(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】高速湿度センサ、および高速湿度センサを較正するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/22 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
G01N27/22 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021199075
(22)【出願日】2021-12-08
【審査請求日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516236724
【氏名又は名称】ヴァイサラ・オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】レッパネン,ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】ヤロネン,マルコ
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-527356(JP,A)
【文献】特開平08-292202(JP,A)
【文献】特開2018-136134(JP,A)
【文献】特開2006-234576(JP,A)
【文献】特開2002-156348(JP,A)
【文献】特開2001-201478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(12)上に形成されたセンサ
構造(19)を使用する較正方法であって、
前記センサ構造(19)は、
-センサ用の電気接点(1~6)を備えるセンサフレーム(21)と、少なくとも容量式湿度センサ(9)を備える前記センサフレーム(21)内のアクティブセンサ(22)と、
-前記アクティブセンサ(22)は、前記アクティブセンサ(22)を支持する熱絶縁層(14)によってのみ前記センサフレーム(21)に接続され、前記熱絶縁層(14)は、前記センサフレーム(21)からの電気接点を含み、
-前記基板(12)は、前記アクティブセンサ(22)領域から除去され、
-前記アクティブセンサ(22)は、加熱抵抗器(7)および温度測定抵抗器(8)のうちの少なくとも1つを含み、前記容量式湿度センサの温度は、前記温度測定抵抗器(8)によって測定され、前記容量式湿度センサ(9)は、別個の加熱抵抗器(7)によって、または温度測定抵抗器(8)に定期的に電力を供給するか、または温度測定抵抗器(8)を測定することによって、加熱されることを特徴とする、
センサ構造(19)であり、
-前記アクティブセンサ
(22)は、加熱パルスで加熱され、
-前記
容量式湿度センサ
(9)の静電容量と、前記アクティブセンサ
(22)の温度とは、前記加熱パルスに関連して決定され、
-少なくとも乾燥静電容量を表す前記静電容量の最小値
(20)は、前記湿度センサ
(9)のRH0%点として、測定温度で決定され
、前記乾燥静電容量は、前記アクティブセンサ(22)の熱応答時間と湿度応答時間の差を利用して測定される、
ことを特徴とする、較正方法。
【請求項2】
加熱によって前記湿度センサ(9)から水は除去されないが、前記温度が安定値に達した点を表す
加熱パルス中のRH最大点(23)も、前記加熱パルスに関連して決定されることを特徴とする、請求項
1に記載の較正方法。
【請求項3】
前記加熱パルスの持続時間は、0.05~5秒の範囲であることを特徴とする、請求項
1または請求項
2に記載の較正方法。
【請求項4】
前記アクティブセンサ(22)の加熱電力は、0.1mW/℃~5mW/℃の範囲内にあることを特徴とする、請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載の較正方法。
【請求項5】
前記アクティブセンサ(22)の加熱中の温度変化の速度は、200℃/秒よりも大きいことを特徴とする、請求項
1から請求項
4のいずれか一項に記載の
較正方法。
【請求項6】
前記アクティブセンサ(22)を支持する前記熱絶縁層の厚さは、100-1000nmであることを特徴とする、請求項
1から請求項
5のいずれか一項に記載の
較正方法。
【請求項7】
前記センサフレーム(21)および前記アクティブセンサ(22)は、互いに同心であることを特徴とする、請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載の
較正方法。
【請求項8】
前記アクティブセンサ(22)の全厚は、1~100μmの範囲であることを特徴とする、請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載の
較正方法。
【請求項9】
前記基板(12)は、シリコン製であることを特徴とする、請求項1
から請求項8のいずれか一項に記載の
較正方法。
【請求項10】
前記基板(12)は、ゲルマニウム製であることを特徴とする、請求項1
から請求項8のいずれか一項に記載の
較正方法。
【請求項11】
請求項1
から請求項
10の
いずれか一項に記載の方法が、
前記センサ構造
(19)によって実行されるように構成されたコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度センサ、および湿度センサを較正するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量式湿度センサは、何十年もの間、従来技術で使用されてきた。これらのセンサは、較正目的でゼロ点湿度測定値を得るために、抵抗器などの加熱可能な素子を使用して較正されている。しかしながら、湿度センサの応答時間は遅いため、これらの既知の方法では実際のゼロ点湿度較正は達成されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの特定の実施形態は、従属請求項に定義される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、湿度測定コンデンサおよび抵抗性の加熱および測定素子が、センサ構造の残りの部分から熱的に絶縁された、加熱可能な湿度センサが提供される。
【0005】
本発明の第2の態様によれば、センサフレームとアクティブセンサが互いに同心であるセンサ構造が提供される。
【0006】
本発明の第3の態様によれば、支持ブリッジの全幅が、アクティブセンサの円周の約0.5~75%を表すセンサ構造が提供される。
【0007】
本発明の第4の態様によれば、アクティブセンサの全厚が、1~100μmの範囲、典型的には約2μmであるセンサ構造が提供される。
【0008】
本発明の第5の態様によれば、アクティブセンサを支持する層の厚さが100~1000nm、典型的には350nmであるセンサ構造が提供される。
【0009】
本発明の第6の態様によれば、アクティブセンサの加熱電力が0.1mW/℃...5mW/℃の範囲にあるセンサ構造が提供される。
【0010】
本発明の第7の態様によれば、アクティブセンサ(22)の加熱中の温度変化の速度が、典型的には200℃/秒よりも大きいセンサ構造が提供される。
【0011】
本発明の第8の態様によれば、アクティブセンサの幅に対する各支持ブリッジの長さが、典型的には1:6~1:2の範囲、好ましくは約1:4であるセンサ構造が提供される。
【0012】
本発明の第9の態様によれば、アクティブセンサの熱応答時間が、アクティブセンサの湿度応答時間よりも10倍以上、好ましくは20倍以上短いセンサ構造が提供される。
【0013】
本発明の第10の態様によれば、少なくとも静電容量の最小値がRH0%点として決定される、センサ構造のための較正方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の少なくともいくつかの実施形態による断面センサ構造を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の少なくともいくつかの実施形態による別のセンサ構造の上面図である。
【
図3】
図3は、パッド3、4に沿った
図3にしたがうセンサ構造の断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の少なくともいくつかの実施形態による較正方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によるセンサ構造を用いて、アクティブ感知領域に対して低い熱質量、したがって、速い熱応答が達成される。結果として、必要な加熱電力も低くなる。したがって、爆発の危険性があるATEX分類された環境でも、加熱に基づく較正方法が可能である。速い熱応答により、強化された自動較正方法の開発と使用が可能になる。同じセンサ構造で、センサ加熱を使用すれば、同じセンサ素子による正確な温度測定も可能である。従来技術の解決策では、高い加熱電力が、統合システムにおいて自己加熱の問題を引き起こすため、温度測定のために別個の温度測定素子が必要とされる。
【0016】
図1には、本発明による湿度センサ構造19の断面図が示される。シリコン基板12上に、LPCVD窒化物層14が形成され、これは、ニオブ電極13、アクティブポリマ層10、および上部多孔質クロム電極11によって形成される実際のコンデンサ9の支持層としても機能する。基板はまた、ゲルマニウム製であり得る。熱絶縁層14は、本発明の1つの好ましい実施形態では、均一構造である。加熱抵抗器7(または代替的に温度センサ8)は、LPCVD窒化物層14の内部に配置される。湿度測定コンデンサ9は、上部の保護ポリマ層15によって保護される。
【0017】
図2および
図3によれば、センサ構造は、2つの主要な素子、センサフレーム21によって囲まれたアクティブセンサ22を備える。センサフレーム21は、シリコン基板12上に形成される。アクティブセンサ22は、アクティブセンサ22を支持する薄い熱絶縁層14によってのみセンサフレーム23に機械的に接続され、層14は、センサフレーム21からの電気接点を含む。本発明の1つの実施形態では、層14は、アクティブセンサ22が、電気接点用のニオブで覆われた熱絶縁層14の薄い支持ブリッジ16、17によってセンサフレームに接触するように、絶縁ギャップ18を含む。支持ブリッジのおのおのの長さは約0.5mmであり、典型的には、0.1~1mmの範囲であり、支持ブリッジ16、17のおのおのの長さと、アクティブセンサ22の幅との比は約1:4であり、通常、1:6~1:2の範囲である。これらの隔離ギャップ18によって、アクティブセンサ22とセンサフレーム21との間にさらなる断熱が作られる。アクティブセンサ22は、典型的には、平面湿度測定コンデンサ9と、加熱抵抗器7および温度センサ8のうちの少なくとも1つ、あるいはその両方を含む。センサフレーム21は、加熱抵抗器7のための接点パッド1、2、湿度測定コンデンサ9の接点パッド3、4、および温度センサ8の接点パッド5、6を含む。支持ブリッジ16、17の全幅は、アクティブセンサ22の円周の約0.5~75%を表し、この構造によって、アクティブセンサは、センサフレーム21から効率的に断熱される。アクティブセンサ22はまた、非常に薄く、約2μm、典型的には1~100μmの範囲であり、支持LPCVD窒化物層14は、約350nmの厚さであり、この厚さは典型的には100~1000nmの範囲である。断熱層14はまた、いくつかの副層から形成され得るが、層14の全体的な断熱は十分でなければならない。
【0018】
従来技術の解決策との最も顕著な違いは、本発明では真の乾燥静電容量を測定できることである。従来技術の解決策では、乾燥静電容量に到達したことはなく、外挿によってのみ仮定されていた。この方法は、経年変化によって温度依存性が変化するため、正確ではない。したがって、現在の湿度センサの最大の誤差源のうちの1つである。
【0019】
上記の発明により、応答時間の大きな差が、乾燥静電容量測定によって必要とされる湿度および温度測定において達成される。通常、湿度測定の応答時間は、温度測定の応答時間の10倍以上である。
図4に、湿度センサ9の静電容量と、加熱パルス中の時間の関数として温度センサによって測定された同じ素子の温度とをグラフに示す。曲線における上昇温度は、加熱パルスを表す。静電容量最小値20は、乾燥静電容量を表す。なぜなら、その点では、温度測定の応答時間が非常に速い(=短い)ため、アクティブセンサ22の温度は、周囲温度(または、乾燥較正に必要な他の温度)にあるが、水はまだ湿度センサ9に吸収されていないからである。言い換えると、点20では、湿度センサは、RH0%であり、測定温度にある。
【0020】
アクティブセンサ構造22の典型的な特性は、以下の通りである。
【0021】
-加熱電力は、0.1mW/℃...5mW/℃の範囲であり得る。
【0022】
-温度変化の速度は、通常、200℃/秒よりも大きい。
【0023】
-使用される温度範囲は、通常、5~300℃の範囲である。
【0024】
本発明による構造は、速い温度変化を伴う追加の方法を使用することを可能にする。静電容量曲線23は、加熱によりセンサ9から水が除去されないが、温度が安定値に達した点を表す。この較正点を用いて、湿度センサ9の温度依存性を決定することができる。
【0025】
以下の例として、本発明のいくつかの特徴が列挙される。
-コンデンサ9の静電容量は、分子が誘電物質に吸収されるにつれて変化し、測定される静電容量は、物質の濃度と相関する。
-コンデンサ9の温度は、温度依存抵抗器8によって測定される。
-コンデンサ9は、別個の加熱抵抗器7によって、または代替的に温度測定抵抗器8に定期的に電力を供給するか、または温度測定抵抗器8を測定することによって加熱できる。
-コンデンサ9の誘電体材料10は、有機ポリマ、セラミック、または分子を吸収できる他の任意の誘電体材料であり得る。
-自立薄膜14は、SiNとできる。
-抵抗7、8の材料は、白金、モリブデン、または、温度変化に対して単調に応答する他の材料とできる。
【0026】
コンデンサ9、温度測定素子8、および加熱素子7は、それらが低熱伝導性自立膜14上の島22(
図2、中央領域)であると見なすことができるように配置される。電気接点を作るための金属リードは非常に薄いので、熱伝導率に本質的な影響はない。電気接点パッド1~6は、Si基板12で形成された周囲のセンサフレーム21上にある。
【0027】
コンデンサ9が配置されている低熱質量領域22のみを加熱することにより、速い温度変化と組み合わされた上記のテキストに記載されたセンサ構造は、斬新なドリフト補償方法を使用することが可能である。この方法では、実際の測定温度で乾燥静電容量を測定できる。従来技術の方法は、乾燥静電容量の熱依存性の計算および仮定を使用することによってのみ、乾燥静電容量を予測できた。熱応答時間は、湿度応答時間の約20倍速いため、乾燥静電容量を測定することが可能である。上昇した温度では、事実上すべての水が、センサから取り除かれ、急速な冷却期間中、水は、センサに吸収される時間がないため、測定される静電容量は、センサ9の乾燥静電容量のみを示す。次に、乾燥容量ドリフトを補償できる。他の利点は、自動較正サイクルが非常に速く、読取のためのロック時間が短いことである。
【0028】
開示される本発明の実施形態は、本明細書に開示される特定の構造、プロセスステップ、または材料に限定されず、関連技術において当業者によって認識されるそれらの等価物に拡張されることが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明する目的でのみ使用され、限定することを意図されないことも理解されたい。
【0029】
本明細書全体を通じた「1つの実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な場所における「1つの実施形態において」または「実施形態において」という句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すとは限らない。
【0030】
本明細書で使用される場合、複数の項目、構造的要素、構成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストに提示され得る。しかしながら、これらのリストは、リストの各メンバが、別個の一意のメンバとして個別に識別されているかのように解釈する必要がある。したがって、そのようなリストの個々のメンバは、逆の指示なしに、共通のグループでの提示のみに基づいて、同じリストの他の任意のメンバと事実上等価であると解釈されるべきではない。それに加えて、本発明の様々な実施形態および例は、その様々な構成要素の代替物とともに本明細書で参照され得る。そのような実施形態、例、および代替案は、互いに事実上等価であると解釈されるべきではなく、本発明の別個の自律的な表現と見なされるべきであることが理解される。
【0031】
さらに、記載された特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方式で組み合わせることができる。以下の説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するために、長さ、幅、形状などの例など、多数の特定の詳細が提供される。しかしながら、関連技術の当業者は、本発明が、1つまたは複数の特定の詳細なしで、または他の方法、構成要素、材料などを用いて実施できることを認識するであろう。他の事例では、本発明の態様を曖昧にすることを避けるために、周知の構造、材料、または動作は詳細に示されていないか、または説明されていない。
【0032】
前述の例は、1つまたは複数の特定の用途における本発明の原理の例示であるが、形態、使用法、および実施の詳細における多数の修正は、発明能力の行使がなくても、また本発明の原理および概念から逸脱することなく行うことができることが当業者に明らかであろう。したがって、以下に記載される特許請求の範囲による場合を除いて、本発明が限定されることは意図されていない。
【0033】
「備える」および「含む」という動詞は、本書では、引用されていない特徴の存在を除外も要求もしないオープンな限定として使用される。従属請求項に記載されている特徴は、特に明記しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。さらに、本書全体を通じて、「a」または「an」、すなわち単数形の使用は、複数を除外しないことを理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は産業的に適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
RH 相対湿度
LPCVD 低圧化学蒸着
PECVD プラズマ化学気相成長
1 第1の耐熱性接点パッド
2 第2の耐熱性接点パッド
3 第1の湿度測定コンデンサ接点パッド
4 第2の湿度測定コンデンサ接点パッド
5 第1の温度センサ接点パッド
6 第2の温度センサ接点パッド
7 熱抵抗体
8 温度センサ
9 湿度測定コンデンサ、容量式湿度センサ
10 湿度測定コンデンサのアクティブポリマ
11 湿度測定コンデンサの上部多孔質電極
12 シリコンまたはゲルマニウムの基板
13 湿度測定コンデンサの下部電極
14 LPCVD-窒化物層(支持体)、熱絶縁層
15 保護ポリマ
16 抵抗導体支持ブリッジ
17 コンデンサ導体支持ブリッジ
18 隔離ギャップ
19 センサ構造
20 RH0%点
21 センサフレーム
22 アクティブセンサ
23 RH最大点