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  • 特許-シャフト結合構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】シャフト結合構造
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/06 20060101AFI20230927BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F16D3/06 S
F16D1/02 210
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020052193
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152373
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000237307
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトコラムシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 吉康
(72)【発明者】
【氏名】松本 訓成
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-031992(JP,A)
【文献】特開2001-347954(JP,A)
【文献】特開2001-221245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00-9/10
B62D 1/00-1/28,5/00-5/32
F16C 3/00-9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーシャフトとアウターシャフトとが、軸方向に相対移動可能かつ軸周りに相対回転不能に結合されるシャフト結合構造であって、
前記インナーシャフトは、外周部の一部を径方向外側に向けて切り起こされる切り起こし部を備え、当該切り起こし部が前記アウターシャフトの内面を押し付けていることを特徴とするシャフト結合構造。
【請求項2】
前記インナーシャフトと前記アウターシャフトとはスプライン嵌合されており、前記スプライン嵌合された位置に前記切り起こし部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシャフト結合構造。
【請求項3】
前記インナーシャフトは中空構造であり、前記切り起こし部によって形成される当該インナーシャフトの切り起こし孔の軸方向寸法は、当該インナーシャフトの内径以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のシャフト結合構造。
【請求項4】
前記切り起こし部は、前記インナーシャフトに複数設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシャフト結合構造。
【請求項5】
前記切り起こし部は、前記インナーシャフトの軸方向に沿って複数設けられていることを特徴とする請求項4に記載のシャフト結合構造。
【請求項6】
前記切り起こし部は、前記インナーシャフトの周方向に沿って複数設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載のシャフト結合構造。
【請求項7】
周方向に沿って二つ設けられたそれぞれの前記切り起こし部は、切り起こし方向が互いに逆であることを特徴とする請求項6に記載のシャフト結合構造。
【請求項8】
周方向に沿って二つ設けられたそれぞれの前記切り起こし部は、切り起こし先端が互いに対向していることを特徴とする請求項7に記載のシャフト結合構造。
【請求項9】
前記インナーシャフト及び前記アウターシャフトは、自動車のステアリングコラムに設けられるステアリングシャフトであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のシャフト結合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーシャフトとアウターシャフトとが、軸方向に相対移動可能かつ軸周りに相対回転不能に結合されるシャフト結合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シャフト結合構造として、下記特許文献1,2に記載されたものが知られている。特許文献1は、インナーシャフトとアウターシャフトとをスプライン嵌合して組み付けた後、調整ネジを締め付けて拡径部材を径方向外側に拡径させることで、シャフト間のがたを防止している。特許文献2は、ステアリングシャフトを構成するインナーシャフトと操舵力補助装置を構成する入力軸との間に板ばねを挟むことで、シャフト間のがたを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-347954号公報
【文献】特開2007-147059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のシャフト結合構造は、シャフト間のがたを抑えるために別部材を使用しているので、部品点数の増加を招く。
【0005】
そこで、本発明は、部品点数の増加を招くことなく、シャフト間のがたを抑えることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、インナーシャフトとアウターシャフトとが、軸方向に相対移動可能かつ軸周りに相対回転不能に結合されるシャフト結合構造であって、前記インナーシャフトは、外周部の一部を径方向外側に向けて切り起こされる切り起こし部を備え、当該切り起こし部が前記アウターシャフトの内面を押し付けている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、部品点数の増加を招くことなく、シャフト間のがたを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態のシャフト結合構造を備えるステアリングコラム装置の一部断面を含む側面図である。
図2図1のシャフト結合構造におけるステアリングシャフトの断面図である。
図3図1のステアリングシャフトにおけるインナーシャフトの側面図である。
図4図2のIV-IV断面図である。
図5図4に対しアウターシャフトをインナーシャフトから外した状態を示す断面図である。
図6】他の実施形態の図5に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、図面において、車両前方は矢印FR、車両後方は矢印RRで示す。
【0010】
図1に示すように、ステアリングコラム装置1は、後端部(図1、2の右端部)にステアリングホイール3を取り付けたステアリングシャフト5と、ステアリングシャフト5が回転自在に挿通されたステアリングコラム7とを備えている。ステアリングシャフト5及びステアリングコラム7は、いずれも筒形状である。ステアリングコラム7は、後方側のアウターコラム9と前方側のインナーコラム11とを備えており、アウターコラム9はインナーコラム11に対して軸方向に移動自在である。
【0011】
ステアリングコラム7は、アウターコラム9側が支持ブラケット13により、車体15の一部に前後方向に移動自在に支承され、インナーコラム11側が図示しない支持ブラケットにより、車体15の一部に支承されている。ステアリングシャフト5は、いずれも中空構造のアウターシャフト17とインナーシャフト19とを、スプライン嵌合することにより、軸方向には相対移動可能(テレスコピック位置調整可能)で、軸周りには相対回転不能としている。アウターシャフト17の後端部にステアリングホイール3が取り付けられる。テレスコピック位置調整時には、アウターシャフト17とアウターコラム9とが一体となって前後に移動する。
【0012】
図2は、図1のステアリングシャフト5を示している。アウターシャフト17の内周面にはスプラインの内歯17aが形成され、インナーシャフト19の外周面にはスプラインの外歯19aが形成されている。内歯17a及び外歯19aは、アウターシャフト17及びインナーシャフト19のそれぞれの全周にわたり形成されている。内歯17aと外歯19aとが噛み合うことで、アウターシャフト17とインナーシャフト19とがスプライン篏合される。なお、アウターシャフト17及びインナーシャフト19は、例えば機械構造用炭素鋼(STKM12BまたはSTKM13B等)で構成している。
【0013】
インナーシャフト19の外歯19aは、図3に示すように、車両後方側(図2図3中で右側)の後端部19bから車両前方側(図2図3中で左側)の端部近傍までの範囲にわたり形成されている。アウターシャフト17の内歯17aは、車両前方側(図2中で左側)の前端部17bから軸方向の中間位置よりやや後方側(図2中で右側)の範囲にわたり形成されている。なお、内歯17a及び外歯19aの軸方向の形成範囲は、上記した範囲に限定されるものではなく、テレスコピック位置調整できるような範囲であればよい。
【0014】
インナーシャフト19の外歯19aが形成されている範囲の後端部19b近傍には、切り起こし部としての切り起こし片21が設けられている。切り起こし片21は、アウターシャフト17の内歯17aが形成された内面に対向する位置にある。切り起こし片21は、筒形状のインナーシャフト19の外周部の一部を、径方向外側に向けて切り起こすことで形成している。インナーシャフト19は、切り起こし片21を切り起こすことで、切り起こし孔23が形成される。
【0015】
切り起こし孔23は、軸方向に長い矩形状であり、したがって切り起こし片21についても軸方向に長い矩形状である。切り起こし孔23の軸方向寸法Pは、インナーシャフト19の内径Q以上である(P≧Q)。このとき、図2のIV―IV断面図である図4に示すように、切り起こし孔23の周方向の開口角度θは60度程度とする。なお、開口角度θは、60度~90度程度の範囲としてもよい。すなわち、切り起こし孔23の周方向に沿う長さは、全周の1/6~1/4程度である。図5は、図4に対しアウターシャフト17をインナーシャフト19から外した状態を示しており、アウターシャフト17を二点鎖線で示している。
【0016】
インナーシャフト19から径方向外側に向けて切り起こした切り起こし片21は、図4の状態でアウターシャフト17の内歯17aが形成された内面に押し付けている。このとき、切り起こし片21は、図5の状態から内側に向けて弾性変形している。これにより、切り起こし片21は、アウターシャフト17とインナーシャフト19との間のがたを抑えている。この場合、シャフト結合構造として、シャフト間のがたを抑えるために、ばね等の別部材を使用しておらず、したがって別部材を使用することによる部品点数の増加を抑制できる。なお、インナーシャフト19の切り起こし片21を設ける位置は、図2図3に示す位置に限定されるものではなく、テレスコピック位置調整できる範囲で、アウターシャフト17の内面に対向する位置であればよい。
【0017】
本実施形態は、インナーシャフト19とアウターシャフト17とはスプライン嵌合されており、スプライン嵌合された位置に切り起こし片21が設けられている。このため、スプライン嵌合された部位におけるインナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたを抑制することができる。
【0018】
本実施形態は、インナーシャフト19が中空構造であり、切り起こし片21によって形成されるインナーシャフト19の切り起こし孔23の軸方向寸法Pが、インナーシャフト19の内径Q以上である。この場合、切り起こし孔23の軸方向寸法Pがインナーシャフト19の内径Q未満の場合に比較して、切り起こし片21のアウターシャフト17に対する押し付け領域が大きくなり、インナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたをより確実に抑制することができる。
【0019】
上記した切り起こし片21は、インナーシャフト19に複数設けてもよい。複数の切り起こし片21によって、インナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたをより一層抑制することができる。
【0020】
上記した切り起こし片21は、インナーシャフト19の軸方向に沿って複数設けてもよい。この場合、軸方向に沿って複数設けた切り起こし片21によってインナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたを抑制することができる。その際、例えば、二つの切り起こし片21を、アウターシャフト17に対してスプライン嵌合可能な範囲におけるインナーシャフト19の軸方向両端部付近にそれぞれ設けることで、インナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたをより確実に抑制できる。
【0021】
上記した切り起こし片21は、インナーシャフト19の周方向に沿って複数設けてもよい。この場合、周方向に沿って複数設けた切り起こし片21によってインナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたを抑制することができる。その際、例えば三つの切り起こし片21を周方向等間隔に配置することで、インナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたをより確実に抑制できる。
【0022】
本実施形態は、インナーシャフト19及びアウターシャフト17は、自動車のステアリングコラム7に設けられるステアリングシャフト5である。この場合、インナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたを切り起こし片21により抑制することで、ステアリング操作が円滑に行える。
【0023】
図6は、切り起こし片21を複数設ける際に、周方向に沿って二つ設けたそれぞれの切り起こし片21の切り起こし方向を互い逆として、切り起こし先端21aを互いに対向させた例を示す。例えば、図6において、インナーシャフト19が回転力を付与される入力軸とした場合を想定する。この場合、インナーシャフト19に対し、図6中で右方向に回転力を付与したときと、左方向に回転力を付与したときとで、一つの切り起こし片21によるアウターシャフト17への押し付け力が異なると考えられる。
【0024】
例えば、図6中で左側の切り起こし片21では、インナーシャフト19に右方向の回転力を付与したときには、切り起こし先端21aが回転方向の前方側に位置し、インナーシャフト19に左方向の回転力を付与したときには、切り起こし先端21aが回転方向の後方側に位置することになる。この場合、回転力が右方向のときには、切り起こし片21が切り起こされた側の径方向外側に変位しようとする力をアウターシャフト17から受け、回転力が左方向のときには、切り起こし片21が切り起こし孔23に入り込む方向にアウターシャフト17から力を受けると考えられる。
【0025】
このため、一つの切り起こし片21だけでは、インナーシャフト19に対し、図6中で右方向に回転力を付与した場合と、左方向に回転力を付与した場合とで、アウターシャフト17への押し付け力が異なることになる。その結果、一つの切り起こし片21だけでは、インナーシャフト19に対し、図6中で右方向に回転力を付与した場合と、左方向に回転力を付与した場合とで、インナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたに対する抑制効果が異なってしまう。
【0026】
そこで、本実施形態では、図6に示すように、周方向に沿って二つ設けたそれぞれの切り起こし片21の切り起こし方向を互いに逆方向としている。これにより、インナーシャフト19に対し、図6中で右方向に回転力を付与した場合と、左方向に回転力を付与した場合とで、インナーシャフト19とアウターシャフト17との間のがたに対する抑制効果がほぼ均一化する。その結果、ステアリング操作が安定化する。
【0027】
その際、図6のように、二つの切り起こし片21の切り起こし先端21aを互いに対向させる場合には、二つの切り起こし片21に対応して二つの切り起こし孔23を設ける必要がなく、一つの共通の切り起こし孔23で済む。これにより、二つの切り起こし片21に対応して二つの切り起こし孔23を設ける場合に比較して、製造作業が容易となる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は本発明の理解を容易にするために記載された単なる例示に過ぎず、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲は、上記実施形態で開示した具体的な技術事項に限らず、そこから容易に導きうる様々な変形、変更、代替技術なども含む。
【0029】
例えば、切り起こし片21を複数設ける場合には、軸方向に沿って複数設けたうえで、周方向に沿って複数設けてもよく、インナーシャフト19の表面にらせん状に設けてもよい。
【0030】
図6の実施形態では、二つの切り起こし片21に対して切り起こし孔23を一つの共通なものとしたうえで、切り起こし先端21aを互いに対向させているが、二つの切り起こし片21に対応して二つの切り起こし孔23を設けてもよい。また、図6のように切り起こし先端21aを互いに対向させずに、例えば、周方向の180度隔てた位置に切り起こし片21をそれぞれ設けることで、切り起こし方向を互い逆としてもよい。
【0031】
上記した実施形態では、切り起こし片21及び切り起こし孔23を矩形状としているが、例えば三角形状または台形など他の形状であってもよい。
【0032】
上記した実施形態では、シャフト結合構造として、自動車のステアリングシャフト5を例にとって説明しているが、インナーシャフトとアウターシャフトとが、軸方向に相対移動可能かつ軸周りに相対回転不能に結合されるシャフト結合構造であれば、他のシャフト結合構造にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0033】
5 ステアリングシャフト
7 ステアリングコラム
17 アウターシャフト
19 インナーシャフト
21 切り起こし片(切り起こし部)
21a 切り起こし先端
図1
図2
図3
図4
図5
図6