IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本板硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-自動車用窓ガラス 図1
  • 特許-自動車用窓ガラス 図2
  • 特許-自動車用窓ガラス 図3
  • 特許-自動車用窓ガラス 図4
  • 特許-自動車用窓ガラス 図5
  • 特許-自動車用窓ガラス 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】自動車用窓ガラス
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/00 20060101AFI20230928BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20230928BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B60J1/00 H
C03C17/30 B
C09K3/18 104
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019139270
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021020600
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和孝
(72)【発明者】
【氏名】宮本 瑶子
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-137858(JP,A)
【文献】特開2016-020204(JP,A)
【文献】特開2009-051174(JP,A)
【文献】特開2001-328845(JP,A)
【文献】特開2007-044691(JP,A)
【文献】特開平08-048542(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0127343(US,A1)
【文献】特開2001-261373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
C03C 15/00-23/00
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用窓ガラスであって、
湾曲したガラス板と、
前記ガラス板の凹面に積層された第1機能膜と、
を備え、
前記第1機能膜は、実質的にフッ素系溶媒に可溶な組成物のみを含有しており、
前記第1機能膜は、前記ガラス板の凹面の中央付近において最も膜厚が大きく、
前記第1機能膜の最小膜厚に対する最大膜厚の比が、1.5以下である、自動車用窓ガラス。
【請求項2】
前記第1機能膜は、撥水機能を有する膜であり、
前記第1機能膜の膜厚が、5~50nmである、請求項1に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項3】
前記第1機能膜における水の接触角が60°以上であり、
前記第1機能膜における水の転落角が20°以下である、請求項2に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項4】
前記第1機能膜は、アルコキシシリル基を有するカップリング剤を含有する、請求項2または3に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項5】
前記第1機能膜に対し、乾布を1200g/4cm2の荷重で1500回往復させた後の、当該第1機能膜における水の接触角が60°以上である、請求項4に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項6】
前記第1機能膜は、前記凹面に直接積層されており、当該第1機能膜の表面粗さRaが0.5~3.0nmである、請求項2から5のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項7】
前記第1機能膜は、平均分子量が1,000以上30,000以下の前記撥水機能を有する組成物を含有している、請求項2から6のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項8】
昇降可能なサイドガラスである、請求項2から7のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項9】
前記第1機能膜は、面方向において厚みが変化するように形成されている、請求項2から8のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項10】
前記第1機能膜は、一の面方向において凹凸が並ぶように形成され、隣接する凸部のピッチが20~150mmである、請求項9に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項11】
前記ガラス板の凸面に積層され、前記第1機能膜の前記撥水機能を奏する組成物と、同一の組成物を含有する第2機能膜をさらに備えている、請求項2から10のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【請求項12】
前記第1機能膜及び前記第2機能膜は、前記撥水機能を奏する組成物の含有率が同じである、請求項11に記載の自動車用窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用窓ガラスには、撥水性能、遮光性能等を示す種々の機能膜が積層されている。このような機能膜は、種々の方法で積層されるが、例えば、特許文献1には、フローコート法により機能膜を積層することが開示されている。フローロート法は、ガラス板を立てた状態で、ノズルから噴射される機能膜用の塗布液を、ガラス板の一方の側縁に沿って下から上へ塗布した後、上縁に沿って平行に塗布し、最後に他方の側縁に沿って上から下へ塗布する。そして、上縁に塗布した塗布液は、ガラス板に沿って下方に流れるため、これによって、ガラス板の一方の面の全体に塗布液を塗布することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-20204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フローコート法では、使用する塗布液の量が多いという問題がある。すなわち、実際にガラス板上に積層される機能液よりも多い量の機能液をガラス板に吹き付ける必要があり、製造コストが高いという問題があった。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、機能液用の塗布液の塗布量を少なくすることができる、自動車用窓ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.自動車用窓ガラスであって、
湾曲したガラス板と、
前記ガラス板の凹面に積層された第1機能膜と、
を備え、
前記第1機能膜は、実質的にフッ素系溶媒に可溶な組成物のみを含有しており、
前記第1機能膜の最小膜厚に対する最大膜厚の比が、1.5以下である、自動車用窓ガラス。
【0006】
項2.前記第1機能膜は、撥水機能を有する膜であり、
前記第1機能膜の膜厚が、5~50nmである、項1に記載の自動車用窓ガラス。
【0007】
項3.前記第1機能膜における水の接触角が60°以上であり、
前記第1機能膜における水の転落角が20°以下である、項2に記載の自動車用窓ガラス。
【0008】
項4.前記第1機能膜は、アルコキシシリル基を有するカップリング剤を含有する、項2または3に記載の自動車用窓ガラス。
【0009】
項5.前記第1機能膜に対し、乾布を1200g/4cm2の荷重で1500回往復させた後の、当該第1機能膜における水の接触角が60°以上である、項4に記載の自動車用窓ガラス。
【0010】
項6.前記第1機能膜は、前記凹面に直接積層されており、当該第1機能膜の表面粗さRaが0.5~3.0nmである、項2から5のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0011】
項7.前記第1機能膜は、平均分子量が1,000以上30,000以下の前記撥水機能を有する組成物を含有している、項2から6のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0012】
項8.昇降可能なサイドガラスである、項2から7のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0013】
項9.前記第1機能膜は、面方向において厚みが変化するように形成されている、項2から8のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0014】
項10.前記第1機能膜は、一の面方向において凹凸が並ぶように形成され、隣接する凸部のピッチが20~150mmである、項9に記載の自動車用窓ガラス。
【0015】
項11.前記ガラス板の凸面に積層され、前記第1機能膜の前記撥水機能を奏する組成物と、同一の組成物を含有する第2機能膜をさらに備えている、項2から10のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【0016】
項12.前記第1機能膜及び前記第2機能膜は、前記撥水機能を奏する組成物の含有率が同じである、項11に記載の自動車用窓ガラス。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る自動車用窓ガラスによれば、機能液用の塗布液の塗布量を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る自動車用窓ガラスをサイドガラスに適用した一実施形態を示す平面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】第1機能膜とガラス板との結合を説明する模式図である。
図4】第1機能膜の膜厚の測定を説明する断面図である。
図5】スプレーによる第1機能膜用の塗布液の塗布を説明する図である。
図6】第1機能膜に生じる凹凸を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、図1及び図2を用いて、本実施形態に係る自動車用窓ガラスをサイドガラスに適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係るサイドガラスの平面図、図2図1のA-A線断面図である。
【0020】
<1.サイドガラスの概要>
図1及び図2に示すように、このサイドガラスは、台形状のガラス板1と、このガラス板1の車内側の面101に積層された第1機能膜2と、を備えている。以下、詳細に説明する。
【0021】
<1-1.ガラス板>
各ガラス板1は、上辺11、下辺12、前側辺13、後側辺14を備える矩形状に形成されている。上辺11と下辺12とは平行に形成されており、上辺11が下辺12よりも短くなっている。前側辺13は、下辺12の前端から後方に向かって傾斜するように上方へ延びる第1部位131と、第1部位131の上端からさらに後方に向かって傾斜するように延びる第2部位132とを備えている。また、後側辺14は、前側辺13の第1部位131とほぼ平行に、下辺12の後端から後方に向かってやや湾曲しながら傾斜するように上方へ延びている。したがって、上辺11の後端は、下辺12の後端よりもやや後方に位置している。
【0022】
上記外側ガラス板1及び内側ガラス板2により構成されるサイドガラスは、車両のドアに取り付けられるものであるが、ドアの内部に設けられた図示を省略する昇降モジュール(レギュレータ)によって支持され、昇降するようになっている。そして、サイドガラスが上昇し、窓が閉じた状態となっているときには、サイドガラスの下辺12は、ドアのベルトモールよりも下方に位置するようになっている。したがって、サイドガラスの下辺12は、窓の開閉にかかわらず、車外及び車内から見えないようになっている。また、サイドガラスが上昇する過程では、前側辺13の第1部位131及び後側辺14は、ドアフレームのガイド(例えば、ガラスラン)に支持され、このガイドに沿って上下動する。したがって、前側辺13の第1部位131及び後側辺14は、ガイドに収容されているため、車外及び車内からは見えないようになっている。そして、窓が閉じた状態となったときには、前側辺13の第2部位132及び上辺11も、ドアフレーム内に収容され、車外及び車内からは見えないようになっている。
【0023】
また、ガラス板1としては、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。以下に、クリアガラス、熱線吸収ガラス、及びソーダ石灰系ガラスの組成の一例を示す。
【0024】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al23:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe23に換算した全酸化鉄(T-Fe23):0.08~0.14質量%
【0025】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe23に換算した全酸化鉄(T-Fe23)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl23)をT-Fe23、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0026】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO2:65~80質量%
Al23:0~5質量%
CaO:5~15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10~18質量%
2O:0~5質量%
MgO+CaO:5~15質量%
Na2O+K2O:10~20質量%
SO3:0.05~0.3質量%
23:0~5質量%
Fe23に換算した全酸化鉄(T-Fe23):0.02~0.03質量%
【0027】
このガラス板1の厚みは特には限定されないが、例えば、2.4~4.6mmとすることが好ましく、2.6~3.4mmとすることがさらに好ましく、2.7~3.2mmとすることが特に好ましい。
【0028】
また、このガラス板1は、図2に示すように、車外側に凸となるように湾曲しており、凹面である車内側の面101に、第1機能膜2が積層されている。凹面101の曲率半径は、例えば、15,000~50,000mmとすることができ、30,000~50,000mmとすることが好ましい。
【0029】
<1-2.第1機能膜>
次に、第1機能膜2について説明する。本実施形態に係る第1機能膜2は、撥水機能を有する撥水膜によって形成されている。
【0030】
この撥水膜は、実質的にフッ素系溶媒で可溶な組成物のみを含有することを特徴としている。そのような組成物は、特には限定されないが、例えば、以下の式(X)で表される化合物を含むことができる。なお、「実質的にフッ素系溶媒で可溶な組成物のみ」とは、例えば、製造過程で混入した他の組成物を排除することを意味せず、1%重量以下の他の組成物の混入を許容する意味である。
【0031】
[Rf1―1a 1―[Z2―SiRc3-cb (X)
(式中、Rf1は独立に炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量400~20,000の1価のパーフルオロポリエーテル基であり、Z1は独立に炭素数1~20の酸素原子、窒素原子及びケイ素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。Z2は独立に炭素数2~8の2価の炭化水素基である。Q1は少なくとも(a+b)個のケイ素原子を含む(a+b)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよい。aは1~10の整数であり、bは独立に1~10の整数であり、cはそれぞれ独立に0、1又は2である。式(X)における[ ]で括られたa個のZ1及びb個のZ2はすべてそれぞれQ1又はQ2構造中のケイ素原子と結合している。Rは独立に1~6の1価の炭化水素基である。Mはアルコキシ基又はアルコキシアルキル基であり、SiRc3-cがアルコキシシリル基である。)
で表される含フッ素反応性シラン化合物を、実質的にフッ素系溶媒で可溶な組成物として例示することができる。
【0032】
ここで、上記式(X)で表される含フッ素反応性シラン化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、r1、Rf'は上記と同じである。)
【0033】
パーフルオロアルキレン基にあるフルオロポリエーテル鎖部分の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば1,000~30,000、好ましくは1,500~30,000、より好ましくは2,000~10,000である。上記数平均分子量は、19NMRにより測定される値とする。これは、上記数平均分子量が、1000以上であると、分子の結合が長くなり、例えば、図3に示すように,第1機能膜2上に油が付着しても、分子が倒れるのが抑制され、撥水性能の低下を防止することができる。一方、数平均分子量が大きすぎると、ガラス板1と結合するアルコキシシリル基の数が減るおそれがある。したがって、数平均分子量を30,000以下とすると、ガラス板1のOH基との結合数が減少し、結合強度が低下を防止できる。
【0034】
一方、フルオロポリエーテル鎖の数平均分子量が、1,000未満となると、アルコキシシリル基が含有されていたとしても、ガラス板の表面での反応確率が低下する。その結果、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0035】
第1機能膜2の撥水機能とは、例えば、第1機能膜の表面での接触角が60°以上、好ましくは80°以上、さらに好ましくは100°以上であることを意味する。
【0036】
第1機能膜2を構成する組成物は、フッ素系溶媒に溶解された後、後述する方法でガラス板1に積層される。フッ素系溶媒としては、例えば、例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロジメチルシクロヘキサン、パーフルオロデカリン、パーフルオロアルキルエタノール、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエン、パーフルオロアルキルアミン(フロリナート(商品名)等)、パーフルオロアルキルエーテル、パーフルオロブチルテトラヒドロフラン、ポリフルオロ脂肪族炭化水素(アサヒクリンAC6000(商品名))、ハイドロクロロフルオロカーボン(アサヒクリンAK225(商品名)等)、ハイドロフルオロエーテル(ノベック(商品名)、HFE7100(商品名)、HFE7200(商品名)、HFE7300(商品名)、HFE7000(商品名)、アサヒクリンAE3000(商品名)等)、1,1,2,2,3,3,4ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,3,3ペンタフルオロブタン、含フッ素アルコール、パーフルオロアルキルブロミド、パーフルオロアルキルヨージド、パーフルオロポリエーテル(クライトックス(商品名)、デムナム(商品名)、フォンブリン(商品名)等)、1,3ビストリフルオロメチルベンゼン、メタクリル酸2(パーフルオロアルキル)エチル、アクリル酸2(パーフルオロアルキル)エチル、パーフルオロアルキルエチレン、フロン134a、およびヘキサフルオロプロペンオリゴマー、1,2ジクロロ1,3,3,3テトラフルオロプロペンなどを挙げることができる。
【0037】
<2.第1機能の物性及び性能>
<2-1.膜厚>
第1機能膜2の厚みは、特には限定されないが、例えば、5~50nmであることが好ましく、10~30nmであることがさらに好ましい。第1機能膜2の膜厚が50nmを超えるとコストが高くなるおそれがある。一方、第1機能膜2は、単分子膜のような薄い膜厚でも撥水機能を奏するが、例えば、5nmより小さくなると、乾燥前に外力が加わったときに、ガラス板1から剥がれるおそれがある。したがって、第1機能膜2の膜厚は5nm以上であることが好ましい。膜厚は、種々の方法で算出することができるが、例えば、膜厚を測定したい箇所でサイドガラスを切断し、断面をSEM等で観察することで測定することができる。
【0038】
SEMでの観察は、例えば、次のように行うことができる。電界放射型走査型電子顕微鏡S-4700(日立ハイテク社製)を用い、加速電圧を5kVとする。そして、0.1%のフッ化水素にて、第1機能膜2をエッチングする。そして、導電処理のためにPt-Pdのコーティングを行った後、SEMによる観察を行う。
【0039】
また、膜厚が大きくなると、例えば、上述したアルコキシシリル基が過剰になり、ガラス板1と結合しないものが、第1機能膜2の表面に現れ、凹凸を形成する可能性がある。このような凹凸は、水滴がスムーズに流れるのを阻害する可能性があり、その結果、撥水性能が低下するおそれがある。
【0040】
また、本実施形態に係る第1機能膜2は、最小膜厚に対する最大膜厚の比(以下、膜厚比という)が、1.5以下であり、1.3以下であることが好ましく、1.1以下であることがさらに好ましい。これにより、第1機能膜2の膜厚を、凹面101の概ね全体に亘って均一にすることができる。そして、膜厚が均一であると、表面の凹凸が小さくなると考えられ、これによって、撥水性能が向上する。
【0041】
膜厚比の算出は、次のように行うことができる。この点について、図4も参照しつつ説明する。まず、最大膜厚は、後述する塗布方法を考慮すると、凹面101の最も深い部分で生じると考えられ、この部分の膜厚を最大膜厚とする。一方、最小膜厚は、第1機能膜2の縁部において生じやすい(例えば、後述するような複数のノズルからの塗布液が重複していない箇所で生じやすい)。したがって、最小膜厚は、第1機能膜2の縁部(1のノズルによって塗布液が塗布された領域)から10cm以上離れた5点を選択し、各点からガラス板1の面方向の内方へ5mm入った位置の膜厚の平均とする。こうして測定された最大膜厚と最小膜厚から膜厚比を算出する。
【0042】
<2-2.表面粗さRa>
第1機能膜2の表面粗さRaは、0.5~3.0nmであることかが好ましく、0.5~2nmであることがさらに好ましい。これは、表面粗さRaが0.5nm未満であると、第1機能膜2のガラス板1への接着性が低下するおそれがあることによる。一方、表面粗さRaが3.0nmを超えると、付着した水滴が引っかかりやすくなり、撥水性能が低下するおそれがある。なお、表面粗さは、次のように測定することができる。原子間力顕微鏡(「SPA400」、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、サイクリックコンタクトモードにて、表面形状を測定し、算術平均粗さRaの値として算出した。使用したカンチレバーは、シリコン製「SIDF20」であり、試料の測定面積は1μm×1μmの正方形、測定点数は512×256、スキャン速度1.02Hz、ローパスフィルターによる補正と、測定データのレベリング補正を行い、表面粗さ(Ra)を算出した。なお、測定データのレベリング補正は、最小二乗近似によって曲面を求めてフィッティングし、データの傾きを補正し、さらに高さ方向の歪みを除去した。
【0043】
<2-3.水の接触角>
第1機能膜2における水の接触角は、60°以上であることが好ましく、80°以上であることがさらに好ましく、100°以上であることが特に好ましい。この接触角が大きいほど、静的な撥水性能が優れていることを表している。また、一般的な現象として接触角は、120°以下であることが知られている。なお、接触角は、例えば、接触角測定装置(「DMs-401」、協和界面科学社製)を用いて水3μLにて測定する。
【0044】
<2-4.水の転落角>
水滴が第1機能膜2の表面を転がる性能を示す尺度として転落角を用いる。以下にその測定方法を示す。転落角の測定は、水平に配置した第1機能膜2の表面(例えば、中央付近)に直径5mmの水滴を置き、ガラス板1を徐々に傾斜させる。そして、その表面に置かれた水滴が転がり始めるときのガラス板1の傾斜角度を水滴の転落角とする。このように測定される転落角は、20°以下であることが好ましく、15°以下であることがさらに好ましく、12°以下であることが特に好ましい。転落角が小さいほど、動的な撥水性が優れており、例えば走行中に付着した雨滴が飛散しやすくなって乗員の視界が妨げられないことを表している。
【0045】
<2-5.摩耗試験>
摩耗試験は、例えば、次のように行うことができる。すなわち、往復摩耗試験機(新東科学社製「HEIDON-18」)に、乾布であるネル布(300番)を取り付け、第1機能膜2の表面上を1200g/4cm2の荷重を加えながら、1500回往復させる。そして、この試験後において、第1機能膜2における水の接触角が60°以上であることが好ましく、100°以上であることがさらに好ましい。このような摩耗試験後においても、第1機能膜2における水の接触角が、60°以上であると、例えば、第1機能膜2に他の物体が接触するなどの摩擦が生じても、撥水機能の低下を抑制することができる。
【0046】
<3.サイドガラスの製造方法>
次に、上記サイドガラスの製造方法について説明する。まず、公知のプレス成形などで、湾曲したガラス板1を成形する。そして、このガラス板1を、凹面101を上側に向けた状態で、コンベア等により搬送する。この搬送過程において、ガラス板1の凹面101に対し、第1機能膜2を塗布する前の前処理を行う。前処理は、特には限定されないが、例えば、プラズマ処理(コロナ放電等)、イオンビーム処理、アルカリ洗浄、セリコ洗浄などを挙げることができる。このような処理により、ガラス板1の凹面101の表面に水酸基を導入または増加させることができるとともに、異物除去など、凹面101を清浄化することができる。
【0047】
なお、セリコ洗浄をした後は、ガラス板1の表面が親水性になっているので、ガラス板1の表面、つまり第1機能膜2を積層する前の表面の接触角は100°以上である。また、セリコ洗浄した後はガラス板1の表面の粗さが小さくなっている。特に、第1機能膜2の膜厚は薄いので、第1機能膜の表面粗さRaは、ガラス板1の表面の表面粗さに追従する。その結果、第1機能膜の表面粗さRaは、上述した範囲、つまり3nm以下にすることができる。
【0048】
続いて、第1機能膜2用の塗布液をスプレーにより凹面101に塗布する。スプレー装置による塗布方法は、特には限定されないが、例えば、図5に示すように、ガラス板1をコンベアによって搬送する。このとき、ガラス板1は、図5の紙面に垂直な方向に搬送されるものとする。
【0049】
スプレー装置には、ガラス板1の上方に並列に配置された2個のノズル5が設けられている。各ノズルからは、100°以下の塗布角度θで、第1機能膜2用の塗布液が下方のガラス板に向けて噴射される。このとき、ノズル5は近接して配置されているため、2個のノズル5から噴射される塗布液が重複するように塗布される。上記のようにノズル5からは所定の塗布角度θで塗布液が噴射されるため、ガラス板1の凹面においては、ノズル5の直下において最も塗布量が多くなり、周縁付近は塗布量が少なくなると考えられる。また、両ノズル5から噴射される塗布液が重複する部分の塗布量も大きくなる。なお、ガラス板1が載置されるコンベアの表面からノズル5までの高さは、例えば、20~80mmとすることができる。また、各ノズル5からの塗布液の吐出量は、例えば、50~200g/分とすることができる。
【0050】
また、上記のように、塗布液は2つのノズル5から所定の塗布角度θで吐出され、且つ、2つのノズル5から吐出される塗布液が凹面101上で重複するように塗布されるため、凹面101には面方向に沿って凹凸が形成される。すなわち、上記のように、乾燥後の第1機能膜2は、凹面101の中央付近において最も膜厚が大きくなる傾向にあるが、ノズル5の直下においても膜厚が大きくなる傾向にあるため、その間においては、膜厚が小さくなる傾向にある。したがって、図6に示すように、ガラス板1の搬送方向と垂直な方向においては、少なくとも3つの膜厚が厚い凸部21と、その間の薄い凹部とが形成される。このときの凸部21間の距離L(凸部の頂部間の距離)は、例えば、20~150mmであることが好ましく、75~120mmであることが好ましい。これは、凸部21間の距離が20mm未満になると、全体的な第1機能膜2の膜厚が大きくなり、コストが高くなるおそれがあることによる。一方、凸部間の距離が150mmを超えると、第1機能膜2の膜厚のばらつきが大きくなり、膜厚が不均一になるからである。なお、図6は説明のために、膜厚の凹凸を強調して表示している。
【0051】
なお、本実施形態では、2個のノズル5から塗布液を噴射しているが、3個以上のノズルを用いてもよい。但し、ノズルの数が増えると、ノズルの並ぶ方向、つまり搬送方向と垂直な面方向に沿って、第1機能膜2に形成される凹凸が増えると考えられる。その場合でも、凸部21間の距離Lは、上記のように設定することが好ましい。
【0052】
こうして、凹面101に第1機能膜用の塗布液が塗布されると、これに続いて、塗布液の表面に水分を供給してもよい。水分を供給することにより、加水分解が期待できる場合がある。
【0053】
次に、ガラス板を、例えば、100~200℃の温度で加熱してもよい。このような雰囲気下では、第1機能膜を構成する組成物において、Siに結合した基同士が速やかに脱水縮合し、その結果、上記組成物と凹面101との間で結合の促進が期待できる場合がある。
【0054】
また、塗布液に含有されるフッ素系溶媒は速やかに蒸発するため、塗布液が凹面101に沿って中央側に流れて貯まる前に硬化し、第1機能膜2が形成される。
【0055】
<4.特徴>
以上説明したサイドガラスによれば、次のような効果を得ることができる。
(1)第1機能膜2が、フッ素系溶媒に可溶な組成物のみを含有している。すなわち、蒸発しやすいフッ素系溶媒、及びフッ素系溶媒に可溶な組成物を含有する塗布液をガラス板1に塗布することで、第1機能膜2を形成している。このような塗布液をガラス板1の凹面101に塗布した場合、塗布液が凹面の中央付近に完全に溜まる前にフッ素系溶媒が蒸発するため、フッ素系溶媒が蒸発した後に形成される第1機能膜2の厚みにばらつきが生じるのを抑制することができる。
【0056】
そして、第1機能膜2の膜厚比は、1.5以下となるため、例えば、塗布液をフローコート法ではなく、スプレーによって塗布することができる。そのため、凹面101に塗布する塗布液の量を最小限に調整することができるため、塗布液の使用量を低減することができる。その結果、製造に係るコストを低減することができる。
【0057】
(2)上記のように第1機能膜2の膜厚比が小さいと、第1機能膜2の表面に生じる凹凸が抑えられ、厚みが均一になると考えられる。したがって、第1機能膜2に付着した水滴が流れやすくなり、撥水性能が向上する。また、撥水性能の向上により、汚れの付着も抑制できるため、防汚性能も向上する。
【0058】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0059】
<5-1>
上記実施形態では、ガラス板1の凹面101にのみ第1機能膜2を積層しているが、凸面102にも機能膜を塗布することができる。ここでは、凸面102に積層する機能膜を第2機能膜と称することとする。例えば、第1機能膜1と第2機能膜は、上述した同じ撥水機能を有する組成物を含有することができる。この場合、この組成物の含有率を同じにすることができる。すなわち、第1機能膜2と第2機能膜とを同じ材料で形成してもよい。あるいは、第1機能膜2と第2機能膜とを異なる材料で形成してもよい。
【0060】
<5-2>
上記実施形態では、第1機能膜2として撥水機能を有する撥水膜を採用しているが、これに限定されるものではなく、他の機能を有する機能膜であってもよい。例えば、AR機能膜、UVカット膜等を採用することができる。このような機能を有する機能膜であっても、上記のように、フッ素系溶媒に可溶な組成物のみを含有し、膜厚比が1.5以下となるような機能膜であれば、適宜採用することができる。したがって、例えば、第1機能膜としてUVカット膜を凹面101に塗布し、第2期脳膜として撥水膜を凸面102に塗布することができる。これにより、車内に入射する紫外線を低減できるため、運転者に照射される紫外線を低減することができる。
【0061】
<5-3>
ガラス板1の形状は特には限定されず、種々の形状にすることができる。また、上記実施形態では、本発明に係る自動車用窓ガラスを昇降可能なサイドガラスに適用した例を説明したが、これに限定されるものではなく、昇降しない固定のサイドガラス、ウインドシールド、リアガラスにも適用することもできる。また、ガラス板は、単板で形成するほか、合わせガラスで形成することもできる。
【実施例
【0062】
以下、本発明に係る実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0063】
まず、実施例及び比較例に用いるガラス板及び第1機能膜を以下通り準備した。
【0064】
(1)ガラス板
大きさが1000×500mm、厚みが3mmの、矩形状のフロートガラス板を準備した。また、このガラス板は湾曲しており、凹面の曲率半径が650mmであった。
【0065】
(2)第1機能膜
ガラス板の凹面に塗布する第1機能膜として、信越化学工業株式会社製KY-1901をフッ素系溶媒に溶解した第1撥水剤と、Gelest社製SIT8175.0をアルコールに溶解した第2撥水剤とを準備し、上記ガラス板に対し、スプレーにより塗布し、その後、上記実施形態で示したのと同様に、乾燥した。第1撥水剤は、カップリング剤としてのアルコキシシリル基、を含有し、平均分子量が1,000以上である。一方、第2撥水剤は、カップリング剤としての平均分子量が1,000未満である。
【0066】
(3)実施例及び比較例
以下の通り、第1機能膜を形成した。ガラス板は実施例及び比較例において同じである。なお、実施例5は、実施例1の第1機能膜を乾布で擦り、表面粗さRaを実施例1よりも粗くしたものである。実施例6は、実施例1の第1機能膜を湿布で擦り、表面粗さRaを実施例5よりもさらに粗くしたものである。
【表1】
【0067】
(4)評価
実施例1~4,及び比較例1,2に対し、上述した摩擦試験を行った。結果は、以下の通りである。
【表2】
【0068】
(5)考察
実施例1~6は、いずれも膜厚比が1.5以下であり、これに起因して、実施例1~4の接触角は、摩擦試験後でもあまり低下していない。同様に、実施例1~4の転落角は、摩擦試験後でもあまり低下しないことが分かった。さらに、実施例5,6は第1機能膜の表面粗さが大きいが、表面粗さが大きいと、転落角が大きくなることが分かった。一方、比較例1,2は、いずれも膜厚比が1.5を超えているが、これは、アルコールを溶媒としていることに起因していると考えられる。
【符号の説明】
【0069】
1 ガラス板
101 凹面
2 第1機能膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6