお、実施例1等において使用される化合物(B)は、いずれも融点が40℃以下のものであり、室温において液体の性状を呈するものである。更に、合物(A)及び化合物(B)の質量比は、表1に示されるように、合物(A)/化合物(B)=80/20~96/4の間でそれぞれ変化をさせている。
【0052】
また、エーテル化反応を促進するために使用される触媒として、実施例1~4,参考例1、比較例1、2については、水酸化カリウム(KOH)が用いられ、実施例5、参考例5については水酸化ナトリウム(NaOH)が用いられ、参考についてはナトリウムメトキシド(CHONa)、参考においてはカリウムターシャリブトキシド(tBuOK)が用いられている。合物(A)、と化合物(B)、化合物(C)及び触媒を合計して1000kgとなるように仕込み量の調整を行った。
【0053】
2.製造装置及び製造方法について
実施例1~5、参考例1~6及び比較例1,2において二つの製造装置を用いてロジンアルコキシレートの製造を行った(図1及び図2参照)。すなわち、溶解用容器と反応容器とを備え、溶解用容器及び反応容器の間を搬送用配管で接続した製造装置PD2(図2参照)と、反応容器のみを用いた製造装置PD1(図1参照)とを用いた。上記表1において、製造装置の項におけるPD1及びPD2はそれぞれ上記の図1及び図2に示した製造装置を使用したことを示している。
【0054】
2.1 製造装置PD2によるロジンアルコキシレートの製造方法
実施例1~5及び比較例1は、溶解用容器及び反応容器を備える製造装置PD2を用いてロジンアルコキシレートの製造を行った。かかる場合、合物(A)及び化合物(B)と48%水酸化カリウム水溶液を合物(A)及び化合物(B)の合計質量の1%となるように溶解用容器に導入し、溶解温度を120℃及び溶解圧力をゲージ圧-0.05MPaにセットした溶解条件で1時間の溶解・脱水を行った。これにより、軟化点以上に加熱された合物(A)(=ガムロジンX等)及び室温で液体の化合物(B)が互いに溶解し、脱水混合された状態となる。その結果、溶解混合物が生成される。
【0055】
次に、生成された溶解混合物を搬送用配管(外径1.5インチのステンレス製配管、長さ3m)を介して反応容器(公称容積1000Lのステンレス製耐圧容器)に搬送する。そして、反応容器の容器内部を窒素置換した後、温度120℃、ゲージ圧力0.01MPaの反応初期条件とし、化合物(C)を徐々に加え、温度155±10℃、ゲージ圧0.4MPaのエーテル化反応条件を維持したまま圧入した。圧入完了後、同一温度及び同一圧力にて1時間熟成を実施する。エーテル化反応の完了後、反応容器の温度を90℃以下まで冷却した後、反応容器から生成されたロジンアルコキシレート等を取り出した。
【0056】
2.2 製造装置PD1によるロジンアルコキシレートの製造方法
参考1~5及び比較例2は、反応容器(公称容積1000Lのステンレス製耐圧容器)のみからなる製造装置PD1を用いてロジンアルコキシレートの製造を行った。かかる場合、合物(A)、化合物(B)、及び触媒を反応容器に導入し、120℃でゲージ圧-0.05MPaにて1時間脱水反応を行った。反応容器の容器内部を窒素置換した後、温度120℃、ゲージ圧0.01MPaの反応初期条件とし、化合物(C)を徐々に加え温度155±10℃、ゲージ圧0.4MPaのエーテル化反応条件を維持したまま圧入した。圧入完了後、同一温度及び同一圧力にて1時間熟成を行い、反応の完了後、反応容器の温度を90℃以下まで冷却した後、反応容器から生成されたロジンアルコキシレート等を取り出した。
【0057】
3.閉塞性評価及び洗浄性評価について
実施例1~5、参考例1~6及び比較例1,2について、それぞれ上記の製造方法によりロジンアルコキシレートの製造を行った後、反応終了後の製造装置PD1,PD2の溶解用容器、搬送用配管、反応容器、及び取出用配管におけるそれぞれの評価位置P1,P2,P3,P4(図1及び図2参照)の閉塞性(P2,P4のみ)及び洗浄性(P1,P2,P3,P4)について評価を行った。
【0058】
ここで、閉塞性評価の評価基準は、
A: 特別な操作を行うことなく搬送可能
B: 低圧蒸気で配管を熱する操作を行うことで搬送可能
C: 低圧蒸気で配管を熱する操作及び振動を加えても搬送不可
である。
【0059】
一方、洗浄性評価の評価基準は、
A: 水洗のみにより付着物の洗浄が可能
B: 1%苛性カリ水溶液により付着物の洗浄が可能
C: メタノールにより付着物の洗浄が可能
である。
【0060】
実施例1~5、参考例1~6及び比較例1,2のそれぞれの閉塞性評価及び洗浄性評価の結果を上記表1に示す。製造装置PD2を用いてロジンアルコキシレートを製造した場合(実施例1~5)において、閉塞性評価はいずれも “A”であり、洗浄性評価は、実施例1~4は“A”であり、実施例5は“B”であった。すなわち、いずれも実用上の問題のない程度の閉塞性及び洗浄性を示すことが確認された。
【0061】
実施例5の場合、化合物(B)としてメチルジグリコールを用いており、メチル基の疎水性が弱いため、いずれの評価位置P1,P2,P3,P4においても水洗のみでは付着物の洗浄ができず、1%苛性カリ水溶液を使用する必要があるため、評価基準は“B”となっている。なお、同様に製造装置PD2を用いてロジンアルコキシレートを製造した比較例1の場合、化合物(B)が用いられていないため、評価位置P1,P2において閉塞性評価が“C”となった。この場合、低圧蒸気で配管を熱したり、付着物に叩く等の振動を加えても溶解用容器7から反応容器3への搬送ができなかった。そのため、評価位置P3,P4における洗浄性評価は評価不能として“-”で表している。
【0062】
一方、製造装置PD1を用いてロジンアルコキシレートを製造した場合(参考1~5)において、参考については洗浄性評価は“A”であり、一方、参考については洗浄性評価は“B”であった。すなわち、いずれも実用上の問題のない程度の洗浄性を示すことが確認された。また、参考に示すように、合物(A)としてアビエチン酸が使用可能であることが示され、更に、化合物(B)として洗浄性は若干劣るものの、メチルジグリコール、N-メチルジエタノールアミン、及びテトラエチレングリコールの使用可能性が確認された。なお、同様に製造装置PD2を用いてロジンアルコキシレートを製造した比較例2の場合、化合物(B)が用いられていないため、評価位置P3,P4において洗浄性評価が“C”となった。
【符号の説明】
【0063】
1,1a:ロジンアルコキシレートの製造方法(製造方法)、2:出発原料、2a:第一出発原料、2b:第二出発原料、3:反応容器、4:化合物導入口、5:触媒(エーテル化触媒)、6:取出用配管、7:溶解用容器、8:溶解用導入口、9:溶解混合物、10:搬送用配管、ERC:エーテル化反応条件、P1,P2,P3,P4:評価位置、PD1,PD2:製造装置、RA:ロジンアルコキシレート、RSC:反応初期条件、S1:化合物導入工程、S2:反応初期条件調整工程、S3:エーテル化反応工程、S4:冷却取出工程、S5:水洗浄工程、SB:エーテル化物、SC:溶解条件、T1:溶解用容器導入工程、T2:溶解条件調整工程、T3:溶解工程。
図1
図2