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  • 特許-認知機能改善組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】認知機能改善組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20230928BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230928BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61K31/198 ZMD
A61P25/28
A23L2/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019091097
(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2020186196
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510147776
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】安川 然太
(72)【発明者】
【氏名】小関 誠
(72)【発明者】
【氏名】功刀 浩
(72)【発明者】
【氏名】秀▲瀬▼ 真輔
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-289948(JP,A)
【文献】特開2015-137243(JP,A)
【文献】特開2010-207477(JP,A)
【文献】伊藤園 ニュースリリース,2018年10月11日,https://www.itoen.co.jp/news/article/14162
【文献】Acta Neuropsychiatrica,2017年,29(2),pp.72-79
【文献】The Journal of Nutrition, Health & Aging,2012年,16(9),pp.754-758
【文献】日本生物学的精神医学会誌,2016年,27(3),第117~123頁
【文献】日本未病システム学会雑誌,2009年,15(1),第17~23頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアニンを含有する認知機能改善組成物であって、前記認知機能が、言語流暢性及び遂行機能の両方に関する機能であり、前記テアニンの投与量が一日当たり50mg~1000mgであり、3週間以上の投与が行われるものであると共に、前記認知機能が、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)によって評価されたものであり、当該認知機能改善組成物が、精神疾患の判断基準による診断に該当する者でなく、向精神薬を摂取している者ではない20歳以上70歳未満の健常者用のものである認知機能改善組成物。
【請求項2】
前記テアニンの投与が就寝前である請求項1に記載の認知機能改善組成物。
【請求項3】
テアニンを含有する認知機能改善用飲食品であって、前記認知機能が、言語流暢性及び遂行機能の両方に関する機能であり、前記テアニンの投与量が一日当たり50mg~1000mgであり、3週間以上の投与が行われるものであると共に、前記認知機能が、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)によって評価されたものであり、当該認知機能改善用飲食品が、精神疾患の判断基準による診断に該当する者でなく、向精神薬を摂取している者ではない20歳以上70歳未満の健常者用のものである認知機能改善用飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能改善組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テアニンは、茶抽出物に含まれる成分の一つとして知られており、その生理活性に関する研究開発が行われてきている。多くの研究のうち、特許文献1、2には、テアニンが脳に対して及ぼす作用が記載されている。特許文献1には、テアニンが大脳疲労に基づく計算能力低下等の大脳疲労を回復する作用を持つことが、特許文献2には、テアニンが脳に作用して、疼痛を軽減することが、それぞれ記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-187344号公報
【文献】特開2006-306811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、テアニンが脳に対する作用については、未だに未知の部分があり、更なる研究開発が望まれていた。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、認知機能(特に、言語流通性及び遂行機能)を改善する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するための本発明に係る認知機能改善組成物は、テアニンを含有するものであって、前記認知機能が、言語流暢性及び遂行機能からなる群から選ばれる少なくとも1種の機能であることを特徴とする。
このとき、前記テアニンの投与量が一日当たり50mg~1000mg(好ましくは、50mg~300mg)であり、3週間以上の投与が行われるものであることが好ましい。
また、前記テアニンの投与が就寝前であることが好ましい。
また、前記認知機能が、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)によって評価されたものであることが好ましい。
また、前記認知機能改善組成物が、精神疾患の判断基準による診断に該当する者でなく、向精神薬を摂取している者ではない健常者用のものであることが好ましい。
また、別の発明に係る飲食品は、上記のいずれか一つに記載の認知機能改善組成物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、認知機能(特に、言語流通性及び遂行機能)を改善する組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】テアニンが認知機能に及ぼす影響を調べた結果を示す棒グラフである。各群のグラフの左側(塗りつぶし)にはテアニン摂取前のデータ(平均値+標準偏差)を、右側(斜線)にはテアニン摂取後のデータ(平均値+標準偏差)を示した。また、グラフ中の「*」は、有意差が認められたことを示す。
図2】テアニンが言語流暢性に及ぼす影響を調べた結果を示す棒グラフである。各投与群(50mg群、100mg群、200mg群、300mg群)のグラフの左側(塗りつぶし)にはテアニン摂取前のデータ(平均値+標準偏差)を、右側(斜線)にはテアニン摂取後のデータ(平均値+標準偏差)を示した。また、グラフ中の「*」は、有意差が認められたことを示す(図3においても同じ)。
図3】テアニンが遂行機能に及ぼす影響を調べた結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施できる。
<テアニンの製造>
実施例1 酵素法によるテアニンの製造
グルタミン21.9g及び塩酸エチルアミン28.5gを0.05Mホウ酸緩衝液(pH9.5)0.5L中、0.3Uグルタミナーゼ(天野製薬社製)にて30℃、22時間反応させた。次いで、反応液をDowex 50×8、Dowex 1×2(共に室町化学工業社製)カラムクロマトグラフィーにかけ、これをエタノール処理することにより、反応液から目的物質であるL-テアニンを単離した。
当該物質がL-テアニンであることの確認は、この単離物質をアミノ酸アナライザー、ペーパークロマトグラフィーにかけ、標準物質と同じ挙動を示すことにより行った。塩酸またはグルタミナーゼで加水分解処理を行うと、1:1の割合で、グルタミン酸とエチルアミンを生じた。このように、単離物質がグルタミナーゼによって加水分解されたことから、エチルアミンがグルタミン酸のγ位に結合していたことが示された。また、加水分解で生じたグルタミン酸が、L-体であることは、グルタミン酸デヒドロゲナーゼにより確認した。以上より8.5gのL-テアニンが得られた。
【0009】
<認知機能改善に関する実験>
試験例1
本研究の趣旨を理解し、同意能力があり自由意思で参加に同意した20歳以上70歳未満の方を被験者とした。被験者として、以下の(1)~(3)に該当する者は除いた。すなわち、(1)米国精神医学会が作成した精神疾患の診断基準でDSM-V (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition; 精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)による診断に該当する者、(2)向精神薬による加療を受けている者、(3)重篤な内科疾患を有している患者は、被験者から除いた。加えて、主任研究者が不適切であると判断した場合には、被験者として試験への参加依頼は行わなかった。
研究の適格基準に合致した30名(男性9名、女性21名)に、テアニンを就寝前に200mg/dayで4週間服用させた。
【0010】
テアニンの服用前、及び4週間服用後に被験者に対して統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)を行い、認知機能評価した。BACSでは、1.言語性記憶と学習、2.ワーキング・メモリ、3.運動機能、4.言語流暢性、5.注意と情報処理速度、6.遂行機能の評価を行った。
「1.言語性記憶と学習」に関する評価では、被験者に対して、15個の単語が提示され、一定時間の後、できるだけたくさんの単語を思い出すよう求められた。この試行を5回繰り返し、想起された単語の数を評価した。
「2.ワーキング・メモリ」に関する評価では、被験者は段々と桁数が増えてゆく数字の組(例えば936)を聞かされ、聞いた数を小さい方から大きい方へと順に検査実施者に答えるよう求められた。正しい反応数を評価した。
「3.運動機能」に関する評価では、被験者は、100枚のプラスチック製トークンを与えられ、それを60秒間にできる限り速く容器に入れるよう求められた。60秒間のうちに容器に入れたトークンの数が評価された。
【0011】
「4.言語流暢性」に関する評価では、被験者は、60秒間に、ある所定のカテゴリーに属する単語をできるだけたくさん挙げるよう求められた。答えた単語数を評価した。
「5.注意と情報処理速度」に関する評価では、被験者は、独特な記号と1から9の各数字との対応について説明してある見本を受け取り、できるだけ速く一連の記号の下に、対応する数を記入するよう求められた。制限時間は90秒とした。正しい項目数を評価した。
「6.遂行機能」に関する評価では、被験者は、同時に2枚の絵を見せられた。各絵には、3本の棒の上に配置された異なる3色のボールが描かれている。ボールはそれぞれの絵の中で他の絵とは違った独特な配置が施されている。被験者は、1つの絵の中のボールがもう1つの絵の中のボールと同じ配置になるよう動かすのに最小の回転数を答えさせられた。結果のうち、正しい反応数を評価した。
BACSの結果を表1及び図1に示した。
【0012】
【表1】
【0013】
図表に示すように、テアニンを摂取することにより、言語流暢性と遂行機能については、摂取する前と比べて有意に(p<0.05)改善した。また、言語性記憶と学習、ワーキング・メモリ、運動機能、注意と情報処理速度については、有意な改善効果は見られなかった。
【0014】
試験例2
本研究の趣旨を理解し、同意能力があり自由意思で参加に同意した25歳以上60歳未満の方を被験者とした。被験者として、以下の(1)~(3)に該当する者は除いた。すなわち、(1)米国精神医学会が作成した精神疾患の診断基準でDSM-Vによる診断に該当する者、(2)向精神薬による加療を受けている者、(3)重篤な内科疾患を有している患者は、被験者から除いた。加えて、主任研究者が不適切であると判断した場合には、被験者として試験への参加依頼は行わなかった。
【0015】
研究の適格基準に合致した24名(男性16名、女性8名)を6名(男性4名、女性2名)ずつ4群(50mg群、100mg群、200mg群、300mg群)に分けた。各群について、次の通りにテアニンを就寝前に投与した。すなわち、50mg群には50mg/day、100mg群には100mg/day、200mg群には200mg/day、300mg群には300mg/dayの各投与量とし、それぞれ4週間服用させた。
服用前と4週間服用後に、被験者にBACSを行い、言語流暢性及び遂行機能の認知機能評価を行った。
言語流暢性の評価結果を表2及び図2、遂行機能の評価結果を表3及び図3に示した。
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
評価の結果、テアニンを50mg/day~300mg/day摂取することにより、言語流暢性と遂行機能が摂取する前と比べて有意に改善した。
このように本実施形態によれば、認知機能(特に、言語流通性及び遂行機能)を改善する経口投与可能な組成物を提供できた。
図1
図2
図3