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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】画像観察システム
(51)【国際特許分類】
   H04N 7/18 20060101AFI20230928BHJP
   A61B 3/113 20060101ALI20230928BHJP
   G09G 5/00 20060101ALI20230928BHJP
   G09G 5/36 20060101ALI20230928BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230928BHJP
   G06T 7/70 20170101ALI20230928BHJP
   H04N 23/40 20230101ALI20230928BHJP
   H04N 23/60 20230101ALI20230928BHJP
   H04N 23/66 20230101ALI20230928BHJP
   H04N 23/69 20230101ALI20230928BHJP
   H04N 23/695 20230101ALI20230928BHJP
   H04N 23/611 20230101ALI20230928BHJP
   H04N 13/239 20180101ALI20230928BHJP
   H04N 13/128 20180101ALI20230928BHJP
   H04N 13/337 20180101ALI20230928BHJP
   H04N 13/341 20180101ALI20230928BHJP
   H04N 13/366 20180101ALI20230928BHJP
   H04N 5/222 20060101ALI20230928BHJP
   A61B 1/00 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
H04N7/18 U
A61B3/113
G09G5/00 550C
G09G5/36 500
G09G5/00 510V
G06T7/00 660A
G06T7/70 Z
H04N23/40
H04N23/60
H04N23/66
H04N23/69
H04N23/695
H04N23/611
H04N13/239
H04N13/128
H04N13/337
H04N13/341
H04N13/366
H04N5/222
A61B1/00 522
A61B1/00 685
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019108695
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020202499
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 福元清剛、内田和希及び海老澤嘉伸が、ViEW2018 ビジョン技術の実利用ワークショップ講演概要集、p62-63、発行日:平成30年12月3日、発行者:公益社団法人精密工学会 画像応用技術専門委員会にて海老澤嘉伸が発明した「画像観察システム」について公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 福元清剛、内田和希及び海老澤嘉伸が、ウェブサイト(ウェブサイトの掲載日 平成30年12月3日 ウェブサイトのアドレス(URL) http://www.tc-iaip.org/view/2018/)で海老澤嘉伸が発明した「画像観察システム」について公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 福元清剛、内田和希及び海老澤嘉伸が、ViEW2018 ビジョン技術の実利用ワークショップ(開催場所:パシフィコ横浜アネックスホール、開催日:平成30年12月6日~7日(発表日:平成30年12月6日))にて海老澤嘉伸が発明した「画像観察システム」について公開
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 嘉伸
【審査官】長谷川 素直
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0321482(US,A1)
【文献】特開2004-078125(JP,A)
【文献】特開平09-163192(JP,A)
【文献】特開2015-065514(JP,A)
【文献】特開2005-100134(JP,A)
【文献】特開2018-031733(JP,A)
【文献】国際公開第2014/163109(WO,A1)
【文献】特開2013-223666(JP,A)
【文献】特開2014-197109(JP,A)
【文献】特開2005-099064(JP,A)
【文献】特開平05-341206(JP,A)
【文献】特開平10-234057(JP,A)
【文献】特開2013-009111(JP,A)
【文献】特開2018-160081(JP,A)
【文献】特開2005-033319(JP,A)
【文献】特開2012-118188(JP,A)
【文献】特開2018-152738(JP,A)
【文献】特開2008-005208(JP,A)
【文献】特開2014-010227(JP,A)
【文献】特開2016-046780(JP,A)
【文献】国際公開第2004/061387(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/104320(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/016166(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/002347(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/125122(WO,A1)
【文献】特開平10-014938(JP,A)
【文献】特開平06-030328(JP,A)
【文献】特開平07-309577(JP,A)
【文献】特開平10-83460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 7/18
H04N 13/00-13/398
G09G 5/00
G06T 7/00
H04N 23/00
H04N 5/222
A61B 1/00
A61B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を撮像することで観察画像を取得するカメラと、
前記カメラの位置及び姿勢を制御するカメラ制御装置と、
前記観察画像を表示させる表示装置と、
前記表示装置の前面の観察者の顔画像を検出して、前記顔画像を基に観察者の顔部における右の瞳孔及び左の瞳孔の三次元位置を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記右の瞳孔及び左の瞳孔の三次元位置に基づいて、前記カメラの位置及び姿勢を変更するように前記カメラ制御装置を動作させる情報処理部と、
を備え
前記情報処理部は、前記観察者の姿勢を、前記右の瞳孔の三次元位置と前記左の瞳孔の三次元位置との間の点から前記表示装置の画面に向かう軸と、前記右の瞳孔の三次元位置と前記左の瞳孔の三次元位置とを通る軸とによって決まる座標系を算出することによって検出し、前記観察者の姿勢を検出した前記座標系の変化に基づいて前記カメラの姿勢を変更するように動作させる、
画像観察システム。
【請求項2】
対象物を撮像することで観察画像を取得するカメラと、
前記カメラの位置及び姿勢を制御するカメラ制御装置と、
前記観察画像を表示させる表示装置と、
前記表示装置の前面の観察者の顔画像を検出して、前記顔画像を基に観察者の顔部における右の瞳孔及び左の瞳孔の三次元位置を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記顔部の三次元位置に基づいて、前記カメラの位置及び姿勢を変更するように前記カメラ制御装置を動作させる情報処理部と、
を備え、
前記情報処理部は、前記観察者の姿勢を、前記右の瞳孔の三次元位置と前記左の瞳孔の三次元位置との間の点を通り、前記右の瞳孔の三次元位置から検出した右の眼の視線方向と前記左の瞳孔の三次元位置から検出した左の眼の視線方向とから求めた方向に平行な直線である軸と、前記右の瞳孔の三次元位置と前記左の瞳孔の三次元位置とを通る軸とによって決まる座標系を算出することによって検出し、前記観察者の姿勢を検出した前記座標系の変化に基づいて前記カメラの姿勢を変更するように動作させる、
画像観察システム。
【請求項3】
前記情報処理部は、前記観察者の姿勢を、前記右の瞳孔の三次元位置と前記左の瞳孔の三次元位置との間の中点から前記表示装置の画面中心に向かう軸と、前記右の瞳孔の三次元位置と前記左の瞳孔の三次元位置とを通る軸とによって決まる座標系を算出することによって検出する、
請求項1に記載の画像観察システム。
【請求項4】
前記情報処理部は、前記観察者の姿勢を、前記右の瞳孔の三次元位置と前記左の瞳孔の三次元位置との間の中点を通り、前記右の瞳孔の三次元位置から検出した右の眼の視線方向と前記左の瞳孔の三次元位置から検出した左の眼の視線方向とを平均化した方向に平行な直線である軸と、前記右の瞳孔の三次元位置と前記左の瞳孔の三次元位置とを通る軸とによって決まる座標系を算出することによって検出する、
請求項2に記載の画像観察システム。
【請求項5】
前記カメラは、対象物とともに複数のマーカーを撮像することで観察画像を取得し、
前記情報処理部は、前記観察画像上の前記複数のマーカーの位置を基に前記カメラの姿勢を推定し、推定した前記カメラの姿勢を基に前記観察画像のブレ及び歪を補正して前記観察画像を前記表示装置に表示させる、
請求項1~のいずれか1項に記載の画像観察システム。
【請求項6】
前記情報処理部は、前記カメラから前記複数のマーカーを基準に固定された視対象に向かうベクトルに垂直な理想画像面を設定し、前記カメラの撮像面上に対応する前記観察画像の画素の値を、前記カメラの光学中心から前記理想画像面上に投影することにより、前記観察画像を補正する、
請求項に記載の画像観察システム。
【請求項7】
対象物を撮像することで観察画像を取得する2台のカメラと、
前記2台のカメラの位置及び姿勢をそれぞれ制御するカメラ制御装置と、
前記観察画像を表示させる表示装置と、
前記表示装置の前面の観察者の顔画像を検出して、前記顔画像を基に観察者の顔部の三次元位置を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記顔部の三次元位置に基づいて、前記2台のカメラの位置及び姿勢を変更するように前記カメラ制御装置を動作させる情報処理部と、
を備え、
前記検出部は、前記顔画像を基に観察者の右の瞳孔及び左の瞳孔の三次元位置を検出し、
前記情報処理部は、前記検出部によって検出された前記右の瞳孔及び前記左の瞳孔の三次元位置のそれぞれに基づいて、前記2台のカメラの位置及び姿勢を変更するように動作させ、
前記表示装置は、前記2台のカメラによって取得された2つの前記観察画像を用いて、前記表示装置の画面から所定距離の表示位置に立体画像を表示させ、
前記情報処理部は、前記2台のカメラによって取得された前記2つの観察画像間で前記観察者に対して視差を変化させるようにずらし量を調整し、
前記右の瞳孔の三次元位置から前記表示位置までのベクトルの大きさと、前記ベクトルを前記画面上の交点まで伸ばしたベクトルの距離との比を基に右の眼に対応する前記観察画像の拡大率を調整し、前記左の瞳孔の三次元位置から前記表示位置までのベクトルの大きさと、前記ベクトルを前記画面上の交点まで伸ばしたベクトルの距離との比を基に左の眼に対応する前記観察画像の拡大率を調整することによって、前記観察画像を拡大あるいは縮小する、
画像観察システム。
【請求項8】
前記観察者の周囲に前記表示装置及び前記検出部が複数組配置されている、
請求項1~のいずれか1項に記載の画像観察システム。
【請求項9】
前記カメラは、内視鏡の先端において対物レンズの光軸の位置及び方向を制御可能に埋め込まれている、
請求項1~のいずれか1項に記載の画像観察システム。
【請求項10】
前記情報処理部は、前記表示装置、検出した前記観察者の姿勢に基づいて、回転駆動するように制御する、
請求項1又は2に記載の画像観察システム。
【請求項11】
前記情報処理部は、前記表示装置によって表示される画像を、検出した前記観察者の姿勢に基づいて、回転駆動するように制御する、
請求項1又は2に記載の画像観察システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の遠隔での観察を可能にする画像観察システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、遠隔地から対象物を観察する技術としては、建築物等の対象物の三次元構造を何らかの方法(ステレオ法、TOF(time of flight)法等)で算出し、その構造への色の貼り付け(レンダリング)を行って色付きの三次元構造を作成し、その色付きの三次元構造をPC(Personal Computer)の画面に映し出す技術が知られている。このような技術では、ユーザは、マウス等を利用して映し出す三次元構造の画像を回転させたり並進移動させたりして、好きな視点から見た対象物を観察することができる。ただし、このような技術では、リアリティをもって対象物を再現するためには、高いレンダリング性能及び特殊かつ高速な計算能力を持つ計算機が必要となる。また、事前に三次元構造とそれに対応した色付けの情報を取得しておく必要があるため、リアルタイムに対象物を観察することは難しい。
【0003】
その一方で、下記非特許文献1に記載されたように、1台のカラーカメラを搭載したロボットを遠隔操作し、撮影画像をディスプレイに表示することができるシステムも知られている。このようなシステムによれば、リアルタイムで遠隔地から対象物の画像を好きな視点から観察することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】T Baron,MD Levine, Y Yeshurun,“Exploring with a foveated roboteye system”,IEEE,Proceedings ofthe 12th IAPR International Conference on Pattern Recognition, Vol. 2 -Conference B: Computer Vision & Image Processing.,1994.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した非特許文献1に記載のシステムによっても、観察者に実際に対象物を観察しているような感覚を持たせながら画像を表示することは難しい。すなわち、観察者の操作時の感覚と実際の観察時の感覚とがかけ離れており、リアリティをもって遠隔地の対象物を観察させることには限界がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、観察者がリアリティをもって遠隔地の対象物を観察することが可能な画像観察システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一形態に係る画像観察システムは、対象物を撮像することで観察画像を取得するカメラと、カメラの位置及び姿勢を制御するカメラ制御装置と、観察画像を表示させる表示装置と、表示装置の前面の観察者の顔画像を検出して、顔画像を基に観察者の顔部の三次元位置を検出する検出部と、検出部によって検出された顔部の三次元位置に基づいて、カメラの位置及び姿勢を変更するようにカメラ制御装置を動作させる情報処理部と、を備える。
【0008】
上記形態の画像観察システムによれば、観察者の顔部の三次元位置が検出され、その三次元位置に基づいてカメラの位置及び姿勢が変更されるように制御され、それに応じてカメラで取得される観察画像が表示装置に表示される。これにより、観察者が表示画面に表示された対象物と向き合いながら、その時の観察者の位置に応じて、対象物の像を様々な位置及び様々な角度から観察させることができる。その結果、観察者がリアリティをもって遠隔地の対象物を観察することができる。ここで、上記顔部は、観察者の眼部であることが好適である。
【0009】
また、眼部は瞳孔であってよい。この場合には、画像処理によって確実に観察者の眼部の位置を検出することができ、対象物の像を、眼部の位置に応じて様々な位置及び様々な角度から観察させることができる。
【0010】
ここで、情報処理部は、顔部の三次元位置に基づいて、観察画像の歪を補正し、補正した観察画像を表示装置に出力する、こととしてもよい。かかる構成においては、観察者と表示装置との位置関係が変化しても、表示装置によって表示された画像を観察者に歪なく観察させることができる。
【0011】
また、情報処理部は、顔部の三次元位置に基づいて計算した移動量を基に、カメラの三次元位置を移動させるように動作させる、こととしてもよい。この場合、観察者が表示画面に表示された対象物と向き合いながら、その時の観察者の位置に応じて、対象物の像を様々な位置から観察させることができ、実際に観察者が対象物を直接観察しているような感覚を生じさせることができる。
【0012】
また、情報処理部は、顔部の三次元位置に基づいて観察者の姿勢を算出し、観察者の姿勢に基づいてカメラの姿勢を変更するように動作させる、こととしてもよい。こうすれば、観察者が表示画面に表示された対象物と向き合いながら、その時の観察者の姿勢に応じて、対象物の像を様々な角度から観察させることができ、実際に観察者が対象物を直接観察しているような感覚を生じさせることができる。
【0013】
また、情報処理部は、観察者の姿勢を、顔部の三次元位置と表示装置との位置関係から計算する、こととしてもよい。この場合、簡易な演算によって観察者の姿勢を求めることができ、リアルタイムな画像表示を実現することができる。
【0014】
また、情報処理部は、観察者の姿勢を、顔部の三次元位置から導出した視線方向から計算する、こととしてもよい。この場合、観察者の姿勢を正確に求めることができ、対象物の観察のリアリティを高めることができる。
【0015】
また、カメラは、対象物とともに複数のマーカーを撮像することで観察画像を取得し、情報処理部は、観察画像上の複数のマーカーの位置を基にカメラの姿勢を推定し、推定したカメラの姿勢を基に観察画像のブレ及び歪を補正して観察画像を表示装置に表示させる、こととしてもいてもよい。この場合には、カメラ制御装置において制御されるカメラの姿勢にブレが生じた場合であっても、観察画像上の複数のマーカーの位置を用いて観察画像のブレ及び歪を補正することができる。これにより、対象物の観察のリアリティをより高めることができる。
【0016】
さらに、情報処理部は、カメラから複数のマーカーを基準に固定された視対象に向かうベクトルに垂直な理想画像面を設定し、カメラの撮像面上に対応する観察画像の画素の値を、カメラの光学中心から理想画像面上に投影することにより、観察画像を補正する、こととしてもよい。かかる構成により、観察画像のブレ及び歪を画素の投影処理によって効率的に補正することができる。
【0017】
あるいは、本発明の他の形態に係る画像観察システムは、カメラを2台備え、検出部は、顔画像を基に観察者の右の眼部及び左の眼部の三次元位置を検出し、情報処理部は、検出部によって検出された右の眼部及び左の眼部の三次元位置のそれぞれに基づいて、2台のカメラの位置及び姿勢を変更するように動作させ、表示装置は、2台のカメラによって取得された観察画像を用いて立体画像を表示させる。
【0018】
上記形態の画像観察システムによれば、観察者の右の眼部及び左の眼部の三次元位置が検出され、それぞれの三次元位置に基づいて2台のカメラの位置及び姿勢が変更されるように制御され、それに応じて2台のカメラで取得される観察画像を用いて立体画像が表示される。これにより、観察者が表示画面に表示された対象物と向き合いながら、その時の観察者の両眼の位置に応じて、対象物の像を様々な位置及び様々な角度から立体感をもって観察させることができる。その結果、観察者がより一層のリアリティをもって遠隔地の対象物を観察することができる。
【0019】
ここで、情報処理部は、2台のカメラによって取得された観察画像間で観察者に対して視差を変化させるようにずらし量を調整して立体画像を表示装置に出力する、こととしてもよい。かかる構成によれば、観察者が立体画像を観察する際に対象物に対して感じる距離感を様々に変化させることができる。
【0020】
また、情報処理部は、ずらし量の調整とともに、観察画像の拡大率を調整して観察画像を拡大あるいは縮小して立体画像を出力する、こととしてもよい。この場合、観察者が立体画像を観察する際に対象物に対して感じる距離感に応じて、対象物の像の大きさを調整することができる。その結果、対象物の観察のリアリティをより高めることができる。
【0021】
上記形態の画像観察システムは、観察者の周囲に表示装置及び検出部が複数組配置されて構成されてもよい。かかる構成によれば、観察者の様々な位置及び姿勢に対応して、複数の対象物の像をリアリティをもって観察させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、観察者がリアリティをもって遠隔地の対象物を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係る画像観察システムの構成を示す側面図である。
図2】第1実施形態に係るコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図である。
図3図1のコンピュータ9aにより設定される表示画面上の観察画像の表示位置を示す概念図である。
図4】第1実施形態に係るコンピュータ9bの機能構成を示すブロック図である。
図5図4のカメラ駆動系制御部21によって推定される観察者Sp1の頭部姿勢を表す頭部基準座標系を示す図である。
図6図4のカメラ駆動系制御部21によって推定される観察者Sp1の頭部方向を表すベクトルを示す図である。
図7】3個のマーカーMを基準に設定される背景座標系CS1と対象物Sp2を基準に設定される視対象座標系CS2との関係を示す図である。
図8】カメラ座標系CS0と理想画像座標系CS3との関係を示す図である。
図9図4の画像処理部27による処理前の観察画像GBと処理後の観察画像GAのイメージを示す図である。
図10】第2実施形態に係る画像観察システム201の構成を示す側面図である。
図11図10の観察画像取得用カメラ205b及びカメラ駆動系207の対象物Sp2側から見た外観を示す正面図である。
図12図10のディスプレイ装置211によって遠近感を変更して表示される立体画像の位置を示す図である。
図13図10のディスプレイ装置211によって手前の位置P1に対象物Sp2を浮かび上がらせて表示させた際の視差を示す図である。
図14図10のディスプレイ装置211の画面上に表示する観察画像のずらしの量及び方向を示す図である。
図15図10のディスプレイ装置211によって遠近感を変更して表示される立体画像の表示イメージを示す図である。
図16図10のディスプレイ装置211によって遠近感を変更して表示される立体画像の表示イメージを示す図である。
図17】変形例に係る画像観察システム301の構成を示す側面図である。
図18】変形例に係る画像観察システムの構成を示す平面図である。
図19】内視鏡に組み込んだ観察画像取得用カメラ205bの構成の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る画像観察システムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
[第1実施形態に係る画像観察システムの構成]
図1は、第1実施形態に係る画像観察システム1の構成を示している。この画像観察システム1は、観察者Sp1が遠隔地から美術品を代表とする鑑賞物、商品等の様々な有体物である対象物Sp2を観察するための画像処理システムである。この画像処理システムは、観察者Sp1が遠隔地に位置する対象物Sp2を観察するための観察者Sp1側の装置と対象物Sp2側の装置とを含むシステムとして構成されることが想定される。ただし、必ずしも観察者Sp1側の装置と対象物Sp2側の装置とが物理的に離れて配置される必要はなく、互いに近くに配置されていてもよいし、一体の装置として構成されていてもよい。特に、コンピュータ9aとコンピュータ9bとは、同一の装置上で一体的に構成されていてもよいし、別々の装置として構成されていてもよい。
【0026】
図1に示すように、画像観察システム1は、観察者Sp1側に配置される観察者検出用カメラ(検出部)5a、コンピュータ(検出部、情報処理部)9a、及びディスプレイ装置(表示装置)11と、観察対象である対象物Sp2側に配置される観察画像処理装置3とを含んで構成される。観察画像処理装置3は、観察画像取得用カメラ5b、カメラ駆動系(カメラ制御装置)7、及びコンピュータ(情報処理部)9bを含んでいる。これらのコンピュータ9a,9bは、図示しない通信ネットワークを介して互いに画像データ等のデータを送受信可能に構成される。なお、本実施形態では、表示装置として表示画面上から直接画像を投影するディスプレイ装置を使用しているが、表示画面から間接的に画像を投影するプロジェクタ装置等を使用してもよい。
【0027】
コンピュータ9a,9bを構成するコンピュータ9の一般的なハードウェア構成を図2に示す。コンピュータ9は、オペレーティングシステムやアプリケーション・プログラムなどを実行するCPU(プロセッサ)101と、ROMおよびRAMで構成される主記憶部102と、ハードディスクやフラッシュメモリなどで構成される補助記憶部103と、ネットワークカードあるいは無線通信モジュールで構成される通信制御部104と、キーボードやマウスなどの入力装置105と、ディスプレイやプリンタなどの出力装置106とを備える。
【0028】
後述するコンピュータ9a,9bの各機能要素は、CPU101または主記憶部102の上に所定のソフトウェアを読み込ませ、CPU101の制御の下で通信制御部104や入力装置105、出力装置106などを動作させ、主記憶部102または補助記憶部103におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うことで実現される。処理に必要なデータやデータベースは主記憶部102または補助記憶部103内に格納される。
【0029】
観察者検出用カメラ5aは、ディスプレイ装置11の下部において観察者Sp1に向けられた2台のカメラを含み、それぞれのカメラは予めカメラ較正がされており、ディスプレイ装置11の前面に位置する観察者Sp1の顔を撮像し、顔画像を検出および出力する。本実施形態では、観察者検出用カメラ5aを構成する2台のカメラは、インターレーススキャン方式の一つであるNTSC方式のビデオカメラであり、各カメラには、観察者Sp1の瞳孔、角膜反射、あるいは鼻孔等の特徴点を検出するために特許第4500992号に記載の構成の近赤外光源が取り付けられている。観察者検出用カメラ5aを構成するそれぞれのカメラは、コンピュータ9aからの命令に応じて観察者Sp1を撮像し、顔画像のデータをコンピュータ9aに出力する。なお、観察者検出用カメラ5aは2台のカメラで構成されることには限定されず、予備のカメラを含んでいてもよい。
【0030】
コンピュータ9aは、特許第4500992号に記載の方法を用いて、観察者検出用カメラ5aに取り付けられた近赤外光源の点灯タイミングを撮像タイミングに応じて制御し、その結果として観察者検出用カメラ5aの2台のカメラから出力された顔画像を用いて、ステレオマッチングによりフレーム毎に観察者Sp1の顔部として左右の瞳孔(眼部)の三次元位置(三次元座標)を検出する。そして、コンピュータ9aは、左右の瞳孔の三次元位置に関する情報をコンピュータ9bに送信する。なお、本実施形態では、観察者Sp1の顔部として左右の眼部の三次元位置を検出しているが、顔の中心部、左右の鼻孔等の他の顔の一部の三次元位置を検出してもよい。
【0031】
加えて、コンピュータ9aは、コンピュータ9bから受信された対象物Sp2が映った観察画像をディスプレイ装置11に表示させる機能も有する。このとき、コンピュータ9aは、特開2017-026893号公報に記載の手法を用いて、対象物Sp2が映った観察画像を、観察者Sp1の左右の瞳孔の三次元位置に応じて、斜めから見てもディスプレイ装置11の正面から見たように映るように画像の歪を補正し、補正した観察画像をディスプレイ装置11に表示させる。
【0032】
この歪補正処理の詳細について説明する。コンピュータ9aは、ディスプレイ装置11の表示画面G上に表示される画像を予め変形させることにより観察者Sp1において観察される観察画像の歪を無くすように制御する。図3は、コンピュータ9aにより設定される表示画面G上の観察画像の表示位置を示す概念図である。まず、コンピュータ9aは、観察者Sp1の両眼の瞳孔の三次元座標P,Pを基に、瞳孔間中点Pと表示画面Gの中心C1を結ぶ直線PC1を設定する。さらに、コンピュータ9aは、直線PC1に垂直な瞳孔間中点Pからの距離が所定値Lの平面S1を設定し、PC1とその平面S1との交点Oを特定する。また、コンピュータ9aは、平面S1上に頂点A,B,C,Dを有し、交点Oを中心とする所定の大きさの長方形の範囲ABCDを決定する。次に、コンピュータ9aは、両眼の瞳孔の三次元座標P,Pから平面S1上に垂線をおろしそれぞれの垂線と平面S1との交点E,Fの位置を算出する。さらに、コンピュータ9aは、線分EFの傾きを両眼を結ぶ線の平面S1を基準とした傾きとして計算し、線分AD及び線分BCがその傾きと等しくなるように(線分EFと平行になるように)範囲ABCDを回転させることによりその範囲の位置を計算する。そして、コンピュータ9aは、瞳孔間中点Pと点A,B,C,Dのそれぞれとを結ぶ線と表示画面Gとの交点A’,B’,C’,D’の座標を計算する。この表示画面G上の四角形A’B’C’D’の範囲に表示される画像が長方形ABCDを通過して観察者Sp1に向けて投影されることになる。そこで、コンピュータ9aは、長方形ABCDの範囲に歪の無い観察画像を投影するために、観察画像を変形させて表示画面G上に表示させるように、その画像を構成する画素の表示画面G上での表示位置を設定する。これにより、長方形ABCDの範囲に投影される観察画像の位置が観察者Sp1の両眼を結ぶ線の傾きに応じて回転される。
【0033】
コンピュータ9aによる観察画像の変形方法についてさらに詳細に説明する。コンピュータ9aは、設定した長方形ABCDの範囲内において、平面S1に沿った二次元座標系x3-y3における座標(xi,yi)を算出する。さらに、コンピュータ9aは、長方形ABCDの範囲内の座標(xi,yi)と瞳孔間中点Pとを通る直線を特定し、その直線と表示画面Gとの交点の座標(Xi,Yi)を、表示画面Gに沿った二次元座標系X1-Y1上で求める。そして、観察画像を長方形ABCDの範囲に当てはめた場合の観察画像における座標(xi,yi)に対応する位置の輝度値を算出し、算出した座標(xi,yi)の輝度値を表示画面G上の対応する座標(Xi,Yi)の輝度値として設定する。さらに、コンピュータ9aは、長方形ABCDの範囲内に含まれる複数の座標(xi,yi)について上記処理を繰り返し、長方形ABCDの範囲内の各座標(xi,xi)に対応する観察画像の輝度値を表示画面G上の長方形A’B’C’D’の範囲内の画素に投影する。その後、コンピュータ9aは、各座標(Xi,Yi)の輝度値を参照しながらバイリニア補間法などを用いて画素を補間することにより、表示画面G上の四角形A’B’C’D’内に表示する画像を生成する。このような観察画像の変形処理により、観察者Sp1が斜めから表示画面Gを観察しても、観察者Sp1の瞳孔間中点Pに向けて投影される観察画像の歪を無くすように制御されることにより、観察者Sp1が歪の無い画像を観察することができる。
【0034】
ここで、コンピュータ9aは、特許第4500992号に記載の方法を用いて、観察者検出用カメラ5aから出力された顔画像を基に検出した瞳孔の三次元位置と、顔画像を基に検出した顔画像上の瞳孔及び角膜反射の位置を基に、観察者Sp1の左右の眼の視線ベクトル(視線方向)を算出してもよい。この場合は、コンピュータ9aは、算出した左右の眼の視線ベクトルの情報をコンピュータ9bに送信する。
【0035】
観察画像取得用カメラ5bは、対象物Sp2と、対象物Sp2の後部の暗幕、壁等の垂直面Sv上に二次元的に配置された複数のマーカーMとを同時に撮影するビデオカメラである。観察画像取得用カメラ5bは、コンピュータ9bからの命令に応じて対象物Sp2及びマーカーMを撮像し、その結果取得した観察画像をコンピュータ9bに出力する。
【0036】
撮像対象のマーカーとしては、白色等のカメラ画像上で目立つ色彩のマーカーが好ましく、LED等の発光体をマーカーとして用いてもよく、発光体を用いる場合はカメラの画像において中心精度が高まるような形状に映るように、発光部の高さが低く指向性が弱いLEDを用いる。また、観察画像取得用カメラ5bとして近赤外線カメラを使用する場合には、再帰(再帰性)反射材料のマーカーを用いることが好ましく、観察画像取得用カメラ5bとしてカラーカメラを使用する場合には、背景に対して目立つ色(例えば、青色)のマーカーMを用いてもよい。マーカーMは、後述する観察画像の補正処理を可能にするために、3個以上設けられることが好適である。例えば、マーカーMは、観察画像取得用カメラ5bに向かい合う垂直面Sv上の三角形の頂点上に3個で配置されている。
【0037】
カメラ駆動系7は、観察画像取得用カメラ5bの位置及び姿勢を制御する制御装置であり、観察画像取得用カメラ5bをパンチルト可能に支持するパンチルト台19、観察画像取得用カメラ5bをパンチルト台19と一体に移動可能に支持するアクチュエータ13,15,17により構成される。このアクチュエータ13は、観察画像取得用カメラ5bを対象物Sp2側から見て左右方向に移動させるように駆動し、アクチュエータ15は、観察画像取得用カメラ5bを対象物Sp2側から見て上下方向に移動させるように駆動し、アクチュエータ17は、観察画像取得用カメラ5bを対象物Sp2側から見て前後方向に移動させるように駆動する。パンチルト台19、及びアクチュエータ13,15,17は、コンピュータ9bからの命令に応じて、観察画像取得用カメラ5bの三次元位置及び姿勢を変化させるように駆動する。
【0038】
図4に示すように、コンピュータ9bは、機能的構成要素として、カメラ駆動系制御部21、撮像制御部23、カメラ位置/姿勢検出部25、及び画像処理部27を備える。以下、コンピュータ9bの各構成要素の機能を説明する。
【0039】
カメラ駆動系制御部21は、対象物Sp2の観察画像の取得処理が開始されたことに応じて、コンピュータ9aから受信された観察者Sp1の左右の瞳孔の三次元位置に関する情報に基づいて、観察画像取得用カメラ5bの三次元位置及び姿勢を変更するように、カメラ駆動系7を動作させる。これにより、観察者Sp1があたかも対象物Sp2に対面しているような状態を仮想的に作り出してその状態に応じた観察画像を取得できる。具体的には、観察者Sp1が、頭部を動かすことによってディスプレイ装置11上に表示される対象物Sp2を別の距離及び角度で見ようとすると、それに相当する位置及び姿勢に変更されるようにカメラの位置及び姿勢が制御される。
【0040】
カメラ駆動系制御部21によるカメラ駆動系7の制御の機能について詳細に説明する。
【0041】
カメラ駆動系制御部21は、図5に示すような座標系を用いて、観察者Sp1の頭部姿勢を左右の瞳孔の三次元位置とディスプレイ装置11との位置関係から推定し、推定した頭部姿勢を基にカメラ駆動系7を駆動するように制御する。すなわち、カメラ駆動系制御部21は、世界座標系XYZにおける右の瞳孔の三次元位置Pと左の瞳孔の三次元位置Pとの間の中点Pを算出し、図6に示すような中点Pからディスプレイ装置11上の基準位置である画面中心点C1に向かうベクトルVを算出する。そして、カメラ駆動系制御部21は、右の瞳孔の三次元位置Pと左の瞳孔の三次元位置Pとを通る軸をX軸とし、ベクトルVに沿った軸をZ軸とし、原点を中点Pとする頭部基準座標系を設定し、この頭部基準座標系の位置及び姿勢の変化を検出し、その変化の量を基に観察画像取得用カメラ5bの位置及び姿勢を制御する。具体的には、カメラ駆動系制御部21は、観察者Sp1の頭部のピッチ角度であるX軸周りの回転角度と、観察者Sp1の頭部のヨー角度であるY軸周りの回転角度とを計算し、それらの角度がパンチルト台19のパン及びチルトのそれぞれの回転角度となるようにパンチルト台19の回転角を決定する。同時に、カメラ駆動系制御部21は、直前の駆動タイミングからの中点Pの移動量を計算し、それを基に直前の駆動タイミングからのアクチュエータ13,15,17におけるそれぞれの移動量を決定する。そして、カメラ駆動系制御部21は、決定した回転角度及び移動量で駆動するようにカメラ駆動系7の駆動を制御する。
【0042】
ただし、パンチルト台19の回転軸と観察画像取得用カメラ5bの光学中心の位置との間にはズレが存在するため、単に中点Pの移動量のみからアクチュエータ13,15,17の移動量を決定した場合には観察画像取得用カメラ5bの三次元位置の移動量に誤差が生じてしまう。このような誤差を防ぐため、カメラ駆動系制御部21は、パンチルト台19の駆動に伴う観察画像取得用カメラ5bの三次元位置の変動を求め、アクチュエータ13,15,17の移動量をこの変動を打ち消すように予め補正する。
【0043】
なお、本実施形態では、カメラ駆動系制御部21は、観察者Sp1の頭部姿勢を、左右の瞳孔の三次元位置とディスプレイ装置11との位置関係から推定していた。それに代えて、カメラ駆動系制御部21は、特開2018-99174号公報に記載の手法を用いて観察者Sp1の左右の眼球回転中心の位置を検出し、これらの眼球回転中心の位置を基に観察者Sp1の頭部姿勢を推定してもよい。このように眼球回転中心を用いることで、眼球でサッケードが生じて瞳孔中心が小刻みに動く場合であっても、安定して頭部姿勢を検出して観察画像の小刻みな変化を抑制できる。
【0044】
また、コンピュータ9aによって観察者Sp1の左右の眼の視線ベクトル(視線方向)が検出されている場合には、カメラ駆動系制御部21は、この視線ベクトルを基にベクトルVを設定して観察者Sp1の頭部姿勢を推定してもよい。すなわち、カメラ駆動系制御部21は、観察者Sp1の左右の眼の視線ベクトルを平均化した直線に平行な中点Pを通る直線を特定し、この直線を基準に頭部姿勢を推定する。このようにすれば、ディスプレイ装置11上に映る同一の対象物Sp2の別の箇所、又は、別の対象物Sp2に視線を移しても、それに応じて観察画像取得用カメラ5bの姿勢を制御できる。ここでは、カメラ駆動系制御部21は、左右の眼のうち利き目と想定されるほうの眼に関して検出された視線ベクトルを基に頭部姿勢を推定してもよい。ただし、観察画像取得用カメラ5bから対象物Sp2までの距離が、直前に観察していた対象物Sp2までの距離と異なる場合には、カメラ駆動系制御部21は、観察画像取得用カメラ5bから対象物Sp2までの距離が、観察者Sp1とディスプレイ装置11との間の距離に相当する距離になるように、カメラ駆動系7のアクチュエータ13,15,17を駆動させる。ただし、観察者Sp1の視線方向が変化する度に観察画像取得用カメラ5bの姿勢が変化してしまうと、観察者Sp1から見てディスプレイ装置11上の対象物画像が視線変化に伴って移動するため、リアリティが失われて不自然である。そこで、カメラ駆動系制御部21は、観察者Sp1の視線方向の示す位置が異なる対象物Sp2間で変化した場合にのみ、視線ベクトルを利用して観察画像取得用カメラ5bの姿勢を変更するように制御することが好ましい。
【0045】
撮像制御部23は、対象物Sp2の観察画像の取得処理が開始されたことに応じて、観察画像取得用カメラ5bによる対象物Sp2の観察画像の取得を開始するように制御する。また、撮像制御部23は、観察画像取得用カメラ5bによって取得されたフレーム毎の観察画像を、カメラ位置/姿勢検出部25及び画像処理部27に引き渡す。
【0046】
カメラ位置/姿勢検出部25は、観察画像取得用カメラ5bによって取得された観察画像上のマーカーMの位置を基に、観察画像取得用カメラ5bの位置及び姿勢をフレーム毎に検出する。具体的には、観察画像上において3個以上のマーカーMの位置を検出し、それらのマーカーMの間の距離が既知であることを利用して、特許第4431749号に記載の手法を応用して、観察画像取得用カメラ5bのカメラ座標系におけるマーカーMの三次元座標を検出する。観察画像上のマーカーMの位置の検出は、マーカーMの色が青色の場合には、カラー画像である観察画像をRGB成分に分割し、B成分とR成分との差分をとった後に、その差分画像を対象に二値化、孤立点除去、及びラベリングを施すことにより行われる。
【0047】
そして、カメラ位置/姿勢検出部25は、図7に示すように、右のマーカーMの位置MR、左のマーカーMの位置ML、及び上のマーカーMの位置MUを基準に、左右のマーカーの中点MMを原点とする背景座標系CS1を設定する。また、カメラ位置/姿勢検出部25は、観察画像取得用カメラ5bの光学中心を原点とするカメラ座標系CS0から背景座標系CS1に座標変換するための回転行列及び並進ベクトルを計算する。ここで、マーカーMと対象物Sp2との既知の位置関係を基に、対象物Sp2の中心を原点Oとする視対象座標系CS2が予め定義されている。例えば、視対象座標系CS2は、各座標軸が背景座標系CS1の各座標軸と平行であり、Y軸周りに背景座標系CS1を180度回転させた座標系である。そして、カメラ位置/姿勢検出部25は、カメラ座標系CS0を視対象座標系CS2に座標変換するための回転行列及び並進ベクトルも計算する。これにより、観察画像取得用カメラ5bの位置及び姿勢が検出される。
【0048】
画像処理部27は、カメラ位置/姿勢検出部25によって検出されたフレーム毎の観察画像取得用カメラ5bの位置及び姿勢を基に、観察画像取得用カメラ5bによって取得されたフレーム毎の観察画像に対して画像処理を施し、画像処理後の観察画像をコンピュータ9aに送信する。具体的には、画像処理部27は、フレーム毎に次のような画像処理を実行する。
【0049】
つまり、カメラ駆動系7のパンチルト台19による駆動においてはブレが生じる場合があり、それによって観察画像においてブレや歪が生じる場合がある。この場合は、図8に示すように、観察画像取得用カメラ5bの光軸の方向であるカメラ座標系CS0のZ軸の方向が、観察画像取得用カメラ5bの光学中心Oから対象物Sp2の中心に向かうベクトルVの方向と一致しない場合がある。ここで、ベクトルVが理想的な観察画像取得用カメラ5bの光軸とすると理想的な観察画像では視対象の中心が画像中心と一致し画像の歪は生じないと考えられる。この理想的な光軸と考えられるベクトルVを法線とする平面が理想画像面Sと定義され、この理想画像面Sの中心Oを原点としベクトルVをZ軸とする平面が理想画像座標系CS3と定義される。理想画像座標系CS3は、その中心Oが視対象座標系CS2の原点Oと一致するように定義されることにより、透視投影モデルに基づいて観察画像中の対象物Sp2の像が実物と対応した大きさに拡大/縮小されるように設定される。
【0050】
そこで、画像処理部27は、視対象座標系CS2におけるベクトルVのX軸周りの回転角度、Y軸周りの回転角度、及びZ軸周りの回転角度をそれぞれ計算する。次に、画像処理部27は、計算した回転角度を用いて、理想画像座標系CS3からカメラ座標系CS0に変換するための回転行列及び並進ベクトルを計算する。その後、画像処理部27は、計算した回転行列及び並進ベクトルを用いて、理想画像面S上の点Pi(Xi,Yi,0)をカメラ座標系CS0の点Pi’(xi,yi,zi)に変換する。さらに、既知の観察画像取得用カメラ5bの焦点距離fを用いて、画像処理部27は、光学中心Oと点Pi’とを結ぶ直線と実際の撮像面との交点を計算し、点Piに対応する撮像面上の点Pc(xj,yj,f)の座標を計算する。そして、画像処理部27は、観察画像の点Pcに対応する画素の輝度値を理想画面S上の点Piの画素に投影する。その後、画像処理部27は、理想画像面S上の複数の点Pi(Xi,Yi,0)について上記処理を繰り返し、バイリニア補間法を用いることにより理想画像面S上の画素を補完し、その結果理想画像面S上に生成された理想の画像を観察画像と設定することにより、観察画像の補正処理を実行する。
【0051】
さらに、画像処理部27は、観察画像上に映りこんだマーカーMの像をディスプレイ装置11上で表示されないように塗りつぶし処理を行うこともできる。例えば、対象物Sp2の背景が白色である場合には、マーカーMの中心座標を中心とした円領域を白色の輝度値に設定することにより塗りつぶし処理を行う。
【0052】
図9には、コンピュータ9bの画像処理部27による処理前の観察画像GBと処理後の観察画像GAのイメージを示している。このように、観察画像取得用カメラ5bの駆動によって観察画像において対象物Sp2の像の位置ずれ及び歪が生じていても、画像処理によって位置ずれ及び歪が補正されて適切な画像に加工することができる。
【0053】
以上説明した画像観察システム1によれば、観察者Sp1の瞳孔の三次元位置が検出され、その三次元位置に基づいて観察画像取得用カメラ5bの位置及び姿勢が変更されるように制御され、それに応じて観察画像取得用カメラ5bで取得される観察画像がディスプレイ装置11に表示される。これにより、観察者Sp1がディスプレイ装置11の表示画面に表示された対象物Sp2と向き合いながら、その時の観察者Sp1の位置に応じて、対象物Sp2の像を様々な位置及び様々な角度から観察させることができる。その結果、観察者Sp1がリアリティをもって遠隔地の対象物Sp2を観察することができる。
【0054】
例えば、このような画像観察システム1を用いれば、現場に立ち入ることができない場所(原子力発電所等)に観察画像取得用カメラ5b及びカメラ駆動系(カメラ制御装置)7を設置して、観察者が遠隔地において見たい位置から見たい方向を見るだけで、その位置及び方向に対応して原子力発電所の設備等の対象物の画像を得ることができる。また、その画像を保存しておけば別の人が後からリアルな画像として観察することもできる。
【0055】
また、本実施形態では、観察者Sp1の瞳孔の三次元位置に基づいて、観察画像の歪を補正する機能を有している。このような機能により、観察者Sp1とディスプレイ装置11との位置関係が変化しても、ディスプレイ装置11によって表示された画像を観察者に歪なく観察させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、観察者Sp1の瞳孔の三次元位置の移動量及び観察者Sp1の姿勢の検出結果を基に、観察画像取得用カメラ5bの三次元位置及び姿勢を変更するように制御されている。このような制御により、観察者Sp1がディスプレイ装置11の表示画面に表示された対象物Sp2と向き合いながら、その時の観察者Sp1の位置及び姿勢に応じて、対象物の像を様々な位置及び角度から観察させることができ、実際に観察者Sp1が対象物Sp2を直接観察しているような感覚を生じさせることができる。
【0057】
特に、本実施形態では、観察者Sp1の姿勢が、瞳孔の三次元位置とディスプレイ装置11との位置関係から計算されているので、簡易な演算によって観察者Sp1の姿勢を求めることができ、リアルタイムな画像表示を実現することができる。また、観察者Sp1の姿勢を、観察者Sp1の視線方向を基に計算することもでき、その場合は観察者Sp1の姿勢を正確に求めることができ、対象物Sp2の観察のリアリティを高めることができる。
【0058】
さらに、本実施形態では、観察画像上の複数のマーカーMの位置を基に観察画像取得用カメラ5bの姿勢を推定し、推定した観察画像取得用カメラ5bの姿勢を基に観察画像のブレ及び歪を補正している。このような補正機能により、カメラ駆動系7において制御される観察画像取得用カメラ5bの姿勢にブレが生じた場合であっても、観察画像上の複数のマーカーMの位置を用いて観察画像のブレ及び歪を補正することができる。これにより、対象物Sp2の観察のリアリティをより高めることができる。
【0059】
[第2実施形態に係る画像観察システムの構成]
図10は、第2実施形態に係る画像観察システム201の構成を示す図であり、図11は、図10の観察画像取得用カメラ205b及びカメラ駆動系207の対象物Sp2側から見た外観を示す正面図である。本実施形態の画像観察システム201の構成は、画像観察システム1の構成と比較して、ディスプレイ装置211、コンピュータ209a、観察画像取得用カメラ205b、カメラ駆動系207、及びコンピュータ209bの構成が異なっている。以下、画像観察システム201の構成における第1実施形態との相違点のみ説明する。
【0060】
ディスプレイ装置211及びコンピュータ209aは、観察者Sp1に対して立体画像を表示させる立体画像表示システムを構成する。すなわち、コンピュータ209aは、コンピュータ209bから左右の眼への投射用の2つの観察画像を受信し、2つの観察画像を立体画像としてディスプレイ装置211に表示させる。立体画像を表示可能なコンピュータ209a及びディスプレイ装置211としては、アクティブ型あるいはパッシブ型のいずれかの構成が採用される。アクティブ型の構成はディスプレイ装置211にフレーム毎に交互に別々の観察画像を映し出すことができ、観察者Sp1は左右の眼用のフレーム内にフレーム毎に交互にシャッタをオン/オフ可能な偏光部材を備える3D眼鏡を装着することにより、視差のある立体画像を観察することができる。パッシブ型の構成においては、ディスプレイ装置211の画面上に奇数ライン/偶数ラインのフィールド毎に90度偏光方向をずらしたフィルタが配置される。この構成はフィールド毎に別々の観察画像を映し出すことができ、観察者Sp1は左右の眼用のフレーム内に90度偏光方向をずらしたフィルムフィルタを備える3D眼鏡を装着することにより、視差のある立体画像を観察することができる。
【0061】
このような3D眼鏡は、一般的に近赤外光を透過させる性質を有するものが多いので、観察者検出用カメラ5aによる近赤外光を用いた瞳孔検出及び視線検出に支障を与えることはない。また、視力矯正用眼鏡を装着していても3D眼鏡を使用できる。特に、偏光部材を備える3D眼鏡は比較的軽いために、観察者Sp1に与える違和感が少なく、裸眼で立体画像を観察可能なディスプレイ装置を用いなくても、観察者Sp1の負担が少ない状態でリアルな画像を観察可能な立体画像を表示できる。もちろん、ディスプレイ装置211としては裸眼で立体画像を観察可能な立体画像を表示する構成であってもよい。
【0062】
また、コンピュータ209aは、左右の眼用の2つの観察画像を立体画像として表示させる際に、第1実施形態と同様にして、観察者Sp1の左右の瞳孔の三次元位置に応じて、観察画像の歪補正処理を行う機能を有する。これにより、観察者Sp1が、対象物Sp2の画像を歪なく見ることができる。ただし、コンピュータ209aは、左右の瞳孔間中点Pを基準に観察画像の歪を無くすように補正してもよいし(図3)、それに代えて、右の瞳孔の三次元位置P、あるいは左の瞳孔の三次元位置Pを基準に観察画像の歪を無くすように補正してもよい。より正確に歪を補正するという点で、瞳孔の三次元位置P,Pを基準に観察画像の歪を無くすように補正することが好適である。また、後述するように、観察画像を取得する観察画像取得用カメラ205bは観察者Sp1の頭部のロール回転(左右に傾く動き)に応じて2台のステレオカメラが左右に傾く(光軸周りに傾く)ように制御される。その結果、観察画像取得用カメラ205bによって取得される観察画像は、観察画像取得用カメラ205bの傾きに応じてその反対方向に傾いた画像として得られる。そのため、本実施形態では、観察画像において対象物Sp2が静止したように見せるために、観察画像の歪補正処理において観察画像の投影範囲の回転動作は不要である(実行しない)。
【0063】
図11に示すように、観察画像取得用カメラ205bは、対象物Sp2をマーカーMとともに撮影するための左右の2台のカメラ5bを含むステレオカメラの構成を採る。カメラ駆動系207は、2台のカメラ5bを別々にパンチルト可能な2つのパンチルト台219aと、2台のカメラ5bをパンチルト台219aとともにパン/ロールが可能なカメラ制御台219bと、2台のカメラ5bをパンチルト台219a及びカメラ制御台219bとともに移動可能に支持するアクチュエータ13,15,17とにより構成される。カメラ駆動系207は、合計6台のサーボモータを含む。このようなカメラ駆動系207においては、パンチルト台219aにより、一方のカメラ5bを他方のカメラと独立にパン/チルトが可能にされ、カメラ制御台219bにより、2台のカメラ5bの姿勢の関係を保ったままパン/ロールが可能とされ、アクチュエータ13,15,17によって2台のカメラ5bを一体的に移動可能とされる。このような構成により、観察者Sp1の頭部のパンロール回転及び観察者Sp1の左右の眼球のパンチルト回転を再現することができる。なお、観察者Sp1の頭部と眼球の位置及び姿勢の再現性を高めるために、カメラ駆動系207は、2台のカメラ5bの間隔を観察者Sp1の左右の眼球の間隔とほぼ等しくなるように2台のカメラ5bを支持する。
【0064】
コンピュータ209bは、第1実施形態のコンピュータ9bの構成(図4)と同様な機能構成を有する。以下に、コンピュータ209bの機能について第1実施形態との相違点を中心に述べる。
【0065】
カメラ駆動系制御部21は、原点を中点Pとする頭部基準座標系において、左の瞳孔の三次元位置P(X,Y,Z)及び右の瞳孔の三次元位置P(X,Y,Z)の位置関係を利用して、頭部のY軸回り(パン)の回転角度αと、頭部のZ軸周り(ロール)回転角度γを計算する。ここで、頭部基準座標系を、Y軸周りに角度α、Z軸周りに角度γほど回転させ、左右の瞳孔の三次元位置P,Pを原点とする座標系を、それぞれ左右の眼に対応する頭部座標系と定義する。
【0066】
次に、カメラ駆動系制御部21は、計算した頭部の回転角度α,γを基に、頭部座標系を用いて、それぞれの眼球の回転角度を計算する。詳細には、左の瞳孔の三次元位置Pから画面中心点C1に向かう視線ベクトルVを算出する。観察者Sp1が両眼で画面中心点C1を見ている状態を想定した場合、眼球は頭部の回転と反対方向に同じ角度で回転するので、カメラ駆動系制御部21は、回転角度α,γを用いて、視線ベクトルVを反対方向に回転させた視線ベクトルV’を計算する。さらに、カメラ駆動系制御部21は、この視線ベクトルV’を用いて、眼部座標系を基準に、左眼のY軸周り(パン)の回転角度αel及びX軸周り(チルト)の回転角度βelを算出する。同様にして、カメラ駆動系制御部21は、右の瞳孔の三次元位置Pを用いて、右眼のY軸周りの回転角度αer及びX軸周り(チルト)の回転角度βerを算出する。
【0067】
そして、カメラ駆動系制御部21は、計算した回転角度α,γに対応してカメラ制御台219bを回転させるように制御し、計算した回転角度αel,βelに対応して左眼に対応するパンチルト台219aを回転させ、計算した回転角度αer,βerに対応して右眼に対応するパンチルト台219aを回転させるように制御する。また、カメラ駆動系制御部21は、第1実施形態と同様にして、直前の駆動タイミングからの中点Pの移動量を基にアクチュエータ13,15,17の移動量を制御する。ただし、カメラ駆動系207を構成するサーボモータの回転軸とカメラ5bの光学中心の位置とのずれを考慮して、カメラ駆動系制御部21は、パンチルト台219aの駆動に伴う回転後の移動量の誤差を求め、その誤差を打ち消すようにアクチュエータ13,15,17の移動量を補正してもよい。
【0068】
カメラ位置/姿勢検出部25は、2台のカメラ5bによって取得された観察画像を用いて、2台のカメラ5bの位置及び姿勢をフレーム毎にそれぞれ検出する。画像処理部27は、検出されたそれぞれのカメラ5bの位置及び姿勢を基に、それぞれのカメラ5bから出力された観察画像の補正処理を実行する。
【0069】
また、コンピュータ209bは、立体画像を表示させるための2つの観察画像を対象にして次に述べるような処理を実行する機能も有する。
【0070】
すなわち、コンピュータ209bは、2つの観察画像のずらし量を調整して立体画像によって生じる視差を変化させることによって、観察者Sp1に対して与える対象物Sp2に関する遠近感を変更する機能を有する。例えば、ディスプレイ装置211の画面中心点C1から距離Zの手前の位置P1に対象物Sp2が位置するように立体画像を表示させる場合を想定する(図12)。この場合は、カメラ駆動系制御部21は、左右の眼球の回転角度を計算する際には、画面中心点C1に代えて位置P1の座標を用いて計算し、計算した回転角度を用いて左右の眼に対応する2台のパンチルト台219aの回転を制御する。また、カメラ駆動系制御部21は、制御位置の目標値を距離Zだけ対象物Sp2に近づけるようにアクチュエータ13,15,17の移動量を制御する。
【0071】
このとき、画像処理部27は、ディスプレイ装置211に表示させる立体画像の視差を調整する。すなわち、図13に示すように、ディスプレイ装置211の手前の位置P1に対象物Sp2を浮かび上がらせて表示するには、ディスプレイ装置211上において、右の瞳孔Pに向けて投影する観察画像と、左の瞳孔Pに向けて投影する観察画像とを、互いにずらす必要がある。このずらしの量及び方向は、左右の瞳孔P,Pから位置P1に向かうベクトルVNL,VNRのディスプレイ装置211の画面上の交点と、画面中心点C1との関係によって決まる。詳細には、画像処理部27は、図14に示すように、右の瞳孔Pから位置P1に向くベクトルVNRを計算し、このベクトルVNRとディスプレイ装置211の画面との交点の位置P2を計算する。そして、画像処理部27は、位置C1から位置P2に向かうベクトルVを計算してそのベクトルVの大きさ及び方向を基に、右眼に対応する観察画像のずらしの量及び方向を決定し、観察画像をその量及び方向でずらすように補正する。同様にして、画像処理部27は、左眼に対応する観察画像をずらすように補正する。
【0072】
上記のようなコンピュータ209bの機能により、観察者Sp1が移動することなく、対象物Sp2に接近した立体画像を表示させることができる。また、コンピュータ209bは、同様の原理により、ディスプレイ装置211の画面中心点C1から画面の奥側に対象物Sp2が位置するように立体画像を表示させることも可能である。
【0073】
また、対象物Sp2に関する遠近感を変更する際には、コンピュータ209bは、それに対応して観察画像を拡大あるいは縮小する処理を加える機能も有する。すなわち、画像処理部27は、立体画像をディスプレイ装置211の手前に表示させるように視差を変化させた場合には、その際に計算したベクトルVNRと、位置P1から位置P2に向かうベクトルVDRを計算して、下記式;
Rr=(|VNR|+|VDR|)/|VNR
を用いて拡大率Rrを計算する。そして、画像処理部27は、右眼に対応する観察画像を拡大率Rrで拡大するように補正する。同様にして、画像処理部27は、左眼に対応する拡大率Rlを計算して、その拡大率Rlで左眼に対応する観察画像を拡大するように補正する。また、立体画像をディスプレイ装置211の奥側に表示させるように視差を変化させた場合には、画像処理部27は、同様の原理を用いて、両眼に対応する2つの観察画像を縮小するように補正する。このような拡大/縮小の機能により、観察者にとって常に同じ大きさに感じる対象物Sp2の立体画像を表示させることができる(図15図16)。
【0074】
以上説明した画像観察システム201によれば、観察者Sp1の右の瞳孔及び左の瞳孔の三次元位置が検出され、それぞれの三次元位置に基づいて2台のカメラ5bの位置及び姿勢が変更されるように制御され、それに応じて2台のカメラ5bで取得される観察画像を用いて立体画像が表示される。これにより、観察者Sp1がディスプレイ装置11に表示された対象物Sp2と向き合いながら、その時の観察者Sp1の左右の瞳孔の位置に応じて、対象物Sp2の像を様々な位置及び様々な角度から立体感をもって観察させることができる。その結果、観察者Sp1がより一層のリアリティをもって遠隔地の対象物Sp2を観察することができる。
【0075】
ここで、画像観察システム201では、2台のカメラ5bによって取得された観察画像間で観察者Sp1に対して視差を変化させるようにずらし量を調整している。このような構成により、観察者Sp1が立体画像を観察する際に、観察者Sp1が移動することなく対象物Sp2に対して感じる距離感を様々に変化させることができる。さらに、画像観察システム201は、このようなずらし量の調整とともに観察画像を拡大あるいは縮小して立体画像を出力する機能も有している。これにより、観察者Sp1が立体画像を観察する際に対象物Sp2に対して感じる距離感に応じて、対象物Sp2の像の大きさを調整することができる。例えば、観察者Sp1が感じる対象物Sp2の立体像の大きさを常に同じに保つことができる。その結果、対象物Sp2の観察のリアリティをより高めることができる。
【0076】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0077】
例えば、上記第1~第2実施形態で撮像するマーカーMとしては、実際に個別に設置されたマーカーである必要はない。例えば観察画像に含まれる背景画像からマーカーとみなせるような特徴点を抽出して、それをマーカーとして認識してもよい。また、マーカーMは存在していなくてもよく、全体の三次元構造を把握してそれを利用してカメラ姿勢を求めてもよい。
【0078】
また、上記第1~第2実施形態における観察者Sp1側の各装置は観察者Sp1の周囲を取り囲むように複数設けられてもよい。図17は、変形例に係る画像観察システム301の構成を示している。同図に示す画像観察システム301は、ディスプレイ装置211とその下部に固定された観察者検出用カメラ5aとの組が観察者Sp1を取り囲むように複数組設けられている。この画像観察システム301は、観察者Sp1の視線方向が隣接するディスプレイ装置211間を跨いで変化した場合に、その視線方向に対応して、観察画像取得用カメラ205bが対象物Sp2の方向を向くようにその姿勢を変化させる。ただし、画像観察システム301は、常に観察者Sp1の視線の方向と一致するように観察画像取得用カメラ205bの姿勢を変化させてもよい。このような構成によれば、観察者Sp1が様々な方向を向いてもそれに対応して複数の対象物Sp2に観察画像取得用カメラ205bを向けることができる。この場合は、視野角の広いカメラを観察画像取得用カメラ205bの近傍に同じ方向に向けて配置し、ディスプレイ装置211にはその画面の中央付近に観察画像取得用カメラ205bで取得された観察画像を表示させ、その観察画像の周囲に視野角の広いカメラで取得された画像を表示してもよい。このようにすれば、観察者Sp1の視野周辺にも映像が表示されるために臨場感を高めることができる。
【0079】
また、上記第2実施形態における画像観察システム201は、2台のカメラ5bの間隔を様々に変更可能な構成を有していてもよい。カメラの間隔を変化させることでスケール変換が可能となる。例えば、対象物Sp2が小さい物体の場合に2台のカメラ5bの間隔を狭めることによって対象物Sp2に近づいた立体画像を得ることができる。すなわち、スケール変換の度合いに応じて2台のカメラ5bの間隔を変化させることができる。
【0080】
また、図17に示す変形例の構成では観察者Sp1の周囲を囲むようにディスプレイ装置211が設けられているが、観察者Sp1に閉塞感を与えないように図18のような構成に変更されてもよい。すなわち、図18に示す変形例は、観察者Sp1を囲むように湾曲する表示画面を有するディスプレイ装置211と、その表示画面の下部に固定された観察者検出用カメラ5aとを含む。このディスプレイ装置211は、複数設けられてもよい。また、この変形例には、観察者Sp1を載せる台座としての椅子501も含まれ、椅子501には、コンピュータ209aの制御により、ディスプレイ装置211と一体的に回転駆動が可能な駆動機構(図示せず)が設けられている。詳細には、椅子501と、ディスプレイ装置211とは、椅子501に座った状態の観察者Sp1の頭部を上下に貫く回転軸503を中心に一体的に回転可能とされている。ただし、ディスプレイ装置211は、椅子501と必ずしも一体で回転可能とされていなくともよく、両者は別々に回転可能とされていてもよい。また、椅子501は回転駆動されない構成であってもよい。また、ディスプレイ装置211は、画像表示の領域の方向が回転可能とされていればよく、ディスプレイ装置211の代わりにプロジェクタ装置を使用する場合には、プロジェクタ装置が壁またはスクリーンに対して歪補正処理をして投影する表示画像の領域の方向が回転可能とされていればよい。また、本変形例では、表示画像の領域が水平方向に移動可能とされているが、それに加えてあるいはそれに代えて、上下方向に移動可能とされてもよい。なお、図18においては、観察者Sp1に対して遠隔に配置される対象物Sp3,Sp4が、観察画像取得用カメラ205bと対象物Sp3,Sp4との位置関係を観察者Sp1との位置関係に置き換えて仮想的に表示されている。ここで、歪補正処理を行うため、壁またはスクリーンの形状は、円筒形のように湾曲していても、90度の角がある平面でもよい。また、壁またはスクリーンまでの距離が方向によって異なってよい。究極的には、観察者Sp1は、回転するだけでなく、椅子に座ることなく歩くなどして前後左右に移動してもよい。
【0081】
図18の(a)部に示すように、初期状態においては、観察者Sp1がディスプレイ装置211の正面を向いた状態では、観察画像取得用カメラ205bによって対象物Sp3の立体像が観察者Sp1の正面に表示されるようにその姿勢が制御されるとする。このとき、対象物Sp3の右側に対象物Sp4が存在する場合を考える。ディスプレイ装置211の横方向のサイズが小さい場合には、対象物Sp4はディスプレイ装置211には映らない。ディスプレイ装置211が横方向に大きく、かつ、観察画像取得用カメラ205bの視野が広ければ、対象物Sp4を対象物Sp3と同時に表示することが可能である。この場合、コンピュータ209aは、所定の歪補正方法により、観察画像取得用カメラ205bで取得される観察画像を歪補正して自然な画像に修正してからディスプレイ装置211に表示する。
【0082】
また、図18の(b)部に示すように、観察者Sp1が対象物Sp3を見ていた状態から、対象物Sp4を見る状態に変化した場合を想定する。このとき、一般には、観察者Sp1の視線が対象物Sp4に向くと同時に観察者Sp1の顔の向きも対象物Sp4の方に向くことになる。すなわち、観察者Sp1の頭部が回転すると同時に観察者Sp1の眼球が回転して、頭部の回転角度と視線の移動(回転角度)の両方により補い合うように(頭部回転角度と視線回転角度とを合わせた角度が観察者Sp1から見た対象物Sp3と対象物Sp4との間の角度となるように)、観察者Sp1の視線が対象物Sp4の方を向くのが普通である。このような状態変化は、開始から100ms以内に終了するような高速運動になりうるが、もっと遅い場合もある。
【0083】
本変形例のコンピュータ209aは、上述した第1実施形態と同様にして観察者Sp1の頭部の回転及び視線の移動を姿勢の変化として検出し、検出結果を基に、観察者Sp1の視線が捉えている方向にディスプレイ装置211及び椅子501とを同時に回転させるように制御する(図18の(c)部)。その際には、人間の性質として、観察者Sp1は、椅子501の回転に伴って体の回転が生じても、それを相殺するように頭部の回転と視線の移動(回転)とを生じさせ、対象物Sp4の方向を見続けることができる。その結果、観察画像取得用カメラ205bの姿勢も対象物Sp4の方向を向くように制御される。これにより、ディスプレイ装置211の横幅が短い場合に、ディスプレイ装置211が回転する前には対象物Sp4がディスプレイ装置211には映っていなかったのが、回転後にはディスプレイ装置211に表示させることができる。回転中においては、ディスプレイ装置211上にもともと表示されていた対象物Sp3及び対象物Sp4は、ディスプレイ装置211の回転速度に依存して,ディスプレイ装置211上を右から左に移動するように表示される。これにより、観察者Sp1から見た場合に、対象物Sp3及び対象物Sp4を空間に静止しているように表示させることができる。なお、椅子501とディスプレイ装置211の回転制御は、ある程度同期するように行われればよく、あるいは、最終的な回転角度が一致するように行われればよく、完全に同期するように行われる必要はない。本変形例の構成によれば、観察者Sp1の視線移動に関係なしに、対象物Sp3,Sp4を空間内に静止した状態で観察することができ、臨場感(リアル感)を高めることができる。
【0084】
また、上記第2実施形態における画像観察システム201は、遠隔医療の分野に応用されてもよい。例えば、外科手術において使用する内視鏡に小型の観察画像取得用カメラ205bを取り付け、その観察画像取得用カメラ205bを外科医の頭部の動きに合わせて動かすような構成が採用可能である。このような構成にスケール変換の機能を組み込むことで、内視鏡の先端に位置する小型手術器具(例えば、電気メス、ドリルなど)と身体部位の両方を互いの位置関係(奥行き位置の関係)を含めて観察することができる。例えば、国際公開WO2015/016166号公報に記載の内視鏡の構成に第2実施形態の構成を応用することにより、内視鏡を介して画像を取得するステレオカメラの視野方向(光軸)を観察者の頭部の動きに合わせて変更することが可能である。
【0085】
図19には、内視鏡に組み込んだ観察画像取得用カメラ205bの構成の変形例を示している。同図に示す内視鏡401には、照明光を照射するためのライトガイド403と、先端において鉗子405を出し入れするための孔部407と、先端から水、空気等を送り出すためのノズル409とが設けられるとともに、その先端には観察画像取得用カメラ205bを構成するステレオカメラである2つのカメラ5bが埋め込まれている。これらのカメラ5bは、ディスプレイ装置211に対する、外科医等の観察者Sp1の眼部の位置及び観察者Sp1の姿勢に応じてそれらの対物レンズの光軸の位置及び方向が変更されるように制御可能とされる。このような観察画像取得用カメラ205bを含む画像観察システム201の構成は、医師が遠隔地の患者を対象にモニタ上の画像を見ながら手術を行うようなロボット手術に応用することができる。
【0086】
上記第1~第2実施形態及びそれらの変形例の構成は、遠隔地における美術品等の鑑賞のためのシステム、自由に外出できない老人あるいは病人等を対象とした、病院あるいは介護施設等における福祉用機器あるいは監視システム等に応用することができる。また、上記第1~第2実施形態及びそれらの変形例の構成は、バーチャルリアリティ技術を利用したゲーム機器、教育機器、会議システム等にも応用することができる。さらに、人間を模擬した動作が可能なロボット等に上記第1~第2実施形態及びそれらの変形例のカメラ構成を搭載すれば、防災分野での調査・探索、原子力発電所の内部等の危険区域あるいは宇宙空間等での調査・観測の目的に応用することができる。
【0087】
なお、上記第1~第2実施形態及びそれらの変形例では、表示装置として表示画面上から直接画像を投影するディスプレイ装置を使用しているが、表示画面から間接的に画像を投影するプロジェクタ装置等を使用してもよい。
【符号の説明】
【0088】
1,201,301…画像観察システム、Sp1…観察者、5a…観察者検出用カメラ(検出部)、5b,205b…観察画像取得用カメラ、7,207…カメラ駆動系(カメラ制御装置)、9a,9b,209a,209b…コンピュータ(情報処理部)、11,211…ディスプレイ装置(表示装置)、M…マーカー、Sp2…対象物。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
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図19