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特許7356669打刻印評価方法および、打刻装置システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】打刻印評価方法および、打刻装置システム
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/06 20060101AFI20230928BHJP
   B41K 3/36 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G06K19/06 159
B41K3/36 D
G06K19/06 046
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021008546
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2022112665
(43)【公開日】2022-08-03
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504173666
【氏名又は名称】二ノ宮 進一
(73)【特許権者】
【識別番号】592234919
【氏名又は名称】山田マシンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】二ノ宮 進一
(72)【発明者】
【氏名】山田 庸二
【審査官】田中 啓介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-097540(JP,A)
【文献】特開平07-182436(JP,A)
【文献】特開2017-067526(JP,A)
【文献】特開2009-187065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K19/00-19/18
G06K7/00-7/14
G06K1/00-5/04
B41K1/00-99/00
B42D15/02、25/00-25/485
G06V30/14-30/168、30/224
G06V30/40-30/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刻印を備えた打刻装置によって打刻された打刻印の評価方法であって、
打刻印評価システムが、
各刻印の打刻面の打刻対象面に対する打刻時の傾きに基づく情報が、各刻印に対応づけられている真正打刻情報と、
評価対象である打刻印から取得される、打刻時の刻印の打刻面の打刻対象面に対する傾きに基づく情報と、
を比較することによって、
前記評価対象である打刻印が、真正な打刻印であるか否かを評価することを特徴とする打刻印評価方法。
【請求項2】
前記評価対象である打刻印から取得される打刻時の刻印の打刻面の打刻対象面に対する傾きに基づく情報が、打刻印の深さの変化に基づいて取得される情報であることを特徴とする請求項1に記載の打刻印評価方法。
【請求項3】
前記評価対象である打刻印から取得される打刻時の刻印の打刻面の打刻対象面に対する傾きに基づく情報が、打刻印の線幅の変化に基づいて取得される情報であることを特徴とする請求項1に記載の打刻印評価方法。
【請求項4】
刻印を備えた打刻装置によって打刻された打刻印の評価方法であって、
情報処理装置が、
正常時における打刻装置の各刻印の打刻面の打刻対象面に対する打刻時の傾きに基づく情報が、各刻印に対応づけられている正常時打刻情報と、
常時又は随時取得する、打刻装置の各刻印の打刻面の打刻対象面に対する打刻時の傾きに基づく情報と、
を比較し、
両者に所定値以上の差がある場合に、警告情報を出力することを特徴とする打刻印評価方法。
【請求項5】
刻印を打刻するための打刻装置を備える打刻装置システムであって、
打刻時の刻印の打刻面の打刻対象面に対する傾き情報を取得する傾き情報取得部と、
各刻印と、前記傾き情報取得部によって取得される傾き情報と、を対応付けて記憶する記憶部と、
正常時における打刻装置の各刻印の打刻面の打刻対象面に対する打刻時の傾きに基づく情報が各刻印に対応づけられている正常時打刻情報と、常時又は随時取得する前記傾き情報と、を比較し、両者に所定値以上の差がある場合に、通知情報を出力する情報処理装置と、
を備えることを特徴とする打刻装置システム。
【請求項6】
前記各刻印と前記傾き情報の対応付けにおいて、打刻対象の材料に関する情報も対応付けて記憶することを特徴とする請求項5に記載の打刻装置システム。
【請求項7】
前記各刻印と前記傾き情報の対応付けにおいて、打刻時の加工条件も対応付けて記憶することを特徴とする請求項5又は6に記載の打刻装置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打刻印評価方法及び、打刻装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の製品には、製造番号等の何らかの標章が印されているのが一般的であり、標章を印すための手段の一つに、刻印がある。このような刻印を打刻するための刻印装置に関する技術が、特許文献1~4によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-182436号公報
【文献】特開平7-270142号公報
【文献】特開2013-156838号公報
【文献】特開2017-087463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、刻印の検査に関する技術であり、特許文献2は、車台番号の拓本取りに関する技術である。また、特許文献3や4は、刻印の不良率の低減、或いは刻印の品質の向上に関する技術である。
【0005】
本発明は、打刻装置による打刻についての新たな価値を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
刻印を備えた打刻装置によって打刻された打刻印の評価方法であって、各刻印の打刻時の傾きに基づく情報が、各刻印に対応づけられている真正打刻情報と、評価対象である打刻印から取得される、打刻時の刻印の傾きに基づく情報と、を比較することによって、前記評価対象である打刻印が、真正な打刻印であるか否かを評価することを特徴とする打刻印評価方法。
【0007】
(構成2)
前記評価対象である打刻印から取得される打刻時の刻印の傾きに基づく情報が、打刻印の深さの変化に基づいて取得される情報であることを特徴とする構成1に記載の打刻印評価方法。
【0008】
(構成3)
前記評価対象である打刻印から取得される打刻時の刻印の傾きに基づく情報が、打刻印の線幅の変化に基づいて取得される情報であることを特徴とする構成1に記載の打刻印評価方法。
【0009】
(構成4)
刻印を備えた打刻装置によって打刻された打刻印の評価方法であって、正常時における打刻装置の各刻印の打刻時の傾きに基づく情報が、各刻印に対応づけられている正常時打刻情報と、常時又は随時取得する、打刻装置の各刻印の打刻時の傾きに基づく情報と、を比較し、両者に所定値以上の差がある場合に、保守点検を行うことを特徴とする打刻印評価方法。
【0010】
(構成5)
前記正常時打刻情報に、打刻対象の材料に関する情報も対応付けられており、前記材料に関する情報も利用して、前記比較を行うことを特徴とする構成4に記載の打刻印評価方法。
【0011】
(構成6)
前記正常時打刻情報に、前記各刻印の打刻時の加工条件に関する情報も対応付けられており、前記加工条件に関する情報も利用して、前記比較を行うことを特徴とする構成4又は5に記載の打刻印評価方法。
【0012】
(構成7)
刻印を打刻するための打刻装置であって、打刻時の刻印の傾き情報を取得する傾き情報取得部と、各刻印と、前記傾き情報取得部によって取得される傾き情報と、を対応付けて記憶する記憶部と、を備えることを特徴とする打刻装置システム。
【0013】
(構成8)
前記各刻印と前記傾き情報の対応付けにおいて、打刻対象の材料に関する情報も対応付けて記憶することを特徴とする構成7に記載の打刻装置システム。
【0014】
(構成9)
前記各刻印と前記傾き情報の対応付けにおいて、打刻時の加工条件も対応付けて記憶することを特徴とする構成8に記載の打刻装置システム。
【0015】
(構成10)
正常時における打刻装置の各刻印の打刻時の傾きに基づく情報が、各刻印に対応づけられている正常時打刻情報と、常時又は随時取得する、前記傾き情報と、を比較し、両者に所定値以上の差がある場合に、通知情報を出力することを特徴とする構成7から9の何れかに記載の打刻装置システム。
【発明の効果】
【0016】
本発明の打刻印評価方法によれば、特定の打刻装置によって打刻された印であるか否か(例えば真正な装置で刻印されたものであるか否か)を評価することができるという、打刻装置による打刻における新たな価値の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る実施形態1の打刻装置の概略構成図
図2】実施形態1の打刻装置の処理動作の概略を示すフローチャート
図3】実施形態1の打刻印評価システムの概略構成図
図4】実施形態1の打刻印評価システムの処理動作の概略を示すフローチャート
図5】打刻印の深さや線幅を複数点計測した例
図6】実施形態2の打刻装置システムの概略構成図
図7】実施形態2の打刻装置システムの処理動作の概略を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0019】
実施形態の説明の前に、打刻装置による打刻において、同じ文字を刻印したとしても、打刻装置の違いに基づいて、打刻印に違いが生じる(打刻装置の別に応じた特徴量が生じる)という、本願の発明者によって得られた新たな知見に関して説明する。
【0020】
図5の表は、異なる2つの打刻装置によって同じ文字を打刻した打刻印の打刻深さと線幅を複数点計測し、これに基づく傾斜方向を矢印で示したものである。また、表の下部には、各文字において打刻深さと線幅を測定したポイントを示した。なお、表中の文字は、実際の刻印のフォントとは異なる。
図5の表中のアルファベットや数字は、刻印の文字であり、それぞれの文字の周りに記載されている数値は、打刻深さと線幅の測定結果である。それぞれの文字に対して記載されている数値の相対的な位置が、測定位置を概ね表している。
例えば、“~”の刻印では、概ねその両端付近と中央付近の3点を測定し、その深さ(上段)と線幅(下段のカッコ書き)が、表示されている。“C”の場合には、その四隅付近の4点を測定して、それぞれの深さ(上段)と線幅(下段のカッコ書き)が表示されているものである。
打刻深さが深い箇所は当然に刻印が深く打ち込まれた箇所であり、また、浅ければ、刻印の打ち込みが浅かった箇所であるから、複数の測定点の深さ情報に基づいて、打刻時の刻印の姿勢(傾斜方向)が推定できる。
また、刻印の文字山は、通常、先端部が細く、基端に向かうに従って太くなる形状(断面視でくさび形状)を有しているため、打ち込みが浅ければ線幅が細くなり、深ければ太くなる。従って、複数の測定点の線幅の情報に基づいても、打刻時の刻印の姿勢(傾斜方向)が推定できる。
【0021】
図5の表中の矢印は、各測定点の打刻深さや線幅から判断される傾斜方向を示したものであり、高い(刻印深さが浅い)方から低い(刻印深さが深い)方へ向かう矢印である。
例えば、“~”の刻印では、その中央部から左右両端へ向かって矢印が示されており、これは、その中央部で打刻印の深さが浅く、左右両端へ向かって深くなっていくことを示している。“C”の場合には、左側が浅く、右側に行くに従い深くなっていることを示している。
また、黒の矢印は、2つの打刻装置の内の、一方の打刻装置による打刻印の傾斜方向を示しており、白抜きの矢印は、他方の打刻装置による打刻印の傾斜方向を示している。ハッチングされた矢印は、2つの打刻装置において傾斜の方向が共通した傾向となった場合を示している。
【0022】
図5から理解されるように、文字によって、その打刻印の深さや線幅の変化の傾向が2つの装置間で異なる(傾斜方向が異なる)場合がある。この実験結果においては、“A”、“D”、“G”、“M”、“3”、“8”において、傾斜方向の相違が見られた。
打刻印の傾斜は、基本的には打刻時の刻印の傾斜が原因と考えられる。打刻装置は打刻時の荷重に対して十分な強度を有して製作されているが、剛体ではない。従って、打刻時に高い荷重がかかると、僅かながら装置に歪みや撓みが生じ、その結果、刻印がわずかに傾斜する場合がある。装置の歪み等は、装置固有の構造等に基づいて生じるものであるため、当該歪み等を原因とする刻印の傾斜も装置固有のものとなる。このような、装置の歪み等に基づく刻印の傾斜は、打刻時の荷重が高くなるに従い顕在化するものとなる。従って、例えば刻印を打刻する材料が硬い材料であるほど顕在化し、例えば超高張力鋼(1GPa以上の材料を指し、ウルトラハイテン鋼ともいわれる)に対して刻印するような場合により顕在化する。
なお、図5の表では、傾斜の方向のみ比較する表記としているが、実際には傾斜の度合い(傾斜角度の大きさ)も異なっている。例えば、“B”や“C”等は、傾斜の方向としては2つの装置間で同様であるが、傾斜の度合いとしては異なる傾向を有することが確認された。基本的には、剛性の高い装置の方が、傾斜が小さく(即ち、水平に近い)、剛性の低い装置の方が、傾斜が大きい傾向となる。
【0023】
なお、図5からも理解されるように、本発明における刻印の打刻時の傾きは、単純な一方向の傾きに限られない。
上記のように、“~”の刻印では、その中央部から左右両端へと向う2方向の傾きを有しており、例えば“X”の刻印では、その中央部から四隅へと向かう4方向の傾きを有している。
刻印自体は平坦に形成されているため、このような複数の方向の傾きが生じることは、通常の思想では想定されないものであるが、これも本願の発明者によって得られた新たな知見である。
このような現象が起こる原因の一つとして、高強度の材料に対して刻印を打刻する際に、材料からの反発力が強いこと等に起因して、打刻中の刻印に揺れが生じるようなことが考えられる。例えば、“~”の刻印の打刻の際に、材料特性や装置の機械剛性、刻印文字の構成、加工条件等の各種の要因によって、上記のように装置に歪み等が生じることにより、刻印が左右に小刻みに揺れるような状況が生じ、これによって、左右両端において刻印深さが深くなることが考えられるものである。
このように、本発明における刻印の打刻時の傾きに基づく情報は、刻印が材料に入り込んで行く際の経時的な要素も含んだ概念であり得る。
【0024】
次に説明する実施形態は、上記のような、装置固有の特徴が打刻印に表れるという新たな知見を得たことに基づいて、これを利用した打刻装置及び打刻印評価方法である。
【0025】
<実施形態1>
図1は、本発明に係る実施形態1の打刻装置の構成の概略を示すブロック図である。
本実施形態の打刻装置1は、複数の刻印12(一文字ずつ)が外周上に形成された刻印ホイール13と、当該刻印ホイール13を打刻のために上下動させて荷重を付加する打刻可動部14と、打刻対象(ワーク)Wを所定位置でチャックして移動させるテーブル15と、装置の動作条件や動作状況などを表示するモニタ16と、動作条件の設定などを行う入力部17と、各部の制御や各種の演算を行う制御部11と、各種の情報を記憶する記憶部18と、刻印ホイール13に設けられた傾斜センサ19と、を備える。
【0026】
打刻装置1は、刻印ホイール13を回転することで打刻する文字を選択し、2軸又は3軸方向への送り機構及びこれを駆動する駆動部を有するテーブル15によって、打刻対象Wを打刻位置へと移動させ、文字を打刻する。そして、打刻対象Wをテーブル15によって送りながら、複数の文字を打刻していくことによって、所望の標章を打刻対象Wに打刻するものである。各文字の打刻においては、打刻対象Wの材料の種別や各文字に対応した加工条件(加圧力や打刻速度等)にて打刻が行われる。
打刻装置1における、刻印の打刻のための機構や処理動作(或いは刻印そのものの構成)は、従来と同様である(任意のものであってよい)ため、ここでのこれ以上の詳しい説明を省略する。
なお、本願における“標章”とは、文字(数字含む)・図形・記号等の何れかの単体やこれらを任意に結合させたものをいう。実施形態では刻印12の文字等が1文字だけのものを例としているが、複数の文字等を有する刻印であってもよいことは勿論である。
実施形態1では、車のフレームに車台番号(数字やアルファベットの結合であり、標章の一種)を刻印するものを具体例として説明する。車では、燃費向上のための軽量化の観点等に基づき、より高い強度を有する材料が用いられる傾向にあり、超高張力鋼が用いられるようになりつつある。このような傾向により、前述のように、“打刻時の刻印の傾斜”がより顕在化する傾向となっている。
【0027】
打刻装置1は、刻印ホイール13を回転可能に支持する支持アームに設けられた2軸若しくは3軸の傾斜センサ19を備えている。これにより、打刻時における刻印の傾き情報を取得することができる。即ち、傾斜センサ19は、“打刻時の刻印の傾き情報を取得する傾き情報取得部”として機能する。
傾斜センサ19で取得された傾き情報は、以下で説明するように、装置情報や刻印情報や等と対応付けられて、記憶部18に記憶される。即ち、記憶部18は、“各刻印と、前記傾き情報取得部によって取得される傾き情報と、を対応付けて記憶する記憶部”として機能する。
なお、本実施形態では、刻印ホイール13自体ではなく、刻印ホイール13を回動可能に支持する支持アームに対して傾斜センサ19が備えられるものを例としているが、刻印自体の傾き情報を得るためには、刻印ホイール13自体に傾斜センサ19を備えさせる方がより好ましい。ただし、刻印ホイール13は刻印の選択のために回転するものであるため、当該回転による影響を較正する必要がある。
【0028】
次に、図2を参照しつつ、打刻装置1における1つの打刻対象Wに対する打刻の処理動作の概略について説明する。なお、以下の説明では処理主体を省略しているが、各処理は制御部11における制御や演算によって行われるものである。
【0029】
先ず、打刻対象Wに対して打刻する標章情報を取得する(ステップ201)。前述のように、打刻装置1は、車のフレームに車台番号を打刻するものであり、標章情報とは車台番号である。車台番号は重複の無いユニークな番号であり、予めそのデータが打刻装置1(記憶部18)に設定されていて、各車台番号データを順番に取得してこれを打刻していくものである。
【0030】
続くループ処理は、車台番号の各文字(数字やアルファベット等の1文字)毎に繰り返される処理である。
ステップ202~204では、テーブル15の移動によって打刻対象W(フレーム)を所定の打刻位置へと移動させつつ、刻印ホイール13を回転させて打刻する文字を選択して、該当の文字を打刻する。
当該打刻中において、傾斜センサ19から傾き情報を取得する(ステップ205)。1回だけ傾き情報を取得する場合の取得タイミングとしては、下死点にある時(最も刻印が下がった時点)が好ましい。
続くステップ206では、取得した傾き情報を、装置情報、刻印情報、標章情報と対応付けて記憶部18に記憶する。装置情報は打刻装置1を識別する情報であり、装置IDや装置の型番等である(装置IDの場合は、個々の装置毎に管理され、型番の場合は、機種毎の管理となる)。刻印情報は、打刻した刻印を識別するための情報である。標章情報は、上記のごとく本実施形態では車台番号である。
ステップ202~206の処理を、標章(車台番号)を構成する全ての文字について実行したら、処理を終了する(一つの車台番号の打刻が終了する)。
【0031】
打刻装置1の上記処理動作により、各車台番号の打刻において、各文字ごとの刻印の打刻時の傾き情報がログされる。
当該情報は、自己の打刻装置によって打刻された打刻印であることを示すための根拠となるものであり、“真正打刻情報”として機能する。
なお、“真正打刻情報”としての記憶(対応付け)において、管理する打刻装置が1台(或いは一機種)であるような場合や、装置(或いは機種)毎の管理が必要ない場合には、装置情報は必ずしも必要ない。また、標章情報としての管理が必要無いような場合については、標章情報は必ずしも必要ない。
【0032】
図3は、打刻印の真贋を検証するための打刻印評価システムの構成の概略を示すブロック図である。
打刻印評価システム2は、スキャン装置21と、“真正打刻情報”を備えている(或いはこれを備える別の情報処理装置にアクセス可能な)PC等の情報処理装置22と、を備える。
スキャン装置21は、打刻印がある評価対象Oを所定位置でチャックして移動させるテーブル213と、各部の制御や各種の演算を行う制御部211と、打刻印の3Dスキャンをするスキャン部212と、を備える。
スキャン装置21は、テーブル213によって評価対象Oを送りながら評価対象Oに打刻された各文字にレーザー光線を当てて文字の凹凸を検出し、打刻印の3Dデータを生成するものである。なお、スキャン自体は任意の装置によって行うものであってよい(例えば、人がハンディースキャナを使用して3Dスキャンする等)。
【0033】
次に図4を参照しつつ、打刻印評価システム2における処理動作の概略について説明する。
先ず、評価対象Oの打刻印(車台番号)をスキャン装置21によってスキャンして打刻印の3Dデータを取得する(ステップ401)。
当該3Dデータは、情報処理装置22に送られ、情報処理装置22において、各文字の判別と、各文字の傾き情報を取得する処理が行われる(ステップ402)。
各文字の判別は、一般的なパターン認識による。
各文字の傾き情報の取得は、3Dデータによって判別される、打刻印の深さの変化の方向若しくは線幅の変化の方向に基づいて、傾きの方向や度合いを判別することによって行われる。
【0034】
ステップ403では、図1、2での説明によって取得されている“真正打刻情報”と、ステップ402で取得された各文字の傾き情報との照合が情報処理装置22にて行われる。
当該照合は、読み取った評価対象Oの車台番号をキーとして、“真正打刻情報”の該当データを取得した上で、各文字ごとに、傾き情報が適合するか否か(傾き情報の相違が所定値以下であるか否か)を判別し、全ての文字について傾き情報が適合していると判断された場合には、評価対象Oが真正品(打刻装置1によって打刻されたものである)であると判別する(ステップ404:Yes→ステップ405)。一方、一文字でも傾き情報が適合していない場合には、評価対象Oが偽造品であると判別する(ステップ404:No→ステップ406)。
なお、“真正打刻情報”において、標章情報(車台番号)の対応付けがされていない場合には、読み取った評価対象Oの各文字ごとに、各文字をキーとして“真正打刻情報”から該当の傾き情報を取得して、これとの比較(傾き情報の相違が所定値以下であるか否か)を行えばよい。
“傾き情報の相違が所定値以下であるか否か”の“傾き情報の相違”は、例えば、傾き情報をベクトルとして取得し、ベクトルの比較によって判断するもの等である。また、“所定値”は、装置の仕様や、真贋の判断をどのようにするかという設計思想、或いは予めの実験の結果等に基づいて適宜定められるものである。
傾き情報のベクトル化の際には、傾斜の方向をベクトルの方向、傾斜の度合いをベクトルの長さにそれぞれ対応させる等すればよい。前述のように、一文字に対してベクトルが複数となる場合もある。
【0035】
以上のごとく、本実施形態の打刻装置によれば打刻装置固有の特徴量をログすることができ、本実施形態の打刻印評価方法によれば、打刻装置固有の特徴量に基づいて、評価対象の打刻印が真正な打刻印であるか否かを判別することができる。
例えば、刻印の書体が模倣されたとしても、打刻装置固有の撓み等に基づいて、打刻印に特徴量(傾き情報)が生じるため、異なる打刻装置で打刻されたこと(偽造品であること)を判別し得るものである。
【0036】
本実施形態では、打刻装置単体で傾き情報をログするものを例として説明したが、本発明をこれに限るものではなく、例えば、複数の打刻装置がネットワークを介してサーバー等の情報処理装置に接続されて、当該情報処理装置において各打刻装置から取得した傾き情報、装置情報、刻印情報、標章情報を対応付けて記憶する(真正打刻情報を記憶する)ようなシステムであってもよい。
また、打刻印評価システム2では、情報処理装置22にて打刻印の評価を行うものとしたが、スキャン装置21に情報処理装置22の機能を持たせるものであってもよい。また、装置によって自動的に判別するのではなく、人が計測、判断するようなものであってもよい。
【0037】
本実施形態では、打刻中の傾き情報の取得について、下死点での傾き情報を取得するものを例としているが、本発明はこれに限られるものではない。
例えば、打刻中の傾き情報を経時的に複数取得するようにしてもよい。上記で説明したように、刻印の揺れによって複数方向の傾きが生じる場合において、これに対応する傾き情報を取得し得るものであり、より精度の高い判別を可能とし得る。
【0038】
なお、上記説明した概念を利用して、打刻装置において意図的に刻印を傾斜させる(或いは刻印の文字山自体を傾斜させて作成する)等してもよい。即ち、装置固有の特徴量を意図的に形成するようにしてもよい。
例えば“C”の文字の打刻は、その文字の形状に基づいて、左側が浅く、右側が深く打刻される傾向を有する。“C”の形状は、その右側が開放されており、打刻時の抵抗が少ないため、右側の方が深く打刻され易いためである。
このように、文字そのものが有する傾向に対して、当該傾向とは異なる方向へと意図的に傾斜させるように(或いは傾斜がなくなるように)すること等により、装置固有の特徴量を意図的に形成する等してもよい。
さらに、打刻中に刻印をある方向に意図的に揺動させること等により、上記説明したような“複数方向の傾き”を意図的に形成するようにしてもよい。
或いは、“複数方向の傾き”を低減するように、文字山の高さを変えた刻印としてもよい。前述したように、例えば、“~”の刻印では、その中央部から左右両端へと向って打刻深さが深くなる傾向を有しており、“X”の刻印では、その中央部から四隅へと向かう4方向で、打刻深さが深くなる傾向を有している。従って、“~”の刻印の文字山を、両側が中央より低くなるように形成したり、“X”の刻印の文字山を、中央から四隅に向かって低くなるように形成すること等により、打刻印の深さが水平になるようにしてもよい。
【0039】
“真正打刻情報”における情報の対応付けにおいて、さらに、打刻対象の材料に関する情報も対応付けて記憶しておき、評価対象である打刻印が打刻されている材料に関する情報も利用して、打刻印の評価を行うようにしてもよい。
加えて、真正打刻情報に、各刻印の打刻時の加工条件も対応付けて、加工条件ログデータとして記憶しておき、当該加工条件に関する情報も利用して、打刻印の評価を行うようにしてもよい。加工条件(打刻速度・加圧力・加圧保持時間など)は、打刻印の形状に大きな影響を及ぼし得るもの(即ち、打刻印の特徴量に影響するもの)であり、従って、打刻印を測定して、どのような打刻装置でどのような打刻条件が用いられたかの判断をすることも可能であると考えられる。
【0040】
本実施形態では、打刻装置1で打刻した際の傾き情報を全てログするものを例としているが、本発明をこれに限るものではない。
例えば、標本データとしての“真正打刻情報”を取得しておき(毎回の打刻の傾き情報を取得することなく)、これに基づいて、打刻印の評価を行うようなものであってもよい。
標本データとしての“真正打刻情報”は、複数回の打刻において取得された複数の傾き情報に基づいて“真正打刻情報”を生成(平均値を取るなど)するようにしてもよい。
【0041】
<実施形態2>
実施形態2は、打刻印評価方法の用途の一例としての、打刻装置の予防保全方法に関する。上記説明したように、刻印の打刻時には、装置固有の特徴量として、刻印の傾斜が生じ得るものであるが、本実施形態では、これを装置の予防保全に利用するものである。
装置が正常である状態における各刻印の打刻時の傾き情報を取得しておき、普段の動作時において、これと異なる傾きとなった場合に、装置に何らかの変調があったとして、保守点検を行わせるものである。
前述したように、刻印の傾きの要因としては、装置の剛性や、刻印の文字の構成などが影響する。従って、傾きの変化は、装置の剛性の変化や文字の構成の変化によることが想定され得る。装置の剛性の変化は、例えば、装置の何らかの破損や、組み立て構造部の緩み或いは機能の低下等が考えられ、刻印の文字の構成の変化は、例えば、刻印の摩耗や一部欠損等が考えられる。即ち、打刻時の刻印の傾きが、正常時の傾きに対して変化していることを検知することで、このような何らかの変調の検知を行い得るものである。
【0042】
図6は、本実施形態の打刻装置システム100の構成の概略を示すブロック図である。
打刻装置システム100は、複数の打刻装置1-1~1-nが情報処理装置101と通信可能に接続される(有線、無線の別を問わない。また、任意の通信プロトコルを使用することができる)ことで構成される。
打刻装置1-1~1-nは、実施形態1で説明したものと同様に、打刻時の刻印の傾き情報を取得することができる打刻装置である。
情報処理装置101は、サーバーやPC等によって構成され、正常時打刻情報を備えている。正常時打刻情報は、実施形態1で説明した“真正打刻情報”と基本的に同様のものであり、正常時における打刻装置の各刻印の打刻時の傾きに基づく情報が、装置情報及び刻印情報に対応づけられているものである。正常時打刻情報は、打刻装置が正常である際に予め取得されて、情報処理装置101に記憶されているものである。なお、傾き情報は、前述のように、打刻中の傾き情報が経時的に複数取得されているものであってもよい。
【0043】
次に図7を参照しつつ、打刻印評価システム2における処理動作の概略について説明する。なお、図7の処理は、基本的に情報処理装置101にて行われるものである。
【0044】
各打刻装置は、打刻を行った際に、当該打刻した刻印の種別を示す刻印情報と、自己を識別する装置情報(装置IDや型番など)と、傾き情報と、を随時情報処理装置101に送信する。なお、傾き情報は、前述のように、打刻中の傾き情報を経時的に複数取得して送信するものであってもよい。
当該装置情報、刻印情報及び傾き情報を受信(ステップ701)した情報処理装置101では、これを正常時打刻情報と照合する(ステップ702)。
当該照合は、装置情報及び刻印情報をキーとして正常時打刻情報を参照し、該当の傾き情報が適合するか否か(傾き情報の相違が所定値以下であるか否か)を判別する。適合する場合には特に何もせず終了し(ステップ703:Yes→ステップ704をスキップ)、適合していない場合には、警告情報を出力する(ステップ703:No→ステップ704)。
なお、“傾き情報の相違が所定値以下であるか否か”の“所定値”は、装置の仕様や、保守点検をどのような場合に行うかという設計思想、或いは予めの実験の結果等に基づいて適宜定められるものである。
【0045】
警告情報(通知)の出力とは、情報処理装置101に備えられているモニタやスピーカから映像や音声を出力するものの他、他の情報処理装置に対して警告情報を送信するもの、警告情報をログしておくもの等、任意の方法であってよい。
警告の内容としては、例えば、対象の装置情報、刻印情報、傾き情報を通知する。傾き情報は、正常時の値と合わせて通知するものや、正常時との差分を通知するもの等であってよい。
警告が通知された場合には、該当の打刻装置や刻印に異常が無いか保守点検を行う。上記説明したような、不具合が発生していないかを点検するものである。どのような警告かによって、点検対象もある程度絞ることができる。例えば、特定の刻印にのみ警告が出るのであれば、該当の刻印に何らかの変調があると考えられ、複数の刻印で警告が出る場合には、装置に何らかの変調があると考えられる。事例の蓄積により、より詳細に点検対象を絞ること(不具合箇所の予想)も可能となり得る。
【0046】
以上のごとく、本実施形態の打刻装置の予防保全方法によれば、従来にはなかった観点に基づいて、打刻装置や刻印の保守点検を行うことができる。
【0047】
本実施形態では、複数の打刻装置と接続された情報処理装置において上記処理が行われるものを例としたが、打刻装置自身が上記処理を行うように構成されているものであってもよい。この場合には、“正常時打刻情報”において装置情報は特に必要ない。
本実施形態では、打刻を行った際に傾き情報を常時取得してこれが正常か否かを判別するものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、所定のタイミング等、傾き情報を随時取得するようなものであってもよい。また、打刻装置で傾き情報を取得する度にこれが正常か否かを判別するのではなく、例えば、傾き情報をログしておき、バッチ処理的に、これが正常か否かを判別するような処理としてもよい。
【0048】
また、“正常時打刻情報”において、打刻対象の材料に関する情報(材質、硬度、厚さ等の情報)も対応付けて記憶しておき、打刻した材料に関する情報も利用して、傾き情報の評価を行うようにしてもよい。“正常時打刻情報”として、装置情報、刻印情報、傾き情報、材料情報が対応付けられており、常時又は随時取得する傾き情報の評価において、打刻した材料の情報もキーとして使用して該当の傾き情報を“正常時打刻情報”から取得するようにするものである。
材料の硬さの相違等は、打刻時の刻印の傾斜に影響を与える要因となり得るため、材料に関する情報も加味した判別することで、より精度を高くすることができ得るものである。
なお、打刻装置における材料の情報の取得は、打刻を行うための設定条件として装置に入力されている場合にはそれを利用すればよく、そのような設定が無い場合には、本機能用に材料情報の入力を求める等すればよい。
【0049】
加えて、“正常時打刻情報”に、各刻印の打刻時の加工条件(加圧力、加圧時間、打刻速度、打刻深さ等)も対応付けて記憶しておき、当該加工条件に関する情報も利用して、傾き情報の評価を行うようにしてもよい。常時又は随時取得する傾き情報の評価において、打刻時の加工条件もキーとして使用して該当の傾き情報を“正常時打刻情報”から取得するようにするものである。
打刻の加工条件は、打刻時の刻印の傾斜に影響を与える要因となり得るため、加工条件も加味した判別することで、より精度を高くすることができ得るものである。
加工条件は、打刻装置の動作条件として打刻装置に設定される条件を利用するものであってもよいし、別途センサによって実測した測定値を用いるようにしてもよい。例えば、ロードセルを設置して実際の荷重(加圧力)を測定してこれを用いるものや、刻印とテーブルとの間の変位量を測定する変位センサを設置して、実際の打刻深さを測定してこれを用いるもの等である。
【0050】
なお、各実施形態では、“各刻印の打刻時の傾きに基づく情報”として、傾斜センサによって所得する刻印の傾き情報を例としているが、本発明をこれに限るものでは無く、刻印の打刻時に生じる傾きに基づいた情報であればよい。例えば、打刻印の深さの変化情報や、線幅の変化情報等を、“各刻印の打刻時の傾きに基づく情報”として取得して用いるものであってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1...打刻装置(打刻装置システム)
12...刻印
18...記憶部
19...傾斜センサ(傾き情報取得部)
O...評価対象
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7