(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】マスクブランクス及びフォトマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/46 20120101AFI20230928BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230928BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20230928BHJP
【FI】
G03F1/46
C23C14/06 H
C23C14/06 K
C23C14/06 P
G03F1/54
(21)【出願番号】P 2019179952
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2020-09-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】江成 雄一
(72)【発明者】
【氏名】望月 聖
(72)【発明者】
【氏名】浅見 智史
【合議体】
【審判長】波多江 進
【審判官】安藤 達哉
【審判官】吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-117376(JP,A)
【文献】特開2019-20712(JP,A)
【文献】特開2001-305713(JP,A)
【文献】特開2004-53663(JP,A)
【文献】特開2016-188997(JP,A)
【文献】特開2015-156037(JP,A)
【文献】特開2004-318087(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029693(WO,A1)
【文献】特開2003-248298(JP,A)
【文献】特開2002-287330(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-1473163(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00- 1/86
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスクとなるマスク層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された下反射防止層と、
前記下反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた遮光層と、
前記遮光層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた上反射防止層と、
を有するマスク層が積層され、
前記下反射防止層および前記遮光層および前記上反射防止層における窒素、酸素、クロム、炭素の組成比をオージェ電子分光法により求め、
前記下反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が34atm%~38atm%、酸素の含有率が38atm%~44atm%、窒素の含有率が15atm%~19atm%、炭素の含有率が4atm%~5atm%であり、
前記遮光層がクロム、窒素を含む窒化クロム膜であり、クロムの含有率が82atm%~90atm%、窒素の含有率が5atm%~8atm%であり、
前記上反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が25atm%~32atm%、酸素の含有率が56atm%~67atm%、窒素の含有率が5atm%~13atm%、炭素の含有率が2atm%~4atm%であ
り、
前記マスク層の両面において、波長365nm~436nmの露光光での反射率がいずれも10%以下であり、
前記マスク層の両面において、波長436nmの露光光での反射率がいずれも5%以下である
ことを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
フォトマスクとなるマスク層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された下反射防止層と、
前記下反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた遮光層と、
前記遮光層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた上反射防止層と、
を有するマスク層が積層され、
前記下反射防止層および前記遮光層および前記上反射防止層における窒素、酸素、クロム、炭素の組成比をオージェ電子分光法により求め、
前記下反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が32atm%~37atm%、酸素の含有率が39atm%~44atm%、窒素の含有率が15atm%~20atm%、炭素の含有率が3atm%~5atm%であり、
前記遮光層がクロム、窒素、炭素を含む窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が78atm%~85atm%、窒素の含有率が5atm%~8atm%であり、炭素の含有率が7atm%~11atm%であり、
前記上反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が25atm%~30atm%、酸素の含有率が55atm%~68atm%、窒素の含有率が5atm%~12atm%、炭素の含有率が2atm%~4atm%であ
り、
前記マスク層の両面において、波長365nm~436nmの露光光での反射率がいずれも10%以下であり、
前記マスク層の両面において、波長436nmの露光光での反射率がいずれも5%以下である
ことを特徴とするマスクブランクス。
【請求項3】
前記マスク層の両面において、波長365nm
の露光光での反射率がいずれも6.7%以下であり、波長405nmでの反射率がいずれも4.7%以下であり、波長436nmの露光光での反射率がいずれも
4.6%以下である
ことを特徴とする請求項
1記載のマスクブランクス。
【請求項4】
前記マスク層の両面において、波長365nm
の露光光での反射率がいずれも8.2%以下であり、波長405nmでの反射率がいずれも5.6%以下であり、波長436nmの露光光での反射率がいずれも
4.6%以下である
ことを特徴とする請求項
2記載のマスクブランクス。
【請求項5】
前記マスク層において、光学濃度が3.0以上となるように各膜厚が設定されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項6】
前記下反射防止層の膜厚が25.0nm~35.0nmであり、
前記遮光層の膜厚が125.0nm~135.0nmであり、
前記上反射防止層の膜厚が25.0nm~35.0nmである
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項7】
前記マスク層の膜厚が175.0nm~205.0nmである
ことを特徴とする請求項6記載のマスクブランクス。
【請求項8】
前記マスク層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられたフォトレジスト層を有する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか記載のマスクブランクスから製造される
ことを特徴とするフォトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクス及びフォトマスクに関し、特に両面が低反射なバイナリマスクブランクスや、その製造に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FPD(flat panel display, フラットパネルディスプレイ)のような大板用のフォトマスクの製造において、バイナリマスクとして遮光層を有するマスクブランクスが用いられている。また、FPDの高精細化に伴い微細パターンを形成する必要が高まっている。
このようなマスクブランクスにおいて、パターン形成される遮光層等を含むマスク層としては、クロム材料からなる膜をガラス等の透明基板に積層したものが一般的に用いられる(特許文献1)。
【0003】
微細パターンを作成するには、パターン形成の際における迷光対策として、マスクブランクスの表面および裏面での低反射率化が必要となっている(例えば、波長436nmの露光光における反射率5%以下)。
表面および裏面での低反射率化実現するマスクブランクスの膜構造としては、たとえば、ガラス基板上から反射防止層(裏面)、遮光層、反射防止層(表面)と積層された、少なくとも三層構造を有するマスク層が知られている。
このような反射防止層を設ける場合には、この反射防止層として屈折率の低い膜を得るために、酸化されたクロム酸化膜等を用いることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸素濃度の高いクロム酸化膜は、エッチングレートが低くなる。その結果、反射防止層として酸素濃度の高いクロム酸化膜を採用した場合、この反射防止層が遮光層よりもエッチングレートが低くなるため、反射防止層のエッチングが進まない場合が発生する。
【0006】
このため、マスクパターンを作製した場合に、反射防止層に比べて遮光層のエッチングが進行してしまい、マスクブランクスにおける横向きのエッチング量、つまり、サイドエッチング量が、厚さ方向に均一でなくなってしまう。具体的には、マスク層における厚さ方向の中央部分が不必要に多くエッチングされてしまい、庇および裾引きの形成された断面形状が発生する等の問題が発生してしまうという問題があることがわかった。
【0007】
パターンの断面形状をガラス基板の面に対して垂直にするには、各層のエッチングレートを合わせる必要があるが、各層の光学特性を維持するためには組成比が大きく異なるためエッチングレートの差が大きいことが避けられない。このため垂直なパターン断面形状を形成可能なマスクブランクスが実現されていない。
【0008】
さらに、マスクブランクスにおけるパターン形成では、コントラストを上げるために、従来の光学濃度(OD3)よりも、高い光学濃度(例えば、OD5)に対応したいという要求がある。
この要求に応えるためには、遮光層の酸素濃度と、反射防止層の酸素濃度との差を、より大きくすることが必要である。このため、遮光層と反射防止層とのエッチングレート差が、さらに大きくなってしまう。
【0009】
このため、従来の光学濃度(OD3)では、許容されていた断面形状の垂直からのズレが、高い光学濃度(例えば、OD5)では許容されなくなってきた。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、低反射率で所定の光学濃度を有し、遮光層と反射防止層のエッチングレートを近づけることができ、庇、裾引きが低減された適正な断面形状とすることが可能なマスクブランクスを提供するという目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のマスクブランクスは、フォトマスクとなるマスク層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された下反射防止層と、
前記下反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた遮光層と、
前記遮光層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた上反射防止層と、
を有するマスク層が積層され、
前記下反射防止層および前記遮光層および前記上反射防止層における窒素、酸素、クロム、炭素の組成比をオージェ電子分光法により求め、
前記下反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が34atm%~38atm%、酸素の含有率が38atm%~44atm%、窒素の含有率が15atm%~19atm%、炭素の含有率が4atm%~5atm%であり、
前記遮光層がクロム、窒素を含む窒化クロム膜であり、クロムの含有率が82atm%~90atm%、窒素の含有率が5atm%~8atm%であり、
前記上反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が25atm%~32atm%、酸素の含有率が56atm%~67atm%、窒素の含有率が5atm%~13atm%、炭素の含有率が2atm%~4atm%であり、
前記マスク層の両面において、波長365nm~436nmの露光光での反射率がいずれも10%以下であり、
前記マスク層の両面において、波長436nmの露光光での反射率がいずれも5%以下である
ことにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスは、フォトマスクとなるマスク層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された下反射防止層と、
前記下反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた遮光層と、
前記遮光層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた上反射防止層と、
を有するマスク層が積層され、
前記下反射防止層および前記遮光層および前記上反射防止層における窒素、酸素、クロム、炭素の組成比をオージェ電子分光法により求め、
前記下反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が32atm%~37atm%、酸素の含有率が39atm%~4450atm%、窒素の含有率が15atm%~20atm%、炭素の含有率が3atm%~5atm%であり、
前記遮光層がクロム、窒素、炭素を含む窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が78atm%~85atm%、窒素の含有率が5atm%~8atm%であり、炭素の含有率が7atm%~11atm%であり、
前記上反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化クロム膜であり、クロムの含有率が25atm%~30atm%、酸素の含有率が55atm%~68atm%、窒素の含有率が5atm%~12atm%、炭素の含有率が2atm%~4atm%であり、
前記マスク層の両面において、波長365nm~436nmの露光光での反射率がいずれも10%以下であり、
前記マスク層の両面において、波長436nmの露光光での反射率がいずれも5%以下である
ことにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスは、前記マスク層の両面において、波長365nmの露光光での反射率がいずれも6.7%以下であり、波長405nmでの反射率がいずれも4.7%以下であり、波長436nmの露光光での反射率がいずれも4.6%以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、前記マスク層の両面において、波長365nmの露光光での反射率がいずれも8.2%以下であり、波長405nmでの反射率がいずれも5.6%以下であり、波長436nmの露光光での反射率がいずれも4.6%以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、前記マスク層において、光学濃度が3.0以上となるように各膜厚が設定されている
ことが好ましい。
本発明のマスクブランクスは、前記下反射防止層の膜厚が25.0nm~35.0nmであり、
前記遮光層の膜厚が125.0nm~135.0nmであり、
前記上反射防止層の膜厚が25.0nm~35.0nmである
ことが可能である。
本発明のマスクブランクスは、前記マスク層の膜厚が175.0nm~205.0nmである
手段を採用することもできる。
本発明のマスクブランクスは、前記マスク層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられたフォトレジスト層を有する
ことができる。
本発明のフォトマスクは、上記いずれか記載のマスクブランクスから製造されることができる。
【0012】
本発明のマスクブランクスは、フォトマスクとなるマスク層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された下反射防止層と、
前記下反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた遮光層と、
前記遮光層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた上反射防止層と、
を有するマスク層が積層され、
前記下反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化膜であり、クロムの含有率が25atm%~50atm%、酸素の含有率が30atm%~50atm%、窒素の含有率が10atm%~30atm%、炭素の含有率が2atm%~5atm%であり、
前記遮光層がクロム、窒素を含む窒化膜であり、クロムの含有率が70atm%~95atm%、窒素の含有率が5atm%~20atm%であり、
前記上反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化膜であり、クロムの含有率が25atm%~50atm%、より好ましくは30atm%~50atm%、酸素の含有率が55atm%~70atm%、窒素の含有率が5atm%~20atm%、炭素の含有率が2atm%~5atm%である
ことにより上記課題を解決した。
これにより、マスク層の両面での低反射率と、必要な光学濃度とを維持した状態で、パターンニングでの断面形状を定期制な範囲に収めることができる。具体的には、上下の反射防止層に対して、遮光層のサイドエッチングが所定の範囲となり、遮光層部分が凹んでしまわないようにすることができる。
したがって、フォトマスクを製造する際に、マスクブランクスのパターニング(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)をおこなった際の断面形状をなるべく垂直とすることが可能となり、このパターンの断面形状によって影響を受けるパターンの寸法を所定の範囲になるようにして、高精細なフォトマスクを実現可能とすることができる。
【0013】
本発明のマスクブランクスは、フォトマスクとなるマスク層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された下反射防止層と、
前記下反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた遮光層と、
前記遮光層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた上反射防止層と、
を有するマスク層が積層され、
前記下反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化膜であり、クロムの含有率が25atm%~50atm%、酸素の含有率が30atm%~50atm%、窒素の含有率が10atm%~30atm%、炭素の含有率が2atm%~5atm%であり、
前記遮光層がクロム、窒素、炭素を含む窒化炭化膜であり、クロムの含有率が70atm%~95atm%、窒素の含有率が5atm%~20atm%であり、炭素の含有率が0atm%~15atm%であり、
前記上反射防止層がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化膜であり、クロムの含有率が25atm%~50atm%、より好ましくは30atm%~50atm%、酸素の含有率が55atm%~70atm%、窒素の含有率が5atm%~20atm%、炭素の含有率が2atm%~5atm%である
ことにより上記課題を解決した。
これにより、マスク層の両面での低反射率と、必要な光学濃度とを維持した状態で、パターンニングでの断面形状を定期制な範囲に収めることができる。具体的には、上下の反射防止層に対して、遮光層のサイドエッチングが所定の範囲となり、遮光層部分が凹んでしまわないようにすることができる。
したがって、フォトマスクを製造する際に、マスクブランクスのパターニング(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)をおこなった際の断面形状をなるべく垂直とすることが可能となり、このパターンの断面形状によって影響を受けるパターンの寸法を所定の範囲になるようにして、高精細なフォトマスクを実現可能とすることができる。
【0014】
本発明のマスクブランクスは、前記マスク層の両面において、波長365nm~436nmの露光光での反射率がいずれも10%以下であることができ、特に、波長436nmの露光光での反射率がいずれも5%以下である
ことができる。
これにより、各層の組成比を上述した範囲とすることで、好ましい断面形状を実現可能としつつ、パターニングに必要な低反射率の範囲を実現することができる。
なお、上記の反射率としては、透明基板側は、この透明基板を含む反射率である。
【0015】
本発明のマスクブランクスは、前記マスク層において、光学濃度が3.0以上となるように各膜厚が設定されている
ことが好ましい。
これにより、各層の組成比を上述した範囲とすることで、好ましい断面形状を実現可能としつつ、パターニングに必要な光学濃度の範囲を実現することができる。
【0016】
本発明のマスクブランクスは、前記下反射防止層の膜厚が25.0nm~35.0nmであり、
前記遮光層の膜厚が125.0nm~135.0nmであり、
前記上反射防止層の膜厚が25.0nm~35.0nmである
ことが可能である。
これにより、各層の組成比を上述した範囲とすることで、好ましい断面形状を実現可能としつつ、パターニングに必要な光学濃度の範囲を実現することができる。
【0017】
本発明のマスクブランクスは、前記マスク層の膜厚が175.0nm~205.0nmである
手段を採用することもできる。
これにより、各層の組成比を上述した範囲とすることで、好ましい断面形状を実現可能としつつ、パターニングに必要な光学濃度の範囲とパターニングに必要な低反射率の範囲とを実現することができる。
【0018】
本発明のマスクブランクスは、前記マスク層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられたフォトレジスト層を有する
ことができる。
【0019】
本発明のフォトマスクは、上記いずれか記載のマスクブランクスから製造されることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低反射率で所定の光学濃度を有し、遮光層と反射防止層のエッチングレートを近づけることができ、庇、裾引きが低減された適正な断面形状とすることが可能なマスクブランクスを提供することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明に係るフォトマスクの第1実施形態を示す断面図である。
【
図4】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
【
図5】本発明に係るマスクブランクスの実施例および比較例における表面分光反射率を示すグラフである。
【
図6】本発明に係るマスクブランクスの実施例および比較例における裏面分光反射率を示すグラフである。
【
図7】本発明に係るマスクブランクスの実施例1におけるパターニング後の断面形状を示すSEM写真である。
【
図8】本発明に係るマスクブランクスの実施例2におけるパターニング後の断面形状を示すSEM写真である。
【
図9】本発明に係るマスクブランクスの比較例1におけるパターニング後の断面形状を示すSEM写真である。
【
図10】本発明に係るマスクブランクスの比較例2におけるパターニング後の断面形状を示すSEM写真である。
【
図11】本発明に係るマスクブランクスの比較例3におけるパターニング後の断面形状を示すSEM写真である。
【
図12】本発明に係るマスクブランクスの実験例1におけるパターニング後の形状を示す鳥瞰SEM写真である。
【
図13】本発明に係るマスクブランクスの実験例2におけるパターニング後の形状を示す鳥瞰SEM写真である。
【
図14】本発明に係るマスクブランクスの比較例1におけるパターニング後の形状を示す鳥瞰SEM写真である。
【
図15】本発明に係るマスクブランクスの比較例2におけるパターニング後の形状を示す鳥瞰SEM写真である。
【
図16】本発明に係るマスクブランクスの比較例3におけるパターニング後の形状を示す鳥瞰SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクおよびその製造方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、
図2は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、図において、符号10Bは、マスクブランクスである。
【0023】
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、露光光の波長が365nm~436nm程度の範囲で使用されるバイナリマスク(フォトマスク)に供されるものとされる。
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、
図1に示すように、ガラス基板(透明基板)11と、このガラス基板11上に形成された下反射防止層12と、下反射防止層12上に形成された遮光層13と、遮光層13上に形成された上反射防止層14と、で構成される。
【0024】
つまり、遮光層13は、下反射防止層12よりもガラス基板11から離間する位置に設けられる。また、上反射防止層14は、遮光層13よりもガラス基板11から離間する位置に設けられる。
これら下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14とは、フォトマスクとして必要な光学特性を有して低反射な積層膜であるマスク層を構成している。
【0025】
さらに、本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、
図1に示すように、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14との積層されたマスク層に対して、
図2に示すように、あらかじめフォトレジスト層15が成膜された構成とすることもできる。
【0026】
なお、本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14以外に、耐薬層、保護層、密着層、エッチングストッパー層、等を積層した構成とされてもよい。さらに、これらの積層膜の上に、
図2に示すように、フォトレジスト層15が形成されていてもよい。
【0027】
ガラス基板(透明基板)11としては、透明性及び光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。ガラス基板11の大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板等)に応じて適宜選定される。
【0028】
本実施形態では、ガラス基板(透明基板)11として、一辺100mm程度から、一辺2000mm以上の矩形基板を適用可能であり、さらに、厚み1mm以下の基板、厚み数mmの基板や、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0029】
また、ガラス基板11の表面を研磨することで、ガラス基板11のフラットネスを低減するようにしてもよい。ガラス基板11のフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下と、小さい方が良好である。
【0030】
下反射防止層12としては、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含むものとされる。
さらに、下反射防止層12が厚み方向に異なる組成を有することもでき、この場合、下反射防止層12として、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。
下反射防止層12は、後述するように、所定の光学特性およびエッチングレートが得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。
【0031】
例えば、下反射防止層12がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化膜であり、下反射防止層12における組成比は、クロム含有率(クロム濃度)が25atm%~50atm%、酸素含有率(酸素濃度)が30atm%~50atm%、窒素含有率(窒素濃度)が10atm%~30atm%、炭素含有率(炭素濃度)が2atm%~5atm%であるように設定されることができる。
【0032】
下反射防止層12の膜厚は、下反射防止層12に要求される光学特性によって設定され、Cr,N,C,O等の組成比によって変化する。下反射防止層12の膜厚は、25.0nm~35.0nmとすることができる。
【0033】
これにより、下反射防止層12は、波長365nm~436nm程度の範囲、特に、波長436nmの露光光において、ガラス基板11を含む反射率が5%以下に設定されることができる。
【0034】
遮光層13としては、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、N(窒素)を含むものとされる。
さらに、遮光層13が厚み方向に異なる組成を有することもでき、この場合、遮光層13として、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。
遮光層13は、後述するように、所定の光学特性およびエッチングレートが得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。
【0035】
例えば、遮光層13がクロム、窒素を含む窒化膜であり、クロムの含有率が70atm%~95atm%、窒素の含有率が5atm%~20atm%であるように設定されることができる。
あるいは、遮光層13がクロム、窒素、炭素を含む窒化炭化膜であり、クロムの含有率が70atm%~95atm%、窒素の含有率が5atm%~20atm%、炭素の含有率が0atm%~15atm%であるように設定されることができる。
【0036】
遮光層13の膜厚は、遮光層13に要求される光学特性によって設定され、Cr,N,C,O等の組成比によって変化する。遮光層13の膜厚は、125.0nm~135.0nmとすることができる。
【0037】
上反射防止層14としては、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含むものとされる。
さらに、上反射防止層14が厚み方向に異なる組成を有することもでき、この場合、上反射防止層14として、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。
上反射防止層14は、後述するように、所定の光学特性およびエッチングレートが得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。
【0038】
例えば、上反射防止層14がクロム、酸素、窒素、炭素を含む酸化窒化炭化膜であり、上反射防止層14における組成比は、クロムの含有率が25atm%~50atm%、より好ましくは、クロムの含有率が30atm%~50atm%、酸素の含有率が55atm%~70atm%、窒素の含有率が5atm%~20atm%、炭素の含有率が2atm%~5atm%であるように設定されることができる。
【0039】
上反射防止層14の膜厚は、上反射防止層14に要求される光学特性によって設定され、Cr,N,C,O等の組成比によって変化する。上反射防止層14の膜厚は、25.0nm~35.0nmとすることができる。
【0040】
これにより、上反射防止層14は、波長365nm~436nm程度の範囲、特に、波長436nmの露光光において、上反射防止層14の反射率が5%以下に設定されることができる。
【0041】
下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14との積層されたマスク層に対して、マスク層の膜厚が175.0nm~205.0nmとすることができる。
【0042】
本実施形態におけるマスクブランクス10Bは、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14との積層されたマスク層両面において、波長436nmの露光光での反射率をいずれも5%以下であるように設定できる。また、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14との積層されたマスク層において、光学濃度が3.0以上となるように設定することができる。
【0043】
さらに、本実施形態におけるマスクブランクス10Bは、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14との組成比を上記の範囲とすることで、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14とのエッチングレートを近づけることができ、後述するように、庇や裾引きの発生が低減された断面形状とすることが可能となる。
【0044】
本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法は、ガラス基板(透明基板)11に下反射防止層12を成膜した後に、遮光層13を成膜し、その後、上反射防止層14を成膜するものとされる。
【0045】
マスクブランクスの製造方法は、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14以外に、保護層、密着層、耐薬層、エッチングストッパー層、等を積層する場合には、これらの積層工程を有することができる。
一例として、例えば、金属シリサイドを含むエッチングストッパー層を挙げることができる。
【0046】
図3は、本実施形態におけるフォトマスクを示す断面図である。
本実施形態におけるバイナリマスク(フォトマスク)10は、
図3に示すように、マスクブランクス10Bとして積層された下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14とに、パターンを形成したものとされる。
【0047】
以下、本実施形態のマスクブランクス10Bからフォトマスク10を製造する製造方法について説明する。
【0048】
レジストパターン形成工程として、
図2に示すように、マスクブランクス10Bの最外面上にフォトレジスト層15を形成する。または、あらかじめフォトレジスト層15が最外面上に形成されたマスクブランクス10Bを準備してもよい。フォトレジスト層15は、ポジ型でもよいしネガ型でもよい。フォトレジスト層15としては、いわゆるクロム系材料へのエッチングに対応可能なものとされる。フォトレジスト層15としては、液状レジストが用いられる。
【0049】
続いて、フォトレジスト層15を露光及び現像することで、上反射防止層14よりも外側にレジストパターンが形成される。レジストパターンは、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14とのエッチングマスクとして機能する。
【0050】
レジストパターンは、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14とのエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。一例として、透光領域においては、形成する遮光パターンの開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0051】
次いで、上反射防止パターン形成工程として、このレジストパターン越しにエッチング液を用いて上反射防止層14をウエットエッチングして上反射防止パターン14pを形成する。
【0052】
上反射防止パターン形成工程におけるエッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0053】
次いで、遮光パターン形成工程として、この上反射防止パターン14p越しにエッチング液を用いて遮光層13をウエットエッチングして遮光パターン13pを形成する。
【0054】
遮光パターン形成工程におけるエッチング液としては、上反射防止パターン形成工程と同様に、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0055】
次いで、下反射防止パターン形成工程として、パターン形成された遮光パターン13pと上反射防止パターン14pとレジストパターン越しに、下反射防止層12をウエットエッチングして下反射防止パターン12pを形成する。
【0056】
下反射防止パターン形成工程におけるエッチング液としては、上反射防止パターン形成工程および遮光パターン形成工程と同様に、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0057】
さらに、本実施形態におけるマスクブランクス10Bは、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14との組成比を上記の範囲とすることで、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14とのエッチングレートを近づけることができる。このため、エッチングによる上反射防止パターン14pと、遮光パターン13pと、下反射防止パターン12pとの形成後においては、フォトマスク10の断面形状として、垂直に近い良好な断面形状を得ることが可能である。
【0058】
また、遮光パターン形成工程においては、遮光層13の組成比が上下の反射防止層12,14に比べて上述した範囲として異なるように設定されているので、特段の設定をおこなわなかった場合に比べて、エッチングレートが低くなる。したがって、そのような場合のエッチングに比べて、遮光パターン13pのエッチングの進行は遅くなる。これにより、遮光層13と、下反射防止層12および上反射防止層14とのエッチングレートを近づけることができる。
【0059】
つまり、上反射防止パターン14pと遮光パターン13pと下反射防止パターン12pとがガラス基板11表面と為す角(テーパ角)θは直角に近くなり、例えば、90°程度にすることができる。また、ガラス基板11を法線方向から見て、上反射防止パターン14pと遮光パターン13pと下反射防止パターン12pとがいずれも同じパターン形状となるようにエッチングすることができる。
【0060】
さらに、密着層等他の膜を成膜してあるマスクブランクス10Bの場合には、この膜を対応するエッチング液を用いたウエットエッチング等により、上反射防止パターン14pと遮光パターン13pと下反射防止パターン12pとに対応した所定の形状にパターンニングする。密着層等他の膜のパターンニングは、その積層順に対応して下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14とのパターンニングの前後で所定の工程としておこなわれることができる。
【0061】
さらに、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14とについては、それぞれ膜厚方向に酸素濃度を変化させることで、パターニング後の断面形状を改善することが可能となる。
具体的には、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14、つまり、Cr膜においては、膜中の酸素濃度が高くなるほど、エッチングレートが低くなる。そのため、下反射防止層12と遮光層13と上反射防止層14とについては上層側の酸素濃度を下層側の酸素濃度よりも高くすることで、上層側のエッチングレートを下層側のエッチングレートよりも低くすることが可能である。
同時に、膜厚方向に酸素以外にも炭素、窒素や、それ以外の組成比を変化させることにより、エッチングレート及び光学特性を所定の状態に設定することが可能となる。
【0062】
以上により、上反射防止パターン14pと遮光パターン13pと下反射防止パターン12pとを有するフォトマスク10が、
図3に示すように得られる。
【0063】
以下、本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法について、図面に基づいて説明する。
【0064】
図4は、本実施形態におけるマスクブランクスの製造装置を示す模式図である。
本実施形態におけるマスクブランクス10Bは、
図4に示す製造装置により製造される。
【0065】
図4に示す製造装置S10は、インターバック式のスパッタリング装置とされ、ロード室S11と、アンロード室S16と、ロード室S11に密閉機構S17を介して接続されるとともにアンロード室S16に密閉機構S18を介して接続された成膜室(真空処理室)S12と、を有するものとされる。
【0066】
ロード室S11には、外部から搬入されたガラス基板11を成膜室S12へと搬送する搬送機構S11aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構S11fが設けられる。
【0067】
アンロード室S16には、成膜室S12から成膜の完了したガラス基板11を外部へと搬送する搬送機構S16aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構S16fが設けられる。
【0068】
成膜室S12には、基板保持機構S12aと、3つの成膜処理に対応した機構として二段の成膜機構S13,S14,S15が設けられている。
【0069】
基板保持機構S12aは、搬送機構S11aによって搬送されてきたガラス基板11を、成膜中にターゲットS13b,S14b,S15bと対向するようにガラス基板11を保持するとともに、ガラス基板11をロード室S11からの搬入およびアンロード室S16へ搬出可能とされている。
【0070】
成膜室S12のロード室S11側位置には、三段の成膜機構S13,S14,S15のうち一段目の成膜材料を供給する成膜機構S13が設けられている。
成膜機構S13は、ターゲットS13bを有するカソード電極(バッキングプレート)S13cと、バッキングプレートS13cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S13dと、を有する。
【0071】
成膜機構S13は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S13eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S13fと、を有する。
【0072】
さらに、成膜室S12におけるロード室S11とアンロード室S16との中間位置には、二段の成膜機構S13,S14,S15のうち二段目の成膜材料を供給する成膜機構S14が設けられている。
成膜機構S14は、ターゲットS14bを有するカソード電極(バッキングプレート)S14cと、バッキングプレートS14cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S14dと、を有する。
【0073】
成膜機構S14は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S14eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S14fと、を有する。
【0074】
さらに、成膜室S12のアンロード室S16側位置には、三段の成膜機構S13,S14,S15のうち三段目の成膜材料を供給する成膜機構S15が設けられている。
成膜機構S15は、ターゲットS15bを有するカソード電極(バッキングプレート)S15cと、バッキングプレートS15cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S15dと、を有する。
【0075】
成膜機構S15は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S15c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S15eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S15c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S15fと、を有する。
【0076】
成膜室S12には、カソード電極(バッキングプレート)S13c,S14c,S15cの付近において、それぞれガス導入機構S13e,S14e,S15eから供給されたガスが、隣接する成膜機構S13,S14,S15に混入しないように、ガス流れを抑制するガス防壁S12gが設けられる。これらガス防壁S12gは、基板保持機構S12aがそれぞれ隣接する成膜機構S13,S14,S15間を移動可能なように構成されている。
【0077】
成膜室S12において、それぞれの三段の成膜機構S13,S14,S15は、ガラス基板11に順に成膜するために必要な組成・条件を有するものとされる。
本実施形態において、成膜機構S13は下反射防止層12の成膜に対応しており、成膜機構S14は遮光層13の成膜に対応しており、成膜機構S15は上反射防止層14の成膜に対応している。
【0078】
具体的には、成膜機構S13においては、ターゲットS13bが、ガラス基板11に下反射防止層12を成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
【0079】
同時に、成膜機構S13においては、ガス導入機構S13eから供給されるガスとして、下反射防止層12の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、窒素ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として条件設定される。
【0080】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S13fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S13においては、電源S13dからバッキングプレートS13cに印加されるスパッタ電圧が、下反射防止層12の成膜に対応して設定される。
【0081】
また、成膜機構S14においては、ターゲットS14bが、下反射防止層12上に遮光層13を成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
【0082】
同時に、成膜機構S14においては、ガス導入機構S14eから供給されるガスとして、遮光層13の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、窒素ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として設定される。
【0083】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S14fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S14においては、電源S14dからバッキングプレートS14cに印加されるスパッタ電圧が、遮光層13の成膜に対応して設定される。
【0084】
また、成膜機構S15においては、ターゲットS15bが、遮光層13上に上反射防止層14を成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
【0085】
同時に、成膜機構S15においては、ガス導入機構S15eから供給されるガスとして、上反射防止層14の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、窒素ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として条件設定される。
【0086】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S15fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S15においては、電源S15dからバッキングプレートS15cに印加されるスパッタ電圧が、上反射防止層14の成膜に対応して設定される。
【0087】
図4に示す製造装置S10においては、ロード室S11から搬送機構S11aによって搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)S12において基板保持機構S12aによって搬送しながら三段のスパッタリング成膜をおこなった後、アンロード室S16から成膜の終了したガラス基板11を搬送機構S16aによって外部に搬出する。
【0088】
下反射防止層形成工程においては、成膜機構S13において、ガス導入機構S13eから成膜室S12のバッキングプレートS13c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S13cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS13b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0089】
成膜室S12内のバッキングプレートS13c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S13cのターゲットS13bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で下反射防止層12が形成される。
【0090】
同様に、遮光層形成工程においては、成膜機構S14において、ガス導入機構S14eから成膜室S12のバッキングプレートS14c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S14cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS14b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0091】
成膜室S12内のバッキングプレートS14c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S14cのターゲットS14bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で遮光層13が形成される。
【0092】
同様に、上反射防止層形成工程においては、成膜機構S15において、ガス導入機構S15eから成膜室S12のバッキングプレートS15c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S15cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS15b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0093】
成膜室S12内のバッキングプレートS15c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S15cのターゲットS14bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で上反射防止層14が形成される。
【0094】
この際、下反射防止層12の成膜では、ガス導入機構S13eから所定の分圧となる窒素含有ガス、酸素含有ガス、炭素含有ガス、スパッタガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0095】
また、遮光層13の成膜では、ガス導入機構S14eから所定の分圧となる窒素含有ガス、酸素含有ガス、炭素含有ガス、スパッタガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0096】
この際、上反射防止層14の成膜では、ガス導入機構S15eから所定の分圧となる窒素含有ガス、酸素含有ガス、炭素含有ガス、スパッタガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0097】
ここで、酸素含有ガスとしては、CO2(二酸化炭素)、O2(酸素)、N2O(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
また、炭素含有ガスとしては、CO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、C2H6(エタン)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
なお、下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14の成膜で、必要であればターゲットS13b,S14b,S15bを交換することもできる。
【0098】
さらに、これら下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14の成膜に加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランクス10Bとする。
【0099】
以下、本実施形態における下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14の膜特性について説明する。
【0100】
まず、マスクを形成するためのガラス基板11上に、下反射防止層12の主成分膜となるクロム化合物膜を、スパッタリング法等を用いて形成する。この際に形成するクロム化合物はクロムニウム、酸素、窒素、炭素等を含有する膜であることが望ましい。下反射防止層12の膜中に含有するクロムニウム、酸素、窒素、炭素の組成と膜厚を制御することで、所望の光学特性とエッチングレートとを有する下反射防止層12を形成することが可能である。クロム化合物は酸やアルカリ溶液に対する薬液耐性が強いという性質と疎水性の性質を有するためにフォトレジストと接触する界面に用いるのに適している。
【0101】
次いで遮光層13となるクロム化合物膜を、スパッタリング法等を用いて形成する。
【0102】
ここで、クロム化合物のみで遮光層13を形成し、それ以外の膜がない場合、反射率が約25%と高くなってしまう。このため、遮光層13の表面および裏面に低反射層となる反射防止層12,14を形成することにより、反射率を低減することが望ましい。
【0103】
このように下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14を積層することで、薬液耐性の強いクロム化合物の材料で、フォトマスク10に必要な高い光学濃度(OD5)と、必要なエッチングレート等を有するマスク層を形成することが可能となる。
【0104】
具体的には、下反射防止層12と上反射防止層14の成膜に使用するガスはAr、NO、CO2を選択することができる。ここで、NO:CO2ガスの比率が1:10~10:1として設定することにより、ひさし、裾引きが少ない良好な断面形状が得られるとともに、波長365nm~436nmの露光光に対して、反射率10%以下、特に、波長436nmの露光光に対して、反射率5%以下にできることがわかった。
【0105】
また、下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14の膜厚を、それぞれ、25.0nm~35.0nm、125.0nm~135.0nm、25.0nm~35.0nmの範囲に設定することで、フォトマスク10に必要な高い光学濃度(OD5)を有することがわかった。
【実施例】
【0106】
次に、下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14の成膜における組成比について検証する。
【0107】
<実施例1>
ガラス基板上にスパッタリング法を用いて三層のマスク層となるクロム化合物を成膜した。
遮光層となるクロム化合物を形成する際に、窒素ガスによりスパッタした。
上下の反射防止層となるクロム化合物を形成する際に、窒素ガスによりスパッタした。また、酸化性ガスとして、CO2ガスとNOガスとを選択して、それぞれのガスにおいて、その分圧を変化させた。そのガス比を表1に示す。
【0108】
【0109】
また、下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14の膜厚、およびマスク層としてのトータル膜厚を表2に示す。
【0110】
【0111】
実施例1の各層におけるN、O、Cr、Cの組成比の変化をオージェ電子分光法により求めた。その結果を表3に示す。
【0112】
【0113】
また、実施例1における波長に応じた表面(上反射防止層側)の分光反射率を
図5、表4に示す。
【0114】
【0115】
同様に、実施例1における波長に応じた裏面(ガラス基板側)の分光反射率を
図6、表5に示す。
【0116】
【0117】
これらの結果により、実施例1においては、表裏面とも、波長365nm~436nmの露光光での反射率がいずれも10%以下、特に、波長436nmの露光光に対して、反射率5%以下となっていることがわかる。
【0118】
<実施例2>
ガラス基板上にスパッタリング法を用いて三層のマスク層となるクロム化合物を成膜した。
遮光層となるクロム化合物を形成する際に、窒素ガスによりスパッタした。
上下の反射防止層となるクロム化合物を形成する際に、窒素ガスによりスパッタした。また、酸化性ガスとして、CO2ガスとNOガスとを選択して、それぞれのガスにおいて、その分圧を変化させた。そのガス比を表1に示す。
【0119】
また、下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14の膜厚、およびマスク層としてのトータル膜厚を表2に示す。
【0120】
実施例2の各層におけるN、O、Cr、Cの組成比の変化をオージェ電子分光法により求めた。その結果を表6に示す。
【0121】
【0122】
また、実施例2における波長に応じた表面(上反射防止層側)の分光反射率を
図5、表4に示す。
【0123】
同様に、実施例2における波長に応じた裏面(ガラス基板側)の分光反射率を
図6、表5に示す。
【0124】
これらの結果により、実施例2においては、表裏面とも、波長365nm~436nmの露光光での反射率がいずれも10%以下、特に、波長436nmの露光光に対して、反射率5%以下となっていることがわかる。
【0125】
<比較例1~3>
上述の実施例1と同様に、スパッタリング法を用いて三層のマスク層となるクロム化合物を成膜した。
比較例1,3においては、遮光層となるクロム化合物を形成する際に、アルゴンガス、窒素ガスによりスパッタした。比較例2においては、遮光層となるクロム化合物を形成する際に、窒素ガス、アルゴンガス、メタンガスによりスパッタした。
上下の反射防止層となるクロム化合物を形成する際に、窒素ガスによりスパッタした。また、酸化性ガスとして、CO2ガスとNOガスとを選択して、それぞれのガスにおいて、その分圧を変化させた。そのガス比を表1に示す。
【0126】
また、下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14の膜厚、およびマスク層としてのトータル膜厚を表2に示す。
比較例1~3の各層におけるN、O、Cr、Cの組成比の変化をオージェ電子分光法により求めた。その結果を表7~表9に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
さらに、比較例1~3における波長に応じた表面(上反射防止層側)の分光反射率を
図5、表4に示す。
【0131】
同様に、比較例1~3における波長に応じた裏面(ガラス基板側)の分光反射率を
図6、表5に示す。
【0132】
これらの結果により、比較例1~3においては、表面においてが波長365nm~436nmの露光光での反射率が10%以下となり、比較例2においては、裏面においてが波長365nm~436nmの露光光での反射率が10%以下となるが、比較例1,3では裏面における反射率が10%以下とならないことがわかる。
【0133】
遮光層と反射防止層はその目的により、各層の膜中のガス組成比を大きく変える必要がある。遮光層は高い光学濃度(例えば、OD5)を取るため、酸化性のガスを少なくする必要がある。また反射防止層は低反射率化のため、酸化性のガスを多く膜中に取り込ませる必要がある。このため遮光層と反射防止層で膜中のガス組成比が大きくことなり、エッチングレート差が生じてしまう。
【0134】
次に、下反射防止層12、遮光層13、上反射防止層14の成膜におけるエッチング形状について検証する。
【0135】
<実施例1>
実施例1で作成したマスクブランクスに対して、パターニング(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)をおこない、その断面形状をSEMにより観察した。その結果を
図7に示す。また、パターニング境界における鳥瞰図を
図12に示す。
なお、
図7における倍率は80000倍、
図12における倍率は30000倍である。
【0136】
その結果、実験例1では、庇(遮光層から上反射防止層の飛び出した長さ):50nm、裾引き(遮光層から下反射防止層の飛び出した長さ):59nmであった。
【0137】
<実施例2>
実施例2で作成したマスクブランクスに対して、パターニング(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)をおこない、その断面形状をSEMにより観察した。その結果を
図8に示す。また、パターニング境界における鳥瞰図を
図13に示す。
なお、
図8における倍率は80000倍、
図13における倍率は30000倍である。
【0138】
その結果、実験例2では、庇(遮光層から上反射防止層の飛び出した長さ):57nm、裾引き(遮光層から下反射防止層の飛び出した長さ):40nmであった。
【0139】
<比較例1>
実施例1と同様に、作成したマスクブランクスに対して、パターニング(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)をおこない、その断面形状をSEMにより観察した。その結果を
図9に示す。また、パターニング教会における鳥瞰図を
図14に示す。
なお、
図9における倍率は80000倍、
図14における倍率は30000倍である。
【0140】
その結果、比較例1では、庇(遮光層から上反射防止層の飛び出した長さ):79nm、裾引き(遮光層から下反射防止層の飛び出した長さ):145nmであった。
【0141】
<比較例2>
実施例1と同様に、作成したマスクブランクスに対して、パターニング(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)をおこない、その断面形状をSEMにより観察した。その結果を
図10に示す。また、パターニング教会における鳥瞰図を
図15に示す。
なお、
図10における倍率は80000倍、
図15における倍率は30000倍である。
【0142】
その結果、比較例2では、庇(遮光層から上反射防止層の飛び出した長さ):140nm、裾引き(遮光層から下反射防止層の飛び出した長さ):52nmであった。
【0143】
<比較例3>
実施例1と同様に、作成したマスクブランクスに対して、パターニング(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)をおこない、その断面形状をSEMにより観察した。その結果を
図11に示す。また、パターニング教会における鳥瞰図を
図16に示す。
なお、
図11における倍率は80000倍、
図16における倍率は30000倍である。
【0144】
その結果、比較例3では、庇(遮光層から上反射防止層の飛び出した長さ):128nm、裾引き(遮光層から下反射防止層の飛び出した長さ):154nmであった。
【0145】
これらの結果から、比較例1~3においては、ガラス層側(裏面)の反射防止層および上側(表面)の反射防止層が、いずれも遮光層と比較して、出ている形状となっていることが確認できた(上層はひさし形状、下層は裾引き形状)。これは反射防止層と遮光層のエッチングレート差によるものである。
本発明のマスクブランクスは、良好な断面形状を形成することができ、高精細なフォトマスクを製造できることがわかる。
【符号の説明】
【0146】
10…フォトマスク
10B…マスクブランクス
11…ガラス基板(透明基板)
12…下反射防止層
12p…下反射防止パターン
13…遮光層
13p…遮光パターン
14…上反射防止層
14p…上反射防止パターン