(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】針送りミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 3/02 20060101AFI20230927BHJP
D05B 19/16 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
D05B3/02 S
D05B19/16
(21)【出願番号】P 2019093997
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】都田 実
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修平
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-055188(JP,A)
【文献】特開2013-248070(JP,A)
【文献】特開2000-084272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 3/02
D05B 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送り歯と、
縫い針を保持する針棒と、
前記送り歯に被縫製物の送り動作を付与する送り機構と、
前記送り歯の送りピッチを調節する送りピッチ調節機構と、
前記縫い針が前記被縫製物を突き刺して針送りを行うように前記針棒に針振り動作を付与する針送り機構とを備えるミシンにおいて、
前記針棒の針振り動作による針送り量を調節する針送り調節機構を備え、
当該針送り調節機構は、
前記針送り量を変更調節する針送り調節モーターを備え
、
前記針送り調節機構は、ミシンモーターから動力を得て前記針送り機構へ往復動作を入力する伝達部材と、
前記伝達部材が前記針送り機構へ入力する往復回動角度の範囲を変更調節する針送り調節体とを備え、
前記針送り調節モーターは、前記針送り調節体を回動させることで前記針送り量を変更調節することを特徴とする針送りミシン。
【請求項2】
前記針送り調節機構は、
その一端がミシンモーターに連結した針送りコネクティングロッドと、
その一端が前記針送り機構に連結した針送り入力腕と、
前記針送りコネクティングロッドと前記針送り入力腕とを連結する前記伝達部材としての第一の針送りリンク部材と、
第二の針送りリンク部材とを備え、
前記第一の針送りリンク部材の一端は、前記針送りコネクティングロッドの他端と前記第二の針送りリンク部材の一端とに回動可能に連結され、
前記第一の針送りリンク部材の他端は、前記針送り入力腕の他端に回動可能に連結され、
前記第二の針送りリンク部材の他端は、前記針送り調節体に回動可能に支持され、
前記針送り調節体の回動により、前記第二の針送りリンク部材の姿勢を変動させて、前記第一の針送りリンク部材の他端の回動中心と前記第二の針送りリンク部材の他端の回動中心を離間させることで、前記針送り量を変更調節することを特徴とする
請求項1に記載の針送りミシン。
【請求項3】
前記針送り調節機構は、
前記針送り調節体の中立位置では、前記第一の針送りリンク部材の他端の回動中心と前記第二の針送りリンク部材の他端の回動中心が最接近又は同一位置となる状態として針送り量を0とし、
前記中立位置に対する前記針送り調節体の角度変化量に応じて前記針送り量を変更調節可能であることを特徴とする
請求項2に記載の針送りミシン。
【請求項4】
前記送りピッチ調節機構は、送りピッチ調節モーターを備え、
前記送りピッチ調節モーターと前記針送り調節モーターとを制御する制御装置と、
前記送り歯の送りピッチを設定入力する下送り設定部と、
当該下送り設定部とは別に、前記針棒の針送り量を設定入力する針送り設定部と、
を備え、
前記制御装置は、
前記下送り設定部からの設定入力に基づいて前記送りピッチ調節モーターを制御し、
前記針送り設定部からの設定入力に基づいて前記針送り調節モーターを制御することを特徴とする
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の針送りミシン。
【請求項5】
前記針送り設定部は、前記針送り量を前記送り歯の送りピッチに対する比率によって設定入力することを特徴とする
請求項4に記載の針送りミシン。
【請求項6】
前記制御装置は、針数に応じて、前記針送り量を変更調節するように前記針送り調節モーターを制御することを特徴とする
請求項4又は請求項5に記載の針送りミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針振りを行う針送りミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の針送りミシンは、
図9に示すように、送り歯の布送り方向に沿って往復動作を付与する水平送り軸101に固定装備された主動アーム102の回動端部と、針棒に対して布送り方向に沿った揺動動作を付与する針送り軸103に固定装備された従動アーム104の回動端部とを針送りロッド105で連結することで、送り歯の送りピッチと針棒の針振り動作による針送り量とを略一致させた状態で、縫い針が被縫製物を突き刺しながら布送り方向に揺動して被縫製物を布送り方向へ移動させる針送りが行われていた。
【0003】
上記水平送り軸は、往復回動を行うことで送り歯を保持する送り台に布送り方向の往復動作を付与する軸である。そして、この水平送り軸は、上軸に連動して全回転を行う上下送り軸に対して、送り調節機構を介して連結されている。
送り調節機構は、送り調節モーターにより、上下送り軸から水平送り軸に伝達される往復回動の角度範囲を任意に調節可能である。これにより、送り歯の送りピッチが任意に調節される。
そして、前述したように、針送り軸103は、主動アーム102、針送りロッド105及び従動アーム104を介して水平送り軸101に連結されているので、送り調節機構により水平送り軸101の往復回動の角度範囲が変動すると、それに応じて針送り軸103の往復回動の角度範囲も変動して針送り量が調節されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、送り歯の送りピッチと針送り量は、原則として一致している。しかし、被縫製物の材質や厚さや縫製の仕上がり等の要請等によっては針送り量が変動するので送りピッチに対して針送り量を調整することが必要な場合がある。
このため、従来の針送りミシンは、
図10に示すように、主動アーム102にその回動半径に沿った長穴102aを設け、主動アーム102と針送りロッド105とを回動可能に連結する支軸(図示略)を長穴102aに沿って位置調節可能に取り付けている。
この支軸の位置調節により、主動アーム102から従動アーム104に伝達される往復回動角度範囲が変更され、送り歯の送りピッチに対して針送り量を変更調節することができるようになっている。
【0006】
しかしながら、送り歯の送りピッチに対する針送り量の変更調節作業は、ミシンベッド部の内部機構に対して工具を用いて手作業で行われることから、その作業負担は大きなものとなっていた。
また、ミシンベッド部の内部機構に対して手作業で行われることから、調節が必要となった場合には、縫製作業を一旦終了してから行わねばならず、縫製作業の再開までには長時間を要するという問題も生じていた。
さらに、上記のように、主動アーム102の長穴102aに沿った支軸の位置調節作業は感覚的、経験的に行われることから、定量的に調節することが困難であった。
また、針棒は、上下動を行いつつ針振りを行う構造であることから、被縫製物の途中に段部等による高さが変動する部分が存在すると、そこで針送り量に変動が生じてしまうが、従来の針送りミシンは、そのような事態に対応することは困難であった。
【0007】
本発明は、針送り量の調節を適正に行うことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、ミシンにおいて、
送り歯と、
縫い針を保持する針棒と、
前記送り歯に被縫製物の送り動作を付与する送り機構と、
前記送り歯の送りピッチを調節する送りピッチ調節機構と、
前記縫い針が前記被縫製物を突き刺して針送りを行うように前記針棒に針振り動作を付与する針送り機構とを備えるミシンにおいて、
前記針棒の針振り動作による針送り量を調節する針送り調節機構を備え、
当該針送り調節機構は、
前記針送り量を変更調節する針送り調節モーターを備えることを特徴とする。
【0009】
さらに、請求項1記載の発明は、
前記針送り調節機構は、ミシンモーターから動力を得て前記針送り機構へ往復動作を入力する伝達部材と、
前記伝達部材が前記針送り機構へ入力する往復回動角度の範囲を変更調節する針送り調節体とを備え、
前記針送り調節モーターは、前記針送り調節体を回動させることで前記針送り量を変更調節することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のミシンにおいて、
前記針送り調節機構は、
その一端がミシンモーターに連結した針送りコネクティングロッドと、
その一端が前記針送り機構に連結した針送り入力腕と、
前記針送りコネクティングロッドと前記針送り入力腕とを連結する前記伝達部材としての第一の針送りリンク部材と、
第二の針送りリンク部材とを備え、
前記第一の針送りリンク部材の一端は、前記針送りコネクティングロッドの他端と前記第二の針送りリンク部材の一端とに回動可能に連結され、
前記第一の針送りリンク部材の他端は、前記針送り入力腕の他端に回動可能に連結され、
前記第二の針送りリンク部材の他端は、前記針送り調節体に回動可能に支持され、
前記針送り調節体の回動により、前記第二の針送りリンク部材の姿勢を変動させて、前記第一の針送りリンク部材の他端の回動中心と前記第二の針送りリンク部材の他端の回動中心を離間させることで、前記針送り量を変更調節することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載のミシンにおいて、
前記針送り調節機構は、
前記針送り調節体の中立位置では、前記第一の針送りリンク部材の他端の回動中心と前記第二の針送りリンク部材の他端の回動中心が最接近又は同一位置となる状態として針送り量を0とし、
前記中立位置に対する前記針送り調節体の角度変化量に応じて前記針送り量を変更調節可能であることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
前記送りピッチ調節機構は、送りピッチ調節モーターを備え、
前記送りピッチ調節モーターと前記針送り調節モーターとを制御する制御装置と、
前記送り歯の送りピッチを設定入力する下送り設定部と、
当該下送り設定部とは別に、前記針棒の針送り量を設定入力する針送り設定部と、
を備え、
前記制御装置は、
前記下送り設定部からの設定入力に基づいて前記送りピッチ調節モーターを制御し、
前記針送り設定部からの設定入力に基づいて前記針送り調節モーターを制御することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載のミシンにおいて、
前記針送り設定部は、前記針送り量を前記送り歯の送りピッチに対する比率によって設定入力することを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項4又は請求項5に記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、針数に応じて、前記針送り量を変更調節するように前記針送り調節モーターを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、針送り調節モーターによって針棒の針振り動作による針送り量を変更調節するので、針送り量の変更調節作業の作業負担を大幅に低減し、作業時間も短縮することが可能となる。
また、針送り調節モーターの動作量を制御することで、針送り量を定量的に調節することが可能となる。また、制御の再現性も高くなる。
また、針送り調節モーターによって針送り量を変更調節するので、縫製動作中の針送り量の変更も行うことができ、縫製途中の段差等にも適正に対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】発明の実施形態たる針送りミシンの機構線図である。
【
図2】針上下動機構と針送り機構の分解斜視図である。
【
図4】針送り調節機構の原理説明図であり、
図4(A)は針送り調節体が中立位置にある状態を示し、
図4(B)は針送り調節体が中立位置から傾斜した状態を示す。
【
図6】操作パネルにおける送りピッチと針送り量の設定入力を行う入力画面の表示例を示す。
【
図7】操作パネルにおける送りピッチと針送り量の設定入力を行う入力画面の他の表示例を示す。
【
図8】一針ごとの針送り量を設定した設定データの説明図である。
【
図9】従来の針送りミシンの針送り機構の斜視図である。
【
図10】従来の針送りミシンの針送り機構における針送り量の調節構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[発明の実施形態の概略]
以下、本発明の実施の形態を
図1から
図8に基づき詳しく説明する。本実施形態では、針送りミシンを例に説明する。
図1に発明の実施形態たる針送りミシン100の機構線図を示す。この針送りミシン100は、例えば、送り歯と同期して針棒12の針振り動作を行い、縫い針11を被縫製物に突き通した状態で被縫製物である上布と被縫製物である下布とを一緒に送るミシンである。
【0018】
[実施形態の全体構成]
針送りミシン100(以下、単にミシン100とする)は、ミシンフレームと、縫い針11を保持する針棒12の上下動を行う針上下動機構20と、送り歯31の送り動作によって針板上の被縫製物を所定方向に送る送り機構30と、送り歯31による送りピッチを調節する送りピッチ調節機構40と、針棒12の下端部を布送り方向に沿って回動させて針振り動作を行う針送り機構50と、針振り動作における針棒12の往復回動角度を調節する針送り調節機構60と、ミシン100の全体構成の動作制御を行う制御装置90とを備えている。
【0019】
[ミシンフレーム]
ミシンフレームは、外形が側面視にて略コ字状を呈しており、ミシンフレームの上部をなし、Y軸方向に延びるミシンアーム部1と、ミシンフレームの下部をなし、Y軸方向に延びるミシンベッド部2と、ミシンアーム部1とミシンベッド部2とを連結する立胴部(図示略)とを有している。
また、以下の説明において、送り方向に沿った水平な方向をX軸方向、X軸方向と直交する水平な方向をY軸方向、X軸方向とY軸方向の両方に直交する方向をZ軸方向(上下方向)と定義する。また、X軸方向に平行であって、送り方向下流側を「前」、上流側を「後」とし、Y軸方向に平行であって前方を向いて左手側を「左」、右手側を「右」とする。
なお、上記ミシンアーム部1とミシンベッド部2は、いずれもY軸方向に沿って延出されている。
【0020】
[送り機構]
送り機構30は、針板(図示略)の開口から出没して被縫製物の下から接して送りを行う送り歯31と、送り歯31を保持する送り台32と、送り台32にX軸方向に沿った往復動作を付与する水平送り機構34と、送り台32にZ軸方向に沿った往復動作を付与する上下送り機構33とを備えている。
送り台32は、前端部において上下送り機構33から上下動動作が入力され、後端部において水平送り機構34から前後方向に往復動作が入力される。上下動動作と前後方向の往復動作は、同期が図られ且つ位相が適宜調整されることで合成され、送り台32及び送り歯31に対して前後方向に沿った長円の周回運動を行わせることができる。この長円の軌跡における上部を移動する際に、送り歯31の上端部が針板の開口部から上方に突出して被縫製物の送り動作を実現する。
【0021】
上下送り機構33は、ミシンベッド部2内でY軸方向に沿った状態で回転可能に支持された上下送り軸331と、上下送り軸331の回転動作を上下の往復動作に変換する偏心カム332及び上下送りコネクティングロッド333とを備えている。
上下送り軸331には従動プーリ132が設けられ、後述する針上下動機構20の上軸22には主動プーリ131が設けられ、これらに掛け渡されたタイミングベルト13により、上軸22と上下送り軸331との間で同期回転が行われる。
偏心カム332は上下送り軸331に固定されており、上下送り軸331と共に回転する。上下送りコネクティングロッド333は、一端部で偏心カム332を回転可能に保持し、他端部が送り台32の前端部にY軸回りに回動可能に連結されている。上下送りコネクティングロッド333は、上下方向に向けられた状態で配置され、下端部が偏心カム332によって周回運動を行うと、上端部では送り台32に上下の往復動作を入力することができる。これによって、送り台32には、上軸22の回転と同期した上下の往復動作が入力される。
【0022】
水平送り機構34は、ミシンベッド部2内でY軸方向に沿った状態で回動可能に支持された水平送り軸341と、上下送り軸331の回転動作を水平方向の往復動作に変換する偏心カム342及び水平送りコネクティングロッド343と、水平送り軸341に固定装備され、送りピッチ調節機構40を介して水平送りコネクティングロッド343と連結された水平送り入力腕344と、水平送り軸341に固定装備され、送り台32の後端部に水平方向の往復動作を入力する出力腕345とを備えている。
偏心カム342は上下送り軸331に固定されており、上下送り軸331と共に回転する。水平送りコネクティングロッド343は、一端部で偏心カム342を回転可能に保持し、他端部が送りピッチ調節機構40に連結されている。この水平送りコネクティングロッド343は、概ねX軸方向に向けられており、X軸方向に沿った往復動作を送りピッチ調節機構40を介して水平送り入力腕344に入力する。
水平送り入力腕344は、水平送り軸341から概ね上方に向けられて延出されており、その回動端部は送りピッチ調節機構40に連結されている。送りピッチ調節機構40は、水平送り入力腕344の回動端部に水平方向の往復動作を入力し、水平送り入力腕344を往復回動させる。これにより、水平送り軸341は水平送り入力腕344と共に往復回動動作を行う。
出力腕345は、水平送り軸341から概ね上方に向けられて延出されており、その回動端部はY軸回りに回動可能に送り台32に連結されている。そして、出力腕345は、水平送り軸341と共に往復回動を行い、これにより送り台32に前後方向の往復動作を入力する。
【0023】
[送りピッチ調節機構]
送りピッチ調節機構40は、水平送り機構34の水平送りコネクティングロッド343と水平送り入力腕344とを連結する第一の水平送りリンク部材41と、当該第一の水平送りリンク部材41の回動方向を規制する第二の水平送りリンク部材42と、第二の水平送りリンク部材42の姿勢を変動させる送りピッチ調節体43と、送りピッチ調節体43をY軸回りに回動可能に支持する支軸431から上方に延出された従動腕44と、送りピッチ調節体43を任意の回動角度に回動させる送りピッチ調節モーター45と、送りピッチ調節モーター45の出力軸に設けられた主動腕46と、主動腕46の回動端部と従動腕44の回動端部とを連結する連結リンク47を備えている。
上記送りピッチ調節モーター45はステッピングモーターからなる。
送りピッチ調節機構40の構成は、後述する針送り調節機構60の構成に近似するので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0024】
[針上下動機構]
図2は針上下動機構20と針送り機構50の分解斜視図である。
針上下動機構20は、
図1及び
図2に示すように、縫い針11を保持する針棒12と、針棒12の上下動の駆動源となるミシンモーター21と、ミシンモーター21の出力軸に連結されて回転駆動を行う上軸22と、上軸22の左端部に固定装備された針棒クランク23と、針棒クランク23の回転中心から偏心した位置に装備されたクランク軸24と、クランク軸24に対して上端部がY軸回りに回転可能に連結されたクランクロッド25と、針棒12を抱き締めで保持し、クランクロッド25の下端部にY軸回りに回転可能に連結された針棒抱き26とを備えている。
上記ミシンモーター21はサーボモーターからなる。
また、符号27は、クランク軸24に対して回転可能に支持された天秤である。
【0025】
上軸22は、ミシンアーム部1内において、Y軸方向に沿った状態で回転可能に支持されている。そして、上軸22は、ミシンモーター21の出力軸に連結されてY軸回りに回転動作を行う。
針棒クランク23は、上軸22に対して偏心した位置でクランク軸24を介してクランクロッド25の上端部が連結されているので、当該クランクロッド25の上端部を周回運動させることができる。
【0026】
針棒12は、後述する針送り機構50によりその長手方向に沿って往復移動可能に支持されている。
従って、針棒抱き26を介して針棒12に連結されたクランクロッド25の上端部における周回運動が針棒12に沿った往復運動に変換されて当該針棒12に伝達される。
【0027】
[針送り機構]
針送り機構50は、
図1及び
図2に示すように、上軸22から針送り調節機構60を介して往復回動の動作が入力される針送り軸51と、針送り軸51の左端部に固定装備された揺動腕52と、針棒12をその長手方向に沿って摺動可能に支持する揺動台53と、針棒12の針棒抱き26の軸部に装備されたコロとしての角駒54と、角駒54を滑動可能にガイドする案内台55と、揺動腕52と案内台55とを連結する連結リンク56と、揺動台53の揺動をガイドするガイド部材57とを備えている。
【0028】
針送り軸51は、ミシンアーム部1内において、Y軸方向に沿った状態で回動可能に支持されている。そして、針送り軸51は、左端部から垂下された揺動腕52の回動端部をX軸方向に沿って往復揺動させることができる。
【0029】
揺動台53は、針棒12を上下二箇所で摺動保持する枠体であり、その下端部近傍にはY軸方向に沿った軸部531を備えている。この軸部531により、揺動台53は、ミシンアーム部1内において、Y軸回りに揺動可能となっている。なお、符号58は軸部531を摺動可能に支持するスリーブであり、符号59は軸部531を回転可能に支持する転がり軸受である。
また、揺動台53の上端部にはX軸方向の後方に向かって延出された角柱状のガイド軸532が設けられており、ガイド部材57に設けられたX軸方向に沿ったガイド溝571に挿入されている。このガイド軸532がガイド部材57のガイド溝571に挿入されることにより、揺動台53の揺動時にY軸方向のガタつきを抑えることができる。
【0030】
案内台55は、揺動台53の軸部531を挿入して抱き締め固定する挿入孔551と、角駒54を滑動可能にガイドする滑動溝552とを備えている。
挿入孔551は、案内台55の下端部に設けられ、揺動台53の軸部531を挿入して抱き締め固定するので、案内台55と揺動台53とが一体となって揺動動作を行う。
滑動溝552は、揺動台53に支持された針棒12と平行となる向きで形成されており、針棒12の長手方向に沿った上下動の際には、角駒54を同方向に沿って滑動可能にガイドすることができる。
また、案内台55は、その上端部において、連結リンク56の後端部がY軸回りに回動可能に連結されている。
この連結リンク56は、前端部が揺動腕52の下端部に対してY軸回りに回動可能に連結されているので、針送り軸51の往復回動による揺動腕52のX軸方向に沿った揺動動作が案内台55に伝達される。
そして、案内台55と共に揺動台53が軸部531を中心として揺動し、針棒12をX軸方向に沿って揺動させて針振り動作を行うことができる。
【0031】
[針送り調節機構]
図3は立胴部の内部構成を示した斜視図、
図4は針送り調節機構の原理説明図である。
針送り調節機構60は、
図1、
図3及び
図4に示すように、上軸22に固定装備された偏心カム61と、上端部で偏心カム61を回転可能に保持する針送りコネクティングロッド62と、針送り軸51の右端部に固定装備された針送り入力腕63と、針送りコネクティングロッド62と針送り入力腕63とを連結する伝達部材としての第一の針送りリンク部材64と、第二の針送りリンク部材65と、第二の針送りリンク部材65の姿勢を変動させる針送り調節体66と、針送り調節体66をY軸回りに回動可能に支持する支軸661から下方に延出された従動腕67と、針送り調節体66を任意の回動角度に回動させる針送り調節モーター68と、針送り調節モーター68の出力軸に設けられた主動腕69と、主動腕69の回動端部と従動腕67の回動端部とを連結する連結リンク691を備えている。
上記針送り調節モーター68はステッピングモーターからなる。
【0032】
針送りコネクティングロッド62は、概ね上下方向に向けられた状態で配置され、上軸22の回転駆動により上端部が偏心カム61によって周回運動を行うと、下端部では第一の針送りリンク部材64の後端部に上下の揺動動作を入力することができる。
第一の針送りリンク部材64は二つ一組であり、針送りコネクティングロッド62下端部の左右両側に一本ずつY軸回りに回動可能に連結されている。これら第一の針送りリンク部材64は、概ね、X軸方向に沿って配置され、その前端部は、針送り入力腕63の回動端部(下端部)の左右両側にY軸回りに回動可能に連結されている。
【0033】
第二の針送りリンク部材65は二つ一組であり、左右の第一の針送りリンク部材64の外側に配置されている。それぞれの第二の針送りリンク部材65の後端部は、個別に第一の針送りリンク部材64の後端部にY軸回りに回動可能に連結されている。つまり、第一の針送りリンク部材64の後端部には、第二の針送りリンク部材65の後端部と針送りコネクティングロッド62の下端部とが同一の回動軸により連結されている。
また、それぞれの第二の針送りリンク部材65の前端部は、針送り調節体66に対してY軸回りに回動可能に支持されている。
【0034】
針送り調節体66は、その前端部側に設けられた支軸661を中心としてY軸回りに回動可能である。支軸661は第一の針送りリンク部材64と第二の針送りリンク部材65との連結部の回動中心と同心としてもよい。この針送り調節体66の回動動作は、従動腕67、連結リンク691、主動腕69を介して針送り調節モーター68から入力される。
針送り調節体66は、
図4(A)に示すように、第一の針送りリンク部材64と第二の針送りリンク部材65とが重なるように(長手方向の向きが一致するように)維持した状態を中立位置とする。
第一の針送りリンク部材64と第二の針送りリンク部材65は、その長さが一致しており(一致しなくとも良い)、針送り調節体66の中立位置では、第一の針送りリンク部材64の前端部側の回動中心C1と第二の針送りリンク部材65の前端部側の回動中心C2とがY軸方向から見て最接近又は同一位置となる。このため、第一の針送りリンク部材64及び第二の針送りリンク部材65の後端部側から針送りコネクティングロッド62により往復動作が入力されると、第一の針送りリンク部材64及び第二の針送りリンク部材65は、共にその前端部側の回動中心回り回動する。このため、第一の針送りリンク部材64の前端部に連結された針送り入力腕63には回動動作が入力されず、針送り軸51は不動状態となる。
【0035】
また、針送り調節体66が、
図4(B)に示すように、中立位置から傾斜すると、第一の針送りリンク部材64の前端部の回動中心C1と第二の針送りリンク部材65の前端部の回動中心C2とが離隔する。しかし、第二の針送りリンク部材65の前端部は針送り調節体66により支持されているので、その回動中心は不動状態で保持される。このため、針送りコネクティングロッド62により往復動作が入力されると、第一の針送りリンク部材64及び第二の針送りリンク部材65の後端部は、第二の針送りリンク部材65の前端部の回動中心C2を中心とする円弧に沿って回動する。これにより、第一の針送りリンク部材64には、X軸方向に沿った往復動作が付与され、針送り入力腕63には回動動作が入力されて、針送り軸51を往復回動させる。
【0036】
上記針送り軸51に入力される往復回動角度の範囲は、中立位置に対する針送り調節体66の角度変化量に応じて変動させることができる。従って、針送り調節モーター68による針送り調節体66の回動角度量を制御することにより、針送り軸51に入力される往復回動角度の範囲を任意に調節することができ、縫い針11の針送り量を任意に調節することができる。
また、針送り調節体66を時計方向に回動させる場合と反時計方向とに回動させる場合とで位相を互いに逆にすることができ、針送り調節モーター68による針送り調節体66の回動方向を制御することにより、縫い針11の針送り方向を被縫製物の正送り方向と逆送り方向を自在に選択することができる。
【0037】
なお、前述した送りピッチ調節機構40の第一の水平送りリンク部材41、第二の水平送りリンク部材42、送りピッチ調節体43、従動腕44、送りピッチ調節モーター45、主動腕46、連結リンク47及び偏心カム342、水平送りコネクティングロッド343、水平送り入力腕344は、針送り調節機構60の第一の針送りリンク部材64、第二の針送りリンク部材65、針送り調節体66、従動腕67、針送り調節モーター68、主動腕69、連結リンク691及び偏心カム61、針送りコネクティングロッド62、針送り入力腕63と、個別に、その構造及び機能が対応している。
従って、送りピッチ調節機構40も、送りピッチ調節モーター45による送りピッチ調節体43の回動角度量を制御することにより、送り歯31による送りピッチを任意に調節することができ、送りピッチ調節モーター45による送りピッチ調節体43の回動方向を制御することにより、送り歯31の布送り方向を被縫製物の正送り方向と逆送り方向を自在に選択することができる。
【0038】
[ミシンの制御系]
上記ミシン100の制御系を
図5のブロック図に示す。この
図5に示すように、ミシン100は、各構成の動作制御を行う制御装置90を備えており、当該制御装置90は、ミシン100の基本的なプログラムその他の初期データが記憶されたROM92と、各種のプログラムを実行するCPU91と、CPU91の処理におけるデータ記憶領域となるRAM93と、書き換えを要する各種のプログラムや設定データが記憶されるEEPROM94とを備えている。なお、EEPROM94はフラッシュメモリやハードディスクで代用してもよい。
【0039】
また、上記制御装置90にはミシンモーター21の回転速度等を制御するためのモーター駆動回路21aを介してミシンモーター21が接続されている。このミシンモーター21には、その回転角度を検出するエンコーダー211が併設されており、制御装置90は、このエンコーダー211の出力から上軸22の角度や回転数の検出を行っている。
また、この制御装置90には、各々の動作を制御するための駆動回路45a,68aを介して送りピッチ調節モーター45及び針送り調節モーター68が接続されている。なお、送りピッチ調節モーター45及び針送り調節モーター68は、いずれも、出力軸の軸角度における原点センサを備えており、これらも制御装置90に接続されているが
図5では図示を省略する。
【0040】
さらに、制御装置90には、縫いピッチ、針送り量などの設定入力や所定情報の表示を行う入力装置と表示部を備える操作パネル95、ミシン100の縫製開始等の操作を指示入力するペダル96がインターフェイス97を介して接続されている。
上記操作パネル95の入力装置は、表示部の表示画面上を覆うように形成されたタッチパネルや、数字ボタン、スタートボタン等の各種操作ボタンを備え、ユーザーの操作に基づく操作信号を制御装置90に入力する。
【0041】
また、EEPROM94には、後述する縫製時の動作制御を実行する制御プログラム941、送りピッチの大きさと送りピッチ調節モーター45の軸角度との対応関係を記録した送りテーブル942、針送り量の大きさと針送り調節モーター68の軸角度との対応関係を記録した針送りテーブル943等が格納されている。
【0042】
操作パネル95には、
図6に示すように、送りピッチと針送り量の設定入力を行う入力画面を表示することができる。送りピッチと針送り量は、それぞれの大きさを示す数値を増減キーK1,K2から入力することができ、任意の数値を設定することができる。
これらが設定入力されると、制御装置90のCPU91は、前述した送りテーブル942と針送りテーブル943を参照し、入力された設定ピッチとなる軸角度となるように送りピッチ調節モーター45を駆動し、入力された針送り量となる軸角度となるように針送り調節モーター68を駆動する。
【0043】
なお、操作パネル95には、
図7に示すように、送りピッチの大きさを数値入力し、針送り量については送りピッチに対する比率(倍率)を数値入力する入力画面を表示しても良い。
この場合、制御装置90のCPU91は、送りピッチ調節モーター45については前述と同じように駆動し、針送り調節モーター68については、送りピッチの設定値に設定比率を乗じた値の針送り量となる軸角度となるように駆動する。
【0044】
また、送りピッチ調節モーター45と針送り調節モーター68は、縫製中に駆動して、縫製中に送りピッチや針送り量を変更する制御を行うことが可能である。
図8は、縫い開始からの針数によって一針ごとの針送り量(
図8では比率を例示)を設定した設定データを示す。この設定データは操作パネル95から入力することができ、入力された設定データはEEPROM94に格納される。
【0045】
CPU91は、縫製時には、制御プログラム941に基づいて、上記設定データに従って縫製制御を実行する。
即ち、ミシンモーター21が駆動して縫製が開始されると、CPU91は、毎針ごとに設定データを読み込んで、エンコーダー211が規定の上軸角度を検出すると、針送り調節モーター68を駆動し、設定された針送り量となるように出力軸を位置決めする。
これによって、毎針ごとに設定された針送り量となるよう針送り調節モーター68を制御して、縫製を行うことができる。
なお、布送りピッチについても毎針ごとの縫いピッチを設定データに定めて同様に制御することができる。
【0046】
[実施形態の技術的効果]
上記ミシン100は、針送り調節モーター68によって、針棒12の針振り動作による針送り量の調節を行うので、工具を使用して部材の取り付け位置を変更して調節を行う場合と異なり、針送り量の調節が容易且つ迅速に行うことができ、作業負担を飛躍的に低減することが可能となる。
また、針送り調節モーター68を利用するので、軸角度を決定すれば、針送り量を定量的に調節することが可能となる。また、針送り調節モーター68を利用するので、縫製中であっても、針棒12の針振り動作による針送り量を変更することが可能である。
【0047】
また、針送り調節機構60は、ミシンモーター21から動力を得て針送り機構50へ往復動作を入力する伝達部材としての第一の針送りリンク部材64と第二の針送りリンク部材65と、第二の針送りリンク部材65を支持すると共に回動して第一の針送りリンク部材64の往復動作方向を変更調節する針送り調節体66とを備え、針送り調節モーター68は、針送り調節体66を回動させることで針送り軸51の往復回動角度範囲を変更調節する。
従って、ミシンモーター21から針送り軸51への動力伝達が継続している状態で、針送り軸51の往復回動角度範囲を円滑に変更調節することが可能となる。
【0048】
また、針送り調節機構60は、第一の針送りリンク部材64の回動方向を規制する第二の針送りリンク部材65を備え、針送り調節体66の回動により、第二の針送りリンク部材65が第一の針送りリンク部材64の回動方向を変えることで、針送り軸51の往復回動角度範囲を変更調節する。
このため、簡単な構造の部品から針送り調節機構60を構成して、針送り軸51の往復回動角度範囲を円滑に変更調節することが可能となる。
【0049】
また、先述した操作パネル95は、前述した
図6に示すような入力画面を表示して、送りピッチの設定入力と針送り量の設定入力を受け付けることで「下送り設定部」及び「針送り設定部」として機能する。
これにより、より定量的に送り歯31の送りピッチと針棒12の針送り量とを制御することが可能となる。
【0050】
また、先述した操作パネル95は、前述した
図7に示すような入力画面を表示して、針棒12の針送り量を送り歯31の送りピッチに対する比率によって設定入力することもできる。これにより、送りピッチに対する針送り量のズレ等の修正や調整をより容易に行うことが可能となる。
【0051】
また、制御装置90は、針数に応じて、針棒12の針送り量を変更調節するように針送り調節モーター68を制御することができる。
従って、段部等の厚さ変動が生じる被縫製物に対して、厚さ変動による針送り量の変動が生じる針数を求めておけば、自動的にこれを修正して針送りを行うことができ、厚さ変動の影響を抑えて、縫い品質の高い縫製を行うことが可能となる。
【0052】
[その他]
以上、本発明に係る実施形態に基づいて具体的に説明したが、針送りミシンを構成する各機構の細部構成及び各機構の細部動作に関しても、本発明の主旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
例えば、針送り調節モーターが直接的に針棒12を往復回動させる構成としても良い。
【0053】
また、針送り調節機構は、伝達部材が角駒やコロとして、これらを滑動させるガイド部材やカムからなる針送り調節体の向きを針送り調節モーターで変更する構成としても良い。送りピッチ調節機構も同様である。
【符号の説明】
【0054】
11 縫い針
12 針棒
20 針上下動機構
21 ミシンモーター
22 上軸
30 送り機構
31 送り歯
40 送りピッチ調節機構
41 第一の水平送りリンク部材
42 第二の水平送りリンク部材
43 送りピッチ調節体
45 送りピッチ調節モーター
50 針送り機構
51 針送り軸
60 針送り調節機構
62 針送りコネクティングロッド
63 針送り入力腕
64 第一の針送りリンク部材(伝達部材)
65 第二の針送りリンク部材(伝達部材)
66 針送り調節体
68 針送り調節モーター
90 制御装置
95 操作パネル(下送り設定部、針送り設定部)
100 針送りミシン