(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/36 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
H01B7/36 Z
(21)【出願番号】P 2021162944
(22)【出願日】2021-10-01
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬久
(72)【発明者】
【氏名】坂本 喬
(72)【発明者】
【氏名】光地 伸明
(72)【発明者】
【氏名】仁村 和文
(72)【発明者】
【氏名】宮下 龍成
(72)【発明者】
【氏名】森下 祐一
(72)【発明者】
【氏名】井上 翼
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-156817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の絶縁心線を撚り合わせた対撚コアと、
前記対撚コアを被覆する内層シースと、
前記内層シースを被覆する外層シースとを備え、
前記外層シースがポリウレタン樹脂および着色剤を含有し、
前記外層シースの単位厚さ当たりの透過濃度D/tが5.4~13.2mm
-1であることを特徴とするケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載のケーブルにおいて、
前記外層シースの単位厚さ当たりの透過濃度D/tが7.1~8.8mm
-1であることを特徴とするケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
シース(外被)で覆われたケーブルには識別目的で印字がなされる場合があり、近年はその印字技術としてレーザマーキングという技術が普及している。
レーザマーキングは、レーザ照射によって樹脂材料を発泡させて白色などに変化させたり、レーザ照射によって樹脂材料を焼いて黒色などに変化させたりするのが主流である。
【0003】
レーザマーキング技術に適合するケーブルの一例が特許文献1に開示されている。
特許文献1の技術によれば、外被を第1被覆部と第2被覆部とに分け、一方の被覆部に対してのみレーザマーキング用の発色剤を添加し、他方の被覆部に対しては当該発色剤を添加しない構成を有しており、コスト増および外被全体の特性変化を最小限に抑制しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでレーザ照射によって樹脂材料を発泡させて白色に変化させる場合において、レーザ照射条件を調整しても印字ができないときがあり、現状その原因がいまだに究明されていない。
本発明の主な目的は、レーザマーキング技術で印字しうるケーブルであって、レーザ照射条件の調整が不要なまたは調整可能な範囲内で印字しうるケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者がレーザ照射条件を調整しても印字ができない原因を探求したところ、単位厚さ当たりの透過濃度と印字状態との間に一定の関係性があることを見出し、本発明をするに至った。
すなわち本発明によれば、
複数本の絶縁心線を撚り合わせた対撚コアと、
前記対撚コアを被覆する内層シースと、
前記内層シースを被覆する外層シースとを備え、
前記外層シースがポリウレタン樹脂および着色剤を含有し、
前記外層シースの単位厚さ当たりの透過濃度D/tが5.4~13.2mm-1であることを特徴とするケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レーザ照射条件の調整が不要なまたは調整可能な範囲内で印字しうるケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】単位厚さ当たりの透過濃度の算出を説明するための模式図である。
【
図3】サンプル3、6、8の実印字状態を示す図である。
【
図4】単位厚さ当たりの透過濃度と印字状態との関係を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
本明細書において数値範囲を示す「~」には上限値および下限値がその数値範囲に含まれる。
【0010】
図1に示すとおり、ケーブルは主に、1対の絶縁心線3a、3bを撚り合わせた対撚コア10と、対撚コア10を充実被覆する内層シース20と、内層シース20を被覆する外層シース30とで構成されている。
【0011】
絶縁心線3aは撚線導体1aを絶縁体2aで被覆された構成を有しており、絶縁体2aが赤色に着色されている。
絶縁心線3bは撚線導体1bを絶縁体2bで被覆された構成を有しており、絶縁体2bが黒色に着色されている。
【0012】
撚線導体1a、1bは複数本の細径素線を撚り合わせた撚線導体である。各細径素線は錫または銀などがめっきされた軟銅線で構成されている。
撚線導体1a、1bは好ましくは一定直径の錫めっき軟銅線(細径素線)を複数本撚り合わせ、外径がAWG18~30である。
【0013】
絶縁体2a、2bはポリエチレン樹脂から構成されている。
一方の絶縁体2aを構成するポリエチレン樹脂には赤色に着色するための着色剤が配合されており、他方の絶縁体2bを構成するポリエチレン樹脂には黒色に着色するための着色剤が配合されている。
絶縁体2a、2bの厚さは好ましくは0.10~0.30mmである。
絶縁体2a、2bはポリエチレン樹脂が撚線導体1a、1bに対し押出し被覆され、その後電子線が照射され(架橋され)形成される。
【0014】
内層シース20はポリ塩化ビニル樹脂から構成され、黒色の着色剤(カーボンなど)が含有されている。
内層シース20は当該黒色ポリ塩化ビニル樹脂が対撚コア10に対し押出し被覆され形成される。
【0015】
外層シース30はポリウレタン樹脂から構成され、黒色の着色剤(カーボンなど)が含有されている。
当該黒色ポリウレタン樹脂は、JIS K 6301による低温脆化温度-60℃以下であり、好ましくは-68℃以下である。JIS K 7311による引張強さが40MPa以上、好ましくは42MPa以上であり、同伸びが450%以上、好ましくは500%以上であり、同100%モジュラスが5.0MPa以下、好ましくは4.9MPa以下である。
当該黒色ポリウレタン樹脂は、JIS K 6301による耐寒性が-75℃以上、JIS K 6723による引張強さが50MPa以下、同伸びが600%以下、同100%モジュラスが4.0MPa以上であることがより好ましい。
当該黒色ポリウレタン樹脂には、着色剤のほか、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱老化防止剤、充填剤、加工助剤、滑剤などの添加剤が配合されていてもよい。
外層シース30の厚さは好ましくは0.10~0.30mmである。
外層シース30は当該黒色ポリウレタン樹脂が内層シース20に対し押出し被覆され形成される。
【0016】
本実施形態にかかるケーブルでは、外層シース30の単位厚さ当たりの透過濃度D/tが5.4~13.2mm
-1であり、好ましくは7.1~8.8mm
-1である。
外層シース30の単位厚さ当たりの透過濃度D/tの算出は下記のとおりに実施する。
ケーブルから外層シース30を剥ぎ取り、加熱しながらプレスし、厚さ約0.3mmのフィルム形状に加工する。その後、透過濃度計を使用し、出射Eoおよび入射Eiの光束から、透過濃度D=-log10(Eo/Ei)を測定する(
図2参照)。併せて、ダイヤルシックネスゲージで厚さt[mm]を測定し、単位厚さ当たりの透過濃度D/t[mm
-1]を算出する。
【0017】
以上の本実施形態によれば、外層シース30の単位厚さ当たりの透過濃度D/tが5.4~13.2mm-1であるため、レーザ照射条件の調整が不要なまたは調整可能な範囲内で印字することができる(下記実施例参照)。
【0018】
なお、本実施形態にかかるケーブルは好ましくは自転車に使用され、その通信用途にも適用可能であるし、電力供給用途にも適用可能である。
【実施例】
【0019】
(1)サンプルの作製
(1.1)サンプル1
直径0.05mmの錫めっき軟銅線95本を撚り合わせ、AWG25(外径0.56mm)の撚線導体を2条準備した。
【0020】
一方の撚線導体に対し、赤色マスターバッチを配合した高密度ポリエチレンを、押出被覆して電子線を照射し、厚さが0.17mmの赤色絶縁体を形成し、外径0.90mmの第1の絶縁心線を得た。
他方の撚線導体に対し、黒色マスターバッチを配合した同高密度ポリエチレンを押出被覆して電子線を照射し、厚さが0.17mmの黒色絶縁体を形成し、外径0.90mmの第2の絶縁心線を得た。
各マスターバッチと高密度ポリエチレンとの質量混合比は赤色絶縁体および黒色絶縁体のいずれも1:30とした。
【0021】
その後、第1の絶縁心線および第2の絶縁心線を撚り合わせて対撚コアを形成しながら、その上に、充実に、黒色ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)を押出被覆し、さらにその上に、黒色ポリウレタン樹脂を押出被覆し厚さ0.23mmの外層シースを形成し、外径約2.3mmのケーブルを製造した。
【0022】
その後、当該ケーブルに対し、汎用のレーザマーキング装置を使用しレーザ印字した。レーザマーキング装置のレーザ照射条件(仕様)は下記のとおりである。
発振器平均出力:20W
パルス周期:5~50μs
スキャンスピード:最大12,000mm/s
【0023】
(1.2)サンプル2~10
サンプル1において、外層シースのカーボン濃度や厚さを変動させた。
それ以外はサンプル1と同様に製造しレーザ印字した。
【0024】
(2)サンプルの評価
各サンプルに対し下記の処理を実施し、単位厚さ当たりの透過濃度D/tと印字状態との関係を評価した。
ポリウレタン樹脂シース部分を剥ぎ取り、加熱しながらプレスし、厚さ約0.3mmのフィルム形状に加工した。その後、透過濃度計(X-Lite社製X-Lite301)を使用し、3mm径のアパーチャーを通じた、出射Eoおよび入射Eiの光束から、透過濃度D=-log10(Eo/Ei)を測定した(
図2参照)。併せて、ダイヤルシックネスゲージ(アンビル径10mm)で厚さt[mm]を測定し、単位厚さ当たりの透過濃度D/t[mm
-1]を算出した。
単位厚さ当たりの透過濃度D/tと印字状態との関係を表1に示す。
【0025】
表1中、「◎」「○」「△」「×」の評価基準は下記のとおりである。
「◎」:標準見本と同等であり、レーザ照射条件の調整は不要である
「○」:標準見本と同等であり、レーザ照射条件の微調整が必要である
「△」:標準見本との差はあるが、レーザ照射条件の調整および照射回数の増加で標準見本と同等にしうる
「×」:レーザ照射条件および照射回数の増加でも印字を認識することができない
【0026】
【0027】
(3)まとめ
表1および
図3に示すとおり、サンプル3~10では、印字状態が◎、○または△であり、単位厚さ当たりの透過濃度D/tが5.4~13.2mm
-1であることが有用であることがわかった。特にサンプル4~7では印字状態が◎または○であり、単位厚さ当たりの透過濃度D/tが7.1~8.8mm
-1であることが有用であることがわかった。
単位厚さ当たりの透過濃度D/tと印字状態との関係性は下記のとおりに推察した。
図4に示すとおり、単位厚さ当たりの透過濃度D/tが5.4~13.2mm
-1である場合には、レーザの熱でガス泡がポリウレタン樹脂層内で発生し、気泡が表面で白く隆起する(現象:発泡)。これに対し、単位厚さ当たりの透過濃度D/tが5.4mm
-1未満で過小である場合には、レーザがポリウレタン樹脂層を透過してしまいガス泡の発生が不十分となる(現象:透過)。単位厚さ当たりの透過濃度D/tが13.2mm
-1超で過大である場合には、レーザのエネルギーがポリウレタン樹脂層表面のごく浅いところで吸収されることから、熱量が大きくなりすぎる為、ガス泡の状態が保てなくなりガス泡が消失してしまう(現象:ガス泡消失)。
【符号の説明】
【0028】
1a、1b 撚線導体
2a、2b 絶縁体
3a、3b 絶縁心線
10 対撚コア
20 内層シース
30 外層シース