(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】短下肢装具
(51)【国際特許分類】
A61F 5/01 20060101AFI20230927BHJP
A43B 7/18 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A61F5/01 N
A43B7/18
(21)【出願番号】P 2020511494
(86)(22)【出願日】2018-09-04
(86)【国際出願番号】 CA2018051062
(87)【国際公開番号】W WO2019046932
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-05
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520059085
【氏名又は名称】オルテス ターボメド インコーポレイテッド/ターボメド オルソティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コート フランソワ
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0196277(US,A1)
【文献】国際公開第2005/097014(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/024382(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3064578(JP,U)
【文献】英国特許出願公告第00117877(GB,A)
【文献】米国特許第04459980(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0338795(US,A1)
【文献】国際公開第2007/106017(WO,A1)
【文献】特開2004-166811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/01 - A61F 5/02
A43B 7/18 - A43B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短下肢装具であって、使用者が履いている履物に外側から固定しうる足セクションと、使用者の下肢の前部に沿い延びており使用者の下肢の脛エリアに面して固定しうる脚当接部、並びにその脚当接部から下方に延びており使用者の下肢の相逆側に都合2個あるアーム部、を有する脚セクションと、使用者の足首の相逆側に都合2個配置された蝶番部材を有する蝶番セクションと、を備え、各蝶番部材が、相互に弾性的に引き離しうる2個の端を有し、それら端のうち第1のものが上記アーム部のうち対応するものに固定されており、当該2個の端のうち第2のものが上記足セクションに固定されており、上記脚セクションが
上記蝶番部材より高い剛性の素材で製作されて上記蝶番セクションよりも剛性が高く
されており、上記蝶番部材・上記アーム部間スペースにより足当接路が形成されており、そのスペースをよぎり使用者がめいめい自分の足を上記履物に当接させること又はそこから解放することが可能な短下肢装具。
【請求項2】
請求項1の短下肢装具であって、上記足セクションが、上記蝶番セクションのうち各蝶番部材の上記2個の端間にあるところよりも、剛性が高い短下肢装具。
【請求項3】
請求項1の短下肢装具であって、上記蝶番部材が、それぞれ、上記2個の端間に延びる弾性素材製のC字状部材を有する短下肢装具。
【請求項4】
請求項1の短下肢装具であって、上記足セクションが、上記履物の爪先部上方に外側から固定される前セクションと、その履物の踵部に当接する後セクションと、を有する短下肢装具。
【請求項5】
請求項1の短下肢装具であって、上記足セクションが、対応する蝶番部材の対応する端から遠位端へとそれぞれ延びる2本のアームと、それらアームの都合2個の遠位端を相互連結する相互連結部材と、を有する短下肢装具。
【請求項6】
請求項5の短下肢装具であって、更に、上記履物に固定可能であり且つ上記相互連結部材にスナップ係合可能な履物取付ブラケットを備える短下肢装具。
【請求項7】
請求項5の短下肢装具であって、上記足セクションが、更に、対応する蝶番部材の対応する端から遠位後端へとそれぞれ延びる2本の後アームと、上記履物の踵セクション後方にてそれら2個の遠位後端を相互連結する相互連結部材と、を有する短下肢装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件改良は総じて装具の分野に関し、より具体的には、下垂足への対策に相応しい短下肢装具に関する。
【背景技術】
【0002】
下垂足(往々にして垂れ足又は尖足とも呼ばれる)は、自分の足を適切に上げることができない、即ち後曲げ(背屈)運動を行えない、という人体の症状である。下垂足の厳密な原因は、例えば虚弱性、神経の炎症又は損傷、或いは筋麻痺まで多岐に亘りうる。下垂足だと歩行が難儀になる;それは、爪先を地面に引きずりがちになり躓きや不安定性につながるからである。下垂足に悩む人々は、通常、自分の臀部の筋肉を使うことで地面からの足上げを大げさに行い(いわゆる「あひる歩行」)、或いは地面をさらえるよう自分の脚を外側に振る(いわゆる「ぶん回し」)ことで順応している。
【0003】
この症状に対策すべく以前から多くの短下肢装具が提案されており、ひいてはその症状に由来する足取りの不規則性をなくし及び/又は人間の日常生活に対するその症状の影響を何とかして限定することが図られている。しかしながらそれら短下肢装具には様々な不便点がある。そのうち最もよくある不便点は、それら装具の構成が履物内、より具体的には足・足裏間への延入を目していて、人の足又は足首に当接する構造部材を有しており炎症が生じることが明らかであるため、その補強具を用いうる期間及びその補強具が適すると思しき活動の性質が厳しく制約される、という事実を原因とするものである。これがひときわ問題含みとなるのは下垂足に感覚消失が付随しているときであり、そうした場合、その補強具がその人の足又は脚に引き起こした炎症や損傷が直ちに知覚されないであろうし、恐らくはその人の足又は足首に多大な損傷が生じるまで察知されないであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】http://turbomedorthotics.com/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Turbomed Orthoticsにより開発されたFS3000短下肢装具(非特許文献1参照)は、その商業リリース以降、広く絶賛を浴びている。FS3000短下肢装具の機能については、より詳細なことが特許文献1にて提示されている。この短下肢装具は人の履物に外側から固定されるものであり、長期間に亘る及び/又は激しい使用に適しうる。とはいえ引き続き改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様に従い提供される短下肢装具は、使用者が履いている履物に外側から固定しうる足セクションと、使用者の下肢の前部に沿い延びており使用者の下肢の脛エリアに面して固定しうる脚当接部、並びにその脚当接部から下方に延びており使用者の下肢の相逆側に都合2個あるアーム部、を有する脚セクションと、使用者の足首の相逆側に都合2個配置された蝶番部材を有する蝶番セクションと、を備え、各蝶番部材が、相互に弾性的に引き離しうる2個の端を有し、それら端のうち第1のものが上記脚アーム部のうち対応するものに固定されており、当該2個の端のうち第2のものが上記足セクションに固定されており、上記蝶番部材・上記アーム部間のスペースにより足当接路が形成されており、そのスペースをよぎり使用者がめいめい自分の足を上記履物に当接させること又はそこから解放することが可能なものである。
【0008】
本件改良の他の多くの特徴及びその組合せについては、本件技術分野に習熟した者(いわゆる当業者)であれば、本件開示の一読により察せられよう。
【0009】
図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る短下肢装具の例の斜視図である。
【
図2】
図1の短下肢装具であり、履物に固定され使用者が装用しているものの側立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
FS3000は下垂足症状のみに悩む患者にはひときわよく適しているが、患者の種類によってはFS3000短下肢装具の有用性に限りがある、という不便点が残っている。より具体的には、患者のなかには、下垂足に悩むのみならず、付加的な身体的制約を被っている人がいる。例えば、患者のなかには、下垂足に加え手の局部麻痺があるため、自分の足及び脚にFS3000短下肢装具を着脱するのに助力が必要な人があり、これは許容範囲内ではあれ望ましくないことである。より具体的には、FS3000短下肢装具は、装用者の脚の裏側に沿い/脹脛の筋肉に面し上方に延びる脚セクションと、履物の前部及び後部に固定された足セクションと、その足セクションを脚セクションに連結する弾性可撓蝶番セクションと、を有している。その弾性可撓蝶番セクションの主目的は、脚セクション・足セクション間で動作させることで、足が持ち上がった位置へと足を付勢する復元足上げ力(背屈)を提供することにある。
【0012】
実際、FS3000モデルでは弾性可撓蝶番セクションが予荷重される;これは、使用者が装用すると弾性可撓蝶番セクションが緩んだ状態から伸ばされ、通常使用中はその伸長状態が保たれるということであるので、足に対しては足首を中心とした持上げ力が恒常的に作用し持ち上がった位置へと足が付勢されるということである(足首を中心にした爪先の下肢/脛方向枢動…背屈)。使用者が自分の足を下方に動かすと(底屈又は足底屈)、付加的な弾性負荷がその蝶番セクションに蓄積されるので、使用者がその下方力を加えるのをやめることで、その補強具を中間的で予荷重された引っ張り状態に戻し、足を持ち上がった状態に戻すことができる。更に、脚セクションがその人の下肢の後方を延び脹脛の筋肉に面している。
【0013】
従って、この補強具を自分の脚に装着する使用者には、ある程度の柔軟性及び強さが求められる。より具体的には、脚セクションを足セクションから遠ざけ「予張力」状態へと枢動させるには、その使用者の腕/手に強さがあることが必要であり、また、この動作を行うときの使用者の姿勢即ち人々が靴を履くときの姿勢に概ね相当する姿勢故に、柔軟性が必要となる(全くのところ、この姿勢ではワークベンチ上でその装具を撓ませて予荷重状態にするより面倒であろう)。なお、脚セクションが下肢の背後に沿い延びているという事実故に、この予荷重力の作用は履物を履く動きと同時的になる。この動作は、正常な健康状態、強さ及び柔軟性を有しており下垂足症状から縁遠い人々には適切だと思しきものであるが、付加的な障害例えば手又は腕の局部麻痺に悩む人々が行うのは困難だと考えられる。なお、下垂足と手又は腕の局部麻痺とが身体の同じ側に起こることは、以前に脳血管発作を病んだことのある人々に比較的よくある長期症状である。
【0014】
さて、
図1には足首-足装具10の一例が示されている。本短下肢装具10は、蝶番セクション16により足セクション14に連結された脚セクション12を有している。蝶番セクション16は、足スペース19aにより互いに離隔配置された2個のアーチ状のC字状部材18a,18bを有しており、履物21から後方及び上方へとつながる足当接/解放路20がそれら2個のC字状部材18a,18b間に形成されている。脚セクション12は、人の脚24に(脛に)当接するよう設計された脚当接部22を有している。この脚セクションは2個の脚アーム部26a,26bをも有しており、それらは、脚24の対応側の脚当接部22から下方にそれぞれ延び、且つC字状部材18a,18bのうち対応するものにそれぞれ連結されている。2個の脚アーム部26a・26b間のスペース19bはC字状部材18a・18b間のスペース19aと連続しており、足当接/解放路20に寄与している。足セクション14はC字状部材18a,18bの他端28(脚セクション12に連結されている端30とは逆の端)に固定することができる。足セクション14は、例えばFS3000モデルに基づくものとすることができ、履物21に外側から固定することができる。ある代替的実施形態によれば、足セクション14を履物内に延入させることや履物の一部分として統合すること等ができる。C字状部材18a,18bは、その内部に蓄積される弾性負荷、即ち使用中に背屈力の態で装用者の脚を上方付勢する弾性負荷により、各C字状部材の相逆側にある2個の端28,30を互いに引き離すこと(
図1に示した弾性屈曲運動32)が可能な態にて、弾性的に撓むように設計されている。
【0015】
図1に示した短下肢装具10は緩んだ状態である。
図2に、中間的な予荷重状態にて使用者の履物21及び脚24に固定された短下肢装具10を示す。察知しうる通り、脚部12・足部14間の角度には
図1・
図2間で違いがあり、それらの間で、それら足セクション及び脚セクションが、足首枢動軸25を中心にして互いに離れる方向に枢動している。
【0016】
ある実施形態によれば、履物21を本短下肢装具に半恒久的に固定すること、並びに本装具システムの一部を形成するものと見なすことができる。この文脈でいう、半恒久的、とは、使用者が自分の足及び脚をそこから外したときに通常は履物21を本短下肢装具10と一体のままにすることができるが、使用者がその履物21から本短下肢装具10を取り外して別の履物に付け直すこともできる、ということを指している。この後半の機能は、例えば、それまでの靴が擦り切れたときに新しい靴で本短下肢装具10を再使用する上で、或いは同じ短下肢装具10を別種の履物で用いる(例.ハイキングの際にそれをハイキングブーツに移し、その後の日常使用時にはいつものランニングシューズに戻す)上で、実際的でありうる。
【0017】
本短下肢装具10の第1装用段階は、従って、履物21を足セクション14に固定するそれとすることができる。これは、a)取付ブラケット34を履物21に固定(
図2参照…これは例えばレース又はタイラップで以てなしうる)した上で、b)取付ブラケット34(及びそれに接し実装された履物21)を足セクション14の取付部36(
図1参照)にクリップ止めすること並びにその履物21の踵部38を足セクション14の踵部40にある2本の踵保持アーム42a・42b間にしっかり固定する(
図2に示した構成にする)ことで、行うことができる。なお、本実施形態は履物21の後方で相互連結された2本の踵保持アーム42a及び42bを有しているが、代替的諸実施形態にあっては別の構成にすることも可能である。
【0018】
そして、本短下肢装具10の第2装用段階は、足当接路20に沿い脚アーム部26a・26b間及びC字状部材18a・18b間を経て履物21内へと足を動かすそれと、することができる。その後、その人は普通のやり方にて自分の脚に履物を固定すればよい。この段階では蝶番セクション16が未荷重のままであり、脚当接部12がまだ使用者の脚に対し前傾状態(
図2中に破線で示したそれ)に保たれている。
【0019】
ひとたび使用者の足が履物21と正しく係合した後の第3段階は、足を地面にしっかりつけたまま、脚当接部12を使用者の脛24に対面させ且つ後方へと引き付けた上で、
図2に示す如くストラップ44を用い使用者の脛24に面し脚当接部12をぴったりと紐止めするそれと、することができる。
【0020】
上記からご理解頂けるように、脚セクション/蝶番部材の2本のアーム間に延びる足当接路20の存在故に、使用者は、自分の足を後方から履物21内にはめ込むことができ、それにより足装填動作が予荷重動作から分離することとなる。これにより、FS3000短下肢装具の一人装着が難儀又は不可能となる症状に悩まされている一部の使用者が、短下肢装具例えば
図1に示すそれを用いそれら短下肢装具自体をより容易に取り付けることが可能となる。
【0021】
ご理解頂けるように、本短下肢装具の使用中には、本短下肢装具を現実的、快適且つ機能的なものとするに当たり比較的複雑な力学的機構が働き始める。この構成の短下肢装具では足当接路に構造部材があってはならないという事実が、この機能を保つ上である種の設計的難題を課している。とりわけ、この構成では、アーム部の端を互いに引き離すこと又は横方向に曲げることが可能となる弾性度、或いは脚当接部をアーム部の端に対し捩じる/回すことが可能となる弾性度、或いは更にアーム部をそれらの長手方向に沿い後方又は前方に曲げることが可能となる弾性度が好適に制限されるという意味で、脚セクションが堅いときの方が本短下肢装具がより良好に働くことが判明している。同様に、それらに連結された蝶番部材の端が互いに引き離され足当接部に対し捩じられ/回される可能性が減る態にて、或いは更にそれらの長手方向に沿った足当接部のアームの可撓性が制限される態にて、足セクションの構成を選択することができる。
【0022】
本実施形態では、蝶番部材よりも顕著に堅固な(あまり弾性でない)素材で脚セクションを製作することで、脚セクションの剛性に対策している。例えば、その脚セクションを、適切な構造形状及び厚みを有する炭素又はステンレス鋼で製作された構造を有するものにしうる一方、その蝶番部材をプラスチック製とすることができる。構造形状に関しては、実際的な理由を踏まえればアーム部を平坦にするのが望ましかろうが、ご理解頂けるように、代替的諸実施形態によれば、T字状断面を用いることで、所与素材厚又は素材量の許での剛性を顕著に改善することができる。更に、下肢に沿い比較的高くまで脚当接部を延ばし、それにより蝶番屈曲用の梃子を大きくすることが現実的でありうるけれども、2個のアーム部間を連結する構造部材を下肢に沿い比較的低いところに設け、それを以てアーチ様構造を形成して、2個のアーム部が互いに引き離される度合いを制限することも、望ましかろう。実際、快適性及び満足のいく動作性に鑑みれば足の前部のうち足首の高さにあるところに何も構造部材がないことが望ましかろうが、それでもなお、脹脛の筋肉に当接するストラップではなく、それらアーム部材を相互連結する横断的構造部材を、使用者の下肢のより低いところに設けることができる。本実施形態では、これが、構造部材をその横断的構造部材から上方へと延長することで達成されている。快適性を踏まえ脚当接部の構造部材にはパッド(当て物)部材が固定されており、ストラップを用いそのパッド部材が使用者の下肢に固定されている。
【0023】
ご理解頂けるように、上述の図示例は専ら例示を意図している。例えば、代替的諸実施形態では異なる構成の足セクションを用いることができる。更に、異なる構成の蝶番セクションを用いること、例えば可撓プラスチック素材等に代えてバネ及び枢動アセンブリを用いることができ、それでいて装具装着時における干渉・抵触が足当接路に起きないようにすることができる。更に、異なる構成の脚セクションを用いること、例えば使用者の下肢に沿いより低いところに横断部材を設けること又は互いに縦方向に間隔をおいて2本の横断部材の組合せを設けることができる。技術的範囲は別項の特許請求の範囲により示されている。