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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】プーリ構造体
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/36 20060101AFI20230927BHJP
   F16D 41/20 20060101ALI20230927BHJP
   F16D 13/08 20060101ALI20230927BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20230927BHJP
   F16F 15/123 20060101ALI20230927BHJP
   F16F 1/06 20060101ALI20230927BHJP
   F16F 1/12 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F16H55/36 H
F16D41/20 A
F16D13/08 A
F16F15/12 S
F16F15/123 Z
F16F1/06 C
F16F1/12 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020073800
(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公開番号】P2020183807
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019085285
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】今村 利夫
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第207378109(CN,U)
【文献】特開2018-179293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0063507(US,A1)
【文献】特表2016-516951(JP,A)
【文献】特表2008-528906(JP,A)
【文献】特表2018-510299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F16D 41/20
F16D 13/08
F16F 15/12
F16F 15/123
F16F 1/06
F16F 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻き掛けられる筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記外回転体と同一の回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されている、第1のコイルばねと、
前記第1のコイルばねに対して径方向に並設され、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されている、第2のコイルばねと、を備えており、
前記第1のコイルばねは、拡径又は縮径方向にねじり変形した際に、前記外回転体及び前記内回転体に係合して、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクを伝達し、トルクの伝達時と反対方向にねじり変形した際に、前記外回転体又は前記内回転体と摺動する係合解除状態となって、前記外回転体と前記内回転体との間でのトルクの伝達を遮断し、
前記第2のコイルばねは、前記軸方向の一端側及び他端側の一方の部分が、該部分に径方向に対向し、前記外回転体に係合する前記第1のコイルばねの前記軸方向の一端側及び他端側の一方の部分に一箇所で接続可能に形成されており、トルクの伝達時において、前記第1のコイルばねと同じ方向にねじり変形することによって、前記第1のコイルばねを介し、前記外回転体及び前記内回転体に係合する、ことを特徴とするプーリ構造体。
【請求項2】
前記第1のコイルばねは、
前記一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって前記外回転体及び前記内回転体の一方に接触する第1一端側領域と、
前記他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が前記
外回転体及び前記内回転体の他方に接触する第1他端側領域と、
前記第1一端側領域及び前記第1他端側領域の間であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない第1中領域と、を有し、
前記第1のコイルばねは、前記外回転体と前記内回転体との相対回転によって拡径方向にねじれた場合に、前記第1他端側領域の少なくとも一部分の内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方から離れるように構成されており、
前記第2のコイルばねは、
前記第1のコイルばねと前記内回転体との間に設けられており、前記一端側及び前記他端側の一方の部分が、該部分と径方向に対向し、前記外回転体に係合する前記第1のコイルばねの前記一端側及び前記他端側の一方の部分に接続可能に形成されており、
前記一端側で前記外回転体及び前記内回転体の一方に接触する第2一端側領域と、
前記他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方に接触する第2他端側領域と、
前記第2のコイルばねの前記第2一端側領域及び前記第2他端側領域の間であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない第2中領域と、を有し、
前記第2のコイルばねは、前記外回転体と前記内回転体との相対回転によって拡径方向にねじれた場合に、前記第2のコイルばねの前記第2他端側領域の少なくとも一部分の内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方から離れているように構成されている、請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
前記第1のコイルばねは、
前記一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって前記外回転体及び前記内回転体の一方に接触する第1一端側領域と、
前記他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方に接触する第1他端側領域と、
前記第1一端側領域及び前記第1他端側領域の間であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない第1中領域と、を有し、
前記第1のコイルばねは、前記外回転体と前記内回転体との相対回転によって拡径方向にねじれた場合に、前記第1他端側領域の少なくとも一部分の内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方から離れるように構成されており、
前記第2のコイルばねは、
前記第1のコイルばねと前記内回転体との間に設けられており、前記一端側及び前記他端側の一方の部分が、該部分と径方向に対向し、前記外回転体に係合している前記第1のコイルばねの前記一端側及び前記他端側の一方の部分に接続可能に形成されており、
前記一端側で前記外回転体及び前記内回転体の一方に接触する第2一端側領域と、
前記他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方から離れている第2他端側領域と、
前記第2のコイルばねの前記第2一端側領域及び前記第2他端側領域の間であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない第2中領域と、を有している、請求項1に記載のプーリ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルばねを備えたプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンの動力によってオルタネータ等の補機を駆動する補機駆動ユニットでは、オルタネータ等の補機の駆動軸に連結されるプーリと、エンジンのクランク軸に連結されるプーリにわたってベルトが掛け渡され、このベルトを介してエンジンのトルクが補機に伝達される。特に、他の補機に比べて大きい慣性を有するオルタネータの駆動軸に連結されるプーリには、例えば特許文献1に記載されているような、クランク軸の回転変動を吸収可能なプーリ構造体が用いられる。
【0003】
特許文献1に記載のプーリ構造体は、外回転体と、外回転体の内側に設けられ、且つ、外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、2つの回転体の間に配置されたコイルばねとを有している。
【0004】
このプーリ構造体では、クランク軸の回転変動がベルトを介して外回転体に伝達され、2つの回転体が相対回転すると、2つの回転体の間でコイルばねを介してトルクが伝達されるとともに、コイルばねが周方向にねじれることにより、回転変動が吸収される(ダンピング機能)。これにより、外回転体に巻回されるベルトのスリップや張力変動を抑えることができる。また、コイルばねの拡径又は縮径変形により外回転体と内回転体との間でトルクが伝達又は遮断されるようになっている(クラッチ機能)。これにより、ベルトのスリップを確実に防止することができる。
【0005】
このように、このプーリ構造体に備わるコイルばねは、外回転体と内回転体との間でトルクを伝達する際に、クランク軸の回転変動を吸収するダンピング機能と、外回転体と内回転体との間でトルクを一方向に伝達又は遮断するクラッチ機能とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-114947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近は、自動車等の運転支援技術や自動運転技術の進化と普及が進み、従来よりも車載されるセンサやカメラ類、電動モータ、及びそれらの制御装置等が増えた分、従来よりも大きな電力が消費される。このため、オルタネータに対する発電要求量が従来よりも増加することになり、オルタネータが従来よりも大型化するとともに、駆動軸を介してプーリ構造体に連結されるオルタネータの回転部分の質量が従来よりも増加することになった。このため、エンジンの回転変動(最大値)とオルタネータの回転慣性質量(慣性マス)に基づく、プーリ構造体の外回転体(プーリ)に入力されるトルク(以下、入力トルク)が増加することになった。これに伴い、ベルトの負荷も従来よりも増加した。
【0008】
プーリ構造体の設計上、常用的に許容し得る入力トルクの最大値(以下、「許容トルク」と呼ぶ。)は、コイルばねの拡径変形時に引張力が働くコイルばねの面(特に内周面)に発生する曲げ応力(最大値)を極力低く抑え、コイルばねのねじりに対する耐久性を十分に確保し得る水準に設定されるのが好ましい。このため、許容トルクは、安全を見て、コイルばねの拡径変形の最大化を回避し得るねじりトルクの水準(ロック機構が作動しない領域内)に設定されるのが好ましい。
【0009】
そこで、従来(特許文献1等)のプーリ構造体の構成(図8参照)で、従来よりも大きい入力トルク(例えば、従来比で約25%増加した入力トルク)に耐用するには、コイルばねのばね線(素線)を太くする必要がある。
【0010】
しかしながら、コイルばねのばね線(素線)を太くするだけでは、ばね定数(コイルばねのねじり角度に対するねじりトルクの割合、即ち、トルクカーブの傾き)が増加してしまうため、コイルばねのばね線(素線)を太くしても、ばね定数を増加させることなく、所定の水準(従来同等水準)に維持しつつ、許容トルクを増加させるためには、コイルばねの巻き数(有効巻数)を増やさなければならない(例えば、従来7巻きであれば9巻きにしなければならない)。
【0011】
この場合、プーリ構造体はおのずと回転軸方向(及び、エンジンのクランク軸と平行な軸線方向)に大型化してしまい、オルタネータのオーバーハング(軸受からの張り出し量)が長くなる分、軸受強度を補うため軸受サイズを拡大する結果、オルタネータがさらに大型化することになる。つまり、従来(特許文献1等)のプーリ構造体の基本構成のままでは、過大な入力トルクに対応する場合、回転軸方向に大型化を招くため、エンジンルーム内の当該プーリ構造体及びオルタネータの搭載スペースを確保し、且つ、所定の水準(従来同等水準)にばね定数を維持しつつ、許容トルクを底上げできるようにするには限界がある、と考えられた。
【0012】
そこで、本発明の目的は、回転軸方向に大型化を招くことなく、ばね定数及び許容トルクの設計自由度を高めることができるプーリ構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のプーリ構造体は、ベルトが巻き掛けられる筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記外回転体と同一の回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されている、第1のコイルばねと、
前記第1のコイルばねに対して径方向に並設され、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されている、第2のコイルばねと、を備えており、
前記第1のコイルばねは、拡径又は縮径方向にねじり変形した際に、前記外回転体及び前記内回転体に係合して、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクを伝達し、トルクの伝達時と反対方向にねじり変形した際に、前記外回転体又は前記内回転体と摺動する係合解除状態となって、前記外回転体と前記内回転体との間でのトルクの伝達を遮断し、
前記第2のコイルばねは、少なくとも、前記軸方向の一端側及び他端側の一方の部分が、該部分に径方向に対向し、前記外回転体に係合する前記第1のコイルばねの前記軸方向の一端側及び他端側の一方の部分に接続可能に形成されており、トルクの伝達時において、前記第1のコイルばねと同じ方向にねじり変形することによって、前記第1のコイルばねを介し、前記外回転体及び前記内回転体に係合する。
【0014】
上記構成によれば、第2のコイルばねを第1のコイルばねと径方向に並設させ、且つ、両者を接続可能に形成させることで、外回転体側からの過大な入力トルクを第1のコイルばねとともに第2のコイルばねに受け持たせ、ダンピング機能を第1のコイルばねのみならず、第2のコイルばねにも担わせることができる。これにより、プーリ構造体を回転軸方向に大型化することなく、従来のプーリ構造体(1つのコイルばねしか備えない場合)と比べて、コイルばねの有効巻数を増やした場合と同程度にばね定数の設計自由度を高めることができ、その分、所定の水準(従来同等水準)にばね定数を維持しつつ、許容トルク(入力トルクの最大値)を底上げすることができる。
このように、外回転体側からの過大な入力トルクに対しても、トルク伝達時のダンピング機能を有効に維持することができる。ひいては、クランク軸の回転変動をプーリ構造体により十分に吸収することができる。
【0015】
また、本発明の一側面は、上記プーリ構造体において、
前記第1のコイルばねは、
前記一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって前記外回転体及び前記内回転体の一方に接触する第1一端側領域と、
前記他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方に接触する第1他端側領域と、
前記第1一端側領域及び前記第1他端側領域の間であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない第1中領域と、を有し、
前記第1のコイルばねは、前記外回転体と前記内回転体との相対回転によって拡径方向にねじれた場合に、前記第1他端側領域の少なくとも一部分の内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方から離れるように構成されており、
前記第2のコイルばねは、
前記第1のコイルばねと前記内回転体との間に設けられており、前記一端側及び前記他端側の一方の部分が、該部分と径方向に対向し、前記外回転体に係合する前記第1のコイルばねの前記一端側及び前記他端側の一方の部分に接続可能に形成されており、
前記一端側で前記外回転体及び前記内回転体の一方に接触する第2一端側領域と、
前記他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方に接触する第2他端側領域と、
前記第2のコイルばねの前記第2一端側領域及び前記第2他端側領域の間であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない第2中領域と、を有し、
前記第2のコイルばねは、前記外回転体と前記内回転体との相対回転によって拡径方向にねじれた場合に、前記第2のコイルばねの前記第2他端側領域の少なくとも一部分の内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方から離れているように構成されている。
【0016】
上記構成によれば、(i)2つのコイルばねは、第1のコイルばねの、外回転体に係合している軸方向の一端側及び他端側のどちらか一方の部分と、該部分と径方向に対向する第2のコイルばねの部分同士でしか接続可能に形成されていない。
また、(ii)2つのコイルばねは、いずれも、拡径方向にねじれた場合に、他端側領域(第1他端側領域、第2他端側領域)の内周面のうち少なくとも周方向一部分が他方の回転体から離れている。
また、(iii)2つのコイルばねがいずれも、拡径方向にねじれた場合に係合状態となるよう、第2のコイルばねは、第1のコイルばねと内回転体との間に設けられている。
上記(i)及び(ii)により、プーリ構造体は、トルク伝達時に外回転体と内回転体とが相対回転したときに、プーリ構造体の停止時よりも、有効巻数が増加する。したがって、本態様のプーリ構造体は、外回転体と内回転体とが相対回転したときに、第1のコイルばねの有効巻数及び第2のコイルばねの有効巻数がそれぞれさらに増加した構成となるので、ばね定数の設計自由度をさらに高めることができる。
上記(iii)により、2つのコイルばねがいずれも、縮径方向にねじれた場合に係合状態となるよう、第2のコイルばねが第1のコイルばねと外回転体との間に設けられる場合と比較し、プーリ構造体が径方向にむやみに大型化するのを抑制し、プーリ構造体の径方向の大型化を最小限に留めることができる。
【0017】
また、本発明の一側面は、上記プーリ構造体において、
前記第1のコイルばねは、
前記一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって前記外回転体及び前記内回転体の一方に接触する第1一端側領域と、
前記他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方に接触する第1他端側領域と、
前記第1一端側領域及び前記第1他端側領域の間であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない第1中領域と、を有し、
前記第1のコイルばねは、前記外回転体と前記内回転体との相対回転によって拡径方向にねじれた場合に、前記第1他端側領域の少なくとも一部分の内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方から離れるように構成されており、
前記第2のコイルばねは、
前記第1のコイルばねと前記内回転体との間に設けられており、前記一端側及び前記他端側の一方の部分が、該部分と径方向に対向し、前記外回転体に係合している前記第1のコイルばねの前記一端側及び前記他端側の一方の部分に接続可能に形成されており、
前記一端側で前記外回転体及び前記内回転体の一方に接触する第2一端側領域と、
前記他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が前記外回転体及び前記内回転体の他方から離れている第2他端側領域と、
前記第2のコイルばねの前記第2一端側領域及び前記第2他端側領域の間であって、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない第2中領域と、を有している。
【0018】
上記構成によれば、(i)2つのコイルばねは、第1のコイルばねの、外回転体に係合している軸方向の一端側及び他端側のどちらか一方の部分と、該部分と径方向に対向する第2のコイルばねの部分同士でしか接続可能に形成されていない。
また、(ii)第2のコイルばねの第2他端側領域は、プーリ構造体に外力が付与されていない状態においてすでに内周面が外回転体及び内回転体の他方から離れている。つまり、第2のコイルばねの第2他端側領域は、プーリ構造体に外力が付与されていない状態において軸方向の端面でしか外回転体及び内回転体の他方に接触していない。
このため、本態様のプーリ構造体は、トルク伝達時に2つの回転体が相対回転したときに、請求項2の構成よりも、第2のコイルばねの有効巻数がさらに増加した構成であるので、ばね定数の設計自由度を最大限に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のプーリ構造体の断面図である。
図2図1のA-A線に沿った断面図である。
図3図1のB-B線に沿った断面図である。
図4図1のC-C線に沿った断面図である。
図5】(a)は、図1に示すプーリ構造体の、コイルばねのねじり角度とねじりトルクとの関係を示すグラフである。(b)は、従来のプーリ構造体の、コイルばねのねじり角度とねじりトルクとの関係を示すグラフである。
図6図1に示すプーリ構造体の、内回転体の詳細を説明するための斜視図である。
図7】本実施形態のプーリ構造体の分解図である。
図8】従来のプーリ構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態のプーリ構造体1について説明する。
プーリ構造体1は、自動車の補機駆動システム(図示省略)において、オルタネータの駆動軸に設置される。補機駆動システムは、エンジンのクランク軸に連結された駆動プーリと、オルタネータ等の補機を駆動する従動プーリとにわたってベルトが掛け渡された構成であって、クランク軸の回転がベルトを介して従動プーリに伝達されることで、オルタネータ等の補機が駆動される。クランク軸は、エンジン燃焼に起因して回転速度が変動し、それに伴いベルトの速度も変動する。
【0021】
(プーリ構造体1)
図1図4に示すように、プーリ構造体1は、外回転体2、内回転体3、第1のコイルばね4(以下、単に「ばね4」という)、第2のコイルばね5(以下、単に「ばね5」という)、及び、エンドキャップ10を含む。以下、図1における右方を一端(後)、左方を他端(前)として説明する。エンドキャップ10は、外回転体2及び内回転体3の他端側に配置されている。
【0022】
(外回転体2、内回転体3)
外回転体2及び内回転体3は、共に略円筒状であり、同一の回転軸を有する。外回転体2及び内回転体3の回転軸は、プーリ構造体1の回転軸であり、以下、単に「回転軸」という。また、回転軸方向を、単に「軸方向」という。内回転体3は、外回転体2の内側に設けられ、外回転体2に対して相対回転可能である。外回転体2の外周面に、ベルトが巻回される。
【0023】
内回転体3は、筒本体3a、及び、筒本体3aの他端の外側に配置された外筒部3bを有する。筒本体3aに、オルタネータ等の駆動軸Sが嵌合される。外筒部3bと筒本体3aとの間に、支持溝部3cが形成されている。外筒部3bの内周面と筒本体3aの外周面は、支持溝部3cの溝底面3dを介して連結されている。
【0024】
溝底面3dには、軸方向に圧縮されている、ばね4及びばね5の姿勢を安定させるために、図6に示すように、ばね4及びばね5のそれぞれの他端側(前側)に対向する部分に、螺旋面を有する、第1溝底面3d1、及び、第2溝底面3d2が形成されている。
【0025】
第2溝底面3d2は、図6に示すように、筒本体3aの周りを螺旋面で囲うように形成されており、その螺旋面が一周した境目に形成される段差に、第2当接面3d4を有している。この第2当接面3d4は、外回転体2と内回転体3との間で確実にトルクを伝達させるために、ばね5の他端側(前側)の周方向端面が正方向に押圧され得るように、該周方向端面と周方向に対向している(図3参照)。
【0026】
第1溝底面3d1は、図6に示すように、第2溝底面3d2の周りを一段下側で、螺旋面で囲うように形成されており、その螺旋面が一周した境目に形成される段差に、第1当接面3d3を有している(図6参照)。この第1当接面3d3は、外回転体2と内回転体3との間で確実にトルクを伝達させるために、ばね4の他端側(前側)の周方向端面4aが正方向に押圧され得るように、周方向端面4aと周方向に対向している(図2参照)。
【0027】
外回転体2の一端の内周面と、筒本体3aの外周面との間に、転がり軸受6が介設されている。また、外回転体2の他端の内周面と、外筒部3bの外周面との間に、滑り軸受7が介設されている。転がり軸受6及び滑り軸受7によって、外回転体2及び内回転体3が相対回転可能に連結されている。
【0028】
外回転体2と内回転体3との間であって、転がり軸受6の前方(他端側)に、環状のスラストプレート8が配置されている。プーリ構造体1を組み立てる際、スラストプレート8、転がり軸受6の順に、筒本体3aに外嵌される。
【0029】
外回転体2と内回転体3との間であって、スラストプレート8よりも前方に、空間9が形成されている。空間9に、ばね4、及び、ばね5が収容されている。空間9は、外回転体2の内周面及び外筒部3bの内周面と、筒本体3aの外周面との間に形成されている。
【0030】
外回転体2の内径は、後方に向かって2段階で小さくなっている。最も小さい内径部分における外回転体2の内周面を圧接面2a、2番目に小さい内径部分における外回転体2の内周面を環状面2bという。圧接面2aにおける外回転体2の内径は、外筒部3bの内径よりも小さい。環状面2bにおける外回転体2の内径は、外筒部3bの内径と同じかそれよりも大きい。
【0031】
筒本体3aは、他端部分における内回転体3の外周面を第2接触面3eという(図1図6参照)。また、第2溝底面3d2の外周面を第1接触面3fという(図1図6参照)。
【0032】
また、外筒部3bの内周面には、外筒部3bの径方向内側に突出して、ばね4の他端側領域4b(第1他端側領域に相当)の外周面と対向する突起3gが設けられている。突起3gは、ばね4の第2領域4b2と対向している。
【0033】
(第1のコイルばね4、及び、第2のコイルばね5)
本実施形態では、許容トルクを、安全を見て、コイルばねの拡径変形の最大化(ロック機構の作動)を回避し得るねじりトルクの水準、つまり、上記ロック機構が働くねじりトルクよりも若干程度小のトルク水準(図5(a)の、Tm1の水準)に設定し、ばね構造を設計した。
【0034】
(1)ばね全体(ばね4及びばね5の2つのコイルばね)として、ばね定数k1を所定の水準(本実施形態では、従来のばね定数k0と同等水準:図5(b)参照)に維持できることを狙い、ばね4及びばね5の2つのコイルばねのそれぞれ(単体)のばね構造を以下のように設計した。
【0035】
(2)また、許容トルク(Tm1)をオルタネータの慣性マスの増加分(例えば従来比で約25%)に対応して底上げできるように、要件(1)に加え、従来よりもばね全体の巻き数(有効巻数)を有効に増加(つまり、ばね全体のねじり角度を有効に増加)させることができることを狙い、ばね4及びばね5の2つのコイルばねのそれぞれ(単体)のばね構造を以下のように設計した。以下の説明において、ばね線の断面又は断面形状とは、回転軸を通り且つ回転軸と平行な方向に沿った断面又は断面形状のことである。
【0036】
(第1のコイルばね4)
ばね4は、外回転体2と内回転体3との間(詳細には、ばね4は、外回転体2とばね5との間)に設けられている。ばね4は、ばね線(ばね線材:ばね用オイルテンパー線(JISG3560:1994に準拠))を螺旋状に巻回(コイリング)して形成されたねじりコイルばねである。ばね4は、左巻き(他端から一端に向かって反時計回り)である(図7参照)。ばね4は、外力を受けていない状態において、全長に亘って径が一定である。外力を受けていない状態でのばね4の外径は、圧接面2aにおける外回転体2の内径よりも大きい。ばね4は、一端側領域4c(第1一端側領域に相当)が縮径された状態で、空間9に収容されている。ばね4における一端側領域4cの外周面は、ばね4の拡径方向の自己弾性復元力によって、圧接面2aに押し付けられている。一端側領域4cは、ばね4の一端から1周以上(回転軸回りに360°以上)の領域である。
【0037】
また、プーリ構造体1が停止しており(外力を受けていない状態において)、ばね4における一端側領域4cの外周面がばね4の拡径方向の自己弾性復元力によって圧接面2aに押し付けられた状態において、ばね4の他端側領域4bは、若干拡径された状態で、第1接触面3fと接触している。つまり、プーリ構造体1が停止している状態において、ばね4における他端側領域4bの内周面は、第1接触面3fに押し付けられている。他端側領域4bは、ばね4の他端から1周以上(回転軸回りに360°以上)の領域である。プーリ構造体1に外力が作用していない状態において、ばね4は、全長に亘って径がほぼ一定である。
【0038】
ばね4は、プーリ構造体1に外力が作用していない状態(即ち、プーリ構造体1が停止した状態)において、軸方向に圧縮されている。また、ばね4の他端側領域4bの軸方向端面の周方向一部分(他端から約1/4周(約90°))には、軸方向に圧縮されているばね4の姿勢を安定させるために、第1座研面4eが形成されている(図7参照)。第1座研面4eは、研削加工が施されることによって形成された、ばね4の軸方向と直交する平面である。同様に、ばね4の一端側領域4cの軸方向端面の周方向一部分(一端から約1/4周(約90°))にも、軸方向に圧縮されているばね4の姿勢を安定させるために、第1座研面4fが形成されている。
【0039】
そして、ばね4の第1座研面4eが、溝底面3dの第1溝底面3d1に接触し、ばね4の第1座研面4fが、スラストプレート8の前面に接触している。ばね4の軸方向の圧縮率は、例えば、20%程度であってもよい。なお、ばね4の軸方向の圧縮率とは、ばね4の自然長とプーリ構造体1に外力が作用していない状態でのばね4の軸方向長さとの差と、ばね4の自然長との比率である。
【0040】
ばね4の他端側の周方向端面4aは、図2に示すように、第1当接面3d3に当接可能に対向している。
【0041】
一方、ばね4の一端側の端部には、図4に示すように、径方向内側に折り曲げられた折り曲げ部4gが形成されている。折り曲げ部4gは、径方向に沿った直線状に形成されている。折り曲げ部4gの長さ(根元アール部の終点から端面までの径方向に沿った直線状部分)は、ばね5のばね線の断面における径方向長さと略同じに形成されている。これにより、この折り曲げ部4gは、後述するばね5の周方向端面5gと当接可能とされる(接続される)。
【0042】
また、ばね4は、従来のコイルばねよりも、ばね定数が低くなるように構成されている。具体的には、ばね4は、従来のコイルばねと比較し、巻き数(7巻き)及びばね線の断面寸法は同じであるが、ばね定数が低くなるよう(図5(a)の破線分の傾き)、外径が若干(約5%)大に形成されている。なお、この構成により、外回転体2における圧接面2a(クラッチ係合部)の内径も、従来のコイルばねと比較し、若干(約5%)大に形成されている。
【0043】
また、図2に示すように、ばね4の他端側領域4bのうち、ばね4の周方向端面4aから回転軸回りに90°離れた位置付近を第2領域4b2、第2領域4b2よりも周方向端面4a側の部分を第1領域4b1、残りの部分を第3領域4b3とする。また、ばね4の他端側領域4bと一端側領域4cとの間の領域、即ち、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、圧接面2aと第1接触面3fのいずれにも接触しない領域を、自由部分4d(第1中領域に相当)とする。
【0044】
(第2のコイルばね5)
ばね5は、ばね4に対して径内方向に並設され、ばね4と筒本体3aとの間に設けられている。ばね5は、ばね4同様に、ばね線(ばね線材:ばね用オイルテンパー線(JISG3560:1994に準拠))を螺旋状に巻回(コイリング)して形成されたねじりコイルばねである(図7参照)。ばね5は、外力を受けていない状態において、全長に亘って径が一定である。外力を受けていない状態でのばね5の外径は、ばね4の内径よりも小さい。ばね5は、一端側領域5c(第2一端側領域に相当)が拡径も縮径もされていない状態で、空間9に収容されている。従って、ばね5における一端側領域5cの外周面は、ばね4の内周面に干渉(接触)していない(ばね5における一端側領域5cは、ばね5が軸方向に圧縮されていることにより、スラストプレート8を介して、外回転体2に接触している)。一端側領域5cは、ばね5の一端から1周以上(回転軸回りに360°以上)の領域である。
【0045】
また、プーリ構造体1が停止している状態(プーリ構造体に外力が付与されていない状態)において、ばね5の他端側領域5b(第2他端側領域に相当)は、若干拡径された状態で、第2接触面3eと接触している。つまり、プーリ構造体1が停止している状態において、ばね5における他端側領域5bの内周面は、第2接触面3eに押し付けられている。他端側領域5bは、ばね5の他端から1周以上(回転軸回りに360°以上)の領域である。プーリ構造体1に外力が作用していない状態において、ばね5は、全長に亘って径がほぼ一定である。
【0046】
ばね5は、プーリ構造体1に外力が作用していない状態(即ち、プーリ構造体1が停止した状態)において、軸方向に圧縮されている。また、ばね5の他端側領域5bの軸方向端面の周方向一部分(他端から約1/4周(約90°))には、軸方向に圧縮されているばね5の姿勢を安定させるために、第2座研面5eが形成されている(図7参照)。第2座研面5eは、研削加工が施されることによって形成された、ばね5の軸方向と直交する平面である。同様に、ばね5の一端側領域5cの軸方向端面の周方向一部分(一端から約1/4周(約90°))にも、軸方向に圧縮されているばね5の姿勢を安定させるために、第2座研面5fが形成されている。
【0047】
そして、ばね5の第2座研面5eが、溝底面3dの第2溝底面3d2に接触し、ばね5の第2座研面5fが、スラストプレート8の前面に接触している。ばね5の軸方向の圧縮率は、例えば、20%程度であってもよい。
【0048】
ばね5の他端側の周方向端面5aは、図3に示すように、第2当接面3d4に当接可能に対向している。
【0049】
一方、ばね5の一端側の周方向端面5gは、図4に示すように、ばね4の折り曲げ部4gと当接可能とされている(接続される)。
【0050】
また、ばね5は、ばね4よりも、ばね定数が低くなるように構成されている。具体的には、ばね5は、ばね4と比較し、巻き数が同じ7巻きで外径が小さく形成されているが、ばね定数が低くなるよう(図5(a)の1点鎖線部分の傾き)、ばね線の断面寸法を顕著に小さく形成させている。
【0051】
また、図1に示すように、ばね5の他端側領域5bと一端側領域5cとの間の領域、即ち、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、外回転体2及と内回転体3のいずれにも接触しない領域を、自由部分5d(第2中領域に相当)とする。
【0052】
上記第1のコイルばね4、第2のコイルばね5、及び、従来のコイルばね(特許文献1)についてまとめると、材質はいずれも、ばね用オイルテンパー線(JISG3560:1994に準拠)を使用している、また、巻き数はいずれも7巻きであり、巻き方向はいずれも左巻きである。また、外径は、「第1のコイルばね4>従来のコイルばね>第2のコイルばね5」である。また、ばね線の断面寸法は、「第1のコイルばね4≒従来のコイルばね>第2のコイルばね5」である。
【0053】
(第1のコイルばね4と第2のコイルばね5との接続関係)
上述したように、ばね4の折り曲げ部4gとばね5の周方向端面5gとが当接可能(接続可能)に構成されている(図4参照)。
【0054】
具体的には、外回転体2及びばね4が内回転体3に対して正方向(図4の矢印方向)に相対回転するとき(外回転体2が加速する場合)、ばね4の一端側に形成された折り曲げ部4gの内側部分(正方向側の部分、折り曲げ部4gの長さに相当する部分)と、ばね5の一端側の周方向端面5gとが当接する(接続する)。
【0055】
逆に、外回転体2及びばね4が内回転体3に対して逆方向(図4の矢印方向と逆の方向)に相対回転するとき(外回転体2が減速する場合)、ばね4の一端側に形成された折り曲げ部4gの内側部分(正方向側の部分、折り曲げ部4gの長さに相当する部分)と、ばね5の一端側の周方向端面5gとは離れた状態(接続が解除された状態)になり得る。
【0056】
(スラストプレート8)
スラストプレート8は、円環板状(平座金状)をしており、筒本体3aに挿入され、外回転体2と内回転体3との間であって、転がり軸受6の前方(他端側)に配置されている。スラストプレート8は、外回転体2に固定され、外回転体2と一体的に回転する。スラストプレート8の前面は、ばね4の第1座研面4f、及び、ばね5の第2座研面5fに接触している。スラストプレート8は、外回転体2の減速時(クラッチ係合解除状態)には、ばね4の第1座研面4f及びばね5の第2座研面5fと周方向に摺動する構成となるので、スラストプレート8(前端面)には螺旋面を形成させず、軸方向に直交する平坦面を形成させている。
【0057】
(プーリ構造体1の動作)
次に、プーリ構造体1の動作について説明する。
【0058】
先ず、外回転体2の回転速度が内回転体3の回転速度よりも大きくなった場合(即ち、外回転体2が加速する場合であって、外回転体2及びばね4が内回転体3に対して正方向に相対回転するとき)について説明する。
【0059】
(1)外回転体2は、内回転体3に対して正方向(図2~4の矢印方向)に相対回転する。外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の一端側領域4cが、圧接面2aと共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4が拡径方向にねじり変形(以下、「拡径変形」という)する。
【0060】
(2)ばね5は、ばね4と内回転体3との間に設けられており、ばね4とばね5とは、ばね4の折り曲げ部4gとばね5の周方向端面5gとが当接可能(接続可能)に形成されているため、上記(1)の場合に、ばね5も拡径方向にねじれる。
【0061】
(3)ばね4の一端側領域4cの圧接面2aに対する圧接力は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど増大する。
【0062】
(4)ばね4の他端側領域4bにおける第2領域4b2は、ねじり応力を最も受け易く、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなると、内回転体3の第1接触面3fから離れる。このとき、第1領域4b1及び第3領域4b3は、第1接触面3fに圧接している。また、ばね5の他端側領域5b(内周面)は、プーリ構造体1に外力が付与されていないときからすでに、筒本体3aの外周面から離れている。
【0063】
(5)ばね4の第2領域4b2が第1接触面3fから離れると略同時に、又は、ばね4の拡径方向のねじり角度がさらに大きくなったときに、第2領域4b2の外周面が突起3gに当接する。第2領域4b2の外周面が突起3gに当接することで、他端側領域4bの拡径変形が規制され、ねじり応力がばね4における他端側領域4b以外の部分に分散され、特にばね4の一端側領域4cに作用するねじり応力が増加する。これにより、ばね4の各部に作用するねじり応力の差が低減され、ばね4全体で歪エネルギーを吸収できるため、ばね4の局部的な疲労破壊を防止できる。
【0064】
(6)また、第3領域4b3の第1接触面3fに対する圧接力は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど低下する。第2領域4b2が突起3gに当接すると略同時に、又は、ばね4の拡径方向のねじり角度がさらに大きくなったときに、第3領域4b3の第1接触面3fに対する圧接力が略ゼロとなる。このときのばね4の拡径方向のねじり角度をθ1(例えば、θ1=3°)とする。ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1を超えると、第3領域4b3は、拡径変形することで、第1接触面3fから離れていく。
【0065】
(7)また、ばね5の他端側領域5b(内周面)は、元々筒本体3a(内回転体3)の外周面から離れている。そのため、上記ねじり角度(例えば、θ1=3°)に達するまでの間において、ばね5の他端側領域5bは、ばね4の他端側領域4bと比べて、有効巻数が増加した構成となる分、ばね定数の設計自由度を高めることができる。
【0066】
さらに、ばね5を付加することでばね定数の設計自由度を高めることができ、前述したように、ばね5は、ばね5のばね定数がばね4のばね定数よりも低くなるように構成されている(図5(a)の1点鎖線:0<θ<3°の間)。
【0067】
さらに、前述したように、ばね4は、ばね4のばね定数が従来のコイルばねのばね定数(k0)(図5(b)参照)よりも小さくなるように構成されている。その結果、ばね全体(ばね4及びばね5の2つのコイルばね)として、ばね定数(k1)を所定の水準(本実施形態では、従来のばね定数k0と同等水準)に維持できている(図5(a)の実線:0<θ<3°の間)。
【0068】
(8)第3領域4b3と第2領域4b2との境界付近において、ばね4が湾曲(屈曲)することはなく、他端側領域4bは円弧状に維持される。つまり、他端側領域4bは、突起3gに対して摺動し易い形状に維持されている。そのため、ばね4の他端側領域4bは、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなって他端側領域4bに作用するねじり応力が増加すると、他端側領域4bは、第2領域4b2の突起3gに対する圧接力及び第1領域4b1の第1接触面3fに対する圧接力に抗して、突起3g及び第1接触面3fに対して外回転体2の周方向(正方向)に摺動する。これに伴い、ばね5の他端側領域5bも、外回転体2の周方向(正方向)に移動する。そして、ばね4の周方向端面4aが第1当接面3d3を押圧し、ばね5の周方向端面5aが第2当接面3d4を押圧することにより、外回転体2と内回転体3との間で確実にトルクを伝達することができる。即ち、ばね5は、トルクの伝達時において、ばね4と同じ方向にねじり変形することによって、ばね4を介し、外回転体2及び内回転体3に係合する。
【0069】
(9)なお、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1以上且つθ2(例えば、θ2=約60°:従来よりもダンピング機能を有するばね全体の巻き数が増加したことに伴い、ロック機構が働くねじり角度θ2は、従来の45°よりも大の60°に増加する)未満の場合、第3領域4b3は、第1接触面3fから離隔し且つ外筒部3bの内周面に接触しておらず、第2領域4b2は、突起3gに圧接されている。そのため、この場合、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1未満の場合に比べて、ばね4の有効巻数が大きく、ばね定数(図5(a)に示す直線の傾き)が小さい。また、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ2になると、ばね4の自由部分4dの外周面が環状面2bに当接することで、ばね4のそれ以上の拡径変形が規制されて、外回転体2及び内回転体3が一体的に回転するロック機構が働く。これにより、ばね4及びばね5の拡径変形による破損を防止できる。
【0070】
本実施形態では、許容トルクを、安全を見て、ばね4の拡径変形の最大化(上記ロック機構の作動)を回避し得るねじりトルクの水準、つまり、上記ロック機構が働くねじりトルクよりも若干程度小のトルク水準(図5(a)の、Tm1の水準)に設定し、ばね構造を設計したものであるが、上記ロック機構を備えることにより、万が一、さらに過大なトルクが入力されてもプーリ構造体1を保護し得る。
【0071】
θ1以上且つθ2未満において、ばね4及びばね5の2つのコイルばねを、上記構成にすることにより、ばね全体(ばね4及びばね5の2つのコイルばね)としてのばね定数(k1)を所定の水準(本実施形態では、従来のばね定数k0と同等水準)に維持できている。また、許容トルクを従来のTm0からTm1に約25%底上げできている。底上げの程度は、オルタネータの慣性マスの増加分(例えば約25%)に対応したトルク増加分に等しい(図5(a)の実線:3°≦θ<60°の間)。
【0072】
なお、本実施形態では、ばね5は、ばね4の拡径変形に伴い、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において設けられた両者の径方向のクリアランスを略保持したまま、拡径変形するため(慣性質量:第2のコイルばね5<第1のコイルばね4)、ばね5(外周面)は、ばね4(内周面)に干渉(接触)しない状態を保持する。ただし、ばね4とばね5とが干渉する場合の不具合(異音や振動の発生)を確実に抑制するために、ばね4(内周面)とばね5(外周面)との間に、円筒状の弾性スリーブを装着した構成としてもよい。この場合、「円筒状の弾性スリーブ」は、例えば合成ゴム(例えば、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム成分を含むゴム組成物)であることが好ましい。
【0073】
次に、外回転体2の回転速度が内回転体3の回転速度よりも小さくなった場合(即ち、外回転体2が減速する場合であって、外回転体2及びばね4が内回転体3に対して逆方向に相対回転するとき)について説明する。
【0074】
この場合、外回転体2は、内回転体3に対して逆方向(図2図4の矢印方向と逆の方向)に相対回転する。外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の一端側領域4cが、圧接面2aと共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4が縮径方向に縮径変形する。ばね4の縮径方向のねじり角度がθ3(例えば、θ3=3°)未満の場合、一端側領域4cの圧接面2aに対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干低下するものの、一端側領域4cは圧接面2aに圧接している。また、他端側領域4bの第1接触面3fに対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干増大する。ばね4の縮径方向のねじり角度がθ3以上の場合、一端側領域4cの圧接面2aに対する圧接力は略ゼロとなり、一端側領域4cは、圧接面2aに対して外回転体2の周方向に摺動する。したがって、外回転体2と内回転体3との間でトルクは伝達されない(図5(a)参照)。
【0075】
ここで、図5(a)に示すように、ばね4が縮径方向にねじれ変形してクラッチ(ばね4)が係合解除状態(摺動状態)となるときのばね4のねじりトルク(以下、「スリップトルクTs」とする)は、ゼロに設定されるよりも、ばね4に若干の縮径変形(ねじり角度θ3以上の縮径変形)を生じさせるようなトルクに設定されることが好ましい。具体的には、スリップトルクTs(絶対値)は、1N・m以上且つ10N・m以下(例えば1N・m程度)となるように設定されることが好ましい。
【0076】
このようなトルク特性にすることによって、クラッチの係合解除は、外回転体2の回転速度が内回転体3の回転速度よりも小さくなることのある特定の運転走行パターンに限定して行われるようになる。例えば、エンジン始動時には、外回転体2の回転速度が一時的に大きく上昇した後に低下するような運転走行パターンとなる。そして、外回転体2の回転速度が大きく上昇するときに、外回転体2から内回転体3にトルクが伝達されて内回転体3の回転速度が上昇する。その後、外回転体2の回転速度が低下すると、外回転体2が内回転体3よりも回転速度が遅くなり、このとき、クラッチの係合解除が行われる(外回転体2と内回転体3との間でのトルクの伝達を遮断する)。
【0077】
ここで、上述したのと異なり、スリップトルクTsがゼロに設定される場合を考える。この場合には、クラッチの係合解除が特定の運転走行パターン(例えば、エンジン始動時)に限定されず行われる。そのため、圧接面2a(クラッチ係合部)とばね4とが摺動(スリップ)する頻度が高くなる。これに対して、上述したように、スリップトルクTsを特定の運転走行パターンに限定して行われるように設定すれば、圧接面2aとばね4とが摺動する頻度が低くなり、圧接面2aのばね4と摺動する部分の摩耗を抑制できる。
【0078】
スリップトルクTs(絶対値)が1N・m未満では、クラッチの係合解除が特定の運転走行パターン(例えばエンジン始動時)に限定されず行われる。スリップトルクTs(絶対値)が10N・mを超える場合には、エンジン始動時にクラッチを係合解除できない虞がある。エンジン始動時にクラッチが係合解除されない場合は、外回転体2に巻回されるベルトのスリップを防止することができず、最悪、ベルトが外回転体2から外れる虞がある。
【0079】
なお、本実施形態では、ばね4を外回転体2と内回転体3との間に収容する際に、ばね4の一端側領域4cを縮径させる量(クラッチ係合面への圧接力)、ばね4を軸方向に圧縮する量(軸方向相手面への圧接力)等の設計値を最適化して、ばね4と外回転体2との摺動抵抗を調整することにより、スリップトルクTsを、ばね4に若干の縮径変形を生じさせるようなねじりトルクに設定している。
【0080】
このように、ばね4は、コイルスプリング式クラッチであって、トルクを一方向に伝達又は遮断する一方向クラッチとして機能する。外回転体2が内回転体3に対して正方向に相対回転するときに、ばね4が、外回転体2及び内回転体3のそれぞれと係合して外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する。一方、外回転体2が内回転体3に対して逆方向に相対回転するときには、ばね4は、圧接面2aに対して摺動して外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達しない。
【0081】
なお、上記クラッチ機能に関して、ばね5は、ばね4の若干の縮径変形に伴い、単に若干の縮径変形を生じるだけで、クラッチ機能は有していない。
【0082】
以上のように、第2のコイルばね5を第1のコイルばね4と径方向に並設させ、且つ、両者を上記態様に接続可能に形成させることで、外回転体2からの過大な入力トルクを第1のコイルばね4とともに第2のコイルばね5に受け持たせ、ダンピング機能を第1のコイルばね4のみならず、第2のコイルばね5にも担わせることができた。これにより、プーリ構造体1を回転軸方向に大型化することなく、従来のプーリ構造体(1つのコイルばねしか備えない場合)と比べて、コイルばねの巻き数(有効巻数)を増やした場合(例えば、7巻き→9巻き)と同程度にばね定数の設計自由度を高めることができ、その分、0<θ<60°の間、所定の水準(従来のk0と同等水準)にばね定数K1を維持しつつ、許容トルクを底上げ(オルタネータの慣性マスの増加に対応し、従来のTm0からTm1に約25%底上げ)できることがわかった。
このように、外回転体2側からの過大な入力トルクに対しても、トルク伝達時のダンピング機能を有効に維持することができる。ひいては、クランク軸の回転変動をプーリ構造体1により十分に吸収することができる。
【0083】
上記構成によれば、(i)ばね4及びばね5の2つのコイルばねは、ばね4の、外回転体2に係合している一端側領域4cと、一端側領域4cと径方向に対向する、ばね5の一端側領域5c同士でしか接続可能に形成されていない。
また、(ii)ばね4及びばね5の2つのコイルばねは、いずれも、拡径方向にねじれた場合に、他端側領域4b及び他端側領域5bの、内周面のうち少なくとも周方向一部分が他方の回転体から離れている。
また、(iii)ばね4及びばね5の2つのコイルばねがいずれも、拡径方向にねじれた場合に係合状態となるよう、ばね5は、ばね4と内回転体3との間に設けられている。
上記(i)及び(ii)により、プーリ構造体1は、トルク伝達時に外回転体2と内回転体3とが相対回転したときに、プーリ構造体1の停止時よりも、有効巻数が増加する。したがって、本実施態様のプーリ構造体1は、外回転体2と内回転体3とが相対回転したときに、ばね4の有効巻数及びばね5の有効巻数がそれぞれさらに増加した構成となるので、ばね定数の設計自由度をさらに高めることができる。
上記(iii)により、ばね4及びばね5の2つのコイルばねがいずれも、縮径方向にねじれた場合に係合状態となるよう、ばね5がばね4と外回転体2との間に設けられる場合と比較し、プーリ構造体1が径方向にむやみに大型化するのを抑制し、プーリ構造体1の径方向の大型化を最小限に留めることができる。
【0084】
更に、ばね5の他端側領域5bは、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態においてすでに内周面が内回転体3から離れている。つまり、ばね5の他端側領域5bは、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において軸方向の端面(周方向端面5a)でしか内回転体3に接触していない。
このため、本実施形態のプーリ構造体1は、トルク伝達時に、外回転体2と内回転体3とが相対回転したときに、ばね5の有効巻数をさらに増加することができる構成であるので、ばね定数の設計自由度を最大限に高めることができる。
【0085】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、第2のコイルばね5を、第1のコイルばね4と筒本体3aとの間に設けることにより、ばね4及びばね5の2つのコイルばねが縮径方向にねじり変形したときに、係合解除状態となるように構成(ばね4の外周面が、外回転体2における圧接面2a(クラッチ係合部)と係合解除状態となる構成)しているが、これには限られない。即ち、第2のコイルばね5は、第1のコイルばね4が有するクラッチ機能を妨げない側、換言すると、外回転体2又は内回転体3の第1のコイルばね4と摺動する部分(クラッチ係合部)に干渉しない側に、設けられればよい。例えば、第2のコイルばね5は、第1のコイルばね4と外回転体2との間に設けられてもよい。この場合、ばね4及びばね5の2つのコイルばねが共に拡径方向にねじり変形したときに、係合解除状態となるように構成する(第1のコイルばね4の内周面が、筒本体3a(クラッチ係合部)と係合解除状態となる構成)。
【0086】
また、ばね4とばね5との間の接続箇所は、1箇所(ばね4の一端側領域4c及びばね5の一端側領域5cの部分同士、又は、ばね4の他端側領域4b及びばね5の他端側領域5bの部分同士)に限らない。即ち、少なくとも、ばね5における一端側領域5c及び他端側領域5bの一方の部分と、該部分と径方向に対向し、外回転体2に係合している、ばね4の一端側領域4c及び他端側領域4bの一方の部分とが接続可能に形成されている限りにおいて、ばね4とばね5の2つのコイルばねの互いの接続部分は、2箇所(ばね4の一端側領域4c及びばね5の一端側領域5cの部分同士、並びに、ばね4の他端側領域4b及びばね5の他端側領域5bの部分同士)でもよい。また、接続は端部同士に限らず、端部以外の部分同士でもよい。
【0087】
また、外回転体2と内回転体3との相対回転によって拡径方向にねじれた場合に、ばね4の他端側領域4bの内周面と、ばね5の他端側領域5b内周面とは、周方向のいずれの部分も外回転体及び内回転体の他方から離れないように構成されていてもよい。
【0088】
また、ばね4とばね5の2つのコイルばねの互いの接続関係は、上記実施形態のように、ばね5の一端側の周方向端面5gが、ばね4の折り曲げ部4gと当接可能に構成する態様(図4参照)に限定されない。例えば、ばね4の一端側領域4cとばね5の一端側領域5cを除く部分同士を当接可能(接続可能)な構成にしてもよい(不図示)。また、例えば、ばね5の一端側領域5cにキー(径方向外側に突出するよう埋め込まれた円柱状のピン)を設け、ばね4の一端側領域4cにキー溝(径方向内側に設けられた孔)を設け、キーとキー溝との係合によって、ばね4の一端側領域4cとばね5の一端側領域5cとが互いに周方向に固定される形態としてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 プーリ構造体
2 外回転体
3 内回転体
4 第1のコイルばね
5 第2のコイルばね
6 転がり軸受
7 滑り軸受
8 スラストプレート
9 空間10 エンドキャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8