(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20230928BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230928BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G11B5/84 A
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
(21)【出願番号】P 2019197922
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】安藤 順一郎
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089692(JP,A)
【文献】特開2016-194003(JP,A)
【文献】特開2019-079583(JP,A)
【文献】特表2019-522896(JP,A)
【文献】特開2015-067507(JP,A)
【文献】国際公開第2008/072637(WO,A1)
【文献】特開2019-008846(JP,A)
【文献】特開2019-119782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が1~100nmのコロイダルシリカと、
酸及び/またはその塩と、
水と
を含有し、
25℃におけるpH値が0.1~4.0の範囲にあり、
前記コロイダルシリカは、
金属ケイ素を原料として、水と反応させることにより合成されたシリカ粒子を少なくとも3質量%以上含む磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項2】
前記コロイダルシリカは、
前記金属ケイ素を原料として
、水と反応させることにより合成されたシリカ粒子を少なくとも
10質量%以上含有する
請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項3】
水溶性高分子化合物を更に含有する請求項
1または2に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項4】
前記水溶性高分子化合物
は、
カルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、
重量平均分子量が1,000~1,000,000である請求
項3に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子化合物は、
カルボン酸基を有する単量体及び
スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、
重量平均分子量が1,000~1,000,000である請求項
3に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項6】
前記水溶性高分子化合物は、
カルボン酸基を有する単量体
、アミド基を有する単量体、及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、
重量平均分子量が1,000~1,000,000である請求項
3に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項7】
前記
カルボン酸基を有する単量体は、
アクリル酸またはその塩、または、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体である請求項
4~
6のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項8】
前記
アミド基を有する単量体は、
アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、及びN-アルキルメタクリルアミドから選ばれる1種または2種以上の単量体である請求項
4または6に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項9】
前記
スルホン酸基を有する単量体は、
イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる単量体である請求項
5または
6に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項10】
酸化剤を更に含有する請求項
1~9のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法であって、アルミニウム合金基板の基板表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気ディスク基板を研磨対象とし、前記磁気ディスク基板に対して複数回の研磨工程を繰り返す多段研磨方式が採用され、前記磁気ディスク基板に対する最終研磨工程で前記磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いる磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品の研磨に使用される研磨剤組成物、及び磁気ディスク基板の研磨方法に関する。特に、ガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板等の磁気記録媒体用基板やアルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板等の(以下、単に「磁気ディスク基板」と総称する。)の表面研磨に使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物、及び当該磁気ディスク基板用研磨剤組成物を使用した磁気ディスク基板の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム磁気ディスク基板の無電解ニッケル-リンめっき皮膜表面を研磨するための磁気ディスク基板用研磨剤組成物(以下、単に「研磨剤組成物」と称す。)は、磁気記録密度の向上を目的として、種々の研磨特性の改良が求められている。例えば、スクラッチについては、スクラッチ部分が書き込みや読み込みのエラー原因となったり、スクラッチの周りに生じたバリの部分で、ヘッドとの衝突の原因となったりすることがある。更に、ヘッドとの衝突の原因となりうるものとしては、他にうねりがあり、うねりの低減が求められている。
【0003】
スクラッチの低減の観点から、研磨剤組成物の機械研磨を担う砥粒部分として、コロイダルシリカがアルミニウム磁気ディスク基板に使用されるようになっている。その際、工業的な研磨においては、研磨剤組成物の機械研磨を担う砥粒部分と、化学研磨を担う薬剤部分とが、実際の研磨の直前に混合して使用されることが多い。
【0004】
しかし、砥粒部分としてのコロイダルシリカと薬剤部分とが混合されると、コロイダルシリカは凝集傾向になることが知られている。かかるコロイダルシリカの凝集粒子の悪影響を抑制するための対策として粗大粒子の除去、研磨剤の腐食性の調整(特許文献1参照)、粒子の形状の調整(特許文献2参照)、凝集粒子の含有量の調整(特許文献3参照)等の提案がなされている。
【0005】
一方、コロイダルシリカに含まれる金属不純物が研磨工程の後で磁気ディスク基板の基板表面に残留し、表面平滑性を損ねることも知られており、かかる不具合を解消するために金属不純物の含有率の少ないコロイダルシリカを製造するための製造方法も提案されている。また、かかる目的のために、テトラエトキシシラン等を原料とするアルコキシシラン法や更に安価な原料である金属ケイ素を使用するコロイダルシリカの製造方法も提案されている(例えば、特許文献4~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-120850号公報
【文献】特開2009-172709号公報
【文献】特開2010-170650号公報
【文献】特公昭49-4637号公報
【文献】特開昭49-64595号公報
【文献】国際公開第2008/072637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の磁気記録密度の向上に伴う品質要求の高度化、及び工業的な生産形態における多数回研磨において、生産性を向上させながら、スクラッチとうねりの低減を図ることが求められていた。ここで、うねりには、長波長うねり(500μm~1000μm)、中波長うねり(波長:100~500μm)、及び短波長うねり(波長:20~100μm)があり、特に、長波長うねりは、ヘッドの衝突等の原因となることがあるため、低減することが求められていた。
【0008】
更に磁気記録密度の向上の観点から、新たにハレーション低減も求められている。ここでハレーションとは、基板全表面欠陥検査機((株)日立ハイテクファインシステムズ社製NS2000H)で特定の検査条件において、基板表面の微細な欠陥として検出することができ、ハレーションカウントとして定量評価できるものである(詳細は、後述する)。
【0009】
ハレーションは、基板表面のなんらかの微細な不均一性が基板の広い範囲に存在することに起因する現象と考えられており、その原因としては、研磨パッド、キャリア、基板、及び研磨剤組成物のそれぞれの持つ特性の不調和が考えられている。最近、ハレーションの存在が磁気記録密度の向上の阻害要因として新たに問題となってきており、かかるハレーションの低減が求められている。
【0010】
更に多数回研磨を行うことで、研磨パッドの汚れ等によって研磨速度が低下していくことにより、生産性が低下する問題が生じ、この点についても改良することが目的とされている。
【0011】
そこで、本発明は、磁気ディスク基板に対する多数回研磨において、生産性を向上させつつ、研磨後の磁気ディスク基板の長波長うねりとハレーションを低減することの可能な研磨剤組成物、及び当該研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いることにより、多数回研磨において生産性を向上させつつ、長波長うねりとハレーションを低減させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
[1] 平均一次粒子径が1~100nmのコロイダルシリカと、酸及び/またはその塩と、水とを含有し、25℃におけるpH値が0.1~4.0の範囲にあり、前記コロイダルシリカは、金属ケイ素を原料として、水と反応させることにより合成されたシリカ粒子を少なくとも3質量%以上含有する磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0015】
[2] 前記コロイダルシリカは、前記金属ケイ素を原料として、水と反応させることにより合成されたシリカ粒子を少なくとも10質量%以上含有する前記[1]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0016】
[3] 水溶性高分子化合物を更に含有する前記[1]または[2]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0017】
[4] 前記水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000である前記[3]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0018】
[5] 前記水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000である前記[3]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0019】
[6] 前記水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体、アミド基を有する単量体、及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000である前記[3]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0020】
[7] 前記カルボン酸基を有する単量体は、アクリル酸またはその塩、または、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体である前記[4]~[6]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0021】
[8] 前記アミド基を有する単量体は、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、及びN-アルキルメタクリルアミドから選ばれる1種または2種以上の単量体である前記[4]または[6]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0022】
[9] 前記スルホン酸基を有する単量体は、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスル
ホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる単量体である前記[5]または[6]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0024】
[10] 酸化剤を更に含有する前記[1]~[9]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0025】
[11] 前記[1]~[10]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いた磁気ディスク基板の研磨方法であって、アルミニウム合金基板の基板表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気ディスク基板を研磨対象とし、前記磁気ディスク基板に対して複数回の研磨工程を繰り返す多段研磨方式が採用され、前記磁気ディスク基板に対する最終研磨工程で前記磁気ディスク基板用研磨剤組成物を用いる磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の研磨剤組成物は、固体中のAl含有量が100mg/kg以下のシリカ粒子、或いは金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子を含有するコロイダルシリカと、水とを含有し、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面を研磨する際に、多数回研磨において研磨速度を向上させながら、研磨後の基板の長波長うねりとハレーションを低減し、生産性と基板の面品質向上に寄与する優れた効果を奏する。加えて、本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、かかる研磨剤組成物を用いることで上記効果を奏する磁気ディスク基板の研磨が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範疇に入ることが理解されるべきである。
【0028】
1.研磨剤組成物
本発明の研磨剤組成物(磁気ディスク基板用研磨剤組成物)は、必須成分として固体中のAl含有量100mg/kg以下であるシリカ粒子或いは金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子を含有するコロイダルシリカと、水とを含有する研磨剤組成物であり、好ましくは水溶性高分子化合物を含有し、その他の任意成分として酸及び/またはその塩、酸化剤を含有して構成されるものである。
【0029】
1.1 コロイダルシリカ
本発明の研磨剤組成物に使用されるコロイダルシリカは、固体中のAl含有量が100mg/kg以下であるシリカ粒子を少なくとも3質量%以上含有するものである。或いは、金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子を少なくとも3質量%以上含有するものである。
【0030】
以下に金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子について説明する。ここ、金属ケイ素と水からシリカが生成する反応は、例えば、特許文献6にはアルカリ触媒の存在下で以下に示す式(1)~(3)のように、水素ガス発生を伴いながら進行することが開示されている。
【0031】
溶解反応 :Si + 2OH- + H2O → SiO3
2- + 2H2↑(1)
重合反応 :SiO3
2- + H2O → SiO2 +2OH- (2)
総括反応式:Si + 2H2O → SiO2 + 2H2↑ (3)
【0032】
上記の反応が完全に進行すれば、式(3)に示すように、アルカリ触媒の存在下で、金属ケイ素からコロイダルシリカが生成し、この場合、金属ケイ素1molに対し水2molが消費され、1molのシリカと2molの水素が生成することになる。
【0033】
原料の金属ケイ素は、合成反応をスムーズに進行させるため、通常、予め平均粒径が1mm以下となるように微細化された粉体として反応器に純水と共に供給される。合成反応を円滑に進行させため、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ触媒を添加し、60~100℃の温度で合成反応を進行させ、5~150nmの微細シリカ粒子が分散したスラリーを得る。
【0034】
原料の金属ケイ素が溶解していく過程で、重金属等の不純物は、不溶分として分離される。その結果、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムを原料とする水ガラス法で得られるコロイダルシリカよりも金属不純物の少ないコロイダルシリカが得られる。本発明の研磨剤組成物において、金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子は、固体中のAl含有量が100mg/kg以下であり、好ましくは80mg/kg以下、更に好ましくは50mg/kg以下であるものが使用される。
【0035】
金属不純物の少ないコロイダルシリカの製造方法としては、例えば、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを酸またはアルカリで加水分解するアルコキシシラン法があることが知られている。本発明の研磨剤組成物に使用される金属ケイ素を原料とするコロイダルシリカは、上記のアルコキシシラン法に比べ安価に製造することが可能であり、コスト的に有利である。
【0036】
コロイダルシリカは、金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子を少なくとも3質量%以上含有し、好ましくは10質量%以上含有し、更に好ましくは20質量%以上含有する。金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子と、水ガラス法によって製造されたコロイダルシリカ、アルコキシシラン法によって製造されたコロイダルシリカ等との混合物も必要に応じて適宜使用できる。
【0037】
本発明の研磨剤組成物に使用されるコロイダルシリカの平均一次粒子径は1~100nmであり、好ましくは3~80nmである。ここで、平均一次粒子径を1nm以上とすることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。一方、平均一次粒子径を100nm以下とすることにより、研磨後の磁気ディスク基板の表面平滑性の悪化を抑制することができる。
【0038】
コロイダルシリカの形状は、球状、金平糖型(表面に凸部を有する粒子状)、異形型等の形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。本発明で使用されるコロイダルシリカとしては、球状、または球状に近いコロイダルシリカが好ましい。球状、または球状に近いコロイダルシリカを用いることで、表面平滑性をより向上させることができる。
【0039】
1.2 水溶性高分子化合物
本発明で使用される水溶性高分子化合物は、好ましくはカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、更に好ましくは(a)カルボン酸基を有する単量体及びアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体、(b)カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体、(c)カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体等を挙げることができる。
【0040】
1.2.1 カルボン酸基を有する単量体
カルボン酸基を有する単量体としては、不飽和脂肪族カルボン酸及びその塩が好ましく用いられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸及びこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0041】
水溶性高分子化合物中で、カルボン酸基を有する単量体が、酸の状態で存在する割合が多いか、塩の状態で存在する割合が多いかについては、水溶性高分子化合物のpH値で評価できる。酸として存在する割合が多ければpH値は低くなるし、塩として存在する割合が多ければpH値は高くなる。本発明においては、例えば、濃度10質量%の水溶性高分子化合物水溶液における25℃におけるpH値が0.1~13.0の範囲の水溶性高分子化合物を用いることができる。
【0042】
1.2.2 アミド基を有する単量体
アミド基を有する単量体の具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド等を使用することができる。N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドの具体例としては、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-iso-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-iso-プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0043】
1.2.3 スルホン酸基を有する単量体
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。好ましくは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0044】
1.2.4 共重合体
本発明の研磨剤組成物に好ましく含有されるカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体について説明する。
【0045】
ここで、水溶性高分子化合物が、(a)カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の場合、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位のモル比は50~95mol%が好ましく、60~93mol%が更に好ましい。アミド基を有する単量体に由来する構成単位のモル比は、5~50mol%が好ましく、7~40mol%が更に好ましい。
【0046】
一方、水溶性高分子化合物が、(b)カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の場合、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位のモル比は30~95mol%が好ましく、40~90mol%が更に好ましい。スルホン酸基を有する単量体のモル比は、5~70mol%が好ましく、10~60mol%が更に好ましい。
【0047】
更に、水溶性高分子化合物が、(c)カルボン酸基を有する単量体、アミド基を有する単量体、及びスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の場合、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位のモル比は、50~95mol%が好ましく、60~93mol%がより好ましく、70~90mol%が更に好ましい。アミド基を有する単量体に由来する構成単位のモル比は、1~40mol%が好ましく、3~30mol%がより好ましく、5~20mol%が更に好ましい。スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位のモル比は、0.01~20mol%が好ましく、0.1~10mol%がより好ましく、0.2~5mol%が更に好ましい。
【0048】
1.2.5 水溶性高分子化合物の製造方法
本発明の研磨剤組成物において使用される水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、例えば、水溶液重合法を用いて水溶性高分子化合物を製造することが好ましい。水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。
【0049】
上記の水溶液重合法における重合溶媒としては、水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。また、上記単量体成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。上記有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
以下に、上記水性溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法を説明する。重合反応では、公知の重合開始剤を使用できるが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
【0051】
ここで、ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用しても、または2種類以上併用してもよい。
【0052】
上述した過酸化物系のラジカル重合開始剤の中でも、生成する水溶性高分子化合物の分子量の制御が容易に行えることから、過硫酸塩やアゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリルが特に好ましい。
【0053】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1~15質量%、特に0.5~10質量%の質量比で使用することが好ましい。この質量比を0.1質量%以上にすることにより、共重合率を向上させることができ、15質量%以下にすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。
【0054】
更に、製造条件によっては、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば、上記の過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や鉄明礬、カリ明礬等の組み合わせを挙げることができる。
【0055】
更に、水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノール及びチオフェノール等が挙げられる。
【0056】
また、水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、重合温度は60~100℃で行うのが好ましい。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで着色を抑制することができる。
【0057】
更に、重合反応は、加圧または減圧下に行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。重合時間は2~20時間、特に3~10時間で行うことが好ましい。
【0058】
所定の重合時間による重合反応後、必要に応じて塩基性化合物で中和する処理を行う。なお、中和に使用する塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。
【0059】
中和後の25℃におけるpH値は、水溶性高分子化合物濃度が10質量%の水溶液の場合、2~9が好ましく、更に好ましくは3~8である。
【0060】
1.2.6 重量平均分子量
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、好ましくは1,000~1,000,000であり、より好ましくは2,000~800,000であり、更に好ましくは3,000~600,000である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものである。水溶性高分子化合物の重量平均分子量が、1,000未満の場合は、研磨後のうねりが悪化する。また1,000,000を超える場合には、水溶液の粘度が高くなり取扱いが困難になる。
【0061】
1.2.7 濃度
研磨剤組成物中の水溶性高分子化合物の濃度は、固形分換算で好ましくは0.0001~3.0質量%であり、より好ましくは0.0005~2.0質量%であり、更に好ましくは0.001~1.0質量%である。水溶性高分子化合物の濃度が0.0001質量%より少ない場合には、水溶性高分子化合物の添加効果が十分に得られず、3.0質量%より多い場合には、水溶性高分子化合物の添加効果は頭打ちとなり、必要以上の水溶性高分子化合物を添加することになるので、経済的でない。
【0062】
1.3 酸及び/またはその塩
研磨剤組成物のpH値調整のために、または任意成分として、酸及び/またはその塩を使用することができる。使用される酸及び/またはその塩としては、無機酸及び/またはその塩と有機酸及び/またはその塩が挙げられる。
【0063】
無機酸及び/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸及び/またはその塩が挙げられる。
【0064】
有機酸及び/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸及び/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸及び/またはその塩、有機ホスホン酸及び/またはその塩が挙げられる。これらの酸及び/またはその塩は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0065】
有機ホスホン酸及び/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0066】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩の組み合わせ、リン酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩の組み合わせ等が挙げられる。
【0067】
1.4 酸化剤
本発明の研磨剤組成物は、研磨促進剤として酸化剤を含有してもよい。酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、これらの酸化剤を2種以上混合したもの等を用いることができる。
【0068】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸及びその塩、次亜塩素酸及びその塩等が好ましく、更に好ましくは過酸化水素である。
【0069】
研磨剤組成物中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1~5.0質量%である。ここで、本発明の研磨剤組成物は、上記成分の他に、緩衝剤、防かび剤、防菌剤等を含有してもよい。
【0070】
1.5 物性
発明の研磨剤組成物の25℃におけるpH値(以下、「pH値(25℃)」と称す。)は0.1~4.0であることが好ましく、より好ましくは0.5~3.0である。研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。研磨剤組成物のpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。無電解ニッケル-リンめっきにおいて、pH値(25℃)が4.0以下の条件ではニッケルが溶解傾向に向かうため、めっきが進行しにくくなる。一方、研磨においては、例えば、pH値(25℃)が4.0以下の条件下でニッケルが溶解傾向となるため、本発明の研磨剤組成物を用いることにより、研磨速度を高めることが可能になる。
【0071】
2.磁気ディスク基板の研磨方法
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、アルミニウム合金基板の基板表面に無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板(以下、「アルミディスク」と称す。)やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。特に、本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、磁気ディスク基板に対して複数回の研磨工程を繰り返す多段研磨方式を採用し、磁気ディスク基板に対する最終研磨工程でかかる研磨剤組成物を用いる、アルミディスク等の磁気ディスク基板での研磨に適している。
【0072】
本発明の研磨剤組成物を適用することが可能な研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨対象物(例えばアルミディスク)の研磨する表面または研磨パッドに研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦り付ける方法(ポリッシングと呼ばれている)がある。例えば、アルミディスクのおもて面と裏面を同時に研磨する場合には、上定盤及び下定盤それぞれに研磨パッドを貼り付けた両面研磨機を用いる方法がある。この方法では、上定盤及び下定盤に貼り付けた研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給し、2つの研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミディスクのおもて面と裏面を研磨する。研磨パッドは、ウレタンタイプ、スウェードタイプ、不織布タイプ、その他いずれのタイプも使用することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0074】
以下の各実施例、各比較例の研磨においては、あらかじめ粗研磨された無電解ニッケル-リンめっきアルミニウム合金基板(以下、単に「基板」と記載することもある)を用意して、1回目から900回目まで連続して仕上げ研磨を実施した。この連続仕上げ研磨における途中の20回目と300回目、及び最後の900回目の基板について、仕上げ研磨した際の研磨速度と基板表面の長波長うねり及びハレーションの評価結果を表2~4に示し、各実施例及び比較例における、仕上げ研磨工程の研磨速度、長波長うねり及びハレーションの推移を比較した。以下、具体的に説明する。
【0075】
(研磨剤組成物の調製方法)
実施例1~16、及び比較例1~6で使用した研磨剤組成物は、表1の材料を表1に記載した含有量で含んだ研磨剤組成物である。これらの研磨剤組成物を使用して研磨試験を行った研磨を表2~4に示す。
【0076】
【0077】
(水溶性高分子化合物の重量平均分子量)
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものであり、以下にGPC測定条件を示す。
GPC条件
カラム:TSKgel G4000PWXL(東ソー製)+G2500PWXL(東ソー製)+SHODEX OHpak SB-806M-HQ(昭和電工製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(容積比)
流速:1.0mL/min
温度:40℃
検出:示差屈折率(RI)
サンプル:濃度0.1wt%(注入量100μL)
検量線用ポリマー:ポリアクリル酸 分子量(Mp)11.5万、2.8万、4100、
1250(創和科学(株)、American Polymer Standards Corp.)
【0078】
(シリカ粒子の粒径測定方法)
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均一次粒子径は、前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて算出した平均一次粒子径(D50)である。
【0079】
(コロイダルシリカのAl含有量の測定方法)
コロイダルシリカのAl含有量は、コロイダルシリカを含む分散液を乾燥した後、固形分をすべて溶解した後、ICP発光分光分析装置を用いてコロイダルシリカ固形分中のAl含有量を測定した。
【0080】
(研磨条件)
無電解ニッケル-リンめっき被膜を形成した外径95mmのアルミニウム磁気ディスク基板(基板)を粗研磨したものを研磨対象として多数回研磨を行った。
研磨機:スピードファム(株)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製 P2用パッド
定盤回転数:上定盤 -8.3min-1
下定盤 25.0min-1
研磨剤組成物供給量: 50ml/min
研磨時間: 300秒
加工圧力: 14kPa
【0081】
各成分を混合して研磨剤組成物を調製した後、目開き0.45μmのフィルターを通して研磨機に導入し、研磨試験を実施した。なお、研磨試験の評価は、多数回研磨の20回目、300回目、900回目における研磨速度と長波長うねりとハレーションについて行った。
【0082】
<研磨したディスク表面の評価>
(研磨速度比)
研磨速度は、研磨後に減少したアルミニウム磁気ディスク基板の質量を測定し、下記式に基づいて計算した。
研磨速度(mg/min)=アルミニウム磁気ディスク基板の質量減少(mg)/研磨時間(min)
【0083】
研磨速度比は、比較例で20回目の基板を研磨した時に上記式を用いて求めた研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。なお、表2においては比較例1で20回目の基板を研磨した時の値を1とし、表3においては比較例3で20回目の基板を研磨した時の値を1とし、表4においては比較例5で20回目の基板を研磨した時の値を1とした。
【0084】
(研磨後の基板表面の長波長うねり評価方法)
基板の長波長うねりは、アメテック(株)製、3次元光学プロファイラーNew View 8300 を使用して測定した。
測定条件は以下の通りである。
レンズ 1.4倍 ZWF型
ZOOM 2.0倍
Measurement Type Surface
Measure Mode CSI
Scan Length 5μm
Camera Mode 1024×1024
Filter Band Pass
Cut Off Short 500.000μm
Long 1000.000μm
測定ポイント
半径 30.00mm
角度 30°毎に12点
【0085】
長波長うねり比は、比較例で20回目の基板を研磨した時に上記方法を用いて求めた値を1(基準)とした場合の相対値である。尚、表2においては比較例1で20回目の基板を研磨した時の値を1とし、表3においては比較例3で20回目の基板を研磨した時の値を1とし、表4においては比較例5で20回目の基板を研磨した時の値を1とした。
【0086】
(研磨後の基板表面のハレーション評価方法)
ハレーションは、基板全表面欠陥検査機(株)日立ハイテクファインシステムズ社製NS2000Hを使用して測定した。測定条件は以下の通りである。
【0087】
<測定条件>
PMT/APD Power Control Voltage
Hi-Light 1 OFF
Hi-Light 2 821V
Scan Pitch 3μm
Inner/Outer Radius 18.0000-47.0000mm
Positive Level 77mV
H2 White Spot Level 80.0mV
【0088】
ハレーションは、上記検査条件において、基板表面に微細な欠陥として検出され、ハレーションカウントとして定量評価できる。
【0089】
(ハレーション比)
ハレーション比は、比較例で20回目の基板を研磨した時に上記方法を用いて求めたハレーションカウントを1(基準)とした場合の相対値である。なお、表2では比較例1で20回目の基板を研磨した時の値を1とし、表3では比較例3で20回目の基板を研磨したときの値を1とし、表4では比較例5で20回目の基板を研磨した時の値を1とした。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
<考察>
表2の実施例1と比較例1との対比から、固体中のAl含有量が100mg/kg以下であるシリカ粒子或いは金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子を含有するコロイダルシリカを使用することにより、多数回研磨において研磨速度の低下が抑制され、長波長うねりが改善され、ハレーションも改善されることがわかる。
【0094】
実施例2は、固体中のAl含有量が100mg/kg以下であるシリカ粒子或いは金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子の質量比が実施例1よりも多くなった実施例であるが、この場合も比較例1より研磨速度、長波長うねり、及びハレーションのバランスが優れていることがわかる。同様のことがコロイダルシリカ全体のD50が異なる実施例3と比較例2の対比においても言える。
【0095】
表3の実施例4と比較例3の対比から、研磨剤組成物がアクリル酸単独重合体を含有する場合においても、固体中のAl含有量が100mg/kg以下であるシリカ粒子あるいは金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子を含有するコロイダルシリカを使用することにより、多数回研磨において研磨速度の低下が抑制され、長波長うねりが改善され、ハレーションも改善されることがわかる。
【0096】
実施例5は、固体中のAl含有量が100mg/kg以下であるシリカ粒子あるいは金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子の質量比が実施例4よりも多くなった実験例であるが、この場合も比較例3より研磨速度、長波長うねり、ハレーションのバランスが優れていることがわかる。同様のことがコロイダルシリカ全体のD50が異なる実施例6と比較例4の対比においても言える。
【0097】
表4の実施例7と比較例5の対比から、研磨剤組成物がアクリル酸/N-tert-ブチルアクリルアミド共重合体を含有する場合でも、固体中のAl含有量が100mg/kg以下であるシリカ粒子あるいは金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子を含有するコロイダルシリカを使用することにより、多数回研磨において研磨速度の低下が抑制され、長波長うねりとハレーションも改善されることがわかる。
【0098】
なお、実施例1と実施例4の対比、更には実施例4と実施例7の対比から、研磨剤組成物がアクリル酸単独重合体を含有することにより、更にはアクリル酸系共重合体を含有することにより、多数回研磨において研磨速度の低下が抑制されることがわかる。
【0099】
実施例8、9、10は、実施例7において固体中のAl含有量が100mg/kg以下であるシリカ粒子あるいは金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子が全コロイダルシリカに占める質量比を増加させた実験例であるが、多数回研磨において研磨速度は更に向上し、長波長うねりとハレーションは更に改善されている。
【0100】
実施例11、12は、実施例7において水溶性高分子化合物の重量平均分子量を増大させた実験例であり、実施例13、14は、実施例10において水溶性高分子化合物の重量平均分子量を増大させた実験例である。
【0101】
実施例12と比較例6の対比から、研磨剤組成物中の水溶性高分子化合物の重量平均分子量が大きい場合でも、固体中のAl含有量が100mg/kg以下であるシリカ粒子あるいは金属ケイ素を原料として合成されたシリカ粒子を含有するコロイダルシリカを使用することにより、多数回研磨において研磨速度の低下が抑制され、長波長うねりとハレーションが改善されることがわかる。
【0102】
実施例15は実施例7において、研磨剤組成物中の水溶性高分子化合物をアクリル酸/N-tert-ブチルアクリルアミド共重合体からアクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体に変更した実験例である。
【0103】
実施例16は実施例7において、研磨剤組成物中の水溶性高分子化合物をアクリル酸/N-tert-ブチルアクリルアミド共重合体からアクリル酸/N-tert-ブチルアクリルアミド/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体に変更した実験例である。
【0104】
以上のことから、本発明の研磨剤組成物を用いることにより、多数回研磨において研磨速度の低下が抑制され、長波長うねりとハレーションが改善されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体等の電子部品の研磨に使用することができる。特に、ガラス磁気ディスクやアルミニウム磁気ディスク等の磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。更には、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム基板の表面研磨に使用することができる。