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特許7356958タイヤ物理情報推定システムおよびタイヤ物理情報推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】タイヤ物理情報推定システムおよびタイヤ物理情報推定方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/068 20120101AFI20230928BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20230928BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20230928BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B60W40/068
G01M17/007 J
G01M17/02
B60C19/00 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020164671
(22)【出願日】2020-09-30
(62)【分割の表示】P 2019169563の分割
【原出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021047185
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛篤
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第9739689(US,B2)
【文献】特開2018-73393(JP,A)
【文献】韓国登録特許第1228291(KR,B1)
【文献】特表2004-522953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60R 25/00-99/00
B62C 1/00-19/12
B62C 23/00-99/00
G01L 1/00- 1/26
G01L 25/00
G01M 17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの運動によって生じるタイヤに関する物理情報を推定すべく入力層から出力層に至る学習型の演算モデルを有する物理情報推定部と、
タイヤに関連して時系列的に計測され、前記入力層に入力される入力データを取得するデータ取得部と、を備え、
前記演算モデルは、前記入力層から前記出力層へ向けての途中演算において畳み込み演算を実行して特徴量を抽出する特徴抽出部を有し、
前記入力データは、時間的な区間において切り出した時系列的に並んだデータを含み、
前記畳み込み演算は、時系列的に並んだ前記入力データに対して、フィルタを移動させて演算することを特徴とするタイヤ物理情報推定システム。
【請求項2】
前記特徴抽出部は、畳み込み演算に加えてプーリング演算を実行することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ物理情報推定システム。
【請求項3】
前記データ取得部は、タイヤの少なくともトレッド、サイドおよびビードのいずれか1つにおいて計測される歪を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ物理情報推定システム。
【請求項4】
タイヤの運動によって生じるタイヤに関する物理情報を推定すべく入力層から出力層に至る学習型の演算モデルを有する物理情報推定部と、
前記入力層への入力データを取得するデータ取得部と、を備え、
前記演算モデルは、前記入力層から前記出力層へ向けての途中演算において畳み込み演算を実行して特徴量を抽出する特徴抽出部を有し、
前記入力データは、タイヤを取り付けた車両において時系列的に計測されて時間的な区間において切り出された時系列的に並んだデータを含み、
前記畳み込み演算は、時系列的に並んだ前記入力データに対して、フィルタを移動させて演算することを特徴とするタイヤ物理情報推定システム。
【請求項5】
前記物理情報は、タイヤに生じるタイヤ力であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のタイヤ物理情報推定システム。
【請求項6】
前記物理情報は、タイヤと路面との間における路面摩擦係数情報であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のタイヤ物理情報推定システム。
【請求項7】
タイヤの運動によって生じるタイヤに関する物理情報を推定すべく入力層から出力層に至る学習型の演算モデルに基づいてタイヤ物理情報を推定するタイヤ物理情報推定方法であって、
コンピュータが、
タイヤに関連して時系列に計測され、前記入力層に入力される入力データを取得し、
前記入力データを時間的な区間において切り出して時系列的なデータとして並べ、
前記入力層から前記出力層へ向けての途中演算において、時系列的に並んだ前記入力データに対して、フィルタを移動させて畳み込み演算を実行して特徴量を抽出することを特徴とするタイヤ物理情報推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ物理情報推定システムおよびタイヤ物理情報推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤおよび路面間の摩擦係数の推定方法としては、車両の加速度やエンジントルク等の車両情報を用いる方法が知られている。
【0003】
特許文献1には従来の路面摩擦推定システムが記載されている。この路面摩擦推定システムは、車両の複数のタイヤに取り付けられた複数のタイヤ負荷推定センサを使用する。各タイヤの負荷およびスリップ角は、センサデータから推定される。複数の車両CANバスセンサから、車両加速度およびヨーレート動作パラメータが取得され、ダイナミックオブザーバモデルは、横方向および縦方向の力推定値を複数のタイヤのそれぞれにおいて算出する。個別ホイール力推定値は、各タイヤについて、タイヤごとの横方向および縦方向の力推定値から算出される。各タイヤにおけるダイナミックスリップ角推定値および複数のタイヤのそれぞれにおける個別ホイール力推定値から、モデルベースの摩擦推定値が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-081090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の路面摩擦推定システムは、タイヤ力の推定において、車両側からの車両加速度およびヨーレート動作パラメータの情報に基づく、例えば4ホイールの車両モデル等のダイナミックオブザーバモデルを用いる必要があった。また、路面摩擦推定システムは、摩擦推定値を推定するためにニューラルネットワークを用いるが、演算量が膨大となり、タイヤ力や路面摩擦係数等のタイヤに関わる物理情報をリアルタイムで推定することが困難となる虞があった。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤに関する物理情報をリアルタイムで推定することができるタイヤ物理情報推定システムおよびタイヤ物理情報推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様はタイヤ物理情報推定システムである。タイヤ物理情報推定システムは、タイヤの運動によって生じるタイヤに関する物理情報を推定すべく入力層から出力層に至る学習型の演算モデルを有する物理情報推定部と、前記入力層への入力データを取得するデータ取得部と、を備え、前記演算モデルは、前記入力層から前記出力層へ向けての途中演算において畳み込み演算を実行して特徴量を抽出する特徴抽出部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タイヤに関する物理情報をリアルタイムで推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るタイヤ物理情報推定システムの概要を説明するための模式図である。
図2】実施形態に係るタイヤ物理情報推定システムの機能構成を示すブロック図である。
図3】演算モデルの構成を示す模式図である。
図4】演算モデルにおける演算内容の一例を説明するための模式図である。
図5】タイヤ物理情報推定装置によるタイヤ物理情報推定処理の手順を示すフローチャートである。
図6】入力データとしての加速度データの一例を示すグラフである。
図7図7(a)~図7(d)は畳み込み演算後のデータの一例を示すグラフである。
図8図8(a)~図8(d)はプーリング演算後のデータの一例を示すグラフである。
図9図9(a)~図9(d)は全結合演算の結果の一例を示すグラフである。
図10】変形例に係るタイヤ物理情報推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図10を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
(実施形態)
図1は、実施形態に係るタイヤ物理情報推定システム100の概要を説明するための模式図である。タイヤ物理情報推定システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ20およびタイヤ物理情報推定装置30を備える。また、タイヤ物理情報推定システム100は、タイヤ物理情報推定装置30で推定したタイヤ力Fや路面摩擦係数等のタイヤ物理情報を通信ネットワーク91を介して取得して蓄積し、タイヤ物理情報を監視するためのサーバ装置40などを含んでもよい。
【0012】
センサ20は、タイヤ10における加速度および歪、タイヤ空気圧、並びにタイヤ温度などタイヤ10の物理量を計測しており、計測したデータをタイヤ物理情報推定装置30へ出力する。タイヤ物理情報推定装置30は、センサ20で計測されたデータに基づいてタイヤ物理情報を推定する。タイヤ物理情報推定装置30は、タイヤ物理情報を推定する演算においてセンサ20で計測されるデータを用いるが、車両加速度等の車両側からの情報を車両制御装置90等から取得し、タイヤ物理情報を推定する演算に用いてもよい。
【0013】
タイヤ物理情報推定装置30は、推定したタイヤ力Fおよび路面摩擦係数等のタイヤ物理情報を例えば車両制御装置90へ出力する。車両制御装置90は、タイヤ物理情報推定装置30から入力されたタイヤ物理情報を、例えば制動距離の推定、車両制御への適用、更には車両の安全走行に関する情報の運転者への報知などに用いる。また車両制御装置90は、地図情報や気象情報などを用いて、将来における車両の安全走行に関する情報を提供することもできる。また、タイヤ物理情報推定システム100は、車両制御装置90が車両を自動運転する機能を有する場合には、自動運転における車速制御等に用いるデータとして、推定したタイヤ物理情報を車両制御装置90へ提供する。
【0014】
図2は、実施形態に係るタイヤ物理情報推定システム100の機能構成を示すブロック図である。タイヤ物理情報推定システム100のセンサ20は、加速度センサ21、歪ゲージ22、圧力ゲージ23および温度センサ24等を有し、タイヤ10における物理量を計測する。これらのセンサは、タイヤ10の物理量として、タイヤ10の変形や動きに関わる物理量を計測している。
【0015】
加速度センサ21および歪ゲージ22は、タイヤ10とともに機械的に運動しつつ、それぞれタイヤ10に生じる加速度および歪量を計測する。加速度センサ21は、例えばタイヤ10のトレッド、サイド、ビードおよびホイール等に配設されており、タイヤ10の周方向、軸方向および径方向の3軸における加速度を計測する。
【0016】
歪ゲージ22は、タイヤ10のトレッド、サイドおよびビード等に配設されており、配設箇所での歪を計測する。また、圧力ゲージ23および温度センサ24は、例えばタイヤ10のエアバルブに配設されており、それぞれタイヤ空気圧およびタイヤ温度を計測する。温度センサ24は、タイヤ10の温度を正確に計測するために、タイヤ10に直接、配設されていてもよい。タイヤ10は、各タイヤを識別するために、例えば固有の識別情報が付与されたRFID11等が取り付けられていてもよい。
【0017】
タイヤ物理情報推定装置30は、データ取得部31、物理情報推定部32および通信部33を有する。タイヤ物理情報推定装置30は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。タイヤ物理情報推定装置30における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0018】
データ取得部31は、無線通信等によりセンサ20で計測された加速度、歪、空気圧および温度の情報を取得する。通信部33は、車両制御装置90およびサーバ装置40等の外部装置との間で有線または無線通信等によって通信する。通信部33は、センサ20で計測されたタイヤ10の物理量、およびタイヤ10について推定したタイヤ物理情報等を通信回線、例えばCAN(コントロールエリアネットワーク)、インターネット等を介して外部装置へ送信する。
【0019】
物理情報推定部32は、演算モデル32aおよび補正処理部32bを有し、データ取得部31からの情報を演算モデル32aに入力し、タイヤ力Fや路面摩擦係数等のタイヤ物理情報を推定する。図2に示すように、タイヤ力Fは、タイヤ10の前後方向の前後力Fx、横方向の横力Fy、および鉛直方向の荷重Fzの3軸方向成分を有する。物理情報推定部32は、これら3軸方向成分のすべてを算出してもよいし、少なくともいずれか1成分の算出または任意の組合せによる2成分の算出を行うようにしてもよい。
【0020】
演算モデル32aは、ニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。図3は、演算モデル32aの構成を示す模式図である。演算モデル32aは、CNN(Convolutional Neural Network)型であり、その原型であるいわゆるLeNetで使用された畳み込み演算およびプーリング演算を備える学習型モデルである。演算モデル32aは、入力層50、特徴抽出部51、中間層52、全結合部53および出力層54を備える。入力層50には、データ取得部31で取得した時系列のデータが入力される。特徴抽出部51は、畳み込み演算51aおよびプーリング演算51bを用いて特徴量を抽出し、中間層52の各ノードへ伝達する。
【0021】
全結合部53は、中間層52の各ノードを出力層54の各ノードへ、重みづけを用いた線形演算等を実行する全結合のパスによって結び付ける。全結合部53では、線形演算に加えて、活性化関数などを用いて非線形演算を実行するようにしてもよい。
【0022】
出力層54の各ノードには、3軸方向のタイヤ力Fおよび路面摩擦係数等のタイヤ物理情報が出力される。出力層54は、3軸方向のタイヤ力Fを出力する場合、路面摩擦係数を出力する場合、タイヤ力および路面摩擦係数の両方を出力する場合がある。
【0023】
また出力層54は、路面摩擦係数の推定において、路面摩擦係数の推定値を出力しても良いし、路面摩擦係数を乾燥、湿潤、積雪または氷結状態などのカテゴリーに分類していずれのカテゴリーに当てはまるかを出力するようにしてもよい。
【0024】
演算モデル32aは、例えばタイヤ10で計測されるタイヤ軸力を教師データとして学習させることでタイヤ力Fの推定精度の良いモデルが得られる。また、演算モデル32aは、基本的にタイヤ10の仕様に応じて例えば全結合部53における階層数等の構成や重みづけが変わるが、各仕様のタイヤ10(ホイールを含む)での回転試験において演算モデル32aの学習を実行することができる。ただし、厳密にタイヤ10の仕様ごとに演算モデル32aの学習を実行する必要性はない。例えば乗用車用タイヤ、トラック用タイヤなどのタイプ別に演算モデル32aを学習させて構築し、タイヤ力Fが一定の誤差範囲内で推定されるようにすることで、複数の仕様に含まれるタイヤ10に対して1つの演算モデル32aを共用し、演算モデル数を低減してもよい。また演算モデル32aは、実際の車両にタイヤ10を装着し、該車両を試験走行させて演算モデル32aの学習を実行することもできる。タイヤ10の仕様には、例えばタイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、タイヤ強度、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤの性能に関する情報が含まれる。
【0025】
また演算モデル32aは、タイヤ10を接地させる接地面の路面摩擦係数を変えて回転試験を行って学習させてもよい。さらには、実際の車両にタイヤ10を装着し、該車両を路面摩擦係数の異なる路面を試験走行させて演算モデル32aの学習を実行することもできる。
【0026】
図4は、演算モデル32aにおける演算内容の一例を説明するための模式図である。図4では演算モデル32aへの入力データとして3軸方向の加速度データを用いている。加速度データはセンサ20において時系列的に計測されており、一定の時間区間のデータを窓関数によって切り出して入力データとする。例えば入力データは、各軸ごとに一定の時間区間に含まれる250個の加速度データとする。タイヤ10で計測される加速度はタイヤ10の1回転ごとに周期性がある。窓関数によって切り出す入力データの時間区間は、タイヤ10の回転周期に相当する時間とし、入力データ自体に周期性を持たせるとよい。
尚、窓関数は、タイヤ10の1回転分よりも短い時間区間または長い時間区間における入力データを切り出すようにしてもよく、少なくとも切り出した入力データに周期的な情報が含まれていれば演算モデル32aの学習が可能である。
【0027】
演算モデル32aでは、入力されたデータについて例えば20個のフィルタを用いて1回目の畳み込み演算を実行し、248×1(データサイズ)×3(チャネル数:加速度データ3軸分に相当)×20(フィルタ数)の畳み込み演算後のデータを得る。演算モデル32aは、加速度データなどの時系列の入力データに対してフィルタを移動させながら、畳み込み演算を実行する。フィルタ長は3としているが、適宜1~5程度の大きさとすればよい。尚、畳み込み演算は、時系列の入力データにおける連続するフィルタ長分のデータ(例えばA1,A2,A3)に、フィルタ内の各値(f1,f2,f3)をそれぞれ乗算し、乗算して得られた値を加算し、A1×f1+A2×f2+A3×f3とする。尚、入力データの端に「0(ゼロ)」のデータを付加するゼロパティングを行って、畳み込み演算を実行するようにしてもよい。また、畳み込み演算におけるフィルタの移動量は、通常、1入力データとされるが、演算モデル32aを小さくするために、適宜変更することが可能である。
【0028】
1回目の畳み込み演算後のデータに対して、1回目の最大値プーリング演算を実行して124×3×20のデータを得る。最大値プーリング演算実行後、例えば50個のフィルタを用いて2回目の畳み込み演算を実行して122×3×50のデータを得る。さらに2回目の最大値プーリング演算を実行して61×3×50の特徴量データを得て、中間層52の各ノードへ出力する。
【0029】
中間層52のノード数は61×3×50あり、これを1層または複数層で構成される全結合部53に入力して出力層54へ演算を進める。出力層54は、例えば3軸方向におけるタイヤ力Fとする。
【0030】
補正処理部32bは、タイヤ10の状態に基づいて演算モデル32aを補正する。タイヤ10は、車両への装着時にアライメント誤差が生じ、経時的にゴム硬度等の物性値が変化し、走行することによって摩耗が進行する。アライメント誤差、物性値や摩耗等の要素を含むタイヤ10の状態が使用状況によって変化し、演算モデル32aによるタイヤ力Fの算出に誤差が生じる。補正処理部32bは、演算モデル32aの誤差を低減するためにタイヤ10の状態に応じた補正項を演算モデル32aに付加する処理を行う。
【0031】
サーバ装置40は、タイヤ物理情報推定装置30から、センサ20で計測されたタイヤ10の物理量、並びにタイヤ10について推定したタイヤ力Fおよび路面摩擦係数等のタイヤ物理情報を取得する。サーバ装置40は、複数の車両から、タイヤ10で計測された物理量、およびタイヤ物理情報推定装置30で推定されたタイヤ物理情報等を蓄積するようにしてもよい。
【0032】
次にタイヤ物理情報推定システム100の動作を説明する。図5は、タイヤ物理情報推定装置30によるタイヤ物理情報推定処理の手順を示すフローチャートである。タイヤ物理情報推定装置30は、センサ20で計測されたタイヤ10における加速度、歪、タイヤ空気圧およびタイヤ温度などの物理量を、データ取得部31によって取得する(S1)。
【0033】
物理情報推定部32は、データ取得部31において取得されたデータから一定の時間区間の入力データを抽出する(S2)。図6は、入力データとしての加速度データの一例を示すグラフである。図6に示す加速度データは、3軸方向のうちの1軸方向の時系列データであり、タイヤ10の回転によってタイヤ10で発生している加速度が変化している。
【0034】
タイヤ物理情報の推定においては、少なくとも1軸分(例えば周方向)の加速度データが入力データとして必要である。また、タイヤ物理情報の推定において、例えばタイヤ10の周方向および軸方向の2軸分の加速度データを入力データとしても良いし、3軸分の加速度データを入力データとしても良い。更に、タイヤ10における歪、タイヤ空気圧およびタイヤ温度のうち少なくとも1つ以上の時系列データを入力データに含むようにしても良い。
【0035】
演算モデル32aの特徴抽出部51は、入力データに対する畳み込み演算51aおよびプーリング演算51bによって、特徴量を抽出する処理を実行する(S3)。図7(a)~図7(d)は畳み込み演算後のデータの一例を示すグラフであり、図8(a)~図8(d)はプーリング演算後のデータの一例を示すグラフである。
【0036】
図7(a)~図7(d)では、異なる4つのフィルタを用いて畳み込み演算を実行した結果を示しているが、フィルタの数はこれに限られるものではない。また、図8(a)~図8(d)に示すデータは、それぞれ図7(a)~図7(d)に示す畳み込み演算後のデータに対するプーリング演算後のデータを示している。図8(a)~図8(d)に示すプーリング演算は、2個のデータのうち最大値を抽出する手法によるプーリング演算を示しているが、プーリング演算のデータ数、およびプーリング手法はこれに限られるものではない。このプーリング演算によって、特徴量を抽出しつつデータ量を低減し、演算モデル32aでの演算を実行することができる。
【0037】
演算モデル32aの全結合部53は、特徴抽出部51において抽出され中間層52の各ノードへ入力された特徴量に対して全結合による演算を実行する(S4)。図9(a)~図9(d)は全結合演算の結果の一例を示すグラフである。図9(a)~図9(d)に示すデータは、それぞれ図8(a)~図8(d)に示すプーリング演算後のデータに対する全結合による演算後のデータを示している。
【0038】
全結合による演算は、中間層52から出力層54へ向かって実行されており、データ数が圧縮される次元圧縮処理となっている。全結合演算において用いる重みづけ等のパラメータは演算モデル32aの学習において決定しているが、補正処理部32bによってタイヤ10の状況に応じて補正されているものとする。全結合演算によって、例えばタイヤ力Fおよび路面摩擦係数等のタイヤ物理情報が出力層54の各ノードに出力される。
【0039】
演算モデル32aは、CNN型を用いることで、加速度データを窓関数によって時系列的に切り出し、フィルタを移動しながら畳み込み演算を実行するため、演算開始を特定の時点に合わせる必要がない。このようにタイヤ物理情報推定システム100は、CNN型の演算モデル32aを用いることで、センサ20で計測された時系列データによってリアルタイムでタイヤ物理情報を推定することができる。
【0040】
タイヤ物理情報推定システム100は、周期運動であるタイヤ10の回転によって生じる計測データに基づいてタイヤ物理情報をリアルタイム推定する演算モデル32aを構築している。タイヤ物理情報推定システム100は、例えば路面が変化してタイヤ力F等が変化しても簡易に計算できるため、例えば1秒後の予測ができ、リアルタイム性を保つことができる。
【0041】
またタイヤ物理情報推定システム100は、特徴量を抽出することで、全結合による演算量を低減化し、推定時における計算処理量を低減化することができる。
【0042】
タイヤ物理情報推定システム100は、センサ20によって計測されて演算モデル32aに入力するデータが複数種類ある場合でも、タイヤ10において生じた同じ現象の影響を受けた複数種類のデータに対して、タイヤ力Fおよび路面摩擦係数等のタイヤ物理情報がどのような出力値になったかを学習することができ、推定精度が向上する。
【0043】
タイヤ物理情報推定システム100は、抽出したデータを用いて決定木やRNN(Recurrent Neural Network)、DNN(Deep Neural Network)などの手法と組み合わせることによって更に精度よく、計算コストも安い演算モデル32aを構築することが可能である。
【0044】
(変形例)
図10は変形例に係るタイヤ物理情報推定システム100の機能構成を示すブロック図である。図10に示す変形例では演算モデル32aへ入力するデータを車両制御装置90から取得する。尚、車両制御装置90からのデータと、センサ20からのデータ(図2参照)の両方を演算モデル32aへ入力するデータとして用いることもできる。
【0045】
車両制御装置90は、車両のデジタルタコメータ等において、例えば車両の走行速度、3軸方向の加速度および3軸角速度等の走行データ、並びに車両の重量および車軸にかかる軸重などの荷重データを取得している。車両制御装置90は、これらの走行データおよび荷重データをタイヤ物理情報推定装置30へ出力する。
【0046】
タイヤ物理情報推定装置30は、車両制御装置90から入力されたデータに対して演算モデル32aでタイヤ力Fおよび路面摩擦係数等のタイヤ物理情報を推定する。尚、演算モデル32aは、予め車両制御装置90から入力されたデータに対してタイヤ物理情報を推定する学習を、例えば実際の車両による試験走行によって実行し、構築される。
【0047】
上述の実施形態および変形例では、演算モデル32aで推定するタイヤ物理情報としてタイヤ力Fおよび路面摩擦係数について説明したが、例えばタイヤ10を取り付けるために用いるホイールナット等の締結部品の緩みを推定することもできる。タイヤ10で計測される加速度データにホイールナット等の締結部品の緩みによる振動が表われるので、他のタイヤ力Fとの比較により、締結部品の緩みを推定する演算モデル32aをCNN型で構築して学習させる。タイヤ物理情報推定システム100、実際の車両走行時に取得する加速度データ等の入力データに基づいて演算モデル32aによる演算を実行し、リアルタイムでタイヤ10の締結部品の緩みを推定することができる。
【0048】
またセンサ20は、図1に基づき説明した各センサに限られず、例えばタイヤ10またはタイヤ10の周辺に設けたマイクなどを用いてもよい。演算モデル32aは、マイクなどにより集音した音声データを用いてタイヤ物理情報を推定してもよい。
【0049】
上述の実施形態および変形例において、演算モデル32aはCNN型LeNetモデルを用いたが、いわゆるDenseNetモデル、ResNetモデル、MobileNetモデルやPeleelNetモデルなどのモデル構造を用いてもよい。また演算モデル32a中にDense Block、Residual Block、Stem Blockなどのモジュール構造を取り入れてモデルを構築してもよい。またタイヤ力のモデルは、成分Fx,Fy,Fzについてそれぞれモデルが独立していてもよいし、畳み込み層とプーリング層までを統合して、全結合層の演算のみをFx,Fy,Fzと別々に出力できるようなモデル構造としても良い。
【0050】
次に実施形態に係るタイヤ物理情報推定システム100の特徴について説明する。
実施形態に係るタイヤ物理情報推定システム100は、物理情報推定部32、データ取得部31を備える。物理情報推定部32は、タイヤ10の運動によって生じるタイヤ10に関する物理情報を推定すべく入力層50から出力層54に至る学習型の演算モデル32aを有する。データ取得部31は、入力層50への入力データを取得する。演算モデル32aは、入力層50から出力層54へ向けての途中演算において畳み込み演算51aを実行して特徴量を抽出する特徴抽出部51を有する。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、タイヤ力Fおよび路面摩擦係数等のタイヤ物理情報をリアルタイムで推定することができる。
【0051】
また、特徴抽出部51は、畳み込み演算に加えてプーリング演算51bを実行する。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、特徴量を抽出しつつデータ量を低減し、演算モデル32aでの演算を実行することができる。
【0052】
また入力データは、タイヤ10において計測される加速度データを含む。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、タイヤ10に設けた加速度センサ21によってタイヤ10の運動時に発生する加速度を計測することで、タイヤ力および路面摩擦係数等のタイヤ物理情報をリアルタイムで推定することができる。
【0053】
また入力データは、タイヤ10を取り付けた車両における加速度データを含む。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、車両側から加速度データを取得することで、タイヤ力および路面摩擦係数等のタイヤ物理情報をリアルタイムで推定することができる。
【0054】
またタイヤ物理情報は、タイヤ10に生じるタイヤ力である。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、タイヤ力Fをリアルタイムで推定することができる。
【0055】
またタイヤ物理情報は、タイヤ10と路面との間における路面摩擦係数情報である。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、路面摩擦係数をリアルタイムで推定することができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0057】
10 タイヤ、 31 データ取得部、 32 物理情報推定部、
32a 演算モデル、 50 入力層、 51 特徴抽出部、
51a 畳み込み演算、 51b プーリング演算、 54 出力層、
100 タイヤ物理情報推定システム。
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