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特許7356899液晶光偏向素子及び液晶光偏向素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】液晶光偏向素子及び液晶光偏向素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20230928BHJP
   G02F 1/1343 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1343
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019236025
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105648
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520272868
【氏名又は名称】武漢天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100183955
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悟郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【弁理士】
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】慶長 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲史
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-032313(JP,A)
【文献】特開平02-179615(JP,A)
【文献】特開2016-062100(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0160381(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1343
G02F 1/1368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極を有する第1基板と、
第2電極を有する第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板とに挟持される液晶と、を備え、
前記第1電極と前記第2電極のうちの少なくとも一方の上に、高抵抗層が設けられ、
前記高抵抗層が、金属酸化物から形成された第1バリア層、金属窒化物又は金属炭化物から形成された第2バリア層の順に覆われ、
前記高抵抗層の表面が、前記第1バリア層により、前記第1バリア層から露出しない状態に覆われている、
液晶光偏向素子。
【請求項2】
前記第2バリア層と前記高抵抗層が接しない、
請求項1に記載の液晶光偏向素子。
【請求項3】
前記第1電極と前記第2電極のうちの少なくとも一方が、金属窒化物又は金属炭化物から形成された第3バリア層の上に、設けられている、
請求項1又は2に記載の液晶光偏向素子。
【請求項4】
前記第1バリア層が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコニウムのうちの少なくとも1つから形成されている、
請求項1からのいずれか1項に記載の液晶光偏向素子。
【請求項5】
前記第2バリア層が、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素、炭化窒化ケイ素、炭化ケイ素のうちの少なくとも1つから形成されている、
請求項1からのいずれか1項に記載の液晶光偏向素子。
【請求項6】
第1電極を有する第1基板と、第2電極を有する第2基板と、前記第1基板と前記第2基板とに挟持される液晶とを備え、前記第1電極と前記第2電極のうちの少なくとも一方の上に高抵抗層が設けられ、前記高抵抗層が、第1バリア層、第2バリア層の順に覆われている液晶光偏向素子の製造方法であって、
前記第1バリア層を、金属酸化物から、前記高抵抗層の表面が露出しない状態に前記高抵抗層を覆って形成する工程と、
前記第2バリア層を、前記第1バリア層の上に、金属窒化物又は金属炭化物から形成する工程と、を含む、
液晶光偏向素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液晶光偏向素子及び液晶光偏向素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶の配向の変化により光の偏向効果を生じ、レンズ、プリズム等として作用する液晶光偏向素子が知られている。例えば、特許文献1は、第1の電極を有する第1の基板と、第2の電極と、第1の基板と第2の電極との間に収納された液晶層とを備える、低電圧駆動液晶レンズを開示している。特許文献1の低電圧駆動液晶レンズでは、電圧が第1の電極と第2の電極との間に加えられることにより、液晶層の配向が変化する。その結果、光の偏向効果が低電圧駆動液晶レンズに生じ、低電圧駆動液晶レンズは凸レンズ又は凹レンズとして光に作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-17742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、第2の電極と液晶層との間に配置された透明絶縁層の液晶層に面する側に高抵抗層を配置することにより、液晶レンズの駆動電圧を低下させている。特許文献1の低電圧駆動液晶レンズでは、高抵抗層が酸化亜鉛、酸化チタン等から形成されているので、高抵抗層が水分、熱等により劣化して、光の偏向効果(すなわち焦点距離)が経時変化するおそれがある。
【0005】
本開示は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、光の偏向効果の経時変化を抑制できる液晶光偏向素子及び液晶光偏向素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、第1観点に係る液晶光偏向素子は、
第1電極を有する第1基板と、
第2電極を有する第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板とに挟持される液晶と、を備え、
前記第1電極と前記第2電極のうちの少なくとも一方の上に、高抵抗層が設けられ、
前記高抵抗層が、金属酸化物から形成された第1バリア層、金属窒化物又は金属炭化物から形成された第2バリア層の順に覆われ
前記高抵抗層の表面が、前記第1バリア層により、前記第1バリア層から露出しない状態に覆われている。
【0007】
第2観点に係る液晶光偏向素子の製造方法は、
第1電極を有する第1基板と、第2電極を有する第2基板と、前記第1基板と前記第2基板とに挟持される液晶とを備え、前記第1電極と前記第2電極のうちの少なくとも一方の上に高抵抗層が設けられ、前記高抵抗層が、第1バリア層、第2バリア層の順に覆われている液晶光偏向素子の製造方法であって、
前記第1バリア層を、金属酸化物から、前記高抵抗層の表面が露出しない状態に前記高抵抗層を覆って形成する工程と、
前記第2バリア層を、前記第1バリア層の上に、金属窒化物又は金属炭化物から形成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
高抵抗層が、金属酸化物から形成された第1バリア層、金属窒化物又は金属炭化物から形成された第2バリア層の順に覆われているので、光の偏向効果の経時変化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係る液晶光偏向素子の断面を示す模式図である。
図2】実施形態1に係る第2基板を示す上面図である。
図3】実施形態1に係る液晶光偏向素子の動作を説明するための模式図である。
図4】実施形態1に係る液晶光偏向素子の製造方法を示すフローチャートである。
図5】実施形態2に係る液晶光偏向素子の断面を示す模式図である。
図6】実施形態2に係る第2基板を示す上面図である。
図7】実施形態2に係る液晶光偏向素子の動作を説明するための模式図である。
図8】変形例に係る液晶光偏向素子の断面を示す模式図である。
図9】変形例に係る第2基板の第2電極を示す図である。
図10】変形例に係る第1基板の第1電極を示す図である。
図11】変形例に係る高抵抗層を示す断面図である。
図12】変形例に係る第1バリア層と第2バリア層を示す断面図である。
図13】変形例に係る第3バリア層を示す断面図である。
図14】実施例に係る液晶光偏向素子の断面を示す模式図である。
図15】実施例と比較例に係る高抵抗層のシート抵抗の評価結果を示す図である。
図16】実施例1に係る焦点距離の評価結果を示す図である。
図17】実施例2に係る焦点距離の評価結果を示す図である。
図18】比較例に係る焦点距離の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に係る液晶光偏向素子について、図面を参照して説明する。
【0011】
<実施形態1>
図1図4を参照して、本実施形態に係る液晶光偏向素子100を説明する。液晶光偏向素子100は、図1に示すように、第1基板10と第2基板20と液晶30とを備える。第1基板10は第1電極12と配向膜15とを有する。第2基板20は、第2電極22、24と、絶縁層26と、高抵抗層40と、第1バリア層50と、第2バリア層60と、配向膜65とを有する。高抵抗層40は、第2電極22、24の上に設けられている。また、高抵抗層40は、第1バリア層50、第2バリア層60の順に覆われている。本実施形態の液晶光偏向素子100は、液晶30の配向の変化により、光の偏向効果が生じ、レンチキュラーレンズとして光に作用する。本実施形態の液晶光偏向素子100は、例えば、液晶表示パネルに装着されて表示画像を平面画像と立体画像に切り替える、レンチキュラーレンズアレイとして使用される。
なお、理解を容易にするため、本明細書では、図1における液晶光偏向素子100の右方向(紙面の右方向)を+X方向、上方向(紙面の上方向)を+Z方向、+X方向と+Z方向に垂直な方向(紙面の手前方向)を+Y方向として説明する。
【0012】
第1基板10は透光性を有する。本実施形態では、第1基板10は可視光を透過する。第1基板10は、例えば平板状のガラス基板である。第1基板10と第2基板20は、シール材70により貼り合わされ、液晶30を挟持する。第1基板10は第1電極12と配向膜15とを有する。
【0013】
第1基板10の第1電極12は、第1基板10の第1主面10aに、ITO(Indium Tin Oxide)から矩形状に形成される。第1電極12は、後述する、第2電極22の櫛歯部22aと第2電極24の櫛歯部24aとに対向する。第1電極12は、図示しない制御部に接続されている。
【0014】
第1基板10の配向膜15は、第1主面10aと第1電極12の上に設けられる。配向膜15は液晶30をX方向に配向させる。配向膜15は、例えば、ラビング処理を施されたポリイミド配向膜である。
【0015】
第2基板20は、第1基板10と同様に、透光性を有する。第2基板20は、例えば、平板状のガラス基板であり、可視光を透過する。第2基板20と第1基板10は、シール材70により貼り合わされ、液晶30を挟持する。第2基板20は、2つの第2電極22、24と、絶縁層26と、高抵抗層40と、第1バリア層50と、第2バリア層60と、配向膜65とを有する。なお、絶縁層26と高抵抗層40と第1バリア層50と第2バリア層60は、可視光を透過する。
【0016】
第2基板20の第2電極22と第2電極24は、ITOから、第2基板20の第1主面20aの上に、櫛歯状に形成される。第2電極22と第2電極24は、図2に示すように、それぞれ、櫛歯部22aと櫛歯部24aを有している。櫛歯部22aは+Y方向に延び、櫛歯部24aは-Y方向に延びる。櫛歯部22aと櫛歯部24aは、X方向に沿って交互に、互いに平行に配置される。
第2電極22、24は、図1、2に示すように、絶縁層26に覆われる。第2電極22、24は、第1電極12と同様に、制御部に接続されている。
【0017】
第2基板20の絶縁層26は、図1に示すように、第2電極22、24を覆う。絶縁層26は、第2電極22、24と高抵抗層40とを絶縁する。絶縁層26は、酸化ケイ素(SiO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(SiN)、フッ化マグネシウム(MgF)等から形成される。絶縁層26は、例えば酸化ケイ素膜である。絶縁層26の厚さは、例えば50nm~1000nmである。
【0018】
第2基板20の高抵抗層40は、絶縁層26を介して、第2電極22、24の上に設けられる。高抵抗層40は、第1バリア層50、第2バリア層60の順に覆われる。高抵抗層40は、例えば、シート抵抗で1×10Ω/sq~1×1014Ω/sqの抵抗値を有している。高抵抗層40は、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫(InSn)酸化物、酸化マグネシウム(MgO)等から形成される。高抵抗層40は、例えばAZO膜である。高抵抗層40の厚さは、例えば20nm~500nmである。
【0019】
第2基板20の第1バリア層50は高抵抗層40を覆う。第1バリア層50は、図1に示すように、高抵抗層40の上面(+Z側の面)だけでなく側面まで覆うことが好ましい。また、第1バリア層50は、高抵抗層40の表面が第1バリア層50から露出しない状態に覆うことが好ましい。第1バリア層50は、後述するように、第2バリア層60を形成する場合に高抵抗層40を保護する。
【0020】
第1バリア層50は、金属酸化物から形成される。金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム(AlO)、酸化タンタル(TaO)、酸化ニオブ(NbO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、これらの混合物等が挙げられる。第1バリア層50は、例えば酸化ケイ素膜である。第1バリア層50の厚さは、例えば10nm~500nmである。
【0021】
第2基板20の第2バリア層60は、第1バリア層50と高抵抗層40とを覆う。第2バリア層60は、図1に示すように、第1バリア層50の上面(+Z側の面)だけでなく側面まで覆うことが好ましい。また、第2バリア層60と高抵抗層40は、接しないことが好ましい。第2バリア層60は、金属窒化物又は金属炭化物から形成される。金属窒化物又は金属炭化物としては、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素(SiON)、炭化窒化ケイ素(SiCN)、炭化ケイ素(SiC)、これらの混合物等が挙げられる。第2バリア層60は、例えば窒化ケイ素膜である。第2バリア層60の厚さは、例えば50nm~500nmである。
【0022】
第2バリア層60は、水分に対するバリア性が高い金属窒化物又は金属炭化物から形成されているので、水分から高抵抗層40を保護して、高抵抗層40の劣化を抑制できる。高抵抗層40の劣化を抑制することにより、液晶光偏向素子100の光の偏向効果(焦点距離)の経時変化を抑制できる。金属窒化物又は金属炭化物から形成される第2バリア層60を高抵抗層40の上に直接形成すると、第2バリア層60の形成において生じる分解物(例えば、水素ガス)により高抵抗層40の抵抗値が変化するおそれがある。本実施形態では、第1バリア層50が高抵抗層40を覆っているので、第2バリア層60の成膜過程における高抵抗層40の抵抗値の変化を抑制できる。さらに、液晶光偏向素子100の製造における歩留まりを向上できる。
【0023】
第2基板20の配向膜65は、第2バリア層60の上に設けられる。配向膜65は、第1基板10の配向膜15と同様に、液晶30をX方向に配向させる。配向膜65は、例えば、ラビング処理を施されたポリイミド配向膜である。
【0024】
液晶30は第1基板10と第2基板20に挟持される。液晶30は、例えばポジ型のネマチック液晶である。液晶30は、配向膜15と配向膜65により、X方向に配向されている。
【0025】
ここで、液晶光偏向素子100の動作について説明する。
例えば、制御部によって、第1基板10の第1電極12と、第2基板20の第2電極22、24の電位を同電位(例えば、接地電位)とすると、電圧が液晶30に印加されないので、液晶30はX方向の配向を維持する。液晶30がX方向の配向を維持した状態では、偏向効果が生じないため、液晶光偏向素子100はレンズとして作用しない。
【0026】
一方、第1基板10の第1電極12と第2基板の第2電極22との間に印加する電圧と、第1基板10の第1電極12と第2基板の第2電極24との間に印加する電圧とを個別に制御することにより、二次曲線形状の電位が第1基板10と第2基板20との間に形成される。液晶30の分子Mは、形成された二次曲線形状の電位により、図3に示すように配向する。この液晶30の配向の変化より、二次曲線形状の電位に沿った屈折率分布が液晶光偏向素子100に生じて、偏向効果が液晶光偏向素子100に生じる。そして、液晶光偏向素子100はレンズとして光に作用する。
【0027】
次に、図4を参照して、液晶光偏向素子100の製造方法を説明する。図4は、液晶光偏向素子100の製造方法を示すフローチャートである。液晶光偏向素子100の製造方法は、第1基板10と第2基板20とを準備する工程(ステップS10)と、絶縁層26を形成する工程(ステップS20)と、高抵抗層40を形成する工程(ステップS30)と、第1バリア層50を金属酸化物から形成する工程(ステップS40)と、第2バリア層60を金属窒化物又は金属炭化物から形成する工程(ステップS50)と、を含む。液晶光偏向素子100の製造方法は、さらに、配向膜15と配向膜65を形成する工程(ステップS60)と、第1基板10と第2基板20とを貼り合わせ、液晶30を注入する工程(ステップS70)と、を含む。
【0028】
ステップS10では、第1電極12を形成された第1基板10と、第2電極22、24を形成された第2基板20とを準備する。第1電極12と第2電極22、24は、例えば、ITOからスパッタ法により形成される。
【0029】
ステップS20では、絶縁層26を第2基板20の第2電極22、24の上に形成する。絶縁層26は、例えば、酸化ケイ素からスパッタ法により形成される。
【0030】
ステップS30では、高抵抗層40を絶縁層26の上に形成する。これにより、高抵抗層40は、絶縁層26を介して、第2電極22、24の上に設けられる。高抵抗層40は、例えば、AZOからスパッタ法により形成される。
【0031】
ステップS40では、第1バリア層50を、高抵抗層40の表面が露出しない状態に高抵抗層40を覆って形成する。第1バリア層50は金属酸化物から形成される。第1バリア層50は、例えば、CVD(Chemical Vapar Deposition)により形成される酸化ケイ素膜である。本実施形態では、第1バリア層50が高抵抗層40を覆うので、第2バリア層60の形成(ステップS50)において生じる分解物(例えば、水素ガス)から高抵抗層40を保護して、高抵抗層40の抵抗値の変化を抑制できる。したがって、液晶光偏向素子100の製造における歩留まりを向上できる。
【0032】
ステップS50では、第2バリア層60を、第1バリア層50の上に形成する。これにより、高抵抗層40は、第1バリア層、第2バリア層の順に覆われる。第2バリア層60は金属窒化物又は金属炭化物から形成される。第2バリア層60は、例えば、CVDにより形成される窒化ケイ素膜である。本実施形態では、第2バリア層60が高抵抗層40を覆うので、水分から高抵抗層40を保護し、高抵抗層40の劣化を抑制できる。さらに、液晶光偏向素子100の光の偏向効果(焦点距離)の経時変化を抑制できる。
【0033】
ステップS60では、配向膜15を第1基板10の第1電極12の上に形成し、配向膜65を第2バリア層60の上に形成する。ステップS60では、まず、ポリイミド材料を第1電極12又は第2バリア層60の上に塗布した後、塗布されたポリイミド材料を焼成して、ポリイミド薄膜を形成する。そして、ポリイミド薄膜をラビング処理することにより、配向膜15、65を形成する。
【0034】
ステップS70では、第1基板10と第2基板20とを、図示しないスペーサを介して、シール材70により貼り合わせる。そして、第1基板10と第2基板20との間に、液晶30を注入する。以上により、液晶光偏向素子100を製造できる。
【0035】
以上のように、水分に対して高いバリア性を有する第2バリア層60が、水分から高抵抗層40を保護するので、高抵抗層40の劣化を抑制でき、液晶光偏向素子100の光の偏向効果(焦点距離)の経時変化を抑制できる。また、第1バリア層50が高抵抗層40を覆っているので、第2バリア層60の成膜過程における高抵抗層40の抵抗値の変化を抑制できる。さらに、液晶光偏向素子100の製造における歩留まりを向上できる。
【0036】
高抵抗層40を第1バリア層50のみで覆う場合、水分から高抵抗層40を保護するために、第1バリア層50の厚さを厚くしなければならない。したがって、高抵抗層40を第1バリア層50のみで覆うと、駆動電圧が上昇する。また、第1バリア層50を形成するための時間が長くなる。本実施形態では、第2バリア層60が高抵抗層40を覆うので、第1バリア層50の厚さを薄くできる。したがって、第1バリア層50を形成するための時間を短縮できる。また、液晶光偏向素子100の駆動電圧を下げることができる。さらに、第1バリア層50と第2バリア層60のうちの一方の比誘電率を高くすることにより、液晶光偏向素子100の駆動電圧を容易に下げることができる。
【0037】
<実施形態2>
実施形態1では、液晶光偏向素子100はレンズとして光に作用するが、液晶光偏向素子100はプリズムとして光に作用してもよい。
【0038】
本実施形態の液晶光偏向素子100は、液晶30の配向の変化により、光の偏向効果が生じ、プリズムとして光に作用する。本実施形態では、第2基板20の第2電極22、24と高抵抗層40の構成が、実施形態1の第2基板20の第2電極22、24と高抵抗層40の構成と異なる。本実施形態のその他の構成は、実施形態1と同様である。ここでは、第2基板20の第2電極22、24と高抵抗層40について説明する。
【0039】
本実施形態の第2基板20の第2電極22、24は、実施形態1の第2電極22、24と同様に、ITOから、第2基板20の第1主面20aの上に櫛歯状に形成される。第2電極22と第2電極24は、それぞれ、+Y方向に延びる櫛歯部22aと-Y方向に延びる櫛歯部24aを有している。櫛歯部22aと櫛歯部24aは、実施形態1の櫛歯部22aと櫛歯部24aと同様に、X方向に沿って交互に、互いに平行に配置される。本実施形態では、図5図6に示すように、櫛歯部22aと櫛歯部24aが電極対28を形成し、一方の電極対28の櫛歯部22aと他方の電極対28の櫛歯部24aとが、近接して配置される。なお、図6では、理解を容易にするために絶縁層26を省略している。
【0040】
本実施形態では、図5、6に示すように、第2基板20は2つの高抵抗層40を有する。高抵抗層40のそれぞれは、絶縁層26を介して、1つの電極対28(第2電極22の櫛歯部22aと第2電極24の櫛歯部24a)の上に設けられている。
【0041】
次に、本実施形態の液晶光偏向素子100の動作について説明する。
実施形態1の液晶光偏向素子100と同様に、第1基板10の第1電極12と、第2基板20の第2電極22、24の電位を同電位(例えば、接地電位)とすると、液晶30はX方向の配向を維持する。液晶30がX方向の配向を維持した状態では、偏向効果が生じないため、液晶光偏向素子100はプリズムとして作用しない。
【0042】
一方、第1基板10の第1電極12と第2基板の第2電極22との間に印加する電圧と、第1基板10の第1電極12と第2基板の第2電極24との間に印加する電圧とを個別に制御することにより、1つの電極対28の櫛歯部22aと櫛歯部24aの間に、電位勾配が形成される。例えば、第1電極12を接地電位(0V)とし、第2電極22に第1電圧を、第2電極24に第1電圧よりも大きい第2電圧を印加する。この場合、高抵抗層40が絶縁層26を介して1つの電極対28の上に設けられているので、直線的な電位勾配が1つの電極対28の櫛歯部22aと櫛歯部24aの間に形成される。液晶30の分子Mは、形成された直線的な電位勾配により、図7に示すように配向する。この液晶30の配向の変化より、直線的な屈折率勾配が液晶光偏向素子100に生じて、光の偏向効果が液晶光偏向素子100に生じる。直線的な屈折率勾配が生じているので、本実施形態の液晶光偏向素子100は、第1基板10又は第2基板20から入射する光を屈折させる。すなわち、本実施形態の液晶光偏向素子100はプリズムとして光に作用する。
【0043】
以上のように、本実施形態の液晶光偏向素子100は、液晶30の配向の変化により、光の偏向効果が生じ、プリズムとして光に作用する。また、実施形態1と同様に、水分に対して高いバリア性を有する第2バリア層60が、水分から高抵抗層40を保護するので、高抵抗層40の劣化を抑制でき、液晶光偏向素子100の光の偏向効果(偏向角又は屈折角)の経時変化を抑制できる。第1バリア層50が高抵抗層40を覆っているので、第2バリア層60の成膜過程における高抵抗層40の抵抗値の変化を抑制でき、液晶光偏向素子100の製造における歩留まりを向上できる。さらに、実施形態1と同様に、第1バリア層50を形成するための時間を短縮でき、液晶光偏向素子100の駆動電圧を下げることができる。
【0044】
<変形例>
以上、実施形態を説明したが、本開示は、要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0045】
実施形態1、2では、第2基板20の第2電極22、24の上に設けられた高抵抗層40が、第1バリア層50、第2バリア層60の順に覆われている。高抵抗層40は、第1基板10の第1電極12と第2基板20の第2電極22、24うちの少なくとも一方の上に設けられ、第1バリア層50、第2バリア層60の順に覆われていればよい。例えば、図8に示すように、第1電極12の上に設けられた高抵抗層40と第2電極22、24の上に設けられた高抵抗層40が、それぞれ、第1バリア層50、第2バリア層60の順に覆われてもよい。
【0046】
また、第1基板10と第2基板20に設けられる電極の形状は、任意である。例えば、実施形態1の第2基板20は、第2電極22、24に代えて、図9に示す、開口72aを有する第2電極72を有してもよい。この場合、液晶光偏向素子100は、1つの凸レンズ又は凹レンズとして光に作用する。
【0047】
さらに、実施形態1の第1基板10は、第1電極12に代えて、図10に示す、2つの櫛歯状の第1電極74、76を有してもよい。第1電極74と第1電極76は、それぞれ、櫛歯部74aと櫛歯部76aを有している。高抵抗層40が第1電極74、76の上に設けられている。また、高抵抗層40は、第1バリア層50、第2バリア層60の順に覆われている。この場合、液晶光偏向素子100はマイクロレンズとして光に作用する。さらに、この液晶光偏向素子100は、向きを二方向に切り換えられるレンチキュラーレンズとしても機能する。
【0048】
実施形態1の高抵抗層40は、図11に示すように、複数に分かれていてもよい。また、実施形態2では、1つの高抵抗層40が、絶縁層26を介して、2つの電極対28の上に設けられてもよい。さらに、第1バリア層50と第2バリア層60は、図12に示すように、高抵抗層40の側面を覆わなくともよい。
【0049】
第2電極22、24は第2基板20の第1主面20aに設けられているが、第2電極22、24は、図13に示すように、第2基板20の第1主面20aに設けられた第3バリア層80の上に形成されてもよい。第3バリア層80は、第2バリア層60と同様に、金属窒化物又は金属炭化物から形成される。これにより、第2基板20が水分を通しやすい基板(例えばプラスチック基板)であっても、高抵抗層40を保護できる。
【0050】
実施形態1、2では、配向膜15、65は液晶30をX方向に配向させているが、配向膜15、65が液晶30を配向させる方向はX方向に限られない。実施形態1、2の配向膜15、65は、液晶30をホモジニアス配向させればよい。例えば、配向膜15、65は液晶30をY方向に配向させてもよい。
【0051】
以上、好ましい実施形態について説明したが、本開示は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲が含まれる。
【実施例
【0052】
以下の実施例により、本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は実施例によって限定されるものではない。
【0053】
実施例として、図14に示す、実施形態1の液晶光偏向素子100を作製した。作製された液晶光偏向素子100に対して高温高湿評価を実施した。具体的には、作製された液晶光偏向素子100を、所定時間、60℃、湿度90%の環境下に曝した後、高抵抗層40のシート抵抗と液晶光偏向素子100の焦点距離とを測定した。また、比較例として、第1バリア層50と第2バリア層60とを備えないことを除き、実施例と同様の構成を有する液晶光偏向素子を作製した。比較例の液晶光偏向素子についても、実施例と同様に、高温高湿評価を実施した。
【0054】
実施例の液晶光偏向素子100と比較例の液晶光偏向素子の各部を構成する材料と厚さを、表1に示す。なお、実施例1の液晶光偏向素子100と実施例2の液晶光偏向素子100では、高抵抗層40を構成するAZOの組成比が異なる。比較例1の液晶光偏向素子と比較例2の液晶光偏向素子でも、高抵抗層40を構成するAZOの組成比が異なる。
【0055】
【表1】
【0056】
また、第2電極22の櫛歯部22aの幅D1を10μmとし、第2電極24の櫛歯部24aの幅D2を116.9μmとし、櫛歯部22aと櫛歯部24aとの間隔D3を10μmとした。さらに、液晶30の厚さD4を20μmとした。
【0057】
焦点距離は、周波数1~1500Hzで、第1電極12と第2電極22の櫛歯部22aとの間に5Vの電圧を、第1電極12と第2電極24の櫛歯部24aとの間に1.5Vの電圧を印加して、測定した。
【0058】
次に、実施例の液晶光偏向素子100と比較例の液晶光偏向素子の評価結果を説明する。
図15は、実施例と比較例における高抵抗層40のシート抵抗の評価結果を示す。図15に示されているように、実施例1、2の液晶光偏向素子100における高抵抗層40のシート抵抗は、60℃、湿度90%の環境下に2000時間以上曝されても、変化していない。一方、比較例1、2の液晶光偏向素子における高抵抗層40のシート抵抗は、上下に大きく変化している。したがって、高抵抗層40を、金属酸化物から形成された第1バリア層50、金属窒化物又は金属炭化物から形成された第2バリア層60の順に覆うことにより、高抵抗層40の劣化を抑制できる。
【0059】
図16は実施例1の液晶光偏向素子100における焦点距離の評価結果を示し、図17は実施例2の液晶光偏向素子100における焦点距離の評価結果を示す。また、図18は、比較例1、2の液晶光偏向素子における焦点距離の評価結果を示す。
実施例1、2の液晶光偏向素子100では、図16図17に示すように、焦点距離は、60℃、湿度90%の環境下に2000時間以上曝されても、ほとんど変化していない。一方、比較例1、2の液晶光偏向素子では、図18に示すように、焦点距離が300μm以上変化している。したがって、高抵抗層40を、金属酸化物から形成された第1バリア層50、金属窒化物又は金属炭化物から形成された第2バリア層60の順に覆うことにより、液晶光偏向素子100の焦点距離の経時変化、すなわち光の偏向効果の経時変化を抑制できる。なお、比較例1、2の液晶光偏向素子では、焦点距離を測定できる周波数が変化したため、図18は同一の周波数で測定できた焦点距離を示している。
【0060】
以上のように、高抵抗層40を、金属酸化物から形成された第1バリア層50、金属窒化物又は金属炭化物から形成された第2バリア層60の順に覆うことにより、高抵抗層40の劣化を抑制して、液晶光偏向素子100の光の偏向効果の経時変化を抑制できる。
【符号の説明】
【0061】
10 第1基板、10a 第1主面、12 第1電極、15 配向膜、20 第2基板、20a 第1主面、22,24 第2電極、22a,24a 櫛歯部、26 絶縁層、28 電極対、30 液晶、40 高抵抗層、50 第1バリア層、60 第2バリア層、65 配向膜、70 シール材、72 第2電極、72a 開口、74,76 第1電極、74a,76a 櫛歯部、80 第3バリア層、100 液晶光偏向素子、D1,D2,D3 幅、D4 厚さ、M 分子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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