(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】皮膚成分の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20230927BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20230927BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230927BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20230927BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20230927BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20230927BHJP
【FI】
G01N33/48 S
G01N33/48 P
G01N33/483 C
G01N33/50 Q
G01N1/04 H
G01N1/04 V
A61B5/00 M
G06T7/00 630
(21)【出願番号】P 2019200158
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-013201(JP,A)
【文献】特開2014-089117(JP,A)
【文献】特開2017-215172(JP,A)
【文献】特開昭63-106558(JP,A)
【文献】特表2016-525697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0194333(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の採取対象領域から皮膚成分を粘着シートで採取する工程と、
前記粘着シートで採取された前記皮膚成分を、前記採取対象領域
を平面的に分割することにより割り当てられた複数の採取部分ごとに分け、各前記採取部分で採取された皮膚成分を分析する工程と、
各前記分析結果を集約し、
前記複数の採取部分間の皮膚成分の分析結果を比較することにより、前記採取対象領域における
前記皮膚の表面方向の前記皮膚成分の分析結果の分布を俯瞰する工程とを含む、皮膚成分の分析方法。
【請求項2】
皮膚の採取対象領域から皮膚成分を粘着シートで採取する工程と、
前記粘着シートで採取された前記皮膚成分を、前記採取対象領域における複数の採取部分ごとに分け、各前記採取部分で採取された皮膚成分を分析する工程と、
各前記分析結果を集約し、前記採取対象領域における前記皮膚成分の分析結果の分布を俯瞰する工程とを含み、
前記採取部分の皮膚成分を分析する工程は、前記採取部分で採取された角層の面積を測定する工程を含む、皮膚成分の分析方法。
【請求項3】
前記分析結果の分布を俯瞰する工程は、前記複数の採取部分を反映したマップに前記分析結果の分布を表示して可視化する工程と、前記可視化された表示を俯瞰する工程とを含む、請求項1
または2に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項4】
前記皮膚成分の分析結果は、各前記採取部分における前記皮膚成分の所定の定量値の結果を含み、
前記分析結果の分布を俯瞰する工程は、前記可視化のために、前記所定の定量値を複数の定量区分に分類する工程をさらに含む、請求項
3に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項5】
前記可視化の工程では、前記複数の定量区分ごとに互いに異なったカラーで前記定量区分を表示する、請求項
4に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項6】
前記可視化の工程では、コンピュータのモニタに前記定量区分をカラーで表示する、請求項
5に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項7】
前記採取部分の皮膚成分を分析する工程は、前記採取対象領域に対して行列状の前記採取部分を割り当て、当該行列状の前記採取部分のそれぞれの皮膚成分を分析する工程を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項8】
前記採取部分の皮膚成分を分析する工程は、前記採取部分で採取された角層の面積を測定する工程を含む、請求項1
および請求項1を引用する請求項3~7のいずれか一項に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項9】
前記角層の面積を測定する工程は、
前記角層を採取した前記粘着シートを分散媒に入れて前記粘着シートから前記角層を剥離させ、前記分散媒に前記角層を分散させる工程と、
前記粘着シートから剥離された前記角層を染色する工程と、
染色された前記角層の面積に基づいて、前記採取部分に含まれる前記角層の面積を算出する工程とを含む、請求項
2または8に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項10】
前記皮膚成分を採取する工程は、対象人物の顔の前記採取対象領域の皮膚成分を採取する工程を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項11】
前記皮膚成分を採取する工程は、対象人物の顔の左右いずれかの採取対象半面の前記採取対象領域の皮膚成分を採取する工程を含み、
前記皮膚成分を分析する工程は、前記採取対象半面側の分析結果を、前記採取対象半面の反対側の非採取対象半面の分析結果として採用する工程を含む、請求項
10に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項12】
前記皮膚成分を前記粘着シートで採取する工程に先立って、前記皮膚の採取対象領域を平面的に分割することにより前記採取対象領域に前記複数の採取部分を割り当てる工程をさらに含み、
前記皮膚成分を前記粘着シートで採取する工程は、前記複数の採取部分に対して1対1で対応付けられたシート側分割部分が形成された粘着シートを使用して前記皮膚成分を採取する工程を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の皮膚成分の分析方法。
【請求項13】
前記複数の採取部分を割り当てる工程は、前記採取対象領域を平面的にラインで分割することにより、前記ラインで区画された複数の採取セクションを割り当てる工程を含む、請求項12に記載の皮膚成分の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚成分の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚に含まれる成分を分析するために皮膚成分を採取する方法として、主にテープストリッピング法が用いられている。
例えば、特許文献1は、経皮吸収された製剤等に含まれた有効成分の角層への浸透度合いを分析して可視化するため、粘着シートを用いてテープストリッピング操作により、ヒトの角層を皮膚の最外層から順次採取(1層目~5層目)する方法を開示している。
【0003】
また、特許文献2は、敏感肌等の肌性を鑑別するため、顔の頬部と上腕内側部から、セロハンテープによって皮膚表面の角質細胞をストリッピングして採取する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-108674号公報
【文献】特開2014-13201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2の方法のように、セロハンテープ等の粘着シートを皮膚に貼り付けて皮膚成分を採取する方法は、従来、複数提案されている。しかしながら、いずれの方法も、予め定められた皮膚成分の採取対象領域から皮膚成分を採取し、当該採取対象領域に含まれる皮膚成分を部位全体で分析および検証するに留まっている。
一方で、例えば、顔の頬部、目の周り、口の周り等の体の各部位、あるいはもう少し広く体を分類し、例えば、顔全体、腕全体等に含まれる皮膚成分を複数の採取部分に細分化して分析し、当該分析結果に基づいて、顔等の採取対象領域における皮膚成分の分布を俯瞰することに着目し、それを実現できる発明を提案している文献は見つかっていない。
【0006】
本発明の目的は、皮膚成分の分布を俯瞰することができる皮膚成分の分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に係る皮膚成分の分析方法は、皮膚の採取対象領域から皮膚成分を粘着シートで採取する工程と、前記粘着シートで採取された前記皮膚成分を、前記採取対象領域における複数の採取部分ごとに分け、各前記採取部分で採取された皮膚成分を分析する工程と、各前記分析結果を集約し、前記採取対象領域における前記皮膚成分の分析結果の分布を検証する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る方法のフロー図である。
【
図2】
図2は、角層の採取対象領域を説明するための人物の正面顔を示す図である。
【
図3】
図3は、角層の採取対象領域を説明するための人物の横顔を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る角層の採取用マスクの正面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る角層の採取用マスクの背面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る角層の採取用マスクの拡大断面図である。
【
図7】
図7は、角層の採取に関連する工程を説明するための図である。
【
図8】
図8は、角層の採取に関連する工程を説明するための図である。
【
図9】
図9は、角層の採取に関連する工程を説明するための図である。
【
図10】
図10は、シート基材からの角層の剥離に関連する工程を説明するための図である。
【
図11】
図11は、角層の染色および面積測定に関連する工程を説明するための図である。
【
図12】
図12は、分析結果の可視化に関連する工程を説明するための図である。
【
図13】
図13は、本発明の他の実施形態に係る角層の採取用シートの正面図である。
【
図14】
図14は、本発明の他の実施形態に係る角層の採取用シートの背面図である。
【
図15】
図15は、前記可視化を3次元的に示す図であって、人物の正面顔の3次元画像のイメージを示す図である。
【
図16】
図16は、前記可視化を3次元的に示す図であって、人物の横顔の3次元画像のイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の実施形態>
まず、本発明の実施形態を列記して説明する。
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法は、皮膚の採取対象領域から皮膚成分を粘着シートで採取する工程と、前記粘着シートで採取された前記皮膚成分を、前記採取対象領域における複数の採取部分ごとに分け、各前記採取部分で採取された皮膚成分を分析する工程と、各前記分析結果を集約し、前記採取対象領域における前記皮膚成分の分析結果の分布を俯瞰する工程とを含む。
【0010】
この方法によれば、皮膚の採取対象領域における複数の採取部分ごとに皮膚成分が分析され、その後、各分析結果が集約され、皮膚の採取対象領域における皮膚成分の分析結果の分布が俯瞰される。これにより、皮膚の採取対象領域全体における皮膚成分の状態を知ることができる。この俯瞰結果を複数サンプルについて集めることにより、例えば、皮膚の採取対象領域における皮膚成分の状態が、化粧品の使用前後や、年齢別、性別、居住場所等に応じて、どのように変化しているか検証することができる。
【0011】
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法では、前記分析結果の分布を俯瞰する工程は、前記複数の採取部分を反映したマップに前記分析結果の分布を表示して可視化する工程と、前記可視化された表示を俯瞰する工程とを含んでいてもよい。
この方法によれば、複数の採取部分を反映したマップに分析結果の分布が表示されるので、皮膚成分の状態の分布を簡単に把握することができる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法では、前記皮膚成分の分析結果は、各前記採取部分における前記皮膚成分の所定の定量値の結果を含み、前記分析結果の分布を俯瞰する工程は、前記可視化のために、前記所定の定量値を複数の定量区分に分類する工程をさらに含んでいてもよい。
この方法によれば、分析結果(定量値)が定量区分(定量値の大きさ)に応じてグループ分けされ、マップに可視化されるので、皮膚成分の定量値の大まかな大小関係を簡単に把握することができる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法における前記可視化の工程では、前記複数の定量区分ごとに互いに異なったカラーで前記定量区分を表示してもよい。
この方法によれば、定量区分ごとに互いに異なったカラーで可視化されるので、可視化された定量区分を一見するだけで、採取対象領域における皮膚成分の定量値の大小関係を簡単に把握することができる。
【0014】
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法における前記可視化の工程では、コンピュータのモニタに前記定量区分をカラーで表示してもよい。
この方法によれば、コンピュータを使用して可視化するので、定量区分のカラー表示にあたって、色相・明度・彩度が異なる様々なカラーを使用することができる。
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法では、前記採取部分の皮膚成分を分析する工程は、前記採取対象領域に対して行列状の前記採取部分を割り当て、当該行列状の前記採取部分のそれぞれの皮膚成分を分析する工程を含んでいてもよい。
【0015】
この方法によれば、複数の採取部分が格子状のラインで区画され、隣り合う採取部分の間に隙間ができないので、採取対象領域における皮膚成分の状態を満遍なく分析することができる。
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法では、前記採取部分の皮膚成分を分析する工程は、前記採取部分で採取された角層の面積を測定する工程を含んでいてもよい。
【0016】
この方法によれば、採取対象領域における角層面積の分布を俯瞰することができる。
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法では、前記角層の面積を測定する工程は、前記角層を採取した前記粘着シートを分散媒に入れて前記粘着シートから前記角層を剥離させ、前記分散媒に前記角層を分散させる工程と、前記粘着シートから剥離された前記角層を染色する工程と、染色された前記角層の面積に基づいて、前記採取部分に含まれる前記角層の面積を算出する工程とを含んでいてもよい。
【0017】
この方法によれば、角層の面積の算出にあたって、分散媒中で粘着シートから角層を剥離し、その後染色された角層の面積を算出値として採用するので、角層の面積を精度よく算出することができる。
例えば、粘着テープ上で角層同士が重なり合っていると、重なり合っている各角層の面積をそれぞれ正確に測定することが困難である。しかしながら、上記の方法であれば、角層同士が重なり合っていても、分散媒中で粘着シートから角層がバラバラになるので、角層の面積を正確に算出することができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法では、前記皮膚成分を採取する工程は、対象人物の顔の前記採取対象領域の皮膚成分を採取する工程を含んでいてもよい。
本発明の一実施形態に係る皮膚成分の分析方法では、前記皮膚成分を採取する工程は、対象人物の顔の左右いずれかの採取対象半面の前記採取対象領域の皮膚成分を採取する工程を含み、前記皮膚成分を分析する工程は、前記採取対象半面側の分析結果を、前記採取対象半面の反対側の非採取対象半面の分析結果として採用する工程を含んでいてもよい。
【0019】
この方法によれば、顔の採取対象半面側の皮膚成分を分析し、その分析結果が非採取対象半面の分析結果として採用されるので、より少ない作業量で、顔全体の皮膚成分の分析を完了することができる。
<本発明の実施形態の詳細な説明>
次に、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
まず、以下では、本発明の一実施形態として、採取対象領域の一例としての顔の角層を採取し、顔における角層の面積分布を分析する方法を取り上げる。
しかしながら、本発明は、角層の面積分布を分析する方法に限らず、粘着シートで採取された皮膚成分を分析し、皮膚の採取対象領域における皮膚成分の分析結果の分布を俯瞰することを目的としている。つまり、以下で説明する角層の面積分布を分析する方法は、本発明のほんの一例に過ぎず、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0021】
例えば、分析試料の採取領域は、顔に限らず、皮膚の比較的広い領域を対象とすることができる。例えば、腕、腹、胸、背中、太もも等を採取対象領域(採取対象部位)としてもよい。
また、分析試料についても、角層に限らず、皮膚成分全般を広く採用することができる。皮膚成分は、発生源が体内・体外を問わず、皮膚の表層に分布する物質であればよい。例えば、体内や皮膚下層から分泌または合成されて皮膚の表層に分布する物質として、角層(角層内成分を含む)、細胞間脂質、細胞表層の脂質、汗の成分、菌等が挙げられる。一方、例えば、体外から塗布または付着して皮膚の表層に分布する物質として、(皮膚上の)チリ、花粉、粒子状物質(例えば、PM2.5等)、タバコの煙に含まれる成分等の大気中物質等が挙げられる。
【0022】
また、分析目的についても、角層の面積の分布測定に限らず、より広い考え方として、採取対象領域における皮膚成分の分布測定であってもよい。具体的な分析目的の他の例としては、例えば、細胞表層の脂質量分布の測定、角層のニトロ化分布の測定等が挙げられる。
それでは以下に、顔の角層を採取し、顔における角層の面積分布を分析する方法を詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る角層の面積の分析方法のフロー図である。
この方法では、まず、採取対象領域2の角層を採取する(ステップS1)。この実施形態では、採取対象領域2は、顔の左半面であるが、もちろん顔の右半面であってもよい。
角層の採取に先立って、この実施形態では、まず、
図2および
図3に示すように、対象人物1(角層提供者)の採取対象領域2に複数の採取セクション4を設定する。なお、この採取セクション4を設定する工程は、前述したように、皮膚の採取対象領域における皮膚成分の分析結果の分布を俯瞰するという本発明の目的に照らして、もちろん省略することができる。
【0024】
この実施形態では、採取対象領域2(顔の左半面)の全体を平面的に格子状に細分化した第1区画パターン3を設定し、当該格子状の第1区画パターン3の各格子窓部分に1つずつ採取セクション4を割り当てる。各採取セクション4は、
図2および
図3に示すように正方形状であってもよいし、長方形状であってもよい。また、正方形状の場合、各採取セクション4は、一辺が1cm~2cmであってもよい。
【0025】
例えば、写真撮影した対象人物1の顔の画像をコンピュータのモニタに表示し、コンピュータ上で、
図2および
図3に示すように、顔の左半面の全体に格子状の仮想の第1区画パターン3を重ね、当該格子状の第1区画パターン3の各格子窓部分を採取セクション4と設定してもよい。この際、各採取セクション4に対して、後述する角層採取用マスク5の第2区画パターン10の各シート側セクション11を1対1で対応付けておく。例えば、角層採取用マスク5の各シート側セクション11に形成された目印12(この実施形態では、数字)と同じ目印を各採取セクション4に形成し、対応関係を記録しておけばよい。
【0026】
次に、
図4~
図6に示す角層採取用マスク5を準備する。角層採取用マスク5は、採取対象領域2を覆う形状に形成されており、この実施形態では、顔の左半面を覆う略半円形状に形成されている。
角層採取用マスク5は、
図6に示すように、一方面に粘着面6および他方面に非粘着面7を有するシート基材8と、シート基材8の粘着面6に積層された剥離シート9とを含んでいる。剥離シート9は、シート基材8の粘着面6に貼り合わせることによって、シート基材8に取り外し可能に積層されている。
【0027】
シート基材8は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂からなるシートの片面に接着剤が塗布されたものであってよい。また、シート基材8は、伸縮性を有していてもよいし、伸縮性を有していなくてもよい。また、シート基材8は、この実施形態では、透明なシート基材8である。これにより、採取対象領域2(顔の左半面)に対するシート基材8の位置関係を、シート基材8を通して確認しながら、シート基材8を皮膚に貼り付けることができる。そのため、角層の採取の作業性を向上することができる。また、シート基材8は、起伏を有する採取対象領域2に対する貼り付け作業性を考慮して、例えば、厚さが50μm~300μmであることが好ましい。
【0028】
シート基材8には、前述の採取セクション4ごとに採取された角層を区別するための第2区画パターン10が形成されている。第2区画パターン10は、
図4に示すように破線で形成されていてもよいし、実線で形成されていてもよい。また、第2区画パターン10は、シート基材8に印刷によって形成されたものであってもよいし、ミシン目や、シート基材8に刻印等で形成された凹凸等であってもよい。
【0029】
第2区画パターン10は、格子状に形成されている。この実施形態では、第2区画パターン10は、シート基材8の中央部から外周縁部に至るまで、シート基材8の全体にわたって形成されている。これにより、シート基材8には、第2区画パターン10の各格子窓部分に1つずつシート側セクション11が形成されている。
各シート側セクション11は、前述の採取セクション4に合わせて、
図4に示すように正方形状であってもよいし、長方形状であってもよい。また、正方形状の場合、各シート側セクション11は、一辺が1cm~2cmであってもよい。なお、第2区画パターン10のシート側セクション11は、この実施形態では互いに同じ大きさで統一されているが、小、中、大というように複数の大きさに区分されていてもよい。
【0030】
また、第2区画パターン10の各シート側セクション11は、四角形状に限らず、例えば、円形、三角形等であってもよい。採取対象領域2の角層を満遍なく、いずれかのシート側セクション11に収めるという観点では、格子状の第2区画パターン10によって四角形状に形成することが好ましい。また、第2区画パターン10は、格子状である必要はなく、例えば、複数のシート側セクション11がドット(水玉)状や千鳥状に配列されたパターンであってもよい。
【0031】
第2区画パターン10の各シート側セクション11には、シート側セクション11ごとに区別可能な目印12が形成されている。この実施形態では、シート側セクション11ごとに異なる数字が形成されており、これにより、各シート側セクション11が区別される。このような目印12は、数字である必要はなく、例えば、アルファベット(A、B、C・・・)、数字とアルファベットの組み合わせ(1A、2A、3A・・・)等であってもよい。また、目印12は、第2区画パターン10と同様に、シート基材8に印刷によって形成されたものであってもよいし、シート基材8に刻印等で形成された凹凸等であってもよい。
【0032】
また、シート基材8には、第2区画パターン10が形成されていない余白13が形成されていてもよい。例えば、
図4では、シート基材8の外周縁部のうち、顔の中心線に沿って貼り付けられる外周縁部に余白13が形成されている。外周縁部に余白13が形成されていれば、シート基材8を採取対象領域2に貼り付けるときに余白13を指で摘まむことができるので、貼り付け作業性を向上することができる。
【0033】
剥離シート9は、例えば、紙や合成樹脂からなるシートの片面に剥離剤が塗布されたものであってよい。剥離シート9は、この実施形態では、シート基材8に対して複数の部分に分割されて積層された分割剥離シート9である。より具体的には、
図5に示すように、シート基材8の縦方向(顔の中心線に沿って貼り付けられる外周縁部に沿う方向)に分割線14が形成されており、当該分割線14を境界にして左半面および右半面のそれぞれを独立して剥離可能となっている。この実施形態では、剥離シート9は、分割線14に対して顔の中心線側の第1部分15と、その反対側の第2部分16とを含む。
【0034】
また、角層採取用マスク5には、複数の切れ込み17,18が形成されている。複数の切れ込み17,18は、
図4および
図5に示すようにシート基材8および剥離シート9の積層構造に形成されていてもよいし、シート基材8のみに形成されていてもよい。複数の切れ込み17,18は、例えば、第1切れ込み17と、第2切れ込み18とを含む。
第1切れ込み17は、角層採取用マスク5の外周縁19を起点にして、途中で屈曲した直線状もしくは曲線状に形成されている。例えば、採取対象領域2に比較的大きな凸部がある場合、第1切れ込み17は、当該凸部の外形に沿って形成された形状であってもよい。この実施形態では、第1切れ込み17は、顔の凸部である鼻の外形に沿って形成されている。
【0035】
これにより、シート基材8には、採取対象領域2の凸部の外形に沿う形状である揺動部20が形成されている。この揺動部20は、一部がシート基材8の残りの部分(第1切れ込み17が形成されていない部分)に片持ち支持されており、シート基材8の厚さ方向に揺動可能となっている。そのため、シート基材8を採取対象領域2(この実施形態では、顔の左半面)に貼り付けたときに、採取対象領域2の凸部(この実施形態では、鼻)に接する揺動部20を逃がすことができるので、シート基材8の突っ張りを抑制することができる。
【0036】
第2切れ込み18は、角層採取用マスク5の外周縁19を起点にして、直線状に形成されている。この実施形態では、シート基材8の外周縁19から格子状の第2区画パターン10のライン21に沿って第2切れ込み18が複数形成されている。これにより、シート基材8には、第2切れ込み18を境界にして隣り合う連続した複数のシート側セクション11からなる第1部分22,24,26と、第2部分23,25,27とが形成されている。
図4では、明瞭化のため、第1部分22,24,26および第2部分23,25,27をグレーで示している。
【0037】
例えば、34~36番のシート側セクション11からなる第1部分22に対して、43~46番のシート側セクション11からなる第2部分23が形成されている。また、85~88番のシート側セクション11からなる第1部分24に対して、96~99番のシート側セクション11からなる第2部分25が形成されている。また、134,143,151,158番のシート側セクション11からなる第1部分26に対して、133,142,150,157番のシート側セクション11からなる第2部分27が形成されている。
【0038】
第2切れ込み18は、シート基材8の外周縁19から分割線14に至るように形成されている。これにより、シート基材8および剥離シート9の第2部分16は、上部分28,31、中部分29,32および下部分30,33に分割されている。なお、上部分28,31、中部分29,32および下部分30,33は、この実施形態では、角層の採取用シートがマスクであり、互いに上下に並ぶことから上部分28,31、中部分29,32および下部分30,33と称しているに過ぎない。つまり、第2切れ込み18によって分割されたシート基材8および剥離シート9は、互いの整列方向に関係なく、それぞれ、第3部分、第4部分、第5部分等と称してもよい。
【0039】
上記の角層採取用マスク5は、例えば、インクジェットプリンタやレーザプリンタ等で印刷可能なシールシートに第2区画パターン10および目印12を印刷し、所望のマスク形状に切り取ることによって作製することができる。第1切れ込み17および第2切れ込み18は、マスク形状に切り取った後に形成すればよい。
そして、上記の角層採取用マスク5を用いて角層を採取するには、例えば、まず、分割された剥離シート9の一部をシート基材8から剥離し、シート基材8の粘着面6の一部を露出させる。この実施形態では、
図7に示すように、剥離シート9の第1部分15(顔の中心線側)を剥離する。次に、シート基材8の余白13、およびシート基材8の剥離シート9が残った部分を指で摘まみ、例えば鏡を見ながら、透明なシート基材8を通して鼻の位置を確認しながら、揺動部20の下方のシート基材8の部分を鼻の下端部に位置合わせして貼り付ける。その状態から、揺動部20を鼻の中央部に貼り付けると共に、シート基材8の残りの部分を額、目の周り、口の周り、顎に貼り付ける。
【0040】
なお、目の周り、口の周り等、対象人物1(被験者)に負荷がかかる部位については、次の(1)~(3)の対策等によって、負荷を軽減してもよい。
(1)目の周り、口の周り等の該当箇所に対応する箇所に予め開口が形成されたマスク5としてもよい。
(2)目の周り、口の周り等の該当箇所にかかる負担を軽減するため、該当箇所に接する部分の粘着力を弱くしてもよい。
(3)目の周り、口の周り等の該当箇所をコットン等で保護した上で、マスク5を貼り付けてもよい。
【0041】
このように、剥離シート9が分割剥離シート9であることから、剥離シート9が剥がされていない部分を指で摘まんで、採取対象領域2に対するシート基材8の位置決めをしながら、シート基材8を採取対象領域2に貼り付けていくことができる。そのため、採取対象領域2に対してシート基材8を正確に貼り付けることができる。
次に、分割された剥離シート9の残りの部分をシート基材8から剥離し、シート基材8の粘着面6の残りの部分を露出させる。この実施形態では、剥離シート9の上部分31、中部分32および下部分33を順に剥がし、剥離シート9が剥がされたシート基材8の部分28,29,30から先に顔に貼り付けていく。まず、
図8に示すように、剥離シート9の上部分31を剥離することによって、一対の第1部分22および第2部分23のうち第1部分22を含むシート基材8の上部分28を露出させる。
【0042】
そして、このシート基材8の上部分28を目の周りに貼り付ける。次に、剥離シート9の中部分32を剥離することによって、第2部分23と、一対の第1部分24および第2部分25のうち第1部分24とを含むシート基材8の中部分29を露出させる。そして、第2部分23を指で摘まみ、第2部分23を第1部分22上に重ねるようにして、シート基材8の中部分29を目の周りおよび頬に貼り付ける。
【0043】
このように、第2切れ込み18を境界にして隣り合う第1部分22を角層の採取に使用する採取部とし、第2部分23を角層の採取に使用しない非採取部としている。第2部分23には、採取対象領域2以外の角層(例えば、指の角層)が付着していても問題ないので、第2部分23を指で摘まんでシート基材8を採取対象領域2に貼り付けて角層を採取することができる。
【0044】
このとき、第2部分23(非採取部)を第1部分22(採取部)の上に重ねることによって、第2部分23を採取対象領域2から避けることができるので、角層の採取が第2部分23によって阻害されることを防止することができる。つまり、第2部分23が第1部分22に重なるため、34~36番のシート側セクション11に53~55番のシート側セクション11を隣り合わせることができる(
図4参照)。そのため、34~36番のシート側セクション11に隣り合う顔の部分の角層を確実に採取することができる。
【0045】
次に、
図9に示すように、剥離シート9の下部分33を剥離することによって、第2部分25と、一対の第1部分26および第2部分27のうち第1部分26を含むシート基材8の下部分30を露出させる。そして、第2部分25を指で摘まみ、第2部分25を第1部分24上に重ねるようにして、シート基材8の下部分30を頬および顎の周りに貼り付ける。その後、例えば、シート基材8全体を顔に押し付けることによって、皮膚に対するシート基材8の粘着性を高めてもよい。
【0046】
そして、シート基材8を顔から剥離することによって、顔の角層の採取が完了する。この際、シート基材8の余白13を指で摘まんで剥離すれば、シート基材8の各シート側セクション11に余計な皮膚成分(例えば、指の角層等)が付着することを防止することができる。
次に、角層を採取したシート基材8を所望のサイズ(シート側セクション11ごと)に分類する(
図1のステップS2)。この実施形態では、シート基材8を第2区画パターン10のライン21に沿って分断し、各シート側セクション11を切り分ける。シート基材8は、例えば、はさみ、カッターナイフ等の刃物で分断することができる。
【0047】
次に、
図10に示すように、切り分けたシート側セクション11ごとのシート基材8を、それぞれ独立した容器34(例えば、耐熱容器)に収容し、その容器34の中に剥離・分散溶液35を加える(ステップS3)。剥離・分散溶液35としては、例えば、SDS 2%・EDTA 5 mM・Tris-HCl 0.1M緩衝液 (pH8.5)・DTT 20 mMの混合溶液等を使用することができる。その後、例えば耐熱シール等で容器34を密閉し、例えば、1分間~10分間、剥離・分散溶液35を煮沸する。これにより、シート基材8に付着していた角層が、シート基材8から剥離される。
【0048】
その後、容器34を室温程度にまで放置し、耐熱シールを取り外す。そして、シート基材8、およびシート基材8から剥離した粘着剤を可能な限り避けながら、溶液の液状部分を遠心分離可能な容器に採取する。次に、採取された溶液を遠心分離することによって、角層を沈殿させ、溶液の上清を除去する。これにより、角層を回収する(ステップS4)。
【0049】
次に、各容器内で遠心分離によって生じた角層を含む沈殿物を、例えば、所定の容器(例えば、マイクロプレートの各ウェル)に移す。その後、各ウェル内の溶媒を乾燥によって除去する。例えば、60℃に設定したインキュベータ内に当該マイクロプレートを5~6時間放置して溶媒を除去してもよい。乾燥後、固定液(例えば、ホルマリン溶液等)を添加して角層をウェル中に固定する(ステップS5)。
【0050】
次に、固定液を除去し、洗浄によって大きなチリ等を排除した後、染色液によって角層を染色する(ステップS6)。染色液としては、例えば、ゲンチアナバイオレット溶液等を使用することができるが、これに限らない。染色後、水で複数回洗浄することによって、余分な染色液を取り除く。
次に、例えば顕微鏡で角層を撮影することによって、角層36の画像を取得する(ステップS7)。その後、得られた画像をコンピュータで処理することによって、
図11に示すように、各シート側セクション11で採取された角層36の形状が解析される(ステップS8)。例えば、
図11では、シート基材8の5番、9番および12番の各シート側セクション11で採取された角層36の画像を示す。
【0051】
次に、上記で得られた角層36の解析データに基づいて、各シート側セクション11に含まれる角層36の平均面積を算出する(ステップS9)。次に、算出された角層36の面積を、複数の面積区分に分類する(ステップS10)。面積区分の数は、複数であれば特に制限されないが、後述する可視化において互いに判別し易いように、例えば、3~5区分に分類することが好ましい。
【0052】
なお、ステップS3~ステップS9に示す工程については、例えば、人工知能(AI:Artificial Intelligence)等のコンピュータ技術を利用することによって省略することもできる。つまり、シート基材8で採取された角層を分散および染色せずに、角層の面積を算出してもよい。例えば、シート基材8で採取された角層同士が重なっていても、人工知能技術を用いることによって、重なっていない部分の角層の大きさや形状等から残りの大きさを把握することによって、採取された角層の面積を算出することができる。
【0053】
次に、
図12に示すように、コンピュータ37のモニタ38に人の顔を模したマップ39を表示し、当該マップ39上に各面積区分に対応するカラーを表示する(ステップS11)。このマップ39は、採取対象領域2の第1区画パターン3に一致する格子状の区画パターン40を反映している。つまり、各シート側セクション11に含まれる角層が、シート基材8の各シート側セクション11と採取対象領域2の各採取セクション4との関連付けに基づいて、採取対象領域2のどの採取セクション4から採取されたものであるか判別され、その面積区分がマップ39の該当セクションに反映される。なお、
図12では、便宜上、面積区分の大小関係を、カラーに代えて、互いに異なるパターンのハッチングや網掛けで示している。
【0054】
これにより、角層の面積分布がモニタ38にヒートマップ化されるので、モニタ38のマップ39を俯瞰することによって、対象人物1(角層提供者)の顔全体において、角層の面積がどのように分布しているかどうかを知ることができる。
なお、この実施形態では、顔の左半面の角層の面積分布のみをモニタ38にヒートマップ化しているが、顔の中心線を軸として、角層の面積分布は概ね左右対称と考えられるので、得られた左半面のデータに基づいて、右半面の角層の面積分布をヒートマップ化してもよい。つまり、顔の採取対象半面(この実施形態では、左半面)の角層の面積を算出することによって、顔の採取対象半面の分析結果を非採取対象半面の分析結果として採用し、非採取対象半面(この実施形態では、右半面)の角層の面積も算出できるので、より少ない作業量で、顔全体の角層の面積分布を分析することができる。
【0055】
以上の方法によれば、採取対象領域2における複数の採取セクション4ごとに角層の面積が算出され、その後、各算出結果が集約され、角層の面積分布がモニタ38にヒートマップ化される。これにより、前述したように、モニタ38のマップ39を俯瞰することによって、対象人物1(角層提供者)の顔全体において、角層の面積がどのように分布しているかどうかを知ることができる。
【0056】
その結果、例えば、対象人物1(角層提供者)にとっては、自分の顔全体における角層の分布を知ることができ、スキンケアカウンセラーにとっては、サロンや店頭等において、当該マップ39に基づいて顧客(対象人物1)に皮膚のカウンセリングをすることができる。また、例えば、研究者にとっては、研究者目線で対象人物1(角層提供者)の顔の角層の分布を把握でき、さらに、一人ひとりの角層の面積分布が表示されたマップ39を複数の対象人物(複数サンプル)について集めることにより、例えば、採取対象領域2における角層の面積が、化粧品の使用前後や、年齢別、性別、居住場所等に応じて、どのように変化しているか検証することもできる。
【0057】
また、採取対象領域2を第1区画パターン3で細分化し、採取対象領域2の採取セクション4ごとに含まれる角層の面積をそれぞれ独立して算出できるので、当該採取対象領域2における角層の面積分布を精度よく分析することができる。また、角層の面積の算出にあたって、剥離・分散溶液35中でシート基材8から角層を剥離し(
図10参照)、その後染色された角層の面積を算出値として採用するので、採取セクション4ごとの角層の面積も精度よく算出することができる。
【0058】
なお、この実施形態では、採取対象領域2に複数の採取セクション4が設定され、シート基材8の各シート側セクション11と関連付けることによって、各シート側セクション11で採取された角層の採取位置を特定している。しかしながら、採取セクション4が設定されなくても、シート基材8における各シート側セクション11の位置および採取対象領域2に対するシート基材8の貼り付け位置等に基づいて、各シート側セクション11で採取された角層が、採取対象領域2のどの部分から採取されたものであるか大まかに類推することもできる。
【0059】
また、採取セクション4ごとの角層の面積が面積区分に応じてグループ分けされ、マップ39の区画パターン40に可視化されるので、採取対象領域2における角層の面積の大まかな大小関係を簡単に把握することができる。しかも、面積区分ごとに互いに異なったカラーで可視化されるので、可視化された面積区分を一見するだけで、採取対象領域2における角層の面積の大小関係を簡単に把握することができる。また、コンピュータ37を使用して可視化することによって、面積区分のカラー表示にあたって、色相・明度・彩度が異なる様々なカラーを使用することができる。
【0060】
また、複数のシート側セクション11が格子状のラインからなる第2区画パターン10で区画され、隣り合うシート側セクション11の間に隙間ができないので、採取対象領域2における角層の面積を満遍なく分析することができる。また、行列状のシート側セクション11の大きさを揃えることによって、シート側セクション11間における角層の面積を容易に比較することができる。
【0061】
そして、上記のような角層の面積分布の分析は、
図4~
図6に示した角層採取用マスク5を使用することによって、より効率的に行うことができる。
つまり、角層採取用マスク5を使用することによって、シート基材8の各シート側セクション11の角層の面積を個別に算出することができる。そして、シート基材8の第2区画パターン10の各シート側セクション11と、採取対象領域2の各採取セクション4との対応関係を確認することによって、シート基材8の各シート側セクション11から得られた角層の面積の算出結果に基づいて、各採取セクション4における角層の面積を簡単に分析することができる。そして、得られた採取セクション4の分析結果を集めれば、採取対象領域2における角層の面積分布を精度よく判別することができる。
【0062】
また、角層採取用マスク5のシート基材8に目印12が形成されているので、シート基材8の第2区画パターン10の各シート側セクション11と、採取対象領域2に設定された採取セクション4とを、目印12を利用して対応付けることができるので、対応関係を簡単に確認することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0063】
前述したように、本発明は、顔の角層を採取し、顔における角層の面積分布を分析する方法、および当該方法に使用される角層採取用マスク5に限られるものではない。
例えば、前述の角層採取用マスク5は、顔の角層以外の皮膚成分を採取するための皮膚成分採取用マスクとして使用することもできる。また、採取対象領域2が顔以外の場合には、例えば、
図13および
図14に示すように、シート基材8および剥離シート9が積層された皮膚成分採取用シート41としてもよい。
図13および
図14では、一例として、長方形状の皮膚成分採取用シート41を示している。この場合にも、角層採取用マスク5と同様に、シート基材8に第2区画パターン10を形成しておけばよい。このような皮膚成分採取用シート41は、皮膚の様々な部位の皮膚成分の分析に自由に使用することができる。むろん、顔の一部分(例えば、額、頬等)に使用してもよい。
【0064】
また、
図15および
図16に示すように、皮膚成分の分布が可視化されたマップ39を3次元的に表すこともできる。皮膚成分の分布を3次元的に可視化するには、例えば、3次元デジタイザによって対象人物1の顔の3次元画像42を取得し、この3次元画像42と、前述のマップ39の情報とをコンピュータ(例えば、3次元CADソフトウェア)上で組み合わせればよい。この操作に使用する装置の一例としては、例えば、非接触3次元デジタイザとして、コニカミノルタ社製「VIVID910」、Canfield Scientific社製「VECTRA M3」、Creaform社製「GO!SCAN」等が挙げられる。また、3次元CADソフトウェアとしては、例えば、Dassault Systtult社製「SolidWorks」、PTC社製「Creo Parametric 3D」、AUTODESK社製「Inventor」等が挙げられる。
【0065】
これにより、皮膚成分の分布を3次元で把握することができる。なお、
図15および
図16では、一例として、
図12に示した角層面積の分布を3次元画像42として示している。なお、
図15および
図16では、明瞭化のため、対象人物1の顔の3次元画像42を線図化して示している。
また、角層の面積の分布測定以外の分析目的の場合の分析方法の一例は、次の通りである。
【0066】
例えば、細胞表層の脂質量分布を測定する場合には、皮膚の採取対象領域に粘着させた後の粘着シートをジエチルエーテルなど目的の脂質を溶解できる溶媒に浸漬して抽出後、ガスクロマトグラフィーによって測定すればよい。
また、角層のニトロ化分布を測定する場合には、皮膚の採取対象領域に粘着させた後の粘着シートを、ニトロ化チロシン抗体を用いた抗体染色することで観察したり、例えばPBS(-)に浸漬して超音波破砕機で処理後、市販のニトロ化チロシン定量キットによって定量したりすればよい。
【0067】
つまり、上記の方法に従って得られた細胞表層の脂質量およびニトロ化の定量値をヒートマップ化し、当該ヒートマップを複数の対象人物(複数サンプル)について集めることにより、例えば、採取対象領域2における脂質量分布やニトロ化が、年齢、性別、居住場所等にどのように関連しているか検証することができる。
また、前述の角層の面積の分析方法では、1枚の角層採取用マスク5を使用して採取対象領域2の角層を一括して採取したが、採取セクション4ごとに別々のシート等で角層を採取してもよい。例えば、各採取セクション4に粘着シール等を1枚ずつ貼ることによって各採取セクション4の角層を採取し、各粘着シールを分割せずにそのまま、剥離・分散溶液35中に分散させてもよい。この場合、シートの貼り付けの作業性は低下するが、採取セクション4ごとにシートを分割しなくてもよいので、この点では作業性が向上する。このような方法であっても、個々のシートで採取された成分の分析結果を集めることによって、採取対象領域2における角層の面積の分布を俯瞰することができる。
【0068】
また、各採取セクション4と各シート側セクション11との対応関係を記録できるのであれば、シート基材8に目印12を形成しなくてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 対象人物
2 採取対象領域
3 第1区画パターン
4 採取セクション
5 角層採取用マスク
11 シート側セクション
35 剥離・分散溶液
36 角層
37 コンピュータ
38 モニタ
39 マップ
40 区画パターン
42 3次元画像