(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】着色不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/728 20120101AFI20230927BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230927BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20230927BHJP
D01F 1/04 20060101ALI20230927BHJP
D06B 11/00 20060101ALI20230927BHJP
A45D 44/22 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
D04H1/728
A61K8/02
A61Q1/02
D01F1/04
D06B11/00 A
A45D44/22 Z
(21)【出願番号】P 2019232097
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 輝幸
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-012339(JP,A)
【文献】特開2011-173851(JP,A)
【文献】特開2006-328562(JP,A)
【文献】特開2014-152160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D8/00-8/40
24/00-31/00
42/00-97/00
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
D04H1/00-18/04
D01D1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤及びナノファイバを含有する着色不織布の製造方法であり、
電気紡績法により高分子化合物Aを噴射してコレクタの表面にナノファイバを堆積させる工程、を含み、
該コレクタのナノファイバが堆積する表面の少なくとも一部に凹凸形状を有
し、
該凹凸形状が皮膚の表面形態を模した形状である、着色不織布の製造方法。
【請求項2】
下記の工程1-1を含む、請求項1に記載の着色不織布の製造方法。
工程1-1:電気紡績法により高分子化合物Aと着色剤とを同時に噴射してコレクタの表面に着色剤含有ナノファイバを堆積させて、着色不織布を得る工程
【請求項3】
工程1-1において、高分子化合物Aと着色剤とを含有する噴射液を用いる、請求項2に記載の着色不織布の製造方法。
【請求項4】
前記噴射液中の高分子化合物Aの含有量に対する着色剤の含有量が、30質量%以上110質量%以下である、請求項3に記載の着色不織布の製造方法。
【請求項5】
下記の工程2-1及び工程2-2を含む、請求項1に記載の着色不織布の製造方法。
工程2-1:電気紡績法により高分子化合物Aを噴射してコレクタの表面にナノファイバを堆積させて、無着色の不織布を得る工程
工程2-2:工程2-1で得られた無着色の不織布にインクジェット印刷方法により着色剤を付与して、着色不織布を得る工程
【請求項6】
工程2-1で用いる噴射液中の高分子化合物Aの含有量が、2質量%以上20質量%以下である、請求項5に記載の着色不織布の製造方法。
【請求項7】
高分子化合物Aが、水不溶性高分子化合物を含む、請求項1~6のいずれかに記載の着色不織布の製造方法。
【請求項8】
水不溶性高分子化合物が、水溶性を有しつつ、水不溶化処理により水不溶性となる水溶性高分子化合物である、請求項7に記載の着色不織布の製造方法。
【請求項9】
着色剤が、着色剤を含有するポリマー粒子である、請求項1~8のいずれかに記載の着色不織布の製造方法。
【請求項10】
更に下記の工程3を含む、請求項2
~9のいずれかに記載の着色不織布の製造方法。
工程3:得られた着色不織布に、インクジェット印刷方法により着色剤を付与して、更に着色された着色不織布を得る工
程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化粧や刺青を簡便に肌(皮膚)に施す手段として、ファンデーションテープやタトゥーシールが市販されている。
ファンデーションテープは、コンシーラーやファンデーションでは隠しきれない切り傷、火傷痕、あざ、手術痕等の様々な傷痕を隠す用途で用いられている。
また、タトゥーシールは、図柄、文字、刺青等の装飾を一時的に肌に施すことを目的とするものであり、シールを剥がすことで元の肌の見た目に戻り、スポーツイベント等の際に手軽にフェイスペイントやボディペイントを楽しむことができるため、よく用いられている。
例えば、特許文献1には、タトゥー、傷、アザ、シミを隠すための皮膚シールとして、人の皮膚に貼られる皮膚シールであって、ベース材と、セパレータと、前記ベース材上に設けられたマット層と、当該マット層上に設けられた剥離剤層と、前記セパレータ上に設けられた粘着剤層と、前記剥離剤層と前記粘着剤層との間に設けられた弾性層と、前記剥離剤層と前記粘着剤層との間に設けられたインキ層と、を有する皮膚シールが記載されている。
また、特許文献2には、肌に貼付したときの肌との外観上の一体感が高く、また、小じわや毛穴等の肌の微細な凹凸を軽減する効果が高く、更に、しみ等の色むらの隠蔽効果が高いシート状化粧料の提供を目的として、着色顔料を含む高分子化合物のナノファイバのシートを有するメイクアップ用シート状化粧料等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-190825号公報
【文献】特開2012-12339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人間にとって、肌の見た目は他者に好印象を与えるための重要な要素となっている。肌の見た目を改善するために、ファンデーション、コンシーラー等のベースメイクやアイシャドウ、チーク等のポイントメイクなどの化粧を肌に施す際には、様々な色や種類の化粧料を重ね塗りし、塗布する幅や濃淡を調整することにより、一見不均一であるが調和のとれた構成を形成して好印象を演出している。
また、化粧を肌に施すことにより肌全体の光沢の程度や色むらなどを補正することがあるが、顔や身体の部位によって、その皮下の血管や毛細血管の密度、紫外線によるシミ(色素沈着)やくすみ等のわずかな色味の変化及び光沢の差があるため、このような場合においても、一見不均一であるが調和のとれた自然な印象を与える塗布が求められる。
しかしながら、このような複雑で精密な化粧は、単純で均一な塗布ではないため、多大な手間と時間を要する。
【0005】
一方、特許文献1の皮膚シールは、ベース材として剥離性を有する樹脂フィルムにインキ層及び弾性層をスクリーン印刷等の通常の印刷方式により所定の画像を形成することで皮膚が疑似的に再現され、傷等を隠蔽したい箇所の皮膚にインキ層及び弾性層を粘着剤層により貼付して用いる。しかしながら、肌の色味には個人差があり、同一人物であっても紫外線によるシミやくすみ等により顔や身体の部位や部分ごとに異なる。また、皮膚の直下には静脈が走っており、静脈の存在位置が青筋状となって確認できるが、単純で均一色の皮膚シールを貼付する場合には静脈が隠されてしまい、皮膚シールを貼付した箇所の判別が容易となり、不自然な印象を与える。
また、肌のキメや角質に起因する光沢感は同一人物であっても顔や身体の部位や部分及び年齢によって変化する。このため、前述の皮膚シールでは貼付した箇所とそれ以外の箇所、特にその境界の見た目の差が大きく、たとえ傷痕を隠すことができても、皮膚シールを貼付している事実を隠すことは難しい。
特許文献2では、メイクアップ用シートを肌に貼付したときの肌との外観上の一体感やしみ等の色むらの隠蔽効果は向上するものの、肌の微細な凹凸を軽減する効果を高める技術であるため、自然な印象を与える点においては改善の余地がある。また、顔の表情や身体の動きに応じて変形や伸縮できる柔軟性、及び指等で表面を擦過しても破れや変形が発生し難く、ヒト肌に近い光沢を維持できる耐擦過性の向上も求められている。
本発明は、柔軟性及び耐擦過性に優れ、傷痕、シミ、くすみ等の隠蔽性に優れ、さらに、肌に貼付したときの視覚上の肌との一体感に優れ、ヒト肌に近い光沢感と透明感を備えた、着色不織布の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、着色不織布表面の物理的形状を実際の肌(皮膚)の表面形態に近づけるために、着色不織布の製造において、電気紡績に用いるコレクタのナノファイバが堆積する表面を凹凸形状とすることで、該コレクタの凹凸形状に由来する光沢感、透明感等の光学的特性が現実の人間の肌(皮膚)に類似し、さらに柔軟性及び耐擦過性が向上することに着目し、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、着色剤及びナノファイバを含有する着色不織布の製造方法であり、
電気紡績法により高分子化合物Aを噴射してコレクタの表面にナノファイバを堆積させる工程、を含み、
該コレクタのナノファイバが堆積する表面の少なくとも一部に凹凸形状を有する、着色不織布の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、柔軟性及び耐擦過性に優れ、傷痕、シミ、くすみ等の隠蔽性に優れ、さらに、肌に貼付したときの視覚上の肌との一体感に優れ、ヒト肌に近い光沢感と透明感を備えた、着色不織布の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】樹脂溶液型電気紡績装置の一例を示す模式図である。
【
図2】樹脂溶融型電気紡績装置の一例を示す模式図である。
【
図3】実施例3-1及び3-2のインクジェット印刷方法で用いた正方形格子画像の拡大図である。
【
図4】実施例1-5で得られた着色不織布の拡大写真(倍率:50倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[着色不織布の製造方法]
本発明の製造方法は、着色剤及びナノファイバを含有する着色不織布の製造方法であり、電気紡績法によりナノファイバの構成成分である高分子化合物Aを噴射してコレクタの表面にナノファイバを堆積させる工程、を含み、該コレクタのナノファイバが堆積する表面の少なくとも一部に凹凸形状を有する。
本発明における「電気紡績法」とは、高分子化合物を含む溶液又は加熱によって溶融状態となった高分子化合物に高電圧を印加することにより紡糸液体を噴射してナノファイバを形成し、対極となるコレクタ上で該ナノファイバを捕集及び堆積させることで不織布を得る方法である。また、本発明において、「着色」は着色剤由来の色を呈することを意味し、白色を含む概念であり、有彩色であるか無彩色であるかを問わない。
【0011】
本発明の効果が得られる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の製造方法では、電気紡績法により太さ(繊維直径)がナノメートルサイズのナノファイバがランダムに重なりあった空隙を有する着色不織布が得られる。そのため、ナノファイバの交点が接着されておらず、着色不織布全体の変形に対して交点が柔軟に変動し、応力の集中が抑制され、顔の表情や身体の動きに応じて肌にストレスを感じることなく変形や伸縮できる柔軟性を発現すると考えられる。
また、本発明の製造方法では、電気紡績法に用いるコレクタのナノファイバが堆積する表面の少なくとも一部に凹凸形状を有する。このような形状を有するコレクタに対して、電気紡績法により堆積されるナノファイバは、太さがナノメートルサイズで、かつ連続して繋がっているため、該コレクタの表面の凹凸形状にナノファイバが追随しながら不織布を形成することができる。その結果、着色不織布の表面にはコレクタに由来する凹凸形状が形成される。そして、該コレクタの凸部ではナノファイバが密に堆積され、一方の凹部ではナノファイバが疎に堆積されると考えられ、これによりナノファイバが相対的に密に存在する皮溝に相当する部分と、ナノファイバが相対的に疎に存在する皮丘に相当する部分を着色不織布に形成することができる。着色不織布の変形や伸縮の際には、ナノファイバが疎に存在し、ナノファイバ間の摩擦力が相対的に低く、ナノファイバが動きやすい皮丘部分のナノファイバがより大きく滑動するため、柔軟性が向上すると考えられる。
また、着色不織布の表面を擦過した際の過剰な応力による着色不織布の破れは前述の皮丘に相当する部分が起点となり得るが、ナノファイバが密になっている皮溝に相当する部分が皮丘に相当する部分を取り囲んでいることから、皮丘に相当する部分で発生した破れが、他の皮丘に相当する部分へ伝搬することも抑制され、耐擦過性も向上すると考えられる。
また、本発明によれば、コレクタのナノファイバが堆積する表面の少なくとも一部に凹凸形状を有することにより、着色不織布の表面の凹凸形状を制御することができるため、光の散乱強度を制御することができ、特に凹凸のサイズや形状を調整することで、着色不織布の表面散乱を抑制し、肌に貼付したときの視覚上の肌との一体感を高め、傷痕、シミ、くすみ等の隠蔽性を向上させ、さらに、ヒト肌に近い光沢感と透明感を達成することができると考えられる。
【0012】
本発明に係る着色不織布は、少なくとも着色剤及びナノファイバを含有する。そして、ナノファイバは、高分子化合物Aから形成される。
本発明に係る着色不織布は着色剤を含むことにより、該着色剤の色に起因する色に着色されたものである。
【0013】
<高分子化合物A>
高分子化合物Aは、着色不織布を構成するナノファイバの原料である。
ナノファイバは、肌に貼付された後に着色不織布が溶解せずに肌に残存し、柔軟性、耐擦過性及び隠蔽性を向上させる観点、並びに視覚上の肌との一体感、光沢感及び透明感を良好にする観点から、少なくとも水不溶性高分子化合物を含むことが好ましい。ナノファイバが水不溶性高分子化合物を含む場合、該水不溶性高分子化合物はナノファイバの骨格を形成する材料として機能する。これにより、着色不織布を肌に貼付した後であっても、ナノファイバの少なくとも一部は汗等の水分に溶解することがなく、繊維としての形態を保つことができる
本明細書において「水不溶性高分子化合物」とは、1気圧、23℃の環境下において、高分子化合物1gを秤量した後、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後した後の溶解量が0.2g未満である高分子化合物をいう。
【0014】
高分子化合物Aとしては、天然高分子及び合成高分子のいずれも用いることができる。
高分子化合物Aは、水溶性でもよく、水不溶性でもよいが、肌に貼付された後に着色不織布が溶解せずに肌に残存し、柔軟性、耐擦過性及び隠蔽性を向上させる観点、並びに視覚上の肌との一体感、光沢感及び透明感を良好にする観点から、水不溶性高分子化合物が好ましい。なお、本発明において水不溶性高分子化合物には、ナノファイバ形成後の水不溶化処理により水不溶性となる水溶性高分子化合物を含む。
水不溶性高分子化合物は、具体的には、完全鹸化ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリビニルアルコール、アルカリ可溶性セルロース、ポリ(N-プロパノイルエチレンイミン)グラフト-ジメチルシロキサン/γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、肌に貼付された後に着色不織布が溶解せずに肌に残存し、耐擦過性を向上させる観点、及び視覚上の透明感を良好にする観点から、水不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋により水不溶化処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、アルカリ可溶性セルロース、γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、水溶性ポリエステル、ツエイン等がより好ましく、完全鹸化ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリビニルアルコール、及びアルカリ可溶性セルロースから選ばれる1種以上が更に好ましい。
完全鹸化ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコールは水溶性を有しつつ、加熱乾燥による結晶化処理、架橋剤による架橋処理等の水不溶化処理により水不溶性とすることができる。アルカリ可溶性セルロースは、希釈や中和等でアルカリ濃度を低下する方法、周辺環境温度を高くする方法等の水不溶化処理により水不溶性とすることができる。
【0015】
本発明に係る着色不織布を構成するナノファイバは、前述の水不溶性高分子化合物のみから構成されていてもよいが、水不溶性高分子化合物及び水溶性高分子化合物から構成されていてもよい。ナノファイバが水溶性高分子化合物を含むことで、着色不織布の肌への接着性及び密着性が良好となる。本発明に係る着色不織布の使用時に、例えば水を含有する液状物を肌の表面に適用すると、着色不織布が水と接触することによってナノファイバ中の水溶性高分子化合物が液状物に溶解し、溶解した水溶性高分子化合物が接着性を発揮してバインダとして作用し、着色不織布と肌との密着性が向上する。さらに、水不溶性高分子化合物がナノファイバの骨格を形成しているので、水溶性高分子化合物が溶解した後であっても、ナノファイバの一部は繊維としての形態を保つことができる。
本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧、23℃の環境下において、高分子化合物1gを秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過した後の溶解量が0.2g以上である高分子化合物をいう。
【0016】
ナノファイバを構成する水溶性高分子化合物としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ-γ-グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子;部分鹸化ポリビニルアルコール(後述する架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などが挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性高分子化合物のうち、ナノファイバの製造が容易である観点から、プルラン、部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイドから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0017】
高分子化合物Aが水不溶性高分子化合物に加えて水溶性高分子化合物を含む場合に、水不溶性高分子化合物及び水溶性高分子化合物の合計含有量に対する水溶性高分子化合物の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下であり、そして、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。水溶性高分子化合物の含有量を上記範囲内に設定することによって、着色不織布を肌に貼付する場合に十分な接着性及び密着性が得られるとともに、ナノファイバの粘着及び着色剤粒子の凝集を抑制することができる。
【0018】
<着色剤>
本発明の製造方法において、着色不織布の着色には着色剤を用いる。
前記着色剤としては、隠蔽性の観点、及び肌に貼付して化粧を施す観点からは、使用者の肌の色を補正する補色近傍の色域、例えば黄色、青から緑色、紫色、茶色等に着色することができる着色剤を用いることが好ましい。
また、本発明に係る着色不織布を肌に貼付したときの視覚上の肌との一体感を高める観点からは、使用者の肌の色に近い色に着色することができる着色剤を用いることが好ましい。特に、着色不織布を肌に貼付したときの肌の色むら(例えば、顔の赤み、そばかす、目の隈、シミ等)を効果的に隠蔽する観点からは、使用者の肌の色に着色することができる着色剤を用いることが好ましい。
【0019】
白色の着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛等の白色顔料を用いることができる。
白色以外の非白色着色剤としては、黄色酸化鉄、赤酸化鉄、黒酸化鉄、カーボンブラック、群青、紺青、紺青酸化チタン、黒色酸化チタン、酸化クロム、水酸化クロム、チタン/酸化チタン焼結物等の無機系顔料;赤色201号、赤色202号、赤色226号、黄色401号、青色404号等の有機顔料;赤色104号、赤色230号、黄色4号、黄色5号、青色1号等のレーキ顔料;アシッドイエロー1、アシッドオレンジ7、フードブルー2、アシッドレッド52等の染料;顔料や染料をポリメタクリル酸エステル等の樹脂で被覆したものなどが含まれる。
【0020】
前記着色剤として、雲母チタン、ベンガラ被覆雲母、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化鉄被覆雲母チタン、有機顔料被覆雲母チタン、ケイ酸/チタン処理マイカ、酸化チタン被覆タルク、二酸化ケイ素/ベンガラ処理アルミニウム、酸化チタン被覆ガラス粉末等の無機粉体;薄片状のアルミニウム表面にポリエチレンテレフタレート等の有機樹脂を被覆したもの等の真珠光沢顔料(パール顔料)を用いてもよい。
前記着色剤は、分散性を向上させる観点から、表面処理を施されていてもよい。該表面処理としては、通常の化粧料用粉体に種々の疎水化処理剤を用いて施されている疎水化処理方法、例えば、シリコーン処理、脂肪酸処理、ラウロイルリジン処理、界面活性剤処理、金属石鹸処理、フッ素化合物処理、レシチン処理、ナイロン処理、高分子処理が挙げられる。
前記着色剤として例えば酸化チタン、酸化亜鉛等を用いる場合には、分散性を向上させる観点、並びに着色不織布の耐水性及び耐汗性の観点から、酸化チタン、酸化亜鉛等の表面は疎水化処理されてなるものが好ましい。
【0021】
前記着色剤は、目的とする着色不織布の色に応じて1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記着色剤は、着色不織布を肌に貼付したときの視覚上の肌との一体感を高める観点からは、異なる2色以上の着色剤を用いることが好ましい。例えば、一般的に肌の色を調整するために赤色、黄色、黒色を組み合わせるが、更に青色や白色を併用することもできる。
【0022】
前記着色剤は、着色の均質性の観点、及び着色不織布の耐水性の観点から、着色剤を含有するポリマー粒子(以下、「着色剤含有ポリマー粒子」ともいう)として用いることが好ましい。着色剤含有ポリマー粒子は、着色剤と分散性ポリマーにより粒子が形成されていればよく、該粒子の形態として、例えば、分散性ポリマーにより着色剤が被覆された粒子形態、分散性ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、分散性ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
着色剤含有ポリマー粒子を構成する分散性ポリマーは、着所剤の分散性を向上させる観点から、好ましくはイオン性基を有するポリマーであり、アニオン性基を有するアニオン性ポリマー、カチオン性基を有するカチオン性ポリマーを用いることができる。
【0023】
〔アニオン性ポリマー〕
アニオン性ポリマーは、好ましくは、カルボキシ基(-COOM)、スルホン酸基(-SO3M)、リン酸基(-OPO3M2)等の解離して水素イオンが放出されることにより酸性を呈する基、又はそれらの解離したイオン形(-COO-、-SO3
-、-OPO3
2-、-OPO3
-M)等の酸性基を有するポリマーである。上記化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。
アニオン性ポリマーの基本骨格としては、具体的には、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン等が挙げられる。これらの中でも、アクリル系ポリマーが好ましい。
すなわち、アニオン性ポリマーは、好ましくは酸性基を有するモノマー由来の構成単位を含むアニオン性アクリル系ポリマーである。
酸性基を有するモノマーは、好ましくはカルボキシ基を有するモノマーであり、より好ましくは、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸及び2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは(メタ)アクリル酸である。
ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0024】
アニオン性ポリマーは、好ましくは酸性基を有するモノマー由来の構成単位及び(メタ)アククリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含み、より好ましくは、酸性基を有するモノマー由来の構成単位、(メタ)アククリル酸アルキルエステル由来の構成単位、及び(N-アルキル)(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を含み、更に好ましくは(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル/(N-アルキル)(メタ)アクリルアミド共重合体、より更に好ましくはアクリル酸/アクリル酸アルキルエステル/(N-アルキル)アクリルアミド共重合体である。
商業的に入手しうるアニオン性アクリル系ポリマーとしては、例えば、プラスサイズL-9909B(互応化学工業株式会社製)等の((メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル/(N-アルキル)アルキルアクリルアミド)コポリマーAMPなどが挙げられる。その他にも化粧品用途で使用され、アニオン性基としてアクリル酸又はメタクリル酸由来の構成単位に有するポリマーとして、アニセットKB-100H、アニセットNF-1000(以上、大阪有機化学工業株式会社製);ウルトラホールド8、ウルトラホールドストロング、ウルトラホールドパワー(以上、BASF社製);プラスサイズL-9900、プラスサイズL―9540B、プラスサイズL-9600U、プラスサイズL-9715、プラスサイズL-53、プラスサイズL-6330、プラスサイズL-6466、プラスサイズL-6740B、プラスサイズL-53Dカラー用A、プラスサイズL-75CB(以上、互応化学工業株式会社製)などを用いることができる。
【0025】
〔カチオン性ポリマー〕
カチオン性ポリマーは、好ましくは、第1級、第2級、又は第3級アミノ基のプロトン酸塩、及び第4級アンモニウム基等のカチオン性基を有するポリマーである。
カチオン性ポリマーとしては、天然系カチオン性ポリマー、合成系カチオン性ポリマーが挙げられる。
天然系カチオン性ポリマーは、天然物から抽出、精製等の操作により得られるポリマー及び該ポリマーを化学的に修飾したものであり、ポリマー骨格にグルコース残基を有するものが挙げられる。具体的には、カチオン化グアガム;カチオン化タラガム;カチオン化ローカストビーンガム;カチオン化セルロース;カチオン化ヒドロキシアルキルセルロース;カチオン性澱粉などが挙げられる。
【0026】
合成系カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン又はそれらの酸中和物、ポリグリコール-ポリアミン縮合物、カチオン性ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルピロリドン、カチオン性シリコーンポリマー、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート重合体又はそれらの酸中和物、ポリ(トリメチル-2-メタクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド)、アミン/エピクロロヒドリン共重合体、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸ジエチル硫酸塩/ビニルピロリドン共重合体、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸ジエチル硫酸塩/N,N-ジメチルアクリルアミド/ジメタクリル酸ポリエチレングリコール共重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/アクリルアミド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/ヒドロキシエチルセルロース共重合体、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド/ビニルピロリドン共重合体、アルキルアミノ(メタ)アクリレート/ビニルピロリドン共重合体、アルキルアミノ(メタ)アクリレート/ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体、(3-(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド/ビニルピロリドン共重合体、アルキルアミノアルキルアクリルアミド/アルキルアクリルアミド/(メタ)アクリレート/ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
商業的に入手し得るカチオン性ポリマーとしては、化粧品用途で使用されるカチオン性ポリマーが好ましく、HCポリマー3M、HC-ポリマー5(以上、大阪有機化学工業株式会社製);プラスサイズL-514(互応化学工業株式会社製)などがあげられる。中でも、視覚上の一体感、光沢感及び透明感を向上させる観点から、カチオン性シリコーンポリマーが好ましい。
【0027】
カチオン性シリコーンポリマーは、オルガノポリシロキサンセグメント(x)と、該セグメント(x)のケイ素原子の少なくとも1個に結合するカチオン性窒素原子を含むアルキレン基と、下記一般式(1-1)で表されるN-アシルアルキレンイミンの繰り返し単位とからなるポリ(N-アシルアルキレンイミン)セグメント(y)とを含むポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体が好ましい。
【0028】
【化1】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1以上22以下のアルキル基、炭素数6以上22以下のアリール基、又は炭素数7以上22以下のアリールアルキル基若しくはアルキルアリール基を示し、aは2又は3である。)
【0029】
セグメント(x)を形成するオルガノポリシロキサンとしては、例えば下記一般式(1-2)で表される化合物が挙げられる。
【化2】
(式中、R
2は炭素数1以上22以下のアルキル基、フェニル基、又は窒素原子を含むアルキル基を示し、複数個のR
2は同一でも異なっていてもよいが、少なくとも1個はカチオン性窒素原子を含むアルキル基である。bは100以上5,000以下である。)
【0030】
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体としては、セグメント(x)の末端又は側鎖のケイ素原子の少なくとも1個に、カチオン性窒素原子を含むアルキレン基を介して、セグメント(y)が結合したものが好ましい。
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体におけるセグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量に対するセグメント(x)の含有量の質量比[セグメント(x)の含有量/〔セグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量〕]は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.95以下、更に好ましくは0.9以下である。
本明細書において、質量比[セグメント(x)の含有量/〔セグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量〕]は、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体におけるセグメント(x)の質量(Mx)及びセグメント(y)の質量(My)の合計量に対するセグメント(x)の質量(Mx)の比である。
質量比[セグメント(x)の含有量/〔セグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量〕]は、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体を重クロロホルム中に5質量%溶解させ、核磁気共鳴(1H-NMR)分析により、セグメント(x)中のアルキル基又はフェニル基と、セグメント(y)中のメチレン基との積分比より算出することができる。
【0031】
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは50,000以上、更に好ましくは70,000以上であり、そして、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、更に好ましくは200,000以下である。ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体の重量平均分子量は、セグメント(x)を形成するオルガノポリシロキサンの重量平均分子量と前述の質量比[セグメント(x)の含有量/〔セグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量〕]から算出することができる。
【0032】
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体の好適例としては、ポリ(N-ホルミルエチレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体、ポリ(N-アセチルエチレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体、ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体等が挙げられる。
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体は、例えば、環状イミノエーテルの開環重合物であるポリ(N-アシルアルキレンイミン)とセグメント(x)を形成するオルガノポリシロキサンとを反応させる方法により得ることができる。より具体的には、例えば特開2011-126978公報に記載の方法により得ることができる。カチオン性シリコーンポリマーとして用いるポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
なお、前述のカチオン性シリコーンポリマー以外の分散性ポリマーの重量平均分子量は、N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolumn Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定することができる。
上記の重量平均分子量の測定において、測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(アドバンテック株式会社製、DISMIC-13HP PTFE 0.2μm)で濾過したものを用いることができる。
【0034】
前記着色剤として、顔料粒子又は着色剤含有ポリマー粒子を用いる場合には、顔料粒子及び着色剤含有ポリマー粒子(以下、これらを総称して「着色剤粒子」という)の大きさは、一般にナノファイバの太さ(繊維直径)と同程度であるか、又はそれよりも小さいか若しくはそれよりも大きいことが好ましい。着色剤粒子の大きさが、一般にナノファイバの太さと同程度であるか又はそれよりも小さい場合には、着色不織布が薄いシート状であっても色むらを低減できる。また、着色剤粒子の大きさがナノファイバの太さよりも大きい場合には、該ナノファイバの表面に、該着色剤粒子に起因する凹凸形状が表出される。この凹凸形状の表出によってナノファイバの表面においても光の乱反射が起こり、隠蔽性、並びに視覚上の肌との一体感、光沢感及び透明感を向上させることができる。
【0035】
前記着色剤として着色剤粒子を用いる場合には、該着色剤粒子の体積平均粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは1,000nm以下、より好ましくは900nm以下である。
また、ナノファイバの太さが後述する範囲内である場合には、ナノファイバの太さに対する着色剤粒子の体積平均粒径は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上であり、そして、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。
着色剤粒子の体積平均粒径が上記範囲であると、ナノファイバ内に着色剤粒子を一部内包するような形態を形成できるため、着色剤粒子の凝集を抑制でき、着色不織布が薄いシート状である場合にも色むらを低減でき、視覚上の肌との一体感を高めることができる。さらに、肌に貼付する際に少量の液状物で着色不織布を湿潤させることができる。
着色剤粒子の体積平均粒径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0036】
前記着色剤としては、平均粒径1,000nm以下の小粒径の着色剤粒子に加えて、平均粒径1,000nmを超える顔料を用いることもできる。板状の酸化チタンや酸化亜鉛のような白色顔料や真珠光沢顔料(パール顔料)等は、1,000nmを超えるものがあり、これらの顔料は着色剤としての機能のほかに、光の拡散透過性を高める機能も有するため、着色不織布を貼付した箇所の周りとの境界をぼかす機能や、また着色不織布表面の光の反射を抑制することにより光の明度差を小さくする機能を有する。そのため、これらの粒子を併用することにより、色むらを軽減して隠蔽性及び視覚上の肌との一体感を高めることができる。
前記着色剤としてパール顔料を用いる場合には、着色不織布に後からパール顔料をのせるよりも簡便に所望の量のパール顔料を均一に着色不織布に適用することができる。また、パール顔料がナノファイバに絡めとられることにより、着色不織布を肌に貼付した後の表面擦過によってパール顔料の脱落を抑制する効果が発現する。さらに、パール顔料は、表面に硬度の高いものがあることから、コレクタから着色不織布を離型除去する際に離型性に優れた効果を発現することができる。
【0037】
本発明に係る着色不織布中の着色剤の含有量は、着色剤の種類にもよるが、十分な着色力を発現する観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
本発明に係る着色不織布中のナノファイバに対する着色剤の含有量は、着色剤の種類にもよるが、十分な着色力を発現する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは110質量%以下、より好ましくは100質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、より更に好ましくは90質量%以下である。
本発明において、着色剤として、有機顔料、レーキ顔料、又は染料を用いた場合には、着色不織布が着色しやすいため、ナノファイバに対する着色剤の含有量が、1~10質量%程度の少量であっても、色むらのない均一な着色の着色不織布を得ることができる。
着色不織布中の着色剤の含有量及びナノファイバに対する着色剤の含有量は、得られる着色不織布を溶解しうる溶媒に着色不織布を浸漬し、必要に応じて超音波洗浄機等の機械力を併用して着色不織布を溶解させた後、洗浄と濾過を繰り返して濾別された固体成分を乾燥し、天秤等を用いることによって測定することができる。
【0038】
(他の成分)
本発明に係る着色不織布は、着色剤、及び高分子化合物Aから形成されるナノファイバに加えて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、前記着色剤以外の粉末成分(例えばポリエチレンやシリコーン系の樹脂粉末等)のほかに、架橋剤、香料、界面活性剤、帯電防止剤が挙げられる。架橋剤は、例えば上述の部分鹸化ポリビニルアルコールを架橋して、これを水不溶化する目的で用いられる。これら着色剤以外の粉末成分を除いた他の成分は、着色不織布中に、それらの合計含有量で好ましくは0.01質量%以上2質量%以下含有させることができる。
【0039】
(電気紡績法)
本発明の製造方法は、電気紡績(エレクトロスピニング)法により、少なくとも高分子化合物Aを噴射してコレクタの表面にナノファイバを堆積させる工程を含む。
【0040】
<コレクタ>
本発明で用いるコレクタは、耐擦過性及び隠蔽性を向上させる観点、並びに視覚上の一体感、光沢感及び透明感を良好にする観点から、ナノファイバが堆積する表面の少なくとも一部に凹凸形状を有する。そして、該コレクタの凹凸形状は、上記と同様の観点から、皮膚の表面形態を模した凹凸形状であることが好ましい。
このような凹凸形状を有するコレクタとしては、前記と同様の観点から、シボ加工と呼ばれる表面を凹凸処理されてなるものが好ましい。シボ加工された表面は、凹部と凸部のそれぞれの面が平滑であるため、凹部と凸部の段差(凹凸)がそれほど大きくなくても、はっきりとした凹凸形状を目視で感じ取ることができ、皮膚の表面形態を模した凹凸形状を着色不織布に形成することができる。
シボ深さ(断面で見て最大山頂から最低谷底までの距離)は、好ましくは30μm以上、より好ましくは70μm以上であり、そして、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
コレクタの材質は特に制限はなく、樹脂、金属のものを用いることができる。中でも、ナノファイバが相対的に密に存在する皮溝に相当する部分と、ナノファイバが相対的に疎に存在する皮丘に相当する部分を有する着色不織布を形成する観点から、樹脂が好ましい。コレクタに用いる樹脂としては、ナイロン66等のポリアミド;ポリカーボネート等が挙げられる。
コレクタの凹凸形状は、実施例に記載の方法により確認及び測定することができる。
【0041】
シボ加工された表面を有するコレクタとしては、シボ加工された人工皮革等の成型物又はシボ加工に用いられるシボ金型等が挙げられる。より具体的には、例えば、自動車部品等に使用される皮革模様を有する銀面調人工皮革、該銀面調人工皮革の製造に用いられる型を用いることができる。
コレクタとして銀面調人工皮革の製造に用いられる型を用いる場合には、使用者の着色不織布を貼付したい箇所の皮膚のキメ(凹凸)情報を撮影、解析し、転写した時に着色不織布が貼付したい箇所の皮膚と同じ凹凸周期及び凹凸高さとなるように、皮膚のキメを再現したシボの形状を設計し、コレクタとして用いることが好ましい。
また、シボ加工された表面を有するコレクタを用いる場合には、該コレクタの凹凸形状に由来する着色不織布表面の凹凸形状は傷がつきにくく、傷がついても目立ちにくいという耐擦過性の効果を発現する。傷がつきにくい理由としては、凹凸形状の凸部が点接触するため滑りやすく、かつ凸部が変形することで応力を吸収し、逃がすことができるためと考えられる。また凹凸形状を有する着色不織布の連続平面は凸部より低い位置にあるため、平面部分には傷がつきにくく、結果として傷が目立ちにくいという効果が得られると考えられる。
商業的に入手し得る銀面調人工皮革としては、「サプラーレ」(イデアテックスジャパン株式会社製)、「ネオソフィール」(セーレン株式会社製)、エクセーヌ(東レ株式会社製)等が挙げられる。
商業的に入手し得る銀面調人工皮革の製造に用いられる型として、「シボサンプルMIJシリーズ」(株式会社モールドテックジャパン製)等が挙げられる。
【0042】
電気紡績法により高分子化合物Aを噴射する方法としては、噴射液として高分子化合物Aを溶媒に溶解した樹脂溶液を噴射する樹脂溶液型電気紡績法(a)、噴射液として高分子化合物Aを溶融させた樹脂溶融物を噴射する樹脂溶融型電気紡績法(b)が挙げられる。
【0043】
図1には、樹脂溶液型電気紡績法(a)を実施するための樹脂溶液型電気紡績装置30が示されている。樹脂溶液型電気紡績法(a)を実施するためには、シリンジ31、高電圧源32、コレクタ33を備えた装置30が用いられる。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は10~1,000μm程度である。
シリンダ31a内には、ナノファイバの原料となる高分子化合物A及び溶媒、また必要に応じて着色剤を含む噴射液が充填されている。噴射液の詳細については後述する。高電圧源32は、例えば10~30kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極32aはシリンジ31における噴射液と導通している。高電圧源32の負極32bは接地されている。コレクタ33は、ナノファイバが堆積する表面に凹凸形状が有するように配置され、接地されている。
図1に示す装置30は、大気中で運転することができる。
なお、
図1に示す装置30においては形成されたナノファイバが板状のコレクタ33上に堆積されるが、これに代えてドラム状のコレクタを用い、回転する該ドラムの外周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【0044】
シリンジ31とコレクタ33との間に電圧を印加した状態下に、シリンジ31のピストン31bを徐々に押し込み、キャピラリ31cの先端から噴射液を押し出す。押し出された噴射液においては、溶媒が揮発し、溶質である高分子化合物Aが固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、コレクタ33に引き寄せられる。噴射液中に着色剤が含まれている場合は、固化しつつある高分子化合物A中に一部取り込まれる。このとき、コレクタ33の表面が凹凸形状を有するため、表面に所望の凹凸形状を有する着色不織布を得ることができる。このようにして形成された着色不織布中のナノファイバは、その製造の原理上は、無限長の連続繊維となる。
【0045】
図2には、樹脂溶融型電気紡績法(b)を実施するための樹脂溶融型電気紡績装置40が示されている。樹脂溶融型電気紡績法(b)を実施するためには、シリンジ41、高電圧源42、コレクタ43、加熱用ヒーター44を備えた装置40が用いられる。シリンジ41は、シリンダ41a、ピストン41b及びキャピラリ41cを備えている。キャピラリ41cの内径は10~1,000μm程度である。シリンダ41a内には、ナノファイバの原料となる高分子化合物A及び必要に応じて着色剤を含む樹脂固形物が充填されている。高電圧源42は、例えば10~30kVの直流電圧源である。高電圧源42の正極42aはシリンジ41における樹脂固形物と導通している。高電圧源42の負極42bは接地されている。コレクタ43は、ナノファイバが堆積する表面に凹凸形状が有するように配置され、接地されている。
図2に示す装置40は、大気中で運転することができる。
【0046】
シリンジ41とコレクタ43との間に電圧を印加した状態下に、前記樹脂固形物が加熱用ヒーター44によって加熱され、シリンジ41中の樹脂固形物が溶融する。シリンジ41のピストン41bを徐々に押し込み、キャピラリ41cの先端から溶融した樹脂を噴射液として押し出す。押し出された溶融樹脂においては、樹脂が放熱で冷却され、高分子化合物Aが固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、コレクタ43に引き寄せられる。樹脂固形物中に着色剤が含まれる場合には、ナノファイバと同様に紡糸され、一部は高分子化合物A中に取り込まれる。このとき、コレクタ43の表面の表面が凹凸形状を有するため、表面に所望の凹凸形状を有する着色不織布を得ることができる。このようにして形成された着色不織布中のナノファイバは、その製造の原理上は、無限長の連続繊維となる。
なお、樹脂固形物中に着色剤を含有させる方法としては、一般的に加熱混錬することで熱可塑性樹脂中に着色剤を分散させる方法等を用いることができる。
【0047】
電気紡績法における印加電圧は、好ましくは10kV以上、より好ましくは15kV以上であり、そして、好ましくは35kV以下、より好ましくは30kV以下である。
シリンジにおけるキャピラリの先端とコレクタとの間の距離は、好ましくは30mm以上、より好ましくは50mm以上であり、そして、好ましくは300mm以下、より好ましくは200mm以下に設定されていることが好ましい。
噴射液の平均吐出量は、好ましくは0.3mL/分以上、より好ましくは0.7mL/分以上であり、そして、好ましくは2mL/分以下、より好ましくは1.5mL/分以下である。
噴射時の周辺環境温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下である。
また、噴射時の周辺環境湿度は、好ましくは10%RH以上、より好ましくは15%RH以上であり、そして、好ましくは50%RH以下、より好ましくは45%RH以下である。
【0048】
(着色方法)
本発明の製造方法において、ナノファイバを着色剤で着色する方法としては、電気紡績法により高分子化合物Aと着色剤とを同時に噴射して、着色されたナノファイバを形成する方法と、電気紡績法により高分子化合物Aを噴射して無着色のナノファイバを形成した後、該ナノファイバを着色剤を用いて着色する方法が挙げられる。中でも、電気紡績法により高分子化合物Aと着色剤とを同時に噴射して、着色されたナノファイバを形成する方法(以下、「方法(i)」ともいう)、又は電気紡績法により高分子化合物Aを噴射して無着色のナノファイバを形成した後、該ナノファイバを着色剤を用いて着色する方法(以下、「方法(ii)」ともいう)が好ましい。
【0049】
(方法(i))
方法(i)の場合、本発明の製造方法は、下記の工程1-1を含むことが好ましい。
工程1-1:電気紡績法により高分子化合物Aと着色剤とを同時に噴射してコレクタの表面に着色剤含有ナノファイバを堆積させて、着色不織布を得る工程
【0050】
〔工程1-1〕
工程1-1において、高分子化合物Aと着色剤とを同時に噴射する方法としては、同一のキャピラリから高分子化合物Aと着色剤とを噴射することが好ましい。
工程1-1の電気紡績法として樹脂溶液型電気紡績法(a)を用いる場合、高分子化合物Aと着色剤とを含有する噴射液を用いる。この場合、噴射液中の高分子化合物Aの含有量に対する着色剤の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは110質量%以下、より好ましくは100質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、より更に好ましくは90質量%以下である。
【0051】
高分子化合物Aと着色剤とを含有する噴射液を用いる場合、着色剤として前述の着色剤粒子を用いる際に該着色剤粒子の沈降や凝集を抑制し、所望の発色効果を得る観点、また、着色剤として染料を用いる際に、溶媒中での染料の再結晶又は析出を抑制し、所望の発色効果を得る観点、並びに、電気紡績装置内で流路での液の詰まりを抑制する観点から、高分子化合物Aを含む樹脂溶液とは別に調製した着色剤を含む溶液又は分散体と、高分子化合物Aを含む樹脂溶液とを、電気紡績法に使用する前に混合して噴射液を調製することが好ましい。このようにして調製された噴射液は、着色剤の分散性が良好であるため、形成されるナノファイバが均一に着色されたものとなり、またキャピラリの目詰まりが起こりにくくなる。
【0052】
〔着色剤を含む溶液又は分散体の調製〕
高分子化合物Aを含む樹脂溶液とは別に調製する着色剤を含む溶液又は分散体は、着色剤を液媒体に溶解又は分散させることで得ることができる。液媒体としては、着色剤の種類に応じて適宜選択して用いることができる。中でも、液媒体は、揮発性を有するものを用いることが好ましい。揮発性の液媒体を用いることで、電気紡績法によってナノファイバを形成するときに、液体成分を容易に除去できる。当該観点から、液媒体としては水や有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えばアセトン、イソパラフィン、エタノールの他、オクタメチルシクロテトラシロキサンやデカメチルシクロペンタシロキサン等のシクロメチコン、オクタメチルトリシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン等のジメチコン、メチルトリメチコンなどのシリコーン化合物などを用いることができ、皮膚への安全性の観点から、シリコーン化合物を用いることもできる。
【0053】
前記着色剤を含む溶液又は分散体中の着色剤の含有量は、着色不織布に対する着色効果と着色の均質性を両立する点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
前記着色剤を含む溶液又は分散体中の着色剤の含有量を3質量%以上とすることで、着色不織布の着色効果が十分なものとなり、また、該含有量を50質量%以下とすることで、顔料の分散や染料の溶解性が良好になり、顔料粒子の凝集や染料の析出等に起因する着色不織布の品質低下を効果的に防止できる。
前記着色剤は、溶液又は分散体の調製を行う前に所定の大きさに粉砕して粒度を調整してもよく、分子状態に溶解させておいてもよい。
【0054】
前記着色剤を含む溶液又は分散体には、着色剤の他に、該着色剤の分散性を高めるための分散剤や、溶液又は分散体が泡立つことを抑制するための消泡剤を含有させることもできる。
前記分散剤としては、各種の界面活性剤を用いることができる。中でも、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が好ましい。
陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸金属塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、ポリエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタン、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸モノ(ジ)エタノールアミド、脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられ、具体的には、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、モノステアリン酸グリセリン、セスキオレイン酸ソルビタン、ショ糖脂肪酸エステル、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
これらの界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記着色剤を含む溶液又は分散体が分散剤を含有する場合、該着色剤を含む溶液又は分散体中の分散剤の含有量は、着色剤の分散性を十分に高める観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。
2種以上の界面活性剤を組み合わせて用いる場合には、溶液又は分散体中の界面活性剤の合計含有量が、上述の範囲となることが好ましい。
【0055】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤が好ましく、例えば、ジメチルシリコーンオイル、シリコーンオイルコンパウンド、シリコーンエマルジョン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、フロロシリコーンオイルが挙げられる。
前記着色剤を含む溶液又は分散体が消泡剤を含有する場合、該着色剤を含む溶液又は分散体中の消泡剤の含有量は、溶液又は分散体の泡立ち抑制の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0056】
前記着色剤を含む分散体を調製する場合には、上述の各成分を、水又は有機溶媒等の液媒体と混合し、分散機によって分散させるとともに着色剤を解砕してもよい。分散機としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等のメディアミル;ディスパーを用いることができる。
【0057】
前記着色剤を含む溶液又は分散体は、予め異なる組成のものを2種以上調製しておき、目的とする着色不織布の色に応じて2種以上を適量用いることもできる。例えば、2種以上の着色剤を含む溶液又は分散体のうちの1種は白色顔料のみが配合されている溶液又は分散体(以下、「白色の溶液又は分散体」という)とし、残りの溶液又は分散体は、白色以外の色の顔料が1種又は2種以上配合されている溶液又は分散体(以下、「非白色の溶液又は分散体」という)とすることができる。そして、色の調整の自由度が大きくなる観点から、白色の溶液又は分散体と、1種又は2種以上の非白色の溶液又は分散体とを、高分子化合物Aを含む樹脂溶液と混合して電気紡績用の噴射液とすることが好ましい。例えば、肌色の着色不織布を得る場合には、白色の溶液又は分散体と、非白色の溶液又は分散体とを用いることが好ましい。
また、着色剤粒子として着色剤含有ポリマー粒子を用いる場合には、噴射液に用いる着色剤を含む分散体として、後述するインクジェット印刷用水系インクに用いる着色剤水分散体を用いることが好ましい。
【0058】
〔高分子化合物Aを含む樹脂溶液の調製〕
前記着色剤を含む溶液又は分散体と併用される高分子化合物Aを含む樹脂溶液としては、高分子化合物Aの種類や着色剤を含む溶液又は分散体の種類に応じて適切なものが用いられる。例えば着色剤を含む溶液又は分散体が水を主媒体とする水溶液又は水分散体である場合には、相溶性の観点から、高分子化合物Aを含む樹脂溶液も水溶液であるか、又は水に溶解可能な水溶性有機溶媒の溶液であることが好ましい。前記と同様の観点から、着色剤を含む溶液又は分散体が有機溶媒を主媒体とする溶液又は分散体である場合には、高分子化合物Aを含む樹脂溶液は、該有機溶媒と相溶性のある有機溶媒の溶液であることが好ましい。
【0059】
高分子化合物Aを含む樹脂溶液として、例えば、高分子化合物Aが水不溶性高分子化合物を用い、かつ該水不溶性高分子化合物の媒体として水を用いる場合には、ナノファイバ形成後の水不溶化処理により水不溶性となる水溶性高分子化合物を併用して用いることができる。媒体として水を用いることは、水不溶性高分子化合物に加えて水溶性高分子化合物を含むナノファイバを製造する場合に特に有利である。
例えば、前述のポリビニルアルコールやアルカリ可溶性セルロースを用いる場合には、電気紡績法によりコレクタの表面にナノファイバを堆積させた後に、該着色不織布を加熱又は水洗浄や乾燥による中和剤除去を行う水不溶化処理を行うことにより、ポリビニルアルコールやアルカリ可溶性セルロースからなる水不溶性高分子化合物を含むナノファイバを含有する着色不織布が得られる。
水不溶化処理における加熱の条件は、温度20~200℃、時間1~200分であることが好ましい。
【0060】
ナノファイバ形成後に水不溶性とすることができる水溶性高分子化合物を用いる場合には、該水不溶性とすることができる水溶性高分子化合物と、水溶性高分子化合物とを、同一の溶媒に分散及び溶解させた混合液を用いてもよい。この場合の溶媒としては、上述のとおり水を用いることができ、また水に代えて、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いることもできる。
【0061】
高分子化合物Aを含む樹脂溶液の他の例として、水溶性高分子化合物及び水と相溶可能な有機溶媒に溶解する水不溶性高分子化合物を含み、かつ水及び該有機溶媒の混合溶媒を含む溶液を挙げることができる。該溶液に用いることができる水不溶性高分子化合物と有機溶媒との組み合わせとしては、例えば、オキサゾリン変性シリコーンとエタノール又はメタノールとの組み合わせ、ツエインとエタノール又はアセトンとの組み合わせが挙げられる。
高分子化合物Aを含む樹脂溶液の別の例として、水及び有機溶媒に溶解することが可能な水溶性高分子化合物と、該有機溶媒に溶解することが可能な水不溶性高分子化合物とを、該有機溶媒に溶解した溶液を挙げることができる。該溶液に用いることができる水溶性高分子化合物と水不溶性高分子化合物との組み合わせとしては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースとポリビニルブチラールとの組み合わせが挙げられる。
【0062】
高分子化合物Aを含む樹脂溶液が前記のいずれの場合であっても、該溶液中の高分子化合物Aの含有量(2種以上の高分子化合物を用いる場合には、それらの合計含有量)は、用いる樹脂の飽和溶解度にもよるが、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0063】
高分子化合物Aを含む樹脂溶液と、着色剤を含む溶液又は分散体とを混合して電気紡績用噴射液を調製するに際しては、高分子化合物Aを含む樹脂溶液中に含まれる高分子化合物Aの含有量及び着色剤を含む溶液又は分散体中に含まれる着色剤の含有量がそれぞれ上述の範囲である場合、該噴射液の総量に対する高分子化合物Aを含む樹脂溶液の割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは93質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
【0064】
(方法(ii))
着色方法として、電気紡績法により高分子化合物Aを噴射して無着色のナノファイバを形成し、該ナノファイバを着色剤で着色する方法(ii)を用いる場合、ナノファイバへの着色剤の付与方法としては、インクジェット印刷;グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等のアナログ印刷方法が挙げられるが、着色による視覚上の一体感、光沢感及び透明感を向上させる観点から、インクジェット印刷方法が好ましい。
インクジェット印刷方法は、被印刷物に印刷装置等が非接触で、直接着色剤を含む液滴(インク)を付与することができるため、予め形成された無着色の不織布に物理的な損傷を与えることなく着色剤を付与し、着色不織布を製造することができる。
また、着色剤の付与量を、高分子化合物Aの噴射量とは独立に制御できるため、着色不織布が達成できる色域を広くすることができる。また、高分子化合物Aの溶解性とは異なる溶解性を有する着色剤を用いることができるため、着色剤の設計の自由度が大きくなり、噴射液の保存安定性の調整も容易となる。
インクジェット印刷方法の適用においては、予め形成された無着色の不織布にインクジェット印刷方法により着色剤を含むインクを付与する方法と、予めコレクタの凹凸形状上にインクジェット印刷方法により着色剤を含むインクを付与し、該コレクタの着色剤が付与された凹凸形状を有する表面に無着色のナノファイバを堆積させる方法が挙げられる。
予め形成された無着色の不織布にインクジェット印刷を行う場合、該不織布のナノファイバにより形成された空隙層中に、毛管引力によってインクが留め置かれることから、真円に近いドット形状が得られるため、混色も抑制することができる。この場合、得られる着色不織布の画質はアナログ印刷物のものに近く、輪郭がマイルドにぼやかされた、視覚上の一体感、光沢感及び透明感が良好なものとなり、優しい印象を与える化粧画像が得られる。
一方、予めコレクタの凹凸形状上にインクジェット印刷方法により着色剤を付与し、該コレクタの着色剤が付与された凹凸形状を有する表面にナノファイバを堆積させる方法の場合、インクが予めコレクタの表面の凹凸部に充填されるため、真円のみならず、正方形、三角形、六角形を並べたハニカム形等の通常のインクジェット印刷ではデザインが困難な画像パターンを着色不織布に形成することができる。この場合、得られる着色不織布の画質は、ディスプレイ等の画線的デジタルデバイスのように、輪郭がシャープに際立たせられた理知的で仮想現実的な印象を与える化粧画像が得られる。
【0065】
本発明の製造方法において、方法(ii)を用いる場合、視覚上の一体感、光沢感及び透明感を良好なものにする観点から、下記の工程2-1及び工程2-2を含むことが好ましい。
工程2-1:電気紡績法により高分子化合物Aを噴射してコレクタの表面にナノファイバを堆積させて、無着色の不織布を得る工程
工程2-2:工程2-1で得られた無着色の不織布にインクジェット印刷方法により着色剤を付与して、着色不織布を得る工程
【0066】
〔工程2-1〕
工程2-1における電気紡績法は、前述の樹脂溶液型電気紡績装置及び樹脂溶融型電気紡績装置のいずれも用いることができる。
樹脂溶液型電気紡績装置を用いる場合、高分子化合物Aを噴射するに際しては、高分子化合物Aを含む噴射液は、前述の高分子化合物Aを含む樹脂溶液を用いることが好ましい。
工程2-1で用いる噴射液中の高分子化合物Aの含有量(2種以上の高分子化合物を用いる場合には、それらの合計含有量)は、用いる樹脂の飽和溶解度にもよるが、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0067】
〔工程2-2〕
工程2-2のインクジェット印刷方法で用いられる着色剤は、一般的に化粧品に使用される原料をインクジェット吐出が可能な粘度、例えば20mPa・s以下に調整した水系インクとすることが好ましい。ここで、「水系」とは、水系媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
インクジェット印刷方法により着色剤を付与するに際しては、着色剤以外の他の成分を必要なところに必要な量だけ付与することもできる。他の成分の付与は、機能性薬剤を着色不織布の空隙層に担持させるために打ち込む場合や、ナノファイバを溶解又は膨潤させ、着色不織布のナノファイバの形状や太さを制御する場合にも好ましく用いられる。
インクジェット印刷の吐出方式は特に制限はなく、ピエゾ方式等の電気-機械変換方式、サーマル方式等の電気-熱変換方式等のいずれの吐出方式も用いることができる。
【0068】
〔インクジェット印刷用水系インク〕
インクジェット印刷用水系インクは、顔料水分散体、染料水溶液、又は顔料若しくは染料の着色剤を水分散性ポリマーで分散した着色剤水分散体を含有し、有機溶媒と水と各種の添加剤を添加して製造することができる。
前記水系インク中の着色剤の含有量は、水系インクの保存安定性及び吐出耐久性を向上させる観点、並びに着色不織布の印字濃度が高める観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは8質量%以下である。
前記水系インク中の水の含有量は、水系インクの保存安定性及び吐出耐久性を向上させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは75質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは94質量%以下、更に好ましくは93質量%以下である。
【0069】
前記水系インクの20℃における静的表面張力は、該水系インクの吐出耐久性を向上させる観点から、好ましくは25mN/m以上、より好ましくは30mN/m以上、更に好ましくは32mN/m以上であり、そして、好ましくは45mN/m以下、より好ましくは40mN/m以下、更に好ましくは38mN/m以下である。
前記水系インクの35℃における粘度は、該水系インクの吐出耐久性を向上させる観点から、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは1.5mPa・s以上、更に好ましくは2mPa・s以上であり、そして、好ましくは10mPa・s以下、より好ましくは7mPa・s以下、更に好ましくは4mPa・s以下である。
前記水系インクの20℃における静的表面張力及び35℃における粘度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0070】
前記水系インクは、物性を調整する観点から、水系インクに通常用いられる各種添加材を含有してもよい。該添加剤としては、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤等の分散剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等の粘度調整剤、シリコーン油等の消泡剤、防黴剤、防錆剤などが挙げられる。
湿潤剤、浸透剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,2-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコール及び該多価アルコールのエーテル、アセテート類が挙げられ、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,2-ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパンが好ましい。
界面活性剤としては、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物やポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0071】
前記水系インク中の着色剤粒子の体積平均粒径は、非白色の着色剤を用いる場合には、ノズルの目詰まりを抑制し、吐出耐久性を向上させる観点、及び着色剤粒子の分散安定性の観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは60nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは180nm以下である。
前記水系インク中の着色剤粒子の体積平均粒径は、白色の着色剤を用いる場合には、上記と同様の観点から、好ましくは150nm以上であり、より好ましくは240nm以上、更に好ましくは290nm以上であり、そして、好ましくは1,000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは350nm以下、より更に好ましくは330nm以下である。
前記水系インク中の着色剤粒子の体積平均粒径は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0072】
〔着色剤水分散体の製造〕
前記着色剤水分散体は、着色剤粒子を水に分散する方法で製造することができる。水分散性ポリマーで分散された着色剤を着色剤粒子として用いる場合、着色剤水分散体の製造方法は、下記の工程I及び工程IIを含むことが好ましいが、必ずしもこの方法に制限されない。
工程I:水、着色剤、水分散性ポリマー、及び有機溶媒を含有する着色剤混合物を、分散処理して、着色剤分散液を得る工程。
工程II:工程Iで得られた着色剤分散液の有機溶媒を除去して、着色剤水分散体を得る工程
【0073】
〔工程I〕
工程Iは、水、着色剤、水分散性ポリマー、及び有機溶媒を含有する着色剤混合物を、分散処理して、着色剤分散液を得る工程である。
【0074】
前記着色剤混合物中の水分散性ポリマーの含有量は、着色剤水分散体の分散安定性、及び得られる水系インクの保存安定性、吐出耐久性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましく3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0075】
工程Iで用いる有機溶媒は水分散性ポリマーとの親和性が高く、着色剤への濡れ性が良好であることが望ましい。有機溶媒としては、炭素数2~8の脂肪族アルコール、ケトン、エーテル、エステル等が好ましく、脂肪族アルコールとしては、n-ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトンとしては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテルとしては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。着色剤への濡れ性及び着色時への水分散性ポリマーの吸着性を向上させる観点、並びに肌への貼付の際に残留する有機溶媒による安全性の観点から、エタノール、イソプロパノールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0076】
前記着色剤混合物中の有機溶媒の含有量は、着色剤の濡れ性及び着色剤への水分散性ポリマーの吸着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。なお、有機溶媒を2種以上含む場合は、それらの合計量を有機溶媒量として算出する。以下においても同様である。
前記着色剤混合物中の水分散性ポリマーの含有量と有機溶媒の含有量との質量比[水分散性ポリマー/有機溶媒]は、着色剤の濡れ性及び着色剤へのポリマーの吸着性を向上させる観点から、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.20以上であり、そして、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.50以下、更に好ましくは0.40以下である。
【0077】
前記着色剤混合物中の水及び有機溶媒の合計含有量は、着色剤水分散体の分散安定性を向上させる観点及び着色剤水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、好ましくは85質量%以下、より好ましく80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
前記着色剤混合物中の水の含有量に対する有機溶媒の含有量の質量比[有機溶媒/水]は、着色剤の濡れ性を調整することによる着色剤の分散を促進する観点、及び水分散性ポリマーの着色剤への吸着性の観点から、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.40以上、更に好ましくは0.60以上であり、そして、好ましくは1以下、より好ましくは0.90以下、更に好ましくは0.80以下である。
【0078】
水分散性ポリマーとしてイオン性基を有するポリマーを用いる場合には、工程Iにおいて、着色剤水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、吐出耐久性を向上させる観点から、該水分散性ポリマーのイオン性基を中和するために、中和剤を用いることが好ましい。中和剤を用いる場合、着色剤水分散体のpHが7~11になるように中和することが好ましい。
水分散性ポリマーのイオン性基がアニオン性基である場合、中和剤としては、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア等の揮発性塩基、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の有機アミンが挙げられ、着色剤水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、吐出耐久性を向上させる観点から、アルカリ金属の水酸化物、揮発性塩基が好ましく、アルカリ金属の水酸化物がより好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウムが好ましい。
中和剤は、十分に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。中和剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0079】
着色剤として疎水化処理された酸化チタン、酸化亜鉛等の疎水性顔料を用いる場合には、工程Iは、水分散性ポリマーとしてカチオン性シリコーンポリマーとアニオン性ポリマーとを併用して、工程I-1及び工程I-2を含むことが好ましい。
工程I-1:疎水化処理された疎水性顔料をカチオン性シリコーンポリマーを用いて懸濁させて、疎水性顔料の懸濁液を得る工程
工程I-2:工程I-1で得られた疎水性顔料の懸濁液にアニオン性ポリマーを添加し、着色剤混合物を得た後、該着色剤混合物を分散処理して、着色剤分散液を得る工程
【0080】
工程I-1により疎水性顔料の表面にカチオン性シリコーンポリマーの疎水的なシリコーン部位を吸着させ、一方でカチオン性シリコーンポリマーの親水的なカチオン性部位は媒体側へ配向することにより着色剤粒子は正のゼータ電位を有した状態で安定に懸濁させることができる。
次いで、工程I-2によりアニオン性ポリマーを添加することで、疎水性顔料に吸着しているカチオン性シリコーンポリマーのカチオン性基にアニオン性ポリマーが吸着し、負のゼータ電位を有した状態で分散させることにより、疎水性顔料を用いた場合であっても、安定な分散体を得ることができる。
【0081】
工程Iにおいて、非白色の着色剤を用いる場合には、分散処理後の得られる着色剤分散液の着色剤粒子の体積平均粒径は、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは60nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは180nm以下である。
白色の着色剤を用いる場合には、分散処理後の得られる着色剤分散液の着色剤粒子の体積平均粒径は、酸化チタン分散体の分散安定性、泡立ち抑制、消泡の観点から、好ましくは150nm以上、より好ましくは240nm以上、更に好ましくは290nm以上であり、そして、好ましくは1,000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは350nm以下、より更に好ましくは330nm以下である。
着色剤分散液の着色剤粒子の体積平均粒径は、実施例に記載の方法で動的光散乱法により測定することができる。
【0082】
剪断応力による本分散のみで着色剤粒子の体積平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、更に本分散を行い、着色剤粒子の体積平均粒径を所望の値とするよう制御することが好ましい。
予備分散には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。中でも、ウルトラディスパー(淺田鉄工株式会社、商品名)、エバラマイルダー(株式会社荏原製作所、商品名)、TKホモミクサー(プライミクス株式会社、商品名)等の高速撹拌混合装置が好ましい。
【0083】
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー、エクストルーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(淺田鉄工株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、着色剤を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力や分散処理のパス回数の制御により、着色剤を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、好ましくは60MPa以上、より好ましく100MPa以上、更に好ましくは150MPa以上であり、そして、好ましくは250MPa以下、より好ましくは200MPa以下、更に好ましくは180MPa以下である。
また、分散処理のパス回数は、好ましくは3パス以上、より好ましくは10パス以上、更に好ましくは15パス以上であり、そして、好ましくは30パス以下、より好ましくは25パス以下、更に好ましくは20パス以下である。
【0084】
〔工程II〕
工程IIは、工程Iで得られた着色剤分散液の有機溶媒を除去して、着色剤水分散体を得る工程である。
工程IIにおいて、有機溶媒の除去に供する着色剤分散液中の水の含有量に対する有機溶媒の含有量の質量比[有機溶媒/水]は、着色剤の濡れ性改善による分散進行性と、ポリマーの着色剤への吸着性の観点から、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.20以上であり、そして、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下、更に好ましくは0.30以下である。
有機溶媒を除去する方法に特に制限はなく、公知の方法で行うことができる。なお、着色剤分散液に含まれる水の一部が有機溶媒と同時に除去されてもよい。
有機溶媒の除去する際の温度及び時間は、用いる有機溶媒の種類によって適宜選択できる。
【0085】
前記着色剤水分散体において有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。
前記着色剤水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、着色剤水分散体の分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは18質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは22質量%以下である。
【0086】
〔工程3〕
本発明において、得られた着色不織布は、視覚上の一体感を高め、光沢感及び透明感を調整する観点から、更にインクジェット印刷方法により着色剤を付与してもよい。すなわち、本発明は、更に下記の工程3を含むことができる。工程3におけるインクジェット印刷方法は、前述の工程2-2と同様の方法で行うことができる。該工程3により、肌へ貼付する際の使用者の肌色と着色不織布の着色の調整を行うことができ、傷等の隠蔽性を向上させることもできる。また、該工程3により、着色不織布に、図柄、文字、刺青等の装飾や化粧を施すことができる。なお、工程3は、異なる装飾又は化粧を施す観点から、複数回行ってもよい。
工程3:得られた着色不織布に、インクジェット印刷方法により着色剤を付与して、更に着色された着色不織布を得る工程
【0087】
(着色不織布)
本発明に係る着色不織布においては、ナノファイバどうしは互いに絡み合っている。それによって、着色不織布は、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。
本発明に係る着色不織布のナノファイバの太さは、円相当直径で表した場合、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは3,000nm以下、より好ましくは1,000nm以下である。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、10,000倍に拡大して観察し、ナノファイバを任意に10本選び出し、ナノファイバの長手方向に直交する線を引き、繊維直径を直接読み取ることで測定することができる。
【0088】
本発明に係る着色不織布の形態は、使用者の肌に貼付して用いる観点から、薄手のシート状であることが好ましい。該着色不織布の厚みは、使用者の肌に貼付して用いる際の取り扱い性の観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは500nm以上であり、そして、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下である。このような厚みに調整することで、着色不織布の縁部と使用者の肌との間に段差が生じにくくなり、着色不織布と使用者の肌との視覚上の一体感が高まる。また、着色不織布を肌の微細な凹凸の部位、例えば小じわの部位や毛穴の部位に貼付した場合に、小じわや毛穴を隠すことができる。これと同様の観点から、着色不織布の坪量は、好ましくは0.01g/m2以上、より好ましくは0.1g/m2以上であり、そして、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは50g/m2以下の範囲に設定することが好ましい。
前記着色不織布の厚みは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0089】
〔基材シート〕
本発明に係る着色不織布は、着色剤及びナノファイバから構成された単層構造を有してもよく、あるいは着色剤及びナノファイバを含む着色不織布と他のシートとを積層した多層構造を有するものであってもよい。着色不織布と併用される他のシートとしては、例えば使用前の着色不織布を支持する観点、及びその取り扱い性を高める観点から、基材シートが挙げられる。着色不織布の厚みが薄い場合には、着色不織布を基材シートと組み合わせて用いることで、肌に貼付する際の操作性が良好になる。
【0090】
基材シートとしては、メッシュシートを用いることが好ましい。
本発明において、メッシュシートを用いることで、ナノファイバをコレクタに堆積させる際に、メッシュシートの隙間を通して、凹凸形状を有するコレクタにナノファイバが到達し、凹凸形状を備えつつ、メッシュシートを芯材として備えた着色不織布を得ることができる。この場合、メッシュの目開きは20~200メッシュ/インチ、特に50~150メッシュ/インチとすることが好ましい。また、メッシュの線径は、10~200μm、特に30~150μmであることが好ましい。メッシュシートを構成する材料としては、ナノファイバを構成する材料と同様のものを用いることが好ましいが、これに限定されない。
【0091】
〔離型シート〕
本発明にかかる着色不織布は、離型シートを有してもよい。この場合、離型シートは、着色不織布に対して剥離可能に積層されていることが好ましい。このような構成とすることで、着色不織布側を、例えば肌に付着させた後に、離型シートを着色不織布から剥離除去して、着色不織布を肌に転写することができる。当該観点から、該離型シートは、着色不織布の表面に直接積層されていることが好ましい。
【0092】
離型シートのテーバーこわさは、着色不織布の取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは0.01~0.4mN・m、より好ましくは0.01~0.2mN・mである。テーバーこわさは、JIS P8125:2000に規定される「こわさ試験方法」により測定される。
離型シートの厚みは、該離型シートの材質にもよるが、着色不織布の取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは5~500μm、より好ましくは10~300μmである。離型シートの厚みは、着色不織布の厚みと同様の方法で測定することができる。
【0093】
本発明において、コレクタとして銀面調人工皮革を用いる場合には、該銀面調人工皮革は、着色不織布の離型シートとして用いることができる。具体的には着色不織布が銀面調人工皮革上に形成された形態において、着色不織布側を肌と対向させて、着色不織布の表面を肌に貼付する。その後、前記銀面調人工皮革を着色不織布から剥離除去することで、着色不織布のみを肌に貼付した状態とすることができる。この方法によれば、厚みが薄く剛性が低い着色不織布であっても、肌に容易に貼付することができる。
【0094】
離型シートは、着色不織布の肌への転写性を向上させる観点から、若干の熱収縮性を有することが好ましい。熱収縮性を有することにより、肌に貼付した後、離型シート側を加熱することで離型シートから着色不織布を容易に剥がすことができ、着色不織布に与える物理的な力を最小限に抑えながら、良好な剥離状態を得ることができる
離型シートは、分割して剥離できるように設計されていることが好ましい。離型シートの剥離は、小さな面積を剥離する際には弱い力で可能であるが、大きな面積を同時に剥がそうとすると大きな力が必要となり、剥離性が劣る場合がある。そこで、離型シートを分割して剥離同時に力がかかる剥離面積の最大値を抑制することで、着色不織布の耐久性を超える張力がかかることを抑制することができる
離型シートは、通気性を有することも好ましい。離型シートの素材として、繊維や液体は通過させないが、水蒸気や空気を通過できる素材を選択することで、着色不織布が微細な凹凸形状の表面を有していても剥離することができる。具体的に離型シートのガーレ通気度は、好ましくは30秒/100mL以下、より好ましくは20秒/100mL以下である。離型シートのガーレ通気度は、JIS P8117:2009に従い測定することができる。ガーレ通気度の下限値は、上述した離型シートのテーバーこわさ等を勘案して決定される。
【0095】
(着色不織布の使用方法)
本発明に係る着色不織布を使用者の肌に貼付する際には、貼付補助剤を肌に施した後、当該部位に着色不織布を貼付してもよい。具体的には、例えば、使用者の肌を液状物で湿潤させるか、又は着色不織布の表面を貼付補助剤として液状物で湿潤させた後、該着色不織布の表面を肌に当接させることが好ましい。これによって、表面張力の作用で着色不織布を肌に良好に密着させることができる。
肌又は着色不織布の表面を湿潤状態にする方法としては、例えば液状物を塗布又は噴霧する方法が挙げられる。塗布又は噴霧される液状物としては、水性の液体又は油性の液体が用いられる。前記液状物は、それが水性の液体及び油性の液体のいずれであっても表面張力が高いほど好ましい。
【0096】
本発明において、ナノファイバに水溶性高分子化合物が含まれている場合には、液状物として油性の液体を用いることもできるが、水性の液体を用いることが一層好ましい。水性の液体としては、水を含み、かつ25℃において5,000mPa・s程度以下の粘性を有する物質が用いられる。そのような液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等が挙げられる。また、O/WエマルションやW/Oエマルション等の化粧用乳化液、増粘剤で増粘された液なども挙げられる。該液状物としては、具体的には、市販の化粧水や化粧クリームを用いることができる。
【0097】
液状物の塗布又は噴霧によって肌又は着色不織布の表面を湿潤状態にする程度は、液状物として水性の液体を用いる場合には、該水性の液体の表面張力が十分に発現し、かつ水溶性高分子化合物が溶解する程度の少量で十分である。具体的には、着色不織布の大きさにもよるが、その大きさが3cm×3cmの正方形である場合には、0.01mL程度の量の液状物を肌に付与させることで、着色不織布を容易に肌に付着させることができる。液状物として水性の液体を用い、かつ水溶性高分子化合物を用いる場合には、前述したように、ナノファイバ中の該水溶性高分子化合物を溶解させてバインダ効果を発現させることができる。
【0098】
また、貼付補助剤として、化粧水や化粧クリームに代えて又はそれらと併用して、固形ないし半固形の化粧下地化粧料を用いてもよい。化粧下地化粧料を肌に施した後に、当該部位に着色不織布を貼付することもできる。化粧下地を肌に施すことで肌の表面が滑らかになり、その状態下に着色不織布が肌に貼付されることにより、着色不織布と肌との密着性がさらに良好になるとともに、着色不織布と肌との視覚上の一体感がさらに高まる。
【0099】
着色不織布と肌との間に液状物が介在する状態では、該液状物の存在に起因してナノファイバ間の結合が弱くなっている。特にナノファイバが水溶性高分子化合物を含む場合には、着色不織布を肌に貼付した後の状態において、ナノファイバ中の水溶性高分子化合物が液状物に溶解してナノファイバ間の結合が一層弱くなっている。この状態下に、着色不織布の周縁部の繊維結合をずらし、該着色不織布と肌との間の段差を緩和することができる。これによって、着色不織布と肌の境界が目立ち難く、着色不織布と肌との視覚上の一体感が高まる。着色不織布の周縁部の繊維結合をずらすためには例えば、肌に付着させた後に、液状物によって湿潤状態になっている着色不織布の周縁部に剪断力を加えればよい。剪断力を加えるためには、例えば指や爪、あるいはメイクアップに使用するスポンジやヘラ等の道具で着色不織布の周縁部を軽く擦ったり、撫でつけたりすればよい。
【0100】
このような方法により、表面に凹凸形状を備えた着色不織布を肌に転写して貼着することで、小じわや毛穴といった肌の表面の微細な凹凸が、着色不織布に覆われ転写されて凹凸の程度が緩和され、さらに着色不織布の表面にあらかじめデザインされた凹凸形状によって、肌のキメが整った印象を与えることができる。
さらに、凹凸形状として前述の皮膚のキメを再現したシボの形状を有するコレクタを用いる場合には、貼付後の着色不織布の凹凸形状が肌のキメ構造を再現しつつ、その貼付前の使用者の顔の輪郭の凹凸を反映することから、極めて自然な表面形状及びつやを呈するので、例えばシリコンシート等の厚膜の貼付物を貼付したときのような不自然さを知覚しにくい。
また、着色不織布を肌に貼付することで、しみ、そばかす、目の隈等の色むらが、着色不織布によって隠蔽又は軽減され、コンシーラー的な作用が発揮される。
また、肌に貼付された着色不織布は、肌との密着性が高いので、例えば終日貼付していても、肌との視覚上の一体感が損なわれにくい。長時間にわたって着色不織布を肌に貼付していても、該着色不織布は通気性を有することから、肌が本来的に有する調節機構は妨げられにくい。その上、長時間にわたって着色不織布を肌に貼付していても、指で摘んで剥離するだけの簡単な操作で除去を容易に行うことができる。
【0101】
本発明に係る着色不織布は、肌に貼付した後に、該着色不織布上に化粧料を施すことができる。これによって着色不織布と肌との視覚上の一体感が一層高まる。この場合、用いることのできる化粧料としては、例えば油剤そのもの又は該油剤を含有する乳液が挙げられる。これらを施すことで、着色不織布を構成するナノファイバ間に油剤が保持されることとなり、着色不織布と肌との視覚上の一体感がさらに高まる。該油剤としては、室温(25℃)での粘度が5.5~100mPa・sのものが好ましく、炭化水素油、ポリジメチルシロキサン(シリコーン油)等が挙げられるが、化粧持続性の観点から、ポリジメチルシロキサン(シリコーン油)が好ましい。
【0102】
本発明に係る着色剤不織布を肌に貼付した後には、肌の該着色不織布上に、さらにファンデーション等の各種の粉末化粧料を施すこともできる。この場合、着色不織布におけるナノファイバの太さや、ナノファイバ間の距離に起因して、着色不織布上での粉末化粧料の化粧のりは良好なものとなるので、肌に直接粉末化粧料を施した部位と、粉末化粧料が施された着色不織布との間での視覚上の一体感が高まる。
【実施例】
【0103】
以下において特記しない限り、「%」は「質量%」を意味する。
ポリマー等の物性の測定は、以下の方法で行った。
【0104】
(1)ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)の数平均分子量
1mmol/L ファーミンDM20(商品名、花王株式会社製)/クロロホルムを溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔測定カラム:昭和電工株式会社製カラム(K-804L)を直列に2つ連結されたもの、流速:1mL/min、カラム温度:40℃、検出器:示差屈折率計〕により、標準物質として分子量既知のポリスチレンを用いて測定した。測定試料は、濃度5mg/mLにて100μL用いた。
【0105】
(2)着色剤粒子の体積平均粒径
下記測定装置を用いて、下記測定条件にて体積平均粒径を測定した。
測定装置:ゼータ電位・粒径測定システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)
測定条件:キュムラント解析法。測定する粒子の濃度が約5×10-3%になるように水で希釈した分散液を測定用セルに入れ、温度25℃、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0106】
(3)酸化チタン顔料粒子の体積平均粒径の測定
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA950」(株式会社堀場製作所製)を用いて、酸化チタンの屈折率2.75とし、水の屈折率を1.333として、該装置の循環速度を5、超音波を3に設定し、超音波を1分照射した後測定した。このときの体積中位粒子径(D50)の値を酸化チタン顔料粒子の体積平均粒径とした。
【0107】
(4)固形分濃度の測定
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させた後、測定試料の水分(%)を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(%)=100-測定試料の水分(%)
【0108】
(5)セルロースの溶解度
コールターカウンター「ZM80」(米国コールターエレクトロニクス社製)を用い、-5℃のイオン交換水を用いて80倍に希釈したサンプル中の不溶物を測定し、求めた。
【0109】
(6)水系インクの静的表面張力の測定
20℃に調整したサンプル5gの入った円柱ポリエチレン製容器(直径3.6cm×深さ1.2cm)に白金プレートを浸漬し、表面張力計(協和界面化学株式会社製、「CBVP-Z」)を用いて、ウィルヘルミ法で20℃における静的表面張力を測定した。
【0110】
(7)水系インクの粘度
E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、35℃にて粘度を測定した。
【0111】
(8)コレクタの凹凸形状の確認及びシボ深さの測定
凹凸形状の確認及び測定には、工業用顕微鏡「LEXT-OLS5000-SAT」(オリンパス株式会社製)を用い、断面プロファイルによる3D計測を行った。対物レンズの倍率は適宜変更し、測定対象を20点測定し、その平均値をシボ深さの測定値とした。
【0112】
(9)着色不織布の厚み
接触式の膜厚計「ライトマチックVL-50A」(株式会社ミツトヨ社製)を用いて測定した。なお、測定には、R5mm超硬球面測定子を用い、着色不織布に加える荷重は0.01Paとした。
【0113】
合成例1(カチオン性シリコーンポリマー1の合成)
2-エチル-2-オキサゾリン73.7g(0.74モル)と酢酸エチル156.0gとを混合し、得られた混合液をモレキュラーシーブ「ゼオラムA-4」(東ソー株式会社製)12.0gで、28℃15時間脱水を行った。得られた脱水2-エチル-2-オキサゾリンの酢酸エチル溶液に硫酸ジエチル2.16g(0.014モル)を加え、窒素雰囲気下8時間、80℃で加熱還流し、末端反応性ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)(数平均分子量は6,000)溶液を得た。
別途、側鎖一級アミノプロピル変性ポリジメチルシロキサン「KF-864」(信越化学工業株式会社製、重量平均分子量50,000(カタログ値)、アミン当量3,800)70.0gと酢酸エチル140.0gとを混合し、混合液をモレキュラーシーブ15.0gで、28℃15時間脱水を行った。
次いで、上記で得られた末端反応性ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)溶液を、上記の脱水した側鎖一級アミノプロピル変性ポリジメチルシロキサン溶液に一括して加え、10時間、80℃で加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)/ジメチルポリシロキサン共重合体(以下、「カチオン性シリコーンポリマー1」と表記する。)を白色ゴム状固体(135g)として得た。質量比[オルガノポリシロキサンセグメント(x)の含有量/〔オルガノポリシロキサンセグメント(x)及びポリ(N-アシルアルキレンイミン)セグメント(y)の合計含有量〕]は0.50であり、カチオン性シリコーンポリマー1の重量平均分子量は100,000(計算値)であった。得られたカチオン性シリコーンポリマー1に1級エタノールを添加し、カチオン性シリコーンポリマー1の溶液(固形分濃度30%)を得た。
【0114】
製造例1-1~1-5(非白色顔料水分散体の製造)
(工程I:着色剤分散液の製造)
密封及び温度調整可能なガラス製ジャケット内に、アニオン性アクリルポリマー溶液「プラスサイズL-9909B」(互応化学工業株式会社製、酸価50mgKOH/g、未中和品、固形分濃度40%のエタノール溶液)200gを投入し、高速分散機「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)(撹拌部:ホモディスパー2.5型(羽直径40mm))を用いて15℃のジャケット温度で1,400rpmの条件で撹拌しながら、表1に示す着色剤を200g添加し、更に15℃のジャケット温度で2,000rpmの条件にて1時間撹拌し、着色剤をアニオン性アクリルポリマー溶液になじませた。
次いで15℃のジャケット温度に維持したまま、回転速度を8,000rpmに変更し、1級エタノールを170g、5N NaOH水溶液を17.1g、イオン交換水を412.9g投入し、3時間撹拌し、着色剤混合物(媒体中のエタノール濃度40.4%、固形分濃度28%)を得た。
得られた着色剤混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、型式:M-140K)を用いて、180MPaの圧力にて、20パス分散処理した後、イオン交換水を900g添加し、固形分濃度14.7%の各着色剤分散体を得た。
得られた着色剤分散液の着色剤粒子の体積平均粒径を測定した。表1に体積平均粒径を示す。
(工程II:有機溶媒の除去)
得られた各着色剤分散液を、減圧蒸留装置(ロータリーエバポレーター、N-1000S型、東京理化器械株式会社製)を用いて、40℃に調整した温浴中、10kPaの圧力で2時間保持し、有機溶媒を除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を7kPaに下げて4時間保持し、着色剤とポリマーの合計濃度(固形分濃度)を23~25%となるように、有機溶媒及び一部の水を除去した。次いで着色剤とポリマーの合計濃度(固形分濃度)を測定し、イオン交換水で着色剤とポリマーの合計濃度が20.0%となるように調整した。
次いで5μmと1.2μmのメンブランフィルター「ミニザルト」(Sartorius社製)を用いて順に濾過し、各着色剤水分散体を得た。
得られた着色剤水分散体の着色剤粒子の体積平均粒径を表1に示す。
【0115】
表1中の着色剤の詳細を以下に示す。
・黄色5号:黄色顔料「SunCROMA FD&C Yellow 6 Al Lake」(C.I.Pigment Yellow 104)(Sun Chemical Corporation製)
・黄色4号:黄色顔料「BC黄色4号AL」(C.I.Pigment Yellow 100)(癸巳化成株式会社製)
・青色1号:青色顔料「SunCROMA FD&C Blue 1 AI Lake」(C.I.Food Blue 2 Aluminum Lake)(Sun Chemical Corporation製)
・赤色104号-(1):赤色顔料「SunCROMA D&C Red 28 AI Lake」(C.I.Acid Red 92)(Sun Chemical Corporation製)
・赤色226号:癸巳化成株式会社製、赤色染料 赤色226号K(C.I.Vat Red 1)
【0116】
【0117】
製造例1-6(白色顔料水分散体の製造)
(工程I:着色剤分散工程)
1,000mLのポリプロピレン瓶(サンプラテック社製)に、合成例1で得られたカチオン性シリコーンポリマー1の溶液(固形分濃度30%)を33.4g、白色顔料として酸化チタン顔料「SI-チタンCR-50LHC」(三好化成株式会社製、表面処理:水酸化アルミニウム及びハイドロゲンジメチコンによる処理)を200g、1級エタノールを170g、クエン酸を1.6g添加し、手振盪を行うことで、カチオン性シリコーンポリマー1の溶液中に酸化チタン顔料を十分に懸濁させた。
得られた懸濁液に直径1.2mmのジルコニアビーズ2,000gを添加して、卓上型ポットミル架台(アズワン株式会社)にて250rpmで8時間分散処理を行った後、金属メッシュを用いてジルコニアビーズを除去した。
次いで、高速分散機「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)(撹拌部ホモディスパー2.5型(羽直径40mm))を用いて回転速度1,400rpmの条件で撹拌しながら、アニオン性アクリルポリマー溶液「プラスサイズ9909B」(互応化学工業株式会社製、酸価50mgKOH/g、未中和品、固形分濃度40%のエタノール溶液)200gを投入した後、回転速度を2,000rpmまで上げて1時間撹拌した。次いで15℃のジャケット温度で回転速度を8,000rpmに変更し、5N NaOH水溶液を17.1g、イオン交換水を412.9g投入し、3時間撹拌し、着色剤混合物(媒体中のエタノール濃度42.3%、固形分濃度28%)を得た。
得られた着色剤混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、型式:M-140K)を用いて、180MPaの圧力にて、20パス分散処理した後、イオン交換水を900g添加し、固形分濃度14.7%の着色剤分散液を得た。得られた着色剤分散液の着色剤粒子の体積平均粒径を測定した。表2に体積平均粒径を示す。
【0118】
(工程II:有機溶媒除去工程)
製造例1-1~1-5の工程IIと同様の方法により、着色剤水分散体6を得た。着色剤水分散体6の着色剤粒子の体積平均粒径を測定した。表2に体積平均粒径を示す。
【0119】
【0120】
(高分子化合物Aを含む樹脂溶液の調製)
調製例1-1
高分子化合物Aとして完全鹸化ポリビニルアルコール「クラレポバール」(品番:29-99、クラレ株式会社製、鹸化度:99.3以上モル%)を水に溶解して濃度15%の水溶液を調製し、樹脂溶液1を得た。
【0121】
調製例1-2(樹脂溶液2の調整)
針葉樹サルファイト法溶解パルプ「ALAPUL-T」(アラスカパルプ社製、樹種:トウヒ、α-セルロース:90.1%、相対粘度:4.64)を30L自動式爆砕装置(月島機械株式会社製)で爆砕し、粘度平均重合度DPv320の爆砕セルロースを得た。爆砕時の飽和水蒸気圧は15kg/cm2Gであった。
得られた爆砕セルロースを4℃に冷却し、乾燥質量12.5gを500L金属ビーカーに入れた、予め4℃に冷却したNaOH水溶液を187.5g加え、全体量200g、NaOH濃度5%のセルロースアルカリスラリーを得た。
得られたスラリーを-5℃に冷却した後、メディア式湿式粉砕機「パールミル PM5-VS」(アシザワ株式会社製)を用いて、-2℃~-5℃の温度を保ちながら平均粒径が12μmとなるように湿式粉砕した。湿式粉砕後の粘度平均重合度DPvは304であった。
次いで、湿式粉砕処理したスラリー中に予め-10℃に冷却した濃度18%のNaOH水溶液を50g加え、セルロース濃度5%、NaOH濃度7.6%に調整した後、-2℃~-5℃の温度を保ちながら高速分散機「T.K.ロボミックス」(株式会社プライミックス製)を用いて回転数12,000rpmで10分間解砕し、セルロース溶液を得た。解砕後のセルロースの溶解度は99.9%以上、粘度1Pa・sであった。
得られたセルロース溶液を、溶液温度-2℃~-5℃に保ったまま400メッシュの金属フィルターで加圧ろ過し、セルロース濃度5%の樹脂溶液2を得た。
樹脂溶液2は溶液温度-2℃~-5℃において澄明であり、着色剤水分散体と混合した場合も、そうでない場合も電気紡績を行うまで-2℃~-5℃の範囲で温度管理し保存した。
【0122】
調製例2-1~2-3(着色剤含有噴射液1~3の調製)
調製例1-1で得られた樹脂溶液1に、表4記載の配合割合で着色水分散体を添加、撹拌し、各着色剤含有噴射液を調製した。
【0123】
調製例2-4~2~6(着色剤含有噴射液4~6の調製)
調製例1-2で得られた樹脂溶液2に、表5記載の配合割合で-2℃に冷却した着色水分散体を添加し、-2℃~-5℃で撹拌し、各着色剤含有噴射液を調製した。
【0124】
(着色剤不織布の製造)
実施例1-1及び1-4
〔工程1-1〕
表面に凹凸形状を有するコレクタとして、表4に示す肌のキメ再現面が形成されたコレクタを用いて、樹脂溶液型電気紡績装置「ナノファイバーエレクトロスピニングユニット」(カトーテック株式会社)のシリンジに表4に示す各噴射液を充填し、表4に示す噴射条件にて該コレクタのキメ再現面上に噴射してナノファイバを該再現面上の幅3cm長さ5cmの範囲に堆積させた。
次いで、180℃で20分間加熱処理し、ナノファイバ中の完全鹸化ポリビニルアルコールを結晶化させ水不溶化処理を施し、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。得られた着色不織布の厚みは20μmであり、ナノファイバの太さは100~500nmであり、着色不織布中の着色剤の含有量は、合計で46%であり、着色不織布中のナノファイバに対する着色剤の含有量は85%であった。
なお、表4に示すコレクタは下記のとおりである。
シボ1:施術する手の甲の肌のキメ情報を取得して作製したキメ再現面が形成されたナイロン66製シボサンプル1(MTJ-402 種別:複合皮 シボ深さ:120μm、抜き角12度(株式会社モールドテックジャパン製))
サプラーレ:肌のキメ再現面が形成された人工皮革「サプラーレPBZ13001」(イデアテックスジャパン株式会社製)
【0125】
実施例1-2及び1-5
〔工程1-1〕
実施例1-1及び実施例1-4において、それぞれ噴射液1を表4に示す噴射液2に変更した以外は同様にして、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。
〔工程3〕
工程1-1で得られた着色不織布の凹凸形状が形成された表面に、表4に示すインクジェット印刷用水系インク1を用いて、インクジェット印刷を行った。
以下の方法により調製した表4に記載のインクジェット印刷用水系インク1を、内部をイオン交換水で十分洗浄し、乾燥させたハンディプリンターカートリッジ「HC-01K」(株式会社リコー製)に充填し、リコーハンディプリンター(商品名、株式会社リコー製)を用いて、工程1-1で得られた着色不織布にインクジェット印刷(解像度:600dpi×600dpi、吐出液滴量:10pL)を行った。印刷画像はベタ画像を作成し用いた。
印刷後すぐに印刷面の温度が50℃以上にならないように放射温度計「IT-540S」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定しながら、温風ドライヤーで温風のオンオフを繰り返しながら、5分間乾燥を行い、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。得られた着色不織布の厚みは20μmであり、ナノファイバの太さは100~500nmであり、着色不織布中の着色剤の含有量は、合計で46%であり、着色不織布中のナノファイバに対する着色剤の含有量は85%であった。
実施例1-5で得られた着色不織布のコレクタに接していた表面を撮影した拡大写真を
図4に示す。なお、
図4の拡大写真の右下部に示すスケールバーの1目盛りは200μmである。
【0126】
(インクジェット印刷用水系インク1の調製)
表4に示す種類及び量にて、着色剤水分散体、ポリエチレングリコール400(以下、「PEG400」と表記する)、1,2-ヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール、変性グリセリン「Liponic EG-1」(Vantage Specialty Ingredients社製、グリセリンのエチレンオキシド26モル付加物)(以下、「Liponic EG-1」と表記する)及びイオン交換水を添加、混合し、得られた混合液を0.45μmのメンブランフィルター「ミニザルト」(Sartorius社製)で濾過し、水系インク1を得た。得られた水系インク1の20℃における静的表面張力は、36mN/mであった。
【0127】
実施例1-3及び1-6
〔工程2-1〕
表面に凹凸形状を有するコレクタとして、表4に示す肌のキメ再現面が形成されたコレクタを用いて、樹脂溶液型電気紡績装置「ナノファイバーエレクトロスピニングユニット」のシリンジに表4に示す各噴射液を充填し、表4に示す噴射条件にて該コレクタのキメ再現面上に噴射してナノファイバを該再現面上の幅3cm長さ5cmの範囲に堆積させた。
次いで、コレクタ表面に形成されたナノファイバを180℃で20分間加熱処理し、ナノファイバ中の完全鹸化ポリビニルアルコールを結晶化させ水不溶化処理を施し、コレクタ表面に積層された無着色の不織布を得た。
〔工程2-2〕
工程2-1で得られた無着色の不織布の凹凸形状が形成された表面に、表4に示すインクジェット印刷用水系インク2を用いて、インクジェット印刷を行った。
前述のインクジェット印刷用水系インク1と同様の方法により調製した表4に記載のインクジェット印刷用水系インク2を、内部をイオン交換水で十分洗浄し、乾燥させたハンディプリンターカートリッジ「HC-01K」(株式会社リコー製)に充填し、リコーハンディプリンター(商品名、株式会社リコー製)を用いて、工程2-2で得られた無着色の不織布にインクジェット印刷(解像度:600dpi×600dpi、吐出液滴量:10pL)を行った。印刷画像はベタ画像を作成し用いた。
印刷後すぐに印刷面の温度が50℃以上にならないように放射温度計「IT-540S」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定しながら、温風ドライヤーで温風のオンオフを繰り返しながら、5分間乾燥を行い、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。得られた着色不織布の厚みは20μmであり、ナノファイバの太さは100~500nmであり、着色不織布中の着色剤の含有量は、合計で46%であり、着色不織布中のナノファイバに対する着色剤の含有量は85%であった。
【0128】
実施例1-7及び1-10
〔工程1-1〕
表面に凹凸形状を有するコレクタとして、表5に示す肌のキメ再現面が形成されたコレクタを用いて、樹脂溶液型電気紡績装置「ナノファイバーエレクトロスピニングユニット」のシリンジに、-5℃に温度を保った表5に示す各噴射液を充填し、表5に示す噴射条件にて該コレクタのキメ再現面上に噴射してナノファイバを該再現面上の幅3cm長さ5cmの範囲に堆積させた。
次いで、コレクタ表面に形成されたナノファイバを濃度1%のクエン酸水溶液100mLを用いて中和洗浄し、アルカリ可溶性セルロースの水不溶化処理し、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。得られた着色不織布の厚みは25μmであり、ナノファイバの太さは100~500nmであり、着色不織布中の着色剤の含有量は、合計で37%であり、着色剤中のナノファイバに対する着色剤の含有量は60%であった。
【0129】
実施例1-8及び1-11
〔工程1-1〕
実施例1-7及び実施例1-10において、噴射液4を表5に示す噴射液5に変更した以外は同様にして、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。
〔工程3〕
工程1-1で得られた着色不織布の凹凸形状が形成された表面に、前述のインクジェット印刷用水系インク1と同様の方法により調製した表5に記載のインクジェット印刷用水系インク3を用いて、前述の実施例1-2と同様の方法で、インクジェット印刷を行った。
印刷後すぐに印刷面の温度が50℃以上にならないように放射温度計「IT-540S」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定しながら、温風ドライヤーで温風のオンオフを繰り返しながら、5分間乾燥を行い、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。得られた着色不織布の厚みは25μmであり、ナノファイバの太さは100~500nmであり、着色不織布中の着色剤の含有量は、合計で37%であり、着色不織布中のナノファイバに対する着色剤の含有量は60%であった。
【0130】
実施例1-9及び1-12
〔工程2-1〕
表5に示すキメ再現面が形成されたコレクタを用いて、樹脂溶液型電気紡績装置「ナノファイバーエレクトロスピニングユニット」のシリンジに、-5℃に温度を保った表5に示す噴射液6を充填し、表5に示す噴射条件にて該コレクタのキメ再現面上に噴射してナノファイバを該再現面上の幅3cm長さ5cmの範囲に堆積させた。
次いで、コレクタ表面に形成されたナノファイバを濃度1%のクエン酸水溶液100mLを用いて中和洗浄し、アルカリ可溶性セルロースの水不溶化処理し、コレクタ表面に積層された無着色の不織布を得た。
〔工程2-2〕
工程2-1で得られた無着色の不織布の凹凸形状が形成された表面に、前述のインクジェット印刷用水系インク1と同様の方法により調製した表5に記載のインクジェット印刷用水系インク4を用いて、前述の実施例1-3と同様の方法で、インクジェット印刷を行った。
印刷後すぐに印刷面の温度が50℃以上にならないように放射温度計「IT-540S」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定しながら、温風ドライヤーで温風のオンオフを繰り返しながら、5分間乾燥を行い、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。得られた着色不織布の厚みは25μmであり、ナノファイバの太さは100~500nmであり、着色不織布中の着色剤の含有量は、合計で37%であり、着色不織布中のナノファイバに対する着色剤の含有量は60%であった。
【0131】
比較例1-1
実施例1-1において、コレクタとして平滑なPETフィルム「ルミラー」(品番:#50-S10)(東レ株式会社製)を用いた以外は実施例1-1と同様にして着色不織布を得た。得られた着色不織布の厚みは20μmであった。ナノファイバの太さは100~500nmであった。
【0132】
比較例1-2
ドライタイプのフェイスマスク「お肌思いのフェイスマスク」(帝人フロンティア株式会社製、帝人フロンティア株式会社製の超極細ナノファイバー「ナノフロント」使用)を、実施例1-1で使用したシボサンプル1のキメ再現面に圧力1kg/cm2の圧力で30秒間押し当ててエンボス処理を行った。
次いで前述のインクジェット印刷用水系インク2を用いて、実施例1-3の工程2-2と同様の方法でインクジェット印刷を行い、エンボス処理を施した着色不織布を得た。
【0133】
比較例1-3
実施例1-1で用いた噴射液1を用い、実施例1-1で使用したシボサンプル1の肌のキメ再現面に、乾燥後の膜厚が20μmとなるようにワイヤーバーで塗布した。得られたコレクタ上の着色塗膜を、180℃で20分間加熱処理し、完全鹸化ポリビニルアルコールを結晶化させ水不溶化処理を施した。
しかしながら、コレクタとして用いたシボサンプル1の表面凹凸に塗膜が入り込み、剥離が困難であり、特にシボ凹凸模様の端部は剥がす際にシボ側に膜が一部残る場合が多くあった。以下の評価には、回収できた着色塗膜のみを用いた。
【0134】
[着色不織布の評価]
〔柔軟性〕
45歳の男性(1名)を被験者とし、該被験者の左手の甲を市販の洗顔料を用いて洗浄した後、タオルを用いて水滴を除去した。その後、以下に示す配合成分の乳液を用いて、左手の甲とその周辺を湿潤させた。
次いで、実施例及び比較例で得られた着色不織布をコレクタから剥がす前の状態で左手の甲に貼付した。次いで着色不織布からコレクタを剥離除去し、左手の甲に着色不織布を貼り付けた状態とした。ただし、比較例1-3の着色塗膜はあらかじめシボサンプル1から剥がして左手の甲に貼付した。
次いで、着色不織布又は着色塗膜を貼付した左手を100回、指を折り曲げ握りこぶしを作り手の甲を伸ばした後、手を最大限開いて手の甲を収縮させる動作を100回繰り返した。その後、手の甲の表面を観察し、着色不織布及び着色塗膜の顔の表情や身体の動きに応じた、破れ及び変形の有無並びに見た目の光沢を観察し、柔軟性を評価した。結果を表4及び表5に示す。下記評価基準で3又は2であれば実用に供することができる。
(評価基準)
3:破れ及び変形のいずれも発生せず、見た目の光沢に変化はない。
2:破れ及び変形は発生しなかったが、見た目の光沢に変化がある。
1:破れ及び変形がみられる。
【0135】
(乳液の配合成分(質量%))
オキシエチレン/メチルポリシロキサン共重合体*1 2.0
メチルポリシロキサン10CS*2 3.0
メチルポリシロキサン100CS*3 15.0
セタノール*4 1.5
スクワラン*5 5.0
ジブチルヒドロキシトルエン*6 0.02
パラオキシ安息香酸プロピル*7 0.1
グリセリン 3.0
1,2-プロパンジオール 3.0
イオン交換水 残量
合計 100.0
なお、上記の各表記は以下のとおりである。
*1:KF6015(信越化学工業株式会社製)
*2:KF-96A-10CS(信越化学工業株式会社製)
*3:KF-96A-100CS(信越化学工業株式会社製)
*4,*5,*6,*7:富士フィルム和光純薬株式会社製
【0136】
〔耐擦過性〕
重さ50gの錘の底面(1インチ×1インチ)に、人工皮革「サプラーレ PBZ13001」(イデアテックスジャパン株式会社製)を両面テープで貼り付けた。
実施例及び比較例で得られた着色不織布又は着色塗膜をコレクタから剥離し、コレクタに面していた側の印刷パターン部分を、上記錘のサプラーレ貼り付け面にて10回往復擦過した。擦過後、試料の表面を目視で観察し、着色不織布又は着色塗膜の変形、破れ等の有無、及び外観を確認し、耐擦過性を評価した。結果を表4及び表5に示す。下記評価基準で3又は2であれば実用に供することができる。
(評価基準)
3:破れ及び変形のいずれも発生せず、見た目の光沢に変化はない。
2:破れ及び変形は発生しなかったが、見た目の光沢に変化がある。
1:破れ及び変形がみられる。
【0137】
〔光沢感及び透明感〕
実施例及び比較例で得られた着色不織布又は着色塗膜をコレクタから剥離し、コレクタに面していた側の印刷パターン部分を株式会社堀場製作所製の光沢度計「IG-330」を用いて60°の光射条件にて光沢度を測定し、光沢感及び透明感を評価した。結果を表4及び表5に示す
(評価基準)
光沢度20未満:ヒト肌に近い光沢感及び透明感を有し、肌に張り付けても自然に見える。
光沢度20以上40未満:ヒト肌よりは光沢感が高く、透明感も低く、皮脂によりテカリが生じているように見え、貼り付けた箇所が容易に分かる。
光沢度40以上:ヒト肌より光沢感が高く、透明感もない。
【0138】
〔隠蔽性(顔のシミ)〕
左頬に大きな濃いシミのある45歳の男性(1名)を被験者とした。該被験者の全顔を一般に市販されている洗顔料を用いて洗浄し、次いでタオルを用いて水滴を除去した。その後、柔軟性の評価で用いた乳液を用いて肌のシミ部分とその周辺を湿潤させた。次いで、実施例及び比較例で得られた着色不織布又は着色塗膜をコレクタから剥がす前の状態でシミ部分に貼り付けした。次いで着色不織布からコレクタを剥離除去し、シミ部分の直上及び周辺に着色不織布又は着色塗膜を転写貼り付けした。
次いで、化粧品専門評価者10名に着色不織布又は着色塗膜を貼り付けた後の左頬を提示し、右頬との見た目の違和感やシミ部分の隠蔽性について、以下の基準で比較評価した。10名の評価値の合計値を得点とした。結果を表4及び表5に示す。
(評価基準)
3点:右頬との対比で違和感がなく、シミ部分が全くわからない。
2点:右頬との対比で違和感はないが、シミ部分がうっすらとわかる。
1点:右頬との対比で違和感がややあり、シミ部分がうっすらとわかる。
0点:右頬との対比で違和感が大きい。
【0139】
実施例2-1~2-12及び比較例2-1~2-3
〔工程3〕
アレルギー体質の45歳の男性(1名)を被験者とし、左手首の内側の写真を撮影し、静脈血管のみを抽出した画像を反転させ、静脈血管の印刷画像を用意した。
実施例1-1~1-12及び比較例1-1~1-3で得られた着色不織布又は着色塗膜の凹凸形状が形成された表面に対し、前述のインクジェット印刷用水系インク1と同様の方法により調製した表3に記載のインクジェット印刷用水系インク5を用いて、前述の実施例1-2と同様のインクジェット印刷方法で静脈血管の印刷画像を印刷し、以下の評価方法で隠蔽性を評価した。
【0140】
【0141】
〔隠蔽性(手首の傷)〕
左手首の内側の写真を撮影した上記と同じ被験者の左手首の内側の部分を爪で擦過し、赤色の蚯蚓腫れを作った。
次いで、該被験者の左手首を市販の洗顔料を用いて洗浄した後、タオルを用いて水滴を除去し、柔軟性の評価で用いた乳液を用いて手首の内側とその周辺を湿潤させた。次いで、実施例2-1~2-12、比較例2-1~2-3で得られた静脈血管の印刷画像が追記された各着色不織布をコレクタから剥がす前の状態で蚯蚓腫れの生じた部分に貼付した。次いで着色不織布からコレクタを剥離除去し、蚯蚓腫れの直上及び周辺に着色不織布を転写貼り付けした。
化粧品専門評価者10名に着色不織布貼り付け後の左手首を提示し、右手首との見た目の違和感や蚯蚓腫れ部分の隠蔽性について、以下の基準で比較評価した。10名の評価値の合計値を得点とした。結果を表4及び表5に示す。
(評価基準)
3点:右手首との対比で血管及び皮膚の見た目に違和感がなく、蚯蚓腫れ部分が全くわからない。
2点:右手首との対比で血管及び皮膚の見た目に違和感はないが、蚯蚓腫れ部分がうっすらとわかる。
1点:右手首との対比で血管及び皮膚の見た目に違和感がややあり、蚯蚓腫れ部分がうっすらとわかる
0点:右手首との対比で血管及び皮膚の見た目に違和感が大きい。
【0142】
【0143】
【0144】
表4及び表5から、実施例1-1~1-12で得られる着色不織布は、比較例1-1~1-3と比べて、柔軟性、耐擦過性及び隠蔽性に優れ、さらに、肌との視覚上の一体感が高く、ヒト肌に近い光沢感と透明感を備えていることがわかる。
また、実施例2-1~2-12で得られる着色不織布は、比較例2-1~2-3に比べて、従来隠蔽が困難であった深い傷痕に対しても、高い隠避性を有することがわかる。
さらに、
図4の拡大写真で示すとおり、得られた着色不織布の表面には、コレクタとして用いた人工皮革の凹凸形状が転写されていることがわかる。
【0145】
実施例3-1
〔工程1-1〕
表面に凹凸形状を有するコレクタとして下記のシボサンプル2を用いて、実施例1-1において、噴射液1を表6に示す噴射液2に変更した以外は同様にして、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。
〔工程3〕
工程1-1で得られた着色不織布の凹凸形状が形成された表面に、前述のインクジェット印刷用水系インク1と同様の方法により調製した表6に記載のインクジェット印刷用水系インク6を用い、前述の実施例1-2と同様のインクジェット印刷方法で、
図3に示す線幅1ドット(線幅約34μm)、格子の一辺のドット数が9ドット(線幅約300μm)の正方形格子画像を印刷し、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。
シボサンプル2:ナイロン66製シボサンプル板「MTJ-602」(株式会社モールドテックジャパン製、種別:マイクロマット、シボ深さ:130μm、抜き勾配:14度)
【0146】
実施例3-2
〔工程2-1〕
表面に凹凸形状を有するコレクタとして上記のシボサンプル2を用いて、樹脂溶液型電気紡績装置「ナノファイバーエレクトロスピニングユニット」のシリンジに表6に示す噴射液3を充填し、表6に示す噴射条件にて該コレクタのキメ再現面上に噴射してナノファイバを該再現面上の幅3cm長さ5cmの範囲に堆積させた。
次いで、コレクタ表面に形成されたナノファイバを180℃で20分間加熱処理し、ナノファイバ中の完全鹸化ポリビニルアルコールを結晶化させ水不溶化処理を施し、コレクタ表面に積層された無着色の不織布を得た。
〔工程2-2〕
工程2-1で得られた無着色の不織布の凹凸形状が形成された表面に、表6に示すインクジェット印刷用水系インク7を用い、ベタ画像に代えて上記の正方形格子画像を用いた以外は前述の実施例1-3と同様の方法により、インクジェット印刷を行い、コレクタ表面に積層された着色不織布を得た。
【0147】
〔インクジェット印刷方法による肌色調整〕
加齢により肌のキメが粗くなり、色がくすんでいると感じている40歳の女性(1名)を被験者とした。
該被験者の顔全体を市販の洗顔料を用いて洗浄した後、タオルを用いて水滴を除去し、柔軟性の評価で用いた乳液を用いて頬を湿潤させた。次いで、実施例3-1~3-2で得られた着色不織布をコレクタから剥がす前の状態で顔面右頬に貼り付けた。次いで着色不織布からコレクタを剥離除去し、顔の右頬に着色不織布を転写貼り付けた。
次いで、化粧品専門評価者10名に着色不織布貼り付け後の右頬を提示し、左頬との見た目の差及び肌のくすみを観察し、肌色調整効果について、以下の基準で比較評価させた。10名の評価値の合計値を得点とした。
3点:左頬との対比で、右頬は明らかに明るく、化粧をしていない素肌のような透明感と自然さを感じる。
2点:左頬との対比で、右頬は明るく、透明感のある薄化粧が施術されているような自然な印象と感じる。
1点:左頬との対比で、右頬は均一で厚化粧が施術されているような不自然さを感じる。
0点:左頬との対比で違和感があり、右頬だけに化粧が施されていることが明らかに見て取れる。
【0148】
【0149】
表6から、実施例3-1及び3-2で得られる着色不織布は、インクジェット印刷方法による肌色調整効果に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の製造方法により得られる着色不織布は、柔軟性、耐擦過性及び隠蔽性に優れ、さらに、肌との視覚上の一体感、ヒト肌に近い光沢感と透明感を備えるため、使用者の肌に直接貼付して傷等の隠蔽シールとして用いることができ、得られる着色不織布に更に印刷により精密な化粧を施すことにより化粧シールとしても用いることができる。
【符号の説明】
【0151】
30:樹脂溶液型電気紡績装置
40:樹脂溶融型電気紡績装置
31、41:シリンジ
32、42:高電圧源
33、43:コレクタ
44:加熱用ヒーター
31a、41a:シリンダ
31b、41b:ピストン
31c、41c:キャピラリ
32a、42a:正極
32b、42b:負極
50:正方形格子画像
51:正方形格子画像を構成するドット