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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】浸水防止構造物
(51)【国際特許分類】
   E06B 5/00 20060101AFI20230927BHJP
   E02B 7/22 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
E06B5/00 Z
E02B7/22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019126202
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021011731
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 幸司
(72)【発明者】
【氏名】山口 聖勝
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-162260(JP,A)
【文献】特開2003-321979(JP,A)
【文献】特公昭52-006534(JP,B1)
【文献】特開2017-031757(JP,A)
【文献】実公昭51-003627(JP,Y2)
【文献】特開2013-023814(JP,A)
【文献】特開2003-239245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 5/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の出入口正面の離れた位置に設置され、当該出入口の正面方向からの水を止水する止水壁と、
前記止水壁の両端における一方の端の第1端支柱と前記出入口の両脇にある一方の壁の間に設置される円柱状の第1コルゲートパイプと、
前記止水壁の両端における他方の端の第2端支柱と前記出入口の両脇にある他方の壁の間に設置される円柱状の第2コルゲートパイプと、
を備え、
前記第1コルゲートパイプには、前記第1端支柱側の側壁に前記第1コルゲートパイプと前記第1端支柱の間を止水する第1フランジと、前記一方の壁側の側壁に前記第1コルゲートパイプと前記一方の壁の間を止水する第2フランジと、がそれぞれ軸方向に沿って設けられており、
前記第2コルゲートパイプには、前記第2端支柱側の側壁に前記第2コルゲートパイプと前記第2端支柱の間を止水する第3フランジと、前記他方の壁側の側壁に前記第2コルゲートパイプと前記他方の壁の間を止水する第4フランジと、がそれぞれ軸方向に沿って設けられていることを特徴とする浸水防止構造物。
【請求項2】
請求項1に記載の浸水防止構造物であって、
前記第1端支柱には、前記第1フランジに密着して前記第1コルゲートパイプと前記第1端支柱の間を止水する第1板材が設けられ、
前記第2端支柱には、前記第3フランジに密着して前記第2コルゲートパイプと前記第2端支柱の間を止水する第2板材が設けられていることを特徴とする浸水防止構造物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の浸水防止構造物であって、
前記一方の壁に接して第1壁支柱が設けられ、前記第1壁支柱には、前記第2フランジに密着して前記第1コルゲートパイプと前記第1壁支柱の間を止水する第3板材が設けられ、
前記他方の壁に接して第2壁支柱が設けられ、前記第2壁支柱には、前記第4フランジに密着して前記第2コルゲートパイプと前記第2壁支柱の間を止水する第4板材が設けられていることを特徴とする浸水防止構造物。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の浸水防止構造物であって、前記止水壁は、前記出入口の幅より幅広に設置されることを特徴とする浸水防止構造物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の浸水防止構造物であって、前記止水壁が、前記第1端支柱及び前記第2端支柱を含む複数の支柱と、当該複数の支柱間にそれぞれ設置される複数の横矢板とにより形成されることを特徴とする浸水防止構造物。
【請求項6】
請求項5に記載の浸水防止構造物であって、
前記止水壁を形成する両端の前記第1端支柱及び前記第2端支柱と前記第1コルゲートパイプ及び前記第2コルゲートパイプが常設され、前記第1端支柱及び前記第2端支柱以外の支柱と前記複数の横矢板が仮設されることを特徴とする浸水防止構造物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の浸水防止構造物であって、
前記複数の横矢板は、波付け加工されていることを特徴とする浸水防止構造物。
【請求項8】
請求項5乃至7の何れか一項に記載の浸水防止構造物であって、
前記第1端支柱、前記第2端支柱、前記第1端支柱及び前記第2端支柱以外のその他の支柱は、前記止水壁の幅方向に溝部を有し、前記横矢板は、隣り合う前記第1端支柱と前記その他の支柱の互いに対向する前記溝部、隣り合う前記第2端支柱と前記その他の支柱の互いに対向する前記溝部、及び、隣り合う2本の前記その他の支柱の互いに対向する前記溝部の何れかに嵌め込んで設置されることを特徴とする浸水防止構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物への浸水被害を防止するため浸水防止構造物等の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年異常気象が頻発しており、集中豪雨による河川の氾濫や、高波、高潮、津波により一般住宅や工場建屋といった建物への浸水被害が深刻化している。
【0003】
一方で、特許文献1には、所定間隔で地中に埋設され、地上に開口を有する複数のポストホールと、平常時はポストホールに収納され、緊急時にポストホールから引き上げ可能な親杭と、引き上げられた隣り合う親杭間に設置される横矢板と、を備える可搬式越水防止装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-47150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている可搬式越水防止装置は、堤防の内側への浸水を防止することを目的として堤防の天端に設けられるため、河川や海に沿って設置される。
【0006】
これに対して、建物への浸水を防止することを目的としてこの可搬式越水防止装置を設置することとした場合、横矢板が建物の出入口を塞ぐように両端のポストホール及び親杭を建物に近づけて設置することとなる。ところがこの場合、ポストホールから親杭を引き上げた際、親杭と建物の壁との間に隙間がうまれ、そこから水が浸入し建物が浸水してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、ポストホール、親杭及び横矢板を建物から離して設置するとともに、両端の親杭と、建物の壁の間に新たな横矢板を設け、親杭と建物の壁の間からの浸水を防ぐことが考えられる。しかしながら、新たな横矢板を設けるためには、図11に示すように、出入口1000の両脇の壁1001(1002)にそれぞれ接するようにして親杭1111(1121)を新たに設置する必要がある。しかしながら、建物の壁1001(1002)の近傍にポストホール(図示しない)及び親杭1111(1121)を設けて、親杭1111(1121)と親杭1112(1122)の間に横矢板1201(1202)を設置しようとしても、親杭1112(1122)の溝の開口部が建物の壁1001(1002)の方向に向いていないため横矢板1201(1202)を設置することができないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、建物の出入口から水が浸入することを防止するための止水壁を有し、当該止水壁の両端と壁との間(図11における親杭1112(1122)と壁1001(1002)の間)を止水可能な浸水防止構造物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、建物の出入口正面の離れた位置に設置され、当該出入口の正面方向からの水を止水する止水壁と、前記止水壁の両端における一方の端の第1端支柱と前記出入口の両脇にある一方の壁の間に設置される円柱状の第1コルゲートパイプと、前記止水壁の両端における他方の端の第2端支柱と前記出入口の両脇にある他方の壁の間に設置される円柱状の第2コルゲートパイプと、を備え、前記第1コルゲートパイプには、前記第1端支柱側の側壁に前記第1コルゲートパイプと前記第1端支柱の間を止水する第1フランジと、前記一方の壁側の側壁に前記第1コルゲートパイプと前記一方の壁の間を止水する第2フランジと、がそれぞれ軸方向に沿って設けられており、前記第2コルゲートパイプには、前記第2端支柱側の側壁に前記第2コルゲートパイプと前記第2端支柱の間を止水する第3フランジと、前記他方の壁側の側壁に前記第2コルゲートパイプと前記他方の壁の間を止水する第4フランジと、がそれぞれ軸方向に沿って設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の浸水防止構造物であって、前記第1端支柱には、前記第1フランジに密着して前記第1コルゲートパイプと前記第1端支柱の間を止水する第1板材が設けられ、前記第2端支柱には、前記第3フランジに密着して前記第2コルゲートパイプと前記第2端支柱の間を止水する第2板材が設けられていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の浸水防止構造物であって、前記一方の壁に接して第1壁支柱が設けられ、前記第1壁支柱には、前記第2フランジに密着して前記第1コルゲートパイプと前記第1壁支柱の間を止水する第3板材が設けられ、前記他方の壁に接して第2壁支柱が設けられ、前記第2壁支柱には、前記第4フランジに密着して前記第2コルゲートパイプと前記第2壁支柱の間を止水する第4板材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一項に記載の浸水防止構造物であって、前記止水壁は、前記出入口の幅より幅広に設置されることを特徴とする。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項1乃至の何れか一項に記載の浸水防止構造物であって、前記止水壁が、前記第1端支柱及び前記第2端支柱を含む複数の支柱と、当該複数の支柱間にそれぞれ設置される複数の横矢板とにより形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の浸水防止構造物であって、前記止水壁を形成する両端の前記第1端支柱及び前記第2端支柱と前記第1コルゲートパイプ及び前記第2コルゲートパイプが常設され、前記第1端支柱及び前記第2端支柱以外の支柱と前記複数の横矢板が仮設されることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の浸水防止構造物であって、前記複数の横矢板は、波付け加工されていることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項5乃至7の何れか一項に記載の浸水防止構造物であって、前記第1端支柱、前記第2端支柱、前記第1端支柱及び前記第2端支柱以外のその他の支柱は、前記止水壁の幅方向に溝部を有し、前記横矢板は、隣り合う前記第1端支柱と前記その他の支柱の互いに対向する前記溝部、隣り合う前記第2端支柱と前記その他の支柱の互いに対向する前記溝部、及び、隣り合う2本の前記その他の支柱の互いに対向する前記溝部の何れかに嵌め込んで設置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、止水壁の端の一方と出入口の両脇にある壁の一方の間、及び、止水壁の端の他方と出入口の両脇にある壁の他方の間に設置される止水柱により、止水壁の両端と壁との間を止水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る浸水防止構造物の一実施形態の概要を示す平面図である。
図2】本実施形態に係る浸水防止構造物の一実施形態の概要を示す正面図である。
図3】(A)は、本実施形態に係る支柱100Bを表す斜視図であり、(B)は、本実施形態に係る支柱100Bの平面図である。
図4】(A)は、本実施形態に係るばね金具108(折りたたまれた状態)の側面図であり、(B)は、本実施形態に係るばね金具108(開放された状態)の側面図であり、(C)は、本実施形態に係るばね金具108(開放された状態)の平面図である。
図5】(A)は、本実施形態に係る支柱100Aを表す斜視図であり、(B)は、本実施形態に係る支柱100Aの平面図である。
図6】(A)は、本実施形態に係る波形鋼板パネル210の正面図であり、(B)は、本実施形態に係る波形鋼板パネル210の上面図であり、(C)は、波形鋼板パネル210のα-α断面図であり、(D)は、本実施形態に係る波形鋼板パネル210の底面図である。
図7】(A)は、本実施形態に係るアンカーレール401にボルト接合されている支柱100のA-A断面図であり、(B)は、その基礎部の詳細図である。
図8】(A)は、本実施形態に係るアンカーレール401にボルト接合されている波形鋼板パネル210のB-B断面図であり、(B)は、その基礎部の詳細図である。
図9】(A)は、本実施形態に係るコルゲートパイプ300の断面図であり、(B)は、本実施形態に係るコルゲートパイプ300の側面割付図であり、(C)は、本実施形態に係るコルゲートパイプ300の内面展開図である。
図10図1の平面図におけるコルゲートパイプ300B付近の詳細図である。
図11】従来技術の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、建物の出入口からの浸水を防止する浸水防止構造物に対して本発明を適用した場合の実施の形態である。
【0020】
図1は、本実施形態に係る浸水防止構造物の一実施形態の概要を示す平面図であり、図2は、その正面図である。
【0021】
図1図2に示すように、浸水防止構造物は、主にコンクリート基礎400と、コンクリート基礎400に埋設されるアンカーレール401と、アンカーレール401に所定の間隔で立設される例えば7本の支柱100(両端の支柱100A、100Cとその中間に立設される5本の支柱100Bからなり、これらを総称して支柱100と記載する場合がある)と、それぞれの支柱100の間に設置される6枚の波形鋼板パネル210と、支柱100Aと建物の出入口Gの両脇における一方の壁W1との間に立設されるコルゲートパイプ300Aと、支柱100Cと出入口Gの両脇における他方の壁W2との間に立設されるコルゲートパイプ300B(コルゲートパイプ300Aとコルゲートパイプ300Bを総称してコルゲートパイプ300と記載する場合がある)と、を含む。
【0022】
支柱100と、それぞれの支柱100の間に設置される波形鋼板パネル210は、建物の出入口G正面の離れた位置に出入口Gの前面と略平行に設置され、出入口Gの正面方向からの水を止水する止水壁を形成する。止水壁は、出入口Gの幅より幅広に設置され、出入口Gの正面方向からの水を止水する。
【0023】
コルゲートパイプ300A及び支柱100Aと、コルゲートパイプ300B及び支柱100Cは建物の出入口Gの両脇に常設される。
【0024】
一方、支柱100B及び波形鋼板パネル210は、河川の氾濫等により建物の出入口Gから水が浸入し、建物が浸水するおそれがある場合などの非常時に仮設される。
【0025】
具体的には、非常時に、支柱100Bを設置(仮設)し、次いで、常設されている支柱100A、100Cを含む各支柱100間に波形鋼板パネル210をそれぞれ設置する。これにより非常時において出入口Gは主に支柱100、波形鋼板パネル210及びコルゲートパイプ300により覆われ、建物が浸水することを防止できる。また、非常時以外の通常時には、支柱100B及び波形鋼板パネル210が出入口Gの前に設置されないため、出入口Gの通行を妨げることがない。
【0026】
コンクリート基礎400は、建物外の出入口G付近に打設される。コンクリート基礎400には、出入口Gの前面に略平行にアンカーレール401が埋設される。
【0027】
アンカーレール401は、出入口Gの開口幅より長く、出入口Gの正面の位置であって、出入口Gから離れた位置に埋設される。出入口Gからの距離は任意であるが、支柱100Aと壁W1、及び、支柱100Cと壁W2の間にコルゲートパイプ300A、300Bがそれぞれ設置できるだけの距離を離して埋設される。
【0028】
図3(A)は、支柱100Bを表す斜視図であり、図3(B)は、支柱100Bの平面図である。
【0029】
図3(A)、(B)に示すように、支柱100Bは、ウェブ101と一対のフランジ102A、102B(総称してフランジ102と記載する場合がある)からなるH形鋼104を含む。フランジ102の下端の外側には、ベースプレート105及び固定板107Aがそれぞれ接合されている。それぞれのベースプレート105には、支柱100Bとアンカーレール401をボルト接合するための挿通孔106が2つ形成され、一の支柱100に4つ挿通孔106が形成されている。なお、挿通孔106は、丸孔であっても長孔であってもよい。
【0030】
図3(B)に示すように、H形鋼104は、ウェブ101とフランジ102A、102Bにより形成される2つの溝部103を有する。それぞれの溝部103において、フランジ102Aには、3枚の波形鋼板パネル210の場合、6個のばね金具108が設けられている。具体的には、1枚の波形鋼板パネル210に対して2個のばね金具108が設けられており、3枚の波形鋼板パネル210に対して合計6個のばね金具108が設けられている。
【0031】
図4(A)は、ばね金具108(折りたたまれた状態)の側面図であり、図4(B)は、ばね金具108(開放された状態)の側面図であり、図4(C)は、ばね金具108(開放された状態)の平面図である。
【0032】
ばね金具108は、溝部103に波形鋼板パネル210が嵌め込まれた後に、H型鋼104に取り付けられる。具体的には、図4(A)に示すように、ばね金具108はクリップナット109が取り付けられており、H型鋼104の溝部103の所定位置に形成された取付孔(図示しない)とクリップナット109を位置合わせした上で、取付孔にボルトの先端を挿通させてボルト接合することにより、ばね金具108がH型鋼104に固定される。なお、ばね金具108は折りたたまれた状態でH型鋼104に固定される。次いで、図4(B)に示すように、開放治具110がばね金具108の折りたたみ状態を解除して、ばね金具108を開放する。このとき、仮に波形鋼板パネル210がH型鋼104に嵌め込まれていない状態においてばね金具108を開放状態とした場合、ばね金具108の波形鋼板パネル210に当接する部分とフランジ102Bとの幅は、波形鋼板パネル210の厚みより狭くなるように設計されている。そのため、ばね金具108が折りたたまれた状態から開放されることにより、ばね金具108はフランジ102A側からフランジ102B側に波形鋼板パネル210を押さえつけて固定する。
【0033】
図5(A)は、支柱100Aを表す斜視図であり、図5(B)は、支柱100Aの平面図である。
【0034】
図5(A)、(B)に示すように、支柱100Aは、支柱100Bとほぼ同様の形状であるが、支柱100Aが止水壁の端に設置されることに起因して、固定版107Aが固定版107Bになっている点と、ばね金具108が一方の溝部103のみに設けられている点で相違する。固定版107Bは、台形状である固定版107Aと異なり、コルゲートパイプ300と接合するために長方形状となっている。固定版107Bの高さはH形鋼104の高さと同じ高さとなっているが、少なくとも波形鋼板パネル210の高さ以上であればよい。なお、支柱100Aに対するばね金具108の取り付け方法は支柱100Bと同様である。
【0035】
なお、支柱100Cは支柱100Aと、ばね金具108が設けられている溝部103が逆である点で相違するが他の部分において同一であるので図示及び説明を省略する。また、本実施形態では、支柱100A、100CとしてH形鋼を採用しているが、溝部103を一つだけ有する溝型鋼を採用してもよい。更に、支柱100と波形鋼板パネル210の接触面には止水材が施されており、支柱100と波形鋼板パネル210の間から水が浸入することを防ぐ。
【0036】
図2に示すように、波形鋼板パネル210は、3枚のライナープレート200を上下に接合して形成されている。図6はライナープレート200を表す図である。図6(A)は、ライナープレート200の正面図であり、図6(B)は、ライナープレート200の上面図であり、図6(C)は、ライナープレート200の断面図(α-α)であり、(D)は、本実施形態に係るライナープレート200の底面図である。
【0037】
図6(A)、(B)、(C)、(D)に示すように、ライナープレート200は、波付け加工された板材を有し、その四辺にフランジ201、202、203、204が設けられている。図6(B)、(D)に示すように、ライナープレート200の上面及び底面は水平な平板形状のフランジ201、202が形成されており、ライナープレート200を上下にボルト接合するための複数の挿通孔211、212が設けられている。なお、上部の挿通孔211と下部の挿通孔212はそれぞれ長手方向の同じ位置に設けられており、2枚のライナープレート200を上下に並べて挿通孔211、212について位置合わせをした上で、両者の挿通孔211、212にボルトの先端を挿通させて、反対側からナットを螺着することにより2枚のライナープレート200が接合される。なお、ライナープレート200とライナープレート200の接合面には止水材が施されており、接合面から水が浸入することを防ぐ。
【0038】
図6(C)に示すように、ライナープレート200は、断面が波形であることから、可撓性があり、荷重が分散されるため波形でないパネルと比較して強度が高い。
【0039】
図6(A)、(B)、(C)、(D)に示すように、フランジ203、204には、それぞれ端部固定部材213、214が取り付けられる。端部固定部材213、214は、その断面がコの字形であり、ライナープレート200とボルト接合するための取付孔(図示しない)が所定間隔で形成されており、同様に、フランジ203、204に所定間隔で形成されている取付孔(図示しない)と位置合わせをした上で、両者の取付孔にボルト215の先端を挿通させて、反対側からナット216を螺着することによりフランジ203、204に端部固定部材213、214がそれぞれ固定される。なお、本実施形態のように、端部固定部材213、214は、波形鋼板パネル210の各ライナープレート200に取り付けられることとしてもよいし、3枚のライナープレート200を上下に3枚接合した後に、それぞれの側面(一方の側面は3つのフランジ203からなり、他方の側面は3つのフランジ204からなる)に、3枚分のライナープレート200の高さに相当する一本の端部固定部材213、214を取り付けることとしてもよい。
【0040】
なお、図2に示すように、波形鋼板パネル210を構成する最上段のライナープレート200の上部には、2つの吊り金具220が、フォークリフトのフォークの幅と同じ間隔で設けられている。これにより、ライナープレート200のフランジ201と2つの吊り金具220で形成される2つの開口部にフォークリフトのフォークを差し込み、波形鋼板パネル210を支柱100間に上方から嵌め込むことができるため、人力で嵌め込むよりも迅速に波形鋼板パネル210を設置することができる。なお、本実施形態では、3枚のライナープレート200により波形鋼板パネル210を組み立てた上で波形鋼板パネル210を溝部103に嵌め込む場合について説明したが、ライナープレート200を一枚ずつ溝部103に嵌め込みながら波形鋼板パネル210を組み立てることとしてもよい。
【0041】
図7(A)は、アンカーレール401にボルト接合されている支柱100のA-A断面図であり、図7(B)は、その基礎部の詳細図である。また、図8(A)は、アンカーレール401にボルト接合されている波形鋼板パネル210のB-B断面図であり、図8(B)は、その基礎部の詳細図である。
【0042】
図7(A)、(B)に示すように、アンカーレール401は、アンカーボルト402によりコンクリート基礎400に固定される。アンカーレール401には、立設する支柱100をボルト接合するための挿通孔(図示しない)が上方に開口して設けられており、さらに挿通孔の下方にボルト接合するためのナット403が埋設されている。支柱100をボルト接合するための挿通孔及びナット403は一の支柱100について四つずつ設けられている(図1参照)。
【0043】
アンカーレール401に設けられている挿通孔と支柱100の挿通孔106の位置合わせをした上で、ナット403とボルト404を螺合させることによりボルト接合される。支柱100は、4点のボルト接合によりアンカーレール401に固定される。なお、支柱100(ベースプレート105を含む)とアンカーレール401の接触面には止水材が施されており、支柱100とアンカーレール401の間から水が浸入することを防ぐ。
【0044】
また、波形鋼板パネル210は、支柱100の溝部103に上方より嵌め込まれると、ばね金具108によりフランジ102A側からフランジ102B側に押しつけられて固定される。
【0045】
図8(A)、(B)に示すように、アンカーレール401には、支柱100間に波形鋼板パネル210を設置する際に波形鋼板パネル210とアンカーレール401をボルト接合するための挿通孔(図示しない)が上方に開口して設けられており、さらに挿通孔の下方にボルト接合するためのナット405が埋設されている。波形鋼板パネル210をボルト接合するための挿通孔及びナット405は一の波形鋼板パネル210について10個ずつ設けられている(図1参照)。なお、アンカーレール401と波形鋼板パネル210の接触面には止水材が施されており、アンカーレール401と波形鋼板パネル210の間から水が浸入することを防ぐ。
【0046】
波形鋼板パネル210は、アンカーレール401に設けられている挿通孔と波形鋼板パネル210(最下段の波形鋼板パネル210)の底面に設けられている挿通孔212の位置合わせをした上で、アンカーレール401に設けられているナット405とボルト406を螺合させることによりボルト接合される。波形鋼板パネル210は、例えば10点のボルト接合によりアンカーレール401に固定される。
【0047】
図9(A)は、コルゲートパイプ300の断面図であり、図9(B)は、側面割付図であり、図9(C)は、コルゲートパイプ300の内面展開図である。
【0048】
図9(A)、(B)、(C)に示すように、コルゲートパイプ300はパイプの軸方向に対して直角に波付けを施した金属製のパイプであり、「JIS G、3470:2012」により円形1形に分類される。コルゲートパイプ300は、半円形のセクション同士を、各セクションの端末を曲げ起こすことにより形成されたフランジ301、302を組み合せて使用される。
【0049】
図10は、図1の平面図におけるコルゲートパイプ300B近傍の詳細図である。
【0050】
コルゲートパイプ300Bは、壁W2と支柱100Cの間に立設される。このとき、コルゲートパイプ300B及び支柱100Cは、コルゲートパイプ300Bのフランジ301と、支柱100Cの固定板107Bが密着する位置に設置される。このとき、フランジ301と固定板107Bに挿通孔を設けてボルト接合することとしてもよい。また、フランジ301と固定板107Bの接合部に止水材を充填することとしてもよい。
【0051】
また、支柱500が壁W2に接して常設される、支柱500には断面L字型の固定金具501が接合されている。コルゲートパイプ300Bと支柱500は、コルゲートパイプ300Bのフランジ302と、固定金具501が密着する位置に設置される。また、支柱500、壁W2及び固定金具501で形成される隙間に止水材502が充填される。なお、フランジ302と固定金具501の接合部に止水材を充填することとしてもよい。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の浸水防止構造物は、止水壁が建物の出入口G正面の離れた位置に設置され、出入口Gの正面方向からの水を止水し、コルゲートパイプ300(「止水柱」の一例)が支柱100A(「止水壁の両端における一方の端」の一例)と壁W1(「出入口の両脇にある壁の一方の壁」の一例)の間、及び、支柱100C(「止水壁の両端における他方の端」の一例)と壁W2(「出入口の両脇にある壁の他方の壁」の一例)の間にそれぞれ設置される。
【0053】
したがって、本実施形態の浸水防止構造物によれば、支柱100Aと壁W1の間、及び、支柱100Cと壁W2の間に設置されるコルゲートパイプ300A、300Bにより、止水壁の両端と壁との間を止水することができる。
【0054】
また、本実施形態の止水壁は、複数の支柱100(「親杭」の一例)と、当該複数の支柱間にそれぞれ設置される複数の波形鋼板パネル210(「横矢板」の一例)により形成される。また、支柱100A、100C(「止水壁を形成する両端の親杭」の一例)とコルゲートパイプ300が常設され、支柱100B(「両端の親杭以外の親杭」の一例)と波形鋼板パネル210が仮設される。
【0055】
したがって、非常時以外の通常時には、支柱100B及び波形鋼板パネル210は出入口Gの前に設置されないため、出入口Gの通行を妨げることがない。
【0056】
ここで、本実施形態の浸水防止構造物と従来利用されている土嚢を比較する。まず、土嚢の場合、土嚢に中詰めする土砂等、又は、中詰めした土嚢を常備するための広い保管用地が必要であるが、本実施形態によれば支柱100B及び波形鋼板パネル210のみを保管すれば良いことから保管用地を縮小させることができる。
【0057】
また、土嚢の場合、積み方により止水性能にばらつきがあるが、本実施形態によれば適切に支柱100B及び波形鋼板パネル210を設置すれば止水性能にばらつきはない。
【0058】
さらに、土嚢の場合、重量物を人手により配置していくため設置に時間を要するのに対して、本実施形態によれば支柱100Bをアンカーレール401とボルト接合してから、フォークリフトで波形鋼板パネル210を支柱100間に嵌め込むだけのため設置時間を削減することができる。
【0059】
さらにまた、土嚢の場合、積み上げ可能な高さに限界があり、浸水深が深い場合に対応することができないが、本実施形態によれば2m程度の浸水深にも対応することができる。
【0060】
さらにまた、土嚢の場合、土嚢が水圧を受けた際に変形したり、移動したりすることにより建物に外力を伝達する危険性があるのに対して、本実施形態によればコルゲートパイプ300(止水柱)が縁切り効果により建物に外力を伝達することがない。
【0061】
なお、本実施形態において、波形鋼板パネル210は、3枚のライナープレート200を接合したものとしたが、接合するライナープレート200の枚数は想定される浸水深に応じて3枚未満又は4枚以上とすることもできる。
【0062】
また、本実施形態において、止水柱として断面丸型のコルゲートパイプ300を採用したが、角柱を止水柱に採用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
100 支柱
101 ウェブ
102 フランジ
103 溝部
104 H形鋼
105 ベースプレート
106 挿通孔
107A 固定版
107B 固定版
108 ばね金具
210 波形鋼板パネル
200 ライナープレート
201 フランジ
202 フランジ
203 フランジ
204 フランジ
211 挿通孔
212 挿通孔
213 端部固定部材
214 端部固定部材
215 ボルト
216 ナット
220 吊り金具
300 コルゲートパイプ
301 フランジ
302 フランジ
400 コンクリート基礎
401 アンカーレール
402 アンカーボルト
403 ナット
404 ボルト
405 ナット
406 ボルト
500 支柱
501 固定金具
502 止水材
G 出入口
W1、W2 壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11