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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】3価クロムめっき膜の後処理技術
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/36 20060101AFI20230928BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C25D11/36 E
C25D5/48
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023070823
(22)【出願日】2023-04-24
【審査請求日】2023-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 保紀
(72)【発明者】
【氏名】産一 盛裕
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-506292(JP,A)
【文献】特開2005-232529(JP,A)
【文献】特開2008-111155(JP,A)
【文献】特開2005-097701(JP,A)
【文献】特開2022-003171(JP,A)
【文献】特表2019-529715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/38
C25D 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素及びリン化合物を含有
前記過酸化水素の含有量が1~500g/Lであり、且つ前記リン化合物の含有量が1~200g/Lであり、
pHが1.5~5.5であり、且つ
金属イオン又はクロムイオンの含有量が0~0.01g/Lである、
3価クロムめっき膜の陰極電解処理に用いるための水溶液。
【請求項2】
pHが2.0~5.0である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
前記過酸化水素の含有量が2~300g/Lである、請求項1に記載の水溶液。
【請求項4】
前記リン化合物の含有量が2~150g/Lである、請求項1に記載の水溶液。
【請求項5】
前記過酸化水素の含有量が2~300g/Lであり、且つ前記リン化合物の含有量が2~150g/Lである、請求項1に記載の水溶液。
【請求項6】
前記リン化合物がリン酸、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、ピロリン酸およびその塩、トリポリリン酸およびその塩、エチドロン酸およびその塩、並びにアミノトリメチレンホスホン酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の水溶液中で3価クロムめっき膜を陰極電解することを含む、耐食性3価クロムめっき膜の製造方法。
【請求項8】
陰極電流密度が0.01~3A/dmである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
通電時間が30~1000秒間である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
陰極電解中の浴温が10~50℃である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の水溶液中で3価クロムめっき膜を陰極電解することを含む、3価クロムめっき膜の後処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロムめっき膜の後処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内外装部品や水栓金具部品等の最終表面処理として優れた外観および耐食性を付与するためにクロムめっきが使用されている。従来のクロムめっきは6価クロムを使用したものが一般的であったが、近年ではその有害性から作業環境への悪影響のため6価クロムの使用が制限され始めている。
【0003】
そこで6価クロムめっきの代替として、3価クロムめっきが開発されている。浴組成によっては6価クロムめっきでは得られないような暗い色調(L*a*b*表色系におけるL*値が70以下)の皮膜を得ることもできるため、暗色系を中心に現在では3価クロムめっきが広まっている。しかしながら、3価クロムめっき膜は6価クロムめっき膜と比較して耐食性が劣る。
【0004】
そのため耐食性の厳しい規格をクリアするためには、3価クロムめっき膜の後処理に6価クロムを使用した電解クロメートを行なうのが現在では一般的である。したがって、実際には6価クロムを使用しないプロセスとはなっておらず、6価クロムを使用しない後処理剤の研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-097701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近では、さまざまなタイプの6価クロムフリーの後処理に関する報告も増え、製品開発もされている。しかし実際の耐食性は6価クロム電解クロメートには及ばず、特に暗い色調の3価クロムめっき膜上では耐食性への効果が弱い。また、6価クロムの有無にかかわらず、後処理により色調が変化すること(L*a*b*表色系における特にb*値の増加)も課題である。
【0007】
特許文献1には、リン酸塩、酸化剤、及び非イオン性界面活性剤を含み、残部が水であることを特徴とする防錆剤が開示されている。しかしながら、この防錆剤は、耐食性の向上効果が不十分である。
【0008】
本発明は、3価クロムめっき膜に対して、色調変化をより抑えつつ、耐食性をより向上させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、過酸化水素及びリン化合物を含有する、3価クロムめっき膜の陰極電解処理に用いるための水溶液、により、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0010】
項1. 過酸化水素及びリン化合物を含有する、3価クロムめっき膜の陰極電解処理に用いるための水溶液。
【0011】
項2. pHが1.5~5.5である、項1に記載の水溶液。
【0012】
項3. 前記過酸化水素の含有量が1g/L以上である、項1に記載の水溶液。
【0013】
項4. 前記リン化合物の含有量が1g/L以上である、項1に記載の水溶液。
【0014】
項5. 前記過酸化水素の含有量が1~500g/Lであり、且つ前記リン化合物の含有量が1~200g/Lである、項1に記載の水溶液。
【0015】
項6. 前記リン化合物がリン酸、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、ピロリン酸およびその塩、トリポリリン酸およびその塩、エチドロン酸およびその塩、並びにアミノトリメチレンホスホン酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の水溶液。
【0016】
項7. 項1~6のいずれかに記載の水溶液中で3価クロムめっき膜を陰極電解することを含む、耐食性3価クロムめっき膜の製造方法。
【0017】
項8. 陰極電流密度が0.01~3A/dmである、項7に記載の製造方法。
【0018】
項9. 通電時間が30~1000秒間である、項7に記載の製造方法。
【0019】
項10. 陰極電解中の浴温が10~50℃である、項7に記載の製造方法。
【0020】
項11. 項1~6のいずれかに記載の水溶液中で3価クロムめっき膜を陰極電解することを含む、3価クロムめっき膜の後処理方法。
【0021】
項12. 項7に記載の製造方法によって得られる、耐食性3価クロムめっき膜。
【0022】
項13. 項12に記載の耐食性クロムめっき膜を含む、物品。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、3価クロムめっき膜に対して、色調変化をより抑えつつ、耐食性をより向上させる技術を提供することができる。より具体的には、本発明によれば、3価クロムめっき膜の陰極電解処理に用いるための水溶液、耐食性3価クロムめっき膜の製造方法、3価クロムめっき膜の後処理方法、耐食性3価クロムめっき膜、耐食性3価クロムめっき膜を含む物品等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0025】
1.水溶液
本発明は、その一態様において、過酸化水素及びリン化合物を含有する、3価クロムめっき膜の陰極電解処理に用いるための水溶液(本明細書において、「本発明の水溶液」と示すこともある。)、に関する。
【0026】
過酸化水素は、本発明の水溶液において酸化剤として作用する。過酸化水素により、3価クロムめっき膜上に酸化皮膜及び/又はリンと共にリン酸皮膜を形成させることができる。また、陽極素材によっては、過酸化水素により、陽極の溶解を抑制することもできる。
【0027】
過酸化水素の含有量は、特に制限されないが、耐食性の向上、陽極の溶解抑制等の観点から、好ましくは1g/L以上、より好ましくは2g/L以上、さらに好ましくは5g/L以上、よりさらに好ましくは7g/L以上、特に好ましくは10g/L以上である。過酸化水素の含有量の上限は、特に制限されず、例えば500g/Lである。当該上限は、コストの観点から、好ましくは300g/L、より好ましくは200g/L、さらに好ましくは150g/Lよりさらに好ましくは120g/Lである。過酸化水素の含有量の範囲は、上記下限及び上記上限の任意の組合せであることができるが、例えば1~500g/L、好ましくは2~300g/L、より好ましくは5~200g/L、さらに好ましくは5~150g/Lである。
【0028】
リン化合物により、3価クロムめっき膜上に形成される皮膜の最表層にリン酸皮膜を形成させることができる。また、リン化合物により、過酸化水素の分解を抑制することもできる。
【0029】
リン化合物としては、リンを含有する化合物である限り特に制限されず、めっき後処理に添加し得る無機化合物及び有機化合物のいずれも使用することができる。無機リン化合物としては、好ましくはリン酸、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、ピロリン酸およびその塩(例えば、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム等)、トリポリリン酸およびその塩(例えば、トリポリリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム等)等が挙げられる。有機リン化合物としては、好ましくはエチドロン酸およびその塩、アミノトリメチレンホスホン酸およびその塩等が挙げられる。
【0030】
リン化合物は、一種単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0031】
リン化合物の含有量は、特に制限されないが、耐食性の向上、過酸化水素の消耗抑制等の観点から、好ましくは1g/L以上、より好ましくは2g/L以上、さらに好ましくは3g/L以上、よりさらに好ましくは5g/L以上、とりわけ好ましくは7g/L以上、特に好ましくは10g/L以上である。リン化合物の含有量の上限は、特に制限されず、例えば200g/Lである。当該上限は、陽極へのアタックの抑制、廃液処理の容易化等の観点から、好ましくは150g/L、より好ましくは100g/L、さらに好ましくは80g/Lよりさらに好ましくは60g/Lである。リン化合物の含有量の範囲は、上記下限及び上記上限の任意の組合せであることができるが、例えば1~200g/L、好ましくは2~150g/L、より好ましくは3~100g/L、さらに好ましくは5~80g/Lである。
【0032】
過酸化水素とリン化合物とが組み合わされていることにより、本発明の水溶液を後述の陰極電解処理に供することによって、3価クロムめっき膜に対して、色調変化をより抑えつつ、耐食性をより向上させることができる。
【0033】
本発明の水溶液のpHは、耐食性の観点から、好ましくは1.5以上である。また、当該pHは、過酸化水素の分解抑制の観点から、好ましくは5.5以下である。当該pHは、上記2つの観点から、好ましくは1.5~5.5、より好ましくは2.0~5.0である。
【0034】
本発明の水溶液は、バッファーとして機能させる目的で、例えば有機酸を含むことができる。有機酸としては、好ましくはクエン酸、コハク酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸等が挙げられる。
【0035】
有機酸は、一種単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0036】
有機酸の含有量は、例えば0~100g/L、好ましくは0~30g/Lである。
【0037】
本発明の水溶液は、金属に依拠せずに、耐食性を向上させることができる。この観点から、本発明の水溶液の金属イオンの含有量は、例えば0~0.5g/L、好ましくは0~0.2g/L、より好ましくは0~0.1g/L、さらに好ましくは0~0.01g/L、よりさらに好ましくは0~0.001g/L、特に好ましくは0g/Lである。
【0038】
本発明の水溶液は、6価クロムに依拠せずに、耐食性を向上させることができる。この観点から、本発明の水溶液の6価クロムイオンの含有量は、例えば0~0.1g/L、好ましくは0~0.05g/L、より好ましくは0~0.02g/L、さらに好ましくは0~0.01g/L、よりさらに好ましくは0~0.001g/L、特に好ましくは0g/Lである。
【0039】
本発明の水溶液の用途は、3価クロムめっき膜の陰極電解処理に用いることである。本発明者は、本発明の水溶液を3価クロムめっき膜の陰極電解処理に用いると3価クロムめっき膜の色調変化をより抑えつつ耐食性をより向上させることができるという新たな知見に基づいて、本発明の水溶液が上記用途に適することを見出した。
【0040】
このため、本発明は、その一態様において、本発明の水溶液中で3価クロムめっき膜を陰極電解することを含む、耐食性3価クロムめっき膜の製造方法、及び本発明の水溶液中で3価クロムめっき膜を陰極電解することを含む、3価クロムめっき膜の後処理方法、に関する。これら2つの方法をまとめて、「本発明の方法」と示すこともある。
【0041】
3価クロムめっき膜は、3価クロムイオンを含むめっき液により得られためっき膜であって、金属としてクロムを主に含むめっき膜である限り特に制限されず、いわゆる3価クロム合金めっきも包含する。本発明の一態様において、3価クロムめっき膜中のクロム含有量は、金属100at%(原子パーセント)に対して、例えば1at%以上、2at%以上、5at%以上、10at%以上、20at%以上、30at%以上、40at%以上、又は45at%以上であり、また100at%以下、90at%以下、80at%以下、70at%以下、60at%以下、又は50at%以下であることができる。上記上限及び下限は、任意に組み合わせることができる。当該含有量は、エネルギー分散型X線分析(EDX)により測定することができる。3価クロムめっき膜中のクロム以外の金属としては、例えばCо、Fe、Mn、Ni、Zn等が挙げられる。
【0042】
3価クロムめっき膜を形成するためのめっき液は、6価クロムイオンの含有量がより少ないことが好ましく、当該含有量は、例えば0~0.1g/L、好ましくは0~0.05g/L、より好ましくは0~0.02g/L、さらに好ましくは0~0.01g/L、よりさらに好ましくは0~0.001g/L、特に好ましくは0g/Lである。
【0043】
3価クロムめっき膜は、白色系(L*a*b*表色系におけるL*値が70以上)及び黒色系(L*a*b*表色系におけるL*値が70以下)のいずれでもあることができる。本発明の方法によれば、従来の6価クロムフリーの後処理による耐食性向上効果が限定的な黒色系3価クロムめっき膜に対しても、耐食性についてより良好な効果を発揮することができる。
【0044】
3価クロムめっき膜が形成されている対象物品は、特に制限されず、例えば、自動車部品;成型用金型;各種機械類の摩耗しやすい部品;工具類;印刷、製紙、圧延、フィルム加工、製鉄に用いられるロール、水栓金具、自転車部品、釣り具、携帯電話、カメラ、装飾品、雑貨等が挙げられる。
【0045】
3価クロムめっき膜は、公知の方法に従って又は準じて形成することができる。
【0046】
3価クロムめっき膜の陰極電解は、本発明の水溶液に、陰極として3価クロムめっき膜を浸漬し、且つ陽極を浸漬して、電気分解を行うことによって実行される。
【0047】
陽極としては、特に制限されず、種々の不溶性アノード、または可溶性アノードを使用することができる。
【0048】
不溶性アノードとしては、例えば、カーボン、Ti/Pt(Tiに白金系コーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物(TiにIr酸化物コーティングを施したもの)、Ti/Ru酸化物(TiにRu酸化物コーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物-Ru酸化物(TiにIr酸化物とRu酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物-Ta酸化物(TiにIr酸化物とTa酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Pt/Ir酸化物-Ru酸化物(Ti/PtにIr酸化物とRu酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Pt/Ir酸化物-Ta酸化物(Ti/PtにIr酸化物とTa酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、ステンレス、アルミニウム、鉛合金(Pb-Sn合金、Pb-Ag合金、Pb-Sb合金)、鉛酸化物(一酸化鉛、二酸化鉛、三酸化鉛、四酸化三鉛)、鉛、酸化スズ、カーボン、ダイヤモンド電極(窒素やホウ素を含んだダイヤモンドをシリコンやニオブなどの基体に被覆したもの)、ITO電極(インジウムスズ電極)等を挙げることができる。
【0049】
可溶性アノードとしては、例えばニッケル、スズ、コバルト、鉄等が挙げられる。
【0050】
陽極として、好ましくはニッケル又はステンレスが挙げられる。
【0051】
陰極電解における浴温は、特に制限されないが、過酸化水素の分解抑制等の観点から、好ましくは10~50℃、より好ましくは15~35℃である。
【0052】
陰極電流密度は、特に制限されないが、耐食性の向上、陽極溶解等の観点から、好ましくは0.01~3A/dm、より好ましくは0.1~1.5A/dmである。
【0053】
通電時間は、特に制限されないが、耐食性の向上、コスト等の観点から、好ましくは30~1000秒間、より好ましくは60~600秒間である。
【0054】
本発明の方法により、耐食性3価クロムめっき膜、耐食性3価クロムめっき膜を含む物品が得られる。
【実施例
【0055】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0056】
試験例1.3価クロムめっき膜の後処理試験
<試験例1-1.3価クロムめっき膜の形成>
5cm×10cmの樹脂プレート上に、厚み20μmの銅めっき膜、厚み8μmの半光沢Niめっき膜、厚み6μmの光沢Niめっき膜、厚み2μmのマイクロポーラスNiめっき膜の順にめっき膜を形成した。さらに、最表面のマイクロポーラスNiめっき膜上に、白色系3価クロムめっき膜、又は黒色系3価クロムめっき膜を形成した。白色系3価クロムめっき膜は、めっき液としてトップファインクロム(奥野製薬工業製)を使用して形成し、黒色系3価クロムめっき膜は、めっき液としてトップファルベBLB Plus(奥野製薬工業製)を使用して形成した。
【0057】
<試験例1-2.3価クロムめっき膜の後処理>
(比較例1)
試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜に対して後処理を行わなかった。
【0058】
(比較例2)
処理液(ECB-Y、奥野製薬工業製、pH3.5)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、6価クロム電解クロメート処理(条件:陰極電流密度0.5A/dm、通電時間1分、浴温25℃)を行った。
【0059】
(比較例3)
処理液(エレアップCCS、奥野製薬工業製、pH3.5)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、3価クロム電解クロメート処理(条件:陰極電流密度0.5A/dm、通電時間1分、浴温25℃)を行った。
【0060】
(比較例4)
処理液(過酸化水素20g/L及びリン酸水素二ナトリウム40g/Lを含有する水溶液、pH4.0)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、電解処理せずに5分間静置(浴温25℃)した。
【0061】
(比較例5)
処理液(過酸化水素を含有せず、リン酸水素二カリウム60g/Lを含有する水溶液、pH4.0)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、当該めっき膜の陰極電解処理(条件:陰極電流密度0.5A/dm、通電時間3分、浴温25℃)を行った。
【0062】
(比較例6)
処理液(過酸化水素20g/Lを含有し、リン化合物を含有しない水溶液、pH4.0)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、当該めっき膜の陰極電解処理(条件:陰極電流密度0.5A/dm、通電時間3分、浴温25℃)を行った。
【0063】
(実施例1)
処理液(過酸化水素10g/L及びピロリン酸ナトリウム30g/Lを含有する水溶液、pH4.0)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、当該めっき膜の陰極電解処理(条件:陰極電流密度0.5A/dm、通電時間3分、浴温25℃)を行った。
【0064】
(実施例2)
処理液(過酸化水素30g/L及びリン酸二水素カリウム50g/Lを含有する水溶液、pH3.5)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、当該めっき膜の陰極電解処理(条件:陰極電流密度0.2A/dm、通電時間5分、浴温30℃)を行った。
【0065】
(実施例3)
処理液(過酸化水素100g/L及びエチドロン酸10g/Lを含有する水溶液、pH4.5)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、当該めっき膜の陰極電解処理(条件:陰極電流密度1A/dm、通電時間2分、浴温20℃)を行った。
【0066】
(実施例4)
処理液(過酸化水素80g/L及びトリポリリン酸ナトリウム20g/Lを含有する水溶液、pH3.0)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、当該めっき膜の陰極電解処理(条件:陰極電流密度0.3A/dm、通電時間10分、浴温35℃)を行った。
【0067】
(実施例5)
処理液(過酸化水素50g/L及びリン酸水素二ナトリウム35g/Lを含有する水溶液、pH2.0)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、当該めっき膜の陰極電解処理(条件:陰極電流密度0.1A/dm、通電時間8分、浴温40℃)を行った。
【0068】
(実施例6)
処理液(過酸化水素150g/L及びリン酸二水素ナトリウム55g/Lを含有する水溶液、pH5.0)に試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜を浸漬し、当該めっき膜の陰極電解処理(条件:陰極電流密度1.5A/dm、通電時間4分、浴温15℃)を行った。
【0069】
<試験例1-3.耐食性評価>
試験例1-2で得られた後処理後のめっき膜(試験片)の耐食性をCASS試験により評価した。具体的には、50℃の試験槽内に試験片を置き、塩化ナトリウム50g/L及び塩化銅0.205g/Lを含有し、且つ酢酸にてpH3.0に調整された液を噴霧し、一定時間ごとに腐食の程度を確認した。以下の評価基準に従って評価した。
〇:試験開始から48時間後の試験片の腐食面積が1%未満である。
△:試験開始から48時間後の試験片の腐食面積が1%以上10%未満である。
×:試験開始から48時間後の試験片の腐食面積が10%以上である。
【0070】
<試験例1-4.色調変化の評価>
試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜の表面と、試験例1-2で得られた後処理後のめっき膜の表面の色を、色差計(製品名:CM-3700A、コニカミノルタ社製、測定条件:SCI)で測定した。L*a*b*表色系におけるb*値の後処理前後の変化値(=試験例1-2で得られた後処理後のめっき膜のb*値-試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜のb*値)を算出し、以下の評価基準に従って評価した。なお、試験例1-1で得られた3価クロムめっき膜の表面のL*値は、白色系は83.5であり、黒色系は58.4であった。
〇:b*値の後処理前後の変化値が0.1未満である。
△:b*値の後処理前後の変化値が0.1以上0.3未満である。
×:b*値の後処理前後の変化値が0.3以上である。
【0071】
<結果>
結果を表1及び表2に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
過酸化水素及びリン化合物を含有する水溶液で3価クロムめっき膜を陰極電解処理すると、色調変化をより抑えつつ、耐食性をより向上させることができることが分かった。
【要約】
【課題】3価クロムめっき膜に対して、色調変化をより抑えつつ、耐食性をより向上させる技術を提供すること。
【解決手段】過酸化水素及びリン化合物を含有する、3価クロムめっき膜の陰極電解処理に用いるための水溶液。
【選択図】なし