(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】処理装置及び処理方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20230928BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20230928BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20230928BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230928BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20230928BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C01B3/02 H
B01J19/08 A
C25B1/04
C25B9/65
(21)【出願番号】P 2021051177
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 尚博
(72)【発明者】
【氏名】ボルデ ランジット
(72)【発明者】
【氏名】石川 健治
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】細江 広記
(72)【発明者】
【氏名】伊能 悟
(72)【発明者】
【氏名】井上 陽介
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/241656(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/241802(WO,A1)
【文献】特開2019-065350(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105858982(CN,A)
【文献】特表2017-534764(JP,A)
【文献】特開2006-257480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
C01B 3/00-3/58
B01J 19/08-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極の間にパルス電圧を印加するパルス供給部と、
を備え、
前記第1電極と前記第2電極は電気分解する液体中にあり、
前記液体は、水、エタノール、又は水とエタノールの混合物であり、
前記パルス供給部は、
パルス電源と、前記パルス電源に直列に接続されたダイオードとを含み、前記第1電極に
水、エタノール、又は水とエタノールの混合物から水素イオンを発生させるために必要な電圧よりも高い電圧の急峻な正方向の高電圧パルスを印加した直後に、前記第1電極に負方向の電圧パルスを印加して前記第2電極から前記第1電極に向かって電流を流すことにより、前記正方向の高電圧パルスにより前記液体中で生じた水素イオン
から前記第1電極の表面
近傍で水素を発生させる機能を有し、
前記ダイオードは、正方向の高電圧パルスが印加された後、負方向に電圧パルスが印加されたときに、逆回復となだれ降伏特性により逆電流を流す機能と、正方向の高電圧パルスによって生じた水素イオンが前記第1電極から電子を受け取って水素になるのに必要な逆電流を供給することが可能な逆回復特性及び逆方向電流耐量とを有する
処理装置。
【請求項2】
前記液体中にOHラジカルを発生する
請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
水、エタノール、又は水とエタノールの混合物を含む液体中にある第1電極と第2電極の間に
水、エタノール、又は水とエタノールの混合物から水素イオンを発生させるために必要な電圧よりも高い電圧の急峻な正パルス電圧を印加することにより、前記液体に含まれる
水、エタノール、又は水とエタノールの混合物から水素イオンを発生させるステップと、
前記第1電極と前記第2電極の間に
前記正パルス電圧を印加した直後に負パルス電圧を印加
するステップと、
前記正パルス電圧を供給するためのパルス電源に直接に接続されたダイオードの逆回復となだれ降伏特性により前記第2電極から前記第1電極に向かって電流を流すことにより、前記液体中で
生じた水素イオンから前記第1電極の表面
近傍で水素を発生させるステップと、
を備え
、
前記ダイオードは、前記正パルス電圧が印加された後、前記負パルス電圧が印加されたときに、逆回復となだれ降伏特性により逆電流を流す機能と、前記正パルス電圧によって生じた水素イオンが前記第1電極から電子を受け取って水素になるのに必要な逆電流を供給することが可能な逆回復特性及び逆方向電流耐量とを有する
液体の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は液体を処理するための処理装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空間内に含まれる物質を改質する方法として、電極空間において低温プラズマを発生させる方法などが用いられる(例えば、特許文献1参照)。処理速度を向上させるために、液体をプラズマ中に投入して水素等を生成する方法も試行されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-165062号公報
【文献】特開2006-257480号公報
【文献】特開2019-210491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、物質を改質する効率を更に向上させることを課題として認識し、本開示の技術に想到した。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、液体の処理技術を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の処理装置は、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極の間にパルス電圧を印加するパルス供給部と、を備える。第1電極と第2電極は電気分解する液体中にあり、パルス供給部は、第1電極に正方向の高電圧パルスを印加した直後に、第1電極に負方向の電圧パルスを印加して第2電極から第1電極に向かって電流を流す機能を有する。
【0007】
本開示の別の態様は、液体の処理方法である。この方法は、液体中にある第1電極と第2電極の間に正パルス電圧を印加することにより、液体に含まれる物質を活性化させるステップと、第1電極と第2電極の間に負パルス電圧を印加して第2電極から第1電極に向かって反転電流を流すことにより、液体中で活性化された物質を第1電極の表面に戻すステップと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、液体の処理技術を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る処理装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2A】従来の電気分解法における電極反応を模式的に示す図である。
【
図2B】本実施の形態の処理装置による電気分解法における電極反応を模式的に示す図である。
【
図3】パルス供給部の回路構成の例を示す図である。
【
図4A】処理部に供給される電圧及び電流の時間変化を示す図である。
【
図4B】パルス供給部により供給される電圧V(1)、処理部を流れる電流I(2)、及び電力P(3)を示す図である。
【
図5A】本開示の実施例に係る処理装置の構成を概略的に示す図である。
【
図5B】両極から気体が発生している様子を示す図である。
【
図6】本開示の実施例に係る処理装置により処理した純水中のOHラジカルの量の時間変化を示す図である。
【
図7】本開示の実施例に係る処理装置により処理した様々な液体中のラジカルの量の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施の形態に係る処理装置の構成を概略的に示す。処理装置1は、第1電極2と、第2電極3とを含む処理部4と、第1電極2と第2電極3との間に電圧パルスを印加するパルス供給部5とを備える。第1電極2と第2電極3は、電気分解する液体中にある。本図の例では、第2電極3は接地されており、第1電極2にパルス供給部5から正逆方向の電圧パルスが印加される。なお、第2電極3は、パルス供給部5に接続してもよい。この場合、第2電極3に正パルスを印加して、第1電極2に負パルスを印加したのと同じ電位状態を実現してもよい。電圧パルスは、電流パルス又は電力パルスであってもよい。
【0011】
パルス供給部5は、第1電極2に正方向の高電圧パルスを印加した直後に、第1電極2に負方向の電圧パルスを印加して第2電極3から第1電極2に向かって電流を流す機能を有する。これにより、従来の電気分解法とは全く異なる方法により液体を電気分解することができるとともに、液体中にOHラジカルなどの活性種を発生させて液体を改質することができる。
【0012】
図2Aは、従来の電気分解法における電極反応を模式的に示す。従来の電気分解では、陽極側の酸化反応により生じた水素イオンH
+は、電解質中で陰極側に移動し、陰極で電子を受け取って水素H
2となる。また、陰極側で還元反応により生じた水酸化物イオンOH
-は、電解質中で陽極側に移動し、陽極に電子を奪われて酸素O
2又は水H
2Oとなる。水素イオンH
+や水酸化物イオンOH
-を電極間で移動させるために、電気分解の対象となる液体は電解液である必要がある。
【0013】
図2Bは、本実施の形態の処理装置1による電気分解法における電極反応を模式的に示す。パルス供給部5から第1電極2に印加された正パルス(STEP-1)により第1電極2(陽極)側に生じた水素イオンH
+は、直後に第1電極2に印加された負パルス(STEP-2)により第1電極2(陰極)に移動し、第1電極2(陰極)で電子を受け取って水素H
2となる。また、STEP-1において第2電極3側に生じた水酸化物イオンOH
-や酸素イオンO
2-は、STEP-2において第2電極3(陽極)に移動し、第2電極3(陽極)に電子を奪われて酸素O
2又は水H
2Oとなる。
【0014】
この電気分解法によれば、水素イオンH+や水酸化物イオンOH-や酸素イオンO2-は、電極間を移動するのではなく、電極近傍(おおむね1μm以下と推定される)のごく短い経路を移動するだけなので、液体を電気分解して水素H2などを発生させる効率を飛躍的に向上させることができる。また、上記のSTEP-1とSTEP-2をパルスパワーで実現することにより、上記のサイクルを素早く繰り返すことができるので、液体を電気分解して水素H2などを発生させる効率を飛躍的に向上させることができる。また、電極において発生した水素イオンH+や水酸化物イオンOH-や酸素イオンO2-などを電極間で移動させる必要が無いため、高効率で電気分解することが可能になる。また、電解液以外の電気伝導率が比較的小さい液体、例えば、水、エタノール、水とエタノールの混合物、アンモニア液なども電気分解することができる。なお、本発明による純水の電気分解では、各電極近傍において次の反応が生じるものと推定している。
陽極近傍:
4H2O-4e-→4H++4OH(4OH・)
4H++4e-→2H2↑
陰極近傍:
4H2O+4e-→2O2-+2OH-+2H+
2O2-+2OH-+2H+-4e-→O2↑+2H2O
【0015】
水やエタノールなどの高抵抗な液体を電気分解するために高電圧パルスを印加すると、急峻な電圧変化を伴うパルス衝撃により液体に含まれる化学種が励起され、OHラジカルなどの活性種も発生させることができる。本実施の形態の処理装置1によれば、液体中にOHラジカルなどの活性種を継続的に発生させることができるので、液体を効率良く改質することができる。
【0016】
図3は、パルス供給部5の回路構成の例を示す。パルス供給部5は、パルス電源8と、パルス電源8及び処理部4に直列に接続されたダイオード9とを含む。ダイオード9は、液体に含まれる物質を励起してOHラジカルなどの活性種を発生させるために必要な電圧よりも高い耐圧を有する。ダイオード9は、順方向にパルスパワーが印加された後、逆方向に電圧が印加されたときに、逆回復となだれ降伏特性により逆電流を処理部4に流す機能を果たす。ダイオード9は、順方向のパルスパワーによって生じた水素イオンH
+が第1電極2から電子を受け取って水素H
2になるのに必要な電流を供給することが可能な逆回復特性と逆方向電流耐量を有する。なお、ダイオード9は、第1電極2に接続されてもよいし、第2電極3に接続されてもよい。
【0017】
従来の電気分解では、上述したように、陽極側で生じた水素イオンを陰極側に移動させるために、順方向に電流を流し続ける必要がある。そのため、逆方向に電流が流れないようにすることを目的として、ダイオードが直列に接続される場合がある。それに対して、本開示の処理装置1では、第1電極2側で生じた水素イオンH+を第1電極2に移動させるために、逆方向に電流を流すことを目的として、その目的に合った逆回復特性と逆方向電流耐量を有するダイオード9を直列に接続する。このように、本開示の処理装置1にダイオード9が備えられる目的は、従来の電気分解装置にダイオードが備えられる目的とは異なる。また、本開示の処理装置1に備えられるダイオード9の逆回復特性や逆方向電流耐量なども、従来の電気分解装置に備えられるダイオードとは異なる。なお、処理する液体の電気伝導率が小さい(高抵抗)場合、一般的に、低電圧印加時では順方向パルス印加初期には容量性の誘電体バリア放電でみられる負荷特性を示す。本発明は、液体のパルス電気分解反応を積極的に開始するために正方向高電圧急峻パルス電圧を印加するものである。その場合、その最大値近傍の反跳逆方向電圧が負荷と直列に接続されるダイオードとに瞬時に印加される。そのため、該ダイオードは、その逆方向電圧の最大値に対応する耐逆方向パルス電圧性能を有するとともに、逆方向電圧が印加されつつ先の順方向パルス印加後に高抵抗液中に生成される順方向通電電荷が逆電流として流れる抵抗負荷的変位電流特性への耐久性が求められる。
【0018】
図4Aは、処理部4に供給される電圧及び電流の時間変化を示す。
図4Bは、パルス供給部5により供給される電圧V(1)、処理部4を流れる電流I(2)、及び電力P(3)を示す。パルス供給部5が第1電極2に正パルスを印加すると、電圧が急峻に立ち上がる。その後、電流も急峻に立ち上がる。このとき、第1電極2の表面近傍の液体に含まれる物質が衝突電離により活性化されて、水素イオンH
+やOHラジカルなどが発生する。つづいて、パルス供給部5が第1電極2に負パルスを印加すると、ダイオード9の逆回復となだれ降伏特性により逆方向に電流が流れる。
【0019】
[実施例]
図5Aは、本開示の実施例に係る処理装置1の構成を概略的に示す。第1電極2と第2電極3を水中に入れ、それぞれの電極から発生する気体を集気瓶で収集し、収集した気体を可燃性ガス検知器で検知した。
図5Bは、両極から気体が発生している様子を示す。
【0020】
図5Cは、実験結果を示す。実施例1では、本実施の形態の電気分解法により純水を電気分解した。パルス供給部5への入力電圧は75W、パルス周波数は10kpps、正パルス電圧は7.3kV、負パルス電圧は-4.0kV、出力電力は22Wとした。比較実施例では、従来の電気分解法により水道水を電気分解した。直流電圧は0.2kV、直流電力は2Wとした。比較実施例では、陰極で水素が発生し、陽極では水素は発生しなかった。実施例では、陽極(第1電極2)で水素が発生し、陰極(第2電極3)では水素は発生しなかった。
図2A及び
図2Bに示したように、本実施の形態の電気分解法では、従来の電気分解法とは逆の電極から水素が発生することが示された。
【0021】
図6は、本開示の実施例に係る処理装置1により処理した純水中のOHラジカルの量の時間変化を示す。OHラジカルの量は、電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance:ESR)スペクトルにおけるOHラジカルのスピンのピーク強度で表す。処理時間が長くなるにつれて、OHラジカルの量が増加し続けていることが示された。
【0022】
図7は、本開示の実施例に係る処理装置1により処理した様々な液体中のラジカルの量の時間変化を示す。Aは、純水中のOHラジカルの量を示す。処理によりOHラジカルの量が増加している。Bは、水とエタノールの混合物中のOHラジカルの量を示す。処理によりOHラジカルの量が増加している。Cは、エタノール中のCHラジカルの量を示す。処理によりCHラジカルの量が増加している。純水、エタノール、水とエタノールの混合物を本開示の実施例に係る処理装置1により処理することにより、OHラジカルやCHラジカルを発生させることができることが示された。
【符号の説明】
【0023】
1 処理装置、2 第1電極、3 第2電極、4 処理部、5 パルス供給部、8 パルス電源、9 ダイオード。