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特許7356364六方晶窒化ホウ素粉末、及び六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法
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  • 特許-六方晶窒化ホウ素粉末、及び六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末、及び六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
C01B21/064 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020010293
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021116203
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160134(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066277(WO,A1)
【文献】特開2007-308360(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145869(WO,A1)
【文献】特開2004-250264(JP,A)
【文献】特開平11-029307(JP,A)
【文献】特開2018-108970(JP,A)
【文献】特開2015-212217(JP,A)
【文献】特開2017-165609(JP,A)
【文献】特開2019-206455(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038512(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比が1以下である、六方晶窒化ホウ素粉末であって、
複数の一次粒子が凝集した凝集塊の含有量が8質量%以下であり、
前記平均長径は、前記六方晶窒化ホウ素粉末の走査型電子顕微鏡による観察を10視野で行い、各視野において、粒子の円板方向が確認できる粒子10個を対象とし、その長辺を測定して、平均した値である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
前記一次粒子の平均粒径が2.0~35μmであり、
前記平均粒径は、ISO 13320:2009に準拠し、レーザー回折散乱法によって測定して、その体積統計値によるメジアン値(d50)である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
比表面積が2.0m/g未満である、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
カーボンブラック及びアセチレンブラックの少なくとも一方と、ホウ酸及び酸化ホウ素の少なくとも一方と、を含む原料粉末を、窒素及びアンモニアの少なくとも一方を含むガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上の温度で加熱処理して第一の加熱処理物を得る第一工程と、
前記第一工程よりも高く、1850℃未満の温度で前記第一の加熱処理物を加熱処理して第二の加熱処理物を得る第二工程と、
前記第二工程よりも高い温度で、前記第二の加熱処理物を焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る第三工程と、を有する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項5】
前記第三工程における焼成温度が1850~2100℃である、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六方晶窒化ホウ素粉末、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素を用いて製造される焼結体は、快削性等の機械加工性に優れるため種々の形状に加工することができる。当該焼結体はまた、窒化ホウ素を含むことから、潤滑性、高熱伝導性、絶縁性、及び化学的安定性等に優れるため、固体潤滑材、溶融ガス及びアルミニウム等に対する離型材、及び反応容器等の種々の用途への展開が期待される。
【0003】
焼結体の機械的強度の向上を図る技術として、例えば、特許文献1に、窒化硼素粉末と硼素粉末とからなる原料粉末を、窒素ガス、一酸化炭素ガス、及び不活性ガスからなる群から選ばれる一種類以上のガスの存在下で、加圧焼結してなる窒化硼素焼結体の製造方法であって、前記窒化硼素粉末の酸素量が1.5質量%以上であることを特徴とする窒化硼素焼結体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-250264号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、密度に対するショア硬さに優れる焼結体を製造可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。本開示はまた、上述のような六方晶窒化ホウ素粉末を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比が1以下である、六方晶窒化ホウ素粉末を提供する。
【0007】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差が1以下であることから、従来の六方晶窒化ホウ素粉末に比べて粒子径のばらつきが抑制されている。このため、上記六方晶窒化ホウ素粉末を用いた場合、得られる焼結体は、従来の窒化ホウ素を用いて同一密度で得られる焼結体よりもショア硬さに優れる。
【0008】
上記一次粒子の平均粒径が2.0~35μmであってよい。
【0009】
上記六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積が2.0m/g未満であってよい。比表面積が上記範囲内であると、微粉の含有量が低く、焼結体原料により適する。
【0010】
本開示の一側面は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む原料粉末を、窒素含有化合物を含むガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上の温度で加熱処理して第一の加熱処理物を得る第一工程と、上記第一工程よりも高く、1850℃未満の温度で第一の加熱処理物を加熱処理して第二の加熱処理物を得る第二工程と、上記第二工程よりも高い温度で、上記第二の加熱処理物を焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る第三工程と、を有する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法を提供する。
【0011】
上記六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、第一工程及び第二工程において原料粉末を加熱処理し、その後、より高温で焼成する工程を含むことによって、上述のような六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができる。また上記六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法によれば、従来の製造方法に比べて、粒径及び粒子形状等の点で均一性に優れる六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができる。
【0012】
上記第三工程における焼成温度は1850~2100℃であってよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、密度に対するショア硬さに優れる焼結体を製造可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供することができる。本開示によればまた、上述のような六方晶窒化ホウ素粉末を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、比較例1で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0016】
本明細書において「○○~△△」で示される数値範囲は特に断らない限り、「○○以上△△以下」を意味する。本明細書における「部」又は「%」は特に断らない限り、質量基準である。また本明細書における圧力の単位は、特に断らない限り、ゲージ圧であり、「G」又は「gage」といった表記を省略する。
【0017】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0018】
六方晶窒化ホウ素粉末の一実施形態は、一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比が1以下である。ここで、一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比とは、[一次粒子の長径の標準偏差σ]/[一次粒子の平均長径]で表される値を意味する。
【0019】
上記六方晶窒化ホウ素粉末を用いて製造される焼結体は、従来の六方晶窒化ホウ素粉末を用いて製造される、同程度の密度を有する焼結体に比べてショア硬さに優れる。
【0020】
一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比は1以下であるが、一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比の上限値は、例えば、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、又は0.5以下であってよい。上記上限値が上記範囲内であると、一次粒子の長径のばらつきがより低減し、焼結体の密度に対するショア硬さをより向上させることができる。一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.2以上、又は0.3以上であってよい。一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.2~1、0.2~0.8、又は0.3~0.5であってよい。一次粒子に関する上記比は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を製造する際の加熱温度及び加熱時間などを調整することによって制御できる。
【0021】
六方晶窒化ホウ素は一次粒子の粒子形状のばらつきが小さなものであってよい。六方晶窒化ホウ素の一次粒子の形状は、例えば、鱗片状及び円盤状等であってよい。一次粒子の長径に対する周囲長と円周率との差の絶対値(|[一次粒子の周囲長]/[一次粒子の長径]-円周率|で表される絶対値)を個別の粒子で測定した時の平均値が小さな値であってよい。上記平均値の上限値は、例えば、0.22以下、0.21以下、又は0.20以下であってよい。一次粒子に関する上記平均値の上限値が上記範囲内であることによって、一次粒子の形状のばらつきが低く、焼結体用の原料としてより好適である。上記平均値の下限値は、限りなく小さい方が望ましいが、例えば、0.03以上、又は0.04以上であってよい。一次粒子に関する上記平均値の下限値が上記範囲内であることによって、焼結体をより均一な組織構造とすることができ、ショア硬さのばらつきが低減できる。一次粒子の長径に対する周囲長の平均値は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.03~0.22、又は0.04~0.21であってよい。一次粒子に関する上記平均値は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を製造する際の原料粉末の成分及び組成(例えば、ホウ酸量等)、並びに加熱温度及び加熱時間などを調整することによって制御できる。
【0022】
本明細書において一次粒子の長径、長径の標準偏差、及び周囲長は、六方晶窒化ホウ素粉末に対する走査型電子顕微鏡による観察によって決定される値を意味する。具体的には、少量の六方晶窒化ホウ素粉末をカーボンテープに付着させ、エアダスターで過剰分を吹き飛ばす。その後、上記カーボンテープの上記六方晶窒化ホウ素粉末が付着した面上に、オスミウムコーティングを施して、走査型電子顕微鏡観察用の測定サンプルを調製する。なお、六方晶窒化ホウ素粉末によって、カーボンテープ上への分散が不十分な場合には、あらかじめエタノール等の溶媒に六方晶窒化ホウ素粉末を分散させた分散液を調製し、当該分散液をカーボンテープ上に滴下し、溶媒を揮発することによって測定サンプルを調製してもよい。走査型電子顕微鏡観察の観測倍率は、300~1000倍としてよく、支障がなければ500倍とすることが望ましい。取り込んだ画像中の100個以上の粒子を対象として、画像解析ソフトウエア(Mac-View)を用いて画像解析を行い、上述の値を決定する。なお、一次粒子の長径は、観測される一粒子の中で最も遠い2点間の距離を意味する。
【0023】
六方晶窒化ホウ素粉末における一次粒子の平均粒径(メジアン径、d50)の上限値は、例えば、35μm以下、30μm以下、25μm以下、又は20μm以下であってよい。一次粒子の平均粒径の上限値が上記範囲内であることで、六方晶窒化ホウ素粉末を用いて形成される焼結体の組織をより緻密なものとすることができ、ショア硬さをより向上できる。上記一次粒子の平均粒径の下限値は、例えば、2.0μm以上、4.0μm以上、6.0μm以上、又は9.0μm以上であってよい。一次粒子の平均粒径の下限値が上記範囲内であることによって、同じく六方晶窒化ホウ素粉末を用いて形成される焼結体の組織をより緻密なものとすることができ、ショア硬さをより向上できる。上記一次粒子の平均粒径は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2.0~35μm、2.0~30μm、又は9.0~30μmであってよい。一次粒子の平均粒径は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を製造する際の原料粉末の成分及び組成(例えば、ホウ酸量等)、並びに加熱温度及び加熱時間などを調整することによって制御できる。
【0024】
本明細書において一次粒子の平均粒径は、ISO 13320:2009に準拠し、粒度分布測定機(日機装株式会社製、商品名:MT3300EX)を用いて測定するものとする。上記測定で得られる平均粒径は、体積統計値による平均粒径であり、平均粒径はメジアン値(d50)である。粒度分布測定に際し、該凝集体を分散させる溶媒には水を、分散剤にはヘキサメタリン酸を用いる。このとき水の屈折率には1.33を、また、六方晶窒化ホウ素粉末の屈折率については1.80の数値を用いる。
【0025】
六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積の上限値は、例えば、2.0m/g未満、1.5m/g以下、又は0.8m/g以下であってよい。六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積の上限値が上記範囲内であると、当該六方晶窒化ホウ素粉末を用いて得られる焼結体は、焼結体組織をより一層均一性に優れるものとすることができ、ショア硬さを更に向上させることができ、またショア硬さのばらつきを更に低減ができる。上記比表面積の下限値は、例えば、0.1m/g以上、0.2m/g以上、又は0.3m/g以上であってよい。六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積の下限値が上記範囲内であると、粗大粒子が少なく、焼結体の密度をより向上できる。上記比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.1m/g以上2.0m/g未満、又は0.2~1.5m/g以上であってよい。六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、例えば、原料粉末を加熱処理して一次粒子を形成させる際の加熱温度及び加熱時間を調整すること(比較的低温で長時間の加熱処理を行う等)等によって制御できる。
【0026】
本明細書において六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、JIS Z 8803:2013に準拠し、測定装置を用い測定するものとする。当該比表面積は、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出した値である。
【0027】
六方晶窒化ホウ素粉末の純度の下限値は、例えば、98質量%以上、又は99質量%以上であってよい。六方晶窒化ホウ素粉末の純度が上記範囲内であることで、不純物による融点の低下などが抑制されることから、高温雰囲気下で使用可能な焼結体とすることができる。六方晶窒化ホウ素粉末の純度が上記範囲内であることでまた、より高純度の窒化ホウ素焼結体を製造できる。
【0028】
本明細書における六方晶窒化ホウ素粉末の純度は、滴定によって算出される値を意味する。具体的には、まず、試料を水酸化ナトリウムでアルカリ分解させ、水蒸気蒸留法によって分解液からアンモニアを蒸留して、ホウ酸水溶液に捕集する。次に、この捕集液を対象として、硫酸規定液で滴定することによって、上記試料中の窒素原子(N)の含有量を求める。得られた窒素原子の含有量から、以下の式(1)に基づいて、試料中の六方晶窒化ホウ素(hBN)の含有量を決定し、六方晶窒化ホウ素粉末の純度を算出する。なお、六方晶窒化ホウ素の式量は24.818g/mol、窒素原子の原子量は14.006g/molを用いる。
【0029】
試料中の六方晶窒化ホウ素(hBN)の含有量[質量%]=窒素原子(N)の含有量[質量%]×1.772・・・(1)
【0030】
六方晶窒化ホウ素粉末は製法等に応じて、複数の一次粒子が凝集した凝集塊を含有し得る。六方晶窒化ホウ素粉末が上記凝集塊を含有する場合、上記凝集塊の含有量は、六方晶窒化ホウ素粉末の全量を基準として、例えば、8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。上記凝集塊の含有量が上記範囲内であることで、ショア硬さの低下をより抑制することができ、またショア硬さのばらつきの増大を抑制することができる。上記凝集塊の含有量が上記範囲内であることで、焼きムラ等の発生を抑制することができ、より均一な窒化ホウ素焼結体を製造できる。六方晶窒化ホウ素粉末は、好ましくは上記凝集塊を含まない。
【0031】
六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば、以下のような方法で製造することができる。六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法の一実施形態は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む原料粉末を、窒素含有化合物を含むガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上の温度で加熱処理して第一の加熱処理物を得る第一工程と、上記第一工程よりも高く、1850℃未満の温度で第一の加熱処理物を加熱処理して第二の加熱処理物を得る第二工程と、上記第二工程よりも高い温度で、上記第二の加熱処理物を焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る第三工程と、を有する。
【0032】
第一工程は、原料粉末を、構成元素として窒素原子を有する化合物の存在下で、加圧及び加熱することで窒化ホウ素を生成させる工程である。原料粉末は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む。
【0033】
炭素含有化合物は構成元素として炭素原子を有する化合物である。炭素含有化合物は、ホウ素含有化合物及び構成元素として窒素原子を有する化合物と反応して窒化ホウ素を形成する。炭素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このような炭素含有化合物としては、例えば、カーボンブラック及びアセチレンブラック等が挙げられる。
【0034】
ホウ素含有化合物は構成元素としてホウ素を有する化合物である。ホウ素含有化合物は、炭素含有化合物及び構成元素として窒素原子を有する化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。ホウ素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このようなホウ素含有化合物としては、例えば、ホウ酸及び酸化ホウ素などが挙げられる。ホウ素含有化合物は、好ましくはホウ酸を含む。この場合、ホウ酸は加熱によって脱水し酸化ホウ素となり、原料粉末の加熱処理中に液相を形成すると共に粒成長を促す助剤としても働くことができる。
【0035】
上述の製造方法は、例えば、原料粉末の調製工程を備えてもよい。ホウ素含有化合物がホウ酸を含む場合、当該原料粉末の調製工程は、更にホウ素含有化合物を脱水する工程を含んでいてもよい。ホウ素含有化合物を脱水する工程を有することで、第一工程で得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。
【0036】
原料粉末は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物に加えて、その他の化合物を含有してもよい。その他の化合物としては、例えば、核剤としての窒化ホウ素等が挙げられる。原料粉末が核剤としての窒化ホウ素を含有することで、合成される六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径をより容易に制御することができる。原料粉末は、好ましくは核剤を含む。原料粉末が核剤を含む場合、比表面積の小さな六方晶窒化ホウ素粉末(例えば、比表面積が2.0m/g未満である六方晶窒化ホウ素粉末)の製造がより容易となる。
【0037】
核剤としての窒化ホウ素の粉末を使用する場合には、上記核剤の含有量は、原料粉末100質量部を基準として、例えば、0.05~8質量部であってよい。上記核剤の含有量の下限値を0.05質量部以上とすることで、核剤を含むことの効果をより向上させることができる。上記核剤の含有量の上限値を8質量部以下とすることで、六方晶窒化ホウ素粉末の収量を向上させることができる。
【0038】
窒素含有化合物は構成元素として窒素原子を有する化合物であり、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。構成元素として窒素原子を有する化合物としては、例えば、窒素及びアンモニア等が挙げられる。構成元素として窒素原子を有する化合物は、ガス(窒素含有ガスともいう)の形で供給されてよい。窒素含有ガスは、窒化反応による窒化ホウ素の形成を促進する観点、及びコストを低減する観点から、好ましくは窒素ガスを含み、より好ましくは窒素ガスである。窒素含有ガスとして複数の気体の混合ガスを用いる場合、混合ガス中における窒素ガスの割合が、好ましくは95体積/体積%以上であってよい。
【0039】
第一工程は加圧下で行われる。第一工程における圧力の下限値は、0.25MPa以上であるが、例えば、0.30MPa以上、又は0.50MPa以上であってよい。第一工程における圧力の下限値を上記範囲内とすることで、ホウ素含有化合物等の原料の揮発をより抑制し、副生成物である炭化ホウ素の生成を抑制することができる。また第一工程における圧力の下限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素粉末の比表面積の増加を抑制することができる。第一工程における圧力の上限値は、5.0MPa未満であるが、例えば、4.0MPa以下、3.0MPa以下、2.0MPa以下、1.0MPa以下、又は1.0MPa未満であってよい。第一工程における圧力の上限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素の一次粒子の成長を促進することができる。第一工程における圧力は上記の範囲内で調整してよく、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~1.0MPa、又は0.25MPa以上1.0MPa未満であってよい。
【0040】
第一工程は加熱下で行われる。第一工程における加熱温度の下限値は、1600℃以上であるが、例えば、1650℃以上、又は1700℃以上であってよい。第一工程における加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、反応を促進させ、第一工程で得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。第一工程における加熱温度の上限値は、例えば、例えば、1800℃未満、又は1750℃以下であってよい。第一工程における加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、副生成物の生成を十分に抑制することができる。第一工程における加熱温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1650℃以上1800℃未満、1650~1750℃であってよい。第一工程において、昇温速度は特に制限されるものでは無いが、例えば、0.5℃/分以上であってよい。
【0041】
第一工程における加熱時間は、例えば、1~10時間、1~5時間、又は2~4時間であってよい。窒化ホウ素を合成する反応の序盤である第一工程において、比較的低温で所定時間の間、維持することで、反応系をより均質化することができ、ひいては第一工程で形成される窒化ホウ素をより均質化できる。なお、本明細書において加熱時間とは、加熱対象物の周囲環境の温度が所定の温度に到達してから当該温度で維持する時間(保持時間)を意味する。
【0042】
第二工程は、第一工程で得られた第一の加熱処理物を、第一工程における加熱温度よりも高い温度で更に加熱処理して第二の加熱処理物を得る工程である。本工程において、結晶粒のより均一な成長を促すと共に、反応系における原料及び助剤をより十分に消費させることができる。
【0043】
第二工程における加熱温度は、上記第一工程における加熱温度よりも高く、1850℃未満の温度である。第二工程は、第一工程に連続して行ってもよく、第一工程における温度以外の条件は維持したままであってよい。すなわち、第二工程も窒素含有ガス等を含む加圧環境下で第一の加熱処理物を加熱する工程であってよい。
【0044】
第二工程における加熱時間は、例えば、3~15時間、5~10時間、又は6~9時間であってよい。
【0045】
第三工程は、第二工程で得られた第二の加熱処理物を、更に高温で焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る工程である。本工程において、窒化ホウ素の結晶性が向上し、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が得られる。得られる六方晶窒化ホウ素の一次粒子は、鱗片状の形状を有する。さらに本工程における加熱温度を高く設定することによって、助剤等の残存量を低減し、純度をより向上させることで、得られる六方晶窒化ホウ素粉末を焼結体の原料としてより好適なものとすることができる。
【0046】
第三工程における圧力は第一工程及び第二工程と同じであっても、異なってもよい。第三工程における圧力が第一工程及び第二工程と異なる場合、第三工程の圧力は、第一工程及び第二工程における圧力よりも低くてよい。
【0047】
第三工程の圧力の下限値は、例えば、0.25MPa以上、0.30MPa以上、又は0.50MPa以上であってよい。第三工程における圧力の下限値を上記範囲内とすることで、得られる六方晶窒化ホウ素粉末における純度をより向上させることができる。第三工程における圧力の上限値は、特に制限されるものではないが、例えば、5.0MPa未満、4.0MPa以下、3.0MPa以下、2.0MPa以下、1.0MPa以下、又は1.0MPa未満であってよい。第三工程における圧力の上限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素粉末の製造コストをより低減することができ、工業的に優位である。第三工程における圧力は上記の範囲内で調整してよく、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~1.0MPa、又は0.25MPa以上1.0MPa未満であってよい。
【0048】
第三工程における焼成温度は第二工程における加熱温度よりも高い温度に設定する。第三工程における焼成温度の下限値は、例えば、1850℃以上、又は1900℃以上であってよい。第三工程における焼成温度の下限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の純度をより向上させると共に、一次粒子の成長を促進して、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積をより小さなものとすることができる。第三工程における焼成温度の上限値は、例えば、2010℃以下、2050℃以下、又は2000℃以下であってよい。第三工程における焼成温度の上限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の黄変化を抑制することができる。第三工程における焼成温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1850~2100℃、1850~2050℃、又は1900~2025℃であってよい。
【0049】
第三工程における焼成時間(高温での加熱時間)は、例えば、0.5時間以上、1時間以上、3時間以上、又は5時間以上であってよい。第三工程における焼成時間を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の純度をより向上させると共に、一次粒子の成長をより十分なものとすることができる。第三工程における焼成時間はまた、例えば、30時間以下、25時間以下、20時間以下、15時間以下、又は10時間以下であってよい。第三工程における焼成時間を上記範囲内とすることで、より安価に六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができる。第三工程における焼成時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.5~30時間、1~25時間、又は3~10時間であってよい。
【0050】
上述の製造方法は、第一工程、第二工程及び第三工程の他に、その他の工程を有していてもよい。その他の工程としては、例えば、上述の原料粉末の調製工程、原料粉末の脱水工程、原料粉末の加圧成型工程、第一及び第二の加熱処理物の粉砕工程、並びに、六方晶窒化ホウ素の粉砕工程等が挙げられる。上述の製造方法が原料粉末の加圧成型工程を有する場合、原料粉末が高密度に存在する環境で焼成を行うことができ、第一工程及び第二工程で得られる窒化ホウ素の収量をより向上させることができる。なお、本明細書における粉砕工程には、粉砕の他、解砕も含まれるものとする。
【0051】
上述の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、いわゆる炭素還元法を応用した製造方法といえる。上述の製造方法によることで、一次粒子の平均粒径、粒子形状、及び比表面積が調製された、より均質な六方晶窒化ホウ素粉末を容易に得ることができる。得られる六方晶窒化ホウ素の一次粒子は他の製法を用いた場合に比べて比表面積の調整が容易であるが、これは、上述の製法であれば肉厚な一次粒子が得られる傾向にあるためと推測する。
【0052】
上述の六方晶窒化ホウ素粉末は焼結体の原料として有用である。焼結体は、六方晶窒化ホウ素粉末の焼結体(窒化ホウ素焼結体ともいう)等であってよい。窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素の一次粒子同士が焼結されてなるものであってよい。窒化ホウ素焼結体は通常、複数の孔部(細孔)を有する多孔性の焼結体である。上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いて製造される窒化ホウ素焼結体は上記細孔の分布が狭く、従来の六方晶窒化ホウ素粉末を用いて製造される窒化ホウ素焼結体に比べて、より一層均一な組織を有する。
【0053】
焼結体は六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料を用いて成型されるものであるが、好ましくは六方晶窒化ホウ素粉末からなる原料を用いて成型される。すなわち、焼結体は、六方晶窒化ホウ素からなってよい。焼結体における六方晶窒化ホウ素の含有量は、焼結体の全量を基準として、例えば、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、又は99.5質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。
【0054】
焼結体は、密度に対するショア硬さに優れる。すなわち、上記六方晶窒化ホウ素粉末を用いた場合、得られる焼結体のショア硬さは、従来の六方晶窒化ホウ素粉末を用いて形成され、同一密度を有する焼結体のショア硬さよりも優れる。焼結体の密度に対するショア硬さの比(焼結体のショア硬さ/焼結体の密度)は、例えば、6.5cm/g以上、7cm/g以上、又は7.2cm/g以上とすることができる。本明細書におけるショア硬さは、JIS Z 2246:2000「ショア硬さ試験-試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値であり、D形試験機を用いて測定する。
【0055】
焼結体の密度は、未焼成時の成型物の密度を調製することで制御することができる。成形体の密度は、特に制限されるものではないが、例えば、1.4~1.8g/cm程度に調整してもよい。未焼成時の成型物の密度は、例えば、プレス機の圧力、冷間等方圧加圧法(cold isostatic pressing:CIP)による圧縮時圧力等によって調整することができる。
【0056】
上述の焼結体は、例えば、以下のような方法で製造することができる。焼結体の製造方法の一実施形態は、六方晶窒化ホウ素粉末を含む粉末を成型し成型物を得る工程と、上記成型物を加熱することで焼成して焼結体を得る工程とを有する。上記成型物を得る工程は、上記粉末とバインダーとを含むスラリーを調製し、噴霧乾燥機等で球状化処理した後に成型してもよい。球状化処理によって造粒した粉末を用いることで、成型物密度を向上させ、焼結体の組織をより緻密なものとすることができる。成型には、金型を用いてもよく、冷間等方圧加圧法(CIP)を用いてもよい。
【0057】
成型物を得るための粉末は、六方晶窒化ホウ素粉末に加えて、例えば、アモルファス窒化ホウ素粉末、その他の窒化物、及び焼結助剤等を含んでもよい。その他の窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を含有してよい。上記粉末は、好ましくは六方晶窒化ホウ素粉末及びアモルファス窒化ホウ素粉末を含み、より好ましくはその他の窒化物を含まない。
【0058】
焼結助剤は、例えば、酸化イットリア、酸化アルミナ及び酸化マグネシウム等の希土類元素の酸化物、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、並びにホウ酸等であってよい。焼結助剤を配合する場合は、焼結助剤の添加量は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末、アモルファス窒化ホウ素粉末、及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上又は0.1質量部以上であってよい。焼結助剤の添加量は、六方晶窒化ホウ素粉末、アモルファス窒化ホウ素粉末、及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、20質量部以下、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。
【0059】
成型物の焼結温度の下限値は、例えば、1600℃以上、又は1700℃以上であってよい。成型物の焼結温度の上限値は、例えば、2200℃以下又は2000℃以下であってよい。成型物の焼結時間は、例えば、1時間以上、又は3時間以上であってよく、また30時間以下、又は10時間以下であってよい。焼結時の雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下であってよい。
【0060】
焼結には、例えば、バッチ式炉及び連続式炉等を用いることができる。バッチ式炉としては、例えば、マッフル炉、管状炉、及び雰囲気炉等を挙げることができる。連続式炉としては、例えば、ロータリーキルン、スクリューコンベア炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、及び琴形連続炉等を挙げることができる。
【0061】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0062】
以下、本開示について、実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製]
ホウ酸(株式会社高純度化学研究所製)100質量部と、アセチレンブラック(デンカ株式会社製、グレード名:HS‐100)25質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合して混合粉末(原料粉末)を得た。得られた混合粉末を250℃の乾燥機に入れ、3時間保持することでホウ酸の脱水を行った。脱水後の混合粉末をプレス成型機の直径100Φの型に入れ、加熱温度:200℃及びプレス圧:30MPaの条件にて成型を行った。このようにして得られた原料粉末のペレットを以降の加熱処理に供した。
【0064】
まず、上記ペレットをカーボン雰囲気炉内に静置し、0.8MPaに加圧された窒素雰囲気において昇温速度:5℃/分で1750℃まで昇温し、1750℃にて3時間保持して上記ペレットの加熱処理を行い、第一の加熱処理物を得た(第一工程)。次に、カーボン雰囲気炉内を昇温速度:5℃/分で1800℃まで更に昇温し、1800℃にて7時間保持して第一の加熱処理物を加熱処理し、第二の加熱処理物を得た(第二工程)。その後、カーボン雰囲気炉内を昇温速度:5℃/分で2000℃まで更に昇温し、2000℃にて7時間保持して第二の加熱処理物を高温で焼成した(第三工程)。焼成後の緩く凝集した窒化ホウ素をヘンシェルミキサーで解砕し、目開き:75μmの篩を通し、篩を通過した粉末を得た。このようにして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。得られた六方晶粉末の平均粒径は9.3μm、酸素量は0.3%であった。
【0065】
<六方晶窒化ホウ素粉末の評価>
得られた六方晶窒化ホウ素粉末に対して、走査型電子顕微鏡による観察を行い、一次粒子の長径及び周囲長を測定し、平均長径、長径の標準偏差、平均周囲長を算出し、一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比を算出した。具体的には、まず、少量の六方晶窒化ホウ素粉末をカーボンテープに付着させ、エアダスターで過剰分を吹き飛ばした。次に、上記カーボンテープの上記六方晶窒化ホウ素粉末が付着した面上にオスミウムコーティングを施し、測定サンプルを調製した。測定サンプルを、500倍の倍率にて、走査型電子顕微鏡による観察を10視野にて行った。粒子の円板方向が確認できる粒子(厚み方向が確認できない粒子)を対象として取り込んだ画像中の1視野につき10個、10視野合計で100個の粒子を対象として、画像解析式測定ソフトウエア(Mac-View)を用いて画像解析を行い、上述の値を決定した。結果を表1に示す。図1に、実施例1で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を示す走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0066】
[窒化ホウ素の焼結体の調製]
上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いて焼結体の調製を行った。まず、容器に、六方晶窒化ホウ素粉末が60.0質量%、アモルファス窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、酸素含有量:1.5%、窒化ホウ素純度97.6%、平均粒径:6.0μm)が40.0質量%となるようにそれぞれ測り取り、混合して混合粉末を得た。
【0067】
上記混合粉末を冷間等方圧加圧法(CIP)によって成型した。具体的には、冷間等方加圧装置に充填し、90MPaの圧力をかけて圧縮し成型物(未焼成物)を得た。得られた成型物を、焼成炉を用いて2000℃で10時間保持して焼結させることによって、窒化物の焼結体を調製した。なお、焼成は、炉内を窒素雰囲気下に調整して行った。
【0068】
<焼結体の評価>
上述のとおり得られた焼結体について、後述する方法に基づき、密度及びショア硬さの評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
[焼結体の密度の測定]
焼結体の密度は、JIS R 1634:1998「ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法」の記載に準拠し、アルキメデス法を用いて測定した。
【0070】
[焼結体のショア硬さの測定]
焼結体のショア硬さは、JIS Z 2246:2000に準じて測定した。具体的には、上述のとおり得られた焼結体を、幅4mm×長さ40mm×厚さ3.0mmの測定サンプルに加工し、島津製作所社製のD形試験機を用いて、測定を行った。また、ショア硬さの標準偏差は、1サンプルについて20点以上測定を行い、標準偏差を算出した。
【0071】
(参考例1)
実施例1で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1とは異なる条件で焼結体を調製した。具体的には、冷間等方圧加圧法による成形の際の圧力を180MPaに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、焼結体を調製した。得られた焼結体について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2)
第一工程の加熱温度を1700℃に変更し、第二工程の加熱温度を1800℃、加熱時間を1時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末及び焼結体を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末及び焼結体について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例3)
原料となる混合粉末に対して、当該混合粉末の全量を基準として、窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、商品名:窒化ホウ素粉MGP)を2.5質量%となるように更に追加したこと以外は、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末及び焼結体を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末及び焼結体について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例4)
アセチレンブラック(デンカ株式会社製、グレード名:HS-100)に代えて、アセチレンブラック(デンカ株式会社製、粉状品)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末及び焼結体を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末及び焼結体について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例5)
第一工程、第二工程及び第三工程における昇温速度を、いずれも0.5℃/分に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末及び焼結体を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末及び焼結体について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0076】
(比較例1)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製]
ホウ酸(株式会社高純度化学研究所製)50質量部と、メラミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)49質量部と炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)1質量部を加え、加湿混合して、原料粉末を得た。得られた原料粉末を、管状炉を用いて、窒素雰囲気下、1000℃で2時間加熱処理し、加熱処理物を得た。得られた加熱処理物100質量部を、電気炉を用いて、窒素雰囲気下、1750℃で4時間焼成することによって、六方晶窒化ホウ素粉末を得た。なお、得られた六方晶窒化ホウ素粉末に対するレーザー回折散乱によって測定した平均粒径は、8.7μmであった。
【0077】
<六方晶窒化ホウ素粉末の評価>
得られた六方晶窒化ホウ素粉末に対して、実施例1と同様に、一次粒子の長径及び周囲長を測定し、平均長径、長径の標準偏差、平均周囲長を算出し、一次粒子の平均長径に対する長径の標準偏差の比を算出した。結果を表2に示す。図2に、比較例1で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を示す走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0078】
[窒化ホウ素焼結体の調製]
実施例1で調製した六方晶窒化ホウ素粉末に代えて、比較例1で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、焼結体を得た。
【0079】
<焼結体の評価>
上述のとおり得られた焼結体について、実施例1と同様に、密度及びショア硬さの評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
(比較例2)
原料粉末の加熱温度を1700℃に変更し、加熱処理物の加熱温度を1800℃、加熱時間を1時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を及び焼結体を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末を及び焼結体について、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0081】
(比較例3)
原料粉末を二段階で加熱処理することに代えて、原料粉末を1950℃で10時間かけて一段階で焼成するように変更したこと以外は、比較例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を及び焼結体を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末を及び焼結体について、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0082】
(比較例4)
原料粉末を二段階で加熱処理することに代えて、原料粉末を1550℃で5時間かけて一段階で焼成するように変更したこと以外は、比較例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を及び焼結体を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末を及び焼結体について、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
表1及び表2に示すとおり、実施例で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を用いて製造した焼結体は、比較例で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を用いて製造した焼結体に比べて密度に対するショア硬さの比が高くなっており、優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示によれば、密度に対するショア硬さに優れる焼結体を製造可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供することができる。本開示によればまた、上述のような六方晶窒化ホウ素粉末を製造する方法を提供することができる。
図1
図2