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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/035 20060101AFI20230927BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20230927BHJP
   B23K 9/127 20060101ALI20230927BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20230927BHJP
   B23K 9/18 20060101ALI20230927BHJP
   B23K 37/02 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B23K9/035 A
B23K9/12 331B
B23K9/127 508B
B23K9/127 508C
B23K9/16 L
B23K9/16 M
B23K9/18 E
B23K37/02 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020030389
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021133388
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝
(72)【発明者】
【氏名】星野 忠
(72)【発明者】
【氏名】針谷 高典
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-066379(JP,A)
【文献】特開平05-069139(JP,A)
【文献】実開平4-113164(JP,U)
【文献】実開平2-114175(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/035
B23K 9/12
B23K 9/127
B23K 9/16
B23K 9/18
B23K 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接線を形成する溶接対象材の表裏の一方側から該溶接線に溶接アークを当てる溶接トーチを搭載し該溶接線に沿って走行する、電気モータ駆動により走行する溶接台車;
前記溶接対象材の表裏の他方側で前記溶接アークによる溶接個所をガスシールドするバックシールドガス吹き込み空間がある裏当部材を搭載し、前記溶接線に沿って走行する、電気モータ駆動による裏当台車;
前記溶接アークによる溶接部と前記裏当部材との、前記溶接線が延びる方向の相対位置を検出する手段;および、
前記相対位置に対応して、前記相対位置が設定値になるように、前記溶接台車と前記裏当台車の少なくとも一方の前記電気モータの回転速度を増減する制御手段;
を備え
前記相対位置を検出する手段は、前記裏当部材に前記溶接線が延びる方向に沿って分布し、それぞれが前記溶接線に対向するバックシールドガス吹き込み空間の光を検出する複数の光センサを含み、
前記裏当部材には、前記溶接線が延びる方向に延び外部からバックシールドガスが送給されるガス流路と、前記溶接線が延びる方向に分布し前記ガス流路に繋がり前記バックシールドガス吹き込み空間にバックシールドガスを吹き出す複数の吹き出し孔があり、前記複数の吹き出し孔は前記ガス吹き込み空間の側面壁を貫通した透光窓であり、前記複数の光センサのそれぞれは、前記複数の吹き出し孔のそれぞれを通してバックシールドガス吹き込み空間の光を検出する、溶接装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記複数の光センサの光検出信号が、前記溶接線が延びる方向の前記溶接トーチの溶接位置より前記裏当部材が遅れていることを示すときには前記裏当台車の電気モータ駆動を増速し、および又は、前記溶接台車の電気モータ駆動を減速し、前記溶接トーチの溶接位置より前記裏当部材が進んでいることを示すときには前記裏当台車の電気モータ駆動を減速し、および又は、前記溶接台車の電気モータ駆動を増速する、請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記溶接装置はさらに、前記溶接トーチが溶接する前の溶接線を赤外光で照明する手段、および、該照明された溶接線を撮影するカメラを備える、請求項に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記溶接台車にはさらに、前記溶接トーチを前記溶接線と交叉する方向に駆動する左右駆動機構及び左右駆動電気モータが搭載されており、前記制御手段が前記カメラの撮影画面上の溶接線像の位置および幅に基づいて、前記溶接トーチが前記溶接線に対抗するように前記左右駆動電気モータを付勢し溶接条件を調整する、請求項に記載の溶接装置。
【請求項5】
前記制御手段は前記カメラのシャッタースピードおよび又は感度を順次に、高輝度反射がないノーマル面の撮影用のものと高輝度反射があるグラインダ面の撮影用のものに切り替える、請求項に記載の溶接装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記カメラの撮影画面の溶接線像の位置およびギャップ幅を算出する画像認識装置が与える位置,ギャップ幅情報を検証して適正範囲内の位置,ギャップ幅情報に基づいて前記溶接トーチが前記溶接線に対向するように前記左右駆動電気モータを付勢し溶接条件を調整する、請求項に記載の溶接装置。
【請求項7】
前記裏当台車の車輪は、片面サブマージアーク溶接設備の、上面にフラックスが散布され大板鋼板の開先部の下面に当てられる長尺の裏当銅板上を倣い走行することができ、前記溶接台車は、前記片面サブマージアーク溶接設備の大板鋼板支持台上に載置された溶接対象材上を走行し、前記裏当台車は前記長尺の裏当銅板上を倣い走行する、請求項1~6のいずれか一つに記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接線例えば板継突合せ線を、溶接対象材表裏の一方側にガスシールド裏当部材を配置し他方側から溶接トーチで溶接する溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば大型船舶の船体外板など、大板鋼板の溶接では、上面にフラックスを散布した裏当部材を大板鋼板の開先部の下面に当てて裏当て支持し、開先にはカットワイヤ,鋼粒,鉄粉などの溶加材を充填して複数の電極で片面からアーク溶接を行う片面サブマージ溶接が用いられる(たとえば特許文献1)。しかし、片面サブマージ溶接は、厚板を大入熱で溶接するのには向いているが、割合薄板(例えば7mm以下)の溶接では、溶接歪が大きく後工程での歪取りが大変で熟練工による長時間作業を要する工程となっており、溶接歪の少ないプラズマキーホール溶接法の検討がなされて来ていて、厚板はサブマージ溶接、薄板はプラズマ溶接の共有を目指している。しかし、プラズマキーホール溶接法はサブマージ溶接法と設備、制御に大きな違いがあり、その設備の共用には幾つかの課題解決が必要である。
【0003】
その1つがバックシールド方法の違いである。サブマージ溶接は平たい銅板を用いるのに対し、プラズマ溶接は溝付き銅板でバックシールドガスによる保護が必要であり、裏当ての共有が出来ない。また、長尺の裏ビードを確実にシールド保護する必要がある。尚且つ、設備共有には取り付け取り外しが簡便な裏当て機構が必要である。更に、プラズマ溶接は、歪が少ない分ビード幅の狭い(裏ビード幅で約3mm前後)溶接法である事から、高精度に溶接線を倣う必要がある。また開先のギャップ幅に対応し最適な溶接条件に切り替える必要もある。
【0004】
一方、プラズマ溶接用裏当て方法として、タンク製造のための溶接など、比較的に中尺の溶接対象材の溶接では、鋼板の表側に溶接トーチを、裏側にガスシールド用の裏当部材を配置しそれから板継突合せ線の裏側に不活性ガス(シールドガス)を供給する(バックシールド)。様々な長さの板継突合せ線に適合するように長い裏当部材を設置すると広いスペースが必要となり消費するバックシールドガス量が多くなる。このような欠点を改善するために、溶接トーチを搭載し溶接対象材の表面を走行する溶接台車と、短いバックシールド用の裏当部材を溶接対象材の裏面に当てて支持する裏当台車を、それぞれ表,裏チェーンに結合して、溶接中には溶接台車上の溶接トーチの直下に裏当台車上の裏当部材が常に位置するように、溶接台車と裏当台車を機械的に駆動する溶接装置が提示されている(たとえば特許文献2)。しかし、これでも適応予定の加工対象の最大寸法に対応するチェーン敷設が必要であり、長尺の溶接では設備が大掛かりとなり、簡易着脱は難しく、サブマージ溶接との設備共用は不可能である。
【0005】
裏当て制御方法として、特許文献3には、裏当部材のシールド空間内に複数個の受光素子を設置してこれらを用いてプラズマキーホールから裏当部材のシールド空間内に吹き出すアークフレームの溶接進行方向の偏向角θを計測して、偏向角θが基準値になるように溶接電流および溶接速度を調整するプラズマキーホール溶接が記載されている。この溶接では、溶接トーチおよび裏当部材が位置固定で、溶接対象材を搬送するので、適応予定の加工対象の最大寸法に対応する溶接対象材搬送機構が必要であり長い固定設備が必要である。
【0006】
特許文献4には、裏当部材にCCDカメラを備えて溶接部の裏側を撮影して溶接部の中心位置を求め、そこに裏当部材のガスノズルが位置するように溶接線と直交する方向に裏当部材を駆動(位置調整)するイナートガスアーク溶接が記載されている。ところが、溶接部裏側の撮影画像は、溶け込み深さ変化による極端な明/暗変化や、キーホール溶接時は超高温の熱フレームや蒸発金属微粒子やスパッタの蓄積、などによりその環境は甚だしく劣悪であって、溶接部の中心位置検出が不正確あるいは困難になる可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-222909号公報
【文献】特開2017-77575号公報
【文献】特開平 4-18951公報
【文献】特開2006-175522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、鋼板の表側に溶接トーチを、裏側に裏当部材を配置して、裏当部材から板継突合せ線の裏に不活性ガス(シールドガス)を供給して板継突合せ線の裏側をシールドガスでバックシールドする溶接を、比較的に短い作業空間でも簡易に実施でき、また、長い鋼板にも簡易に対応できる溶接装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)溶接線を形成する溶接対象材の表裏の一方側から該溶接線に溶接アークを当てる溶接トーチを搭載し該溶接線に沿って走行する、電気モータ駆動により走行する溶接台車;
前記溶接対象材の表裏の他方側で前記溶接アークによる溶接箇所をガスシールドするバックシールドガス吹き込み空間がある裏当部材を搭載し、前記溶接線に沿って走行する、電気モータ駆動による裏当台車;
前記溶接アークによる溶接部と前記裏当部材との、前記溶接線が延びる方向の相対位置を検出する手段;および、
前記相対位置に対応して、前記相対位置が設定値になるように、前記溶接台車と前記裏当台車の少なくとも一方の前記電気モータの回転速度を増減する制御手段;
を備え
前記相対位置を検出する手段は、前記裏当部材に前記溶接線が延びる方向に沿って分布し、それぞれが前記溶接線に対向するバックシールドガス吹き込み空間の光を検出する複数の光センサを含み、
前記裏当部材には、前記溶接線が延びる方向に延び外部からバックシールドガスが送給されるガス流路と、前記溶接線が延びる方向に分布し前記ガス流路に繋がり前記バックシールドガス吹き込み空間にバックシールドガスを吹き出す複数の吹き出し孔があり、前記複数の吹き出し孔は前記ガス吹き込み空間の側面壁を貫通した透光窓であり、前記複数の光センサのそれぞれは、前記複数の吹き出し孔のそれぞれを通してバックシールドガス吹き込み空間の光を検出する、溶接装置。
【0010】
(2)前記制御手段は、前記複数の光センサの光検出信号が、前記溶接線が延びる方向の前記溶接トーチの溶接位置より前記裏当部材が遅れていることを示すときには前記裏当台車の電気モータ駆動を増速し、および又は、前記溶接台車の電気モータ駆動を減速し、前記溶接トーチの溶接位置より前記裏当部材が進んでいることを示すときには前記裏当台車の電気モータ駆動を減速し、および又は、前記溶接台車の電気モータ駆動を増速する、上記(1)に記載の溶接装置。
【0012】
)前記溶接装置はさらに、前記溶接トーチが溶接する前の溶接線を赤外光で照明する手段、および、該照明された溶接線を撮影するカメラを備える、上記()に記載の溶接装置。
【0013】
)前記溶接台車にはさらに、前記溶接トーチを前記溶接線と交叉する方向に駆動する左右駆動機構及び左右駆動電気モータが搭載されており、前記制御手段が前記カメラの撮影画面上の溶接線像の位置および幅に基づいて、前記溶接トーチが前記溶接線に対抗するように前記左右駆動電気モータを付勢し溶接条件を調整する、上記()に記載の溶接装置。
【0014】
)前記制御手段は前記カメラのシャッタースピードおよび又は感度を順次に、高輝度反射がないノーマル面の撮影用のものと高輝度反射があるグラインダ面の撮影用のものに切り替える、上記()に記載の溶接装置。
【0015】
)前記制御手段は、前記カメラの撮影画面の溶接線像の位置および幅を算出する画像認識装置が与える位置,ギャップ幅情報を検証して適正範囲内の位置,ギャップ幅情報に基づいて前記溶接トーチが前記溶接線に対向するように前記左右駆動電気モータを付勢し溶接条件を調整する、上記()に記載の溶接装置。
【0016】
)前記裏当台車の車輪は、片面サブマージアーク溶接設備の、上面にフラックスが散布され大板鋼板の開先部の下面に当てられる長尺の裏当銅板上を倣い走行することができ、前記溶接台車は、前記片面サブマージアーク溶接設備の大板鋼板支持台上に載置された溶接対象材上を走行し、前記裏当台車は前記長尺の裏当銅板上を倣い走行する、上記(1)~()のいずれか一つに記載の溶接装置。
【発明の効果】
【0017】
上記(1)の溶接装置によれば、溶接トーチの溶接位置と裏当部材の位置とが設定値になるように、溶接台車および/または裏当台車の車輪駆動電気モータの回転速度が増減制御されるので、溶接トーチの溶接線に沿う方向の位置(Y位置)に対して裏当部材の位置(Y位置)が常に定位置となる。すなわち溶接トーチ(又は裏当部材)の溶接線が延びる方向(Y方向)の移動(Y移動)に裏当部材(又は溶接トーチ)のY移動が連動あるいは同期する。よって裏当部材は短尺でよい。溶接台車と裏当台車の溶接線に沿う方向Yの走行駆動機構(車輪駆動機構)は、機械的に分離しているので、チェーンなどの機械的な連携機構を長距離に渡って固定設置する必要はない。また、長尺の溶接線全線に渡って裏当部材を設置する必要がない。
【0018】
上記(2)の溶接装置によれば、裏当部材のバックシールドガス吹き込み空間の光を検出する複数の光センサの光検出各信号を比較することにより、溶接線を貫通したキーホールアークがバックシールドガス吹き込み空間のどの位置(溶接線が延びるY方向の位置:Y位置)にあるかを知ることができる。このY位置が溶接方向(Y方向)で設定位置よりも前方側であると裏当部材が遅れているので、裏当台車の電気モータ駆動(走行速度)が増速されて裏当部材の設定位置がキーホールアークに追いつき、キーホールアークのY位置が設定位置よりも後方側であると裏当部材が進んでいるので、裏当台車の電気モータ駆動が減速されてキーホールアークが裏当部材の設定位置に追いつく。
【0019】
この制御の代替として、キーホールアークのY位置が設定位置よりも前方側であると裏当部材が遅れているので、溶接台車の電気モータ駆動を減速して裏当部材の設定位置をキーホールアークに追いつかせ、キーホールアークのY位置が設定位置よりも後方側であると裏当部材が進んでいるので、溶接台車の電気モータ駆動を増速してキーホールアークを裏当部材の設定位置に追いつかせる、という制御態様もある。
【0020】
さらには、キーホールアークのY位置が設定位置よりも前方側であると裏当部材が遅れているので、溶接台車の電気モータ駆動を減速しかつ裏当台車の電気モータ駆動を増速して裏当部材をキーホールアークに追いつかせ、キーホールアークのY位置が設定位置よりも後方側であると裏当部材の設定位置よりキーホールアークが遅れているので、溶接台車の電気モータ駆動を増速しかつ裏当台車の電気モータ駆動を減速してキーホールアークを裏当部材の設定位置に追いつかせる、という制御態様もある。
【0021】
いずれの制御態様を採用しても、キーホールアークのY方向移動に裏当部材が追従するので、短い裏当部材を用いることができる。溶接台車に裏当台車を連動させるチェーンなどの機械的な連携機構を長距離に渡って固定設置する必要はない。短い裏当部材を用いるとバックシールドガスの消費量が少なくなるので経済的である。尚且つ、裏当台車連動制御用の光センサが溶接線を貫通したキーホールアーク光をバックシールドガス吹き込み空間より検出することで、蒸発金属微粒子や塗装燃焼酸化物微粉やスパッタなどによる検出孔の塞ぎによる誤動作を防止できる。
【0022】
上記(3)により、各窓を通して各光センサ26~28が、プラズマ溶接トーチ41が発生し溶接線を貫通したプラズマキーホールアークPA(図4)を検出する。各光センサがバックシールドの吹き出し孔を採光に利用することで、ガス吹き込み空間に送給されるバックシールドガスで光センサの透光窓である吹き出し孔がガスシールドされるので光センサは、キーホールアークの高温熱フレームを直接受ける事が無く光センサは常に常温雰囲気に保たれる。またバックシールドガスが常に溶接中放出されることから、光センサは蒸発金属微粒子やスパッタの付着や蓄積も無く正確な検出が長時間可能となる。
【0023】
上記(4)により、溶接トーチが溶接する前の溶接線を可視光ではなく赤外光で照明してカメラで撮影すると、撮影画面上の溶接線像のコントラストが高く溶接炎症痕像(スパッタ像)が薄くしかも外乱光の影響が少なく、画像認識装置による溶接線像検出の精度が大きく向上する。
【0024】
上記(5)によれば、溶接線に対する溶接トーチの倣いと開先幅(ギャップ幅)に対応する溶接条件の調整が自動的に行われるので、溶接作業員の労力が大幅に少なくなる。
【0025】
上記(6)によれば、シャッタースピードおよび又は感度がノーマル面(高輝度反射がない)の撮影用の時に撮影領域にグラインダ面の高輝度反射があると、また、シャッタースピードおよび又は感度がグラインダ面(高輝度反射がある)の撮影の時に撮影領域にグラインダ面の高輝度反射がないと、画像からは溶接線像を正確に検出することは難しい。しかし、画像認識装置の溶接線位置およびギャップ幅検出情報の適否を制御手段で検証して適情報のみを採用すればよい。
【0026】
上記(7)によれば、シャッタースピードおよび又は感度がノーマル面(高輝度反射がない)の撮影用の時のノーマル面の撮影画像と、シャッタースピードおよび又は感度がグラインダ面(高輝度反射がある)の撮影用の時のグラインダ面の撮影画像と、に基づいて画像認識装置が検出した溶接線位置およびギャップ幅検出に基づいて、溶接トーチ位置および溶接条件の制御をするので、正確な溶接線位置および幅検出情報に基づいた正確な制御が実現する。ノーマル面とグラインダ面では、反射光量の違いから同一撮影条件で計測する場合、両方の面が何とか見える範囲のシャッタースピードや感度となる事から、それぞれの面状態にとって最良でなく毎回計測される値の正確性は低下し、結果、溶接線倣いやギャップに対する溶接条件制御の正確性が低下する。そこで、それぞれの面に最適なシャッタースピードや感度条件を交互に切り替え正確な値を増加し、また、不正確な値はフィルターで排除することで、溶接線倣いやギャップ幅条件の切り替えが正確に制御できる。
【0027】
上記(8)によれば、片面サブマージアーク溶接設備がキーホール溶接に利用される。そのとき、キーホール溶接を行う溶接台車は、片面サブマージアーク溶接設備の、大板鋼板支持台上に載置された溶接対象材上を走行し、裏当台車は片面サブマージアーク溶接設備の長尺の裏当銅板上を倣い走行する。片面サブマージアーク溶接設備は広大であって裏当銅板が長尺であり、溶接対象材の搬入,位置決め,搬出の設備も長いので、片面サブマージアーク溶接設備を利用するキーホール溶接は、特に薄板(7t以下)に於いて低歪の溶接が可能で、溶接後の歪取り作業工程を省く又は軽減することができる。また、長,短、大,小、様々なサイズの溶接対象材の溶接を簡易に行うことができる。片面サブマージアーク溶接設備をキーホール溶接に兼用することにより該設備の薄板での高品質化や経済性が向上する。
本発明の他の目的および特徴は、図面を参照した以下の実施例の説明により明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】片面サブマージアーク溶接設備を用いた、本発明の溶接装置によるプラズマアークキーホール溶接の一態様を示す正面図である。
図2図1に示すプラズマアークキーホール溶接台車30および裏当台車10を拡大して示す側面図である。
図3図1に示すプラズマアークキーホール溶接台車30の拡大平面図である。
図4図1図3に示す溶接台車30に搭載されているプラズマ溶接トーチ41とその直下の裏当部材20を拡大して示す正面図である。
図5図1図2および図4に示す裏当部材20を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
図6図2に示す溶接台車30および裏当台車10に装備した機器と、溶接台車30に装備した制御装置50に接続された溶接ワイヤ送給器52および溶接機51を示すブロック図である。
図7図6に示す制御装置50が、溶接線を貫通したプラズマアークに対する裏当部材20の溶接線に沿うY方向の位置に対応して裏当台車10の走行速度を加,減速する裏当台車速度制御RSCの概要を示すフローチャートである。
図8図6に示す制御装置50による、プラズマ溶接トーチ41の溶接狙い位置を溶接対象材4Wの突合わせ線(溶接線)に合わせる開先倣い制御OLTと、溶接線のギャップ幅(開先幅)に適した溶接条件を定めるギャップ計測制御GFWの概要を示すフローチャートである。
図9図6に示す制御装置50が、画像認識装置45を介してCCDカメラ44にシャッタースピードおよび又は感度を指示する信号のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1を参照すると、片面サブマージアーク溶接設備の、母材支持梁1R,1L上に載置された溶接対象材の上面4に溶接台車30が載っている。該溶接対象材を押さえる押え3Rには、ガイド板48が垂直に立てて固定磁石49で固定されている。このガイド板48は、プラズマキーホール溶接用の溶接台車30をY方向に延びる溶接線に倣って走行させるためのガイドレールとして付加したものである。
【0030】
図3を参照する。溶接台車30の、電気モータ32(図6)で回転駆動される4個の車輪31で支持された基台から、2個の倣いローラ18,19が、溶接進行方向Yの右方向Xに突出しており、溶接進行方向Yで前方となる倣いローラ19の突出長は、溶接進行方向Yで後方となる倣いローラ18の突出長9よりも短いので、制御装置50(図6)がモータドライバ33を介して電気モータ32を付勢すると、電気モータ32がトーチ走行駆動機構を駆動し、溶接台車30が溶接対象材4W(図4)上をY方向に走行する。溶接台車30がY方向に走行している間、溶接台車30にはX方向に偏向しようとする力が発生し、溶接台車30は、Y方向の走行のときガイド板48に倣って走行する。溶接対象材の突き合わせ開先(溶接線)がガイド板48と平行となるように溶接対象材を配置しておくことにより、溶接台車30は、Y方向走行の溶接中は溶接線に沿って走行する。
【0031】
この実施態様は、片面サブマージアーク溶接設備をキーホール溶接に利用している。キーホール溶接を行う溶接台車30は、片面サブマージアーク溶接設備の、大板鋼板支持台上に載置された溶接対象材上を走行し、裏当台車10は片面サブマージアーク溶接設備の長尺の裏当銅板2上を倣い走行する。片面サブマージアーク溶接設備は広大であって裏当銅板2が長尺であり、溶接対象材の搬入,位置決め,搬出の設備も長いので、片面サブマージアーク溶接設備を利用するこの実施態様のキーホール溶接は、長,短、大,小、様々なサイズの溶接対象材の溶接を簡易に行うことができる。片面サブマージアーク溶接設備をキーホール溶接に兼用することにより該設備の薄板での高品質化や経済性が向上する。
【0032】
図2を参照する。溶接台車30の基台には、電気モータ36(図6)を駆動源とする上下駆動機構があり、これが上下左右スライドアーム34を支持して上,下に駆動する。前記上下駆動機構は電気モータ39(図6)を駆動源とする左右駆動機構の上に載っており、該左右駆動機構は、上下駆動機構を上下左右スライドアーム34ごと左,右に駆動する。上下左右スライドアーム34には、プラズマ溶接トーチ41,カメラ保護筒43および上下倣いセンサ35が装着されている。溶接トーチ41の下部にはワイヤ突き出しパイプ42を通して溶接ワイヤが送給される。裏当台車10には、裏ビード確認用カメラ57が付いていて、その画像を、溶接台車30に付けられた裏ビード確認モニター58でみることができる。また各種操作が可能な操作ペンダント59が制御装置50に接続されている。
【0033】
上下倣いセンサ35が溶接対象材上面4に対する溶接トーチ41の高さを検出して制御装置50に与え、制御装置50は、溶接トーチ41の高さが設定値になるようにモータドライバ37(図6)を介して電気モータ36を正,逆回転付勢する。これにより上下左右スライドアーム34が上,下移動して、上下倣いセンサ35および上下左右スライドアーム34(これに装着した溶接トーチ41およびカメラ保護筒43)が上,下移動する。
【0034】
カメラ保護筒43の内部には、溶接対象材上面4の溶接直前の溶接線を撮影するCCDカメラ44があり、カメラ保護筒43の先端部には該溶接線に赤外光を投射する赤外光照明灯43rが装着されている。CCDカメラ44の撮影画像信号は、画像認識装置45(図6)に送られ、ディスプレイ46で表示される。画像認識装置45は、撮影画像信号に基づいて撮影画面上の溶接線像を摘出してその左右X位置とWギャップ幅を算出して制御装置50(図6)に送信する。溶接直前の溶接線を可視光ではなく透過性の高い赤外光で照明してCCDカメラで撮影するので、撮影画面上の溶接線像を通常一般的に使用される可視光の照明に比べコントラストを高く映し出すことが可能で、更に、開先線の仮付け溶接時に発生する溶接炎症痕(スパッタが飛んだ際にできる焼け跡)も薄く映るなどの効果があり誤計測の割合を大幅に下げることが可能で、尚且つ、周囲にある外乱光の影響が少なく、画像認識装置45(図6)による溶接線像検出の精度が高い。
【0035】
制御装置50(図6)は、画像認識装置45が算出した左右X位置が基準位置になるように電気モータ39を付勢し左右駆動機構で、溶接トーチ41を支持する上下左右スライドアーム34を、X方向に駆動する。また、制御装置50(図6)は、画像認識装置45が算出したWギャップ幅に対応して、該Wギャップ幅を溶接するに適した溶接条件(溶接電流値,ワイヤ送給速度,パイロットガス送給量及び溶接台車速度)の設定を溶接機51及びトーチ走行モータ32に指示する。これにより、溶接線に対する溶接トーチの倣いと開先幅(Wギャップ幅)に対応する溶接条件の調整が自動的に行われ、溶接作業員の労力が大幅に少ない。
【0036】
図1を再度参照する。プラズマ溶接トーチ41によりプラズマアークを発生させ溶接線を溶接するとき溶接線を貫通したプラズマキーホールアークは裏ビードも同時に形成する。この際、裏ビードが酸化しない様に周りをガスシールドする。このバックシールド用に、水冷した銅製の裏当部材20を使用する。裏当部材20を支持する裏当台車10の車輪12は、この実施態様では、片面サブマージアーク溶接設備の、上面にフラックスが散布され大板鋼板の開先部の下面に当てられる長尺の裏当銅板2、の上を倣い走行できるように、裏当銅板2の垂直側面に接触するフランジを有するものであり、左右車輪で裏当銅板2を挟み、かつ、裏当銅板2に載ってY方向に走行する。図2も参照すると、裏当台車10の基台11には、2本の昇降ロッド14が昇降自在に立てられており、それぞれ圧縮コイルスプリング15で上昇付勢されている。溶接対象材(母材:鋼板)4Wのスタート位置に裏当台車10をセットする際は、昇降ロッド14を退避位置まで押し下げると、シャフトクランプ16が動作して昇降ロッド14を下退避位置に固定する。裏当台車10を溶接対象材4Wの下に潜り込ませ、裏当部材20のY方向のほぼ中央がプラズマ溶接トーチ41の中心と合う位置で、シャフトクランプ16を操作すると、昇降ロッド14の下位置拘束が解除されて昇降ロッド14は圧縮コイルスプリング15の反発力で上昇駆動され、昇降ロッド14の上端に固定された裏当部材20の倣いローラ22が溶接対象材4Wの裏面に当接する(図2図4)。
【0037】
図4および図5を参照する。裏当部材20の上面にはY方向に延びる深い溝があり、そのY方向両端には、溝に吹き込まれたシールドガスを逃がす隙間を溶接対象材4Wの裏面との間に形成するために低くした堤体がある。両堤体の間の深い溝空間がガス吹き込み空間21である。ガス吹き込み空間21の底にはY方向に並んだ複数のバックシールドガス吹き出し孔23、24、25、56があり、裏当部材20の内部にこれらのガス吹き出し孔が繋がったガス流路55がある。ガス流路55の端のガス注入口にバックシールドガスホースからガス流路55に送給されたバックシールドガスは、バックシールドガス吹き出し孔23、24、25、56からガス吹き込み空間21に入って溶接対象材4Wの裏面をガスシールドし、そして、裏当部材20のY方向両端の堤体と溶接対象材4Wの裏面との間の隙間から裏当部材20の外部に流出する。
【0038】
図5を参照すると、3個のガス吹き出し孔23~25は、裏当部材20のガス吹き込み空間21の側面壁を貫通した透光窓であり、各窓を通して各光センサ26~28が、プラズマ溶接トーチ41が発生し溶接線を貫通したプラズマキーホールアークPA(図4)を検出する。各光センサ26~28がバックシールドの小径吹き出し孔である透光窓23~25を採光に利用することで、ガス吹き込み空間21に送給されるバックシールドガスで透光窓23~25がガスシールドされるので光センサ26~28は、キーホールアークの高温熱フレームを直接受ける事が無く光センサは常に常温雰囲気に保たれる。またバックシールドが常に溶接中放出されることから、光センサ26~28は蒸発金属微粒子やスパッタの付着や蓄積も無く正確な検出が長時間可能となる。キーホールアークPAが、透光窓23に対抗する位置PArにあると光センサ26の光検出信号がON信号を発する。透光窓24に対抗する位置PAmにあると光センサ27の光検出信号がON信号を発する。透光窓25に対抗する位置PAfにあると光センサ28の光検出信号がON信号を発する。光センサ26~28の光検出信号により、裏当部材20のY方向のどの位置にキーホールアークがあるかを知ることができる。光センサ26~28の光検出信号は、制御装置50(図6)に与えられる。単にON信号による制御でなく、光センサ26~28の光検出信号値(アナログ値)を比較する方法でも良い。また、光センサの数は2個(26と28)使用でも良く、更に、光センサを3個以上使用して細かい制御としても良い。また、本形態では透光窓23~25をバックシールドの吹き出し孔を採用したが、単独に透光窓を設け耐熱ガラスなどで保護しても良い。
【0039】
制御装置50(図6)が、モータドライバ53を介して電気モータ13に通電して裏当走行駆動機構を駆動して裏当台車10の車輪12を回転駆動する。これにより裏当台車10がY方向走行する。裏当台車10の速度は、各板厚や材質に合わせた基準速度(溶接台車30速度)と同じ速度で制御され、常に溶接台車速度と連動して制御されているが、様々な要因で裏当台車10の速度は変化する場合がある。例えば、(1)裏当台車10の車輪12のスリップ,(2)図示していない牽引しているホース類(水ホース、ガスホース、電気信号ケーブルなど)の負荷変動、および(3)溶接対象材4Wの歪などで裏当材20の押し付け圧力変動。
【0040】
制御装置50は、光センサ26~28の光検出信号が、Y方向のキーホールアーク位置より裏当部材20が遅れていることを示すとき(プラズマアークPAがPAfの位置で光センサ28がONした時)には裏当台車10の電気モータ13による駆動を基準溶接速度よりも増速し、裏当材20のY方向のほぼ中央(プラズマアークPAがPAmの位置で光センサ27がONした時)になった時、基準速度にする。キーホールアーク位置より裏当部材20が進んでいることを示すとき(プラズマアークPAがPArの位置で光センサ26がONした時)には裏当台車の電気モータ13による駆動を基準溶接速より減速し裏当材20のY方向のほぼ中央(プラズマアークPAがPAmの位置で光センサ27がONした時)になった時、基準速度にする。このように、キーホールアークのY位置に追従して裏当部材20が動くので、従来の、溶接全長に渡って裏当て銅板を張り付けたり、溶接台車と裏当台車をチェーンなどで連結して同期させるなどの大掛りな機構を設けることなく短い裏当銅板で簡易的に確実にバックシールドを行うことができる。また既存の片面サブマージ溶接設備を改造することなく、サブマージ溶接とプラズマ溶接の兼用機とすることができる。
【0041】
制御装置50(図6)は、プログラマブルロジックコントローラあるいはシーケンサとも呼ばれるマイクロコンピュータとインターフエイス(電気信号入,出力回路)で構成されており、溶接台車30および裏当台車10をY方向に走行駆動してプラズマキーホール溶接を実施している間、設定周期で「裏当台車速度制御RSC」,「開先倣い制御OLT」および「ギャップ計測制御GFW」を実行する。
【0042】
図7を参照する。制御装置50は、「裏当台車速度制御RSC」に進むとまず、スタート時は溶接基準速度(溶接台車30の速度)で走行する(ステップS21)。問題なければそのまま進むが(S22)、何らかの要因で裏台車10が溶接台車30より進んでいる時(S23)、光センサ26がONし、光センサ27、28はOFF状態となり裏台車10速度を1ステップ減速する(S24)。光センサ27がONし光センサ26、28がOFFした状態で(S25)、溶接基準速度に戻す(S22)。逆に何らかの要因で裏台車10が溶接台車30より遅れている時(S26)、光センサ28がONし光センサ26、27はOFF状態となり裏台車10速度を1ステップ増速する(S27)。光センサ27がONし光センサ26、28がOFFした状態で(S28)、溶接基準速度に戻す(S22)光センサ27がON状態の時、キーホールアークPAmに対して裏当部材20が最適位置にあるので、裏当台車10のY走行速度を現在値に維持する。この判定(S22~S28)と判定結果に基づく裏当台車の減速/増速/維持を溶接状況に応じて繰り返すので、キーホールアークのY移動に追従して裏当部材20がY移動する。
【0043】
なお、2個の光センサ(例えば26と28)のみを裏当部材20に装備して、両センサの信号で制御することも可能である。Y方向上流側の光センサ26がONで、下流側の光センサ28がOFFの時、キーホールアークに対して裏当部材20が進んでいるので裏当台車10のY方向走行を一定時間減速し、時間経過後は基準台車速度に戻す。一方、Y方向下流側の光センサ28がONで、上流側の光センサ26がOFFの時、キーホールアークに対して裏当部材20が遅れているので裏当台車10のY方向走行を一定時間増速し、時間経過後は基準台車速度に戻す。この制御の繰り返しでキーホールアークのY方向移動に追従して裏当部材20がY方向移動する。光センサは2個以上すなわち複数個であればよい。
【0044】
上述の実施態様では、光センサ26、27、28は、あるレベル以上の光量でONし、あるレベル以下の光量でOFFする方式を採用して制御を行ったが、各センサの光量レベルを比較してキーホールアークに対する裏当部材20の位置を検出し制御する方法でも良い。
【0045】
図8を参照する。制御装置50は、「開先倣い制御OLT」に進むとまず、CCDカメラ44の撮影画面上の溶接線像の左右X位置の基準値を設定値Xkに定めて(S1)、画像認識装置45が与える溶接線像の左右X位置計測値Xmを読み込み(S2)、その正誤をチェックして(S3)、正常値であると、基準値Xkに対する計測値Xmの偏差Xm-Xkに対応して、計測値Xmが基準値Xkより0.3mmも越えていると、CCDカメラ44(上下左右スライドアーム34,溶接トーチ41)が溶接線よりも右(+X)にずれているので、モータドライバ40に、上下左右スライドアーム34の左(-X)への0.3mmの駆動を指示する(S4,S5)。計測値Xmが基準値Xkより0.3mm以上少ないと、CCDカメラ44(上下左右スライドアーム34,溶接トーチ41)が溶接線よりも左(-X)にずれているので、モータドライバ40に、上下左右スライドアーム34の右(+X)への0.3mmの駆動を指示する(S6,S7)。計測値が異常値であったとき、ならびに、基準値Xkに対する計測値Xmの偏差Xm-Xkが僅少(±0.3mm以内)であったときには、上下左右スライドアーム34のX方向駆動は行わない。
【0046】
制御装置50は、「ギャップ計測制御GFW」に進むとまず、CCDカメラ44の撮影画面上の溶接線像のギャップ幅の計測値Wを画像認識装置45から読み込み(S11)、その正誤をチェックして(S12)、正常値であると、計測値Wに対応する溶接条件を溶接機51,ワイヤ送給器52およびモータドライバ33に設定する(S13~S20)。しかし異常値と判定した場合は、溶接機51等に対する溶接条件の更新は指示しない。すなわち保留する。溶接条件には、溶接電流値,ワイヤ送給速度,パイロットガス流量および溶接台車速度があるが、ワイヤ送給速度はワイヤ送給器52に、溶接台車速度はモータドライバ33に与える。ギャップ計測値Wが0.1~0.3mmの狭いものであると制御装置50は溶接条件J=1を設定する(S13,S14)。計測値Wが0.3~0.6mmであると制御装置50は溶接条件J=2を設定する(S15,S16)。計測値Wが0.6~1.0mmであると制御装置50は溶接条件J=3を設定し(S17,S18)、計測値Wが1.0~1.5mmであると溶接条件J=4を設定する(S15,S16)。各溶接条件Jは、各計測値Wのキーホール溶接に適した既定値である。開先の状態によっては、あらかじめ記録させた溶接条件を自動的に切替えても健全なビードが得られないことがある。溶接中アークが鋼板の裏まで貫通して、健全な裏ビードが形成されているか、常に裏ビード確認カメラ57で確認している。裏ビード確認カメラ57の映像は裏ビード確認モニター58ないし操作ペンダント59で見ることが出来る。裏ビードが形成されていない時は、溶接条件を自動的に変更することをやめ、操作ペンダント59により健全なビードがえられる適正溶接条件(電流,溶接速度など)を設定することが出来る。溶接中、任意に調整が出来る。
【0047】
制御装置50は、画像認識装置45を介してCCDカメラ44に、そのシャッタースピード又は感度を順次に、ノーマル面(高輝度反射がない)の撮影用のもの(シャッタースピード:1/80又は感度:高く)とグラインダ面(高輝度反射がある)の撮影用のもの(シャッタースピード:1/300又は感度:低く)に切り替える指示信号を与える。該指示信号を図9に示す。シャッタースピード又は感度がノーマル面(高輝度反射がない)の撮影用の時に撮影領域にグラインダ面の高輝度反射があると図9(イ)、また、シャッタースピード又は感度がグラインダ面(高輝度反射がある)の撮影の時に撮影領域にグラインダ面の高輝度反射がないと図9(ロ)、画像からは溶接線像を毎回正確に検出することは難しいので、制御装置50は、CCDカメラ44の撮影画面の溶接線像の位置およびギャップ幅を算出する画像認識装置45が与える位置X,ギャップ幅Wを検証して(図8のS3,S12)、本来ありえない大きく外れた数値は採用せず、適正範囲内のX位置,ギャップ幅W数値に基づいて、溶接トーチ41が溶接線に対向するように左右駆動電気モータ39を付勢し、かつ溶接条件を調整する。
【0048】
その結果、主にシャッタースピード又は感度がノーマル面(高輝度反射がない)の撮影用の時(シャッタースピード:1/80又は感度:高く)のノーマル面の撮影画像と図9(ハ)、シャッタースピード又は感度がグラインダ面(高輝度反射がある)の撮影用の時(シャッタースピード:1/300又は感度:低く)のグラインダ面の撮影画像と図9(ニ)、に基づいて画像認識装置45が検出した溶接線位置およびギャップ幅検出に基づいて溶接トーチ位置および溶接条件が制御され、正確な溶接線位置およびギャップ幅検出情報に基づいた正確な制御が実現する。シャッタースピード又は感度がノーマル面(高輝度反射がない)の撮影用の時に撮影領域にグラインダ面の高輝度反射がある場合と図9(イ)、シャッタースピード又は感度が射がない場合の図9(ロ)、溶接線位置およびギャップ幅検出情報は、溶接トーチ位置および溶接条件の制御には多くは用いられない。
【0049】
上述の実施態様によれば、溶接トーチの溶接位置と裏当部材の位置とが設定値になるように、裏当台車10の車輪駆動電気モータ13の回転速度が増減制御されるので、溶接トーチ41の溶接線に沿う方向のY位置に対して裏当部材20のY位置が常に定位置となる。すなわち溶接トーチ41の溶接線が延びるY方向の移動に裏当部材20のY移動が連動あるいは同期する。よって裏当部材20は短尺でよい。溶接台車30と裏当台車10の溶接線に沿う方向Yの走行駆動機構(車輪駆動機構)は、機械的に分離しているので、チェーンなどの機械的な連携機構をY方向に長距離に渡って固定設置する必要はない。又は、溶接対象材4Wの裏面全線に渡って銅の裏当て材を設置する必要は無い。
更に、撮影条件切り替えでは、ノーマル面やグラインダ面に適した撮像を得るために赤外照明灯43rの光量を切り替えて撮影しても良い。
【0050】
上述の実施態様では、制御装置50が、溶接線を貫通したキーホールアークのY位置が裏当部材20の設定位置よりも前方側であると裏当台車10の電気モータ駆動(Y走行速度)を増速し、定位置に戻し、キーホールアークのY位置が裏当部材20の設定位置よりも後方側であると裏当台車10の電気モータ駆動を減速し定位置に戻す。これにより、キーホールアークのY移動に追従して裏当部材20がY移動する。
そのかわりに、制御装置50が、キーホールアークが裏当部材20の設定位置よりもY方向で前方側であると溶接台車30の電気モータ駆動を減速し、定位置に戻し、キーホールアークが裏当部材20の設定位置よりも後方側であると溶接台車30の電気モータ駆動を増速し定位置に戻す態様を採用してもよい。
あるいは、制御装置50が、キーホールアークの裏当部材20の設定位置よりも前方側であると裏当台車10の電気モータ駆動を増速しかつ溶接台車30の電気モータ駆動を減速し、キーホールアークが裏当部材20の設定位置よりも後方であると裏当台車10の電気モータ駆動を減速しかつ溶接台車30の電気モータ駆動を増速する態様を採用してもよい。
【0051】
上述の実施態様は、片面サブマージアーク溶接設備を利用して、長,短距離のプラズマキーホール溶接を行うように、裏当台車10は、片面サブマージアーク溶接設備の、片面サブマージアークのときには上面にフラックスが散布され大板鋼板の開先部の下面に当てられる長尺の裏当銅板2を倣いその上を走行するに適した車輪を装備している。
しかし本発明の他の1つの実施態様では、裏当台車10は、溶接台車30の車輪31と同様な車輪と倣いローラ18.19と同様な倣いローラを装備したものである。この実施態様では、溶接台車30の倣い走行用のガイド板48および固定磁石49と同様な倣いガイドを、裏当台車10のY走行案内に用いる。あるいは、ガイドをラック付きレールとし、裏当台車の車輪に該ラックに噛みあうピニオンを装着したものとすることもできる。いずれにしても、片面サブマージアーク溶接設備を利用できない場所でのキーホール溶接を、簡易な設備で実施することができる。
【0052】
上述の実施態様では、片面サブマージ溶接設備を利用してプラズマトーチ41の走行を自走式の溶接台車30にて走行させる方式を採用しているが、プラズマトーチ41の走行を既存のサブマージ溶接トーチの走行装置を利用し、その走行装置にプラズマトーチ41や自動倣いに必要な部材や制御装置を搭載し、裏当台車10と組み合わせ、同様な制御方法でプラズマ溶接を実施しても良い。
【0053】
更に溶接方法としてプラズマ溶接法の替わりに、TIG溶接法、又はレーザー溶接法を採用しても良い。また、裏当て追従方式をタンクの円周溶接など、鋼材が回転(移動)する設備に採用しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1R,1L:支持梁
2:裏当銅板(サブマージ溶接の長尺裏当て銅板)
3R,3L:押え
4:溶接面
4W:溶接対象材(母材;鋼板)
10:裏当台車
11:支持台
12:車輪
13:裏当台車駆動用の電気モータ
14:昇降ロッド
15:圧縮コイルスプリング
16:シャフトクランプ
17:握り手
18,19:倣いローラ
20:裏当部材(短尺裏シールド部材)
21:ガス吹込み空間
22:倣いローラ
23~25:透光窓
26~28:光センサ
PA:プラズマアーク
PAr,PAm,PAf:キーホールプラズマ
30:溶接台車
31:車輪
32:溶接台車駆動用の電気モータ
33:モータドライバ
34:上下左右スライドアーム
35:上下倣いセンサ
36:上下駆動用の電気モータ
37:モータドライバ
39:左右駆動用の電気モータ
40:モータドライバ
41:プラズマ溶接トーチ
42:ワイヤ突出しガイド
43:カメラ保護筒
43r:赤外照明灯
44:CCDカメラ
45:画像認識装置
46:ディスプレイ
47:握り手
48:ガイド板
49:固定磁石
50:制御装置
51:溶接機
52:ワイヤ送給器
53:モータドライバ
54:バックシールド供給ホース
55:ガス流路
56:バックシールドガス吹き出し孔
57:裏ビード確認カメラ
58:裏ビード確認モニター
59:操作ペンダント

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9