(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】合成ガスの製造方法および装置
(51)【国際特許分類】
C10K 1/08 20060101AFI20230927BHJP
C01B 3/54 20060101ALI20230927BHJP
C10K 1/34 20060101ALI20230927BHJP
C10K 3/04 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C10K1/08
C01B3/54
C10K1/34
C10K3/04
(21)【出願番号】P 2020005855
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000222174
【氏名又は名称】東洋エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 延弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正和
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-260894(JP,A)
【文献】特表2009-509907(JP,A)
【文献】特表2010-519387(JP,A)
【文献】特表2017-531554(JP,A)
【文献】特表2010-534758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10K 1/00- 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被ガス化原料をガス化し、生成ガスを得るガス化工程と、
前記生成ガスに含まれるCOSを加水分解してH
2SとCO
2とに転換し、COS濃度が低減されたガスを得るCOS転換工程と、
前記COS転換工程の後に、前記COS濃度が低減されたガスに含まれるH
2Sを物理吸収により分離して、H
2S濃度が低減されたガスと、H
2S含有ガスとを得るH
2S分離工程と、
前記H
2S分離工程の後に、前記H
2S濃度が低減されたガスの少なくとも一部に含まれるCO
2を化学吸収により分離して、CO
2濃度が低減されたガスと、CO
2とを得るCO
2分離工程と、
前記CO
2濃度が低減されたガスを、合成ガスの少なくとも一部として得る工程と、
を含
み、
前記H
2
S分離工程でH
2
S濃度が低減されたガスの一部を前記CO
2
分離工程に供し、残部は前記CO
2
分離工程に供さずに前記CO
2
分離工程から得られるCO
2
濃度が低減されたガスと混合し、得られた混合ガスを合成ガスとして得る、化成品原料用の合成ガスの製造方法。
【請求項2】
前記ガス化工程と前記CO
2分離工程との間に、前記COS転換工程とは別に、前記COS濃度が低減されたガスまたは前記H
2S濃度が低減されたガスに含まれるCOをCO
2に変換するCOシフト変換工程を有する請求項
1に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項3】
前記COシフト変換工程として、前記H
2S分離工程と前記CO
2分離工程との間で、前記H
2S濃度が低減されたガスに含まれるCOをCO
2に変換するスイートガスシフト変換工程を有する、請求項
2に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項4】
前記スイートガスシフト変換工程の温度が250℃以上500℃以下である、請求項
3に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項5】
前記H
2S分離工程でH
2S濃度が低減されたガスの一部を前記スイートガスシフト変換工程及びCO
2分離工程に供し、残部は前記スイートガスシフト変換工程及び前記CO
2分離工程に供さずに、前記CO
2分離工程から得られるCO
2濃度が低減されたガスと混合し、得られた混合ガスを合成ガスとして得る工程を有するか、
前記H
2S分離工程でH
2S濃度が低減されたガスの一部を前記スイートガスシフト変換工程及びCO
2分離工程に供し、残部は前記スイートガスシフト変換工程には供するが前記CO
2分離工程に供さずに、前記CO
2分離工程から得られるCO
2濃度が低減されたガスと混合し、得られた混合ガスを合成ガスとして得る工程を有する、請求項
3または
4に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項6】
前記COシフト変換工程として、前記ガス化工程と前記COS転換工程との間で、前記ガス化工程で得られた生成ガスに含まれるCOをCO
2に変換するサワーガスシフト変換工程を有する、請求項
2に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項7】
前記ガス化工程で得られた生成ガスを洗浄する洗浄工程を有する請求項1~
6のいずれか1項に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項8】
前記H
2S分離工程で得られたH
2S含有ガスに含まれるH
2Sから、クラウス反応により、単体硫黄を回収する硫黄回収工程を有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項9】
前記COS転換工程において、クロム系の触媒を用いる請求項1~
8のいずれか1項に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項10】
前記COS転換工程で得られた前記COS濃度が低減されたガスのCOS濃度が0.1ppmv以下である請求項1~
9のいずれか1項に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項11】
被ガス化原料をガス化し、生成ガスを得るガス化炉と、
前記生成ガスに含まれるCOSを加水分解してH
2SとCO
2とに転換し、COS濃度が低減されたガスを得るCOS転換器と、
前記COS転換器の下流に設けられた、前記COS濃度が低減されたガスに含まれるH
2Sを物理吸収により分離して、H
2S濃度が低減されたガスと、H
2S含有ガスとを得るH
2S分離装置と、
前記H
2S分離装置の下流に設けられた、前記H
2S濃度が低減されたガスの少なくとも一部に含まれるCO
2を化学吸収により分離して、CO
2濃度が低減されたガスと、CO
2とを得るCO
2分離装置と、
前記CO
2濃度が低減されたガスを、合成ガスの少なくとも一部として排出するラインと、
を含
み、
前記H
2
S分離装置でH
2
S濃度が低減されたガスの一部を前記CO
2
分離装置に供給し、残部は前記CO
2
分離装置に供給せずに前記CO
2
分離装置から得られるCO
2
濃度が低減されたガスと混合し、得られた混合ガスを合成ガスとして排出するラインを有する、化成品原料用の合成ガスの製造装置。
【請求項12】
前記ガス化炉と前記CO
2分離装置との間に、前記COS転換器とは別に、前記COS濃度が低減されたガスまたは前記H
2S濃度が低減されたガスに含まれるCOをCO
2に変換するCOシフト変換器を有する請求項
11に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項13】
前記COシフト変換器として、前記H
2S分離装置と前記CO
2分離装置との間に設けられた、前記H
2S濃度が低減されたガスに含まれるCOをCO
2に変換するスイートガスシフト変換器を有する、請求項
12に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項14】
前記スイートガスシフト変換器の運転温度が250℃以上500℃以下である、請求項
13に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項15】
前記H
2S分離装置でH
2S濃度が低減されたガスの一部を前記スイートガスシフト変換器及びCO
2分離装置に供給し、残部は前記スイートガスシフト変換器及び前記CO
2分離装置に供給せずに、前記CO
2分離装置から得られるCO
2濃度が低減されたガスと混合し、得られた混合ガスを合成ガスとして排出するラインを有するか、
前記H
2S分離装置でH
2S濃度が低減されたガスの一部を前記スイートガスシフト変換器及びCO
2分離装置に供給し、残部は前記スイートガスシフト変換器には供給するが前記CO
2分離装置に供給せずに、前記CO
2分離装置から得られるCO
2濃度が低減されたガスと混合し、得られた混合ガスを合成ガスとして排出するラインを有する、請求項
13または
14に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項16】
前記COシフト変換器として、前記ガス化炉と前記COS転換器との間に設けられた、前記ガス化炉で得られた生成ガスに含まれるCOをCO2に変換するサワーガスシフト変換器を有する、請求項
12に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項17】
前記ガス化炉で得られた生成ガスを洗浄する洗浄装置を有する請求項
11~
16のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項18】
前記H
2S分離装置で得られたH
2S含有ガスに含まれるH
2Sから、クラウス反応により、単体硫黄を回収する硫黄回収装置を有する、請求項
11~
17のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項19】
前記COS転換器が、クロム系の触媒を含む請求項
11~
18のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項20】
前記COS転換器で得られた前記COS濃度が低減されたガスのCOS濃度が0.1ppmv以下である請求項
11~
19のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ガス、特には、化成品原料用の合成ガス、の製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、石炭や石油等に代表される化石燃料、木質バイオマス、都市ごみ、活性汚泥等の被ガス化原料をガス化して合成ガスを製造することが知られている。合成ガスは、例えば発電プラントの燃料や、メタノール等の化成品の原料として用いられる。合成ガスの製造においては、ガス化によって得られた生成ガスからCO2及びH2Sを分離及び回収することがよく知られている。
【0003】
特許文献1の発電プラントでは、石炭をガス化して得られた生成ガスをCOS転換器で処理し、次いでCOシフト変換器で処理した後に、H2S/CO2回収装置において生成ガス中に含まれるCO2とH2Sとを化学吸収によって同時に除去する。
【0004】
特許文献2の発電プラントでは、脱硫装置と、深冷分離による二酸化炭素回収装置とが別々に設けられており、生成ガス中に含まれるCO2とH2Sとを区別して回収する。
【0005】
特許文献3の発電プラントは、乾式脱硫剤(450℃で用いられるハニカム状の亜鉛フェライト脱硫剤)を備える脱硫装置と、CO2を溶媒に溶解させるCO2吸収塔とが別々に設けられており、CO2とH2Sとが区別して回収される。
【0006】
特許文献4の合成ガスから酸性ガスを分離する方法では、石炭をガス化して得られたH2Sを含む生成ガスをCOシフト変換した後、生成ガス中に含まれるH2Sを物理吸収にて除去し、その後CO2を化学吸収にて除去する。
【0007】
特許文献5の精製合成ガスを製造する方法では、固体燃料等をガス化して得られたH2SおよびCOS等を含む生成ガスを、COシフト変換器内のCOシフト反応触媒に接触させることにより、COシフト反応と同時にCOSをH2Sに変換する。その後、生成ガスを吸収装置内で吸収液(好ましくは物理的溶媒と化学的溶媒とを含む)と接触させ、H2S及びCO2を除去する。
【0008】
特許文献6のメタン製造固体燃料ガス化システムでは、固体燃料をガス化して得られた硫黄分を含む生成ガスを脱硫した後、COシフト変換を行い、その後CO2を化学吸収にて除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-331701号公報
【文献】特開2010-184994号公報
【文献】特開2015-013940号公報
【文献】特開2010-260894号公報
【文献】特開2012-522090号公報
【文献】特開2016-160309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
除去されるCO2及びH2Sも共に有用なガスであり、CO2単体での使用や、硫黄源としての使用等がなされている。したがって、H2S及びCO2を別々に効率よく(すなわち低消費エネルギーで)分離回収することが望まれる。通常、CO2及びH2Sを吸収する吸収液は、吸収と再生を繰り返すように循環使用される。この吸収液の再生に消費されるエネルギーが、分離回収操作の効率に大きく影響する。したがって、CO2及びH2Sを効率よく分離回収するためには、吸収液の循環量を小さくすることが効果的である。
【0011】
また、特に合成ガスを化成品の原料として使用する場合に、合成ガス中のCOSの濃度が低いことが望まれることが多い。COSが、化成品製造のための合成触媒の触媒毒となりうるからである。なお、通常、COSは脱硫器を通過してしまうので、脱硫器によってH2Sは除去できてもCOSの除去は困難である。
【0012】
このように、ガス化で生成したガスから、H2S及びCO2を別々に低消費エネルギーで分離回収することと、COSを低濃度まで除去することとを、両立させることが望まれる。しかし、前述のいずれの文献に開示される技術によっても、これらを両立させることは困難である。
【0013】
そこで本発明では、化石燃料、木質バイオマス、都市ごみ、活性汚泥等の被ガス化原料をガス化したガス(生成ガス)から、H2S及びCO2を別々に低消費エネルギーで分離回収することができ、かつ、良好にCOSを除去することができる化成品原料用の合成ガスの製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、
被ガス化原料をガス化し、生成ガスを得るガス化工程と、
前記生成ガスに含まれるCOSを加水分解してH2SとCO2とに転換し、COS濃度が低減されたガスを得るCOS転換工程と、
前記COS転換工程の後に、前記COS濃度が低減されたガスに含まれるH2Sを物理吸収により分離して、H2S濃度が低減されたガスと、H2S含有ガスとを得るH2S分離工程と、
前記H2S分離工程の後に、前記H2S濃度が低減されたガスの少なくとも一部に含まれるCO2を化学吸収により分離して、CO2濃度が低減されたガスと、CO2とを得るCO2分離工程と、
前記CO2濃度が低減されたガスを、合成ガスの少なくとも一部として得る工程と、
を含む、化成品原料用の合成ガスの製造方法が提供される。
【0015】
本発明の別の態様によれば、
被ガス化原料をガス化し、生成ガスを得るガス化炉と、
前記生成ガスに含まれるCOSを加水分解してH2SとCO2とに転換し、COS濃度が低減されたガスを得るCOS転換器と、
前記COS転換器の下流に設けられた、前記COS濃度が低減されたガスに含まれるH2Sを物理吸収により分離して、H2S濃度が低減されたガスと、H2S含有ガスとを得るH2S分離装置と、
前記H2S分離装置の下流に設けられた、前記H2S濃度が低減されたガスの少なくとも一部に含まれるCO2を化学吸収により分離して、CO2濃度が低減されたガスと、CO2とを得るCO2分離装置と、
前記CO2濃度が低減されたガスを、合成ガスの少なくとも一部として排出するラインと、
を含む、化成品原料用の合成ガスの製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、化石燃料、木質バイオマス、都市ごみ、活性汚泥等の被ガス化原料をガス化したガス(生成ガス)から、H2S及びCO2を別々に低消費エネルギーで分離回収することができ、かつ、良好にCOSを除去することができる化成品原料用の合成ガスの製造方法及び装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の合成ガス製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
【
図2】本発明の合成ガス製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
【
図3】比較例における合成ガス製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の合成ガスの製造方法は以下の工程を含む。
被ガス化原料をガス化し、生成ガスを得るガス化工程。
前記生成ガスに含まれるCOSを加水分解してH2SとCO2とに転換し、COS濃度が低減されたガスを得るCOS転換工程。
前記COS転換工程の後に、前記COS濃度が低減されたガスに含まれるH2Sを物理吸収により分離して、H2S濃度が低減されたガスと、H2S含有ガスとを得るH2S分離工程。
前記H2S分離工程の後に、前記H2S濃度が低減されたガスの少なくとも一部に含まれるCO2を化学吸収により分離して、CO2濃度が低減されたガスと、CO2とを得るCO2分離工程。
前記CO2濃度が低減されたガスを、合成ガス(製品)の少なくとも一部として得る工程。
【0019】
本方法では、前記H2S分離工程でH2S濃度が低減されたガスの一部を前記CO2分離工程に供し、残部は前記CO2分離工程に供さずに(バイパスして)前記CO2分離工程から得られるCO2濃度が低減されたガスと混合し、得られた混合ガスを合成ガスとして得ることができる。
【0020】
本方法は、前記ガス化工程と前記CO2分離工程との間に、前記COS転換工程とは別に、前記COS濃度が低減されたガスまたは前記H2S濃度が低減されたガスに含まれるCOをCO2に変換するCOシフト変換工程を有することができる。
【0021】
本発明の合成ガスの製造装置は、以下のものを含む。
被ガス化原料をガス化し、生成ガスを得るガス化炉。
前記生成ガスに含まれるCOSを加水分解してH2SとCO2とに転換し、COS濃度が低減されたガスを得るCOS転換器。
前記COS転換器の下流に設けられた、前記COS濃度が低減されたガスに含まれるH2Sを物理吸収により分離して、H2S濃度が低減されたガスと、H2S含有ガスとを得るH2S分離装置。
前記H2S分離装置の下流に設けられた、前記H2S濃度が低減されたガスの少なくとも一部に含まれるCO2を化学吸収により分離して、CO2濃度が低減されたガスと、CO2とを得るCO2分離装置。
前記CO2濃度が低減されたガスを、合成ガス(製品)の少なくとも一部として排出するライン。
【0022】
本装置は、前記H2S分離装置でH2S濃度が低減されたガスの一部を前記CO2分離装置に供給し、残部は前記CO2分離装置に供給せずに(バイパスして)前記CO2分離装置から得られるCO2濃度が低減されたガスと混合し、得られた混合ガスを合成ガスとして排出するラインを有することができる。
【0023】
本装置は、前記ガス化炉と前記CO2分離装置との間に、前記COS転換器とは別に、前記COS濃度が低減されたガスまたは前記H2S濃度が低減されたガスに含まれるCOをCO2に変換するCOシフト変換器を有することができる。
【0024】
本発明では、H2S分離(物理吸収)と、CO2分離(化学吸収)とを別々に行う。これにより、H2SおよびCO2分離のための吸収液の循環量を低減することができる。これはH2SおよびCO2分離の低エネルギー化に資する。H2S分離と、CO2分離とで、異なる吸収液を用いることができる。
また、H2S分離の前に、COシフト変換とは別の工程として、COS転換を行う。これにより、製品としての合成ガス中のCOS濃度を低減することができる。COS転換によって生成したH2Sは物理吸収によって分離される。COS転換と、COシフト変換とで、異なる触媒を用いることができる。
【0025】
なお、特許文献5に開示されるように、COシフト変換を行う際に、それに伴ってCOS転換反応が進行する旨の説がある。しかし、仮にCOシフト変換に伴ってCOS転換反応が進行したとしても、化成品製造用合成ガスの製造に好適な程度の低レベルまでCOS濃度を減少させることは困難である。
また、特許文献3に開示されるように高温の乾式脱硫を行う場合と比較して、本発明では湿式脱硫(物理吸収)を行う。湿式脱硫(物理吸収)では、吸収液を適宜循環させることによって気液接触を良好に行うことが容易で、乾式脱硫に比べて合成ガス中のH2S濃度を低くすることが容易である。また、湿式脱硫(物理吸収)は商業的に多数の使用実績があり、信頼性の高い技術であると言える。
【0026】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の合成ガス製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
第1実施形態に係る合成ガス製造方法は、
化石燃料、木質バイオマス、都市ごみ、活性汚泥等の被ガス化原料をガス化し、生成ガス1を得るガス化工程Gと、
得られた生成ガス1を洗浄する洗浄工程(特には水洗工程)W1と、
洗浄工程W1で洗浄した生成ガス1中のCOSを加水分解してH
2SとCO
2とに転換し、COS濃度が低減されたガス(H
2SとCO
2とを含む生成ガス2)を得るCOS転換工程Aと、
生成ガス2を洗浄する洗浄工程(特には水洗工程)W2と、
洗浄工程W2で洗浄した生成ガス2からH
2Sを物理吸収によって分離して、H
2S濃度が低減されたガス(生成ガス3)と、H
2S含有ガスとを得るH
2S分離工程Bと、
COS転換工程Bとは別に、生成ガス3中のCOをCO
2に変換し、生成ガス4を得るシフト変換工程(スイートガスシフト変換工程)S1と、
生成ガス4中のCO
2を化学吸収によって分離して、CO
2濃度が低減されたガスと、CO
2とを得るCO
2分離工程C
を有する。
そして、前記CO
2濃度が低減されたガスを、合成ガス(製品)の少なくとも一部として得る。
【0027】
(ガス化工程G)
まず、ガス化工程Gにおいて、化石燃料、木質バイオマス、都市ごみ、活性汚泥等の被ガス化原料をガス化し、生成ガス1を得る。
具体的には、被ガス化原料を高温高圧下で部分燃焼(酸化)させることで、水素(H2)、一酸化炭素(CO)等を含む生成ガス1が得られる。この生成ガス1は、H2S、CO2、COS等も含んでいる。
なお、化石燃料としては、例えば、石炭、石油(重質油や軽質油)、ビチューメン、タール等を挙げることができる。
例えば生成ガス1には、次のものが含まれる(含有量の値は体積基準)。
H2:40~60%
CO:20~30%
CO2:4~5%
H2S:100~10000ppm、典型的には1000ppm程度
COS:5~500ppm、典型的には50ppm程度。
ガス化工程Gを行うために、合成ガス製造の分野で公知のガス化炉を用いることができる。
【0028】
(洗浄工程W1)
次に、洗浄工程W1において、生成ガス1を洗浄し、生成ガス1中に含まれている煤や重金属等の不純物を除去する。
本工程では、生成ガス1に洗浄剤を接触させて、生成ガス1中の比較的微細な不純物を吸収、除去する湿式の洗浄装置(洗浄集塵装置とも呼ばれる)を用いることができる。このような洗浄集塵装置としては、例えば、スプレー塔、充填塔、サイクロンスクラバー、ジェットスクラバー、回転洗浄機、ベンチュリースクラバー等を用いることができる。
洗浄剤としては、公知のものを用いることができるが、水を用いるのが好ましい。すなわち本工程では水洗を行うことが好ましく、図面には工程W1として「水洗」と表示してある(工程W2についても同様)。
また、洗浄剤として水を用いる場合の湿式洗浄集塵装置の運転温度は、100℃以上250℃以下であるのが好ましく、120℃以上200℃以下であるのがより好ましい。
【0029】
(COS転換工程A)
次に、COS転換工程Aにおいて、生成ガス1中に含まれるCOSを加水分解し、生成ガス2を得る。
本工程では、下記反応式(1)で表されるように、COSを加水分解することで、H2SとCO2とを生成する。
COS+H2O → H2S+CO2 (1)
本工程は、COS転換を促進する触媒が充填されたCOS転換器内において行うことができる。
COS転換触媒としては、例えば、クロム系の触媒などを用いることが好ましい。なお、例えば、COS転換反応にはクロム系の触媒を用い、COシフト反応には後述のように主に鉄系もしくは銅系の触媒を用いることができる。このように、COS転換触媒とCOシフト反応触媒とに、それぞれの反応に活性を示す相異なる触媒を用いることができる。これにより、COシフト変換器ではCOシフト反応を促進するが、COS転換器ではCOシフト反応を促進しないようにすることができる。
また、洗浄工程W1の水洗により、生成ガス1は加湿されているため、反応に必要なH2Oは、本工程で別途供給する必要を無くすことができる。ただし、必要に応じて別途水を供給してもよい。
COS転換器にて、合成ガス製造装置の下流に設置される化成品合成触媒の触媒被毒抑制の観点から、許容されるレベルまでCOSがH2Sに転換される。本工程の後の残留COS濃度(体積基準)は、この観点から0.1ppm以下であることが好ましく、0.01ppm以下がより好ましい。
また、本工程におけるCOS転換器内の温度は、180℃以上300℃以下であるのが好ましく、180℃以上250℃以下であるのがより好ましい。COS転換器の温度は、反応平衡上は低温が望ましく、反応速度上は高温が望ましく、これらの観点から上記温度範囲が好ましい。
【0030】
(洗浄工程W2)
次に、洗浄工程W2において、生成ガス2を洗浄する。
本工程の洗浄は、上記工程W1と同様の装置を用いて行うことができる。
また、洗浄は、上記工程W1と同様に水で行うのが好ましい。
また、本洗浄工程W2の洗浄剤として水を用いる場合の湿式洗浄集塵装置の運転温度は、上記工程W1における運転温度よりも低い温度であるのが好ましく、30℃以上60℃以下であるのがより好ましい。これにより、生成ガス2の温度を低下させ、工程BにおいてH2Sを物理吸収する効率を向上させることができる。
【0031】
(H2S分離工程B)
次に、H2S分離工程Bにおいて、工程W2を経た生成ガス2からH2Sを物理吸収によって分離して、H2S濃度が低減された生成ガス3と、H2S含有ガスを得る。
H2Sの物理吸収は、例えば、レクチゾールプロセス(吸収液:メタノール)、セレクソールプロセス(吸収液:ポリエチレングリコールジメチルエーテル溶液)等を用いて行うことができる。
物理吸収の具体的な方法としては、例えば、物理吸収が行われるH2S分離装置内を循環させた吸収液と、H2S分離装置内に導入された生成ガス3とを接触させる気液接触(気液接触塔)によって行うことができる。
H2Sの物理吸収は、1℃以上55℃以下で行うのが好ましく、3℃以上20℃以下で行うのがより好ましい。これにより、H2Sの吸収率をより高いものとすることができる。
その後、H2Sを吸収した吸収液は、加熱等されることにより、H2S含有ガスが分離回収され、かつ、吸収液が再生される。H2S含有ガスは、後述のように例えばクラウス反応によって処理することができ、あるいはLo-CAT法(低H2S濃度のH2S含有ガスに対応可能)で処理することができる。
H2S含有ガス中のH2S濃度は、例えば10モル%以上50モル%未満である。H2S含有ガス中のH2S以外の成分としては、例えば、CO等の微量成分が存在してもよいが、CO2が大部分である。
H2S分離装置としては、合成ガス製造の分野で公知の物理吸収によるH2S分離装置を使用することができる。
【0032】
(スイートガスシフト変換工程S1)
次に、スイートガスシフト変換工程S1において、生成ガス3中のCOをCO2に変換し、生成ガス4を得る。
COのCO2への変換は、スイートガスシフト変換器におけるCOシフト反応により行われる。
COシフト反応は、下記反応式(2)で表される。
CO+H2O → CO2+H2 (2)
なお、COシフト反応は、一般的に触媒存在下で行われる。
触媒は、スイートガスシフト変換器内に充填されている。
触媒としては、鉄系特には酸化鉄(Fe2O3)系、または銅系などの触媒を使用することが望ましい。
具体的には、本工程では、触媒が充填されたCOシフト変換器(スイートガスシフト変換器)内に、生成ガス3と水蒸気を導入することで、上記COシフト反応を進行させ、生成ガス4を得ることができる。
また、本工程におけるスイートガスシフト変換器の温度は、触媒活性の観点から、250℃以上500℃以下であるのが好ましい。
【0033】
(CO2分離工程C)
次に、CO2分離工程Cにおいて、生成ガス4中のCO2を化学吸収により、分離する。これにより、CO2濃度が低減されたガス(合成ガス)と、CO2が得られる。
CO2の化学吸収の方法としては、例えば、アミン等のアルカリ性水溶液(吸収液)を循環させ、吸収液と生成ガス4とを接触させ、吸収液にCO2を選択的に吸収させることにより行う方法等が挙げられる。その後、CO2を吸収した液を加熱して、CO2を分離・回収する。
本工程は、吸収塔(気液接触塔)を備える、化学吸収による公知のCO2分離装置を用いて行うことができる。本工程の化学吸収の際の吸収塔塔頂温度は、30℃以上60℃以下であるのが好ましく、40℃以上55℃以下であるのがより好ましい。
【0034】
(製品としての合成ガス)
前記CO2濃度が低減されたガスを、合成ガス(製品)の少なくとも一部として得る。CO2が除去された合成ガス(特にはその中のH2)は、メタノール、アンモニア、及びこれらの派生品(例えば、酢酸、ギ酸)等の化成品の原料として活用することができる。合成ガスを複合ガス発電等の発電のための燃料として利用してもよい。
合成ガス(製品)中のH2S濃度(体積基準)としては、後段の化成品の合成触媒の触媒毒となることを抑制する観点から、0.1ppm以下が好ましい。
合成ガス(製品)中のCOS濃度(体積基準)としては、0.1ppm以下であることが好ましく、0.01ppm以下がより好ましい。
【0035】
(硫黄回収工程D)
H2S分離工程Bにおいて分離されたH2S含有ガス中のH2Sからクラウス反応により単体硫黄を回収することができる。したがって本発明に係る方法は、H2S分離工程Bにおいて分離されたH2S含有ガス中のH2Sを、クラウス反応により、単体硫黄とCO2に変換し、それぞれ別に回収する、硫黄回収工程Dを有していてもよい。これにより、CO2の回収効率を向上させるとともに、単体硫黄についても有効に活用することができる。
工程Dにおけるクラウス反応に供されるH2S含有ガスのH2Sの濃度は、クラウス反応を促進する観点から、10モル%以上であるのが好ましく、20モル%以上であるのがより好ましい。
硫黄回収工程を行う硫黄回収装置として、合成ガス製造の分野で公知の硫黄回収装置を用いることができる。
【0036】
(製品合成ガス、CO
2分離工程Cのバイパス)
CO
2分離工程Cから得られるCO
2濃度が低減されたガスを、製品としての合成ガスの一部もしくは全部として得る。このためのラインとして、CO
2分離装置の出口から、CO
2濃度が低減されたガスを排出するラインを使用することができる。このラインは、
図1において、CO
2分離を示すブロックと合成ガスを示すブロックとを結ぶ実線で示される。
H
2S分離工程B及びスイートガスシフト変換工程S1の後のガス(生成ガス4)の全量を、CO
2分離工程Cに供してもよい。この場合は、工程Cから得られたガスをそのまま製品(合成ガス)とすることができる。
あるいは、H
2S分離工程B及びスイートガスシフト変換工程S1の後のガス(生成ガス4)の一部は工程Cに供し、残部は工程Cに供さずに(すなわち工程Cをバイパスさせて)、工程Cから得られたCO
2濃度が低減されたガスと合流(混合)させてもよい。この場合、得られた混合ガスを製品(合成ガス)とすることができる。このとき、バイパス比を調整することによって、所望の化成品の組成に合わせて、合成ガスの組成を調整することが可能である。この場合のバイパスラインを、
図1において破線で示す。
あるいは、H
2S分離工程Bの後のガス(生成ガス3)の一部を工程S1及び工程Cに供し、残部は工程S1及び工程Cに供さずに(すなわち工程S1及び工程Cをバイパスさせて)、工程Cから得られたCO
2濃度が低減されたガスと合流(混合)させてもよい。この場合、得られた混合ガスを製品(合成ガス)とすることができる。このときも、バイパス比を調整することによって、所望の化成品の組成に合わせて、合成ガスの組成を調整することが可能である。この場合のバイパスラインを、
図1において一点鎖線で示す。
【0037】
上記のような合成ガス製造方法において、生成ガス1(化石燃料等をガス化したガス)に含まれる炭素原子の最終的な回収率は、50%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。本発明によれば、多大なエネルギーを掛けなくても、炭素原子の回収率を高くすることが可能である。「炭素原子の回収率」は、生成ガス1(化石燃料等をガス化したガス)中の炭素原子の量(数)に対する合成ガス(製品)中の炭素原子の量(数)の割合を意味する。
【0038】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の合成ガス製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
第2実施形態に係る合成ガス製造方法は、
被ガス化原料をガス化し、生成ガス1を得るガス化工程Gと、
得られた生成ガス1を洗浄する洗浄工程(特には水洗工程)W1と、
COS転換工程とは別に、洗浄工程W1で洗浄した生成ガス1中のCOをCO
2に変換し、生成ガス2’を得るシフト変換工程(サワーガスシフト変換工程)S2と、
生成ガス2’中のCOSを加水分解してH
2SとCO
2とに転換し、COS濃度が低減されたガス(H
2SとCO
2とを含む生成ガス3’)を得るCOS転換工程Aと、
生成ガス3’を洗浄する洗浄工程(特には水洗工程)W2と、
洗浄工程W2で洗浄した生成ガス3’からH
2Sを物理吸収によって分離して、H
2S濃度が低減されたガス(生成ガス4’)と、H
2S含有ガスとを得るH
2S分離工程Bと、
生成ガス4’中のCO
2を化学吸収によって分離して、CO
2濃度が低減されたガスと、CO
2とを得るCO
2分離工程Cと、
を有する。
そして、前記CO
2濃度が低減されたガスを、合成ガス(製品)の少なくとも一部として得る。
【0039】
(ガス化工程G及び洗浄工程W1)
ガス化工程G及び洗浄工程W1は、前述した第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0040】
(サワーガスシフト変換工程S2)
サワーガスシフト変換工程S2では、洗浄した生成ガス1中のCOをCO2に変換し、生成ガス2’を得る。
本工程は、前述した第1実施形態の工程S1と同様に、COシフト反応によって、行われる。ただし、サワーガスシフト変換工程S2の反応温度は、具体的には触媒の活性の観点から250℃以上500℃以下が好ましい。触媒としては、コバルトモリブデン系触媒を用いることができる。
【0041】
(COS転換工程A)
COS転換工程Aでは、生成ガス2’中のCOSを加水分解し、H2SとCO2とを生成し、生成ガス3’を得る。
本工程は、前述した第1実施形態の工程Aと同様に、反応式(1)によって、行われる。
【0042】
(洗浄工程W2)
洗浄工程W2では、生成ガス3’を洗浄する。
洗浄は、第1実施形態の工程W2と同様に水で行うのが好ましい。
また、本形態の洗浄工程W2の運転温度は、第1実施形態と同様に、本形態の工程W1における運転温度よりも低い温度であるのが好ましく、30℃以上60℃以下であるのがより好ましい。
【0043】
(H2S分離工程B)
H2S分離工程Bでは、前述した第1実施形態と同様に、工程W2で洗浄した生成ガス3’から物理吸収によりH2Sを分離して、H2S濃度が低減された生成ガス4’と、H2S含有ガスを得る。
物理吸収の方法としては、前述した第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
なお、工程Bにおいて分離されたH2S含有ガス中のH2Sは、第1実施形態と同様に、クラウス反応により、単体硫黄とCO2に変換され、それぞれ別に回収される(硫黄回収工程D)。これにより、CO2の回収効率を向上させるとともに、単体硫黄についても有効に活用することができる。
【0044】
(CO2分離工程C)
CO2分離工程Cでは、前述した第1実施形態と同様に、生成ガス4’中のCO2を化学吸収により、分離する。これにより、CO2濃度が低減されたガス(合成ガス)と、CO2が得られる。
CO2が除去された合成ガス(特にはその中のH2)は、第1実施形態と同様に、化成品の原料として活用することができる。合成ガスを複合ガス発電等の発電のための燃料として利用してもよい。
【0045】
(製品合成ガス、CO
2分離工程Cのバイパス)
CO
2分離工程Cから得られるCO
2濃度が低減されたガスを、製品としての合成ガスの一部もしくは全部として得る。このためのラインとして、CO
2分離装置の出口から、CO
2濃度が低減されたガスを排出するラインを使用することができる。このラインは、
図2において、CO
2分離を示すブロックと合成ガスを示すブロックとを結ぶ実線で示される。
H
2S分離工程Bの後のガス(生成ガス4’)の全量を、CO
2分離工程Cに供してもよい。この場合は、工程Cから得られたガスをそのまま製品(合成ガス)とすることができる。
あるいは、H
2S分離工程Bの後のガス(生成ガス4’)の一部は工程Cに供し、残部は工程Cに供さずに(すなわち工程Cをバイパスさせて)、工程Cから得られたガスと合流(混合)させてもよい。この場合、得られた混合ガスを製品(合成ガス)とすることができる。このとき、バイパス比を調整することによって、所望の化成品の組成に合わせて、合成ガスの組成を調整することが可能である。この場合のバイパスラインを
図2において破線で示す。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、合成ガス製造の分野で公知の工程や装置が適宜追加されてもよい。
【実施例】
【0047】
以下に本発明に基づく実施例について具体的に記載する。
実施例1、2及び比較例1では、それぞれ化成品原料用の合成ガスの製造についてプロセスシミュレーションを行った。いずれの例でも、化成品としてメタノールを5000Mt/d製造すると想定した。なお、COS転換工程Aではクロム系触媒を、スイートガスシフト変換工程S1では鉄系触媒、サワーガスシフト変換工程S2ではコバルトモリブデン系触媒を用いることを想定した。
メタノール製造用合成ガスの組成に関しては、以下に示すR値を用いて検討する。メタノール合成の理論値は、R=2であるが、実際のメタノール製造プラントではR値は理論値よりやや大きい値となる。
R値=(H2のモル流量-CO2のモル流量)/(COのモル流量+CO2のモル流量)
【0048】
<実施例1>
図1に示す合成ガス製造方法において、以下に示す条件で、生成ガス1に含まれる炭素原子の最終的な回収率を60%としたときのH
2S物理吸収(工程B)及びCO
2化学吸収(工程C)の各吸収液の循環量を求めた。
ガス化炉で生成される生成ガス1のフローレート:25088kgmol/h
H
2S物理吸収の吸収液の種類:ジメチルポリエチレングリコール水溶液
CO
2化学吸収の吸収液の種類:MDEA(N-メチルジエタノールアミン)水溶液
洗浄工程W1における運転温度:170℃(水洗)
COS転換工程Aにおける反応容器内の温度:210℃
洗浄工程W2における運転温度:45℃(水洗)
H
2S分離工程B(物理吸収)における運転温度:12℃
スイートガスシフト変換工程S1における反応容器内の温度:350℃
CO
2分離工程C(化学吸収)における運転温度:40℃
【0049】
<実施例2>
図2に示す合成ガス製造方法において、以下に示す条件で、生成ガス1に含まれる炭素原子の最終的な回収率を60%としたときのH
2S物理吸収及びCO
2化学吸収の各吸収液の循環量を求めた。
ガス化炉で生成される生成ガス1のフローレート:25088kgmol/h
H
2S物理吸収の吸収液の種類:ジメチルポリエチレングリコール水溶液
CO
2化学吸収の吸収液の種類:MDEA水溶液
洗浄工程W1における運転温度:180℃(水洗)
サワーガスシフト変換工程S2における反応容器内の温度:250℃
COS転換工程Aにおける反応容器内の温度:210℃
洗浄工程W2における運転温度:45℃(水洗)
H
2S分離工程B(物理吸収)における運転温度:12℃
CO
2分離工程C(化学吸収)における運転温度:40℃
【0050】
<比較例1>
比較例1では、
図3に示す合成ガス製造方法を採用した。工程G~工程W2までは実施例2と同様である。工程W2の後、実施例2ではH
2S分離工程(物理吸収)とCO
2分離工程(化学吸収)を別別に行っているが、本例では、H
2S分離工程、CO
2分離工程のいずれも物理吸収によって分離した。
本例では、
図3に示すプロセスにおいて、以下に示す条件で、生成ガス1に含まれる炭素原子の最終的な回収率を60%としたときの各物理吸収の吸収液の循環量を求めた。
ガス化炉で生成される生成ガス1のフローレート:25088kgmol/h
H
2S物理吸収の吸収液の種類:ジメチルポリエチレングリコール水溶液
CO
2物理吸収の吸収液の種類:ジメチルポリエチレングリコール水溶液
洗浄工程W1における運転温度:180℃(水洗)
サワーガスシフト変換工程S2における反応容器内の温度:250℃
COS転換工程Aにおける反応容器内の温度:210℃
洗浄工程W2における運転温度:45℃(水洗)
H
2S物理吸収における運転温度:27℃
CO
2物理吸収における運転温度:10℃
【0051】
各実施例及び比較例の合成ガスのR値、各吸収液の循環量を表1に示す。各吸収液の循環量が多いほど、吸収液の再生(H
2S及びCO
2の回収)にエネルギーを必要とする。
【表1】
【0052】
実施例1,2及び比較例1では、メタノール合成用の合成ガスとして適切な原料ガスが得られているが、実施例1のR値は2.35であり、とりわけ実施例1の合成ガスがメタノール合成用として優れている。
【0053】
実施例では、吸収液の総循環量を少なくすることができた。すなわち、多くのエネルギーを掛けなくても、H2S及びCO2を別々に回収することができ、H2S及びCO2の分離回収の効率が良好であると言える。特に、吸収液総循環量は実施例1が最も少ない。
実施形態2(実施例2)のようにCOS転換工程より前にCOシフト変換工程を行う場合と比較して、実施形態1(実施例1)のようにCOS転換工程より後にCOシフト変換工程を行うほうが好ましい。実施形態1(実施例1)ではCOS転換工程より後にCOシフト変換工程を行うため、実施形態2(実施例2)に比べ、H2S分離(物理吸収)工程において、CO2量が少なく(処理すべきガス中のCO2濃度が低い)、CO2の物理吸収量が少なくなり、結果として、H2S物理吸収液循環量も少なくなる。
【0054】
なお、COS転換しない場合は、生成ガス1中に含まれるCOSがそのまま合成ガス(製品)に残ることになる。従い、典型的には、生成ガス1中のCOS濃度と合成ガス(製品)のCOS濃度は同レベルとなる。