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特許7356952基地局装置試験システム、基地局装置試験方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】基地局装置試験システム、基地局装置試験方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 24/06 20090101AFI20230928BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20230928BHJP
   H04B 7/0413 20170101ALI20230928BHJP
【FI】
H04W24/06
H04W16/28
H04B7/0413
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020093060
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021190789
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】福田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 浩司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭宜
【審査官】新井 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-169505(JP,A)
【文献】特開2003-050277(JP,A)
【文献】3GPP TS 38.141-2 V15.5.0,3rd Generation Partnership Project; Technical Specification Group Radio Access Network; NR; Base Station (BS) conformance testing Part 2: Radiated conformance testing (Release 15),2020年04月08日,pp.59,60,247
【文献】3GPP TR 37.843 V15.6.0,3rd Generation Partnership Project; Technical Specification Group Radio Access Network; Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA) and Universal Terrestrial Radio Access (UTRA); Radio Frequency (RF) requirement background for Active Antenna System (AAS) Base Station (BS) radiated requirements (Release 15),2020年01月12日,pp.31-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/0413
H04B 7/24 - 7/26
H04W 4/00 - 99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第5世代移動通信システムに使用される基地局装置の、並置アンテナから放射される妨害波に対する送信機としての耐性を試験する基地局装置試験システムであって、
N≧2,M1≧1として、N×M1個のアンテナ素子がN×M1マトリクス状に配置された平面アレイアンテナである基地局アンテナを含む上記基地局装置と、
2≧1として、N×M2個のアンテナ素子がN×M2マトリクス状に配置された平面アレイアンテナである上記並置アンテナと、
上記基地局装置と上記並置アンテナを載せている回転台と、
上記妨害波を生成する妨害波発生器と、
上記妨害波発生器に接続されており、pを2≦p≦Nを満たす予め定められた整数とし、KをN/p≦Kを満たす最小の整数として、上記妨害波を増幅するK個の増幅器と、
上記K個の増幅器と、上記基地局アンテナと上記並置アンテナとの隙間の横に位置する上記並置アンテナのN個のアンテナ素子の列(以下、「並置アンテナ素子最前列」と言う)と、を接続するK個のスイッチと、
上記妨害波によって上記基地局アンテナから放射される不要波を捕捉するテストアンテナと、
上記不要波の電力を測定する電力測定器と
を含み、
上記並置アンテナ素子最前列に含まれる上記N個のアンテナ素子のうちのn番目のアンテナ素子は、qをn/p≦qを満たす最小の整数として、上記K個のスイッチのうちのq番目のスイッチに接続されており、
上記K個のスイッチのうちのk番目のスイッチは、上記K個の増幅器のうちのk番目の増幅器と、上記並置アンテナ素子最前列に含まれる上記N個のアンテナ素子のうちの最大でp個のアンテナ素子から選択される任意の1個のアンテナ素子と、を接続でき、
上記基地局アンテナの放射面および上記並置アンテナの放射面は同じ平面に位置しており、
上記並置アンテナの放射方向は上記基地局アンテナの放射方向と同じである
基地局装置試験システム。
【請求項2】
請求項1に記載の基地局装置試験システムにおいて、
上記K個の増幅器のそれぞれは、上記妨害波の電力を、3GPP仕様で要求される妨害波電力よりも1dB大きい電力まで増幅する
ことを特徴とする基地局装置試験システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の基地局装置試験システムにおいて、
さらに、K個のアイソレータを含み、
上記K個のアイソレータのうちのk番目のアイソレータは、上記K個の増幅器のうちのk番目の増幅器と上記K個のスイッチのうちのk番目のスイッチとを接続している
ことを特徴とする基地局装置試験システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の基地局装置試験システムにおいて、
上記並置アンテナの正面に電波吸収体が設置されている
ことを特徴とする基地局装置試験システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の基地局装置試験システムにおいて、
2=1である
ことを特徴とする基地局装置試験システム。
【請求項6】
N≧2,M1≧1として、N×M1個のアンテナ素子がN×M1マトリクス状に配置された平面アレイアンテナである基地局アンテナを含む、第5世代移動通信システムに使用される基地局装置と、
2≧1として、N×M2個のアンテナ素子がN×M2マトリクス状に配置された平面アレイアンテナである並置アンテナと、
上記基地局装置と上記並置アンテナを載せている回転台と、
妨害波を生成する妨害波発生器と、
上記妨害波発生器に接続されており、pを2≦p≦Nを満たす予め定められた整数とし、KをN/p≦Kを満たす最小の整数として、上記妨害波を増幅するK個の増幅器と、
上記K個の増幅器と、上記基地局アンテナと上記並置アンテナとの隙間の横に位置する上記並置アンテナのN個のアンテナ素子の列(以下、「並置アンテナ素子最前列」と言う)と、を接続するK個のスイッチと、
上記妨害波によって上記基地局アンテナから放射される不要波を捕捉するテストアンテナと、
上記不要波の電力を測定する電力測定器と
を含み、
上記並置アンテナ素子最前列に含まれるN個のアンテナ素子のうちのn番目のアンテナ素子は、qをn/p≦qを満たす最小の整数として、上記K個のスイッチのうちのq番目のスイッチに接続されており、
上記K個のスイッチのうちのk番目のスイッチは、上記K個の増幅器のうちのk番目の増幅器と、上記並置アンテナ素子最前列に含まれる上記N個のアンテナ素子のうちの最大でp個のアンテナ素子から選択される任意の1個のアンテナ素子と、を接続でき、
上記基地局アンテナの放射面および上記並置アンテナの放射面は同じ平面に位置しており、
上記並置アンテナの放射方向は上記基地局アンテナの放射方向と同じである、
基地局装置試験システムにおいて、上記基地局装置の、上記並置アンテナから放射される上記妨害波に対する送信機としての耐性を試験する基地局装置試験方法であって、
上記K個のスイッチのそれぞれが、上記最大でp個のアンテナ素子のうちの未だ選択されていないアンテナ素子から1個のアンテナ素子を選択するステップと、
上記回転台を回転させながら、上記電力測定器が上記不要波の電力を測定するステップと
を有する基地局装置試験方法。
【請求項7】
請求項6に記載の基地局装置試験方法において、
2=1である
ことを特徴とする基地局装置試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妨害波に対する基地局装置の耐性を試験する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代移動通信システムに使用される基地局装置(NR BS; New Radio Base Station)は、複数のアンテナ素子を水平方向および垂直方向に配置した平面アレイアンテナである基地局アンテナ(BSAT; Base station antenna)を用いて、鋭い指向性ビームを形成するとともに、水平方向および垂直方向においてビーム放射方向の制御を行う。高周波数帯における空間伝搬損失が鋭い指向性によって補償されること、および、周波数利用効率が放射方向の制御によって向上することが期待されている。さらに、アンテナと無線機とを一体化することによって小型および低損失の基地局装置を実現する。このような基地局装置の仕様が3GPP(3rd Generation Partnership Project)で決定された。
【0003】
例えばアンテナと無線機が一体化された構成を持っておりSub6で使用することのできる基地局装置であるNR-BS Type 1-Oの仕様の一つが、Co-location規定である。Co-location規定は、同一サイトに設置された2個の基地局装置の間の電波干渉に対する耐性を保証するための規定である。基地局装置の例えば送信機としての性能を保証するため、基地局装置の基地局アンテナから10cm離れた場所に設置された並置アンテナ(CLTA; Co-location test antenna)から基地局アンテナへ妨害波を入力したときの入力妨害波に対する基地局装置の耐性基準としてTX-IM(Transmitter Intermodulation)規定がある。Co-location規定に関して、3GPP仕様書に、並置アンテナの放射部分の長さを基地局アンテナの放射部分の長さ±30%とし、水平ビーム幅を65°±10°とし、並置アンテナの偏波を基地局アンテナの偏波と同じとし、OTA(Over The Air)によってTX-IM規定を満たすことが記載されているが、試験システムについての記載は無い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】ETSI TS 138 141-2 V15.2.0 (2019-07), 5G; NR; Base Station (BS) conformance testing Part 2: Radiated conformance testing (3GPP TS 38.141-2 version 15.2.0 Release 15)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
並置アンテナは、規定の主旨から、同一サイトに置かれた基地局アンテナを模擬するものであり、アレイアンテナであることが想定される。したがって、並置アンテナが、(1)図1に示すように、並置アンテナ200の全てのアンテナ素子に妨害波を給電するために、並置アンテナ200のアンテナ素子のそれぞれに増幅器を接続し、並置アンテナ200の出力が基地局アンテナ101の出力と同じである構成、または、(2)基地局アンテナの出力と同じ出力を有する1個の大出力増幅器の出力を分配器によって並置アンテナの各アンテナ素子に分配する構成、を持つことが考えられる。
【0006】
しかし、増幅器の数が増えるほど装置規模が拡大し、あるいは、増幅器の出力が大きくなるほど大型で高価な増幅器が必要になり、この結果、試験のコストが増大する。
【0007】
本発明は、低コストで実施できる基地局装置試験技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで述べる技術事項は、請求の範囲に記載された発明を明示的にまたは黙示的に限定するためではなく、さらに、本発明によって利益を受ける者(例えば出願人と権利者である)以外の者によるそのような限定を容認する可能性の表明でもなく、単に、本発明の要点を容易に理解するために記載される。他の観点からの本発明の概要は、例えば、この特許出願の出願時の請求の範囲から理解できる。
【0009】
3GPP仕様によると、基地局装置が持っている平面アレイアンテナである基地局アンテナの放射面および平面アレイアンテナである並置アンテナの放射面は同じ平面に位置しており、並置アンテナの放射方向は基地局アンテナの放射方向と同じである。したがって、並置アンテナが放射する妨害波によって基地局アンテナが受ける影響は、実質的には、基地局アンテナと並置アンテナとの隙間の横に位置する並置アンテナのアンテナ素子の列(並置アンテナ素子最前列)から齎されると考えてよい。また、詳細は後述するが、並置アンテナ素子最前列に含まれるアンテナ素子の全てに一遍に給電したときに発生する不要波電力は、並置アンテナ素子最前列に含まれるアンテナ素子に個別給電したときに発生する不要波電力の和にほぼ等しいことが明らかになった。よって、本発明は、並置アンテナ素子最前列に含まれるアンテナ素子に選択的に給電する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、並置アンテナに接続される増幅器の数が並置アンテナに含まれるアンテナ素子の数よりも少なく、また、出力の大きな増幅器も不要であるので、低コストで基地局装置試験を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】3GPP仕様から想定される基地局装置試験システム。
図2】実施形態の基地局装置試験システム。
図3】基地局アンテナと並置アンテナの配置。
図4】並置アンテナの3GPP仕様。
図5】実施形態の原理を説明するための図。
図6】基地局アンテナと並置アンテナのそれぞれの構成。
図7】試験の処理過程を示す図。
図8】試験の処理過程を示す図。
図9】試験の処理過程を示す図。
図10】実施形態の検証を説明するための図。
図11】実施形態の検証を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<原理>
実施形態の説明に先立ち、実施形態を正当化する原理について説明する。
3GPPは、第5世代移動通信システムに使用される基地局装置100(例えば、NR-BS Type 1-O)の、妨害波に対する送信機としての耐性を試験するシステム1(図2参照)に関して、基地局装置100および平面アレイアンテナである並置アンテナ200の配置を規定している(非特許文献1参照)。図3に、3GPP仕様による基地局装置100と並置アンテナ200の配置を示す。図3に示す配置を簡単に説明すると、基地局装置100の筐体と並置アンテナ200の筐体の間隔が10cmであり、基地局装置100が持っている平面アレイアンテナである基地局アンテナ101の放射面および並置アンテナ200の放射面は同じ平面に位置しており、並置アンテナ200の放射方向は基地局アンテナ101の放射方向と同じである。3GPPは、並置アンテナ200の仕様も規定している(非特許文献1参照)。図4に、3GPP仕様による並置アンテナ200の規定を示す。このシステム1では、並置アンテナ200から3GPP仕様に応じて定まる妨害波が放射され、妨害波の一部を捕捉した基地局装置100の基地局アンテナ101から相互変調歪(IM; Intermodulation)を含む不要波が放射される。テストアンテナ400によって捕捉された不要波の電力は、テストアンテナ400に接続されている電力測定器500によって測定される。電力測定器500として公知の電力測定器を採用できるので、その詳細な説明を省略する。
【0013】
一般に、基地局アンテナ101の或る1個のアンテナ素子(以下、「所定素子」と言う)が捕捉する、並置アンテナ200の或る1個のアンテナ素子から到来した妨害波の電力Pbは、式(1)によって計算できる。Pinは並置アンテナ200の或る1個のアンテナ素子へ給電される妨害波の電力であり、Gtは並置アンテナ200の当該アンテナ素子の利得であり、Grは所定素子の利得であり、Lfは自由空間伝搬損失である。自由空間伝搬損失Lfはフリスの公式(2)によって計算できる。λは妨害波の波長であり、rは所定素子と並置アンテナ200の当該アンテナ素子との距離である。
【数1】
【0014】
具体例として、基地局アンテナ101と並置アンテナ200のそれぞれが垂直偏波パッチアンテナ素子で構成されているアレイアンテナ構成(図5参照)において、並置アンテナ200の各アンテナ素子200aから、基地局アンテナ101と並置アンテナ200との隙間の横に位置する基地局アンテナ101のアンテナ素子101aの列101fr(以下、「基地局アンテナ素子最前列」と言う)に含まれる所定素子101a-pに到達する妨害波の電力Pbについて説明する。この例では妨害波の周波数は3.5GHzである。並置アンテナ200は、隣り合うアンテナ素子200aの間隔がλ/2である直線状アレイアンテナである。基地局アンテナ101と並置アンテナ200との隙間の横に位置する並置アンテナ200のアンテナ素子200aの列200fr(以下、「並置アンテナ素子最前列」と言う)に含まれるアンテナ素子200aの数は、基地局アンテナ素子最前列101frに含まれるアンテナ素子101aの数と同じである。所定素子101a-pの横に位置する並置アンテナ200のアンテナ素子200aを1次隣接素子200a-1と呼び、1次隣接素子200a-1の外側に位置する2個のアンテナ素子200aを2次隣接素子200a-2と呼び、2次隣接素子200a-2の外側に位置する2個のアンテナ素子200aを3次隣接素子200a-3と呼び、3次隣接素子200a-3の外側に位置する2個のアンテナ素子200aを4次隣接素子200a-4と呼ぶことにする。所定素子101a-pから見て、1次隣接素子200a-1は0度の方向(つまり、水平方向)に、2次隣接素子200a-2は±23度の方向に、3次隣接素子200a-3は±40度の方向に、4次隣接素子200a-4は±52度の方向に、配置されている。
【0015】
アンテナ素子が最も強く放射する方向(つまり、パッチアンテナ素子の正面方向)のアンテナ利得を0dBとした場合、所定素子101a-pと1次隣接素子200a-1とを結ぶ方向において所定素子101a-pのアンテナ利得Grおよび1次隣接素子200a-1のアンテナ利得Gtはともに-10.5dB、所定素子101a-pと2次隣接素子200a-2とを結ぶ方向において所定素子101a-pのアンテナ利得Grおよび2次隣接素子200a-2のアンテナ利得Gtはともに-15dB、所定素子101a-pと3次隣接素子200a-3とを結ぶ方向において所定素子101a-pのアンテナ利得Grおよび3次隣接素子200a-3のアンテナ利得Gtはともに-18dB、所定素子101a-pと4次隣接素子200a-4とを結ぶ方向において所定素子101a-pのアンテナ利得Grおよび4次隣接素子200a-4のアンテナ利得Gtはともに-20dBである。また、所定素子101a-pと1次隣接素子200a-1とを結ぶ方向の自由空間伝搬損失Lfは-23dB、所定素子101a-pと2次隣接素子200a-2とを結ぶ方向の自由空間伝搬損失Lfは-24dB、所定素子101a-pと3次隣接素子200a-3とを結ぶ方向の自由空間伝搬損失Lfは-26dB、所定素子101a-pと4次隣接素子200a-4とを結ぶ方向の自由空間伝搬損失Lfは-28dBである。
【0016】
in=0dBmとすると、式(1)から、所定素子101a-pが捕捉する1次隣接素子200a-1からの妨害波の電力Pbは-44dBm、所定素子101a-pが捕捉する2次隣接素子200a-2からの妨害波の電力Pbは-54dBm、所定素子101a-pが捕捉する3次隣接素子200a-3からの妨害波の電力Pbは-61dBm、所定素子101a-pが捕捉する4次隣接素子200a-4からの妨害波の電力Pbは-68dBmである。
【0017】
表1に、所定素子101a-pが捕捉する1次隣接素子200a-1からの妨害波電力Pbに対する、所定素子101a-pが捕捉する1次隣接素子200a-1および2次隣接素子200a-2からの妨害波電力Pbの比、所定素子101a-pが捕捉する1次隣接素子200a-1と2次隣接素子200a-2と3次隣接素子200a-3からの妨害波電力Pbの比、所定素子101a-pが捕捉する1次隣接素子200a-1と2次隣接素子200a-2と3次隣接素子200a-3と4次隣接素子200a-4からの妨害波電力Pbの比を示す。4次隣接素子200a-4よりも遠いアンテナ素子200aからの妨害波の電力は、所定素子101a-pまでの自由空間伝搬損失がさらに大きくなることから、無視できる。表1から、1次隣接素子200a-1から3次隣接素子200a-3までのそれぞれの妨害波の電力が、所定素子101a-pが捕捉する妨害波の電力に大きく寄与し、3次隣接素子200a-3より遠いアンテナ素子200aのそれぞれの妨害波の電力の寄与は小さいことが分かる。
【表1】
【0018】
また、表1から、3GPP仕様で要求される妨害波の電力を1次隣接素子200a-1に給電したときに所定素子101a-pが捕捉する妨害波の電力(上記例では-44dBm)よりも、所定素子101a-pが捕捉する妨害波の電力が1dB大きくなるように(上記例では-43dBm)、1次隣接素子200a-1に所定の妨害波電力(以下、「所定電力」と言う)を給電することによって、換言すれば、3GPP仕様で要求される妨害波の電力よりも1dB大きい所定電力を1次隣接素子200a-1に給電することによって、1次隣接素子200a-1から4次隣接素子200a-4までの合成妨害波電力と同等の妨害波電力を所定素子101a-pに供給することができることがわかる。つまり、並置アンテナ200の1個のアンテナ素子200aに所定電力を給電することによって実施する不要波測定は、並置アンテナ200の全てのアンテナ素子200aに3GPP仕様で要求される妨害波電力を給電することによって実施する不要波測定と実質的に同等である。
【0019】
なお、所定素子101a-pの外側に位置するアンテナ素子101aに到達する1次隣接素子200a-1からの妨害波電力は、2次隣接素子200a-2から所定素子101a-pに到達する電力-54dBm以下である。これは1次隣接素子200a-1から所定素子101a-pに到達する電力-44dBmよりも10dB以上小さいので、不要波の測定に影響しないと考えてよい。同様に、基地局アンテナ素子最前列101frに含まれるアンテナ素子101a以外のアンテナ素子101aに到達する1次隣接素子200a-1からの妨害波電力は、2次隣接素子200a-2から所定素子101a-pに到達する電力-54dBm以下であるから、不要波の測定に影響しないと考えてよい。さらに、並置アンテナ素子最前列200frに含まれるアンテナ素子200a以外のアンテナ素子200aから基地局アンテナ101の各アンテナ素子101aに届く妨害波電力は、2次隣接素子200a-2から所定素子101a-pに到達する電力-54dBm以下であるから、不要波の測定に影響しないと考えてよい。
【0020】
以上から「並置アンテナ200の並置アンテナ素子最前列200frに含まれる或る1個のアンテナ素子200aに3GPP仕様で要求される妨害波電力よりも1dB大きい妨害波電力を給電することによって、並置アンテナ200に含まれる全てのアンテナ素子200aに3GPP仕様で要求される妨害波電力を給電したときの合成妨害波電力と同等の妨害波電力が、実質的に、当該アンテナ素子200aの横に位置する基地局アンテナ101に含まれる1個のアンテナ素子101aだけに届く」ことが言える。
【0021】
また、上述のとおり、所定素子101a-pに影響を与えない並置アンテナ200のアンテナ素子200aに別の増幅器を用いて給電することによって当該アンテナ素子200aから妨害波を放射しても、所定素子101a-pからの不要波の電力測定に影響は無い。したがって、一回の測定で並置アンテナ素子最前列200frに含まれるアンテナ素子200aのうちの2個以上のアンテナ素子200aに給電することによって、不要波電力の測定回数を減らすことができる。
【0022】
また、図2に示す基地局装置試験システム1では、並置アンテナ200の放射方向は基地局アンテナ101の放射方向と同じであるので、並置アンテナ200から放射された妨害波が直接、テストアンテナ400に到達してしまい、不要波測定精度が劣化する懸念がある。したがって、並置アンテナ200の電波放射方向に電波吸収体600を設置することによって、テストアンテナ400に直接届く妨害波の電力を低下させてもよい。一般に、基地局アンテナ101の並置アンテナ200に向かう方向の指向性は低いと考えられるので、電波吸収体600の設置による基地局アンテナ101の放射性能への影響は無い、または、小さいと考えられる。
【0023】
<実施形態>
以下、上述の原理に基づく実施形態について説明する。
図2図6に示す実施形態の基地局装置試験システム1は、第5世代移動通信システムに使用される基地局装置100(例えば、NR-BS Type 1-O)の、妨害波に対する送信機としての耐性を試験するシステムである。
【0024】
基地局装置試験システム1は、基地局アンテナ101を備える基地局装置100と、基地局装置100の近傍に設置された並置アンテナ200と、妨害波供給装置250と、並置アンテナ200から少し離れた並置アンテナ200の正面に設置されている電波吸収体600と、基地局装置100と並置アンテナ200と電波吸収体600を載せた回転台300と、回転台300から一定距離だけ離れて配置されており、基地局アンテナ101から放射される不要波を捕捉するテストアンテナ400と、テストアンテナ400に接続されており、不要波の電力を測定する電力測定器500を含む。
【0025】
妨害波供給装置250は、妨害波を生成する妨害波発生器201と、妨害波発生器201に接続されており、妨害波をK個に電力等分配する分配器203と、分配器203に接続されており、妨害波を増幅するK個の増幅器205と、基地局アンテナ101からの放射電力の影響を低減するためのK個のアイソレータ207と、K個のアイソレータ207を経由して並置アンテナ200(具体的には、並置アンテナ素子最前列200fr)をK個の増幅器205に接続するK個のスイッチ209と、を含む。ただし、pを2≦p≦Nを満たす予め定められた整数として、KはN/p≦Kを満たす最小の整数である。K個のアイソレータ205のうちのk番目(k∈{1,2,…,K})のアイソレータは、K個の増幅器203のうちのk番目の増幅器とK個のスイッチ207のうちのk番目のスイッチとを接続している。基地局装置100と並置アンテナ200と回転台300とテストアンテナ400と電波吸収体600は電波暗室2内に配置されている。
【0026】
基地局装置試験システム1における基地局アンテナ101および並置アンテナ200のそれぞれの構成例を、図6を参照して説明する。基地局アンテナ101と並置アンテナ200のそれぞれは平面アレイアンテナである。基地局アンテナ素子最前列101frと並置アンテナ素子最前列200frのそれぞれは同じ数のアンテナ素子を含み、この例では、基地局アンテナ101において垂直方向(具体的には、鉛直方向)に並ぶアンテナ素子101aの数は、並置アンテナ200において垂直方向(具体的には、鉛直方向)に並ぶアンテナ素子200aの数と同じである。つまり、基地局アンテナ101は、N×M1個のアンテナ素子101aがN×M1マトリクス状に配置された平面アレイアンテナであり、並置アンテナ200は、N×M2個のアンテナ素子200aがN×M2マトリクス状に配置された平面アレイアンテナである。ただし、N≧2,M1≧1,M2≧1である。M1=M2でもM1≠M2でもよいが、並置アンテナ200の基地局装置100(あるいは基地局アンテナ101と言ってもよい)への影響は、上述のとおり、主に、並置アンテナ素子最前列200frによって齎される。加えて、3GPP仕様によると並置アンテナの列数は1であることが明示されている(図1参照)。したがって、M2=1が好ましい。M2=1の場合、並置アンテナ200は、N×1個のアンテナ素子200aがN×1マトリクス状に配置された平面アレイアンテナ、換言すれば、N個のアンテナ素子が直線状に配置されたリニアアレイアンテナである。基地局アンテナ101と並置アンテナ200のそれぞれにおいて、隣り合うアンテナ素子の距離は1/2波長である。基地局アンテナ101の放射面および並置アンテナ200の放射面は同じ平面に位置しており、並置アンテナ200の放射方向は基地局アンテナ101の放射方向と同じである。図6に示す例では、N=10,M1=2,M2=1,p=4,K=3である。
【0027】
K個のスイッチ209のそれぞれは、例えば1極p投スイッチである。並置アンテナ素子最前列200frに含まれるN個のアンテナ素子200aのうちのn番目のアンテナ素子200aは、qをn/p≦qを満たす最小の整数として、K個のスイッチ209のうちのq番目のスイッチ209に接続されている。K個のスイッチ209のうちのk番目のスイッチ209は、K個の増幅器205のうちのk番目の増幅器205と、並置アンテナ素子最前列200frに含まれるN個のアンテナ素子200aのうちの最大でp個のアンテナ素子200aから選択される任意の1個のアンテナ素子200aと、を接続できる。1極p投スイッチ209の動作を制御するための制御器は周知であるから、その図示と説明を省略する。
【0028】
実施形態では、基地局装置100を動作させた状態において、K個の1極p投スイッチ209によって選択されたK個のアンテナ素子200aから、増幅器205によって電力増幅された妨害波が空間に放射される。放射された妨害波の一部は、実質的には、上述のとおり、基地局アンテナ最前列101frに含まれる1個のアンテナ素子101aによって捕捉される。
【0029】
基地局アンテナ101が捕捉した妨害波によって、基地局装置100に含まれる非線形デバイス(例えば、基地局アンテナ101に供給する電力を増幅する増幅器)の出力に相互変調歪などの不要成分が発生する。不要成分は電波として基地局アンテナ101から放射される。不要放射は受信アンテナ400によって捕捉され、電力測定器500によって不要放射の電力が測定される。3GPP仕様によると、相互変調歪を含む不要放射の電力は総放射電力(TRP; Total radiated power)として規定される。このため、回転台300を用いて基地局装置100と並置アンテナ200を回転させながら総不要放射電力を測定する。実施形態では、この測定が、1極p投スイッチ209によって選択される並置アンテナ200のK個のアンテナ素子200aごとに実施される。つまり、まず、未だ選択されていないアンテナ素子200aから1極p投スイッチ209によって選択された並置アンテナ200の最大でK個のアンテナ素子200a(図7参照)から妨害波を放射した状態で回転台300を間断無く1回転させながら不要放射の電力Σ0≦θ<2πPower(1,θ)を測定し、つぎに、未だ選択されていないアンテナ素子200aから1極p投スイッチ209によって選択された並置アンテナ200の最大でK個のアンテナ素子200a(図8参照)から妨害波を放射した状態で回転台300を間断無く1回転させながら不要放射の電力Σ0≦θ<2πPower(2,θ)を測定し、このような処理を繰り返すことによって、最終的に、未だ選択されていないアンテナ素子から1極p投スイッチ209によって選択された並置アンテナ200の最大でK個のアンテナ素子200a(図9参照)から妨害波を放射した状態で回転台300を間断無く1回転させながら不要放射の電力Σ0≦θ<2πPower(p,θ)を測定する。したがって、基地局装置100からの総不要放射電力はΣi=1 pΣ0≦θ<2πPower(i,θ)である。なお、K番目のスイッチ209に接続されているアンテナ素子200aの数がp未満である場合、p回目の処理に達する前に、未だ選択されていないアンテナ素子200aの数が0である処理が存在するが、この場合、K番目のスイッチ209はOFF状態(つまり、アンテナ素子200aと増幅器205とを接続しない)とされる(図9参照)。
【0030】
pの値を大きく設定することによって、処理回数が増大するものの増幅器205の数を低減でき、pの値を小さく設定することによって、増幅器205の数が増大するものの処理回数を低減できる。例えば、N=10,p=10,K=1の場合、処理回数は10であるが増幅器205の数は1であり、N=10,p=2,K=5の場合、増幅器205の数は5であるが処理回数は2である。
【0031】
実施形態によって、図1に示す構成に基づく総不要放射電力と同等の結果を得られることを説明する。具体的に、N=4,M1=1,M2=1,p=4,K=1の例に基づいて説明する。図10は、異なる2周波数の搬送波を合成し、合成波を4個の増幅器に分配し、さらに個々の増幅器の出力を測定する測定システムの構成を示している。例えば信号発生器800aが28GHzの搬送波を生成し、信号発生器800bが28.2GHzの搬送波を生成し、合成器810が二つの搬送波を電力合成した後、分配器820が4個の増幅器830a,830b,830c,830dに合成波を電力等分配する。各増幅器830a,830b,830c,830dによって、28GHzの搬送波と28.2GHzの搬送波が増幅されるだけでなく、27.8GHzと28.4GHzの3次相互変調歪と呼ばれる不要波が発生する。各増幅器830a,830b,830c,830dは独立に動作しているので、各増幅器830a,830b,830c,830dが生成する3次相互変調歪は基地局アンテナ101の各アンテナ素子から放射される3次相互変調歪と同じであると考えてよい。図10に示す測定システムの測定結果を表2に示す。表2では、増幅器ごとの増幅後の二つの搬送波の電力と、増幅器ごとの二つの3次相互変調歪の電力と、計算による各電力の和を示す。
【表2】
【0032】
次に、図11は、図10の示す4個の増幅器の出力を合成器840が電力合成し、電力合成後の電力を測定する測定システムを示す。合成器840は同相合成を行っているので、合成後の3次相互変調歪は、基地局アンテナ101の各アンテナ素子から放射された後に空間で同相合成された3次相互変調歪と同じであると考えてよい。図11に示す測定システムの測定結果を表3に示す。表3では、増幅後の二つの搬送波の電力と、二つの3次相互変調歪の電力と、これらの電力と表2に示す計算和との差を示す。
【表3】
【0033】
測定システムは合成器の通過損失、ケーブルの損失など計1.6dBの損失を持つので、図10に示す測定システムで得られる計算和は図11に示す測定システムで得られる測定値とほぼ一致している。つまり、基地局アンテナ101の各アンテナ素子から放射される3次相互変調歪の計算和は、基地局アンテナ101の各アンテナ素子から放射された後に空間で同相合成された3次相互変調歪とほぼ等しい。
【0034】
<補遺>
本開示において使用する「に基づいて」という記載は、別段に明記されていない限り、「のみに基づいて」を意味しない。言い換えれば、「に基づいて」という記載は、「のみに基づいて」と「に少なくとも基づいて」の両方を意味する。
【0035】
明細書と特許請求の範囲では、「接続する」という用語とこのあらゆる語形変形は、2又はそれ以上の要素間の直接的又は間接的な接続を意味し、互いに「接続」された2つの要素の間に1つ以上の中間要素が存在することを含むことができる。要素と要素との接続は、物理的接続であっても、論理的接続であっても、或いはこれらの組み合わせであってもよい。
【0036】
明細書と特許請求の範囲では、用語「含む」とその語形変化は非排他的表現として使用されている。例えば、「XはAとBを含む」という文は、XがAとB以外の構成要素(例えばC≠A且つC≠BであるC)を含むことを否定しない。また、明細書と特許請求の範囲において或る文が用語「含む」またはその語形変化が否定辞と結合した語句を含む場合、当該文は用語「含む」またはその語形変化の目的語について言及するだけである。したがって、例えば「XはAとBを含まない」という文は、XがAとB以外の構成要素を含む可能性を認めている。さらに、明細書あるいは特許請求の範囲において使用されている用語「または」は排他的論理和ではないことが意図される。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更と変形が許される。選択され且つ説明された実施形態は、本発明の原理およびその実際的応用を解説するためのものである。本発明は様々な変更あるいは変形を伴って様々な実施形態として使用され、様々な変更あるいは変形は期待される用途に応じて決定される。そのような変更および変形のすべては、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれることが意図されており、公平、適法および公正に与えられる広さに従って解釈される場合、同じ保護が与えられることが意図されている。
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