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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】多層紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20230928BHJP
   D21H 19/34 20060101ALI20230928BHJP
   D21H 23/50 20060101ALI20230928BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20230928BHJP
   C08B 31/00 20060101ALI20230928BHJP
   C08B 11/12 20060101ALI20230928BHJP
   C08B 15/04 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
D21H27/00 E
D21H19/34
D21H23/50
D21H11/20
C08B31/00
C08B11/12
C08B15/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019183796
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021059799
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和也
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 琢也
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-510249(JP,A)
【文献】特開2009-235636(JP,A)
【文献】特開2011-104785(JP,A)
【文献】国際公開第2018/083590(WO,A1)
【文献】特開2012-197544(JP,A)
【文献】特開2018-131696(JP,A)
【文献】特表2016-533435(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137140(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
C08B 1/00 - 37/18
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤紙層を複数層抄き合わせて製造する多層紙の製造方法であって、湿潤紙層の層間に澱粉及び/または加工澱粉とアニオン変性セルロースナノファイバーとを含む水分散液を噴霧する工程を含み、
前記澱粉及び/または加工澱粉100質量部に対する前記アニオン変性セルロースナノファイバーの割合が、0.10~5質量部である、多層紙の製造方法。
【請求項2】
前記水分散液における前記澱粉及び/または加工澱粉と前記アニオン変性セルロースナノファイバーとの合計の固形分が、1~3質量%である、請求項1に記載の多層紙の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーである、請求項1または2に記載の多層紙の製造方法。
【請求項4】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシル化セルロースナノファイバーである、請求項1または2に記載の多層紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層紙の製造方法に関する。より詳細には、澱粉及び/または加工澱粉とアニオン変性セルロースナノファイバーとを含む水分散液を湿潤紙層間に噴霧することを含む、罫割れが生じにくく強度の高い多層紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の意識の高まりにより、森林資源を利用する紙・板紙においては省資源化が求められており、紙・板紙の軽量化(低坪量化)は避けられない流れとなっている。しかし、軽量化は引張強さや引裂強さなどの紙の強度の低下を招き、強度の低下は製造時や印刷時の断紙、製函時の加工不良などの原因となる。特に、板紙やはがき用紙等の複数の紙層を抄き合わせた多層紙では、低坪量化によって紙層間におけるパルプ同士の絡み合いが少なくなり、層間接着強度が低下するという問題があった。
【0003】
板紙等の多層紙の層間接着強度を向上させる方法として、湿潤紙層の層間に澱粉の水溶液/分散液を塗布/噴霧する方法が報告されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-264356号公報
【文献】特開平5-230792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが検討した結果、特許文献1及び2のように、湿潤紙層間に澱粉のみを含む水溶液または分散液を噴霧して多層紙を製造した場合、罫割れトラブルが生じやすくなることが見出された。板紙の罫割れトラブルとは、板紙を折り曲げる際に折り曲げられる板紙の表側の表層が破断することをいい、罫線割れとも呼ばれる。軽度な場合は板紙の表層がひび割れ状となり、重度な場合は板紙の全層が割れてしまうこともある。板紙の罫割れトラブルが生じると、手直しや修復ができないため商品価値がなくなり、不良品として処分せざるを得なくなる。
【0006】
特に、抄紙速度を維持しながら多層紙における層間強度を増すことを目的として噴霧する澱粉の水溶液または分散液の濃度を高くした場合、上記の罫割れトラブルが酷くなる傾向がある上に、スプレーノズルの目詰まり、スプレー吐出性が低下することによるスプレー液の周囲への飛び散り、紙の地合崩れ等の問題が生じやすくなることが見出された。一方、噴霧する澱粉の濃度を低くすると、十分な層間強度の向上効果が得られない。
【0007】
本発明は、十分な層間強度を維持しながら、スプレーノズルの目詰まりや罫割れトラブルが生じにくい、多層紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、湿潤紙層の層間に噴霧する噴霧液としての澱粉及び/または加工澱粉の水分散液に、少量のアニオン変性セルロースナノファイバーを加えることにより、噴霧液の固形分濃度を比較的高くした場合でもスプレーノズルの目詰まりが生じにくくなり、また、高い層間強度を有しながら罫割れトラブルが生じにくい多層紙を製造できることを見出した。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
[1]湿潤紙層を複数層抄き合わせて製造する多層紙の製造方法であって、湿潤紙層の層間に澱粉及び/または加工澱粉とアニオン変性セルロースナノファイバーとを含む水分散液を噴霧する工程を含む多層紙の製造方法。
[2]前記澱粉及び/または加工澱粉100質量部に対する前記アニオン変性セルロースナノファイバーの割合が、0.10~5質量部であることを特徴とする、[1]に記載の多層紙の製造方法。
[3]前記水分散液における前記澱粉及び/または加工澱粉と前記アニオン変性セルロースナノファイバーとの合計の固形分が、1~3質量%である、[1]または[2]に記載の多層紙の製造方法。
[4]前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の多層紙の製造方法。
[5]前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシル化セルロースナノファイバーである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の多層紙の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、湿潤紙層の層間に噴霧する噴霧液の固形分濃度を比較的高くした場合でも、スプレーノズルの目詰まりが生じにくくなる。これにより、抄紙速度を維持しながら、高い層間強度を得ることが可能になる。また、スプレーノズルが目詰まりせず、スプレーからの不均一な液だれや飛び散りも生じにくいことから、得られる紙の地合いが良好となる。さらに、澱粉及び/または加工澱粉を含む噴霧液を噴霧しながら、罫割れトラブルが生じにくい多層紙が得られる。これらの効果が得られる理由は明らかではないが、噴霧液に少量添加するアニオン変性セルロースナノファイバーが、澱粉/加工澱粉水分散液中で均一に分散すること、少ない添加量で多くの繊維数を分散液中に導入できること、高いフィルム形成性を有すること、それ自体は粘着性がないが湿潤紙層中のセルロースとの接着性が高いことなどの特徴を持つことから、分散液の均一さによるスプレーの目詰まりのしにくさや、繊維数の多さ、セルロースとの接着性、及び高いフィルム形成性による層間強度の維持及び罫割れトラブルの減少といった効果が得られるのではないかと推測している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例の「罫割れ評価」における折り曲げ部断面の評価基準を示す顕微鏡写真である。
図2】実施例の「罫割れ評価」における原紙層間の剥離状態の評価基準を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、湿潤紙層を複数層抄き合わせて製造する多層紙の製造方法であり、湿潤紙層の層間に、澱粉及び/または加工澱粉とアニオン変性セルロースナノファイバーとを含む水分散液を噴霧する工程を含む。
【0012】
<多層紙の製造>
多層紙の製造に際しては、まず、紙料から湿潤紙層を形成する。紙料とはパルプを含む水懸濁液である。パルプとは木材または植物由来のセルロース繊維の集合体である。本発明では公知のパルプを用いればよく、その例には、ケミカルパルプ(CP)、砕木パルプ(GP)、ケミグラウンドパルプ(CGP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、セミケミカルパルプ(SCP)、及びこれらの晒または未晒パルプ、脱墨パルプ(DIP)、さらには段ボールを古紙原料とする段ボール離解パルプ(RPD)が含まれる。
【0013】
紙料は填料を含んでいてもよい。填料とは紙に配合される粉末状の添加剤である。本発明では公知の填料を用いてよく、その好ましい例には、ケイソウ土、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、非晶質シリカ、亜硫酸カルシウム、石膏、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、製紙スラッジ、ホワイトカーボン、カオリン、焼成カオリン、デラミネーティッドカオリン、クレー、シリカ-炭酸カルシウム複合体などの無機填料や、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、プラスチック微小中空粒子などの有機填料が含まれる。中でも入手の容易性や地合いの向上効果が高いこと、さらには中性抄紙に適していることから、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムといった炭酸カルシウムが好ましい。
【0014】
紙料は、硫酸バンド、AKD、ASAなどの合成サイズ剤、濾水性向上剤、各種澱粉類、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、凝結剤、歩留向上剤、消泡剤、及びpH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0015】
紙料を、抄紙網等の水を透過し得る部材に供給して濾水し、湿潤紙層を得る。湿潤紙層とはパルプを主成分とする紙のシートであり、水分を含む。湿潤紙層の固形分濃度は5~60質量%であり、5~30質量%がより好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。
【0016】
抄紙は、手抄きや機械抄き等の手段を用いて行ってよく、機械抄きとしては長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップフォーマー、ギャップフォーマー、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機などの公知の抄紙機を適宜選択して用いることができる。作業効率の点から、複数の抄造ユニットを備えた多層抄紙機を用いることが好ましい。この際、抄造ユニットから得られた湿潤紙層の表面に、以下で説明する噴霧液を噴霧し、次いで、噴霧した面の上に次の抄造ユニットから得られる湿潤紙層を抄き合わせてプレスする。あるいは、先の抄造ユニットから得られた湿潤紙層と、後の抄造ユニットから得られる湿潤紙層とを抄き合わせてプレスする前に、後の抄造ユニットから得られる湿潤紙層の表面に噴霧液を噴霧する。これらのいずれかまたは組み合わせを適宜繰り返すことにより、層間に噴霧液が噴霧された複数の湿潤紙層の積層物を得ることができる。あるいは、湿潤紙層の層間に噴霧液を噴霧できる方法であれば、これら以外の方法であってもよい。こうして得られた層間に噴霧液が噴霧された湿潤紙層の積層物をプレスして乾燥し、多層紙とする。なお、多層紙のすべての層間に噴霧液が噴霧される必要はなく、多層紙の一以上の層間に噴霧液の噴霧が行われていればよい。
【0017】
噴霧に際しては、公知のスプレーノズルを有する噴霧装置を用いればよい。典型的には、抄紙網の走行方向(MD方向)に対し垂直となるように(すなわち、CD方向に)スプレーノズルの列を配置し、各スプレーノズルから湿潤紙層の表面に噴霧液を噴霧するが、他の構成であってもよい。ノズルの形状、径や吐出圧は特に限定されないが、澱粉粒子のノズル詰まり防止や均一噴霧の観点からは、好ましくはノズル噴出口の形状が扇形で、ノズル長径が0.5~3.0mm程度、さらに好ましくは1.0~2.0mmであり、吐出圧が0.2~4.0kgf/cm程度、さらに好ましくは0.5~2.0kgf/cm程度である。噴霧は1つの湿潤紙層の表面に対し、1回行なってもよく、また、特に層間強度を高めたい部分に対しては2回以上行ってもよい。また、噴霧は、湿潤紙層の表面の一部に対し行ってもよいし、湿潤紙層の表面全体に噴霧液が行きわたるように行ってもよい。
【0018】
抄紙時のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよいが、中性またはアルカリ性が好ましい。抄紙速度は特に限定されない。多層紙の坪量は、特に限定されないが、例えば、好ましくは100~700g/m程度であり、より好ましくは150~600g/m程度であり、さらに好ましくは200~500g/m程度であり、さらに好ましくは300~400g/m程度である。
【0019】
湿潤紙層を積層した後の乾燥方法は特に限定されない。例えば、蒸気加熱シリンダ、加熱熱風エアドライヤ、ガスヒータードライヤ、電気ヒータードライヤ、赤外線ヒータードライヤ等各種の方法を単独または組み合わせて用いることができる。
【0020】
多層紙の表面に顔料塗工層を設けてもよい。顔料塗工層は、カーテン塗工、ブレード塗工、ウェットオンウェット塗工などの公知の方法によって設けることができる。
顔料塗工層用の塗工液は、顔料や接着剤などの必要な成分と水とをミキサー等の通常の混合手段を用いて混合することにより得ることができる。顔料や接着剤の種類としては、公知のものを用いればよく、特に限定されない。塗工液における顔料と接着剤との配合比は、特に限定されないが、通常、固形分比率で、顔料100質量部に対し、接着剤5~30質量部程度であり、好ましくは8~20質量部程度である。塗工液には、顔料と接着剤の他に、必要に応じて、分散剤、粘性改良剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、蛍光染料、着色染料、着色顔料、界面活性剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩などの通常の顔料塗工層用の塗工液に用いられる各種助剤を添加してもよい。塗工液の固形分濃度は、原紙への浸透の抑制を考慮すると、58質量%以上が好ましく、62質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、送液性を考慮すると、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。顔料塗工層の塗工量は、特に限定されないが、片面当たり、乾燥固形分で2~50g/m程度が好ましく、5~40g/m程度がさらに好ましく、10~30g/m程度がさらに好ましい。
【0021】
剛度向上やカール抑制などのために、多層紙の表面にクリア塗工層を設けてもよい。クリア塗工液には、必要に応じて、公知のバインダーを用いることができ、分散剤、粘性改良剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、蛍光染料、着色染料、着色顔料、界面活性剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩など、通常の塗工液に配合される各種助剤を適宜使用できる。クリア塗工層の塗工量は、特に制限されないが、一般的に片面あたり固形分で0.1~5.0g/m程度である。クリア塗工層の塗工方法や乾燥方法は特に限定されない。例えば、公知のサイズプレス装置、例えば、2ロールタイプ、3ロールタイプ、ゲートロールタイプ、フィルム転写タイプ、カレンダータイプや、カーテンコーター、スプレーコーター、ブレードコーターなどのコーター(塗工機)を使用して塗布した後に、蒸気加熱シリンダ、加熱熱風エアドライヤ、ガスヒータードライヤ、電気ヒータードライヤ、赤外線ヒータードライヤ等各種の乾燥工程を単独、もしくは併用して用いてもよいし、乾燥工程を経なくてもよい。
【0022】
本発明により製造する多層紙の種類は特に限定されず、例えば、高級白板紙、特殊白板紙、白ボール等の白板紙、ライナー、中芯原紙、紙管原紙、建材用原紙、紙器用原紙、葉書用紙、カード用紙などを挙げることができる。本発明により得られる多層紙は、罫割れが生じにくいことから、箱へと成形して用いるのに適している。例えば、これらに限定されないが、医薬品、化粧品、貴金属、石鹸、タバコ、食品などを包装する箱に用いるのに適しているといえる。
【0023】
本発明により製造する多層紙は、何層抄きであってもよく、特に制限されないが、例えば、2~10層程度が好ましく、3~9層程度がさらに好ましい。各層の坪量は特に制限されない。例えば、20~100g/mであってもよく、20~70g/m程度であってもよく、25~50g/m程度であってもよい。
【0024】
<噴霧液>
本発明において、湿潤紙層の層間に噴霧する噴霧液は、澱粉及び/または加工澱粉と、アニオン変性セルロースナノファイバーとを含む、水分散液である。
【0025】
(1)澱粉及び/または加工澱粉
「澱粉及び/または加工澱粉」(以下、これらを合わせて単に「澱粉」と呼ぶこともある。)の種類としては、製紙に一般的に用いられるものを用いればよく、特に限定されない。例えば、小麦、米、トウモロコシ、馬鈴薯、タピオカなどを由来とする天然澱粉や、これらを化学的に修飾して得たカチオン化澱粉、酸化澱粉、ジアルデヒド澱粉、酢酸エステル化澱粉、リン酸化澱粉、アセチル化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、カルボキシメチル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、カルバモイルエチル化澱粉などが挙げられる。中でも、尿素リン酸化澱粉は、そのアニオン性の性質から電気的に湿潤紙層の表面に留まり易く、層間の接着力を発揮しやすいため、好ましい。
【0026】
(2)アニオン変性セルロースナノファイバー
「アニオン変性セルロースナノファイバー」とは、セルロース分子鎖にアニオン性基を導入したアニオン変性セルロース繊維を、ナノスケールの繊維幅となるまで解繊して得た微細繊維である。以下、「セルロースナノファイバー」を「CNF」と略すことがある。
【0027】
アニオン変性CNFの原料となるセルロースの種類は特に限定されず、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするセルロースを使用することができる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0028】
上述のセルロース原料に対し、アニオン性基を導入することで、アニオン変性セルロース繊維とする。アニオン性基の導入方法は特に限定されないが、例えば、酸化または置換反応によってセルロースのピラノース環にアニオン性基を導入することが挙げられる。具体的には、ピラノース環の水酸基を酸化してカルボキシル基へと変換する反応や、ピラノース環に対して置換反応により、カルボキシメチル基、リン酸エステル基、または亜リン酸エステル基を導入する反応を挙げることができる。
【0029】
(2-1)カルボキシメチル化
アニオン変性の一例として、カルボキシメチル化を挙げることができる。アニオン変性セルロース繊維の一例であるカルボキシメチル化セルロース繊維は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよく、また、市販品であってもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50となるものが好ましく、0.02~0.40がさらに好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。カルボキシメチル置換度が0.50を超えると、水などの媒体に溶解するようになり、繊維状の形状を維持することができなくなる。
【0030】
カルボキシメチル化セルロース繊維のカルボキシメチル置換度は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振とうして、塩の形態のカルボキシメチル化セルロース(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースに変換する。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5g~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのHSOで過剰のNaOHを逆滴定する。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのHSO)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのHSOのファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター。
【0031】
カルボキシメチル化セルロース繊維を製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる:
セルロース原料に、溶媒として3~20重量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を加える。なお、溶媒に低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60~95質量%であることが好ましい。ここに、マーセル化剤として、セルロース原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを添加する。セルロース原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤、例えばモノクロロ酢酸またはその塩などをグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0032】
(2-2)カルボキシル化
アニオン変性の一例としてカルボキシル化(酸化とも呼ぶ。)を挙げることができる。カルボキシル化とは、セルロースのピラノース環の水酸基を酸化してカルボキシル基(-COOH(酸型)または-COOM(金属塩型)をいう(式中、Mは金属イオンである。))に変換する反応をいう。本明細書において、カルボキシル化により得られるアニオン変性セルロース繊維を、カルボキシル化セルロース繊維または酸化セルロース繊維とも呼ぶ。
【0033】
カルボキシル化セルロース繊維は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。カルボキシル化セルロース繊維におけるカルボキシル基の量は、特に限定されるものではないが、カルボキシル化セルロース繊維の絶乾質量に対して、0.6~3.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。カルボキシル基の量は、酸化剤の種類や量、酸化反応の際の温度や時間などを制御することで、調整することができる。
【0034】
カルボキシル化セルロース繊維のカルボキシル基の量は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシル化セルロース繊維の0.5質量%スラリー(媒体:水)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース繊維〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース繊維質量〔g〕。
【0035】
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロース原料の水中での濃度は特に限定されないが、5質量%以下とすることが好ましい。
【0036】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)及びその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物の使用量は、セルロース原料を酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応液全体に対し0.1~4mmol/L程度がよい。
【0037】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0038】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0039】
セルロース原料の酸化は、比較的温和な条件下であっても、反応が効率よく進行しやすい。よって、反応温度は4~40℃であってもよく、また、15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース鎖にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応液における媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0040】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロース繊維を、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化を進行させることができる。
【0041】
カルボキシル化(酸化)の方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基がカルボキシル基へと酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/mであることが好ましく、50~220g/mであることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロース繊維の収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0042】
(2-3)エステル化
アニオン変性の一例として、エステル化を挙げることができる。エステル化の一例として、セルロース原料へのリン酸基または亜リン酸基の導入を挙げることができる。本明細書において、リン酸基の導入により得られるアニオン変性セルロース繊維をリン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸基の導入により得られるアニオン変性セルロース繊維を亜リン酸エステル化セルロース繊維と呼び、両者を総称してエステル化セルロース繊維と呼ぶ。
【0043】
リン酸エステル化セルロース繊維の製造方法としては、セルロース原料またはそのスラリーに、リン酸基を有する化合物の粉末や水溶液を混合する方法を挙げることができる。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等を挙げることができ、これらの1種、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。セルロース原料に対するリン酸基を有する化合物の添加割合は、セルロース原料の固形分100質量部に対して、リン元素に換算した添加量が0.1~500質量部であることが好ましく、1~400質量部であることがより好ましく、2~200質量部であることがさらに好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1分~600分程度であり、30分~480分がより好ましい。得られたリン酸エステル化セルロース繊維の懸濁液は、セルロースの加水分解を抑える観点から、脱水した後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上0.40未満であることが好ましい。
【0044】
亜リン酸エステル化セルロース繊維の製造方法としては、セルロース原料またはそのスラリーに、アルカリ金属イオン含有物並びに亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる添加物(A)を添加し、好ましくは亜リン酸水素ナトリウムを添加し、加熱してセルロース繊維に無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルを導入する。より好ましくは、更に尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる添加物(B)も添加し、加熱してセルロース繊維に無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステル及びカルバメートを導入する。アルカリ金属イオン含有物としては、例えば、水酸化物、硫酸金属塩類、硝酸金属塩類、塩化金属塩類、リン酸金属塩類、亜リン酸金属塩類、炭酸金属塩類等を使用することができる。ただし、添加物(A)をも兼ねる亜リン酸金属塩類を使用するのが好ましく、亜リン酸水素ナトリウムを使用するのがより好ましい。添加物(A)は、亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる。添加物(A)としては、例えば、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等を使用することができる。これらの亜リン酸類又は亜リン酸金属塩類は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、アルカリ金属イオン含有物をも兼ねる亜リン酸水素ナトリウムを使用するのが好ましい。添加物(A)の添加量は、セルロース繊維1kgに対して、好ましくは1~10,000g、より好ましくは100~5,000g、特に好ましくは300~1,500gである。添加物(B)は、尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる。添加物(B)としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素等を使用することができる。これらの尿素又は尿素誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。添加物(B)の添加量は、添加物(A)1molに対して、好ましくは0.01~100mol、より好ましくは0.2~20mol、特に好ましくは0.5~10molである。反応温度は100~20℃が好ましく、100~180℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、10分~180分程度であり、30分~120分がより好ましい。亜リン酸のエステル等を導入したセルロース繊維は、解繊するに先立って、洗浄するのが好ましい。亜リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりの亜リン酸基の置換度は0.01以上0.23未満であることが好ましい。
【0045】
上述のアニオン変性(カルボキシル化、カルボキシメチル化、及びエステル化)の中では、カルボキシメチル化またはカルボキシル化が好ましく、特に、カルボキシメチル化セルロース繊維をCNFの原料とすることは、得られるカルボキシメチル化CNFの粘度が比較的低く、水分散液中で澱粉と均一に混合しやすい点から、好ましい。
【0046】
(2-4)アニオン変性セルロース繊維
アニオン変性CNFの原料である上記で得られるようなアニオン変性セルロース繊維としては、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものを用いる。繊維状の形状が維持されないもの(すなわち、分散媒に溶解するもの)を用いると、ナノファイバーを得ることができない。分散した際に繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるとは、アニオン変性セルロース繊維の分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、X線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるアニオン変性セルロース繊維が好ましい。
【0047】
アニオン変性セルロース繊維におけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、解繊により繊維を微細化した後も溶解することのない結晶性セルロース繊維を充分に得ることができる。アニオン変性CNFのセルロースI型の結晶化度は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。セルロースの結晶性は、原料であるセルロースの結晶化度、及びアニオン変性の度合によって制御できる。アニオン変性セルロース及びアニオン変性CNFの結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
【0048】
(2-5)解繊
得られたアニオン変性セルロース繊維を解繊することにより、アニオン変性CNFとすることができる。解繊に用いる装置は、特に限定されず、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式、キャビテーション噴流装置、精製装置(リファイナー、例えば、ディスク型、コニカル型、シリンダー型リファイナー)、高速解繊機、せん断型撹拌機、コロイドミル、高圧噴射分散機、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機(トップファイナー)、高圧または超高圧ホモジナイザー、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、振動ミル、ビーズミル、1軸、2軸又は多軸の混錬機・押出機、高速回転下でのホモミキサー、デフィブレーター(defibrator)、摩擦グラインダー、高せん断デフィブレーター(defibrator)、ディスパージャー(disperger)、ホモゲナイザー(例えば、微細流動化機(microfluidizer))、離解機(トップファイナー)、ホモミックラインミル、ヘンシェルミキサーなどの装置を用いることができる。中でも、アニオン変性セルロース繊維の水分散体に強力な剪断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることは好ましい。効率よく解繊するためには、高圧ホモジナイザーの圧力は、50MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがさらに好ましく、140MPa以上であることがさらに好ましい。高圧ホモジナイザーでの解繊に先立って、必要に応じて、高速剪断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、カルボキシル化セルロースの水分散体に予備処理を施してもよい。
【0049】
(2-6)アニオン変性CNF
上述のアニオン変性セルロース繊維の解繊により、アニオン変性CNFを得ることができる。本明細書において、「CNF」(セルロースナノファイバー)とは、ナノメートルレベルの繊維幅まで微細化されたセルロース由来の繊維であり、繊維幅が約3~数百nm程度、例えば、3~500nm程度であるセルロース由来の微細繊維をいう。CNFの平均繊維径は、好ましくは3~500nm程度であり、より好ましくは3~150nm程度であり、さらに好ましくは3~90nm程度であり、さらに好ましくは3~20nm程度である。平均繊維長を平均繊維径で除すことによりアスペクト比を算出することができる。アスペクト比は好ましくは30以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度となる。
【0050】
CNFの平均繊維径及び平均繊維長は、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。
【0051】
(3)噴霧液の組成
噴霧液は、上述した澱粉及び/または加工澱粉(これらを合わせて単に「澱粉」とも呼ぶ。)と、アニオン変性CNFとを含む。噴霧液は、澱粉とアニオン変性CNFとを、公知のミキサーなどの撹拌手段を用いて水中で混合することにより、得ることができる。澱粉とアニオン変性CNFとの配合比は、特に限定されないが、澱粉を100質量部とした際に、アニオン変性CNFが0.05~10質量部であることが好ましく、特に、0.10~5質量部であることが好ましい。澱粉100質量部に対し、アニオン変性CNFが0.10~5質量部の範囲であると、澱粉のみを噴霧液に用いた場合に比べて、スプレー性が向上し、かつ、罫割れも顕著に少なくなる。アニオン変性CNFの配合比が、澱粉100質量部に対して、0.10質量部未満であると、若干の罫割れがみられることがある。アニオン変性CNFの配合比がそれよりもさらに少なくなると、罫割れの防止効果が得られない可能性がある。一方、アニオン変性CNFの配合比が、澱粉100質量部に対して、5質量部より高くなると、スプレー性(噴霧時の目詰まりのしにくさ)がやや低下する傾向がある。アニオン変性CNFの配合比がそれよりもさらに高くなると、例えば、アニオン変性CNFのみを噴霧液に用いた場合には、噴霧液の総固形分濃度を高くする(例えば2質量%以上とする)と、スプレーノズルの目詰まりが生じる傾向がある。
【0052】
噴霧液における澱粉とアニオン変性CNFとの合計の固形分は、0.5~5質量%程度が好ましく、1~3質量%がさらに好ましい。本発明では、噴霧液において、多めの量の澱粉に対し、少ない量のアニオン変性CNFを組み合わせて用いることにより、合計の固形分の濃度の範囲が1~3質量%と高い場合であっても、良好なスプレー性(噴霧時の目詰まりのしにくさ)を得ることができる。噴霧液における固形分濃度を高く設定できることは、少ない量の噴霧液または速い抄紙速度でより多くの固形分を噴霧できることにつながり、コスト的に有利である。また、噴霧液から湿潤紙層に持ち込まれる水分量がやや減るため、搾水不良や坪量プロファイルの悪化などの問題が生じにくくなると考えられる。
【0053】
湿潤紙層に噴霧される噴霧液の量は、特に限定されないが、湿潤紙層の固形分に対し、0.001~30質量%程度であり、0.01~30質量%が好ましく、0.05~10質量%がより好ましく、0.1~5質量%がさらに好ましい。また、1つの湿潤紙層の表面に対し、総固形分として、0.3~5.0g/m程度の量となるように噴霧することが好ましく、0.5~4.0g/m程度の量がより好ましい。噴霧量は、操業状況や、対象の湿潤紙層に必要とされる強度などに応じて、適宜設定すればよい。
【0054】
噴霧液は、上述した澱粉とアニオン変性CNFとに加えて、他の添加剤を1種または複数種類含有していていもよい。そのような添加剤としては、例えば、これらに限定されないが、凝結剤、歩留剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、アルギン酸、微細繊維、填料、硫酸バンド、サイズ剤、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤、定着剤、濾水性向上剤、染料などが挙げられる。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、「部」は、特に断りがない場合、「質量部」を表す。
【0056】
<カルボキシメチル化(CM化)CNFの製造>
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水130部と、水酸化ナトリウム40部を水100部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)230部と、モノクロロ酢酸50部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、pH7になるまで酢酸で中和、含水メタノールで洗浄、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.31のカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩(以下、「カルボキシメチル化」を「CM化」と略すことがある。)を得た。カルボキシメチル置換度の測定方法は、上述した通りである。
【0057】
得られたCM化セルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体とした。これを、150MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、CM化CNFの分散体を得た。得られたCM化CNFの平均繊維径は4.5nmであり、1%(w/v)水分散体のB型粘度(25℃、60rpmで測定)は1500mPa・sであった。平均繊維径の測定方法は、上述した通りである。
【0058】
<カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの製造>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)780mgと臭化ナトリウム75.5gを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.4mmol/gであった。カルボキシル基量の測定方法は上述した通りである。
【0059】
上記の工程で得られた酸化パルプ(カルボキシル化セルロース)を水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、カルボキシル化CNF分散体を得た。得られたカルボキシル化CNFの平均繊維径は3.5nmであり、アスペクト比は150であった。また、1%(w/v)水分散体のB型粘度(25℃、60rpmで測定)は2500mPa・sであった。平均繊維径及びアスペクト比の測定方法は、上述した通りである。
【0060】
<噴霧液1の製造>
1.5mコンテナー中に水800kgを投入し、尿素リン酸エステル化澱粉(三和澱粉工業株式会社製:ハイスタード(登録商標)PSS-4、固形分:91.5%)を固形分換算で20kgとなるように投入した。ミキサーで撹拌しながら、上記で製造したカルボキシメチル化CNF(CM化CNF)の1%水分散体を固形分換算で0.5kgとなるように投入し、尿素リン酸エステル化澱粉とCM化CNFとの総固形分が2質量%になるように水を加えて調整し、噴霧液1とした。噴霧液1における尿素リン酸エステル化澱粉とカルボキシメチル化CNFとの配合比(質量比)は、100:2.5である。
【0061】
<噴霧液2の製造>
噴霧液1の製造と同様にして、尿素リン酸エステル化澱粉とCM化CNFとの配合比が100:0.09である噴霧液2(総固形分2質量%)を調製した。
【0062】
<噴霧液3の製造>
噴霧液1の製造と同様にして、尿素リン酸エステル化澱粉とCM化CNFとの配合比が100:7.5である噴霧液3(総固形分2質量%)を調製した。
【0063】
<噴霧液4の製造>
CM化CNFの代わりに、上記で製造したカルボキシル化CNF(酸化CNFとも呼ぶ)を用いた以外は噴霧液1の製造と同じにして、噴霧液4を製造した。噴霧液4における尿素リン酸エステル化澱粉とカルボキシル化CNFとの配合比(質量比)は、100:2.5であり、総固形分は2質量%である。
【0064】
<噴霧液5の製造>
尿素リン酸エステル化澱粉(三和澱粉工業株式会社製:ハイスタード(登録商標)PSS-4、固形分:91.5%)の2質量%水分散液を調製し、噴霧液5とした。
【0065】
<噴霧液6の製造>
上記で製造したCM化CNFの2質量%水分散体を調製し、噴霧液6とした。
<噴霧液7の製造>
上記で製造したカルボキシル化CNFの2質量%水分散体を調製し、噴霧液7とした。
【0066】
<多層紙の製造>
7層抄きの多層塗工白板紙(設定坪量:約270g/m)を、下記の手順にしたがって製造した:
表層(1層目)に針葉樹クラフトパルプ100%、表下層(2層目)に脱墨した古紙パルプ100%、中層(3層目~6層目)に古紙パルプ100%、裏層(7層目)に古紙パルプ100%を使用して、7層抄きで板紙原紙を製造した。それぞれの抄造ユニットで各層用の紙料から湿潤紙層を製造し、これらを抄き合わせて、プレス、乾燥処理を行うことにより、多層板紙原紙を得た(原紙坪量:約251g/m、原紙白色度:54%)。この際、1層目~5層目の間に上記で製造した各噴霧液を、ノズル長径の最大値が2mmのスプレーコーターを用い、吐出圧0.5~1.0kg/cmで噴霧した(噴霧液の合計噴霧量(固形分):2.4~3.5g/m)。また、2層目~7層目の紙料には、対パルプ固形質量で0.1~0.3質量%の濾水性向上剤(ポリアクリルアミド)を配合した。抄紙速度は約300m/分であった。次いで、多層板紙原紙の表層の上に顔料塗工層を設けて塗工白板紙を得た(設定塗工量:約19g/m)。顔料塗工層は、顔料として炭酸カルシウムを使用し、顔料100質量部に対して15質量部のラテックス(バインダー)を使用した。
【0067】
<スプレー性の評価>
ノズル長径の最大値が2mmであるスプレーコーターを用い、吐出圧0.5~1.0kg/cmで噴霧した際、噴霧液がノズルに詰まらず吐出できたかを目視評価した。結果を表1に示す。表1における記号は、〇が「詰まりの発生がなく液だれもない」、△が「時々詰まり液だれが生じる」、×が「吐出不可」である。
【0068】
<多層紙の罫割れ評価>
折り曲げた際に罫割れ発生の有無を分かり易くするため、罫線(折れ罫)の入る部分にあらかじめ油性ペンで色付けを行った上で、罫線入れ抜き器を用いてサンプルにスジ加工を施した(凹みの深さ0.4mm、長さ50mm、幅1.5mm)。次いで、凹みが外側になるようにサンプルを折り曲げ、折り曲げた状態でプレス器を用いて60秒間加圧した(圧力:3kgf/cm)。加圧後、折り曲げ部の断面と原紙層間の剥離状態を顕微鏡を用いて観察し、罫割れの程度を評価した。結果を表1に示す。なお、折り曲げ部の断面は、図1のように折り曲げ部の断面を4枚並べた時の各折り罫部分を顕微鏡観察して目視評価し、白いスジ状のものが少ない方が、罫割れの程度が小さいと言える。また、原紙層間の剥離状態は、図2の左の写真(評価:〇)のように層間が全体的によくほぐれているものの方が、紙の内層が均一にほぐれることによって紙の表層への負荷が小さくなっているため、罫割れの程度が小さいと言える。表1における記号は、「折り曲げ部の断面」については、顕微鏡観察における白いスジ状のものが、〇は「少ない」、△は「散見される」、×は「多い」であり、「原紙層間の剥離状態」については、各層の剥がれ方が、〇は「全体的によくほぐれている」、△は「ほぐれている箇所もあるが限定的である」、×は「ほとんどほぐれていない」であり、図1及び図2に示すそれぞれの評価基準画像と比較して評価を行った。
【0069】
<層間強度の評価(層間剥離強度試験)>
JIS P 8131に準拠した破裂強さ試験機(日本テイ・エム・シー株式会社製、D-111)を用いて、TAPPI UM 522に基づいて多層板紙の層間剥離強度を測定した。具体的には、両面テープを貼り付けた多層板紙のサンプルをドーナツ状に切り抜き、環状円板と孔なし金属板で挟んでから孔なし金属板を環状円板の孔を通じて環状円板から離れる向きに加圧し、多層板紙が剥離する際の最大圧力を測定した。結果を表1に示す。試験結果は、噴霧液5を用いた比較例1の数値を100としたときの強度向上率として示した。
【0070】
【表1】
【0071】
比較例2及び3については、噴霧液をスプレーノズルから吐出することができなかったため、罫割れ(折り曲げ部の断面、原紙層間の剥離状態)と層間強度の評価は行わなかった。表1の結果より、尿素リン酸エステル化澱粉を主体とした噴霧液に、少量のアニオン変性CNFを添加することにより、多層紙の層間強度を維持しながら、噴霧液のスプレーからの吐出性を向上させ、多層紙の罫割れの程度を小さくすることができることがわかる。特に、実施例1及び4では、澱粉のみを噴霧液に使用した比較例1に比べて、同じ総固形分量の噴霧液を用いながら1割以上の層間強度の向上を達成し、また、良好なスプレー性と少ない罫割れの両立もできたことがわかる。スプレーノズルの詰まりが生じると、紙の強度不足や地合いの悪化につながるだけでなく、掃除等のために装置を停止する必要が生じるなどの問題があるため、多層紙の工業的な生産において、スプレー吐出時のトラブルが少ないことは、非常に重要であると言える。また、罫割れが生じると、手直しや修復ができないため商品価値がなくなって処分せざるを得なくなるため、罫割れが生じにくいことは、多層紙の特性として重要であるといえる。また、多層紙の層間強度の不足は、印刷時の層間剥離などのトラブルにつながるので、層間強度(層間接着強度)が高いことは、多層紙の特性として重要であると言える。本発明により、十分な層間強度と、良好なスプレー性と、罫割れの生じにくさを達成することができる。
図1
図2