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特許7356961歩行者道路横断シミュレーション装置、歩行者道路横断シミュレーション方法、及び歩行者道路横断シミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】歩行者道路横断シミュレーション装置、歩行者道路横断シミュレーション方法、及び歩行者道路横断シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20230928BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G08G1/00 C
G09B9/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020195645
(22)【出願日】2020-11-26
(65)【公開番号】P2022084058
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】306020818
【氏名又は名称】トヨタテクニカルディベロップメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 龍
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-109881(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163113(WO,A1)
【文献】特開2007-264778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
G09B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者の道路横断の挙動をシミュレーションする歩行者道路横断シミュレーション装置であって、
シミュレーション環境内において道路を横断する仮想歩行者の歩行に関連する歩行情報を受け付ける歩行情報受付部と、
前記シミュレーション環境内において前記道路を通行する仮想車両の走行に関連する走行情報を受け付ける走行情報受付部と、
前記走行情報が入力された前記仮想車両の走行に応じて、前記歩行情報が入力された前記仮想歩行者が前記シミュレーション環境内の前記道路を横断するまたは横断しないとする前記仮想歩行者の行動を、前記歩行情報に基づいて規定する横断判断を生成する横断判断部と、
前記仮想歩行者の前記横断判断を出力する行動決定部と、を備える
ことを特徴とする歩行者道路横断シミュレーション装置。
【請求項2】
前記シミュレーション環境内において前記仮想歩行者を生成する仮想歩行者生成部と、
前記シミュレーション環境内において前記仮想車両を生成する仮想車両生成部と、を備える請求項1に記載の歩行者道路横断シミュレーション装置。
【請求項3】
前記走行情報は、少なくとも前記仮想車両の前記道路における車速、前記仮想車両と前記仮想歩行者との間の距離を含む請求項1または2に記載の歩行者道路横断シミュレーション装置。
【請求項4】
前記歩行情報は、前記仮想歩行者の前記道路の歩行速度を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の歩行者道路横断シミュレーション装置。
【請求項5】
前記横断判断部における横断判断を生成に際し、前記仮想歩行者の前記歩行情報に応じて前記仮想歩行者が道路横断を行うか否かを数値計算に基づいて判断する複数の判断モデルが提示される請求項1ないし4のいずれか1項に記載の歩行者道路横断シミュレーション装置。
【請求項6】
前記横断判断部に前記複数の判断モデルを選択する判断モデル選択部が備えられ、
前記判断モデル選択部は前記仮想歩行者の前記歩行情報に応じて前記複数の判断モデルから一の判断モデルを選択する請求項5に記載の歩行者道路横断シミュレーション装置。
【請求項7】
前記判断モデル選択部は、前記仮想歩行者の前記歩行情報として前記仮想歩行者の前記道路の横断速度に応じて前記複数の判断モデルから一の判断モデルを選択する請求項6に記載の歩行者道路横断シミュレーション装置。
【請求項8】
前記横断判断は、前記仮想歩行者が横断する確率である横断確率、前記仮想車両の車速、前記仮想車両の車両加速度、前記仮想歩行者と前記仮想車両との距離、及び前記仮想歩行者の歩行の速度である歩行速度を用いるロジスティック回帰分析により生成される請求項1ないし7のいずれか1項に記載の歩行者道路横断シミュレーション装置。
【請求項9】
歩行者の道路横断の挙動をシミュレーションする歩行者道路横断シミュレーション方法であって、
コンピュータが、
シミュレーション環境内において道路を横断する仮想歩行者の歩行に関連する歩行情報を受け付ける歩行情報受付ステップと、
前記シミュレーション環境内において前記道路を通行する仮想車両の走行に関連する走行情報を受け付ける走行情報受付ステップと、
前記走行情報が入力された前記仮想車両の走行に応じて、前記歩行情報が入力された前記仮想歩行者が前記シミュレーション環境内の前記道路を横断するまたは横断しないとする前記仮想歩行者の行動を規定する横断判断を生成する横断判断ステップと、
前記仮想歩行者の前記横断判断を出力する行動決定ステップと、を実行する
ことを特徴とする歩行者道路横断シミュレーション方法。
【請求項10】
歩行者の道路横断の挙動をシミュレーションする歩行者道路横断シミュレーションプログラム装置であって、
コンピュータが、
シミュレーション環境内において道路を横断する仮想歩行者の歩行に関連する歩行情報を受け付ける歩行情報受付機能と、
前記シミュレーション環境内において前記道路を通行する仮想車両の走行に関連する走行情報を受け付ける走行情報受付機能と、
前記走行情報が入力された前記仮想車両の走行に応じて、前記歩行情報が入力された前記仮想歩行者が前記シミュレーション環境内の前記道路を横断するまたは横断しないとする前記仮想歩行者の行動を規定する横断判断を生成する横断判断機能と、
前記仮想歩行者の前記横断判断を出力する行動決定機能と、を実現する
ことを特徴とする歩行者道路横断シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者道路横断シミュレーション装置、歩行者道路横断シミュレーション方法、及び歩行者道路横断シミュレーションプログラに関し、特に、歩行者の道路横断の挙動をシミュレーションするための装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
道路を横断しようとする歩行者と道路を走行する車両の相互間の挙動を把握するシミュレーションの手法が提案されている(例えば特許文献1等参照)。特許文献1では、経路仕様及び挙動仕様に基づいて仮想歩行者を自動的に生成し、交差点を横断する仮想歩行者及び交差点を横断する仮想歩行者に反応する仮想車両を含むデジタルシミュレーションを実行する構成が開示されている。そして、同文献では、挙動仕様データ195は、横断歩道タイマーがゼロに近づくにつれて仮想歩行者が歩行速度を上げる様子又は仮想車両の接近に反応して仮想歩行者が移動速度又は方向を修正する(例えば、接近する仮想車両から離れる方向に素早く動きつつ移動速度を上げる)様子が開示されている。
【0003】
特に、開発が進められている自動運転の車両に搭載される走行制御システムの検証に際し、道路を横断しようとする歩行者と道路を走行する車両の相互間の挙動を把握するシミュレーション(横断判断モデル)が必要となっている。
【0004】
現状のシミュレーション手法の横断判断モデルは、シミュレーション環境内の仮想の歩行者が同シミュレーション環境内の道路を横断するまたは横断しないとする2値判断(単一の判断モデル)に留まる。そのため、従前の単一判断モデルの場合、仮想の歩行者自身の横断時の速度(歩く、走る)を考慮した複雑な判断ができない。また、単一判断モデルでは、走行車両の動きに応じた歩行者の挙動の変化を表現することは煩雑化して難しかった。このため、歩行者と走行車両の関係性についての複雑な判断をしようとすると、モデル化の難易度は高くなる。
【0005】
そこで、歩行者と走行車両の関係性について、相互の関係性を踏まえながらも歩行判断の複雑化を避け、より実際の歩行者の挙動に近づける判断モデルの開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-109881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の点に鑑みなされたものであり、シミュレーション環境内における歩行者と走行車両の関係性について、歩行者の歩行速度を用いて横断判断が生成されて歩行者の歩行判断の複雑化が避けられ、より実際の歩行者の挙動に近づける歩行判断モデルを実現する歩行者道路横断シミュレーション装置を提供し、併せて歩行者道路横断シミュレーション方法及び歩行者道路横断シミュレーションプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、実施形態の歩行者道路横断シミュレーション装置は、シミュレーション環境内において道路を横断する仮想歩行者の歩行に関連する歩行情報を受け付ける歩行情報受付部と、シミュレーション環境内において道路を通行する仮想車両の走行に関連する走行情報を受け付ける走行情報受付部と、走行情報が入力された仮想車両の走行に応じて、歩行情報が入力された仮想歩行者がシミュレーション環境内の道路を横断するまたは横断しないとする仮想歩行者の行動を規定する横断判断を生成する横断判断部と、仮想歩行者の横断判断を出力する行動決定部とを備えることを特徴とする。
【0009】
さらに、シミュレーション環境内において仮想歩行者を生成する仮想歩行者生成部と、シミュレーション環境内において仮想車両を生成する仮想車両生成部とを備えることとしてもよい。
【0010】
さらに、走行情報は、少なくとも仮想車両の道路における車速、仮想車両と仮想歩行者との間の距離を含むこととしてもよい。また、歩行情報は、仮想歩行者の道路の歩行速度を含むこととしてもよい。
【0011】
さらに、横断判断部における横断判断を生成に際し、仮想歩行者の歩行情報に応じて複数の判断モデルが提示されることとしてもよい。
【0012】
さらに、横断判断部に複数の判断モデルを選択する判断モデル選択部が備えられ、判断モデル選択部は仮想歩行者の歩行情報に応じて複数の判断モデルから一の判断モデルを選択することとしてもよい。
【0013】
さらに、判断モデル選択部は、仮想歩行者の前記歩行情報として仮想歩行者の道路の横断速度に応じて複数の判断モデルから一の判断モデルを選択することとしてもよい。
【0014】
さらに、横断判断はロジスティック回帰分析により生成されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の歩行者道路横断シミュレーション装置は、シミュレーション環境内において道路を横断する仮想歩行者の歩行に関連する歩行情報を受け付ける歩行情報受付部と、シミュレーション環境内において道路を通行する仮想車両の走行に関連する走行情報を受け付ける走行情報受付部と、走行情報が入力された仮想車両の走行に応じて、歩行情報が入力された仮想歩行者がシミュレーション環境内の道路を横断するまたは横断しないとする仮想歩行者の行動を規定する横断判断を生成する横断判断部と、仮想歩行者の横断判断を出力する行動決定部とを備えるため、シミュレーション環境内における歩行者と走行車両の関係性について、歩行者の歩行速度を用いて横断判断が生成されて歩行者の歩行判断の複雑化が避けられ、より実際の歩行者の挙動に近づける歩行判断モデルのシミュレーションを実現することができる。また、歩行者道路横断シミュレーション方法、歩行者道路横断シミュレーションプログラムにおいても同様の歩行判断モデルのシミュレーションを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の歩行者道路横断シミュレーション装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】歩行者道路横断シミュレーション装置の機能部の構成を示すブロック図である。
図3】歩行者道路横断シミュレーション装置の処理の流れを示すブロック図である。
図4】横断判断の過程を示すフローチャートである。
図5】判断モデルの選択を示す模式図である。
図6】行動決定部における横断判断の例を示す表である。
図7】歩行者道路横断シミュレーション装置の主要な制御を示す第1フローチャートである。
図8】歩行者道路横断シミュレーション装置の主要な制御を示す第2フローチャートである。
図9】歩行者道路横断シミュレーション装置の主要な制御を示す第3フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態の歩行者道路横断シミュレーション装置は、同装置のシミュレーション環境内において仮想歩行者、仮想の道路、当該道路を走行する仮想車両等をデータとして生成する。そして、仮想歩行者の歩く速度、仮想車両の速度等の条件を適宜変更して、シミュレーション環境内において、種々の条件下、仮想歩行者が道路を横断するまたは横断しないの横断判断が決定される。このようなシミュレーション環境内において決定される横断判断は、例えば、車両の走行制御の精度向上、車両の無人運転の実現のための先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver-Assistance System)の開発に活用される。
【0018】
図1のブロック図は、実施形態の歩行者道路横断シミュレーション装置1の主要部の構成を示す。歩行者道路横断シミュレーション装置1はシミュレーションに関する演算を実行する処理部10(コンピュータ)と、同処理部10に接続された表示部20を備える。
【0019】
処理部10は、ハードウェア的にCPU11、ROM12、RAM13、記憶部14、I/O(イン・アウトインターフェース)15等により構成される。その他にメインメモリ、LSI等も含まれる。またソフトウェア的に、メインメモリにロードされた同期化プログラム等により実現される。
【0020】
処理部10の各機能部をソフトウェアにより実現する場合、処理部10は各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行することで実現される。このプログラムを格納する記録媒体は、「一時的でない有形の媒体」、例えば、CD、DVD、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、このプログラムは、当該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワーク、放送波等)を介して処理部10(コンピュータ)に供給されてもよい。
【0021】
処理部10は、パーソナルコンピュータ(PC)、メインフレーム、ワークステーション、クラウドコンピューティングシステム、さらには、スマートフォン、タブレット端末等、種々の電子計算機(計算リソース、コンピュータ)である。
【0022】
表示部20は公知のディスプレイ等である。なお、処理部10がスマートフォン、タブレット端末等である場合には、処理部10に表示部20が包含される構成としても良い。
【0023】
歩行者道路横断シミュレーション装置1のシミュレーション環境の様子は、図1の表示部20の表示画像50として模式的に示される。シミュレーション環境を示す表示画像50の中に仮想歩行者Hが示される。当該シミュレーション環境内に道路51と横断歩道52が表示される。そして、横断歩道52に向かって仮想車両55が走行している。歩行者道路判断シミュレーション装置1は、このシミュレーション環境下において、仮想歩行者Hが横断歩道52を横断するまたは横断しないのいずれかの横断判断を、仮想歩行者Hに与えられる情報(後述の歩行情報)を用いて決定する。
【0024】
処理部10における各種の記憶部はROM12、RAM13であり、さらに記憶部14はHDDまたはSSD等の公知の記憶装置(図示せず)である。演算処理を実行する各機能部はCPU11等の演算素子である。
【0025】
I/O(イン・アウトインターフェース)15は通信(送受信)用のインターフェース、バッファ等である。I/O15は、入出力のための表示部20とのデータの送受信に介在される。また、適宜のキーボード、マウス等の操作のための機器も必要によりI/O15に接続される。
【0026】
処理部10のCPU11における各機能部は、図2の概略ブロック図のとおり示される。各機能部は、仮想歩行者生成部110、仮想車両生成部120、歩行情報受付部130、走行情報受付部140、横断判断部150、行動決定部160、さらに判断モデル選択部170等を備える。
【0027】
歩行者道路横断シミュレーション装置1の処理の流れの概要は図3のブロック図として示される。はじめに、入力変数が算出される(S1)。入力変数とは、後出の歩行情報及び走行情報である。次に、横断判断が行われる(S2)。横断判断とは、シミュレーション環境内の仮想歩行者Hが横断歩道52を横断するか否かの仮想歩行者Hの判断である。そして、行動決定が行われる(S3)。行動決定では、シミュレーション環境内の仮想歩行者Hが横断歩道52を横断することを止める決定、さらには、歩いてまたは走って横断する等の横断態様が決定される。
【0028】
仮想歩行者生成部110は、シミュレーション環境内において道路を横断する仮想歩行者を生成する。具体的には、仮想歩行者生成部110は、図1の表示画像50における仮想歩行者Hのように生成する。仮想歩行者Hは、後述する歩行情報に応じて人数を1人から複数人へと拡張される。図1の表示画像50の仮想歩行者Hの態様は説明の便宜上の表示であり、無形のデータとしても良い。なお、仮想歩行者Hの生成は歩行者道路横断シミュレーション装置1自体(仮想歩行者生成部110)の生成としても、外部からの設定としても良い。
【0029】
仮想車両生成部120は、シミュレーション環境内において道路を通行する仮想車両を生成する。具体的には、仮想車両生成部120は、図1の表示画像50における仮想車両55のように生成する。シミュレーション環境内の仮想車両55の台数は1台から順次走行するように複数台としても良い。図1の表示画像50の仮想車両55の態様も説明の便宜上の表示であり、無形のデータとしても良い。なお、仮想車両55の生成は歩行者道路横断シミュレーション装置1自体(仮想車両生成部120)の生成としても、外部からの設定としても良い。
【0030】
歩行情報受付部130は、シミュレーション環境内において道路を横断する仮想歩行者Hの歩行に関連する歩行情報を受け付ける。歩行情報受付部130では、仮想歩行者Hの歩行に関連する歩行情報とは、仮想歩行者Hの歩行速度であり、仮想歩行者Hが横断歩道52を渡る際の横断速度である。歩行情報は、例えば、予め設定された「歩く」、「駆け足」、「全力疾走」の3段階に対応する速さ、あるいは、1m/s、2m/sの速度表記としてもよい(sは秒である。)。これらの仮想歩行者Hに対する歩行情報の入力が受け付けられる(図3のS1参照)。
【0031】
走行情報受付部140は、シミュレーション環境内において道路51を通行する仮想車両55の走行に関連する走行情報を受け付ける。仮想車両55の走行に関連する走行情報とは、仮想車両55の車速(速さ)(m/s)、車両加速度(m/s)等である。さらには、仮想歩行者Hと仮想車両55との距離(歩車間距離)(m)も走行情報に加えられる。これらの仮想車両55に対する走行情報の入力が受け付けられる(図3のS1参照)。
【0032】
また、シミュレーション環境内の仮想歩行者Hが横断しようとする横断歩道52の距離(道路51の幅)(m)、道路51の傾斜角度(°)等が走行情報に加えられてもよい(図3のS1参照)。
【0033】
横断判断部150は、走行情報が入力された仮想車両55の走行に応じて、歩行情報が入力された仮想歩行者Hがシミュレーション環境内の道路51(横断歩道52)を横断するまたは横断しないとする仮想歩行者Hの行動を、歩行情報に基づいて規定する横断判断を生成する。
【0034】
そして、行動決定部160は、仮想歩行者Hの横断判断を出力する。横断判断の結果(仮想歩行者Hは歩いて横断する。仮想歩行者Hは走って横断する。仮想歩行者Hは留まる。)は表示部20へ出力される。
【0035】
横断判断の過程の例として、図4のフローチャートが示される。前述のとおり、歩行情報及び走行情報が入力変数算出として入力される(S11)。このとき、歩行情報及び走行情報から歩いて横断可能か判断される(S12)。歩いて横断可能であれば仮想歩行者Hに対して歩いて横断可能の横断判断が生成される(S14)。S12において歩いて横断可能でない場合、走って横断可能か判断される(S13)。走って横断可能であれば仮想歩行者Hに対して走って横断可能の横断判断が生成される(S15)。なお、S13において走って横断可能でない場合には、横断しない(停止)の横断判断が生成される(S16)。
【0036】
図4のフローチャートにおける歩くまたは走るの分岐は単純化したモデルであり、例えば、歩くと走るの間に、小走りの分岐等がさらに含められても良い。
【0037】
横断判断部150における横断判断の生成に際しては、仮想歩行者Hの歩行情報に応じて複数の判断モデルが予め提示される。そこで、判断モデル選択部170は、複数の判断モデルから、入力された条件より最適な判断モデルを選択する。判断モデルとは、入力される事項による所定の数値計算等に基づいて、いずれかの結論(横断する・しない)を導き出すための計算をするためモデルをいう。
【0038】
判断モデル選択部170の判断モデルの選択に際しては、図5の模式図が参照される。はじめに、仮想歩行者Hが横断歩道52を渡る場合、歩行情報として「歩く」と「走る」の2段階もしくは複数段階の横断速度[v(m/s)]が入力される。簡略化のため、図示は「歩く」と「走る」の表記である。そして、図5の例では、走行情報として仮想歩行者Hと仮想車両55との距離(歩車間距離)[d(m)]、仮想車両55の車速[v(m/s)]、車両加速度[α(m/s)]が入力される。
【0039】
そこで、前出の入力事項を踏まえ最適な判断モデルが選択される。図5の例では、仮想歩行者Hの横断速度[v(m/s)]に応じて、複数の判断モデルより「判断モデルI」または「判断モデルII」が選択される(図3のS2参照)。
【0040】
仮想歩行者Hの横断速度[v(m/s)]が歩く速さであれば「判断モデルI」が選択され、横断速度[v(m/s)]が走る速さであれば「判断モデルII」が選択される。仮想歩行者Hの横断速度により、判断モデルを分類し、そして選択する方の利便性が高い。
【0041】
その上で、個々の判断モデルにおいて判断結果が比較され、最終結論として出力される。設定される判断モデルの数は、図5の例のように2種類に限られない。例えば、仮想歩行者Hの横断速度に応じて、歩くと走るの中間の早歩きに対応した判断モデルが設定されたり、横断速度に応じた5段階の判断モデルが設定されたりしてもよい。
【0042】
実施形態の歩行者道路横断シミュレーション装置1によると、横断判断の判断モデルとしてロジスティック回帰分析のモデルが用いられている。横断判断はロジスティック回帰分析のモデルより算出され、横断確率は任意の闘値と比較され、横断確率が閾値を超える場合に「go」(横断する)、閾値以下の場合に「wait」(待機)の結論が出力される。横断確率の算出、及び横断判断の結果は式(i)、(ii)、(iii)により求められる。
【0043】
式中、「result」は横断判断の結果、「thresh」は任意の閾値である。「p」は横断確率、「k」は横断確率を求めるための変数、「v」は車速、「α」は車両加速度、「d」は歩車間距離、「v」は歩行速度(横断速度)であり、「η」はロジスティック回帰における回帰係数を示す。
【0044】
【数1】
【0045】
【数2】
【0046】
【数3】
【0047】
利用するロジスティック回帰分析のモデルは入力変数に歩行速度を採用したモデルであり、同一のモデルに対し異なる歩行速度の入力により、任意のパターンの横断判断結果を得ることができる。例えば、仮想歩行者Hの歩行速度を歩く場合に1m/sとし、走る場合に3m/sとして、それぞれ場合の横断判断の結果(横断する・待機する)が算出される。
【0048】
前出の式(i)、(ii)、(iii)のロジスティック回帰のモデルにより得られた歩く場合と走る場合の横断判断結果をもとに、図6の表に従って横断行動が決定される(図3のS3参照)。最終的な横断判断の判断結果の出力は、「walk」(歩いて横断:1m/s)、「run」(走って横断:3m/s)、「wait」(待機、横断しない)のいずれかとなる。なお、表中、歩いて横断できて走って横断できない場合は、一般的には発生し得ないと考えられ、「-」(考慮除外)としている。
【0049】
式(ii)の関数はリンク関数の一種であり、実施形態のロジスティック回帰のモデルでは、入力値により明確に横断確率が算出され、横断確率は閾値により分類される。なお、横断確率、横断判断の行動決定に際しては、実施形態のロジスティック回帰のモデルの他に、公知の深層学習の手法が取り入れられても良い。
【0050】
実施形態のとおり、最初に簡単な分類(歩行速度)により、予め適用する判断モデルが選択され、当該選択された判断モデルにおいて横断判断が計算されて判断結果が出力される。このように、判断モデルの分類と選択により、使用する判断モデルにおいての演算が実行されて横断確率、つまり横断判断の行動決定が導き出される。従って、仮想歩行者の横断速度に応じて、個別に横断判断の行動決定が可能となり、実際の歩行者の挙動に近づいた歩行判断モデルが実現する。
【0051】
続いて、実施形態の歩行者道路横断シミュレーション方法を歩行者道路横断シミュレーションプログラムとともに説明する。実施形態の歩行者道路横断シミュレーション方法は、歩行者道路横断シミュレーションプログラムに基づいて、処理部10のCPU11により実行される。歩行者道路横断シミュレーション方法は、処理部10のCPU11に対して、仮想歩行者生成機能、仮想車両生成機能、歩行情報受付機能、走行情報受付機能、横断判断機能、行動決定機能を実行させ、さらに判断モデル選択機能を実行させる。各機能は前述の説明と重複するため、詳細は省略する。
【0052】
図7図8図9のフローチャートは処理部10のCPU11における歩行者道路横断シミュレーション方法の全体の流れであり、図7では仮想歩行者生成ステップ(S110)、仮想車両生成ステップ(S120)、図8では歩行情報受付ステップ(S130)、走行情報受付ステップ(S140)、横断判断ステップ(S150)、行動決定ステップ(S160)が実行され、図9では判断モデル選択ステップ(S170)が実行される。
【0053】
処理部10のCPU11において、仮想歩行者生成ステップ(S110)における処理は仮想歩行者生成部110の説明に対応する。仮想車両生成ステップ(S120)における処理は仮想車両生成部120の説明に対応する。歩行情報受付ステップ(S130)における処理は歩行情報受付部130の説明に対応する。走行情報受付ステップ(S140)における処理は走行情報受付部140の説明に対応する。横断判断ステップ(S150)における処理は横断判断部150の説明に対応する。行動決定ステップ(S160)における処理は行動決定部160の説明に対応する。また、判断モデル選択ステップ(S170)における処理は判断モデル選択部170の説明に対応する。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の歩行者道路横断シミュレーション装置、歩行者道路横断シミュレーション方法、歩行者道路横断シミュレーションプログラムは、シミュレーション環境内における歩行者と走行車両の相互の関係性を踏まえつつ、歩行判断の複雑化を避け、より実際の歩行者の挙動に近づける歩行判断モデルを実現している。このことから、既存の歩行者道路横断シミュレーション装置に代替するとして有望である。
【符号の説明】
【0055】
1 歩行者道路横断シミュレーション装置
10 処理部(コンピュータ)
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 記憶部
15 I/O(イン・アウトインターフェース)
20 表示部
50 表示画像
51 道路
52 横断歩道
55 仮想車両
H 仮想歩行者
110 仮想歩行者生成部
120 仮想車両生成部
130 歩行情報受付部
140 走行情報受付部
150 横断判断部
160 行動決定部
170 判断モデル選択部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9