(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】初代造血細胞におけるタンパク質送達
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230928BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/10 ZNA
(21)【出願番号】P 2022115435
(22)【出願日】2022-07-20
(62)【分割の表示】P 2021082195の分割
【原出願日】2016-01-29
【審査請求日】2022-08-18
(32)【優先日】2015-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マーソン アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ダウドナ ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】ブルーストーン ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】シューマン キャスリン
(72)【発明者】
【氏名】リン スティーヴン
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0357530(US,A1)
【文献】特表2014-533936(JP,A)
【文献】Cell Stem Cell,2014年,Vol.15, No.6,pp.643-652
【文献】Genome Research,2014年,Vol.24,pp.1012-1019
【文献】Cancer Res.,2001年,Vol.61, No.5,pp.1976-1982
【文献】PNAS,2015年08月,Vol.112, No.33,pp.10437-10442
【文献】Cell,2013年,Vol.154,pp.442-451
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)Cas9ヌクレアーゼドメインと二本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型と細胞とを含む反応混合物を提供する工程であって、DNA鋳型が50、75、または100 bpから110、120、125、150、200、225、または250 bpの長さである、前記工程;および
b) エレクトロポレーションによって細胞内部にCas9ヌクレアーゼドメインとDNA鋳型とを導入する工程
を含む、インビトロまたはエクスビボにおいて細胞のゲノムを編集する方法であって、
細胞が初代造血細胞または初代造血幹細胞であり、Cas9ヌクレアーゼドメインが細胞内部のガイドRNAと複合体を形成する、方法。
【請求項2】
細胞内部のガイドRNAが細胞内部のガイドRNA遺伝子によってコードされ、ガイドRNA遺伝子がDNAを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞が、Cas9ヌクレアーゼドメインをコードする核酸を含有しない、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
細胞が、Cas9をコードする核酸およびガイドRNAをコードするDNA核酸を含有しない、請求項1記載の方法。
【請求項5】
エレクトロポレーションが、カソード電極とアノード電極との間のチャンバー内に反応混合物を配置する工程、およびカソード電極とアノード電極との間に20 kV/mから100 kV/mの電位を印加する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
反応混合物中のCas9ヌクレアーゼドメインが、0.25μMから5μMの濃度である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
細胞が初代造血細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
初代造血細胞が免疫細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
免疫細胞がT細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
T細胞が組換え抗原受容体を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
二本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型が9μMから180μMの濃度である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
二本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型が、組換え抗原受容体、その一部分、またはその構成成分をコードする、請求項10または11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年1月30日に出願された米国特許仮出願第62/110,187号および2015年8月25日に出願された米国特許仮出願第62/209,711号に対して優先権を主張し、これらのそれぞれの内容は、全ての目的に対してその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
初代細胞の正確かつ効率的な操作のための、方法、組成物、反応混合物、キット、およびデバイスは、細胞治療の開発、ならびに体内の種々の細胞、組織、器官、および系の機能への基礎研究に向けて大きな期待が見込める。例えば、初代抗原特異的T細胞の作製および使用における近年の進歩は、癌および感染症に対する免疫療法に向けて大きな期待が見込める。別の例としては、初代細胞において調節遺伝子を正確に標的とする能力は、そのような調節の表現型の結果を研究するために用いることができる。
【発明の概要】
【0003】
発明の簡単な概要
1つの局面において、本発明は、細胞が初代造血細胞または初代造血幹細胞であり、以下の工程:a)Cas9ヌクレアーゼドメイン(例えば、Cas9アポタンパク質)と細胞とを含む反応混合物を提供する工程;およびb)細胞内部にCas9ヌクレアーゼドメインを導入する工程であって、該Cas9ヌクレアーゼドメインが細胞内部のガイドRNAと複合体を形成する、工程を含む、細胞のゲノムを編集する方法を提供する。いくつかの態様において、細胞内部のガイドRNAは、DNAを含む細胞内部のガイドRNA遺伝子によってコードされる。いくつかの態様において、細胞は、Cas9ヌクレアーゼドメインをコードする核酸を含有しない。いくつかの態様において、Cas9送達の効率は少なくとも約20%または30%である。いくつかの態様において、初代造血細胞または初代造血幹細胞は、上記または本明細書の他の部分に説明したように、細胞のゲノムが編集される前、その時、またはその後のいずれかで、異種タンパク質を発現するように改変される。いくつかの態様において、異種タンパク質は、ウイルス(例えば、レンチウイルス)ベクターによってコードされる。いくつかの態様において、異種タンパク質は、キメラ抗原受容体(CAR)タンパク質または異種T細胞受容体(TCR)であり、再構成TCRを含むがそれに限定されるわけではない。
【0004】
いくつかの態様において、本発明は、細胞が初代造血細胞または初代造血幹細胞であり、以下の工程:a)Cas9リボヌクレオタンパク質複合体と細胞とを含む反応混合物を提供する工程であって、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体が、Cas9ヌクレアーゼドメインと、細胞のゲノムの標的領域に特異的にハイブリダイズするガイドRNAとを含む、工程;およびb) Cas9リボヌクレオタンパク質複合体を細胞内部に導入する工程を含む、細胞のゲノムを編集する方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、少なくとも約20%のゲノム編集の効率をもたらす。いくつかの態様において、細胞は、Cas9をコードする核酸および/またはガイドRNAをコードするDNA核酸を含有しない。
【0005】
いくつかの態様において、a)の提供する工程の前に、細胞は不死化も形質転換もされない。いくつかの場合において、b)の導入する工程の後に、細胞は不死化も形質転換もされない。いくつかの態様において、細胞は、a)の提供する段階の前に継代されていない。いくつかの場合において、a)の提供する工程の前に、細胞は、宿主生物または組織から直接的に単離され、培養されている。いくつかの場合において、a)の提供する工程の前に、細胞は宿主生物または組織から直接的に単離されているが、培養されていない。
【0006】
いくつかの態様において、導入する工程はエレクトロポレーションを含む。いくつかの態様において、導入する工程は以下の工程を含む:ナノワイヤまたはナノチューブをCas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質でコートする工程;Cas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質でコートしたナノワイヤまたはナノチューブと細胞を接触させる工程;およびCas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質でコートしたナノワイヤまたはナノチューブで細胞の細胞膜を突き通す工程。いくつかの態様において、導入する工程は以下の工程を含む:細胞の細胞膜に一過性の細孔を導入する、細胞の直径より小さい細胞変形コンストリクション(cell deforming constriction)に反応混合物を強制的に通過させる工程;およびCas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質を、一過性の細孔を通って細胞に進入させる工程。
【0007】
いくつかの態様において、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質は、細胞上の細胞外受容体のリガンドを含み、かつ導入する工程は、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質の受容体媒介性内部移行を含む。いくつかの態様において、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質は、細胞透過性ペプチドを含み、導入する工程は、細胞透過性ペプチドを細胞に接触させる工程を含む。
【0008】
いくつかの場合において、エレクトロポレーションは、カソード電極とアノード電極の間にあるチャンバー内に反応混合物を配置する工程、およびカソード電極とアノード電極の間に約20 kV/mから約100 kV/mの電位を印加する工程を含む。いくつかの場合において、電位は、約5 msから約100 msの長さを有するパルスとして印加される。いくつかの場合において、方法は、電位パルスの印加を2から10回繰り返す工程をさらに含む。いくつかの場合において、チャンバーは、長手方向の長さおよび水平断面積を有する中空の部材であり;チャンバーは、長手方向の長さによって隔てられた第1および第2の遠位端を含み;かつチャンバーは、第1の遠位端にある第1の電極と、チャンバーの第2の遠位端と流体連通している電解液を含有するリザーバーとを有し、該リザーバーは第2の電極を有する。いくつかの場合において、チャンバーは、50から10,000の範囲で水平断面積に対する長手方向の長さの比率を有する。
【0009】
いくつかの態様において、反応混合物中のCas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質は、約0.25μMから約5μMの濃度である。いくつかの態様において、反応混合物中のCas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質は、約0.9μMから約1.8μMの濃度である。いくつかの態様において、反応混合物は、1μL当たり約1×105から約4×105個の初代造血細胞もしくは初代造血幹細胞または約0.9×104から約3.6×104個の初代造血細胞もしくは初代造血幹細胞を含有する。いくつかの態様において、反応混合物は、1μL当たり約2×105から約2.5×105個の初代造血細胞もしくは初代造血幹細胞または1.8×104から約2.2×104個の初代造血細胞もしくは初代造血幹細胞を含有する。いくつかの態様において、細胞は初代造血細胞である。
【0010】
いくつかの場合において、初代造血細胞は免疫細胞である。いくつかの場合において、免疫細胞はT細胞である。いくつかの場合において、T細胞は制御性T細胞、エフェクターT細胞、またはナイーブT細胞である。いくつかの場合において、制御性T細胞、エフェクターT細胞、またはナイーブT細胞はCD4+T細胞である。いくつかの場合において、T細胞はCD4+CD25hiCD127lo制御性T細胞である。いくつかの場合において、T細胞はFOXP3+T細胞である。いくつかの場合において、T細胞はCD4+CD25loCD127hiエフェクターT細胞である。いくつかの場合において、T細胞はCD4+CD25loCD127hiCD45RAhiCD45RO-ナイーブT細胞である。いくつかの場合において、T細胞はCD8+T細胞である。いくつかの場合において、T細胞はCD4+CD8+T細胞である。いくつかの場合において、a)の提供する工程の前に、T細胞は予め活性化される。いくつかの場合において、a)の提供する工程の前に、T細胞は刺激されない。いくつかの場合において、T細胞は組換え抗原受容体を含む。
【0011】
いくつかの態様において、反応混合物は、二本鎖または一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型をさらに含み、方法は、細胞内部に二本鎖または一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型を導入する工程を含む。いくつかの態様において、二本鎖または一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型は約9μMから約180μMの濃度である。いくつかの場合において、二本鎖または一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型は約45μMの濃度である。いくつかの場合において、方法は、少なくとも約20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、または80%の初代造血細胞(例えば、刺激されたまたは刺激されていないT細胞)または初代造血幹細胞のゲノム編集(例えば、Cas9一本鎖または二本鎖切断部位のニック修復、非相同末端結合修復、または相同組換え修復によって)の効率をもたらす。
【0012】
いくつかの場合において、方法は、約20%から約80%、約25%から約70%、約30%から約75%、約40%から約75%、約50%から約70%、約20%から約70%、約25%から約65%、約30%から約60%、または約35%から約55%の初代造血細胞(例えば、刺激されたまたは刺激されていないT細胞)または初代造血幹細胞のゲノム編集(例えば、Cas9一本鎖または二本鎖切断部位のニック修復、非相同末端結合修復、または相同組換え修復によって)の効率をもたらす。
【0013】
いくつかの場合において、方法は、少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、または75%の初代造血細胞(例えば、刺激されたまたは刺激されていないT細胞)または初代造血幹細胞の鋳型指向性(template directed)ゲノム編集の効率をもたらす。
【0014】
いくつかの場合において、方法は、約5%から約30%、約7%から約25%、約10%から約20%、約5%から約25%、約10%から約25%、約5%から約20%、約5%から約15%、または約10%から約15%の初代造血細胞(例えば、刺激されたまたは刺激されていないT細胞)または初代造血幹細胞の鋳型指向性ゲノム編集の効率をもたらす。いくつかの場合において、一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型は、組換え抗原受容体、その一部分、またはその構成成分をコードする。
【0015】
いくつかの態様において、細胞はT細胞であり、方法は、c)b)の導入する工程の後に、CD3アゴニストおよびCD28アゴニストを含有する培養培地に反応混合物を移して、細胞を培養する工程をさらに含む。いくつかの場合において、CD3アゴニストまたはCD28アゴニストは固体表面上に固定化されるか、またはCD3アゴニストおよびCD28 アゴニストは固体表面上に固定化される(例えば、1つのビーズもしくは別個のビーズ上、または培養プレートもしくはウェルの表面上に固定化される)。いくつかの場合において、CD3アゴニストは抗CD3抗体である。いくつかの場合において、CD28アゴニストは抗CD28 抗体である。いくつかの場合において、方法は、c)c)の培養する工程の後に、CD3アゴニストもCD28アゴニストも含有しない培養培地に反応混合物を移して、細胞を培養する工程をさらに含む。
【0016】
いくつかの場合において抗CD3抗体(例えば、固定化または可溶性)は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25μg/mLの濃度である。いくつかの場合において、抗CD3抗体(例えば、固定化または可溶性)は、約0.5 から約25μg/mL、約1 から約20μg/mL、約2 から約15μg/mL、約5 から約15μg/mL、または約5 から約10μg/mLの濃度である。いくつかの場合において、抗CD28抗体(例えば、固定化または可溶性)は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25μg/mLの濃度である。いくつかの場合において、抗CD28抗体(例えば、固定化または可溶性)は、約0.5 から約15μg/mL、約1 から約15μg/mL、約2 から約10μg/mL、約1 から約7.5μg/mL、または約2 から約5μg/mLの濃度である。
【0017】
いくつかの態様において、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質は、Cas9 ヌクレアーゼを含む。いくつかの態様において、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質は、Cas9 ニッカーゼを含む。いくつかの態様において、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質は、制限エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼに融合させたCas9ヌクレアーゼドメインを含む。いくつかの態様において、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体またはCas9アポタンパク質は、転写モジュレーターまたはクロマチン修飾因子に融合させたCas9ヌクレアーゼドメインを含む。
【0018】
いくつかの態様において、反応混合物は、少なくとも2つの構造的に異なるCas9リボヌクレオタンパク質複合体または少なくとも2つの構造的に異なるCas9アポタンパク質を含む。いくつかの場合において、少なくとも2つの構造的に異なるCas9リボヌクレオタンパク質複合体は構造的に異なるsgRNAを含有する。いくつかの場合において、少なくとも2つの構造的に異なるCas9リボヌクレオタンパク質複合体または少なくとも2つの異なるCas9アポタンパク質は、構造的に異なるCas9ドメインを含有する。
【0019】
別の局面において、本発明は、Cas9をコードする核酸および/またはガイドRNAをコードするDNA核酸を含有しない複数の初代造血細胞または初代造血幹細胞であって、その複数の細胞の少なくとも20%がCas9リボヌクレオタンパク質複合体を含有する、複数の初代造血細胞または初代造血幹細胞を提供する。いくつかの態様において、複数の細胞の少なくとも30%は、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体を含有する。いくつかの態様において、複数の細胞の少なくとも20%は、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体および一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型を含有する。いくつかの態様において、複数の細胞は、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体の存在について濃縮されていない。いくつかの態様において、複数の細胞の少なくとも20%または30%は、標的ゲノム領域に二本鎖切断、またはNHEJもしくはHDR修復二本鎖切断を含有する。いくつかの態様において、初代造血細胞または初代造血幹細胞は、上記または本明細書の他の部分に説明したように、細胞のゲノムが編集される前、その時、またはその後のいずれかで、異種タンパク質(例えば、キメラ抗原受容体(CAR))を発現するように改変される。異種タンパク質は、細胞内に導入されたウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)によってコードされうる。
【0020】
定義
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」には、文脈上明白に他の解釈を要する場合を除き、複数形への言及が含まれる。
【0021】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖いずれかの形態でのデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)およびそのポリマーを指す。特に限定しない限り、この用語は、参照核酸と類似の結合特性を有しかつ天然に生じるヌクレオチドに類似の形で代謝される、天然ヌクレオチドの公知の類似体を含有する核酸を包含する。別段の指定がない限り、特定の核酸配列はまた、その保存的に改変された変異体(例えば、縮重コドン置換)、アレル、オルソログ、SNP、および相補的配列、ならびに明示された配列を暗示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を作製することによって達成されうる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081(1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608(1985);およびRossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98(1994))。
【0022】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖を産生またはコードするのに関与するDNAのセグメントを指す可能性がある。それには、コード領域の前および後ろの領域(リーダーおよびトレーラー)ならびに個別のコードセグメント(エクソン)の間にある介在配列(イントロン)が含まれうる。あるいは、「遺伝子」という用語は、rRNA、tRNA、ガイドRNA(例えば、スモールガイドRNA)、またはマイクロRNAなどの非翻訳RNAを産生またはコードするのに関与するDNAのセグメントを指す可能性がある。
【0023】
「プロモーター」は、核酸の転写を指示する整列した多数の核酸制御配列として定義される。本明細書において用いられるプロモーターには、転写の開始部位の近くにある必要な核酸配列、例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合、TATA要素などが含まれる。プロモーターにはまた、転写の開始部位から数千塩基対もの場所に位置しうる、遠位のエンハンサーエレメントまたはリプレッサーエレメントも含まれてもよい。
【0024】
「発現カセット」は、宿主細胞において特定のポリヌクレオチド配列の転写を可能にする一連の指定された核酸エレメントを有する、組換え的にまたは合成的に作製された、核酸構築物である。発現カセットは、プラスミド、ウイルスゲノム、または核酸断片の一部であってもよい。典型的には、発現カセットには、プロモーターに機能的に連結された、転写されるべきポリヌクレオチドが含まれる。
【0025】
「レポーター遺伝子」は、酵素活性または化学蛍光特性などのその生化学的特徴のために容易に検出可能であるタンパク質をコードする。そのようなレポーターの1つの具体例は緑色蛍光タンパク質である。このタンパク質から生じた蛍光は、種々の市販の蛍光検出システムで検出することができる。他のレポーターは染色によって検出することができる。レポーターはまた、適切な基質と接触すると検出可能なシグナルを生じる酵素であってもよい。レポーターは、検出可能な産物の形成を触媒する酵素であってもよい。適した酵素には、これらに限定される訳ではないが、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、およびヒドロラーゼが含まれる。レポーターは、その基質が真核生物細胞膜に実質的に不透過性であり、よって、シグナル形成を厳密に制御することを可能にする、酵素をコードしてもよい。酵素をコードする適切なレポーター遺伝子の具体例には、これらに限定される訳ではないが、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ; Alton and Vapnek(1979) Nature 282: 864-869);ルシフェラーゼ(lux);β-ガラクトシダーゼ;LacZ;β-グルクロニダーゼ;およびアルカリホスファターゼ(Toh, et al.(1980) Eur. J. Biochem. 182: 231-238;およびHall et al.(1983) J. Mol. Appl. Gen. 2: 101)が含まれ、そのそれぞれが、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。他の適したレポーターには、エピトープを特異的に認識する標識抗体により検出することができる特定のエピトープをコードするレポーターが含まれる。
【0026】
「アミノ酸」という用語は、天然に生じるアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に生じるアミノ酸に類似の形で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然に生じるアミノ酸は、遺伝暗号によりコードされるアミノ酸、ならびに後に修飾されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然に生じるアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム等に結合しているα炭素を有する化合物を指す。そのような類似体は、修飾R基(例えばノルロイシン)または修飾ペプチド骨格を有するが、天然に生じるアミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。「アミノ酸模倣体」は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なるが、天然に生じるアミノ酸に類似の形で機能する構造を有する化学化合物を指す。
【0027】
当技術分野において、部位特異的な形でポリペプチド鎖内への非天然のアミノ酸誘導体または類似体の組み込みを可能にする、さまざまな公知の方法が存在する、例えばWO 02/086075を参照。
【0028】
アミノ酸は、一般に知られている3文字記号、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される1文字記号のいずれかによって、本明細書において言及されうる。同様に、ヌクレオチドは、一般に認められている1文字コードによって言及されうる。
【0029】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。3つの用語は全て、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然に生じるアミノ酸の人工的な化学模倣体である、アミノ酸ポリマー、ならびに天然に生じるアミノ酸ポリマーおよび非天然に生じるアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書で用いられるこれらの用語は、全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含し、ここで、アミノ酸残基は共有ペプチド結合によって連結される。
【0030】
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、「保存的に改変された変異体」は、同じまたは本質的に同じアミノ酸配列をコードする核酸、または、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同じ配列を指す。遺伝暗号の縮重のために、多数の機能的に同一の核酸が任意の所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。よって、アラニンがコドンによって特定されている全ての位置で、コドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載した対応するコドンのいずれかに変更することができる。そのような核酸変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の1種である。ポリペプチドをコードする本明細書における全ての核酸配列はまた、核酸の全ての可能なサイレント変異も記載する。当業者は、核酸における各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)は機能的に同じ分子を得るように改変できることを認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は各記載の配列において暗示されている。
【0031】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コード配列中の1個のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更、付加または欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の配列に対する個別の置換、欠失または付加は、変更が化学的に類似するアミノ酸とのアミノ酸の置換をもたらす場合、「保存的に改変された変異体」であることを認識するであろう。機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当技術分野において周知である。そのような保存的に改変された変異体は、本発明の多型変異体、種間相同体、およびアレルに追加されるものであり、それらを除外しない。いくつかの場合において、Cas9またはsgRNAの保存的に改変された変異体は、本明細書に記載したように利用することができる。
【0032】
以下の8つの群はそれぞれ、互いに保存的置換となるアミノ酸を含有する:
1) アラニン(A)、グリシン(G);
2) アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3) アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4) アルギニン(R)、リジン(K);
5) イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6) フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7) セリン(S)、スレオニン(T); および
8) システイン(C)、メチオニン(M)
(例えば、Creighton, Proteins, W. H. Freeman and Co., N. Y.(1984)を参照)。
【0033】
アミノ酸は、一般に知られている3文字記号、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される1文字記号のいずれかによって、本明細書において言及されうる。同様に、ヌクレオチドは、一般に認められている1文字コードによって言及されうる。
【0034】
「トランスロケーション配列」または「形質導入配列」は、1つの細胞区画から別の細胞区画へ、または細胞外の空間から細胞または細胞膜を通って細胞内へとタンパク質の移動を方向付けるペプチドまたはタンパク質(またはその活性断片またはドメイン)の配列を指す。細胞外空間から細胞または細胞膜を通って細胞内へとタンパク質の移動を方向付けるトランスロケーション配列は、「細胞透過ペプチド」である。細胞の核に局在するトランスロケーション配列は、「核局在」配列、シグナル、ドメイン、またはペプチド等と呼ばれる。トランスロケーション配列の例には、これらに限定される訳ではないが、TAT形質導入ドメイン(例えば、S. Schwarze et al., Science 285(Sep. 3, 1999)を参照);ペネトラチンまたはペネトラチンペプチド(D. Derossi et al., Trends in Cell Biol. 8, 84-87):単純ヘルペスウイルス1型VP22(A. Phelan et al., Nature Biotech. 16, 440-443(1998)、およびポリカチオリン性(例えば、ポリアルギニン)のペプチド(Cell Mol. Life Sci. 62(2005) 1839-1849)が含まれる。さらに、トランスロケーション配列は当技術分野において公知である。トランスロケーションペプチドは、特に、標的細胞内に、または血液脳関門を通って標的細胞内に容易に移動しうるコンジュゲート化合物を生じさせるために、本発明の化合物に融合(例えば、アミノ末端またはカルボキシ末端で)、コンジュゲート、または連結させることができる。
【0035】
「CRISPR/Cas」システムは、外来性核酸に対する防御のための幅広いクラスの細菌システムを指す。CRISPR/Casシステムは、広範な真正細菌生物または古細菌生物で見いだされている。CRISPR/Casシステムには、I型、II型、およびIII型のサブタイプが含まれる。野生型II型CRISPR/Casシステムは、ガイドかつ活性化RNAと複合体を形成したRNA誘導型ヌクレアーゼ、Cas9を利用して、外来性核酸を認識および切断する。ガイドRNAと活性化RNAの両方の活性を有するガイドRNAもまた、当技術分野において公知である。いくつかの場合において、そのような二重活性ガイドRNAはスモールガイドRNA(sgRNA)として言及される。
【0036】
Cas9相同体は、広範な真正細菌で見いだされ、以下の分類群の細菌を含むが、これらに限定される訳ではない:放線菌門(Actinobacteria)、アクウィフェクス門(Aquificae)、バクテロイデス門-クロロビウム門(Bacteroidetes-Chlorobi)、クラジミア門-ウェルコミクロビウム門(Chlamydiae-Verrucomicrobia)、クロロフレクサス門(Chlroflexi)、藍色細菌(Cyanobacteria)、フィルミクテス門(Firmicutes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、スピロヘータ網(Spirochaetes)、およびテルモトガ門(Thermotogae)。例示的なCas9タンパク質は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)のCas9タンパク質である。さらなるCas9タンパク質およびその相同体は、例えば、Chylinksi, et al., RNA Biol. 2013 May 1; 10(5): 726-737 ; Nat. Rev. Microbiol. 2011 June; 9(6): 467-477; Hou, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Sep 24;110(39):15644-9; Sampson et al., Nature. 2013 May 9;497(7448):254-7;およびJinek, et al., Science. 2012 Aug 17;337(6096):816-21に記載されている。Cas9ヌクレアーゼドメインは、効率的な活性または宿主細胞における安定性の増強について最適化されうる。
【0037】
本明細書で用いられる「Cas9」という用語は、RNA誘導型ヌクレアーゼ(例えば、細菌もしくは古細菌起源の、またはそれらに由来する)を指す。例示的なRNA誘導型ヌクレアーゼには、前述のCas9タンパク質およびその相同体が含まれ、これらに限定される訳ではないが、CPF1が含まれる(例えば、Zetsche et al., Cell, Volume 163, Issue 3, p759-771, 22 October 2015を参照)。同様に、本明細書で用いられる「Cas9リボヌクレオタンパク質」複合体およびこれに類する用語は、Cas9タンパク質とcrRNA(例えば、ガイドRNA またはスモールガイドRNA)の、Cas9タンパク質とトランス活性化crRNA(tracrRNA)の、Cas9タンパク質とスモールガイドRNAの、またはそれらの組み合わせ(例えば、Cas9タンパク質、tracrRNA、およびcrRNAガイドRNAを含有する複合体)の複合体を指す。
【0038】
本明細書で用いられる、細胞のゲノムの編集の文脈で用いられる「編集する」という語句は、標的ゲノム領域にてゲノムの配列の構造的変化を誘導することを指す。例えば、編集は、標的ゲノム領域にてゲノムの配列内に挿入欠失(インデル)変異を導入する形をとることができる。そのような編集は、標的ゲノム領域内に二本鎖切断を導入する、または両鎖上に標的ゲノム領域に隣接する一対の一本鎖ニックを導入することによって行うことができる。標的ゲノム領域にまたは標的ゲノム領域内に一本鎖または二本鎖切断を導入するための方法には、Cas9ヌクレアーゼドメインまたはその誘導体、および標的ゲノム領域に方向付けられたガイドRNAまたはガイドRNAのペアの使用が含まれる。
【0039】
本明細書で用いられる、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体の導入またはCas9ヌクレアーゼドメインの導入の文脈における「導入する」という語句は、細胞の外側から細胞の内側へのCas9タンパク質またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体のトランスロケーションを指す。いくつかの場合において、導入するは、細胞の外側から細胞の核の内側へのCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質のトランスロケーションを指す。そのようなトランスロケーションの種々の方法は、これらに限定される訳ではないが、エレクトロポレーション、ナノワイヤまたはナノチューブとの接触、受容体媒介性内部移行、細胞透過性ペプチドを介するトランスロケーション、およびリポソーム媒介性トランスロケーション等を含むことが企図される。
【0040】
本明細書で用いられる、初代細胞または初代幹細胞の文脈における「初代」という語句は、形質転換も不死化もされていない細胞を指す。そのような初代細胞は、限られた数の回数で培養、二次培養、または継代する(例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20回培養する)ことができる。いくつかの場合において、初代細胞は、インビトロ培養条件に適応する。いくつかの場合において、初代細胞は、生物、系、器官、または組織から単離され、任意で選別されて、培養または二次培養することなく直接的に利用される。いくつかの場合において、初代細胞は刺激される、活性化させる、または分化される。例えば、初代T細胞は、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、IL-2、IFN-γ、またはそれらの組み合わせとの接触(例えば、それらの存在下での培養)によって活性化することができる。
【0041】
本明細書で用いられる「造血幹細胞」という語句は、血液細胞を生じることができる幹細胞の種類を指す。造血幹細胞は、骨髄球系もしくはリンパ球系系列の細胞、またはそれらの組み合わせを生じることができる。造血幹細胞は骨髄で主に見いだされるが、それらは末梢血またはその画分から単離することができる。種々の細胞表面マーカーを用いて、造血幹細胞を同定、選別、または精製することができる。いくつかの場合において、造血幹細胞はc-kit+およびlin-として特定される。いくつかの場合において、ヒト造血幹細胞は、CD34+、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、C-kit/CD117+、lin-として特定される。いくつかの場合において、ヒト造血幹細胞は、CD34-、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、C-kit/CD117+、lin-として特定される。いくつかの場合において、ヒト造血幹細胞は、CD133+、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、C-kit/CD117+、lin-として特定される。いくつかの場合において、マウス造血幹細胞は、CD34lo/-、SCA-1+、Thy1+/lo、CD38+、C-kit+、lin-として特定される。いくつかの場合において、造血幹細胞は、CD150+CD48-CD244-である。
【0042】
本明細書で用いられる「造血細胞」という語句は、造血幹細胞に由来する細胞を指す。造血細胞は、生物、系、器官、または組織(例えば、血液、またはその画分)からの単離によって入手または提供されうる。あるいは、造血細胞は、造血幹細胞を単離し、幹細胞を分化させることによって入手または提供されうる。造血細胞には、さらなる細胞型への分化する可能性が制限されている細胞が含まれる。そのような造血細胞には、これらに限定される訳ではないが、複能性前駆細胞、系統拘束性前駆細胞、骨髄球系共通前駆細胞、顆粒球マクロファージ前駆細胞、または巨核球赤芽球前駆細胞が含まれる。造血細胞には、リンパ球、赤血球、顆粒球、単球、および血小板などのリンパ球系および骨髄球系系列の細胞が含まれる。いくつかの態様において、造血細胞は、T細胞、B細胞、マクロファージ、または樹状細胞などの免疫細胞である。
【0043】
本明細書で用いられる「T細胞」という語句は、T細胞受容体分子を発現するリンパ球系細胞を指す。T細胞には、これらに限定される訳ではないが、ナイーブT細胞、刺激されたT細胞、初代T細胞(例えば、培養されていない)、培養T細胞、不死化T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、それらの組み合わせ、またはその亜集団が含まれる。T細胞はCD4+、CD8+、またはCD4+かつCD8+でありうる。T細胞はヘルパー細胞、例えば、Th1、Th2、Th3、Th9、Th17、またはTFH型のヘルパー細胞でありうる。T細胞は細胞傷害性T細胞でありうる。制御性T細胞はFOXP3+またはFOXP3-でありうる。T細胞はα/βT細胞またはγ/δT細胞でありうる。いくつかの場合において、T細胞はCD4+CD25hiCD127lo制御性T細胞である。いくつかの場合において、T細胞は、Tr1、Th3、CD8+CD28-、Treg17、およびQa-1拘束性T細胞、またはそれらの組み合わせもしくは亜集団からなる群より選択される制御性T細胞である。いくつかの場合において、T細胞はFOXP3+T細胞である。いくつかの場合において、T細胞はCD4+CD25loCD127hiエフェクターT細胞である。いくつかの場合において、T細胞はCD4+CD25loCD127hiCD45RAhiCD45RO-ナイーブT細胞である。
【0044】
T細胞は、遺伝的に操作されている組換えT細胞でありうる。いくつかの場合において、組換えT細胞は組換え(例えば、変異されたまたは異種の)T細胞受容体を有する。例えば、T細胞受容体は、T細胞受容体の相補性決定領域に1つまたは複数の変異を有し、抗原特異性を変化させることができる。別の例として、T細胞受容体は、シグナル伝達を増大または減少するように(例えば、エンドドメイン(endodomain)において)変異させることができる。さらに別の例として、T細胞受容体は、異種T細胞受容体と置換することができる。されに別の例として、T細胞受容体は、抗体または抗体断片など、異なる受容体ドメインを有するポリペプチドと置換することができる。いくつかの場合において、T細胞受容体は、標的ドメイン(例えば、抗体断片)、膜貫通ドメイン、および細胞内またはエンドドメインドメインを含有するキメラ受容体である。エンドドメインは、1つまたは複数のシグナル伝達ドメインおよび/またはアダプタードメインを含有し、ロバストなT細胞活性化および抗抗原活性を提供することができる。
【0045】
本明細書で用いられる「非相同末端結合」またはNHEJという用語は、DNA鎖の切断端またはニックが入った端が、相同な鋳型核酸の必要なしに直接的に連結される細胞プロセスを指す。NHEJは、修復部位で1つまたは複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換、またはそれらの組み合わせをもたらすことができる。
【0046】
本明細書で用いられる相同組換え修復(HDR)という用語は、DNA鎖の切断端またはニックが入った端が、相同鋳型核酸からの重合によって修復される、細胞プロセスを指す。よって、元の配列が鋳型の配列と置換される。相同鋳型核酸は、ゲノム中の他の相同配列(姉妹染色分体、相同染色体、または同じもしくは異なる染色体上の反復領域)によってもたらされうる。あるいは、外因性鋳型核酸を導入して、標的部位にある配列の特異的HDR誘導変化を得ることができる。この方法では、特異的変異が切断部位に導入されうる。
【0047】
本明細書で用いられる「一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型」または「ssODT」という語句は、HDRの鋳型として細胞が利用できるDNAオリゴヌクレオチドを指す。概して、ssODTは、標的部位に対して少なくとも1つの相同領域を有する。いくつかの場合において、ssODTは、標的切断部位に挿入されるべき変異または異種配列を含有する領域に隣接する2つの相同領域を有する。
[本発明1001]
a)Cas9リボヌクレオタンパク質複合体と細胞とを含む反応混合物を提供する工程であって、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体が、Cas9ヌクレアーゼドメインと、細胞のゲノムの標的領域に特異的にハイブリダイズするガイドRNAとを含む、工程;および
b)細胞内部にCas9リボヌクレオタンパク質複合体を導入する工程
を含む、細胞のゲノムを編集する方法であって、細胞が初代造血細胞または初代造血幹細胞である、方法。
[本発明1002]
少なくとも約20%のゲノム編集の効率をもたらす、本発明1001の方法。
[本発明1003]
細胞が、Cas9をコードする核酸および/またはガイドRNAをコードするDNA核酸を含有しない、本発明1001の方法。
[本発明1004]
a)の提供する工程の前に、細胞が不死化も形質転換もされない、本発明1001の方法。
[本発明1005]
b)の導入する工程の後に、細胞が不死化も形質転換もされない、本発明1004の方法。
[本発明1006]
a)の提供する工程の前に、細胞が継代されていない、本発明1001の方法。
[本発明1007]
a)の提供する工程の前に、細胞が宿主生物または組織から直接単離されており、かつ培養されている、本発明1006の方法。
[本発明1008]
a)の提供する工程の前に、細胞が宿主生物または組織から直接単離されており、かつ培養されていない、本発明1006の方法。
[本発明1009]
導入する工程がエレクトロポレーションを含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
導入する工程が、
ナノワイヤまたはナノチューブをCas9リボヌクレオタンパク質複合体でコートする工程;
細胞を、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体でコートしたナノワイヤまたはナノチューブと接触させる工程;および
Cas9リボヌクレオタンパク質複合体でコートしたナノワイヤまたはナノチューブで細胞の細胞膜を突き通す工程
を含む、本発明1001の方法。
[本発明1011]
導入する工程が、
反応混合物を、細胞の直径より小さい細胞変形コンストリクション(cell deforming constriction)に強制的に通過させる工程であって、細胞の細胞膜に一過性の細孔を導入する、工程;および
Cas9リボヌクレオタンパク質複合体を、一過性の細孔を通って細胞に進入させる工程
を含む、本発明1001の方法。
[本発明1012]
Cas9リボヌクレオタンパク質複合体が、細胞上の細胞外受容体に対するリガンドを含み、かつ導入する工程が、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体の受容体媒介性内部移行を含む、本発明1001の方法。
[本発明1013]
Cas9リボヌクレオタンパク質複合体が細胞透過性ペプチドを含み、かつ導入する工程が細胞透過性ペプチドを細胞に接触させる工程を含む、本発明1001の方法。
[本発明1014]
エレクトロポレーションが、カソード電極とアノード電極との間のチャンバー内に反応混合物を配置する工程、およびカソード電極とアノード電極との間に約20 kV/mから約100 kV/mの電位を印加する工程を含む、本発明1009の方法。
[本発明1015]
電位が、約5 msから約100 msの長さを有するパルスとして印加される、本発明1014の方法。
[本発明1016]
電位パルスの印加を2から10回繰り返す工程をさらに含む、本発明1015の方法。
[本発明1017]
チャンバーが、長手方向の長さおよび水平断面積を有する中空の部材であり;
チャンバーが、長手方向の長さによって隔てられた第1の遠位端および第2の遠位端を含み;かつ
チャンバーが、第1の遠位端に第1の電極と、チャンバーの第2の遠位端と流体連通している電解液を含有するリザーバーとを有し、該リザーバーが第2の電極を有する、
本発明1014の方法。
[本発明1018]
チャンバーが、50から10,000の範囲で水平断面積に対する長手方向の長さの比率を有する、本発明1017の方法。
[本発明1019]
反応混合物中のCas9リボヌクレオタンパク質複合体が、約0.25μMから約5μMの濃度である、本発明1001の方法。
[本発明1020]
反応混合物中のCas9リボヌクレオタンパク質複合体が、約0.9μMから約1.8μMの濃度である、本発明1001の方法。
[本発明1021]
反応混合物が、約1×105から約4×105個の初代造血細胞または初代造血幹細胞を含有する、本発明1001の方法。
[本発明1022]
反応混合物が、約2×105から約2.5×105個の初代造血細胞または初代造血幹細胞を含有する、本発明1001の方法。
[本発明1023]
細胞が初代造血細胞である、本発明1001の方法。
[本発明1024]
初代造血細胞が免疫細胞である、本発明1023の方法。
[本発明1025]
免疫細胞がT細胞である、本発明1024の方法。
[本発明1026]
T細胞が制御性T細胞、エフェクターT細胞、またはナイーブT細胞である、本発明1025の方法。
[本発明1027]
制御性T細胞、エフェクターT細胞、またはナイーブT細胞がCD4+T細胞である、本発明1026の方法。
[本発明1028]
T細胞がCD4+CD25hiCD127lo制御性T細胞である、本発明1025の方法。
[本発明1029]
T細胞がFOXP3+T細胞である、本発明1025の方法。
[本発明1030]
T細胞がCD4+CD25loCD127hiエフェクターT細胞である、本発明1025の方法。
[本発明1031]
T細胞がCD4+CD25loCD127hiCD45RAhiCD45RO-ナイーブT細胞である、本発明1025の方法。
[本発明1032]
T細胞がCD8+T細胞である、本発明1025の方法。
[本発明1033]
T細胞がCD4+CD8+T細胞である、本発明1025の方法。
[本発明1034]
a)の提供する工程の前に、T細胞が予め活性化される、本発明1025の方法。
[本発明1035]
a)の提供する工程の前に、T細胞が刺激されない、本発明1025の方法。
[本発明1036]
T細胞が組換え抗原受容体を含む、本発明1025の方法。
[本発明1037]
反応混合物が、一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型をさらに含み、かつ方法が、細胞内部に一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型を導入する工程を含む、本発明1001の方法。
[本発明1038]
一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型が約9μMから約180μMの濃度である、本発明1037の方法。
[本発明1039]
一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型が約45μMの濃度である、本発明1037の方法。
[本発明1040]
少なくとも約30%の初代造血細胞または初代造血幹細胞のゲノム編集の効率をもたらす、本発明1037~1039のいずれかの方法。
[本発明1041]
少なくとも約10%または少なくとも約14%の初代造血細胞または初代造血幹細胞の鋳型指向性ゲノム編集の効率をもたらす、本発明1037~1039のいずれかの方法。
[本発明1042]
一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型が、組換え抗原受容体、その一部分、またはその構成成分をコードする、本発明1037~1039のいずれかの方法。
[本発明1043]
細胞がT細胞であり、かつ方法が、
c)b)の導入する工程の後に、CD3アゴニストおよびCD28アゴニストを含有する培養培地に反応混合物を移し、細胞を培養する工程
をさらに含む、本発明1001~1041のいずれかの方法。
[本発明1044]
CD3アゴニストおよびCD28アゴニストが固体表面上に固定化されている、本発明1043の方法。
[本発明1045]
CD3アゴニストが抗CD3抗体である、本発明1043の方法。
[本発明1046]
CD28アゴニストが抗CD28抗体である、本発明1043の方法。
[本発明1047]
c)c)の培養する工程の後に、CD3アゴニストもCD28アゴニストも含有しない培養培地に反応混合物を移し、細胞を培養する工程
をさらに含む、本発明1043の方法。
[本発明1048]
Cas9リボヌクレオタンパク質複合体がCas9ヌクレアーゼを含む、本発明1001の方法。
[本発明1049]
Cas9リボヌクレオタンパク質複合体がCas9ニッカーゼを含む、本発明1001の方法。
[本発明1050]
Cas9リボヌクレオタンパク質複合体が、制限エンドヌクレアーゼまたはニッカーゼに融合されたCas9ヌクレアーゼドメインを含む、本発明1001の方法。
[本発明1051]
Cas9リボヌクレオタンパク質複合体が、転写モジュレーターまたはクロマチン修飾因子に融合されたCas9ヌクレアーゼドメインを含む、本発明1001の方法。
[本発明1052]
反応混合物が、少なくとも2種類の構造的に異なるCas9リボヌクレオタンパク質複合体を含む、本発明1001の方法。
[本発明1053]
少なくとも2種類の構造的に異なるCas9リボヌクレオタンパク質複合体が、構造的に異なるsgRNAを含有する、本発明1052の方法。
[本発明1054]
少なくとも2種類の構造的に異なるCas9リボヌクレオタンパク質複合体が、構造的に異なるCas9ドメインを含有する、本発明1052の方法。
[本発明1055]
a)Cas9ヌクレアーゼドメインと細胞とを含む反応混合物を提供する工程;および
b)細胞内部にCas9ヌクレアーゼドメインを導入する工程
を含む、細胞のゲノムを編集する方法であって、細胞が初代造血細胞または初代造血幹細胞であり、Cas9ヌクレアーゼドメインが細胞内部のガイドRNAと複合体を形成する、方法。
[本発明1056]
細胞内部のガイドRNAが細胞内部のガイドRNA遺伝子によってコードされ、ガイドRNA遺伝子がDNAを含む、本発明1055の方法。
[本発明1057]
細胞が、Cas9ヌクレアーゼドメインをコードする核酸を含有しない、本発明1055または1056の方法。
[本発明1058]
Cas9送達の効率が少なくとも約20%または30%である、本発明1055の方法。
[本発明1059]
Cas9をコードする核酸および/またはガイドRNAをコードするDNA核酸を含有しない複数の初代造血細胞または初代造血幹細胞であって、該複数の細胞の少なくとも20%が、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体を含有する、複数の初代造血細胞または初代造血幹細胞。
[本発明1060]
その少なくとも30%が、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体を含有する、本発明1059の複数の細胞。
[本発明1061]
その少なくとも20%が、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体および一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型を含有する、本発明1059の複数の細胞。
[本発明1062]
Cas9リボヌクレオタンパク質複合体の存在について濃縮されていない、本発明1059の複数の細胞。
[本発明1063]
その少なくとも20%または30%が、二本鎖切断、またはNHEJもしくはHDR修復二本鎖切断を標的ゲノム領域に含有する、本発明1059の複数の細胞。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1A】初代ヒトCD4
+T細胞におけるヒトCXCR4遺伝子座のロバストな編集。(A) ゲノム編集、続いての遺伝的および表現型の特徴決定のための、初代ヒトCD4
+T細胞へのCas9:シングルガイドRNAリボヌクレオタンパク質(Cas9 RNP)の送達の実験スキーム。(B)ヒトCXCR4遺伝子座におけるコード配列を編集するように設計されたシングルガイドRNA(sgRNA)標的(青色)およびPAM(緑色)配列の概略図(SEQ ID NO:31~32)。(C)FACSプロットは、対照処理細胞(sgRNA無しのCas9、対照)と比較して、高濃度のCXCR4 Cas9 RNPで低CXCR4発現(CXCR4
lo)を有する細胞のパーセンテージが高まることを示す。(D) T7エンドヌクレアーゼI(T7E1)アッセイはCXCR4遺伝子座におけるゲノム編集を実証し、FACSで選別されたCXCR4
loではCXCR4
hi細胞より多くの編集が観察された。予想PCR産物サイズ(938ヌクレオチド;nt)とおおよその予想T7E1断片サイズを示す。総編集頻度を、T7エンドヌクレアーゼIアッセイを用いて測定し、「材料と方法」に記載した式を用いて分析した。計算結果は、アガロースゲル画像の下側に%編集(合計)として示す。(E)選別したCas9 RNP処理CXCR4
hi(それぞれ、SEQ ID NO:34~43)およびCXCR4
lo(それぞれ、SEQ ID NO:45~54)におけるCXCR4遺伝子座の配列決定によって検出した変異パターンを、CXCR4
lo対照処理細胞(対照)(それぞれ、SEQ ID NO:56~65)からの配列と比較する。sgRNA標的(青色)およびPAM(緑色)配列を示した参照(REF)配列を、各集団からのクローン配列の上に示す(SEQ ID NO:33 - Cas9 RNP 処理CXCR4
hi;SEQ ID NO:44 - Cas9 RNP処理CXCR4
lo;SEQ ID NO:55 - CXCR4
lo 対照)。赤色の破線は欠失した塩基を表し、赤色の文字列は変異されたまたは挿入されたヌクレオチドを示す。複数のクローン由来の未変異配列を切り捨てた。
【
図2A】効率的な相同組換え修復は、初代ヒトT細胞において標的DNA置換を可能にする。(A)Cas9 RNPが切断する場合に、CXCR4遺伝子座で12 ntを置換し、新たなHindIII制限酵素切断部位(オレンジ色)を導入するように設計された、90ヌクレオチド(nt)のホモロジーアームを有する一本鎖オリゴヌクレオチドHDR鋳型の概略図(SEQ ID NO:66)。sgRNA標的配列(青色)およびPAM配列(緑色)を示す(SEQ ID NO:31~32)。(B)(対照のCas9タンパク質で処理した細胞および未染色の細胞と比較した)一本鎖HDR鋳型の存在下および非存在下でCXCR4 Cas9 RNPで処理した細胞におけるフローサイトメトリーにより評価したCXCR4細胞表面染色のヒストグラム。(C) FACSプロット(パネルBのヒストグラムに対応する)は、Cas9 RNP処理および100 pmolのssODTによるCXCR4の最大消失を示す。(D) 総編集(Cas9切断部位にインデルを生じさせる全てのNHEJ事象およびHDR事象の合計として定義される)パーセンテージを、T7E1を用いて計算したのに対して、HDR頻度を、新たに組み込まれたHindIII部位を特異的に切断する、HindIII消化により決定し、DNA基質に対するDNA産物の比率として計算した。予想されるPCR産物のサイズ(938ヌクレオチド;nt)およびおおよその予想されるT7E1およびHindIII消化断片を示す。総編集およびHDR頻度を、対照細胞、および様々な濃度のssODT(0、50、100および200 pmol)によりCXCR4 Cas9 RNPで処理した細胞において計算した。計算結果をアガロースゲル画像の下側に示す。
【
図3A】FOXP3のゲノム編集はヒトTregサイトカイン受容体レベルを不安定化する。(A)ヒトFOXP3遺伝子座におけるコード配列を編集するように設計された、2つのsgRNA標的(青色)およびPAM配列(緑色)の概略図(それぞれ、SEQ ID NO:67~70)。(B) T7E1アッセイは、FOXP3遺伝子座における2つの標的でのゲノム編集を確認し、予想されるPCR産物サイズ(900ヌクレオチド;nt)およびおおよその予想されるT7E1断片サイズを示す。(C)対照(sgRNA無しのCas9タンパク質およびアイソタイプ染色対照)と比較した、FOXP3 Cas9 RNP処理細胞におけるフローサイトメトリーにより評価した細胞内FOXP3レベルのヒストグラム。(D)対照(sgRNA無しのCas9タンパク質および未染色の対照)と比較した、FOXP3 Cas9 RNP処理細胞におけるフローサイトメトリーにより評価したCD127(IL7Rα)細胞表面染色のヒストグラム。
【
図4A】FOXP3を標的とするCas9 RNPはヒト誘導Treg分化を損なう。(A) エクスビボ刺激の2日後に、ナイーブCD4
+T細胞にCas9 RNPをエレクトロポレーションした。Cas9 RNP処理後に、IL-2およびTGF-βを伴うiTreg発生条件下で、細胞を培養した。FOXP3 Cas9 RNPは、FOXP3
+ iTreg発生を低下させ、炎症誘発性サイトカインIFNγを分泌する細胞のパーセンテージの増加をもたらした(フローサイトメトリーにより評価した)。(B) FOXP3 Cas9 RNPまたは対照RNPによるFOXP3
+およびIFNγ分泌細胞の量を、3回の実験から計算した(エラーバーは標準偏差を示し;対照細胞に対する有意差は以下のように示される:* p<0.05、** p<0.01)。挿入図は、拡大スケールでのFOXP3
+IFNγ
+のパーセンテージを示す。(C) FOXP3 Cas9 RNPは、FOXP3
+CTLA-4
+ iTreg発生を低下させた(FACSにより評価した)。FOXP3
-集団におけるCTLA-4
+発現はあまり影響を受けず、FOXP3依存性およびFOXP3非依存性機構(その両方がCTLA-4発現に寄与する)と一致した。
【
図5A】初代ヒトエフェクターT細胞(CD4
+CD25
loCD127
hi)におけるPD-1コードゲノム領域の編集の成功を図示する。
【
図6】細胞の直径より小さい細胞変形コンストリクションに、細胞およびCas9 RNPを含有する反応混合物を強制的に通過させる、細胞圧縮装置(cell squeezing apparatus)を用いる、刺激されていないエフェクターCD4
+T細胞へのCas9 RNP送達の結果を図示する。強制的に通過させることによって、細胞の細胞膜に一過性の細孔が導入され、Cas9 RNPは一過性の細孔を通って細胞に進入することができる。Pacific Blue(PB)で標識したデキストラン(3 kD) FITCで標識したデキストラン(500 kD)の取り込みに基づき、細胞を選別した。T7エンドヌクレアーゼ 1アッセイによって、両方のデキストランを取り込んだ細胞における編集の濃縮を確認した。
【
図7A】初代ヒトCD4
+T細胞におけるCXCR4の効率的な編集を例示する。(A) ゲノム編集、続いての遺伝的および表現型の特徴決定のための、初代ヒトCD4
+T細胞へのCas9:シングルガイドRNAリボヌクレオタンパク質(Cas9 RNP)の送達の実験スキーム。(B)ヒトCXCR4遺伝子座におけるコード配列を編集するように設計された、シングルガイドRNA(sgRNA)標的およびPAM配列の概略図(SEQ ID NO:76および32)。(C) FACSプロットは、対照処理細胞(sgRNA無しのCas9、対照;最終濃度:1.8μM)と比較して、高濃度のCXCR4 Cas9 RNP(Cas9 RNP
lo:0.9μM;Cas9 RNP
hi:1.8μM)で低CXCR4発現(CXCR4
lo)を有する細胞のパーセンテージが高まることを示す。(D) T7エンドヌクレアーゼI(T7E1)アッセイは、CXCR4遺伝子座におけるゲノム編集を実証し、FACSで選別されたCXCR4
loではCXCR4
hi細胞よりより多くの編集が観察された。予想PCR産物サイズ(938ヌクレオチド;nt)とおおよその予想T7E1消化断片サイズを示す。総編集頻度を、アガロースゲル画像の下側に%総編集として示す。(E)選別したCas9 RNP(1.8μM)処理CXCR4
hi(それぞれ、SEQ ID NO:78~87)およびCXCR4
lo(それぞれ、SEQ ID NO:89~94)におけるCXCR4遺伝子座のクローニングおよびSangerシーケンシングによって検出した変異パターンを、CXCR4
lo対照処理細胞(対照)(それぞれ、SEQ ID NO:96~104)からの配列と比較する。sgRNA標的(青色)配列およびPAM(緑色)配列を示した参照(REF)配列を、各集団からのクローン配列の上に示す(SEQ ID NO:77 - Cas9 RNP処理CXCR4
hi;SEQ ID NO:88 - Cas9 RNP処理CXCR4
lo;SEQ ID NO:95 - CXCR4
lo対照)。赤色の破線は欠失した塩基を表し、赤色の文字列は変異したヌクレオチドを示す。矢印は予想Cas9切断部位を示す。3つの追加的CXCR4
loクローンから得られた低品質の配列は、配列アライメントから除去した。
【
図8A】効率的な相同組換え修復は、初代ヒトT細胞において標的DNA置換を可能にする。(A)Cas9 RNPが切断するCXCR4遺伝子座でPAM配列を含む12 ntを置換し、新たなHindIII制限酵素切断部位を導入するように設計された、90 ntのホモロジーアームを有する一本鎖オリゴヌクレオチドHDR鋳型の概略図である(SEQ ID NO:66)。sgRNA標的およびPAM配列を示す(SEQ ID NO:31~32)。(B)(対照のCas9タンパク質で処理した細胞および未染色の細胞と比較した) 様々な濃度の一本鎖HDR鋳型の存在下でCXCR4 Cas9 RNPで処理した細胞におけるフローサイトメトリーにより評価したCXCR4細胞表面染色のヒストグラム。(C) FACSプロット(パネルBのヒストグラムに対応する)は、Cas9 RNP処理および100 pmolのHDR鋳型によるCXCR4の最大消失を示す。(D)%総編集(Cas9切断部位にインデルを生じさせる全てのNHEJ事象およびHDR事象の合計として定義される)パーセンテージを、T7E1アッセイを用いて推定したのに対して、HDR頻度を、新たに組み込まれたHindIII部位を特異的に切断する、HindIII消化により決定し、DNA基質に対するDNA産物の比率として計算した。予想されるPCR産物のサイズ(938 nt)およびおおよその予想されるT7E1およびHindIII消化断片を示す。
【
図9A】PD-1およびCXCR4の表面発現レベルに対する「オンターゲット」および対照HDR鋳型の作用。(A)CXCR4発現に対する作用を、同じヌクレオチド組成を有する2種類の異なるHDR鋳型について試験した。CXCR4 Cas9 RNPで全て処理した細胞において、CXCR4 HDR鋳型(列5~8)を、HindIII制限部位を含むランダム化した順序での元のCXCR4 HDRと同じヌクレオチドからなる対照HDR鋳型(列1~4)、およびHDR鋳型無しの処置(列9~12)と比較した。さらなる対照は、Cas9対照(HDR鋳型無しのCas9;最後の2列)、および100 pmol CXCR4 HDR鋳型を伴うスクランブル化したガイドCas9 RNP(ヒトゲノム内に予想される切断はない)(列13および14)である。ヒストグラムは、4回の実験の結果を示し、2つの別々にインビトロ転写したCXCR4 sgRNA(2種類の異なる精製ストラテジー、実施例4の材料と方法の欄を参照)を2種類の異なる血液ドナーで試験した。
図12のように、各血液ドナーについて、フェノール/クロロホルムで抽出したsgRNAにより行った実験を上に示し、PAGE精製したsgRNAによる実験を下に示す;スクランブル化ガイドは両実験ともフェノール/クロロホルム抽出によって調製した。(B)それぞれのCas9 RNPおよびオンターゲットまたはオフターゲットHDR鋳型により編集した後のPD-1(左パネル)およびCXCR4(右パネル)表面発現レベル。標的細胞を、示したようにCas9対照(濃い灰色)またはスクランブル化ガイドCas9 RNPで処理した細胞と比較した。
【
図10A】ディープシーケンシングによるCas9 RNP媒介性編集およびHDRの定量的分析。(A)
図8の実験からのCXCR4 Cas9 RNP媒介性インデルおよびHDRを、CXCR4遺伝子座の標的ディープシーケンシングによって分析した。予想切断部位の中央にある合計100 ntを、sgRNA標的、PAM、およびHDRゲノムターゲティング後の予想配列と共に示す(対照(SEQ ID NO:105);RNP(SEQ ID NO:106);RNP+HDR(SEQ ID NO:107)。各位置で、参照ゲノムまたはHDR鋳型由来の配列に対して正確に整列させたリードの割合を示す。まれではあるが(約1~2%)、予想CXCR4切断部位を含む、Cas9のみの対照処理による編集が検出され、これは、Cas9 RNPの微量の実験時の混入の可能性を示した。(B)棒グラフは、CXCR4部位および2カ所の予想オフターゲット部位におけるCas9対照細胞、CXCR4 Cas9 RNP細胞、および50 pmolまたは 100 pmolのCXCR4 HDR鋳型を伴うCXCR4 Cas9 RNP細胞の、欠失、挿入、またはHDRターゲティングの成功により編集されたリードの割合を要約する。HDR鋳型由来の配列が組み込まれたリードを除去して、欠失および挿入を有する割合を計算した。散布図は、ゲノムの局在(予想Cas9部位の前後+/- 100 nt;2番染色体:136873140-136873340)ならびに(C)欠失および(D)挿入の長さを示す。上段のパネルはCXCR4 RNP処理細胞の欠失/挿入を示し;中段のパネルはCXCR4 RNPおよびCXCR4 HDR鋳型で処理した細胞におけるHDR鋳型配列が組み込まれていないリードにおける欠失/挿入を示し;下段のパネルはHDR鋳型由来の配列が組み込まれたリードにおける欠失/挿入を示す。矢印は予想Cas9切断部位のおおよその位置を示す。
【
図11】予想CXCR4切断部位近傍の挿入および欠失の長さの分布。ヒストグラムは、予想切断部位の+/- 20 nt内に様々なサイズの欠失(灰色のバー)および挿入(黒色のバー)を含有するリードのパーセントを示す。上段はCXCR4 RNP処理細胞の挿入および欠失を示す。中段は、CXCR4 RNPおよびCXCR4 HDR鋳型で処置した細胞においてHDR鋳型由来の配列が組み込まれていないリードにおける挿入および欠失を示す。(下段).CXCR4 RNPおよびCXCR4 HDR鋳型で処置した細胞におけるHDR鋳型由来の配列が組み込まれたリードにおける挿入および欠失。
【
図12A】
図4 Cas9 RNPはPD-1またはCXCR4のノックイン編集についてプログラムすることができる。(A)12 ntを11 ntと置換して新たなHindIII制限酵素切断部位を導入しPAM配列を置換するように設計された、90 ntのホモロジーアームを有する一本鎖PD-1 HDR鋳型の概略図(SEQ ID NO:110)。sgRNA標的およびPAM配列を示す(SEQ ID NO:108~109)。(B)フローサイトメトリーによって評価したPD-1細胞表面発現レベルのヒストグラム。全ての細胞を100 pmolのPD-1 HDR鋳型で処理した。PD-1 Cas9 RNP処理細胞を青色で示し、CXCR4 Cas9 RNP処理細胞を薄灰色で示し、スクランブル化ガイド(ヒトゲノム内に予想される切断はない)Cas9 RNP処理細胞を濃い灰色で示す。(C)フローサイトメトリーによって評価したCXCR4細胞表面発現レベルのヒストグラム。全ての細胞を100 pmolのCXCR4 HDR鋳型で処理した。CXCR4 Cas9 RNP処理細胞を最初の4列に示し、PD-1 Cas9 RNP処理細胞を次の4列に示し、スクランブル化ガイドCas9 RNP処理細胞を最後の2列に示す。パネルBおよびパネルCは、4回の実験の結果を示し、2つの別々にインビトロ転写しかつ精製したCXCR4 sgRNAおよびPD-1 sgRNA(実施例4の材料と方法の補足情報を参照)を2種類の異なる血液ドナーで試験した。各血液ドナーについて、フェノール/クロロホルムで抽出したsgRNAにより行った実験を上に示し、PAGE精製したsgRNAによる実験を下に示す;スクランブル化ガイドは両実験ともフェノール/クロロホルム抽出によって調製した。点線はそれぞれ、PD-1高発現細胞またはCXCR4高発現細胞に対するゲーティングを示す。PD-1高発現細胞のパーセンテージは、CXCR4 Cas9 RNP処理(p<0.001)またはスクランブル化ガイドCas9 RNP処理(p<0.001)と比較して、PD-1 Cas9 RNP処理で有意に低かった。CXCR4高発現細胞のパーセンテージは、PD-1 Cas9 RNP処理(p<0.001)またはスクランブル化ガイドCas9 RNP処理(p<0.001)と比較して、CXCR4 Cas9 RNPで有意に低かった(ピアソンのカイ二乗検定)。(D) ゲノム編集をT7E1アッセイにより分析し、HDRを、新たに組み込まれたHindIII部位を特異的に切断するHindIII消化により検出した;両アッセイの切断産物を矢印で示す。様々なHDR鋳型の濃度をアガロースゲルの上に示す。対照HDR鋳型は、HindIII制限部位を含む元のCXCR4 HDR鋳型のスクランブル化バージョンを指す。重要性が不明確な非特異的な2番目のゲルバンドが、全ての条件下でPD-1アンプリコンのT7E1で認められた。総編集およびHDR頻度を計算し、アガロースゲル画像の下に表示する。
【発明を実施するための形態】
【0049】
詳細な説明
I. 導入
初代造血細胞または初代造血幹細胞などの初代細胞への核酸、タンパク質、ならびにタンパク質および核酸の複合体の送達は低い効率によって制限される可能性がある。本明細書において、初代細胞または初代幹細胞へのCas9タンパク質またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の驚くほど高い効率の送達を達成するための方法および組成物を記載する。そのようなCas9 またはそのリボヌクレオタンパク質複合体の高い効率の送達は、ゲノム編集、クロマチン修飾、遺伝子制御、細胞分化、および細胞活性の制御の方法の改良を可能にする。いくつかの態様において、Cas9またはそのリボヌクレオタンパク質複合体の高い効率の送達は初代造血細胞または初代造血幹細胞において行われる。
【0050】
Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質の初代造血細胞への高効率の送達は、例えば、ゲノム編集、クロマチン修飾、遺伝子制御、細胞分化、およびT細胞などの免疫細胞の活性の制御のために用いることができる。例えば、ゲノム編集試薬、クロマチン修飾試薬、または1つもしくは複数の遺伝子の発現を調節するための作用物質をT細胞内に送達することができる。別の例として、T細胞の活性、分化、または脱分化を制御する試薬をT細胞内に送達することができる。そのような方法は、癌、感染症、または自己免疫疾患を処置または予防するために使用することができる。
【0051】
いくつかの場合において、本明細書に記載の方法および組成物は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR T細胞)などの組換えT細胞の作製、改変、使用、または制御のために用いることができる。そのようなCAR T細胞は、癌、感染症、または自己免疫疾患を処置または予防するために用いることができる。例えば、いくつかの態様において、1つまたは複数の遺伝子産物が、異種タンパク質(例えば、キメラ抗原受容体(CAR))を発現するように改変された細胞においてノックインまたはノックアウトされる。ノックアウトされる例示的な遺伝子産物には、例えば、PD-1が含まれうる。CARは、任意の入手可能な方法によって、例えば、ウイルス(例えば、レンチウイルス)発現によって導入することができる。CARベクターは、細胞のゲノムが遺伝子産物をノックインまたはノックアウトするように編集される前に、その時に、またはその後に細胞内に導入することができる。
【0052】
I. 方法
Cas9タンパク質の初代細胞への送達のための方法は、Cas9ヌクレアーゼドメインを含む反応混合物を提供する工程、およびCas9ヌクレアーゼドメインを細胞内部に導入する工程を含むことができる。いくつかの場合において、方法には、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体と細胞とを含む反応混合物を提供する工程、ならびにb)Cas9リボヌクレオタンパク質複合体を細胞内部に導入する工程が含まれる。いくつかの場合において、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体は、Cas9ヌクレアーゼドメインおよびガイドRNA(例えば、スモールガイドRNA)を含む。ガイドRNAは、細胞のゲノムの標的領域に特異的にハイブリダイズするように構成されうる。
【0053】
いくつかの場合において、複数の構造的に異なるリボヌクレオタンパク質複合体が細胞内に導入される。例えば、Cas9タンパク質は、複数(例えば、2、3、4、5、またはそれより多い、例えば、2~10、5~100、20~100)の構造的に異なるガイドRNAと複合体を形成し、複数の構造的に異なる標的ゲノム領域を標的にすることができる。別の例として、複数の構造的に異なるCas9タンパク質((例えば、2、3、4、5、またはそれより多く)は、ガイドRNA、または複数の構造的に異なるガイドRNAと複合体を形成し、複数の異なるエフェクター機能を細胞内に導入することができる。いくつかの場合において、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体は別々に形成され、選択されたCas9エフェクター機能(例えば、ゲノム編集、転写調節等)が選択されたガイドRNAと相まって、よって選択された標的ゲノム領域を標的にすることができる。ひとたび形成されると、複数の構造的に異なるCas9リボヌクレオタンパク質は、本明細書に記載のように、細胞を含有する反応混合物中に提供され、細胞内に導入することができる。
【0054】
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は少なくとも約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%、99.5%、99%、またはそれより高いCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の送達の効率をもたらす。いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、約20%から約99%、約30%から約90%、約35%から約85%もしくは90%またはそれより高い、約40%から約85%もしくは90%またはそれより高い、約50%から約85%もしくは90%またはそれより高い、約50%から約85%もしくは90%またはそれより高い、約60%から約85%もしくは90%またはそれより高い、または約70%から約85%もしくは90%またはそれより高いCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の送達の効率をもたらす。いくつかの場合において、効率は、細胞内へのCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質の導入の後に生存可能な細胞に関して決定される。いくつかの場合において、効率は、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質を細胞内に導入した細胞(生存可能なまたは生存不能な)の総数に関して決定される。
【0055】
送達の効率を決定するための方法には、これらに限定される訳ではないが、以下の1つまたは複数が含まれる:Cas9、ガイドRNA、またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体に融合させたまたは他の方法で付着させた検出可能な標識の検出。例えば、Cas9またはガイドRNAは蛍光標識に融合させることができ、その細胞内への内部移行は当技術分野において公知の手段によって検出することができる。別の例として、ガイドRNAは、細胞を溶解し、ガイドRNAを増幅し、そして増幅したガイドRNAを検出することによって検出することができる。いくつかの場合において、増幅はガイドcDNAを生成するための逆転写工程を含み、そしてガイドcDNAは増幅され、検出される。
【0056】
別の例として、送達の効率は、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の下流の作用を検出することによって決定することができる。例えば、送達は、(導入工程後に得られた全細胞/アレルまたは全生存細胞と比較して)細胞の集団中のゲノム編集細胞またはゲノム編集アレルの数を定量化することによって推定することができる。ゲノム編集を定量化するための様々な方法を利用することができる。これらの方法には、限定される訳ではないが、T7エンドヌクレアーゼIなどのミスマッチ特異的ヌクレアーゼの使用;1つまたは複数の標的遺伝子座の配列決定(例えば、クローン化標的遺伝子座増幅断片のSangerシーケンスによる);分解によるインデルの追跡(TIDE);およびハイスループットディープシーケンシングが含まれる。
【0057】
T7エンドヌクレアーゼIアッセイでは、編集された細胞の画分を含有する複数の細胞を回収し、ゲノムDNAを抽出し、標的ゲノム領域を増幅し、そしてアンプリコンをハイブリダイズする。編集されたゲノムDNAアンプリコンは、野生型DNAアンプリコンとミスマッチ型ハイブリッド構造を形成する。DNAを、1つまたは複数のミスマッチ塩基対を含有する二本鎖DNAを切断するミスマッチ特異的ヌクレアーゼで消化する。切断の程度をアッセイして、編集効率を決定することができる。編集効率の定量のための代替のアプローチには、定量的PCRまたはデジタルPCRが含まれうる。いくつかの場合において、編集された細胞の数は、標的ゲノム領域への結合もしくはそれの切断における下流の非効率性、または編集事象の検出における非効率性のために、送達が達成された細胞の数より少ない可能性がある。同様に、送達されたCas9タンパク質が転写調節またはクロマチン修飾の活性をもたらすエフェクタードメインとの融合体であるとき、そのような活性を示す細胞の数は、送達が達成された細胞の数より少ない可能性がある。したがって、検出される下流作用の効率は、送達効率の下限と見なすことができる。
【0058】
いくつかの場合において、本明細書に記載の方法は、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質が細胞内に導入されている細胞の高い細胞生存性をもたらす。いくつかの場合において、高い生存性は、短い存続期間を有する限られた数の細孔の細胞外膜における形成によって達成される。いくつかの場合において、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質が細胞内に導入されている細胞の生存性は、少なくとも約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%、99.5%、99%、またはそれより高い。いくつかの場合において、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質が細胞内に導入されている細胞の生存性は、約20%から約99%、約30%から約90%、約35%から約85%もしくは90%またはそれより高い、約40%から約85%もしくは90%またはそれより高い、約50%から約85%もしくは90%またはそれより高い、約50%から約85%もしくは90%またはそれより高い、約60%から約85%もしくは90%またはそれより高い、または約70%から約85%もしくは90%またはそれより高い。
【0059】
いくつかの場合において、Cas9タンパク質が送達される細胞は、Cas9をコードする核酸を他には含有しない。いくつかの場合において、Cas9タンパク質が送達される細胞は、送達されるCas9タンパク質と構造的に同じCas9タンパク質をコードする核酸を含有しない。そのような場合では、送達効率の決定は、構造的に独特な送達Cas9タンパク質が導入されている細胞の数に関するものであることができ、任意のCas9タンパク質を有する細胞の数ではない。いくつかの場合において、Cas9が送達される細胞は、ガイドRNAをコードするDNAを含有しない。例えば、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体の形のCas9は、ガイドRNAをコードするDNAを含有しない、Cas9タンパク質をコードするDNAを含有しない、および/またはリボヌクレオタンパク質複合体中の送達したCas9タンパク質と構造的に同じCas9タンパク質をコードするDNAを含有しない細胞内に導入することができる。
【0060】
A. Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質を細胞内に導入する
Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を細胞(例えば、造血細胞または造血幹細胞、ヒト由来のそのような細胞等を含む)内に導入するための方法には、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を含有する反応混合物を形成する工程、および細胞の細胞外膜中に一過性の孔を導入する工程が含まれる。そのような一過性の孔は、これらに限定される訳ではないが、エレクトロポレーション、細胞圧縮、またはナノワイヤもしくはナノチューブとの接触を含む、様々な方法によって導入することができる。概して、一過性の孔は、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の存在下で導入され、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体が細胞内に拡散するのを可能にする。
【0061】
細胞をエレクトロポレーションして、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を導入するための方法、組成物、およびデバイスには、本明細書の実施例において記載するものが含まれうる。細胞をエレクトロポレーションして、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を導入するための追加的なまたは代替の方法、組成物、および装置には、WO/2006/001614またはKim, J.A. et al. Biosens. Bioelectron. 23, 1353-1360(2008)に記載されているものが含まれうる。細胞をエレクトロポレーションして、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を導入するための追加的または代替的な方法、組成物、およびデバイスには、米国特許出願公開第2006/0094095号、同第2005/0064596号、または同第2006/0087522号に記載のものが含まれうる。細胞をエレクトロポレーションして、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を導入するための追加的または代替的な方法、組成物、およびデバイスには、Li, L.H. et al. Cancer Res. Treat. 1, 341-350(2002);米国特許第6,773,669号、同第7,186,559号、同第7,771,984号、同第7,991,559号、同第6485961号、同第7029916号;ならびに米国特許出願公開第2014/0017213号、および同第2012/0088842号に記載のものが含まれうる。細胞をエレクトロポレーションして、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を導入するための追加的または代替的な方法、組成物、およびデバイスには、Geng, T. et al.. J. Control Release 144, 91-100(2010);およびWang, J., et al. Lab. Chip 10, 2057-2061(2010)に記載のものが含まれうる。
【0062】
いくつかの場合において、本明細書で引用する特許または刊行物に記載の方法または組成物は、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質送達のために改変される。そのような改変には、電圧、パルス長、またはパルス数を増大または低減させることが含まれうる。そのような改変には、緩衝液、培地、電解液、またはそれらの構成成分の改変がさらに含まれうる。エレクトロポレーションは、Bio-Rad Gene Pulser Electroporationデバイス、Invitrogen Neonトランスフェクションシステム、MaxCyteトランスフェクションシステム、Lonza Nucleofectionデバイス、NEPA Gene NEPA21トランスフェクションデバイス、ポンプおよび定電圧電源を含むフロースルーエレクトロポレーションシステム、または当技術分野において公知の他のエレクトロポレーションデバイスもしくはシステム等、当技術分野において公知のデバイスを用いて実施されうる。
【0063】
例示的な態様において、エレクトロポレーションは、カソード電極とアノード電極との間に長い距離を有するデバイスによって実施される。いくつかの場合において、カソード電極とアノード電極との間の距離は3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15,16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45 mmである。いくつかの場合において、デバイスは、細胞を含有する反応混合物と接触する表面積が比較的小さい電極で構成される。いくつかの場合において、電極の少なくとも1つの表面積、または反応混合物と接触する電極の少なくとも1つの表面積は、0.1 mm2、0.2 mm2、0.3 mm2、0.33 mm2、0.4 mm2、0.5 mm2、0.6 mm2、0.7 mm2、0.8 mm2、0.9 mm2、もしくは1 mm2であるか、またはおよそそれらの面積である。いくつかの場合において、カソード電極とアノード電極との間の距離と電極表面積との比は、1/50から1/1000である。いくつかの場合において、エレクトロポレーションチャンバーの断面積に対するエレクトロポレーションチャンバーの長軸の長さの比は50から10,000である。いくつかの場合において、エレクトロポレーションデバイスは、長手方向の長さによって隔てられた第1および第2の遠位端を有するエレクトロポレーションチャンバーを有し、ここで、第1の電極は第1の遠位端にあり、第2の電極を含有するリザーバーは第2の遠位端と流体連通している。
【0064】
別の例示的な態様において、エレクトロポレーションは、Lonza 4D Nucleofector(商標)デバイスによって実施される。例えば、エレクトロポレーションは、Amaxa P3初代細胞96ウェル Nucleofector(商標)キットまたはP3初代細胞 4D-Nucleofector XキットSによって実施することができる。いくつかの場合において、エレクトロポレーションは、適したエレクトロポレーション緩衝液(例えば、緩衝液補充物を伴うAmaxa バッファーP3)中に細胞を再懸濁すること、エレクトロポレーションチャンバー中に細胞を配置すること、および細胞をエレクトロポレーションすることによって実施される。いくつかの場合において、活性化T細胞は、以下のプログラムのいずれか1つを用いてNucleofector(商標)デバイスによってエレクトロポレーションすることができる:EH-115、CA-137、DS-150、CM-138、DS-120、CM-137、EH-100、CM-150、EO-100、DN-100、EN-138、DS-138、EN-150、DS-137、EW-113、またはDS-130。いくつかの場合において、活性化T細胞は、EH-115プログラムを用いてNucleofector(商標)デバイスによりエレクトロポレーションすることができる。いくつかの場合において、ナイーブT細胞は、以下のプログラムのいずれか1つを用いてNucleofector(商標)デバイスによってエレクトロポレーションすることができる:EH-100、DN-100、EO-100、EN-138、EW-113、またはEN-150。いくつかの場合において、ナイーブT細胞は、EH-100またはDN-100プログラムを用いてNucleofector(商標)デバイスによりエレクトロポレーションすることができる。
【0065】
エレクトロポレーションは、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質および細胞を含有する反応混合物をカソード電極とアノード電極との間にあるチャンバー内に配置すること、およびカソード電極とアノード電極との間に電位を印加することによって実施されうる。電位は約20 kV/mから約100 kV/mでありうる。いくつかの場合において、電位は、約30 kV/mから約90 kV/m、約30 kV/mから約80 kV/m、約30 kV/mから約70 kV/m、約30 kV/mから約60 kV/m、約40 kV/mから約60 kV/m、約45から約55 もしくは60 kV/m、または約50から約55 kV/mである。いくつかの場合において、電位は、少なくとも約20 kV/m、30 kV/m、40 kV/m、50 kV/m、53 kV/m、60 kV/m、70 kV/m、80 kV/m、90 kV/m、または100 kV/mである。いくつかの場合において、電位は、0.5、0.75、1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5 kVであるか、またはおよそこれらの電位である。いくつかの場合において、電位は、約0.5から約2 kV、約0.75から約2 kV、約1から約2 kV、約1.1から約1.9 kV、約1.2から約1.8 kV、約1.3から約1.7 kV、約1.4から約1.7 kV、または約1.5から約1.7 kVである。
【0066】
電位は、パルスとしてまたは連続的に印加されうる。連続的な電圧印加に関して、反応混合液は、ポンプまたは液体取扱い装置を用いて電極チャンバーを通って流れることができる。いくつかの場合において、反応混合物は1回電極チャンバーを通って流れる。あるいは反応混合物は電極チャンバーを通って再循環することができる。パルス電圧印加に関して、パルス長、パルスの数、およびパルス間の期間は、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の高効率の送達を達成するように最適化することができる。
【0067】
電位は、1回または複数回のパルスとして印加することができる。いくつかの場合において、電位は、1から10回、1から9回、1から8回、1から7回、1から6回、1から5回、または1から4回パルスを発する。いくつかの場合において、電位は、2から9回、2から8回、2から7回、2から6回、2から5回、または2から4回パルスを発する。いくつかの場合において、電位は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回パルスを発する。
【0068】
電位パルス長は、1から100 ms、2から90 ms、3から80 ms、4から70 ms、5から60 ms、5から50 ms、5から40 ms、6から30 ms、7から20 ms、または8から15 msでありうる。いくつかの場合において、パルス長は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、70、75、80、85、90、95、または100 msであるか、またはおよそそれらのパルス長である。
【0069】
いくつかの場合において、電圧パルスは、定義された時間の休止期間が点在している。いくつかの場合において、休止期間は、本明細書に記載された前記パルス長のいずれかと同じ長さのものである。いくつかの場合において、休止期間は、パルス長より有意に長い。例えば、反応混合物は、1、2、5、10、15、20、もしくは30分間、またはそれより長い間回復させ、電位を再印加する、電圧パルスに供することができる。いくつかの場合において、多重電位パルスの振幅、期間、または休止期間は様々である。例えば、第1のパルスは、第2のパルスより高い電位、または長い期間のものであることができ、逆もまた同様である。
【0070】
Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を導入するためのナノワイヤまたはナノチューブの使用のための方法、組成物、およびデバイスには、Proc Natl Acad Sci U S A. Feb 2, 2010; 107(5): 1870-1875;米国特許出願公開第2012/0094382号、および同第2013/0260467号;ならびにWO/2014/031173に記載されたものが含まれうる。概して、Cas9タンパク質またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体は、1つまたは複数のナノワイヤまたはナノチューブの上にコートされ、反応混合物中で細胞と接触させる。ナノワイヤまたはナノチューブは、細胞膜を突き通し、それによってCas9タンパク質またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を送達することができる。
【0071】
細胞を圧縮または変形させてCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を導入するための方法、組成物、およびデバイスには、本明細書に記載されたものが含まれうる。追加的なまたは代替の方法、組成物、およびデバイスには、Nano Lett. 2012 Dec 12;12(12):6322-7; Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Feb 5;110(6):2082-7; J Vis Exp. 2013 Nov 7;(81):e50980;およびIntegr Biol(Camb). 2014 Apr;6(4):470-5に記載されたものが含まれうる。追加的なまたは代替の方法、組成物、およびデバイスには、米国特許出願公開第2014/0287509号に記載のものが含まれうる。概して、Cas9タンパク質またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体は、細胞を含有する反応混合物中に提供され、反応混合物は細胞変形オリフィスまたはコンストリクションを強制的に通過させられる。いくつかの場合において、コンストリクションは細胞の直径より小さい。いくつかの場合において、コンストリクションは、強い静電荷の領域、疎水性の領域、またはナノワイヤまたはナノチューブを含有する領域など細胞を変形させる構成成分を含有する。強制的に通過させることによって、細胞の細胞膜に一過性の細孔を導入することができ、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体が一過性の細孔を通って細胞に進入可能になる。いくつかの場合において、細胞を圧縮または変形させてCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質を導入することによって、細胞が非分裂状態にあっても有効となりうる。
【0072】
Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を細胞内に導入するための方法には、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を含有する反応混合物を形成する工程、およびCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体と細胞を接触させ受容体媒介性内部移行を誘導する工程が含まれる。受容体媒介性内部移行のための組成物および方法は、例えば、Wu et al., J. Biol. Chem. 262, 4429-4432(1987);およびWagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 3410-3414(1990)に記載される。概して、受容体媒介性内部移行は、細胞表面受容体と、Cas9に融合されたまたはCas9リボヌクレオタンパク質複合体に融合された(例えば、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体中のガイドRNAに共有結合または融合させた)リガンドとの間の相互作用によって媒介される。リガンドは、細胞の表面上の受容体に結合するか、またはそれによって認識される、任意のタンパク質、低分子、ポリマー、またはそれらの断片であってもよい。例示的なリガンドは、抗体または抗体断片(例えば、scFv)である。
【0073】
例えば、Cas9タンパク質は、Cas9ヌクレアーゼドメインと抗CD3 scFvの融合体であってもよい。scFvは、T細胞上に発現するT細胞コレセプターCD3に結合し、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の受容体媒介性内部移行を誘導することができる。他の適した受容体標的には、これらに限定される訳ではないが、標的細胞上の任意の細胞表面タンパク質が含まれる。いくつかの場合において、適した受容体標的は、標的細胞の表面上に発現する異種受容体(例えば、標的細胞内への組換え核酸の導入によって生じる受容体)である。T細胞への送達の場合において、受容体は、T細胞の表面上の任意の細胞表面タンパク質、CD28、CTLA-4、PD-1、インテグリン、レクチン受容体、サイトカイン受容体、またはケモカイン受容体などでありうる。マクロファージ、樹状細胞、単球などの他の免疫細胞への送達の場合において、受容体は、標的のマクロファージ、樹状細胞、単球等の表面上の細胞表面タンパク質でありうる。
【0074】
いくつかの場合において、融合体は切断可能な融合体である。いくつかの場合において、融合体は、細胞表面でまたは受容体媒介性内部移行時に切断される切断可能な融合体である。例えば、融合体は、細胞内プロテアーゼまたは膜結合プロテアーゼに対する1つまたは複数の切断部位を含有するペプチドである、リガンドとCas9タンパク質との間にあるリンカーを含有することができる。別の例として、融合体は、1つまたは複数の膜結合エステラーゼまたは細胞内エステラーゼの存在下で不安定な、エステル結合を含有することができる。
【0075】
いくつかの場合において、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体は、受容体媒介性内部移行のためのリガンドとインビトロでコンジュゲートされる。低分子、ペプチド、およびポリマーのリガンドをタンパク質または核酸にコンジュゲートするための様々なインビトロの方法が当技術分野において公知である。例えば、Cas9 ヌクレアーゼはC末端でソルターゼ認識部位(例えば、LPXTG)に融合させることができ、リガンドは遊離N末端を有するオリゴ-グリシンモチーフを含有することができる。Cas9-リガンド混合物またはCas9リボヌクレオタンパク質およびリガンド混合物へのソルターゼの添加によって、Cas9タンパク質およびリガンドは、天然のペプチド結合によって共有結合される。
【0076】
いくつかの態様において、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体は、細胞透過性ペプチドにより細胞内に導入される。いくつかの場合において、細胞透過性ペプチドは受容体媒介性内部移行を誘導する。他の場合において、細胞透過性ペプチドは細胞膜を透過する。いくつかの場合において、細胞透過性ペプチドは、細胞を進入させるための一過性の逆ミセル構造を形成する。1つもしくは複数の細胞透過性ペプチド、または1つもしくは複数の細胞透過性ペプチドのコピー、またはそれらの組み合わせは、Cas9、Cas9リボヌクレオタンパク質複合体、またはガイドRNAに融合させることができる。
【0077】
例示的な細胞透過性ペプチドには、HIV TAT、TAT2-M1、MPG、PEP-1、ペネトラチン、トランスポータン、ポリアルギニン、CADY、またはその誘導体、類似体、および変異体が含まれうる。例示的な細胞透過性ペプチドにはさらに、米国特許第8575305号、同第8772449号、同第8389481号、同第8691528号、同第8372951号、または同第8614194号に記載されたものも含まれうる。細胞透過性ペプチドの低分子模倣体もまた、Nature Methods、4(2). pp. 153-159(2007)に記載の方法など、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質を送達するための本明細書に記載の方法において用いることができる。
【0078】
細胞(例えば、T細胞)は、本明細書に記載されたCas9またはCas9 RNP導入法の1つ (例えば、エレクトロポレーション法)の前に、刺激されても(例えば、可溶性のまたは固体表面に固定化された抗CD3抗体、抗CD28抗体、またはそれらの組み合わせ)、または刺激されなくてもよい。いくつかの場合において、細胞(例えば、T細胞)は、本明細書に記載されたCas9またはCas9 RNP導入法の1つ(例えば、エレクトロポレーション)の後に、刺激されうる(例えば、可溶性のまたは固体表面に固定化された抗CD3抗体、抗CD28抗体、またはそれらの組み合わせとの接触によって)か、または刺激なしでインキュベートされうる。いくつかの場合において、適切なサイトカイン(例えば、IL-2)は、Cas9またはCas9 RNP導入試薬(例えば、エレクトロポレーション緩衝液)と混合する前に細胞と接触させるか、またはCas9もしくはCas9 RNPの導入またはそれらの組み合わせの後に細胞と接触させることができる。
【0079】
B. Cas9
送達したCas9タンパク質は、アポタンパク質としてであろうとRNAと複合していようと、活性型エンドヌクレアーゼ形態をとることができ、ガイドRNAにより複合体の一部として標的核酸に結合すると、二本鎖切断を標的核酸内に導入する。二本鎖切断は、NHEJによって修復され、ランダム変異を導入することができるか、またはHDRによって特異的変異を導入することができる。様々なCas9ヌクレアーゼを、本明細書に記載された方法において利用することができる。例えば、ガイドRNAによって標的とされる領域のすぐ3’にNGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を必要とするCas9ヌクレアーゼを利用することができる。そのようなCas9ヌクレアーゼは、NGG配列を含有するゲノムの任意の領域を標的とすることができる。別の例として、直交性PAMモチーフ要件を有するCas9タンパク質を利用して、隣接NGG PAM配列を有さない配列を標的とすることができる。直交性PAM配列特異性を有する例示的なCas9タンパク質には、これらに限定される訳ではないが、CFP1、Nature Methods 10, 1116-1121(2013)に記載されたもの、およびZetsche et al., Cell, Volume 163, Issue 3, p759-771, 22 October 2015に記載されたものが含まれる。
【0080】
いくつかの場合において、Cas9タンパク質はニッカーゼであり、ガイドRNAにより複合体の一部として標的核酸に結合すると、一本鎖切断またはニックが標的核酸内に導入される。構造的に異なるガイドRNAにそれぞれ結合する一対のCas9ニッカーゼは、標的ゲノム領域の2カ所の近位部位を標的とすることができ、よって、標的ゲノム領域内に一対の近位一本鎖切断を導入する。オフターゲット作用によって単鎖の切れ目がもたらされ、これは塩基除去修復機構による破壊なしに概して修復されることから、ニッカーゼ対は特異性の増強をもたらすことができる。例示的なCas9ニッカーゼには、D10A変異またはH840A変異を有するCas9ヌクレアーゼが含まれる。
【0081】
いくつかの場合において、Cas9タンパク質はヌクレアーゼ不活性型である。例えば、Cas9タンパク質は、別のアクセサリータンパク質またはエフェクタードメインと融合するヌクレアーゼ不活性型をとることができる。よって、Cas9ヌクレアーゼは、ガイドRNAと複合体を形成し、標的ゲノム領域に対するアクセサリータンパク質、エフェクタードメイン、またはその活性を標的とするように機能することができる。いくつかの場合において、ヌクレアーゼ不活性Cas9タンパク質はエンドヌクレアーゼまたはニッカーゼと融合する。例えば、ヌクレアーゼ不活性Cas9は、偏性ヘテロ二量体(obligate heterodimer)のエンドヌクレアーゼまたはニッカーゼ(例えば、Fok Iエンドヌクレアーゼの偏性二量体)と融合することができる。対応する偏性ヘテロ二量体ヌクレアーゼのメンバーに融合した一対のそのようなヌクレアーゼ不活性エンドヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼ活性を、特異性が強化された状態で標的ゲノム領域に局在化させるために用いることができる。例示的なCas9ヘテロ二量体エンドヌクレアーゼ融合体には、Nat Biotechnol. Jun 2014; 32(6): 577-582に記載のものが含まれる。
【0082】
いくつかの場合において、ヌクレアーゼ不活性Cas9タンパク質などのCas9タンパク質を用いて、遺伝子発現を調節する、またはクロマチン構造を改変することができる。いくつかの場合において、ヌクレアーゼ不活性Cas9タンパク質は、遺伝子または遺伝子のプロモーターを標的とするガイドRNAと複合体を形成することができる。それによって、ヌクレアーゼ不活性Cas9タンパク質は転写因子の結合または他の転写機構に干渉し、その結果、標的遺伝子の転写を下方制御することができる。同じ遺伝子もしくはプロモーター領域、またはそれらの組み合わせを標的とする複数の構造的に異なるガイドRNAの使用は、標的遺伝子の転写をさらに低減させるために用いることができる。
【0083】
別の例として、ヌクレアーゼ不活性Cas9タンパク質などのCas9タンパク質は、転写活性化因子または転写抑制因子と融合して、標的遺伝子の転写を調節することができる。例示的な活性化因子には、これらに限定される訳ではないが、VP8、VP16、VP64、またはp65活性化ドメイン(p65AD)の1つまたは複数のコピーが含まれる。例示的な抑制因子には、これらに限定される訳ではないが、KRABドメイン、クロモシャドウドメイン、SIDドメイン、またはEAR-抑制ドメイン(SRDX)が含まれる。転写活性化因子または転写抑制因子は、宿主細胞における効率的な活性または安定性の増強のために最適化することができる。
【0084】
いくつかの場合において、ヌクレアーゼ不活性Cas9ヌクレアーゼなどのCas9ヌクレアーゼは、DNAメチル化、ヒストンメチル化もしくは脱メチル化、ヒストン脱アセチル化、RNA polIIリン酸化を制御するか、またはDNAse I過感受性の低減または小球菌ヌクレアーゼ露出度の減少によって測定されるヌクレオソームコンパクションの増加を促進する、1つまたは複数のエフェクタードメインと融合することができる。転写を促進しうる活性化エフェクタードメインまたは酵素の組み合わせには、DNAデメチラーゼ、ヒストンデメチラーゼもしくはメチラーゼ、ヒストンアセチラーゼ、RNA polIIホスホリラーゼ、またはDNAse I過感受性の増大または小球菌ヌクレアーゼ露出度の増加によって測定されるヌクレオソームコンパクションを低減させるか、または遠位エンハンサーエレメントと近位プロモーターエレメントとの間の天然のまたは非天然の染色体ループ形成を促進する酵素もしくはエフェクタードメインが含まれうる。転写を抑制しうる抑制因子エフェクタードメインまたは酵素の組み合わせには、DNAメチラーゼ、ヒストンデメチラーゼもしくはメチラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、RNA polIIデホスホリラーゼ、またはDNAse I過感受性の減少または小球菌ヌクレアーゼ露出度の減少によって測定されるヌクレオソームコンパクションを増加させるか、または遠位エンハンサーエレメントと近位プロモーターエレメントとの間の染色体ループ形成を阻害する酵素もしくはエフェクタードメインが含まれうる。
【0085】
Cas9ヌクレアーゼは、1つまたは複数の核移行配列と融合することができる。Cas9ヌクレアーゼに融合されるドメインまたはアクセサリータンパク質と融合するN末端、C末端、もしくは内部の核移行配列、または1つもしくは複数の核移行配列は、細胞の核へのCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の送達を増強することができる。細胞の核へとCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の送達を方向付けることは、細胞内にCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質を導入することによって提供されるゲノム編集または転写制御のレベルを増大することができる。
【0086】
Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を細胞内に導入するための反応混合物は、約0.25μMから約5μM、約0.5μMから約2.5μM、または約0.9μMから約1.8μMのCas9またはCas9リボヌクレオタンパク質の濃度を有しうる。Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の濃度は、0.25μM、0.3μM、0.4μM、0.5μM、0.6μM、0.7μM、0.8μM、0.9μM、1μM、1.1μM、1.2μM、1.3μM、1.4μM、1.5μM、1.6μM、1.7μM、1.8μM、1.9μM、2μM、2.1μM、2.2μM、2.3μM、2.4μM、2.5μM、またはそれより高い濃度であるか、またはおよそそれらの濃度であってもよい。いくつかの場合において、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体の濃度は、5μM、4μM、または3μMより低いか、またはおよそそれらの濃度より低い。
【0087】
Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を細胞内に導入するための反応混合物は、約1×105から約4×105個の標的細胞、約1.5×105から約3.5×105個の標的細胞、約1.75×105から約3×105個の標的細胞、または約2×105から約2.5×105個の標的細胞を含有することができる。いくつかの場合において、反応混合物中の細胞の濃度は、1μL当たり約0.5×104から約5×104個の標的細胞、1μL当たり約0.75×104から約4×104個の標的細胞、1μL当たり約1×104から約3×104個の標的細胞、1μL当たり約1.5×104から約2.5×104もしくは3×104個の標的細胞、または1μL当たり約1.8×104から約2.3×104個の標的細胞である。
【0088】
C. 鋳型核酸
いくつかの態様において、Cas9またはCas9リボヌクレオタンパク質複合体を細胞内に導入するための反応混合物は、標的ゲノム領域でのCas9媒介性、またはCas9融合体媒介性の切断またはニッキングの相同組換え修復(HDR)を指示するための核酸を含有することができる。鋳型核酸は概して、二本鎖または一本鎖DNAオリゴヌクレオチドである。いくつかの場合において、鋳型核酸は、一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型(ssODT)である。
【0089】
鋳型核酸は、15塩基(b)または塩基対(bp)から約5キロ塩基(kb)またはキロ塩基対(kbp)の長さ(例えば、約50、75、もしくは100 bまたはbpから約110、120、125、150、200、225、もしくは250 bまたはbpの長さ)を含有することができる。概して、より長い鋳型核酸は、環状または直線状プラスミドの形で、またはベクターの構成成分として(例えば、ウイルスベクターの構成成分として)、またはその増幅もしくは重合産物として提供される。より短い鋳型核酸は、一本鎖または二本鎖オリゴヌクレオチドとして提供されうる。例示的な一本鎖または二本鎖鋳型オリゴヌクレオチドは、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、115、120、125、150、175、200、225、もしくは250 bまたはbpの長さであるか、または最小でおよそこれらの長さである。そのような鋳型オリゴヌクレオチドは、標的切断部位に近接するまたは隣接する領域と同じまたは実質的に同じである、1つまた2つの(例えば、隣接ホモロジーアーム)ホモロジーアームを含有することができる。いくつかの場合において、ホモロジーアームは、25から約90ヌクレオチドの長さである。例えば、ホモロジーアームは、約25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、115、または120ヌクレオチドの長さであってもよい。
【0090】
鋳型核酸は、細胞内への導入用の反応混合物中に、約1μMから約200μM、約2μMから約190μM、約2μMから約180μM、約5μMから約180μM、約9μMから約180μM、約10μMから約150μM、約20μMから約140μM、約30μMから約130μM、約40μMから約120μM、または約45もしくは50μMから約90もしくは100μMの濃度で提供されうる。いくつかの場合において、鋳型核酸は、細胞内への導入用の反応混合物中に、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM、45μM、50μM、55μM、60μM、70μM、80μM、90μM、100μM、110μM、115μM、120μM、130μM、140μM、150μM、160μM、170μM、180μM、190μM、200μM、またはそれより多い濃度で、またはおよそこれらの濃度で提供することができる。
【0091】
いくつかの場合において、鋳型核酸(例えば、ssODT)の存在下での鋳型指向性のNHEJ ゲノム編集の効率は、少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65% 70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれより高い効率、または少なくともおよそこれらの効率でありうる。いくつかの場合において、HDRによる鋳型核酸(例えば、ssODT)の配列の組み込みの効率は、少なくとも5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65% 70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれより高い効率、または少なくともおよそこれらの効率でありうる。
【0092】
鋳型核酸は、多種多様な異なる配列を含有することができる。いくつかの場合において、鋳型核酸は、切断およびHDR前の標的ゲノム領域と比較して、終止コドン、またはフレームシフトをコードする。そのような鋳型核酸は、遺伝子またはその一部分をノックアウトまたは不活性化するために有用となる可能性がある。いくつかの場合において、鋳型核酸は、標的ゲノム領域と比較して、1つまたは複数のミスセンス変異またはインフレームの挿入もしくは欠失をコードする。そのような鋳型核酸は、標的遺伝子またはその一部分の発現レベルまたは活性(例えば、リガンド特異性)を変更するのに有用となる可能性がある。
【0093】
例えば、鋳型核酸は、T細胞受容体鎖または抗体遺伝子の1つまたは複数の相補性決定領域またはその一部分を置換するために使用することができる。よって、そのような鋳型核酸は標的細胞の抗原特異性を変更することができる。例えば、標的細胞は、腫瘍抗原または感染症抗原に対する認識を変更することができ、それによって、それらに対する免疫応答を誘発する。
【0094】
別の例として、鋳型核酸は、標的内在性遺伝子またはタンパク質の発現レベルまたは活性をレスキューするために野生型配列をコードすることができる。例えば、FoxP3遺伝子、またはそのプロモーター領域中に変異を含有するT細胞は、X連鎖IPEXまたは全身性エリテマトーデスを処置するためにレスキューされうる。あるいは、鋳型核酸は、標的遺伝子のより低い発現または活性をもたらす配列をコードすることができる。例えば、免疫治療反応の増大は、癌または感染症標的に対する免疫療法のために調製されたT細胞におけるFoxP3の発現または活性を欠失させるまたは低減させることによって達成することができる。
【0095】
別の例として、鋳型核酸は、標的遺伝子の機能を変更する変異をコードすることができる。例えば、鋳型核酸は、ウイルスの認識または侵入に必要な細胞表面タンパク質の変異をコードすることができる。変異は、標的細胞を認識するまたはそれに感染するウイルスの能力を低下させることができる。例えば、CCR5またはCXCR4の変異は、CD4+T細胞におけるHIV感染への耐性の増加を付与することができる。
【0096】
いくつかの場合において、鋳型核酸は、ホモロジーの十分な領域に近接するかそれに隣接しているが内在性配列に完全に直交性である配列をコードする。例えば、鋳型核酸は、標的遺伝子の内在性プロモーターと関連のない誘導性プロモーターまたは抑制エレメントをコードすることができる。誘導性プロモーターまたは抑制エレメントは、標的遺伝子のプロモーター領域内に挿入され、標的遺伝子の発現または活性の時間的なおよび/または空間的な制御をもたらすことができる。別の例として、鋳型核酸は、自殺遺伝子、レポーター遺伝子、もしくはレオスタット遺伝子(rheostat gene)、またはその一部をコードすることができる。自殺遺伝子は、成功した処置の後に宿主から抗原特異的免疫療法細胞を取り除くために用いることができる。レオスタット遺伝子は、免疫療法時に免疫応答の活性を調節するために用いることができる。レポーター遺伝子は、宿主内への導入後に、インビトロまたはインビボでの細胞の数、位置、および活性をモニターするために用いることができる。
【0097】
例示的なレオスタット遺伝子は、免疫チェックポイント遺伝子である。1つまたは複数の免疫チェックポイント遺伝子の発現または活性の増加または減少は、免疫療法時の免疫反応の活性を調節するために用いることができる。例えば、免疫チェックポイント遺伝子は、発現を増加させ、免疫反応を減少させることができる。あるいは、免疫チェックポイント遺伝子は不活性化され、免疫応答を増加させることができる。例示的な免疫チェックポイント遺伝子には、これらに限定される訳ではないが、CTLA-4およびPD-1が含まれる。追加的なレオスタット遺伝子には、標的細胞の増殖またはエフェクター機能を調節する任意の遺伝子が含まれうる。そのようなレオスタット遺伝子には、転写因子、ケモカイン受容体、サイトカイン受容体、またはTIGITもしくはTIMなどの共抑制経路に関与する遺伝子が含まれる。いくつかの場合において、レオスタット遺伝子は、細胞シグナル伝達機構と相互作用する合成または組換えレオスタット遺伝子である。例えば、合成レオスタット遺伝子は、細胞シグナル伝達を阻害または活性化する薬物依存性または光依存性の分子でありうる。そのような合成遺伝子は、例えば、Cell 155(6):1422-34(2013);およびProc Natl Acad Sci U S A. 2014 Apr 22;111(16):5896-901に記載される。
【0098】
例示的な自殺遺伝子には、これらに限定される訳ではないが、チミジンキナーゼ、単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV-tk)、シトクロムP450アイソザイム4B1(cyp4B1)、シトシンデアミナーゼ、ヒトホリルポリグルタミン酸合成酵素(fpgs)、または誘導型casp9が含まれる。いくつかの態様において、自殺遺伝子は、HSV-1チミジンキナーゼ(HSV-tkと略す)、スプライシング補正(splice-corrected) HSV-tk(cHSV-tkと略す、Fehse B et al., Gene Ther(2002) 9(23): 1633- 1638を参照)をコードする遺伝子、高ガンシクロビル感受性HSV-tk変異体(75位の残基および/または39位の残基が変異されている変異体(Black ME et al. Cancer Res(2001) 61(7):3022-3026;およびQasim W et al., Gene Ther(2002) 9(12) :824-827を参照)をコードする遺伝子からなる群より選択される。チミジンキナーゼに基づく遺伝子以外の自殺遺伝子を代わりに用いることができる。例えば、ヒトCD20(リツキシマブ(登録商標)などの臨床グレードのモノクローナル抗体の標的;Serafini M et al., Hum Gene Ther. 2004;15:63-76.を参照)、誘導型カスパーゼ(例として:ヒトFK506結合タンパク質(FKBP)と融合し、低分子医薬を用いる条件的な二量体化形成が可能になる改変ヒトカスパーゼ9;Di Stasi A et al., N Engl J Med. 2011 Nov 3 ;365(18): 1673-83; Tey SK et al., Biol Blood Marrow Transplant. 2007 Aug;) '3(8) :9) '3-24. Epub 2007 May 29を参照)、およびFCU1(無毒性プロドラッグ5-フルオロシトシンまたは5-FCをその高い細胞毒性を有する誘導体5-フルオロウラシルまたは5-FUおよび5'-フルオロウリジン-5'一リン酸または5'-FUMPに変換する;Breton E et al., C R Biol. 2010 Mar;333(3):220-5. Epub 2010 Jan 25.)をコードする遺伝子が、自殺遺伝子として用いられうる。
【0099】
いくつかの態様において、鋳型核酸は、組換え抗原受容体、その一部分、またはその構成成分をコードする。組換え抗原受容体、部分、およびその構成成分には、米国特許出願公開第2003/0215427号、同第2004/0043401号、同第2007/0166327号、同第2012/0148552号、同第2014/0242701号、同第2014/0274909号、同第20140314795号、同第2015/0031624号、ならびに国際公開公報WO/2000/023573およびWO/2014/134165に記載されたものが含まれる。そのような組換え抗原受容体は、特異的腫瘍関連抗原または感染症関連抗原を標的とする免疫療法のために用いることができる。いくつかの場合において、本明細書に記載された方法は、内在性抗原受容体、例えば、T細胞受容体、B細胞受容体、またはそれらの一部分もしくは構成成分等をノックアウトするために用いることができる。本明細書に記載された方法はまた、組換え抗原受容体、その一部分、またはその構成成分をノックインするためにも用いることができる。いくつかの態様において、内在性受容体はノックアウトされ、組換え受容体(例えば、組換えT細胞受容体または組換えキメラ抗原受容体)と置換される。いくつかの場合において、組換え受容体は、内在性受容体のゲノム位置内に挿入される。いくつかの場合において、組換え受容体は、内在性受容体と比較して、異なるゲノム位置内に挿入される。
【0100】
D. 標的ゲノム領域
本明細書に記載された方法および組成物は、宿主細胞の任意のゲノム配列を本質的に標的とするために利用することができる。そのようなターゲティングは、標的ゲノム配列の少なくとも一部分の変異または置換をもたらすことができる。あるいは、そのようなターゲティングは、例えば、クロマチン修飾エフェクタータンパク質を動員することによって、標的ゲノム領域内のおよび/またはその近傍のクロマチンの修飾をもたらすことができる。そのようなクロマチン修飾は、標的ゲノム領域でのまたはその近傍での遺伝子の転写を増加または減少させるために用いることができる。さらに別の代替として、ターゲティングは、抑制因子(例えば、KRAB)または活性化因子(例えば、VP64)ドメインを標的ゲノム領域に動員することによって、標的ゲノム領域でまたはその近傍で遺伝子を抑制または活性化することができる。
【0101】
例示的な標的ゲノム領域には、PD-1遺伝子またはCTLA-4遺伝子内のまたはその近傍の領域が含まれる。PD-1およびCTLA-4は免疫チェックポイント遺伝子であり、1つまたは複数の遺伝子の調節または除去を用いて、標的細胞の免疫原性活性を制御することができる。例示的な標的ゲノム領域には、ウイルスの認識または侵入に用いられる受容体をコードする遺伝子内のまたはその近傍の領域が含まれる。たとえば、CCR5またはCXCR4遺伝子を標的とし、これらの受容体を変異または下方制御し、よって標的細胞にHIV感染に対する耐性を付与することができる。
【0102】
例示的な標的ゲノム領域には、細胞移動および標的ホーミングまたは標的認識に関与するタンパク質をコードする遺伝子内のまたはその近傍の領域が含まれる。そのような遺伝子には、これらに限定される訳ではないが、T細胞およびB細胞受容体、T細胞ケモカイン受容体、例えばCXCR4、CCR9、CCR7等、パターン認識受容体、皮膚リンパ球抗原、CD34、L-セレクチン、CD28、およびGLYCAM-1が含まれる。
【0103】
例示的な標的ゲノム領域には、疾患に関係づけられる、疾患と関連する、または疾患を引き起こす変異を含有する遺伝子が含まれる。例えば、FOXP3をコードする遺伝子にあるまたはその近傍の標的ゲノム領域は、FOXP3機能を増大またはレスキューするために標的とされ、それによって、IPEXなどの自己免疫疾患を患っている患者を処置することができる。別の例として、IL2RAをコードする遺伝子にあるまたはその近傍の標的ゲノム領域は、IL2RA機能を増大またはレスキューするために標的とされ、それによって、自己免疫疾患を患っている患者を処置することができる。さらに別の例として、IL2RGをコードする遺伝子にあるまたはその近傍の標的ゲノム領域は、IL2RG機能を増大またはレスキューするために標的とされ、それによって、重症複合免疫不全症等の免疫不全症を患っている患者を処置することができる。さらに別の例として、GATA2をコードする遺伝子にあるまたはその近傍の標的ゲノム領域は、GATA2機能を増大またはレスキューするために標的とされ、それによって、MonoMACを患っている患者を処置することができる。
【0104】
E. ガイドRNA
本明細書において、ガイドRNAおよびガイドRNAのライブラリーが記載される。ガイドRNAは、5’から3’に結合領域、5’ヘアピン領域、3’ヘアピン領域、および転写終結配列を含有することができる。ガイドRNAは、Cas9タンパク質との安定かつ活性な複合体を形成するように構成されうる。いくつかの場合において、ガイドRNAは、宿主細胞においてガイドRNAをコードするポリヌクレオチドの発現を増強するように最適化される。
【0105】
5’ヘアピン領域は、約15ヌクレオチドと約50ヌクレオチドとの間の長さ(例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または約50 ヌクレオチドの長さ)でありうる。いくつかの場合において、5’ヘアピン領域は約30~45ヌクレオチドの間の長さ(例えば、約31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45ヌクレオチドの長さ)である。いくつかの場合において、5’ヘアピン領域は、31ヌクレオチドの長さ、または少なくとも約31ヌクレオチドの長さ(例えば、少なくとも約31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45ヌクレオチドの長さ)である。いくつかの場合において、5’ヘアピン領域は、1つまたは複数のループまたはバルジを含有し、各ループまたはバルジは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10ヌクレオチドである。いくつかの場合において、5’ヘアピン領域は、約10と30との間の相補的塩基対(例えば、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30相補的塩基対)のステムを含有する。
【0106】
いくつかの態様において、5’ヘアピン領域は、タンパク質結合構造、または低分子結合構造を含有することができる。いくつかの場合において、5’ヘアピン機能(例えば、Cas9タンパク質との相互作用または構築)は、5’ステム-ループのタンパク質結合構造に結合する薬物、成長因子、低分子リガンド、またはタンパク質によって条件的に活性化させることができる。いくつかの態様において、5’ヘアピン領域は非天然のヌクレオチドを含有することができる。例えば、非天然のヌクレオチドを組み込み、タンパク質-RNA相互作用を増強するか、あるいは熱安定性またはガイドRNAの分解に対する耐性を増加させることができる。
【0107】
ガイドRNAは、5’ヘアピン領域と3’ヘアピン領域との間に介在配列を含有することができる。5’ヘアピン領域と3’ヘアピン領域との間の介在配列は、約0から約50ヌクレオチドの間の長さ、好ましくは約10ヌクレオチドと約50ヌクレオチドの間の長さ(例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、もしくは50ヌクレオチドの長さ、またはおよそそれらの長さで)でありうる。いくつかの場合において、介在配列は、直線状、不定形、実質的に直線状、または実質的に不定形であるように設計される。いくつかの態様において、介在配列は非天然のヌクレオチドを含有することができる。例えば、非天然のヌクレオチドを組み込み、タンパク質-RNA相互作用を増強するか、あるいはガイドRNA:Cas9リボヌクレオタンパク質複合体の活性を増大させることができる。別の例として、天然ヌクレオチドを組み込み、熱安定性またはガイドRNAの分解に対する耐性を増加させることができる。
【0108】
3’ヘアピン領域は、約3、4、5、6、7、または8ヌクレオチドのループ、および約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、もしくは25ヌクレオチド、またはそれより長いステムを含有することができる。いくつかの場合において、3’ヘアピン領域は、ガイドRNAの二次構造および/または三次構造を条件的に安定化することができるタンパク質結合構造、低分子結合構造、ホルモン結合構造、または代謝物結合構造を含有することができる。いくつかの態様において、3’ヘアピン領域は非天然のヌクレオチドを含有することができる。例えば、非天然のヌクレオチドを組み込み、タンパク質-RNA相互作用を増強するか、またはガイドRNA:Cas9リボヌクレオタンパク質複合体の活性を増大させることができる。別の例として、天然のヌクレオチドを組み込み、ガイドRNAの熱安定性またはガイドRNAの分解に対する耐性を増強することができる。
【0109】
いくつかの態様において、ガイドRNAには、その3’末端に終結構造が含まれる。いくつかの場合において、ガイドRNAには、ガイドRNA:Cas9リボヌクレオタンパク質集合体または活性の条件的な安定化または条件的な調節など、安定化またはさらなる機能性のために、例えば終結の前および第1の3’ヘアピン領域の後に、タンパク質、低分子、ホルモン等と相互作用できるさらなる3’ヘアピン領域が含まれる。
【0110】
概して、結合領域は、標的ゲノム領域または一連の標的ゲノム領域を補完または実質的に補完し、よって、それに結合またはハイブリダイズする。いくつかの場合において、結合領域は、ゆらぎ塩基または縮重塩基を組み込み、複数の標的ゲノム領域に結合することができる。いくつかの場合において、結合領域は、一連の標的ゲノム領域の中で保存されている配列を補完し、複数の標的ゲノム領域に結合することができる。いくつかの場合において、結合領域は、安定性を増大させるために変更されうる。例えば、非天然のヌクレオチドを組み込み、分解に対するRNA耐性を増加させることができる。いくつかの場合において、結合領域は、結合領域において二次構造形成を回避するまたは低減させるように変更または設計することができる。いくつかの場合において、結合領域は、GC含量を最適化するように設計することができる。いくつかの場合において、GC含量は好ましくは、約40%と約60%との間(例えば、40%、45%、50%、55%、60%)である。いくつかの場合において、結合領域は、ガイドRNAの効率的な転写を促進する配列で始まるように選択することができる。例えば、結合領域は、5’末端にてGヌクレオチドで始まってもよい。いくつかの場合において、結合領域は、これらに限定される訳ではないが、メチル化ヌクレオチドまたはリン酸化ヌクレオチドなど、修飾ヌクレオチドを含むことができる。
【0111】
ガイドRNAは当技術分野において公知の方法によって修飾することができる。いくつかの場合において、修飾には、これらに限定される訳ではないが、1つまたは複数の以下の配列要素の付加が含まれうる:5’キャップ(例えば、7-メチルグアニル酸キャップ);3’ポリアデニル化テール:リボスイッチ配列;安定性制御配列:ヘアピン;細胞内局在配列;検出配列もしくは標識;または1つもしくは複数のタンパク質用の結合部位。修飾にはまた、蛍光ヌクレオチドおよびメチル化ヌクレオチドの1つまたは複数を含むが、これらに限定される訳ではない、非天然のヌクレオチドの導入が含まれうる。
【0112】
いくつかの態様において、ガイドRNAは、有意なオフターゲット作用を有さないように選択される。いくつかの場合において、オフターゲット遺伝子要素配列に対するガイドRNA結合領域の類似性が決定されうる。1つまたは複数のオフターゲットゲノム領域に対して予め指定された閾値を超える高い類似性を有する標的ゲノム領域に方向付けられたガイドRNAは除去されうる。いくつかの場合において、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含む、候補結合領域は、スコアリング基準を用いて手動または自動方式でスコア化されうる。次いで、許容可能な数のオフターゲットミスマッチを有するガイドRNA結合領域を選択することができる。
【0113】
いくつかの態様において、sgRNAは、遺伝子にあるまたはその近傍の特定の領域を標的とする。例えば、sgRNAは、遺伝子の転写開始部位の0~750 bp領域5’側(上流)にあるまたはその近傍の領域を標的としうる。いくつかの場合において、領域の0~750 bpターゲティングは、ガイドRNA:Cas9リボヌクレオタンパク質複合体による転写活性化をもたらすか、またはその増強をもたらすことができる。例えば、細胞は、転写活性化因子またはエピトープ融合ドメイン、および1つまたは複数の遺伝子の転写開始部位の0~750 bp領域5’側を標的とするガイドRNAまたはガイドRNAのライブラリーと融合させたCas9ドメインと接触させることができる。
【0114】
別の例として、ガイドRNAは、遺伝子の転写開始部位の0~1000 bp領域3’側(下流)にあるまたはその近傍の領域を標的とすることができる。いくつかの場合において、領域の0~1000 bpターゲティングは、ガイドRNA:Cas9リボヌクレオタンパク質複合体による転写抑制をもたらすか、またはその増強をもたらすことができる。例えば、細胞は、転写抑制因子またはエピトープ融合ドメイン、および1つまたは複数の遺伝子の転写開始部位の0~1000 bp領域3’側を標的とするガイドRNAまたはガイドRNAのライブラリーと融合させたdCas9と接触させることができる。
【0115】
いくつかの態様において、ガイドRNAは、自動または手動でアノテートされたデータベースに基づく転写開始部位(TSS)またはその近傍の領域を標的とする。例えば、Ensembl/GENCODEまたはAPPRISパイプラインによってアノテートされた転写物(Rodriguez et al., Nucleic Acids Res. 2013 Jan;41(Database issue):D110-7を用いて、TSSおよび標的遺伝要素、TSSの0~750 bp上流(例えば、1つまたは複数の転写活性化ドメインを標的とするために)または0~1000 bp下流(例えば、1つまたは複数の転写抑制因子ドメインを標的とするために)を特定することができる。
【0116】
いくつかの態様において、sgRNAは、ヌクレオソームが比較的無いことが予測されるゲノム領域を標的とする。ヌクレオソームの位置および占有率は、小球菌ヌクレアーゼ(MNase)による酵素的消化の使用によってアッセイされうる。MNaseは、ネイキッドDNA、およびヌクレオソーム間のリンカーにおけるDNAを優先的に消化し、よってヌクレオソーム関連DNAを濃縮するエンド-エキソヌクレアーゼである。ヌクレオソーム組織をゲノムワイドに決定するために、MNase消化から残ったDNAを、ハイスループット配列決定技術(MNase-seq)を用いて配列決定する。よって、高いMNase-seqシグナルを有する領域は、ヌクレオソームによって比較的占有されることが予測され、かつ低いMNase-seqシグナルを有する領域は、ヌクレオソームによって比較的占有されていないことが予測される。よって、いくつかの態様において、sgRNAは、低MNase-Seqシグナルを有する遺伝領域を標的とする。
【0117】
いくつかの場合において、ガイドRNAは、高い転写活性であることが予測される領域を標的とする。例えば、ガイドRNAは、RNAポリメラーゼII(PolII)に対して比較的高い占有率を有することが予測される領域を標的とすることができる。そのような領域は、PolIIクロマチン免疫沈降シーケンシング(ChIP-seq)によって特定することができ、それには、抗PolII抗体を用いてPolIIに結合したDNAの領域をアフィニティ精製すること、およびシーケンシングによって精製領域を特定することが含まれる。したがって、高PolII Chip-seqシグナルを有する領域は、高い転写活性であると予測される。よって、いくつかの場合において、ガイドRNAは、ENCODE-published PolII ChIP-seqデータベースに開示されるように高いPolII ChIP-seqシグナルを有する領域を標的とする(Landt, et al., Genome Research, 2012 Sep;22(9):1813-31)。
【0118】
別の例として、sgRNAは、ランオンシーケンシング(run-on sequencing)またはグローバルランオンシーケンシング(global run-on sequencing) (GRO-seq)によって特定される、高い転写活性を有すると予測される領域を標的とすることができる。GRO-seqは、標識ヌクレオチド、および新たなRNAポリメラーゼの転写開始部位への結合を阻害する作用物質(例えば、サルコシル)と一緒に細胞または核をインキュベートすることを含む。よって、会合したRNAポリメラーゼを有する遺伝子のみが、標識された転写物を産生する。全体的な転写の進行を可能にするのに十分な期間の後に、標識RNAを抽出し、対応する転写遺伝子を配列決定によって特定する。したがって、高GRO-seqシグナルを有する領域は、高い転写活性であると予測される。よって、いくつかの場合において、ガイドRNAは、公表されたGRO-seqデータ(例えば、Core et al., Science. 2008 Dec 19;322(5909):1845-8;およびHah et al., Genome Res. 2013 Aug;23(8):1210-23)に開示されている高GRO-seqシグナルを有する領域を標的とする。
【0119】
いくつかの態様において、ガイドRNAは、DNA配列モチーフ、ChIP-seq、ATAC-seq、および/またはRNA-seqデータに基づき、推定上の制御配列(例えば、推定上の哺乳動物またはヒト制御配列)、例えば、プロモーター、エンハンサー、インスレーター、サイレンサー、およびスプライスレギュレーター(splice regulator)などを標的とすることができる。
【0120】
本明細書にはまた、宿主細胞においてガイドRNAを産生するための発現カセットおよびベクターが記載される。発現カセットは、ガイドRNAをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーター(例えば、異種プロモーター)を含有することができる。プロモーターは、誘導性または構成的であることができる。プロモーターは組織特異的であることができる。いくつかの場合において、プロモーターは、U6、H1、または脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)末端反復配列プロモーターである。いくつかの場合において、プロモーターは、ヒト伸長因子1プロモーター(EF1A)と比較して、弱い哺乳動物プロモーターである。いくつかの場合において、弱い哺乳動物プロモーターは、ユビキチンCプロモーターまたはホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター(PGK)である。いくつかの場合において、弱い哺乳動物プロモーターは、誘導因子の非存在下でのTetOnプロモーターである。いくつかの場合において、TetOnプロモーターを利用するとき、宿主細胞はテトラサイクリントランス活性化因子とも接触する。いくつかの態様において、選択されるガイドRNAプロモーターの強度は、送達されるCas9の量に比例する(例えば、その約0.5倍、1倍、2倍、5倍、7.5倍、または10倍以内)量のガイドRNAの量を発現するように選択される。発現カセットは、プラスミド、ウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどのベクター中に存在しうる。いくつかの場合において、発現カセットは宿主細胞中である。ガイドRNA発現カセットは、エピソーム性であるかまたは宿主細胞中に組み込まれうる。
【0121】
本明細書においてまた、インビトロ転写によってガイドRNAを産生するための発現カセットおよびベクターも記載される。
【実施例】
【0122】
以下の実施例は、例示のために提供され、本願発明を限定するものではない。
【0123】
実施例1:
T細胞ゲノム工学は、HIVおよび自己免疫疾患に対する癌免疫療法および細胞療法について大きな期待が見込めるが、初代ヒトT細胞の遺伝子操作は非効率的である。本発明者らは、高い効率のCas9の送達を達成する方法を開発した。この高い効率のCas9の送達は、高い効率のゲノム編集、遺伝子サイレンシング、およびクロマチンもしくは染色体修飾のために用いることができる。送達されたCas9は、ガイドRNAとの構築済み複合体として送達することができる。これらの活性Cas9リボヌクレオタンパク質(RNP)は、初代ヒトT細胞において第1の成功したCas9-媒介性相同組換え修復(HDR)を可能にした。よって、成熟免疫細胞中の特定のヌクレオチド配列を高い効率で置換することができ、これは多様な研究および治療での応用を可能にするこの分野における長年の目標である。これらの試験によって、初代ヒトT細胞における、HDRによる効率的なDNA配列置換を含む、多様な実験的および治療上のゲノム工学応用のためのCas9(例えば、Cas9 RNP)技術が確立される。
【0124】
イントロダクション
CRISPR/Cas9システムは、哺乳類の生殖系列配列および細胞株を編集するために用いられることが多くなっている(1, 2)。初代ヒト組織において直接この強力なシステムを採用するために相当の努力が進められているが、特に、ヒトCD4+T細胞などの初代造血細胞では、効率は限定的である。cas9およびスモールガイドRNA(sgRNA)のプラスミド送達は、他の細胞型では効率的であったが、CD4+T細胞では、標的タンパク質発現の1~5%を除去しただけである(3)。ヒトT細胞において重要な標的を除去し病原性ゲノム配列を修正する能力の改善は治療応用を有し、例えば、T細胞をエクスビボで編集し、次いで、患者内に再導入することを可能にする。
【0125】
転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびZnフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)による遺伝子欠失、およびウイルス形質導入による外因性遺伝子導入を含む、入手可能な技術によりT細胞ゲノムを操作する、複数の科学的試験および臨床試験が進行中である(4)。遺伝子操作は、T細胞においてHIVコレセプターCXCR4およびCCR5をノックアウトして、HIV感染に対する耐性を獲得するよう試みられている(5~7)。T細胞を操作して血液系悪性腫瘍を認識し死滅させる顕著な成功も存在しているが、固形臓器腫瘍の免疫療法には、さらなる遺伝子修飾が必要であるように思われる(8~10)。標的とされたT細胞ゲノム遺伝子座が、欠失ではなく特定の置換配列によって修正できる場合、さらなる治療機会が可能となる(11)。T細胞において相同組換えを促進するロバストな技術は、X連鎖免疫調節異常・多発性内分泌障害腸症候群(IPEX)を有する患者において制御性T細胞(Treg)分化を破壊し、重篤な多臓器自己免疫疾患を引き起こす変異を含む、特殊化したT細胞機能に影響を与える変異の治療的修正を可能にする(12, 13)。
【0126】
哺乳類の細胞株における最近の報告は、Cas9リボヌクレオタンパク質(RNP;インビトロで転写させたシングルガイドRNAと複合体を形成した組換えCas9タンパク質)が効率的かつ特異的なゲノム編集を達成できることを実証する(14~16)。本実施例において、発明者らは、初代造血細胞または初代造血幹細胞へのCas9(例えば、Cas9 RNPの形態で)の送達が高い効率で実施できることを示す。sgRNAとのCas9リボヌクレオタンパク質複合体の形態でのCas9の高効率の送達は、CD4+T細胞の高い効率のゲノム編集につながる。発明者らは、ランダムな挿入および欠失変異によってCXCR4発現を消失させることができる(CXCR4の高い細胞表面発現を有する細胞の数を最大で70%低下させる;対照処理細胞では60%に対して18%に)だけでなく、発明者らはまた、外因性一本鎖DNA鋳型を用いる相同組換え修復(HDR)によって、初代T細胞において正確に標的化されたゲノム配列を導入することもできた(高い細胞表面発現を有する細胞の数を最大で98%低下させる;対照処理細胞では60%に対して1%に)。この遺伝的「ノックイン」技術は、初代T細胞におけるCas9媒介性編集によるものは以前には報告されておらず、約15%の効率を有し、観察されたゲノム編集のおよそ半分を占め、それが、変異に関連する疾患の治療的置換では有用である可能性があることを実証する。さらに発明者らは、Cas9 RNPを用いて、Tregのマスター転写因子をコードするFOXP3を変異させる遺伝子操作の機能的意義を実証する。Cas9 RNPは、FOXP3変異が制御性T細胞分化を損なっている多臓器自己免疫疾患IPEXのヒトインビトロモデルを可能にする。これらの試験は、初代ヒトT細胞におけるゲノムの実験的および治療的編集のためのCas9 RNP技術を確立する。
【0127】
結果
発明者らは、初代T細胞の遺伝子操作における長年の課題を克服し、ロバストなゲノム操作ツールキットを確立することを目的とした。哺乳類の細胞株における最近の報告は、Cas9 RNPが効率的かつ特異的なゲノム編集を達成できることを示唆する(14~17)。Cas9のDNA送達によるT細胞の効率的なゲノム編集の重大な課題を考慮し、発明者らは、初代ヒトT細胞における標的ゲノム編集のためのRNP送達の効率を試験した(図 1A)。
【0128】
Cas9 RNPによるHIVコレセプターCXCR4の除去
T細胞操作における主要な目的は、HIV感染のためのコレセプターおよび腫瘍免疫反応を損なう共抑制免疫チェックポイントを含む、特定の細胞表面受容体の標的化除去である。本実施例において、発明者らは、HIV進入のためのコレセプターとして機能するCD4
+T細胞上に発現したケモカイン受容体をコードする、CXCR4のコード配列を標的とするようにCas9 RNPをプログラムした(18, 19)。発明者らは、C末端で融合した2つの核移行シグナル配列(NLS)を保有する組換え化膿レンサ球菌Cas9を精製した。このCas9タンパク質をインビトロで転写させたシングルガイドRNA(sgRNA)と一緒にインキュベートし、ヒトCXCR4ゲノム配列を唯一認識するように設計した(
図1B)。これらの構築済みRNP複合体を、健常なドナーから単離したヒトCD4
+T細胞内にエレクトロポレーションした(方法)。
【0129】
CXCR4 Cas9 RNPのエレクトロポレーションは、ゲノムDNAの効率的で部位特異的な編集をもたらした。CXCR4遺伝子におけるCas9 RNP誘導型二本鎖切断は、非相同末端結合(NHEJ)、様々な挿入および欠失(インデル)を生じさせ、多くの場合フレームシフト変異をもたらす細胞における主要なDNA修復経路によって修復される可能性があった(20)。フローサイトメトリーは、低レベルのCXCR4を発現するT細胞のパーセンテージのRNP用量依存的増加を明らかにし、これはCXCR4遺伝子の変異と一致した(
図1C)。T7エンドヌクレアーゼ1(T7E1)アッセイは、ゲノム編集を評価するための簡便な方法である。本実施例において、T7E1は、CXCR4 RNPで処理した細胞におけるゲノムDNA編集を確認したが、sgRNAと複合体を形成していないspCas9タンパク質で処理した対照細胞(対照)ではそうではなかった(
図1D)。Cas9 RNP処理細胞をCXCR4発現に基づき蛍光標識細胞分取(FACS)により分離させ、発明者らは、CXCR4
hi細胞(4~12%)と比較して、CXCR4
lo細胞(15~17%)で編集の濃縮を見いだした。編集事象を直接特定するために実施される、標的CXCR4ゲノム遺伝子座のSangerシーケンシングは、T7E1は編集効率を過小評価したことを示唆した。CXCR4
lo細胞中のCXCR4遺伝子の配列決定は、8/9クローンが変異/欠失を有した一方で、そのような変異/欠失は、CXCR4
hi細胞および対照処理CXCR4
lo細胞ではそれぞれ4/10クローンおよび0/9クローンのみで観察されたことを示した。CXCR4
hi集団で観察された編集はいずれも、コード配列を終了させ(1つのミスセンス変異および3つのインフレーム欠失)、タンパク質発現の維持と一致した。これに対して、CXCR4
lo集団は、該遺伝子座においてより広範な変異負荷を伴う細胞について濃縮された(
図1E)。これらの知見は、ヒトCD4
+T細胞におけるCas9 RNPによるゲノムターゲティングの成功およびタンパク質発現に対する機能的作用を実証した。FACSは、編集された細胞を精製することができ、初代T細胞におけるCas9 RNP適用のためのさらなる有用なツールをもたらす。
【0130】
相同組換え修復(HDR)による効率的な遺伝子「ノックイン」
外因性鋳型媒介性HDRは、特定の変異配列の実験的および治療的編集を可能にする正確な遺伝子改変にとって強力な技術である。Cas9 RNPの高い編集効率を考慮し、発明者らは次に、初代T細胞において外因性鋳型媒介性HDRを達成できるかどうか試験した。発明者らは、Cas9 RNP切断部位でCXCR4遺伝子座と組み換えるために、90ヌクレオチド(nt)のホモロジーアームを有する一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型(ssODT)を用いた(15)。ssODTを、ヒト参照ゲノムから12 nt置換し、新たなHindIII制限酵素切断部位を導入するように設計した(
図2A)。Cas9 RNPを、4種類の異なる濃度のssODT(0、50、100および200 pmol)の存在下で初代CD4
+T細胞内にエレクトロポレーションした。ssODTなしのCas9 RNPは再び、CXCR4
Hi細胞のパーセンテージを低下させた。特に、ssODTの添加はCXCR4の除去の効率を大幅に改善した。本実施例に示した実験において、発明者らは、100 pmol ssODTおよびCas9 RNPにより、高い細胞表面CXCR4発現を有する細胞の数の最大で98%の低下を達成することができた(対照処理細胞では60%に対して1%に) (
図2BおよびC)。
【0131】
Cas9 RNPおよびssODTで処理した細胞において顕著な効率のHDRを観察した(
図2D)。発明者らは、T7E1アッセイにより測定される、ssODTなしで24%の総編集(Cas9切断部位にインデルを生じるNHEJ事象およびHDR事象全ての合計として定義される)を観察した。50 pmol ssODTの存在下では、最大で33%の総編集が観察された。この濃度では、標的遺伝子座のHindIII消化によって14%HDRが観察され、>40%の編集がHDRからもたらされたことが示された(観察された編集の残りの約60%はNHEJから生じた可能性がある)。HDRのパーセンテージは100 pmol ssODTではわずかに低い(12%)が、総編集に対してより高い比率のHDRが計算された(100 pmで0.48に対して、50 pmolで0.42)。この条件でのCXCR4染色のほぼ完全な消失は、HDRによって導入された変異(84DLLFV88→84ESLDP88;SEQ ID NO:1および2)が、CXCR4の細胞表面発現または抗体によるその認識に強力な影響を与えることを実証する(
図2BおよびC)。この実験では、編集効率は200 pmol ssODTで低下した。
【0132】
総編集およびHDRの両者とも、CXCR4
lo集団を選別することによって濃縮することができるが、その作用は
図1のものより顕著なものではなく、未選別の集団ではCXCR4
lo細胞の割合がより大きかったことと一致した。これらの実験では、より厳密なゲートを適用して、CXCR4の最も高い発現を有する細胞を分離しており、このCXCR4
hi集団では編集は観察されなかったことを留意すべきである。これらの試験は集合的には、初代ヒトT細胞において標的DNA配列を正確に置換する、ssODTと連結させたCas9 RNPの能力を実証した。
【0133】
Treg分化時のFOXP3変異の機能的作用
発明者らは次に、Cas9 RNP媒介性ゲノム編集が、病原体および悪性腫瘍に対する防御に関連する炎症誘発性エフェクターT細胞サブセットと、自己免疫の発生を防ぐのに必須である抑制性FOXP3+ Tregとの間のバランスを変更できるかどうか試験した。FOXP3は、マウスにおいて機能的Tregに必須である(21~24)。ヒトにおけるFOXP3遺伝子の変異は、IPEX、多臓器自己免疫症候群を引き起こすTreg分化および機能の障害につながる(12, 13)。Cas9 RNP媒介性ゲノム編集は、ヒトFOXP3遺伝子内に変異を実験的に導入し、Tregの分化に対するその作用を試験する独自の機会を提供する。
【0134】
FOXP3変異の機能的意義を試験するために、発明者らは2カ所のエクソン部位をCas9 RNPによる標的とした(
図3A)。X染色体上のFOXP3遺伝子座における編集の解釈を助けるために、これらの実験を男性ドナーからの細胞により実行した。発明者らは、以前に記載したようにヒト男性ドナーから単離した初代CD4
+CD25
+CD127
loTregにおけるCas9 RNPの効果を試験した。(25)。FOXP3 Cas9 RNPで処理したTregにおいて、T7E1アッセイによりゲノム編集の成功を検出したが、Cas9タンパク質のみをトランスフェクトとした対照細胞ではそうではなかった(
図3B)。FOXP3 Cas9 RNPは、細胞内染色により評価したFOXP3陰性細胞のパーセンテージの増加をもたらした(
図3C)。フローサイトメトリーの結果は、Cas9 RNP処理の結果として、細胞の最大で40%がFOXP3発現を消失した(対照処理細胞では85%のFOXP3
+に対して、FOXP3 Cas9 RNP1では63%、FOXP3 Cas9 RNP2では46%、およびFOXP3 Cas9 RNP 1と2の組み合わせでは54%)を示した。当初FOXP3 Cas9 RNP処理はTregにおいて増殖欠損を引き起こしているように見えることから、FOXP3除去細胞の割合はより高くなる可能性がある(データは示さず)。
【0135】
Cas9 RNP編集は、初代ヒトTregにおいてFOXP3除去の表現型的意義を明らかにした。フローサイトメトリーは、CD127(IL7Rα)のレベル増加によりFOXP3 Cas9 RNP処理細胞におけるサイトカイン受容体発現の変化を確認した(
図3D)。CD127はFOXP3によって直接的に転写抑制され(25)、Cas9 RNP処理がTregのマスター制御因子の消失から予測される調節不全をもたらすことを示唆する。この知見は、Cas9 RNP媒介性FOXP3除去の結果としてTreg機能に必要とされる遺伝子発現プログラムの不安定化と一致した。
【0136】
発明者らは次に、IPEX患者におけるFOXP3変異に関連する不完全なTreg分化をインビトロで再現することを試みた。Cas9 RNPを、エクスビボで刺激されたナイーブT細胞に送達し、続いて、IL-2およびTGF-βで培養し、iTregの発生を促した(26~28)。Cas9タンパク質単独で処理した対象細胞では、30%FOXP3
+iTregが発生した。FOXP3 Cas9 RNP 1、FOXP3 Cas9 RNP 2、およびFOXP3 Cas9 RNP 1および2両方による処理は全て、FOXP3
+iTregのパーセンテージの低下をもたらした(それぞれ、8%、9%および11%) (
図4A)。FOXP3
+iTregのパーセンテージの低下、および炎症誘発性サイトカイン インターフェロンγ(IFNγ)を産生する細胞の割合の少量だが再現可能な増加が、3回の独立した実験にわたって観察された(
図4B)。
【0137】
iTreg分化時のFOXP3変異の機能的作用をさらに調べるために、発明者らは、Cas9 RNP処理細胞を、Treg抑制に関与する重要な細胞表面受容体であるCTLA-4の FACS分析に供した(29)。FOXP3 Cas9 RNPによる処理は、CTLA-4を発現する細胞のパーセンテージを低下させた(
図4C)。対照細胞では、CTLA-4はiTregならびに刺激されたFOXP3
-エフェクターT細胞で誘導された。発明者らは、FOXP3ターゲティングはCTLA-4
+FOXP3
+ iTregのパーセンテージを強力に減少させたが、FOXP3
-細胞ではCTLA-4発現に対して中程度の作用有しており、両方ともCTLA-4発現に寄与するFOXP3依存性機構およびFOXP3非依存性機構と一致することを見いだした(23, 30)。短命なCas9 RNPを伴うエレクトロポレーションは、FOXP3除去T細胞の分化能を変化させた。この技術を用いて、ヒトTreg分化に必要とされるさらなる遺伝子または調節要素についてスクリーニングすることができる。重要なことには、Cas9 RNPアプローチによるT細胞における高効率のゲノム編集は、IPEXのヒトインビトロ疾患モデルを可能にし、FOXP3変異がiTreg分化を損なうことを確認した。
【0138】
考察
初代造血細胞および/または初代造血幹細胞へのCas9の効率的な送達は、細胞、組織、および系の機能の基礎研究、ならびに細胞療法の開発および使用のための強力なプラットフォームを提供する。例えば、Cas9媒介性ゲノム操作は、炎症性および抑制性ヒトT細胞サブセットに決定的なDNA要素を実験的および治療的に標的とするために用いることができる。発明者らは本実施例において、インビトロで構築された機能的Cas9 RNPの送達によってヒトの通常型および制御性CD4+T細胞におけるゲノム操作の成功を報告する。Cas9 RNPのエレクトロポレーションは、CXCR4細胞表面受容体の標的「ノックアウト」を可能にした。RNPはまた、第1の成功したCas9媒介性遺伝子「ノックイン」初代ヒトT細胞を促進した。成熟免疫細胞における高効率の標的DNA置換は、多様な研究および治療での応用を可能にするこの分野における長年の目標を達成する。最後に、発明者らは、刺激されたヒトナイーブT細胞およびTregにおいてFOXP3、マスター転写制御因子を標的とするCas9 RNPを利用して、IPEXを有する患者におけるTreg分化の機能不全のモデルを作製した。試験は集合的には、ヒト初代T細胞の遺伝子操作のための広く利用可能なツールキットを確立する。
【0139】
他のCRISPR/Cas9送達法と比較して、一過性RNP送達によるゲノム操作には明らかな利点がある。最近の研究は、cas9遺伝子およびガイドRNAコード配列を保有するプラスミドのトランスフェクションによって、大量のヒトCD4+T細胞における細胞表面マーカーの除去を報告している(3)。成功しているが、効率は、他の細胞型と比較してCD4+T細胞では明らかに低く、おそらく最適以下レベルのCas9またはsgRNA、最適以下の核移行または最適以下の細胞内RNP複合体形成(またはこれらの要因の一部組み合わせ)を原因とする。RNPに基づく送達はこれらの課題を回避する。Cas9 RNPの送達は、それらが送達の24時間以内に分解すると言われていることから、細胞において早い編集作用および迅速なタンパク質代謝回転をもたらす(14)。このCas9編集の限られた時間的ウィンドウは、より長期間にわたって細胞がCas9に曝露される他の送達方式より、Cas9 RNPを治療適用にとってより安全なものとしうる。今回発明者らの知見は、Cas9 RNPが迅速かつ効率的にヒトT細胞を編集できることを示す。
【0140】
発明者らは本実施例において、著しく効率的なHDRを達成することができ、1回の実験では、Cas9 RNP、およびCXCR4を標的とするHDR鋳型によりCXCR4hi細胞を98%低下させた。初代T細胞における編集およびHDR効率に影響を与える残りの変数を最適化し、さらに高いゲノム編集効率を達成することができる。例えば、細胞型および細胞周期動態の変化は、Cas9 RNP効率を有意に変化させることができる(15)。初代ヒトT細胞において、編集効率はまた、T細胞ドナーに特異的な要因(例えば、遺伝的特質、最近の感染)、インビトロでのT細胞活性化状態、および標的ゲノム遺伝子座の特徴(例えば、DNA配列、クロマチン状態)によって影響されうる。
【0141】
ヒトT細胞サブセットにおいて特定のDNA配列を編集する能力は、T細胞炎症性および抑制性機能に関連づけられる転写因子、cis-調節エレメント、および標的遺伝子の実験的調査を可能にする。本実施例において発明者らは、原理証明として、下流発現プログラムおよび細胞分化に対する機能的作用を評価するために、FOXP3、重要な転写因子をノックアウトする能力を実証する。これらの実験は、メンデル型多臓器自己免疫症候群、IPEXに関連するTreg分化のインビトロでのモデルを作製する。大規模な労力によって、多様かつ特殊化したT細胞サブセットの分化および機能を制御する重要な遺伝子調節回路がマップされている(31)。発明者らは最近、ヒト自己免疫疾患のリスクに寄与する多くの原因遺伝子変異体がT細胞における重要な制御エレメントに位置することを報告した(32)。初代T細胞のゲノム編集は、制御エレメントの機能を評価し、疾患関連コード変異および非コード変異の作用を特徴付けるための強力な摂動試験を提供する。
【0142】
治療的編集は、集団中の成功裏に編集された細胞を特定する技術の改良を必要とする。編集細胞の選択は、形質転換細胞系とは異なり、培養中で長い間維持することができない初代細胞では特に困難である。本実施例では、発明者らは、細胞表面受容体発現の予想表現型変化に基づく、編集細胞のFACS濃縮を実証する。Cas9 RNP媒介性HDR成功はまた、ある特定の利用のために均一に編集された細胞を精製するための遺伝子マーカーの導入も可能にする。
【0143】
治療的T細胞操作は、初代細胞における高効率かつ正確な標的ゲノム編集を必要とする。本明細書において報告する高効率Cas9送達技術は、例えば、初代細胞における高効率かつ正確な標的ゲノム編集を提供することができる。そのような高い効率の送達は、感染、自己免疫および癌の処置のために遺伝子変異体を修正してヒトT細胞機能を操作するために用いることができる。
【0144】
材料および方法
ヒトT細胞の単離および培養
UCSF Committee on Human Research(CHR)によって承認されたプロトコールにしたがって、全血をヒトドナーからナトリウムヘパリン処理された真空採血管(Becton Dickinson)内に収集し、12時間以内に処理をした。末梢血単核球(PBMC)をフィコール密度勾配遠心分離によって単離した。血液を1:1の比率でCa2+およびMg2+フリーのハンクス平衡塩溶液(HBSS)と混合し、50 ml Falconチューブに移し(30 mlの血液HBSS混合物/チューブ)、12 ml Ficoll-Paque PLUS(Amersham/GE healthcare)を下張りした。密度勾配濃縮遠心分離(1000 g、20分、ブレーキなし)後、PBMC層を注意深く取り除き、細胞をCa2+およびMg2+フリーHBSSで2回洗浄した。製造者のプロトコールにしたがって、CD4+T細胞をEasysepヒトCD4+T細胞濃縮キット(Stemcell technologies)で予濃縮した。予濃縮したCD4+T細胞を以下の抗体で染色した:αCD4-PerCp(SK3; Becton Dickinson)、αCD25-APC(BC96; TONBO Biosciences)、αCD127-PE(R34-34; TONBO Biosciences)、αCD45RA-violetFluor450(HI100; TONBO Biosciences)、およびαCD45RO-FITC(UCHL1; TONBO Biosciences)。CD4+CD25hiCD127lo Treg、CD4+CD25loCD127hi Tエフェクター(Teff)、およびCD4+CD25loCD127hiCD45RAhiCD45RO-ナイーブT細胞(Tnaive)をFACS Aria Illu(Becton Dickinson)を用いて単離した。Treg、TeffおよびTnaiveの純度は>97%であった。
【0145】
Cas9 RNPトランスフェクションに関して、Treg、Teff、またはTnaiveを、αCD3(UCHT1; BD Pharmingen)およびαCD28(CD28.2; BD Pharmingen)をコートしたプレート上で48時間予め活性化した。プレートを、37℃にて少なくとも2時間 PBS中で、10μg/ml αCD3およびαCD28でコートした。iTreg分化に関して、FACSで選別したTnaiveを、100 IU/ml IL-2(Aldesleukin, UCSF Pharmacy)および10 ng/ml TGF-β1(Tonbo Biosciences)の存在下で、プレートをコートしたαCD3およびαCD28で活性化した。抗IFNγ遮断抗体および抗IL-4遮断抗体の存在下で行われた1回のiTreg分化実験は、
図4の解析から除外された。
【0146】
Teffを、RPMI完全培地(5×105 細胞/mlの細胞密度で、5 mmol/l 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)(UCSF CCF)、2 mmol/l Glutamax(Gibco)、50μg/mlペニシリン/ストレプトマイシン(Corning)、50μmol/l 2-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich)、5 mmol/l非必須アミノ酸(Corning)、5 mmol/lピルビン酸ナトリウム(UCSF CCF)、および10%ウシ胎仔血清(Atlanta Biologicals)を追加したRPMI-1640(UCSF CCF))中で活性化した。エレクトロポレーション後、培地に40 IU/ml IL-2を追加した。
【0147】
TregをRPMI完全培地中で活性化した。エレクトロポレーション後に、300 IU/ml IL-2を培地に添加し、さらに細胞を拡大させた。エレクトロポレーション後1日目、3日目および5日目に、Treg、TeffまたはTnaiveにそれぞれの培地をさらに追加した。TeffおよびTeffを5×105/mlの細胞密度で維持した。Tregを2.5×105 細胞/mlの細胞密度で培養した。
【0148】
Cas9の発現および精製
本試験で用いた組換え化膿レンサ球菌(S. pyogenes)Cas9は、HAタグ、および核膜を横断する輸送を容易にする2つの核移行シグナルペプチドをC末端に保有する。タンパク質を、E. coli Rosetta 2細胞(EMD Millipore)中でプラスミドpMJ915からN末端ヘキサヒスチジンタグおよびマルトース結合タンパク質と共に発現させた。Hisタグおよびマルトース結合タンパク質をTEVプロテアーゼによって切断し、Cas9をJinek et al., 2012.に記載のプロトコールによって精製した。Cas9をpH 7.5、150 mM KCl、10%グリセロール、1 mMリン酸トリス(2-クロロエチル)(TCEP)の20 mM HEPES中で-80℃にて保管した。
【0149】
sgRNAのインビトロT7転写
T7プロモーター、20 nt標的配列およびキメラsgRNA足場をコードするDNA鋳型を、オーバーラッピングPCRにより合成オリゴヌクレオチドから構築した。簡単に言うと、CXCR4 sgRNA鋳型に関して、PCR反応は、製造者のプロトコールにしたがい、
の20 nMプレミックス、
の1μMプレミックス、200μM dNTP、ならびにPhusion Polymerase(NEB)を含有する。サーモサイクラーの設定は、95℃10秒、57℃10秒および72℃10秒を30サイクルで構成された。PCR産物をフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコールで1回抽出し、次いで、クロロホルムで1回抽出し、その後-20℃で一晩イソプロパノール沈降した。DNAペレットを70%エタノールで3回洗浄し、真空によって乾燥させ、DEPC処理水で溶解した。FOXP3 sgRNA鋳型を、同じ手法によって、T25、SLKS1、SLKS2およびSLKS4
から構築した。
【0150】
100μl T7インビトロ転写反応は、30 mM Tris-HCl(pH 8)、20 mM MgCl2、0.01% Triton X-100、2 mMスペルミジン、10 mM新鮮なジチオスレイトール 、5 mMの各リボヌクレオチド三リン酸、100μg/ml T7 Polおよび0.1μM DNA鋳型で構成された。反応を37℃にて4時間インキュベートし、5ユニットのRNaseフリーDNaseI(Promega)を添加してDNA鋳型を37℃にて1時間消化した。反応を60℃にて5分間、2×停止液(95%脱イオン化ホルムアミド、0.05%ブロモフェノールブルーおよび20 mM EDTA)で停止させた。RNAを、6 M尿素を含有する10%ポリアクリルアミドゲル中での電気泳動によって精製した。RNAバンドをゲルから切り取り、15 ml管中で粉砕し、5倍量の300 mM酢酸ナトリウム(pH 5)で一晩4℃にて溶出した。1当量のイソプロパノールを加えて、RNAを-20℃で沈降させた。RNAペレットを遠心分離によって収集し、70%エタノールで3回洗浄し、真空によって乾燥させた。sgRNAを再フォールディングするために、まずRNAペレットを20 mM HEPES(pH 7.5)、150 mM KCl、10%グリセロールおよび1 mM TCEP中に溶解した。sgRNAを5分間70℃に加熱し、室温まで冷却した。MgCl2を1 mMの最終濃度まで添加した。sgRNAを再び5分間50℃に加熱し、室温まで冷却し、氷上で維持した。sgRNA濃度を、Nanodropを用いてOD260 nmで決定し、20 mM HEPES(pH 7.5)、150 mM KCl、10%グリセロール、1 mM TCEPおよび1 mM MgCl2を用いて100μMに調整した。sgRNAを-80℃で保管した。
【0151】
Cas9 RNP構築およびエレクトロポレーション
Cas9 RNPを、20μM Cas9を20μM sgRNAと1:1の比率で20μM HEPES(pH 7.5)、150 mM KCl、1 mM MgCl2、10%グリセロールおよび1 mM TCEP中で37℃にて10分間、10μMの最終濃度にインキュベートすることによって、実験直前に調製した。
【0152】
T細胞をNeonトランスフェクションキットおよびデバイス(Invitrogen)によりエレクトロポレーションした。2~2.5×10
5個のT細胞を、9μlのバッファーT(Neonキット, Invitrogen)で再懸濁する前に、PBSで3回洗浄した。Cas9 RNP(1~2μlの10μM Cas9のみ(対照)またはCas9:sgRNA RNP;最終濃度0.9~1.8μM)ならびにHDR鋳型(0 ~200 pmol)を細胞懸濁物に加え、混合し、Neonエレクトロポレーションデバイス(Invitrogen; 1600V、10ミリ秒、3パルス)を用いて細胞内にトランスフェクトした。HDR鋳型は、標的配列に相補的な(-鎖)一本鎖オリゴヌクレオチドであり、90-ntホモロジーアーム
と隣接しているHindIII制限配列を含有する。
【0153】
エレクトロポレーションしたTreg、TeffまたはTnaiveを、αCD3/CD28でコートした48ウェルプレート中の500μlの各培養培地に移した。エレクトロポレーションの24時間後に、細胞を再懸濁し、コートされていないウェルプレートに移した。エレクトロポレーションの4~6日後に、T細胞をFACSおよびT7エンドヌクレアーゼIアッセイによって分析した。
【0154】
標的領域のPCR増幅
5×104~2×105個の細胞を100μlのQuick Extraction溶液(Epicenter)で再懸濁し、添加して細胞を溶解しゲノムDNAを抽出した。細胞溶解物を65℃で20分間、次に95℃で20分間インキュベートし、-20℃で保管した。ゲノムDNAの濃度をNanoDrop(Thermo Scientific)によって決定した。
【0155】
CXCR4標的、FOXP3標的1またはFOXP3標的2の標的部位を含有するゲノム領域を、以下のプライマーセットを用いてPCR増幅した。CXCR4用:
。FOXP3標的1用:
。FOXP3標的2用:
。CXCR4プライマーを、ホモロジーアームの外側へのアニーリングによるHDR鋳型の増幅を避けるように設計した。PCR反応は、製造者のプロトコールにしたがって、高GCバッファー中に200 ngのゲノムDNAおよびKapaホットスタート高フィデリティポリメラーゼ(Kapa Biosystems)を含有した。サーモサイクラーの設定は、95℃5分間を1サイクル、98℃20秒間、62℃(CXCR4およびFOXP3標的2)または60℃(FOXP3標的1)を15秒間および72℃1分間を35サイクル、ならびに72℃1分間を1サイクルで構成された。PCR産物を、SYBR Safe(Life Technologies)を含有する2%アガロースゲル上で精製した。PCR産物を、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースゲルから溶出した。PCR DNAの濃度をNanoDropデバイス(Thermo scientific)により定量した。200 ngのPCR DNAをT7エンドヌクレアーゼI分析およびHindIII分析のために用いた。
【0156】
T7エンドヌクレアーゼIアッセイによる編集効率の分析
編集効率をT7エンドヌクレアーゼIアッセイによって決定した。T7エンドヌクレアーゼIは、野生型および変異DNA鎖のハイブリダイゼーションから生じるミスマッチヘテロ二本鎖DNAを認識および切断する。ハイブリダイゼーション反応は、KAPA高GCバッファーおよび50 mM KCl中に200 ngのPCR DNAを含有し、以下の設定によるサーモサイクラーで行われた:95℃、10分、-2℃/秒で95から85℃、85℃1分間、-2℃/秒で85から75℃、75℃1分間、-2℃/秒で75から65℃、65℃1分間、-2℃/秒で65から55℃、55℃1分間、-2℃/秒で55から45℃、45℃1分間、-2℃/秒で45から35℃、35℃1分間、-2℃/秒で35から25℃、25℃1分間、および4℃で保持。バッファー2および5ユニットのT7エンドヌクレアーゼI(NEB)を添加し、再アニールしたDNAを消化した。37℃でのインキュベーションの1時間後に、反応を、70℃10分間の6×青色ゲルローディング色素(Thermo Scientific)によって停止させた。産物を、SYBRゴールド(Life technologies)を含有する2%アガロースゲル上で分離させた。DNAバンド強度を、Image Labを用いて定量した。編集のパーセンテージを、以下の方程式(1-(1-(b+c/a+ b+c))1/2)×100を用いて計算した、式中「a」はDNA基質のバンド強度であり、「b」および「c」は切断産物である。
【0157】
HindIII制限消化によるHDRの分析
CXCR4 HDR鋳型は遺伝子座内にHindIII制限部位を導入する。938 bp領域をPCRとしてプライマー
を用いて増幅した。反応は、CutSmartバッファー(NEB)中に200 ngのPCR DNAおよび10ユニットのHindIII高フィデリティで構成された。37℃でのインキュベーションの2時間後、反応を70℃で10分間の1倍量のゲルローディング色素により停止させた。産物を、SYBRゴールド(Life technologies)を含有する2%アガロースゲル上で分離させた。バンド強度をImage Labを用いて定量した。HDRのパーセンテージを以下の方程式(b+c/a+b+c)×100を用いて計算した、式中、「a」はDNA基質のバンド強度であり、かつ「b」および「c」は切断産物である。
【0158】
編集されたT細胞のFACS分析
CXCR4細胞表面染色を、氷上で15分間αCXCR4-APC(12G5;BD Pharmingen)を用いて実施した。抗体媒介性内部移行および抗体の分解を避けるために、細胞を染色手法の間にわたって細胞選別まで4℃で維持した。FACS Aria Illu(Becton Dickinson)を用いて、細胞を選別した。
【0159】
Cas9 RNPで編集したTregおよびiTregの分析のために、以下の抗体を用いた:αCD-PacificBlue(RPA-T4; BD Pharmingen)、αFOXP3-AlexaFluor488(206D; Biolegend)、αCD25-APC(BC96; TONBO Biosciences)、αCD127-PECy7(HIL-7R-M21; BD Pharmingen)、αIL-17a-PerCp-Cy5.5(N49-653; BD Pharmingen)、αIL-10-PE(JES3-9D7; BD Pharmingen)、αIFNγ-AlexaFluor700(B27; Biolegend)、αCTLA-4-PE(L3D10; Biolegend)。
【0160】
細胞を、100 ng/ml PMA(Sigma-Aldrich)および1μg/mlイオノマイシン(Sigma-Aldrich)で2時間刺激した。1μMモネンシン(Biolegend)を3時間のさらなる細胞刺激のために添加した。細胞を表面マーカーについてRTで20分間染色し、その次に、FOXP3/転写因子Fix/Perm(TONBO Biosciences)と共に30分インキュベーションした。FOXP3シグナルを増大させるために、Tregを、Flow Cytometry Permバッファー(TONBO Biosciences)中で100 U/ml DNAseI(Sigma-Aldrich)と共にインキュベートした。iTregは、続いての細胞選別およびT7EI分析のために、DNaseIで処理しなかった。細胞内サイトカインおよび転写因子染色をRTで30分間行った。TregはLSRFortessaDual(Becton Dickinson)によって獲得され、iTregはFACS Aria Illu(Becton Dickinson)を用いて獲得および選別された。
【0161】
統計
3回のiTreg分化実験においてFOXP3 Cas9 RNP処理後のFOXP3
+細胞およびIFNγ分泌細胞の量を、t検定を用いて対照処理後の量と比較した。標準偏差を計算し、エラーバーとして示した。分析の結果を
図4Bに示す。
【0162】
本明細書に記載した実施例および態様は例示のみを目的としていること、およびそれに照らした種々の改変または変更が当業者に示唆され、かつ本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであることが理解される。本明細書において引用される全ての刊行物、特許、および特許出願は、全ての目的のついてその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0163】
【0164】
実施例2:
PD-1のエクソン1(sgRNA1により標的とされるPD-1標的1(SEQ ID NO:75)、およびsgRNA2により標的とされるPD-1標的2(SEQ ID NO:74))およびエクソン2(sgRNA3により標的とされるPD-1標的3(SEQ ID NO:72)、およびsgRNA4により標的とされるPD-1標的4(SEQ ID NO:73))に対するsgRNAを設計した(
図5A)。sgRNA標的部位で誘導される二本鎖切断の鋳型指向性修復をもたらすHDRオリゴヌクレオチド(SEQ ID NO:71)も作製した(
図5A)。sgRNA1~4を含有するCas9 RNPを作製し、初代ヒトエフェクターT細胞(CD4
+CD25
loCD127
hi)に送達し、細胞を回収した。FACSによる回収後の細胞の分析は、複数のCas9 RNPおよびそれらの組み合わせを用いるPD-1の高い効率の除去を明らかにする。2種類の異なるHDR鋳型を有するPD-1コード配列を標的とするCas9 RNPの様々な組み合わせの機能的作用を、PD-1細胞表面発現のFACS分析によって評価した。除去は、2種類のHDR鋳型 (コード配列の一部を除去し、未成熟終始コドンおよび新たなHindIII制限酵素消化部位を導入するように設計された) それぞれとCas9 RNPの複数の組み合わせで観察された。
【0165】
発明者らはまた、キメラ抗原受容体を発現する(CAR) CD4+およびCD8+T細胞も編集した。T細胞を、前に記載したようにPD-1 Cas9 RNP(PD-1 sgRNA 2)で編集した。PD-1 Cas9 RNPによるヌクレオフェクション(Nucleofection)の後に、CAR-GFPレンチウイルスによる形質導入が続いた。CAR-GFP発現レベルおよびPD-1表面発現レベルをFACSにより評価した。発明者らは、PD-1-/low CAR+T細胞を作製することができた。
【0166】
実施例3:
Cas9 RNP、FITC標識デキストラン、Pacific Blue(PB)標識デキストラン、および刺激されていないCD4
+T細胞を含有する反応混合物を提供し、SQZ細胞圧縮デバイス(SQZ Biotech)を通して圧縮させた。細胞をFACSにより二重標識(FITCおよびPB)細胞の集団および未標識細胞の集団に選別した。2つの細胞の集団を、T7エンドヌクレアーゼ1(T7E1)アッセイを用いてCas9媒介性ゲノム編集についてアッセイした。Pacific Blue(PB)標識デキストラン(3000 MW)、FITC標識デキストラン(500,000 MW)の取り込みに基づき細胞を選別し、T7エンドヌクレアーゼ1アッセイは、両方のデキストランを取り込んだ細胞における編集の濃縮を確認した。(
図6)。
【0167】
実施例4:
イントロダクション
この実施例は、実施例1で実施した実験のさらなる詳細、ならびに追加の関連実験の方法および結果を提供する。この実験者は、本明細書に記載の方法および組成物の、Cas9誘導性二本鎖DNA切断(DSB)の非相同末端結合(NHEJ)修復から生じる可能性があるランダム挿入および欠失変異により標的遺伝子を除去する能力を実証する。CXCR4中にゲノム編集を有する細胞は、低CXCR4発現に基づき選別することによって濃縮されうる。本実施例はさらに、Cas9 RNPおよび外因性一本鎖DNA鋳型を使用する相同組換え修復(HDR)によって初代T細胞においてCXCR4およびPD-1にて正確に標的ヌクレオチド置換を導入する本明細書に記載の方法および組成物を用いることができることを実証する。この技術は、「ノックイン」初代ヒトT細胞のCas9媒介性の作製を可能にした。標的部位のディープシーケンシングは、Cas9 RNPが最大約20%の効率(50 pmolのHDR鋳型で約22%、100 pmolのHDR鋳型で約18%を達成した)での「ノックイン」ゲノム修飾を促進したことを確認し、それは総編集事象のおよそ1/3までを占めた。これらの知見は、Cas9 RNP媒介性ヌクレオチド置換が疾患関連変異の治療的修正に有用であることを証明できることを示す。これは、初代ヒトT細胞におけるゲノムの実験的および治療的なノックアウト編集およびノックイン編集に対するCas9 RNP技術の有用性を確立する。
【0168】
結果
本明細書に記載の方法および組成物は、初代T細胞の遺伝子操作における長年の課題を克服し、効率的なゲノム操作ツールキットを確立する。哺乳類細胞株における最近の報告は、Cas9 RNPが効率的かつ特異的なゲノム編集を達成できることを示唆する(15~18)。本明細書に記載の実験は、初代ヒトT細胞における標的ゲノム編集に対するCas9 RNP送達の有効性を実証する(
図7A)。
【0169】
Cas9 RNPによるHIVコレセプターCXCR4の除去。T細胞操作の主な目標は、HIV感染のコレセプター、および腫瘍免疫応答を損なう共抑制免疫チェックポイントを含む、特定の細胞表面受容体の標的除去である。本実施例は、CD4
+T細胞上に発現しかつHIV進入のコレセプターとして機能する造血発生および細胞ホーミングにおいて複数の役割を有するサイトカイン受容体をコードする、CXCR4のエクソン配列を標的とするようにプログラムされたCas9 RNPの使用を実証する(19~21)。C末端に融合させた2つの核移行シグナル配列(NLS)を保有する精製組換え化膿レンサ球菌Cas9を利用した。このCas9タンパク質を、ヒトCXCR4ゲノム配列を唯一認識するように設計されたインビトロ転写シングルガイドRNA(sgRNA)と一緒にインキュベートした(
図7B)。これらの構築済みCas9 RNP複合体を、健常なドナーから単離したヒトCD4
+T細胞内にエレクトロポレーションした。
【0170】
CXCR4 Cas9 RNPのエレクトロポレーションは、ゲノムDNAの効率的で部位特異的な編集をもたらした。CXCR4遺伝子におけるCas9 RNP誘導性DSBはおそらく、NHEJ、多様な挿入および欠失(インデル)を生じさせ、多くの場合フレームシフト変異および遺伝子機能の喪失をもたらす細胞中の主要なDNA修復経路によって修復されたと思われる(22)。フローサイトメトリーは、低レベルのCXCR4を発現するT細胞のパーセンテージのCas9 RNP用量依存性の増加を明らかにし、これはCXCR4遺伝子の変異と一致した(
図7C)。T7エンドヌクレアーゼI(T7E1)アッセイは、ゲノムの特異的部位での編集を評価する通常の方法である。本実施例において、T7E1アッセイは、CXCR4 Cas9 RNPで処理した細胞におけるCXCR4遺伝子座でのゲノムDNA編集を確認したが、Cas9タンパク質単独で処理した対照細胞(sgRNAなし; 対照)ではそうではなかった。Cas9 RNP処理細胞を、蛍光標識細胞分取(FACS)を用いてCXCR4発現に基づき分離した。T7E1アッセイを用いて、CXCR4
hi細胞と比較したCXCR4
lo細胞(15~17%)における編集の濃縮を見いだした(様々な用量のCas9 RNPにより4~12%) (
図7D)。編集事象を直接特定するために実施された標的CXCR4ゲノム部位のSangerシーケンシングは、T7E1アッセイが編集効率を過小評価している可能性があることを示唆した。T7E1アッセイは、野生型配列および変異配列の変性およびハイブリダイゼーションを利用して、ミスマッチDNA二本鎖を作製し、それは次いでT7エンドヌクレアーゼによって消化される。しかしながら、ミスマッチ二本鎖のハイブリダイゼーションは非効率である可能性があり、特に、インデル変異が野生型配列と劇的に異なっているとき、自己ハイブリダイゼーション、エネルギー的により好ましい産物を作る可能性がある。エンドヌクレアーゼアッセイによる編集効率の観察された過小評価に対する他の考えられる理由には、不完全な二本鎖融解、一塩基対インデルの非効率な切断、および大規模なゲノム編集の結果としてアガロースゲル上の予想される300および600塩基対の産物からの逸脱が含まれる(23)。CXCR4
lo細胞におけるCXCR4遺伝子のシーケンシングは、5/6クローンが変異/欠失を有したことを示した一方で、そのような変異/欠失は、CXCR4
hi細胞および対照処理CXCR4
lo細胞ではそれぞれ、4/10クローンおよび0/9クローンだけで観察された。重要なことには、CXCR4
hi集団で観察された編集はいずれも、コード配列(1つのミスセンス変異および3つのインフレーム欠失)を終了させ、これはタンパク質発現の維持と一致した。これに対して、CXCR4
lo集団は、該遺伝子座においてより広範な変異負荷を有する細胞を濃縮させた(
図7E)。これらの知見は、ヒトCD4
+T細胞におけるCas9 RNPによるゲノムターゲティングの成功およびタンパク質発現に対する機能的作用を実証した。FACSは、編集された細胞の集団を濃縮することができ、初代T細胞におけるCas9 RNP利用にさらなる有能なツールを提供した。
【0171】
相同組換え修復(HDR)による効率的な遺伝子「ノックイン」。外因性鋳型媒介性HDRは、特定の変異体配列の実験的および治療的編集を可能にする正確な遺伝子改変のための強力な技術である。Cas9 RNPの高い編集効率を考慮し、発明者らは次に、初代T細胞において外因性鋳型媒介性HDRを達成できるかどうかを試験した。90ヌクレオチドのホモロジーアームを有する一本鎖オリゴヌクレオチドDNA鋳型(HDR鋳型)を用いて、Cas9 RNP切断部位でCXCR4遺伝子座を組み換えた(16)。CXCR4 HDR鋳型を、CRISPR媒介性DNA切断に必要とされるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含むヒト参照ゲノムから12ヌクレオチドを置換し、かつHindIII制限酵素切断部位を導入するように設計した(
図8A)。Cas9 RNPを、4種類の異なる濃度のCXCR4 HDR鋳型(0、50、100および200 pmol; 材料と方法の補足情報を参照)の存在下で、初代CD4
+T細胞内にエレクトロポレーションした。HDR鋳型なしのCas9 RNPは再び、CXCR4
hi細胞のパーセンテージを低下させた。特に、本実験では、CXCR4 HDR鋳型の添加はCXCR4除去の効率を改善したが、細胞表面発現に対するこの作用は全ての実験では見られなかった(
図9A)。本実施例で示す実験では、約60%の細胞が100 pmol HDR鋳型およびCas9 RNPにより高レベル細胞表面CXCR4発現を失った(対照処理細胞では60%に対して1%) (
図8BおよびC)。
【0172】
高い効率のHDRを、Cas9 RNPおよび一本鎖オリゴヌクレオチドHDR鋳型で処理した細胞において観察した(
図8D)。T7E1アッセイによって推定されるように、最大で33%の総編集(Cas9切断部位にインデルを生じる全てのNHEJおよびHDR事象の合計として定義される)を、50 pmol CXCR4 HDR鋳型の存在下で観察した。この濃度では、14%のHDRが標的遺伝子座のHindIII消化によって推定され、高い割合の編集がHDRから生じたことを示した(さらなる定量化について以下の結果を参照)。HDR鋳型の添加によるCXCR4染色のほぼ完全な消失は、HDRにより導入された変異(84DLLFV88→84ESLDP88)がCXCR4の細胞表面発現またはその抗体による認識に強い影響を与えることを示唆する(
図8BおよびC)。編集効率は、おそらく細胞毒性の結果として、200 pmol HDR鋳型では低下した。
【0173】
総編集とHDRの両方とも、CXCR4
lo集団を選別することによって濃縮できるが、その作用は
図7のものよりあまりはっきりしておらず、未選別集団におけるCXCR4
lo細胞の割合がより大きなことと一致した。これらの実験では、より厳密なゲートを適用して、CXCR4の最も高い発現を有する細胞を分離しており、このCXCR4
hi集団では編集は観察されなかったことを留意すべきである。これらの試験は集合的には、初代ヒトT細胞において標的DNA配列を正確に置換する、一本鎖オリゴヌクレオチドHDR鋳型と連結させたCas9 RNPの能力を実証した。
【0174】
標的ゲノムDNAのディープシーケンシング。標的CXCR4遺伝子座のディープシーケンシングは、ゲノム編集事象のより詳細かつ定量的な分析を可能にした。
図10で強調表示した結果は、対照処理細胞と比較した、CXCR4 HDR鋳型ありまたはなしでのCXCR4 Cas9 RNP処理細胞における、挿入、欠失、およびHDR媒介性ヌクレオチド置換の頻度を示す。CXCR4 Cas9 RNP処理細胞において、発明者らは、予想切断部位を中心とした200ヌクレオチドのウィンドウ内に少なくとも1つのインデルを含有するCXCR4標的部位と部分的に重複する55%のリードを見いだした(
図10A、B)。上述のように、T7E1アッセイは編集された遺伝子座を特定するのに有用だが、実際の編集効率を過小評価する可能性がある(
図8DにおけるT7E1アッセイの定量化は、ディープシーケンシングによって算出された55%編集効率に比べて33%編集を示唆した)。発明者らはまた、CXCR4 Cas9 RNPについて上から2つの予想される「オフターゲット」部位を配列決定した(
図10B)。極めて少ないインデルが、両方のオフターゲット部位で観察された(約1~2%)が、Cas9タンパク質のみで処理された対照細胞における部位で観察されるものと同等の比率であった(約1~2%)。
【0175】
ディープシーケンシングの結果は、標的領域における観察されたインデル変異およびその空間的な分布の定量的分析を可能にした。発明者らは、PAMの4ヌクレオチド上流で最も高い頻度のインデルを見いだした、これは、化膿レンサ球菌Cas9はPAM配列から約3ヌクレオチド上流を切断するという報告と一致した(
図10A)。インデルは配列決定した領域全体にわたって分布し(
図10CおよびD)、事象の大部分は切断部位の近傍であった(40ヌクレオチド内に>94%)。CXCR4 Cas9 RNP処理細胞では、切断部位から+/-100ヌクレオチド内に、リードの95%が欠失事象を含むインデルを有する一方で、10%は挿入事象を含むことを発明者らは観察した。興味深いことに、挿入事象を有するリードのうち、約50%は少なくとも1つの欠失も含有した。発明者らは、幅広いサイズの挿入および欠失を観察し、多くのリードは約80ヌクレオチドの長さまでの欠失(平均18ヌクレオチド、SD 15ヌクレオチド)、および約55ヌクレオチドの長さまでのいくつかの挿入(平均4.4ヌクレオチド、SD 4.8ヌクレオチド)を示した(
図10C、Dおよび11)。この範囲のサイズのインデルおよび位置は、
図7におけるCXCR4
lo選択細胞のSangerシーケンシングで観察された広範な変異負荷と一致した。
【0176】
ディープシーケンシングによって、Cas9 RNPおよびCXCR4 HDR鋳型の両方で処理した細胞のみにおける、CXCR4遺伝子座での12ヌクレオチドの標的置換の成功を検証した。発明者らは、50 pmol HDR鋳型でHDR鋳型配列の25%組み込み、および100 pmol HDR鋳型で21%組み込みを観察した(
図10A)。組み込まれたHDR鋳型配列を有するリードのうち、検出されたHDR鋳型リードの約14%が、組み込まれたHindIII部位の周囲のさらなる非特異的インデル、または予想切断部位を中心とする200ヌクレオチドのウィンドウ内に他の不完全な形の編集を有した。しかしながら、組み込まれたHindIII部位を有するリードにおけるインデルの頻度は、HindIII部位が検出されなかったリードと比較して低減した(
図10C、Dおよび11)。興味深いことに、CXCR4 HDR鋳型ありとなしのCXCR4 Cas9 RNPの間には、2ヌクレオチド(11%)および22ヌクレオチド(5.4%)の欠失の濃縮を伴う欠失事象の一定したパターンが存在した(
図11)。PAM配列の置換は、「ノックイン」配列の再切断を制限する助けになる可能性がある。全体的に見て、(様々な濃度のHDR鋳型による)リードの18~22%が、配列決定されたゲノム標的部位の全体にわたってヌクレオチドを正しく置換しており、このアプローチが実験的および治療的ヌクレオチド「ノックイン」初代ヒトT細胞の作製に有用であることを証明できたことを示唆した。
【0177】
重要な細胞表面受容体の特異的「ノックイン」ターゲティング。Cas9 RNPが他のゲノム部位でHDRを媒介することを確認するために、発明者らは、PD-1(PDCD1)遺伝子座を標的とするガイドRNAおよびHDR鋳型を設計した。PD-1は、効果的なT細胞媒介性の癌の除去を阻害するおそれがある慢性的に活性化されたまたは疲弊したT細胞の表面上に見られる「免疫チェックポイント」細胞表面受容体である。PD-1のモノクローナル抗体による遮断は、進行悪性腫瘍の処置で認可されており、PD-1の遺伝的欠失は、細胞ベースの癌免疫療法のためのT細胞の操作において有用であることが判明する可能性がある(12)。初代ヒトT細胞に、PD-1の第1のエクソンにおいてフレームシフト変異を作製しかつHindIII制限部位を「ノックイン」するように設計されたPD-1 Cas9 RNPおよびPD-1 HDR鋳型をエレクトロポレーションし、それによってPAM配列を置換した(
図12A)。
【0178】
Cas9 RNP媒介性ターゲティングの特異性を調べるために、発明者らは、PD-1 Cas9 RNP対CXCR4 Cas9 RNP(PD-1遺伝子座を標的としてはならない)またはスクランブル化したガイドCas9 RNP(ヒトゲノム内に予想される切断なし)による処理後のPD-1細胞表面発現を比較した。発明者らは、2つの異なる血液ドナー、および2種類の異なるインビトロ転写プロトコールによって生じたsgRNAを用いて複製実験を並べて行った(材料および方法の補足情報を参照)。PD-1 HDR鋳型をエレクトロポレーションしたPD-1 Cas9 RNPは、PD-1 HDR鋳型によって送達されたCXCR4 Cas9 RNPおよびスクランブル化ガイドCas9 RNPの両方と比べて、高いPD-1細胞表面発現を有する細胞のパーセンテージを有意に低減させた(
図12B)。同様に、CXCR4 Cas9 RNPおよびCXCR4 HDR鋳型も、CXCR4 HDR鋳型によるPD-1およびスクランブル化ガイドCas9 RNP処理の両方と比べて、CXCR4
hi細胞の集団を低減させた(
図12C)。CXCR4の喪失は、CXCR4 Cas9 RNPと一緒に送達された一本鎖DNAの非特異的作用ではなかった;発明者らは、CXCR4 Cas9 RNPおよびCXCR4 HDR鋳型によるものより、CXCR4 Cas9 RNPおよびスクランブル化HDR鋳型による処理後のCXCR4発現細胞のパーセンテージが高いことを観察した(
図9A)。これらの知見は、プログラム可能なCas9 RNPおよびHDR鋳型処理による初代T細胞における細胞表面受容体発現の標的特異的調節を確認した。
【0179】
次に、発明者らは、ヌクレオチド置換に対するHDR鋳型の特異性を試験した(
図12D;対応する細胞表面発現データの例を
図9Bに示す)。予想通り、発明者らは、PD-1 HDR鋳型、CXCR4 HDR鋳型と共に、またはいずれのHDR鋳型なしで送達されたどうかに関係なく、PD-1 Cas9 RNPによる効率的なPD-1編集を観察した。これに対して、HindIII部位は、PD-1 Cas9 RNPおよびPD-1 HDR鋳型の両方の存在下でのみPD-1内に組み込まれたが、CXCR4 HDR鋳型ではそうではなく、配列ホモロジーを欠いているためPD-1遺伝子座で組換えられないはずである。同様に、HindIII部位は、CXCR4 Cas9 RNPおよびCXCR4 HDR鋳型による処理後のCXCR4内にのみ組み込まれ;HDRは、PD-1 HDR鋳型、対照スクランブル化HDR鋳型(HindIII部位を有する)あり、またはHDR鋳型なしではCXCR4遺伝子座で観察されなかった(
図12D)。総合すると、これらの試験は、プログラム化Cas9 RNPおよび対応するHDR鋳型の特定の組み合わせは初代ヒトT細胞において標的ヌクレオチド置換をもたらすことができることを確立した。
【0180】
材料および方法
ヒトT細胞の単離および培養。ヒト初代T細胞を、新鮮な全血またはバフィーコートのいずれかから単離した。末梢血単核球(PBMC)をFicoll密度勾配遠心分離によって単離した。CD4+T細胞を、製造者のプロトコールにしたがって、EasysepヒトCD4+T細胞濃縮キット(Stemcell technologies)を用いて予濃縮した。予濃縮したCD4+T細胞を以下の抗体で染色した:αCD4-PerCp(SK3; Becton Dickinson)、αCD25-APC(BC96; TONBO Biosciences)、αCD127-PE(R34-34; TONBO Biosciences)、αCD45RA-violetFluor450(HI100; TONBO Biosciences)およびαCD45RO-FITC(UCHL1; TONBO Biosciences)。CD4+CD25loCD127hiTエフェクター(Teff)をFACS Aria Illu(Becton Dickinson)を用いて単離した。
【0181】
Cas9 RNPの構築およびエレクトロポレーション。Cas9 RNPを、20μM Cas9を20μM sgRNAと1:1の比率で20μM HEPES(pH 7.5)、150 mM KCl、1 mM MgCl2、10%グリセロールおよび1 mM TCEP中で37℃にて10分間、10μMの最終濃度にインキュベートすることによって、実験直前に調製した。T細胞にNeonトランスフェクションキットおよびデバイス(Invitrogen)をエレクトロポレーションした。
【0182】
ゲノム編集の分析。編集効率をT7エンドヌクレアーゼIアッセイによって推定した。HDR鋳型を、標的遺伝子座内にHindIII部位を導入するように設計した;HDR成功を、HindIII制限酵素消化によって確認した。CXCR4オンターゲット遺伝子および2つの予測オフターゲット遺伝子についてCas9標的部位の領域に隣接する、ゲノムDNAライブラリーを、2段階PCR法によって構築し、Illumina HiSeq 2500で配列決定した。
【0183】
材料と方法の補足情報
ヒトT細胞の単離および培養。ヒト初代T細胞を、新鮮な全血またはバフィーコートのいずれかから単離した(Stanford Blood Center)。UCSF Committee on Human Research(CHR)による承認を受けて、全血をヒトドナーからナトリウムヘパリン処理された真空採血管(Becton Dickinson)内に収集し、12時間以内に処理をした。末梢血単核球(PBMC)をフィコール密度勾配遠心分離によって単離した。新鮮な血液を1:1の比率でCa2+およびMg2+フリーのハンクス平衡塩溶液(HBSS)と混合し、バフィーコートをHBSSで1:10の比率に希釈した。30 mlの各HBSS/血液溶液を50 ml Falconチューブに移し、12 ml Ficoll-Paque PLUS(Amersham/GE healthcare)を下張りした。密度勾配遠心分離(1000 g、20分、ブレーキなし)後、PBMC層を注意深く取り除き、細胞をCa2+およびMg2+フリーHBSSで2回洗浄した。製造者のプロトコールにしたがって、CD4+T細胞をEasysepヒトCD4+T細胞濃縮キット(Stemcell technologies)で予濃縮した。予濃縮したCD4+T細胞を以下の抗体で染色した:αCD4-PerCp(SK3; Becton Dickinson)、αCD25-APC(BC96; TONBO Biosciences)、αCD127-PE(R34-34; TONBO Biosciences)、αCD45RA-violetFluor450(HI100; TONBO Biosciences)、およびαCD45RO-FITC(UCHL1; TONBO Biosciences)。CD4+CD25loCD127hi Tエフェクター(Teff)をFACS Aria Illu(Becton Dickinson)を用いて単離した。Teffの純度は>97%であった。
【0184】
Cas9 RNPトランスフェクションに関して、エフェクターCD4+T細胞を全血から単離し、αCD3(UCHT1; BD Pharmingen)およびαCD28(CD28.2; BD Pharmingen)をコートしたプレート上で48時間予め活性化した。プレートを、37℃にて少なくとも2時間 PBS中で、10μg/mlαCD3およびαCD28でコートした。バフィーコート由来T細胞を10μg/ml αCD3でコートしたプレート上で(PBS中で少なくとも2時間37℃にて)、RPMI完全培地に直接添加した5μg/ml αCD28により活性化した。
【0185】
T細胞を、RPMI完全培地(5 mmol/l 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)(UCSF CCF)、2 mmol/l Glutamax(Gibco)、50μg/mlペニシリン/ストレプトマイシン(Corning)、50μmol/l 2-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich)、5 mmol/l非必須アミノ酸(Corning)、5 mmol/lピルビン酸ナトリウム(UCSF CCF)、および10%(v/v)ウシ胎仔血清(Atlanta Biologicals)を追加したRPMI-1640(UCSF CCF))中で活性化した。エレクトロポレーション後、培地に40 IU/ml IL-2を追加した。
【0186】
Cas9の発現および精製。本試験で用いた組換え化膿レンサ球菌Cas9は、HAタグ、および核膜を横断する輸送を容易にする2つの核移行シグナルペプチドをC末端に保有する。タンパク質を、E. coli Rosetta 2細胞(EMD Millipore)中でプラスミドpMJ915からN末端ヘキサヒスチジンタグおよびマルトース結合タンパク質と共に発現させた。Hisタグおよびマルトース結合タンパク質をTEVプロテアーゼによって切断し、Cas9をJinek et al., (2012) A programmable dual-RNA-guided DNA endnuclease in adaptive bacterial immunity. Science 337(6096):816-821に記載のプロトコールによって精製した。Cas9をpH 7.5、150 mM KCl、10%(v/v)グリセロール、1 mMリン酸トリス(2-クロロエチル)(TCEP)の20 mM HEPES中で-80℃にて保管した。
【0187】
PAGE精製によるsgRNAのインビトロT7転写。T7プロモーター、20 ヌクレオチド(nt)標的配列およびキメラsgRNA足場をコードするDNA鋳型を、オーバーラッピングPCRにより合成オリゴヌクレオチドから構築した。簡単に言うと、CXCR4 sgRNA鋳型に関して、PCR反応は、製造者のプロトコールにしたがい、
の20 nMプレミックス、
の1μMプレミックス、200μM dNTP、ならびにPhusion Polymerase(NEB)を含有する。サーモサイクラーの設定は、95℃10秒間、57℃10秒間および72℃10秒間を30サイクルで構成された。PCR産物をフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコールで1回抽出し、次いで、クロロホルムで1回抽出し、その後-20℃で一晩イソプロパノール沈降した。DNAペレットを70%(v/v)エタノールで3回洗浄し、真空によって乾燥し、ジエチルピロカルボネート (DEPC)処理水で溶解した。PD-1 sgRNA鋳型を、同じ手法によって、T25、SLKS1、SLKS2およびSLKS11
から構築した。
【0188】
100μl T7インビトロ転写反応は、30 mM Tris-HCl(pH 8)、20 mM MgCl2、0.01%(v/v) Triton X-100、2 mMスペルミジン、10 mM新鮮なジチオスレイトール、5 mMの各リボヌクレオチド三リン酸、100μg/ml T7 Polおよび0.1μM DNA鋳型で構成された。反応を37℃にて4時間インキュベートし、5ユニットのRNaseフリーDNaseI(Promega)を添加してDNA鋳型を37℃にて1時間消化した。反応を2×停止液(95%(v/v)脱イオン化ホルムアミド、0.05%(w/v)ブロモフェノールブルーおよび20 mM EDTA) により60℃にて5分間で停止させた。RNAを、6 M尿素を含有する10%(v/v)ポリアクリルアミドゲル中での電気泳動によって精製した。RNAバンドをゲルから切り取り、50 ml管中で粉砕し、25 mlの300 mM酢酸ナトリウム(pH 5)で優しく揺らしながら一晩4℃にて溶出した。次いで、溶液を4000 gにて10分間遠心分離し、RNA上清を0.45μmフィルターに通過させた。1当量のイソプロパノールを濾過した上清に加えて、RNAを一晩-20℃で沈降させた。RNAペレットを遠心分離によって収集し、70%(v/v)エタノールで3回洗浄し、真空によって乾燥させた。sgRNAを再フォールディングするために、まずRNAペレットを20 mM HEPES(pH 7.5)、150 mM KCl、10%(v/v)グリセロールおよび1 mM TCEP中に溶解した。sgRNAを5分間70℃に加熱し、室温まで冷却した。MgCl2を1 mMの最終濃度まで添加した。sgRNAを再び5分間50℃に加熱し、室温まで冷却し、氷上で維持した。sgRNA濃度を、Nanodropを用いてOD260 nmで決定し、20 mM HEPES(pH 7.5)、150 mM KCl、10%(v/v)グリセロール、1 mM TCEPおよび1 mM MgCl2を用いて100μMに調整した。sgRNAを-80℃で保管した。
【0189】
フェノール/クロロホルム抽出によるsgRNAのインビトロT7転写。インビトロT7転写のためのDNA鋳型を、相補的な一本鎖ウルトラマー(ultramer)
をアニールすることによって作製した。ウルトラマーをヌクレアーゼフリーduplexバッファー(IDT)において1:1の比率で混合し、95℃まで2分間加熱し、続いて、RTで30分のインキュベーションを行った。
【0190】
100μl T7インビトロ転写反応は、1×転写最適化バッファー、10 mMの新鮮なジチオスレイトール、2 mMの各リボヌクレオチド三リン酸、400 U T7 Pol(Promega)、0.5 Uピロホスファターゼ (Life technologies)および2μg DNA鋳型を含有した。反応を37℃で4時間インキュベートした。5 UのRNaseフリーDNaseI(Promega)を添加し、37℃にて30分間DNA鋳型を消化した。反応を5μl 0.5M EDTAで停止させた。
【0191】
PAGE精製時のウェル間の核酸交換の可能性に対する懸念を踏まえ、発明者らは、
図12および9Aに示したように、フェノール/クロロホルム精製sgRNAをPAGE精製sgRNAと並べて試験した。フェノール/クロロホルム抽出は、190μl RNAフリーH
2Oの添加後に行われた。sgRNAを、80μl 3M酢酸ナトリウムおよび420μlイソプロパノールおよび-20℃で4時間のインキュベーションで沈降させた。RNAペレットを70%(v/v) EtOHで2回および100%(v/v) EtOHで1回洗浄した。「PAGE精製によるsgRNAのインビトロT7転写」に記載されているように、真空乾燥させたペレットを再構成し、sgRNAを再フォールディングさせた。
【0192】
Cas9 RNP構築およびエレクトロポレーション。20μM Cas9を20μM sgRNAと1:1の比率で20μM HEPES(pH 7.5)、150 mM KCl、1 mM MgCl2、10%(v/v)グリセロールおよび1 mM TCEP中で37℃にて10分間インキュベートすることによって、Cas9 RNPを10μMの最終濃度に実験直前に調製した。
【0193】
T細胞をNeonトランスフェクションキットおよびデバイス(Invitrogen)によりエレクトロポレーションした。2.5×10
5個のT細胞を、8μlのバッファーT(Neonキット, Invitrogen)で再懸濁する前に、PBSで3回洗浄した。Cas9 RNP(2μlの10μM Cas9対照 sgRNAなし、または1~2μl Cas9:sgRNA RNP;最終濃度0.9~1.8μM)ならびにHDR鋳型(示した通り0 ~200 pmol)を11μlの最終量まで細胞懸濁物に加え(Cas9保存バッファーで調整)、混合した。10μlの懸濁物をNeonエレクトロポレーションデバイス(Invitrogen; 1600V、10ミリ秒、3パルス)を用いてエレクトロポレーションした。CXCR4およびPD-1用のHDR鋳型は、標的配列に相補的な(アンチセンス鎖)一本鎖オリゴヌクレオチドであり、90-ntホモロジーアームと共にHindIII制限配列を含有する。HDRが成功すると、各PAM部位は欠失され、Cas9 RNPによる編集部位の再切断が妨げられるはずである。PD-1 HDR鋳型は加えて、12 ntを11 ntと置換することによって早ければアミノ酸25位にフレームシフトおよびナンセンス変異を引き起こす
。CXCR4 HDR対照ドナーは、HindIII制限部位を含有する元のCXCR4 HDR鋳型に対する配列スクランブル化バージョンである
。
【0194】
エレクトロポレーションしたT細胞を、αCD3/CD28でコートした48ウェルプレート中の500μlの各培養培地に移した。プレートを10μg/mlのαCD3(UCHT1; BD Pharmingen)およびαCD28(CD28.2; BD Pharmingen)によりPBS中で少なくとも2時間37℃にてコートした。エレクトロポレーションの24時間後に、細胞を再懸濁し、コートされていないウェルプレートに移した。エレクトロポレーションの3~4日後に、T細胞をFACSおよびT7エンドヌクレアーゼIアッセイによって分析した。
【0195】
編集されたT細胞のFACS分析。細胞表面染色を、αCXCR4-APC(12G5; BD Pharmingen)およびαPD-1-PE(EH12.2H7; Biolegend)を用いて氷上で15分間行った。細胞を、染色手法の間にわたって細胞選別まで4℃で維持し、抗体媒介性内部移行および抗体の分解を最小化した。FACS Aria Illu(Becton Dickinson)を用いて、細胞を選別した。
【0196】
標的領域のPCR増幅。5×104~2×105個の細胞を100μlのQuick Extraction溶液(Epicenter)で再懸濁し、添加して細胞を溶解し、ゲノムDNAを抽出した。細胞溶解物を65℃で20分間、次に95℃で20分間インキュベートし、-20℃で保管した。ゲノムDNAの濃度をNanoDrop(Thermo Scientific)によって決定した。
【0197】
CXCR4標的部位またはPD-1標的部位を含有するゲノム領域を、以下のプライマーセットを用いてPCR増幅した。CXCR4用:
。PD-1用:
。両方のプライマーセットを、ホモロジーアームの外側へのアニーリングによるHDR鋳型の増幅を避けるように設計した。PCR反応は、製造者のプロトコールにしたがって、高GCバッファー中に200 ngのゲノムDNAおよびKapaホットスタート高フィデリティポリメラーゼ(Kapa Biosystems)を含有した。サーモサイクラーの設定は、95℃5分間を1サイクル、98℃20秒間、CXCR4では62℃またはPD-1では68℃を15秒間および72℃1分間を35サイクル、ならびに72℃1分間を1サイクルで構成された。PCR産物を、SYBR Safe(Life Technologies)を含有する2%(w/v)アガロースゲル上で精製した。PCR産物を、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースゲルから溶出した。PCR DNAの濃度をNanoDropデバイス(Thermo scientific)により定量した。200 ngのPCR DNAをT7エンドヌクレアーゼI分析およびHindIII分析のために用いた。
図7Eに関して、PCR産物をTOPO Zero Blunt PCR Cloning Kit(Invitrogen)でクローン化し、Sangerシーケンシングに供した。
【0198】
T7エンドヌクレアーゼIアッセイによる編集効率の分析。編集効率をT7エンドヌクレアーゼIアッセイによって推定した。T7エンドヌクレアーゼIは、野生型および変異DNA鎖のハイブリダイゼーションから生じるミスマッチヘテロ二本鎖DNAを認識および切断する。ハイブリダイゼーション反応は、KAPA高GCバッファーおよび50 mM KCl中に200 ngのPCR DNAを含有し、以下の設定によるサーモサイクラーで行われた:95℃、10分、-2℃/秒で95から85℃、85℃1分間、-2℃/秒で85から75℃、75℃1分間、-2℃/秒で75から65℃、65℃1分間、-2℃/秒で65から55℃、55℃1分間、-2℃/秒で55から45℃、45℃1分間、-2℃/秒で45から35℃、35℃1分間、-2℃/秒で35から25℃、25℃1分間、および4℃で保持。バッファー2および5ユニットのT7エンドヌクレアーゼI(NEB)を添加し、再アニールしたDNAを消化した。37℃でのインキュベーションの1時間後に、反応を、70℃10分間の6×青色ゲルローディング色素(Thermo Scientific)によって停止させた。産物を、SYBRゴールド(Life technologies)を含有する2%アガロース上で分離させた。DNAバンド強度を、Image Labを用いて定量した。編集のパーセンテージを、以下の方程式(1-(1-(b+c/a+b+c))
1/2)×100を用いて計算した、式中「a」はDNA基質のバンド強度であり、「b」および「c」は切断産物である。PD-1 T7E1アッセイの定量化に関して(
図12D)、DNA基質の強度は、全ての条件で見られた2つの大きなバンドの合計として計算された。T7E1アッセイに基づく%総編集の計算は、切断効率の推定のみを可能にする。
【0199】
HindIII制限消化によるHDRの分析。HDR鋳型を標的遺伝子座内のHindIII制限部位に導入するように設計した。CXCR4遺伝子座内へのHindIII部位の導入の成功を試験するために、938 bp領域をプライマー
を用いてPCR増幅した。PD-1遺伝子座に関して、905 bp領域をプライマー
を用いて増幅した。反応は、CutSmartバッファー(NEB)中に200 ngのPCR DNAおよび10ユニットのHindIII高フィデリティで構成された。37℃にて2時間のインキュベーション後、反応を70℃で10分間の1倍量のゲルローディング色素により停止させた。産物を、SYBRゴールド(Life technologies)を含有する2%(w/v)アガロースゲル上で分離させた。バンド強度をImage Labを用いて定量した。HDRのパーセンテージを以下の方程式(b+c/a+b+c)×100を用いて計算した、式中、「a」はDNA基質のバンド強度であり、かつ「b」および「c」は切断産物である。
【0200】
オンターゲット部位およびオフターゲット部位のディープシーケンシング分析。CXCR4オンターゲット遺伝子および2つのオフターゲット遺伝子についてCas9標的部位に隣接するゲノム領域を、下記に挙げるプライマーを用いて2段階PCR法によって増幅した。CXCR4 オンターゲット
、オフターゲット#1(POUドメイン、クラス2、転写因子1アイソフォーム1 [POU2F1] 遺伝子座;
)ならびにオフターゲット#2(グルタミン酸受容体1アイソフォーム1前駆体[GRIA1]遺伝子座;
)。最初に、製造者のプロトコールにしたがって、編集された試料および対照試料由来の100~150 ngのゲノムDNAを、Kapaホットスタート高フィデリティポリメラーゼ(Kapa Biosystems)を用いてPCR増幅した。サーモサイクラーの設定は、95℃5分間を1サイクル、ならびに98℃20秒間、63℃15秒間および72℃15秒間を15~20サイクル、ならびに72℃1分間を1サイクルで構成された。結果として生じるアンプリコンを2%(w/v)上で分離させ、SYBR Goldで染色し、Qiagenゲル抽出キットを用いてゲル抽出した。
【0201】
Illumina TruSeq Universalアダプター
および改変Illumina RNA PCRバーコードプライマー
をKapaホットスタート高フィデリティポリメラーゼ(Kapa Biosystems)を用いる第2のPCR段階でアンプリコンに付着させた。サーモサイクラーの設定は、98℃30秒間を1サイクル、98℃20秒間、65℃15秒間および72℃15秒間を8~10サイクル、ならびに72℃5分間を1サイクルで構成された。結果として生じるアンプリコンを2%(w/v)上で分離させ、SYBR Goldで染色し、Qiagenゲル抽出キットを用いてゲル抽出した。バーコードを付けかつ精製したDNA試料をQubit 2.0 Fluorometer(Life Technologies)によって定量し、BioAnalyzer(Agilent)によってサイズ分析し、qPCRによって定量し、そして等モル比でプールした。シーケンシングライブラリーをIllumina HiSEq 2500で配列決定した。
【0202】
ディープシーケンシングデータの分析。HDR鋳型から生じる独自の12 ntを含有したシーケンシングリードを抽出し、HDR鋳型由来の配列を含有しないものと別々に分析した。Burrows-Wheeler Aligner(BWA)を用いて、置換された12 ntを含有しなかった全てのリードを参照hg19ゲノムに対して整列させ、置換された12 ntを含有したリードの全てを予測置換を有する改変hg19ゲノムに対して整列させた。次いで、samtools mpileupユーティリティを用いて、CXCR4遺伝子の各位置に位置するリードの合計数を定量化し、CIGARストリング調べるカスタムスクリプトを用いて、各リードについて挿入および欠失の数および位置を推計した。挿入効率を、CXCR4 RNP(HDR鋳型なし)による実験について、(切断部位から+/- 100 bpに挿入を有するリードの数)/(切断部位から+/-のリードの総数)として推定した。CXCR4 RNP(HDR鋳型なし)による実験についての欠失効率を、(切断部位から+/- 100 bpに欠失を有するリードの数)/(切断部位から+/-のリードの総数)として推定した。CXCR4 RNP+HDR鋳型による実験に関して、挿入効率および欠失効率を、HDR由来の12 nt置換を含有しなかったリードのみに基づいて計算した(これらは
図10Bに示した割合である)。総編集効率を、(切断部位から+/-100 bpにインデルを有するリードの数)/(切断部位から+/-のリードの総数)として推定した。HDR効率を、(切断部位から+/-100 bpにHindIII部位を含有するリードの数)/( 切断部位から+/-100 bpのリードの総数)として推定した。挿入および欠失サイズの分布を切断部位から+/-20 bpの領域について推定した。ディープシーケンシングデータは、NCBI Sequence Read Archive(SRA, BioProject: SUB996236)で入手可能である。
【0203】
【0204】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> The Regents of the University of California
<120> PROTEIN DELIVERY IN PRIMARY HEMATOPOIETIC CELLS
<150> US 62/110,187
<151> 2015-01-30
<150> US 62/209,711
<151> 2015-08-25
<160> 111
<170> PatentIn version 3.5
<210> 1
<211> 5
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 sequence positions 84-88
<400> 1
Asp Leu Leu Phe Val
1 5
<210> 2
<211> 5
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic mutated CXCR4 sequence positions 84-88
<400> 2
Glu Ser Leu Asp Pro
1 5
<210> 3
<211> 82
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic primer SLKS3
<400> 3
taatacgact cactatagga agcgtgatga caaagagggt tttagagcta tgctggaaac 60
agcatagcaa gttaaaataa gg 82
<210> 4
<211> 73
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic primer SLKS1
<400> 4
gcaccgactc ggtgccactt tttcaagttg ataacggact agccttattt taacttgcta 60
tgctgtttcc agc 73
<210> 5
<211> 18
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic primer T25
<400> 5
taatacgact cactatag 18
<210> 6
<211> 27
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic primer SLKS1
<400> 6
gcaccgactc ggtgccactt tttcaag 27
<210> 7
<211> 82
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic primer SLKS4
<400> 7
taatacgact cactatagag gagcctcgcc cagctggagt tttagagcta tgctggaaac 60
agcatagcaa gttaaaataa gg 82
<210> 8
<211> 192
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic HDR template sequence
<400> 8
gggcaatgga ttggtcatcc tggtcatggg ttaccagaag aaactgagaa gcatgacgga 60
caagtacagg ctgcacctgt cagtggccga aagcttggat cccatcacgc ttcccttctg 120
ggcagttgat gccgtggcaa actggtactt tgggaacttc ctatgcaagg cagtccatgt 180
catctacaca gt 192
<210> 9
<211> 32
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 forward primer
<400> 9
agaggagtta gccaagatgt gactttgaaa cc 32
<210> 10
<211> 33
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 reverse primer
<400> 10
ggacaggatg acaataccag gcaggataag gcc 33
<210> 11
<211> 25
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic FOXP3 Target 1 forward primer
<400> 11
ttcaaatact ctgcactgca agccc 25
<210> 12
<211> 26
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic FOXP3 Target 1 reverse primer
<400> 12
catgtacctg tgttcttggt gtgtgt 26
<210> 13
<211> 35
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic FOXP3 Target 2 forward primer
<400> 13
gctgacattt tgactagctt tgtaaagctc tgtgg 35
<210> 14
<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic FOXP3 Target 2 reverse primer
<400> 14
tctccccgac ctcccaatcc c 21
<210> 15
<211> 82
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic PD-1 sgRNA
<400> 15
taatacgact cactatagcg actggccagg gcgcctgtgt tttagagcta tgctggaaac 60
agcatagcaa gttaaaataa gg 82
<210> 16
<211> 123
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic ultramer sequence CXCR4_1
<400> 16
taatacgact cactatagga agcgtgatga caaagagggt tttagagcta tgctggaaac 60
agcatagcaa gttaaaataa ggctagtccg ttatcaactt gaaaaagtgg caccgagtcg 120
gtg 123
<210> 17
<211> 123
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic ultramer sequence CXCR4_2
<400> 17
caccgactcg gtgccacttt ttcaagttga taacggacta gccttatttt aacttgctat 60
gctgtttcca gcatagctct aaaaccctct ttgtcatcac gcttcctata gtgagtcgta 120
tta 123
<210> 18
<211> 124
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic ultramer sequence PD-1_1
<400> 18
taatacgact cactatagcg actggccagg gcgcctgtgt tttagagcta tgctggaaac 60
agcatagcaa gttaaaataa ggctagtccg ttatcaactt gaaaaagtgg caccgagtcg 120
gtgc 124
<210> 19
<211> 124
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic ultramer sequence PD-1_2
<400> 19
gcaccgactc ggtgccactt tttcaagttg ataacggact agccttattt taacttgcta 60
tgctgtttcc agcatagctc taaaacacag gcgccctggc cagtcgctat agtgagtcgt 120
atta 124
<210> 20
<211> 191
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic PD-1 HDR template sequence
<400> 20
aacctgacct gggacagttt cccttccgct cacctccgcc tgagcagtgg agaaggcggc 60
actctggtgg ggctgctcca ggcatgcaga taatgaaagc ttctggccag tcgtctgggc 120
ggtgctacaa ctgggctggc ggccaggatg gttcttaggt aggtggggtc ggcggtcagg 180
tgtcccagag c 191
<210> 21
<211> 192
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 HDR control template sequence
<400> 21
ttcaaaacta gcgtcagggg ctcgatttac tcgggacttg ctacaacatc gcagtcacgc 60
gcacgatcct tccaggattg gaggtggact tagataaagc ttccgtgtgc accgtataga 120
ttcgttgatg caggctattc ccgtgatccc acgcggaggt gatggagcgt caagcatagc 180
tagcacagat ga 192
<210> 22
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic PD-1 forward primer
<400> 22
ggggctcatc ccatccttag 20
<210> 23
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic PD-1 reverse primer
<400> 23
gccacagcag tgagcagaga 20
<210> 24
<211> 76
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 on-target primer
<220>
<221> misc_feature
<222> (34)..(38)
<223> N is A, C, G or T
<400> 24
acactctttc cctacacgac gctcttccga tctnnnnnct tcctgcccac catctactcc 60
atcatcttct taactg 76
<210> 25
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 on-target primer
<220>
<221> misc_feature
<222> (35)..(39)
<223> N is A, C, G or T
<400> 25
gtgactggag ttcagacgtg tgctcttccg atctnnnnnc aggtagcggt ccagactgat 60
gaaggccagg atgaggac 78
<210> 26
<211> 79
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 off-target primer
<220>
<221> misc_feature
<222> (35)..(39)
<223> N is A, C, G or T
<400> 26
gtgactggag ttcagacgtg tgctcttccg atctnnnnnc tggctttata tatatacata 60
gatagacgat atagatagc 79
<210> 27
<211> 73
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 off-target primer
<220>
<221> misc_feature
<222> (34)..(38)
<223> N is A, C, G or T
<400> 27
acactctttc cctacacgac gctcttccga tctnnnnncc tggtcccagc ccagccccag 60
ctattcagca tcc 73
<210> 28
<211> 80
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 off-target primer
<220>
<221> misc_feature
<222> (35)..(39)
<223> N is A, C, G or T
<400> 28
gtgactggag ttcagacgtg tgctcttccg atctnnnnna ctctgcactg gtatatcaat 60
acacttgttt ttctcatccc 80
<210> 29
<211> 58
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic adapter primer
<400> 29
aatgatacgg cgaccaccga gatctacact ctttccctac acgacgctct tccgatct 58
<210> 30
<211> 58
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic barcode primer
<400> 30
caagcagaag acggcatacg agatgtgact ggagttcaga cgtgtgctct tccgatct 58
<210> 31
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic primer
<400> 31
cctcctcttt gtcatcacgc ttc 23
<210> 32
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic primer
<400> 32
gaagcgtgat gacaaagagg agg 23
<210> 33
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic reference sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 33
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 34
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 34
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 35
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 35
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 36
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 36
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 37
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 37
gtttgccatg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 38
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 38
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 39
<211> 72
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 39
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagtcgg ccactgacag 60
gtgcagcctg ta 72
<210> 40
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 40
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 41
<211> 66
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 41
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgggagg tcggccactg acaggtgcag 60
cctgta 66
<210> 42
<211> 75
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 42
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc ctgta 75
<210> 43
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 43
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 44
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic reference sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 44
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 45
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 45
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 46
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 46
gtggcaaact ggtactttgg gaacttccta tgcaaggcag tccatgtcat ctacacagtc 60
aacctctaca gcagtgtc 78
<210> 47
<211> 76
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 47
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaaggagg tcggccactg 60
acaggtgcag cctgta 76
<210> 48
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 48
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgacg ctgacaggtg ccgcctgtac 60
ttgtccgtca tgcgtctc 78
<210> 49
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 49
gtttgccacg gcatcaactg cccagaagga agtcgtgctc tgacaggagg aggccggcct 60
tggacatgtg gcttctga 78
<210> 50
<211> 33
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 50
gtttgccacg gccactgaca ggtgcagcct gta 33
<210> 51
<211> 71
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 51
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgata ggaggtcggc cactgacagg 60
tgcagcctgt a 71
<210> 52
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 52
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 53
<211> 76
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 53
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaaggacg tccgccgctg 60
agaggtgcag gctgta 76
<210> 54
<211> 77
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 54
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaaaggag gtcggccact 60
gacaggtgca gcctgta 77
<210> 55
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic reference sequence for CRCX4-lo control
<400> 55
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 56
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 56
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 57
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 57
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 58
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 58
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 59
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 59
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 60
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 60
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 61
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 61
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 62
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 62
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 63
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 63
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 64
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 64
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 65
<211> 78
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 65
gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga ggtcggccac 60
tgacaggtgc agcctgta 78
<210> 66
<211> 12
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic donor sequence
<400> 66
aagcttggat cc 12
<210> 67
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic FOXP3 Target 2 primer
<400> 67
tcatggctgg gctctccagg ggg 23
<210> 68
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic FOXP3 Target 2 primer
<400> 68
ccccctggag agcccagcca tga 23
<210> 69
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic FOXP3 Target 1 primer
<400> 69
ccctccagct gggcgaggct cct 23
<210> 70
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic FOXP3 Target 1 primer
<400> 70
aggagcctcg cccagctgga ggg 23
<210> 71
<211> 10
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic HDR template sequence
<400> 71
tagtaagctt 10
<210> 72
<211> 53
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic sgRNA target (3) sequence for PD-1 exon 2
<400> 72
ccacgctcat gtggaagtca cgcccgttgg gcagttgtgt gacacggaag cgg 53
<210> 73
<211> 53
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic sgRNA target (4) sequence for PD-1 exon 2
<400> 73
ccgcttccgt gtcacacaac tgcccaacgg gcgtgacttc cacatgagcg tgg 53
<210> 74
<211> 32
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic sgRNA target (2) sequence for PD-1 exon 1
<400> 74
ccgcccagac gactggccag ggcgcctgtg gg 32
<210> 75
<211> 32
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic sgRNA target (1) sequence for PD-1 exon 1
<400> 75
cccacaggcg ccctggccag tcgtctgggc gg 32
<210> 76
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic primer
<400> 76
cctcctcttt gtcatcacgc ttc 23
<210> 77
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic reference sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 77
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 78
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 78
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 79
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 79
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 80
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 80
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 81
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 81
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 82
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 82
tgccatggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 83
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 83
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 84
<211> 64
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 84
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagtcggcca ctgacaggtg 60
cagc 64
<210> 85
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 85
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 86
<211> 67
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 86
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aggaggtcgg ccactgacag 60
gtgcagc 67
<210> 87
<211> 58
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-hi
<400> 87
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgggaggtcg gccactgaca ggtgcagc 58
<210> 88
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic reference sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 88
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 89
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 89
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 90
<211> 69
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 90
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aaaggaggtc ggccactgac 60
aggtgcagc 69
<210> 91
<211> 68
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 91
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aaggaggtcg gccactgaca 60
ggtgcagc 68
<210> 92
<211> 63
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 92
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatagga ggtcggccac tgacaggtgc 60
agc 63
<210> 93
<211> 25
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 93
tgccacggcc actgacaggt gcagc 25
<210> 94
<211> 37
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for Cas9 RNP treated CRCX4-lo
<400> 94
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatg 37
<210> 95
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic reference sequence for CRCX4-lo control
<400> 95
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 96
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 96
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 97
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 97
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 98
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 98
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 99
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 99
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 100
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 100
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 101
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 101
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 102
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 102
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 103
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 103
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 104
<211> 70
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic locus sequence for CRCX4-lo control
<400> 104
tgccacggca tcaactgccc agaagggaag cgtgatgaca aagaggaggt cggccactga 60
caggtgcagc 70
<210> 105
<211> 101
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic Cas9 sequence
<400> 105
caaagtacca gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga 60
ggtcggccac tgacaggtgc agcctgtact tgtccgtcat g 101
<210> 106
<211> 101
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic Cas9 sequence
<400> 106
caaagtacca gtttgccacg gcatcaactg cccagaaggg aagcgtgatg acaaagagga 60
ggtcggccac tgacaggtgc agcctgtact tgtccgtcat g 101
<210> 107
<211> 12
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic Cas9 sequence
<400> 107
ttcgaaccta gg 12
<210> 108
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic target sequence
<400> 108
cgactggcca gggcgcctgt ggg 23
<210> 109
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic target sequence
<400> 109
cccacaggcg ccctggccag tcg 23
<210> 110
<211> 11
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic PD-1 HDR template sequence
<400> 110
ttcgaaagta a 11
<210> 111
<211> 81
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic CXCR4 off-target primer
<220>
<221> misc_feature
<222> (34)..(38)
<223> N is A, C, G or T
<400> 111
acactctttc cctacacgac gctcttccga tctnnnnngc tataatagta caagtatatg 60
ttaaataaga gtcatagcat g 81
【配列表】