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  • 特許-圧粉磁心 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20230927BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20230927BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230927BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230927BHJP
【FI】
H01F1/153 175
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F27/255 ZNM
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019123119
(22)【出願日】2019-07-01
(65)【公開番号】P2021009930
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-03-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明渡 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 理恵
(72)【発明者】
【氏名】村崎 孝則
(72)【発明者】
【氏名】工藤 英弘
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 崇央
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-053372(JP,A)
【文献】特表2013-522441(JP,A)
【文献】特開2015-170843(JP,A)
【文献】特開2004-259807(JP,A)
【文献】特開2003-318014(JP,A)
【文献】特開2002-260909(JP,A)
【文献】特開2001-267160(JP,A)
【文献】特開2009-249739(JP,A)
【文献】特開2001-358005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153
H01F 27/255
B22F 1/00
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子と、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、炭素数が12~30の脂肪酸とを含有し、
前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との合計量に対して、前記熱硬化性樹脂の含有量が0.01~4.99質量%であり、前記脂肪酸の含有量が0.01~4.99質量%であり、前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との合計量が0.02~5質量%であることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心に関し、より詳しくは、磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
圧粉磁心は、表面が絶縁被膜で覆われた磁性粒子を圧縮成形することによって得られるものであり、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等の電磁気を利用した様々な製品に用いられている。このような圧粉磁心としては、例えば、鉄基粒子の表面を、チタン等の金属を含む有機酸により形成された絶縁被膜で被覆し、さらに、前記絶縁被膜の表面を、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び高級脂肪酸塩のうちの少なくとも1種により形成された絶縁被膜で被覆した軟磁性材料を加圧成形し、熱処理することによって得られる圧粉磁心(特開2009-57586号公報(特許文献1))が知られている。
【0003】
一方、磁性ナノ粒子は、そのサイズが極めて小さいため、バルクの磁性材料とは異なる性質を示し、例えば、粒径が約100nmを超える範囲では、粒径が小さくなるにつれて保磁力が大きくなり、粒径が約100nm付近で保磁力が最大となるが、粒径が約20nm以下になると、超常磁性現象が発現して保持力が極めて小さくなる。このため、粒径が約20nm以下の磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心においては、ヒステリシス損を極めて小さくすることが可能になると考えられる。また、絶縁性の磁性ナノ粒子や表面に絶縁被膜を有する導電性の磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心において、粒径が約300nm以下の磁性ナノ粒子を用いることによって、高周波において渦電流の経路が制限され、渦電流損を小さくすることが可能になると考えられ、特に、粒径が約20nm以下の磁性ナノ粒子を用いることによって、渦電流損を極めて小さくすることができると考えられる。このように、粒径が約20nm以下の磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心は、ヒステリシス損や渦電流損が極めて小さくなるため、電源用途のトランスコア材として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-57586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の磁性マイクロ粒子を用いた圧粉磁心においては、加圧成形によって磁性マイクロ粒子が大きく変形し、粒子同士が複雑に絡み合うため、機械強度が向上するが、磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心においては、加圧成形による磁性ナノ粒子の変形が小さいため、粒子同士が絡み合いにくく、また、磁性ナノ粒子同士の接触面積も小さいため、機械強度を十分に向上させることは困難であった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、磁性ナノ粒子を含有する高密度かつ高強度の圧粉磁心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、磁性ナノ粒子にフェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂と炭素数が12~30の脂肪酸とを添加して圧縮成形することによって、磁性ナノ粒子を含有する高密度かつ高強度の圧粉磁心が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の圧粉磁心は、平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子と、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、炭素数が12~30の脂肪酸とを含有し、前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との合計量に対して、前記熱硬化性樹脂の含有量が0.01~4.99質量%であり、前記脂肪酸の含有量が0.01~4.99質量%であり、前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との合計量が0.02~5質量%であることを特徴とするものである。このような圧粉磁心においては、前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることが好まし
【0009】
なお、前記磁性ナノ粒子にフェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂と炭素数が12~30の脂肪酸とを添加することによって、前記磁性ナノ粒子を含有する高密度かつ高強度の圧粉磁心が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、前記磁性ナノ粒子にフェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を添加すると、圧縮成形体の密度及び強度が向上する。しかしながら、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂は前記磁性ナノ粒子との親和性が十分に高くないため、均一に混合しにくく、圧縮成形時の前記磁性ナノ粒子の流動性が十分に向上しない。このため、前記磁性ナノ粒子を含有する圧粉磁心の密度及び強度は十分に向上しない。一方、前記磁性ナノ粒子に前記熱硬化性樹脂と炭素数が12~30の脂肪酸とを添加すると、前記磁性ナノ粒子を含有する圧粉磁心の密度及び強度が十分に向上する。この理由は以下のように推察される。すなわち、前記脂肪酸のカルボキシ基は前記磁性ナノ粒子に吸着しやすいため、吸着した前記脂肪酸の炭化水素鎖と前記磁性ナノ粒子間に存在する遊離の前記脂肪酸の炭化水素鎖との相乗効果により前記磁性ナノ粒子の潤滑性が向上し、前記磁性ナノ粒子の流動性が向上すると推察される。また、前記脂肪酸がカップリング剤として作用することによって、吸着した前記脂肪酸の炭化水素鎖が前記熱硬化性樹脂と前記磁性ナノ粒子との親和性や結合力を向上させると推察される。そして、このような前記磁性ナノ粒子の高い流動性及び前記熱硬化性樹脂と前記磁性ナノ粒子との高い親和性によって、前記磁性ナノ粒子を含有する圧粉磁心であっても高密度化されると推察される。また、前記熱硬化性樹脂の高い強度及び前記熱硬化性樹脂と前記磁性ナノ粒子との高い結合力によって、前記磁性ナノ粒子を含有する圧粉磁心であっても高強度化されると推察される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁性ナノ粒子を含有する高密度かつ高強度の圧粉磁心を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1~4及び比較例1~4、6~10で得られた圧粉磁心の密度を示すグラフである。
図2】実施例1~4及び比較例1~4、6~10で得られた圧粉磁心のクラック率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0013】
本発明の圧粉磁心は、平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子と、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、炭素数が12~30の脂肪酸とを含有するものである。
【0014】
本発明に用いられる磁性ナノ粒子としては圧粉磁心に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、Feナノ粒子、Fe含有合金ナノ粒子、Fe含有金属酸化物ナノ粒子が挙げられる。また、前記Feナノ粒子及び前記Fe含有合金ナノ粒子は、表面に絶縁層を備えていてもよい。これらの磁性ナノ粒子は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヒステリシス損及び渦電流損を低減でき、かつ、飽和磁束密度を比較的大きくでき、高温での特性劣化も比較的少ないという観点から、表面に絶縁層を備えるFeナノ粒子、表面に絶縁層を備えるFe含有合金ナノ粒子が好ましい。
【0015】
前記Fe含有合金ナノ粒子としては圧粉磁心に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、FeNi合金ナノ粒子(パーマロイBナノ粒子等)、FeSi合金ナノ粒子(ケイ素鋼ナノ粒子等)、FeCo合金ナノ粒子(パーメンジュールナノ粒子等)、NiFe合金ナノ粒子(パーマロイCナノ粒子等)が挙げられる。また、前記Fe含有金属酸化物ナノ粒子としては圧粉磁心に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、NiZnフェライトナノ粒子、MnZnフェライトナノ粒子等のフェライト系ナノ粒子が挙げられる。
【0016】
前記絶縁層としては、例えば、SiO、Al、Fe、Fe、NiZnフェライト、MnZnフェライト等の金属酸化物からなる絶縁層;脂肪酸(例えば、デカン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸)、シリコーン系有機化合物(例えば、メチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂、ジメチルポリシロキサン、シリコーンハイドロゲル)等の有機化合物からなる絶縁層;リン系化合物(例えば、リン酸カルシウム、リン酸鉄、リン酸亜鉛、リン酸マンガン)等の無機化合物からなる絶縁層が挙げられる。
【0017】
また、本発明に用いられる磁性ナノ粒子の平均粒径は1~300nmである。磁性ナノ粒子の平均粒径が前記下限未満になると、粒子表面の影響が大きく、磁性ナノ粒子自体の磁気特性が低下する。他方、磁性ナノ粒子の平均粒径が前記上限を超えると、渦電流損が増大して磁心損失が大きくなる。また、超常磁性現象が発現して保磁力が極めて小さくなり、ヒステリシス損を極めて小さくすることが可能となり、また、高周波において渦電流の経路が制限され、渦電流損を極めて小さくすることが可能となるという観点から、磁性ナノ粒子の平均粒径としては、1~100nmが好ましく、1~20nmがより好ましい。なお、磁性ナノ粒子の平均粒径は、TEM観察において100個の粒子の粒径を測定し、その平均値として求めることができる。
【0018】
本発明に用いられる熱硬化性樹脂はフェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。このような熱硬化性樹脂を後述する炭素数が12~30の脂肪酸と併用して前記磁性ナノ粒子に添加することによって、前記熱硬化性樹脂と前記磁性ナノ粒子との親和性や結合力が向上し、高密度かつ高強度の圧粉磁心を得ることができる。また、これらの熱硬化性樹脂のうち、圧粉磁心の密度及び強度が更に向上するという観点から、フェノール樹脂が好ましい。
【0019】
一方、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂の代わりにポリイミド樹脂、アクリル樹脂又はシリコーン樹脂を用いた場合には、圧粉磁心の密度及び強度が十分に向上しない。
【0020】
前記熱硬化性樹脂の含有量としては特に制限はないが、前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と後述する脂肪酸との合計量に対して、0.01~5質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましく、0.1~1質量%が特に好ましい。前記熱硬化性樹脂の含有量が前記下限未満になると、前記熱硬化性樹脂が前記磁性ナノ粒子間に十分に行き渡らないため、圧粉磁心の強度が向上しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、非磁性成分の割合が多くなり、圧粉磁心の磁気特性が低下する傾向にある。
【0021】
また、本発明に用いられる脂肪酸は炭素数が12~30の脂肪酸である。このような脂肪酸を前記熱硬化性樹脂と併用して前記磁性ナノ粒子に添加することによって、前記熱硬化性樹脂と前記磁性ナノ粒子との親和性や結合力が向上し、高密度かつ高強度の圧粉磁心を得ることができる。また、このような脂肪酸は飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよく、これらを併用してもよい。
【0022】
前記飽和脂肪酸としては、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、ペンタデシル酸(炭素数15)、パルミチン酸(炭素数16)、マルガリン酸(炭素数17)、ステアリン酸(炭素数18)、アラキジン酸(炭素数20)、ヘンイコシル酸(炭素数21)、ベヘン酸(炭素数22)、リグノセリン酸(炭素数24)、セロチン酸(炭素数26)、モンタン酸(炭素数28)、メリシン酸(炭素数30)が挙げられる。これらの飽和脂肪酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記不飽和脂肪酸として、ミリストレイン酸(炭素数14、二重結合数1)、パルミトレイン酸(炭素数16、二重結合数1)、サピエン酸(炭素数16、二重結合数1)、オレイン酸(炭素数18、二重結合数1)、エライジン酸(炭素数18、二重結合数1)、バクセン酸(炭素数18、二重結合数1)、ガドレイン酸(炭素数20、二重結合数1)、エイコセン酸(炭素数20、二重結合数1)、エルカ酸(炭素数22、二重結合数1)、ネルボン酸(炭素数24、二重結合数1)、リノール酸(炭素数18、二重結合数2)、エイコサジエン酸(炭素数20、二重結合数2)、ドコサジエン酸(炭素数22、二重結合数2)、リノレン酸(炭素数18、二重結合数3)、ピノレン酸(炭素数18、二重結合数3)、エレオステアリン酸(炭素数18、二重結合数3)、ミード酸(炭素数20、二重結合数3)、ジホモ-γ-リノレン酸(炭素数20、二重結合数3)、エイコサトリエン酸(炭素数20、二重結合数3)、ステアリドン酸(炭素数18、二重結合数4)、アラキドン酸(炭素数20、二重結合数4)、エイコサテトラエン酸(炭素数20、二重結合数4)、アドレン酸(炭素数22、二重結合数4)、ボセオペンタエン酸(炭素数18、二重結合数5)、エイコサペンタエン酸(炭素数20、二重結合数5)、オズボンド酸(炭素数22、二重結合数5)、イワシ酸(炭素数22、二重結合数5)、テトラコサペンタエン酸(炭素数24、二重結合数5)、ドコサヘキサエン酸(炭素数22、二重結合数6)、ニシン酸(炭素数24、二重結合数6)が挙げられる。これらの不飽和脂肪酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0024】
一方、炭素数が11以下の脂肪酸、脂肪酸の金属塩、脂肪酸エステル又は脂肪酸アミドを前記磁性ナノ粒子に添加した場合には、圧粉磁心の密度及び強度が十分に向上しない。
【0025】
前記脂肪酸の中でも、前記磁性ナノ粒子の流動性が向上し、圧粉磁心の密度が向上するという観点、並び、前記熱硬化性樹脂との絡み合いが多くなり、圧粉磁心の強度が向上するという観点から、炭素数が12~20のものが好ましく、炭素数が15~20のものがより好ましい。
【0026】
また、前記脂肪酸としては直鎖状のものであっても分岐状のものであってもよいが、前記磁性ナノ粒子の流動性が向上し、圧粉磁心の密度が向上するという観点からは、直鎖状のものが好ましく、一方、前記熱硬化性樹脂との絡み合いが多くなり、圧粉磁心の強度が向上するという観点からは、分岐状のものが好ましい。したがって、圧粉磁心の密度と強度をバランスよく向上させることができるという観点から、直鎖状の脂肪酸と分岐状の脂肪酸とを併用することが好ましい。
【0027】
さらに、前記不飽和脂肪酸においては、圧縮成形時の応力が緩和され、クラックの発生が抑制されるという観点から、炭素-炭素二重結合数が2個以上有するものが好ましく、炭素-炭素二重結合数が3個以上有するものがより好ましい。
【0028】
前記脂肪酸の含有量としては特に制限はないが、前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との合計量に対して、0.01~5質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましく、0.1~1質量%が特に好ましい。前記脂肪酸の含有量が前記下限未満になると、前記脂肪酸が前記磁性ナノ粒子間に十分に行き渡らないため、その部分の磁性ナノ粒子の流動性が低くなり、圧粉磁心の密度が向上しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、非磁性成分の割合が多くなり、圧粉磁心の磁気特性が低下する傾向にある。
【0029】
なお、前記脂肪酸の含有量は、前記磁性ナノ粒子の間に存在する遊離の脂肪酸の量であり、前記磁性ナノ粒子の表面を予め修飾している脂肪酸の量を含んでいない。前記磁性ナノ粒子の表面を予め修飾している脂肪酸は、その炭化水素鎖が前記磁性ナノ粒子の表面に対して垂直な方向に延びているため、すべり方向に対しても垂直に延びており、前記磁性ナノ粒子の流動性の向上が限定的となる。一方、前記磁性ナノ粒子の表面を予め修飾している脂肪酸のほかに、遊離の脂肪酸が前記磁性ナノ粒子の間に存在すると、この遊離の脂肪酸は、すべり方向に対して平行に配置されているため、前記磁性ナノ粒子の流動性が大きく向上する。
【0030】
また、前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との合計量としては、前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との合計量に対して、0.02~5質量%(この場合、前記熱硬化性樹脂の含有量は0.01~4.99質量%であり、前記脂肪酸の含有量は0.01~4.99質量%である)が好ましく、0.1~2質量%(この場合、前記熱硬化性樹脂の含有量は0.1~1.9質量%であり、前記脂肪酸の含有量は0.1~1.9質量%である)がより好ましく、0.1~1質量%(この場合、前記熱硬化性樹脂の含有量は0.1~0.9質量%であり、前記脂肪酸の含有量は0.1~0.9質量%である)が特に好ましい。前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との合計量が前記下限未満になると、前記熱硬化性樹脂及び前記脂肪酸が前記磁性ナノ粒子間に十分に行き渡らないため、圧粉磁心の密度や強度が向上しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、非磁性成分の割合が多くなり、圧粉磁心の磁気特性が低下する傾向にある。
【0031】
また、前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との合計量に対する前記脂肪酸の割合としては特に制限はないが、0.1~90質量%が好ましく、1~50質量%がより好ましく、20~50質量%が特に好ましい。前記脂肪酸の割合が前記下限未満になると、圧粉磁心の強度が向上しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、磁性ナノ粒子の流動性が低くなり、圧粉磁心の密度が向上しにくい傾向にある。
【0032】
このような本発明の圧粉磁心の密度は6.3g/cm以上であり、高い比透磁率を有するものである。また、より高い比透磁率を有するという観点から、圧粉磁心の密度としては6.5g/cm以上が好ましい。
【0033】
このような本発明の圧粉磁心の製造方法としては、前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸とを均一に混合できる方法であれば特に制限はなく、例えば、以下の方法により本発明の圧粉磁心を製造することができる。すなわち、先ず、前記磁性ナノ粒子と前記脂肪酸とを所定の含有量となるように混合する。前記磁性ナノ粒子と前記脂肪酸との混合方法としては特に制限はなく、例えば、ボールミルや乳鉢を用いて混合する方法、溶媒に前記磁性ナノ粒子と前記脂肪酸とを分散・溶解させた後、乾燥等により溶媒を除去することによって混合する方法等が挙げられる。
【0034】
次に、このようにして調製した前記磁性ナノ粒子と前記脂肪酸との混合物に前記熱硬化性樹脂を所定の含有量となるように混合する。前記混合物と前記熱硬化性樹脂との混合方法としては特に制限はなく、例えば、ボールミルや乳鉢を用いて混合する方法、溶媒に前記混合物と前記熱硬化性樹脂とを分散・溶解させた後、乾燥等により溶媒を除去することによって混合する方法等が挙げられる。
【0035】
本発明の圧粉磁心の製造方法において、前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との混合順は特に制限はなく、上述した方法のように、前記磁性ナノ粒子と前記脂肪酸とを混合した後、前記熱硬化性樹脂を混合してもよいし、前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸とを混合した後、前記磁性ナノ粒子を混合してもよい。
【0036】
このようにして調製した前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との混合物は均一性が高いため、後述する加圧成形において前記磁性ナノ粒子の流動性が確保され、高密度かつ高強度の圧粉磁心を得ることが可能となる。
【0037】
また、前記磁性ナノ粒子は再配列性に劣るため、溶媒に前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との混合物を分散・溶解させた後、スプレードライ等により顆粒状の混合物を調製してもよい。これにより、圧縮成形時に顆粒状の混合物が崩れて前記磁性ナノ粒子が再配列しやすくなるため、圧粉磁心の密度が向上する。
【0038】
次に、このようにして得られた前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との混合物を、潤滑剤を塗布した金型に充填する。前記潤滑剤としては特に制限はなく、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛等の飽和脂肪酸の金属塩、潤滑グリース(例えば、株式会社ミスミ製「M-HGSSC-H500」)等が挙げられる。
【0039】
次に、金型に充填した前記磁性ナノ粒子と前記熱硬化性樹脂と前記脂肪酸との混合物を加圧成形することによって、本発明の圧粉磁心を得ることができる。成形温度としては特に制限はないが、通常、室温~200℃であり、前記磁性ナノ粒子の流動性を確保するという観点から、前記熱硬化性樹脂及び前記脂肪酸の融点以上の温度が好ましい。また、金型に潤滑剤として飽和脂肪酸の金属塩を塗布した場合には、150℃以上の温度で加圧成形することが好ましい。成形圧力としては700MPa~3GPaが好ましく、1GPa~2GPaがより好ましい。成形圧力が前記下限未満になると、前記混合物が十分に圧縮されないため、圧粉磁心の密度が小さくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、スプリングバック現象の影響が大きく、圧粉磁心の密度が小さくなる傾向にある。また、金型寿命も短くなる傾向にある。
【0040】
また、このようにして製造した圧粉磁心には、必要に応じて熱処理を施してもよい。これにより、加圧により圧粉磁心に生じた歪みを緩和し、磁気特性を改善することができる。このような熱処理の温度は通常500~800℃である。
【実施例
【0041】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
磁性ナノ粒子として平均粒径100nmのFeNi合金ナノ粒子(アルドリッチ社製)4.925gと脂肪酸として飽和脂肪酸であるラウリン酸(和光純薬工業株式会社製、炭素数12)0.025gとを混合し、さらに、乳鉢で30分間破砕混合した。次に、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂系接着剤(セメダイン株式会社製「110」)を樹脂成分が0.05gとなるように秤量し、これを2-メトキシエタノール10mlに溶解した。得られた溶液に前記FeNi合金ナノ粒子とラウリン酸との混合物を添加し、自転公転ミキサーを用いて攪拌した。得られたペーストを室温で真空乾燥させて溶媒を除去した後、大気中、乳鉢で30分間破砕混合した。得られた破砕混合物を、グリース(株式会社ミスミ製「M-HGSSC-H500」)を塗布したペレット試験片用金型に充填し、手動加熱プレス機(株式会社井元製作所製「IMC-1946型改」)を用いて1.4GPaに加圧しながら180℃で20分間加熱した。加圧を停止した後、室温まで冷却して、得られた磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を金型から取り出した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0043】
(実施例2)
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂ワニス(ソマール株式会社製「エピフォームR2400」、硬化剤としてジアミノジフェニルメタンを添加)を樹脂成分として0.05g用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0044】
(実施例3)
脂肪酸として飽和脂肪酸であるリグノセリン酸(東京化成工業株式会社製、炭素数24)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0045】
(実施例4)
脂肪酸として不飽和脂肪酸であるリノレン酸(ナカライテスク株式会社製、炭素数18)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0046】
(比較例1)
脂肪酸及び熱硬化性樹脂を混合しなかった以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0047】
(比較例2)
脂肪酸を混合しなかった以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0048】
(比較例3)
脂肪酸を混合しなかった以外は実施例2と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0049】
(比較例4)
脂肪酸としてカプリン酸(和光純薬工業株式会社製、炭素数10)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0050】
(比較例5)
脂肪酸の代わりに飽和脂肪酸アミドであるエチレンビスステアリン酸アミド(和光純薬工業株式会社製、炭素数38)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体を作製したが、金型から取り出す際に磁性ナノ粒子成形体が割れたため、密度測定はできなかった。
【0051】
(比較例6)
脂肪酸の代わりに飽和脂肪酸エステルであるモノステアリン酸グリセロール(和光純薬工業株式会社製、炭素数21)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0052】
(比較例7)
脂肪酸の代わりに飽和脂肪酸金属塩であるラウリン酸亜鉛(和光純薬工業株式会社製、炭素数12)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0053】
(比較例8)
フェノール樹脂系接着剤の代わりにポリイミド樹脂ワニス(ソマール株式会社製「SPIXAREA」)を樹脂成分として0.05g用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0054】
(比較例9)
フェノール樹脂系接着剤の代わりにアクリル樹脂系接着剤(協立化学産業株式会社製「WORLD ROCK」)を樹脂成分として0.05g用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0055】
(比較例10)
フェノール樹脂系接着剤の代わりにシリコーン樹脂系接着剤(セメダイン株式会社製「スーパーX」)を樹脂成分として0.05g用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製した。得られた成形体の密度を表1及び図1に示す。
【0056】
<クラック率>
実施例1~4及び比較例1~4、6~9で得られた圧粉磁心ペレットを、ペレットの長手方向に平行な面で切断、研磨し、走査型電子顕微鏡を用いてその断面を観察した。50倍の倍率で取得した画像においてクラックの長さを計測し、クラックの長さを観察した断面の面積で割った値をクラック率(単位:cm/cm)として求めた。この測定を1つのペレットについて4箇所行い、その平均値を求めた。その結果を表1及び図2に示す。なお、比較例5で得られた磁性ナノ粒子成形体は、金型から取り出す際に割れたため、クラック率の測定ができなかった。
【0057】
【表1】
【0058】
表1及び図1に示したように、磁性ナノ粒子のみからなる場合(比較例1)に比べて、磁性ナノ粒子とフェノール樹脂(比較例2)又はエポキシ樹脂(比較例3)とを混合した場合には、圧粉磁心の密度が高くなり、炭素12~24の飽和又は不飽和の脂肪酸を更に混合した場合(実施例1~4)には、圧粉磁心の密度が更に高くなる(6.3g/cm以上)ことがわかった。また、フェノール樹脂を混合した場合(実施例1)には、エポキシ樹脂を混合した場合(実施例2)に比べて、高密度の圧粉磁心が得られることがわかった。一方、磁性ナノ粒子と炭素数10の飽和脂肪酸(比較例4)、飽和脂肪酸エステル(比較例6)又は飽和脂肪酸金属塩(比較例7)とフェノール樹脂とを混合した場合には、磁性ナノ粒子のみからなる場合(比較例1)に比べて、圧粉磁心の密度は高くなったが、6.3g/cm未満であり、磁性ナノ粒子と炭素12~24の飽和又は不飽和の脂肪酸とフェノール樹脂又はエポキシ樹脂とを混合した場合(実施例1~4)に比べて、低くなった。また、磁性ナノ粒子と炭素数12の飽和脂肪酸とポリイミド樹脂(比較例8)、アクリル樹脂(比較例9)又はシリコーン樹脂(比較例10)とを混合した場合には、圧粉磁心の密度は、磁性ナノ粒子のみからなる場合(比較例1)と同等以上であったが、6.3g/cm未満であり、磁性ナノ粒子と炭素12~24の飽和又は不飽和の脂肪酸とフェノール樹脂又はエポキシ樹脂とを混合した場合(実施例1~4)に比べて、低くなった。これらの結果から、磁性ナノ粒子に炭素数12~30の脂肪酸とフェノール樹脂又はエポキシ樹脂とを配合することによって、圧粉磁心の密度がより向上することが確認された。
【0059】
また、表1及び図2に示したように、磁性ナノ粒子のみからなる場合(比較例1)に比べて、磁性ナノ粒子とフェノール樹脂(比較例2)又はエポキシ樹脂(比較例3)とを混合した場合には、圧粉磁心のクラック率が小さくなり、炭素12~24の飽和又は不飽和の脂肪酸を更に混合した場合(実施例1~4)には、圧粉磁心のクラック率が更に小さくなることがわかった。また、フェノール樹脂を混合した場合(実施例1)には、エポキシ樹脂を混合した場合(実施例2)に比べて、圧粉磁心のクラック率が小さくなることがわかった。一方、磁性ナノ粒子と炭素数10の飽和脂肪酸(比較例4)、飽和脂肪酸エステル(比較例6)又は飽和脂肪酸金属塩(比較例7)とフェノール樹脂とを混合した場合には、磁性ナノ粒子のみからなる場合(比較例1)に比べて、圧粉磁心のクラック率は小さくなったが、磁性ナノ粒子と炭素12~24の飽和又は不飽和の脂肪酸とフェノール樹脂又はエポキシ樹脂とを混合した場合(実施例1~4)に比べて、高くなった。また、磁性ナノ粒子と炭素数12の飽和脂肪酸とポリイミド樹脂とを混合した場合(比較例8)には、磁性ナノ粒子のみからなる場合(比較例1)に比べて、圧粉磁心のクラック率は高くなった。さらに、磁性ナノ粒子と炭素数12の飽和脂肪酸とアクリル樹脂(比較例9)又はシリコーン樹脂(比較例10)とを混合した場合には、圧粉磁心のクラック率は磁性ナノ粒子のみからなる場合(比較例1)と同等以下であったが、磁性ナノ粒子と炭素12~24の飽和又は不飽和の脂肪酸とフェノール樹脂又はエポキシ樹脂とを混合した場合(実施例1~4)に比べて、高くなった。これらの結果から、磁性ナノ粒子に炭素数12~30の脂肪酸とフェノール樹脂又はエポキシ樹脂とを配合することによって、圧粉磁心のクラック率がより小さくなることがわかった。したがって、成形歪みを緩和する力に比べて成形体の強度が小さい場合にクラックが発生することから、本発明の圧粉磁心は高い強度を有するものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明によれば、磁性ナノ粒子を含有する高密度かつ高強度の圧粉磁心を得ることが可能となる。したがって、本発明の圧粉磁心は、比透磁率が高く、ヒステリシス損や渦電流損が小さくなるため、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等の電磁気を利用した製品のコア材などとして有用である。
図1
図2