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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】アデノウイルスの熱不活性化の方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/04 20060101AFI20230927BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
C12N7/04
C12N15/864 100Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018550814
(86)(22)【出願日】2017-03-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 US2017024545
(87)【国際公開番号】W WO2017172772
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】62/314,116
(32)【優先日】2016-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513252910
【氏名又は名称】ウルトラジェニックス ファーマシューティカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】モリソン, クリストファー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】マラット, ジェイムズ ディー.
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】上條 肇
【審判官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-529917(JP,A)
【文献】米国特許第5688676(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00 - 7/08
C12N 15/00 - 15/90
CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIDX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルパーウイルス粒子、アデノ随伴ウイルス粒子、および緩衝液を含有する試料中のヘルパーウイルスを不活性化する方法であって、
該試料を、1分から6時間の間、45℃を超えるまたはそれに等しい温度まで加熱すること
を含み、該緩衝液が、25mM~500mMの濃度の二価カチオンを含む、方法。
【請求項2】
前記試料が、45℃から65℃の間、45℃から60℃の間、45℃から55℃の間、47℃から53℃の間の温度まで、または48℃もしくは49℃の温度まで加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が、10分から180分の間、20分から180分の間、20分から60分の間、または20分から40分の間の期間、前記温度に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
3.7またはそれを超えるヘルパーウイルスの対数減少をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アデノ随伴ウイルス粒子が、4.7kbを超えるDNA、およそ5.1kbのDNA、およそ4.7kbのDNA、4.0kb未満のDNA、またはおよそ3.0kbのDNAのゲノムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アデノ随伴ウイルス粒子が、実質的に自己相補性であるゲノムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記緩衝液が、カオトロピック塩をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記カオトロピック塩が、尿素の塩またはグアニジンの塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記緩衝液が、グリセロール、プロピレングリコール、および1,6-ヘキサンジオールを含む群から選択されるポリオールをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記緩衝液が、4℃から70℃の間の温度においてpHを3.0から10.0の間または7.0から9.0の間に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記緩衝液が、40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、および0.001%(w/v)Pluronic F68をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記緩衝液が、トリス緩衝液、リン酸緩衝液またはトリアゾールアミン緩衝液である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ヘルパーウイルスが、アデノウイルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
アデノウイルスが、Ad5である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
価カチオンの前記濃度が、50mMを超える、100mMを超える、200mMを超える、30mM~300mMである、50mM~250mMである、または70mM~200mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記緩衝液が、25mM~500mMの濃度の、M2+、Ca2+、Mn2+、Ni2+、Zn2+、Co2+、Sr2+、Cu2+およびCr2+からなる群から選択される金属の二価カチオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記カチオンが、Mg2+である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記緩衝液が、10mMまたはそれを超える濃度の、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸カリウム、および塩化セシウムを含む群から選択されるコスモトロピック塩をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記緩衝液が、10mMまたはそれを超える濃度の硫酸アンモニウムを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
コスモトロピック塩の前記濃度が、0.1M~1M、0.2M~0.8M、0.3M~0.7M、0.4M~0.6Mまたは0.5Mである、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2016年3月28日に出願され、「アデノウイルスの熱不活性化の方法」という表題である米国仮特許出願第62/314,116号に対する優先権および利益を主張すし、その全開示が本明細書に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、非病原性の複製欠損パルボウイルスである。AAVベクターは、それらを遺伝子治療のためのベクターとして魅力的なものとする多くの独特の特徴を有する。特に、AAVベクターは、分裂細胞および非分裂細胞に治療遺伝子を送達することができ、これらの遺伝子は、標的細胞のゲノムに組み込まれることなく、長期間存続することができる。しかしながら、AAVベクターを産生するためには、ヘルパーウイルス機能が、時にはアデノウイルス(AV)などの活性感染性ウイルスの形態で提供されなければならない。治療用AAVベクターを単離するためのAAVベクター精製プロセスの間、ヘルパーウイルス粒子は不活性化されなければならない。しかしながら、ヘルパーウイルス不活性化の一般的方法、例えば、熱不活性化は、AAVベクターゲノムの破壊または分解ももたらし、不活性化プロセスから回収されうるAAVベクターの質および量を減少させうる。これは、より大きなAAVベクターゲノムについては特に当てはまる。したがって、ヘルパーウイルスの熱不活性化の間にAAVベクターの完全性を保護する方法を開発することが当分野において必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、一般に、熱不活性化の間に、AAV粒子およびヘルパーウイルス粒子の両方を含有する試料中のAAVウイルス粒子のゲノムの完全性および/または生物学的活性を保護する方法に関する。これらの方法は、一般に、AAV粒子に対するその効果よりも大きな効果をヘルパーウイルス粒子に対して有することにより、ヘルパーウイルス粒子の選択的不活性化を可能とする。方法は、ヘルパーウイルス粒子、AAV粒子および緩衝液を含有する試料を、45℃を超えるまたはそれに等しい温度まで加熱することを含む。緩衝液は、10mMもしくはそれを超える濃度のコスモトロピック塩および/または10mMもしくはそれを超える濃度の二価もしくは三価カチオンを含む。
【0004】
方法は、45℃を超えるまたはそれに等しい、46℃を超えるまたはそれに等しい、47℃を超えるまたはそれに等しい、48℃を超えるまたはそれに等しい、49℃を超えるまたはそれに等しい、50℃を超えるまたはそれに等しい、または51℃を超えるまたはそれに等しい温度まで試料を加熱することを含む。ある特定の実施形態では、試料は、45℃から65℃の間、45℃から60℃の間、45℃から55℃の間、47℃から53℃の間、48℃から51℃の間または48℃から50℃の間の温度まで加熱される。例えば、ある特定の実施形態では、試料は、48℃から50℃の間まで、あるいは48℃または49℃まで加熱される。
【0005】
試料が加熱される間の期間は変動しうる。例えば、ある特定の実施形態では、試料は、1分から6時間の間、例えば、10から180分の間、20から180分の間、20から60分の間または20から40分の間の期間、標的温度に加熱される。一般に、より高い温度またはヘルパーウイルス粒子の不活性化を促進する他の条件が、比較的短い加熱時間とともに使用され、逆もまたしかりである。
【0006】
一部の方法では、10mMまたはそれを超える濃度の二価または三価金属カチオンを含有する緩衝液が使用される。例示的なカチオンには、以下の金属:Mg、Ca、Mn、Ni、Zn、Co、Sr、Cu、Cr、FeおよびScが含まれ、これらは、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Ni2+、Zn2+、Co2+、Sr2+、Cu2+、Cr2+およびSc3+などのカチオンを形成する。ある特定の実施形態では、緩衝液は、10mMまたはそれを超える濃度のMg2+および/またはCa2+を含む。
【0007】
10mMまたはそれを超える濃度の二価または三価金属カチオンを含有するこれらの緩衝液のサブセットにおいて、濃度は15mMを超える。例えば、カチオンの濃度は、20mMを超える、50mMを超える、100mMを超える、または200mMを超えうる。10mMまたはそれを超える濃度の二価または三価金属カチオンを含有する緩衝液の別のサブセットにおいて、濃度は、10mMから500mMである。例えば、カチオンの濃度は、20mM~400mM、30mM~300mM、50mM~250mM、70mM~200mM、または50mM、100mM、150mMもしくは200mMの濃度でありうる。
【0008】
一部の方法では、10mMまたはそれを超える濃度のコスモトロピック塩を含む緩衝液が使用される。例示的なコスモトロピック塩としては、個別にまたは任意の組合せのいずれかで硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸カリウム、および塩化セシウムが挙げられる。存在する場合、コスモトロピック塩は、典型的に、0.1Mから1Mの間;0.2Mから0.8Mの間;0.3Mから0.7Mの間;0.4Mから0.6Mの間;または0.5Mなどの、10mMを超える濃度で使用される。
【0009】
一部の方法では、使用される緩衝液は、カオトロピック塩を含有する。カオトロピック塩を含有する緩衝液のサブセットにおいて、カオトロピック塩は、尿素の塩またはグアニジンの塩である。一部の方法では、使用される緩衝液は、ポリオールを含有する。ポリオールを含有する緩衝液のサブセットにおいて、ポリオールは、グリセロール、プロピレングリコール、または1,6-ヘキサンジオールである。
【0010】
一部の方法では、緩衝液は、4℃から70℃の間の温度の範囲にわたってpHを維持する。緩衝液のサブセットは、4℃から70℃の間の温度においてpHを3.0から10.0の間に維持する。これらの緩衝液のさらなるサブセットは、4℃から70℃の間の温度においてpHを7.0から9.0の間に維持する。
【0011】
一部の方法では、緩衝液は、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、トリアゾールアミン緩衝液、またはビス-トリスプロパン緩衝液である。トリスおよびビス-トリスプロパン緩衝液のサブセットにおいて、緩衝液は、HEPES、シトレート、NaCl、およびPluronic F68を含む追加の成分を含む。ビス-トリスプロパン緩衝液のサブセットにおいて、緩衝液は、40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、および0.001%(w/v)Pluronic F68を含む。
【0012】
本明細書に開示される方法は、任意のAAV粒子のゲノムの完全性を保存するのに有用である。一部の方法では、AAV粒子は、およそ4.7kbのDNA、4.7kbを超えるDNA、5.0kbを超えるDNA、またはおよそ5.1kbのDNAのゲノムを含む。代替的に、AAV粒子は、4.0kb未満のDNA、またはおよそ3.0kbのDNAのゲノムを含みうる。本明細書に開示される方法は、一本鎖であるかまたは実質的に自己相補性であるゲノムを含むAAV粒子とともに使用されうる。
【0013】
本発明の不活性化の一部の方法は、活性ヘルパーウイルスの5.0を超える対数減少を達成する。これらの方法のサブセットは、ヘルパーウイルスの6.0を超える、または6.3を超える対数減少を達成する。一部の方法では、ヘルパーウイルスは、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはバキュロウイルスである。ヘルパーウイルスがアデノウイルスである方法のサブセットにおいて、アデノウイルスはAd5である。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
ヘルパーウイルス粒子、アデノ随伴ウイルス粒子、および緩衝液を含有する試料中のヘルパーウイルスを不活性化する方法であって、
該試料を、45℃を超えるまたはそれに等しい温度まで加熱すること
を含み、該緩衝液が、10mMもしくはそれを超える濃度の二価もしくは三価カチオン、または10mMもしくはそれを超える濃度のコスモトロピック塩を含む、方法。
(項目2)
前記試料が、45℃から65℃の間の温度まで加熱される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記試料が、45℃から60℃の間の温度まで加熱される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記試料が、45℃から55℃の間の温度まで加熱される、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記試料が、47℃から53℃の間の温度まで加熱される、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記試料が、48℃まで加熱される、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記試料が、49℃まで加熱される、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記試料が、1分から6時間の間の期間、前記温度に維持される、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記試料が、10分から180分の間の期間、前記温度に維持される、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記試料が、20分から180分の間の期間、前記温度に維持される、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記試料が、20分から60分の間の期間、前記温度に維持される、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記試料が、20分から40分の間の期間、前記温度に維持される、項目1に記載の方法。
(項目13)
6.3またはそれを超えるヘルパーウイルスの対数減少をもたらす、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記アデノ随伴ウイルス粒子が、4.7kbを超えるDNAのゲノムを含む、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記アデノ随伴ウイルス粒子が、5.1kbを超えるDNAのゲノムを含む、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記アデノ随伴ウイルス粒子が、およそ4.7kbのDNAのゲノムを含む、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記アデノ随伴ウイルス粒子が、4.0kb未満のDNAのゲノムを含む、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記アデノ随伴ウイルス粒子が、およそ3.0kbのDNAのゲノムを含む、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記アデノ随伴ウイルス粒子が、実質的に自己相補性であるゲノムを含む、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記緩衝液が、カオトロピック塩をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記カオトロピック塩が、尿素の塩である、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記カオトロピック塩が、グアニジンの塩である、項目20に記載の方法。
(項目23)
前記緩衝液が、グリセロール、プロピレングリコール、および1,6-ヘキサンジオールを含む群から選択されるポリオールをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目24)
前記緩衝液が、4℃から70℃の間の温度においてpHを3.0から10.0の間に維持する、項目1に記載の方法。
(項目25)
前記緩衝液が、4℃から70℃の間の温度においてpHを7.0から9.0の間に維持する、項目1に記載の方法。
(項目26)
前記緩衝液が、40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、および0.001%(w/v)Pluronic F68をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目27)
前記緩衝液が、トリス緩衝液である、項目24に記載の方法。
(項目28)
前記緩衝液が、リン酸緩衝液である、項目24に記載の方法。
(項目29)
前記緩衝液が、トリアゾールアミン緩衝液である、項目24に記載の方法。
(項目30)
前記ヘルパーウイルスが、アデノウイルスである、項目1に記載の方法。
(項目31)
アデノウイルスが、Ad5である、項目28に記載の方法。
(項目32)
二価または三価カチオンの前記濃度が、15mMを超える、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目33)
二価または三価カチオンの前記濃度が、20mMを超える、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
二価または三価カチオンの前記濃度が、50mMを超える、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)
二価または三価カチオンの前記濃度が、100mMを超える、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
二価または三価カチオンの前記濃度が、200mMを超える、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目37)
二価または三価カチオンの前記濃度が、10mM~500mMである、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
二価または三価カチオンの前記濃度が、20mM~400mMである、項目37に記載の方法。
(項目39)
二価または三価カチオンの前記濃度が、30mM~300mMである、項目37に記載の方法。
(項目40)
二価または三価カチオンの前記濃度が、50mM~250mMである、項目37に記載の方法。
(項目41)
二価または三価カチオンの前記濃度が、70mM~200mMである、項目37に記載の方法。
(項目42)
前記緩衝液が、10mMまたはそれを超える濃度の、Mg、Ca、Mn、Ni、Zn、Co、Sr、Cu、Cr、FeおよびScからなる群から選択される金属の二価または三価カチオンを含む、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目43)
前記カチオンが、二価カチオンである、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目44)
前記カチオンが、Mg 2+ 、Ca 2+ 、Mn 2+ 、Ni 2+ 、Zn 2+ 、Co 2+ 、Sr 2+ 、Cu 2+ およびCr 2+ からなる群から選択される、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記カチオンが、Ca 2+ である、項目43に記載の方法。
(項目46)
前記カチオンが、Mg 2+ である、項目43に記載の方法。
(項目47)
前記カチオンが、三価カチオンである、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目48)
前記カチオンが、Sc 3+ である、項目47に記載の方法。
(項目49)
前記緩衝液が、10mMまたはそれを超える濃度の、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸カリウム、および塩化セシウムを含む群から選択されるコスモトロピック塩を含む、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目50)
前記緩衝液が、10mMまたはそれを超える濃度の硫酸アンモニウムを含む、項目49に記載の方法。
(項目51)
コスモトロピック塩の前記濃度が、0.1M~1Mである、項目49または50に記載の方法。
(項目52)
コスモトロピック塩の前記濃度が、0.2M~0.8Mである、項目49または50に記載の方法。
(項目53)
コスモトロピック塩の前記濃度が、0.3M~0.7Mである、項目49または5550に記載の方法。
(項目54)
コスモトロピック塩の前記濃度が、0.4M~0.6Mである、項目49または50に記載の方法。
(項目55)
コスモトロピック塩の前記濃度が、0.5Mである、項目49または50に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、曝露温度および曝露温度において費やした時間の関数としてのAd5のウイルス対数減少(log reduction virus)(LRV)を示す等高線プロットを示す。Ad5感染力アッセイを使用してAd5粒子の不活性化のレベルを決定した。実際のデータポイントは、前記データポイントの間を補間した等高線図とともに黒い点で示される。このアッセイにおけるLRVの定量限界は6.3であった。6.3よりも大きい減少は検出不能であった。
【0015】
図2AB図2は、曝露温度および曝露温度において費やした時間の関数としての様々なAAV産物の収率(%)を示す等高線プロットを示す。図2Aは、HEK293により産生されたhu37血清型の切断型産物についての結果を示し、図2Bは、HeLaにより産生されたhu37血清型の特大産物についての結果を示し、図2Cは、HEK293により産生されたAAV8血清型の一本鎖産物についての結果を示し、図2Dは、HEK293により産生されたAAV8血清型の自己相補性産物についての結果を示す。DNase抵抗性粒子のqPCR(DRP-qPCR)アッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。実際のデータポイントは、前記データポイントの間を補間した等高線図とともに黒い点で示される。
図2CD図2は、曝露温度および曝露温度において費やした時間の関数としての様々なAAV産物の収率(%)を示す等高線プロットを示す。図2Aは、HEK293により産生されたhu37血清型の切断型産物についての結果を示し、図2Bは、HeLaにより産生されたhu37血清型の特大産物についての結果を示し、図2Cは、HEK293により産生されたAAV8血清型の一本鎖産物についての結果を示し、図2Dは、HEK293により産生されたAAV8血清型の自己相補性産物についての結果を示す。DNase抵抗性粒子のqPCR(DRP-qPCR)アッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。実際のデータポイントは、前記データポイントの間を補間した等高線図とともに黒い点で示される。
【0016】
図3図3は、DRP-qPCRアッセイ(濃いバー)およびTCID50感染力アッセイ(薄いバー)を使用して決定した回収率の結果の比較を示す。被験試料は、20分の曝露時間について図2Bに示されたものと同じであった。「対照」は、実験全体を通して凍結したままの負荷試料であった。
【0017】
図4図4は、曝露温度および曝露温度において費やした時間の関数としての2つのAAV産物の収率(%)を示す等高線プロットを示す。図4Aは、HeLaにより産生されたhu37血清型の特大産物についての結果を示し、図4Bは、HEK293により産生されたhu37血清型の特大産物についての結果を示す。DRP-qPCRアッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。実際のデータポイントは、前記データポイントの間を補間した等高線図とともに黒い点で示される。
【0018】
図5図5は、バックグラウンド緩衝液におけるHEK293により産生されたhu37血清型の特大産物の収率(%)を示す等高線プロットを、曝露温度および曝露温度において費やした時間の関数として示す。図5Aは、40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0のバックグラウンド緩衝液の結果を示し、図5Bは、0.5M 硫酸アンモニウムを含むバックグラウンド緩衝液の結果を示す。DRP-qPCRアッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。実際のデータポイントは、前記データポイント間を補間した等高線図とともに黒い点で示される。47℃における点線は、Ad5の完全な不活性化が起こる温度を示す(実施例1において決定した。図1を参照されたい)。
【0019】
図6図6は、47℃への曝露時間の関数としての、7種の異なる緩衝液中のHEK293により産生されたhu37血清型の特大AAVベクターの回収率の比較を示す。40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0のバックグラウンド緩衝液、または0.1mM、10mM、25mM、50mM、もしくは100mM MgClを補充したバックグラウンド緩衝液のいずれかが使用された。DRP-qPCRアッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。「対照」は、実験全体を通して凍結したままの負荷試料であった。
【0020】
図7図7は、49℃への曝露時間の関数としての、2種の異なる緩衝液中のHEK293により産生されたhu37血清型の特大AAVベクターの回収率の比較を示す。100mMもしくは200mM MgClを補充した40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0のバックグラウンド緩衝液が使用された。DRP-qPCRアッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。「対照」は、実験全体を通して凍結したままの負荷試料であった。
【0021】
図8図8は、51℃への曝露時間の関数としての、2種の異なる緩衝液中のHEK293により産生されたhu37血清型の特大AAVベクターの回収率の比較を示す。100mMもしくは200mM MgClを補充した40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0のバックグラウンド緩衝液が使用された。DRP-qPCRアッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。「対照」は、実験全体を通して凍結したままの負荷試料であった。
【0022】
図9図9は、53℃への曝露時間の関数としての、2種の異なる緩衝液中のHEK293により産生されたhu37血清型の特大AAVベクターの回収率の比較を示す。100mMもしくは200mM MgClを補充した40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0のバックグラウンド緩衝液が使用された。DRP-qPCRアッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。「対照」は、実験全体を通して凍結したままの負荷試料であった。
【0023】
図10図10は、100mM MgClを補充した40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0のバックグラウンドにおけるHEK293により産生されたhu37血清型の特大産物の収率(%)を示す等高線プロットを示す。DRP-qPCRアッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。実際のデータポイントは、前記データポイント間を補間した等高線図とともに黒い点で示される。
【0024】
図11図11は、200mM MgClを補充した40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0のバックグラウンドにおけるHEK293により産生されたhu37血清型の特大産物の収率(%)を示す等高線プロットを示す。DRP-qPCRアッセイを使用して、曝露前および曝露後のAAV産物のレベルを決定した。実際のデータポイントは、前記データポイント間を補間した等高線図とともに黒い点で示される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ヘルパーウイルス粒子およびAAV粒子を含有する試料中のAVなどのヘルパーウイルスを不活性化する方法であって、インタクトなゲノムおよび/または生物学的活性を有するAAV粒子の回収増加をもたらす方法が本明細書に記載される。方法は、ヘルパーウイルス粒子を不活性化するのに十分な温度においておよび十分な時間にわたって、ヘルパーウイルス粒子およびAAV粒子および緩衝液を含有する試料を加熱することを含む。本発明による緩衝液への、二価もしくは三価金属イオンまたはコスモトロピック塩の添加が、インタクトなゲノムを含有するAAV粒子の回収増加をもたらすことが予想外に示された。
アデノ随伴ウイルス
【0026】
AAVは、Parvovirus科のDependoparvovirus属の小さな非エンベロープの正二十面体ウイルスである。AAVは、およそ4.7kbの一本鎖の線状DNAゲノムを有する。AAVは、血清型AAV-1~AAV-12だけでなく、非ヒト霊長類由来の100を超える血清型を含む、多数の血清学的に識別可能なタイプを含む。例えば、Srivastava、J. Cell Biochem.、105巻(1号):17~24頁(2008年);Gaoら、J. Virol.、78巻(12号)、6381~6388頁(2004年)を参照されたい。任意のAAVタイプが本発明の方法で使用されうる。AAVは、異なる組織向性を示す異なるAAV血清型により、数種の組織タイプの分裂細胞および静止状態の細胞の両方に感染することができる。AAVは、非自律的に複製し、潜伏期および感染期を有する生活環を有する。潜伏期において、細胞がAAVに感染した後、AAVはプロウイルスとして部位特異的に宿主のゲノムに組み込まれる。感染期は、細胞がヘルパーウイルス(例えば、AVまたは単純ヘルペスウイルス)にも感染し、それによりAAVの複製が可能となり、AAV粒子およびヘルパーウイルス粒子の両方の産生がもたらされない限り生じない。このAAV粒子およびヘルパーウイルス粒子の混合集団の産生は、AAVが治療用ベクターとして使用される場合には、重大な問題を生じる。なぜなら、混入したヘルパーウイルスは、その潜在的な病原性および/または免疫原性のために除去または不活性化しなければならないからである。
【0027】
野生型AAVゲノムは、AAV複製、ゲノムのカプシド形成および組込みを指示するシグナル配列を含有する、145ヌクレオチドの末端逆位配列(ITR)を2つ含む。ITRに加えて、3つのAAVプロモーター、p5、p19およびp40が、rep遺伝子およびcap遺伝子をコードする2つのオープンリーディングフレームの発現を推進する。2つのrepプロモーターは、単一のAAVイントロンの差示的スプライシングと相まって、rep遺伝子からの4つのrepタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52およびRep40)の産生をもたらす。repタンパク質は、ゲノム複製に関与する。Cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、cap遺伝子のスプライスバリアントである3つのカプシドタンパク質、VP1、VP2およびVP3をコードする。これらのタンパク質は、AAV粒子のカプシドを形成する。
【0028】
複製、カプシド形成および組込みのためのシス作用性シグナルは、ITR内に含有されるため、4.3kbの内部ゲノムの一部またはすべてが外来DNA、例えば、目的の外来タンパク質のための発現カセットで置き換えられうる。この場合、repタンパク質およびcapタンパク質は、例えば、プラスミド上でトランスに提供される。AAVベクターを産生するためには、AAV複製を許容する細胞株が、rep遺伝子およびcap遺伝子、ITRに隣接した発現カセットならびにヘルパーウイルスにより提供されるヘルパー機能、例えば、AV遺伝子E1a、E1b55K、E2a、E4orf6およびVAを発現しなければならない(Weitzmanら、Adeno-associated virus biology. Adeno-Associated Virus:Methods and Protocols、1~23頁、2011年)。AAVベクターの産生は、ヘルパーウイルス粒子の産生ももたらすことができ、これは、AAVベクターの使用前に除去または不活性化されなければならない。HEK293細胞、COS細胞、HeLa細胞、Vero細胞だけでなく、昆虫細胞を含む、多数の細胞タイプがAAVベクターの産生に好適である(例えば、米国特許第6,156,303号、米国特許第5,387,484号、米国特許第5,741,683号、米国特許第5,691,176号、米国特許第5,688,676号、米国特許第8,163,543号、US20020081721、WO00/47757、WO00/24916およびWO96/17947を参照)。AAVベクターは、典型的に、ITRに隣接した発現カセットを含有する1つのプラスミドならびに追加のAAVおよびヘルパーウイルス遺伝子を提供する1つまたは複数の追加のプラスミドにより、これらの細胞タイプにおいて産生される。
【0029】
任意の血清型のAAVベクターが、本発明において使用されうる。同様に、任意の(and)AVタイプが使用されうることが企図され、当業者はその所望のAAVベクターの産生に好適なAAVタイプおよびAVタイプを特定することができる。AAV粒子およびAV粒子は、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオジキサノール(iodixonal)勾配、またはCsCl勾配により、最小限に精製されうる。さらに精製されたAAV粒子およびAV粒子を含有する試料も、精製度が低い試料と同様に本発明の方法において使用されうる。
【0030】
野生型AAVのゲノムは、一本鎖DNAであり、4.7kbである。AAVベクターは、サイズが4.7kbであるか、または5.2kb規模の特大ゲノムもしくは3.0kbほどの小さなゲノムを含む、4.7kbよりも大きいかもしくは小さい一本鎖ゲノムを有しうる。さらに、ベクターゲノムは、ウイルス内でゲノムが実質的に二本鎖であるように、実質的に自己相補性でありうる。ここで示したとおり、特大ゲノムを含むAAVベクターは、熱分解に対する感受性が増加している。したがって、特大ゲノムを含むAAVベクターは、本発明の方法における使用に好ましい。しかしながら、当業者は、すべてのタイプのAAVベクターの熱不活性化の間の安定性を増加させることは、ますますストリンジェントな不活性化条件を可能とするため、価値があることを理解する。したがって、すべてのタイプのゲノムを含有するAAVベクターが、本発明の方法における使用に好適である。
ヘルパーウイルス
【0031】
上で論じたとおり、AAVは、その生活環の感染期に入るために、ヘルパーウイルスとの共感染を必要とする。ヘルパーウイルスは、アデノウイルス(AV)および単純ヘルペスウイルス(HSV)を含み、バキュロウイルスを使用して昆虫細胞中でAAVを産生するためのシステムが存在する。パピローマウイルスもAAVのためのヘルパー機能を提供しうることも提案された。Hermonatら、Molecular Therapy 9巻、S289~S290頁(2004年)を参照されたい。ヘルパーウイルスは、AAVを作り出し、複製を可能とする(creating an allowing AAV replication)ことができる任意のウイルスを含む。AAVよりも低い熱安定性を示すという条件で、任意のヘルパーウイルスが本発明において使用されうる。AVは、およそ36kbの二本鎖DNAゲノムを含む、非エンベロープの核DNAウイルスである。AVは、AAVの複製およびカプシド形成を可能とするE1a遺伝子、E1b55K遺伝子、E2a遺伝子、E4orf6遺伝子、およびVA遺伝子を提供することにより、細胞内の潜伏AAVプロウイルスをレスキューすることができる。
【0032】
HSVは、脂質二重層エンベロープに包まれた、正二十面体カプシドにカプシド封入された比較的大きな二本鎖線状DNAゲノムを有するウイルスの科である。HSVは、感染性であり、伝染性が高い。ヘルパー機能を亢進する他のタンパク質とともに以下のHSV-1複製タンパク質:ヘリカーゼ/プライマーゼ複合体(UL5、UL8およびUL52)およびUL29遺伝子によりコードされるDNA結合タンパク質ICP8が、AAV複製のために必要であると同定された。
【0033】
バキュロウイルスなどの他のヘルパーウイルスが、それらが自然にまたは改変形態のいずれかでAAV複製を支援することができ、AAVよりも低いレベルの熱安定性を示すという条件で、本発明とともに使用されうる。
AAVベクターの産生
【0034】
AAVベクターは、当分野で公知の多くの方法により、哺乳動物または昆虫細胞中で産生されうる。産生方法の結果がAAVおよびヘルパーウイルスの両方を含有する試料であるという条件で、任意の産生方法が本発明のための出発材料を産生するのに好適である。製造プロセスは、細胞に、AAVrep遺伝子およびcap遺伝子の機能だけでなく追加のヘルパー機能を有するAAVベクターゲノムを含有するプラスミドを提供することを含む。追加のヘルパー機能は、例えば、AV感染により、必要なAVヘルパー機能遺伝子のすべてを保有するプラスミドにより、またはHSVもしくはバキュロウイルスなどの他のウイルスにより提供されうる。本発明の方法とともに使用されるのに好適なAAV産生方法は、Clarkら、Human Gene Therapy、6巻:1329~1341頁(1995年);Martinら、Human Gene Therapy Methods、24巻:253~269頁(2013年);Thorneら、Human Gene Therapy、20巻:707~714頁(2009年);Fraser Wright、Human Gene Therapy、20巻:698~706頁(2009年);Viragら、Human Gene Therapy、20巻:807~817頁(2009年)に開示されたものを含む。
【0035】
AAV産物は、細胞溶解物からまたは細胞培養培地から収集される。一次精製ステップは、細胞混入物を除去するためのアフィニティークロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーを含む。精製された試料は、ろ過され、-60℃以下で貯蔵される。
細胞溶解
[0023]
AAV粒子は、細胞を溶解することにより、感染細胞から得られうる。AAV感染細胞の溶解は、感染性(infections)ウイルス粒子を放出するために細胞を化学的にまたは酵素的に処理する方法により達成されうる。これらの方法は、ベンゾナーゼもしくはDNAseなどのヌクレアーゼ、トリプシンなどのプロテアーゼ、または洗剤もしくは界面活性剤の使用を含む。ホモジナイゼーションもしくは粉砕などの物理的破壊、またはマイクロフルイダイザー圧力セルによる加圧、または凍結融解サイクルも使用されうる。代替的に、細胞溶解を必要とせずに、上清がAAV感染細胞から採取されうる。
ウイルス粒子の精製
【0036】
本発明の不活性化方法の前に、例えば、細胞溶解の結果として生じた細胞残屑を除去するために、AAV粒子およびヘルパーウイルス粒子を含有する試料を精製することが必要であり得る。ヘルパーウイルス粒子およびAAV粒子の最小限の精製の方法は、当分野で公知であり、本発明の方法における使用のためのAAV粒子およびヘルパーウイルス粒子の両方を含有する試料を準備するために、任意の適切な方法が使用されうる。2つの例示的な精製方法は、塩化セシウム(CsCl)およびイオジキサノールに基づく密度勾配精製である。両方法は、Strobelら、Human Gene Therapy Methods、26巻(4号):147~157頁(2015年)に記載されている。最小限の精製は、例えば、AVBセファロース親和性樹脂(GE Healthcare Bio-Sciences AB、Uppsala、Sweden)を使用するアフィニティークロマトグラフィーを使用して達成することもできる。AVBセファロース親和性樹脂を使用するAAV精製の方法は、例えば、Wangら、Mol Ther Methods Clin Dev.、2巻:15040頁(2015年)に記載されている。
熱不活性化
【0037】
熱不活性化技術は、AAV粒子およびヘルパーウイルス粒子の異なる熱安定性に基づく。例えば、AAV粒子は、56℃もの高い温度まで加熱されうるが、依然としてインタクトなままであり、一方、AV粒子は不活性にされる。Conwayら、Gene Therapy 6巻、986~993頁、1999年は、AAVを含有する試料中のHSVの示差熱不活性化(differential heat inactivation)を記載している。熱不活性化は、任意の公知の方法論により達成されうる。以下に記載の例において、熱不活性化は、300μLまたはそれ未満の試料容積を急速に加熱および冷却するために、サーモサイクラーを使用して達成された。このシステムは、主に伝導性の熱伝達に依拠するという理由で選択され、連続フローシステムおよび能動的混合を採用するより大きなバッチシステムの両方のための実行可能なモデルとなっている。連続フローシステムの例としては、Bio-therapeutic ManufacturingのためのDHX(商標)Single-Use Heat Exchanger(Thermo Fisher Scientific、Millersberg、PA)などの、連続フロー熱交換器を通る試料の通過が挙げられる。そのようなシステムは、熱交換器を通る試料の流速を制御し、その結果として加熱プロセスの持続時間および熱交換器の温度を制御し、その結果として熱不活性化の温度を制御することにより、オペレーターが熱不活性化プロセスを制御することを可能にする。
【0038】
代替的に、熱不活性化は、様々なサイズのバッチシステムを使用して達成されうる。例えば、熱不活性化は、AAVを含有する試料を1LのPETGボトル中に置き、そのボトルを所望の不活性化温度に設定した水浴中に所望の期間、混合しながら置くことにより1Lスケールで達成可能であり、例えば、試料は、47℃に20分間加熱されうる。より大きなスケールでは、熱不活性化は、5Lのバイオプロセシングバッグ中のAAVを含有する試料を、所望の不活性化温度に設定した温度制御ロッキングプラットフォーム上に所望の期間置くことにより達成されうる。例えば、ロッキングプラットフォームは、12°の混合角度、30RPMのロッキングスピード、49℃で40分間に設定されうる。
【0039】
熱不活性化は、AAV粒子とヘルパーウイルス粒子の間で安定性が十分に異なるために、ヘルパーウイルス粒子が実質的に不活性化される一方、活性なAAV粒子が残存する、任意の温度で行いうる。本発明では、AAV粒子およびヘルパーウイルス粒子を含有する試料が、45℃を超えるまたはそれに等しい温度、一般には45℃から55℃の間の温度まで加熱され、最も頻繁に49℃±2℃の温度が使用される。一般に、試料を1分から60分までの期間、温度を保持し、10~40分間が最も頻繁に使用される。しかしながら、図1に示されるように、熱不活性化は、時間にほとんど依存しないため、加熱ステップの持続時間が、試料全体をその温度にするために必要な時間の関数となる。例えば、300μLの試料サイズは数秒以内で均一温度にされうるが、マルチリットルタンクは均一温度に到達するのに何分もかかりうる(may many minutes)。さらに、当業者は、より大きなレベルのAV低減を達成するためにはより高い温度が必要とされうることを理解する。
不活性化効力の測定
【0040】
熱不活性化が達成されると、不活性化の効率を決定することが必要または望ましい場合がある。不活性化プロトコールの効力は、プラークアッセイなどの複製可能なヘルパーウイルスの存在を検出するアッセイにより決定される。AV、HSV、バキュロウイルスなどのためのプラークアッセイを含む、ヘルパーウイルスのためのプラークアッセイは、当業者に周知である。アデノウイルスのプラークアッセイは、任意の適切な細胞タイプ、例えば、HeLa細胞またはHEK293細胞を使用して実行されうる。標準的なプラークアッセイプロトコールは、例えば、Current Protocols in Human Genetics、2003年に記載されている。アデノウイルス力価を測定するための代替アッセイは、免疫細胞化学染色を使用してヘキソンタンパク質などのウイルスタンパク質を検出することによる、培養物中の感染細胞の同定を可能とするものを含む。そのようなアッセイは、QuickTiter(商標)Adenovirus Titer Immunoassay Kit(Cell Biolabs、San Diego、CA)を含む。一般に、不活性化の効率は、ウイルスの対数減少(LRV)として報告される。
AAV粒子の定量
【0041】
AAV粒子の定量は、AAV感染がin vitroの細胞変性効果をもたらさず、したがって、感染力価を決定するためにプラークアッセイが使用できないという事実により、複雑である。しかしながら、AAV粒子は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)(Clarkら、Hum. Gene Ther.、10巻、1031~1039頁(1999年))もしくはドットブロットハイブリダイゼーション(Samulskiら、J. Virol.、63巻、3822~3828頁(1989年))を含むいくつかの方法を使用して、または高度に精製されたベクター調製物の光学密度により(Sommerら、Mol. Ther.、7巻、122~128頁(2003年))定量可能である。DNase抵抗性粒子(DRP)は、サーモサイクラー(例えば、iCycler iQ 96ウエルブロックフォーマットサーモサイクラー(Bio-Rad、Hercules、CA))におけるリアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)(DRP-qPCR)により、定量可能である。AAV粒子を含有する試料が、DNaseI(100U/ml;Promega、Madison、WI)の存在下、37℃で60分間インキュベートされ、続いて、50℃で60分間のプロテイナーゼK(Invitrogen、Carlsbad、CA)消化(10U/ml)、次いで、95℃で30分間、変性させる。使用されるプライマープローブセットは、AAVベクターゲノムの非天然部分、例えば、目的のタンパク質のポリ(A)配列に特異的であるべきである。PCR産物は、プライマー、プローブおよび増幅された配列の長さおよび組成に基づく、任意の適切なサイクリングパラメータのセットを使用して増幅されうる。代替プロトコールは、例えば、Lockら、Human Gene Therapy Methods、25巻(2号):115~125頁(2014年)に開示されている。
【0042】
AAV粒子の感染力は、例えば、Zhenら、Human Gene Therapy、15巻:709~715頁(2004年)に記載のTCID50(50%の組織培養感染量)アッセイを使用して決定されうる。このアッセイでは、AAVベクター粒子が連続的に希釈され、96ウエルプレート中でAV粒子とともにRep/Cap発現細胞株に共感染するために使用される。感染後48時間で、感染させたウエルおよび対照ウエルからの全細胞内DNAが抽出される。次いで、導入遺伝子特異的プローブおよびプライマーとともにqPCRを使用して、AAVベクターの複製が測定される。1ミリリットルあたりのTCID50感染力(TCID50/ml)は、10倍の連続希釈でのAAV陽性のウエルの比を使用して、Kaerber方程式により計算される。
バックグラウンド緩衝液
【0043】
本発明の方法は、バックグラウンド緩衝液の使用を含む。バックグラウンド緩衝液は、広い温度範囲にわたって安定なpHを維持することができる、例えば、緩衝液が4℃から70℃の間で温度変化する場合に、3.0~10.0の範囲にpHを維持することができる、任意の緩衝液でありうる。緩衝液は、緩衝液が4℃から70℃の間で温度変化する場合に、7.0から9.0の間のpHにも維持しうる。例示的なバックグラウンド緩衝液としては、グリシン、シトレート、サクシネート、アセテート、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、ビス-トリス(ビス-(2-ヒドロキシエチル)-イミノ-トリス-(ヒドロキシメチル)-メタン)、ホスフェート、pipes(1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸)、mopso(3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、BTP(1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン)、MOPS(3-モルホリノプロパン-1-スルホン酸)、TES2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、TEA(トリス塩基、酢酸およびEDTA)、トリス、トリシン、ビシン、ラクテート、ホルメート、およびMMA(2-メチルプロパン二酸)により緩衝されるシステムが挙げられる。1つの例示的なバックグラウンド緩衝液は、40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、および0.001%(w/v)Pluronic F68を含み、室温でpH8.0である。
二価および三価金属イオン
【0044】
本発明において使用される緩衝液のサブセットは、さらなる二価または三価金属カチオン、例えば、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Ni2+、Zn2+、Co2+、Sr2+、Cu2+、Cr2+およびSc3+を含有する。上記カチオンの塩も採用されうる。本発明において採用される場合、二価または三価カチオンは、10mMを超える総濃度で存在する。以下の実施例に示されるとおり、試験された10mMを超える二価または三価カチオンを含有するすべての緩衝液は、対照緩衝液中で加熱された試料に比べて有意な保護を提供した。最高レベルの保護は、50mM~200mMのMgClを含有する緩衝液で観察された。CaまたはMgのカチオンなどの高度に可溶な金属イオンについては、AAVの最大の保護を達成するために必要な量を超えてカチオンの濃度を増加させることが、AAVの保護に負の効果を有さず、等価な結果をもたらすことが当業者に理解される。本発明の緩衝液は、尿素またはグアニジンの塩を含む、カオトロピック塩も含みうる。緩衝液は、ポリオールも含むことができ、好ましいポリオールは、グリセロール、プロピレングリコール、および1,6-ヘキサンジオールである。
コスモトロピック塩
【0045】
本発明において使用される緩衝液のサブセットは、コスモトロピック塩を含有する。コスモトロピック塩は、水-水相互作用(water-water interaction)の安定性および構造に寄与する共溶媒である。コスモトロピック塩は、溶液中のタンパク質、膜、および疎水性凝集体も安定化する。本発明の一実施形態では、緩衝液は、1つまたは複数のコスモトロピック塩、特に、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸カリウム、および塩化セシウムなどの強力なコスモトロピック塩を含む。コスモトロピック塩は、10mMを超える濃度、例えば、0.1M~1M、0.2M~0.8M、0.3M~0.7M、0.4M~0.6M、または0.5Mの濃度で、本発明において有用である。
【実施例
【0046】
以下の実施例は、決して本発明の範囲を限定することを意図せず、開示された方法の態様を例示するために提供される。本発明の多くの他の実施形態が当業者に明らかである。
(実施例1)
【0047】
標準的な技術を使用してAd5 AV粒子を産生し、CsCl勾配により最小限に精製した。Ad5粒子をバックグラウンド緩衝液(40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0)中に透析した。直ちに所望の温度に試料を加熱するためにサーモサイクラーを使用して加熱を行い、所望の温度で保持し、次いで、直ちに試料を冷却した。緩衝液中のAd5粒子の試料はポリプロピレン管内に含まれ、容積は300μLまたはそれ未満であった。51℃に加熱し、その温度に10分間保持したのみであったAd5 AV試料以外は、Ad5 AV試料を、10分、15分、または40分のいずれかの持続時間にわたって、45℃、47℃、49℃、または51℃に加熱した。次いで、加熱処理に続いて、QuickTiter(商標)Adenovirus Titer Immunoassay Kit(Cell Biolabs、San Diego、CA)を製造者の指示に従って使用して、Ad5感染力を測定した。
【0048】
Ad5 AVの熱不活性化データを、Ad5ウイルスのウイルス対数減少(LRV)として図1に示すが、6LRVを超えることが望ましい。図1に見られるとおり、Ad5材料の不活性化は、高度に温度依存性であり、温度における時間は不活性化に大きな影響を有さない。これらのデータに基づいて、47℃またはそれより高い温度で不活性化ステップを実行することが望ましい。
(実施例2)
【0049】
血清型が異なり、異なるゲノムタイプおよびサイズを含有するAAVベクターを、AAVゲノムの安定性に対するAV熱不活性化プロトコールの効果について試験した。3つの異なるゲノムを有するAAV8およびhu37の2つの血清型を試験した。以下のAAVベクター:
(A)一本鎖構築物(4.7kb)を含有するhu37カプシド
(B)特大一本鎖構築物(5.1kb)を含有するhu37カプシド
(C)小さな一本鎖構築物(4.1kb)を含有するAAV8カプシド
(D)自己相補性構築物(4.6kb)を含有するAAV8カプシド
を試験した。AAVベクター(A)(C)および(D)をHEK293細胞中で産生し、粒子(B)はHeLa細胞中で産生した。標準的な技術を使用するアフィニティークロマトグラフィーまたはイオジキサノール勾配により、すべてのベクターを最小限に精製した。ベクターをバックグラウンド緩衝液(40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0)中に透析した。ベクター試料を所望の温度まで直ちに加熱するために、サーモサイクラーを使用して加熱を行い、所望の温度に保持し、次いで、直ちに試料を冷却した。ベクター試料はポリプロピレン管に含まれ、容積は300μLまたはそれ未満であった。ベクター試料を以下の熱不活性化条件に曝露した:ベクター(A)、(B)および(C)を45℃、47℃、または49℃に加熱し、ベクター(B)を45℃、47℃、49℃、51℃、または53℃に加熱した。10、20、または40分間の加熱後、すべてのベクターを試験した。DRP-qPCRアッセイにより、ゲノム安定性について熱処理後の試料を分析した。
【0050】
この実験からのデータを図2に示す。DRP-qPCRアッセイにより不活性化プロトコール後のAAV産物のゲノム分解を決定し、qPCR収率(%)として表した。昇温に曝露せず、4℃に保持した出発試料に対して比較することにより、qPCR収率(%)を決定した。図に認められるとおり、長さが4.7kb未満の一本鎖または自己相補性構築物(それぞれ、図2Cおよび図2D)を含む血清型AAV8について、昇温およびその温度にあった時間は、AAV材料を有意に分解しなかった。対照的に、一本鎖構築物(4.7kb)を含むhu37血清型は、AAV8中で産生された同様のサイズの構築物と比較して、熱および加熱時間に対してより感受性であった(図2A図2C)。最終的に、hu37血清型については、特大構築物(5.1kb)は、正常なゲノムサイズ(4.7kb)の構築物と比較して、熱に対する安定性に対して有意な負の影響を有した(図2B図2A)。これらの結果は、異なる血清型が異なる熱安定性プロファイルを有すること、しかしより重要なことには、構築物サイズがカプシドの熱安定性に対して(heat on the stability of the capsid)有意な影響を有することを示している。
(実施例3)
【0051】
AAVベクターのゲノムの完全性を決定する2つの方法を比較した。特大ゲノム(5.1kb)を含有するhu37ベクターの試料を、22℃、45℃、47℃、49℃、51℃、または53℃に20分間加熱し、DRP-qPCRアッセイによりまたはTCID50感染力アッセイにより回収率を測定した。対照試料はゲノムの完全性の測定を行うまで凍結したままとした。
【0052】
図3は、DRP-qPCR対TCID50感染力アッセイを使用して収集したデータの比較を表す。図中に認められるように、2つの技術により結果として得られた回収率は、質的に同様の結果をもたらし、温度上昇とともにカプシドの質が低下する同じ傾向を生じさせた。これらのデータは、それにより、昇温に曝露された場合にカプシドの分解を軽減することを調べる予備的調査を実行するためのモデルとしてのDRP-qPCRアッセイの使用を強固にする。
(実施例4)
【0053】
異なる細胞タイプを使用して産生したAAVベクターの熱安定性を比較することにより、熱感受性に対する細胞産生システムの効果を試験した。特大ゲノム(5.1kb)を含有する血清型hu37のベクターを、HeLa細胞またはHEK293細胞のいずれかを使用して産生した。ベクター試料を45℃、47℃、49℃、51℃、または53℃に、10、20または40分間加熱した。DRP-qPCRにより、ゲノムの完全性を測定した。図4に示すように、両ベクタータイプについて反復したのはすべてのデータポイントではなかった。しかしながら、2つの実験からの結果は定性的に同様であった。これらのデータは、AAV材料を作り出すために使用した細胞株産生システムが、結果として生じたAAVの熱安定性に対して有意な影響を有さなかったことを示唆している。加えて、これらのデータは、特大構築物材料を含有するhu37血清型が、Ad5不活性化のために必要とされる加熱条件に対して感受性が高いという全体的な知見を支持している(図1に示すように)。
(実施例5)
【0054】
特大ゲノムを含有するhu37血清型のAAVベクター試料を、実施例2に記載のとおりに産生した。(A)標準的バックグラウンド緩衝液(40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0)または(B)0.5Mの硫酸アンモニウムを含有する標準的バックグラウンド緩衝液のいずれか中で試料を透析した。試料を以下のとおりに加熱した:45℃で10および40分間、47℃で20分間、49℃で10分間および40分間、ならびに51℃で20分間。DRP-qPCRによりゲノムの完全性を測定した。
【0055】
図5に示すとおり、バックグラウンド緩衝液に0.5Mの硫酸アンモニウムを添加することにより、AAVベクターの熱安定性が改善した(図5A図5B)。これらのデータは、熱不活性化ステップの間に使用した緩衝液調合物に強力なコスモトロピック塩を添加することにより、AAVベクターが昇温の分解性の影響に対して保護されうることを示している。
【0056】
これらのデータは、AAVがAd5ウイルスの熱不活性化に必要な条件に対して感受性でありうることを実証している。AAVの安定性は、血清型依存性であるようであり、(長さが4.7kbまたはそれより大きい構築物と定義される特大の)特大構築物の使用は、AAV材料の安定性に対して有意に有害な影響を有しうる。この報告中に示すデータは、コスモトロピック塩の添加が、昇温に曝露された場合にAAV材料の安定性を増加させる、有益な影響を有しうることも示唆している。
(実施例6)
【0057】
特大ゲノムを含有するhu37血清型のAAVベクター試料を実施例2に記載のとおりに産生した。(A)標準的バックグラウンド緩衝液(40mM ビス-トリスプロパン、20mM HEPES、20mMシトレート、200mM NaCl、0.001%(w/v)Pluronic F68、pH8.0)、(B)0.1mM MgCl、(C)10mM MgCl、(D)25mM MgCl、(E)50mM MgCl、(F)100mM MgCl、または(G)200mM MgClを含有する標準的バックグラウンド緩衝液のいずれか中で試料を透析した。試料を表1に示す温度まで、かつ表1に示す持続時間にわたって、加熱した。DRP-qPCRによりAAV粒子のゲノムの完全性を測定した。実験の結果を表2に表す。昇温に曝露せず、4℃に保持した出発試料と比較することにより、残存力価を決定し、パーセンテージとして報告する。変動係数(%CV)も報告する。
【0058】
図6は、0から100mMまでのMgClを含有する緩衝液中のAAVベクターの47℃での40分間にわたる回収率を示す。25mM未満のMgClを含有する緩衝液中の試料は、すべての時点で有意により低い回収率を有した。
【0059】
図7は、100mMまたは200mMのMgClを含有する緩衝液中のAAVベクターの49℃での180分間にわたる回収率を示す。図8は、100mMまたは200mMのMgClを含有する緩衝液中のAAVベクターの51℃での180分間にわたる回収率を示す。図9は、100mMまたは200mMのMgClを含有する緩衝液中のAAVベクターの53℃での180分間にわたる回収率を示す。全体的に、これらのデータは、200mM MgClを含有する緩衝液が、長期の加熱中の分解に対してわずかに良好な保護を提供することを示唆している。これらの差異を図10および11に示すが、そこでは、100mM MgClを含有する緩衝液対200mM MgClを含有する緩衝液について、持続時間および温度の増加とともにわずかに増加したベクターの損失が示される。
【表1】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
均等物
【0060】
本明細書に示され、記載されたものに加えて、本発明の様々な変形およびその多くのさらなる実施形態が、本明細書中で引用された科学文献および特許文献への参照を含む本文書の内容全体から当業者に明らかとなる。本明細書の主題は、その様々な実施形態およびその等価物における本発明の実践に適合されうる重要な情報、例証およびガイダンスを含有する。
図1
図2AB
図2CD
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11