(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】インパルス電圧発生装置および電力用半導体スイッチの保護方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/14 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01R31/14
(21)【出願番号】P 2019551411
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019006144
(87)【国際公開番号】W WO2020170339
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504325667
【氏名又は名称】株式会社 電子制御国際
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】孫 進通
(72)【発明者】
【氏名】吉満 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】筒井 宏次
(72)【発明者】
【氏名】梅津 潔
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/094189(WO,A1)
【文献】特開2006-234484(JP,A)
【文献】特開2005-304102(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0273498(US,A1)
【文献】国際公開第2013/136793(WO,A1)
【文献】特開昭56-46674(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0107994(KR,A)
【文献】米国特許第4868505(US,A)
【文献】特許第5537721(JP,B1)
【文献】中屋裕貴、中村圭吾、小迫雅裕、匹田政幸、上野崇寿、木崎原智仁、櫻井孝之、吉満哲夫,「インバータ駆動回転機絶縁の国際認証規格対応インパルス電源の開発」,平成27年電気学会全国大会講演論文集[CD-ROM](第2分冊),2015年03月05日,p.79
【文献】匹田政幸、中屋裕貴、小迫雅裕、上野崇寿、池上知巳、櫻井孝幸、中山和久、吉満哲夫,「低圧回転機における繰り返しインパルス電圧印加時の波形と部分放電計測」,平成25年電気学会全国大会講演論文集[CD-ROM](第2分冊),2013年03月05日,pp.74-75
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
G01R 31/34
H02M 9/02-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象に所定の印加周期で繰り返しインパルス電圧を印加するために出力端からインパルス電圧を出力するインパルス電圧発生装置において、
直流電力を供給する入力用直流電源と、
前記入力用直流電源の電圧より高い電圧の直流を発生する高電圧発生器と、
前記高電圧発生器と並列に配されて高電圧状態にまで蓄電可能な容量素子と、
前記高電圧発生器の出力側に、前記高電圧発生器と直列に設けられて、前記高電圧発生器からの出力の遮断および通電を行う電力用半導体スイッチと、
前記試験対象に印加すべき前記インパルス電圧の
前記所定の印加周期に対応する繰り返し周波数の矩形波を前記電力用半導体スイッチのゲート部に出力する関数発生器と、
前記出力端における出力電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器からの電流信号を受けて前記所定の印加周期に比べて十分に短いサンプリング時間間隔でアナログ・ディジタル変換を行い、前記出力電流の値を監視し、異常と判定すれば前記関数発生器から前記電力用半導体スイッチへの出力を遮断する過電流保護回路と、
を備え、
前記過電流保護回路は、
前記電流検出器からの前記電流信号を前記インパルス電圧の前記所定の印加周期に比べて短い周期でアナログ・ディジタル変換する高速A/D変換部と、
前記高速A/D変換部からのディジタル化された前記電流信号とクロックからの時刻信号とを受けて、各電流の応答波形を蓄積する記憶装置と、
前記高速A/D変換部からのディジタル化された前記電流信号を受け入れて、第1の規定値を超えたか否かを判定し、前記第1の規定値を超えたと判定されない場合は、受け入れた前記電流信号の前記応答波形の多次元ベクトルと、前記記憶装置に蓄積された前記応答波形のうちの初期の電流の前記応答波形の多次元ベクトルとの差ベクトルの絶対値が規定値より大きいか否かを判定し、前記第1の規定値を超えたと判定した場合または前記差ベクトルの絶対値が前記規定値より大きいと判定した場合にその旨を出力するロジック演算・判定部と、
前記ロジック演算・判定部からの出力を受けて、前記関数発生器から前記電力用半導体スイッチへの出力を遮断するトリガ信号遮断回路と、
を有することを特徴とするインパルス電圧発生装置。
【請求項2】
前記ロジック演算・判定部は、前記インパルス電圧の出力時に対する検出電流の遅れが、第2の規定値以上であるか否を判定する部分を有することを特徴とする請求項1に記載のインパルス電圧発生装置。
【請求項3】
前記過電流保護回路は、前記電流検出器の側とのインピーダンスマッチングを行う入力整合部をさらに有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインパルス電圧発生装置。
【請求項4】
前記過電流保護回路は、前記高速A/D変換部のサンプリング実行周期を規定するクロックをさらに有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインパルス電圧発生装置。
【請求項5】
試験対象に所定の印加周期で繰り返しインパルス電圧を印加する電力用半導体スイッチの保護方法において、
関数発生器が、前記試験対象に印加すべ
き前記インパルス電圧の
前記所定の印加周期に対応する繰り返し周波数の矩形波を前記電力用半導体スイッチのゲート部に出力することにより、前記インパルス電圧が前記試験対象に印加される印加ステップと、
ロジック演算・判定部が、高速A/D変換部により電流検出器からの電流信号がディジタル化された電流値を読み込む電流値読み込みステップと、
前記ロジック演算・判定部が、読み込んだ電流値が第1の規定値以上であるか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで、読み込んだ電流値が前記第1の規定値以上であると判定した場合は、トリガ信号遮断回路が動作する第1の遮断ステップと、
前記判定ステップで、読み込んだ電流値が前記第1の規定値以上であると判定しなかった場合は、前記ロジック演算・判定部が、記憶装置に蓄積された各電流の応答波形のうちの初期の電流の前記応答波形を読み出してその多次元ベクトルと前記電流値読み込みステップで読み込んだ電流値の前記応答波形の多次元ベクトルとの差ベクトルの絶対値が規定値より大きいか否かを判定し、前記差ベクトルの絶対値が規定値より大きいと判定されない場合は、前記電流値読み込みステップに戻る応答波形判定ステップと、
前記応答波形判定ステップで前記多次元ベクトルの前記差ベクトルの絶対値が前記規定値より大きいと判定された場合、前記トリガ信号遮断回路が動作する第2の遮断ステップと、
を有することを特徴とする電力用半導体スイッチの保護方法。
【請求項6】
前記判定ステップの後で、かつ前記応答波形判定ステップの前に、前記ロジック演算・判定部が、電流発生遅れ時間が第2の規定値以上であるか否かを判定する遅れ時間判定ステップをさらに有し、
前記第2の遮断ステップは、前記遅れ時間判定ステップで電流発生遅れ時間が前記第2の規定値以上であると判定された場合にも、前記トリガ信号遮断回路が動作する、
ことを特徴とする請求項5に記載の電力用半導体スイッチの保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパルス電圧発生装置および電力用半導体スイッチの保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インパルス電圧発生装置は、たとえば、モーターとインバータとケーブルとを具備するインバータ駆動システムに適用される。そのインバータ駆動システムにおいて、インバータは、スイッチング動作により直流電圧をパルス電圧に変換し、そのパルス電圧を、ケーブルを介してモーターに供給する。モーターは、このパルス電圧により駆動される。
【0003】
しかし、インバータ駆動システムでは、インバータとケーブルとモーターとのインピーダンス不整合により、反射波が発生する。その反射波がパルス電圧に重畳することにより、ケーブルとモーターとの間の部分、特に、ケーブルとモーターとの接続部で、高電圧ノイズが発生する可能性がある。この高電圧ノイズを雷サージと区別するために、ここではインバータサージと呼ぶ。
【0004】
そこで、インバータ駆動システムを評価する試験の1つとして、インバータサージを模擬的に発生させて、たとえば負荷として上記接続部に印加する試験がある。特に、模擬的なインバータサージとしてインパルス電圧を繰り返し発生させて、そのインパルス電圧を負荷に印加する期間と、そのインパルス電圧を発生させない期間とを交互に行う試験がある。この試験を実現するために、放電ギャップを用いたインパルス電圧発生装置が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最新IEC規格の確証試験では、数kVの電圧で、数kHzの繰り返しインパルス電源が必須となる。先行技術では、繰り返しインパルスを発生させるため、放電球ギャップが使用されていた。この球ギャップにおいては、故障はしにくいが、同じ波形を等時間間隔で、正確に発生させることが難しいという問題があった。
【0007】
このため、繰り返しインパルスを正確に発生させるために、パワー半導体スイッチを組み込む方法が提案されている。たとえば、電源とインバータとの間に、パワー半導体スイッチを組み込むとともに、並列に保護放電回路を設ける例がある(特許文献1)。
【0008】
通常、電源側には、過電流継電器などの保護回路が設けられている。また、電源装置には、通常、異常な電流が流れた場合に、たとえば、出力電圧を抑制するなどの保護動作がなされる。
【0009】
しかしながら、前述のインパルス電圧発生装置の回路では、負荷側に印加されるインパルス電圧は、キャパシタからの放電により生ずるものであり、このインパルス電圧には、電源装置側の状態は殆ど影響しない。したがって、電源側の保護動作は、パワー半導体スイッチを流れる過電流に対しては、効果が無い。
【0010】
そこで、本発明は、インパルス電圧発生装置において、パワー半導体スイッチが故障するに至る状態を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明に係るインパルス電圧発生装置は、試験対象に所定の印加周期で繰り返しインパルス電圧を印加するために出力端からインパルス電圧を出力するインパルス電圧発生装置において、直流電力を供給する入力用直流電源と、前記入力用直流電源の電圧より高い電圧の直流を発生する高電圧発生器と、前記高電圧発生器と並列に配されて高電圧状態にまで蓄電可能な容量素子と、前記高電圧発生器の出力側に、前記高電圧発生器と直列に設けられて、前記高電圧発生器からの出力の遮断および通電を行う電力用半導体スイッチと、前記試験対象に印加すべき前記インパルス電圧の前記所定の印加周期に対応する繰り返し周波数の矩形波を前記電力用半導体スイッチのゲート部に出力する関数発生器と、前記出力端における出力電流を検出する電流検出器と、前記電流検出器からの電流信号を受けて前記所定の印加周期に比べて十分に短いサンプリング時間間隔でアナログ・ディジタル変換を行い、前記出力電流の値を監視し、異常と判定すれば前記関数発生器から前記電力用半導体スイッチへの出力を遮断する過電流保護回路と、を備え、前記過電流保護回路は、前記電流検出器からの前記電流信号を前記インパルス電圧の前記所定の印加周期に比べて短い周期でアナログ・ディジタル変換する高速A/D変換部と、前記高速A/D変換部からのディジタル化された前記電流信号とクロックからの時刻信号とを受けて、各電流の応答波形を蓄積する記憶装置と、前記高速A/D変換部からのディジタル化された前記電流信号を受け入れて、第1の規定値を超えたか否かを判定し、前記第1の規定値を超えたと判定されない場合は、受け入れた前記電流信号の前記応答波形の多次元ベクトルと、前記記憶装置に蓄積された前記応答波形のうちの初期の電流の前記応答波形の多次元ベクトルとの差ベクトルの絶対値が規定値より大きいか否かを判定し、前記第1の規定値を超えたと判定した場合または前記差ベクトルの絶対値が前記規定値より大きいと判定した場合にその旨を出力するロジック演算・判定部と、前記ロジック演算・判定部からの出力を受けて、前記関数発生器から前記電力用半導体スイッチへの出力を遮断するトリガ信号遮断回路と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る電力用半導体スイッチの保護方法は、試験対象に所定の印加周期で繰り返しインパルス電圧を印加する電力用半導体スイッチの保護方法において、関数発生器が、前記試験対象に印加すべき前記インパルス電圧の前記所定の印加周期に対応する繰り返し周波数の矩形波を前記電力用半導体スイッチのゲート部に出力することにより、前記インパルス電圧が前記試験対象に印加される印加ステップと、ロジック演算・判定部が、高速A/D変換部により電流検出器からの電流信号がディジタル化された電流値を読み込む電流値読み込みステップと、前記ロジック演算・判定部が、読み込んだ電流値が第1の規定値以上であるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップで、読み込んだ電流値が前記第1の規定値以上であると判定した場合は、トリガ信号遮断回路が動作する第1の遮断ステップと、前記判定ステップで、読み込んだ電流値が前記第1の規定値以上であると判定しなかった場合は、前記ロジック演算・判定部が、記憶装置に蓄積された各電流の応答波形のうちの初期の電流の前記応答波形を読み出してその多次元ベクトルと前記電流値読み込みステップで読み込んだ電流値の前記応答波形の多次元ベクトルとの差ベクトルの絶対値が規定値より大きいか否かを判定し、前記差ベクトルの絶対値が規定値より大きいと判定されない場合は、前記電流値読み込みステップに戻る応答波形判定ステップと、前記応答波形判定ステップで前記多次元ベクトルの前記差ベクトルの絶対値が前記規定値より大きいと判定された場合、前記トリガ信号遮断回路が動作する第2の遮断ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インパルス電圧発生装置において、パワー半導体スイッチが故障するに至る状態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置における過電流保護回路の構成を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置における過電流保護回路の入力整合部の構成を示す概念的な回路図である。
【
図4】第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の電力用半導体スイッチの保護方法の手順を示すフロー図である。
【
図5】第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の電力用半導体スイッチの保護方法を説明するタイムチャートである。
【
図6】第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の電力用半導体スイッチの保護方法における過電流検出時の各部の時間変化を説明するグラフである。
【
図7】第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の電力用半導体スイッチの保護方法における過電流検出時の各部の微小時間での時間変化を説明するために
図6を時間軸方向に拡大したグラフである。
【
図8】第2の実施形態に係るインパルス電圧発生装置における過電流保護回路の構成を示すブロック図である。
【
図9】第2の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の電力用半導体スイッチの保護方法の手順を示すフロー図である。
【
図10】第2の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の電力用半導体スイッチの保護方法における検出電流の発生の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るインパルス電圧発生装置および電力用半導体スイッチの保護方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の構成を示すブロック図である。インパルス電圧発生装置200は、高電圧発生器10、入力用直流電源20、制御用直流電源30、容量素子40、電力用半導体スイッチ50、関数発生器70、および過電流保護回路100を有する。
【0016】
入力用直流電源20は、10V程度の直流電源である。高電圧発生器10は、入力用直流電源20の電圧をたとえば3000倍などの103倍のオーダで増幅し、最大数kV程度の高電圧を発生する。高電圧発生器10による高電圧は、たとえば、入力用直流電源20からの電圧を交流に変換した後に、コッククロフト・ウォルトン方式により直流高圧に昇圧する方法等によって得ることができる。
【0017】
制御用直流電源30は、入力用直流電源20に対して、直流電圧の電圧値、立ち上がり時間、および立ち下がり時間を指定する制御信号を出力する。たとえば、2秒間は所定の電圧を出力し、その後の2秒間はゼロとすることを繰り返すなどの、試験における印加の全体パターンを制御する。
【0018】
容量素子40は、たとえば数nF程度の容量である。また、充電抵抗素子62は、容量素子40の入口側の抵抗素子である。入力用直流電源20、高電圧発生器10および容量素子40の低電圧側は、アース1に接続されている。
【0019】
電力用半導体スイッチ50は、概念的に、入り切り部51および保護抵抗素子52を有するものとして表示している。電力用半導体スイッチ50は、数kHz程度の頻度で開閉を繰り返す。電力用半導体スイッチ50に並列に、電力用半導体スイッチ50への逆電圧に対する保護のためのスイッチ用逆電圧保護ダイオード61が設けられている。
【0020】
電力用半導体スイッチ50より負荷側に、調整抵抗素子63および負荷側抵抗素子64がアース電位まで直列に配されている。インパルス電圧を印加する対象に接続される出力端子67は、調整抵抗素子63と負荷側抵抗素子64との接続部から引き出される。また、出力端子68はアース電位である。負荷側抵抗素子64に並列に、逆電圧に対してインパルス電圧発生装置200を保護するための負荷用逆電圧保護ダイオード65が設けられている。
【0021】
電力用半導体スイッチ50のゲート部(図示せず)に、制御信号を出力するために、関数発生器70が設けられている。関数発生器70の出力は、たとえば、所定の電圧とゼロ電圧を繰り返す矩形波である。関数発生器70から印加される電圧がゲート設定電圧より低い場合は、入り切り部51は、開状態である。関数発生器70から印加される電圧がゲート設定電圧より高い場合は、入り切り部51は、閉状態となる。
【0022】
インバータサージが繰り返し発生するときの周波数は、たとえば1kHzないし20kHz程度である。これを模擬するインパルス電圧発生装置200で発生するインパルス電圧が同程度の周波数となるように、関数発生器70からは、たとえば10kHzの矩形波が印加される。
【0023】
関数発生器70と電力用半導体スイッチ50との間に、電力用半導体スイッチ50が過電流のために損傷するのを防止するために、過電流保護回路100が設けられている。出力端子68の近傍のアース側に、電流検出器80が設けられている。過電流保護回路100は、電流検出器80からの電流検出信号を入力として受け入れる。
【0024】
図2は、第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置における過電流保護回路の構成を示すブロック図である。過電流保護回路100は、入力整合部110、高速A/D変換部120、クロック130、ロジック演算・判定部140、設定部150、およびトリガ信号遮断回路160を有する。
【0025】
図3は、入力整合部の構成を示す概念的な回路図である。入力整合部110は、電圧分圧回路111、絶縁増幅器112、およびインピーダンス変換回路113を有する。入力整合部110は、このような構成により、電流検出器80と荷電流保護回路100とのインピーダンスマッチングおよび安全措置を行う。
【0026】
図3は、分かりやすいように、アナログ回路の表示をしているが、この入力整合部110を含めて、
図2で示す過電流保護回路100は、高速で働くディジタル処理回路である。クロック130では、たとえば100MHzの高速で時を刻んでおり、高速A/D変換部120は、100MHzの高速でA/D変換を行う。また、クロック130は、所定の間隔ごとに、時刻情報を出力する。
【0027】
ロジック演算・判定部140は、高速A/D変換部120による電流信号のディジタル値、設定部150からの判定用の規定値、関数発生器70からの信号を入力として受け入れる。ロジック演算・判定部140は、過電流の検出、異常検出、および判定のための論理計算を行う。ロジック演算・判定部140は、たとえばFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いる。
【0028】
トリガ信号遮断回路160は、ロジック演算・判定部140が、過電流あるいは異常であると判定した場合に、その判定結果を受けて、関数発生器70から電力用半導体スイッチ50に発せられるゲート電圧信号を遮断する。この結果、電力用半導体スイッチ50のゲート電圧がゲート設定電圧未満となり、インパルス電圧の発生が停止する。
【0029】
図4は、第1の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の電力用半導体スイッチの保護方法の手順を示すフロー図である。
【0030】
まず、関数発生器70が、電力用半導体スイッチ50のゲート電圧信号を出力する(ステップS11)。ゲート電圧の値に応じて、電力用半導体スイッチ50の入り切り部51が開閉する。入り切り部51が開状態になると、高電圧発生器10で発生した電圧により、容量素子40が充電される。入り切り部51が閉状態になると、容量素子40からの放電により出力端子67、68を介して、試験対象である負荷にインパルス電圧が印加される(ステップS12)。
【0031】
また、ステップS11に続いて、ロジック演算・判定部140は、電流値の読み込みを開始する(ステップS13)。読み込みは、クロック130で設定されたサンプリングタイムで行われる。
【0032】
ロジック演算・判定部140は、読み込んだ電流値が、設定部150で設定された規定値以上であるか否かを判定する(ステップS14)。ロジック演算・判定部140が、読み込んだ電流値が、設定部150で設定された規定値以上ではないと判定(ステップS14 NO)した場合、ステップS13以下を繰り返す。
【0033】
図5は、電力用半導体スイッチの保護方法を説明するタイムチャートである。
図5は、関数発生器70からの半導体スイッチトリガ信号に応じて、パルス出力電流が発生しているが、パルス出力電流のレベルが、P3、P4と上昇してきた状態を示す。
【0034】
図1の回路が示すように、出力端子67、68から出力される高電圧は、容量素子40からの放電によるものであり、この状態で、電源側の電流が増加するわけではない。このため、出力端子67、68以降の試験対象側のたとえば絶縁状態が低下することにより、出力電流が増加するような場合、電源側の電流の増加による保護には期待できない。また、電源側の過電流継電器が動作するような事象では、すでに電力用半導体スイッチ50の健全性が損なわれていると考えるべきである。
【0035】
このため、出力端側に電流検出器80を設け、ここでの電流値を高速で監視することにより、電力用半導体スイッチ50の保護を図るものである。具体的には、次の手順となる。
【0036】
電流値がP4となった時点で、ロジック演算・判定部140が、設定部150で設定された規定値以上であると判定(ステップS14 YES)する。
【0037】
ロジック演算・判定部140が、規定値以上であると判定すると、トリガ信号遮断回路160が、動作する(ステップS15)。この結果、インパルス電圧の印加が停止する。
【0038】
図6は、過電流検出時の各部の時間変化を説明するグラフである。また、
図7は、過電流検出時の各部の微小時間での時間変化を説明するために
図6を時間軸方向に拡大したグラフである。
【0039】
たとえば、関数発生器70からのトリガの周波数を10kHz、クロック130によるサンプリング間隔を100MHzとすると、1つのパルス間隔でのサンプリング回数は、104回である。このため、インパルス電圧の立ち上がりの状況は、実質的には、ほぼ連続的にサンプリングされていると言える。
【0040】
このため、あるインパルス電圧において、検出電流が規定値を超えていると判定されれば、次のインパルスの発生は、確実に停止される。この結果、パワー半導体スイッチが故障するに至る状態を回避することができる。
[第2の実施形態]
図8は、第2の実施形態に係るインパルス電圧発生装置における過電流保護回路の構成を示すブロック図である。本第2の実施形態は、第1の実施形態の変形であり、過電流保護回路100は、記憶装置170をさらに有している。
【0041】
図9は、第2の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の電力用半導体スイッチの保護方法の手順を示すフロー図である。第1の実施形態においては、各サンプリングステップでの電流値の判定を実施しているが、本第2の実施形態では、さらなる判定を行う。以下、本実施形態で追加されている部分について、説明する。
【0042】
サンプリング周期ごとに受け入れた電流検出器80からの電流信号が、高速A/D変換部120でA/D変換される都度、記憶装置170は、クロック130からの時刻情報とともに、電流値を順次記憶し、各応答波形データとして集積する。
【0043】
ロジック演算・判定部140は、電流値が規定値以上と判定しなかった場合(ステップS14 NO)、ロジック演算・判定部140は、遅れ時間DTが、規定値以上か否かを判定する(ステップS22)。
【0044】
図10は、第2の実施形態に係るインパルス電圧発生装置の電力用半導体スイッチの保護方法における検出電流の発生の例を示すグラフである。通常は、高電圧V1が出力されると、ほぼ同時に検出電流I1が立ち上がり、同様に、高電圧V2が出力されると、ほぼ同時に検出電流I2が立ち上がる。
【0045】
ところが、
図10に示すように、高電圧V2が出力されてから、有意な値の遅れ時間DTの後に、検出電流I3が得られた場合には、この時点で、直接的な出力が無い状態で、負荷側、すなわち試験対象側で異常な電流が流れたと考えられる。ここで、「有意な」とは、遅れ時間DTの値から、高電圧出力に直接的に誘起されたものではないと考えられる場合をいう。
【0046】
したがって、ステップS22で、ロジック演算・判定部140が、遅れ時間DTが規定値以上と判定した場合(ステップS22 YES)、
図9に示すように、トリガ信号遮断回路160が、動作する(ステップS15)。この結果、インパルス電圧の印加が停止する。
【0047】
ステップS22で、ロジック演算・判定部140が、遅れ時間DTが規定値以上と判定しなかった場合(ステップS22 NO)は、ロジック演算・判定部140は、電流値が前回のサンプリング結果より減少しているか否かを判定する(ステップS23)。ロジック演算・判定部140が、電流値が前回のサンプリング結果より減少していないと判定した場合(ステップS23 NO)は、ステップS13以下を繰り返す。
【0048】
ロジック演算・判定部140が、電流値が前回のサンプリング結果より減少していると判定した場合(ステップS23 YES)は、ロジック演算・判定部140は、記憶装置170から初期の電流の応答波形、および今回の電流の応答波形を読み出して、両者を比較する(ステップS24)。
【0049】
この際は、電流波形の中の、たとえば、立ち上がり開始点から変曲点までの時間、あるいはピーク点までの時間等、特徴的な指標を用いて、各指標を要素として有する多次元ベクトルどうしの比較などの方法を用いることができる。ロジック演算・判定部140は、このような波形処理演算を行う波形処理演算部を有する。
【0050】
ロジック演算・判定部140は、電流波形の比較結果が、有意な差が有るか否かを判定する(ステップS25)。判定は、たとえば、前述の多次元ベクトルの差ベクトルの絶対値が、規定値より大きいか否かにより行ってもよい。ロジック演算・判定部140が、有意な差が有るとはいえないと判定した場合(ステップS25 NO)、ステップS13以降を繰り返す。
【0051】
ロジック演算・判定部140が、有意な差が有ると判定した場合(ステップS25 YES)、トリガ信号遮断回路160が、動作する(ステップS15)。この結果、インパルス電圧の印加が停止する。
【0052】
以上のように、本実施形態により、電圧印加時の過電流についてのみでなく、遅れて電流が検出されたり、応答波形が変化したりなど、これ以外の状況についても、保護動作がなされ、電力用半導体スイッチの保護をさらに徹底することができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0053】
さらに、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0054】
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
1…アース、10…高電圧発生器、20…入力用直流電源、30…制御用直流電源、40…容量素子、50…電力用半導体スイッチ、51…入り切り部、52…保護抵抗素子、61…スイッチ用逆電圧保護ダイオード、62…充電抵抗素子、63…調整抵抗素子、64…負荷側抵抗素子、65…負荷用逆電圧保護ダイオード、67、68…出力端子、70…関数発生器、80…電流検出器、100…過電流保護回路、110…入力整合部、111…電圧分圧回路、112…絶縁増幅器、113…インピーダンス変換回路、120…高速A/D変換部、130…クロック、140…ロジック演算・判定部、150…設定部、160…トリガ信号遮断回路、170…記憶装置、200…インパルス電圧発生装置