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<図1>
  • 特許-ICタグ及び複合型ICカード 図1
  • 特許-ICタグ及び複合型ICカード 図2
  • 特許-ICタグ及び複合型ICカード 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ICタグ及び複合型ICカード
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/07 20060101AFI20230928BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20230928BHJP
   H01Q 7/00 20060101ALI20230928BHJP
   H01Q 9/42 20060101ALI20230928BHJP
   H01Q 21/28 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G06K19/07 240
G06K19/077 272
G06K19/077 280
G06K19/077 296
H01Q7/00
H01Q9/42
H01Q21/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019136566
(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2020027646
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2018150300
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594155528
【氏名又は名称】NES株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 勝海
【審査官】打出 義尚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/035771(WO,A1)
【文献】特開2004-240899(JP,A)
【文献】特開2009-043167(JP,A)
【文献】特開2015-087948(JP,A)
【文献】特開2012-108843(JP,A)
【文献】特開2008-263354(JP,A)
【文献】特開2004-295297(JP,A)
【文献】国際公開第2007/000807(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/07
G06K 19/077
H01Q 7/00
H01Q 9/42
H01Q 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループ状に形成されたコイルを通じて電磁誘導方式のHF帯通信を行うNFCカードの片方の面に重ねて使用されるICタグであって、
誘電体材料で成る基材と、前記基材の表面側に形成された導体層と、前記基材に搭載された給電装置とを有し、
前記導体層は、地板部と、前記地板部の一端縁に延設された縦アンテナ部と、前記縦アンテナ部の先端部に延設され、前記縦アンテナ部に対して直角方向に伸びる横アンテナ部とを有し、前記地板部の、前記縦アンテナ部が延設された端縁は、前記横アンテナ部と平行に、前記横アンテナ部の先端近傍又は先端を超える位置まで伸び、前記横アンテナ部に対して一定の距離を空けて対向し、
前記給電装置は、前記地板部を基準に、前記横アンテナ部の長さ方向の途中位置に向けて給電するように設けられており、
前記基材が前記NFCカードの片方の面に重ねられ、前記縦アンテナ部及び前記横アンテナ部が前記コイルの外側の非コイル領域に配置された状態で、縦アンテナ部及び前記横アンテナ部を通じて電波方式のUHF帯通信が可能になることを特徴とするICタグ。
【請求項2】
前記基材が前記NFCカードの片方の面に重ねられ、前記導体層の前記地板部が前記コイルに静電結合することによって、前記地板部と前記コイルとで成る地板が形成される請求項1記載のICタグ。
【請求項3】
前記地板部は、非導体領域を囲むように環状に形成され、その環状の特定部分がスリットによって切断されている請求項1又は2記載のICタグ。
【請求項4】
前記給電装置は、前記横アンテナ部の長さ方向の途中位置に直接接続されて給電を行う請求項1乃至3のいずれか記載のICタグ。
【請求項5】
前記給電装置は、前記横アンテナ部の長さ方向の途中位置に、電波方式の補助アンテナを通じて非接触で給電を行う請求項1乃至3のいずれか記載のICタグ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載のICタグと前記NFCカードとで構成され、
前記ICタグ及び前記NFCカードは、前記ICタグの前記基材の裏面側が前記NFCカードの片方の面に重なるように相互に位置決めされ、
前記縦アンテナ部及び前記横アンテナ部が前記コイルの外側の非コイル領域に配置され、前記縦アンテナ部及び前記横アンテナ部を通じて電波方式のUHF帯通信を行い、前記コイルを通じて電磁誘導方式のHF帯通信を行うことを特徴とする複合型ICカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
UHF帯通信用のICタグと、UHF帯通信及びHF帯通信が可能な複合型ICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、UHF帯での通信機能を有した第1の集積回路と、第1の集積回路から給電される第1の導電性物体と、HF帯での通信機能を有した第2の集積回路と、第2の集積回路から給電される第2の導電性物体とを備えた無線通信装置があった。この無線通信装置は、第2の導電性物体が第1の集積回路又は第1の導電性物体に接続され、第1の導電性物体で成るアンテナのグランドとして利用されているという特徴がある。例えば、特許文献1の図33に記載された無線通信装置は、第2の導電性物体(渦巻状導電性物体2)が、容量性結合手段(導電性物体19)を介して第1の集積回路(集積回路4)に接続され、第2の導電性物体(渦巻状導電性物体2)が第1の導電性物体(L字状導電性物体3)で成るアンテナのグランドとして利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-16062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の無線通信装置(図33)のような構成は、例えば、HF帯通信用のコイルを内蔵した市販のNFCカードに、UHF帯通信用のアンテナを内蔵したICタグを貼り付けることによって製作することができる。しかし、市販のNFCカードは、コイルのレイアウト(大きさ、形状、配置等)がメーカ毎又は製品毎に異なるので、UHF帯において一定の通信特性を実現するためには、メーカ毎又は製品毎にアンテナ形状を大幅に変更しなければならず、良好な通信特性を有したICタグを効率よく設計することは難しいものであった。
【0005】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、HF帯通信用のコイルのレイアウトが多少異なっても、組合せることにより良好なUHF帯通信が可能な導体層を備えたICタグ及び複合型ICカードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ループ状に形成されたコイルを通じて電磁誘導方式のHF帯通信を行うNFCカードの片方の面に重ねて使用されるICタグであって、誘電体材料で成る基材と、前記基材の表面側に形成された導体層と、前記基材に搭載された給電装置とを有し、前記導体層は、地板部と、前記地板部の一端縁に延設された縦アンテナ部と、前記縦アンテナ部の先端部に延設され、前記縦アンテナ部に対して直角方向に伸びる横アンテナ部とを有し、前記地板部の、前記縦アンテナ部が延設された端縁は、前記横アンテナ部と平行に、前記横アンテナ部の先端近傍又は先端を超える位置まで伸び、前記横アンテナ部に対して一定の距離を空けて対向し、前記給電装置は、前記地板部を基準に、前記横アンテナ部の長さ方向の途中位置に向けて給電するように設けられており、前記基材が前記NFCカードの片方の面に重ねられ、前記縦アンテナ部及び前記横アンテナ部が前記コイルの外側の非コイル領域に配置された状態で、縦アンテナ部及び前記横アンテナ部を通じて電波方式のUHF帯通信が可能になるICタグである。
【0007】
前記基材が前記NFCカードの片方の面に重ねられ、前記導体層の前記地板部が前記コイルに静電結合することによって、前記地板部と前記コイルとで成る地板が形成される構成にすることができる。また、前記地板部は、非導体領域を囲むように環状に形成され、その環状の特定部分がスリットによって切断されている構成にしてもよい。また、前記給電装置は、前記横アンテナ部の長さ方向の途中位置に直接接続されて給電を行う構成にすることができる。あるいは、前記給電装置は、前記横アンテナ部の長さ方向の途中位置に、電波方式の補助アンテナを通じて非接触で給電を行う構成にしてもよい。
【0008】
また、本発明は、上記のICタグと前記NFCカードとで構成され、前記ICタグ及び前記NFCカードは、前記ICタグの前記基材の裏面側が前記NFCカードの片方の面に重なるように相互に位置決めされ、前記縦アンテナ部及び前記横アンテナ部が前記コイルの外側の非コイル領域に配置され、前記縦アンテナ部及び前記横アンテナ部を通じて電波方式のUHF帯通信を行い、前記コイルを通じて電磁誘導方式のHF帯通信を行う複合型ICカードである。
【0009】
その他、カード状に形成された外装材の内部に、誘電体層を介して互いに積層された導体層とループ状のコイルとが設けられ、前記導体層は、地板部と、前記地板部の一端縁に延設された縦アンテナ部と、前記縦アンテナ部の先端部に延設され、前記縦アンテナ部に対して直角方向に伸びる横アンテナ部とを有し、前記地板部の、前記縦アンテナ部が延設された端縁は、前記横アンテナ部と平行に、前記横アンテナ部の先端近傍又は先端を超える位置まで伸びて、前記横アンテナ部に対して一定の距離を空けて対向し、前記縦アンテナ部及び前記横アンテナ部が前記コイルの外側の非コイル領域に配置され、前記縦アンテナ部及び前記横アンテナ部を通じて電波方式のUHF帯通信を行い、前記コイルを通じて電磁誘導方式のHF帯通信を行う構成の複合型ICカードもある
【発明の効果】
【0010】
本発明のICタグは、例えば、市販のNFCカードに取り付けることによって、HF帯通信及びUHF帯通信が可能な複合型ICカードを容易に製作することができる。また、製作された複合型ICカードでは、HF帯通信とUHF帯通信との干渉が発生しにくい。
【0011】
いわゆる逆F形や逆L形と呼ばれるアンテナは、UHF帯において一定の通信特性を実現するため、横アンテナ部と地板との離間距離がばらつかないことが重要になる。これは、特許文献1の無線通信装置(図33)においても同様である。本発明の複合型ICカードによれば、横アンテナ部と地板の離間距離は、横アンテナと地板部との離間距離によって正確に決定される。したがって、複合型ICカードを製作する時、横アンテナ部とコイルとの位置関係が多少ばらついたとしても、良好なUHF帯の通信特性が得られる。また、コイルのレイアウト(大きさ、形状、配置等)が多少変更される場合でも、導体層の設計変更を最小限に抑えることができ、条件が合えば、導体層の設計変更自体が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の複合型ICカードの第一の実施形態の外観を示す斜視図(a)、内部構造を示す縦断面図(b)である。
図2図1のNFCカードの内部構造を示す図であって、外装材を透視した時の平面図である。
図3図1のICタグの外観を示す平面図(a)、分解斜視図(b)である。
図4】第一の実施形態の複合型ICカードの内部構造を示す図であって、カードホルダ、ICタグの基材、及びNFCカードの外装材を透視した時の平面図(a)、(b)である。
図5】本発明の複合型ICカードの第二の実施形態の外観を示す斜視図(a)、内部構造を示す縦断面図(b)である。
図6図5のNFCカードの内部構造を示す図であって、外装材を透視した時の平面図(a)、図5のICタグの外観を示す平面図(b)である。
図7】第二の実施形態の複合型ICカードの内部構造を示す図であって、ICタグの基材及びNFCカードの外装材を透視した時の平面図である。
図8】本発明の複合型ICカードの第三の実施形態の外観を示す斜視図(a)、内部構造を示す縦断面図(b)である。
図9図8のNFCカードの内部構造を示す図であって、外装材を透視した時の平面図(a)、図8のICタグの外観を示す平面図(b)である。
図10】第三の実施形態の複合型ICカードの内部構造を示す図であって、ICタグの基材及びNFCカードの外装材を透視した時の平面図である。
図11複合型ICカードの一形態の外観を示す斜視図(a)と、内部構造を示す縦断面図(b)である。
図12図11複合型ICカードの内部構造を示す図であって、外装材及び誘電体層を透視した時の平面図である。
図13】変形例の給電装置を備えたICタグを示す平面図及び分解斜視図(a)、給電装置の内部構成の例を示す図(b)、(c)である。
図14】発明者が行った実験の内容(試作した複合型ICカード、通信特性の測定方法)を示す図である。
図15】発明者が行った実験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の複合型ICカードの第一の実施形態について、図1図4に基づいて説明する。この実施形態の複合型ICカード10は、UHF帯通信とHF帯通信とを行うことができるカードであり、図1に示すように、NFCカード12(Near Field Communication Card 12)と、本発明のICタグの一実施形態であるICタグ14と、NFCカード12及びICタグ14を相互に位置決めするためのカードホルダ16とで構成されている。
【0014】
カードホルダ16は、誘電体材料で成る透明又は半透明のシートを2枚重ねて袋状に形成され、上端部に首掛け用ストラップ16aが取り付けられている。そして、裏面側に、NFCカード12を差し入れるためのカード収容口16bが設けられている。
【0015】
NFCカード12は、例えば乗車カードや個人認証カードとして広く普及している略長方形の非接触ICカードである。外形寸法は、長手方向の寸法が約85mm、短手方向の寸法が約54mmであり、誘電体材料で成る外装材18の内部に、HF帯通信モジュール20が内蔵されている。HF帯通信モジュール20は、図2に示すように、ループ状に形成されたコイル22と、コイル22に接続されたICチップやインピーダンス整合回路等で成る通信回路24とで構成され、コイル22を通じて電磁誘導方式のHF帯通信を行う(例えば13.56MHzの通信)。コイル22は、外装材18の周縁部に沿って周回するようレイアウトされ、通信回路24は、コイル22の内側に配置されている。
【0016】
ICタグ14は、全体の外形が略長方形で、長手方向の寸法はNFCカード12より少し短く、短手方向の寸法はNFCカード12の約1/3である。ICタグ14は、図3(a)、(b)に示すように、本体である基材26と、基材26の表面側に形成された導体層28と、基材26の表面側に搭載された給電装置30とで構成されている。
【0017】
基材26は、ポリエステルフィルム等の誘電体材料で成るシート状の部材であり、例えば、NFCカード12の表示やデザインが見えるように、透明又は半透明な素材を使用することが好ましい。
【0018】
導体層28は、略長方形の地板部32と、地板部32の一端縁に延設された縦アンテナ部34と、縦アンテナ部34の先端部に延設され、縦アンテナ部34に対して直角方向に伸びる横アンテナ部36とを有している。地板部32の、縦アンテナ部34が延設された端縁32aは、横アンテナ部36と平行に横アンテナ部36の先端を超える位置まで伸び、横アンテナ部36に対して一定の距離を空けて対向している。縦アンテナ部34と横アンテナ部36の合計長さは、UHF帯通信の電波の約1/4波長に設定されている。
【0019】
給電装置30は、ポリエステルフィルム等の誘電体材料で成るシート状の補助基材30aと、補助基材30aの表面側に形成された電波方式の補助アンテナ30bと、補助基材30aの表面側に搭載されたUHF帯通信用(例えば920MHzの通信用)のICチップ30cとで構成されている。給電装置30は、補助基材30aの裏面側が導体層28の表面側の所定の場所に貼り付けられ、地板部32を基準に、横アンテナ部36の長さ方向の途中位置に向けて非接触で給電を行う。
【0020】
その他、図示していないが、導体層28及び給電装置30は、保護シートで被覆することが好ましい。また、ICタグ14は、基材26の裏面側をカードホルダ16に貼り付けた状態で使用されるので、貼り付け作業を容易にするため、基材26の裏面に粘着剤層を設けてもよい。
【0021】
複合型ICカード10は、NFCカード12をカードホルダ16内に収容し、カードホルダ16の表面側にICタグ14を貼り付けることによって組み立てられる。そして、組み立て状態で、図4(a)、(b)に示すように、縦アンテナ部34及び横アンテナ部36がコイル22の外側の非コイル領域に配置される。この時、地板部32は、コイル22の内側の非コイル領域に入らないように配置することが好ましい。
【0022】
図4(a)は、地板部32の一部がコイル22の一部に重なるように配置することを想定した設計例であり、地板部32とコイル22とが相対的に強く静電結合し、地板部32とコイル22とで成る大きい地板が形成され、安定に接地電位が設定される。そして、この大きい地板を利用して、縦アンテナ部34及び横アンテナ部36を通じて電波方式のUHF帯通信が行われる。
【0023】
図4(b)は、地板部32がコイル22に重ならないように配置することを想定した設計例であり、地板部32とコイル22との静電結合が相対的に弱く、等価的に小さい地板が形成される。そして、この小さい地板を利用して、縦アンテナ部34及び横アンテナ部36を通じて電波方式のUHF帯通信が行われる。
【0024】
また、図4(a)、(b)のどちらの場合も、NFCカード12のコイル22を通じてHF帯通信が行われる。ICタグ14の有無は、このHF帯通信にほとんど影響しない。
【0025】
ICタグ14は、上記のように複合型ICカード10として組み立てられた状態で、良好にUHF帯通信が可能になる。つまり、導体層28のレイアウト等は、あらかじめ図4(a)、(b)に示すような組み立て状態を想定して、組み立て状態で狙いの通信特性が得られるように設計される。
【0026】
縦アンテナ部34及び横アンテナ部36により構成されたアンテナを通じて行うUHF帯通信は、横アンテナ部36と地板との離間距離Gが変動すると、実質的にアンテナ長や整合条件が変更されることになり、通信特性が大きく変化してしまう。しかし、複合型ICカード10の場合、この離間距離Gが、図4に示すように、横アンテナ部36と地板部32の端縁32bとの離間距離gによって固定されている。従って、例えば、組み立て時の作業ばらつきが原因でコイル22と横アンテナ部36との位置関係が多少変動したとしても、離間距離Gは、一定の値gに保持され、ほぼ狙い通りのUHF帯通信特性が得られる。また、地板部32の面積が比較的大きい(例えば、特許文献1の図33の導電性物体19より大きく取ることが可能である)ので、静電結合の強さのばらつきが相対的に小さくなり、製品毎の通信特性の差も抑えられる。
【0027】
以上説明したように、ICタグ14及び複合型ICカード10によれば、市販のNFCカード12に、UHF帯通信用の導体層28(地板部32、縦アンテナ部34及び横アンテナ部36)を内蔵したICタグ14を取り付けることによって、複合型ICカード10を容易に製作することができる。
【0028】
UHF帯通信の特性に大きく影響する横アンテナ部36と地板との離間距離Gは、横アンテナ36と地板部32との離間距離gによって正確に決定される。したがって、複合型ICカード10に組み立てる時、ICタグ14内の横アンテナ部36とNFCカード12内のコイル22との位置決めが多少ばらついたとしても、良好なUHF帯通信特性が得られる。
【0029】
また、市販されているNFCカード12は、メーカ毎又は製品毎にコイル22のレイアウトが大きく異なっており、例えば、コイル22の長辺の長さが横アンテナ部36より短い場合がある。しかし、複合型ICカード10は、地板部32の端縁32aが横アンテナ部36の先端を超える位置まで伸びているので、実質的に大面積の地板を設けた場合と同様の機能を発揮し、ほぼ狙いのUHF帯通信特性を得ることができる。したがって、コイル22のレイアウト(大きさ、形状、配置等)が異なっても、ICタグ14の導体層28の設計変更を最小限に抑えることができ、条件が合えば、導体層28の設計変更自体が不要になる。
【0030】
次に、本発明の複合型ICカードの第二の実施形態について、図5図7に基づいて説明する。ここで、上記実施形態と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態の複合型ICカード38は、UHF帯通信とHF帯通信とを行うことができるカードであり、図5に示すように、NFCカード40とICタグ14とで構成されている。ICタグ14は上記と同様のものである。
【0031】
NFCカード40は、図6(a)に示すように、HF帯通信用のコイルとしてコイル42が設けられ、コイル42は、大きさと配置がNFCカード12のコイル22と異なっている。外装材18の外形やコイル42以外の内部構造は、上記のNFCカード12と同様である。
【0032】
上記実施形態のNFCカード12のコイル22は、図2に示すように、外装材18の周縁部に沿って大きく周回するレイアウトになっている。これに対して、NFCカード40のコイル42は、コイル22の短手方向の寸法を約2/3に短縮したような形状であり、外装材18の下側の約2/3の領域に偏って配置されている。そのため、外装材18の上側の約1/3の領域が、コイル42の外側の非コイル領域になっている。
【0033】
複合型ICカード38は、NFCカード40の外装材18の表面側の、上側の約1/3の領域にICタグ14を貼り付けることによって組み立てられる。そして、組み立て状態で、図7に示すように、縦アンテナ部34及び横アンテナ部36がコイル42の外側の非コイル領域に配置される。
【0034】
図7は、地板部32の一部をコイル42の一部に重なるように配置することを想定した設計例であり、地板部32とコイル42とが相対的に強く静電結合し、地板部32とコイル42とで成る地板が形成される。そして、この地板を利用して、縦アンテナ部34及び横アンテナ部36を通じて、電波方式のUHF帯通信が行われる。さらに、NFCカード40のコイル42を通じてHF帯通信が行われる。
【0035】
複合型ICカード38によれば、上記の複合型ICカード10と同様の作用効果が得られる。さらに、複合型ICカード38の場合、NFCカード40の上側の約1/3の領域がコイル42の外側の非コイル領域になっているので、ICタグ14をNFCカード40の表面側に直接貼り付けることによって、ICタグ14を適切な場所に簡単に位置決めすることができ、カードホルダ16のような特別な部材を用意する必要がないという利点がある。
【0036】
次に、本発明の複合型ICカードの第三の実施形態について、図8図10に基づいて説明する。ここで、上記実施形態と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態の複合型ICカード44は、UHF帯通信とHF帯通信とを行うことができるカードであり、図8に示すように、NFCカード46とICタグ48とで構成されている。ICタグ48は、本発明のICタグの他の実施形態である。
【0037】
NFCカード46は、図9(a)に示すように、HF帯通信用のコイルとしてコイル50が設けられ、コイル50は、大きさと配置がNFCカード12,40のコイル22,42と異なっている。外装材18の外形やコイル50以外の内部構造は、上記のNFCカード12,40と同様である。
【0038】
NFCカード46のコイル50は、図2に示すコイル22の縦横の寸法を各々約1/2に短縮したような形状で、外装材18の中央部の少し下側に配置されている。したがって、外装材18の上側の約1/3の領域と、左右及び下側の周縁部が、コイル50の外側の非コイル領域になっている。
【0039】
ICタグ48は、全体の外形がNFCカード12とほぼ相似形で、NFCカード12よりも少し小さい。ICタグ48は、図9(b)に示すように、本体である基材52と、基材52の表面側に形成された導体層54と、基材52の表面側に搭載された給電装置30とで構成されている。給電装置30は上記と同様のものであり、基材52は、上記の基材26の外形を大きくしたものである。
【0040】
導体層54は、地板部56と、地板部56の一端縁に延設された縦アンテナ部34と、縦アンテナ部34の先端部に延設され、縦アンテナ部34に対して直角方向に伸びる横アンテナ部36とを有している。縦アンテナ部34及び横アンテナ部36は、上記と同じレイアウトである。
【0041】
地板部56は、非導体領域58を囲むように環状に形成され、その環状の特定部分がスリット60によって切断されている。非導体領域58は、コイル50が収まる大きさである。また、地板部56の、縦アンテナ部34が延設された端縁56aは、横アンテナ部36と平行に、横アンテナ部36の先端を超える位置まで伸び、横アンテナ部36に対して一定の距離を空けて対向している。
【0042】
複合型ICカード44は、NFCカード46の外装材18の表面側にICタグ48を貼り付けることによって組み立てられる。そして、組み立て状態で、図10に示すように、縦アンテナ部34及び横アンテナ部36がコイル50の外側の非コイル領域に配置される。
【0043】
図10は、地板部56がコイル50と重ならないように配置することを想定した設計例であり、地板部56とコイル50との静電結合が相対的に弱く、ほぼ地板部56だけで地板が形成される。そして、この地板を利用して、縦アンテナ部34及び横アンテナ部36を通じて、電波方式のUHF帯通信が行われる。さらに、NFCカード46のコイル50を通じてHF帯通信が行われる。
【0044】
なお、地板部56のスリット60の部分は、HF帯においてインピーダンスが十分大きく、UHF帯においてインピーダンスが十分小さくなるように設計されている。もし、地板部56が環状に閉じていると(スリット60が無いと)、地板部56に渦電流が流れてHF帯通信の磁束を弱めてしまう可能性があるが、スリット60を設けることによって、HF帯通信に与える影響を小さく抑えることができる。
【0045】
ICタグ48及び複合型ICカード44によれば、上記のICタグ14及び複合型ICカード10,38と同様の作用効果が得られる。なお、発明者が実験を行ったところ、地板部56を形成する導電材料の抵抗率を少し高いものに変更することにより、地板部56が環状に閉じた状態でも、上記と同等の性能が得られることが分かった。
【0046】
次に、複合型ICカードの一形態について、図11図12に基づいて説明する。ここで、上記実施形態と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態の複合型ICカード62は、第二の実施形態の複合型ICカード38とほぼ同様の性能を有したカードであり、図11に示すように、NFCカード40と同じ外形の外装材18を有し、外装材18の中にすべての部材が内蔵されている。
【0047】
複合型ICカード62は、カード状に形成された外装材18の内部に、誘電体層64を介して互いに積層された導体層28とループ状のコイル42とを備えている。導体層28は、ICタグ14の導体層28と同様に、地板部32,縦アンテナ部36及び横アンテナ部36を有し、横アンテナ部36の長さ方向の途中位置に、UHF帯通信用の給電装置30が設けられている。コイル42は、NFCカード40に内蔵されているのと同様のHF帯通信用のコイルである。導体層28とコイル42との位置関係は図12に示す通りであり、複合型ICカード38(図7)とほぼ同様である。
【0048】
複合型ICカード62は、例えば、HF帯通信用のNFCカードを製造する過程で、外装材18の内部にUHF通信用の部材(導体層28、給電装置30)を付設することによって製作することができる。また、製品をバージョンアップする時にコイル42のレイアウト(大きさ、形状、配置等)が多少変更される場合があるが、そのような場合でも、上記と同様の理由で導体層28の設計変更を最小限に抑えることができ、条件が合えば、導体層28の設計変更自体が不要になる。
【0049】
なお、本発明のICタグ及び複合型ICカードは、上記実施形態に限定されるものではない。本発明のICタグの各部の構成は、上記ICタグ14,48の構成に限定されず、ICタグの製造工程や相手方のNFCカードの構造に鑑みて適宜変更することができる。例えば、導体層の地板部の形状(縦アンテナ部が延設された端縁の以外の形状を除く)は、所望の通信特性が得られる範囲で自由に変更することができる。また、給電装置は、地板部を基準に、横アンテナ部の長さ方向の途中位置に向けて給電するものであればよく、上記の給電装置30のように非接触で給電を行う構成以外に、図13(a)に示すように、横アンテナ部36の長さ方向の途中位置に、給電装置66を直接接続し、接触式で給電を行う構成にしてもよい。給電装置66は、例えば図13(b)に示すように、ICチップ66aとインピーダンス整合回路66bとで構成することができる。また、図13(c)に示すように、地板部32、縦アンテナ部34及び横アンテナ部36の各内縁部32n,34n,36nをインピーダンス整合回路として兼用できる時は、ICチップ66aだけで給電装置66を構成してもよい。
【0050】
地板部の、縦アンテナ部が延設された端縁は、横アンテナ部の先端を超える位置まで伸びた構成であれば好ましいが、良好な通信が可能であれば、横アンテナ部の先端位置、又は僅かに短い状態で近傍まで延びたものでも良い。
【0051】
導体層の形成方法は、特に限定されない。例えば、アルミ箔等の金属箔を使用して形成する方法、基材の表面に金属膜を蒸着する方法、基材の表面に導電性インクを印刷する方法等があり、適宜選択することができる。
【0052】
本発明の複合型ICカードを、ICタグ及びNFCカードにより構成する場合、ICタグとNFCカードを相互に位置決めする手段は特に限定されない。第一の実施形態の複合型ICカード10は、ICタグ14をカードホルダ16の表面に貼り付けているが、例えば、ICタグ14の基材26のサイズをホルダ16の収容部に収まるサイズに変更し、ICタグ14もNFCカード12とともにカードホルダ16内に収容する構造にしてもよい。またカードホルダを使用したり、ICタグをNFCカードの外装材に貼り付けたりするのとは異なる方法で位置決めしてもよい。その他、ICタグが設けられた基材は、表裏の何れをNFCカードに重ねても良く、例えば図1のICタグ14を表裏逆にして、図示しない絶縁層を介して、NFCカード12に重ねて位置決めし、使用してもよい。
【実施例1】
【0053】
次に、本発明のICタグ及び複合型ICカードの作用効果を確認するために行った実験について説明する。発明者は、図14に示すように、導体層28及び給電装置30で成る仮想ICタグと、仮想のコイルに対応した地板としての長方形のアルミ箔68を用意し、導体層28の地板部32がアルミ箔68の長辺と平行になるように配置して、模擬的な複合型ICカード10xを製作した。そして、アルミ箔68に対する導体層28の位置を変化させた時のUHF帯の通信特性の変化(アルミ箔68の上側の端縁と地板部32の端縁32aとの離間距離αを1mmずつ変化させた時のUHF帯の通信特性の変化)を観測することにした。
【0054】
なお、複合型ICカード10xの導体層28のレイアウトは、地板部32の一部がアルミ箔68(仮想コイル)の一部に重なるように配置されることを想定した設計、つまり、地板部32とアルミ箔68(仮想コイル)とが強く静電結合し、地板部32とアルミ箔68(仮想コイル)とで成る大きい地板が形成されることを想定した設計になっている。設計時に想定した離間距離αは約2~3mmである。
【0055】
UHF帯の通信特性の測定には、リーダライタ70及びパソコン72を使用した。リーダライタ70が出力する電波は28dBm/920MHzであり、利得6dBiのリーダライタ・アンテナ70aを通じて送出し、複合型ICカード10xからの反射波を受信して受信信号強度RSSIを測定した。また、この測定は、リーダライタ・アンテナ70aから複合型ICタグ10までの距離Lを1mずつ変化させて行った。
【0056】
次に、図15に示す実験結果を説明する。図15は、受信信号強度RSSIを記載したもので、例えば、離間距離αを2mmに設定した時のデータは、距離L=1,2,・・・,14mにおける各測定値が、-48,-53,・・・,-63dBmであったことを示す。受信信号強度RSSIの測定値は、複合型ICカード10xを床からの高さを0~2mの範囲で変化させた時に測定された受信信号強度RSSIの最大値である。
【0057】
図15では、受信信号強度RSSIの測定値が-60dBm以上であれば、複合型ICカード10xからの反射波を安定に読み取りできたと判定し、安定に読み取りできた範囲を太枠で囲んだ。例えば、離間距離αを2mmに設定した時のデータを見ると、距離L=9mまで離れても安定に読み取りできたが、離間距離αを-2mmに設定した時のデータを見ると、距離L=3mまでしか安定に読み取りできなかったことが分かる。したがって、離間距離α=2mmでは良好な通信特性が得られたが、離間距離α=-2mmでは良好な通信特性が得られなかったと言うことができる。
【0058】
離間距離αについて補足すると、離間距離α≧6mmの範囲は、導体層28の地板部32とアルミ箔68(仮想コイル)とが重ならない範囲である。反対に、離間距離α<6mmの範囲は、導体層28の地板部32とアルミ箔68(仮想コイル)とが重なる範囲である。
【0059】
また、離間距離α≧0mmの範囲は、アルミ箔68の上側の端縁が、地板部32の端縁32aより上側にはみ出さず、横アンテナ部32と地板との離間距離Gが、横アンテナ部32と端縁32aとの離間距離gに保持される範囲である。反対に、離間距離α<0mmの範囲は、アルミ箔68の上側の端縁が、地板部32の端縁32aより上側にはみ出し、横アンテナ部32と地板との離間距離Gが、横アンテナ部32と端縁32aとの離間距離gよりも短くなる範囲である。
【0060】
図15の実験結果から分かるように、離間距離α=0~6mmの範囲で良好な通信特性が得られた。従って、離間距離αが約2~3mmに設定した設計であれば問題が無く、地板部32とHF帯通信用のコイルとの組み立て時の位置決めに高い精度が要求されないことが確認された。
【0061】
離間距離α≧6mmの範囲に入ると、通信特性が急激に劣化している。離間距離αが6mmを越えると導体層28の地板部32とアルミ箔68(仮想コイル)とが重ならず、地板部32とアルミ箔68(仮想コイル)との静電結合が弱くなって、設計時に想定した大きい地板を形成できなくなったため、良好な通信特性が得られなくなったと考えられる。
【0062】
また、離間距離α<0mmの範囲に入ると、通信特性が急激に劣化している。離間距離α<0mmの範囲は、アルミ箔68の上側の端縁が、地板部32の端縁32aより上側にはみ出す範囲であり、横アンテナ部32と地板との離間距離Gが、横アンテナ部32と端縁32aとの離間距離gよりも短くなったため、実質的にアンテナ長や整合条件が変化し、良好な通信特性が得られなくなったと考えられる。
【0063】
一方、離間距離α=0~6mmの範囲は、アルミ箔68の上側の端縁が、地板部32の端縁32aより上側にはみ出さず、横アンテナ部32と地板との離間距離Gが、横アンテナ部32と端縁32aとの離間距離gに保持される。したがって、離間距離αが多少変化しても、良好な通信特性が維持されたと考えられる。
【符号の説明】
【0064】
10,38,44,62 複合型ICカード
12,40,46 NFCカード
14,48 ICタグ
18 外装材
22,42,50 HF帯通信用のコイル
26,52 基材
28,54 導体層
30,66 UHF帯通信用の給電装置
30b 補助アンテナ
32,56 地板部
32a,56a 端縁
34 UHF帯通信用の縦アンテナ部
36 UHF帯通信用の横アンテナ部
58 非導体領域
60 スリット
64 誘電体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15