IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ネクソン リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-金属イオン電池用の電気活物質 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】金属イオン電池用の電気活物質
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20230928BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230928BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230928BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230928BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230928BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230928BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/36 E
H01M4/587
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019567979
(86)(22)【出願日】2018-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 GB2018051689
(87)【国際公開番号】W WO2018229515
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】1709685.0
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513311929
【氏名又は名称】ネクシオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ボガート
(72)【発明者】
【氏名】サイモン フォクソン
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス ファレル
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ベント
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル スカーレット
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0332717(US,A1)
【文献】特開2011-057541(JP,A)
【文献】国際公開第2016/071462(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/153322(WO,A1)
【文献】特表2012-501951(JP,A)
【文献】ZHOULU WANG et al.,Sub-micron silicon/pyrolyzed carbon@natural graphite self-assembly composite anode material for lithium-ion batteries,Chemical Engineering Journal,2016年,313 (2017),pp. 187-196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00
C01B 32/00
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の複合粒子からなる粒子状材料の調製方法であって、当該複合粒子は、導電性熱分解炭素マトリックス中に分散した複数のシリコンナノ粒子を含み、前記方法は、
(a)非水性溶媒の存在下でシリコン出発材料を粉砕して、前記溶媒中の30~300nmのD50粒子径を有するシリコン含有ナノ粒子の分散液を得ること;
(b)前記溶媒中のシリコンナノ粒子の前記分散液を、少なくとも1つの酸素または窒素原子を含む1つ以上の化合物から選択される熱分解炭素前駆体と接触させること;
(c)前記溶媒を除去して、前記熱分解炭素前駆体でコーティングされたシリコンナノ粒子を準備すること;
(d)ステップ(e)の前に一定の期間、前記コーティングされたシリコンナノ粒子を100~400℃の温度に加熱すること;および
(e)600~1200℃の熱分解温度で前記コーティングされたシリコンナノ粒子を熱分解して、導電性熱分解炭素マトリックス中に分散した複数のシリコンナノ粒子を含む前記複数の複合粒子を形成すること、
を含み、
前記熱分解炭素前駆体が、少なくとも1つの酸素または窒素原子を含み、1つ以上の求電子性官能基を含む、1つ以上の芳香族または脂肪族炭素含有化合物から選択され、
ステップ(d)が、前記シリコンナノ粒子の表面上の求核性官能基と前記熱分解炭素前駆体の前記求電子性官能基との反応によって、前記シリコンナノ粒子と前記熱分解炭素前駆体とを架橋することを含む、複数の複合粒子からなる粒子状材料の調製方法。
【請求項2】
前記1つ以上の求電子性官能基が、カルボニル部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱分解炭素前駆体が、炭素含有骨格と1つ以上のペンダント求電子性官能基とを含む、ポリマーまたはオリゴマーである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱分解炭素前駆体が、ポリビニルピロリドン(PVP)またはビニルピロリドンと1つ以上の他のエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(d)が、前記シリコンナノ粒子と前記熱分解炭素前駆体の反応混合物の温度上昇が5℃/分以下に制御され、前記反応の間、前記反応の最高温度が270℃未満に維持されるような条件下で、前記シリコンナノ粒子と前記熱分解炭素前駆体とを架橋することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(d)が、前記反応中に均一な反応温度を確保するために、前記コーティングされたシリコンナノ粒子を混合または撹拌することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(d)が、酸素ガスの存在下で行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(d)が、前記反応の完了後、一定時間、前記コーティングされたシリコンナノ粒子を100~400℃の温度に維持することをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒が、アルコールおよびケトンから選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒が、ステップ(c)でロータリー蒸発または噴霧乾燥によって除去される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(f)ステップ(e)からの前記複合粒子のサイズを小さくすること、をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(g)ステップ(e)またはステップ(f)からの前記複合粒子をふるいにかけること、をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
(h)ステップ(e)、(f)または(g)からの前記複合粒子を炭素コーティングでコーティングすること、をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(d)が、前記コーティングされたシリコンナノ粒子を200~400℃の温度に加熱することを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(d)が、5分~10時間、前記コーティングされたシリコンナノ粒子を加熱することを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
複数の複合粒子からなる粒子状材料であって、前記複合粒子は、導電性炭素マトリックス中に分散した複数のシリコンナノ粒子を含み、
前記複合粒子が、1~25μmのD50粒子径を有し、前記シリコンナノ粒子が、30~300nmのD50粒子径を有し、
前記シリコンナノ粒子は、ナノ粒子コアとナノ粒子表面を含み、複数の架橋酸素原子および/または複数の架橋窒素原子が、前記ナノ粒子表面と前記導電性炭素マトリックスの少なくとも一部との間に配置されており、前記導電性炭素マトリックスが、前記ナノ粒子表面に化学結合しており
前記粒子状材料は、40~65重量%のシリコンを含み;
前記粒子状材料は、少なくとも6重量%かつ20重量%未満の酸素を含み;
前記粒子状材料中の酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比が、0.1~0.45であり;および
前記粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比が、0.1~1である、複数の複合粒子からなる粒子状材料。
【請求項17】
少なくとも8重量%の酸素、または少なくとも10重量%の酸素、または少なくとも12重量%の酸素、または少なくとも15重量%の酸素を含む、請求項16に記載の粒子状材料。
【請求項18】
2~6重量%の窒素を含む、請求項16または17に記載の粒子状材料。
【請求項19】
少なくとも10重量%の炭素、少なくとも15重量%の炭素、または少なくとも18重量%の炭素を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項20】
35重量%以下の炭素、30重量%以下の炭素、28重量%以下の炭素、または25重量%以下の炭素を含む、請求項16~19のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項21】
前記複合粒子が、20μm以下、18μm以下、15μm以下、12μm以下、または10μm以下のD50粒子径を有する、請求項16~20のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項22】
前記複合粒子が、5以下、4以下、3以下、2以下、または1.5以下の粒子径分布スパンを有する、請求項16~21のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項23】
前記シリコンナノ粒子が、250nm以下、または200nm以下、または150nm以下、または120nm以下のD50粒子径を有する、請求項16~22のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項24】
前記複合粒子が、水銀ポロシメトリーによって決定されるように、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または2%以下の粒子内多孔度を有する、請求項16~23のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項25】
前記複合粒子が、100m/g以下、80m/g以下、60m/g以下、40m/g以下、30m/g以下、25m/g以下、20m/g以下、または15m/g以下のBET表面積を有する、請求項16~24のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項26】
前記複合粒子が、少なくとも0.1m/g、少なくとも1m/g、少なくとも2m/g、または少なくとも5m/gのBET表面積を有する、請求項16~25のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項27】
前記粒子状材料が、43~65重量%のシリコン、10から20重量%未満の酸素、2~6重量%の窒素、および15~30重量%の炭素を含み;
前記粒子状材料中の酸素と窒素の総量の前記粒子状材料中のシリコンに対する重量比が、0.25~0.42であり;
前記粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比が、0.2~0.6である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記粒子状材料が、43~65重量%のシリコン、10から20重量%未満の酸素、2~6重量%の窒素、および15~30重量%の炭素を含み;
前記粒子状材料中の酸素と窒素の総量の前記粒子状材料中のシリコンに対する重量比が、0.25~0.42であり;
前記粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比が、0.2~0.6である、請求項16~26のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、充電式金属イオン電池用の電極に使用する電気活物質に関し、より具体的には、充電式金属イオン電池のアノード活物質として使用するのに適した高い電気化学容量を有する粒子状電気活物質に関する。本発明の粒子状電気活物質は、2つ以上の異なる電気活物質を含むハイブリッドアノードにおいて特に有用である。本発明の粒子状電気活物質の調製方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
充電式金属イオン電池は、携帯電話およびラップトップなどの携帯電子機器で広く使用されており、電気自動車またはハイブリッド車での用途が増えている。充電式金属イオン電池は、一般に、アノード層、カソード層、アノード層とカソード層との間の金属イオンを輸送する電解質、およびアノードとカソードの間に配置された電気絶縁性多孔質セパレータを含む。カソードは、典型的には、金属酸化物系複合体を含む金属イオンの層を備えた金属集電体を含み、アノードは、電池の充電および放電中に金属イオンを挿入および放出することができる材料として本明細書で定義される電気活物質の層を備えた金属集電体を含む。誤解を避けるために、本明細書では、用語「カソード」および「アノード」は、カソードが正極であり、アノードが負極であるように、負荷に電池が配置されるという意味で使用される。金属イオン電池が充電されるとき、金属イオンは、金属イオンを含むカソード層から、電解質を介して、アノードに輸送され、アノード材料に挿入される。用語「電池」は、本明細書では、単一のアノードと単一のカソードを含む装置と、複数のアノードおよび/または複数のカソードを含む装置の両方を指すために使用される。
【0003】
充電式金属イオン電池の重量容量および/または体積容量を改善することに関心がある。リチウムイオン電池の使用は、他の電池技術と比較した場合、すでに大幅な改善を提供しているが、さらなる開発の余地が残っている。これまで、市販のリチウムイオン電池は、主にアノード活物質としてのグラファイトの使用に限定されていた。グラファイトアノードが充電されるとき、リチウムがグラファイト層間に挿入されて、実験式Li(xは0より大きく1以下)の材料を形成する。その結果、グラファイトは、リチウムイオン電池において372mAh/gの最大理論容量を有し、実用容量は、やや低い(約340~360mAh/g)。シリコン、スズ、ゲルマニウムなどの他の材料は、グラファイトよりも大幅に高い容量でリチウムを挿入できるが、多数の充電/放電サイクルにわたって十分な容量を維持するのが困難なため、まだ商業的に広く使用されていない。
【0004】
特にシリコンは、リチウムに対するその容量が非常に大きいため、高い重量および体積容量を備えた充電式金属イオン電池の製造に有望なグラファイトの代替品として特定されている(例えば、Insertion Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries, Winter, M.ら, in Adv. Mater. 1998, 10, No. 10を参照)。室温では、シリコンは、リチウムイオン電池において約3,600mAh/gの理論最大比容量(Li15Siに基づく)を有する。しかし、シリコンをアノード材料として使用することは、充電および放電の大きな体積変化により複雑である。
【0005】
バルクシリコンへのリチウムの挿入によって、シリコン材料の容積が大幅に増大し、シリコンが最大容量までリチウム化されると元の容積の最大400%になり、充放電サイクルを繰り返すとシリコン材料に大きな機械的歪みを生じ、シリコンアノード材料の破壊と層間剥離をもたらす。脱リチウムの際のシリコン粒子の容積収縮によって、アノード材料と集電体間の電気的接触が失われる可能性がある。さらに、シリコン表面に形成する固体電解質界面(SEI)層は、シリコンの膨張と収縮に対応するのに十分な機械的耐性を有しない。その結果、新たに露出したシリコン表面は、電解質のさらなる分解、SEI層の厚さの増大、およびリチウムの不可逆的な消費につながる。これらの故障メカニズムは集合的に、連続的な充電および放電サイクルにわたって電気化学容量の許容できない損失をもたらす。
【0006】
シリコン含有アノードを充電するときに観察される容積変化に関連する問題を克服するために、多くのアプローチが提案されてきた。シリコン含有アノードの不可逆的な容量損失に対処するための最も普及しているアプローチは、電気活物質としてナノ構造シリコン粒子を使用することである。シリコンナノ粒子およびナノ構造シリコンは、マイクロスケール粒子と比較して、充電および放電の容積変化に対してより耐性があることが報告されている。しかし、ナノスケール粒子は、調製および取り扱いが難しいため、商業規模の用途には特に適していない。例えば、ナノスケール粒子は、凝集体を形成する傾向があり、アノード材料マトリックス中でその粒子の有用な分散を得ることを難しくしている。さらに、ナノスケール粒子の凝集体の形成によって、充放電サイクルを繰り返すと許容できない容量損失が生じる。
【0007】
Oharaら(Journal of Power Sources 136(2004)303~306)は、薄膜としてのニッケル箔集電体上へのシリコンの蒸着と、リチウムイオン電池のアノードとしてのこの構造の使用について説明している。このアプローチでは良好な容量維持が得られるが、その薄膜構造では単位面積あたりの有効容量が得られず、膜厚が増加すると改善がなくなる。
【0008】
国際公開第2007/083155号は、高いアスペクト比、すなわち粒子の最小寸法に対する最大寸法の比を有するシリコン粒子の使用によって改善された容量維持が得られ得ることを開示している。
【0009】
米国特許第6,334,939号および米国特許第6,514,395号は、リチウムがシリコンに挿入されたときに生じる膨張のための緩衝ゾーンを提供するための空隙を含むかごのような球状粒子などのシリコン系ナノ構造を開示する。
【0010】
国際公開第2012/175998は、例えば、化学エッチングまたはスパッタリングプロセスによって形成され得る粒子コアから延びる複数のシリコン含有ピラーを含む粒子を開示している。
【0011】
アノードの電気活物質が主にまたは完全にシリコンである電池を製造することは、長期的な目標のままであるが、電池メーカーのより直接的な目標は、グラファイトアノードの容量を補うために少量のシリコンを使用する方法を特定することである。したがって、現在の焦点は、従来のグラファイト系電極が少量のシリコンを含めることによって変更される「ハイブリッド」電極の使用を通じて、既存の金属イオン電池技術の漸進的な改善を得ることである。
【0012】
ハイブリッド電極の使用には、独自の課題がある。追加の電気活物質は、金属イオン電池で従来使用されているグラファイト粒子の形状に適合する形状で提供される必要がある。例えば、追加の電気活物質をグラファイト粒子のマトリックス全体に分散させることが可能でなければならず、その追加の電気活物質の粒子は、グラファイト粒子との配合およびその後の電極層の形成(例えば、圧縮、乾燥、カレンダー処理などのステップを通じた)に耐えるのに十分な構造的完全性を備えている必要がある。
【0013】
米国特許第8,526,166号は、2種類の活物質粒子を含むハイブリッドアノード活物質を含むリチウムイオンキャパシタを開示している。第1の活物質粒子は、グラファイト粒子などの活性炭粒子から選択され、第2の活物質粒子は、酸化シリコンを含み、10~100nmの粒子径を有する。
【0014】
国際公開第2015/157358は、リチウムイオン電池用のアノードを開示しており、アノード活物質は、グラファイトと、ナノスケール粒子とを含み、そのナノスケール粒子は、例えばシリカの金属熱還元から得られた、結晶シリコンとSiOの混合物を含む。結晶シリコンとSiO(しばしばSiOxと呼ばれる)の混合物は、炭素系アノード材料などの他のアノード材料と組み合わせて使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、以下に記載するサンプル1~9および比較サンプル1の容量維持率(y軸)対炭素:シリコン比のプロットである。
【発明の概要】
【0016】
これまでの努力にもかかわらず、リチウムイオン電池の電気化学的貯蔵容量の改善に対する継続的なニーズがある。特に、シリコンの高いリチウム化容量の利点を提供するが、商業的に実行可能な充電式電池で使用するのに十分な容量維持と構造安定性も有する代替のシリコン系材料を特定するニーズがある。
【0017】
第1の態様では、本発明は、導電性熱分解炭素マトリックス中に分散した複数のシリコンナノ粒子を含む複数の複合粒子からなる粒子状材料を調製する方法を提供し、その方法は、
(a)非水性溶媒の存在下でシリコン出発材料を粉砕して、その溶媒中の30~500nmのD50粒子径を有するシリコン含有ナノ粒子の分散液を得ること;
(b)その溶媒中のシリコンナノ粒子の分散液を、少なくとも1つの酸素または窒素原子を含む1つ以上の化合物から選択される熱分解炭素前駆体と接触させること;
(c)その溶媒を除去して、その熱分解炭素前駆体でコーティングされたシリコンナノ粒子を準備すること;
(d)任意に、ステップ(e)の前に5分~10時間、そのコーティングされたシリコンナノ粒子を100~400℃の温度に加熱すること;および
(e)600~1200℃の熱分解温度でそのコーティングされたシリコンナノ粒子を熱分解して、導電性熱分解炭素マトリックス中に分散した複数のシリコンナノ粒子を含む前記複数の複合粒子を形成すること、を含む。
【0018】
本明細書で使用される用語「複合粒子」は、導電性炭素マトリックス中に分散した複数のシリコンナノ粒子を含む粒子を主に指すと理解されるものとする。しかし、本発明の粒子状材料を構成する粒子間のシリコンナノ粒子の分布にある程度の統計的変動があり得ることを排除するものではない。この統計的変動の極端な場合、単一のシリコンナノ粒子のみを含む少量の粒子、または導電性炭素マトリックス材料のみを含む少量の粒子が存在する場合がある。本明細書における「導電性熱分解炭素マトリックス中に分散した複数のシリコンナノ粒子を含む複数の複合粒子からなる粒子材料」、「粒子材料」および「複合粒子」への言及は、個々の粒子の組成におけるそのような統計的変動を含むと理解されるものとする。
【0019】
シリコンを粉砕してナノ粒子を形成することによって、シリコンの表面積が大幅に増大する。露出したばかりのシリコン表面は、反応性が高く、通常は電気化学的性能を低下させる酸化物層を自然に形成する。理論に拘束されるものではないが、非水性溶媒の存在下でシリコン含有出発材料を粉砕することによって、シリコン表面の酸化を制御すると考えられる。シリコンナノ粒子の表面のシラノール基は、熱分解炭素前駆体からの酸素含有官能基または窒素含有官能基と反応して、官能化シリコンナノ粒子中間体をもたらし得る。熱分解に続いて、熱分解炭素前駆体からの酸素または窒素含有官能基とシリコン表面との反応によって、炭素マトリックスとシリコンナノ粒子の表面との界面に耐久性のある結合が形成される。この結合によって、シリコンナノ粒子が充電および放電中に膨張および収縮しても、シリコンナノ粒子と炭素マトリックスとの間の強固な接続が維持され、それによって、本発明の第2および第3の態様に関して本明細書に記載の利点が提供される。
【0020】
熱分解炭素前駆体は、少なくとも1つの酸素または窒素原子を含む芳香族または脂肪族炭素含有前駆体材料から選択されることが好ましい。
【0021】
適切な芳香族熱分解炭素前駆体の例には、ピロール、アクリロニトリル、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジヒドロキシアントラセン、2,3-ジアミノアントラセン、4,5-ジヒドロキシアントラセン、4,5-ジアミノアントラセン、9,10-フェナントラキノン、2,3-ジヒドロキシテトラセン、フッ化2,3-ジヒドロキシテトラセン、トリフルオロメチル-2,3-ジヒドロキシテトラセン、2,3-ジアミノテトラセン、フッ化2,3-ジアミノテトラセン、トリフルオロメチル-2,3-ジアミノテトラセン、2,3-ジヒドロキシペンタセン、フッ化2,3-ジヒドロキシペンタセン、トリフルオロメチル-2,3-ジヒドロキシペンタセン、2,3-ジアミノペンタセン、フッ化2,3-ジアミノペンタセン、トリフルオロメチル-2,3-ジアミノペンタセン、2,3-ジヒドロキシヘキサセン、フッ化2,3-ジヒドロキシヘキサセン、トリフルオロメチル-2,3-ジヒドロキシヘキサセン、2,3-ジアミノヘキサセン、フッ化2,3-ジアミノヘキサセン、トリフルオロメチル-2,3-ジアミノヘキサセン、1,2-ジヒドロキシピレン、フッ化1,2-ジヒドロキシピレン、トリフルオロメチル-1,2-ジヒドロキシピレン、1,2-ジアミノピレン、フッ化1,2-ジアミノピレン、トリフルオロメチル-1,2-ジアミノピレン、カテコール、ジヒドロキシクリセン、フッ化ジヒドロキシクリセン、トリフルオロメチルジヒドロキシクリセン、コロール、ポルフィリン、ヘプタ-2,4,6-トリエン-オン、マレイン酸、シアノベンゼン、フマロニトリル、4,5-ジヒドロキシビフェノール、2,3-ジヒドロキシビフェノール、ベンジデン、ジヒドロキシスチルベン、ステリドン酸、エイコサペンタエン酸、ガンマ-リノレン酸、キノリン、イソキノリン、インドール、プリン、イミダゾール、アデニン、グアニン、テトラヒドロキノリン、1,2-ジヒドロキノリン、キノリン-2(1H)-オン、イソキノリン-2(1H)-オン、カルバゾール、フェノキサジン、フェノチアジン、フェノキサチイン、2,3-ジヒドロアゼピン、2,5-ジヒドロアゼピン、アゼピン、1,2-ジアゼピン、1,3-ジアゼピン、1,4-ジアゼピン、1,6-ジヒドロピロロ-[2,3-b]-ピロール、インドリン、3H-インドール、1H-インドール、2H-インドール、1H-インダゾール、ベンズイミダゾール、4-アザインドール、5-アザインドール、6-アザインドール、7-アザインドール、イソフタル酸、テレフタル酸、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、タンニン酸、フルフリルアルコールおよび2-ナフトールのうちの1つ以上が含まれる。
【0022】
好ましい芳香族熱分解炭素前駆体には、カテコール、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシアントラセンおよび1,5-ジヒドロキシアントラセンおよびそれらの混合物が含まれる。
【0023】
熱分解炭素前駆体には、アルカンジオール、ポリビニルアルコール、樟脳、ガムロワシン(ロジン)も含まれる。
【0024】
適切な熱分解炭素前駆体には、1つ以上の求電子性官能基(特に、カルボニル部分、好ましくはエステルまたはアミド基を含む官能基)を含む炭素含有化合物も含まれる。好ましくは、熱分解炭素前駆体は、炭素含有骨格およびペンダント求電子性官能基、好ましくはカルボニル部分を含むペンダント官能基、より好ましくはペンダントアミドまたはエステル基、特にペンダント環状エステルまたはアミド基を含む、ポリマーまたはオリゴマーを含む。最も好ましくは、熱分解炭素前駆体は、炭素含有骨格およびペンダント環状アミド基を含むポリマーまたはオリゴマーを含む。このカテゴリーで特に好ましい熱分解炭素前駆体には、ポリビニルピロリドン(PVP)ホモポリマー、ならびにビニルピロリドンと1つ以上の他のエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーが含まれる。好ましくは、ビニルピロリドンのコポリマーは、少なくとも50mol%のビニルピロリドンモノマーを含む。
【0025】
任意のステップ(d)は、コーティングされたシリコンナノ粒子を熱分解温度までさらに加熱する前に、コーティングされたシリコンナノ粒子を一定の期間(例えば、5分~10時間)、100~400℃、任意に200~400℃の温度に加熱することを含む。好ましくは、ステップ(d)の温度は、熱分解炭素前駆体の融点と沸点との間であるように選択される。
【0026】
クレームの方法の好ましい実施形態では、熱分解炭素前駆体は、上記の1つ以上の求電子性官能基を含む化合物から選択され、ステップ(d)は、シリコンナノ粒子の表面上の求核性官能基と熱分解炭素前駆体の求電子性官能基との間の架橋の形成を含む。
【0027】
シリコンナノ粒子と熱分解炭素前駆体との間の架橋反応が、より微細な多孔性を有する、より高密度でより強く結合した導電性炭素マトリックスを形成することがわかった。その結果、導電性炭素マトリックスは、より高い導電性を有し、複合粒子は、減少した第1サイクル損失を示す。しかしながら、本発明者らは、シリコンナノ粒子と熱分解炭素前駆体との間のこの架橋反応(本明細書では硬化反応とも呼ばれる)が、非常に発熱性であり、反応温度の制御が、効果的な架橋プロセスのための重要な要因であり、したがって、本発明の第2および第3の態様に関連して以下に示される好ましい範囲内で複合粒子の元素組成の制御を可能にすることを見出した。
【0028】
具体的には、本発明者らは、1つ以上の求電子性官能基(例えば、PVP)を含む熱分解炭素前駆体でコーティングされたシリコンナノ粒子が100℃を超えて加熱されると、得られる架橋反応が非常に発熱性であり、急速で制御不能な温度上昇につながることを特定した。本発明者らは、加熱炉またはキルン内の粒子の温度は、場所およびるつぼのサイズと形状などの他の特徴に応じて大きく変化し、架橋反応の温度が非常に不均一になる可能性があり、最終的な複合粒子の特性に不利な影響を及ぼすことを観察した。
【0029】
理論に縛られることなく、発熱性の架橋反応による過剰な熱は、架橋反応が完了する前に、熱分解炭素前駆体の切断と求電子性官能基の損失をもたらすと考えられる。したがって、開裂した求電子性官能基は、シリコンナノ粒子表面との架橋反応に利用できない。したがって、不十分な架橋によって、最終的な複合粒子の性能が低下する。
【0030】
したがって、ステップ(d)の条件の慎重な制御は、反応からの過剰な熱によって引き起こされる望まない開裂反応を回避し、架橋反応で得られる架橋度を最大化することができ、その結果、ステップ(e)の熱分解後の炭素マトリックスが改善されることがわかった。
【0031】
したがって、クレームの方法によれば、熱分解炭素前駆体は、好ましくは、上記の1つ以上の求電子性官能基を含む化合物から選択され、ステップ(d)は、コーティングされたシリコンナノ粒子と熱分解炭素前駆体を、その反応混合物の温度上昇が、5℃/分以下に制御され、かつ架橋反応の最大温度が、架橋反応中、270℃以下に維持されるような条件下で架橋することを含む。架橋反応の完了は、反応の発熱による発熱の停止によって確認することができる。
【0032】
好ましくは、ステップ(d)は、架橋ステップ中に均一な反応温度を確保するために、コーティングされたシリコンナノ粒子を混合または撹拌することをさらに含む。例えば、ステップ(d)は、ロータリーキルン中で実行し得る。
【0033】
任意に、架橋反応の最高温度は、架橋反応中、250℃未満、240℃未満、230℃未満、220℃未満、210℃未満、または200℃未満に維持される。
【0034】
本発明によるステップ(d)における制御された架橋反応は、ステップ(e)における熱分解後に、シリコンナノ粒子コアと導電性炭素マトリックスとの間に独特な界面構造をもたらす。具体的には、架橋反応によって、シリコンナノ粒子コアと導電性炭素マトリックスとの界面に窒素および酸素化合物が存在する。これらの酸素および窒素化合物は、ナノ粒子表面と導電性炭素マトリックスの間に配置された複数の架橋酸素原子および/または複数の架橋窒素原子の形をとると考えられる。したがって、熱分解後の複合粒子中の酸素および/または窒素の含有量は、効果的な架橋プロセスの指標であり、したがって性能の改善に関連している。
【0035】
より好ましくは、熱分解炭素前駆体は、炭素含有骨格構造およびペンダント求電子性官能基、好ましくはカルボニル部分を含む官能基、より好ましくはアミドまたはエステル基、特に環状エステルまたはアミド基を含む、ポリマーまたはオリゴマーを含む。架橋反応の文脈において特に好ましい熱分解炭素前駆体は、ポリビニルピロリドン(PVP)、または上記のビニルピロリドンのコポリマーである。
【0036】
好ましくは、ステップ(d)における架橋反応は、酸素ガスの存在下で行われる。例えば、ステップ(d)の架橋反応は、空気の存在下で行われ得る。酸素ガス(例えば空気から)の存在が、架橋反応を促進することがわかっているが、架橋反応での過度の温度は、シリコンのシリカへの望ましくない酸化をもたらす可能性がある。したがって、架橋反応を最適化することに加えて、本発明の方法は、シリカの望ましくない酸化も低減する。
【0037】
最も好ましくは、熱分解炭素前駆体はPVPであり、ステップ(d)は、架橋反応の間、100~300℃、より好ましくは150~280℃、より好ましくは180~280℃の範囲内に制御される反応温度でコーティングされたシリコンナノ粒子を架橋することを含み;ここで、架橋反応は、空気の存在下で実施される。
【0038】
任意に、ステップ(d)は、架橋反応の完了後(反応発熱の停止によって決定される)、コーティングされたシリコンナノ粒子を一定期間(例えば10分~2時間)、100~400℃の温度に維持することを含み得る。この硬化プロセスは、シリコン表面での熱分解炭素前駆体のさまざまな再配置を促進する可能性があり、例えば、熱分解炭素前駆体をシリコン表面の空いている領域に移動することを可能とし、および/または熱分解炭素前駆体がより熱力学的に安定した配置を採ることを可能とする。これは、シリコンナノ粒子と導電性炭素マトリックスとの間の改善された結合および/または導電性炭素マトリックスの改善された導電性に寄与し得ると考えられる。
【0039】
ステップ(c)または(d)からのコーティングされたシリコンナノ粒子は、ステップ(e)で熱分解を受け、導電性熱分解炭素マトリックスを形成する。熱分解は、好ましくは、700~1150℃、または800~1100℃、または900~1050℃の温度で実施される。熱分解炭素マトリックスの導電率は、選択した熱分解炭素前駆体と熱分解温度の両方に依存することがわかる。高い導電率の熱分解炭素マトリックスを得るために、700℃を超える熱分解温度が通常好ましい。熱分解ステップ(e)は、5分~120分、例えば10分~100分、20分~80分、または40分~60分の期間実施することができる。
【0040】
熱分解ステップ(e)は、好ましくは不活性雰囲気または還元雰囲気で実施される。例えば、熱分解は、アルゴンまたは窒素、好ましくは窒素下で、またはアルゴンもしくは窒素と一酸化炭素もしくは水素との混合下で実施することができる。
【0041】
シリコン出発材料は、好ましくは少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、または少なくとも99重量%の純度を有する。
【0042】
シリコン出発材料は、金属グレードのシリコンから適切に選択することができる。金属グレードのシリコンは、電気アーク炉で約1900℃の温度で木炭を使用して高純度シリカを還元することによって得られる。金属グレードのシリコンは、通常、微量の他の元素と合金化されたシリコンを含み、95重量%から99重量%を超える純度のさまざまなグレードで入手できる。金属グレードのシリコンに含まれる一般的な不純物には、カルシウム、アルミニウム、鉄、銅、ガリウム、チタン、およびそれらの酸化物が含まれる。
【0043】
シリコン出発材料は、アモルファスシリコン、多結晶シリコンまたは単結晶シリコンを含んでもよい。
【0044】
シリコン出発材料は、好ましくは4重量%以下の酸素、より好ましくは2重量%以下の酸素、より好ましくは1重量%以下の酸素、より好ましくは0.5重量%以下の酸素を含む。
【0045】
シリコン含有出発材料は、好ましくは、例えば1~100μm、より好ましくは2~50μm、より好ましくは2~20μm、より好ましくは2~10μmのD50粒子径を有するシリコン微粒子の形態である。シリコン含有出発材料のより小さな粒子が使用される場合、ステップ(a)中で露出される新鮮なシリコン表面の量は減少し、出発材料から自然酸化物を運ぶシリコン表面が過剰になる場合がある。より大きな粒子は、ナノ粒子径の範囲に効率的に粉砕することがより困難になる場合がある。しかし、より大きなシリコン含有粒子またはモノリス(例えばインゴットまたはウェーハ)を予備粉砕ステップ(例えば研削またはミリング)にかけて、任意にふるいにかけて、シリコン含有出発材料の好ましいサイズ範囲のシリコン微粒子を得ることを排除しない。
【0046】
誤解を避けるために、本明細書で使用される用語「粒子径」は、球相当径(esd)、すなわち、ある粒子と同じ容積を有する球の直径を指し、その粒子容積は、粒子内細孔の容積を含むと理解される。本明細書で使用される用語「D50」および「D50粒子径」は、容積ベースのメジアン粒子径、すなわち、粒子集団の容積の50%が検出される直径を指す。本明細書で使用される用語「D10」および「D10粒子径」は、10パーセンタイル容積ベースのメジアン粒子径、すなわち、それより下では粒子集団の10容積%が検出される直径を指す。本明細書で使用される用語「D90」および「D90粒子径」は、90パーセンタイル容積ベースのメジアン粒子径、すなわち、それより下では粒子集団の90容積%が検出される直径を指す。本明細書で使用される用語「D99」および「D99粒子径」は、99パーセンタイル容積ベースのメジアン粒子径、すなわち、それより下では粒子集団の99容積%が検出される直径を指す。
【0047】
粒子径と粒子径分布は、通常のレーザー回折技術によって決定できる。レーザー回折は、粒子がその粒子のサイズに応じて変化する角度で光を散乱するという原理に基づいており、粒子の集合は、粒子径分布に相関する強度と角度によって定義される散乱光のパターンを生成する。粒子径分布の迅速で信頼性の高い測定のために、多くのレーザー回折装置が市販されている。特に明記しない限り、本明細書で特定または報告される粒子径分布測定値は、Malvern Instrumentsからの従来のMalvern Mastersizer 3000 particle size analyzerによって測定されるものである。Malvern Mastersizer 3000 particle size analyzerは、水溶液に懸濁した目的の粒子を含む透明なセルを通してヘリウムネオンガスレーザービームを投射することによって動作する。粒子に当たる光線は、粒子径に反比例する角度で散乱され、光検出器アレイはいくつかの所定の角度で光の強度を測定し、異なる角度で測定された強度は、標準的な理論原理を使用してコンピューターによって処理され、粒子径分布を決定する。本明細書で報告されるレーザー回折値は、蒸留水中の粒子の湿潤分散を使用して得られる。粒子の屈折率は、3.50であるとみなされ、分散剤の指数は、1.330であるとみなされる。粒子径分布は、Mie散乱モデルを使用して計算される。
【0048】
ステップ(a)は、例えばボールミリング、遊星ミリング、ジェットミリング、またはそれらの組み合わせなど、任意の適切な湿式ミリングプロセスを使用して行うことができる。ステップ(a)に適した溶媒には、炭化水素(例えばトルエン、キシレン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、デカン、ドデカンおよび石油エーテルから選択される)、エーテル(例えばテトラヒドロフラン、ジグライムおよびトリグライムから選択される)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンから選択される)、アルコール(例えば、イソプロピルアルコールおよびn-ブチルアルコールから選択される)、およびハロゲン化溶媒(例えば、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタンから選択される)が含まれる。他の適切な溶媒には、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)が含まれる。好ましい溶媒には、アルコールおよびケトンが含まれる。特に好ましい溶媒は、イソプロピルアルコールである。
【0049】
溶媒は、シリコン出発材料の重量に基づいて5~50重量%、例えばシリコン出発材料の重量に基づいて10~25重量%の量で使用することができる。
【0050】
ステップ(a)は、シリコンナノ粒子の新たに露出した表面での望ましくない副反応を最小限に抑える条件下で実行されてもよい。ステップ(a)で使用される溶媒は、脱気および/または無水溶媒であり得る。例えば、溶媒は、10ppmw(重量で100万分の1)未満の酸素、5ppmw未満の酸素、または1ppmw未満の酸素を含んでもよい。溶媒は、10ppmw(重量で100万分の1)未満の水、5ppmw未満の水、または1ppmw未満の水を含んでもよい。より好ましくは、溶媒は、酸素および水をそれぞれ10ppmw(重量で100万分の1)未満、酸素および水をそれぞれ5ppmw未満、または水および酸素をそれぞれ1ppmw未満含むことができる。ステップ(a)は、嫌気性および/または無水雰囲気下、例えば、窒素または酸素などの不活性ガス下で実施することもできる。あるいは、ステップ(a)は、ミリングプロセスから大気中の水および/または酸素を実質的に排除するために、ヘッドスペースが最小化されたミリング容器内で実施されてもよい。好ましくは、ミリング容器のヘッドスペースは、ミリングの前に窒素などの不活性ガスでフラッシュされる。
【0051】
任意に、ステップ(a)で形成されるシリコンナノ粒子のD50粒子径は、少なくとも50nm、または少なくとも60nm、または少なくとも70nm、または少なくとも75nm、例えば少なくとも80nmであり得る。任意に、ステップ(a)で形成されるシリコンナノ粒子のD50粒子径は、300nm以下、より好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下であり得る。
【0052】
ステップ(a)で形成されるシリコンナノ粒子は、好ましくは50~250nm、より好ましくは60~200nm、より好ましくは70~150nm、より好ましくは80~120nmのD50粒子径を有する。例えば、ステップ(a)で形成されるシリコンナノ粒子のD50粒子径は、約100nmであり得る。
【0053】
ステップ(a)で形成されるシリコンナノ粒子のD10粒子径は、少なくとも10nm、より好ましくは少なくとも20nm、より好ましくは少なくとも40nm、より好ましくは少なくとも60nmであり得る。ステップ(a)で形成されるシリコンナノ粒子のD90粒子径は、500nm以下、より好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下であり得る。ステップ(a)で形成されるシリコンナノ粒子は、5以下、より好ましくは4以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下の粒子径分布スパン(上記で定義)を有することができる。
【0054】
ステップ(a)および(b)は、シリコン出発材料の粉砕中にin situで、シリコンナノ粒子が熱分解炭素前駆体と接触するように同時に実行してもよい。あるいは、ステップ(a)および(b)は、順次に実行してもよい。ステップ(a)および(b)を順次に行う場合、ステップ(b)は、非水性溶媒中の熱分解炭素前駆体の溶液を、任意にシリコンナノ粒子分散液中の熱分解炭素前駆体の均一な分布を確保するのに十分に混合または撹拌しながら、ステップ(a)からのシリコンナノ粒子の分散液に加えることを含み得る。熱分解炭素前駆体を溶解するために使用される溶媒は、ステップ(a)のシリコン出発材料の粉砕に使用されるものと同じ溶媒であってもよい。
【0055】
ステップ(b)は、シリコンナノ粒子と酸素および/または水との接触を回避するように適切に実行される。例えば、ステップ(a)からのシリコンナノ粒子の分散液は、ステップ(b)の前に、嫌気性および/または無水雰囲気下で保存されてもよい。シリコンナノ粒子と熱分解炭素前駆体との接触も、嫌気性および/または無水の不活性雰囲気下で適切に実行される。さらに、熱分解炭素前駆体または非水性溶媒中のその溶液は、脱気されて無水であることが好ましい。例えば、熱分解炭素前駆体またはその溶液は、10ppmw(重量で100万分の1)未満の酸素、5ppmw未満の酸素、または1ppmw未満の酸素を含んでもよい。熱分解炭素前駆体またはその溶液は、10ppmw(重量で100万分の1)未満の水、5ppmw未満の水、または1ppmw未満の水を含んでもよい。より好ましくは、熱分解炭素前駆体またはその溶液は、酸素および水をそれぞれ10ppmw(重量で100万分の1)未満、酸素および水をそれぞれ5ppmw未満、または水および酸素をそれぞれ1ppmw未満含むことができる。
【0056】
熱分解中の熱分解炭素前駆体からの重量損失は、典型的には、熱分解炭素前駆体の構造および熱分解条件に応じて40~70重量%である。したがって、熱分解炭素前駆体のシリコンに対する重量比は、典型的には、粒子状材料生成物中の炭素のシリコンに対する所望の重量比よりも約1.5~3.5高くなるように選択される。例えば、ステップ(b)における熱分解炭素前駆体のシリコンに対する重量比は、0.15~4、より好ましくは0.2~3、例えば0.3~2.5であり得る。
【0057】
溶媒は、任意の従来の手段によってステップ(c)で除去され得る。1つの溶媒除去技術は、例えば、ロータリー蒸発装置を使用した減圧下での溶媒の蒸発を含み、任意に、溶媒の凍結を防ぐために十分な熱を提供する。より好ましくは、溶媒を噴霧乾燥によって除去して、熱分解炭素前駆体中に分散したシリコンナノ粒子を含む複合粒子の粉末を形成することができる。溶媒除去プロセスは、シリコンナノ粒子が蒸気流に同伴する可能性があるため、過剰な溶媒蒸気速度を回避するように適切に制御する。
【0058】
ステップ(c)から得られる材料は、熱分解炭素前駆体のマトリックスに分散したシリコンナノ粒子を含む。この材料は、ステップ(d)または(e)の前に、不活性(例えば、嫌気性および/または無水)雰囲気下で保管してもよい。しかし、熱分解炭素前駆体のコーティングおよび/または溶媒不動態化は、シリコンナノ粒子の十分な保護を提供し、シリコンと酸素または水との望ましくない反応を防ぎ得ることがわかった。
【0059】
熱分解ステップ(e)で得られる導電性炭素マトリックスは、通常、ラマンスペクトルにおいて大きなGバンド(~1600cm-1)から明らかなように、グラファイトのような性質を有するアモルファス構造を有する。しかし、ラマンスペクトルにおける大きなDバンド(~1350cm-1)から明らかなように、その炭素は、完全にグラファイトではない。
【0060】
ステップ(e)におけるコーティングされたシリコンナノ粒子の熱分解は、シリコンナノ粒子が分散した導電性炭素マトリックスを形成する。導電性炭素マトリックスは、100μm~数十ミリメートルの寸法を有する大きなおよび/または不規則な粒子を含むことができる。したがって、ステップ(e)からのその粒子状材料を、サイズ減少ステップ(f)にかけて、減少した粒子径を有する粒子状材料を得てもよい。例えば、ボールミリング、遊星ミリング、ジェットミリング、またはそれらの組み合わせなど、任意の適切なサイズ減少技術を使用することができる。ステップ(f)は、溶媒の存在下で実施(湿式粉砕)することができ、または乾式粉砕技術を使用することができる。湿式粉砕が使用される場合、溶媒は、任意の従来の手段、例えば、減圧下での蒸発により除去され得る。
【0061】
ステップ(e)またはステップ(f)からの粒子状材料は、大きすぎる粒子を除去するために、任意に、ふるい分けステップ(g)にかけてもよい。
【0062】
ステップ(e)、(f)または(g)からの粒子状材料は、炭素コーティングの追加によって修飾されてもよい。好ましくは、炭素コーティングは、化学気相成長(CVD)法によって得られる。CVDは、当該技術分野で周知の方法論であり、粒子状材料の表面への揮発性炭素含有ガス(例えば、エチレン)の熱分解を含む。CVDによる炭素コーティングの形成は、ステップ(e)の熱分解と同時に、またはステップ(e)の熱分解の直後に実施することができる。例えば、熱分解反応が実質的に完了したら、エチレンなどの適切な揮発性炭素含有ガスを熱分解反応器に導入してもよい。
【0063】
あるいは、炭素コーティングは、炭素含有化合物の溶液を粒子状材料の表面に堆積させ、続いて熱分解することにより形成してもよい。適切な炭素含有化合物には、上記の熱分解炭素前駆体が含まれる。
【0064】
炭素コーティングには、表面の欠陥を滑らかにし、残りの表面の微小孔を埋めることによって、粒子状材料のBET表面積をさらに減らし、これによって、第1のサイクル損失をさらに減らすという利点がある。さらに、炭素コーティングによって、複合粒子の表面の導電性が向上し、電極組成物中の導電性添加剤の必要性が減り、安定したSEI層の形成に最適な表面が作成され、サイクリングでの容量維持が向上する。
【0065】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、好ましくは40~65重量%のシリコン、より好ましくは43~65重量%のシリコン、より好ましくは45~65重量%のシリコンを含む。例えば、粒子状材料は、48~62重量%のシリコン、または50~60重量%のシリコン、または52~58重量%のシリコンを含むことができる。
【0066】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料中の酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比は、好ましくは0.1~0.45である。
【0067】
例えば、ステップ(e)からの複合材料中の酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比は、0.42以下、または0.4以下、または0.38以下、または0.35以下であり得る。任意に、酸素と窒素の総量のシリコンに対する重量比は、0.1~0.42、または0.1~0.4、または0.1~0.38、または0.1~0.35であり得る。
【0068】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料中の酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比は、少なくとも0.2、より好ましくは少なくとも0.24、より好ましくは少なくとも0.28、より好ましくは少なくとも0.3、より好ましくは少なくとも0.32、より好ましくは少なくとも0.34であり得る。
【0069】
好ましくは、本発明の方法に従って調製される粒子状材料中の酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比は、0.25~0.42、より好ましくは0.28~0.4、より好ましくは0.3~0.38、最も好ましくは0.32~0.38であり得る。
【0070】
ステップ(e)からの複合材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、好ましくは0.1~1である。
【0071】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、少なくとも0.15、より好ましくは少なくとも0.2、より好ましくは少なくとも0.25、より好ましくは少なくとも0.3であり得る。
【0072】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.8以下、より好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、より好ましくは0.55以下、より好ましくは0.5以下、より好ましくは0.0.45以下であり得る。
【0073】
例えば、本発明の方法に従って調製される粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.2~0.6、より好ましくは0.25~0.5、より好ましくは0.3~0.45であり得る。
【0074】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料中の炭素の酸素および窒素の総量に対する重量比(すなわち重量[C]:重量[O+N])は、少なくとも0.7、より好ましくは少なくとも0.8、より好ましくは少なくとも0.85、または少なくとも0.9、または少なくとも0.95であり得る。
【0075】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、好ましくは少なくとも8重量%の酸素、または少なくとも10重量%の酸素、または少なくとも12重量%の酸素、または少なくとも15重量%の酸素を含む。
【0076】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、好ましくは8から20重量%未満の酸素、より好ましくは10から20重量%未満の酸素、より好ましくは12から20重量%未満の酸素、より好ましくは15から20重量%未満の酸素を含む。
【0077】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、好ましくは2~6重量%の窒素、より好ましくは2.5~5重量%の窒素、より好ましくは3~4.5重量%の窒素、最も好ましくは3.5~4.5重量%の窒素を含む。窒素含有粒子状材料は、本明細書に記載の窒素含有熱分解炭素前駆体から調製することができる。
【0078】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、好ましくは少なくとも10重量%の炭素、または少なくとも15重量%の炭素、または少なくとも18重量%の炭素を含む。本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、好ましくは、35重量%以下の炭素、30重量%以下の炭素、28重量%以下の炭素、または25重量%以下の炭素を含む。例えば、本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、15~30重量%の炭素、またはより好ましくは18~25重量%の炭素を含むことができる。
【0079】
好ましい実施形態では、本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、43~65重量%のシリコン、10から20重量%未満の酸素、2~6重量%の窒素、および15~30重量%の炭素を含み;粒子状材料中の酸素と窒素の総量の粒子状材料中のシリコンに対する重量比は、0.25~0.42であり;粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.2~0.6である。
【0080】
より好ましい実施形態では、本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、48~62重量%のシリコン、12から20重量%未満の酸素、2.5~5重量%の窒素、および18~25重量%の炭素を含み;粒子状材料中の酸素と窒素の総量の粒子状材料中のシリコンに対する重量比は、0.28~0.4であり;粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.25~0.5である。
【0081】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、50~60重量%のシリコン、15から20重量%未満の酸素、3~4.5重量%の窒素、および18~25重量%の炭素を含み;粒子状材料中の酸素と窒素の総量の粒子状材料中のシリコンに対する重量比は、0.3~0.38であり;粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.3~0.45である。
【0082】
本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、シリコン、炭素または酸素以外の微量の1つ以上の追加の元素を任意に含んでもよい。例えば、粒子状材料は、Al、Sb、Cu、Mg、Zn、Mn、Cr、Co、Mo、Ni、Be、Zr、Fe、Na、Sr、P、Sn、Ru、Ag、Au、Tiから選択される微量の1つ以上の追加の元素を少量含んでもよい。そのような元素は、例えば、シリコンナノ粒子が金属グレードのシリコンから得られる場合、シリコンナノ粒子中の微量不純物として存在する可能性がある。例えば、粒子状材料は、アルミニウム、鉄、銅、ガリウム、マグネシウム、カルシウム、チタンおよびジルコニウムから選択される1つ以上の元素を0.1~8重量%含み、材料の残りは、シリコン、炭素および酸素である。あるいは、そのような元素は、製造プロセスから存在してもよい。
【0083】
好ましくは、本発明の方法に従って調製される粒子状材料は、シリコン、炭素、酸素および窒素の合計で少なくとも80重量%、シリコン、酸素、窒素および炭素の合計で少なくとも85重量%、シリコン、酸素、窒素および炭素の合計で少なくとも90重量%、またはシリコン、酸素および炭素の合計で少なくとも95重量%、例えば、シリコン、酸素、窒素および炭素の合計で少なくとも98重量%、またはシリコン、酸素、窒素および炭素の合計で少なくとも99重量%を含む。
【0084】
第2の態様では、本発明は、複数の複合粒子からなる粒子状材料を提供し、複合粒子は、導電性炭素マトリックス中に分散した複数のシリコンナノ粒子を含み;
シリコンナノ粒子は、ナノ粒子コアとナノ粒子表面を含み、ナノ粒子表面は、ナノ粒子コアと導電性炭素マトリックスとの間に配置された、酸素の化合物または窒素の化合物またはそれらの混合物を含み;
粒子状材料は、40~65重量%のシリコンを含み;
粒子状材料は、少なくとも6重量%および20重量%未満の酸素を含み;
粒子状材料中の酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比は、0.1~0.45であり;
粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.1~1である。
【0085】
第3の態様では、本発明は、複数の複合粒子からなる粒子状材料を提供し、複合粒子は、導電性炭素マトリックス中に分散した複数のシリコンナノ粒子を含み;
シリコンナノ粒子は、ナノ粒子コアとナノ粒子表面を含み、
複数の架橋酸素原子および/または複数の架橋窒素原子が、ナノ粒子表面と導電性炭素マトリックスの少なくとも一部との間に配置されており、導電性炭素マトリックスがナノ粒子表面に化学結合しており;
粒子状材料は、40~65重量%のシリコンを含み;
粒子状材料は、少なくとも6重量%および20重量%未満の酸素を含み;
粒子状材料中の酸素と窒素の総量の粒子状材料中のシリコンに対する重量比は、0.1~0.45であり;
粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.1~1である。
【0086】
本発明の粒子状材料は、金属イオン電池用のハイブリッド電極で使用するのに特に有利な特性を有することが見出された。シリコンナノ粒子を使用すると、大きな粒子で発生するリチウム化および脱リチウム化中の過度の機械的歪みが回避される。しかし、シリコンナノ粒子が導電性炭素マトリックス中に分散している複合粒子の形でシリコンナノ粒子を提供することによって、シリコンナノ粒子に関連する取り扱いの問題を克服することができる。
【0087】
さらに、本発明の粒子状材料は、炭素マトリックスとシリコンナノ粒子の表面との間に独特の界面を有する。したがって、本発明の複合粒子の炭素マトリックスは、シリコンナノ粒子の表面を覆うコーティングを単に提供するだけではない。炭素マトリックスとシリコンナノ粒子との界面の独自の化学的性質によって、充放電中にシリコンナノ粒子が膨張および収縮しても、シリコンナノ粒子と炭素マトリックスとの間の強固な接続が維持される。その結果、シリコンナノ粒子、炭素マトリックスおよびアノード集電体間の導電性が効果的に維持される。それらの独特の構造の結果として、本発明の粒子状材料は、金属イオン電池におけるアノード活物質としてのシリコンの使用に特徴的な容量減衰メカニズムの多くを回避する。特に、本発明の粒子状材料は、金属イオン電池で使用するための当技術分野で開示された他のシリコン含有粒子状形態と比較した場合、第1サイクル損失の減少および容量維持の改善に関連することがわかった。
【0088】
本発明の粒子状材料は、活物質としてグラファイトのみを含むアノードと比較した場合、増大した体積容量を有するハイブリッドアノードを提供するために使用され得る。さらに、粒子状材料は、特に従来技術のようにアノード層をカレンダー加工して緻密で均一な層を製造する場合、構造の完全性を失うことなくアノード層への製造および組み込みに耐えるのに十分堅牢である。
【0089】
本発明の粒子状材料は、好ましくは43~65重量%のシリコン、より好ましくは45~65重量%のシリコンを含む。例えば、本発明の粒子状材料は、48~62重量%のシリコン、または50~60重量%のシリコン、または52~58重量%のシリコンを含むことができる。
【0090】
本発明の粒子状材料中の酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比(すなわち重量[O+N]:重量[Si])は、0.42以下、または0.4以下、または0.38以下、または0.35以下であり得る。任意に、酸素と窒素の総量のシリコンに対する重量比は、0.1~0.42、または0.1~0.4、または0.1~0.38、または0.1~0.35であってもよい。
【0091】
本発明の粒子状材料中の酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比は、少なくとも0.2、より好ましくは少なくとも0.24、より好ましくは少なくとも0.28、より好ましくは少なくとも0.3、より好ましくは少なくとも0.32、より好ましくは少なくとも0.34であり得る。
【0092】
好ましくは、酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比は、0.25~0.42、より好ましくは0.28~0.4、より好ましくは0.3~0.38、最も好ましくは0.32~0.38であり得る。
【0093】
本発明の粒子状材料は、シリコン、炭素、酸素および窒素以外の微量の1つ以上の追加の元素を任意に含んでもよい。例えば、粒子状材料は、Al、Sb、Cu、Mg、Zn、Mn、Cr、Co、Mo、Ni、Be、Zr、Fe、Na、Sr、P、Sn、Ru、Ag、Au、Tiから選択される微量の1つ以上の追加の元素を含んでもよい。そのような元素は、例えば、シリコンナノ粒子が金属グレードのシリコンから得られる場合、シリコンナノ粒子中の微量不純物として存在する可能性がある。例えば、本発明の粒子状材料は、アルミニウム、鉄、銅、ガリウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、およびジルコニウムから選択される1つ以上の元素を0.1~8重量%含み、材料の残りは、シリコン、炭素、および酸素および/または窒素であってもよい。あるいは、そのような元素は、製造プロセスから存在してもよい。
【0094】
好ましくは、本発明の粒子状材料は、シリコン、炭素、酸素および窒素の合計で少なくとも80重量%、シリコン、酸素、窒素および炭素の合計で少なくとも85重量%、シリコン、酸素、窒素および炭素の合計で少なくとも90重量%、またはシリコン、酸素、窒素および炭素の合計で少なくとも95重量%、例えば、シリコン、酸素、窒素および炭素の合計で少なくとも98重量%、またはシリコン、酸素、窒素および炭素の合計で少なくとも99重量%含む。
【0095】
本発明の粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、好ましくは少なくとも0.15、より好ましくは少なくとも0.20、より好ましくは少なくとも0.25、より好ましくは少なくとも0.3である。粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.8以下、より好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、より好ましくは0.55以下、より好ましくは0.5以下、より好ましくは0.45以下であり得る。
【0096】
例えば、本発明の粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.2~0.6、より好ましくは0.25~0.5、より好ましくは0.3~0.45であり得る。
【0097】
本発明の粒子状材料中の炭素の酸素と窒素の総量に対する重量比(すなわち、重量[C]:重量[O+N])は、少なくとも0.7、より好ましくは少なくとも0.8、より好ましくは少なくとも0.85、または少なくとも0.9、または少なくとも0.95であってよい。
【0098】
本発明の粒子状材料は、好ましくは少なくとも8重量%の酸素、または少なくとも10重量%の酸素、または少なくとも12重量%の酸素、または少なくとも15重量%の酸素を含む。
【0099】
本発明の粒子状材料は、18重量%未満の酸素を含んでもよい。
【0100】
本発明の粒子状材料は、好ましくは8から20重量%未満の酸素、より好ましくは10から20重量%未満の酸素、より好ましくは12から20重量%未満の酸素、より好ましくは15から20重量%未満の酸素を含む。
【0101】
好ましい実施形態では、本発明の粒子状材料は、2~6重量%の窒素、より好ましくは2.5~5重量%の窒素、より好ましくは3~4.5重量%の窒素、最も好ましくは3.5~4.5重量%の窒素を含む。
【0102】
本発明の粒子状材料は、好ましくは、少なくとも10重量%の炭素、少なくとも15重量%の炭素、または少なくとも18重量%の炭素を含む。本発明の粒子状材料は、好ましくは、35重量%以下の炭素、30重量%以下の炭素、28重量%以下の炭素、または25重量%以下の炭素を含む。例えば、本発明の粒子状材料は、15~30重量%の炭素、またはより好ましくは18~25重量%の炭素を含むことができる。
【0103】
好ましい実施形態では、本発明の粒子状材料は、43~65重量%のシリコン、10から20重量%未満の酸素、2~6重量%の窒素、および15~30重量%の炭素を含み;粒子状材料中の酸素と窒素の総量の粒子状材料中のシリコンに対する重量比は、0.25~0.42であり;粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.2~0.6である。
【0104】
より好ましい実施形態では、本発明の粒子状材料は、48~62重量%のシリコン、12から20重量%未満の酸素、2.5~5重量%の窒素、および18~25重量%の炭素を含み;粒子状材料中の酸素と窒素の総量の粒子状材料中のシリコンに対する重量比は、0.28~0.4であり;粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.25~0.5である。
【0105】
特に好ましい実施形態では、本発明の粒子状材料は、50~60重量%のシリコン、15から20重量%未満の酸素、3~4.5重量%の窒素、および18~25重量%の炭素を含み;粒子状材料中の酸素と窒素の総量の粒子状材料中のシリコンに対する重量比は、0.3~0.38であり;粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.3~0.45である。
【0106】
複合粒子中の導電性炭素マトリックスは、本発明の第1の態様を参照して説明したように、熱分解炭素前駆体の熱分解によって得られる。熱分解によって得られる導電性炭素マトリックス(本明細書では「熱分解炭素」と呼ぶ)は、ラマンスペクトルの大きなGバンド(~1600cm-1)から明らかなように、グラファイトのような特性を有するアモルファス構造を有し得る。
【0107】
複合粒子は、1~25μmのD50粒子径を有し得る。任意に、D50粒子径は、少なくとも2μm、より好ましくは少なくとも3μm、より好ましくは少なくとも4μm、より好ましくは少なくとも5μmであり得る。任意に、D50粒子径は、20μm以下、より好ましくは18μm以下、より好ましくは15μm以下、より好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下であり得る。例えば、複合粒子は、1~20μm、より好ましくは2~18μm、より好ましくは3~15μm、より好ましくは4~12μm、より好ましくは5~10μmのD50粒子径を有し得る。このサイズ範囲内にあり、本明細書で説明する多孔度と細孔径分布を有する粒子が、従来の20~50μmの均一な厚さの高密度電極層を形成するのに適したそれらのスラリーへの分散性、それらの構造的堅牢性、それらの繰り返し充放電サイクルにわたる容量維持性、およびそれらの適合性のため、金属イオン電池のアノードでの使用に理想的であることがわかった。
【0108】
複合粒子のD10粒子径は、好ましくは少なくとも0.5μm、より好ましくは少なくとも1μm、さらにより好ましくは少なくとも2μmである。D10粒子径を1μm以上に維持することによって、サブミクロンサイズの粒子が望ましくない凝集を起こす可能性が減り、粒子状材料の分散性と容量維持率が向上する。
【0109】
複合粒子のD90粒子径は、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。大きな粒子の存在は、電極活性層内の粒子の不均一な形成充填をもたらし、したがって、高密度電極層、特に20~50μmの厚さを有する電極層の形成を妨害する。
【0110】
複合粒子のD99粒子径は、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは35μm以下、最も好ましくは30μm以下である。
【0111】
複合粒子は、狭いサイズ分布スパンを有することが好ましい。例えば、粒子径分布スパン((D90-D10)/D50として定義される)は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下である。狭いサイズ分布スパンを維持することによって、高密度電極層への粒子の効率的な充填がより容易に達成できる。
【0112】
シリコンナノ粒子は、好ましくは30~500nmのD50粒子径を有する。シリコンナノ粒子のD50粒子径が30nmより小さい場合、粒子の表面積が過大になり、シリコンナノ粒子を周囲の導電性炭素マトリックスに結合するのに必要な酸素/窒素の量が多くなりすぎて、シリコンのリチオ化容量を減少させる可能性がある。シリコンナノ粒子のD50粒子径が500nmより大きい場合、シリコンナノ粒子は、複合粒子内に効率的に詰め込むことができず、シリコンナノ粒子間の空隙を補償するために過剰な量の炭素が必要になる。任意に、シリコンナノ粒子のD50粒子径は、少なくとも50nm、または少なくとも60nm、または少なくとも70nm、または少なくとも75nm、例えば少なくとも80nmであってもよい。任意に、シリコンナノ粒子のD50粒子径は、300nm以下、より好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下であってもよい。
【0113】
シリコンナノ粒子は、好ましくは、50~250nm、より好ましくは60~200nm、より好ましくは70~150nm、より好ましくは80~120nmのD50粒子径を有する。例えば、シリコンナノ粒子のD50粒子径は、約100nmであり得る。
【0114】
シリコンナノ粒子のD10粒子径は、少なくとも10nm、より好ましくは少なくとも20nm、より好ましくは少なくとも40nm、より好ましくは少なくとも60nmであってもよい。シリコンナノ粒子のD90粒子径は、500nm以下、より好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下であってもよい。シリコンナノ粒子は、5以下、より好ましくは4以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下の粒子径分布スパン(上記で定義された)を有し得る。これらの最適化されたD10、D90、および粒子径分布スパン値は、上記のように過度に小さいまたは過度に大きいシリコンナノ粒子に関連する問題を最小限に抑えるように選択される。
【0115】
本発明の粒子状材料を構成する複合粒子は、好ましくは低い多孔度を有する。例えば、複合粒子は、水銀ポロシメトリーによって決定されるように、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または2%以下の粒子内多孔度を有し得る。本発明の粒子状材料は、リチウム化および脱リチウム化の機械的応力を管理するためにナノスケールシリコン粒子の使用に依存しているため、複合粒子内の大きな細孔容積の存在は、本発明の粒子状材料で得られる体積エネルギー密度を単に損なうだけである。本発明の粒子状材料は、ナノ多孔性であってもよく、それらの容積全体に分布する2nm未満の直径を有する細孔を含んでもよい。
【0116】
本明細書で使用される用語「粒子内多孔度」は、粒子内の細孔の容積の粒子の総容積に対する比を指し、用語「粒子間多孔度」は、離散粒子間の細孔の容積を指す。粒子状材料の総多孔度は、粒子内および粒子間多孔度の合計として定義され得る。
【0117】
水銀ポロシメトリーは、水銀に浸された材料のサンプルにさまざまなレベルの圧力を加えることによって、材料の多孔度と孔径分布を特徴付ける技術である。サンプルの細孔に水銀を押し込むのに必要な圧力は、細孔のサイズに反比例する。より具体的には、水銀ポロシメトリーは、小さな細孔への液体浸透を支配する毛管法則に基づいている。この法則は、水銀などの非濡れ性液体の場合、以下のウォッシュバーン方程式で表される。
D=(1/P)・4γ・cosφ
ここで、Dは、細孔径であり、Pは、印加圧力であり、γは、表面張力であり、φは、液体とサンプルとの間の接触角である。サンプルの細孔に浸透する水銀の容積は、加えられた圧力の関数として直接測定される。分析中に圧力が増加すると、各圧力点の細孔サイズが計算され、これらの細孔を満たすために必要な水銀の対応する容積が測定される。これらの測定値は、ある範囲の圧力で取得され、サンプル材料の細孔容積対細孔直径の分布を与える。ウォッシュバーンの式では、すべての細孔が円筒形であると仮定している。真の円柱状の細孔は実際の材料ではほとんど遭遇しないが、この仮定は、ほとんどの材料の細孔構造の十分に有用な表現を提供する。誤解を避けるために、本明細書における細孔径への言及は、水銀ポロシメトリーにより決定される等価の円筒寸法を指すものと理解されるものとする。本明細書で報告される水銀ポロシメトリーによって得られた値は、ASTM UOP574-11に従って得られ、表面張力γは、480mN/mであり、接触角φは、室温で水銀について140°であるとみなされる。水銀の密度は、室温で13.5462g/cmとみなされる。
【0118】
多孔質粒子の粉末の形態のサンプルの場合、サンプルの総細孔容積は、粒子内細孔と粒子間細孔の合計である。これによって、水銀ポロシメトリー分析で少なくとも二峰性の細孔径分布曲線が生じ、これは、粒子内細孔径分布に関連する低細孔径での1つ以上のピークのセットと、粒子間細孔径分布に関連する大細孔径での1つ以上のピークのセットとを含む。細孔径分布曲線から、2組のピーク間の最低点は、粒子内および粒子間細孔容積を分離できる直径を示す。これより大きい直径での細孔容積は、粒子間細孔に関連する細孔容積であると想定される。総細孔容積から粒子間細孔容積を引くと、粒子内細孔率を計算できる粒子内細孔容積を与える。
【0119】
米国のMicromeritics Instrument Corporationから入手可能な自動水銀ポロシメータのAutoPore IVシリーズなど、多くの高精度水銀ポロシメトリー装置が市販されている。水銀ポロシメトリーの完全なレビューについては、P.A.WebbとC.Orrの「Analytical Methods in Fine Particle Technology」,1997,Micromeritics Instrument Corporation,ISBN 0-9656783-0を参照し得る。
【0120】
水銀ポロシメトリーおよび他の侵入技術は、測定される多孔質粒子の外部から水銀(または別の流体)にアクセス可能な細孔の細孔容積を決定するためにのみ有効であることは理解されよう。本明細書で指定または報告される粒子内多孔度値は、開いた細孔、すなわち本発明の粒子の外部から流体にアクセス可能な細孔の容積を指すと理解されるものとする。粒子内多孔度値を指定または報告する場合、水銀ポロシメトリーで特定できない完全に閉じた気孔はここでは考慮しないものとする。
【0121】
本発明の粒子状材料は、好ましくは100m/g未満、より好ましくは80m/g未満、より好ましくは60m/g未満、より好ましくは40m/g未満、より好ましくは30m/g未満、より好ましくは25m/g未満、より好ましくは20m/g未満、より好ましくは15m/g未満のBET表面積を有する。本明細書で使用される用語「BET表面積」は、ASTM B922/10に従い、Brunauer-Emmett-Teller理論を用いて、固体表面上の気体分子の物理的吸着の測定から計算される単位質量あたりの表面積を指すと解釈されるべきである。本発明の粒子状材料は、好ましくは、粒子内多孔度の低い粒子を含むため、BET表面積は、実質的に、複合粒子の粒子径および粒子径分布の関数となる。本発明の粒子状材料を含むアノードの最初の充放電サイクル中の複合粒子の表面での固体電解質界面(SEI)層の形成を最小限に抑えるために、概して、低BET表面積が好ましい。しかし、過度に低いBET表面積は、周囲の電解質中の金属イオンに対する電気活物質の大部分の到達不能のため、容認できないほど低い充電速度および容量をもたらす。例えば、BET表面積は、好ましくは少なくとも0.1m/g、より好ましくは少なくとも1m/g、より好ましくは少なくとも2m/g、より好ましくは少なくとも5m/gである。例えば、BET表面積は、1m/g~25m/g、より好ましくは2~15m/gであり得る。
【0122】
シリコンナノ粒子は、X線回折(XRD)技術によって測定される少なくとも10nm、少なくとも12nm、少なくとも14nmまたは少なくとも16nmのSi(111)結晶格子間隔によって特徴付けられ得る。
【0123】
任意に、シリコンナノ粒子のSi(111)結晶格子間隔は、100nm以下、50nm以下、または35nm以下である。
【0124】
本発明の粒子状材料は、典型的には、1200~2340mAh/gの第1のリチウム化での比充電容量を有する。好ましくは、本発明の粒子状材料は、少なくとも1400mAh/gの第1のリチウム化での比充電容量を有する。
【0125】
本発明の粒子状材料は、好ましくは、本発明の第1の態様に関して定義された方法によって得られる。
【0126】
本発明の第1の態様の方法に従って調製される粒子状材料は、本発明の第2および第3の態様による粒子状材料に関して定義された特徴のいずれかによってさらに定義され得ることが理解されよう。そのような特徴および特徴の組み合わせは、本発明の第1の態様に従って調製される粒子状材料に同様に適用されると理解されるべきである。
【0127】
特に、本発明の第1の態様の方法に従って調製される粒子状材料中のシリコンナノ粒子は、ナノ粒子コアおよびナノ粒子表面を含むことができ、ナノ粒子表面は、ナノ粒子コアと導電性炭素マトリックスとの間に配置された酸素の化合物または窒素の化合物またはそれらの混合物を含み;粒子状材料は、40~65重量%のシリコンを含み;粒子状材料は、少なくとも6重量%および20重量%未満の酸素を含み;粒子状材料中の酸素および窒素の総量のシリコンに対する重量比は、0.1~0.45であり;粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.1~1である。
【0128】
本発明の第1の態様の方法に従って調製される粒子状材料中のシリコンナノ粒子は、ナノ粒子コアとナノ粒子表面を含むことができ、複数の架橋酸素原子および/または複数の架橋窒素原子が、ナノ粒子表面と導電性炭素マトリックスの少なくとも一部との間に配置されており、導電性炭素マトリックスがナノ粒子表面に化学結合しており;粒子状材料は、40~65重量%のシリコンを含み;粒子状材料は、少なくとも6重量%および20重量%未満の酸素を含み;粒子状材料中の酸素と窒素の総量の粒子状材料中のシリコンに対する重量比は、0.1~0.45であり;粒子状材料中の炭素のシリコンに対する重量比は、0.1~1である。
【0129】
第4の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の方法によって得られる複数の複合粒子を含む粒子状材料を提供する。
【0130】
本発明の第5の態様では、本発明の第2、第3または第4の態様による粒子状材料と少なくとも1つの他の成分とを含む組成物が提供される。特に、本発明の第2、第3または第4の態様の粒子状材料は、電極組成物の成分として使用することができる。
【0131】
したがって、本発明の第2、第3、または第4の態様による粒子状材料と、以下から選択される少なくとも1つの他の成分とを含む電極組成物が提供される:(i)バインダー;(ii)導電性添加剤;および(iii)追加の粒子状電気活物質。本発明の第5の態様の電極組成物を調製するために使用される粒子状材料は、本発明の第2および第3の態様に関して好ましいまたは任意として記載される特徴のいずれかを有してもよく、および/または本発明の第1の態様に関して好ましいまたは任意として記載された特徴のいずれかを含む方法によって調製されてもよい。
【0132】
本発明の粒子状材料は、好ましくは電極組成物の総乾燥重量の0.5~80重量%、より好ましくは1~70重量%、より好ましくは1~60重量%、より好ましくは2~50重量%、より好ましくは2~40重量%、より好ましくは2~30重量%、より好ましくは5~15重量%を構成する。
【0133】
好ましくは、電極組成物は、本発明の第2、第3または第4の態様による粒子状材料と少なくとも1つの追加の粒子状電気活物質とを含むハイブリッド電極組成物である。追加の粒子状電気活物質の例には、グラファイト、硬質炭素、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム、アルミニウムおよび鉛が含まれる。少なくとも1つの追加の粒子状電気活物質は、好ましくはグラファイトおよび硬質炭素から選択され、最も好ましくは少なくとも1つの追加の粒子状電気活物質は、グラファイトである。
【0134】
少なくとも1つの追加の粒子状電気活物質は、好ましくは10~50μm、好ましくは10~40μm、より好ましくは10~30μm、最も好ましくは10~25μm、例えば、15~25μmのD50粒子径を有する。
【0135】
少なくとも1つの追加の粒子状電気活物質のD10粒子径は、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも6μm、より好ましくは少なくとも7μm、より好ましくは少なくとも8μm、より好ましくは少なくとも9μm、さらにより好ましくは少なくとも10μmである。
【0136】
少なくとも1つの追加の粒子状電気活物質のD90粒子径は、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下、最も好ましくは40μm以下である。
【0137】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加の粒子状電気活物質は、炭素含有粒子、グラファイト粒子および/または硬質炭素粒子から選択され、グラファイトおよび硬質炭素粒子は、10~50μmのD50粒子径を有する。さらにより好ましくは、少なくとも1つの追加の粒子状電気活物質は、グラファイト粒子から選択され、グラファイト粒子は、10~50μmのD50粒子径を有する。
【0138】
本発明の粒子状材料は、好ましくは、電極組成物中の電気活物質の総乾燥重量(すなわち、本発明の粒子状材料および少なくとも1つの追加の粒子状電気活物質の総乾燥重量)の1~50重量%を構成する。より好ましくは、本発明の粒子状材料は、電極組成物中の電気活物質の総乾燥重量の2~40重量%、より好ましくは4~25重量%、より好ましくは5~20重量%を構成する。
【0139】
電極組成物は、任意に、バインダーを含んでもよい。バインダーは、電極組成物を集電体に接着し、電極組成物の完全性を維持するように機能する。本発明に従って使用できるバインダーの例には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)およびそのアルカリ金属塩、変性ポリアクリル酸(mPAA)およびそのアルカリ金属塩、カルボキシメチルセルロース(CMC)、変性カルボキシメチルセルロース(mCMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、そのアルギン酸塩およびアルカリ金属塩、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびポリイミドが含まれる。電極組成物は、バインダーの混合物を含んでもよい。好ましくは、バインダーは、ポリアクリル酸(PAA)およびそのアルカリ金属塩、変性ポリアクリル酸(mPAA)およびそのアルカリ金属塩、SBRおよびCMCから選択されるポリマーを含む。
【0140】
バインダーは、電極組成物の総乾燥重量に基づいて、0.5~20重量%、好ましくは1~15重量%、最も好ましくは2~10重量%の量で適切に存在し得る。
【0141】
バインダーは、架橋促進剤、カップリング剤および/または接着促進剤などのバインダーの特性を変更する1つ以上の添加剤と組み合わせて任意に存在してもよい。
【0142】
電極組成物は、任意に、1つ以上の導電性添加剤を含んでもよい。好ましい導電性添加剤は、非電気活物質であり、これは電極組成物の電気活性成分間および電極組成物の電気活性成分と集電体との間の導電性を改善するために含まれる。導電性添加剤は、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、金属繊維、金属粉末および導電性金属酸化物から適切に選択することができる。好ましい導電性添加剤には、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブが含まれる。
【0143】
1つ以上の導電性添加剤は、電極組成物の総乾燥重量に基づいて、0.5~20重量%、好ましくは1~15重量%、最も好ましくは2~10重量%の総量で適切に存在し得る。
【0144】
第6の態様では、本発明は、集電体と電気的に接触している本発明の第2、第3または第4の態様に関して定義された粒子状材料を含む電極を提供する。本発明の第6の態様の電極を調製するために使用される粒子状材料は、本発明の第2および第3の態様に関して好ましいまたは任意として記載された特徴のいずれかを有してもよく、および/または本発明の第1の態様に関して好ましいまたは任意として記載された特徴のいずれかを含む方法によって調製されてもよい。
【0145】
本明細書で使用される用語集電体は、電極組成物中の電気活性粒子との間で電流を運ぶことができる任意の導電性基板を指す。集電体として使用できる材料の例には、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、および焼結炭素が含まれる。銅が好ましい材料である。集電体は、典型的には、3~500μmの厚さを有する箔またはメッシュの形態である。本発明の粒子状材料は、好ましくは10μm~1mm、例えば、20~500μm、または50~200μmの厚さまで集電体の片面または両面に塗布することができる。
【0146】
好ましくは、電極は、集電体と電気的に接触している本発明の第5の態様に関して定義された電極組成物を含む。電極組成物は、本発明の第5の態様に関して好ましいまたは任意として記載された特徴のいずれかを有し得る。特に、本発明の第6の態様の電極を形成するために使用される電極組成物は、上記で定義された1つ以上の追加の粒子状電気活物質を含むことが好ましい。
【0147】
本発明の第6の態様の電極は、本発明の粒子状材料(任意に本発明の電極組成物の形態)を溶媒および任意に1つ以上の粘度調整添加剤と組み合わせてスラリーを形成することによって適切に製造され得る。次いで、スラリーを集電体の表面に流し込み、溶媒を除去することによって、集電体の表面に電極層を形成する。バインダーを硬化させるための熱処理および/または電極層のカレンダー加工などのさらなるステップが、必要に応じて実行されてもよい。電極層は、適切には、20μm~2mm、好ましくは20μm~1mm、好ましくは20μm~500μm、好ましくは20μm~200μm、好ましくは20μm~100μm、好ましくは20μm~50μmの厚さを有する。
【0148】
あるいは、スラリーは、例えば、スラリーを適切なキャスティングテンプレート上にキャスティングし、溶媒を除去し、次いでキャスティングテンプレートを除去することによって、本発明の粒子状材料を含む自立膜またはマットに形成され得る。得られた膜またはマットは、粘着性の自立塊の形態であり、これはその後、既知の方法によって集電体に結合され得る。
【0149】
本発明の第6の態様の電極は、金属イオン電池のアノードとして使用することができる。したがって、第7の態様では、本発明は、上記の電極を含むアノードと、金属イオンを放出および再吸収することができるカソード活物質を含むカソードと;アノードおよびカソード間の電解質とを含む充電式金属イオン電池を提供する。
【0150】
金属イオンは、好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウムから選択される。より好ましくは、本発明の充電式金属イオン電池は、リチウムイオン電池であり、カソード活物質は、リチウムイオンを放出することができる。
【0151】
カソード活物質は、金属酸化物系複合体であることが好ましい。適切なカソード活物質の例には、LiCoO、LiCo0.99Al0.01、LiNiO、LiMnO、LiCo0.5Ni0.5O2、LiCo0.7Ni0.3、LiCo0.8Ni0.2、LiCo0.82Ni0.18、LiCo0.8Ni0.15Al0.05、LiNi0.4Co0.3Mn0.3およびLiNi0.33Co0.33Mn0.34が含まれる。カソード集電体は、一般に3~500μmの厚さである。カソード集電体として使用できる材料の例には、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、および焼結炭素が含まれる。
【0152】
電解質は、適切には、金属塩、例えば、リチウム塩を含む非水性電解質であり、例えば、非水性電解液、固体電解質および無機固体電解質を含み得る。使用できる非水電解液の例には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホランおよび1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどの非プロトン性有機溶媒が含まれる。
【0153】
有機固体電解質の例には、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、およびイオン解離基を含むポリマーが含まれる。
【0154】
無機固体電解質の例には、LiNI、LiN、LiI、LiSiO、LiSiS、LiSiO、LiOH、LiPOなどのリチウム塩の窒化物、ハロゲン化物および硫化物が含まれる。
【0155】
リチウム塩は、選択された溶媒または溶媒の混合物に適切に溶解する。適切なリチウム塩の例には、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiBC、LiPF、LiCFSO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLiおよびCFSOLiが含まれる。
【0156】
電解質が非水性有機溶液である場合、金属イオン電池は、アノードとカソードとの間に挿入されたセパレータを備えることが好ましい。セパレータは、典型的には、高いイオン透過性と高い機械的強度を有する絶縁材料で形成される。セパレータは、典型的には、0.01~100μmの孔径および5~300μmの厚さを有する。適切な電極セパレータの例には、微孔性ポリエチレンフィルムが含まれる。
【0157】
セパレータは、ポリマー電解質材料で置き換えられてもよく、そのような場合、ポリマー電解質材料は、複合アノード層と複合カソード層の両方の中に存在する。ポリマー電解質材料は、固体ポリマー電解質またはゲルタイプのポリマー電解質であり得る。
【0158】
第8の態様では、本発明は、本発明の第2、第3または第4の態様に関して定義された粒子状材料のアノード活物質としての使用を提供する。好ましくは、粒子状材料は、本発明の第5の態様に関して定義される電極組成物の形態であり、最も好ましくは、電極組成物は、上記で定義される1つ以上の追加の粒子状電気活物質を含む。
【0159】
本明細書で報告される本発明の粒子状材料の元素分析は、粒子状材料中の炭素、窒素および酸素の重量%を決定するためにLECO(登録商標)TruSpecMicro Elemental Analyzerを使用してASTM D5373に従って実施される。シリコンの分析は、ASTM D5600に準拠したICP-AES分析を使用して実行した。
【0160】
本発明を、実施例および添付の図1によって説明し、図1は、以下に記載するサンプル1~9および比較サンプル1の容量維持率(y軸)対炭素:シリコン比のプロットである。
【実施例
【0161】
例1-粒子状シリコン-炭素材料の調製
サンプル1~14および対照サンプル(CS1)の粒子状シリコン-炭素材料を、シリコン原料と表1に指定した量の炭素源を使用して調製した。
【0162】
指定した炭素源を、ガラスビーカー内の指定した溶媒(約40mL)に溶解した。粒子状の原料シリコン材料を添加し、その混合物を撹拌してスラリーを形成した。得られたスラリーを、1mmの酸化ジルコニウムの粉砕ビーズを含むRetschボールミルカップに移した。そのビーカーを追加の溶媒(2×15mL)で洗い流し、その洗浄液をそのRetschボールミルカップに加えた。蓋をボールミルカップの上に置き、計量した。2つ目のボールミルカップの重量を測定し、最初のボールミルカップの重量と同じになるまでその重量を調節した;この2つ目のカップは、遊星ボールミリング中に最初のカップと釣り合いを取る。両方のカップをRetsch PM200遊星ボールミルに固定し、混合物を500rpmで30分間隔で粉砕し、15分間休ませ、粉砕機の方向を逆にして、ミルの方向を逆にして、表1に記載の各サンプルの合計有効粉砕時間に達するまでこれらのステップを繰り返した。
【0163】
【表1】
2,3-ジヒドロキシナフタレン; 2,3-ジアミノナフタレン; 1,2-ジアミノベンゼン;イソプロピルアルコール; 未決定
【0164】
そのミリングカップを冷却した。その粉砕した材料を53μmのメッシュでろ過し、ろ液が青白くなるまで追加の溶媒(約150mL)で洗浄した。Buchiロータリーエバポレーターを使用して、減圧下で溶媒をろ液から除去した。得られた残留物を75℃のオーブンで一晩さらに乾燥させた。
【0165】
オーブン乾燥した材料を5×20mLのアセトンで洗浄して、未結合の炭素源を除去した。次に、アセトンで洗浄した材料を、表2に指定した熱分解手順を使用して、炉内のアルミナるつぼで熱分解した。その材料をアルゴン流(1L/分)下でアルミナるつぼに密封し、その炉を5℃/分の速度で、表2で指定する初期温度(T1)まで加熱した。そのるつぼを、表2に指定する第1の保持時間(t1)、この初期温度に維持して、その後、表2に指定する最終温度(T2)に5℃/分の速度で温度を上げて、そのるつぼを、表2に指定する第2の保持時間(t2)、この温度に保持して、その後、室温に冷却した。
【0166】
熱分解した材料をるつぼから取り出し、ハンドヘルドマイクロナイザーを使用して10秒から30秒~1分の合計微粉化時間で微粉化した。次いで、表2に指定する条件で、Retsch PM200遊星ボールミルを使用して、その微粉化した材料を乾式粉砕した。その材料を、必要な量のミリングビーズとともに、表2に指定する量でボールミルカップに入れ、500rpmで2分間粉砕し、1分間休み、ミルの方向を変えて、表2に指定する合計有効粉砕時間に達するまで繰り返した。
【0167】
【表2】
【0168】
次に、粒子状材料をMalvern Mastersizer 3000機器を使用して粒子径分析にかけて、ICP/MSとLECOの両方の技術を使用して元素分析にかけた。得られた粒子状材料のBET表面積値もMicromeritics Tristar II 3020装置を使用して決定し、サンプル1~12および比較サンプル1の結果を表3に示す。
【0169】
【表3】
【0170】
例2-電極の調製
表4に指定した組成を有するアノードを、以下の方法を使用して、実施例1~12の材料および対照サンプル1(CS1)から調製した。試験コインセルを、上記のように調製したシリコン-炭素粒子材料を含む負極で作った。CMCバインダーにカーボンスーパーP(導電性カーボン)と天然グラファイト(D50=2.85μm)を分散させたものをThinky(商標)ミキサーで混合した。そのシリコン炭素粒子状材料をその混合物に加え、Thinky(商標)ミキサーで30分間混合した。次いで、SBRバインダーを加えて、CMC:SBR比を1:1にして、表4に示す粒子状シリコン-炭素:グラファイト:CMC/SBR:導電性炭素の重量比を有するスラリーを得た。スラリーを1時間、磁気撹拌でさらに混合し、その後、厚さ10μmの銅基板(集電体)にコーティングし、50℃で10分間乾燥させ、続いて120~180℃で12時間さらに乾燥して、銅基板上の活性層を含む電極を形成した。その活性層を、セル製造の前に2Tでカレンダー処理した。
【0171】
【表4】
【0172】
例3-セルの製造とサイクリング
ハーフセル製造
多孔性ポリエチレンセパレータ、対極としてのリチウム箔、および3重量%のビニレンカーボネートを含むEC/FEC(エチレンカーボネート/フルオロエチレンカーボネート)の7:3溶液中の1M LiPFを含む電解質を有する例2の電極からカットした半径0.8cmの円形電極を用いてコインハーフセルを製造した。
【0173】
これらのハーフセルを使用して、活性層の初期体積エネルギー密度(VED1)、第1サイクル損失(FCL)、および第1脱リチウム化容量(DC1)を測定した。その関連する値を表5に示す。C/25(ここで、「C」は、電極の比容量をmAhで表し、「25」は25時間を表す)の定電流を印加して、10mVの終止電圧で、多孔質粒子を含む電極をリチウム化することによってそのハーフセルを試験した。終止に達すると、10mVの定電圧がC/100の終止電流で印加される。次に、セルをリチウム化状態で1時間休ませる。次に、電極を1Vの終止電圧でC/25の定電流で脱リチウム化し、次いでセルを1時間休ませる。次に、C/25の定電流を印加して、10mVの終止電圧でセルを2回リチウム化した後、C/100の終止電流で10mVの定電圧を印加する。
【0174】
フルセル製造
多孔性ポリエチレンセパレータとコバルト酸リチウム正極を備えたこの電極からカットした半径0.8cmの円形負極を使用して、フルコイン型電池を製造した。正電極と負電極をバランスの取れたペアを形成するように設計し、電極の投影容量比は約1:1だった。次に、3重量%のビニレンカーボネートを含むEMC/FEC(エチレンメチルカーボネート/フルオロエチレンカーボネート)の7:3溶液中の1MのLiPFを含む電解質をそのセルに加えてから封止した。
【0175】
そのフルコインセルを次のようにサイクルさせた:4.2Vの終止電圧でC/25の速度で定電流を印加し、アノードをリチウム化した。終止に達したら、4.2Vの定電圧をC/100の終止電流に達するまで印加した。次に、セルをリチウム化状態で1時間休ませた。次に、アノードをC/25の定電流で3.0Vの終止電圧で脱リチウム化する。次に、セルを1時間休ませた。この初期サイクルの後、C/2の定電流を印加して、4.2Vの終止電圧でアノードをリチウム化し、続いてC/40の終止電流で4.2Vの定電圧を印加した。次に、そのアノードをC/2の定電流で3.0V終止で脱リチウム化した。次に、セルを5分間休ませた。次に、これを所望のサイクル数繰り返した。100サイクルでの充放電容量(DC100)と容量維持率(CR100)を各サンプルについて決定した。その値を表5に示す。
【0176】
【表5】
【0177】
図1は、容量維持率(y軸)対炭素:シリコン比のプロットである。炭素:シリコン比が0.10を超えると、良好な容量維持率が観察されることが分かる。炭素:シリコン比が0.1以下の場合、容量維持率は、比較的低い。理想的には、粒子状材料の炭素とシリコンの比は、0.4~0.65のオーダーである。
【0178】
例4-粒子状シリコン-炭素材料の調製
イソプロピルアルコール(IPA)を、200ミクロンの酸化ジルコニウム粉砕ビーズを含むNetzsch高エネルギー撹拌ビーズミルに移した。次に、IPAを再循環するようにビーズミルを設定し、シリコンをその溶媒にゆっくりと添加して、約27%重量/重量のシリコンスラリーを作成した。次に、スラリー温度を50℃未満に維持しながら、スラリーをD90<800nmに粉砕した。粒子径測定は、Malvern Mastersizer 3000で実施した。得られた粉砕スラリーを適切な容器に排出し、乾燥減量(LOD)水分計(通常30%重量/重量まで)で固形分を測定した。このスラリーを、「予備粉砕」シリコンスラリーと呼ぶ。
【0179】
次に、「予備粉砕」シリコンスラリーをIPAで固形分量20%重量/重量に調節し、50ミクロンの酸化ジルコニウム粉砕ビーズを含むNetzschビーズミルに投入した。次に、このスラリーを50℃未満のスラリー温度を維持しながら、D98<188nmまで粉砕した。粒子径測定は、Malvern Mastersizer 3000で実施した。得られた粉砕スラリーを適切な容器に排出し、固形分量をLOD水分計(通常27~30%重量/重量)で測定した。このスラリーを、「ナノ粉砕」シリコンスラリーと呼ぶ。
【0180】
IPAの20%重量/重量のポリビニルピロリドン(PVP)溶液を、オーバーヘッドスターラーを使用してIPAにPVPを溶解することによって調製した。次に、LOD水分計を使用して、固形分量を測定した。次に、このPVP溶液を、シリコン1部とPVP 1.1部の固形重量比で「ナノ粉砕」シリコンスラリーと混合し、高圧ホモジナイザー中で完全に均質化するまでオーバーヘッドスターラーで混合した。次いで、この均質化したSi:PVPスラリーを、約1500バールの圧力下で高圧ホモジナイザーに通し、適切な容器に集めた。次に、固形分量をLOD水分計(100℃でSartorius MA37)で測定し、噴霧乾燥前にIPAで20%重量/重量の総固形分量に調節した。
【0181】
噴霧乾燥は、窒素閉ループを備えたProCept 4M8Trix乾燥機で実施した。均質化したSi/PVP/IPAスラリー(410g)を10g/分の速度で噴霧乾燥機に供給した。乾燥した生成物をサイクロンから回収し(71.2g、回収率87%)、D50=10.5μm(Malvern Mastersizer/Aero)および揮発分含有量7重量%であることがわかった。
【0182】
さらに乾燥した生成物は、乾燥チャンバーの壁から回収したが(10.9g)、サイクロンからの材料とは混合しなかった。
【0183】
次に、噴霧乾燥した材料(バッチサイズ20g)を400mLのガラス製回転炉容器に充填し、Carbolite HTR1100回転炉に入れた。次に、その材料を0.2ml/分の乾燥圧縮空気のフロー下に置き、約0.75rpmで回転させた。この空気フローと回転を、プロセス全体を通じて維持した。その炉を制御した条件下で5℃/分以下の昇温速度で最大温度270℃まで加熱し、PVPとシリコンを架橋するためにこの温度で4時間保持した。架橋後、その材料を約2時間放置して冷却し、その後、容器から排出した。この段階で、約2gまでのサンプルを取り出し、ICP/MSとLECOの両方の技術を使用して材料組成を分析した。
【0184】
次に、架橋した材料をアルミナるつぼに入れ、窒素流下(0.6L/分)で静的Carboliteチューブ炉で熱分解した。その炉を5℃/分の速度で1170℃に加熱し、この温度で3時間保持し、その後自然に冷却した(通常10~15時間)。
【0185】
次に、熱分解生成物を、使用前に38ミクロンメッシュでふるいにかける。この材料を、元素組成(上記のとおり)および表面積(BET)、粒子径、タップ密度に関しても完全に特徴付ける。BETは、Micromeritics Tristar II 3020機器を使用して測定する。最終生成物の特性を以下の表6に示す。
【0186】
例5-温度制御なしでの粒子状シリコン-炭素材料の調製
例5は、架橋反応を静的炉内で、架橋反応の最高温度を制御することなく実施したこと以外は、例4に記載した方法で実施した。発熱性の架橋反応のため、その内部温度は、100℃から300℃を大きく超えるまで急速に上昇した。最終生成物の特性を以下の表6に示す。
【0187】
例6-CVDによる炭素コーティングされたシリコン-炭素複合材料の調製
例5の方法に従って調製した11.1gのシリコン-炭素複合材料を風袋引きされた石英反応容器(400ml/85mm径)に充填し、Carbolite HTR1100回転炉中で5℃/分で、アルゴン(200mL/分)下で900℃まで加熱した。振動は、約1/分に設定した。炉が目標温度に達したら、エチレンガスを20分間(20mL/分)受け入れた。次に、エチレンフローを停止し、アルゴンをさらに5分間流した後、加熱を停止した。内部温度が50℃に下がるまで、生成物を回転させながらアルゴン下で受動的に冷却した。反応容器の重量を測定し、0.3g(2.6%)のおおよその重量増加を記録した。生成物を回収し(10.6g)、BETが5.0から3.4m/gに減少したことがわかった。最終生成物の特性を以下の表6に示す。
【0188】
【表6】
図1