(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】イムノクロマト用試験片
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
G01N33/543 521
(21)【出願番号】P 2020553384
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041281
(87)【国際公開番号】W WO2020085289
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018198883
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 旭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佳菜子
(72)【発明者】
【氏名】河野 景吾
(72)【発明者】
【氏名】酒井 駿
(72)【発明者】
【氏名】森田 元喜
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025426(JP,A)
【文献】特開2015-230221(JP,A)
【文献】特開2017-129533(JP,A)
【文献】特開2015-001395(JP,A)
【文献】PAEK, S., et al.,Development of Rapid One-Step Immunochromatographic Assay,Methods,2000年,Vol.22, Issue 1,pp.53-60
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともサンプル供給部、展開部及び抗体が固定化された検出部とを有するイムノクロマト試験片であって、
前記検出部は、還元性を有する単糖類及び還元性を有する2糖類からなる群から選ばれる1以上の糖と共に抗体を含むことを特徴とする前記試験片。
【請求項2】
前記サンプル供給部を担うサンプルパッド、及び
金コロイドで標識された抗検出対象抗体を含むコンジュゲートパッド、
を含む請求項1に記載のイムノクロマト試験片。
【請求項3】
サンプル供給部に供給される検体が血漿または全血である請求項1又は2に記載のイムノクロマト試験片。
【請求項4】
還元性を有する単糖類がグルコース又はフルクトースであり、還元性を有する2糖類が、マルトースである請求項1~3のいずれかに記載のイムノクロマト試験片。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のイムノクロマト試験片を含むイムノクロマト検出キット 。
【請求項6】
以下の試験片を用いることを特徴とするイムノクロマト検出方法;
少なくともサンプル供給部、展開部及び抗体が固定化された検出部とを有するイムノクロマト試験片であって、
前記検出部は、還元性を有する単糖類及び還元性を有する2糖類からなる群から選ばれる1以上の糖と共に抗体を含む前記試験片。
【請求項7】
前記試験片が、前記サンプル供給部を担うサンプルパッド、及び
金コロイドで標識された抗検出対象抗体を含むコンジュゲートパッド、
を含む請求項6に記載のイムノクロマト検出方法。
【請求項8】
サンプル供給部に供給される検体が血漿または全血である請求項6又は7に記載のイムノクロマト検出方法。
【請求項9】
還元性を有する単糖類がグルコース又はフルクトースであり、還元性を有する2糖類が、マルトースである請求項6~8のいずれかに記載のイムノクロマト検出方法。
【請求項10】
イムノクロマト検出用試験片
における抗体固相化メンブレンの製造方法であって、少なくとも以下の工程を含む
前記製造方法 。
(a)抗検出対象抗体、還元性を有する単糖類及び還元性を有する2糖類からなる群から選ばれる1以上の糖、及び緩衝液を含有し、pHが7.0~8.0である抗体塗布液を多孔性メンブレンに塗布する工程
(b)抗体塗布液を乾燥する工程
【請求項11】
還元性を有する単糖類がグルコース又はフルクトースであり、還元性を有する2糖類が、マルトースである請求項10に記載のイムノクロマト検出用試験片の製造方法。
【請求項12】
抗体塗布液の糖の濃度が2.5~5%である請求項10又は11に記載のイムノクロマト試験片の製造方法。
【請求項13】
以下の試験片を用いることを特徴とするイムノクロマト検出方法におけるブランク発色低減方法。
試験片;
少なくともサンプル供給部、展開部及び抗体が固定化された検出部とを有するイムノクロマト試験片であって、
前記検出部は、還元性を有する単糖類及び還元性を有する2糖類からなる群から選ばれる1以上の糖と共に抗体を含む前記試験片
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイムノクロマト用試験片および当該試験片を利用したイムノクロマト検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者のそばで処置するというPOCT(ポイントオブケア)の普及に伴い、抗原抗体反応を利用した簡易な免疫測定として、ニトロセルロースメンブレン等の試験片を用いたラテラルフロー式のイムノクロマト検出法が広く普及している。
イムノクロマト検出用の試験片(以下、単にイムノクロマト試験片ということがある)は、一般に、サンプル供給部、展開部、検出部とを備えた多孔性体からなるメンブレンであって、検出対象物に対する標識抗体が、検体(サンプル)との接触後に展開部を通過して検出部に到達できるよう、展開部に溶出可能に保持され、さらに検出用の抗体が展開部の一部に固定化され検出部を構成している。ここで、検体がサンプル供給部に滴下されると、検体中に検出対象物が含まれていた場合、検出対象物が標識抗体と特異的に結合して複合体を形成する。該複合体は、展開部を下流方向に向かって展開し、検出部で固定化抗体に結合する。このように、検出部において、標識抗体、検出対象物及び固定化抗体によるサンドイッチ型複合体が形成されることから、標識物に由来する信号を検出することで、検出対象物を定性または定量分析することが可能である。
【0003】
ところで、従来からイムノクロマト検出法において、イムノクロマト試験片のバックグラウンドの着色や、ブランク発色が問題となっていた。バックグランドの着色とは、メンブレンのうち、検出部以外の部位が着色することで、標識抗体とメンブレンとの疎水的な結合が原因であると考えられている。ブランク発色とは、検出物質が存在しないブランク測定の場合に、検出部が発色することをいい、非特異的な反応であることから非特異発色とも言われる。ブランク発色は目視判定の場合には、偽陽性の原因となり誤った判定結果を与え、また、光学機器による判定の場合には、検出感度、即ち特異的シグナルの検出能を悪化させる原因となるため、問題視されている。
【0004】
特許文献1には、ブランク発色の低減を課題として、標識物質の乾燥保持における安定化のため、標識物質を分子量2000~20000のメルカプト基を1以上有するポリアルキレングリコール等で保護し、次いでアルギニン及びカゼインと共に標識物質保持部に乾燥保持させたイムノクロマト装置が開示されている。また、標識物質溶液中に保護安定化物質、または溶解促進物質として、フルクトースを含むことが記載されている(0032段落)。
また、特許文献2には、標識物質を液状あるいは乾燥状態で保持する場合に、キット内に糖を同時に含むことが望ましいことが記載されている。糖を共存させる目的は定かではないが、特許文献1と同様にラテックス粒子などの標識物質の安定化のためと推測される。
このほかにも、ブランク発色抑制のためにタンパク質や界面活性剤を添加する方法が採られてきたが、ブランク発色が抑制されても、検出対象の検出感度も同時に低下してしまい、未だ十分な対策とはいえなかった。また、特許文献1のように標識物質に官能基などの修飾を行うと不純物の混入等の新たな問題も生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-195403号公報
【文献】特開2002-082117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上より、不純物の混入もなく、検出対象物に対する十分な検出感度を維持しつつ、ブランク発色を低減するという課題が依然としてあった。
本発明の課題は、上記先行技術とは別のアプローチによりイムノクロマト試験片におけるいわゆるブランク発色を抑制し、偽陽性を回避することで誤った判定を防止し、また、より高い検出感度を実現可能なイムノクロマト試験片を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するためにイムノクロマト試験片の様々な要素の変更を試みた。まず、上記先行技術にならい、コンジュゲートの改良を試みた。具体的には、コンジュゲート作製時のpHの調整、ブロッキング剤の種類、コンジュゲートパッドへのブロッキング剤の添加について各種の検討を試みた。このうち、一部にブランク発色が低減するものも見られたが、同時に検出対象の検出感度も低下してしまい、所望の性能のものは得られなかった。次に、不溶性メンブレンに抗体を固定化する際の条件の検討を行った。不溶性メンブレンのブロッキング剤による処理、固定化する抗体量及び抗体とともに存在させる糖類の種類と濃度の変更について検討を行ったところ、驚くべきことに、多孔性メンブレンを含むイムノクロマト試験片において、多孔性メンブレンに固定化する抗体を、還元性を有する特定の糖とともに存在させることによって、検出感度を維持しつつ、ブランク発色を大幅に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)少なくともサンプル供給部、展開部及び抗体が固定化された検出部とを有するイムノクロマト試験片であって、
前記検出部は、還元性を有する単糖類及び還元性を有する2糖類からなる群から選ばれる1以上の糖と共に抗体を含むことを特徴とする前記試験片。
(2)前記サンプル供給部を担うサンプルパッド、及び金コロイドで標識された抗検出対象抗体を含むコンジュゲートパッド、を含む(1)に記載のイムノクロマト試験片。
(3)サンプル供給部に供給される検体が血漿または全血である(1)又は(2)に記載のイムノクロマト試験片。
(4)還元性を有する単糖類がグルコース又はフルクトースであり、還元性を有する2糖類が、マルトースである(1)~(3)のいずれかに記載のイムノクロマト試験片。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のイムノクロマト試験片を含むイムノクロマト検出キット。
(6)以下の試験片を用いることを特徴とするイムノクロマト検出方法;
少なくともサンプル供給部、展開部及び抗体が固定化された検出部とを有するイムノクロマト試験片であって、前記検出部は、還元性を有する単糖類及び還元性を有する2糖類からなる群から選ばれる1以上の糖と共に抗体を含む前記試験片。
(7)前記試験片が、前記サンプル供給部を担うサンプルパッド、及び金コロイドで標識された抗検出対象抗体を含むコンジュゲートパッド、を含む(6)に記載のイムノクロマト検出方法。
(8)サンプル供給部に供給される検体が血漿または全血である(6)又は(7)に記載のイムノクロマト検出方法。
(9)還元性を有する単糖類がグルコース又はフルクトースであり、還元性を有する2糖類が、マルトースである(6)~(8)のいずれかに記載のイムノクロマト検出方法。
(10)イムノクロマト検出用試験片の製造方法であって、少なくとも以下の工程を含む製造方法。
(a)抗検出対象抗体、還元性を有する単糖類及び還元性を有する2糖類からなる群から選ばれる1以上の糖、及び緩衝液を含有し、pHが7.0~8.0である抗体塗布液を多孔性メンブレンに塗布する工程
(b)抗体塗布液を乾燥する工程
(11)還元性を有する単糖類がグルコース又はフルクトースであり、還元性を有する2糖類が、マルトースである(10)に記載のイムノクロマト検出用試験片の製造方法。
(12)抗体塗布液の糖の濃度が2.5~5%である(10)又は(11)に記載のイムノクロマト試験片の製造方法。
(13)以下の試験片を用いることを特徴とするイムノクロマト検出方法におけるブランク発色低減方法。
試験片;
少なくともサンプル供給部、展開部及び抗体が固定化された検出部とを有するイムノクロマト試験片であって、前記検出部は、還元性を有する単糖類及び還元性を有する2糖類からなる群から選ばれる1以上の糖と共に抗体を含む前記試験片
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、検出対象物質の検出感度を維持しつつ、ブランク反応による発色(ブランク発色)を低減することができる。したがって、目視判定の場合には、偽陽性が回避され、より正確な判定が可能となり、また、光学機器による判定の場合には、検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】抗体塗布液の糖類及び濃度を変更した各種のイムノクロマト試験片を用いて、ブランク反応と特異反応を行った場合のテストラインの吸光度を示すグラフである。
【
図2】
図1の試験結果のS/N比を示すグラフである。
【
図3】本発明のイムノクロマト試験片を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(イムノクロマト試験片)
本発明のイムノクロマト試験片は、少なくともサンプル供給部、展開部及び抗体が固定化された検出部とを有するイムノクロマト試験片であって、検出用の抗体が展開部の一部に特定の糖とともに固定化され検出部を構成している。検出対象物に対する標識抗体(コンジュゲートともいう)は、検体との接触後に展開部を通過して検出部に到達できるよう、後述する存在様式(A~C)で存在する。
これらを具現化する一例として、サンプル供給部を担うサンプルパッド、検出対象物に対する標識抗体が溶出可能に保持され、展開部の一部を担うコンジュゲートパッド、検出用抗体が一部に固定化され、展開部および検出部を担う多孔性のメンブレン、を含む試験片が挙げられる。すなわち、本発明の典型的なイムノクロマトグラフィー用試験片は以下の構成を有する。
(1)検体が供給されるサンプルパッド
(2)サンプルパッドの下流に配置され、金コロイド等の標識物質表面に第一の抗体が感作されたコンジュゲートが溶出可能に保持されたコンジュゲートパッド
(3)コンジュゲートパッドの下流に配置され、コンジュゲートと検出対象物との複合体と結合する第二の抗体が特定の糖とともに保持された検出部を有する多孔性のメンブレン
【0011】
ここで、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、多孔性のメンブレンはそれぞれが別々の担体を構成する場合、あるいは2つが1つの担体を構成する場合もあり、上流から下流に向かって、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、多孔性のメンブレンの順序で構成されるものであればいずれの態様も含まれる。
イムノクロマト試験片は、上記構成のほかに、吸収パッド、3rd Padのいずれか一以上をさらに配置装着されたものも含む。
該試験片は、通常、プラスチック製粘着シートのような固相支持体上(以下、バッキングシートということがある)に配列させる。
また、抗体が固定化された多孔性のメンブレンの機械的強度を上げ、かつアッセイ中の水分の蒸発(乾燥)を防ぐ目的でポリエステルフィルムなどを試験片にラミネート加工することもある。
【0012】
本発明のイムノクロマト試験片を用いた検出方法は、以下のように行われる。
検体がサンプル供給部に滴下されると、検体中に検出対象物が含まれていた場合、検出対象物が標識抗体と特異的に結合して複合体を形成する。該複合体は、展開部を下流方向に向かって展開し、検出部で固定化抗体に結合する。検出部では、標識抗体、検出対象物及び固定化抗体によるサンドイッチ型複合体が形成されるため、これを検出することで、検出対象物を定性または定量分析することが可能である。検出は、目視観察による呈色の判定のほか、標識体に由来する光学的パラメーターを光学的手段により検出する方法が挙げられる。光学的手段を使う場合は、手動のほか、自動化もでき、また連続測定もできる。
【0013】
(多孔性メンブレン)
本発明のイムノクロマト試験片に用いられる多孔性メンブレンは、その表面に検出用抗体が固定化されており、裏面には通常、メンブレンが多孔性であるため、不透水性のフィルムなどが裏打ちされて用いられる。
多孔性メンブレン(以下、単にメンブレンと記載することがある)としては、任意の材質のものが使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン類、ガラス、セルロースやセルロース誘導体などの多糖類あるいはセラミックス等などの多孔性のメンブレンが挙げられるがこれらに限定されない。具体的には、メルクミリポア社、東洋濾紙社、GEヘルスケア社などより販売されているガラス繊維ろ紙やニトロセルロースメンブレンなどをあげることができる。また、この多孔性メンブレンの孔径と構造を適宜選択することにより、金コロイド標識抗体と検出対象物との免疫複合体がメンブレン中を流れる速度を制御することが可能である。メンブレン中を流れる速度の制御により、メンブレンに固定化された上記抗体に結合する標識抗体量を調節することができるため、メンブレンの孔径と構造は、本発明のイムノクロマト試験片のほかの構成材料との組み合わせを考慮して最適化することが望ましい。
【0014】
(抗体の多孔性メンブレンへの固定化)
本発明の検出対象物に対する抗体の多孔性メンブレンへの固定化は、一般に周知の方法で実施することができる。例えば、フロースルー式の場合、上記の抗体を所定の濃度に調製し、その液を一定量、点あるいは+など特定のシンボル状に、多孔性メンブレンに塗布する。またこの際、イムノクロマト検出法の信頼性を担保するため、コンジュゲートと結合できるタンパク質あるいは化合物を、検出対象物に対する抗体とは異なる位置に固定化して「コントロール検出部」とすることが一般的である。また、コントロール用抗体を検出対象物に対する抗体とは異なる位置に固定化して「コントロール検出部」とすることもできる。
【0015】
ラテラルフロー式の場合には、上記の抗体を所定の濃度に調製しその液をノズルから一定の速度で吐出しながら水平方向に移動させることのできる機構を有する装置などを用いて、ライン状に多孔性メンブレンに塗布することにより行われる。この際、抗体の濃度は0.1~5mg/mLが好ましく、0.5~3mg/mLがさらに好適である。また、抗体の多孔性メンブレンへの固定化量は、フロースルー式の場合には多孔性メンブレンに滴下する塗付量を調節することによって最適化でき、ラテラルフロー式の場合には上記の装置のノズルからの吐出速度を調節することによって最適化できる。特に、ラテラルフロー式の場合、0.5~2μL/cmが好適である。なお、本発明において、「フロースルー式メンブレンアッセイ」という場合は、検体液等が多孔性メンブレンに対して垂直に通過するように展開する方式を指し、「ラテラルフロー式メンブレンアッセイ」という場合は、検体液等が多孔性メンブレンに対して並行方向に移動するように展開する方式を指す。
【0016】
また、本発明において、検出対象物に対する抗体の多孔性メンブレンへの塗付位置については、ラテラルフロー式の場合、コンジュゲートパッドから、コンジュゲートが毛細管現象によって展開し、それぞれの抗体が塗付されたラインを順に通過するように配置されれば良い。好ましくは検出対象物に対する抗体の塗付されたラインが上流にあり、コントロール抗体の塗付されたラインはその下流に位置するように配置するのが好ましい。この際、それぞれのライン間の距離は標識体のシグナル検出が可能であるように十分の距離をとることが望ましい。フロースルー式の場合にも、対象物に対する抗体の塗付位置は標識体のシグナル検出が可能であるように配置されていれば良い。
【0017】
(特定の糖類)
本発明において、多孔性メンブレンに固定化する抗体は、特定の糖類とが共存していることを特徴とする。特定の糖類としては、還元性を有する単糖類又は還元性を有する2糖類であり、還元性を有する単糖類としては、グルコース、フルクトース、ガラクトースが挙げられ、還元性を有する2糖類としては、マルトース、ラクトース、セロビオースが挙げられる。これらのうちでも、グルコース、マルトース、フルクトースが好ましく、フルクトースが最も好ましい。共存させる糖が還元性を有することにより抗体の酸化による変性が防止され、サンプル中の非特異物質のメンブレンへの非特異的な吸着すなわちブランク反応が防止されると考えられる。3糖類以上の還元糖では好ましくない理由は、溶解性が低くなり、取り扱いが難しいためであり、また、分子量あたりの還元性末端の割合が低くなることから抗体の酸化による前記変性を効果的に防止できないからである。
【0018】
本発明の多孔性メンブレンに固定化する糖類の保持量は、所望の検出対象物の種類や必要な感度に応じて適宜設定すればよく、例えばテストラインの長さあたりの保持量では下限としては0.01mg/cm以上が好ましく、0.02mg/cm以上がさらに好ましく、0.025mg/cm以上が最も好ましい。また、上限としては0.1mg/cm以下が好ましく、0.07mg/cm以下がさらに好ましく、0.05mg/cm以下が最も好ましい。
また、好ましい範囲としては、0.01mg/cm~0.1mg/cmが好ましく、0.02mg/cm~0.07mg/cmがさらに好ましく、0.025mg/cm~0.05mg/cmが最も好ましい。
【0019】
多孔性メンブレンにおいて抗体と糖を共存させる方法としては、多孔性メンブレンに抗体を固定化した後、糖を保持させる方法、逆に、あらかじめ多孔性メンブレンに糖を保持させておき、次に抗体を固定化する方法、あるいは、抗体液に糖を添加し、糖を含む抗体液を多孔性メンブレンに塗布して、乾燥保持させる方法など、いずれでもよい。
【0020】
本発明の特定の糖類と検出用抗体を共存させて検出部に保持することによりブランク反応が低減される理由については、定かではないが、検体の添加により溶出し移動してきたコンジュゲートが、多孔性メンブレン上の検出部において吸着することを防ぐ役割を果たしていることが考えられる。また、本発明の特定の糖類は、単糖類または2糖類であって溶解性に優れ、かつ還元性を有することから、コンジュゲートが展開して検出部に到達した場合に、速やかに糖が溶出し、かつ、抗体の酸化による変性が防止されることで、コンジュゲートが目詰まりすることなく速やかに流れ去ることが出来、ブランク発色が抑制されることも推測される。
以下、本発明の特定の糖を含む抗体液を多孔性メンブレンに塗布する方法について説明する。
【0021】
上記の多孔性メンブレンへ塗付する抗体液は、通常所定の緩衝液を用いて調製することができる。緩衝液の種類としては、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、グッド緩衝液など通常使用される緩衝液を挙げることができ、このうちでもリン酸緩衝液が望ましい。緩衝液のpHは、6.0~9.5の範囲が好ましく、7.0~8.5がさらに好ましく、7.5~8.0が最も好ましい。緩衝液には、本発明の特定の糖類のほか、さらにNaClなどの塩類や保存剤、プロクリンなどの防腐剤等を含んでもよい。塩類はNaClなどのようにイオン強度の調整のために含ませるもののほか、水酸化ナトリウムなど緩衝液のpHを調整する工程で添加するようになるものも含まれる。多孔性メンブレンに糖と抗体を固定化した後、さらに、通常使用されるブロッキング剤を溶液あるいは蒸気状にして抗体固定化部位以外を被覆し、ブロッキングを行うこともできる。
抗体液中の糖類の濃度は、下限としては、1.0%以上が好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2.0%以上がさらにいっそう好ましく、2.5%以上が最も好ましい。上限としては、10.0%以下が好ましく、7.0%以下がさらに好ましく、6.0%以下がよりいっそう好ましく、5.0%以下が最も好ましい。また、好ましい範囲としては、1.0~10.0%が好ましく、1.5%~7.0%がさらに好ましく、2.0~6.0%がさらにいっそう好ましく、2.5~5.0%が最も好ましい。
本明細書では、上記のように抗体が固定化された多孔性メンブレンを「抗体固定化メンブレン」ということがある。
【0022】
(サンプルパッド)
本発明において、「サンプルパッド」とは、サンプルを受け入れるサンプル供給部を担う部位であり、パッドに成型された状態で液体のサンプルを吸収し、液体と検出対象物の成分とが通り抜けることができる物質及び形態であればいずれのものをも含む。
本発明のサンプルパッドには、透水性の改善のために前処理をすることができる。
また、全血を測定する場合には、赤血球凝集剤を含ませておくこともできる。この場合、サンプルパッドの少なくとも一部に含まれていればよく、全体に含ませておくこともできる。
サンプルパッドに適した材料の具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。該サンプルパッドには、後述するコンジュゲートパッドの機能を併せ持たせることも出来る。また、サンプルパッドには、本発明の目的を逸脱せず、反応系に影響のない範囲において、必要に応じ通常使用されるブロッキング試薬を含ませることもできる。
【0023】
(コンジュゲート)
本発明においてコンジュゲートとは、標識体に検出対象物に対する抗体又はコントロール用抗体(あるいは抗原)が固定化されたものをいう。
本発明に用いる標識体は、抗体を感作(固定化)させてコンジュゲートを構成することができ、サンプルと接触させてサンプル中の対象物(抗原)を検出する方法において標識体としての役割を担うことができるようなものであればいずれでもよく、金コロイド粒子、白金コロイド粒子、カラーラテックス粒子、磁性粒子などが挙げられ、このうちでも金コロイドやカラーラテックスが望ましく、そのうちでも金コロイドがよりいっそう望ましい。これらの粒子径は、それぞれの種類に応じて、測定対象物の所望の検出感度が得られるように調整すればよく、例えば、金コロイド粒子の平均粒子径は、20~100nmが好ましく、より好ましくは30~100nmであり、特に30~70nmが好ましい。
本発明のコンジュゲートは、金コロイド等の表面において抗体が結合していない領域をブロッキング剤によりブロッキングすることもできる。
【0024】
コンジュゲートの存在様式としては、コンジュゲートパッドとして存在する様式、すなわち、サンプルパッド、3rd Pad、多孔性メンブレン以外の専用のパッド(コンジュゲートパッド)に含浸された状態で存在してもよいし(タイプA)、サンプルパッドの一部にコンジュゲート部として存在してもよい(タイプB)。さらには、試験片とは別に、検体と混合されるように個別の検出試薬として存在してもよい(タイプC)。
【0025】
以下、コンジュゲートの存在様式が上記タイプAの試験片の典型例について説明する。
サンプルの流れ方向の上流より下流に向かって、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、3rd Pad、多孔性メンブレンの順で配置され、それぞれ上下の層と少なくとも一部が重複するように配置される。このような配置例の試験片を
図3に示す。
このような試験片のサンプルパッドに、検出対象物を含有するサンプルが供給されると、検出対象物はサンプルパッドを通過して下流側のコンジュゲートパッドへと流れる。コンジュゲートパッドでは、検出対象物とコンジュゲートが接触して複合体を形成しながら当該パッドを通過する。その後、複合体はコンジュゲートパッドの下面に接触して配置された3rd Padを通過し、多孔性メンブレンへと展開される。
多孔性メンブレンには、その一部に検出対象物に結合する抗体が固定化されているため、該複合体がここで結合して固定化されることになる。固定化された複合体は、標識物質に由来する呈色として目視で検出できる他、吸光度、反射光、蛍光、磁気等を検出する手段により検出することもできる。
【0026】
次に、コンジュゲートの存在様式がタイプBの試験片について説明する。
上記タイプAの試験片との違いは、サンプルパッドとコンジュゲートパッドが一体になった点であり、つまり、サンプルパッドの一部にサンプル供給部およびコンジュゲート部が構成されている点である。
上記サンプル供給部は、検出対象物を含有するサンプルを供給する部位であり、上記コンジュゲート部は、コンジュゲートを含有する部位であり、サンプル供給部がコンジュゲート部の上流側となる。
【0027】
次に、コンジュゲートの存在様式がタイプCの試験片について説明する。
上記タイプAの試験片との違いは、コンジュゲートパッドが試験片として存在せず、コンジュゲートは個別の検出試薬として存在する点である。例えば、フィルター中にコンジュゲートが内蔵されたフィルターチップが挙げられる。このようなフィルターチップを使って、検体をフィルターろ過させることでフィルター内に保持されたコンジュゲートと検出対象物が結合し、複合体(凝集体)を形成する。これを、コンジュゲートパッドを有さないこと以外はタイプAと同一の前記試験片に供給することで、検出対象物を検出することができる。
【0028】
(検出試薬)
本発明において、「検出試薬」とは具体的には少なくともコンジュゲートを含有する溶液である。
検出試薬は、コンジュゲートを安定な状態に保ち、サンプルと混合されたときにコンジュゲートに固定化された抗体が検出対象物と特異的に反応するのを促進する、あるいはコンジュゲートを迅速かつ効果的に溶解、流動化する目的で、例えば1種類以上の安定化剤、溶解補助剤等を含み得る。該安定化剤、溶解補助剤等としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、スクロース、カゼイン、アミノ酸類などをあげることができる。
また、検出試薬は、検出感度の向上を目的とし必要に応じて公知の増感剤やキレート剤であるEDTAやEGTAなども含み得る。
なお、本明細書において、「検出」又は「測定」という用語は、検出対象の存在の証明及び/又は定量などを含めて最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0029】
(サンプル希釈液)
本発明において、検体中の検出対象物の濃度に応じて、検体の希釈が必要な場合は、希釈液を用いることがある。希釈液は、抗原抗体反応を著しく阻害したり、または反対に著しく反応を促進して標識体が過凝集するために毛細管現象における展開不良を起こしたり、抗原濃度に応じた抗原抗体反応のシグナル検出が不可能にさえならなければ、いずれの組成の希釈液を用いても良い。
【0030】
(コンジュゲートパッド)
本発明において、「コンジュゲートパッド」とは、検出対象物と特異的に反応する検出試薬を後述のコンジュゲートパッドに適した材料に含浸させて乾燥させたものである。コンジュゲートパッドは、サンプルが該コンジュゲートパッドを通過する際、検出試薬と検出対象物とが複合体を形成する機能を有する。該コンジュゲートパッドは、それ単独で抗体が固定化された多孔性メンブレンに接するように配置されていてもよい。あるいは、前記サンプルパッドと接触して配置され、毛細管流によってサンプルパッドを通過した検体を受入れ、引き続き該検体を毛細管流によって前記サンプルパッドとの接触面とは異なる面で接触する3rd Padを介してメンブレンに移送するように配置してもよい。
【0031】
該コンジュゲートパッドに適した材料として、紙、セルロース混合物、ニトロセルロース、ポリエステル、アクリロニトリルコポリマー、ガラス繊維またはレーヨンのような不織繊維が挙げられるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。
該コンジュゲートパッドには、必要に応じて、イムノクロマト検出法の信頼性を担保するための「コントロール試薬」、例えば、標識体で標識された検体成分とは反応しない抗体や標識体で標識されたKLH(スカシ貝ヘモシアニン)などの高抗原性タンパク質などを含み得る。これらのコントロール試薬は、サンプル中に存在する可能性が考えられない成分(物質)であり、適宜に選択可能である。
【0032】
(3rd Pad)
本発明において、3rd Padとは、検体と検出試薬との反応成分のうち、検出対象物の検出に不要な成分を除去し、反応に必要な成分が、抗体が固定化された多孔性メンブレンをスムーズに展開できるようにすることを目的としてサンプルパッドと不溶性メンブレンの間に配置させることができる。例えば、血球や不溶性の血球破砕物などは、検出に不要な成分として除去されることが望ましい。また、この3rd Padには、抗原抗体反応により生成する凝集体のうち、抗体固定化メンブレンに移動し、スムーズに展開できない位に大きくなった凝集体をあらかじめ除去するという付加的な効果を併せ持たせることも可能である。
【0033】
3rd Padとしては、液体と検出対象の成分、および検出試薬とが通り抜けることができるどんな物質及び形態をも含む。具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。3rd Padは、血球を分離する目的で使用される場合は、血球分離膜と呼ばれることもある。本発明において、全血を検体とする場合は、サンプルパッドのみでは除去しきれなかった血球をより確実に分離除去するため、血球分離膜を用いることが望ましい。
【0034】
(赤血球凝集剤)
本発明において、全血を検体とする場合は、上記3rd Padの使用以外に、赤血球凝集剤や赤血球結合成分を併用することが望ましい。併用する赤血球凝集剤や赤血球結合成分は特に限定されないが、公知の例示としてレクチン、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の他に、ポリカチオン性の赤血球凝集剤が使用できる。公知のポリカチオン性の赤血球凝集剤としてはポリブレンやポリリジン、ポリアクリルアミン、ポリアラニンなどが例示できるが、なかでもポリブレンが好ましい。ポリブレンは、その化学名を臭化ヘキサジメトリンといい、CAS番号28728-55-4が付与されたカチオン性ポリマーの1種である。
赤血球凝集剤や赤血球結合成分の使用態様としては、検体を希釈する希釈液に添加したり、検体に直接添加する態様のほか、イムノクロマト試験片のサンプル供給部(サンプルパッド)に含ませておくことができる。このような使用態様により、全血中の赤血球が凝集される。
【0035】
(吸収パッド)
本発明において、吸収パッドとは、多孔性メンブレンを移動・通過した検体を吸収することにより、検体の展開を制御する液体吸収性を有する部位である。ラテラルフロー式においては、試験片の最下流側に設ければよく、フロースルー式においては、例えば抗体固定化メンブレンの下部に設ければよい。該吸収パッドとしては、例えば、ろ紙を用いることができるが、これに限定されない。
【0036】
(検出デバイス)
本発明のイムノクロマト用試験片は、試験片の大きさや、検体の添加方法・位置、抗体固定化メンブレンにおける抗体の固定化位置、シグナルの検出方法などを考慮した適当な容器(ハウジング)に格納・搭載して使用することができ、このように格納・搭載された状態を「デバイス」という。
【0037】
(その他)
本明細書において、「多孔性メンブレン」を「固相」、抗原や抗体を多孔性メンブレンに物理的あるいは化学的に担持させること、あるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、「固相化」、「感作」、「吸着」と表現することがある。
【0038】
(検体)
本発明の検出方法において検出対象物を含む「検体」とは、血液、尿、痰、唾液、鼻汁、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、その他の体液、糞便等の生体試料等をいう。生体試料は、そのまま検体として用いてもよく、適宜希釈液によって希釈したり、抽出および/または濾過したものも本発明の検体に含まれる。血液検体は、全血のほか、赤血球、血漿、血清等が挙げられる。
また、血液検体には、採血時にEDTAやヘパリンなどの抗凝固剤を添加した採血管により採血した検体も含まれる。
【0039】
(検出対象物)
本発明の検出対象物としては、血液(全血)、赤血球、血清、血漿、尿、唾液又は喀痰などの生物検体中に存在する物質で、例えば、CRP(C反応性タンパク)、IgA、IgG、IgMなどの炎症関係マーカー、フィブリン分解産物(例えばDダイマー)、可溶性フィブリン、TAT(トロンビン-アンチトロンビン複合体)、PIC(プラスミン-プラスミンインヒビター複合体)などの凝固・線溶マーカー、酸化LDL、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)、H-FABP(心臓型脂肪酸結合タンパク)、心筋トロポニンI(cTnI)などの循環関連マーカー、アディポネクチンなどの代謝関連マーカー、CEA(癌胎児性抗原)、AFP(α-フェトプロテイン)、CA19-9、CA125、PSA(前立腺特異抗原)などの腫瘍マーカー、HBV(B型肝炎ウイルス)、HCV(C型肝炎ウイルス)、クラミジアトラコマティス、淋菌などの感染症関連マーカー、アレルゲン特異IgE(免疫グロブリンE)、ホルモン、薬物などが例示される。これらの中でも、検体として全血を使用したいとする要望が高い、Dダイマー、CRP、BNP、H-FABP、cTnIなどがより好ましい。
【0040】
(本発明で用いられる抗体)
本発明に用いられる検出対象物に対する抗体は、検出対象物に対して特異的に反応する抗体であれば、作製する方法によって何ら限定されるものではなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。一般的に当該抗体を産生するハイブリドーマは、KohlerとMilsteinの方法(Nature、第256巻495頁(1975年)参照)に準じ、検出対象物を免疫原として免疫した動物の脾臓細胞と同種のミエローマ細胞(骨髄腫細胞)とを細胞融合して作製することができる。
【0041】
本発明の抗体としては、抗体分子全体のほかに抗原抗体反応活性を有する抗体の機能性断片を使用することも可能であり、動物への免疫工程を経て得られたもののほか、遺伝子組み換え技術を使用して得られるものや、キメラ抗体を用いることも可能である。抗体の機能性断片としては、例えば、F(ab’)2、Fabが挙げられ、これらの機能性断片は前記のようにして得られる抗体をタンパク質分解酵素(例えば、ペプシンやパパインなど)で処理することにより製造できる。
本発明の測定法において用いられる抗体がモノクローナル抗体の場合、標識体固定化用抗体(第一の抗体)と多孔性メンブレン固定化用抗体(第二の抗体)の関係は、第一の抗体のエピトープが一価の場合は第二の抗体のエピトープは第一の抗体と異なるものが用いられ、第一の抗体のエピトープが多価の場合は第二の抗体のエピトープは第一の抗体と同じであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0042】
(キット)
本発明のイムノクロマト試験片を利用した検出キットは、少なくともサンプル供給部、展開部、抗体が固定化された検出部を有するイムノクロマト試験片であって、前記検出部は、還元性を有する単糖類及び還元性を有する2糖類からなる群から選ばれる1以上の糖と共に抗体を含むことを特徴とする前記試験片を含むものであればよい。
本検出キットは、他に検出に必要な試薬(例えばコンジュゲートを含む検出試薬)、検体の希釈液、試験用チューブ、ろ過フィルター、便採取用の綿棒、取扱い説明書、試験片格納用のハウジングなどを含んでもよい。
以下、本発明の具体的な実施例を記載するが例示にすぎず本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
〔実施例1〕
検出部において抗検出対象抗体と共存させる糖の濃度、種類、抗体濃度を変更してブランク反応と特異的反応それぞれについて比較した。
1.本発明のイムノクロマト検出デバイスの作製
1)金コロイド標識抗cTnIモノクローナル抗体(抗cTnI抗体コンジュゲート)の調製
(i)金コロイド溶液の調製
93℃に加温した5000mLの精製水に対し、7%(w/v)クエン酸三アンモニウム水溶液を10mL添加して攪拌混合した。続いて、5%(w/v)テトラクロロ金(III)水溶液を10mL添加し、攪拌しながら10分間反応させた後、反応液を沸騰させた。この後、氷水中で冷却し、平均粒子径が60nmの金コロイドの溶液を調製した。この平均粒子径が60nmの金コロイドの溶液を、精製水にて、金コロイドの極大吸収波長での吸光度で1 OD/mLに調整した。
【0044】
(ii)抗cTnI抗体コンジュゲートの調製
上記1 OD/mLの金コロイド溶液(pH8.0)200mLに対し、2mM Tris-塩酸緩衝液(pH7.0)で20μg/mLに希釈した抗cTnIモノクローナル抗体を10mL添加し、室温で10分間撹拌した。当該金コロイドと抗体との混合液に対し、0.5%(w/v)のNEO PROTEIN SAVER(NPS、東洋紡社、No.NPS-301)を含む精製水を10mL添加し、室温で5分間攪拌した。その後、10℃にて、11900×gで45分間遠心した。上清を除去した後、得られた沈渣に、0.2%(w/v)のNPS水溶液を10mL添加してコンジュゲートを懸濁し、抗cTnI抗体コンジュゲートを得た。
【0045】
(iii)コントロールライン用金コロイド標識KLH(KLHコンジュゲート)の調製
上記1 OD/mLの金コロイド溶液200mLに対し、2mmol/Lリン酸緩衝液で620μg/mLとなるよう溶解したKLH(シグマ社製)を10mL添加し、室温で10分間撹拌した。当該金コロイドとKLHとの混合液に対し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)水溶液を10mL添加し、室温で5分間攪拌した。その後、10℃にて、45分間遠心し、上清を除去した後、得られた沈渣に、コンジュゲート希釈液を1mL添加してコンジュゲートを懸濁し、KLHコンジュゲートを得た。
【0046】
2)コンジュゲートパッドの作製
抗cTnI抗体コンジュゲートを3 OD/mL、KLHコンジュゲートを0.75 OD/mL、0.5%LipidureBL-1301、0.25mg/mL Heteroblock、2.4%ラクトース、2.0%NPS、20mM MOPS(pH7.2)、全量に対し6分の1量のBuffer, Conjugate Dilution(Scripps社)を混合してコンジュゲート溶液を作製し、一定体積のグラスファイバー製パッド(メルクミリポア社)に該パッド体積の1.2倍容量浸み込ませた。ドライオーブン内で70℃、45分間加温することにより乾燥させ、コンジュゲートパッドとした。
【0047】
3)抗cTnIモノクローナル抗体固定化メンブレンの作製
テストライン用に図中に示す濃度(終濃度)の糖及び抗体を含む10mM りん酸緩衝液(0.09%NaN3入り)(pH8.0)を調製した。
また、コントロールライン用に、ウサギ抗KLHポリクローナル抗体(Bethyl社製)を終濃度で2mg/mL、スクロースを終濃度で2.5%含むりん酸緩衝生理食塩水を調製した。
ニトロセルロースメンブレン(Hi-Flow plus HF180、メルクミリポア社)の短辺の一端の内側の位置に上記抗cTnIモノクローナル抗体をイムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIO DOT社)を用いて1μL/cmとなるよう設定して試験片の長手方向(検体液の展開方向)に垂直となるようにライン状に塗布し、テストラインを形成した。テストラインの位置から約4mmの間隔をあけて抗KLHポリクローナル抗体を同様に塗布し、コントロールラインを形成した。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、抗体固定化メンブレンとした。
【0048】
4)サンプルパッドの作製
0.5%ラクトース、2%ポリブレン、を含む20mM MOPS(pH7.2)を調整し、サンプルパッド前処理溶液とした。
グラスファイバー製パッド(Lydall社)を適宜必要な大きさにカットして、サンプルパッド前処理溶液を該パッド体積の1.5倍容量浸み込ませ、ドライオーブン内で70℃、45分乾燥したものをサンプルパッドとして用いた。
【0049】
5)イムノクロマト試験片の作製
プラスチック製粘着シート(a)に上記抗体固定化多孔性メンブレンを貼り、展開上流部側に抗cTnI抗体(c)、次いで抗KLH抗体(d)の順になるように塗布部が配置されており、さらにメンブレンの上に血球分離膜(3rd Pad)(e)を装着した。次いで、上記2)で作製したコンジュゲートパッド(f)を配置装着し、さらにこのコンジュゲートパッドに重なるように上記4)で作製したサンプルパッド(g)を配置装着し、反対側の端には吸収パッド(h)を配置装着した。このように各構成要素を重ね合わせた構造物に切断してイムノクロマト試験片を作製した。該試験片は、アッセイの際、プラスチック性の専用のハウジング(サンプル添加窓部及び検出窓部を有する、
図3中図示せず)に格納・搭載し、イムノクロマトテスト検出デバイスの形態にしてもよい。
図3にイムノクロマト試験片の模式構成図を示した。
【0050】
2.イムノクロマト法による検出又は測定
1000pg/mLの心筋トロポニンI(cTnI)を含む血漿検体液120μLを上記で作成したイムノクロマトテストデバイスのサンプル添加窓部からサンプル供給部に添加し、15分後にイムノクロマトリーダー「ラピッドピア」(登録商標、積水メディカル社製)を用いてテストラインの呈色量(シグナル吸光度)を測定した。
また、心筋トロポニンI(cTnI)を含まない血漿検体液についても同様に呈色量(ブランク吸光度)を測定した。結果を
図1に示す。また、S/N(シグナル吸光度/ブランク吸光度)比を算出した結果を
図2に示す。
【0051】
3.結果
還元性のある単糖類及び2糖類である、フルクトース、マルトース及びグルコースを抗体と共存させることにより、検出対象の測定感度は維持しつつ、ブランク吸光度値を大幅に下げることができた。また、S/N比も改善した。一方、同じ2糖類であっても還元性を有さないトレハロースを抗体と共存させても改善が見られなかった。
なお、従来使用していた、同じく還元性を有さない2糖類であるスクロースについては、濃度を3.8%、5.0%まで上げてもブランク値の低減効果はわずかであった。また、抗体濃度を3.0mg/mLから1.7、1.2、0.8mg/mLまで減らすことでブランク値を低減することができたものの、検出対象の測定感度も低下してしまい、S/N値の改善は見られなかった。
以上より、還元性のある単糖類及び2糖類を検出用抗体と共存させることによって検出対象との特異的反応の感度を一定に保ちつつ、ブランク値を低く抑え、S/N比を改善することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の、少なくともサンプル供給部、展開部、抗体が固定化された検出部を有するイムノクロマト試験片であって、検出部の抗体が特定の糖類とともに存在している試験片によれば、検出対象物質の検出感度を維持しつつ、ブランク反応による発色を低減することができる。したがって、イムノクロマト検出法において、目視判定の場合には、偽陽性の原因を解消し、正確な判定が可能となり、また、光学機器による判定の場合には、検出感度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0053】
(a)プラスチック製粘着シート
(b)抗体固定化メンブレン
(c)抗cTnI抗体(テストライン)
(d)抗KLH抗体(コントロールライン)
(e)血球分離膜(3rd Pad)
(f)コンジュゲートパッド
(g)サンプルパッド
(h)吸収パッド