(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】医用画像処理装置、陽電子放射断層撮像装置、医用画像処理方法及び医用画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20230927BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
G01T1/161 A
A61B6/03 377
(21)【出願番号】P 2019133706
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-05-24
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウエンユエン チー
(72)【発明者】
【氏名】チュン チャン
(72)【発明者】
【氏名】リ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】エヴレン アズマ
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-505390(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0120459(US,A1)
【文献】米国特許第09872664(US,B1)
【文献】特表2010-528312(JP,A)
【文献】特開2016-050932(JP,A)
【文献】特開2013-200306(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0151705(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161 - 1/166
A61B 6/00 - 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本スキャンにより得られた本スキャン領域に関する
画像再構成前のPETデータと、前記本スキャンのスキャン時間よりも短いスキャン時間を用いるショートスキャンにより得られた、前記本スキャン領域に隣接する拡張領域に関する
画像再構成前のPETデータとを取得する取得部と、
前記拡張領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPETデータに対して前記本スキャン領域外に起因する散乱線を補正する散乱補正を実施する補正部と、
前記補正された本スキャン領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPET画像を再構成する再構成部と
を具備する医用画像処理装置。
【請求項2】
前記拡張領域は、前記本スキャン領域の両側に設けられた2つの領域である、請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記拡張領域に対応する減弱マップ及び活性分布にさらに基づいて、前記本スキャン領域に関する散乱補正を実施する、請求項1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記本スキャン領域に関する散乱補正を実施する前に、前記本スキャン領域に対応する減弱マップ及び活性分布に基づいて、前記拡張領域に関するPETデータに対して前記拡張領域外に起因する散乱線を補正する散乱補正をさらに実施し、
前記拡張領域に関する散乱補正は、前記拡張領域に対応する活性分布の補正を含む、
請求項3に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記各領域に関する活性分布及び減弱マップに基づいて、前記各領域の外部からの散乱を推定することにより、前記各領域に関する散乱補正を実施する、請求項3に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記補正部は、前記各領域に関する散乱補正を実施する前に、前記各領域に対応する減弱マップ及び活性分布に基づいて、前記各PETデータに対して各領域内に起因する散乱線を補正する散乱補正をさらに実施し、
前記各領域内に関する散乱補正は、前記各領域に対応する活性分布の補正を含む、
請求項3に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記各領域内の減弱マップ及び活性分布に基づいて、前記各領域の内部からの散乱を推定することにより、前記各領域内に関する散乱補正を実施する、請求項6に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
推定部をさらに備え、
前記取得部は、前記本スキャン領域に関する、CT装置において検出されたX線を表す投影データをさらに取得し、
前記推定部は、前記本スキャン領域に関する投影データから再構成されるCT画像に基づいて、前記本スキャン領域に対応する減弱マップを推定する、
請求項3に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記取得部は、前記本スキャン領域に関する投影データよりも小さい線量を用いて前記拡張領域に関して実施される低線量CTスキャンにおいて検出されたX線を表す投影データをさらに取得し、
前記推定部は、前記拡張領域に関する投影データから再構成されるCT画像に基づいて、前記拡張領域に対応する減弱マップを推定する、
請求項8に記載の医用画像処理装置。
【請求項10】
前記推定部は、前記本スキャン領域に対応する減弱マップに基づいて、減弱マップのデータベースから、前記PETデータが収集された対象に一致する減弱マップを選択することにより、前記拡張領域に対応する減弱マップを推定する、請求項8に記載の医用画像処理装置。
【請求項11】
前記各領域に関するPETデータから、前記各領域内の活性分布とともに前記各領域内の減弱マップをジョイント推定するジョイント推定方法を使用することにより、前記各領域に対応する減弱マップを推定する推定部をさらに備える、請求項3に記載の医用画像処理装置。
【請求項12】
減弱マップのデータベースから、前記PETデータが収集された対象に一致する減弱マップを選択することにより、前記各領域に対応する減弱マップを推定する推定部をさらに備える、請求項3に記載の医用画像処理装置。
【請求項13】
対象から放射されたガンマ線の同時計数対を検出する複数の検出素子と、
本スキャン領域に関する本スキャンにおいて前記複数の検出素子により検出された前記本スキャン領域に関する
画像再構成前のPETデータと、前記本スキャンのスキャン時間よりも短いスキャン時間を用い、前記本スキャン領域に隣接する拡張領域に関するショートスキャンにおいて前記複数の検出素子により検出された前記拡張領域に関する
画像再構成前のPETデータとを取得する取得部と、
前記拡張領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPETデータに対して前記本スキャン領域外に起因する散乱線を補正する散乱補正を実施する補正部と、
前記補正された本スキャン領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPET画像を再構成する再構成部と、
前記再構成されたPET画像を表示するように構成されたディスプレイと
を具備する陽電子放射断層撮像装置。
【請求項14】
本スキャンにより得られた本スキャン領域に関する
画像再構成前のPETデータと、前記本スキャンのスキャン時間よりも短いスキャン時間を用いるショートスキャンにより得られた、前記本スキャン領域に隣接する拡張領域に関する
画像再構成前のPETデータとを取得することと、
前記拡張領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPETデータに対して前記本スキャン領域外に起因する散乱線を補正する散乱補正を実施することと、
前記補正された本スキャン領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPET画像を再構成することと
を含む医用画像処理方法。
【請求項15】
前記拡張領域は、前記本スキャン領域の両側に設けられた2つの領域である、請求項14に記載の医用画像処理方法。
【請求項16】
前記本スキャン領域に関する散乱補正は、前記拡張領域に対応する減弱マップ及び活性分布にさらに基づいて実施される、請求項14又は15に記載の医用画像処理方法。
【請求項17】
前記本スキャン領域に関する散乱補正を実施する前に、前記本スキャン領域に対応する減弱マップ及び活性分布に基づいて、前記拡張領域に関するPETデータに対して前記拡張領域外に起因する散乱線を補正する散乱補正を実施することをさらに含み、
前記拡張領域に関する散乱補正は、前記拡張領域に対応する活性分布の補正を含む、
請求項16に記載の医用画像処理方法。
【請求項18】
前記各領域に関する散乱補正を実施する前に、前記各領域に対応する減弱マップ及び活性分布に基づいて、前記各PETデータに対して各領域内に起因する散乱線を補正する散乱補正を実施することをさらに含み、
前記各領域内に関する散乱補正は、前記各領域に対応する活性分布の補正を含む、
請求項16に記載の医用画像処理方法。
【請求項19】
前記本スキャン領域に関する、CT装置において検出されたX線を表す投影データを取得することと、
前記本スキャン領域に関する投影データから再構成されるCT画像に基づいて、前記本スキャン領域に対応する減弱マップを推定することと
をさらに含む、請求項16に記載の医用画像処理方法。
【請求項20】
前記各領域に関するPETデータから、前記各領域内の活性分布とともに前記各領域内の減弱マップをジョイント推定するジョイント推定方法を使用することにより、前記各領域に対応する減弱マップを推定することをさらに含む、請求項16に記載の医用画像処理方法。
【請求項21】
減弱マップのデータベースから、前記PETデータが収集された対象に一致する減弱マップを選択することにより、前記各領域に対応する減弱マップを推定することをさらに含む、請求項16に記載の医用画像処理方法。
【請求項22】
請求項18に記載の前記医用画像処理方法をコンピュータに実行させる医用画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、医用画像処理装置、陽電子放射断層撮像装置、医用画像処理方法及び医用画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放射断層撮像法(PET)は、身体のいくつかの特徴を撮像(撮影)するための弱い放射性(radioactively)でマークされた医薬品(トレーサ)の使用に基づく、核医学における撮像方法である。PET画像は、医師又は臨床医が、例えば、代謝活動又は血流に関する結論(conclusions)を引き出すことを可能にする放射性医薬品の空間分布を表示する。したがって、PETは、例えば、腫瘍を監視するための又は冠状動脈疾患を可視化するための、腫瘍学、心臓学及び神経学における適用例を有する機能的撮像技法である。
【0003】
PET撮像では、トレーサ薬剤が、(例えば、注射、吸入又は摂取を介して)撮像される患者に投与(introduce)される。薬剤は、投与された後、薬剤の物理特性及び生体分子特性により、患者の身体内の特定の箇所に集中する。薬剤の実際の空間分布、薬剤の蓄積の領域の集約性及び投与から薬剤の最終的な排出までのプロセスの動力学は、すべて、臨床的有意性を有し得る要因である。
【0004】
このプロセス中、薬剤に付着したトレーサは、電子の反物質等価物(anti-matter equivalent of the electron)である陽電子を放出(放射)する。放射された陽電子が電子と衝突するとき、電子及び陽電子は消滅し、各々が511keVのエネルギーを有する対のガンマ線を生じる。生じた2つのガンマ線は、実質的に180度離れて進む。
【0005】
トレーサの空間-時間的分布は、断層撮像再構成原理を介して、例えば、各検出イベントをそれのエネルギー(すなわち、生成された光の量)と、それの検出位置と、それのタイミングとについて特徴づけることによって、再構成される。2つのガンマ線が同時計数時間ウィンドウ内で検出されたとき、それらは、同じ陽電子消滅イベントからおそらく生起し、したがって、同時計数対(coincidence pair)であるものとして識別される。それらの検出位置間に線、すなわち同時計数線(LOR:line-of-response)を引いて、陽電子消滅イベントの可能性がある位置を決定することができる。2つのガンマ線の飛行時間(TOF:time-of-flight)情報に基づいて消滅についてのLORに沿った統計的分布を決定するために、タイミング情報も使用され得る。多数のLORを累積することによって、断層撮像再構成が、患者内の放射能(radioactivity)(例えば、トレーサ密度)の空間分布の体積画像を決定するために実施され得る。
【0006】
検出された同時計数イベント(同時計数と呼ばれる)は、真の(true)同時計数イベントとバックグラウンドイベントとに分類され得る。バックグラウンドイベントは、さらに偶発(accidental)同時計数と、散乱(scattered)同時計数とに細分類され得る。2つのガンマ線が同じ消滅イベントから生じなかった場合、偶発(又はランダム)同時計数が発生する。2つのガンマ線が同じ消滅イベントから生じ、かつ、2つの光子位置を結ぶLOR上に真の消滅位置がない場合、散乱同時計数が発生する。これは、例えば、患者内でのコンプトン散乱(Compton scatter)により1つのガンマ線の伝搬方向が変更されたときに起こることがある。
【0007】
断層撮像再構成は、患者の解剖学的情報を可視化することに広く適用されている。断層撮像再構成は、X線コンピュータ断層撮像(Computed Tomography:CT)などの投影ベースの撮像と、PETなどの放射ベースの撮像とを含む、様々なモダリティで使用され得る。放射線への曝露に関する健康問題により、医用撮像における医師、科学者及び技術者は、放射線量を合理的に達成可能な限り低く維持しようと努力する。放射線量を合理的に達成可能な限り低く維持するための取り組みは、放射線量と測定された信号の信号対雑音比(SNR)とを減少させながら、再構成された画像品質における継続的改善を誘導する。
【0008】
したがって、PET散乱補正を実施するために、また、雑音及び干渉信号を低減することによってPET画像の画像品質を改善するために、改善された方法が望まれる。特にPET撮像では、患者の放射線曝露を低減しながら画像品質を改善することにおいて、(FOV外散乱補正を含む)散乱補正が重要な役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2016/092428号
【文献】米国特許出願公開第2018/0120459号明細書
【文献】米国特許第9872664号明細書
【文献】米国特許出願公開第2007/0106154号明細書
【文献】米国特許出願公開第2004/0030246号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明が解決しようとする課題は、FOV外散乱線の影響を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態に係る医用画像処理装置は、取得部と、補正部と、再構成部とを含む。取得部は、本スキャンにより得られた本スキャン領域に関するPETデータと、前記本スキャンのスキャン時間よりも短いスキャン時間を用いるショートスキャンにより得られた、前記本スキャン領域に隣接する拡張領域に関するPETデータとを取得する。補正部は、前記拡張領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPETデータに対して前記本スキャン領域外に起因する散乱線を補正する散乱補正を実施する。再構成部は、前記補正された本スキャン領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPET画像を再構成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、マルチベッドスキャンからの陽電子放射断層撮像(PET)画像にシングルベッドスキャンのための視野(FOV)が重畳された画像の一例を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、一実施例による、PET装置における真の同時計数のFOVについて説明するための図である。
【
図2B】
図2Bは、一実施例による、PET装置における偶発同時計数のFOVについて説明するための図である。
【
図3】
図3は、一実施例による、マルチベッドスキャンのための散乱補正の流れの一例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、一実施例による、PET装置における本スキャンのためのベッド位置(位置「B」)に対するショートスキャンのための第1の拡張ベッド位置(位置「A」)についての一例を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、一実施例による、PET装置における本スキャンのためのベッド位置(位置「B」)に対するショートスキャンのための第2の拡張ベッド位置(位置「C」)についての一例を示す図である。
【
図5】
図5は、一実施例による、ショートスキャンを用いて増補されるシングルベッドスキャンのための散乱補正の流れの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、一実施例による、ショートスキャンを用いて増補されるシングルベッドスキャンのための散乱補正の流れの別の一例を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、一実施例による、拡張領域中で、ショートスキャンと低線量コンピュータ断層撮像(CT)スキャンとを使用して、活性分布と減弱マップとを生成するための流れの一例を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、一実施例による、ショートスキャンと減弱マップのアトラス(データベース)とを使用して、活性分布と減弱マップとを生成するための流れの一例を示す図である。
【
図7C】
図7Cは、一実施例による、ショートスキャンとジョイント推定方法とを使用して、活性分布と減弱マップとを生成するための流れの一例を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、一実施例による、マルチベッドスキャンからの再構成されたPET画像の横方向スライスの一例を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、一実施例による、FOV外散乱補正なしのシングルベッドスキャンからの再構成されたPET画像の横方向スライスの一例を示す図である。
【
図8C】
図8Cは、一実施例による、拡張領域のショートスキャンに基づくFOV外散乱補正を用いたシングルベッドスキャンからの再構成されたPET画像の横方向スライスの一例を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、一実施例による、マルチベッドスキャンからの再構成されたPET画像の冠状スライスの一例を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、一実施例による、FOV外散乱補正なしのシングルベッドスキャンからの再構成されたPET画像の冠状スライスの一例を示す図である。
【
図9C】
図9Cは、一実施例による、拡張領域のショートスキャンに基づくFOV外散乱補正を用いたシングルベッドスキャンからの再構成されたPET画像の冠状スライスの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、一実施例による、PET装置の一例の斜視図である。
【
図11】
図11は、一実施例による、PET装置の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る医用画像処理装置、陽電子放射断層撮像装置、医用画像処理方法及び医用画像処理プログラムを説明する。なお、以下の説明において、既出の図に関して前述したものと同一又は略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表されている場合もある。
【0014】
以下、「スキャン」という語句とともに用いられる「ショート」及び「本」という語句(例えば、「ショートスキャン」及び「本スキャン」)は、スキャンの物理的長さ又は空間的広がり、例えば、PETスキャンにおいて収集されるベッド位置の数ではなく、PETスキャンの持続時間を指す。さらに、「マルチベッドスキャン」という句は、複数のステージにおいて実施されるスキャンの空間的広がりを指す。また、「マルチベッドスキャン」と等価的に「マルチベッド位置(multi-bed-position)スキャン」という句が用いられることもある。各ステージは、PET(又はCT)装置が、例えば、あらかじめ定義された時間間隔の間、滞在する所与のベッド位置において、対象/患者の一部分に重なる視野(FOV)からデータを収集する。
【0015】
本実施形態に係る技術は、複数のベッド位置で実施されるスキャン(マルチベッドスキャン)とは対照的に、1つ又は少数のベッド位置で実施されるスキャン(シングルベッド(又は少数ベッド)スキャン)に基づいて、陽電子放射断層撮像法(PET:positron emission tomography)によるPET撮像を改善することに関する。シングルベッドスキャンは、本スキャンの視野(FOV:field of view)の両側(又は片側)の拡張領域中で実施されるショートスキャン(拡張スキャン)を用いて増補される。これらのショートスキャンは、FOV内のPETデータのFOV外散乱補正(outside-the-FOV scatter correction)のための基礎を形成する、拡張領域中の減弱マップと活性(activity)分布とを推定するために使用される。
【0016】
本実施形態に係る技術によれば、PET装置における散乱を補正するための方法及び装置が提供され、散乱は、真の同時計数のための視野(FOV)内とそのFOV外の両方から来る。関心領域(ROI)について、FOV外散乱補正は、ROIに隣接する拡張領域のショートPETスキャンから推定された減弱マップと活性分布とに基づく。さらに、PET/CT装置において、これらのショートスキャンに、拡張領域中での低線量X線コンピュータ断層撮像(CT)スキャンが付随し得る。本スキャンではなく、ショートスキャンの使用は、より低い放射線量(例えば、低線量CT)とあまり時間を必要としないこととの利点とともに、FOV外散乱補正に十分な精度を与える。低線量CTスキャンの不在下で、拡張領域についての減弱マップを推定するために、減弱マップのアトラス(データベース)又はジョイント推定方法が使用され得る。
【0017】
PET撮像において、測定された同時計数は、真の同時計数とバックグラウンド信号(例えば、偶発同時計数)との両方を含む。再構成されたPET信号の画像品質を改善するために、このバックグラウンド信号に関して、推定及び考慮することが望ましい。例えば、バックグラウンド信号は、推定されたバックグラウンド信号に基づくベースライン減算を使用してデータを補正することによって考慮され得る。あるいは、PET画像を反復的に再構成するために対数尤度目的関数が使用されるとき、対数尤度式は、推定されたバックグラウンド信号に基づくバックグラウンド信号項を含むことができる。バックグラウンド信号は、ランダムイベント及び散乱イベントによるカウントを含む。PETでは、バックグラウンド信号は主に、ランダムとしても知られる、偶発同時計数(AC)と、散乱同時計数とからなる。
【0018】
多くの消滅イベントについて、光子の対のうちの他方の光子は吸収されるか又はPET検出器リングの面の外に散乱されるので、一方の光子のみが検出される。さらに、PET検出器リングのシンチレーティング検出器に到達する一部の光子は、検出器の単一量子効率(unity quantum efficiency)よりも小さいので、検出されない。光子の対のうちの一方のみが検出される検出イベントは、「シングル」と呼ばれ得る。別個の消滅からの2つのシングルが、同時計数タイミングウィンドウ内で検出された場合、それらは、同じ消滅から生じたものとして誤って登録される。これは、偶発同時計数(AC)イベントと呼ばれ、ランダムイベントとしても知られる。言い方を変えれば、2つの無関係のシングルが同時計数タイミングウィンドウ内で検出されたとき、ACイベントが発生する。
【0019】
身体内の大部分の散乱光子は、検出されずに検出器面を離れるが、いくつかの散乱光子は、依然として検出及び登録され、誤ったLORを生じる。いくつかの実施例では、光子が、散乱イベントを生じるコンプトン相互作用の間、それらのエネルギーの一部分を失うので、誤ったLORを生じるこれらの散乱イベントのうちのいくつかは、エネルギー弁別によって削除され得る。たとえそうでも、いくつかの散乱光子同時計数(散乱)及びいくつかの偶発同時計数(ランダム)は、必然的に記録されることになり、したがって、バックグラウンド信号は、偶発同時係数及び散乱同時計数を含む。
【0020】
様々な補正がPETデータに対して実施されることにより、より良好な画像品質を生じ得る。例えば、ガンマ線が、患者を通って伝搬するときに減弱され、検出素子がそれらの検出効率において変動し、偶発同時計数(ランダム)イベント及び散乱同時計数(散乱)イベントが真の同時計数イベントとともに記録される。これらの影響を補正することが、画像品質を改善し、PET検査から臨床的に有用な画像と正確な定量的な情報とを生じる。
【0021】
第1に、減弱補正を考慮する。消滅サイトから検出器までのガンマ線の経路上でより多い又はより密な材料に遭遇するガンマ線は、身体のより疎な部分を通って進むガンマ線よりも、吸収又は散乱される(すなわち、減弱される)可能性がより高い。減弱補正なしに画像がサイノグラムから再構成される場合、あまり密ではないエリア(例えば、肺)からのガンマ線が過剰に表され(例えば、それらは、それらが実際に放射しているよりも多いガンマ線を放射しているかのように見え)、密な組織は過小に表される。減弱補正が行われない状況下で、再構成された画像は、アーチファクトを受けやすくなり、アーチファクトは、画像の視覚的外観を損ない、トレーサ蓄積(uptake)の不正確な計量にもつながる。減弱補正を適用するために、減弱マップが生成され、それにより、すべてのLORについて患者による減弱を決定することができる。これは、例えば、スタンドアロン型のPET装置上で、外部陽電子源が患者の周りで回転されるトランスミッションスキャン(transmission scan)を用いて行われ、透過されたガンマ線の減弱が決定される。PET/CT装置では、収集されたCT画像(投影データ)は、PET減弱補正のために使用され得る。さらに、いくつかの実施例では、ジョイント推定方法が、PETデータについての減弱マップと活性分布との両方を同時に導出するために使用され得る。
【0022】
第2に、検出素子が、較正及び補正され得る。さらに、軸/ジオメトリベースの感度補正がデータに適用され得る。
【0023】
第3に、バックグラウンド信号が、再構成において考慮及び推定され得る。例えば、PET画像は、以下に示す最適化問題を解決するために罰則付き尤度法(penalized likelihood method)を使用して再構成され得る。
【数1】
ここで、xは再構成される画像であり、L(x)はポアソン尤度関数(Poisson likelihood function)である。ポアソン尤度関数は、次式で表され得る。
【数2】
ここで、s
jはボクセルjの感度であり、Pはシステム行列であり、それの要素は、インデックスjに対応する再構成された画像の体積ピクセルが、i番目の検出イベントに関連する同時計数線(LOR)内にある可能性を表す。ここで、[・]
iは、ベクトルからのi番目の要素を表す。平均バックグラウンド信号は、ランダムイベント及び散乱イベントによるカウントを含む、r
iによって示される。
【0024】
図1は、マルチベッドスキャン(全身(full-body)スキャン)からのPET画像を示している。この画像は、各々が
図1に示されているシングルベッドスキャン幅(すなわち、シングルベッドスキャンFOVの幅)に対応する、一連のシングルベッドスキャンからのPET画像が結合された画像である。マルチベッドスキャンでは、PET検出器リングが、一連のベッド位置における各ベッド位置に滞在することによってスキャンが進行する。PET検出器リングは、次のベッド位置に移動する前に、本スキャン期間(本スキャンのための持続時間)の間、ベッド位置の各々に滞在する。
図1に見られるように、図示されたシングルベッドスキャン幅内の画像は、シングルベッド視野(FOV)内で生起しているガンマ線から散乱/バックグラウンド信号を受けやすいだけでなく、FOVの外部、特に、高い活性密度を有する高活性の膀胱(hot bladder)で生起しているガンマ線も受けやすい。マルチベッドスキャンでは、PETデータは、
図1に示されたシングルベッドスキャン幅の上の(前の)領域と、下の(後の)領域とについて収集され、シングルベッドスキャンFOVの外部の領域についての減弱マップと活性分布との推定を可能にする。
【0025】
対照的に、シングルベッドスキャンの場合、PETスキャンは概して、シングルベッドスキャンのFOVに近隣する近隣拡張領域中で収集されない。このため、シングルベッドスキャンのFOVの外部の拡張領域についての減弱マップと活性分布との推定が妨げられる。したがって、本明細書で提案される方法は、シングルベッドスキャンでは、シングルベッドスキャンFOVの後及び前の近隣拡張領域におけるショートスキャンを使用して、追加のデータを収集する。この追加のデータは、シングルベッドスキャンFOVのFOVに隣接するがそれの外部にある領域についての減弱マップと活性分布との生成を可能にする。これらのFOV外減弱マップ及び活性分布を使用して、FOV外散乱補正が、シングルベッドスキャンデータについて実施され得る。それによって、FOV内の再構成されたPET画像についてより良い画像品質を生成する。
【0026】
図2Aは、対象物OBJに関するPET装置800を示す。また、
図2Aは、両方のガンマ線が散乱を受けることなしに検出器リングの各検出素子に到着する、撮像視野(すなわち、真の同時計数のためのFOV)を示す。例えば、
図2A中のFOVは、PET装置800がシングルベッドスキャンを実施しているときの真の同時計数のためのものであり得る。本明細書では、「シングルベッドスキャン」という用語は、ただ1つのベッド位置についてPET画像が生成されるPETスキャンを指す。
【0027】
図2Bは、ガンマ線が生起し、偶発同時計数を生じることがある領域の概略図を示す。このようにして、偶発同時計数が、撮像視野(すなわち、
図2Aに示されている真の同時計数のためのFOV)の外部の領域から生じることがある。
【0028】
2次元(2D)及び/又は3次元(3D)PETでは、散乱効果は、画像品質を劣化させる最も重要な物理的要因のうちの1つである。典型的な3DPETシステムでは、散乱イベントは、総検出イベントの30%から50%であり得る。PETデータ中の散乱を補正するために、散乱推定が使用され得る。対象物が、体軸方向にPET装置よりも長いとき、好ましくは、FOV外散乱(すなわち、撮像視野(FOV)外から来る散乱されたガンマ線)が考慮されるべきである。そのようなFOV外散乱は、特にPETシステムが端部シールドなしの大きいボア開口を有するとき、総散乱の40%を上回ることがある。上記で説明された一般的な散乱のように、FOV外散乱イベントは、(i)検出される光子の一方又は両方が、FOVの外部に位置する物質により散乱する、FOV内で生起するイベントと、(ii)FOVの外部で発生する消滅イベント(すなわち、活性)から生起するイベントとの2つのカテゴリーにおいて見られる。両方のカテゴリーについて、検出された散乱分布をモデル化するために、FOV外の減弱及び活性分布が必要とされる。
【0029】
FOVの外部からFOV中に散乱するガンマ線について、それが検出されるために、2つの条件が満たされなければならない。第1に、イベントは、それが検出器表面に当たるような角度で散乱しなければならない。第2に、散乱後に、ガンマ線は、検出ウィンドウ内の(すなわち、下位レベルエネルギー弁別器(LLD:lower level energy discriminator)を上回る)エネルギーを有しなければならない。これらの2つの検出条件を鑑みると、散乱の可能性(すなわち、散乱断面図)は、より小さい散乱角度の場合により大きく、直接隣接(immediately adjacent)するベッド位置において生起する散乱イベントは、より大きい角度で散乱し、依然として検出され得るので、大多数のFOV外イベントは、直接隣接するベッド位置から来る。したがって、少量のFOV外活性が、より一層離れているベッド位置から来ることがあるが、直接隣接するベッド位置からのFOV外活性のみを考慮することが、計算量的に最も効率的である。
【0030】
マルチベッドスキャンでは、複数の隣接するベッド位置が測定される。したがって、所与のベッド位置において、マルチベッドスキャンの一部分について散乱補正を実施するとき、各ベッド位置に直接近隣(immediately neighboring)する(すなわち、前/上及び後/下の)ベッド位置についての2つのスキャンが、FOV外散乱補正を実施するために使用されるFOV外減弱マップ及び活性密度の生成に使用され得る。
【0031】
対照的に、この情報(例えば、FOV外減弱マップ及び活性密度)は、一般に、シングルベッドスキャンにおいて利用可能ではない(本明細書で、シングルベッドスキャンという句は、1つのベッド位置におけるスキャンを指す)。本明細書で説明される方法は、この欠点を、シングルベッドスキャンのベッド位置の直前及び直後の拡張位置においてショートスキャンを実施することによって改善する。これらのショートスキャンに基づいて、FOV外減弱マップ及び活性密度が生成される。生成されたFOV外減弱マップ及び活性密度は、FOV外散乱補正を実施するために使用され得る。
【0032】
例えば、脳又は心臓スキャンなどのスキャンは、一般に、有限体軸方向FOV(limited axial FOV)(1つ又は2つのベッド位置)に関与する。その場合、FOVの外側からの放射又は減弱マップ情報はなく、この情報なしにFOV外散乱補正が実施され得る。
【0033】
この問題の1つの解決策は、隣接領域の追加の本スキャン及び/又はCTスキャンを実施することである。しかしながら、この解決策は両方とも、総PETスキャン時間及びCT放射線量を(例えば、1つのベッド位置の代わりに3つのベッド位置がスキャンされるとき、3倍まで)増加させる。
【0034】
別の可能な解決策は、視野(FOV)の外部の活性及び減弱マップを、視野(FOV)の内部の既知の活性及び減弱マップからそれらを外挿することによって、決定することである。例えば、視野(FOV)の外部の活性及び減弱マップが、エッジスライスにおける値に等しい定数値に設定される、定数値外挿が使用され得る。しかしながら、この可能な解決策は、FOVの外部の実際の活性及び減弱値への厳密でない近似を生じることになり、特に、FOV外の活性がFOVの内部の活性と著しく異なる場合、散乱推定誤差及び定量的なバイアスにつながる。
【0035】
したがって、好ましい実施形態では、本明細書で説明される方法は、FOV外領域に関する情報を収集するためにショートスキャンを使用することによって、FOVの外部の活性及び減弱値のより良い推定を与える。さらに、本明細書で説明される方法は、依然としてFOV外散乱補正を可能にしながら、FOV外領域に関するこの情報を、それらの領域の本スキャン(PETスキャン)及び/又はCTスキャンを実施することなしに収集する。
【0036】
上記に鑑みて、本明細書で説明される方法は、同時に十分に正確なFOV外散乱推定を与えながら、追加のPETスキャン時間を低減することと、CT放射線量を低減することとの有利な効果を有する。本明細書で説明される方法は、以下の3つの手法のうちの1つ又は複数を使用して、これらの有利な効果を達成する。第1の手法では、放射分布及びその後の散乱推定を決定するために、短時間のPETスキャン(ショートスキャン)が、拡張体軸方向FOV(extended axial FOV)において実施される(例えば、ショート30秒PETスキャン)。さらに、拡張体軸方向FOVにおいて、第1の手法は、拡張体軸方向FOVにおける減弱マップを決定するための低線量CTスキャンを含む。
【0037】
第2の手法では、放射密度を決定するために、拡張体軸方向FOVにおける短時間のPETスキャン(ショートスキャン)も実施される。減弱マップのアトラス(データベース)に基づいて(例えば、患者のサイズに最も一致するように選択されたアトラスを使用することによって)、拡張体軸方向FOVにおける減弱マップが推定される。すなわち、撮像視野(FOV)の外部の領域(拡張領域)について(すなわち、拡張FOVにおいて)、放射密度(活性分布とも呼ばれる)はショートスキャンから取得され、減弱マップはアトラスから取得される。
【0038】
第3の手法では、再び、拡張体軸方向FOVにおいて短時間のPETスキャン(ショートスキャン)が実施される。PETデータから減弱マップと放射密度の両方を推定するためにジョイント推定方法が使用される。すなわち、ジョイント推定方法は、拡張体軸方向FOVにおける放射密度と減弱マップとの両方を生成する。
【0039】
拡張体軸方向FOVにおけるショートスキャンの使用は、追加のスキャン時間を最小化するとともに、PETデータのTOF性質が、低線量CTスキャンからの減弱誤差を最小化するという利点を有する。ショートスキャンの持続時間は、好ましくは、散乱補正のために十分である近似活性推定を可能にするために十分に長いが、それは、正確なPET画像再構成に必要な持続時間(例えば、本スキャンの持続時間)よりも著しく短い。
【0040】
図3は、(FOV内から及びFOV外から生起する散乱のための)少数ベッド散乱補正についての流れの一例を示す。多くのベッド位置を用いるPETスキャン(マルチベッドスキャン)では、散乱補正は、各ベッド位置におけるそれぞれのPETスキャンを使用して実施され得る。第1に、活性及び減弱マップが、各ベッド位置におけるFOVについて散乱補正なしに推定される。
【0041】
次に、シングルベッド散乱補正(FOV内散乱補正)が、各ベッドについて別個に実施される。シングルベッド散乱補正は、そのシングルベッド位置のみに対応する活性及び減弱マップを使用して実施される散乱補正を指す。シングルベッド散乱補正のみを使用して補正されたPETデータは、1回補正されたデータ(once-corrected data)と呼ばれる。
【0042】
次に、PETスキャンの一端におけるベッド位置(すなわち、ベッド位置「1」)から開始し、ベッド位置「2」における1回補正されたPETデータに基づいて、ベッド位置「1」においてFOV外散乱補正が計算され、ベッド位置「1」における2回補正されたPETデータを生じる。ベッド位置「1」における2回補正されたPETデータと、ベッド位置「3」(すなわち、ベッド位置「2」に隣接する他のベッド位置)における1回補正されたPETデータとは、ベッド位置「2」において計算されるFOV外散乱補正を実施するために使用され、その結果、ベッド位置「2」における2回補正されたPETデータを生じる。さらに、このプロセスは、FOV外散乱補正を実施するために、ベッド位置「2」における2回補正されたPETデータと、ベッド位置「4」における1回補正されたPETデータとを使用してベッド位置「3」において進行し、以下、ベッド位置のすべてにおけるPETデータが2回補正される(すなわち、シングルベッド散乱補正とFOV外散乱補正の両方が実施される)まで、同様である。
【0043】
図3中の散乱補正についての流れに示されているように、少数ベッドスキャンは、本スキャンが実施されるn-2ベッド位置のPETデータem
i(すなわち、i={2,3,...,n-1}についてのPETデータem
i)と、拡張領域中の2つのショートスキャンに対応するi={1,n}の場合のPETデータem
iとを含む。
図3では、em
iは、i番目の位置における補正されていないPETデータを表す。また、em
i’は、FOV内散乱補正が実施された、i番目の位置における1回補正されたPETデータを表す。また、em
i”は、FOV外散乱補正が実施された、i番目の位置における2回補正されたPETデータを表す。位置i=1及びi=nは、ショートスキャンが実施される拡張体軸方向FOVベッド位置である。位置i={2,3,...,n-1}は、本スキャンが実施される少数ベッドスキャン内の位置である。活性及び減弱マップが拡張FOVについて推定されると、マルチベッドプロトコルに従って散乱補正が進む。第1に、散乱補正なしのPETデータに基づいて、各ベッドについて別個に、放射分布及び減弱マップが推定される(em
iによって示される)。第2に、すべてのベッド位置について、シングルベッド散乱補正が実施され、その結果、一連の更新された放射分布が取得される(em
i’によって示される)。第3に、更新された放射分布を使用してFOV外散乱推定が実施され、新しい散乱サイノグラム推定が取得される。これらは、さらに放射分布を更新するために使用される(em
i”によって示される)。PET/CT装置が使用されるとき、散乱推定において使用される減弱マップは、各ベッド位置の対応するCTスキャンから取得される。
【0044】
図4A及び
図4Bは、シングルベッド位置「B」におけるPETスキャンのためのショートスキャンの非限定的な例を示す。
図4Aは、位置「A」(位置「B」に隣接するか、いくつかの実施例では、それと重複する位置)において、ショートスキャンが実施されることを示す。同様に、
図4Bは、位置「C」(位置「B」に隣接するか、いくつかの実施例では、それと重複する位置)において、ショートスキャンが実施されることを示す。
図4A及び
図4Bでは、PET装置のそれぞれのベッド位置に対応する領域は、文字を使用して標示されるが、
図3では、領域は数字を使用して標示される。
【0045】
さらに、
図5では、拡張体軸方向FOV領域は、前(anterior)及び後(posterior)の略記である、下付き文字「a」及び「p」によって示される。概して、これらの拡張体軸方向FOV領域は、{近位、遠位}、{前、後}及び{上位、下位}と様々に呼ばれることがある。
図5では、本スキャンFOVにおける補正されていないPETデータはem
oと標示され、本スキャンFOVの両側(例えば、前及び後)の拡張領域に対応する補正されていないPETデータは、それぞれ、em
a及びem
pと標示される。
【0046】
図5及び
図6は、本スキャンのみがシングルベッド位置のみにおいて実施されるとき、散乱補正を実施するためのプロセスのそれぞれのフローチャートを示す。PET装置の体軸方向FOVが、関心領域(ROI)の全体をカバーするとき、ROIのPETスキャンが、シングルベッド位置のみを用いて実施され得るため、FOV外散乱補正を実施するために用いるFOVの外部のPETデータを生じないことがある。したがって、FOV外散乱推定の精度を改善するために、ショートスキャンが、隣接する領域(拡張領域)中で実施される。
図5では、下付き文字「p」及び「a」が2つの拡張領域に関するPETデータを示し、下付き文字「o」がFOV内PETデータを示すものとする。
【0047】
シングルベッドスキャンのための提案されたFOV外散乱補正方法が、
図5及び
図6に示されている。補正されていないPETデータem
o、em
a及びem
pから開始し、シングルベッド散乱補正(FOV内散乱補正)を使用してすべてのベッドについての散乱が推定され、それに応じてすべてのベッド位置における活性分布(例えば、PETデータ)が更新され、補正されたPETデータem
o’、em
a’及びem
p’を生成する。次に、減弱マップ及び更新された活性密度は、拡張FOV中のPETデータを補正するために使用され、2回補正されたPETデータem
a”及びem
p”を生成する。FOV外ベッドについての活性密度em
a”及びem
p”と、減弱マップとが、当該のベッド位置についてFOV外散乱補正を実施するために使用され、2回補正されたPETデータem
o”を生成する。
【0048】
図6は、方法100が、ステップ110において、本スキャンによるFOV中のPETデータ(em
o)と、ショートスキャンによるFOV前(em
a)及びFOV後(em
p)のPETデータとを取得することから、開始することを示す。
【0049】
ステップ120において、シングルベッド散乱補正(FOV内散乱補正)が、PETデータのすべてに対して実施され、補正されたPETデータemo’、ema’及びemp’を生成する。
【0050】
ステップ130において、FOV外散乱補正が、前及び後の領域中の1回補正されたPETデータに対して実施され、2回補正されたPETデータema”及びemp”を生成する。
【0051】
ステップ140において、2回補正されたPETデータema”及びemp”を使用して、1回補正されたPETデータemo’に対してFOV外散乱補正が実施され、2回補正されたPETデータemo”を生成する。
【0052】
図7A、
図7B及び
図7Cは、散乱補正のための方法100において使用される、活性密度及び減弱マップを最初に決定するためのステップ110を実施するための3つの代替プロセスを示す。
【0053】
図7Aでは、ステップ110のプロセスは、本スキャンにおいてFOV中のPETデータが取得され、ショートスキャンにおいてFOVの外部の拡張体軸方向領域(extended axial region)中のPETデータが取得される、ステップ111から始まる。いくつかの実施例では、拡張体軸方向領域は、それがFOVの外部である領域にも延びる限り、FOVと部分的に重複することができる。例えば、拡張体軸方向領域中のショートスキャンは、1つの非限定的な実施例によれば、それぞれFOVと50%の重複を有することができる。
【0054】
ステップ112において、FOV中で実施されたCTスキャンについてのデータ(投影データ)が取得される。さらに、FOV外側の拡張体軸方向領域中で実施された低線量CTスキャンについてのデータ(投影データ)が取得される。PET/CT装置が使用されるとき、FOV中の本スキャン及びCTスキャンが同時に実施され得る。さらに、拡張領域中の低線量CTスキャン及びショートスキャンが、同時に実施され得る。
【0055】
ステップ113において、取得されたPETデータから(放射分布とも呼ばれる)活性密度のマップが生成される。例えば、FOV中の活性密度は本スキャンによるPETデータから再構成され得る。また、FOVの外部の拡張領域中の活性密度はショートスキャンによるPETデータから再構成され得る。
【0056】
ステップ114において、取得されたCTデータ(投影データ)から減弱のマップが生成される。例えば、FOV中の活性密度は、FOV中のCTデータから再構成され得る。また、FOVの外部の拡張領域中の減弱マップは、低線量CTデータ(投影データ)から再構成され得る。
【0057】
図7Bでは、ステップ110のプロセスは、本スキャンからのPETデータが、FOV中で取得され、ショートスキャンからのPETデータが、FOVの外部の拡張体軸方向領域中で取得される、ステップ111から始まる。
【0058】
ステップ112’において、FOV中で実施されたCTスキャンについてのデータが取得される。
【0059】
ステップ113において、取得されたPETデータから(放射分布とも呼ばれる)活性密度のマップが生成される。例えば、FOV中の活性密度は本スキャンによるPETデータから再構成され得る。また、FOVの外部の拡張領域中の活性密度はショートスキャンによるPETデータから再構成され得る。
【0060】
ステップ114’において、取得されたCTデータ(投影データ)から減弱のマップが生成される。例えば、FOV中の活性密度は、CTデータから再構成され得る。しかしながら、拡張領域についてはCTデータがない。したがって、拡張領域中に存在する近似減弱プロファイルを推定するために、アトラス(データベース)が使用される。例えば、いくつかの実施例では、FOV中の決定された減弱マップは、患者のサイズ及び位置を決定するために使用され得る。当該減弱マップは、例えば、変動するサイズ及び身体組成の患者についての減弱プロファイルのルックアップテーブル(又は基準ライブラリ)に基づいて、拡張領域中の減弱プロファイル/マップを予測するために使用される。すなわち、拡張体軸方向FOV中の減弱マップの推定は、アトラス中の減弱プロファイルのどれが患者のサイズに最もぴったり一致するかに基づき得る。アトラスからの最も近い減弱プロファイルは、拡張領域中の減弱マップを生成するために使用され得る。
【0061】
図7Cでは、ステップ110のプロセスは、本スキャンからのPETデータが、FOVにおいて取得され、ショートスキャンからのPETデータが、FOVの外部の拡張体軸方向領域中で取得される、ステップ111から始まる。
【0062】
ステップ115において、FOVの内部とFOVの外部の両方について減弱マップと活性分布マップの両方を生成するために、ジョイント推定方法がPETデータに適用される。すなわち、ジョイント推定方法は、活性密度を再構成することに加えて(例えば、それと同時に)、減弱マップを生成する。すなわち、ジョイント推定方法をFOV中の本スキャンからのPETデータに適用することが、FOV中の減弱マップと活性分布とを生成する。さらに、ジョイント推定方法をショートスキャンからのPETデータに適用することが、FOVの外部の減弱マップと活性分布とを生成する。
【0063】
ステップ110の上記の実施例の各々では、ショートスキャンのより短いスキャン持続時間(及び、いくつかの実施例では、低線量CTスキャンのより低い線量)は、本スキャンが実施されるFOV中よりも低い精度と、乏しい信号対雑音比(SNR)とを有する、拡張領域中の減弱マップ及び活性分布を生じる。それにもかかわらず、これらの拡張領域の減弱マップ及び活性分布は、FOV外補正を実施するのに十分である。いくつかの実施例では、拡張領域中のこれらのマップのより低い信号対雑音比は、拡張領域中でより粗い空間解像度を使用することによって補償され得る。低線量CTスキャンを使用すること(又は、
図7に示されている事例では、CTスキャンを使用しないこと)は、FOVの外部の追加のスキャンによる放射線曝露を減少させるという利点を有する。
【0064】
図8A、
図8B及び
図8Cは、
図5B及び
図6に関して本明細書で説明されたように、(i)すべてのベッド位置を含む全身のマルチベッドスキャンと、(ii)FOV外散乱補正なしのシングルベッド再構成と、(iii)FOV外散乱補正を用いたシングルベッド再構成とをそれぞれ使用して再構成された、それぞれのPET画像のトランスバース(体軸方向)スライスを示す。すなわち、
図8Aは、FOV外散乱がフルに補正された、全身における近隣ベッド位置のすべてをスキャンすることから再構成された、PET画像を示す。したがって、これは、比較のためのゴールデンスタンダードと考えられ得る。
図8Bは、FOV外散乱補正が実施されないシングルベッド再構成を使用して再構成されたPET画像を示す(例えば、これは、FOV外散乱が無視されるワーストケースシナリオを示す)。
図8Cは、近隣/隣接ベッド位置におけるショートスキャン及び低線量CTスキャンからの活性及び減弱マッピングを使用してPETデータが補正された再構成を使用して再構成されたPET画像を示す。(例えば、FOV外散乱は再構成された画像において大部分が補正され、それをフルに補正されたゴールドスタンダードにより近いものとする)。
【0065】
同様に、
図9A、
図9B及び
図9Cは、
図5及び
図6に関して本明細書で説明されたように、(i)すべてのベッド位置を含む全身のマルチベッドスキャンと、(ii)FOV外散乱補正なしのシングルベッド再構成と、(iii)FOV外散乱補正を用いたシングルベッド再構成とをそれぞれ使用して再構成された、それぞれのPET画像の正面(冠状)スライスを示す。これらの図の各々では、丸で囲まれた領域が示され、この丸で囲まれた領域では、(i)
図9Aにおけるマルチベッドスキャン結果について、平均活性密度は27.7であり、(ii)
図9Bにおけるシングルベッドスキャン結果について、平均活性密度は44.1であり、(iii)
図9Cにおけるショートスキャン結果について、平均活性密度は26.5である。したがって、ショートスキャンによって生成されたFOV外散乱補正がゴールデンスタンダードと良好な一致を生じることが、観測され得る。
【0066】
上記のように、いくつかの実施例では、本明細書で説明される方法は、本スキャン体積の外部の領域についてFOV外散乱推定を実施することによって、ただし拡張領域中の本スキャンを実施することなしに、PET撮像において改善された散乱補正を達成する。すなわち、これらの拡張された体積中で本スキャンを実施するのではなく、それぞれのショートスキャンが代わりに実施され得る。これらのショートスキャンは、拡張された体積/領域中の減弱マップを推定するために使用され得る。さらに、これらのショートスキャンは、拡張された体積/領域中の活性密度を推定するために使用され得る。拡張領域中の減弱マップと活性密度との両方が、FOV外散乱補正を実施する際に使用される。
【0067】
いくつかの実施例では、PET撮像プロセスは、(i)関心領域(ROI)のための体軸方向FOVを決定し、ROIのCTスキャン及び本スキャンを収集することと、(ii)ROIに隣接する拡張領域中のショートスキャンを実施することとを含む。本スキャンは、十分なカウント統計値を取得するために、あらかじめ決定された持続時間にわたって収集される。
【0068】
いくつかの実施例では、本明細書で説明される方法は、ROIに隣接する拡張領域の低線量CTスキャンを実施することを含む。
【0069】
いくつかの他の実施例では、拡張領域中の低線量CTスキャンの代わりに、拡張領域中の減弱プロファイルが、代替的に、アトラス(データベース)を使用して、又は(ジョイント推定方法とも呼ばれる)ジョイント減弱及び活性推定方法を使用して、推定され得る。
【0070】
いくつかの実施例では、拡張領域中の収集されたデータは、ROIのためのFOVに隣接する領域中の活性及び減弱マップの推定を確立するためのみに使用され、拡張領域中のこれらの推定された活性及び減弱マップは、FOV外散乱補正のためのみに使用され、PET撮像のために使用されない。
【0071】
いくつかの実施例では、本明細書で説明される方法は、ROIに隣接する2つの拡張領域のうち、体軸方向のいずれか一方の拡張領域のショートスキャンが実施されないことを含む。例えば
図4Aに示す例では、ROIのための視野(FOV)、すなわち位置Bで本スキャンが実施され、当該ROIに隣接する拡張領域のための視野(FOV)、すなわち位置Aでショートスキャンが実施される。このとき、
図4Bに示す位置Cでのショートスキャンは実施されなくてもよい。同様に、位置Bで実施される本スキャンとともに、
図4Bに示す位置Cでショートスキャンが実施される場合には、
図4Aに示す位置Aでのショートスキャンは実施されなくてもよい。本実施例は、対象の脳を含む領域にROIが設定される場合などに適用でき得る。このとき、拡張領域のための視野(拡張体軸方向FOV)は、脳に対して首側に設定され得る。ここで説明される方法は、同時に十分に正確なFOV外散乱推定を与えながら、FOVの外部の追加のスキャンによる追加のPETスキャン時間を低減するとの有利な効果を有する。
【0072】
図10及び
図11は、矩形検出器モジュールとして各々構成された、いくつかのGRD(例えば、GRD1,GRD2~GRDN)を含む、PET装置800を示す。一実施例によれば、検出器リングは40個のGRDを含む。別の実施例では、48個のGRDがあり、PET装置800のためのより大きいボアサイズを作成するために、より多数のGRDが使用されてもよい。
【0073】
各GRDは、ガンマ放射線を吸収しシンチレーション光子を放射する、個々の検出器結晶の2次元アレイを含むことができる。シンチレーション光子は、同じくGRDに配列された光電子増倍管(PMT)の2次元アレイによって検出され得る。光ガイドは、検出器結晶のアレイとPMTのアレイとの間に配設され得る。さらに、各GRDは、様々なサイズのいくつかのPMTを含むことができ、それの各々は、複数の検出器結晶からシンチレーション光子を受信するように配列される。各PMTは、シンチレーションイベントがいつ発生したかと、検出イベントを生成するガンマ線のエネルギーとを示すアナログ信号を生成することができる。その上、1つの検出器結晶から放射された光子は2つ以上のPMTによって検出され得る。各PMTにおいて生成されたアナログ信号に基づいて、検出イベントに対応する検出器結晶は、例えば、アンガー論理と結晶復号とを使用して決定され得る。
【0074】
図11は、対象物OBJから放射されたガンマ線を検出するように配列されたガンマ線光子計数検出器(ガンマ線検出器GRD)を有するPET装置システムの概略図を示す。GRDは、各ガンマ線検出に対応するタイミング、位置及びエネルギーを測定することができる。一実施例では、
図10及び
図11に示されているように、ガンマ線検出器はリング状に配列される。検出器結晶は、2次元アレイに配列された個々のシンチレータ素子を有するシンチレータ結晶であり得る。シンチレータ素子は、任意の知られているシンチレーティング材料であり得る。PMTは、シンチレーションイベントのアンガー論理及び結晶復号を可能にするために各シンチレータ素子からの光が複数のPMTによって検出されるように配列され得る。
【0075】
図11は、PET装置800の構成の一例を示す。ここで、撮像(撮影)される対象物OBJは、ベッド816上に載置される。GRDモジュール(ガンマ線検出器GRD1~ガンマ線検出器GRDN)は、対象物OBJ及びベッド816の周りに円周方向に配列される。ガンマ線検出器GRDは、ガントリー840に固定式に接続された円形構成要素820に固定式に接続され得る。ガントリー840は、PET装置800の多くの部分を格納する。PET800のガントリー840は、対象物OBJ及びベッド816が通ることができる開放開口をも含み、消滅イベントにより対象物OBJからそれぞれ反対方向に放射されたガンマ線がGRDによって検出され得る。また、タイミング及びエネルギー情報が、ガンマ線対についての同時計数を決定するために使用され得る。
【0076】
図11では、ガンマ線検出データを収集、記憶、処理及び配信するための回路及びハードウェアも示されている。回路及びハードウェアは、プロセッサ870と、ネットワークコントローラ874と、メモリ878と、データ収集システム(DAS:data acquisition system)876とを含む。PET装置800は、検出測定結果をGRDから、DAS876、プロセッサ870、メモリ878及びネットワークコントローラ874にルーティングするデータチャネルをも含む。データ収集システム876は、検出器からの検出データの収集、デジタル化及びルーティングを制御することができる。一実施例では、DAS876は、ベッド816の移動を制御する。プロセッサ870は、本明細書で説明されたように、方法100に従って検出データから画像を再構成することと、検出データの前再構成処理と、画像データの後再構成処理とを含む機能を実施する。
【0077】
プロセッサ870は、取得処理と、補正処理と、再構成処理とを含む機能を実施する。取得処理においてプロセッサ870は、本スキャンにより得られた本スキャン領域に関するPETデータと、前記本スキャンのスキャン時間よりも短いスキャン時間を用いるショートスキャンにより得られた、前記本スキャン領域に隣接する拡張領域に関するPETデータとを取得する。プロセッサ870は、例えばDAS876又はメモリ878からPETデータ等を取得する。ここで、本スキャン領域は、例えば対象からの陽電子放射によるガンマ線の同時計数対に関するPET装置800の本スキャンのためのFOVであるが、当該FOVで得られたデータに設定された関心領域(ROI)として定義されても構わない。同様に、拡張領域は、例えば当該FOVに隣接する領域であるが、当該ROIに隣接する領域として定義されても構わない。なお、当該拡張領域は、例えば体軸方向に前記本スキャン領域の両側に設けられた2つの領域であるが、体軸方向に前記本スキャン領域のいずれか一方に設けられていてもよい。補正処理においてプロセッサ870は、前記拡張領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPETデータに対して前記本スキャン領域外に起因する散乱線を補正する散乱補正(FOV外散乱補正)を実施する。再構成処理においてプロセッサ870は、前記補正された本スキャン領域に関するPETデータに基づいて、前記本スキャン領域に関するPET画像を再構成する。ここで、取得処理、補正処理及び再構成処理を実施するプロセッサ870は、それぞれ、取得部、補正部及び再構成部の一例である。このような構成であれば、シングルベッドスキャンにおける追加のPETスキャン時間を低減しつつ、PETデータにおける本スキャン領域外に起因する散乱線の影響を低減することができる。
【0078】
プロセッサ870は、推定処理をさらに実施する。推定処理においてプロセッサ870は、各PETデータを検出した領域(本スキャン領域及び/又は拡張領域)内の減弱マップ及び活性分布を推定する。例えば、前記拡張領域に対応する、推定された減弱マップ及び活性分布は、前記本スキャン領域に関する前記散乱補正(FOV外散乱補正)に用いられる。ここで、推定処理を実施するプロセッサ870は、推定部の一例である。
【0079】
なお、プロセッサ870は、PET装置800の外部に設けられていてもよい。つまり、プロセッサ870を有するコンピュータにより、本明細書で説明された方法100が実施されてもよい。このとき、プロセッサ870を有するコンピュータは、例えばPET装置800のDAS876又はメモリ878からPETデータを取得し、補正処理等を実施する。
【0080】
プロセッサ870は、本明細書で説明された方法100を実施するように構成され得る。プロセッサ870は、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)又は他の複合プログラマブル論理デバイス(CPLD)などの個別論理ゲートとして動作し得るCPUを含むことができる。FPGA又はCPLDの実装形態は、VHDL、Verilog又は任意の他のハードウェア記述言語でコーディングされ得る。コードは、直接FPGA又はCPLD内又は別個の電子メモリとしての電子メモリに記憶され得る。さらに、メモリは、ROM、EPROM、EEPROM(登録商標)又はFLASHメモリなど、不揮発性であり得る。メモリはまた、スタティックRAM又はダイナミックRAMなど揮発性であり得る。FPGA又はCPLDとメモリとの間の相互作用のような電子メモリの管理をするために、マイクロコントローラ又はマイクロプロセッサなど、プロセッサが提供され得る。
【0081】
代替的に、プロセッサ870中のCPUは、本明細書で説明された方法100を実施するコンピュータ読み取り可能な命令(computer-readable instructions)のセットを含むコンピュータプログラムを実行することができ、プログラムは、上記で説明された非一時的電子メモリ及び/又はハードディスクドライブ、CD、DVD、FLASHドライブ又は任意の他の知られている記憶媒体のいずれかに記憶される。さらに、コンピュータ読み取り可能な命令は、米国のIntelからのXeonプロセッサ又は米国のAMDからのOpteronプロセッサなどのプロセッサと、Microsoft VISTA、UNIX(登録商標)、Solaris、LINUX(登録商標)、Apple、MAC-OSなどのオペレーティングシステム及び他のオペレーティングシステムとともに実行する、ユーティリティアプリケーション、バックグラウンドデーモン又はオペレーティングシステムの構成要素やそれらの組合せとして提供され得る。さらに、CPUは、命令を実施するために並列に協働的に動作する複数のプロセッサとして実装され得る。
【0082】
一実施例では、再構成された画像は、ディスプレイ上に表示され得る。ディスプレイは、LCDディスプレイ、CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、OLED、LED又は当技術分野において知られている他のディスプレイであり得る。
【0083】
メモリ878は、当技術分野において知られているハードディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVDドライブ、FLASHドライブ、RAM、ROM又は他の電子記憶装置であり得る。メモリ878は、本明細書で説明された方法100をプロセッサ870に実施させるコンピュータ読み取り可能な命令のセットを含むコンピュータプログラムを記憶していてもよい。
【0084】
米国のIntel CorporationからのIntel Ethernet(登録商標) PROネットワークインターフェースカードなどのネットワークコントローラ874は、PETイメージャの様々な部分間をインターフェースすることができる。さらに、ネットワークコントローラ874は、外部ネットワークとインターフェースすることもできる。諒解され得るように、外部ネットワークは、インターネットなどの公衆ネットワークやLAN又はWANネットワークなどのプライベートネットワーク、それらの任意の組合せであり得る。また、当該外部ネットワークは、PSTN又はISDNサブネットワークを含むこともできる。外部ネットワークはまた、イーサネット(登録商標)ネットワークなど、有線であり得るか、又はEDGE、3G及び4Gワイヤレスセルラーシステムを含むセルラーネットワークなどの無線であり得る。無線のネットワークはまた、WiFi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、又は知られている通信の任意の他の無線形態であり得る。
【0085】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、FOV外散乱線の影響を低減することができる。
【0086】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(Programmable Logic Device:PLD)等の回路を意味する。PLDは、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)を含む。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。プログラムが保存された記憶回路は、コンピュータ読取可能な非一時的記録媒体である。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。また、プログラムを実行するのではなく、論理回路の組合せにより当該プログラムに対応する機能を実現してもよい。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、
図11における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0088】
800…陽電子放射断層撮像(PET)装置、
816…ベッド、
820…円形構成要素、
840…ガントリー、
870…プロセッサ(取得部、補正部、再構成部、推定部)、
874…ネットワークコントローラ、
876…データ収集システム(DAS)、
878…メモリ、
GRD1~GRDN…ガンマ線検出器(複数の検出素子)。