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  • -潤滑方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】潤滑方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/32 20060101AFI20230927BHJP
   C10M 107/00 20060101ALI20230927BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20230927BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230927BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20230927BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
C10M105/32
C10M107/00
F25B1/00 Z
C10N30:06
C10N40:30
C10N20:02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020535687
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029891
(87)【国際公開番号】W WO2020031796
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018147692
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】設楽 裕治
(72)【発明者】
【氏名】庄野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】尾形 英俊
(72)【発明者】
【氏名】小玉 和史
(72)【発明者】
【氏名】松浦 洋
(72)【発明者】
【氏名】増山 聡
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-046430(JP,A)
【文献】特開平04-001262(JP,A)
【文献】特開平04-004296(JP,A)
【文献】特開平04-004295(JP,A)
【文献】特開平03-059068(JP,A)
【文献】特開2000-065068(JP,A)
【文献】特開2012-225440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒循環システムが有する摺動部材を、潤滑油基油としてのエステルを含む潤滑油組成物を用いて潤滑する、潤滑方法であって、
前記摺動部材が、液晶ポリマーを含み、
前記潤滑油基油のISO粘度グレートによる粘度が、VG2以上VG10以下である、潤滑方法。
【請求項2】
前記摺動部材が、固体潤滑剤及び強化繊維を更に含む、請求項1に記載の潤滑方法。
【請求項3】
前記固体潤滑剤が、窒化ホウ素及びグラファイトを含む、請求項に記載の潤滑方法。
【請求項4】
前記強化繊維の含有量が、前記窒化ホウ素及び前記グラファイトの合計含有量以上である、請求項に記載の潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品等の摺動部を有する機械装置等においては、摺動部を潤滑するために、各種潤滑剤が用いられている。潤滑剤としては、必要に応じて各種の添加剤を配合した潤滑油、グリース等が用いられる。
【0003】
また近年、省燃費等を背景とした部品の軽量化、加工の容易性等の観点から、摺動部を構成する部材(摺動部材)として、合成樹脂が多くの用途で広がりをみせている。
【0004】
例えば引用文献1には、鉱油、合成脂環式炭化水素化合物及び合成芳香族炭化水素化合物の中から選ばれる少なくとも1種を主成分として含み、40℃における動粘度が1~8mm/sである基油を含有する潤滑剤(冷凍機油)を、ポリフェニレンサルファイド等からなる摺動部分や、ポリマーコーティング膜若しくは無機コーティング膜を有する摺動部分に適用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/058072号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
摺動部を構成する部材として合成樹脂を用いる場合、金属部品等を用いる場合と比べて、摺動性の向上を図ることが不可欠となる。しかしながら、従来の潤滑方法では、摺動性の観点から必ずしも満足できるものではない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、摺動性に優れる潤滑方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、摺動部材を、潤滑油組成物を用いて潤滑する潤滑方法を提供する。本発明に係る潤滑方法において、摺動部材は、液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、潤滑油組成物は、潤滑油基油としてのエステルを含む。
【0009】
摺動部材は、液晶ポリマーを含んでいてもよい。
【0010】
摺動部材は、ポリエーテルエーテルケトンを含んでいてもよい。
【0011】
摺動部材は、固体潤滑剤及び強化繊維を更に含んでいてもよい。
【0012】
摺動部材が固体潤滑剤及び強化繊維を更に含む場合、固体潤滑剤は、窒化ホウ素及びグラファイトを含んでいてもよい。
【0013】
摺動部材が固体潤滑剤及び強化繊維を更に含み、固体潤滑剤が窒化ホウ素及びグラファイトを含む場合、強化繊維の含有量は、窒化ホウ素及びグラファイトの合計含有量以上でもよい。
【0014】
本発明に係る潤滑方法において、潤滑油基油の40℃における動粘度は、1~100mm/sであってよい。
【0015】
本発明に係る潤滑方法において、潤滑油組成物の40℃における動粘度は、1~100mm/sであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、摺動性に優れる潤滑方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】冷凍機の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されることはない。
【0019】
図1は、機械装置の一例として、冷凍機の一実施形態を模式的に示した図である。図1に示すように、冷凍機10は、圧縮機(冷媒圧縮機)1と、凝縮器(ガスクーラー)2と、膨張機構3(キャピラリ、膨張弁等)と、蒸発器(熱交換器)4とが流路5で順次接続された冷媒循環システム6を少なくとも備えている。
【0020】
冷媒循環システム6においては、まず、圧縮機1から流路5内に吐出された高温(通常70~120℃)の冷媒が、凝縮器2にて高密度の流体(超臨界流体等)となる。続いて、冷媒は、膨張機構3が有する狭い流路を通ることによって液化し、さらに蒸発器4にて気化して低温(通常-40~0℃)となる。冷凍機10による冷房は、冷媒が蒸発器4において気化する際に周囲から熱を奪う現象を利用している。
【0021】
圧縮機1内においては、高温(通常70~120℃)条件下で、少量の冷媒と多量の冷凍機油とが共存する。圧縮機1から流路5に吐出される冷媒は、気体状であり、少量(通常1~10体積%)の冷凍機油をミストとして含んでいるが、このミスト状の冷凍機油中には少量の冷媒が溶解している(図1中の点a)。
【0022】
凝縮器2内においては、気体状の冷媒が圧縮されて高密度の流体となり、比較的高温(通常50~70℃)条件下で、多量の冷媒と少量の冷凍機油とが共存する(図1中の点b)。さらに、多量の冷媒と少量の冷凍機油との混合物は、膨張機構3、蒸発器4に順次送られて急激に低温(通常-40~0℃)となり(図1中の点c、d)、再び圧縮機1に戻される。
【0023】
このような冷凍機10としては、自動車用エアコン、除湿機、冷蔵庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等における冷却装置、住宅用エアコンディショナー、パッケージエアコンディショナー、給湯用ヒートポンプ等が挙げられる。
【0024】
冷媒循環システム6には、冷媒が充填されている。冷媒としては、飽和フッ化炭化水素(HFC)冷媒、不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒、炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、3フッ化ヨウ化メタン冷媒、及び、アンモニア(R717)、二酸化炭素(R744)等の自然系冷媒が挙げられる。
【0025】
冷媒循環システム6は、摺動部材を有している。摺動部材は、例えば、圧縮機1内に設けられていてもよい。
【0026】
本実施形態に係る潤滑方法は、上述したような機械装置において用いられるものであり、例えば、図1に示す冷凍機10においては、冷凍機10の圧縮機1内における摺動部を、潤滑油組成物を用いて潤滑する。
【0027】
摺動部は、対向して相対的に運動する一対の部材(摺動部材)を備えており、部材における摺動面を介して摺動する部位をいう。
【0028】
部材の少なくとも一方は、液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。すなわち、摺動部材は、液晶ポリマーを含んでいてもよく、ポリエーテルエーテルケトンを含んでいてもよく、液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンを含んでいてもよい。また、摺動部材は、液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂組成物を成形、硬化したものであってもよく、任意の部材の少なくとも一部が、液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂組成物の硬化物によりコーティングされた摺動面を有するものであってもよい。任意の部材としては、特に制限されないが、鉄系材料、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料等の金属系材料、液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトン以外のポリマー、プラスチック、カーボン等の非金属系材料などが挙げられる。液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトン以外のポリマーとしては、特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0029】
液晶ポリマー(以下、「LCP」と略称する場合もある)は、一般にサーモトロピック型液晶ポリマーと呼ばれ、溶融時に光学的異方性を示し、且つ熱可塑性を有するポリマーである。LCPとしては、例えば、下記式(I)で表される構成単位を少なくとも有する液晶ポリエステルが挙げられる。
【0030】
【化1】
【0031】
式(I)を与えるモノマーとしては、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA)、そのアセチル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【0032】
LCPにおける式(I)の構造単位の含有割合は、成形品の摺動性の向上という観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは55モル%以上、更に好ましくは60モル%以上であり、好ましくは100モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは70モル%以下である。
【0033】
LCPは、式(I)で表される構造単位の他に、下記式(II)で表される構造単位を更に有していてもよい。
【0034】
【化2】
【0035】
式(II)中、Arは、例えば、所望により置換基を有するフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基であってよい。中でも、フェニレン基及びビフェニレン基からなる群より選ばれるものであることが好ましい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、フッ素等が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基は、それぞれ直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は、それぞれ、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0036】
式(II)を与えるモノマーとしては、例えば、4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP)、ハイドロキノン(HQ)、メチルハイドロキノン(MeHQ)、そのアシル化物等が挙げられる。
【0037】
LCPにおける式(II)の構造単位の含有割合は、成形品の摺動性の向上という観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、好ましくは25モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0038】
LCPは、式(I)で表される構造単位の他に、下記式(III)で表される構造単位を更に有していてもよい。
【0039】
【化3】
【0040】
式(III)中、Arは、例えば、所望により置換基を有するフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基であってよい。中でも、フェニレン基及びナフチレン基からなる群より選ばれるものであることが好ましい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、フッ素等が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基は、それぞれ直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は、それぞれ、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0041】
式(III)を与えるモノマーとしては、例えば、テレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA)、そのエステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【0042】
LCPにおける式(III)の構造単位の含有割合は、成形品の摺動性の向上という観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、好ましくは25モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0043】
LCPは、式(I)で表される構造単位の他に、下記式(IV)で表される構造単位を更に有していてもよい。
【0044】
【化4】
【0045】
式(IV)を与えるモノマーとしては、アセトアミノフェノン(AAP)、p-アミノフェノール、4’-アセトキシアセトアニリド等が挙げられる。
【0046】
LCPにおける式(IV)の構造単位の含有割合は、成形品の摺動性の向上という観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上であり、好ましくは10モル%以下、より好ましくは7モル%以下である。
【0047】
LCPは、式(I)で表される構造単位の他に、下記式(V)で表される構造単位を更に有していてもよい。
【0048】
【化5】
【0049】
式(V)を与えるモノマーとしては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)、そのエステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【0050】
LCPにおける式(V)の構造単位の含有割合は、成形品の摺動性の向上という観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上であり、好ましくは10モル%以下である。
【0051】
LCPが式(I)、式(II)及び式(III)で表される構造単位からなる場合、LCPにおける式(II)の構造単位の含有割合は、式(III)の構造単位の含有割合と実質的に当量であることが好ましい。LCPが式(I)、式(II)、式(III)で表される構造単位に加えて更に式(IV)及び式(V)で表される構造単位を含む場合、LCPにおける式(II)と式(IV)で表される構造単位の合計の含有割合は、式(III)と式(V)で表される構造単位の合計の含有割合と実質的に等量であることが好ましい。
【0052】
LCPの融点は、成形品の加熱加工に対する耐熱性向上の観点から、290℃以上であることが好ましく、295℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましく、310℃以上であることが特に好ましい。LCPの融点の上限は、特に限定されないが、例えば、360℃以下又は355℃以下であってよい。なお、本明細書において、LCPの融点は、ISO11357、ASTM D3418に準拠して測定される値であり、例えば日立ハイテクサイエンス株式会社製の示差走査熱量計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0053】
LCPは、例えば、少なくとも式(I)の構造単位を与えるモノマーと、場合により式(II)から式(V)の構造単位を与えるモノマーとを、溶融重合、固相重合、溶液重合、スラリー重合等の公知の重合方法に供することで製造することができる。例えば、LCPは、溶液重合のみによって製造することもでき、溶融重合によりプレポリマーを作製し、これを更に固相重合する二段階重合によっても製造することができる。
【0054】
溶融重合とこれに続く固相重合の二段階により重合反応を行う場合は、溶融重合により得られたプレポリマーを冷却固化後に粉砕してパウダー状又はフレーク状にした後、公知の固相重合方法、例えば、窒素等の不活性雰囲気下、又は真空環境下において200~350℃の温度範囲で1~30時間プレポリマー樹脂を熱処理する等の方法が好ましく選択される。固相重合は、撹拌しながら行ってもよく、また撹拌することなく静置した状態で行ってもよい。
【0055】
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくともよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重合用触媒として従来公知の物を使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N-メチルイミダゾール等の窒素含有複素環化合物等の有機化合物触媒などが挙げられる。触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、モノマーの総量100質量部に対して、0.0001~0.1質量部であってよい。
【0056】
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、又はこれらを変形した各種形状の撹拌翼を有する撹拌装置を備える撹拌槽型重合反応装置、またニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混錬に使用される混合装置等が挙げられる。
【0057】
ポリエーテルエーテルケトン(以下、「PEEK」と略称する場合もある)は、ベンゼン環をエーテル結合とケトン基とで連結した構造の半結晶性ポリマーの一種であり、例えば、以下の構造を有するポリマーである。
【0058】
【化6】
【0059】
PEEKの分子量は、特に制限されないが、例えば、数平均分子量Mnは20000~50000であってよく、重量平均分子量Mwは60000~150000であってよい。分子量分布を示すMw/Mnは2~4であってよい。なお、分子量は、GPC法により測定されたものであり、各分子量はポリスチレン基準の相対値である。
【0060】
部材は、摺動性を更に向上させる観点から、上記以外に固体潤滑剤、強化繊維や、その他の充填剤、添加剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0061】
固体潤滑剤としては、窒化ホウ素、硫化モリブデン(二硫化モリブデン等)、フッ素樹脂、炭素系固形潤滑剤(グラファイト、カーボンブラック等)などが挙げられる。これらの中でも、摺動性に更に優れる観点から、窒化ホウ素及び硫化モリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。特に後述する強化繊維と共に用いられる場合、固体潤滑剤は、窒化ホウ素及びグラファイトを用いることが好ましい。
【0062】
摺動部材が固体潤滑剤を含む場合、その含有量は、摺動部材全量を基準として、0.1~30質量%であってよく、0.5~20質量%であってよい。固体潤滑剤の含有量が、摺動部材全量を基準として30質量%以下であれば、コンパウンドによりペレットに加工する工程で不良しにくく、摺動部材としての衝撃強度等の力学物性が著しく低下するのを防ぐことができる。一方、固体潤滑剤の含有量が、摺動部材全量を基準として0.1質量%以上であれば、固体潤滑剤の効果を十分に得ることができる。
【0063】
強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維(カーボンファイバー)、アラミド繊維、各種ウィスカー等の繊維状物が挙げられる。これらの中でも、摺動性に更に優れる観点から、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が好ましく、摺動時における摺動部材の摩耗を抑制する観点からは、炭素繊維、アラミド繊維等が好ましい。
【0064】
摺動部材が強化繊維を含む場合、その含有量は、摺動部材全量を基準として、0.1~80質量%以下であってよく、0.5~70質量%以下であってよい。強化繊維の含有量が、部材全量を基準として80質量%以下であれば、コンパウンドによりペレットに加工する工程で不良しにくく、摺動部材としての衝撃強度等の力学物性が著しく低下するのを防ぐことができる。一方、強化繊維の含有量が、摺動部材全量を基準として0.1質量%以上であれば、強化繊維の効果を十分に得ることができる。
【0065】
特に摺動部材が強化繊維及び固体潤滑剤を含み、且つ固体潤滑剤が窒化ホウ素及びグラファイトを含む場合、強化繊維の含有量は、窒化ホウ素及びグラファイトの合計含有量以上であることが好ましい。
【0066】
その他の充填剤としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク、クレー、セリサイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、チタン酸カリウム、酸化チタン、フルオロカーボン樹脂繊維、フルオロカーボン樹脂、硫酸バリウム、各種ウィスカー等が挙げられる。
【0067】
その他の添加剤としては、例えば、着色剤、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、硬化剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0068】
その他の充填剤、添加剤の含有量は、特に限定されないが、摺動部材全量を基準として、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。
【0069】
部材は、上述した液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるものであることが好ましいが、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、その他のポリマーを含んでいてもよい。
【0070】
液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトン以外のポリマーとしては、特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0071】
対向して相対的に運動する一対の摺動部材は、両方が上述した液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む部材であってもよく、一方が上述した液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む部材であってもよい。一方が上述した液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む部材である場合、他方の部材としては、特に制限されないが、鉄系材料、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料等の金属系材料、液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトン以外のポリマー、プラスチック、カーボン等の非金属系材料などが挙げられる。液晶ポリマー及びポリエーテルエーテルケトン以外のポリマーとしては、上述したポリマーが挙げられる。
【0072】
本実施形態に係る潤滑方法は、潤滑油組成物を用いて上述した摺動部材を潤滑する。潤滑油組成物は、潤滑油基油としてのエステルを含む。
【0073】
エステルは、例えば、1価アルコール又は2価アルコールと脂肪酸とのエステルであってよい。1価アルコール又は2価アルコールは、例えば、炭素数4~12の脂肪族アルコールであってよい。脂肪酸は、例えば、炭素数4~19の脂肪酸であってよい。
【0074】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、摺動性の観点から、例えば、1mm/s以上、2mm/s以上、又は2.5mm/s以上であってよく、100mm/s以下、80mm/s以下、60mm/s以下、50mm/s以下、40mm/s以下、30mm/s以下、20mm/s以下、又は10mm/s以下であってよい。本明細書において、40℃における動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠して測定された40℃における動粘度を意味する。また、エステルのISO粘度グレートによる粘度は、例えば、VG2以上又はVG3以上であってよく、VG100以下、VG10以下、又はVG8以下であってもよい。
【0075】
潤滑油基油の引火点は、安全性の観点から、例えば、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上であってよい。本明細書において引火点は、JIS K 2265-4:2007(クリーブランド開放(COC)法)に準拠して測定される引火点を意味する。
【0076】
潤滑油基油の酸価は、安定性の観点から、例えば、1mgKOH/g以下、0.5mgKOH/g以下、又は0.1mgKOH/g以下であってよい。本明細書において酸価は、JIS K 2501:2003に準拠して測定される酸価を意味する。
【0077】
潤滑油基油の流動点は、例えば、-10℃以下、又は-20℃以下であってよく、-50℃以下であってもよいが、精製コストの観点からは、-40℃以上であってもよい。本明細書において流動点は、JIS K 2269:1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0078】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、基油として、上述したエステルに加えて、炭化水素油等を更に含んでいてもよい。炭化水素油は、鉱油であっても合成油であってもよい。この場合、エステルの含有量は、潤滑油組成物全量に対して、50質量%以上、50質量%超、70質量%以上、又は90質量%以上であってよい。
【0079】
鉱油としては、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を単独又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の鉱油、特にノルマルパラフィン、イソパラフィン等が挙げられる。なお、これらの鉱油は単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0080】
合成油としては、例えば、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等であってよい。
【0081】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、上述した各成分に加えて、必要に応じて、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、酸捕捉剤、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば、20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
【0082】
本実施形態に係る潤滑油組成物の40℃における動粘度は、摺動性の観点から、例えば、1mm/s以上、2mm/s以上、又は2.5mm/s以上であってよく、100mm/s以下、80mm/s以下、60mm/s以下、50mm/s以下、40mm/s以下、30mm/s以下、20mm/s以下、又は10mm/s以下であってよい。また、潤滑油組成物のISO粘度グレートによる粘度は、例えば、VG2以上又はVG3以上であってよく、VG100以下、VG10以下、又はVG8以下であってもよい。
【0083】
潤滑油組成物の引火点は、安全性の観点から、例えば、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上であってよい。
【0084】
潤滑油組成物の酸価は、例えば、1mgKOH/g以下、0.5mgKOH/g以下、又は0.1mgKOH/g以下であってよい。
【0085】
潤滑油組成物の流動点は、例えば、-10℃以下、又は-20℃以下であってよく、-50℃以下であってもよいが、精製コストの観点からは、-40℃以上であってもよい。
【0086】
本実施形態に係る潤滑方法は、様々な装置の潤滑システムに適用することができる。かかる潤滑システムとしては、自動車、鉄道、航空機等の輸送機械、工作機械等の産業機械、洗濯機、冷蔵庫、ルームエアコン、掃除機等の家庭電化製品、時計、カメラ等の精密機械などの機械装置における、潤滑性が必要とされる部分を潤滑するための潤滑システムが挙げられる。潤滑性が必要とされる部分としては、例えば、ギア、軸受、ポンプ、ピストンリング等の部品同士が接触して摺動する部分が挙げられる。当該部分を含む機械装置としては、エンジン、ギアボックス、コンプレッサーや油圧ユニット等が挙げられる。
【0087】
潤滑システムにおいて、潤滑油組成物の摺動部材への供給方法は特に制限されない。例えば、潤滑システムは、潤滑油組成物を収容する貯蔵部、貯蔵部から摺動部(摺動部材)に潤滑油組成物を供給する供給部などを備えるものであってもよい。また、供給部は、ポンプ等の供給手段により潤滑油組成物を摺動部(摺動部材)に供給する循環式の供給部であってもよい。また、摺動部材に潤滑油組成物を含侵させてもよい。さらに、潤滑システムは、冷蔵庫やルームエアコンなどの冷媒循環システムにおける圧縮機のように、摺動部を備える容器内に潤滑油組成物が充填されているものであってもよい。
【実施例
【0088】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
部材として、以下に示す部材1~5を用意した。
<部材1:液晶ポリエステルを含む摺動部材>
攪拌翼を有する重合容器にp-ヒドロキシ安息香酸(HBA)60モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)20モル%、テレフタル酸(TPA)15モル%、イソフタル酸(IPA)5モル%を加え、触媒として酢酸カリウムおよび酢酸マグネシウムを仕込んだ。重合容器の減圧-窒素注入を3回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(水酸基に対して1.08モル当量)を更に添加し、150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
アセチル化反応終了後、酢酸留出状態にした重合容器を0.5℃/分で昇温して、槽内の溶融体温度が305℃になったところで重合物を抜き出し、冷却固化した。得られた重合物を粉砕機により目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕して、プレポリマーを得た。
次に、上記で得られたプレポリマーを、固相重合装置に充填し、ヒーターにより320℃まで昇温した後、320℃で温度を1時間保持して固相重合を行った。その後室温で自然放熱し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。上記粉末状液晶ポリエステルAを350℃条件にて二軸押出機を用いペレットに加工したのち、同ペレットを成形温度350℃、金型温度100℃で射出成形し、試験片(30mm×30mm×厚さ1mm)を得た。
【0090】
<部材2:PEEKを含む摺動部材>
Victrex社製「450G」(商品名)を用いた。
【0091】
(部材3:PEEK、固体潤滑剤(窒化ホウ素及びグラファイト)及び強化繊維(炭素繊維)を含む摺動部材(窒化ホウ素の含有量:5質量%、グラファイトの含有量:5質量%、炭素繊維の含有量:25質量%)>
PEEK(Solvay社製、商品名「KT-850P」)に対して、炭素繊維(繊維長6mm)、グラファイト、窒化ホウ素を所定の含有量となるように予め混合して混合物を得た。その混合物をエアーオーブン中で150℃にて2時間乾燥した。この乾燥した混合物を、シリンダー最高温度390℃に設定した二軸押出機のホッパーに供給し、15kg/hrにて、溶融混錬して、PEEK組成物のペレットを得た。
【0092】
<部材4:ポリアミド(PA)>
東洋プラスチック株式会社製「ポリアミド6」(商品名)を用いた。
【0093】
<部材5:ポリフェニレンサルファイド(PPS)>
ソルベイ社製「QA200N」(商品名)を用いた。
【0094】
[摺動性試験]
(試験例1~5)
上記部材1~5及びエステルを用いて、ボールオンディスク往復摺動試験機を用いて以下の方法により摺動性を評価した。
【0095】
ボールとして直径1/4インチの鋼球(SUJ-2)を用い、ディスクとして表1に記載の各部材を用い、ディスクの表面(摺動面)にVG3のエステル(15℃における密度:0.87g/cm、引火点:140℃、40℃における動粘度:3.09mm/s、100℃における動粘度:1.18mm/s、酸価:≦0.01、流動点:≦-45.0℃)を1g塗布した後、ボールとディスクを摺動させて摩擦係数を測定した。摺動条件としては、摺動幅20mm(±15mm)、すべり速度5mm/sとし、試験荷重を5N、10N及び20Nの順に各荷重を5分毎に変化させた後、摩擦係数を室温にて測定した。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【符号の説明】
【0097】
1…圧縮機、2…凝縮器、3…膨張機構、4…蒸発器、5…流路、6…冷媒循環システム、10…冷凍機。
図1