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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】術前及び術後のケアに有用なヒト乳製品
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/14 20060101AFI20230927BHJP
   A61K 31/22 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 31/70 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 33/00 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 33/04 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 33/06 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 33/26 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 33/30 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 33/32 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 33/34 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 35/20 20060101ALN20230927BHJP
   A61K 38/00 20060101ALN20230927BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20230927BHJP
   A61P 1/14 20060101ALN20230927BHJP
   A61P 3/02 20060101ALN20230927BHJP
   A61P 17/02 20060101ALN20230927BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20230927BHJP
   A61P 31/00 20060101ALN20230927BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
A23C9/14
A61K31/22
A61K31/70
A61K31/7016
A61K33/00
A61K33/04
A61K33/06
A61K33/26
A61K33/30
A61K33/32
A61K33/34
A61K35/20
A61K38/00
A61P1/04
A61P1/14
A61P3/02
A61P17/02
A61P25/00
A61P31/00
A61P31/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018534083
(86)(22)【出願日】2016-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 US2016069250
(87)【国際公開番号】W WO2017117409
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-12-23
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】62/273,243
(32)【優先日】2015-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509056489
【氏名又は名称】プロラクタ バイオサイエンス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】エルスター,スコット
(72)【発明者】
【氏名】フォーネル,ジョセフ
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】淺野 美奈
【審判官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-254091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先天性心欠損に対する手術を受けようとしている対象または前記手術を受けた対象に栄養を提供するためのヒト乳組成物であって、(i)35~45mg/mLのヒトタンパク質及び80~100mg/mLのヒト脂肪を含むヒト乳強化剤、及び(ii)母親自身の乳またはプールされたドナー乳から選択されたヒト乳を含み、前記対象が先天性心欠損を有する正期産児である、ヒト乳組成物。
【請求項2】
前記ヒト乳強化剤が、37~42mg/mLのヒトタンパク質及び86~94mg/mLのヒト脂肪を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ヒト乳強化剤が、35~42mg/mLのヒトタンパク質及び84~95mg/mLのヒト脂肪を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ヒト乳強化剤が、カルシウム、塩化物、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム、セレニウム、ナトリウム、及び亜鉛からなる群から選択される1つ以上の構成要素をさらに含み得る、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ヒト乳組成物が、50%のプールされたドナー乳及び50%のヒト乳強化剤を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ヒト乳組成物が、20~30mg/mLのヒトタンパク質、60~70mg/mLのヒト脂肪、及び80~100mg/mLのヒト炭水化物を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ヒト乳組成物が、24~26mg/mLのヒトタンパク質、60~64mg/mLのヒト脂肪、及び83~97mg/mLのヒト炭水化物を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記ヒト乳組成物が、70%のプールされたドナー乳及び30%のヒト乳強化剤を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ヒト乳組成物が、10~20mg/mLのヒトタンパク質、40~50mg/mLのヒト脂肪、及び80~90mg/mLのヒト炭水化物を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ヒト乳組成物が、19~20mg/mLのヒトタンパク質、49~51mg/mLのヒト脂肪、及び81~89mg/mLのヒト炭水化物を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記ヒト乳組成物が、67~139kcal/kg/日で投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記ヒト乳組成物が、90~100mL/kg/日で投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ヒト乳組成物が、経口的にまたは経腸的に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記ヒト乳組成物の投与が、前記対象における1つ以上の臨床転帰を改善する、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記1つ以上の改善された臨床転帰が、改善された神経発達転帰、体重増加率を含む改善された成長速度、増分線形成長、増分頭囲成長率、減少した入院期間、及び/または非経口栄養の日数の減少を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記1つ以上の改善された臨床転帰が、授乳不耐性、敗血症、壊死性腸炎(NEC)、創傷感染、及び/または創傷離開の低減した発生率を含む、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項17】
前記乳児が、7日齢以下である、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年12月30日出願の米国仮出願第62/273,243号に対する優先権及びその利益を主張し、それらの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、ヒト乳組成物、ならびにそれを作製及び使用する方法に関する。具体的には、本開示は、手術または医療操作の前及び/もしくは後の対象に授乳するための、かつ回復を促進する、及び対象が入院しなければならない期間を減少させるのに有用である、ヒト乳組成物を使用する方法を特徴とする。したがって、手術後に、本明細書に記載される組成物のうちの1つ以上を対象、特に乳児に授乳することによって、そのような対象の回復を促進する方法も提供される。
【背景技術】
【0003】
ヒト乳は、未熟児のための理想的な栄養源であり、宿主防御、消化管成熟、感染率、神経発達転帰、及び長期心血管及び代謝疾患において利点を提供する(Schanler,R.J.,Outcomes of human milk-fed premature infants.Semin Perinatol,2011.35(1):p.29-33)。ヒト乳(HM)のみに基づくダイエットは、壊死性腸炎(NEC)、敗血症、非経口栄養の日数、及び死亡の割合を著しく減少させる(Sullivan,S.,et al.,An exclusively human milk-based diet is associated with a lower rate of necrotizing enterocolitis than a diet of human milk and bovine milk-based products.J Pediatr,2010.156(4):p.562-567.e1、Cristofalo,E.A.,et al.,Randomized trial of exclusive human milk versus preterm formula diets in extremely premature infants.The Journal of Pediatrics,2013(163):p.1592-1595、Abrams,S.A.,et al.,Greater Mortality and Morbidity in Extremely Preterm Infants Fed a Diet Containing Cow Milk Protein Products.Breastfeeding Medicine,2014.9(6):p.281-285)。
【0004】
医療栄養療法は、栄養失調の危険性がある患者集団にとって重要な考慮事項である。これは、乳児が成長障害、発達遅延、壊死性腸炎、不良な創傷治癒、及び遅発性敗血症の危険性が高いため、手術を受けるかかる乳児にとって特に重要であり、その危険性は、より早期の妊娠週数及びより低い出生体重、ならびに出生直後に手術を必要とする乳児で増加する。ヒト乳は、一般に、その栄養成分及び免疫学的利点のために、出生時の妊娠週数にかかわらず、全ての乳児にとって最適な食物である。
【0005】
母乳はまた、その消化の容易さ、栄養組成、免疫学的成分、及び抗感染性の利点のために、手術前及び手術後の乳児にとって最適な栄養であり得る。(AAP COMMITTEE ON NUTRITION,AAP SECTION ON BREASTFEEDING,AAP COMMITTEE ON FETUS AND NEWBORN.″Donor Human Milk for the High-Risk Infant:Preparation,Safety,and Usage Options in the United States.″Pediatrics.2017;139(1):e20163440を参照されたい)。さらに、手術を受ける乳児は、人工乳児用調合乳の不耐性のために、しばしば授乳レジメンに耐えられず、長期間にわたる全非経口栄養(TPN)での完全または一部補充をもたらし、代謝異常及びTPN関連合併症の危険性が高まる。
【0006】
出生直後に手術を必要とする乳児には、心臓(例えば、左心低形成症候群)及び腸(例えば、腹壁破裂及び臍帯ヘルニア)等の主要臓器に影響を与える先天性出生時欠損を有する乳児、ならびに壊死性腸炎(NEC)を発症する乳児を含む、出生後に手術を必要とする病態を発症する乳児が含まれる。
【0007】
乳児が手術時及びその前後に母乳栄養に耐えることができる場合であっても、非強化ヒト乳は、例えばTPNでの補充を必要とするこれらの乳児の多くの栄養的ニーズを満たしていない。TPN及び不完全な経腸母乳栄養の使用は、腸刷子縁機能障害、腸内毒素症(腸内での有害な細菌の重成長)、代謝障害、ならびに術後回復を妨げ、長期発達に影響を及ぼすTPN関連肝疾患をもたらし得る。これは、しばしば先天性心疾患を有する乳児の症例と同様に、乳児の病態が流体制限を必要とする場合に特に懸念される。最近のデータは、ヒト乳のエネルギー含有量が、しばしば20kcal/ozの一般に許容される値を下回ることを示した(Wojcik,K.Y.,et al.,Macronutrient analysis of a nationwide sample of donor breast milk.Journal of the American Dietetic Association,2009.109(1):p.137-140、Vieira,A.A.,et al.,Analysis of the influence of pasteurization,freezing/thawing,and offer processes on human milk′s macronutrient concentrations.Early Human Development,2011.87(8):p.577-580)。結果として、予想されるエネルギー及び栄養素含有量は、手術前後の乳児、特に総流体摂取量が制限される先天性心疾患を有する乳児において達成可能でない場合がある。通常の乳児と比較したとき、この集団の増加したエネルギー及び多量栄養素要件に起因して、余分なカロリーを提供する能力は、手術前後の乳児の栄養管理における治療的介入に向かう重要なステップである。
【0008】
したがって、栄養溶液を調製し、手術から回復中の乳児、特に流体制限されたダイエットを維持しなければならない乳児を補助する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、これらの乳児の栄養要件を満たすために必要な全体量または浸透圧負荷を実質的に増加させないが、ヒトドナー乳または母親自身の乳のカロリー含有量を増加させるために、経口的にまたは経腸的に投与され得る高エネルギー/高脂肪ヒト乳組成物を提供する。それにより、手術を必要とする乳児における排他的なヒト乳ダイエットの機会は、改善された成長速度及び創傷治癒を含む短期及び長期の臨床転帰を改善し、減少した入院期間(LOS)及び改善された神経発達をもたらす。
【0010】
本開示は、ヒト乳組成物、ならびにそのような組成物を作製及び使用する方法を特徴とする。一部の実施形態において、ヒト乳組成物は、ヒト乳強化剤である。一部の実施形態において、ヒト乳組成物は、乳及びヒト乳強化剤を含む。一部の実施形態において、乳は、ヒトの母乳である。他の実施形態において、乳は、プールされたヒト乳である。一部の実施形態において、乳は、調乳済み製品である。他の実施形態において、乳は、非ヒトである。一部の実施形態において、ヒト乳組成物は、乳児用調合乳を含む。
【0011】
本発明は、約19mg/mL~約26mg/mLのタンパク質、約49mg/mL~約64mg/mLの脂肪、及び約81mg/mL~約97mg/mLの炭水化物を含むヒト乳組成物を提供する。別の実施形態において、ヒト乳組成物は、約24~約26mg/mLのタンパク質、約60mg/mL~約64mg/mLの脂肪、及び約83mg/mL~約97mg/mLの炭水化物を含む。別の実施形態において、ヒト乳組成物は、約19~約20mg/mLのタンパク質、約49mg/mL~約51mg/mLの脂肪、及び約81mg/mL~約89mg/mLの炭水化物を含む。別の実施形態において、ヒト乳組成物は、約21~約23mg/mLのタンパク質、約54~約57mg/mLの脂肪、及び約82~約89mg/mLの炭水化物を含む。
【0012】
一実施形態において、本方法は、約19mg/mL~約26mg/mLのタンパク質、約49mg/mL~約64mg/mLの脂肪、及び約81mg/mL~約97mg/mLの炭水化物を含むヒト乳組成物を対象に投与することを提供する。別の実施形態において、本方法は、約24~約26mg/mLのタンパク質、約60mg/mL~約64mg/mLの脂肪、及び約83mg/mL~約97mg/mLの炭水化物を含むヒト乳組成物を対象に投与することを提供する。別の実施形態において、本方法は、約19~約20mg/mLのタンパク質、約49mg/mL~約51mg/mLの脂肪、及び約81mg/mL~約89mg/mLの炭水化物を含むヒト乳組成物を対象に投与することを提供する。別の実施形態において、本方法は、約21~約23mg/mLのタンパク質、約54~約57mg/mLの脂肪、及び約82~約89mg/mLの炭水化物を含むヒト乳組成物を対象に投与することを提供する。
【0013】
一実施形態において、ヒト乳組成物は、約67~約139kcal/kg/日を提供する。別の実施形態において、ヒト乳組成物は、約80~約130mL/kg/日を提供する。別の実施形態において、ヒト乳組成物は、約90~約100mL/kg/日を提供する。
【0014】
一実施形態において、ヒト乳組成物は、カルシウム、塩化物、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム、セレニウム、ナトリウム、及び亜鉛からなる群から選択される1つ以上の構成要素をさらに含む。別の実施形態において、ヒト乳組成物は、ヒト乳オリゴ糖をさらに含む。
【0015】
一実施形態において、ヒト乳組成物は、経口的に対象に投与される。別の実施形態において、ヒト乳組成物は、経腸的に対象に投与される。
【0016】
一実施形態において、当該対象は、ヒトの子供、または乳児である。特定の実施形態において、子供は、約18歳齢~約2歳齢である。他の実施形態において、当該対象は、約2歳齢以下の子供である。別の実施形態において、当該対象は、7日齢以下である。さらに他の実施形態において、当該対象は、未熟児である。一部の実施形態において、当該対象は、ヒト成体である。一実施形態において、ヒト成体は、18歳齢以上である。
【0017】
一態様において、本方法は、手術を受けるか、または手術を受けた対象に栄養を提供することを含む。さらなる態様において、本方法は、強化剤組成物を含むヒト乳組成物を対象に投与することを含む。一実施形態において、ヒト乳組成物は、完全栄養の約70%を提供し、強化剤組成物は、完全栄養の約30%を提供する。別の実施形態において、ヒト乳組成物は、完全栄養の約60%を提供し、強化剤組成物は、完全栄養の約40%を提供する。別の実施形態において、ヒト乳組成物は、完全栄養の約50%を提供し、強化剤組成物は、完全栄養の約50%を提供する。
【0018】
ヒト乳は、搾乳された母乳またはドナー乳及びその誘導体、ヒト乳ベースの強化剤、ならびにヒト乳カロリー強化剤として定義される。標準ヒト乳製剤には、Prolact-RTF(商標)、PROLACTPLUS(商標)、PROLACT+4(登録商標)、PROLACT+6(登録商標)、PROLACT+8(登録商標)、及び/またはPROLACT+10(登録商標)が含まれ、これらはヒト乳から生産され、様々な濃度の栄養成分を含有する。
【0019】
本開示は、ヒト乳から生産される、標準化されたヒト乳製剤または強化剤を特徴とする。そのような組成物を作製及び使用する方法もまた、本明細書に記載される。一部の実施形態において、標準化されたヒト乳製剤は、ビタミン及び/またはミネラルで補充される。一部の実施形態において、標準化された乳製剤は、手術を受けるか、または手術を受けた対象に経口的に与えられる。これらの組成物を生成する方法は、組成物中の栄養素及びカロリーの量を最適化するように設計される。
【0020】
一部の実施形態において、ヒト乳組成物は、カルシウム、塩化物、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム、セレニウム、ナトリウム、及び亜鉛からなる群から選択される1つ以上の構成要素をさらに含む。
【0021】
一態様において、本開示は、約35mg/mL~約45mg/mLのヒトタンパク質構成要素及び約80mg/mL~約100mg/mLのヒト脂肪構成要素を含む、ヒト乳強化剤組成物を特徴とする。一態様において、本開示は、約35mg/mL~約42mg/mLのヒトタンパク質構成要素及び約84mg/mL~約95mg/mLのヒト脂肪構成要素を含む、ヒト乳強化剤組成物を特徴とする。別の態様において、本開示は、約37~約42mg/mLのヒトタンパク質構成要素及び約86~約94mg/mLのヒト脂肪構成要素を含む、ヒト乳強化剤組成物を特徴とする。別の態様において、本開示は、約39.2mg/mLのヒトタンパク質構成要素及び約94.5mg/mLのヒト脂肪構成要素を含む、ヒト乳強化剤組成物を特徴とする。炭水化物構成要素は、追加のラクトースを含み得る。一部の実施形態において、この組成物は、カルシウム、塩化物、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム、セレニウム、ナトリウム、及び亜鉛からなる群から選択される1つ以上の構成要素をさらに含む。
【0022】
一態様において、ヒト乳組成物を得るための方法が提供される。一部の実施形態において、この方法は、(a)1つ以上のウイルスについてヒト乳を遺伝子的にスクリーニングすること、(b)任意に、乳を濾過すること、(c)任意に、例えば、約63℃以上で約30分間、乳を熱処理すること、(d)乳をクリームと上澄みとに分離すること、(e)クリームの一部分を上澄みに添加すること、及び(f)組成物を低温殺菌または他の方法で滅菌することを含む。
【0023】
一部の実施形態において、ステップ(a)における遺伝子スクリーニングは、ポリメラーゼ連鎖反応であり、かつ/または1つ以上のウイルス、例えば、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)、B型肝炎ウイルス(HBV)、及び/もしくはC型肝炎ウイルス(HCV)についてスクリーニングすることを含む。
【0024】
一部の実施形態において、乳は、任意に、ステップ(b)において約200ミクロンのスクリーンを通して濾過される。
【0025】
一部の実施形態において、本方法は、クリーム、例えば、クリーム中約30~70%の脂肪を、ステップ(d)の後に分離器に通すことをさらに含む。一実施形態において、本方法は、ステップ(d)の後に上澄みをフィルターで濾過して、例えば、上澄みから水を濾過することをさらに含む。一部の実施形態において、ステップ(d)の後に上澄みを濾過した後、濾過に使用されたフィルターを洗浄して、洗浄後溶液を得る。さらなる実施形態において、洗浄後溶液は、上澄みに添加される。
【0026】
一部の実施形態において、本方法は、ステップ(e)の後に得られた組成物の一部のミネラル解析を実行することをさらに含む。一実施形態において、本方法はまた、ステップ(e)の後に得られた組成物に、カルシウム、塩化物、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム、セレニウム、ナトリウム、及び亜鉛からなる群から選択される1つ以上のミネラルを添加することを含む。1つ以上のミネラルの添加は、一部の実施形態において、組成物を加熱することを含む。
【0027】
特定の実施形態において、本方法はまた、ステップ(f)の後に組成物を冷却すること、ステップ(f)の後に組成物の一部の生体試験を実行すること、及び/またはステップ(f)の後に組成物の一部の栄養試験を実行することを含む。
【0028】
一部の実施形態において、ステップ(a)のヒト乳は、プールされたヒト乳である。したがって、一部の実施形態において、本明細書に提供される方法は、大量の出発材料、例えばヒト乳、例えばプールされたヒト乳で実行される。一部の実施形態において、この量は、約75リットル/ロット~約10,000リットル/ロットの出発物質(例えば、約2,500リットル/ロット、または約2,700リットル/ロット、または約3,000リットル/ロット、または約5,000リットル/ロット、または約7,000リットル/ロット、または約7,500リットル/ロット、または約10,000リットル/ロット)の範囲であり得る。
【0029】
別の態様において、本開示は、ヒト乳組成物を得るための方法を特徴とする。この方法は、(a)ヒト乳を1つ以上のウイルスについて遺伝子的にスクリーニングすること、(b)乳を濾過すること、(c)クリームを添加すること、及び(d)低温殺菌することを含む。
【0030】
一実施形態において、ステップ(a)における遺伝子スクリーニングは、ポリメラーゼ連鎖反応である。一部の実施形態において、遺伝子スクリーニングは、1つ以上のウイルス、例えばHIV-1、HBV、及び/またはHCVについてスクリーニングすることを含む。
【0031】
一実施形態において、乳は、任意に、ステップ(b)において約200ミクロンのスクリーンで濾過される。一部の実施形態において、本方法は、ステップ(b)の後に全乳をフィルターで超濾過することをさらに含む。一部の実施形態において、超濾過中に使用されるフィルターは、後洗浄される。一部の実施形態において、超濾過中に使用されるフィルターは、透過水で後洗浄される。一部の実施形態において、超濾過中に使用されるフィルターは、水で後洗浄される。
【0032】
一部の実施形態において、組成物は、ステップ(d)の後に冷却される。一部の実施形態において、組成物の生体試験及び/または栄養試験は、ステップ(d)の後に実行される。
【0033】
一部の実施形態において、ステップ(a)のヒト乳は、プールされたヒト乳である。したがって、一部の実施形態において、本明細書で特徴とされる方法は、大量の出発材料、例えばヒト乳、例えばプールされたヒト乳で実行される。一部の実施形態において、量は、約75~10,000リットル/ロットの出発材料の範囲である。特定の実施形態において、量は、約2,000リットル/ロットである。別の実施形態において、量は、約2,500リットル/ロットである。別の実施形態において、量は、約2,700リットル/ロットである。別の実施形態において、量は、約3,000リットル/ロットである。別の実施形態において、量は、約4,000リットル/ロットである。さらに別の実施形態において、量は、約5,000リットル/ロットである。さらに別の実施形態において、量は、約7,000リットル/ロットである。さらに別の実施形態において、量は、約7,500リットル/ロットである。さらに別の実施形態において、量は、約10,000リットル/ロットである。
【0034】
一部の実施形態において、本方法は、ステップ(c)の後に得られた組成物に、カルシウム、塩化物、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム、セレニウム、ナトリウム、及び亜鉛からなる群から選択される1つ以上のミネラルを添加することを含む。
【0035】
一態様において、手術から回復している対象の1つ以上の転帰を改善するための方法が提供される。一部の実施形態において、1つ以上の改善された臨床転帰は、短期及び/または長期の利益を含む。ある特定の実施形態において、1つ以上の改善された臨床転帰は、改善された神経発達転帰、体重増加率を含む改善された成長速度、増分線形成長、増分頭囲成長率、減少した入院期間、及び/または非経口栄養の日数の減少から選択される。一部の実施形態において、1つ以上の改善された臨床転帰は、授乳不耐性の低減した発生率及び/または重症度、敗血症の低減した発生率及び/または重症度、壊死性腸炎(NEC)の低減した発生率及び/または重症度、創傷感染及び/または創傷離開の低減した発生率及び/または重症度から選択される。したがって、一態様において、手術から回復している対象、特に乳児の臨床転帰を改善するための方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】強化剤生産の方法を示すフローチャートである。
図2】例示的な術後授乳プロトコルのフローチャートである。
図3】授乳不耐性アルゴリズムのフローチャートである。
図4】非経口栄養アルゴリズムのフローチャートである。
図5】離乳スケジュールのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本開示は、ヒト乳組成物、例えば、ヒト乳強化剤、母親自身の乳と混合されたヒト乳強化剤、及び標準化された調乳済みヒト乳組成物、ならびにそのような組成物を作製及び使用する方法を特徴とする。
【0038】
本開示はまた、ヒト乳から生産される標準化されたヒト乳製剤を特徴とする。そのような組成物を作製及び使用する方法も開示される。これらの標準化されたヒト乳製剤を使用して、それらを他の強化剤または乳、例えば母親自身の乳と混合するか、または混合せずに、手術を受けるか、または手術を受けた対象に供給することができる。ヒト乳製剤は、様々なカロリー含有量を含むことができ、例えば、本明細書に記載されるヒト乳組成物は、約67~約139kcal/kg/日、例えば約90~約100kcal/kg/日を提供することができる。
【0039】
本開示の組成物は、ヒトドナー乳、例えばプールされた乳から生成され、精密な遺伝子スクリーニング、処理(例えば、強化剤組成物中の栄養素を濃縮する、及び/またはバイオバーデンを低減する)、ならびに低温殺菌を受ける。乳は、様々なミネラル及び/またはビタミンで補充され得る。したがって、本開示はまた、ヒトドナーからの乳を入手し、処理する方法を特徴とする。
【0040】
本開示の方法を使用して、大量のドナー乳、例えば、約75~7,500リットル/ロットの出発材料を処理することができる。特定の実施形態において、量は、約2,000リットル/ロットである。別の実施形態において、量は、約2,500リットル/ロットである。別の実施形態において、量は、約2,700リットル/ロットである。別の実施形態において、量は、約3,000リットル/ロットである。別の実施形態において、量は、約4,000リットル/ロットである。さらに別の実施形態において、量は、約5,000リットル/ロットである。さらに別の実施形態において、量は、約7,000リットル/ロットである。さらに別の実施形態において、量は、約7,500リットル/ロットである。さらに別の実施形態において、量は、約10,000リットル/ロットである。
【0041】
本明細書で使用される場合、「混和物」という用語は、ヒト乳中で見出される任意の非ヒト乳を指す。ヒト乳への混和物の添加は、「偽和」と称される。混和物の例には、非ヒト種からの乳(例えば、牛乳、ヤギ乳等)、植物由来の乳様製品(例えば、豆乳)、及び乳児用調合乳が含まれる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「汚染物質」という用語は、ヒト乳中の望ましくない物質の包含を指す。混和物は「汚染物質」であるが、一般に、本明細書で使用される「汚染物質」という用語の使用は、薬物、環境汚染物質、ならびに/または細菌及びウイルス等の他の物質を指す。ヒト乳への汚染物質の包含は、「汚染」と称される。汚染物質の包含は、事故、過失、または意図を含むが、これらに限定されない任意の理由に起因し得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、「外科手術」及び「外科的手技」及び「外科的操作」及び「手術」または「手術ケア」または「手術手技」という用語は、本明細書において互換的に使用され、疾患もしくは傷害等の病理学的状態を調査及び/もしくは治療するため、身体の機能もしくは外観の改善を助けるため、または望ましくない破裂領域を修復するために、ヒトの体で行われる任意の侵襲性手技(切断を伴う)または非侵襲性手技(すなわち、体の開口部を介して内臓にアクセスする)を含む、手術マニュアル及び器具的技法を使用する医療手技を指す。
【0044】
本明細書で使用される場合、「ドナー」及び「個人」という用語は互換的に使用され、乳に対して、例えば金銭的に補償されているかどうかにかかわらず、ある量の自身の乳を供給または提供する女性を指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、「満期」または「正期産児」という用語は、妊娠37週~42週の範囲で出生した乳児を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、「早期」、「早産児」、「未熟」、または「未熟児」という用語は互換的に使用され、37週前に出生した乳児を指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、「経腸栄養」という用語は、タンパク質、炭水化物、脂肪、水、ミネラル、及びビタミンを含有する栄養的に完全な供給物を、胃、十二指腸、または空腸に直接送達することを指す。典型的には、未熟すぎて哺乳瓶を介して授乳することができない乳児において、またはそうでなければ哺乳瓶から効果的に授乳することができない乳児において、経腸栄養の(機械的または機能的)短期送達は、経鼻胃(NG)または経鼻空腸(NJ)管の配置によって達成される。経口栄養が長期間にわたって遅延される場合、より永久的な栄養管が、胃瘻管として胃内に、または空腸瘻管として小腸内に直接配置されてもよい。
【0048】
本明細書で使用される場合、「ヒト乳」、「母乳」、「ドナー乳」、及び「乳房液」という用語は互換的に使用され、ヒトからの乳を指す。
【0049】
本明細書で使用される場合、「子供」または「子供(複数)」という用語は、18歳齢未満の1人(またはそれ以上)のヒト対象を指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、「乳児」という用語は、1歳齢未満の子供を指す。
【0051】
本明細書で使用される場合、「成体」という用語は、18歳齢以上のヒトを指す。
【0052】
本明細書で使用される場合、「非経口栄養」という用語は、通常の食事及び消化のプロセスをバイパスして、静脈内的に対象に供給することを指す。非経口栄養のための組成物は、グルコース、アミノ酸、ビタミン、及び食用ミネラル等の栄養素を含有する。脂肪は、脂質乳剤として中心静脈または末梢上膜により別個に投与される。全非経口栄養(TPN)は、患者が栄養素の大部分を非経口経路を介して受容する状況を指し得る。しかしながら、TPNという用語は、当該技術分野において、ならびに本明細書において、この経路から送達される栄養素の割合にかかわらず、非経口栄養に使用される栄養溶液と同義的にしばしば使用される。非経口栄養は、四肢内の末梢静脈アクセスを通じて、または大きな中心静脈内に配置された線で投与されてもよい。
【0053】
本明細書で使用される場合、「全乳」という用語は、脂肪が除去されていないヒト乳を指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、「バイオバーデン」という用語は、乳中に存在し得る微生物学的汚染物質及び病原体(一般に生きている)、例えば、ウイルス、細菌、カビ、真菌等を指す。
【0055】
本明細書で使用される場合、「先天性心欠損」またはCHDという用語は、心臓の構造の問題を指す。出生時に存在する先天性心欠損は、最も一般的な種類の出生時欠損である。これらの欠損は、心臓の壁、心臓の弁、ならびに心臓付近の動脈及び静脈を巻き込み得る。心欠損は、心臓、体、及び脳への、心臓及びその区画を通る正常な血流を妨げ得る。血流は減速し得るか、間違った方向もしくは間違った場所に流れ得るか、または完全に遮断され得る。
【0056】
「単心室生理学」または「単一欠損異常」または「単心室欠損」という用語は、心臓2つの室のうちの1つのみが存在するか、または適切に機能する様々な心欠損を指す。1つのみの機能する心室を有する結果として、単心室欠損を有する乳児は、血液が心臓から肺及び体の両方に流れる「Y」形循環を有する。さらに、作動している心室は、左心室または右心室のいずれかであり得る。したがって、ある特定の状況において、どのポンプ室が適切に作動しているかを区別するのは困難であり得、単心室生理学を心臓の最も複雑な欠損にする。
【0057】
「壊死性腸炎」または「NEC」という用語は、未熟児において一般的かつ深刻な腸疾患を指す。それはまた、例えば深刻な心異形に対する手術を必要とする一部の正期産児において、増加した頻度で起こる。NECは、小腸または大腸内の組織が損傷されるか、または死滅し始めるときに起こり、恐らくは、出生時の腸への過小な酸素または血流、未発達の腸、腸内壁への損傷、腸内の有害な細菌の重成長(腸内毒素症)、及び人工栄養等の原因に起因する。一旦損傷されると、腸が老廃物を保持することができず、細菌及び他の老廃物の、乳児の血流または腹腔への漏出、ならびに考えられる後次感染につながり得る。
【0058】
「敗血症」という用語は、感染の潜在的に生命を脅かす合併症を指す。敗血症は、感染と闘うために血流に放出された化学物質が、身体全体にわたって炎症応答を誘発するときに起こる。この炎症は、多臓器系を損傷し得、それらの不全を引き起こす一連の変化を誘発し得る。
【0059】
「混合ヒト乳組成物」または「混合組成物」または「混合製剤」または「混合」として示される任意のヒト乳製品は、乳児への授乳において使用するために、強化剤が別個の乳製剤と混合された組成物を意味する。一部の実施形態において、本明細書に記載される強化剤は、乳児の母乳、ドナー乳、標準化調乳済みヒト乳製剤、または他のヒトもしくは非ヒト乳もしくは乳児用調合乳と混合されてもよい。したがって、「混合組成物」は、調乳済み組成物である。
【0060】
本明細書で使用される場合、「調乳済み」という用語は、ヒト乳製剤/組成物を説明するために使用されるとき、乳児に授乳する準備ができている、さらなる希釈、濃縮、または混合なしに乳児に授乳するために好適な形態の乳を指す(すなわち、強化剤ではない)。一部の実施形態において、調乳済み組成物は、強化剤を、低温殺菌したドナー母乳、母親自身の乳、または他の標準化低温殺菌母乳製剤と混合することによって作製される。一部の実施形態において、調乳済み組成物は、プールされたヒト乳提供物から直接製剤化され、追加の混合なく授乳する準備ができている形態で乳児に提供される。プールされたヒト乳提供物に直接由来するそのような調乳済み製剤は、「標準化ヒト乳製剤」とも称される。これらの製剤は、特定(すなわち、標準化)レベルの構成要素(すなわち、脂肪、タンパク質、及び炭水化物)を含有するため、「標準化」される。故に、本明細書で使用される場合、「標準化高脂肪ヒト乳製剤」または「高脂肪標準化ヒト乳製剤」は、その製剤をプールされたヒト乳提供物から直接生産された調乳済み製剤である。「調乳済み高脂肪製剤」は、高脂肪強化剤を調乳済み乳(母乳、ドナー乳、または他の標準化乳製剤)と混合することから作製されるか、またはヒト乳提供物から直接作製されるかのいずれかである。
【0061】
本明細書で使用される場合、「強化剤」は、調乳済み製剤になるように別の乳製剤(ヒトまたは他)に添加される任意のヒト乳組成物を意味する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「低温殺菌」という用語は、バイオバーデンを低減するために使用される任意の方法、またはそうでなければヒト消費のためにヒト乳を滅菌するために使用される任意の方法を指す。低温殺菌の方法としては、短期間の高温(HTSTまたは「フラッシュ」低温殺菌)の使用、極めて短期間の超高温(UHT)の使用が挙げられるが、決してこれらに限定されない。これらの方法は、任意に、乳の均質化及び/または乳の高圧処理と組み合わせることができる。
【0063】
手術に備える対象及び手術から回復している対象の栄養要件
一部の乳児は、出生直後に手術を必要とする。手術の完了後、患者は、典型的に手術室から新生児集中治療室に直接移され、注意深く監視される。患者が麻酔から回復したと判断される場合、患者は病院の他の場所にある外科病棟または他の集中治療室に移されてもよい。術後期間中、患者の一般機能及び手技の転帰が評価され、手術部位は、出血、創傷離開、または感染の徴候について確認される。前向きな術後回復の可能性は、手術前及び手術後の両方の栄養及び免疫健康に関連する。実際に、体にかかるストレス及び回復に必要なエネルギーを考慮して、手術を必要とする乳児は、典型的に、基礎代謝レベルを維持するため、成長を維持及び/または増加させるため、ならびに手術から治癒するために、手術手技を行わない乳児よりも多くのカロリーを必要とする。しかしながら、妊娠37週後に出産した乳児の母親により搾乳された乳は、一般に、その生物学的機能が、全量供給に耐えることができる健康な満期産児の栄養においてであるため、この増加したカロリー需要を満たしていない。
【0064】
本明細書に記載される対象は、手術を受けたか、または受けるであろう成人、子供、及び/もしくは乳児を含む。乳児には、正期及び早産児が含まれる。本明細書に記載される方法及びプロトコルは、7日齢以下の乳児において行われるが、当業者であれば、組成物及び方法が、より年長の子供、成人、及び/または早産児に好適であることを理解するであろう。当業者であれば、かかる年長の子供及び成人の栄養要件を満たすために本明細書の開示を容易に適合させることができるであろう。
【0065】
手術を必要とするか、または手術から回復している乳児の1日の授乳量の栄養含有量は、彼らが耐えることができる量内に含有される総カロリー及びタンパク質を含む、重要な成分の許容可能なレベルを満たすことが重要である。この点について、手術を必要とするか、または手術から回復している乳児の栄養状況は、未熟児のものと同様である。しかしながら、乳児に供給されるヒト乳のカロリー含有量は、めったに測定されないが、20カロリー/オンスであると想定される。従来のヒト乳強化剤は、部分的に、タンパク質レベルを増加させることによって、カロリー含有量の増加を図る。しかしながら、その戦略は、未熟児に適切であるが、流体制限されている手術を必要とする正期産児にとっては適切でない場合があり、かつ健康な正期産児と同程度のカロリーのためのタンパク質を必要としない場合がある。
【0066】
本明細書に記載されるヒト乳組成物は、この問題に対する解決策を提供し、過剰なタンパク質を提供することなく、また乳児に与えられる量を増加させることなく、場合によっては乳児に与えられる量を減少させることなく、カロリー含有量を所望のレベルまで増加させるために、ヒト乳を補充するように使用され得る。これは、増加したタンパク質含有量ではなく、増加したカロリー摂取が、必要な全てである場合に特に有用である。同様に、強化剤なしで使用され得るドナー乳または母親自身の乳と比較して、同様または減少した量で、増加したカロリー含有量を含む標準化高カロリーヒト乳製品である組成物が本明細書に提供される。本発明の組成物は、タンパク質を過剰供給することなくカロリーを増加させることによってこの問題を解決し、したがって、問題に対するより費用効果の高い解決策を提供する一方で、過剰なタンパク質消費に関連する考えられる肝臓及び/または腎臓機能障害も回避する。
【0067】
本開示は、ヒト乳組成物、ならびに手術を受けるか、または手術を受けた対象、及び基礎となる病態のために流体制限される対象に供給するために、そのような組成物を作製及び使用する方法を特徴とする。本明細書における特定のヒト乳組成物は、有用なカロリーが、大量の液体を必要とすることなく送達され得るように、タンパク質、脂肪、及び炭水化物の特有のバランスを提供する。ヒト乳組成物は、TPNの必要性を低減及び排除するために使用され得る。
【0068】
ヒト乳組成物
本明細書に記載されるヒト乳強化剤組成物は、ヒト全乳から生産される。本明細書で注目される組成物は、様々な量の栄養素、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、ビタミン、及びミネラル、ならびに他の乳成分を含有する。標準化ヒト乳製剤(ドナー乳または母親自身の乳を含む)は、所望される場合、ビタミン及び/またはミネラルで補充され得、手術を受けるか、または手術を受けた対象に経口的にまたは経腸的に供給され得る。これらの組成物を生成する方法は、組成物中の栄養素及びカロリーの量を最適化するように設計される。
ヒト乳強化剤
【0069】
本明細書で注目されるような高エネルギー/高脂肪ヒト乳強化剤を、ヒト乳または他の標準化ヒト乳製剤と混合して、手術を必要とするか、または手術から回復している乳児への投与に好適な強化ヒト乳製剤を生産することができる。本明細書に記載されるヒト乳強化剤は、表1に従って作製される。
【表1】
【0070】
本発明のいくつかの態様において、表1に記載される強化剤は、ヒト乳(乳児の母親自身の乳、ドナー乳、もしくは標準化ヒト乳組成物、例えば、Prolact-RTF(商標))、牛乳、または乳児用調合乳と混合される。しかしながら、強化剤は、好ましくは全ヒト乳(例えば、母乳、ドナー乳、またはProlact-RTF(商標))と混合される。一部の実施形態において、本明細書に記載されるヒト乳強化剤を、50:50の比でヒト乳と混合して、以下の表2に列挙される構成要素を含む混合物を得る。一部の実施形態において、本明細書に記載されるヒト乳強化剤を、70:30の比でヒト乳と混合して、以下の表3に列挙される構成要素を含む混合物を得る。一部の実施形態において、本明細書に記載されるヒト乳強化剤を、60:40の比でヒト乳と混合して、以下の表4に列挙される構成要素を含む混合物を得る。一部の実施形態において、ヒト乳強化剤は、牛乳と混合される。一部の実施形態において、本明細書に記載されるヒト乳強化剤を、50:50の比で牛乳と混合して、以下の表2に列挙される構成要素を含む混合物を得る。一部の実施形態において、本明細書に記載されるヒト乳強化剤を、70:30の比で牛乳と混合して、以下の表3に列挙される構成要素を含む混合物を得る。一部の実施形態において、本明細書に記載されるヒト乳強化剤を、60:40の比でヒト乳と混合して、以下の表4に列挙される構成要素を含む混合物を得る。一部の実施形態において、ヒト乳強化剤は、乳児用調合乳と混合される。一部の実施形態において、本明細書に記載されるヒト乳強化剤を、50:50の比で乳児用調合乳と混合して、以下の表2に列挙される構成要素を含む混合物を得る。一部の実施形態において、本明細書に記載されるヒト乳強化剤を、70:30の比で乳児用調合乳と混合して、以下の表3に列挙される構成要素を含む混合物を得る。一部の実施形態において、本明細書に記載されるヒト乳強化剤を、60:40の比でヒト乳と混合して、以下の表4に列挙される構成要素を含む混合物を得る。
標準化ヒト乳製剤
【0071】
本明細書で注目される標準化ヒト乳製剤は、手術を受けるか、または手術を受けた対象に対するTPNの必要性を低減及び排除するために使用される。これらの標準化製剤は、対象の成長及び発達のための様々な栄養成分を含む。
【0072】
例示的な標準化ヒト乳組成物は、表2、3、及び4に見出される。これらの標準化ヒト乳組成物は、ドナー乳から直接作製され、調乳済み製剤で供給され得るか、または適量の本明細書に記載される高脂肪ヒト乳強化剤を、ドナー乳、母親自身の乳、及びヒト乳、または牛乳及び乳児用調合乳を含む非ヒト乳の他の調乳済み標準化授乳製剤と混合することによって作製され得る。
【表2】

【表3】

【表4】
【0073】
注目される組成物の特定成分
本明細書で注目される乳組成物の1つの成分は、タンパク質である。体内で、タンパク質は、成長、酵素及びホルモンの合成、ならびに皮膚、尿、及び便から失われたタンパク質の置換に必要とされる。これらの代謝プロセスは、授乳中のタンパク質の総量及び特定アミノ酸の相対量両方の必要性を決定する。対象のための授乳中のタンパク質の量及び種類の適切性は、成長、窒素吸収及び保持、血漿アミノ酸、ある特定の血液検体、ならびに代謝応答を測定することによって決定される。
【0074】
本明細書に記載される乳組成物の別の構成要素は、脂肪である。脂肪は、一般に、その高カロリー密度だけでなく、溶液中のその低浸透圧活性のために、対象のためのエネルギー源である。
【0075】
ビタミン及びミネラルは、対象の適切な栄養及び発達に重要である。対象は、成長のため、及び酸-塩基均衡のために、電解質、例えば、ナトリウム、カリウム、及び塩化物を必要とする。これらの電解質の十分な摂取は、尿及び便中、ならびに皮膚からの喪失の置換にも必要とされる。カルシウム、リン、及びマグネシウムは、適切な骨石灰化及び成長に必要とされる。
【0076】
微量元素は、細胞分裂、免疫機能、及び成長に関連する。結果として、十分な量の微量元素は、対象の成長及び発達に必要とされる。重要ないくつかの微量元素には、例えば、銅、マグネシウム、及び鉄(例えば、ヘモグロビン、ミオグロビン、及び他の鉄含有酵素の合成に重要である)が含まれる。亜鉛は、例えば、成長のため、多くの酵素の活性のため、ならびにDNA、RNA、及びタンパク質の合成のために必要とされる。銅は、例えば、いくつかの重要な酵素の活性に必須である。マンガンは、例えば、骨及び軟骨の発達に必要であり、多糖類及び糖タンパク質の合成において重要である。したがって、本発明のヒト乳製剤及び組成物は、本明細書に記載されるように、ビタミン及びミネラルで補充され得る。
【0077】
ビタミンAは、例えば、成長、細胞分裂、視力、及び免疫系の適切な機能に必須の脂溶性ビタミンである。ビタミンDは、例えば、カルシウム、及びより低い程度でリンの吸収のため、ならびに骨の発達のために重要である。ビタミンE(トコフェロール)は、細胞内の多価不飽和脂肪酸の過酸化を防止し、故に組織損傷を防止する。葉酸は、例えば、アミノ酸及びヌクレオチド代謝において役割を果たす。
【0078】
上記のように、ヒト乳ビタミン及びミネラル濃度の変化性は、子供がビタミン及びミネラルの適正量を受容することを保証するために、いくらかの強化を必要とする場合が多い。本明細書で注目されるヒト乳組成物に添加され得るビタミン及びミネラルの例には、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸、ナイアシン、m-イノシトール、カルシウム、リン、マグネシウム、亜鉛、マンガネーゼ、銅、セレニウム、ナトリウム、カリウム、塩化物、鉄、及びセレニウムが含まれる。これらの組成物はまた、クロミウム、モリブデン、ヨード、タウリン、カルニチン、及びコリンで補充され得、補充を必要とする場合もある。
【0079】
本明細書で注目される標準化ヒト乳製剤の浸透圧は、組成物の吸着、吸収、及び消化に影響を及ぼし得る。例えば、約400mOsm/Kg H2Oを上回る高い浸透圧は、新生児に影響を及ぼす消化管疾患である、NECの増加した割合と関連付けられてきた(例えば、Srinivasan et al.,Arch.Dis.Child Fetal Neonatal Ed.89:514-17,2004を参照されたい)。本開示のヒト乳組成物の浸透圧は、典型的に、約400mOsm/Kg H2O未満である。浸透圧は、当該技術分野において既知の方法によって調整され得る。
ヒト乳組成物を作製する方法
【0080】
本明細書に記載されるヒト乳組成物は、全ヒト乳から生産される。ヒト乳は、乳児の母親から、または1人以上のドナーから入手され得る。ある特定の実施形態において、ヒト乳は、ヒト乳のプールを提供するためにプールされる。例えば、ヒト乳のプールは、2人以上(例えば、10人以上)のドナーからの乳を含む。別の例として、ヒト乳のプールは、1人のドナーからの2回以上の提供物を含む。
適格かつ選択されたドナーからヒト乳を入手する
【0081】
一般に、ヒト乳は、ドナーによって提供され、ドナーは、いかなる乳も加工される前にプレスクリーニングされ、承認される。様々な技法を使用して、好適なドナーを特定及び承認する。潜在的ドナーは、承認プロセスの一部として、自身の担当医及び子供の小児科医からリリースを得なければならない。これは、特に、ドナーが慢性疾患でないこと、及び子供が提供(複数可)の結果として罹患しないであろうことを保証するのを助ける。乳の回収及び分配を承認及び監視するための方法及びシステムは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第8,545,920号、同第7,943,315号、同第9,149,052号、同第7,914,822号、及び同第8,278,046号に記載されている。ドナーは、提供に対して補償されてもされなくてもよい。
【0082】
通常、ドナーのスクリーニングには、処方薬及び非処方薬の評価、薬物乱用の検査、及びある特定の病原体に関する検査を含む、包括的ライフスタイル及び病歴質問票が含まれる。ドナー乳または母乳は、例えば、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)、HIV-2、ヒトT-リンホトロピックウイルス1型(HTLV-I)、HTLV-II、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、及び梅毒に関してスクリーニングされ得る。これらの例は、スクリーニングされる考えられる病原体の網羅的一覧であることを意味しない。
【0083】
ドナーは、定期的に再承認され得る。再承認されないか、または承認不合格であるドナーは、承認されるときまで保留されるか、または再承認スクリーニングの結果によって保証される場合は永久に保留される。後者の状況において、そのドナーによって提供された全ての残りの乳は、インベントリーから除去され、破棄されるか、または研究目的でのみ使用される。
【0084】
ドナーは、指定された施設(例えば、母乳バンクオフィス)で提供するか、または好ましい実施形態において、自宅で搾乳することができる。ドナーが自宅で搾乳する場合、例えば、供給された温度計で冷凍庫内の温度を測定して、承認されるために、ヒト乳を保管するのに十分冷たいことを確認する。
ドナー識別検査
【0085】
一旦ドナーが承認されると、乳がドナーにより自宅で搾乳され、母乳バンク施設で収集されない場合があるため、提供されたヒト乳に対してドナー識別マッチングを行ってもよい。特定の実施形態において、各ドナーの乳は、遺伝子マーカー、例えば、DNAマーカーに対してサンプリングされ、乳が真に承認されたドナーからのものであることを保証することができる。そのような対象識別技法は、当該技術分野において既知である(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第7,943,315号を参照されたい)。乳は、検査結果を受領するまで保管され(例えば、-20℃以下)、隔離され得る。
【0086】
例えば、本明細書で注目される方法は、潜在的ヒト母乳ドナーから生物学的標準試料を入手するためのステップを含み得る。チークスワブ細胞試料、または採血試料、乳、唾液、毛根、または他の便宜的組織等であるが、これらに限定されないかかる試料は、当該技術分野において既知の方法によって入手され得る。標準ドナー核酸(例えば、ゲノムDNA)の試料は、乳、唾液、頬細胞、毛根、血液、及びインタクトな中間期核または中期細胞を有する任意の他の好適な細胞または組織試料が含まれるが、これらに限定されない任意の便宜的生物試料から単離され得る。試料は、固有の参照番号で標識される。試料は、試料を入手した時点、またはその頃に潜在的ドナーを識別することができる1つ以上のマーカーに関して解析され得る。解析結果は、例えば、コンピュータ可読媒体上に保管され得る。代替的に、または追加的に、後でマーカーを識別するために、試料を保管し、解析することができる。
【0087】
生物学的標準試料は、STR遺伝子座のSTR解析、HLA遺伝子座のHLA解析、または個々の遺伝子/対立遺伝子の複数遺伝子解析等の当該技術分野において既知の方法によって分類されたDNAであり得ることが企図される。標準試料のDNA型プロファイルは、例えば、コンピュータ可読媒体上に記録され、保管される。
【0088】
生物学的標準試料は、当該技術分野において既知の抗体または他の方法を使用して、自己抗原について検査し、自己抗原プロファイルを決定することができることがさらに企図される。抗原(または別のペプチド)プロファイルは、例えば、コンピュータ可読媒体上に記録され、保管され得る。
【0089】
ヒト乳の検査試料を、1つ以上の識別マーカーの識別のために採取する。提供されたヒト乳の試料を、ドナーの標準試料と同じマーカー(複数可)について解析する。生物学的標準試料及び提供された乳のマーカープロファイルを比較する。マーカー間のマッチ(及び任意の追加のマッチしないマーカーの欠失)は、提供された乳が、標準試料を提供した者と同じ個体に由来することを示す。マッチの欠失(または追加のマッチしないマーカーの存在)は、提供された乳が、未検査のドナーに由来するか、または未検査のドナーからの水分で汚染されているかのいずれかであることを示す。
【0090】
提供されたヒト乳試料及び提供された生物学的標準試料は、1つを超えるマーカーについて検査され得る。例えば、各試料は、複数のDNAマーカー及び/またはペプチドマーカーについて検査され得る。しかしながら、両方の試料は、各試料からのマーカーを比較するために、同じマーカーの少なくとも一部について検査される必要がある。
【0091】
故に、標準試料及び提供されたヒト乳試料は、異なる識別マーカープロファイルの存在について検査されてもよい。予想される対象からの識別マーカープロファイル以外の識別マーカープロファイルが存在しない場合、一般に、提供されたヒト乳を汚染する他のヒトまたは動物からの水分(例えば、乳)が存在しなかったことを示す。該対象に対して予想されるシグナル以外のシグナルが存在する場合、結果は、汚染を示す。かかる汚染は、その乳を検査不合格にする。
【0092】
標準試料及び提供されたヒト乳の検査は、提供施設及び/または乳加工施設で実行され得る。標準試料検査の結果は保管され、同じドナーによる今後のいかなる提供物に対しても比較され得る。
汚染物質及び混和物のスクリーニング
【0093】
乳はまた、病原体についても検査される。乳は、例えば、HIV-1、HBV、及びHCV等のウイルスを識別するために、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、遺伝子的にスクリーニングされる。様々な細菌種、真菌、及びカビについて培養を介してスクリーニングする微生物パネルを使用して、汚染物質を検出することもできる。例えば、微生物パネルは、好気性菌数、Bacillius cereus、Escherichia coli、Salmonella、Pseudomonas、大腸菌群、Staphylococcus aureus、酵母、及びカビについて検査することができる。具体的に、B.cereusは、低温殺菌を通じて除去することができない病原性細菌である。病原体のスクリーニングは、低温殺菌前及び低温殺菌後の両方に行われ得る。
【0094】
病原体のスクリーニングに加えて、ドナー乳は、薬物乱用(例えば、コカイン、アヘン、合成オピオイド(例えば、オキシコドン/オキシモルホン)、メタンフェタミン、ベンゾジアゼピン、アンフェタミン、及びTHC)ならびに/または非ヒトタンパク質等の混和物について検査されてもよい。例えば、ELISAを使用して、ウシタンパク質等の非ヒトタンパク質について乳を検査して、例えば、牛乳または牛乳乳児用調合乳が、例えば、ドナーが提供物に対して補償されるときに、提供量を増加させるためにヒト乳に添加されていないことを保証することができる。
【0095】
混和物には、ヒト乳提供物に添加されて、それにより、提供物がもはや非混和の純粋なヒト乳でなくなる任意の非ヒト乳液または充填剤を含む。スクリーニングされる特定の混和物には、非ヒト乳及び乳児用調合乳が含まれる。本明細書で使用される場合、「非ヒト乳」は、動物、植物、及び合成的に由来する乳を指す。非ヒト動物乳の例には、バッファロー乳、ラクダ乳、牛乳、ロバ乳、ヤギ乳、ウマ乳、トナカイ乳、ヒツジ乳、及びヤク乳が含まれるが、これらに限定されない。非ヒト植物由来乳の例には、アーモンドミルク、ココナッツミルク、ヘンプミルク、オーツミルク、ライスミルク、及び豆乳が含まれるが、これらに限定されない。乳児用調合乳の例には、牛乳調合乳、大豆調合乳、加水分解物調合乳(例えば、部分的に加水分解された調合乳または全体的に加水分解された調合乳)、及びアミノ酸または元素調合乳が含まれる。牛乳調合乳は、乳製品ベースの調合乳とも称され得る。特定の実施形態において、スクリーニング対象の混和物には、牛乳、牛乳調合乳、ヤギ乳、豆乳、及び大豆調合乳が含まれる。
【0096】
ヒト乳試料中の非ヒト乳タンパク質、例えば、牛乳及び大豆タンパク質を検出するために、当該技術分野において既知の方法が適応され得る。具体的に、ヒト乳中に見出されない、混和物中に見出されるタンパク質に特異的な抗体を用いるイムノアッセイを使用して、ヒト乳試料中のタンパク質の存在を検出することができる。例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、例えばサンドイッチELISAを使用して、ヒト乳試料中の混和物の存在を検出することができる。ELISAは、手動で行われ得るか、または自動化され得る。別の一般的なタンパク質検出アッセイは、ウェスタンブロットまたはイムノブロットである。フローサイトメトリーは、ヒト乳試料中の混和物を検出するために使用され得る、別のイムノアッセイ技法である。ELISA、ウェスタンブロット、及びフローサイトメトリープロトコルは、当該技術分野において周知であり、関連キットが商業的に入手可能である。ヒト乳中の混和物を検出するための別の有用な方法は、赤外線分光分析、具体的には、ミッドレンジフーリエ変換赤外線分光分析(FTIR)である。
【0097】
ヒト乳は、スクリーニング前にプールされ得る。一実施形態において、ヒト乳は、同じ個人からの1つを超える提供物からプールされる。別の実施形態において、ヒト乳は、2人以上、3人以上、4人以上、5人以上、6人以上、7人以上、8人以上、9人以上、または10人以上の個人からプールされる。特定の実施形態において、ヒト乳は、10人以上の個人からプールされる。ヒト乳は、2人以上の個人からのヒト乳を混合することによって、試料を入手する前にプールされてもよい。代替的に、ヒト乳試料は、それらが入手された後にプールされてもよく、それにより各提供物の残りを別個に保持する。
【0098】
スクリーニングステップは、混和物が、乳提供物の総量の約20%以上、約15%以上、約10%以上、約5%以上、約4%以上、約3%以上、約2%以上、約1%以上、または約0.5%以上でヒト乳試料中に存在する場合、陽性結果を生じることになる。
【0099】
提供されたヒト乳の、1つ以上の混和物についてのスクリーニングは、提供施設及び/または乳加工施設で実行され得る。
【0100】
混和物を含まないことが決定されたか、または混和物について陰性であると見出されたヒト乳が選択され、保管され、かつ/またはさらに加工され得る。混和物を含有するヒト乳は、破棄されることになり、ドナーは不適格とされ得る。例えば、同じドナーからの2つ以上のヒト乳試料中で混和物が見出される場合、ドナーは不適格とされる。別の実施形態において、同じドナーからの1つ以上のヒト乳試料中で混和物が見出される場合、ドナーは不適格とされる。
ヒト乳の加工
【0101】
一旦ヒト乳がスクリーニングされると、高脂肪製品、例えば、ヒトクリーム組成物を生産するために加工される。提供施設及び乳加工施設は、同じかまたは異なる施設であり得る。乳の加工は、大量のヒト乳、例えば、約75リットル/ロット~約10,000リットル/ロットの出発物質(例えば、約2,500リットル/ロット、または約2,700リットル/ロット、または約3,000リットル/ロット、または約5,000リットル/ロット、または約7,000リットル/ロット、または約7,500リットル/ロット、または約10,000リットル/ロット)で実行され得る。
【0102】
患者に栄養を提供するために、ヒト乳からの脂質を含む組成物を入手する方法は、2010年5月17日出願の米国特許第8,377,445号(2007年12月10日出願のPCT/US07/86973の国内段階移行)に記載され、それらの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
識別目的及び上記の汚染を回避する目的の両方で、ヒト乳が慎重に解析された後、その乳は、任意に、例えば約200ミクロンのフィルターによる濾過、及び熱処理のさらなる任意のステップを受け得る。例えば、組成物は、約63℃以上で約30分間以上処理され得る。次に、乳を分離器、例えば、遠心分離器に移し、上澄みからクリーム(すなわち、脂肪部分)を分離する。この上澄みは、濾過ステップまで、約2~8℃で維持される第2の加工タンクに移され得る。任意に、上澄みから分離したクリームを再度分離にかけて、さらなる上澄みを除去することができる。
【0104】
クリームと上澄みとの分離に続いて、上澄み部分を、さらなる濾過、例えば、超濾過に供する。このプロセスは、水を濾過して除くことによって、脱脂乳中の栄養素を濃縮する。濃縮中に得られた水は、透過液と称される。結果として得られる上澄み部分をさらに加工して、ヒト乳強化剤及び/または標準化ヒト乳製剤を生産することができる。
【0105】
ヒト乳強化剤(例えば、ヒト乳から生産され、様々な濃度の栄養成分を含有する、PROLACTPLUS(商標)ヒト乳強化剤(例えば、PROLACT+4(登録商標)、PROLACT+6(登録商標)、PROLACT+8(登録商標)、ならびに/またはPROLACT+10(登録商標))、及び強化剤の組成物を得るためのヒト乳の加工は、2007年11月29日出願の米国特許第8,545,920号に記載され、それらの内容全体が本明細書に組み込まれる。これらの強化剤を、授乳中の母親の乳に添加して、例えば、早産児のための乳の栄養素含有量を強化することができる。
【0106】
標準化ヒト乳製剤(PROLACT20(商標)及び/またはPROLACT24(商標)によって例示される)、ならびに製剤自体を入手する方法もまた、2007年11月29日出願の米国特許第8,545,920号において考察され、それらの内容全体が本明細書に組み込まれる。これらの標準化ヒト乳製剤を使用して、例えば、乳児に授乳することができる。それらは、栄養のあるヒト由来製剤を提供し、母乳の代替となり得る。
【0107】
ヒト乳組成物の使用
開示されるヒト乳組成物は、手術前の調整レジメン、外科的手技から生じる合併症、及び対象の身体的成長の要求と関連する増加した栄養要件を満たすのに十分なカロリーを提供するために、手術を受けるか、または手術を受けた対象に栄養を提供するために特に有用である。本発明の組成物は、乳児及び/または子供が経腸栄養を必要とする状況において有用である。TPNの供給は、手術を受けた対象に供給するためにしばしば使用される。しかしながら、TPNに関連する負の効果に起因して、経腸栄養が所望される。経腸栄養はまた、TPNと組み合わせることもできる。非経口栄養のためのヒト脂質の使用、経静脈栄養(例えば、完全非経口栄養)の実施は、それを必要とする患者について、米国特許第8,821,878号及び同第8,377,445号に記載され、各々の内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0108】
本開示の組成物及び方法は、手術前、手術後、または手術の前後に乳児に栄養を提供することにおいて有用である。
【0109】
手術前の授乳ガイドラインは、本発明のヒト乳組成物を、3時間毎に2.5mL/kg、1日当たり合計20mL/kgで提供することを含み得る。十分に耐える場合、キュー当たりの供給を、センターにおける標準慣行により最大量で増進させることができ、例えば、供給は、担当医によって決定される、最大で24時間毎に1日当たり20mL/kgだけ増進させることができ、例えば、最大供給は、1日当たり60mL/kgであり得る。
【0110】
手術後の授乳ガイドラインは、段階的なアプローチを含み得る。第1相は、担当医により準備ができたとき、1~5日の目標で1日当たり体重1kg当たり1mLで、本発明のヒト乳組成物による栄養供給の開始を含み得る。第1相はまた、20mL/kg/日での供給の開始を含んでもよく、24時間後に20~40mL/kg/日だけ継続して増進させる。第2相は、約60~約100mL/kg/日の目標に向かって増進させることを含み得る。供給の増進は、6~12時間毎に起こり得、第2相において完全供給への増進を伴う。一旦第2相が24時間耐えられると、第3相が始まり得る。第3相は、約130~約140mL/kg/日の目標に向かって10~20mL/kg増進させることを含み得る。第4相への増進は、第3相における耐性が最低24時間観察された後に起こり得る。段階的な強化は、第2相において24cal/ozで始める各相中に起こり得、ステップ3における26カロリー/ozからステップ4における28カロリー/oz、及び最後にはステップ4の完了時における30カロリー/ozへと増進する。不良な体重増加が示される場合、10~20mL/kg/日の追加の増進が利用され、体重増加に滴定され得る。当業者であれば、上記が例示的なプロトコルを表すこと、ならびにカロリー及び/または量増加の正確なタイミングは、遭遇する手術後の状況(例えば、腹壁破裂対心臓)または供給される対象(例えば、未熟児対正期産児対より年長の乳児対成人)に依存することを理解するであろう。
【0111】
本明細書で引用される全ての特許、特許出願、及び参考文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。別途定義されない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【実施例
【0112】
以下の実施例は、本開示を例証することが意図され、限定するものではない。
【0113】
実施例1
標準化ヒト乳及び強化剤製品
相当量を添加することなく、母親自身の乳またはドナー乳に所望量のカロリーを添加することができる栄養補助を提供するために、経腸的に送達され得、それによりTPNに関連する負の効果を回避する、ヒトクリーム組成物を生産した。以前にスクリーニングされ、承認されたドナーからのヒト乳を一緒に混合して、ドナー乳のプールを生成した。清潔な室内環境において、ドナー乳のプールを、特定の病原体及びウシタンパク質についてさらに検査した。具体的に、PCR検査を使用して、乳中のHIV-1、HBV、及びHCVの存在についてスクリーニングした。好気性菌数、Bacillius cereus、Escherichia coli、Salmonella、Pseudomonas、大腸菌群、Staphylococcus aureus、酵母、及びカビについて検査する、微生物パネルも行った。
【0114】
図1は、ヒト乳強化剤を生成する実施形態を示すチャートである。スクリーニングされ、プールされた乳を、例えば、約200ミクロンフィルターによる濾過(ステップ2)、及び熱処理(ステップ3)に供する。例えば、組成物は、約63℃以上で約30分間以上処理され得る。しかしながら、使用される方法に応じて、初期濾過及び/または熱処理ステップは省略されてもよい。ステップ4において、乳を分離器、例えば、遠心分離器に移し、上澄みからクリームを分離する。この上澄みは、濾過ステップまで、約2~8℃で維持される第2の加工タンクに移され得る(ステップ5)。
【0115】
任意に、ステップ4において上澄みから分離されたクリームを再度分離に供して、さらなる上澄みを得ることができる。
【0116】
クリーム及び上澄みの分離(ステップ4)に続いて、所望量のクリームを上澄みに添加し、組成物を、さらなる濾過(ステップ5)、例えば、超濾過に供する。このプロセスは、水を濾過して除くことによって、脱脂乳中の栄養素を濃縮する。濃縮中に得られた水は、透過液と称される。超濾過中に使用されるフィルターを後洗浄し、結果として生じる溶液を上澄みに添加して、得られる栄養素の量を最大化することができる。次いで、上澄みをクリームとブレンドし(ステップ6)、試料を解析のために採取する。プロセス中のこの時点で、組成物は、一般に、約8.5%~9.5%の脂肪、約3.5%~約4.3%のタンパク質、及び約8%~10.5%の炭水化物、例えば、ラクトースを含有する。
【0117】
ステップ4におけるクリームと上澄みとの分離後に、クリームは、保持タンク、例えば、ステンレス鋼容器に流入する。クリームを、そのカロリー、タンパク質、及び脂肪含有量について解析することができる。クリームの栄養成分含有量が既知である場合、クリームの一部分を、濾過、例えば、超濾過を経た上澄みに添加して(ステップ5)、作製される特定の製品に必要なカロリー、タンパク質、及び脂肪含有量を達成することができる。低温殺菌前にミネラルを乳に添加することができる。
【0118】
この時点で、加工組成物を、ミネラルの添加前に冷凍し、さらなる加工のために後に解凍することができる。使用しなかった余剰のクリームを、保管、例えば、冷凍することもできる。任意に、加工組成物を冷凍する前に、ミネラル解析のために試料を採取する。一旦加工乳のミネラル含有量が判明すると、組成物を解凍することができ(冷凍されていた場合)、所望量のミネラルを添加して、標的値を達成することができる。
【0119】
ステップ6及び/または任意の冷凍及び/またはミネラル添加後に、組成物を低温殺菌に供する(ステップ7)。例えば、この組成物を、白金硬化シラスチック管を介して高温短時間(HTST)低温殺菌装置に接続された加工タンクに入れることができる。低温殺菌後に、乳を第2の加工タンクに収集し、冷却することができる。当該技術分野において既知の他の低温殺菌方法が使用され得る。例えば、静止低温殺菌において、タンク内の乳を最低63℃に加熱し、最低30分間はその温度で保持する。乳の上の空気は、乳の温度より少なくとも3℃上に蒸気加熱される。一実施形態において、製品温度は、約66℃以上であり、製品の上の空気温度は、約69℃以上であり、製品は、約30分間以上低温殺菌される。別の実施形態において、HTST及び静止低温殺菌の両方が行われる。
【0120】
結果として得られた強化剤組成物は、一般に、無菌で加工される。約2~8℃に冷却した後、製品を所望の容量の容器に充填し、栄養及びバイオバーデン解析のために強化剤の様々な試料を採取する。栄養解析は、組成物の適切な含有量を保証する。栄養解析を反映するラベルが、各容器に生成される。バイオバーデン解析は、汚染物質の存在、例えば、総好気性菌数、B.cereus、E.coli、Coliform、Pseudomonas、Salmonella、Staphylococcus、酵母、及び/またはカビについて検査する。バイオバーデン検査は、遺伝子検査であり得る。
【0121】
一旦解析が完了し、所望の結果が得られると、製品は包装され、出荷される。
【0122】
実施例2
手術を受ける乳児に対するヒト乳製品の使用
無作為化対照試験は、外科的修復の後に早期栄養強化を伴う排他的ヒト乳ダイエットを与えられた、単心室生理学を有する乳児の成長速度及び臨床転帰を評価するために行われる。本明細書に記載される方法及び臨床プロトコルは、7日齢以下の正期産児に対して行われるが、当業者は、組成物及び方法が、より年長の子供、成人、及び早産児に好適であろうことを理解するであろう。
【0123】
米国において、1年当たり約40,000件の出生が、先天的に奇形の心臓に関連している。単心室生理学を有する乳児(全CHDの約15%)は、特にステージ間中の最初の緩和手術後、短期及び長期両方の成長の観点から重大な課題に直面する(Anderson JB,Iyer SB,Schidlow DN et al.Variation in Growth of infants with single ventricle.J Pediatrics 2012;161:16-21)。
【0124】
現在、標準ケアは、乳児がほぼ完全供給になるまで、非強化ヒト乳または調合乳を、かかる乳児に供給することである。強化ヒト乳の早期供給は、早産児等の成長障害の危険性が最も高い新生児集団における成長を改善することが示されている(Cristofalo EA,Schanler RJ,Blanco CL,et al.Randomized trial of exclusive human milk versus preterm diets in extremely premature infants.J Pediatrics,doi:10.1016/j.jpeds.2013.07.011,2013.Hair AB,Hawthorne KM,Chetta KE,Abrams SA.Human milk feeding supports adequate growth in infants≦1250 grams birth weight.BMC Res Notes,2013,6:459.Doi:10.1186/1756-0500-6-459)。加えて、100%ヒト乳ダイエットを与えられた超未熟児(出生時体重<1250g)が、任意の牛乳ベースの成分を含有するダイエットを与えられた赤ちゃんよりも、著しく良好な臨床転帰、例えば、NECの発生率及び経静脈栄養に費やす時間(TPN)の減少を示すことは、過去数年にわたって十分に実証されてきた。現在、全ての参加センターは、単心室生理学的心欠損を有する正期産児が、牛乳由来の製品(強化剤/調合乳)を用いる強化を介して、増加したカロリー摂取を必要とするため、そのような正期産児において排他的ヒト乳ダイエットを用いていない。成長パターンは、標準栄養プロトコルが使用されるときと同様であるが、はるかにより侵襲的なプロトコルが、100%ヒト乳ダイエットで可能であり、同様の栄養量で改善された成長をもたらす(Hair,2013)。
【0125】
この単盲検(医師研究者)、無作為化対照試験において、我々は、出生後の最初の入院中、及び30日の手術後修復授乳期間または退院のいずれか早い方で、排他的ヒト乳ダイエットを与えられた単心室生理学を有する乳児における成長速度及び臨床転帰を評価する。
【0126】
研究集団は、経腸栄養が、存在する場合、研究登録前に排他的ヒト乳ダイエットからなり、生後1ヶ月以内に外科的緩和を必要とする、単心室心臓生理学を有する7日齢以下の乳児を含む。
【0127】
対象は、出生時または胎児期ケアが出生前に得られなかった場合は診断後すぐに、2つの群のうちの1つに無作為化される(以下でより詳細に記載される)。乳児の研究参加を辞退する親には、施設の慣行に従って治療及び授乳される乳児に関するデータ収集への同意を求める。かかる個人のデータを要約し、実際の試験結果と比較して記述的に評価する。無作為化され、心臓修復を受けたいかなる乳児も、除外基準が後に発見されるとしても介入を継続する(すなわち、マイクロアレイが、22q11欠失について陽性に戻る)。その乳児の最善の利益でない場合(すなわち、乳び胸、NEC)、乳児は研究を終える。
【0128】
全ての患者は、無作為化前に排他的ヒト母乳またはヒトドナー乳を受ける。一旦無作為化されると、第1群の患者は、手術前、及び外科的修復後の30日の授乳期間、または退院までのいずれか早い方で、排他的ヒト乳ダイエットを受ける。1日目は、手術後の最初の経腸栄養の日として定義される。第2群(対照群)の患者は、手術前の期間にヒト母乳または調合乳またはヒトドナー乳を(各病院における標準ケアに従って)受ける。手術後の期間中、対照群は、授乳アルゴリズムに従って、ヒト乳または調合乳を受ける。
【0129】
第1の目的は、出生から外科的修復後の30日の授乳期間にわたって、または退院までのいずれか早い方で、排他的ヒト乳ダイエットを与えられた単心室生理学を有する乳児について、手術後の供給の開始後30日目の成長速度(体重速度[g/kg/日]及びWHO成長チャートからの体重zスコア)を評価することである。1日目は、手術後の最初の経腸栄養の日として定義される。
【0130】
第2の目的は、手術後の期間の最初の6ヶ月間にわたって、または第2ステージの緩和手術前のいずれか早い方で、線形成長率(cm/週及びWHO成長チャートからのzスコア)ならびに増分頭囲成長率(cm/週及びWHO成長チャートからのzスコア)等の二次成長尺度に関する排他的ヒト乳ダイエットの役割を評価することである。追加の二次尺度は以下を含む。1)手術後の経腸栄養期間(1日目は、術後授乳の初日である)の30日目における少なくとも24時間の絶飲食(NPO)として定義される授乳不耐性。待機手術または手技に起因するNPOは、授乳不耐性として定義されない。2)術後の入院期間及び集中ケア/心臓ユニットにおける滞在期間、3)30日の術後期間における重要な病的状態、例えば、
○確認された敗血症の発生率(血液の培養物からの原因となる生物の単離に関連する敗血症と一致する臨床徴候及び症状として定義される)。感染の確定的証明は、以下のうちの1つ以上を含まなければならない。1)陽性血液培養物(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌[CoNS]の症例において、時期的及び物理的に分離された少なくとも2つの陽性培養物を必要とする。)2)陽性尿培養物、3)陽性CSF培養物。このエンドポイントの目的で、培養証明された敗血症のみが解析において評価される。各患者に対して採取された培養物の数を記録して、「疑わしい敗血症」対「確認された敗血症」の事象数に関してデータを収集する。
○ベルの基準及び外科的介入が必要であったか否かに従って、ステージII以上として定義される、壊死性腸炎(NEC)
○CDC外科的部位の感染により定義される、創傷感染
感染は、任意の手術手技後30日以内に起こり、切開部の皮膚及び皮下組織のみを巻き込み、以下のうちの少なくとも1つを有する。a)化膿性排液、b)臨床診断または治療の目的で行われる(調査ではない)培養または非培養ベースの微生物学的試験方法によって、表面的切開または皮下組織から無菌的に入手された標本から特定された生物、c)執刀医/担当医によって意図的に開かれる表面的切開、及び患者が以下の兆候または症状、疼痛もしくは敏感性、局在化膨張、紅斑、または熱のうちの少なくとも1つを有する、d)執刀医または担当医による表面的切開SSIの診断。細胞炎、縫合部膿瘍単独、または局在化ピン部位感染は、適格とされない。深部軟組織を巻き込む場合、深いと分類する(筋膜及び筋肉層)。
○介入を必要とする創傷離開(創傷vac)
○30日の手術後期間における非経口栄養(PN)の日数
【0131】
発達転帰は、18~24ヶ月におけるBayley IIIスコアに基づいて評価される。
【0132】
日常的な心内視鏡によって評価される、心臓解剖学及び生理学的リスク因子に関するデータは、術前期間から18~24ヶ月評価までの研究期間全体にわたって定期的に(理想的には、最初の手術前、第2ステージ緩和手術前、標準ケアとして得られた場合は手術後1週間以内、及び18~24ヶ月に)収集される。これは、先天性心臓解剖学的サブタイプ、優性心室機能の定性的評価、AV弁閉鎖不全症の定性的評価、全身流出閉塞(大動脈狭窄または縮窄)の程度、大動脈不全の程度、及び残留肺静脈閉塞の存在に関するデータを含んでいた。
【0133】
品質目的には、退院後3ヶ月、6ヶ月、及び18~24ヶ月のフォローアップ訪問におけるヒト乳ダイエットの期間が含まれる。
【0134】
支持変数には、出生から外科的修復までの時間、心臓再手術の必要性、介入的心臓カテーテルの必要性、任意の非心臓手術のデータ収集、及び体外膜型酸素供給(ECMO)、ならびに主要なSTSの罹患率/合併症が含まれた(Jacobs ML,O′Brien SM,et al.An empirically based tool for analyzing morbidity associated with operations for congenital heart disease.J Thorac.Cardiovasc.Surg.2013;145:1046~1057)。局所STSデータベースマネージャにより定義される主要なSTS罹患率/合併症には、ペースメーカー(PM)を必要とする完全心ブロック(CHB)、縫縮術を必要とする隔膜麻痺、退院時の気管切開、透析を必要とする腎不全、退院時に持続する新たな術後神経障害、術後の機械循環補助の必要性、予定外の再手術が含まれる。
【0135】
加えて、1週間に1回供給されるヒト乳の試料(任意の強化の前日に供給物を調製するために解凍された4mLの母乳またはドナー乳)を、微量栄養素含有量(カロリー、タンパク質、炭水化物、及び脂肪)について試験する。1日当たりの直接授乳の頻度は、研究介入中に記録される。患者が母乳を与えられる期間は、フォローアップ訪問時に記録される。
【0136】
早期の強化及びより良好な授乳耐性の結果として、乳児は、改善された成長及び創傷治癒を有し、排他的ヒト乳ダイエットの免疫学的及び抗炎症性利益に加えて、術後修復時に起こる合併症が低減される。全体入院期間及び長期入院の関連費用が減少される。さらに、確認された敗血症の発生率及びNEC等の他の罹患率が低くなる。
【0137】
術前の供給管理
【0138】
1.供給の準備性は、臨床医チームにより決定される。センター間で標準化するための試みにおいて経腸栄養を開始することを考慮する基準は、1)血行動態的に安定した(担当医による安定したバイタルサイン)妥当な尿排出(>2mL/kg/時間)及び試験による良好な潅流、2)安定した乳分泌レベルまたは塩基欠乏に基づく最小アシドーシスまたは無アシドーシス、3)血管作動性補助を受けないか、または低血管作動性補助を少なくとも12時間受けること。ミルリノン及びドーパミン≦3mcg/kg/分またはエピネフリン≦0.03mcg/kg/分上であり得る。プロスタグランジン(PGE1)を受ける場合はOKであり、代わりにUACまたはUVCの場合がOKである。Wernovsky変力物質スコアは、情報目的で算出される(Wernovsky et al.,1995)。これらの基準に従わないことは、プロトコルの違反と見なされない。
【0139】
2.十分な耐性が、センターにおける標準慣行により最大量でキュー当たりのPO供給を増進させ得る場合、PO供給(20mL/kg/日)を開始する。
【0140】
3.PO供給に関与していないが、上記基準を満たす場合、NPOを維持するか、またはOG、NG、またはNJにより、栄養供給を(20mL/kg/日)で開始することができる。
【0141】
4.無作為化後の供給の種類:乳児が第1群(研究群)である場合、乳児は、ヒト母乳またはヒトドナー乳を受ける。乳児が第2群である場合、乳児は、各病院における標準ケアにより、ヒト乳(母乳もしくはドナー乳)または調合乳(任意のTERM調合乳20cal/oz)を受ける。研究コーディネータ、栄養士、及びダイエットテク(dietary techs)は、群の割り当てに対して非盲検となる。担当医、研修医、フェロー、正看護師(RN)、准看護師(APN)を含めた全ての治療臨床医は、群の割り当てに盲検のままである。
【0142】
手術前に供給しない基準には、以下が含まれる。1)治療する医師によって決定される、供給困難または運動不全等の他の腸疾患(腹囲、嘔吐、わずかな腸音、規則的な排便の履歴で48時間を超える無便、病院での標準慣行によりNG供給する場合の増加した胃残留物を含み得る)(NECまたは腸の外科的介入を有する乳児は研究から除外する)、及び2)術前ショック及び/または多臓器不全の履歴を有する乳児(以下の積極的診断のうちの少なくとも2つで診断される:急性管状壊死、凝固異常を伴う急性肝不全、腸出血)。臨床医は、術前ショック及び多臓器不全が、供給しないために十分に重篤であるかどうかを決定する。
【0143】
術後の供給管理
【0144】
1.供給の準備性は、臨床医チームにより決定される。センター間で標準化するための試みにおいて経腸栄養を開始することを考慮する基準は、1)血行動態的に安定した(担当医による安定したバイタルサイン)妥当な尿排出(>2mL/kg/時間)及び試験による良好な潅流、2)安定した乳分泌レベルまたは塩基欠乏に基づく最小アシドーシスまたは無アシドーシス、3)血管作動性補助を受けないか、または低血管作動性補助を少なくとも12時間受けること。ミルリノン及びドーパミン≦3mcg/kg/分またはエピネフリン≦0.03mcg/kg/分上であり得る。プロスタグランジン(PGE1)を受ける場合はOKであり、代わりにUACまたはUVCの場合がOKである。Wernovsky変力物質スコアは、情報目的で算出される(Wernovsky et al.,1995)。これらの基準に従わないことは、プロトコルの違反とは見なされない。
【0145】
2.供給量、種類、強化、及び増進については、手術後の授乳アルゴリズムに従う(図2)。簡潔には、強化は、排他的ヒト乳群において60mL/kg/日で開始され、対照群は、手術後期間中に参加施設における通常のケアにより強化を開始する(約100mL/kg/日であると予想される)。
【0146】
3.供給を保持/増進させるための授乳不耐性アルゴリズムに従って提唱する(図3)。供給は、医師の裁量において保持され得、アルゴリズムに従わないことは、プロトコルの逸脱とは見なされない。
【0147】
手術後に供給しない基準には、以下が含まれる。1)治療する医師によって決定される、供給困難または運動不全等の他の腸疾患(腹囲、嘔吐、わずかな腸音、規則的な排便の履歴で48時間を超える無便、病院での標準慣行によりNG供給する場合の増加した胃残留物を含み得る)(NECまたは腸の外科的介入を有する乳児は研究から除外する)、2)術後ショック及び/または多臓器不全の履歴を有する乳児(以下の積極的診断のうちの少なくとも2つで診断される:急性管状壊死、凝固異常を伴う急性肝不全、腸出血)。臨床医は、術前ショック及び多臓器不全が、供給しないために十分に重篤であるかどうかを決定する。ならびに3)乳び胸の存在。研究中に発症した場合、乳児はプロトコルから外される。
【0148】
ある特定の量における供給及び強化の種類は、プロトコル主導である。特定の術後栄養プロトコルは、1年、1年超、2年超、3年超、4年超、5年超、及び5年より長い任意の期間で与えられる。本明細書に記載される方法のうちのいずれかの特定の実施形態において、治療レジメンは、対象にハロゲン化合物、例えば、ヨードを生涯にわたって提供することを含む。臨床医は、経腸量、1日当たり乳児に与えられる頻度、及び経路(PO/NG/NJ)を決定する。順序は、プロトコルによる供給及び強化の種類を読むべきである。そうでなければ、本研究は、単心室生理学を有する患者の医療的及び/または外科的管理を変更しないであろう。
【0149】
治験群及び対照群の両方において、TPNは、担当医師に従って必要に応じて、手術前及び手術直後の両方の期間において与えられる(提唱されるTPNアルゴリズムについては、図4を参照されたい)。毎日与えられるTPNの量は、量、kcal、及びタンパク質に関して記録される。この全体無作為化プロセスは、研究センターの各々で行われる。
【0150】
研究群間の無作為化は、混錬ブロック無作為化スキームを使用して行われる(ブロックサイズは、研究者には盲検のままである)。既定の無作為化表は、研究統計者によって各研究施設に提供され、これは、患者評価に関与しない各施設における個人に与えられる。無作為化は、乳児が研究に登録されるとすぐに行われる。研究の割り当ては、授乳アルゴリズムに従い、適切な乳の強化及び種類が各患者に提供されるのを保証するために、研究コーディネータ、栄養士、及びダイエットテクに開示される。担当医、研修医、フェロー、RN、APNを含めた全ての治療臨床医は、群の割り当てに対して盲検のままであるが、強化のステージは、要求に応じて開示される(術後授乳アルゴリズムにおいて定義されるステージ、図2)。
【0151】
乳児は、30日間または退院までのいずれか早い方でこの授乳アルゴリズムに残る。一旦退院が見込まれると、ヒトドナー乳及び強化剤からの移行が始まり、離乳表に従う(図5)。一旦乳児が完全にヒト乳強化剤(Prolacta製品)から離れると、個々の施設の慣行に従って最小24kcal/ozを提供するように調合乳/HMFが添加され、強化は、担当医により調整され得る。対照群(研究群1)の場合、調合乳/HMFを既に受けているため、退院調合乳への移行は起こらない。一旦乳児が介入から離れると、強化は、担当医により調整され得る。
【0152】
退院授乳レジメンへの移行は、図5に要約され、厳密にヒト乳群の乳児に対してのみ必要とされる。5日以内に退院が見込まれる場合、下記の授乳チャートに従い、DBM(ドナー母乳)からの移行を始める。任意に、3日目の移行はスキップしてもよい。EBM(搾乳された母乳)が入手可能である場合、TERM調合乳で24kcal/ozに強化されたEBMに移行する。標準ケアが、その施設においてヒトドナー乳で退院することである場合、それが使用され得る。EBMが入手可能でない場合、24kcal/ozに強化されたTERM調合乳に移行する。使用されるTERM調合乳は、栄養士または心臓チームによって施設毎に選択され得る。介入期間中の最小濃度は20cal/ozである。直接授乳は、施設毎の授乳レジメンに組み込まれ得る。
【0153】
実施例3
統計解析
定量的データは、平均±標準偏差及び/または中央値±四分位数範囲を使用して要約され、定性的データは、比率及びパーセンテージを使用して要約される。
【0154】
研究の一次エンドポイントは、外科的修復後の30日の経腸栄養期間または退院までのいずれか早い方の体重速度(g/kg/日)、ならびに手術後の最初の6ヶ月における(または第2の緩和手術の前の)体長(cm/週)及び頭囲成長(cm/週)を含む。
【0155】
実験群及び対照群は、各症例においてウィルコクソン順位和検定を使用して比較される。体重速度(g/kg/日)の算出は、Patel et al.(2009)により提案される方法に基づく。体長及び頭囲速度の算出は、最初の読み取り値から関連期間において得られた最後の値までの測定値の変化を、時間枠(週)で除算することに基づく。
【0156】
任意の授乳不耐性の発生率、確認された敗血症、NEC、創傷感染、及び創傷離開を、フィッシャーの直接検定を使用して研究群間で比較する。これらの解析は、これらの転帰が起こったか否かのみを見るが、複数の発生がある場合、その比率は、ポアソン率の2試料直接検定を使用して(プログラムStatXact 11において見出されるアルゴリズムに基づいて)評価される。
【0157】
入院期間、集中ケア/心臓ユニットにおける滞在期間、及び術後期間における非経口栄養の日数は、ウィルコクソン順位和検定を使用して比較される。しかしながら、これらの変数のうちのいずれかにおいて何らかの打ち切りがある場合(例えば、乳児が移行される、または死亡する場合)、データは、カプラン・マイヤー推定スキームを使用して評価され、対数順位検定と比較される。
【0158】
多変動回帰モデル(定量的変数に対する線形、打ち切られたデータに対するコックス比例ハザード、定性的データに対するロジスティック、及びカウントデータに対するポワソン)を、二次調整された解析において使用して、既定の関連共変数を説明することができる(すなわち、出生時体重、性別、外科手技の種類等)。全ての解析において、有意性は、0.05未満の任意のp値に対して宣言され、複数のエンドポイントの調節を伴わない。
【0159】
発達転帰に関して、18~24ヶ月におけるベイリースコアは、ウィルコクソン順位和検定を使用して比較される。
【0160】
調査目的のために、エコー心拍記録から得られた様々な定量的尺度は、ウィルコクソン順位和検定を使用して評価され、均質性についてはフィッシャーの直接検定(二分法データ)またはカイ二乗検定のいずれかを使用して、多分法転帰についてはp値の正確な計算(StatXact 11)を使用して群間で比較される。
【0161】
品質の目的で、3ヶ月及び6ヶ月(±2週間)ならびに18~24ヶ月のフォローアップ訪問における退院後の排他的ヒト乳ダイエットの期間は、ウィルコクソン順位和検定によって個々に評価される。しかしながら、情報が特定の時間に完全に知られていない場合、打ち切りのために対数順位検定が使用される。
支持変数に関して、出生から外科的修復までの時間は、ウィルコクソン順位和検定を使用して解析される。再手術の必要性は、フィッシャーの直接検定を使用して群間で比較される。
図1
図2
図3
図4
図5