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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
   B81B 1/00 20060101AFI20230927BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20230927BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230927BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B81B1/00
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B01J19/00 321
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019050258
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020151784
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】595067707
【氏名又は名称】フコク物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095636
【弁理士】
【氏名又は名称】早崎 修
(72)【発明者】
【氏名】小沢 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 高史
(72)【発明者】
【氏名】岡下 勝己
(72)【発明者】
【氏名】日比野 委茂
(72)【発明者】
【氏名】川田 治良
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-238097(JP,A)
【文献】特表2012-515908(JP,A)
【文献】特開2006-087974(JP,A)
【文献】特開2006-320772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00
G01N 35/08
G01N 37/00
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面からマイクロ流路が凹設された基体と、
前記基体の表面側に積層し、前記マイクロ流路を覆うカバープレートと、
積層された前記基体と前記カバープレートとを非接合状態で一体化する加圧部材とを備えたマイクロ流路デバイスであって、
前記カバープレートを、硬質樹脂若しくは硬質ガラスで形成するとともに、
前記基体を、シリコーン系エラストマーで形成し、
前記基体の表面上で、前記マイクロ流路の周縁をその周囲から対向する前記カバープレートに向かって突出させたことを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項2】
前記マイクロ流路の周縁の周囲の前記基体の表面は、傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項3】
前記カバープレートの水接触角は、前記基体の水接触角より小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項4】
前記カバープレートを、硬質ガラスで形成することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項5】
前記マイクロ流路に注入孔が連通する前記基体を、金型を用いて成形することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項6】
前記加圧部材は、断面がコの字状のフックの間に、前記マイクロ流路の周縁を圧縮させた前記基体と前記カバープレートを挟装する金属バネ材であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層する基体とカバープレートとの間にマイクロ流路が形成されたマイクロ流体デバイスに関し、更に詳しくは、基体からカバープレートを取り外し、マイクロ流路に注入した試料を取り出し容易としたマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスは、積層された基体とカバープレート間に幅500nm乃至1mm程度の微細なマイクロ流路が形成されたデバイスであり、マイクロ流路に連通する注入孔から有機化合物、生体試料などの微量の試料をマイクロ流路に注入し、試料を混合、反応、合成、抽出、分析する等の用途で用いられている。
【0003】
このような構造のマイクロ流体デバイスでは、マイクロ流路に注入した試料が、積層した基体とカバープレートの間から漏れ出ないように、両者の対向する積層面をプラズマ加工若しくはUV加工等で表面改質し、相互を接合している(特許文献1)。このマイクロ流体デバイスによれば、両者の対向する積層面の全体を接着剤を用いて接合しないので、接着剤の溶剤や接着成分がマイクロ流路へ注入する試料に影響を与えることがない。
【0004】
また、図13に示すように、マイクロ流路が形成された合成樹脂製の基体101に合成樹脂製のカバープレート102を重ね、押さえ具103と下部保持体104との間に基体101とカバープレート102を挟んだ状態で、押さえ具103の貫通孔103aに挿通させた雄ネジ105を下部保持体104に螺合して基体101とカバープレート102の積層面間を圧着し、全体を一体に組み立てたマイクロ流体デバイス100も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-187730号公報
【文献】特許第5838418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のマイクロ流体デバイス等のように、基体とカバープレートを接合し、その間にマイクロ流路を形成した従来のマイクロ流体デバイスでは、有機化合物、生体試料などの微量試料を、マイクロ流路の中で混合、反応、合成、培養した後に、分析や治験などの用途でマイクロ流路から抽出するには、マイクロ流路に連通する注入孔や抽出孔から抽出したり、接合している基体とカバープレートを分離して、開放させたマイクロ流路から抽出するが、いずれも煩雑で手間がかかり、また、その抽出過程で試料が物理的に損傷したり、接合に用いた接着剤の一部が試料に混入するという問題があった。
【0007】
特許文献2に記載の雄ネジ105による締め付け力を用いて基体101とカバープレート102を密着させるので、雄ネジ105を押さえ具103と下部保持体104から外し、基体101とカバープレート102とを分離してマイクロ流路106から容易に微量試料を抽出することができるが、組み立て時には、対向する積層面間の全体を4本の雄ネジ105による締め付け力で圧着するので、いずれかの積層面にわずかな凹凸が生じたり、雄ねじ105による締め付け力のバランスが崩れても、積層面間の隙間から試料が漏れ出す恐れがあった。
【0008】
そこで、特許文献2に記載の発明では、カバープレート102の表面硬度が相対的に基体101より柔らかくなるような合成樹脂材料の組み合わせでカバープレート102と基体101を形成し、マイクロ流路106を凹設することによって凹凸が生じる基体101側の積層面に合わせて、カバーブレート102を変形させ、マイクロ流路106の密閉性を保持している。
【0009】
しかしながら、基体101とカバープレート102の積層面間を面接触で圧着させる構造であるため、両者の表面硬度を異ならせても、積層面のわずかな凹凸によって生じる隙間をシールすることはできず、上記課題を本質的に解決することはできない。一方、このわずかな隙間をシールするために、雄ネジ105による締め付け力をあげると、基体101のマイクロ流路106の縁が過剰に圧縮されてマイクロ流路106が変形したり、マイクロ流路106の容積が減少するという新たな問題が生じる。
【0010】
また、マイクロ流路106に注入した試料が基体101とカバープレート102のいずれに付着するかが一定ではないので、基体101とカバープレート102を分離して試料を抽出する際に、培養した神経細胞等の試料が双方に付着して切断されたり、基体101とカバープレート102のいずれに試料が付着しているかが不明であり、その取り扱いが煩雑になるという問題もある。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、マイクロ流路から試料が漏れ出すことがなく、更に、マイクロ流路から容易に試料を取り出すことができるマイクロ流体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、請求項1に記載のマイクロ流体デバイスは、表面からマイクロ流路が凹設された基体と、基体の表面側に積層し、マイクロ流路を覆うカバープレートと、積層された基体とカバープレートとを非接合状態で一体化する加圧部材とを備えたマイクロ流体デバイスであって、カバープレートを、硬質樹脂若しくは硬質ガラスで形成するとともに、基体を、シリコーン系エラストマーで形成し、基体の表面上で、マイクロ流路の周縁をその周囲から対向するカバープレートに向かって突出させたことを特徴とする。
【0013】
硬質樹脂若しくは硬質ガラスで形成されたカバープレートと、シリコーン系エラストマーで形成された基体とは、基体の表面の周囲からカバープレートに向かって突出する小面積のマイクロ流路の周縁において弾性接触し、高い接触圧で密着するので、マイクロ流路が完全に密閉される。
【0014】
加圧部材により、カバープレートと基体とは、基体の表面の周囲からカバープレートに向かって突出するマイクロ流路の周縁が圧縮されて非接合状態で一体化されるので、加圧部材を取り除くと、圧縮された基体の表面が復帰して対向するカバープレートを基体の表面から押し上げ、マイクロ流路に注入された試料に触れることなく、カバープレートの縁を持って容易に外すことができる。
【0015】
また、請求項2に記載のマイクロ流体デバイスは、マイクロ流路の周縁の周囲の基体の表面は、傾斜面であることを特徴とする。
【0016】
基体は、表面の周囲からマイクロ流路の周縁に近づくほど、大きい弾力でカバープレートに弾性接触し、マイクロ流路が確実に密閉される。
【0017】
また、加圧部材でカバープレートを基体の表面へ押圧する押圧力を加えるほど、シリコーン系エラストマーで形成された基体のカバープレートとの接触面積が拡大し、基体の圧縮歪みが減少するので、過剰な押圧力を加えてもマイクロ流路は大きく変形しない。
【0018】
また、請求項3に記載のマイクロ流体デバイスは、カバープレートの水接触角が、基体の水接触角より小さいことを特徴とする。
【0019】
マイクロ流路の内壁面を形成する基体の接触角よりマイクロ流路を覆うカバープレートの接触角が小さく、親水性であるので、液体試料は、カバープレート側に付着する。
【0020】
また、請求項4に記載のマイクロ流体デバイスは、カバープレートを、硬質ガラスで形成することを特徴とする。
【0021】
カバープレートを、硬質ガラスで形成するので、マイクロ流路を覆うカバープレートの平面性を損なわず、マイクロ流路内の試料を観察できる。
【0022】
硬質ガラスの接触角は約65度と、シリコーン系エラストマーの約105度の接触角より低いので、液体試料は親水性の硬質ガラスで形成されたカバープレート側に付着する。
【0023】
また、請求項5に記載のマイクロ流体デバイスは、マイクロ流路に注入孔が連通する基体を、金型を用いて成形することを特徴とする。
【0024】
微細構造の成形に適したシリコーン系エラストマーを成形材料として、マイクロ流路が凹設される溝とマイクロ流路に連通する注入孔が形成された基体を金型を用いて成形する。
【0025】
また、請求項6に記載のマイクロ流体デバイスは、加圧部材が、断面がコの字状のフックの間にマイクロ流路の周縁を圧縮させた基体とカバープレートを挟装する金属バネ材であることを特徴とする。
【0026】
金属バネ材の断面がコの字状のフックの間に、マイクロ流路の周縁を圧縮させた基体とカバープレートを挟装することにより、マイクロ流路の周縁がカバープレートに弾性接触する状態で基体とカバープレートとが非接合状態で一体化される。
【発明の効果】
【0027】
請求項1の発明によれば、硬質樹脂若しくは硬質ガラスで形成されたカバープレートと、シリコーン系エラストマーで形成されたマイクロ流路の周縁の基体が高い接触圧で密着するので、マイクロ流路が完全に密閉される。
【0028】
マイクロ流路が凹設される基体は、酸素透過性の高いシリコーン系エラストマーで形成されるので、マイクロ流路内でiPS細胞等の細胞を培養できる。
【0029】
また、マイクロ流路が凹設される基体は、透明で自家蛍光性が低いシリコーン系エラストマーで形成されるので、マイクロ流路内の試料の変化を観察でき、蛍光反応を利用して分析する用途でマイクロ流体デバイスを使用できる。
【0030】
また、加圧部材を取り除くと、圧縮された基体の表面が復帰して対向するカバープレートを基体の表面から押し上げるので、マイクロ流路に注入された試料に触れることなく、カバープレートの縁を持って外し、マイクロ流路から試料を容易に取り出すことができる。
【0031】
請求項2の発明によれば、基体は、マイクロ流路の周縁に近づくほど大きい弾力でカバープレートに弾性接触するので、マイクロ流路が確実に密閉される。
【0032】
また、加圧部材でカバープレートを基体の表面へ押圧する押圧力を加えるほど、シリコーン系エラストマーで形成された基体のカバープレートとの接触面積が拡大し、基体の圧縮歪みが減少するので、過剰な押圧力を加えてもマイクロ流路は大きく変形しない。
【0033】
また、基体の表面は、周囲からマイクロ流路の周縁に向かった傾斜面となっているので、カバープレートに弾性接触して圧縮されるマイクロ流路の周縁は、基体の表面の周囲の方向に撓みにくく、マイクロ流路の内壁面が外側に撓み、カバープレートとの隙間から試料が漏れ出す恐れがない。
【0034】
請求項3の発明によれば、基体から取り外すカバープレート側にマイクロ流路に注入した試料が付着するので、カバープレートを取り出すだけで、液体試料をカバープレート上にのせて取り出すことができる。
【0035】
請求項4に記載のマイクロ流体デバイスは、基体から取り外す硬質ガラスで形成されたカバープレート側にマイクロ流路に注入した液状試料が付着するので、カバープレートを取り出すだけで、液体試料をカバープレート上にのせて取り出すことができる。液状試料がiPS細胞等の生体細胞である場合には、硬質ガラスで形成されたカバープレートに沿って成長した生体細胞を、カバープレート上にのせたまま取り出すことができ、カバープレートごと切断してその組成を観察できる。
【0036】
請求項5の発明によれば、微細構造の成形に適したシリコーン系エラストマーを成形材料として金型を用いて基体を成形するので、マイクロ流路とマイクロ流路に連通する注入孔を精度良く形成できる。
【0037】
また、マイクロ流路に連通するように基体に注入孔を穿設する手間がなく、使い捨ての安価なマイクロ流体デバイスを量産できる。
【0038】
請求項6の発明によれば、金属バネ材の断面がコの字状のフックの間に、基体とカバープレートを挟装するだけで、マイクロ流路の周縁がカバープレートに弾性接触する状態で基体とカバープレートとを一体化でき、金属バネ材を外せば、カバープレートを基体から分離して取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の第1実施の形態に係るマイクロ流体デバイス1の斜視図である。
図2】マイクロ流体デバイス1の使用状態を示す縦断面図である。
図3】馬蹄形バネ金具2の斜視図である。
図4】馬蹄形バネ金具2の(a)は、平面図、(b)は、側面図、(c)は、(a)のA-A線断面図、である。
図5】デバイス本体3の斜視図である。
図6】デバイス本体3の平面図である。
図7】デバイス本体3の平面上にカバープレート4を配置した状態を示す平面図である。
図8図7のB-B線断面図である。
図9図8の要部拡大断面図である。
図10】馬蹄形バネ金具2のフック21の間にデバイス本体3とカバープレート4を挟挿した状態を図7のB-B線の位置で切断した断面図である。
図11図10の要部拡大断面図である。
図12】他の実施の形態にかかるマイクロ流体デバイス10の、(a)は、図8の状態に相当する要部拡大断面図、(b)は、図10の状態に相当する要部拡大断面図、である。
図13】従来のマイクロ流体デバイス100の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の第1実施の形態に係るマイクロ流体デバイス1を、図1乃至図11を用いて説明する。このマイクロ流体デバイス1は、図2に示すように、デバイス本体3とカバープレート4の間に形成されるマイクロ流路5に有機化合物、生体試料などの微量の試料50を注入し、マイクロ流路5内に注入される試料50を混合、反応、合成、抽出、分離、若しくは分析する用途で使用される。従って、このマイクロ流体デバイス1は、通常、図2に示す向きで使用するが、マイクロ流体デバイス1の組み立てや、マイクロ流路5内に注入された試料50を取り出す際には、図2に示す向きから上下を逆転させた図1図10に示す向きとするので、以下の説明は、図10に図示する方向を上下左右方向と、図7に図示する左右方向を前後方向として説明する。
【0041】
マイクロ流体デバイス1は、平面(表面)にマイクロ流路5を形成する凹溝5aが凹設されたデバイス本体3と、デバイス本体3の平面上に重ねられ、マイクロ流路5の上方の開口を覆うカバープレート4と、デバイス本体3のマイクロ流路5の周縁がカバープレート4の底面(背面)に密着するように、デバイス本体3とカバープレートを挟持してデバイス本体3の外側面に取り付けられる馬蹄形バネ金具2とから構成されている。
【0042】
デバイス本体3は、ここでは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)にMQレジンを添加して弾性を付与したエラストマー(以下、単にPDMSという)を成形材料として、金型を用いたインジェクション成形で、図2図5図6に示すように長円形の枡形に形成される。
【0043】
しかしながら、金型を用いて量産可能に成形できれば、インジェクション成形に限らず、流動数、シリコーン系エラストマーの種類、デバイス本体3の形状に合わせて、適宜トランスファー成形、コンプレッション成形等の種々の成形法で成形することができる。
【0044】
デバイス本体3の平面は、短手方向の左端部31aと右端部31bからそれぞれ中央に向かって上方に傾斜する一組の傾斜面31、31となっていて、一組の傾斜面31、31が交差する稜線に沿って、上方から幅及び深さが100μm乃至1mm程度のマイクロ流路5を形成する凹溝5aが凹設されている。すなわち、傾斜面31の一端の左端部31a若しくは右端部31bが最も低く、他端のマイクロ流路5を形成する凹溝5aの縁が最も高くなっている。
【0045】
デバイス本体3の底面側は、試料50を一時貯留する貯留室8が底面側に開口して凹設され、この貯留室8をマイクロ流路5に連通させるために、凹溝5aの長手方向の両端の位置に、凹溝5aから貯留室8に貫通する注入孔6及び排出孔7が穿設されている。また、デバイス本体3の長手方向に沿った左側面と右側面には、それぞれ長手方向に沿って後述する馬蹄形バネ金具2のフック21を係止する係止溝9が凹設されている。
【0046】
デバイス本体3を金型で成形する成形材料を、金型内で流動性の高いPDMSとするので、金型の成形面への転写性にすぐれ、上述の微小なマイクロ流路5を形成する凹溝5aや注入孔6、排出孔7を高精度に形成できる。また、マイクロ流路5を形成する凹溝5aの内壁面が酸素透過性の高いPDMSで形成されるので、生態細胞等の試料50をマイクロ流路5内に収容して培養できる。
【0047】
カバープレート4は、透明な硬質ガラスで長方形板状に形成され、図7乃至図9に示すように、デバイス本体3のマイクロ流路5を形成する凹溝5aを覆うように、デバイス本体3の平面上に配置される。カバープレート4を硬質ガラスで形成することにより、マイクロ流路5を覆うカバープレート4の平面性が損なわれず、また、カバープレート4を通してマイクロ流路5内の試料50を観察できる。
【0048】
馬蹄形バネ金具2は、図3図4に示すように、コの字状の断面が向き合った一対のフック21、21と、一対のフック21、21を連結する連結板22が、燐青銅などの弾性金属材料で一体に形成され、全体は、デバイス本体3の左側面から右側面までの側面を囲う馬蹄形となっている。コの字状のフック21の下板部21aは、上述したデバイス本体3の左側面と右側面に凹設された係止溝9に沿って前方からスライドして係止溝9内に挿入され、上板部21bは、デバイス本体3の平面上に配置されるカバープレート4の平面の左縁4aと右縁4bに沿ってスライドして左縁4aと右縁4bを下方へ押し込む。すなわち、一対のフック21、21の互いに平行な下板部21aと上板部21b間の間隔は、デバイス本体3の係止溝9の内頂面から傾斜面31の左端部31aと右端部31b上に配置されるカバープレート4の平面の左縁4a若しくは右縁4bまでの鉛直方向の長さよりわずかに短い長さとなっている。
【0049】
マイクロ流体デバイス1の組立は、始めに、図7に示すように、デバイス本体3の長手方向に沿ってその平面上にカバープレート4を配置する。デバイス本体3の平面は、マイクロ流路5を形成する凹溝5aの縁が最も高い位置となる一組の傾斜面31、31となっているので、図8図9に示すようにカバープレート4は、マイクロ流路5を覆う状態で凹溝5aの縁の上に配置され、その両側の左縁4a及び右縁4bと、傾斜面31の左端部31a及び右端部31bとの間には一定の隙間が生じている。
【0050】
続いて、フック21の下板部21aを係止溝9の内頂面に当接させるとともに、上板部21bの下面にカバープレート4の平面の左縁4a若しくは右縁4bを当接させる。この状態では、フック21の下板部21aと上板部21b間の間隔が、デバイス本体3の係止溝9の内頂面から、傾斜面31の左端部31aと右端部31b上に配置されるカバープレート4の平面の左縁4a若しくは右縁4bまでの長さより短いので、図10図11に示すように、傾斜面31、31が水平面に沿って、カバープレート4の平坦な底面に密着するまで弾性体であるデバイス本体3が圧縮され、フック21の下板部21aと上板部21bの間に、圧縮されたデバイス本体3とカバープレート4が挟持される。
【0051】
一対のフック21、21の各下板部21aと上板部21bの間に、圧縮されたデバイス本体3とカバープレート4を挟持する上記工程では、フック21の下板部21aを係止溝9に挿入しながら、凹溝5aの縁の上に配置されたカバープレート4の全体を下方へ押し込んでデバイス本体3を圧縮し、フック21の上板部21bの下面にデバイス本体3が圧縮することにより下降させたカバープレート4の平面の左縁4a若しくは右縁4bをフック21の上板部21bの下面に当接させてもよい。
【0052】
続いて、馬蹄形バネ金具2の一対のフック21、21の各下板部21aと上板部21bの間に、圧縮されたデバイス本体3とカバープレート4の前方の一部を挟持した状態から、更に一対のフック21、21をデバイス本体3の左側面と右側面に沿って後方にスライドし、フック21、21の全体で、圧縮したデバイス本体3とカバープレート4の全体を挟持する図1に示す位置までスライドさせ、マイクロ流体デバイス1が組み立てられる。
【0053】
馬蹄形バネ金具2の一対のフック21、21を用いて一体に組み立てられたマイクロ流体デバイス1は、マイクロ流路5の開口をカバープレート4で覆う状態でデバイス本体3とカバープレート4が分離可能に一体化される。また、図9図11を比較して明らかなように、自由状態でデバイス本体3の傾斜面31の最も高い位置にある凹溝5aの縁で最も圧縮変位が大きく、カバープレート4との接触面積が小さいので、高い応力でカバープレート4の底面に弾性接触する。その結果、マイクロ流路5の上方の開口は、カバープレート4で隙間なく完全密閉される。
【0054】
本実施の形態によれば、デバイス本体3の傾斜面31の最も高い位置となる凹溝5aの縁において最大の圧縮応力を発生させ、カバープレート4に弾性接触させているが、凹溝5aの縁の左右の外側は鉛直方向に十分な厚みで支持されているので、凹溝5aの縁の圧縮変位を最大としても、マイクロ流路5の鉛直方向の内壁面が外側に撓むことがなく、マイクロ流路5の断面形状が変化したり、凹溝5aの縁とカバープレート4の間に隙間が生じることがない。
【0055】
次に、このマイクロ流体デバイス1を用いて試料50を分析等の用途で使用する方法について説明する。マイクロ流体デバイス1を使用する場合には、組み立てたマイクロ流体デバイス1の上下を逆転させて、図2に示す向きとし、注入孔6を通して貯留室8に貯留した試料50をマイクロ流路5へ注入し、若しくは図示しないピペットを注入孔6へ差し込んで試料50をマイクロ流路5へ注入する。
【0056】
マイクロ流路5の内壁面を形成するデバイス本体3は、酸素透過性の高いPDMSで形成されているので、生体細胞等の試料50をマイクロ流路5内に注入することができ、ここでは培養する目的でiPS細胞50をマイクロ流路5内に注入する。
【0057】
マイクロ流路5内に注入した試料50は、排出孔7から吸引して取り出すこともできるが、吸引によって生体細胞などの試料50の組織が破壊される恐れのある。本実施の形態では、排出孔7を用いずにマイクロ流路5から試料50を取り出すもので、以下、iPS細胞の試料50を取り出す方法について説明する。マイクロ流路5内で所定時間培養したiPS細胞50を取り出す際には、フック21で圧縮させたデバイス本体3とカバープレート4を挟持している馬蹄形バネ金具2を前方に引き出し、デバイス本体3から取り外す。
【0058】
馬蹄形バネ金具2をデバイス本体3から取り外すことにより、一対のフック21、21で圧縮状態で拘束されていたデバイス本体3は、図7乃至図9に示す自由状態に復帰し、図8図9に示すようにカバープレート4は、マイクロ流路5を覆う状態で凹溝5aの縁の上に配置される。この状態で、カバープレート4の両側の左縁4a及び右縁4bと、傾斜面31の左端部31a及び右端部31bとの間には一定の隙間が生じているので、試料50に手が触れることなく、カバープレート4の両側をつまんでデバイス本体3から取り外すことができる。
【0059】
ここでマイクロ流路5内で培養される液状のiPS細胞50は、PDMSからなる疎水性の凹溝5aの内壁面より親水性の硬質ガラスからなるカバープレート4の内面に沿って成長する。従って、マイクロ流路5内で培養したiPS細胞50は、デバイス本体3から取り外したカバープレート4に付着させたままマイクロ流路5から取り出すことができる。
【0060】
また、培養したiPS細胞は、硬質ガラスのカバープレート4に付着させた状態で取り出すことができるので、その全体を詳しく観察したり、カバープレート4とともに切断して、iPS細胞50の切断面を観察できる。
【0061】
尚、硬質ガラスのカバープレート4側に試料50が付着していない場合であっても、カバープレート4を取り除くことにより、開口する上方からマイクロ流路5に注入された試料50を容易に取り出すことができる。
【0062】
次に、本発明の第2実施の形態に係るマイクロ流体デバイス10を、図12を用いて説明する。第1実施の形態に係るマイクロ流体デバイス1が、マイクロ流路5を形成する凹溝5aの縁を、傾斜面31の一端の最も上方の位置(高い位置)としているのに対し、マイクロ流体デバイス10は、デバイス本体3の平面(表面)に傾斜面31を形成せず、凹溝5aを平面から上方に突出するリブ11の内側に形成し、リブ11の上端をデバイス本体3の凹溝5aの縁とし、その他の構成は、第1実施の形態にかかる構成と同一若しくは同様に作用する構成であるので、これらの第1実施の形態に共通する構成には同一番号を用いてその詳細な説明を省略する。
【0063】
このマイクロ流体デバイス10は、デバイス本体3の平面上に、マイクロ流路5を形成する凹溝5aと凹溝5aの両端の注入孔5と排出孔7の全体を囲うリブ11がPDMSで一体に形成されている。従って、カバープレート4は、図12(a)に示すように、デバイス本体3の平面上のリブ11の上端に乗せて配置され、リブ11の左右の外側には、デバイス本体3の平面とカバープレート4の間に隙間12が生じている。
【0064】
図示しない一対のフック21、21の互いに平行な下板部21aと上板部21b間の間隔は、デバイス本体3の係止溝9の内頂面からリブ11上に配置されるカバープレート4の平面の左縁4a若しくは右縁4bまでの鉛直方向の長さより短い長さとなっている。従って、蹄形バネ金具2の一対のフック21、21の各下板部21aと上板部21b間で、デバイス本体3とカバープレート4を挟持すると、リブ11が鉛直方向に圧縮され、マイクロ流路5の開口縁にリブ11がカバープレート4に弾性接触して密着する。
【0065】
マイクロ流体デバイス10は、リブ11が圧縮されたデバイス本体3とカバープレート4をフック21で挟持した状態で、蹄形バネ金具2を係止溝9に沿って図1に示す位置までスライドして組み立てられる。組み立てられたマイクロ流体デバイス10は、マイクロ流路5の開口をカバープレート4が覆う状態でデバイス本体3とカバープレート4が分離可能な状態で一体化され、また、図12(b)に示すように、リブ11が圧縮されてカバープレート4の底面に弾性接触し、マイクロ流路5の上方の開口が、カバープレート4で隙間なく密閉される。
【0066】
上述の各実施の形態において、マイクロ流路5を形成する凹溝5aの溝幅が100μm以下の微小幅である場合には、フォトリソグラフィー技術によるレジストエッチングあるいは電鋳工法により形成した金型を用いてデバイス本体3を成形してもよい。
【0067】
また、上述の各実施の形態では、カバープレートを硬質ガラスで形成しているが、デバイス本体3を形成するPDMSに比べて十分に硬質な材料であれば、透明アクリル板などの硬質樹脂で形成してもよく、更に、カバープレートは必ずしも透明である必要はない。
【0068】
また、デバイス本体3を圧縮する加圧部材は、デバイス本体3を圧縮させてカバープレートに弾性接触する状態で両者が一体化されるものであれば、上記金属弾性材料で形成された馬蹄形バネ金具2に限らず、種々の材料や形状で形成できる。
【0069】
また、上述の各実施の形態では、デバイス本体3に排出孔7や貯留室8が形成されているが、必ずしも形成しなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
基体と基体を覆うカバープレートとの間にマイクロ流路が形成されるマイクロ流体デバイスに適している。
【符号の説明】
【0071】
1、10 マイクロ流体デバイス
2 馬蹄形バネ金具(加圧部材)
21 フック(加圧部材)
3 デバイス本体(基体)
31 傾斜面
4 カバープレート
5 マイクロ流路
50 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図12
図13