(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】異物混入位置の推定方法及び流量計
(51)【国際特許分類】
G01M 3/00 20060101AFI20230928BHJP
G01F 1/66 20220101ALI20230928BHJP
G01F 1/00 20220101ALI20230928BHJP
【FI】
G01M3/00 D
G01F1/66 101
G01F1/00 T
(21)【出願番号】P 2019096584
(22)【出願日】2019-05-23
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000116633
【氏名又は名称】愛知時計電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】前島 光
(72)【発明者】
【氏名】西部 佑樹
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-273427(JP,A)
【文献】特開2012-107966(JP,A)
【文献】特開2018-059822(JP,A)
【文献】特開2008-157677(JP,A)
【文献】特開2013-083578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0188210(US,A1)
【文献】特開平07-027652(JP,A)
【文献】特開2003-279435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/40
G01F 1/66
G01F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内を満状態で流れる流体に異物が混入している場合に、
前記流体の流量を計測する流量計と前記異物を検出する異物検出装置とを利用して、
前記流体が静止
し、前記異物の混入により前記配管内に前記異物の量が局所的に多い異物溜まりが生じた後に、前記流体を流して、その流れ始
めから、前記異物
溜まりが前記異物検出装置によって検出される迄の
前記流量計の計測結果から演算される前記異物
溜まりの移動距離に基づいて異物混入位置を推定する異物混入位置の推定方法。
【請求項2】
前記流体は、ガス燃料である請求項1に記載の異物混入位置の推定方法。
【請求項3】
前記異物検出装置は、前記流体中の前記異物の量を検出可能であり、
前記異物溜まりの移動距離が、前記流体の流れ始めから前記流体中の前記異物の量が経時的変化のピークに達するまでの前記計測結果から演算される請求項1又は2に記載の異物混入位置の推定方法。
【請求項4】
前記流量計は、前記異物検出装置に兼用され、流量計測のための計測結果に生じる、前記異物の混入に応じた変化に基づいて、前記異物を検出する請求項1から3の何れか1の請求項に記載の異物混入位置の推定方法。
【請求項5】
前記変化は、前記流体と前記異物との分子量の違いにより生じるものである請求項4に記載の異物混入位置の推定方法。
【請求項6】
前記流量計は、超音波流量計であり、
前記超音波流量計にて計測される超音波の伝搬速度の変化に基づいて前記異物の混入を判断する請求項4又は5に記載の異物混入位置の推定方法。
【請求項7】
配管を流れる流体の流量を計測する流量計であって、
前記流体の静止中に異物が混入することにより発生する、前記流体中の前記異物の量が局所的に多い異物溜まりを検出する異物検出手段と、
前記流体の静止後、流れ始めてから、前記異物検出手段が前記異物溜まりを検出する迄の流量に基づいて前記異物溜まりの移動距離を演算する距離演算部と、を備える流量計。
【請求項8】
前記異物検出手段は、前記流体中の前記異物の量を検出可能であり、
前記距離演算部は、前記異物溜まりの移動距離を、前記流体の流れ始めから前記流体中の前記異物の量が経時的変化のピークに達するまでの流量に基づいて演算する請求項7に記載の流量計。
【請求項9】
前記異物検出手段は、流量計測のための計測結果に基づくパラメータの変化量が、予め設定される許容変化量を超えて変化したことに基づいて、前記異物を検出する請求項7又は8に記載の流量計。
【請求項10】
前記パラメータは、前記流体と前記異物との分子量の違いに基づく物性の相違によって変化するものである請求項9に記載の流量計。
【請求項11】
1対の超音波素子間で互いに超音波を送受波して流体の流量を計測する流量計測部を備え、
前記パラメータは、計測された超音波の伝搬速度に基づくものである請求項9又は10に記載の流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、配管内を満状態で流れる流体に異物が混入している場合に異物混入位置を推定する異物混入位置の推定方法及び流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異物混入位置を調査する方法として、ガス管の検査箇所に石鹸水等の発泡液を塗布し、その発泡液のふくらみでガス漏れ箇所即ち異物混入位置を特定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、ここでいう「異物」とは、固体、液体、気体の何れであってもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の異物混入位置の調査方法においては、ガス管における異物混入の疑いのある箇所を総当たり的に調べていく必要があり、異物混入位置の調査にかかる手間を軽減させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明は、配管内を満状態で流れる流体に異物が混入している場合に、前記流体の流量を計測する流量計と前記異物を検出する異物検出装置とを利用して、前記流体が静止し、前記異物の混入により前記配管内に前記異物の量が局所的に多い異物溜まりが生じた後に、前記流体を流して、その流れ始めから、前記異物溜まりが前記異物検出装置によって検出される迄の前記流量計の計測結果から演算される前記異物溜まりの移動距離に基づいて異物混入位置を推定する異物混入位置の推定方法である。
請求項2の発明は、前記流体は、ガス燃料である請求項1に記載の異物混入位置の推定方法である。
請求項3の発明は、前記異物検出装置は、前記流体中の前記異物の量を検出可能であり、前記異物溜まりの移動距離が、前記流体の流れ始めから前記流体中の前記異物の量が経時的変化のピークに達するまでの前記計測結果から演算される請求項1又は2に記載の異物混入位置の推定方法である。
【0006】
請求項4の発明は、前記流量計は、前記異物検出装置に兼用され、流量計測のための計測結果に生じる、前記異物の混入に応じた変化に基づいて、前記異物を検出する請求項1から3の何れか1の請求項に記載の異物混入位置の推定方法である。
【0007】
請求項5の発明は、前記変化は、前記流体と前記異物との分子量の違いにより生じるものである請求項4に記載の異物混入位置の推定方法である。
【0008】
請求項6の発明は、前記流量計は、超音波流量計であり、前記超音波流量計にて計測される超音波の伝搬速度の変化に基づいて前記異物の混入を判断する請求項4又は5に記載の異物混入位置の推定方法である。
【0009】
上記目的を達成するためになされた請求項7の発明は、配管を流れる流体の流量を計測する流量計であって、前記流体の静止中に異物が混入することにより発生する、前記流体中の前記異物の量が局所的に多い異物溜まりを検出する異物検出手段と、前記流体の静止後、流れ始めてから、前記異物検出手段が前記異物溜まりを検出する迄の流量に基づいて前記異物溜まりの移動距離を演算する距離演算部と、を備える流量計である。
請求項8の発明は、前記異物検出手段は、前記流体中の前記異物の量を検出可能であり、前記距離演算部は、前記異物溜まりの移動距離を、前記流体の流れ始めから前記流体中の前記異物の量が経時的変化のピークに達するまでの流量に基づいて演算する請求項7に記載の流量計である。
【0010】
請求項9の発明は、前記異物検出手段は、流量計測のための計測結果に基づくパラメータの変化量が、予め設定される許容変化量を超えて変化したことに基づいて、前記異物を検出する請求項7又は8に記載の流量計である。
【0011】
請求項10の発明は、前記パラメータは、前記流体と前記異物との分子量の違いに基づく物性の相違によって変化するものである請求項9に記載の流量計である。
【0012】
請求項11の発明は、1対の超音波素子間で互いに超音波を送受波して流体の流量を計測する流量計測部を備え、前記パラメータは、計測された超音波の伝搬速度に基づくものである請求項9又は10に記載の流量計である。
【発明の効果】
【0013】
流体を静止して異物混入位置から異物が流体に混入した状態で流体を流し始めると、流体の流れと共に、異物が混入した部分も移動すると考えられる。そして、請求項1の発明では、流体が流れ始めてから異物溜まりが異物検出装置によって検出される迄の異物溜まりの移動距離が演算されるので、流体が流れ始める前に異物溜まりが滞留していた位置、すなわち、異物混入位置が推定できる。この方法によれば、流体を静止後に流すだけで異物混入位置が推定されるので、異物混入位置の調査にかかる手間を軽減させることができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、流量計が異物検出装置に兼用されるので、流量計と異物検出装置とを別個に設けるよりも、コストを抑えることができる。
【0015】
請求項5の発明では、流体と異物との分子量の違いによって、異物の混入が検出される。
【0016】
流量計は電磁流量計や羽根車式流量計等であってもよいし、請求項6の発明のように、超音波流量計であってもよい。請求項6の発明の場合、超音波流量計によって計測可能な超音波の伝搬速度を利用することで、異物の混入が検出できる。
【0017】
請求項7の流量計では、流体が流れ始めてから異物溜まりが異物検出手段によって検出される迄の異物溜まりの移動距離が演算されるので、流体が流れ始める前に異物溜まりが滞留していた位置、すなわち、異物混入位置が推定できる。本発明によれば、流体を静止後に流すだけで異物混入位置が推定されるので、異物混入位置の調査にかかる手間を軽減させることができる。
【0018】
請求項9の発明では、流量計測のための構成が異物検出手段に兼用されるので、それらを別個に設けるよりもコストを抑えることができる。
【0019】
請求項10の発明では、分子量に基づく物性の相異によって、異物の混入が検出される。
【0020】
流量計は電磁流量計や羽根車式流量計等であってもよいし、請求項11の発明のように、超音波を利用して流量を計測する超音波流量計であってもよい。請求項11の発明の場合、超音波流量計によって計測可能な超音波の伝搬速度を利用することで、異物の混入が検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
図1における符号90は、例えば、水素ガス(特許請求の範囲の「流体」に相当する)を供給するためのガス管(特許請求の範囲の「配管」に相当する)である。水素ガスは、所定の供給圧力で供給されており、ガス管90内は外気に対して略一定の加圧状態になっている。このガス管90の途中に、本開示の超音波流量計10の計測管11が取り付けられる。
【0023】
計測管11は、直線状に延びた筒形構造をなし、上面の両端寄り位置に、ガス管90が接続される管接続部21をそれぞれ有している。計測管11の内側には、インナー管25と、計測管11とインナー管25との間を連絡し、上流側と下流側とを隔絶する隔絶壁24と、が設けられている。ガス管90内を水素ガスが流れると、
図1の太矢印に示すように、上流側の管接続部21から計測管11内に水素ガスが流れ込み、インナー管25を通過し、下流側の管接続部21から計測管11の外部に排出される。
【0024】
また、計測管11の内側には、1対の超音波素子20が設けられている。1対の超音波素子20は、インナー管25を軸方向から挟むようにして対向配置され、超音波を相互に送受信することが可能となっている。以下、1対の超音波素子20を区別する場合は、「上流側の超音波素子20A」、「下流側の超音波素子20B」という。
【0025】
超音波流量計10は、
図2に示される回路基板30を有していて、公知な超音波流量計と同様に以下のようにして流量を計測する。即ち、まず、回路基板30の計測部31が、一方の超音波素子20から他方の超音波素子20へと超音波を送信してその伝搬時間を計測したのち、送信方向を逆向きにし、他方の超音波素子20から一方の超音波素子20へと超音波を送信してその伝搬時間を計測する。この伝搬時間の計測は、所定の周期で行われる。なお、伝播時間の計測は、クロックカウンタ(図示せず)に基づいて行われる。そして、計測部31から双方向の伝播時間を受けた流量演算部32が、下記関係式により、双方向の伝搬時間の逆数差に基づいて演算されるインナー管25を流れる水素ガスの流速と、既知であるインナー管25の管路25Aの断面積とから水素ガスの流量を演算する。なお、1対の超音波素子20と計測部31と流量演算部32とが特許請求の範囲の「流量計測部」に相当する。
【0026】
t1=L/(C+v)
t2=L/(C-v)
(1/t1)-(1/t2)=2v/L
v=((1/t1)-(1/t2))・(L/2)
C:超音波の伝搬速度
v:インナー管25内を流動するガスの流速
t1:順方向の(上流側の超音波素子20Aから下流側の超音波素子20Bへの)超音波の伝播時間
t2:逆方向の(下流側の超音波素子20Bから上流側の超音波素子20Aへの)超音波の伝播時間
L:超音波素子20間の距離
【0027】
ところで、例えば、ガス管90に亀裂が発生したり、継手間が緩むことによってガス漏れが発生し、ガス管90内の水素ガスに空気が混入することがある。本実施形態の超音波流量計10は、ガス管内の水素ガスへ空気が混入する混入位置を推定可能になっている。以下、
図2に基づいて、混入位置を推定するための回路基板30の構成について説明する。
【0028】
図2に示すように、回路基板30には、静止検出部33と、パラメータ演算部34と、比較判別部35と、距離演算部36と、が設けられている。静止検出部33は、流量演算部32から流量の計測結果を受け取り、流量が「0」であるか否か(つまり、ガス管90内のガスの流れが静止しているか否か)を検出する。そして、流量が「0」であることを検出したのち、流量が「0」より大きくなる、つまり、ガス管90内をガスが流れ始めると、流始検出信号を距離演算部36に送信する。また、流量演算部32は、下記関係式に基づいて、インナー管25を流れる水素ガスの流速からガス管90を流れる水素ガスの流速を随時演算して距離演算部36に送信する。
【0029】
v’=v×(A2/B2)
v:インナー管25内を流動するガスの流速
v’:ガス管90内を流動するガスの流速
A:インナー管25の内径
B:ガス管90の内径
【0030】
パラメータ演算部34及び比較判別部35は、計測部31の計測結果に基づいて、水素ガスへの空気の混入を検出する。詳細には、パラメータ演算部34は、計測部31から双方向の伝播時間を受け、下記関係式に基づいて、超音波の伝搬速度を演算する。
【0031】
t1=L/(C+v)
t2=L/(C-v)
(1/t1)+(1/t2)=2C/L
C=((1/t1)+(1/t2))・(L/2)
C:超音波の伝搬速度
v:インナー管25内を流動するガスの流速
t1:順方向の(上流側の超音波素子20Aから下流側の超音波素子20Bへの)超音波の伝播時間
t2:逆方向の(下流側の超音波素子20Bから上流側の超音波素子20Aへの)超音波の伝播時間
L:超音波素子20間の距離
【0032】
次いで、パラメータ演算部34は、演算した超音波の伝搬速度と下記関係式と既知の物性値と図示しない温度センサにより計測された実測温度とから、水素ガス中の水素濃度を演算し、濃度を比較判別部35に送信する。水素ガスの水素濃度は、通常は100%であり、空気が混入すると低下する。
【0033】
C[m/s]=(k・R・T/M)1/2
k:比熱比
R:気体定数
T:絶対温度
M:平均分子量
【0034】
比較判別部35は、パラメータ演算部34から受けた水素濃度が予め定められた許容値以下になると、空気が混入しているとして、その水素濃度を記憶するとともに、混入検出信号を距離演算部36に送信する。そして、比較判別部35は、次に受信した水素濃度(適宜、「後の水素濃度」という)が記憶していた水素濃度(適宜、「先の水素濃度」という)よりも低い(つまり、空気の混入量がより多い)場合は、後の水素濃度を上書きして記憶すると共に、再度、混入検出信号を距離演算部36に送信し、後の水素濃度が先の水素濃度よりも高い(つまり、空気の混入量がより少ない)場合は、後の水素濃度を記憶せず、混入検出信号も送信しない。これにより、最後に混入検出信号が送信されたタイミングが、水素濃度が最も低い(つまり、空気の混入量が最大の)タイミングとなる。なお、比較判別部35が記憶している水素濃度の情報は、パラメータ演算部34から受けた水素濃度が100%になるとリセットされる。なお、1対の超音波素子20と計測部31とパラメータ演算部34と比較判別部35とが特許請求の範囲の「異物検出装置」に相当する。
【0035】
距離演算部36は、静止検出部33から流始検出信号を受信してから比較判別部35から最後の混入検出信号を受信するまで(つまり、流れ始めのタイミングから空気の混入量が最大のタイミングまで)の水素ガスの平均流速(ガス管90内を流動するガスの平均流速)を演算し、さらに、その平均流速と、流れ始めタイミングから空気の混入量が最大のタイミングまでの時間(図示しないクロックカウンタにより計測してもよいし、流量演算部32から流速が送信された回数と計測周期とから演算してもよい)とから、空気の混入量が最大のタイミングに1対の超音波素子20間に到達したガスが流れ始めのタイミングから移動した距離を演算する。
【0036】
次に、
図2及び
図3に基づいて、超音波流量計10の構成を説明しつつ、超音波流量計10を利用した混入位置の推定方法について説明する。まず、ガス管90内に水素ガスを流し、
図3(A)に示すように、ガス管90内を水素ガスで満たした後、水素ガスの流れを停止する。水素ガスの流れを停止したまま、しばらく放置すると、例えば継手間の緩みから空気が混入し、水素ガス中に拡散する(
図3(B)~(D)参照)。このとき、混入位置に近いほど水素ガス中の空気の量が多く(つまり、水素濃度が低く)、混入位置から遠ざかるほど空気の量が少なく(つまり、水素濃度が高く)なる。なお、
図3中のハッチングでは、色が濃い程、空気の混入量が多いことを示している。
【0037】
そして、このように混入位置から空気が混入した状態で、水素ガスを流すと、空気が混入した部分(以下、「混入ガス」という)も押し流されて水素ガスの流れと共に移動する(
図3(E),(F)参照)。このとき、静止検出部33は、静止状態から水素ガスの流れ始めを検出し、流始検出信号を距離演算部36に送信する。また、距離演算部36は、流始検出信号を受信してから、流量演算部32から受信した流速に基づいて平均流速(ガス管90内を流動するガスの平均流速)を計算していく。なお、水素ガスが流れているときは、ガス管90内が加圧状態となり、空気の混入は生じにくい。
【0038】
水素ガスの流れと共に混入ガスが移動して、混入ガスが1対の超音波素子20内に到達し(
図3(G)参照)、水素濃度が許容値以下となると、比較判別部35が混入検出信号を距離演算部36に送信する。その後、混入ガスのうち水素濃度が最も低い部分(空気の混入量が最大の部分)が1対の超音波素子20内に到達するまでは、混入検出信号が送信され続け、水素濃度が最も低い部分(空気の混入量が最大の部分)が1対の超音波素子20内を通過すると(
図3(H)参照)、混入検出信号が送信されなくなる。
【0039】
距離演算部36は、最後に混入検出信号を受信したタイミング、即ち、水素濃度が最も低い部分(空気の混入量が最大の部分)が1対の超音波素子20内に到達したタイミングで平均流速の演算を終了する。これにより、水素ガスの流れ始めから水素濃度が最も低い部分(空気の混入量が最大の部分)が1対の超音波素子20内に到達するまでの平均流速が演算される。そして、距離演算部36は、この平均流速と、水素ガスの流れ始めから水素濃度が最も低い部分(空気の混入量が最大の部分)が1対の超音波素子20内に到達するまでの時間とから、水素濃度が最も低い部分(空気の混入量が最大の部分)が移動した距離を演算し、その距離を表示部40に表示させるように信号を送信する。ここで、この距離は、空気の混入量が最大の部分が1対の超音波素子20内に到達するまでに移動した距離なので、流れ始めのタイミングでは、1対の超音波素子20からその距離分上流側に離れた位置に空気の混入量が最大の部分が滞留していた、とみなされる。つまり、超音波流量計10からその距離分上流側に混入位置があると推定される。なお、継手の場所やガス管90の形状等が超音波流量計10に記憶されている場合は、その混入位置を表示部40にマップ表示する構成であってもよい。
【0040】
上述したように、本実施形態の超音波流量計10によれば、水素ガスの流れを制御するだけで、空気の混入量が最大の部分が1対の超音波素子20内に到達するまでに移動した距離が演算され、混入位置が推定できるので、従来よりも混入位置の調査にかかる手間を軽減することができる。また、たとえ、混入位置の推定後に、ガス管90に石鹸水を塗布する等して混入位置を特定する場合であっても、その検査箇所を限定できるので、総当たり的に調査する従来の方法よりも混入位置の調査にかかる手間を軽減することができる。
【0041】
しかも、異物混入の検出が、流量の計測に用いられる1対の超音波素子20等を利用して行われるので、異物混入を検出するための装置を別途備える必要がなく、コストを抑えることができる。
【0042】
また、異物混入の検出を、媒質が気体の場合は、圧力の影響を受けにくく、平均分子量の影響を受けやすい超音波の伝搬速度に基づき、かつ、温度の影響も加味して、水素濃度を演算して行っているので、異物混入検出の精度を高めることができる。
【0043】
なお、気体中に気体の異物が混入する場合、超音波の伝搬速度の変化と濃度変化とに相関がある物性値として、分子量や比熱比が挙げられる。つまり、特許請求の範囲中の「物性」として、分子量や比熱比が考えられる。但し、分子構造が同じ(比熱比が同じ)気体のみの場合は分子量のみであってもよい。
【0044】
[第2実施形態]
図4(A)に示されるように、本実施形態のガス管90には、水素ガスの供給源と使用機器100との間に供給バルブ95が備えられている。超音波流量計10は、供給バルブ95と使用機器100との間に配され、供給バルブ95と使用機器100との間のガス管90のうち超音波流量計10の上流側と下流側とには、上流側パージ弁80と下流側パージ弁81とがそれぞれ取り付けられている。なお、本実施形態の超音波流量計10は、上記第1実施形態の超音波流量計10と同じ構成である。
【0045】
使用機器100の使用時は、供給バルブ95は開弁していて、供給源から使用機器100へ水素ガスが流入する。
【0046】
ところで、例えば、ガス管90に使用機器100を取り付けたとき等には、ガス管90内のガスを入れ替えるパージ作業を行う必要がある。パージ作業では、ガス管90内の空気を窒素ガス等の不活性ガスに置き換えた後、さらに水素ガスに置き換える。詳細には、まず、
図3(B)に示すように、上流側パージ弁80を閉弁し、供給バルブ95と下流側パージ弁81とを開弁して、供給源から窒素ガスを流入する。これにより、窒素ガスにより押し出された空気が窒素ガスと共に下流側パージ弁81から排出され、上流側がパージされる。次に、上流側パージ弁80と下流側パージ弁81とを閉弁した状態で、窒素ガスを開弁した供給バルブ95から流入し、加圧状態にして供給バルブ95を閉弁する。そして、上流側パージ弁80を開弁することで、空気が混ざった窒素ガスが上流側パージ弁80から排出され、下流側がパージされる。これを繰り返すことで、ガス管90内が窒素ガスで置換される。その後、同様にして、ガス管90内を水素ガスに置換する。
【0047】
ここで、パージ作業の不具合で、例えば、パージ弁80が配された支管に空気又は窒素ガスが残留し、この空気が水素ガスに混入することが考えられる。これに対して、本開示の超音波流量計10によれば、このようなパージ作業の不具合による空気の混入位置も推定可能である。
【0048】
超音波流量計10よりも上流側を検査するときは、水素ガスを静止後、上流側のパージ時と同様に、上流側パージ弁80を閉弁状態、供給バルブ95と下流側パージ弁81とを開弁状態にして水素ガスを上流側から下流側へ流す。これにより、上記第1実施形態と同様に、空気又は窒素ガスの混入位置を調査できる。
【0049】
次に、超音波流量計10よりも上流側を検査するときは、下流側のパージ時と同様に、上流側パージ弁80と下流側パージ弁81とを閉弁した状態で、供給バルブ95と使用機器100との間を加圧状態にする。この状態で静止したのち、上流側パージ弁80を開弁すると、上流側パージ弁80から水素ガスが排出され、下流側から上流側に水素ガスが流れる。このとき、超音波流量計10よりも下流側に残留空気又は窒素ガスがあると、水素ガス中に拡散した残留空気又は窒素ガスが超音波流量計10を通過して、空気又は窒素ガスの混入が検出される。これにより、上記第1実施形態と同様に、混入位置から超音波流量計10までの距離が演算され、混入位置が推定される。
【0050】
このように、本開示の超音波流量計10によれば、上記第1実施形態のようなガス漏れによる空気混入だけでなく、本実施形態のようなパージ不良による空気又は窒素ガス混入においても混入位置を推定できる。なお、ガス管90内を窒素ガスに置き換えた時点で、混入位置を推定してもよい。
【0051】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態では、ガス管90に流されるガスが水素ガスであったが、都市ガスやLPガス等であってもよいし、それ以外であってもよい。また、混入する異物も空気でなくてもよい。
【0052】
(2)上記実施形態では、超音波流量計10が、気体の流量を計測するものであったが、液体の流量を計測するものであってもよい。つまり、特許請求の範囲の「流体」が液体であってもよい。液体の場合、超音波の伝搬速度から演算される粘度から液体の濃度を演算する構成であってもよい。なお、液体中に液体の異物が混入する場合、超音波の伝搬速度の変化と濃度変化とに相関がある物性値として、体積弾性率や密度が挙げられる。つまり、特許請求の範囲中の「物性」として、体積弾性率や密度が考えられる。
【0053】
(3)上記実施形態では、異物の検出を1対の超音波素子20を用いて行っていたが、これに限られるものではない。例えば、透過率測定器を用いて、光の透過率の違いによって異物を検出する構成であってもよい。例えば、水道水への錆の混入を透過率又は透明度によって検出し、混入位置を推定する構成であってもよい。また、水道水への錆の混入をインピーダンスによって検出する構成であってもよい。これらの場合、特許請求の範囲中の「物性」として、光の透過率、透明度やインピーダンスが考えられる。
【0054】
(4)超音波流量計ではなく、電磁流量計や羽根車式流量計等、他の構成の流量計に、上記実施形態の構成を適用してもよい。電磁流量計の場合、電気抵抗の違いから異物を検出してもよい。
【0055】
(5)上記実施形態では、異物の検出を、超音波の伝搬速度の変化に基づいて行っていたが、超音波の伝搬時間や流速の変化に基づいて行ってもよい。
【0056】
(6)上記実施形態では、特許請求の範囲中の「パラメータ」が濃度であったが、濃度そのものではなく、濃度に基づく別のパラメータであってもよい。例えば、温度変化が無視できる程度であれば、超音波の伝播速度の変化そのものから異物を検出する構成であってもよい。また、実測流量又は実測流速が許容変化量を超えて変化した場合に異常とする構成であってもよい。
【0057】
(7)上記実施形態では、1対の超音波素子20を計測管11の軸方向で対向配置していたが、ガスの流れ方向(計測管11の軸方向)に対して斜めに交差する方向で対向配置してもよい。また、超音波が流路管や容器の内面で1回又は複数回反射して送受信されるように1対の超音波素子を配置してもよい。また、超音波素子を1対ではなく、複数対有していてもよい。
【0058】
(8)上記実施形態では、演算された距離が超音波流量計10の表示部40に表示される構成であったが、超音波流量計10からの信号を受信可能な受信機のモニターに表示される構成であってもよい。
【0059】
(9)流量が「0」となってから所定時間経過したことが表示部40に表示される構成であってもよい。
【0060】
(10)比較判別部35は、異物の混入を、「パラメータ」が許容値を超えるか否かで判断してもよいし、「パラメータ」の変化量又は「パラメータ」の単位時間当たりの変化量が許容変化量を超えるか否か、若しくは、「パラメータ」の変動パターンが規定の変動パターンと一致するか否かで判断してもよい。
【0061】
(11)上記実施形態では、距離演算部36は、平均流速を演算し、その平均流速に基づいて移動距離を演算していたが、流量演算部32から流速を受信するたびに、その流速と計測周期とから瞬間的な移動距離を計算し、その移動距離を累積加算していく構成であってもよいし、流速を積分して移動距離を求める構成であってもよい。なお、流量演算部32から送信される流速は、インナー管25内を流動するガスの流速であり、距離演算部36が、ガス管90内を流動するガスの流速を演算する構成であってもよい。
【0062】
(12)上記実施形態では、ガス管90の内径が一定の場合を例にしていたが、ガス管90の内径が途中で変わる構成であってもよい。
図5に示されるように、ガス管90のうち、超音波流量計10の前後部分が、その上流側よりも小径になっている場合、小径部分の断面積をS1、大径部分の断面積をS2とすると共に、小径部分を流れる流体の流速(流量演算部32が演算する流速に相当する)をV1、大径部分を流れる流体の流速をV2とすると、下記の関係式が成立する。
【0063】
S1・V1=S2・V2
【0064】
超音波流量計10から小径部分と大径部分との境界部までの距離をL1とすると、本変形例の距離演算部36は、流量演算部32から流量も受信し、その流量の総量がL1・S1になるまでは、流体の流速をV1(すなわち、流量演算部32が演算する流速)として、移動距離を演算し、流量の総量がL1・S1を超えると、V1からV2を演算し、そのV2に基いて移動距離を演算する。これにより、ガス管90の内径が途中で変わる構成であっても、異物の混入位置を推定することができる。なお、距離演算部36が、V1とV2とを共に、インナー管25内を流動するガスの流速から演算する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 超音波流量計(流量計)
20 超音波素子
30 回路基板
31 計測部
32 流量演算部
33 静止検出部
34 パラメータ演算部
35 比較判別部
36 距離演算部
90 ガス管