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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】心血管疾患に有用な医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/47 20060101AFI20230928BHJP
   A61K 31/423 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 9/08 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61K31/47
A61K31/423
A61P9/00
A61P9/08
A61P9/12
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020518300
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2019018265
(87)【国際公開番号】W WO2019216313
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2018089786
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 一文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅言
(72)【発明者】
【氏名】井上 敬介
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0028505(US,A1)
【文献】国際公開第2008/120472(WO,A1)
【文献】ARAI, Hidenori et al.,Efficacy and safety of K-877, a novel selective peroxisome proliferator-activated receptor α modula,Atherosclerosis,2017年06月,Vol. 261,p. 144-152
【文献】PRADHAN, Aruna D. et al.,Rationale and design of the Pemafibrate to Reduce Cardiovascular Outcomes by Reducing Triglycerides,American Heart Journal,2018年12月,Vol. 206,p. 80-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペマフィブラート又はその塩、及びピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を組み合わせてなる、血圧低下、心重量増加抑制及び血管内皮機能改善から選ばれる心血管疾患予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である請求項記載の心血管疾患予防及び/又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心血管疾患に有用な医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
心血管疾患(Cardiovascular diseases:CVD)は、主として動脈硬化など血管の異常が原因となる疾患群であり、例として、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患、リウマチ性心疾患、先天性心疾患、深部静脈血栓症及び肺塞栓症を含む心臓及び循環系の障害等が挙げられる。医療の大幅な進歩にもかかわらず、世界的にCVDは依然として死亡原因の第1位のままであり、2012年にCVDで死亡した推定人口は約1750万人、全世界の死亡者数の31%を占めている。CVDの主な危険因子として、高血圧症、脂質異常症、肥満、喫煙等が知られている。
【0003】
中でも脂質異常症は、人の脂質代謝の不均衡であり、その1つ以上の脂質値がCVDのリスク増加と関連する。脂質異常症は、2型糖尿病患者及びCVDの危険性が高い他の患者において見られることがよく知られている。脂質異常症は、典型的には、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベルの上昇、トリグリセリド(TG)レベルの上昇、又は高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)レベルの低下の1つ又は組合せとして表現される。脂質異常症の治療を目的とした薬物療法は、CVDのリスクを軽減するために重要視されている。
【0004】
非特許文献1によると、脂質異常症の治療を開始するためのカットポイント、即ち、心血管イベントのリスクがある各種脂質濃度として以下の数値が報告されている。即ち、LDL-Cについては100mg/dL(2.59mmol/L)以上、総コレステロールについては200mg/dL(5.18mmol/L)以上、HDL-Cについては男性で40mg/dL(1.0mmol/L)未満、女性で50mg/dL(1.3mmol/L)未満、空腹時TGについては150mg/dL(1.70mmol/L)以上、非HDL-Cについては130mg/dL(3.37mmol/L)以上、が該当するとされる。
【0005】
HMG-CoAレダクターゼ阻害剤として知られているスタチンは、脂質異常症の治療のために広く世界中で使用されている。このクラスの薬物は、LDL-Cレベルを低下させるのに特に効果的であり、CVDの罹患率を低下させると信じられている。しかし、スタチンは、高LDL-C以外の心血管リスクであるTG上昇、非HDL-C上昇、アポリポタンパク質CIII(Apo CIII)上昇、レムナントコレステロール上昇、HDL-C低下などへの効果は限定的である。
【0006】
他の薬物クラス、特にフィブラートもまた、脂質不均衡を是正するために使用されている。フィブラートは、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)を活性化し、トリグリセリドやコレステロールを減少させるのに特に有効である。フィブラートは、高トリグリセリド血症及び高コレステロール血症を治療するために、単独で、又は他の脂質改善治療と組み合わせて使用されており、CVDの危険性を低減するための有用性は、いくつかの大規模臨床試験において検証されている。
【0007】
FIELD試験(非特許文献2)では、2型糖尿病に罹患した50~75歳の9795人を対象に、プラセボ又はフェノフィブラートを5年間投与した。この結果、フェノフィブラートの投与は非致死性心筋梗塞や冠動脈再建術などの副次的エンドポイントには効果が見られたものの、主要なエンドポイントである冠動脈イベントにおいて効果を示さなかった。
【0008】
また、ACCORD試験(非特許文献3)では、2型糖尿病に罹患した5518人を対象に、シンバスタチン単独又はシンバスタチンとフェノフィブラートとの併用投与の結果を平均4.7年間追跡したが、致死的心血管イベント、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の主要評価項目、またその副評価項目のいずれにおいても、フェノフィブラートの有意な追加治療効果は検出されなかった。
このような中、CVDの治療に向けた更なる取り組みが続けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Circulation 2002 Dec 17;106(25):3143-421
【文献】LANCET 2005; 366:1849-1861
【文献】N ENGL J MED 2010; 362:1563-1574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、心血管疾患に有用な医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究した結果、選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)として知られているペマフィブラート((2R)-2-[3-({1,3-ベンゾオキサゾール-2-イル[3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノ}メチル)フェノキシ]ブタン酸)とHMG-CoA還元酵素阻害剤とを組み合わせることにより、心血管疾患に対する優れた予防/治療効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[16]に関するものである。
[1]ペマフィブラート又はその塩、及びHMG-CoA還元酵素阻害剤を組み合わせてなる心血管疾患の予防及び/又は治療剤。
[2]HMG-CoA還元酵素阻害剤が、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン又はロスバスタチンである[1]に記載の心血管疾患の予防及び/又は治療剤。
[3]HMG-CoA還元酵素阻害剤が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である[1]又は[2]に記載の心血管疾患の予防及び/又は治療剤。
[4]ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である[1]~[3]のいずれかに記載の心血管疾患の予防及び/又は治療剤。
[5]心血管疾患の予防及び/又は治療剤製造のための、ペマフィブラート又はその塩、及びHMG-CoA還元酵素阻害剤の組み合わせの使用。
[6]HMG-CoA還元酵素阻害剤が、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン又はロスバスタチンである[5]に記載の使用。
[7]HMG-CoA還元酵素阻害剤が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である[5]又は[6]に記載の使用。
[8]ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である[5]~[7]のいずれかに記載の使用。
[9]心血管疾患を予防及び/又は治療するための、ペマフィブラート又はその塩、及びHMG-CoA還元酵素阻害剤の組み合わせ。
[10]HMG-CoA還元酵素阻害剤が、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン又はロスバスタチンである[9]に記載の組み合わせ。
[11]HMG-CoA還元酵素阻害剤が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である[9]又は[10]に記載の組み合わせ。
[12]ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である[9]~[11]のいずれかに記載の組み合わせ。
[13]ペマフィブラート又はその塩、及びHMG-CoA還元酵素阻害剤を組み合わせて投与することを特徴とする心血管疾患の予防及び/又は治療方法。
[14]HMG-CoA還元酵素阻害剤が、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン又はロスバスタチンである[13]に記載の方法。
[15]HMG-CoA還元酵素阻害剤が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である[13]又は[14]に記載の方法。
[16]ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である[13]~[15]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記両薬剤を組み合わせることにより、優れた心血管疾患リスクの低下作用を示し、新たな心血管疾患の予防及び/又は治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】高濃度食塩及び高脂肪食負荷条件下のDahl食塩感受性ラットに対し、ペマフィブラート、ピタバスタチンの各々単独投与、併用投与したときの血圧降下を示す図である。
図2】高濃度食塩及び高脂肪食負荷条件下のDahl食塩感受性ラットに対し、ペマフィブラート、ピタバスタチンの各々単独投与、併用投与したときの心重量を示す図である。
図3】高濃度食塩及び高脂肪食負荷条件下のDahl食塩感受性ラットに対し、ペマフィブラート、ピタバスタチンの各々単独投与、併用投与したときの血管内皮機能を示す図である。
図4】リン酸内皮型一酸化窒素合成酵素(Phospho-eNOS)の発現量に対する、ペマフィブラート、ピタバスタチンの各々単独投与、併用投与の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書における用語の定義は以下の通りである。なお、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、特に断らない限り、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味をもつ。
【0016】
本明細書において「ペマフィブラート」は、(2R)-2-[3-({1,3-ベンゾオキサゾール-2-イル[3-(4-メトキシフェノキシ)]プロピルアミノ}メチル)フェニノキシ]ブタン酸であり、国際公開第2005/023777号パンフレットに記載の方法により製造することができる。また、ペマフィブラートは、高脂血症(家族性含む)の治療薬として日本において承認された「パルモディア(登録商標)錠0.1mg」としても入手できる。ペマフィブラートの塩としては、薬学上許容される塩、例えば塩酸塩等の酸付加塩、及びナトリウム塩、カリウム塩等の塩基塩が挙げられる。
ペマフィブラート又はその塩の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、ペマフィブラートのフリー体換算で0.001~100mg、より好適には0.01~10mg、特に好適には0.1~0.4mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0017】
本明細書において「HMG-CoA還元酵素阻害剤」とはスタチン類であり、例えば、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン若しくはそれらの塩又はそれらの溶媒和物が挙げられる。好ましいHMG-CoA還元酵素阻害剤としてはピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が挙げられる。また、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン若しくはそれらの塩又はそれらの溶媒和物は、市販品として入手できる。
【0018】
本明細書において「プラバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、プラバスタチンそのもののほか、プラバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはプラバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
プラバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、プラバスタチンナトリウム(化学名:Monosodium(3R,5R)-3,5-dihydroxy-7-[(1S,2S,6S,8S,8aR)-6-hydroxy-2-methyl-8[-(2S)-2-methylbutanoyloxy]-1,2,6,7,8,8a-hexahydronaphthalen-1-yl]heptanoate)が好ましい。
プラバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特開昭57-2240号公報、米国特許第4346227号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0019】
プラバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、プラバスタチンナトリウム換算で1~160mg、より好適には2~120mg、特に好適には5~80mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0020】
本明細書において「シンバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、シンバスタチンそのもののほか、シンバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはシンバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれこれらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
シンバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、シンバスタチン(化学名:(1S,3R,7S,8S,8aR)-8-[2-[(2R,4R)-4-hydroxy-6-oxotetrahydro-2H-pyran-2-yl]ethyl]-3,7-dimethyl-1,2,3,7,8,8a-hexahydronaphthalen-1-yl 2,2-dimethylbutanoate)が好ましい。
シンバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、米国特許第4444784号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0021】
シンバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、シンバスタチンのフリー体換算で1~160mg、より好適には2~120mg、特に好適には5~80mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0022】
本明細書において「フルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、フルバスタチンそのもののほか、フルバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはフルバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
フルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、フルバスタチンナトリウム(化学名:(±)-(3RS,5SR,6E)-sodium-7-[3-(4-fluorophenyl)-1-(1-methylethyl)-1H-indol-2-yl]-3,5-dihydroxy-6-heptenoate)が好ましい。
フルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特表昭60-500015号公報、米国特許第5354772号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0023】
フルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、フルバスタチンのフリー体換算で1~160mg、より好適には5~120mg、特に好適には10~80mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0024】
本明細書において「アトルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、アトルバスタチンそのもののほか、アトルバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはアトルバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
アトルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、アトルバスタチンカルシウム水和物(化学名:(-)-Monocalcium bis[(3R,5R)-7-[2-(4-fluorophenyl-5-isopropyl-3-phenyl-4-phenylcarbamoyl-1H-pyrrol-1-yl)-3,5-dihydroxyheptanoate]trihydrate})が好ましい。
アトルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特開平3-58967号公報、米国特許第5273995号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0025】
アトルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、アトルバスタチンのフリー体換算で1~160mg、より好適には2~120mg、特に好適には5~80mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0026】
本明細書において「ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、ピタバスタチンそのもののほか、ピタバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはピタバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、ピタバスタチンのカルシウム塩又はその水和物が好ましく、ピタバスタチンカルシウム(化学名:(+)-monocalcium bis[(3R,5S,6E)-7-[2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl]-3,5-dihydroxy-6-heptenoate})又はその水和物(特に、5水和物(pentahydrate))が特に好ましい。
ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特開平1-279866号公報、米国特許第5856336号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0027】
ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、ピタバスタチンカルシウム換算で0.1~16mg、より好適には0.5~8mg、特に好適には1~4mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0028】
本明細書において「ロスバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」には、ロスバスタチンそのもののほか、ロスバスタチンの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩;アンモニウム塩等)、さらにはロスバスタチンやその薬学上許容される塩と水やアルコール等との溶媒和物も含まれ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
ロスバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、ロスバスタチンカルシウム(化学名:Monocalcium bis ((3R,5S,6E)-7-[4-(4-fluorophenyl)-6-isopropyl-2-[methanesulfonyl(methyl)amino]pyrimidin-5-yl]-3,5-dihydroxyhept-6-enoate))が好ましい。
ロスバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の化合物であり、例えば、特開平5-178841号公報、米国特許第5260440号明細書等に記載の方法により製造することができる。
【0029】
ロスバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の投与量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、例えば、1日あたり、ロスバスタチンのフリー体換算で0.5~80mg、より好適には1~60mg、特に好適には2.5~40mgを1回又は2回以上に分けて服用するのが好ましい。
【0030】
HMG-CoA還元酵素阻害剤としては、ペマフィブラート又はその塩と組み合わせた際に優れた心血管リスク低下作用を得る観点から、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が特に好ましい。後記実施例から明らかなとおり、HMG-CoA還元酵素阻害剤としてピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を用いることにより、ペマフィブラート又はその塩との併用によって、血圧低下等、心血管リスク低下作用の相乗的な増強が認められる。
【0031】
したがって、本発明のペマフィブラート又はその塩、及びHMG-CoA還元酵素阻害剤の組み合わせは、心血管疾患の主な危険因子である高血圧症、脂質異常症、肥満等に対して優れたリスク低下作用を示すため、心血管疾患の予防及び/又は治療剤として有用である。
【0032】
本明細書において「心血管疾患」は、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患、リウマチ性心疾患、先天性心疾患、深部静脈血栓症及び肺塞栓症を含む心臓及び循環系の障害等を包含する。冠動脈疾患は、心臓に酸素と栄養を供給する冠動脈が狭まったり詰まったりして、心筋への血流が減少することで発症する。冠動脈の狭窄により血流が不足し一過性の胸痛が生じる狭心症と、さらに病状が進行し冠動脈が閉塞又は極端に狭窄しほぼ閉塞した状態になり心筋が壊死する状態である心筋梗塞が知られている。また、脳血管疾患は、脳の血管が障害を受けることによって生じる疾患のことであり、脳出血(出血性脳血管障害)と脳梗塞(虚血性脳血管障害)に分類される。このうち脳梗塞は、脳の血管が血栓や動脈硬化などで閉塞し、その先の細胞が壊死する疾患である。
【0033】
ペマフィブラート又はその塩とHMG-CoA還元酵素阻害剤との組み合わせ比率は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて、適宜検討して決定することができるが、優れた心血管リスク低下作用を得る観点から、ペマフィブラートのフリー体換算1質量部に対し、HMG-CoA還元酵素阻害剤をフリー体換算で0.001~160000質量部を組み合わせるのが好ましく、0.05~12000質量部を組み合わせるのがより好ましく、2.5~800質量部を組み合わせるのが特に好ましい。特に、HMG-CoA還元酵素阻害剤としてピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を用いる場合においては、優れた心血管リスク低下作用を得る観点から、ペマフィブラートのフリー体換算1質量部に対し、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物をフリー体換算で0.001~16000質量部を組み合わせるのが好ましく、0.05~800質量部を組み合わせるのがより好ましく、0.6~40質量部を組み合わせるのが特に好ましい。
【0034】
ペマフィブラート又はその塩とHMG-CoA還元酵素阻害剤とを組み合わせてなる、心血管疾患の予防及び/又は治療剤は、その成分であるペマフィブラート又はその塩とHMG-CoA還元酵素阻害剤をそれぞれ別個独立の製剤(例えば、ペマフィブラート又はその塩を含有する製剤と、HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有する製剤の組み合わせを含む単一のパッケージ(キット製剤)の形態など)とし、それらを同時又は間隔をおいて投与してもよいし、両成分を共に含有する医薬製剤(配合剤(combination drug))として投与してもよいが、服用の簡便性の観点から、両成分を共に含有する配合剤とするのが好ましい。
【0035】
ペマフィブラート又はその塩と組み合わせて投与されるHMG-CoA還元酵素阻害剤を含有する心血管疾患の予防及び/又は治療剤は、ペマフィブラート又はその塩と組み合わせて使用することを用法とするものであり、例えば、HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有する医薬を、ペマフィブラート又はその塩を含有する医薬と同時に又は間隔をおいて投与するのがよい。
当該医薬の具体的態様としては、例えば、心血管疾患の予防及び/又は治療するための医薬品であって、下記の(A)及び(B):
(A)HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有する心血管疾患の予防及び/又は治療するための医薬;
(B)前記医薬を、ペマフィブラート又はその塩と組み合わせて投与することを指示する指示書;
を含む医薬品が挙げられる。当該指示書としては、具体的には例えば、効能・効果や用法・用量などに関する説明事項を記載したいわゆる能書(添付文書)、ラベル(label)などが挙げられる。
【0036】
また、HMG-CoA還元酵素阻害剤と組み合わせて投与されるペマフィブラート又はその塩を含有する心血管疾患の予防及び/又は治療剤は、HMG-CoA還元酵素阻害剤と組み合わせて使用することを用法とするものであり、例えば、ペマフィブラート又はその塩を含有する医薬を、HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有する医薬と同時に又は間隔をおいて投与するのがよい。
当該医薬の具体的態様としては、例えば、心血管疾患の予防及び/又は治療するための医薬品であって、下記の(A)及び(B):
(A)ペマフィブラート又はその塩を含有する心血管疾患の予防及び/又は治療するための医薬;
(B)前記医薬を、HMG-CoA還元酵素阻害剤と組み合わせて投与することを指示する指示書;
を含む医薬品が挙げられる。当該指示書としては、具体的には例えば、効能・効果や用法・用量などに関する説明事項を記載したいわゆる能書(添付文書)、ラベル(label)などが挙げられる。
【0037】
本明細書において、医薬の具体的形状(剤形)は特に限定されるものではなく、固形状、半固形状、又は液状製剤のいずれの形状であってもよく、その利用目的等に応じて選択することができる。医薬の剤形としては、例えば、第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の剤形が挙げられる。より具体的には、経口投与用の剤形としては、錠剤(例えば、通常錠、口腔内崩壊型錠剤、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠などを含む。)、カプセル剤、顆粒剤(例えば、発泡顆粒剤などを含む。)、散剤等の固形製剤;経口ゼリー剤等の半固形状製剤;経口液剤(例えば、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤などを含む。)等の液状製剤等が挙げられる。また、非経口投与用の剤形としては、注射剤、吸入剤、点眼剤、点耳剤、点鼻剤、坐剤、外用固形剤、外用液剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤等が挙げられる。
医薬の剤形としては、服用の容易性の観点から、経口投与用の固形製剤が好ましく、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤が特に好ましい。
【0038】
医薬は、その剤形に応じ、例えば第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法により製造することができる。この場合において、医薬には、製薬上許容される担体(添加物)を加えてもよい。こうした添加物としては、例えば、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、矯味剤、香料、被膜剤、希釈剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1.Dahl食塩感受性ラットにおける血圧、心重量、血管内皮機能に対する作用
(実験方法)
Dahl食塩感受性ラット(Dahl-Iwai S、7週齢、日本エスエルシー株式会社)に対し、8%食塩含有HFD(High Fat Diet:脂肪含有率29.4%、日本クレア株式会社)飼育下で薬物の効果を評価した((1)コントロール群、(2)ペマフィブラート(0.5mg/kg/day)単剤投与群、(3)ピタバスタチン(0.3mg/kg/day)単剤投与群、(4)ペマフィブラート(0.5mg/kg/day)+ピタバスタチン(0.3mg/kg/day)併用投与群)の計4群、各群10匹)。投与開始12週目に血圧測定の後安楽死処分し、摘出心臓の重量測定並びに摘出胸部大動脈の内皮機能をマグヌス装置にて測定した。マグヌス装置での測定は、定法に従い行った。即ち、摘出胸部大動脈のリング標本を作製し、Krebs-Henseleit液中でマグヌス管に懸垂し、1gの張力を負荷し、0.3μMのフェニレフリンで収縮させた後、アセチルコリン(10-9~10-5M)を累積的に添加し、弛緩反応を測定した。最終的に100μMパパベリンにて100%弛緩を得、弛緩率で評価した。なお、マグヌス装置での測定には、上記の4群に加えて正常ラットの血管も評価し、対照群とした。また、摘出大動脈を用いて、リン酸内皮型一酸化窒素合成酵素(phosho-eNOS)の発現量を、定法に従いウエスタンブロッティングで評価した。
【0041】
結果を図1図4に示す。図1に示すように、試験開始12週後において、0.8%食塩及び高脂肪食負荷により、コントロール群の平均血圧は193.6±6.6mmHg(平均±標準偏差、以下同じ)であった。これに対し、ペマフィブラートの単独投与群(平均血圧は192.6±8.3mmHg)又はピタバスタチンの単独投与群(平均血圧は196.9±8.4mmHg)は、変化が見られなかった。一方、両薬剤の併用投与群(平均血圧は178.5±10.1mmHg)では、有意な血圧低下が認められた(分散分析・Bonferoni法による多重比較にて検定)。
また、図2に示すように、試験開始12週後において、0.8%食塩及び高脂肪食負荷により、コントロール群の心重量は1.74±0.1g(平均±標準偏差、以下同じ)であった。これに対し、ペマフィブラートの単独投与群の心重量は1.48±0.1gであり、コントロールに比べて有意に低下した。一方、ピタバスタチンの単独投与群の心重量は1.76±0.2gであり、コントロールと比較して変化が見られなかった。両薬剤の併用投与群では、心重量は1.34±0.1gとなり、ペマフィブラートの単独投与群も含めた他の3群に対して有意な血圧低下が認められた(分散分析・Bonferoni法による多重比較にて検定)。
さらに、図3に示すように、コントロール群の血管弛緩反応は対照(Normal)群と比較して全体的に有意(混合効果モデルとBonferoni法による多重比較にて検定)に弱く、各測定ポイントでも有意(分散分析・Bonferoni法による多重比較にて検定)に弱いことから、内皮機能の低下が伺われた。これに対し、ピタバスタチンの単独投与群、ペマフィブラートの単独投与群では血管弛緩反応性に改善傾向を示したが、統計学的有意差は認められなかった。しかし、両薬剤の併用投与群では全体的に見て有意(混合効果モデルとBonferoni法による多重比較にて検定)に血管弛緩反応性の改善傾向を示し、アセチルコリン100μmol/Lよりも濃い測定ポイントにおいて、コントロール群に対して有意(分散分析・Bonferoni法による多重比較にて検定)な血管弛緩反応改善を示した。
また、図4に示すように、コントロール群に対し、ピタバスタチンの単独投与群、ペマフィブラートの単独投与群共にphosho-eNOSの発現量は増加傾向を示し、両薬剤の併用投与群では、コントロール群に対して有意な増加を示した(分散分析・Bonferoni法による多重比較にて検定)。
以上の結果より、ペマフィブラートとピタバスタチンの併用投与では、0.8%食塩及び高脂肪食負荷Dahl食塩感受性ラットにおける血圧低下、心重量増加抑制、血管内皮機能改善作用を示すことから、本発明の医薬は、心血管疾患の予防及び/又は治療剤として有用であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の医薬は、心血管疾患の予防及び/又は治療剤として有用であることから、産業上の利用可能性を有している。
図1
図2
図3
図4