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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ペリオスチン及びPKM2の分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7028 20060101AFI20230928BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20230928BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230928BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230928BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61K31/7028
A61K38/43
A61K38/02
A61K9/08
A61P43/00 111
A61P21/00
A61P25/00
A61P3/00
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019549111
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2018025119
(87)【国際公開番号】W WO2019077810
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2017201435
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)第40回日本神経科学大会演題抄録、http://www.neuroscience2017.jnss.org/systems.html、掲載日 平成29年7月3日 (2)第40回日本神経科学大会、幕張メッセ、開催日 平成29年7月21日 (3)第40回日本神経科学大会発表内容に関するポスター、幕張メッセ、掲載日 平成29年7月21日 (4)Neuroscience 2017で発表する内容に関する英文抄録 http://www.abstractsonline.com/pp8/#!/4376/presentation/33812 掲載日 平成29年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】東田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】小谷 篤
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0144040(US,A1)
【文献】特表2016-521717(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0166827(US,A1)
【文献】国際公開第2017/121333(WO,A1)
【文献】Food Style 21,2008年,Vol.12,No.7,pp.21-23
【文献】Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology,2010年,Vol.382,No.4,pp.331-345
【文献】Development,Growth & Differentiation,2015年,Vol.57,No.3,pp.200-208
【文献】Journal of Neuroscience,2014年,Vol.34,No.7,pp.2438-2443
【文献】Brain Research,2010年,Vol.1346,pp.224-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-80
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00-9/72
A61P 43/00
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 3/00
A23L 33/00-33/29
A23L 2/00-2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクテオシド、エキナコシド及びこれらの塩から選択された少なくとも1種の成分(A)を含み、ペリオスチン及び/又はピルビン酸キナーゼM2の分泌促進のための剤又は組成物(ただし、(イ)運動機能及び/又は体力の改善及び/又は維持するための剤又は組成物、(ロ)脊髄損傷の治療又は予防のための剤又は組成物、(ハ)筋萎縮性側索硬化症の治療又は予防のための剤又は組成物、(ニ)エキナコシドを含む、神経疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物、及び(ホ)イソアクテオシドを含む、筋疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物である場合を除く)。
【請求項2】
アクテオシド、エキナコシド及びこれらの塩から選択された少なくとも1種の成分(A)を含み、軸索を伸展及び/又は修復させるための剤又は組成物(ただし、(イ)運動機能及び/又は体力の改善及び/又は維持するための剤又は組成物、(ロ)脊髄損傷の治療又は予防のための剤又は組成物、(ハ)筋萎縮性側索硬化症の治療又は予防のための剤又は組成物、(ニ)エキナコシドを含む、神経疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物、及び(ホ)イソアクテオシドを含む、筋疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物である場合を除く)。
【請求項3】
アクテオシド及び/又はその塩と、エキナコシド及び/又はその塩とを含む成分(A)を含み、筋細胞の増殖及び/又は筋萎縮の改善のための剤又は組成物(ただし、(イ)運動機能及び/又は体力の改善及び/又は維持するための剤又は組成物、(ロ)脊髄損傷の治療又は予防のための剤又は組成物、(ハ)筋萎縮性側索硬化症の治療又は予防のための剤又は組成物、(ニ)エキナコシドを含む、神経疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物、及び(ホ)イソアクテオシドを含む、筋疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物である場合を除く)。
【請求項4】
エキナコシド及びその塩から選択された少なくとも1種の成分(A)を含み、アクテオシド及びその塩のいずれも含まず、ペリオスチン及び/又はピルビン酸キナーゼM2の分泌促進のための剤又は組成物(ただし、(ニ)エキナコシドを含む、神経疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物、及び(ホ)イソアクテオシドを含む、筋疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物である場合を除く)。
【請求項5】
エキナコシド及びその塩から選択された少なくとも1種の成分(A)を含み、アクテオシド及びその塩のいずれも含まず、軸索を伸展及び/又は修復させるための剤又は組成物(ただし、(ニ)エキナコシドを含む、神経疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物、及び(ホ)イソアクテオシドを含む、筋疾患の治療及び/又は改善のための剤又は組成物である場合を除く)。
【請求項6】
KM2である成分(B)を含み、軸索の伸展、軸索の修復、筋細胞の増殖、筋肉の増加、及び/又は筋萎縮の改善のための剤又は組成物。
【請求項7】
ペリオスチンである成分(B)を含み、筋細胞(ただし、心筋細胞を除く)の増殖、筋肉の増加、及び/又は筋萎縮の改善のための剤又は組成物。
【請求項8】
筋が骨格筋である、請求項7記載の剤又は組成物。
【請求項9】
成分(B)が生体外に存在するものである請求項6~8のいずれかに記載の剤又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリオスチンやPKM2の分泌(発現)を促進(増大)しうる剤又は組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
脊髄損傷では、外傷性に挫滅あるいは離断した脊髄内で軸索が断裂し、損傷脊髄部位およびその下位脊髄が支配する体幹・上下肢の運動と感覚が機能不全に陥る。
【0003】
脊髄損傷に対する臨床での対処法は、受傷直後のステロイド剤の大量投与であったが、機能回復への実効性は疑問視されており(非特許文献1)、副作用のリスクが大きいため推奨されていないのが現状である。比較的損傷が軽度な場合は、リハビリテーションによる残存機能の強化で機能改善が見られる場合もあるが、受傷後数か月―数年の時期を経た“慢性期”の患者に対しては、機能回復の可能性は極めて低い。
【0004】
近年、神経幹細胞やiPS細胞を応用した再生医療が次世代の脊髄損傷の治療戦略として有望視され、精力的に基礎研究が進められているが(非特許文献2及び3)、マウスでの神経幹/前駆細胞の移植では、受傷後9日後(亜急性期)までの移植では損傷部での軸索伸展および運動機能の回復が認められるのに対し、受傷後42日後(慢性期)の移植では全く無効である(非特許文献4)。
【0005】
慢性期脊髄損傷動物に対して、神経幹/前駆細胞の移植と神経栄養因子の同時処置(非特許文献5)、あるいはChABC*の同時処置(*グリア性瘢痕から分泌される軸索阻害因子のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを分解する酵素)(非特許文献6)、あるいはトレッドミル歩行による運動負荷の同時処置(非特許文献7)が試されているが、機能回復の程度は未だ限定的である。つまり、受傷後慢性期の脊髄損傷の機能回復は依然として極めて困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Lakartidningen (2005) 102, 1887-1888.
【文献】PLoS One(2009)4, e7706; PNAS (2010)107, 12704-12709.
【文献】Cell Res (2013)23, 70-80.
【文献】Molecular Brain(2013)6, 3
【文献】BBRC (2010) 393, 812-817.
【文献】J Neurosci(2010)30, 1657-1676.
【文献】Sci Rep(2016)6, 30898
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ペリオスチンやPKM2(ピルビン酸キナーゼM2、ピルビン酸キナーゼM2アイソザイム)の分泌を促進しうる剤又は組成物等を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、軸索を伸展(伸長)させたり、筋細胞の増殖や筋萎縮を改善(向上)しうる剤又は組成物等を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、種々の症状・疾患の改善や、運動機能や体力の改善(向上)・維持に有用な剤又は組成物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定成分(アクテオシドやエキナコシド)が、ペリオスチンやPKM2の分泌を促進すること、また、意外なことに、このようなペリオスチンやPKM2の分泌を介して、全身性にシグナルが拡散され、特に、筋細胞が増殖されたり、筋肉量が増加したり、軸索(神経突起)の伸展(伸長)が促進されること等を見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明等に関する。
[1]
アクテオシド、エキナコシド及びこれらの塩から選択された少なくとも1種の成分(A)を含み、ペリオスチン及び/又はピルビン酸キナーゼM2の分泌促進のための剤又は組成物。
[2]
アクテオシド、エキナコシド及びこれらの塩から選択された少なくとも1種の成分(A)を含み、筋細胞の増殖、筋肉(又は筋肉量、以下同じ)の増加及び/又は筋萎縮の改善(治療)のための剤又は組成物。
[3]
さらに、軸索を伸展及び/又は修復させるための、[2]記載の剤又は組成物。
[4]
ペリオスチン及びPKM2から選択された少なくとも1種の成分(B)[及びアクテオシド、エキナコシド及びこれらの塩から選択された少なくとも1種の成分(A)]を含み、軸索の伸展、軸索の修復、筋細胞の増殖、筋肉の増加、及び/又は筋萎縮の改善(治療)のための剤又は組成物。
[5]
成分(B)が生体外に存在するものである[4]記載の剤又は組成物。
[6]
下記の(1)~(6)から選択された少なくとも1つの用途に使用するための、[1]~[5]のいずれかに記載の剤又は組成物。
(1)神経疾患の治療及び/又は改善
(2)筋疾患の治療及び/又は改善
(3)サルコペニアの治療及び/又は改善
(4)ロコモーティブシンドロームの治療及び/又は改善
(5)麻痺の治療及び/又は改善
(6)運動機能及び/又は体力の改善(向上)及び/又は維持
[7]
神経疾患、筋疾患、サルコペニア、ロコモーティブシンドローム及び麻痺が、慢性期の症状である[6]記載の剤又は組成物。
[8]
慢性期の脊髄損傷を治療及び/又は改善するための[1]~[7]のいずれかに記載の剤又は組成物。
[9]
成分(A)として、少なくともアクテオシドを含む[1]~[3]及び[6]~[8]のいずれかに記載の剤又は組成物。
[10]
成分(A)を含有する成分として、ニクジュウヨウ成分を含有する[1]~[3]及び[6]~[9]のいずれかに記載の剤又は組成物。
[11]
筋肉注射又は経口用である[1]~[10]のいずれかに記載の剤又は組成物。
[12]
飲食品である[1]~[11]のいずれかに記載の剤又は組成物。
[13]
サプリメント、健康食品、機能性表示食品、栄養機能食品又は特定保健用食品である[1]~[12]のいずれかに記載の剤又は組成物。
[14]
アクテオシド、エキナコシド及びこれらの塩から選択された少なくとも1種の成分(A)[又は成分(A)を含む剤又は組成物]を用いて、ペリオスチン及び/又はピルビン酸キナーゼM2の分泌を促進させる方法。
[15]
アクテオシド、エキナコシド及びこれらの塩から選択された少なくとも1種の成分(A)[又は成分(A)を含む剤又は組成物]を用いて、筋細胞を増殖させる、筋肉を増加(増大)させる及び/又は筋萎縮を改善(治療)する方法。
[16]
さらに、軸索を伸展及び/又は修復させる、[15]記載の方法。
[17]
ペリオスチン及びPKM2から選択された少なくとも1種の成分(B)[及びアクテオシド、エキナコシド及びこれらの塩から選択された少なくとも1種の成分(A)を含む剤又は組成物]を用いて、軸索を伸展、軸索を修復、筋細胞を増殖、筋肉を増加、及び/又は筋萎縮を改善(治療)させる方法。
[18]
成分(B)が生体外に存在するものである[17]記載の方法。
[19]
下記の(1)~(6)から選択された少なくとも1つを含む、[14]~[18]のいずれかに記載の方法。
(1)神経疾患を治療及び/又は改善する
(2)筋疾患を治療及び/又は改善する
(3)サルコペニアを治療及び/又は改善する
(4)ロコモーティブシンドロームを治療及び/又は改善する
(5)麻痺を治療及び/又は改善する
(6)運動機能及び/又は体力を改善(向上)及び/又は維持する
[20]
神経疾患、筋疾患、サルコペニア、ロコモーティブシンドローム及び麻痺が、慢性期の症状である[19]記載の方法。
[21]
慢性期の脊髄損傷を治療及び/又は改善する、[14]~[20]のいずれかに記載の方法。
[22]
成分(A)として、少なくともアクテオシドを含む[14]~[21]のいずれかに記載の方法。
[23]
成分(A)を含有する成分として、ニクジュウヨウ成分を含有する[14]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24]
筋肉注射又は経口投与する、[14]~[23]のいずれかに記載の方法。
[25]
剤又は組成物が飲食品である[14]~[24]のいずれかに記載の方法。
[26]
剤又は組成物が、サプリメント、健康食品、機能性表示食品、栄養機能食品又は特定保健用食品である[14]~[25]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ペリオスチンやPKM2の分泌を促進しうる。そして、本発明者らは、ペリオスチンやPKM2が、筋細胞に対しては増殖作用、神経細胞に対しては軸索伸展作用を有することを確認している。そのため、これらの機能に関連する種々の疾患・症状等の治療及び/又は改善(向上)に有用である。
【0013】
本発明の他の態様では、筋細胞の増殖(又は筋細胞の増殖の促進又は筋肉量の増加)や筋萎縮を改善(向上)しうる。
【0014】
そのため、本発明は、筋細胞の低下や筋萎縮などに起因又は関連する疾患・症状[例えば、神経疾患(脊髄損傷など)、筋疾患、サルコペニア、ロコモーティブシンドローム、麻痺(例えば、手及び/又は足の麻痺、四肢の麻痺)など、特に慢性期におけるこれらの疾患・症状]などの治療ないし改善のために好適に適用しうる。
【0015】
また、筋細胞の増殖を促すため、何らかの症状・疾患に至っているか否かを問わず、運動機能や体力を改善ないし維持しうる。
【0016】
なお、このような筋細胞の増殖等は、ペリオスチンやPKM2(ピルビン酸キナーゼM2)の分泌促進を介して、行われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1のAは、ニクジュウヨウエキスを骨格筋細胞に処置して得た培養上清を神経細胞に処置した時の軸索密度、図1のBは、アクテオシドを骨格筋細胞に処置して得た培養上清を神経細胞に処置した時の軸索密度を示すグラフである。
図2図2のAは、ニクジュウヨウエキスを神経細胞に処置したときの軸索密度、図2のBは、アクテオシドを神経細胞に処置したときの軸索密度を示すグラフである。
図3図3は、ニクジュウヨウエキス又はアクテオシドを骨格筋細胞に処置したときの細胞生存率を示すグラフである。
図4図4は、バッソマウススケール(図4のA)及びトヤママウススケール(図4のB)にて、脊髄を圧挫して作製した慢性期脊髄損傷マウスにニクジュウヨウエキスを筋肉注射したときの後肢運動機能の推移(投与期間35日間)を示すグラフである。
図5図5は、バッソマウススケール(図5のA)及びトヤママウススケール(図5のB)にて、脊髄を圧挫して作製した慢性期脊髄損傷マウスにアクテオシドを筋肉注射したときの後肢運動機能の推移(投与期間35日間)を示すグラフである。
図6図6は、バッソマウススケール(図6のA)及びトヤママウススケール(図6のB)にて、脊髄を完全切断して作製した慢性期脊髄損傷マウスにニクジュウヨウエキスを筋肉注射したときの投与期間中(投与期間56日間)の後肢運動機能の推移を示すグラフである。
図7図7は、脊髄を完全切断して作製した慢性期脊髄損傷マウスの後肢大腿二頭筋にニクジュウヨウエキスを筋肉注射したときの腓腹筋の湿重量を示すグラフである。
図8図8は、バッソマウススケール(図8のA)及びトヤママウススケール(図8のB)にて、脊髄を圧挫して作製した慢性期脊髄損傷マウスにニクジュウヨウエキスを経口投与したときの後肢運動機能の推移を示すグラフである。
図9図9は、脊髄を圧挫して作製した慢性期脊髄損傷マウスにニクジュウヨウエキスを経口投与したときの後肢骨格筋(大腿二頭筋、外側広筋、腓腹筋、前脛骨筋)の湿重量の体重に対する割合(筋湿重量/体重)を示すグラフである。
図10図10は、アクテオシド処置した筋細胞から培養上清中に増加するタンパク質を同定した結果を示すものである。
図11図11は、リコンビナントペリオスチン(図11のA)又はリコンビナントPKM2(図11のB)を神経細胞に処置したときの軸索密度を示すグラフである。
図12図12は、リコンビナントペリオスチン(図12のA)又はリコンビナントPKM2(図12のB)を骨格筋細胞に処置したときの細胞生存率を示すグラフである。
図13図13は、バッソマウススケール(図13のA)及びトヤママウススケール(図13のB)にて、脊髄を圧挫して作製した慢性期脊髄損傷マウスにアクテオシドを筋肉注射したときの後肢運動機能の推移を示すグラフである。
図14図14は、脊髄を圧挫して作製した慢性期脊髄損傷マウスにアクテオシドを筋肉注射したときの後肢骨格筋(大腿二頭筋、外側広筋、腓腹筋、前脛骨筋)の湿重量の体重に対する割合(筋湿重量/体重)を示すグラフである。
図15図15は、脊髄を圧挫して作製した慢性期脊髄損傷マウスにアクテオシドを筋肉注射したときの運動神経細胞上に投射する前シナプスの面積を定量した結果である。
図16図16は、サルコペニアのマウスモデルにニクジュウヨウエキスを経口投与したときのビームテストによる運動機能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<剤・組成物>
本発明の剤又は組成物は、特定の成分(A)[及び/又は成分(B)]を含み、種々の用途において使用可能である。
【0019】
[用途]
本発明の剤又は組成物(第1の態様の剤又は組成物)は、ペリオスチン及び/又はピルビン酸キナーゼM2(PKM2、ピルビン酸キナーゼM2アイソザイム)の分泌促進に有用である。なお、ペリオスチン及び/又はPKM2は、特に限定されないが、特に、筋肉(骨格筋など)又は筋細胞から分泌させてもよい。
【0020】
そして、本発明者らの検討によれば、ペリオスチンやPKM2の分泌により(分泌を介して)、筋細胞が増殖すること、筋肉量が増加することや、軸索が伸展又は修復することを確認している。
【0021】
そのため、第1の態様の剤又は組成物は、後述のように、筋細胞の増殖、筋肉量の増加(増大)や軸索の伸展に関与する症状・疾患等の改善・向上に適用しうる。
【0022】
第2の態様の剤又は組成物は、筋細胞の増殖(増殖の促進)、筋肉量の増加及び/又は筋萎縮の改善(治療)のために有用である。
【0023】
筋細胞や筋萎縮において、対象となる筋肉は、特に限定されないが、特に骨格筋、中でも、運動機能に直結しやすい骨格筋、例えば、手や足の筋肉を少なくとも含んでいてもよい。
【0024】
このような第2の態様の剤又は組成物は、軸索の伸展及び/又は修復機能を有していてもよい。具体的には、第2の態様の剤又は組成物は、神経突起[特に萎縮又は欠損した神経突起(軸索や樹状突起)]の修復や伸展(伸長)のために用いてもよい。
【0025】
第2の態様の剤又は組成物は、上記のように、筋細胞の増殖機能、筋肉量の増大機能、や筋萎縮の改善機能(さらには、軸索の伸展・修復機能)を有しているため、このような機能に関連して、種々の用途に適用可能である。
【0026】
例えば、第2の態様の剤又は組成物は、下記の(1)~(5)から選択された少なくとも1つの用途に使用してもよい。
【0027】
(1)神経疾患の治療及び/又は改善
(2)筋疾患の治療及び/又は改善
(3)サルコペニアの治療及び/又は改善
(4)ロコモーティブシンドロームの治療及び/又は改善
(5)麻痺(手及び/又は足の麻痺、四肢の麻痺など)の治療及び/又は改善
【0028】
神経疾患としては、例えば、脊髄損傷、筋萎縮性脊索硬化症(ALS)などが挙げられる。
【0029】
筋疾患は、筋原性疾患(ミオパチー)、神経原性疾患(ニューロパチー)などであってもよく、特に、筋原性疾患であってもよい。
【0030】
具体的な筋疾患としては、例えば、筋萎縮[例えば、筋原性の筋萎縮(例えば、筋ジストロフィーなど)、神経原性の筋萎縮(例えば、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症など)など]、筋細胞の異常を伴う疾患(例えば、筋ジストロフィー、筋硬直性疾患)、エネルギー代謝の異常を伴う疾患(例えば、ミトコンドリア脳筋症、周期性四肢麻痺など)、神経筋接合部疾患(例えば、重症筋無力症、ランバートイートン(Lambert-Eaton)症候群など)などが挙げられる。
【0031】
また、筋疾患(筋萎縮)には、神経疾患に伴うもの(例えば、脊髄損傷による筋萎縮などの前記神経疾患に伴う筋疾患又は筋萎縮)も含まれる。
【0032】
サルコペニア、ロコモーティブシンドローム及び麻痺の要因(原因)は、特に限定されず、上記神経疾患(脊髄損傷など)や筋疾患(筋原性疾患など)によるものであってもよく、これらによらないものであってもよい。
【0033】
さらに、第2の態様の剤又は組成物は、筋細胞の増殖や筋肉量の増加(さらには軸索の伸展)を促すため、何らかの症状・疾患に至っているか否かを問わず、運動機能や体力を改善ないし維持しうる。そのため、第2の態様の剤又は組成物は、(6)運動機能及び/又は体力の改善(向上)及び/又は維持のために使用してもよい。
【0034】
例えば、第2の態様の剤又は組成物は、(i)上記(1)~(4)のような具体的疾患・症状にある対象(ヒト)の運動機能及び/又は体力を改善(向上)及び/又は維持するために使用してもよく、(ii)上記(1)~(4)以外の疾患・症状にある対象(ヒト)の運動機能及び/又は体力を改善(向上)及び/又は維持するために使用してもよく、(iii)何らかの疾患・症状にない対象(ヒト)の運動機能及び/又は体力を改善(向上)及び/又は維持するため(例えば、老化等に伴う体力の減少の改善及び/向上など)に使用してもよい。
【0035】
なお、上記の第1の態様で記載したように、成分(A)は、ペリオスチンやPKM2の分泌により(分泌を介して)、筋細胞の増殖、筋肉量の増加や、軸索の伸展を実現できる。
【0036】
そのため、第2の態様において、筋細胞の増殖(増殖の促進)、筋肉量の増加及び/又は筋萎縮の改善[さらには、このような機能に関連した上記種々の用途((1)~(6)など)]は、ペリオスチン及び/又はPKM2の分泌を通じて(介して)行われてもよい。
【0037】
本発明の剤又は組成物は、上記のように、種々の症状又は疾患を改善しうるが、このような症状又は疾患(例えば、神経疾患、筋疾患、サルコペニア、ロコモーティブシンドローム、麻痺など)は、慢性期のもの(慢性疾患、慢性症状)であってもよい。なお、慢性期とは、特に限定されず、症状又は疾患等によるが、通常、変動期(急性期、症状が激しい時期)を経過後の状態を言う場合が多い。例えば、脊髄損傷(ヒトの場合)であれば、重傷してから数ヶ月後には、慢性期になる場合が多い。
【0038】
通常、慢性期の症状の治療や改善は困難であるが、本発明の剤又は組成物によれば、慢性期の疾患又は症状(例えば、脊髄損傷、脊髄損傷に伴う筋疾患)であっても、効率よく治療及び/又は改善しうる。
【0039】
[成分(A)]
本発明の剤又は組成物(第1の態様及び第2の態様)は、アクテオシド、エキナコシド及びこれらの塩(特に薬学的に許容される塩)から選択された少なくとも1種の成分(A)を含む。
【0040】
塩としては、特に限定されず、例えば、金属塩[例えば、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩)、周期表第13族金属塩(例えば、アルミニウム塩)、遷移金属塩(例えば、亜鉛などの塩)など]、アンモニウム塩、アミン塩[例えば、アルキルアミン塩(例えば、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩のトリアルキルアミン塩)、アルカノールアミン塩(例えば、モノエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩)、環式アミン塩(例えば、ピリジン塩)]などが挙げられる。
【0041】
特に、成分(A)は、少なくともアクテオシド[Acteoside、ベルバスコシド(Verbascoside)、クサギニン(Kusaginin)]を含んでいてもよい。
【0042】
なお、成分(A)が、アクテオシド及びエキナコシドを含む場合、これらの割合は、特に限定されないが、例えば、アクテオシド/エキナコシド(質量比)=100/1~0.01/1、好ましくは50/1~0.02/1(例えば、30/1~0.03/1)、さらに好ましくは20/1~0.05/1(例えば、15/1~0.07/1)程度であってもよく、10/1~0.1/1(例えば、1/1~0.1/1、0.9/1~0.2/1、0.8/1~0.25/1、0.7/1~0.3/1など)であってもよい。
【0043】
なお、成分(A)は、合成したものを用いてもよく、天然物由来であってもよい。なお、合成方法は、慣用の手法を利用できる。
【0044】
例えば、アクテオシドは、ハマウツボ科の植物(例えば、ニクジュウヨウ(肉従蓉)など)、ジオウ、オリーブ、ヘラオオバコなどに含まれており、このような植物から得てもよい。
【0045】
また、エキナコシド(echinacoside)は、ハマウツボ科の植物(例えば、ニクジュウヨウ(肉従蓉)など)、エキナセア アングスティフォリア(Echinacea angustifolia)、エキナセア パリダ(Echinacea pallida)、エキナセア プルプレア(Echinacea purpurea)などに含まれている。
【0046】
ハマウツボ科の植物、特に、ニクジュウヨウには、アクテオシド(さらにはエキナコシド)に加えて、その他の成分を含んでいる場合が多く、これらを組み合わせて有することと相まってか、本発明の効果を有効に発現しやすい。また、安全性の点においても、ニクジュウヨウ等を好適に使用しうる。
【0047】
そのため、本発明の剤又は組成物は、成分(A)を含有する成分として、特に、ニクジュウヨウ成分などのハマウツボ科植物の成分を含んでいてもよい。
【0048】
ハマウツボ科の植物の成分としては、ハマウツボ科植物、その抽出物(エキス)などが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。具体的には、ニクジュウヨウ成分としては、ニクジュウヨウ、ニクジュウヨウの抽出物(ニクジュウヨウエキス)などが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
【0049】
ハマウツボ科の植物は、根、茎、幹、樹皮、葉、花、果実、果皮、果穂、種子、種皮などの部分を使用してもよく、これらを組み合わせて使用してもよく、全草を使用してもよい。特に、少なくとも茎(肉質茎)を好適に使用してもよい。
【0050】
なお、ニクジュウヨウとしては、特に限定されないが、ホンオニク(Cistanche salsa)、ジュウヨウ(Cistanche deserticola)及び/又はカンカニクジュウヨウ(Cistanche tubulosa)の茎(肉質茎)が挙げられる。
これらの中でも、カンカニクジュウヨウを好適に使用してもよい。
【0051】
エキスは、市販品を利用してもよく、ハマウツボ科の植物(ニクジュウヨウなど)を慣用の方法で抽出処理{例えば、抽出溶媒[例えば、水、アルコール(メタノール、エタノールなど)、これらの混合物など]を用い、常温または加熱下で常法またはそれに準じた方法で抽出処理}することで得ることもできる。
【0052】
抽出物の中でも、特に、成分(A)の含量や濃度が高い部分を分離又は分画して用いてもよい。
【0053】
抽出に際しては、ハマウツボ科の植物(ニクジュウヨウなど)をそのまま又は粉砕(破砕)して供してもよい。また、抽出物は、さらに、濃縮や乾燥(常温乾燥、凍結乾燥など)に供してもよい。
【0054】
ハマウツボ科の植物の成分(ニクジュウヨウ成分など)の形態は、特に限定されないが、例えば、粉状(又は粉粒状)であってもよい。
【0055】
[形態・投与]
本発明の剤又は組成物の形態としては、特に限定されず、成分(A)[及び/又は後述の成分(B)]をそのまま剤(例えば、粉剤)又は組成物としてもよく、他の成分(担体、賦形剤など)とともに製剤化してもよい。
【0056】
他の成分としては、一般に製剤の原料として用いられる成分等が挙げられ、特に限定されず、例えば、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調製剤、防腐剤、抗酸化剤などが挙げられる。これらの他の成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0057】
担体としては、特に限定されないが、例えば、大豆油、牛脂、合成グリセライドなどの動植物油;流動パラフィン、スクワラン、固形パラフィンなどの炭化水素;ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピルなどのエステル油;セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール;シリコン樹脂;シリコーンオイル;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなどの界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースなどの水溶性高分子;エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトールなどの多価アルコール;グルコース、ショ糖などの糖;無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸アルミニウムなどの無機粉体;精製水などが挙げられる。
【0058】
賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素などが挙げられる。
【0059】
結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、トウモロコシデンプンなどが挙げられる。
【0060】
崩壊剤としては、例えば、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、結晶セルロース、沈降炭酸カルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどが挙げられる。
【0061】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、軽質無水ケイ酸、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられ、矯味矯臭剤としては、ココア末、メントール、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末などが用いられる。
【0062】
剤又は組成物の形態(剤形)としては、特に限定されず、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、被覆錠剤、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、カプセル剤、ソフトカプセル剤、シロップ剤、経口液剤、トローチ剤、ゼリー剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、点眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤、外用液剤、スプレー剤、外用エアゾール剤、クリーム剤、ゲル剤、テープ剤、バッカル錠、舌下錠、膣坐剤、膣錠、直腸ソフトカプセル剤等が挙げられる。
【0063】
剤又は組成物の投与(服用)形態は、特に限定されず、経口投与であっても、非経口投与であってもよい。非経口投与としては、例えば、直腸投与、経鼻投与、経肺投与、注射投与(例えば、静脈内投与、脊椎腔内投与、硬膜外腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、動脈内投与、関節内投与、心臓内投与、嚢内投与、皮内投与、病巣内投与、眼内投与、胸腔内投与、くも膜下投与、子宮内投与、脳室内投与)などが挙げられる。
【0064】
特に、成分(A)[及び/又は後述の成分(B)]は、前記のように、筋細胞の増殖や筋肉量の増加を伴う場合が多いため、本発明の剤又は組成物は、筋肉内投与を好適に適用してもよい。一方で、簡便な投与という観点から、経口投与を好適に使用してもよい。
【0065】
本発明の剤又は組成物において、成分(A)[及び/又は後述の成分(B)]の量は、特に限定されず、剤形、投与量等に応じて適宜選択できる。
【0066】
本発明の剤又は組成物の投与量(摂取量、服用量)は、疾患・症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態、塩の種類、疾患の具体的な種類等に応じて異なるが、例えば、1日あたり、成分(A)の量として、0.4~40mg/kg、好ましくは2~20mg/kg、さらに好ましくは4~8mg/kg程度であってもよい。
【0067】
特に、成分(A)を含む成分としてニクジュウヨウエキスを使用する場合、ニクジュウヨウエキスの投与量は、例えば、1~6000mg/kg、好ましくは5~3000mg/kg、さらに好ましくは10~1200mg/kg程度であってもよい。
【0068】
投与は、1回又は複数回に分けてもよい。
【0069】
本発明の剤又は組成物は、医薬又は医薬組成物であってもよく、医薬部外品であってもよい。
【0070】
また、本発明の剤又は組成物は、飲食品の形態であってもよい。そのため、本発明には、成分(A)[及び/又は後述の成分(B)](又は前記剤又は組成物)を含む飲食品も含まれる。また、成分(A)[及び/又は後述の成分(B)](又は前記剤又は組成物)という観点からは、成分(A)[及び/又は後述の成分(B)]は、飲食品の添加剤であってもよい。
【0071】
なお、このような飲食品において、成分(A)の好ましい態様などは、前記と同様であってもよい。
【0072】
飲食品としては、いわゆる健康食品を含む一般食品の他、厚生労働省の保健機能食品制度に規定された特定保健用食品や栄養機能食品などの保健機能食品をも含むものであり、さらに、サプリメント(栄養補助食品)、飼料、食品添加物なども本発明の飲食品に包含される。
【0073】
また、飲食品は、特定の対象者用[例えば、高齢者用、患者又は病者用(例えば、神経疾患、筋疾患、サルコペニア、ロコモーティブシンドローム、麻痺などの(前記例示の疾患又は症状など)を有する患者用)など]の飲食品であってもよい。
【0074】
成分(A)を飲食品に使用するには、そのまま、または種々の栄養成分等とともに加工肉、清涼飲料などの飲食品の原料に混ぜて飲食品を製造することができる。
【0075】
また、成分(A)を、健康食品、栄養補助食品などとして使用する場合、例えば、慣用の手段を用いて、錠剤、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセルなど)、散剤、顆粒、液剤(懸濁剤、シロップ剤など)、乳剤、ゼリー、スティック状などの形態に調製することができる。また、錠剤には、崩壊錠(口腔内崩壊錠)も含まれる。
【0076】
飲食品は、食品添加剤(食品用添加剤)を含んでいてもよい。食品添加剤としては、特に限定されないが、例えば、賦形剤(例えば、コムギデンプン、トウモロコシデンプン、セルロース、乳糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、アルファー化デンプン、カゼイン、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウムなど)、結合剤(例えば、アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど)、崩壊剤(例えば、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプンなど)、流動化剤(例えば、軽質無水ケイ酸、ショ糖脂肪酸エステルなど)、油(例えば、大豆油、ゴマ油、オリーブ油、亜麻仁油、エゴマ油、ナタネ油、ココナッツ油、トウモロコシ油などの植物油又は動物・魚由来の油)、栄養素(例えば、各種ミネラル、各種ビタミン、アミノ酸)、香料、甘味料、矯味剤、着色料、溶媒(エタノール)、塩類、界面活性剤、pH調節剤、緩衝剤、抗酸化剤、安定化剤、ゲル化剤、増粘剤、滑沢剤、カプセル化剤、懸濁剤、コーティング剤、防腐剤などが挙げられる。
【0077】
食品添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0078】
成分(A)を飲食品添加剤として用いる場合、飲食品としては、特に限定されないが、例えば、食品[例えば、麺類(そば、うどん、中華麺、即席麺など)、菓子類(飴、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子(ポテトチップなど)、ビスケット、クッキー、グミ、ゼリー、ジャム、バター、クリーム(シュークリームなど)、ケーキなど)、パン類、水産又は畜産加工食品(かまぼこ、ハム、ソーセージなど)、乳製品(加工乳、発酵乳など)、油脂および油脂加工食品(サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシングなど)、調味料(ソース、たれなど)、レトルト食品(カレー、シチュー、丼、お粥、雑炊など)、冷菓(アイスクリーム、シャーベット、かき氷など)、揚げ物(コロッケ、フライドポテト、フライドチキンなど)など]、飲料(茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料など)などが挙げられる。
【0079】
上記の飲食品における成分(A)の配合量は、添加形態及び投与形態によっても異なり、広い範囲から選択できるが、例えば、0.0001重量%以上(例えば、0.001~50重量%)、0.003重量%以上(例えば、0.005~30重量%)、0.01重量%以上(例えば、0.05~10重量%)などであってもよい。
【0080】
なお、飲食品において、成分(A)の摂取量(又は投与量又は服用量)は、前記と同様の範囲から選択できる。
【0081】
<方法、その他の剤又は組成物>
本発明の剤又は組成物(又は成分(A))は、上記の通り、種々の用途に適用可能である。そのため、本発明には、当該用途に対応した方法も包含する。
【0082】
まず、第1の方法では、成分(A)(又は前記剤又は組成物)により、ペリオスチン及び/又はPKM2を分泌させる(ペリオスチン及び/又はPKM2の分泌を促進させる)。
【0083】
なお、前記のように、ペリオスチン及び/又はPKM2により、筋細胞が増殖したり、筋肉が増加したり、軸索が伸展又は修復する。そのため、本発明には、下記発明も包含する。
【0084】
(i)ペリオスチン及びPKM2から選択された少なくとも1種の成分(B)を含み、筋細胞の増殖、筋肉の増加(増大)、及び/又は筋萎縮の改善(治療)のための剤又は組成物。
【0085】
(ii)ペリオスチン及びPKM2から選択された少なくとも1種の成分(B)を含み、軸索を伸展及び/又は修復するための剤又は組成物。
【0086】
(iii)ペリオスチン及びPKM2から選択された少なくとも1種の成分(B)を用いて(又は成分(B)を分泌させ)、筋細胞を増殖させる、筋肉を増加(増大)させる及び/又は筋萎縮を改善(治療)する方法。
【0087】
(iv)ペリオスチン及びPKM2から選択された少なくとも1種の成分(B)を用いて(又は成分(B)を分泌させ)、軸索を伸展及び/又は修復する方法。
【0088】
これらの剤又は組成物や方法では、前記のように、これらに対応する疾患や症状の改善(例えば、下記(1)~(6))などに利用できる。
【0089】
(1)神経疾患の治療及び/又は改善
(2)筋疾患の治療及び/又は改善
(3)サルコペニアの治療及び/又は改善
(4)ロコモーティブシンドロームの治療及び/又は改善
(5)麻痺の治療及び/又は改善
(6)運動機能及び/又は体力の改善(向上)及び/又は維持
【0090】
このような剤又は組成物及び方法において、ペリオスチンやPKM2は、生体内に分泌させたものであってもよく、生体外に存在するもの(生体外にて合成したものなど)であってもよい。例えば、ペリオスチンやPKM2は、リコンビナント(組換え体)であってもよく、有機化学的手法により合成されたものであってもよい。
また、上記剤又は組成物及び方法では、成分(B)を少なくとも使用すればよく、成分(A)と成分(A)とを併用してもよい。
【0091】
第2の方法では、成分(A)(又は前記剤又は組成物)を用いて(例えば、投与し)、筋細胞を増殖させる、筋肉を増加(増大)させる及び/又は筋萎縮を改善(治療)する。この方法では、さらに、軸索を伸展及び/又は修復させてもよい。そして、この方法は、例えば、これらに対応する疾患や症状の改善(例えば、前記(1)~(6))などに利用できる。
【0092】
なお、第2の方法では、ペリオスチン及び/又はPKM2の分泌を通じて(介して)、筋細胞を増殖させて、筋肉を増加(増大)させて及び/又は筋萎縮を改善(治療)してもよい。
【0093】
なお、上記剤又は組成物、方法等において、投与方法等の態様は、前記と同様であってもよい。
例えば、成分(B)の量(投与量、服用量)は、0.1~50mg/kg、0.5~10mg/kg、1~5mg/kgなどであってもよい。より具体的な成分(B)の投与量として、0.1~0.5mg/kg、1~5mg/kg、10~50mg/kgなどを選択することもできる。
【実施例
【0094】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0095】
<ニクジュウヨウエキス>
ニクジュウヨウエキスはニクジュウヨウ(栃本天海堂、大阪)に20倍量の水を加え、煎じ器(ウチダ和漢薬、東京)を用いて抽出を行った。生薬に加えた水が沸騰するまで強火で加熱し(10~15分)、その後、とろ火での加熱を総加熱時間1時間になるまで続けた。ろ液を濾した後、熱時綿栓濾過し、ろ液を室温で放冷後、液体窒素で凍結させた。凍結乾燥器にて乾燥させた粉末をエキス粉末とし(収率40.8%)、生理食塩水に溶解してニクジュウヨウエキスを得た。
なお、ニクジュウヨウエキスにおいて、アクテオシドの含有量は0.21重量%、エキナコシドの含有量は0.35重量%であった。
【0096】
<アクテオシド>
アクテオシド(Acteoside、別名:verbascoside、kusaginin)は、市販品(Extrasynthesis社、仏国)を生理食塩水に溶解して使用した。
【0097】
<供試動物>
(1)脊髄損傷モデルマウス:ddYマウスを、日本SLC(浜松、日本)から得た。本実施例においては、雌性かつ8週齢のddYマウスを用いた。
(2)初代培養骨格筋細胞用のマウス:生後3日目のddYマウスを用いた。
(3)初代培養神経細胞用のマウス:胎生14日齢のddYマウスを用いた。
全てのマウスは、固形飼料と水を自由に摂取させ、22±2℃、50±5%の湿度、午前7時から始まる12時間の明暗サイクルで制御された環境で飼育した。
【0098】
<マウス骨格筋細胞の初代培養>
生後3日目のddYマウスを麻酔下におき左右後肢の骨格筋全体を摘出した。細かく切断した筋組織を分解液(HBSS緩衝液中に、1mg/mL collagenase、0.02mg/mL dispase I、2.5mM塩酸カルシウム)に加え、37℃で1時間インキュベートした。遠心分離後の沈渣に、筋細胞増殖培地(Myocyte Growth Medium、Promo cell、独国)を加えて、パスツールピペットによるピペッティングにより細胞塊がほぼ見えなくなるまで細胞を穏やかに懸濁した後、70μmのナイロン製セルストレーナー(nylon cell strainer、Falcon、米国)で濾過した。細胞の培養は8ウェルのチャンバースライド(Falcon)、白色96ウェルプレート、6cm培養皿(Falcon)で行った。
細胞増殖活性を評価する場合には、白色96ウェルプレートに筋細胞を1,000cells/wellの密度で播種し、3日間の薬物処置後、CellTiter-Glo試薬(Promega、米国)によって生存細胞を測定した。
【0099】
<マウス大脳皮質神経細胞の初代培養>
胎生14日齢のddYマウス胎児の大脳皮質を安全キャビネット内で約1mm角に切断した。700rpmで3分間遠心した後、上清を除去し、沈殿物に0.05%トリプシン-0.53mM EDTA溶液(ライフテクノロジーズ)を2mL加え、懸濁した。37℃で15分間、5分置きに攪拌しながらインキュベーションし、培地を4mL加え、700rpmで3分間遠心して上清を除去し、沈殿に600U/mL DNase I(ライフテクノロジーズ)-0.03%トリプシンインヒビター(ライフテクノロジーズ)-PBS溶液を2mL加え、懸濁した。さらに、37℃で15分間、5分置きに攪拌しながらインキュベーションし、培地を4mL加え、700rpmで3分間遠心した。沈渣にカルシウム・マグネシウム不含HBSS(Hank’s balanced salt solution)を4mL加え700rpmで3分間遠心した。沈渣に培地を4mL加えた。先端を炙りなめしたパスツールピペットで細胞塊が見えなくなるまで穏やかに懸濁した後、70μmのナイロン製セルストレーナー(nylon cell strainer、Falcon)で濾過した。細胞の培養は8ウェルチャンバースライド(Falcon)で行った。前日にコーティング[Poly-D-リシン(Lysine)(PDL,Sigma-Aldrich)をPBSで0.005mg/mLに希釈したものをまき、37℃でインキュベーションしたもの。培養当日に滅菌精製水で2回洗浄。]したものに細胞を播種した。37℃、10%CO、飽和水蒸気下で培養を開始し、5時間後に培地を全量、馬血清の代わりにB-27サプリメント(Invitrogen)を含む新しい培地で交換した。ならし培地(Conditioned medium)あるいは薬物処置後に、軸索伸展の評価においては免疫染色を実施した。
【0100】
免疫染色は、薬物処置期間終了後、培地を除いてPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA,和光純薬)-PBS溶液を加え、2時間室温で静置し、細胞を固定した。0.3%トリトン(triton)X-100(和光純薬)-PBS溶液で5分間の洗浄を2回行った。その後、1次抗体溶液[0.3%トリトンX-100-PBS溶液、 1%正常ヤギ血清(normal goat serum、NGS、和光純薬)、1次抗体]を加え、4℃で一晩反応させた。
【0101】
1次抗体には、マウス抗リン酸化型NF-Hモノクローナル抗体(1:250)(COVANCE, Emeryville, CA, USA)、ウサギ抗MAP2ポリクローナル抗体(1:2000)(abcam, Cambridge、英国)を用いた。翌日、1次抗体溶液を除き、0.3%トリトンX-100-PBS溶液で5分間の洗浄を2回行った後、2次抗体溶液[0.3%トリトンX-100-PBS溶液,Alexa Fluor 594標識ヤギ抗マウスIgG抗体(1:200)(Molecular Probes, Eugene, OR, USA)、Alexa Fluor 488 標識 ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:200)(Molecular Probes, Eugene, OR, USA)]を加え、遮光下の室温で2時間反応させた。反応後、2次抗体溶液を除き、PBSで5分間、2回洗浄し、DAPI染色で核を染めた後、Aqua Poly Mount(Polysciences, Warrington, USA)で封入した。
【0102】
蛍光顕微鏡(Cell Observer、Carl Zeiss、独国)を用いて、各薬物処置を施したウェル(well)から倍率10倍-20倍の対物レンズで画像を取得した。それらの画像について、画像解析ソフトMetaMorph(モレキュラーデバイス,東京)を用いて、画面全体のpNF-H陽性の軸索の長さと、各画像内のMAP2陽性神経細胞を計測し、1神経細胞あたりの軸索の長さを算出した。
【0103】
<脊髄損傷(SCI)マウス:圧挫モデル>
8-10週齢の雌のddYマウスに挫傷を施した。すなわち、常法に従ってマウスの第8~9腰椎を切除し、第11~12胸髄へ定位固定装置(ナリシゲ社製)を用いて高さ3cmから6.5gの重りを一度落下させることにより挫傷を与えた。その後、常法に従って縫合などの外科的処置を施した。以下、このマウスをSCI圧挫モデルと称する。なおマウスは、餌と水を自由に摂取できる状態で、一定の環境条件(22±2℃、50±5%湿度、午前7時から開始される12時間の明暗サイクル)下で維持した。
【0104】
<脊髄損傷(SCI)マウス:完全切断モデル>
8週齢の雌のddYマウスの第10腰椎を切除し、第1腰髄を露出させマイクロシーザーズで完全に垂直切断した。その後、常法に従って縫合などの外科的処置を施した。以下、このマウスをSCI完全切断モデルと称する。なおマウスは、餌と水を自由に摂取できる状態で、一定の環境条件(22±2℃、50±5%湿度、午前7時から開始される12時間の明暗サイクル)下で維持した。
【0105】
<TMSによる後肢運動機能の評価>
エキス等の投与後のマウスを個別にオープンフィールド(42cm×48cm×15cm)に移動させ、5分間観察し、後肢運動機能を評価した。脊髄損傷のモデル試験における後肢の運動機能を評価する基準として一般的に用いられるバッソマウススケール(Basso Mouse Scale:BMS、Engesser-Cesar C, Anderson AJ, Basso DM et al. (2005).)と、試験の精度を高めるために本発明者らがBMSに改変を加えた0~30ポイントのトヤママウススケール(Toyama Mouse Scale、TMS)を用いて、オープンフィールドにおける移動行動を評価とした。
【0106】
<統計処理>
本実施例において、得られた結果は以下の統計処理を行った:
一元配置分散分析(one-way ANOVA)、事後ダネット(Dunnett)検定、及び対応t-検定は、グラフパッド5(Graphpad Prism 6) (グラフパッドソフトウエア(Graphpad Software)社、ラホヤ(La Jolla)、カリフォルニア州、米国)を用いて行った。P<0.05,**P<0.01,***P<0.001は統計学的に有意とし、平均値は標準誤差とともに示す。
【0107】
1.軸索伸展作用
(1-1)初代培養マウス骨格筋細胞を薬物処置して得た、培養上清(conditioned medium)を、初代培養マウス大脳皮質神経細胞に処置し、軸索伸展作用を調べた結果を図1に示す。なお、図中の白カラムは溶媒(滅菌水)を骨格筋細胞に処置して得たconditioned mediumを神経細胞に処置したものである。
【0108】
図1のAは、ニクジュウヨウエキス(培地中の最終濃度:10μg/mL、100μg/mL)を骨格筋細胞に処置した結果であり、そのconditioned mediumによって、ニクジュウヨウエキス処置群において有意に軸索密度が増加したことがわかる。
【0109】
また、図1のBは、アクテオシド(培地中の最終濃度:1nM、100nM、1000nM)を骨格筋細胞に処置した結果であり、そのconditioned mediumによって有意に軸索密度が増加したことがわかる。
【0110】
(1-2)初代培養マウス大脳皮質神経細胞に、直接、薬物を処置し、軸索伸展作用を調べた結果を図2に示す。なお、図中の白カラムは薬物の代わりに溶媒(滅菌水)を培地に加えて処置した。
【0111】
図2のAは、ニクジュウヨウエキス(培地中の最終濃度:10μg/mL)を神経細胞に処置した結果であり、軸索伸展増加傾向が認められた。
【0112】
図2Bは、アクテオシド(培地中の最終濃度:1μM)を神経細胞に処置した結果であり、有意な軸索伸展作用が認められた。
【0113】
2.筋細胞の増殖
初代培養マウス骨格筋細胞に薬物を処置し、筋細胞の増殖作用を調べた結果を図3に示す。
【0114】
図3の結果から明らかなように、ニクジュウヨウエキス(培地中の最終濃度:1、100、100μg/mL)処置、アクテオシド(培地中の最終濃度:1、100、1000nM)処置いずれにおいても、骨格筋細胞の増殖が有意に促進した。なお、IGF-1は陽性コントロールとして用いた。
【0115】
3.脊髄損傷により低下した慢性期における運動機能の改善
(3-1)マウスに圧挫による脊髄損傷を与え、45日間経過後、いわゆる受傷後慢性期になってから後肢大腿二頭筋にニクジュウヨウエキスを筋肉注射し(2.0mg/肢、左右後肢へ筋肉注射、3回/週)、35日間にわたる薬物投与期間中の後肢運動機能の推移を調べた。結果を図4に示す。
【0116】
図4Aは、バッソマウススケール(Basso Mouse Scale、BMS)で評価した結果であり、ニクジュウヨウエキス注射群で運動機能が改善する傾向が示された。
【0117】
図4Bは、トヤママウススケール(Toyama Mouse Scale、TMS)で評価した結果であり、ニクジュウヨウエキス投与群が有意に後肢運動機能の改善を示した。
【0118】
(3-2)マウスに圧挫による脊髄損傷を与え、45日間経過後、いわゆる受傷後慢性期になってから後肢大腿二頭筋にアクテオシドを筋肉注射し(0.1mg/肢、左右後肢へ筋肉注射、3回/週)、35日間にわたる薬物投与期間中の後肢運動機能の推移を調べた。結果を図5に示す。
【0119】
図5AはBMS、図5BはTMSで評価した結果であり、いずれにおいても、アクテオシド注射群で有意な後肢運動機能改善効果が認められた。
【0120】
(3-3)マウスに完全脊髄切断による損傷を与え、35日間経過後、いわゆる受傷後慢性期になってから後肢大腿二頭筋にニクジュウヨウエキスを筋肉注射し(2.0mg/肢、左右後肢へ筋肉注射、3回/週)、56日間にわたる薬物投与期間中の後肢運動機能の推移を調べた。結果を図6に示す。
【0121】
図6AはBMS、図6BはTMSで評価した結果であり、いずれにおいても、ニクジュウヨウエキス注射群で有意な後肢運動機能改善効果が認められた。
【0122】
4.筋重量の増加
マウスに完全脊髄切断による損傷を与え、35日間経過後、いわゆる受傷後慢性期になってから後肢大腿二頭筋にニクジュウヨウエキスを筋肉注射し(2.0mg/肢、左右後肢へ筋肉注射、3回/週)、56日間にわたる薬物投与後の腓腹筋の湿重量を調べた。結果を図7に示す。
【0123】
図7の結果から明らかなように、未切断群と比べて、切断群の生理食塩水投与マウスでは著しく骨格筋重量が減少していた。しかし、ニクジュウヨウエキス注射により、腓腹筋重量の増加が認められた。
【0124】
5.経口投与
(5-1)マウスに圧挫による脊髄損傷を与え、51日間経過後、いわゆる受傷後慢性期になってからニクジュウヨウエキスを経口投与し、脊髄損傷受傷後から薬物投与終了までの後肢運動機能の推移を調べた。なお、投与量は500mg/kg/日とし、138日間の投与を行った。結果を図8に示す。
【0125】
図8AはBMS、図8BはTMSで評価した結果である。いずれにおいても、ニクジュウヨウエキス経口投与群で有意な後肢運動機能改善効果が認められた。
【0126】
(5-2)マウスに圧挫による脊髄損傷を与え、51日間経過後、いわゆる受傷後慢性期になってからニクジュウヨウエキスを胃ゾンデにて経口投与し、薬物投与終了後の後肢骨格筋(大腿二頭筋、前脛骨筋、外側広筋、腓腹筋)の湿重量を調べ、体重に対する割合(筋湿重量/体重)を算出した。なお、投与量は500mg/kg/日とし、138日間行った。
結果を図9に示す。図9において、Shamは、偽手術群、SCI/Vehは脊髄損傷群に溶媒投与、SCI/NJは脊髄損傷群にニクジュウヨウエキス投与を示す。溶媒は滅菌水であり、ニクジュウヨウエキスを滅菌水に5質量%を溶解したものを投与した。
【0127】
図9の結果から明らかなように、腓腹筋、前脛骨筋において、有意な筋重量増加が認められた。また、外側広筋、大腿二頭筋においてもニクジュウヨウエキス投与による筋重量増加傾向が見られた。
【0128】
6.ペリオスチン及びPKM2の分泌促進
初代培養マウス骨格筋細胞をアクテオシド処置して得たconditioned mediumに増加するタンパク質を同定した。結果を図10に示す。
【0129】
図10Aは、アクテオシドを骨格筋細胞に処置して得たconditioned mediumを電気泳動し、銀染色した結果である。2か所のバンドがアクテオシドの用量依存的に増加した。
このバンドをそれぞれゲルごと切り出し、ゲル内トリプシン消化の後、nano LC-MS/MS解析を実施した。ペプチド断片の質量パターンの結果より、2本のバンドは、ペリオスチンとPKM2である可能性が示された。
【0130】
図10Bは、アクテオシドを骨格筋細胞に処置して得たconditioned mediumをペリオスチンの抗体でウェスタンブロッティングした結果、図10Cは、アクテオシドを滅菌水に溶解し培地に加えて骨格筋細胞に処置して得たconditioned mediumをPKM2の抗体でウェスタンブロッティングした結果である。アクテオシドを骨格筋細胞に処置して得たconditioned medium中に、確かにペリオスチンとPKM2が増加していることが確認できた。
【0131】
7.ペリオスチン・PKM2による機能
(7-1)初代培養マウス大脳皮質神経細胞にリコンビナントペリオスチン又はリコンビナントPKM2(いずれも市販品)処置し、軸索伸展作用を調べた。図11に結果を示す。
【0132】
図11Aは、リコンビナントペリオスチンを滅菌水に溶解し培地に加えて神経細胞に処置した結果であり、軸索伸展作用が有意に見られた。
【0133】
図11Bは、リコンビナントPKM2を滅菌水に溶解し培地に加えて神経細胞に処置した結果であり、10,100,1000ng/mlの用量において有意な軸索伸展作用が認められた。
【0134】
(7-2)初代培養マウス骨格筋細胞にリコンビナントペリオスチンまたはリコンビナントPKM2(いずれも市販品)を処置し、細胞増殖作用を調べた。結果を図12に示す。
【0135】
図12Aは、リコンビナントペリオスチンを滅菌水に溶解し培地に加えて骨格筋細胞に処置した結果であり、有意に増殖が促進されていた。
【0136】
図12Bは、リコンビナントPKM2を滅菌水に溶解し培地に加えて骨格筋細胞に処置した結果であり、有意に増殖が促進されていた。
【0137】
8.アクテオシドによる慢性期脊髄損傷マウスの運動機能改善、筋萎縮改善および運動神経への前シナプス投射の増加
(8-1)マウスに圧挫による脊髄損傷を与え、30日間経過後、いわゆる受傷後慢性期になってからアクテオシドを筋肉注射し(0.2mg/肢、左右後肢へ筋肉注射、3回/週)、脊髄損傷受傷後から薬物投与終了までの後肢運動機能の推移を調べた。なお、投与期間は62日間とした。結果を図13に示す。
【0138】
図13AはBMS、図13BはTMSで評価した結果である。いずれにおいても、アクテオシド筋肉注射群で有意な後肢運動機能改善効果が認められた。
【0139】
(8-2)マウスに圧挫による脊髄損傷を与え、30日間経過後、いわゆる受傷後慢性期になってからアクテオシドを筋肉注射し(0.2mg/肢、左右後肢へ筋肉注射、3回/週)、薬物投与終了後の後肢骨格筋(大腿二頭筋、前脛骨筋、外側広筋、腓腹筋)の湿重量を調べ、体重に対する割合(筋湿重量/体重)を算出した。なお、投与期間は62日間とした。
結果を図14に示す。図14において、Shamは偽手術群、SCI/Vehは脊髄損傷群に溶媒投与、SCI/ACは脊髄損傷群にアクテオシド投与を示す。溶媒は生理食塩水とした。
【0140】
図14の結果から明らかなように、大腿二頭筋、前脛骨筋において、有意な筋重量増加が認められた。また、外側広筋、腓腹筋においてもアクテオシド投与による筋重量増加傾向が見られた。
【0141】
(8-3)マウスに圧挫による脊髄損傷を与え、30日間経過後、いわゆる受傷後慢性期になってからアクテオシドを筋肉注射し(0.2mg/肢、左右後肢へ筋肉注射、3回/週)、薬物投与終了後の脊髄組織のうち大腿二頭筋、前脛骨筋、外側広筋、腓腹筋へ投射する運動神経が局在する腰髄部を摘出した。14μm厚の連続矢状断切片を作製し、運動神経マーカーのcholine acetyltransferaseに対する抗体、前シナプスマーカーのsynaptophysinに対する抗体による免疫染色を行った。運動神経細胞上に投射する前シナプスの面積を定量した。結果を図15に示す。図15において、Shamは偽手術群、SCI/Vehは脊髄損傷群に溶媒投与、SCI/ACは脊髄損傷群にアクテオシド投与を示す。溶媒は生理食塩水とした。
【0142】
図15の結果から明らかなように、アクテオシド投与により、運動神経細胞へ投射する前シナプスが増加した。
【0143】
9.ニクジュウヨウエキスによる筋萎縮マウスの運動機能改善
(9-1)マウスの両後肢の関節を伸展位で固定するキャストを装着し、12日後にキャストを外した。これは、キャスト未装着群(偽手術群)と比較してキャスト装着群では有意な骨格筋の萎縮が認められる、サルコペニアのマウスモデルである。キャスト装着期間中、ニクジュウヨウエキスを毎日経口投与した。投与量は50mg/kg/日、および100mg/kg/日とした。キャストを外した翌日、ビームテストによる運動機能の評価を行った。結果(ニクジュウヨウエキスを滅菌水に溶解し、筋萎縮マウスに経口投与した13日目の運動機能の結果)を図16に示す。ビームテストは幅5mm、9mm、12mmのバーの上をマウスが歩行する様子を観察し、左右の後肢が滑り落ちる頻度をスコア化して総得点を算出するもので、点数が高いほど失敗なく歩行できることを示す。
【0144】
図16の結果から明らかなように、ニクジュウヨウエキスにより、筋萎縮マウスの運動機能に、有意な改善作用が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明では、筋細胞の増殖、筋肉の増加や、ペリオスチンやPKM2の分泌に有用な剤又は組成物等を提供できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16