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  • 特許-改変型ルシフェラーゼ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】改変型ルシフェラーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/02 20060101AFI20230928BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20230928BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230928BHJP
   C12Q 1/66 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C12N9/02 ZNA
C12N15/53
C12N15/63 Z
C12Q1/66
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022090396
(22)【出願日】2022-06-02
(62)【分割の表示】P 2018535778の分割
【原出願日】2017-08-25
(65)【公開番号】P2022122968
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2016165053
(32)【優先日】2016-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 敦史
(72)【発明者】
【氏名】岩野 智
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0226557(US,A1)
【文献】国際公開第2012/109470(WO,A2)
【文献】Biochemistry,2003年,Vol.42,pp.10429-10436
【文献】Photochemistry and Photobiology,2008年,Vol.84,pp.138-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00-9/99
C12Q 1/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の配列同一性を有するポリペプチド、または
(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列と比較して、1~28個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドであり、
上記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸における変異がシステインまたはアスパラギンへの置換であり、さらに配列番号1に示されるアミノ酸配列における229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有しており、
上記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸における変異がシステインへの置換であるとき、上記229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸における変異がチロシンまたはヒスチジンへの置換である、
ルシフェラーゼ活性を有する、ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチドであって、
上記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸における変異がシステインまたはアスパラギンへの置換であり、さらに配列番号1に示されるアミノ酸配列における229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有しており、
上記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸における変異がシステインへの置換であるとき、上記229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸における変異がチロシンまたはヒスチジンへの置換であり、
配列番号2~7の何れか1つに示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、
ルシフェラーゼ活性を有する、ポリペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸を含むベクター。
【請求項5】
請求項3に記載の核酸または請求項4に記載のベクターを備えるキット。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリペプチドとD-ルシフェリン以外の少なくとも1つの発光基質とを反応させる工程を含む発光検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変型ルシフェラーゼおよびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光として広く知られているホタルの発光は、ホタルルシフェリン(D-ルシフェリン)-ホタルルシフェラーゼ発光系の反応によるものである。この発光系では、アデノシン三リン酸(ATP)およびマグネシウムイオン(Mg2+)の存在下で、発光基質であるD-ルシフェリンが、ホタルルシフェラーゼによって発光体であるオキシルシフェリンに変換されることによって発光する。
【0003】
D-ルシフェリン-発光甲虫ルシフェラーゼ発光系は、遺伝子組換えベクターや細胞に発光甲虫ルシフェラーゼ遺伝子を導入することによって、遺伝子発現および遺伝子導入効率の解析や細胞増殖のモニター等に利用できることが知られている。そのため、この発光系は、ライスサイエンス、バイオテクノロジー、医学、および薬学などの様々な分野において注目され、応用されている。
【0004】
発光系の各種用途への応用においては、発光の制御が重要であり、発光波長や発光挙動等を随意に変更可能になれば、実用性が高まり、用途の拡大が容易になる。このようなことから、発光甲虫ルシフェラーゼによる発光系の発光基質として利用可能なD-ルシフェリン以外の物質についての研究が進められている。
【0005】
例えば、D-ルシフェリンと比べて発光波長を長波長側にシフトした発光基質が開発され、特許文献1には、赤色(発光ピーク670~690nm)に発光する化合物のアカルミネが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国公開特許公報:特開2009-184932(公開日2009年8月20日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで知られているホタルルシフェラーゼ及び類似ルシフェラーゼは、D-ルシフェリンとの高い反応性が維持されている。これらのルシフェラーゼを利用する限り、D-ルシフェリンとは異なる発光波長を有する発光基質(以下、「他色発光基質」と総称する)に対して特異的に反応する発光システムを構築することができなかった。このことは、例えばD-ルシフェリンと他色発光基質等の二種類以上の発光基質を利用した多色イメージング技術を開発する上での問題であった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものである。その目的は、D-ルシフェリン以外の少なくとも1つの他色発光基質(例えばアカルミネ)に対する基質特異性がD-ルシフェリンと比較して向上した改変型ルシフェラーゼを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
1)以下の(1)~(3)の何れかに示す、ルシフェラーゼ活性を有するポリペプチド。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有するポリペプチド。(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列と比較して、1~82個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチド。(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチド。
2)上記1)に記載のポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸。
3)上記2)に記載の核酸を含むベクター。
4)上記2)に記載の核酸または3)に記載のベクターを備えるキット。
5)上記1)に記載のポリペプチドとD-ルシフェリン以外の少なくとも1つの発光基質とを反応させる工程を含む発光検出方法。
6)D-ルシフェリンと比較してD-ルシフェリン以外の少なくとも1つの発光基質に対する基質特異性が向上した改変型ルシフェラーゼを設計する方法であって、ルシフェラーゼにおいて、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を変異させる工程を含む、設計方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、D-ルシフェリンと比較して少なくとも1つの他色発光基質(例えばアカルミネ)に対する基質特異性が向上した改変型ルシフェラーゼを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例における蛍光観察の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の一形態について詳細に説明する。
【0014】
〔用語などの定義〕
本明細書において、「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言できる。「ポリヌクレオチド」は、特に明記しない場合は、天然に存在するヌクレオチドと同様に機能することができる天然に存在するヌクレオチドの既知の類似体を含有するポリヌクレオチドを包含する。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言できる。特に言及のない限り、「塩基配列」はデオキシリボヌクレオチドの配列またはリボヌクレオチドの配列を意図している。また、ポリヌクレオチドは、一本鎖であっても二本鎖構造であってもよく、一本鎖の場合はセンス鎖であってもアンチセンス鎖であってもよい。
【0015】
本明細書において、「遺伝子」は、タンパク質をコードしている「ポリヌクレオチド」を指す。
【0016】
本明細書において、遺伝子の「発現制御領域」は、遺伝子の発現を制御している「ポリヌクレオチド」を指す。「発現制御領域」の一例としては、プロモータ領域、エンハンサ領域などが挙げられる。
【0017】
本明細書において、「発現カセット」は、発現宿主内で機能的な発現制御領域と、当該発現制御領域と作動可能に連結されたポリヌクレオチドとを含む発現単位を指す。発現カセットにおいて、当該ポリヌクレオチドは好ましくは遺伝子または遺伝子の断片である。発現カセットの一例は、上記発現制御領域と上記ポリヌクレオチドとを遺伝子工学的に連結したものである。「作動可能に連結」とは、ポリヌクレオチドの発現が発現制御配列によって制御されている状態を指す。発現カセットは発現ベクターの形態であってもよい。
【0018】
本明細書において、「ポリペプチド」は、「タンパク質」とも換言できる。「ポリペプチド」は、アミノ酸がペプチド結合してなる構造を含むが、さらに、例えば、糖鎖、またはイソプレノイド基などの構造を含んでいてもよい。「ポリペプチド」は、特に明記しない場合は、天然に存在するアミノ酸と同様に機能することができる、天然に存在するアミノ酸の既知の類似体を含有するポリペプチドを包含する。
【0019】
本明細書において、「発光ポリペプチド」、「ルシフェラーゼ活性を有するポリペプチド」および「ルシフェラーゼ」とは、発光基質が光を放つ化学反応(発光反応)を触媒する作用を持つ酵素の特性を有するポリペプチドを指す。
【0020】
本明細書において、「Aおよび/またはB」は、AおよびBとAまたはBとの双方を含む概念であり、「AおよびBの少なくとも一方」とも換言できる。
【0021】
本明細書において、「発光基質」とは、発光ポリペプチドによる酵素反応によって発光現象を示す基質を指す。発光反応での発光色は、発光基質に依存する。従って、本発明において「他色発光基質」とはD-ルシフェリンの発光ピーク(約560nm)とは異なる発光ピークを有する発光基質を指す。
【0022】
本明細書において、「配列番号Xに示されるアミノ酸配列におけるY番目のアミノ酸に相当するアミノ酸」とは、ホモロジー解析により配列番号Xに示されるアミノ酸配列のY番目に相当すると特定されるアミノ酸を指す。なお、ホモロジー解析の方法としては、例えば、Needleman-Wunsch法やSmith-Waterman法等のPairwise Sequence Alignmentによる方法や、ClustalW法等のMultiple Sequence Alignmentによる方法が挙げられ、当業者であれば、これら方法に基づき、配列番号Xに示されるアミノ酸配列を基準配列として用いて、解析対象のアミノ酸配列中における「相当するアミノ酸」を理解することができる。解析対象のアミノ酸配列は、例えば、上記基準配列のアイソフォーム、ホモログ、または、改変体が挙げられる。解析は、デフォルトの設定で行ってもよく、適宜、必要に応じてパラメータをデフォルトから変更して行ってもよい。
【0023】
本明細書において、アミノ酸の「変異」とは、置換、欠失または挿入を指す。本発明において、変異は好ましくは置換または欠失であり、より好ましくは置換である。
【0024】
〔1.発光ポリペプチド〕
本発明のポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有した改変型ルシフェラーゼであって、且つ以下の(1)~(3)の何れかのアミノ酸配列の特徴を有する発光ポリペプチドである。以下、本発明のポリペプチドを、本発明の改変型ルシフェラーゼ、または、本発明の発光ポリペプチドと称する場合もある。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有する発光ポリペプチド。なお、配列同一性は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列と比較して、1~82個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有する発光ポリペプチド。なお、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸の個数は、1~55個であることが好ましく、1~28個であることがより好ましく、1~22個であることがさらに好ましく、1~17個、1~11個、或いは1~5個であることが特に好ましい。
(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチド。なお、ストリンジェントな条件については、本発明に係るポリヌクレオチドの欄で後述する。
【0025】
本発明の改変型ルシフェラーゼの由来は、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を有するルシフェラーゼである限り特に限定されないが、例えば、甲虫目(鞘翅目)の生物等のルシフェラーゼが挙げられる。甲虫目(鞘翅目)の生物としては、ホタル科の生物、ホタルモドキ科の生物等が挙げられる(なお、配列番号1は、Photinus pyralis由来のルシフェラーゼのアミノ酸配列である)。ホタル科の生物としては、Photinus属の生物、Luciola属の生物等が挙げられる。Photinus属の生物としては、Photinus pyralis等が挙げられる。Luciola属の生物としては、Luciola cruciata、Luciola lateralis、Luciola italica等が挙げられる。ホタルモドキ科の生物としてはPhrixothrix属の生物等が挙げられる。Phrixothrix属の生物としてはPhrixothrix hirtus等が挙げられる。なお、これら生物の野生型ルシフェラーゼのアミノ酸配列は、例えば、GenBank等の公共のデータベースから容易に取得することができる。
【0026】
例えば、Luciola cruciata(ゲンジボタル)の野生型ルシフェラーゼ(GenBank Accession No. M26194)では349番目のアミノ酸(セリン)、Luciola lateralis(ヘイケボタル)の野生型ルシフェラーゼ(GenBank Accession No. X66919)では349番目のアミノ酸(セリン)が、配列番号1の347番目のアミノ酸(セリン)に相当する。
【0027】
本発明の改変型ルシフェラーゼにおいて、前記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸の種類は、特に限定されず、任意のアミノ酸で置換することが可能である。変異後のアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよいし、非天然のアミノ酸であってもよいが、一例において天然のアミノ酸であることが好ましい。また、変異後のアミノ酸は、変異前のアミノ酸と電荷、極性および嵩の何れもが類似するアミノ酸であってもよいし、これらのうちの少なくとも1つが類似していないアミノ酸であってもよい。
当該変異後のアミノ酸の好ましい一例として、システイン、メチオニン、アラニン、グリシン、バリン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、スレオニン、グルタミン、プロリンが挙げられ、より好ましい一例として、システイン、メチオニン、アラニン、グリシン、バリン、アスパラギン、スレオニン、グルタミンが挙げられ、さらに好ましい一例として、システインおよびアスパラギンが挙げられ、特に好ましい一例として、アスパラギンが挙げられる。
【0028】
一実施形態に係る本発明の改変型ルシフェラーゼは、前記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を変異させる前のルシフェラーゼ(例えば、luc2)と比較して、D-ルシフェリンとの反応性が顕著に下がり、他色発光基質への反応性が同等に維持されるまたは向上することで、他色発光基質への基質特異性が相対的に増加している。「他色発光基質」としては、例えば、特開2009-184932に記載のルシフェリン類似構造化合物(アカルミネ等)、特開2010-215795に記載のルシフェリン類似体およびこれらの類似体等が挙げられる。
【0029】
一実施形態において、本発明の改変型ルシフェラーゼは、前記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を変異させる前のルシフェラーゼ(例えば、luc2)と比較して、少なくともアカルミネに対する基質特異性が向上している。別の実施形態において、改変型ルシフェラーゼは、前記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を変異させる前のルシフェラーゼ(例えば、luc2)と比較して、少なくともアカルミネに対する基質特異性および6-アカルミネに対する基質特異性が向上している。別の実施形態において、改変型ルシフェラーゼは、前記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を変異させる前のルシフェラーゼ(例えば、luc2)と比較して、少なくともアカルミネに対する基質特異性、6-アカルミネに対する基質特異性、およびモノエンNMe2に対する基質特異性が向上している。
【0030】
一実施形態において、本発明の改変型ルシフェラーゼは、発光強度の相対比較において、D-ルシフェリンによる発光強度よりも、他色発光基質による発光強度がより高くなっているという観点で、他色発光基質への基質特異性がより高い。他色発光基質は、例えば、アカルミネ、6-アカルミネ、及び、モノエンNMe2からなる群より選択される少なくとも一種である。
【0031】
ルシフェラーゼの基質特異性は、例えば、対象のルシフェラーゼを特定の発光基質と反応させて1分間分間測定した発光強度の積算値を基準とし、対象のルシフェラーゼと他色発光基質とを同様に反応させたときの積算値を求めて基準と比較することで、評価することができる。少なくとも1つの他色発光基質に対する基質特異性が変異前のルシフェラーゼと比較して向上しているか否かは、このように算出した改変型ルシフェラーゼにおける基質特異性を、変異前のルシフェラーゼにおける基質特異性と比較することによって確認することができる(より詳細は後述の実施例も参照)。
【0032】
具体的に本発明の改変型ルシフェラーゼの基質特異性の評価方法を以下に例示する。
評価の一態様として、本発明の改変型ルシフェラーゼをD-ルシフェリンと反応させて1分間測定した発光強度の積算値を求める。これを基準値とする。本発明の改変型ルシフェラーゼをアカルミネと反応させて1分間測定した発光強度の積算値を求めた後、基準値から当該積算値を相対値に換算する。このとき、本発明の改変型ルシフェラーゼのD-ルシフェリンと比較したアカルミネの基質特異性の相対値は2以上であり、好ましくは4以上であり、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは20以上である。
【0033】
別の実施形態において、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるluc2(Photinus pyralis由来のルシフェラーゼ)をアカルミネと反応させて1分間測定した発光強度の積算値を求める。これを基準値とする。本発明の改変型ルシフェラーゼをアカルミネと反応させて1分間測定した発光強度の積算値を求めた後、基準値から当該積算値を相対値に換算する。このとき、本発明の改変型ルシフェラーゼのアカルミネに対する相対値は0.8以上であり、好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上であり、さらに好ましくは6以上である。
【0034】
別の実施形態において、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるluc2をD-ルシフェリンと反応させて1分間測定した発光強度の積算値を求める。これを基準値とする。本発明の改変型ルシフェラーゼをD-ルシフェリンと反応させて1分間測定した発光強度の積算値を求めた後、基準値から当該積算値を相対値に換算する。このとき、本発明の改変型ルシフェラーゼのD-ルシフェリンに対する相対値は0.05以下であり、好ましくは0.01以下であり、より好ましくは0.001以下である。
【0035】
別の実施形態において、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるluc2をアカルミネと反応させて1分間測定した発光強度の積算値を求める。これを基準値とする。本発明の改変型ルシフェラーゼをアカルミネと反応させて1分間測定した発光強度の積算値を求めた後、基準値から当該積算値を相対値に換算する。同様に、luc2または本発明の改変型ルシフェラーゼをD-ルシフェリンと反応させて1分間測定した発光強度の積算値を求めた後、基準値から当該積算値を相対値に換算する。得られた相対値を用いて、各ルシフェラーゼにおけるアカルミネの値をD-ルシフェリンの値で標準化し、アカルミネとD-ルシフェリンの反応性の比を求める。このとき、本発明の改変型ルシフェラーゼのアカルミネ:D-ルシフェリンの比は、luc2のそれと比べて100倍以上であり、好ましくは200倍以上であり、より好ましくは300倍以上である。
【0036】
一実施形態において、改変型ルシフェラーゼは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸以外の位置のアミノ酸がさらに変異していてもよい。
【0037】
例えば、部位特異的な突然変異誘発法を用いて、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有する発光ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに人為的に変異を導入したものを発現させて得てもよい。部位特異的な突然変異誘発法としては、例えば、Kunkel法(Kunkel et al.(1985):Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.82.p488-)などが挙げられる。なお、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を導入する場合にも、同様の部位特異的な突然変異誘発法を用いることができる。
【0038】
本発明の改変型ルシフェラーゼのアミノ酸の変異を導入するに適した領域として、例えば、配列番号1における、39番目のスレオニンに相当するアミノ酸(例えば、アラニンへの置換)48番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸(例えば、グルタミンへの置換)、51番目のイソロイシンに相当するアミノ酸(例えば、バリンへの置換)、68番目のリジンに相当するアミノ酸(例えば、アルギニンへの置換)、86番目のロイシンに相当するアミノ酸(例えば、セリンへの置換)、134番目のグルタミンに相当するアミノ酸(例えば、アルギニンへの置換)、136番目のイソロイシンに相当するアミノ酸(例えば、バリンへの置換)、138番目のアスパラギンに相当するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸への置換)、147番目のグルタミンに相当するアミノ酸(例えば、アルギニンへの置換)、169番目のスレオニンに相当するアミノ酸(例えば、アラニンへの置換)、175番目のグリシンに相当するアミノ酸(例えば、セリンへの置換)、185番目のセリンに相当するアミノ酸(例えば、システインへの置換)、229番目のアスパラギンに相当するアミノ酸、231番目のイソロイシンに相当するアミノ酸(例えば、アスパラギンへの置換)、264番目のロイシンに相当するアミノ酸(例えば、フェニルアラニンへの置換)、290番目のスレオニンに相当するアミノ酸(例えば、アラニンへの置換)、291番目のロイシンに相当するアミノ酸(例えば、プロリンへの置換)、294番目のフェニルアラニンに相当するアミノ酸(例えば、システインへの置換)、295番目のフェニルアラニンに相当するアミノ酸(例えば、ロイシンへの置換)、308番目のアスパラギンに相当するアミノ酸(例えば、セリンへの置換)、310番目のヒスチジンに相当するアミノ酸(例えば、アルギニンへの置換)、332番目のヒスチジンに相当するアミノ酸(例えば、アルギニンへの置換)、349番目のイソロイシンに相当するアミノ酸(例えば、バリンへの置換)、350番目のロイシンに相当するアミノ酸(例えば、メチオニンへの置換)、357番目のアスパラギン酸に相当するアミノ酸(例えば、アルギニンへの置換)、361番目のアラニンに相当するアミノ酸(例えば、セリンへの置換)、377番目のヒスチジンに相当するアミノ酸(例えば、バリンへの置換)、456番目のセリンに相当するアミノ酸(例えば、グリシンへの置換)、463番目のアスパラギンに相当するアミノ酸(例えば、チロシンへの置換)、524番目のリジンに相当するアミノ酸(例えば、アルギニンへの置換)、526番目のロイシンに相当するアミノ酸(例えば、プロリンまたはセリンへの置換)、540番目のイソロイシンに相当するアミノ酸(例えば、スレオニンへの置換)、545番目のグリシンに相当するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸への置換)、からなる領域などは、アミノ酸の変異を導入するにより適した領域である。
より好ましい変異の一例として、本発明の改変型ルシフェラーゼは、配列番号1に示されるアミノ酸配列における229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸にさらに変異を有する。
【0039】
例えば、Luciola cruciata(ゲンジボタル)の野生型ルシフェラーゼでは231番目のアミノ酸(アスパラギン)、Luciola lateralis(ヘイケボタル)の野生型ルシフェラーゼでは231番目のアミノ酸(アスパラギン)が、配列番号1の229番目のアミノ酸(アスパラギン)に相当する。
【0040】
当該229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸の種類は、特に限定されず、任意のアミノ酸で置換することが可能である。変異後のアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよいし、非天然のアミノ酸であってもよいが、一例において天然のアミノ酸であることが好ましい。また、変異後のアミノ酸は、変異前のアミノ酸と電荷、極性および嵩の何れもが類似するアミノ酸であってもよいし、これらのうちの少なくとも1つが類似していないアミノ酸であってもよい。
【0041】
当該229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸がアスパラギンである場合、変異後のアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。アスパラギンと電荷が類似するアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、グルタミンが挙げられる。アスパラギンと極性が類似するアミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、プロリン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。アスパラギンと嵩が類似するアミノ酸としては、スレオニン、グルタミンが挙げられる。
【0042】
当該229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸の好ましい一例として、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン、アルギニン、リジンが挙げられ、より好ましい一例として、チロシンおよびヒスチジンが挙げられ、特に好ましい一例として、チロシンが挙げられる。
【0043】
また、347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸と、229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸との組み合わせは特に限定されないが、一実施形態において、好ましい一例として以下のものが挙げられる。
・347番目に相当する位置:システイン、229番目に相当する位置:チロシン
・347番目に相当する位置:システイン、229番目に相当する位置:ヒスチジン
・347番目に相当する位置:アスパラギン、229番目に相当する位置:チロシン
・347番目に相当する位置:アスパラギン、229番目に相当する位置:ヒスチジン
【0044】
別の一例において、本発明の改変型ルシフェラーゼは、さらに、配列番号1に示されるアミノ酸配列における310番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有することが好ましい。
【0045】
例えば、Luciola cruciata(ゲンジボタル)の野生型ルシフェラーゼでは312番目のアミノ酸(バリン)、Luciola lateralis(ヘイケボタル)の野生型ルシフェラーゼでは312番目のアミノ酸(バリン)が、配列番号1の310番目のアミノ酸(ヒスチジン)に相当する。
【0046】
当該310番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸の種類は、特に限定されず、任意のアミノ酸で置換することが可能である。変異後のアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよいし、非天然のアミノ酸であってもよいが、一例において天然のアミノ酸であることが好ましい。また、変異後のアミノ酸は、変異前のアミノ酸と電荷、極性および嵩の何れもが類似するアミノ酸であってもよいし、これらのうちの少なくとも1つが類似していないアミノ酸であってもよい。
【0047】
当該310番目のアミノ酸に相当するアミノ酸がヒスチジンである場合、変異後のアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニンが挙げられる。ヒスチジンと電荷が類似するアミノ酸としては、リジン、アルギニンが挙げられる。ヒスチジンと極性が類似するアミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、プロリン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニンが挙げられる。
【0048】
当該310番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸の好ましい一例として、グルタミン、アスパラギン、スレオニン、アルギニン、ヒスチジン、リジンが挙げられ、より好ましい一例として、グルタミン、アルギニンが挙げられる。
【0049】
347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸と、229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸と、310番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の変異後のアミノ酸との組み合わせのより好ましい一例として以下のものが挙げられる。
・347番目に相当する位置:システイン、229番目に相当する位置:チロシン、310番目に相当する位置:グルタミン
・347番目に相当する位置:アスパラギン、229番目に相当する位置:チロシン、310番目に相当する位置:グルタミン
【0050】
本発明にかかる発光ポリペプチドは、化学合成されてもよい。より具体的には、当該ポリペプチドは、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された翻訳産物をその範疇に含む。
【0051】
一実施形態において、改変型ルシフェラーゼは、N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有した融合ポリペプチドであってもよい。付加的なアミノ酸配列は、特定の機能を有するものであってもよいし、特定の機能を有しないものであってもよい。融合ポリペプチドは、例えば、本発明に係る発現カセットおよび/またはベクターの発現によって産生される融合タンパク質;任意のタンパク質を本発明の発光ポリペプチドで標識した融合タンパク質;本発明の発光ポリペプチドと、発光を安定化させるための所定のペプチド配列とが融合してなる融合タンパク質;本発明の発光ポリペプチドと他の蛍光ポリペプチドとを備えたBRET用プローブ;などが挙げられる。すなわち、本発明の発光ポリペプチドと融合させる他のポリペプチドの種類は特に限定されない。本発明に係る融合ポリペプチドは、本発明の発光ポリペプチドと同様の方法によって、化学合成されても、或いは、遺伝子組み換え技術を用いて産生されてもよい。
【0052】
一実施形態において、少なくとも1つの他色発光基質に対する基質特異性がより向上している観点から、好ましい改変型ルシフェラーゼとして、配列番号2~7の何れか1つに示されるアミノ酸配列と70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、または、からなる改変型ルシフェラーゼが挙げられる。この改変型ルシフェラーゼにおいては、配列番号2~7のアミノ酸配列が有するアミノ酸の変異に相当するアミノ酸の変異を全て維持していることが好ましい。配列番号2~7のアミノ酸配列が有するアミノ酸の変異とは、配列番号1に示されるアミノ酸配列と比較した場合の変異である。
【0053】
〔2.発光ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド〕
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記発光ポリペプチドの何れかをコードするものである。このポリヌクレオチドは、具体的には、以下の(1-1)~(1-3)の何れかに記載のポリヌクレオチドである。
(1-1)配列番号1に記載のアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有した発光ポリペプチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有する発光ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。なお、アミノ酸配列の配列同一性は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。
(1-2)配列番号1に記載のアミノ酸配列と比較して、1~82個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有する発光ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。なお、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸の個数は、1~55個であることが好ましく、1~28個であることがより好ましく、1~22個であることがさらに好ましく、1~17個、1~11個、或いは1~5個であることが特に好ましい。
(1-3)配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、当該ポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列が配列番号1に記載のアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有する、ポリヌクレオチド。
【0054】
なお、ストリンジェントな条件下とは、例えば、参考文献[Molecular cloning-a Laboratory manual 2nd edition(Sambrookら、1989)]に記載の条件などが挙げられる。ストリンジェントな条件下とは、より具体的には例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハートおよび100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8~16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件、および当該条件におけるハイブリダイズ後に65℃で約0.1Mまたはそれより低い塩を含む溶液中、好ましくは0.2×SSCまたは同程度のイオン強度を有する任意の他の溶液において洗浄する条件が挙げられる。なお、このポリヌクレオチドは、上記(1-1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列に対して85%以上の配列同一性を有することが好ましく、90%以上の配列同一性を有することがより好ましく、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上の配列同一性を有することがさらに好ましい。
【0055】
塩基配列への変異導入は、〔1.発光ポリペプチド〕の欄で上述のとおりである。配列番号1に示されるルシフェラーゼをコードするDNAの塩基配列の一例は、配列番号8に示される塩基配列である。そのため、例えば、配列番号8に示される塩基配列に変異を導入することによって、改変型ルシフェラーゼをコードする塩基配列を含む核酸を容易に得ることができる。
【0056】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列などの付加的な配列を含むものであってもよい。
【0057】
また、本発明に係るポリヌクレオチドを取得する方法として、PCRなどの増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、当該ポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)などを鋳型にしてPCRなどを行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0058】
〔3.ベクター、発現カセット〕
本発明に係るポリヌクレオチド(例えばDNA)は、適当なベクター中に挿入して、ベクターとして利用してもよい。ベクターの種類は、プラスミドのような自律的に複製するベクターでもよいし、或いは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、宿主細胞の染色体と共に複製されるものであってもよい。
【0059】
上記ベクターは、好ましくは発現ベクターである。発現ベクターにおいて、本発明に係るポリヌクレオチドは、例えば、プロモータ配列などの、転写に必要な要素が、機能的に連結されている。プロモータ配列は宿主細胞において転写活性を示すDNA配列である。用いるプロモータ配列の種類は、宿主細胞の種類および本発明の発光ポリペプチドを利用する目的に応じて適宜選択すればよい。宿主細胞の種類としては、例えば〔4.形質転換体、および形質転換体の作製方法〕において記載したものが挙げられる。
【0060】
宿主細胞内で作動可能なプロモータ配列としては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillus stearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha-amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus Subtilis alkaline protease gene)もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosldase gene)のプロモータ;ファージ・ラムダのPRプロモータまたはPLプロモータ;大腸菌の、lacプロモータ、trpプロモータ、tacプロモータ;ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、バキュロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2-4cプロモータ、ADH3プロモータ、tpiAプロモータ、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモータ、SV40プロモータ、MT-1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータ、サイトメガロプロモータまたはアデノウイルス2主後期プロモータなどが挙げられる。
【0061】
発現ベクターにおいて、本発明に係るポリヌクレオチドは、必要に応じて、適切なターミネータ(例えば、ポリアデニレーションシグナル、哺乳動物の成長ホルモンターミネータ、TPI1ターミネータまたはADH3ターミネータ)に機能的に結合されてもよい。適切なターミネータの種類は、宿主細胞の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0062】
本発明に係るベクターは、さらに、転写エンハンサ配列、または翻訳エンハンサ配列などの要素を有していてもよい。
【0063】
本発明に係るベクターは、さらに、該ベクターの宿主細胞内での複製を可能にするDNA配列を有していてもよい。宿主細胞が哺乳動物細胞の場合、かかるDNA配列としては、SV40複製起点などが挙げられる。
【0064】
本発明に係るベクターはさらに選択マーカーを有していてもよい。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤に対する、薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
【0065】
本発明に係る発現カセットとは、(a)発現宿主内で機能的な発現制御領域;および、(b)本発明に係るポリヌクレオチド;を含む、発現カセットを指す。本発明に係る発現カセットは、上記した発現ベクターの態様であってもよい。
【0066】
〔4.形質転換体、および形質転換体の作製方法〕
(形質転換体、および形質転換体の作製方法)
本発明に係るポリヌクレオチド、本発明に係る発現カセット、または、本発明に係るベクターを適当な宿主細胞に導入することによって形質転換体を作製することができる。作製された形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドの全長を含んでいるか、少なくとも当該ポリヌクレオチドの一部を含んでいて、本発明の発光ポリペプチドの何れかを発現可能である。同様に、本発明に係る形質転換体を用いて得られた当該形質転換体の子孫も、本発明に係るポリヌクレオチドの全長を含んでいるか、少なくとも当該ポリヌクレオチドの一部を含んでいて、本発明の発光ポリペプチドの何れかを発現可能である。作製された形質転換体またはその子孫において、本発明に係るポリヌクレオチドの全長またはその一部は、ゲノム中に組み込まれていることが好ましい。
【0067】
なお、以下の説明において、本発明に係るポリヌクレオチド、本発明に係る発現カセット、および、本発明に係るベクターを、本発明の「外来(foreign)核酸分子」と総称する。本発明の外来核酸分子を宿主細胞に導入する方法は、下記に例示をする通り、宿主細胞の種類に応じて選択すればよい。また、本発明に係る形質転換体の子孫を得る方法も、形質転換体の種類に応じて選択すればよい。
【0068】
宿主細胞としては、例えば、細菌細胞、酵母細胞、酵母細胞以外の真菌細胞、および高等真核細胞などが挙げられる。高等真核細胞としては、例えば、植物細胞、動物細胞が挙げられる。動物細胞としては、昆虫細胞、両生類細胞、爬虫類細胞、鳥類細胞、魚類細胞、哺乳動物細胞などが挙げられる。また、細菌細胞の例としては、バチルスまたはストレプトマイセスなどのグラム陽性菌;大腸菌などのグラム陰性菌;が挙げられる。酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)などが挙げられる。酵母細胞以外の真菌細胞の例としては、糸状菌の細胞が挙げられる。糸状菌の細胞の例としては、例えば、アスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する糸状菌の細胞が挙げられる。昆虫細胞の例としては、例えば、カイコの細胞などが挙げられる。哺乳動物細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞などが挙げられる。
【0069】
宿主細胞の形質転換は、宿主細胞の種類等に応じて適宜選択すればよく、例えば、プロトプラスト法、コンピテント細胞を用いる方法、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、アグロバクテリウム法およびパーティクルガン法などにより行うことができる。また、宿主細胞の形質転換のその他の方法としては、本発明の外来核酸分子を宿主染色体に組み込んだ宿主細胞を得ることによって形質転換を行う方法が挙げられる。外来核酸分子の宿主染色体への組み込みは、例えば、相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。宿主細胞の形質転換のさらに他の方法としては、本発明の外来核酸分子およびバキュロウイルスを宿主細胞に共導入して宿主細胞の培養上清中に組換えバキュロウイルスを得、次いで、組換えバキュロウイルスを宿主細胞に感染させて、本発明の発光ポリペプチドを当該宿主細胞に産生させる方法等が挙げられる。共導入の方法としては、例えば、リン酸カルシウム法またはリポフェクション法などを挙げることができる。
上記の形質転換体は、導入された外来核酸分子の発現が可能な条件下で、培養または育成する。
【0070】
なお、形質転換体の態様は、細胞に限定されない。すなわち、形質転換体は、例えば、本発明に係る外来核酸分子で形質転換された組織、器官、および個体であってもよい。ただし、細胞以外の形質転換体は、非ヒト由来のものであることが好ましい場合があり、特に個体は非ヒト由来のものであることが好ましい。なお、形質転換されている個体であって、非ヒト由来のものを非ヒトトランスジェニック生物と称する。
【0071】
(非ヒトトランスジェニック生物、およびその作製方法)
本発明に係る非ヒトトランスジェニック生物は、例えば、高等生物である。トランスジェニック植物としては、例えば、シロイヌナズナなどの双子葉植物;ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)、イネ、コムギ、オオムギなどの単子葉植物;のトランスジェニックが挙げられる。トランスジェニック動物としては、例えば、ゼブラフィッシュ、マウス、ラット、ブタなどのトランスジェニックが挙げられる。
【0072】
本発明に係る非ヒトトランスジェニック生物の作製方法は、トランスジェニック生物の種類に応じて選択をすればよい。トランスジェニック動物の作製法は、例えば、マイクロインジェクション法などに従って、生体外において、本発明に係る外来核酸分子をドナー生物から採取した受精卵に導入すること;生体外において、レトロウイルスなどのウイルスベクターを、ドナー生物に由来する初期発生胚の細胞に感染させること;などの方法が挙げられる。トランスジェニック植物の作製においては、例えば、アグロバクテリウム法;パーティクルガン法;エレクトロポレーション法;などに従って、本発明に係る外来核酸分子を植物細胞に導入し、続いて、必要に応じてカルス化のプロセスを経て、形質転換植物個体を得ればよい。
【0073】
また、本発明に係る非ヒトトランスジェニック生物の子孫を得る方法も、当該非ヒトトランスジェニック生物の種類に応じて選択すればよい。高等生物の場合は、例えば、交配によって子孫を得る方法などが挙げられる。高等生物のうち植物の場合は、当該植物の種類に応じた無性生殖の手法を用いて子孫を得てもよい。
【0074】
(非ヒトトランスジェニック生物のクローン、およびクローンの作製方法)
本発明は、例えば、本発明に係る非ヒトトランスジェニック生物を用いて、そのクローンを作製することも包含する。作製されたクローンは、元となった非ヒトトランスジェニック生物と同様に、ゲノム中に、本発明に係るポリヌクレオチドの全長を含んでいるか、少なくとも当該ポリヌクレオチドの一部を含んでいて、本発明の発光ポリペプチドの何れかを発現可能である。なお、クローンとは、胚細胞クローンも体細胞クローンも含む概念である。
【0075】
クローンの作製方法としては、例えば、レシピエントとなる、核除去された未受精卵に対して、ドナーの細胞核を移植する、核移植の方法が挙げられる。ここで、ドナーの細胞核とは、1)元となった非ヒトトランスジェニック生物の体細胞核、または、2)元となった非ヒトトランスジェニック生物に由来する胚細胞核、が挙げられる。なお、ドナーの細胞核は、ゲノム中に、本発明に係るポリヌクレオチドの全長を含んでいるか、少なくとも当該ポリヌクレオチドの一部を含んでいる。
【0076】
なお、ドナーの細胞核を核移植する方法は特に限定されず、例えば、1)核除去された未授精卵とドナーの細胞とを細胞融合させる方法、2)核除去された未授精卵に、細胞融合を介さずにドナーの細胞を導入する方法、などが挙げられる。
【0077】
〔5.キット〕
本発明はまた、本発明の核酸または本発明のベクターを備えるキットを提供する。
【0078】
本発明のキットは、2種類以上の核酸またはベクターを含んでいてもよく、そのうちの少なくとも1つは本発明の核酸またはベクターである。好ましくは、2種類以上の核酸またはベクターは、それぞれ、互いに異なる種類のルシフェラーゼをコードする塩基配列を含んでいる。本発明のキットの一実施形態において、1)本発明の改変型ルシフェラーゼをコードする塩基配列を含む核酸若しくはベクター、及び、2)発光基質としてルシフェリンを特異的に認識するルシフェラーゼ(例えば、luc2、またはルシフェリンに対する基質特異性が向上した変異型ルシフェラーゼ等)をコードする塩基配列を含む核酸若しくはベクターを備えることが好ましい。このようなキットを使用することによって、例えば、発光波長の相違に基づき、複数のタンパク質の挙動を同時に観察することができる。そのため、本発明のキットは、後述する発光検出方法において好適に利用され得る。
【0079】
また、本発明のキットは、発光基質、pH調整剤、緩衝液、希釈剤、溶媒、ATP、Mg2+、細胞破砕液、細胞抽出液のうちの少なくとも1つをさらに備えていてもよい。
【0080】
本発明のキットにおいて、各構成要素は容器(例えば、ボトル、チューブ、ディッシュなど)に内包されていてもよい。キットは、各材料を使用するための使用説明書を備えていることが好ましい。また、本発明のキットは、複数の異なる構成要素を1つに梱包した包装であってもよく、構成要素は、溶液形態の場合、複数の異なる容器中に内包されていてもよい。本発明のキットは、その複数の構成要素を同一の容器に混合して備えていてもよいし、別々の容器に備えていてもよい。使用説明書は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどの電子媒体に付されてもよく、キットの用途を実現するための手順が記載されている。さらに、本発明に係るキットは、キットの用途を実現するための手順を実行するために必要な器具および試薬を備えていてもよい。
【0081】
〔6.発光検出方法〕
【0082】
本発明はまた、本発明の改変型ルシフェラーゼと少なくとも1つの他色発光基質とを反応させる工程を含む、発光検出方法を提供する。
【0083】
本発明の発光検出方法は、一実施形態において、細胞内の機能を解析する方法として利用することができる。この場合、さらに、本発明の改変型ルシフェラーゼを細胞内に導入する工程、および当該改変型ルシフェラーゼが触媒する他色発光基質を反応させる工程を含んでもよい。例えば、DNA中の特定の発現調節領域の下流に本発明のポリヌクレオチドを導入し、改変型ルシフェラーゼの発現を、それが触媒する他色発光基質の反応で生じる発光の有無によって検出することで、発現調節領域の機能を調べることが可能である。
【0084】
本発明の発光検出方法は、別の実施形態において、細胞内タンパク質を解析する方法として利用することができる。この場合、さらに、本発明の改変型ルシフェラーゼと解析の対象とするタンパク質とからなる融合タンパク質を細胞内に導入する工程、および当該改変型ルシフェラーゼが触媒する他色発光基質を反応させる工程を含んでもよい。本実施形態の発光検出方法は、解析の対象とするタンパク質の細胞内の局在の観察、および、その局在の時間変化の観察(タイムラプス)を含んでもよい。また、本実施形態の発光検出方法は、タンパク質の局在だけでなく、そのタンパク質が単に発現したか否かの確認をも含み得る。使用される細胞は特に限定されず、細胞のイメージングの分野において通常使用できる細胞であってもよい。また、解析の対象とするタンパク質も特に限定されず、研究の目的に応じたタンパク質を選択することができる。当該タンパク質は、使用する細胞内に本来存在するタンパクであってもよいし、細胞内に本来存在しない異種性のまたは改変したタンパク質であってもよい。
【0085】
融合タンパク質を細胞内に導入する場合、例えば、既知の導入方法に基づき行うことができる。一例において、細胞外で精製した融合タンパク質を細胞内に直接導入する方法が挙げられる。例えば、マイクロインジェクション法によって融合タンパク質を細胞内に直接注入することができる。あるいは、融合タンパク質を含む培養液中で細胞をインキュベートして、エンドサイトーシスによって融合タンパク質を細胞に取り込ませることができる。別の一例において、まず融合タンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を細胞内に導入し、その後細胞内で融合タンパク質を発現させる方法が挙げられる。例えば、当該核酸を含む発現ベクターを、リン酸カルシウム法、リポフェクション法またはエレクトロポレーション法等によって細胞内に導入し、発現ベクターから融合タンパク質を発現させることができる。なお、ここで説明した方法は、融合タンパク質以外のタンパク質(例えば、本発明の改変ルシフェラーゼ自体や、他のルシフェラーゼ等)を細胞内に導入する際にも適用可能である。
【0086】
本発明の発光検出方法は、一実施形態において、本発明の改変ルシフェラーゼまたは融合タンパク質を導入した細胞を生体内で検出する方法として利用することができる。一例において、当該細胞を作製した後に、対象とする実験動物に投与する工程、および当該改変型ルシフェラーゼが触媒する他色発光基質を実験動物に投与して生体内で反応させる工程を含んでもよい。この場合、他色発光基質を投与する工程と、D-ルシフェリンを投与する工程の順序は、特に限定されない。さらに、例えば、D-ルシフェリンに特異的に反応するルシフェラーゼを導入した細胞を同じ実験動物に投与し、その後にD-ルシフェリンを当該実験動物に投与する工程を含んでもよい。この場合、改変ルシフェラーゼまたは融合タンパク質を導入した細胞の投与する工程と、D-ルシフェリンに特異的に反応するルシフェラーゼを導入した細胞を投与する工程の順序は、特に限定されない。また、他色発光基質を投与する工程と、D-ルシフェリンを投与する工程の順序は、特に限定されない。本実施形態の発光検出方法は、投与した細胞の生体内の局在を確認するだけでなく、発光量を定量することでその細胞数の確認することも含み得る。
【0087】
他色発光基質の発光を検出する工程は、例えば、既知の検出方法に基づいて行うことができる。例えば、改変型ルシフェラーゼを含む融合タンパク質を発現する細胞に、他色発光基質等を適宜与えて改変型ルシフェラーゼに他色発光基質の反応を触媒させ、生じた発光をイメージング装置により検出することができる。イメージング装置は、例えば発光を捉えるためのフィルターを備えた顕微鏡である。顕微鏡を使用することで、細胞内における発光の位置を特定して、この情報をもとにタンパク質の局在を特定することが可能となる。また、イメージング装置として、経時的に撮像できる機能を備えた顕微鏡を使用することができ、この顕微鏡によって経時的観察も可能となる。
【0088】
本発明の改変型ルシフェラーゼは、D-ルシフェリンと比較した少なくとも1つの他色発光基質(例えばアカルミネ)に対する基質特異性が向上している。そのため、本発明の発光検出方法は、発光基質としてD-ルシフェリンを特異的に認識するルシフェラーゼ(例えば、luc2、クリックビートル緑色ルシフェラーゼ(CBG)68、CBG99、Emerald Luc(E-luc)、D-ルシフェリンに対する基質特異性が向上した変異型ルシフェラーゼ等)と好適に組み合わせることもできる。それゆえ、本発明の発光検出方法は、一実施形態において、さらに、発光基質としてD-ルシフェリンを特異的に認識するルシフェラーゼとD-ルシフェリンとを反応させる工程を含んでもよい。さらに、当該ルシフェラーゼを細胞内に導入する工程、および当該ルシフェラーゼが誘起するD-ルシフェリンの発光を検出する工程を含んでもよい。あるいは、さらに、当該ルシフェラーゼと解析の対象とするタンパク質とからなる融合タンパク質を細胞内に導入する工程、および当該ルシフェラーゼが触媒するD-ルシフェリンの反応で生じる発光を検出する工程を含んでもよい。ここで、当該ルシフェラーゼと融合されたタンパク質は、発光検出の目的に応じて、本発明の改変型ルシフェラーゼと融合されたタンパク質と同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。
【0089】
発光検出は、インビボでもインビトロでもよい。インビボの場合、ヒト以外の生体であり得る。細胞は、単離細胞、組織における細胞、器官における細胞、または個体における細胞等であり得る。多細胞生物の個体から取得された或いは人工的に培養された、器官または組織における細胞であってもよい。また、本発明の改変型ルシフェラーゼをコードする塩基配列を含む核酸が導入された多細胞生物の後代(系統)において発光検出を行うこともできる。
【0090】
従来の変異型ルシフェラーゼは、D-ルシフェリンと比較して少なくとも1つの他色発光基質(例えばアカルミネ)に対する基質特異性が低く、D-ルシフェリンとも反応する。それゆえ、従来の変異型ルシフェラーゼと、発光基質としてD-ルシフェリンを特異的に認識するルシフェラーゼとを組み合わせた発光検出では、両者の発光を見分けることが難しい。それに対して、本発明の改変型ルシフェラーゼは、D-ルシフェリンと比較して少なくとも1つの他色発光基質に対する基質特異性が向上している(後述の実施例も参照)。それゆえ、本発明の改変型ルシフェラーゼと、発光基質としてD-ルシフェリンを特異的に認識するルシフェラーゼとを組み合わせた発光検出では、両者の発光を容易に見分けることができる。
【0091】
〔7.改変型ルシフェラーゼの設計方法〕
本発明はまた、ルシフェリンと比較して少なくとも1つの他色発光基質に対する基質特異性が向上した改変型ルシフェラーゼを設計する方法であって、ルシフェラーゼにおいて、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を変異させる工程を含む設計方法を提供する。
【0092】
変異させる具体的な方法の一例は、上述のとおりである。一例では、部位特異的な突然変異誘発法を用いて、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有する発光ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製し、このポリヌクレオチドを発現させる。
【0093】
本発明の改変型ルシフェラーゼの設計方法は、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に加えて、さらに、上記で挙げられている少なくとも1つのアミノ酸位置に相当するアミノ酸を変異させる工程を含んでいてもよい。なお、アミノ酸を変異させる方法は、例えば、〔1.発光ポリペプチド〕欄で記載した、部位特異的な突然変異誘発法等を用いればよい。
【0094】
本発明の改変型ルシフェラーゼの設計方法は、必要に応じて、ルシフェリンと比較して少なくとも1つの他色発光基質に対する基質特異性が特に優れた改変型ルシフェラーゼを得るために、スクリーニング工程をさらに含んでいてもよい。スクリーニング工程では、例えば、〔1.発光ポリペプチド〕欄で記載した、ルシフェラーゼの基質特異性の評価方法を用いて、得られた改変型ルシフェラーゼを評価することによって行うことができる。
【0095】
〔8.まとめ〕
本発明の範疇には、例えば、以下のような態様が含まれている。
1)以下の(1)~(3)の何れかに示す、ルシフェラーゼ活性を有するポリペプチド。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有するポリペプチド。(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列と比較して、1~82個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチド。(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有するポリペプチド。
2)さらに配列番号1に示されるアミノ酸配列における229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸に変異を有している、1)に記載のポリペプチド。
3)上記347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸における変異がシステインまたはアスパラギンへの置換である、1)または2)に記載のポリペプチド。
4)上記229番目のアミノ酸に相当するアミノ酸における変異がチロシンまたはヒスチジンへの置換である、2)または3)に記載のポリペプチド。
5)配列番号2~7の何れか1つに示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、1)~4)の何れかに記載のポリペプチド。
6)上記1)~5)の何れかに記載のポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸。
7)上記6)に記載の核酸を含むベクター。
8)上記6)に記載の核酸または7)に記載のベクターを備えるキット。
9)上記1)~5)の何れかに記載のポリペプチドとD-ルシフェリン以外の少なくとも1つの発光基質とを反応させる工程を含む発光検出方法。
10)D-ルシフェリンと比較してD-ルシフェリン以外の少なくとも1つの発光基質に対する基質特異性が向上した改変型ルシフェラーゼを設計する方法であって、ルシフェラーゼにおいて、配列番号1に示されるアミノ酸配列における347番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を変異させる工程を含む、設計方法。
【0096】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例
【0097】
<1.luc2の改変および基質特異性の評価>
〔材料〕
ルシフェラーゼとして、以下のものを用いた。
【0098】
(1) 配列番号1に示すアミノ酸配列からなるluc2(Photinus pyralis由来のルシフェラーゼ)
(2) luc2の改変体(S347C)
(3) luc2の改変体(S347N)
(4) luc2の改変体(N229Y)
(5) luc2の改変体(N229H)
(6) luc2の改変体(H310Q)
(7) luc2の改変体(N229Y+H310Q)
(8) luc2の改変体(N229H+H310Q)
(9) luc2の改変体(H310Q+S347C)
(10)luc2の改変体(H310Q+S347N)
(11)luc2の改変体(N229Y+S347C)
(12)luc2の改変体(N229H+S347C)
(13)luc2の改変体(N229Y+S347N)(配列番号2)
(14)luc2の改変体(N229H+S347N)(配列番号3)
(15)luc2の改変体(N229Y+H310Q+S347C)
(16)luc2の改変体(N229Y+H310Q+S347N)(配列番号4)
(17)luc2の改変体(N229H+H310Q+S347C)
(18)luc2の改変体(N229H+H310Q+S347N)
(19)luc2の改変体a(表1のa)
(20)luc2の改変体b(表1のb)(配列番号5)
(21)luc2の改変体c(表1のc)(配列番号6)
(22)luc2の改変体d(表1のd)(配列番号7)
【0099】
【表1】
【0100】
random mutagenesis法及びpoint mutagenesis法を用いてluc2遺伝子の塩基配列に変異を導入することによって、ランダムにアミノ酸変異が導入されたluc2の改変体を作製した。具体的には、random mutagenesis法はエラープローンPCRを用いて行った。pRSETbにBamHIとEcoRIの制限酵素サイトを用いてluc2遺伝子が組み込まれたプラスミド0.3μgと、0.1nmolのフォワードプライマー及びリバースプライマー(フォワードプライマー;cgggatccgaccATGGAAGATGCCAAAAAC(配列番号9)、リバースプライマー;ggaattcTTACACGGCGATCTTGCC(配列番号10))と、0.5nmolのMnCl2と、プロメガ社のGoTaq Master mixを用いてPCRを行った。その後、PCR産物をBamHI、EcoRIで切断してpRSETbに挿入し、大腸菌JM109DE3にトランスフォーメーションした。トランスフォーメーションした大腸菌を培地にプレーティングした後、大腸菌のコロニーにアカルミネまたはD-ルシフェリンをそれぞれ添加し、発光の強弱を測定した。発光が強いコロニーをLB(アンピシリン添加)培養液で37℃、12時間培養した。その後、大腸菌からDNAを抽出し、変異を導入したluc2遺伝子の配列を解読した。
【0101】
一方、Point mutagenesis法はQuick change site directed mutagenesis法を使って行った。pRSETbにBamHIとEcoRIの制限酵素サイトを用いてluc2遺伝子を挿入したプラスミド0.6μg、0.14nmolのリン酸化したプライマー(GGCCTGACAGAAACAACCnnnGCCATTCTGATCACCCCC(配列番号11):nはA、T、G、Cが混在している。)、Taq DNA ligase(new England biolab社)及びそのバッファー、Pfu DNA polymerase(agilent社)及びそのバッファー、並びにdNTP を加えて、PCRを行った。その後、0.5μlのDpnI(New England Biolab社)を加えて、37℃、40分処理した。その後、大腸菌JM109DE3にトランスフォーメーションし、プレーティングした。トランスフォーメーションした大腸菌を培地にプレーティングした後、大腸菌のコロニーにアカルミネまたはD-ルシフェリンをそれぞれ添加し、発光の強弱を測定した。発光が強いコロニーをLB(アンピシリン添加)培養液で37℃、12時間培養した。その後、大腸菌からDNAを抽出し、変異を導入したluc2遺伝子の配列を解読した。
【0102】
〔手順〕
プラスミドpcDNA3をBamHI及びEcoRIで処理し、上記ルシフェラーゼのそれぞれについて、コードする遺伝子を挿入してトランスフェクション用プラスミドを作製した。
【0103】
トランスフェクションする哺乳細胞としてHeLaS3細胞を用いた。上記ルシフェラーゼのそれぞれについて、D-MEM(低グルコース,含10% FBS,含1% ペニシリンストレプトマイシン,和光純薬工業)中で培養したHeLaS3細胞を80%コンフレントの状態でトランスフェクション試薬Polyethylenimine, Linear(MW 25,000, Polysciences, Inc)および上記トランスフェクション用プラスミド(0.3μg)と混合し、トランスフェクションを行った。
【0104】
トランスフェクションから24時間後、細胞をトリプシン処理して細胞剥離し、DMEM/F12(10%FBS,gibco)に懸濁した。次いで、遠心分離を行って上清を取り除いた後に、1mLのDMEM/F12で再度懸濁し、各種ルシフェラーゼ発現細胞として使用した。
【0105】
1.5mLのエッペンドルフチューブ中で、作製したルシフェラーゼ発現細胞20μLと基質溶液(pH 7.4 PBSで調製)80μLとを混合し、その発光を1分間測定し(アトー株式会社製ルミノメーターAB-2280)、その1分間の積算値を発光強度とした。
基質溶液としては、アカルミネまたはD-ルシフェリン(それぞれ80μM)を加えた。発光強度の測定結果は、luc2のサンプルにアカルミネを添加した時の発光強度を1.0としたときの相対値として以下の表2に示した。
【0106】
【表2】
【0107】
次に、基質として、D-ルシフェリン、アカルミネ、アカルミネ-OH、6-アカルミネ、O-アカルミネ、モノエンNMe2、モノエンNH2、モノエンOH、およびビフェニルを用いて、各基質に対する特異性を評価した。各基質の化学式は、下記に示すとおりである。基質溶液には、1種類の基質が含有されている。
【0108】
【化1】
【0109】
D-ルシフェリンの発光強度を1とした場合の相対発光強度の結果を表3~8に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
【表7】
【0115】
【表8】
【0116】
<2.各種ルシフェラーゼ間の発光強度の比較>
蛍光タンパク質Venusと融合した上記改変体cまたは改変体dの各種ルシフェラーゼを一過的に発現したHeLaS3細胞(35mmのガラスボトムディッシュに播種した)に80μMのアカルミネを添加し、発光顕微鏡LV200(オリンパス)で一細胞ごとの発光強度とVenusの蛍光強度を測定した。その後、発光強度を蛍光強度で標準化してタンパク質の量を定量し、各種ルシフェラーゼの発光の強さを測定した。
【0117】
D-MEM(低グルコース, 含10% FBS, 含1%ペニシリンストレプトマイシン, 和光純薬工業)で培養したHeLaS3細胞を80%コンフレントの状態でトランスフェクション試薬(Polyethylenimine, Linear(MW 25,000, Polysciences, Inc)と各種ルシフェラーゼが挿入されたDNA(0.3 μg)とを混合し、トランスフェクションを行った。プラスミドDNAはpcDNA3に対して、「KpnI制限酵素サイト‐Venus‐BamHI制限酵素サイト‐ルシフェラーゼ‐EcoRI制限酵素サイト」を挿入したものを用いた。トランスフェクションから24時間後、得られた細胞を、Venus-各種ルシフェラーゼの融合タンパク質の発現細胞として、LV200(×40対物レンズ)でVenusの蛍光観察後、直ちにアカルミネ(最終濃度80μL)を添加し、20分間その発光を観察した。
【0118】
得られた顕微鏡画像から、画像解析ソフトimageJを用いて、十数個の細胞を対象として、一つ一つの細胞での蛍光強度と発光強度を算出し、各種ルシフェラーゼの発光強度/蛍光強度を単位タンパク質当りの発光強度のデータとした。その結果、蛍光強度と発光強度の関係が線形性を持つことも確認した。
【0119】
また、上記と同様にして調製した、蛍光タンパク質Venusと融合したluc2、上記改変体cまたは改変体dの各種ルシフェラーゼを一過的に発現したHeLaS3細胞(35mmのガラスボトムディッシュに播種した)に対して、LV200を用いて蛍光観察を行った結果を、図1に示す。上記により、蛍光強度と発光強度の関係が線形性を持つことも確認しているため、蛍光強度とVenus‐各種ルシフェラーゼの発現量は相関するものと推測される。従って、蛍光観察から、Venus‐luc2と比較して、Venus‐luc2の改変体は、発現効率が高い(明らかに蛍光強度の高い細胞が多い)ことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、バイオライフサイエンス、医学、および薬学などの様々な分野において利用することができる。
図1
【配列表】
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