(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20230928BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230928BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230928BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230928BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230928BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20230928BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/587
H01M10/052
H01M10/0587
(21)【出願番号】P 2020081910
(22)【出願日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】新田 巖
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-184269(JP,A)
【文献】特開2005-293900(JP,A)
【文献】特開2002-033118(JP,A)
【文献】特開2004-071340(JP,A)
【文献】特表2022-538380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/587
H01M 10/052
H01M 10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の正極とシート状の負極とがセパレータを介して重ねられた電極体と、非水電解液とが電池ケース内に収容された非水電解液二次電池であって、
前記負極は、負極活物質としてグラファイトを含む負極活物質層を備えており、
前記非水電解液に臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが溶解しており、
前記非水電解液の総量を100wt%としたときの前記臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの含有量が0.1wt%以上5wt%未満であることを特徴とする、非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記正極は、正極活物質としてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む正極活物質層を備えている、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記電極体は、前記正極と前記負極と前記セパレータとを捲回させた捲回電極体である、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関する。詳しくは、電極体と非水電解液とが電池ケース内に収容された非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池などの非水電解液二次電池(以下、「二次電池」ともいう)は、様々な機器の電源として広く使用されている。かかる二次電池の用途の一例として、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源や、パソコン、携帯端末などの携帯用電源などが挙げられる。
【0003】
この種の二次電池は、例えば、電極体と非水電解液とが電池ケース内に収容された構造を有している。上記電極体は、セパレータを介して正極と負極とが重ねられた構造を有する。この電極体の構造の一例として、捲回電極体や積層型電極体が挙げられる。捲回電極体は、一対の正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせた積層体を捲回することによって形成される。一方、積層型電極体は、セパレータを介在させながら複数枚の正極と負極とを順次積み重ねることによって形成される。
【0004】
上記構造の二次電池を製造する際には、電極体を収容した電池ケースの内部を減圧した後で、ケース内に非水電解液を注液する。そして、電池ケースが開放された状態を所定時間保持して電極体の内部(正極と負極との極間)に非水電解液を浸透させた後に、電池ケースを密閉する。このような製造工程において、電極体内への非水電解液の浸透性が低いと、負圧のままの領域が電極体内に残り、ケース密閉後も電極体内へ非水電解液が浸透し続けるため、電池ケースの内部空間(電極体と電池ケースとの間の空間)が負圧になることがある。このような二次電池では、充放電に伴って正極や負極が膨張した際に、電極体が外方へ膨らむことが難しいため、正極と負極との極間が潰れやすい。この結果、正極と負極との極間に浸透していた非水電解液が電極体の外部へ漏出し、ハイレート特性が低下するおそれがある。
【0005】
このため、近年では、電極体内への非水電解液の浸透性を向上させる技術への要求が高まっている。例えば、特許文献1では、リン酸トリスと非イオン性界面活性剤を非水電解液に添加し、正極への非水電解液の浸透性を高める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者の検討によると、特許文献1に記載の技術には、種々の弊害があり、改善の余地が残されていることが分かった。具体的には、特許文献1のように、非イオン界面活性剤(例えばエーテル系界面活性剤)を非水電解液に添加すると、電池ケース内に注液する際の発泡(キャビテーション)が顕著になり、注液中の電池ケースから非水電解液が溢れ出て生産性が大きく低下する可能性があった。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、注液時のキャビテーションの発生を抑制した上で、電極体内部への非水電解液の浸透性を改善できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するべく、ここに開示される非水電解液二次電池が提供される。かかる非水電解液二次電池では、シート状の正極とシート状の負極とがセパレータを介して重ねられた電極体と、非水電解液とが電池ケース内に収容されている。そして、ここに開示される非水電解液二次電池では、非水電解液に臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが溶解しており、非水電解液の総量を100wt%としたときの臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの含有量が0.1wt%以上5wt%未満である。
【0010】
本発明者らが種々の検討を行った結果、カチオン系界面活性剤(陽イオン性界面活性剤)が添加された非水電解液は、非イオン界面活性剤が添加された非水電解液と比較して、注液時のキャビテーションの程度が小さいことが分かった。そして、このカチオン系界面活性剤のなかでも臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(以下、「CTAB」ともいう)は、注液時のキャビテーションを特に好適に抑制した上で、電極体の構成材料(すなわち、セパレータ、正極および負極)の各々に対する非水電解液の馴染みやすさを大幅に改善することが分かった。ここに開示される技術は、かかる知見に基づいたものであり、キャビテーションの発生を抑制した上で、電極体内部への非水電解液の浸透性を向上できる。なお、非水電解液にCTABを添加した場合であっても、その添加量が少なすぎると非水電解液の浸透性が不足する可能性がある。また、CTABの添加量が多すぎると、注液時のキャビテーションが発生する可能性がある。かかる観点から、ここに開示される技術では、非水電解液の総量を100wt%としたときのCTABの含有量が0.1wt%以上5wt%未満に調整されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電極体を模式的に示す斜視図である。
【
図3】試験例における浸透性評価の結果を示すグラフである。なお、
図3中の縦軸は電池ケース内部における非水電解液の液面高さ(mm)を示し、横軸は注液完了時を0秒とした場合の経過時間(sec)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、ここに開示される非水電解液二次電池の一実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づいて把握され得る。すなわち、ここに開示される技術は、本明細書に明示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施できる。なお、以下の実施形態は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。また、本明細書にて示す図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付して説明している。さらに、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0013】
本明細書において「非水電解液二次電池」とは、電解質として非水系の電解液を用いた繰り返し充放電可能な電池一般をいう。かかる非水電解液二次電池の典型例として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。このリチウムイオン二次電池は、電解質イオン(電荷担体)としてリチウム(Li)イオンを利用し、正極と負極との間をリチウムイオンが移動することによって充放電を行う二次電池である。また、本明細書において「活物質」とは、電荷担体を可逆的に吸蔵・放出する材料をいう。
【0014】
1.リチウムイオン二次電池の構造
図1は本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構成を模式的に示す断面図である。また、
図2は本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電極体を模式的に示す斜視図である。なお、本明細書にて示す各図における符号Xは「(リチウムイオン二次電池の)幅方向」を示し、符号Zは「(リチウムイオン二次電池の)高さ方向」を示す。但し、これらの方向は、説明の便宜上定めたものであり、ここに開示される二次電池を使用する際の設置態様を限定することを意図したものではない。
【0015】
(1)全体構成
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100では、電極体20と非水電解液30とが電池ケース10に収容されている。また、ここに開示される技術を限定するものではないため詳しい説明は省略するが、このリチウムイオン二次電池100では、正極端子72と負極端子74とからなる一対の電極端子70を備えている。これらの電極端子70の一方の端部は、電池ケース10内の電極体20と電気的に接続されており、他方の端部は電池ケース10の外部に露出している。これによって、電池ケース10内の電極体20を、外部機器(モーターや他の二次電池など)と電気的に接続できる。
【0016】
(2)電池ケース
上述した通り、電池ケース10は、電極体20と非水電解液30とを収容する容器である。
図1に示す電池ケース10は、内部空間を有する角型の容器であり、上面が開口した箱型のケース本体12と、当該ケース本体12の上面開口を塞ぐ板材である蓋体14とを備えている。また、
図1中の符号18は、安全弁である。かかる安全弁18を設けることによって、電池ケース10の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放することができる。なお、電池ケース10は、軽量で熱伝導性の良い金属材料(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等)によって構成されていることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態では、電池ケース10の蓋体14に注液口16が設けられている。詳しくは後述するが、注液口16に注液装置を取り付け、電池ケース10内を減圧した後に非水電解液30を注液することによって、電極体20の内部へ非水電解液30を浸透させることができる。そして、注液口16は、電極体20内へ十分な量の非水電解液30を浸透させた後に封止される。
【0018】
(3)電極体
図2に示すように、電極体20は、シート状の正極40とシート状の負極50とを、セパレータ60を介して重ねることによって形成されている。具体的には、本実施形態における電極体20は、セパレータ60を介して長尺な正極40と長尺な負極50とを重ね合わせた積層体を捲回することによって形成された捲回電極体である。この捲回電極体20の幅方向X(捲回軸方向)の中央部には、後述する正極活物質層44と負極活物質層54とが積層され、充放電反応の主な場となるコア部20aが形成されている。また、捲回電極体20の幅方向Xの一方の端部には、正極端子72と接続される正極接続部20bが形成され、他方の端部には、負極端子74と接続される負極接続部20cが形成されている。
【0019】
(a)正極
次に、電極体20を構成する各部材について説明する。正極40は、長尺な正極集電箔42と、当該正極集電箔42の表面(例えば両面)に付与された正極活物質層44とを備えている。この正極40の幅方向Xの一方の側縁部(
図2中の左側の側縁部)には、正極活物質層44が付与されておらず、正極集電箔42が露出した正極露出部46が設けられている。かかる正極露出部46は、捲回電極体20を形成する際に、後述する負極50からはみ出した状態で巻き重ねられることによって正極接続部20bを形成する。なお、正極集電箔42および正極活物質層44の各々を構成する材料は、従来公知のリチウムイオン電池の正極に使用され得る材料を特に制限なく使用することができ、ここに開示される技術を限定するものではないため詳細な説明を省略する。
【0020】
(b)負極
一方、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100では、上記正極40と略同等の構成を有する負極50が用いられている。具体的には、負極50は、長尺な負極集電箔52と、当該負極集電箔52の表面(例えば両面)に付与された負極活物質層54とを備えている。この負極50の幅方向Xの他方の側縁部(
図2中の右側の側縁部)には、負極活物質層54が付与されておらず、負極集電箔52が露出した負極露出部56が設けられている。かかる負極露出部56は、捲回電極体20を形成する際に、正極40からはみ出した状態で巻き重ねられることによって負極接続部20cを形成する。なお、負極集電箔52および負極活物質層54の各々を構成する材料は、従来公知のリチウムイオン電池の負極に使用され得る材料を特に制限なく使用でき、ここに開示される技術を限定するものではないため詳細な説明を省略する。
【0021】
(c)セパレータ
セパレータ60は、正極40と負極50との間に介在する絶縁部材である。かかるセパレータ60には、電荷担体(リチウムイオン)が透過可能な微細孔が形成されている。後述する非水電解液30が電極体20の内部に浸透してセパレータ60の微細孔に充填されることによって、正極40と負極50との間での電荷担体の移動が可能になる。なお、セパレータ60についても、従来公知のリチウムイオン電池において使用され得る材料を特に制限なく使用することができ、ここに開示される技術を限定するものではないため詳細な説明を省略する。
【0022】
(4)非水電解液
非水電解液30は、非水溶媒に支持塩を溶解させることによって調製される。この非水電解液30は、電極体20と共に電池ケース10内に収容されており、当該電極体20の内部に浸透している。なお、非水電解液30は、全てが電極体20の内部に浸透している必要はなく、
図1に示すように、余剰電解液32として電極体20と電池ケース10との間に存在していてもよい。この余剰電解液32が生じるように非水電解液30の注液量を設定することによって、充放電中に電極体20内の非水電解液30が不足した際に、余剰電解液32を電極体20内へ供給することができる。
【0023】
(a)非水溶媒
非水電解液に含まれる非水溶媒は、従来公知のリチウムイオン電池において使用され得る非水溶媒を特に制限なく使用することができる。かかる非水溶媒の一例として、カーボネート系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒、スルホン系溶媒、ラクトン系溶媒などが挙げられる。これらの非水溶媒の好適例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート系溶媒が挙げられる。また、非水電解液30の非水溶媒は、上述した材料を単独で使用したものでもよいし、2種以上を混合したものでもよい。例えば、後述するCTABを好適に溶解できるという観点からは、ECとDMCとEMCとを所定の割合で混合した混合溶媒などが好適に使用され得る。
【0024】
(b)支持塩
支持塩には、従来公知のリチウムイオン電池において使用され得る支持塩を特に制限なく使用することができる。かかる支持塩の一例として、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(LiTFSI)などが挙げられる。また、非水電解液30に含まれる支持塩のモル濃度は、特に限定されず、他の電池材料の構成によって適宜調節することができる。かかる非水電解液30中の支持塩のモル濃度の下限値は、0.5mol/L以上であってもよく、0.7mol/L以上であってもよい。一方、支持塩のモル濃度の上限値は、5mol/L以下であってもよく、2.5mol/L以下であってもよく、1.5mol/L以下であってもよい。
【0025】
(c)臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム
そして、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、上述した非水電解液30に臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)が溶解しており、当該非水電解液30の総量を100wt%としたときのCTABの含有量が0.1wt%以上5wt%未満であることによって特徴付けられる。これによって、非水電解液30を注液する際のキャビテーションを好適に抑制した上で、電極体20内部への非水電解液30の浸透性を向上できる。以下、具体的に説明する。
【0026】
上記臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム((C16H33)N(CH3)3Br)は、カチオン系界面活性剤の一種である。本発明者の実験および検討によると、カチオン系界面活性剤は、従来のノニオン系界面活性剤(非イオン性界面活性剤)と比べて、非水電解液30を注液した際のキャビテーションの程度が小さいため、非水電解液30が電池ケース10から溢れ出る危険性が少ない。そして、上記CTABは、カチオン系界面活性剤の中でも注液時のキャビテーションが少なく、かつ、電極体20の構成材料に対する非水電解液30の馴染みやすさを改善できるという特性を有している。
【0027】
そして、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100では、非水電解液30の総量を100wt%としたときのCTABの含有量が0.1wt%以上5wt%未満に設定されている。具体的には、CTABを使用した場合であっても、その含有量が少なすぎると、電極体20内部への非水電解液30の浸透性を十分に向上させることが難しい。このため、本実施形態では、上記CTABの含有量が0.1wt%以上に設定されている。また、より好適な浸透性を発揮させるという観点から、CTABの含有量は、0.2wt%以上が好ましく、0.3wt%以上がより好ましい。一方、CTABを使用した場合であっても、その含有量が多すぎると、注液時のキャビテーションが生じる可能性がある。かかる観点から、本実施形態では、上記CTABの含有量の上限が5wt%未満に設定されている。なお、キャビテーションの発生を確実に防止するという観点から、CTABの含有量の上限は、4wt%以下が好ましく、3wt%以下がより好ましく、2wt%以下がさらに好ましく、1wt%以下が特に好ましい。
【0028】
また、CTABは、上述した非水電解液30の浸透性の向上の他にも、種々の有利な効果を発揮し得る。具体的には、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100の充放電を行うと、電極体20内に加わった電荷によってCTABが重合し、電極体20内の非水電解液30がゲル化する。これによって、電極体20の外部への非水電解液30の流出をさらに抑制し、ハイレート特性の低下をより好適に防止できる。また、非水電解液30がゲル化すると、電極集電箔からの電極活物質の脱落、電極体20の変形などを防止することもできる。加えて、一般的なリチウムイオン二次電池では、充放電によって非水電解液の一部が分解し、負極の表面にSEI膜が形成され、負極が安定化することがある。これに対して、本実施形態のように、ゲル化した非水電解液30が負極50の表面に接触していると、SEI膜の形成が促進されるため、負極50をより好適に安定化できる。
【0029】
なお、ここに開示される技術は、CTAB以外の界面活性剤を非水電解液に添加することを制限するものではない。すなわち、ここに開示される技術の効果を阻害しない(典型的には注液時のキャビテーションが生じない)限りにおいて、非水電解液は、CTAB以外のカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤を含んでいてもよい。注液時のキャビテーションが生じない程度に、これらの界面活性剤を微量添加することによって、電極体内への非水電解液の浸透性をより改善し得る。なお、CTAB以外の界面活性剤については、従来公知の界面活性剤を特に制限なく使用することができるため詳しい説明を省略する。
【0030】
2.リチウムイオン二次電池の製造
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100を製造する方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、組立体作製工程と、注液工程と、密閉工程とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0031】
(1)組立体作製工程
本実施形態に係る製造方法では、まず、電池ケース10に電極体20が収容された電池組立体を作製する。具体的には、本工程においては、最初に、電極体20の正極接続部20bと蓋体14の正極端子72とを接続すると共に、負極接続部20cと負極端子74を接続する。これによって、電極体20と蓋体14とが一体化される。なお、正極端子72と正極接続部20b(負極端子74と負極接続部20c)との接続には、超音波溶接等の従来公知の溶接手段を使用できる。そして、ケース本体12の内部空洞に電極体20を収容すると共に、ケース本体12の上面開口を蓋体14で塞いだ後に、ケース本体12と蓋体14とを溶接する。これによって、非水電解液30を除く材料が電池ケース10内に収容された電池組立体が作製される。なお、本工程では、従来公知の手法を特に制限なく使用でき、上述した手順に限定されない。
【0032】
(2)注液工程
次に、本実施形態では、CTABが溶解した非水電解液30を電池ケース10内に注液する。このとき、CTABは、非水電解液30に溶解しにくいため、注液前に非水電解液30に十分に溶解させる溶解処理を行うことが求められる。かかるCTABの溶解には、従来公知の攪拌装置を使用し、非水電解液30の温度を適宜調整しながら撹拌・混合することが好ましい。
【0033】
そして、非水電解液30を電池ケース10に注液する際には、まず、電池ケース10(蓋体14)の注液口16に注液装置を取り付け、電池ケース10内部を吸引して減圧する減圧処理を行う。
【0034】
次に、本工程では、注液口16に取り付けた注液装置から電池ケース10内に非水電解液30を注液した後、所定の時間保持する。これによって、減圧された電極体20の内部(すなわち、正極40と負極50との極間)に非水電解液30が浸透する。このとき、本実施形態では、CTABによって電極体20内への非水電解液30の浸透性が向上しているため、電極体20内に十分な量の非水電解液30が浸透し、電極体20内部の負圧が適切に解消される。また、本実施形態に係る製造方法では、5wt%未満のCTABが溶解した非水電解液30を使用しているため、注液時のキャビテーションによる非水電解液30の溢出を好適に防止できる。
【0035】
また、キャビテーションによる非水電解液30の溢出をより好適に防止するという観点から、本工程では、注液予定の非水電解液の全量を一度に注液するよりも、注液予定の非水電解液を複数回に分けて注液した方が好ましい。また、このような分割注液を行う場合、主に、最初に注液した非水電解液が電極体20の内部に浸透する。このため、最初に注液する非水電解液のみにCTABを溶解させると好ましい。この場合、注液後の液面が高くなりやすい2回目以降の注液において、非水電解液に界面活性剤を添加する必要がなくなるため、より好適にキャビテーションを抑制できる。なお、このような手順で作製されたリチウムイオン二次電池100では、電極体20内に浸透した非水電解液30の方が、電極体20と電池ケース10との間に存在する余剰電解液32よりもCTABの濃度が高くなる。
【0036】
(3)密閉工程
本工程では、注液口16を封止して電池ケース10を密閉する。これによって、電極体20と非水電解液30とが電池ケース10内に収容されたリチウムイオン二次電池100(
図1参照)が構築される。このとき、本実施形態に係る製造方法では、上記注液工程において、電極体20の内部に非水電解液30が十分に浸透し、電極体20内の負圧が解消されているため、電池ケース10密閉後に電極体20内に非水電解液30が浸透して、電池ケース10の内部空間が負圧になることを抑制できる。これによって、充放電に伴って正極40や負極50が膨張した際に、電極体20を外側(電池ケース10側)に向かって膨張させることができる。この結果、正極40と負極50との極間が潰れて非水電解液30が電極体20の外部へ流出することを防止し、非水電解液30の不足によるハイレート特性の低下を抑制できる。
【0037】
3.他の実施形態
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。なお、上述の実施形態は、ここに開示される技術が適用される一例を示したものであり、ここに開示される技術を限定するものではない。
【0038】
例えば、上述の実施形態では、電極体として捲回電極体を使用している。しかし、電極体は、セパレータを介して正極と負極とが重ねられたものであればよく、捲回電極体に限定されない。かかる電極体の他の例として、セパレータを介在させながら、複数枚の正極と負極とを順次積層させた積層電極体が挙げられる。但し、捲回電極体と積層電極体とを比較すると、捲回電極体の方が非水電解液を浸透させにくいため、ここに開示される技術の効果を好適に発揮させることができる。
【0039】
また、上述の実施形態では、非水電解液二次電池としてリチウムイオン二次電池を用いているが、ここに開示される技術は、リチウムイオン二次電池に限定されず、他の非水電解液二次電池(例えばニッケル水素電池など)に適用することもできる。
【0040】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明する。なお、以下に記載する試験例の内容は、本発明を限定することを意図したものではない。
【0041】
1.各サンプルの作製
本試験例では、非水電解液の組成が異なる6種類のリチウムイオン二次電池(サンプル1~6)を準備した。以下、各々のサンプルについて説明する。
【0042】
(1)サンプル1
本サンプルの作製では、まず、正極集電体(アルミニウム箔)の両面に正極活物質層が付与されたシート状の正極を準備した。この正極の正極活物質層には、正極活物質と、導電材と、バインダとが含まれている。なお、正極活物質にはリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2)を使用し、導電材にはアセチレンブラック(AB)を使用し、バインダにはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を使用した。一方、本試験例で用いた負極は、負極集電体(銅箔)の両面に負極活物質層が付与されたシート状の負極である。なお、負極活物質層には、負極活物質(グラファイト)と、バインダ(SBR:スチレンーブタジエン共重合体)と、増粘剤(CMC:カルボキシメチルセルロース)とが含まれている。
【0043】
次に、セパレータを介して正極と負極とを積層させた積層体を形成し、当該積層体を捲回することによって捲回電極体を作製した。この捲回電極体をガラス製の透明ケースの内部に収容することによって電池組立体を構築した。この電池組立体のケース内を減圧した後に、ケース内部の底面から55mmの高さまで液面が到達するように41gの非水電解液を注液した。そして、注液口を開放した状態で保持した後に、注液口を封止してケースを密閉することによって、評価試験用のリチウムイオン二次電池(サンプル1)を構築した。なお、非水電解液には、ECとDMCとEMCとを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に支持塩(LiPF6)を約1mol/Lの濃度で含有させたものを使用した。
【0044】
ここで、サンプル1では、上述した組成の非水電解液に、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)を溶解させた。なお、サンプル1におけるCTABの添加量は、非水電解液の総量100wt%に対して0.3wt%に設定した。
【0045】
(2)サンプル2
サンプル2では、非水電解液の総量100wt%に対するCTABの添加量を0.1wt%に変更した点を除いて、サンプル1と同じ条件で試験用リチウムイオン二次電池を構築した。
【0046】
(3)サンプル3
サンプル3では、非水電解液の総量100wt%に対するCTABの添加量を1wt%に変更した点を除いて、サンプル1と同じ条件で試験用リチウムイオン二次電池を構築した。
【0047】
(4)サンプル4
サンプル4では、非水電解液の総量100wt%に対するCTABの添加量を5wt%に変更した点を除いて、サンプル1と同じ条件で試験用リチウムイオン二次電池を構築した。
【0048】
(5)サンプル5
サンプル5では、電池組立体を構築する際に捲回電極体と共にCTABをケース内に収容した後に、CTABを含まない非水電解液をケース内に注液した。このときのCTABの収容量は、非水電解液の総量100wt%に対して0.3wt%に設定した。なお、上述のように、電池ケース内でCTABと非水電解液とを混合した点を除いて、サンプル1と同じ条件で試験用リチウムイオン二次電池を構築した。
【0049】
(6)サンプル6
サンプル6では、CTABを含まない非水電解液を使用した点を除いて、サンプル1と同じ条件で試験用リチウムイオン二次電池を構築した。
【0050】
2.非水電解液の浸透性評価
本試験例では、上述した各サンプルにおける非水電解液の浸透性を評価した。具体的には、上述したように、55mmの高さまで非水電解液を注液した後に、当該非水電解液の液面が低下しなくなるまで目視で試験用電池を観察し続けた。各サンプルにおける時間経過に伴う液面高さの推移を
図3に示すと共に、注液後1000秒後における液面高さを表1に示す。
【0051】
【0052】
図3に示すように、サンプル6では、注液から400秒を経過したあたりから液面高さが低下する(すなわち、電極体内に非水電解液が浸透する)速度が大きく低下し、800秒を経過したあたりから電極体内部への非水電解液の浸透速度が更に低下した。そして、表1に示すように、このサンプル6では、注液から1000秒後の液面高さが31.8mmになった。この結果から、サンプル6では、電池ケースを密閉した後も電極体内へ非水電解液が緩やかに浸透し続け、電池ケースの内部空間が負圧になると予想される。
【0053】
一方、サンプル1~3では、注液から400秒を経過した後も電極体内部に非水電解液が浸透し続け、注液から1000秒後の液面高さがサンプル6と比較して顕著に低くなった。このことから、非水電解液にCTABを溶解させることによって、電極体の構成材料に対して非水電解液を馴染みやすくし、電極体内部への非水電解液の浸透性を改善できることが分かった。なお、サンプル4では、注液中にキャビテーションが発生し、注液口から非水電解液から溢れ出したため、浸透性の評価を行うことができなかった。このことから、非水電解液へのCTABの添加量は5wt%未満にする必要があることが分かった。
【0054】
また、サンプル5では、サンプル1と同量のCTABを添加しているにも関わらず、サンプル6と同様に、時間経過に伴って電極体内部に殆ど非水電解液が浸透しなくなり、1000秒後の液面高さが31.8mmになった。そして、3600秒後にケース内を確認しても、非水電解液に溶解しなかったCTABが存在していた。このことから、非水電解液にCTABを添加する際には、注液前の非水電解液にCTABを溶解させる必要があることが分かった。
【0055】
以上、本発明を詳細に説明したが、上述の説明は例示にすぎない。すなわち、ここで開示される技術には上述した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10 電池ケース
12 ケース本体
14 蓋体
16 注液口
18 安全弁
20 捲回電極体
20a コア部
20b 正極接続部
20c 負極接続部
30 非水電解液
32 余剰電解液
40 正極
42 正極集電箔
44 正極活物質層
46 正極露出部
50 負極
52 負極集電箔
54 負極活物質層
56 負極露出部
60 セパレータ
70 電極端子
72 正極端子
74 負極端子
100 リチウムイオン二次電池