(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】リニアアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/20 20060101AFI20230928BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20230928BHJP
F16D 55/28 20060101ALI20230928BHJP
H02K 7/06 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F16H25/20 H
F16H25/24 A
F16D55/28 Z
H02K7/06 A
(21)【出願番号】P 2020539754
(86)(22)【出願日】2019-01-22
(86)【国際出願番号】 DK2019000030
(87)【国際公開番号】W WO2019141323
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2022-01-12
(32)【優先日】2018-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】594167956
【氏名又は名称】リナック エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】リューク、イエンス
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】独国実用新案第29606367(DE,U1)
【文献】特表2018-536124(JP,A)
【文献】特表2017-521620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/20
F16H 25/24
F16D 55/28
H02K 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ軸を有する電気モータ(2)と、
前記モータ軸に接続されたトランスミッション(3)と、
前記トランスミッションに接続されており、少なくとも1つのスピンドル(4)及びスピンドルナット(5)を含むとともに、当該スピンドル(4)にベアリング(8)が設けられたスピンドルユニットと、
前記スピンドル
ナット(5)に接続された調節要素(6)と、
前記電気モータ(2)への電力供給が遮断されたときに、前記調節要素(6)を所与の位置に保持するためのブレーキ(11)と、
を含むリニアアクチュエータにおいて、
前記ブレーキ(11)は、ばね(15)と、制動用のナット(13)と、円筒形要素(12)と、を含んでおり、
前記円筒形要素(12)は、
雄ねじ部(12a)を有するとともに、前記スピンドル(4)の軸端部(4a)の周りにおいて、当該スピンドル(4)に対して回転不能に固定されており、当該雄ねじ部(12a)の外周には、前記ナット(13)が嵌められており、前記ばね(15)は、前記ナット(13)の一端側と、前記円筒形要素(12)に設けられたストッパ(14)との間において、前記円筒形要素(12)の周りに配置されており、これにより、前記ばね(15)が前記ナット(13)を押圧して、当該ナットの他端側を
固定された接触面(16)に圧接させることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
前記ばね(15)は、コイルばねであることを特徴とする、請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項3】
前記ばね(15)は、ねじりばねであることを特徴とする、請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項4】
前記ブレーキ(11)は、前記スピンドル(4)の軸後端に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項5】
前記円筒形要素(12)は、別個の要素として構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項6】
ハウジング(1)をさらに備えており、前記接触面(16)は、前記ハウジング(1)
又はベアリング用座部(19)の側面で構成されることを特徴とする、請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ軸を有する電気モータと、モータ軸に接続されたトランスミッションと、トランスミッションに接続されたスピンドルユニットと、を含むリニアアクチュエータに関する。当該リニアアクチュエータにおいて、スピンドルユニットは、少なくとも1つのスピンドルとスピンドルナットとを含み、スピンドルは、ベアリングと、スピンドルユニットに接続された調節要素と、ばねを含むブレーキと、電気モータへの電力供給が遮断されたときに、調節要素を所与の位置に保持する円筒形要素と、を備える。
【背景技術】
【0002】
リニアアクチュエータは、一般的に、電気モータへの電力供給が遮断されたときに、同じく最大負荷を受けている作動要素を所望の位置に保持できるようにセルフロック式(self-locking)であることが望ましい。この点に関し、リニアアクチュエータ全般は、セルフロック式のスピンドルを備えるものと、非セルフロック式のスピンドルを備えるものとに分類することができる。スピンドルがセルフロック式であるか否かは、主に、ねじピッチによって決まる。スピンドルの摩擦係数と比較して、ねじピッチの方が小さいスピンドルは、セルフロック機能を備え、ねじピッチの方が大きいスピンドルは、セルフロック機能を備えない。ただし、摩擦は、材料、材料の加工、潤滑剤、温度、及び、振動などの動的な影響を含む様々な条件によって変動するものであり、明確でない。加えて、静止摩擦と動摩擦の相違もあり、静止摩擦の方が動摩擦よりも大きい。
【0003】
セルフロック式のスピンドルよりも非セルフロック式のスピンドルの方が好まれるが、その理由は複数ある。理由の1つには、非セルフロック式スピンドルの方がセルフロック式スピンドルに比べて高効率、つまり、セルフロック式スピンドルに比べて、操作に要するエネルギーが少なくて済むことが挙げられる。他の理由として、非セルフロック式スピンドルは、ねじピッチが大きいので、セルフロック式スピンドルに比べて、より迅速に調節可能であることが挙げられる。一方、リニアアクチュエータについては、モータへの電源が遮断されたときに、作動要素をその時点での到達位置に保持する必要があるので、一般的にセルフロック式とすることが好ましいことを考慮する必要がある。この結果、セルフロック機能を発揮するのにぎりぎりのねじピッチを有するスピンドルが選択されることが多い。
【0004】
ボールねじなど、明らかにセルフロック式であるスピンドルを備えるアクチュエータには、「パーキングブレーキ(parking brake)」が用いられる。このブレーキは、電気モータへの電源供給が遮断されると、スピンドルの回転を抑止し、よって、電気モータの電源遮断時における到達位置に作動要素を保持するものである。「パーキングブレーキ」は、例えば、電磁ブレーキ、又は、両端を作動させるコイルばねで構成することができる。電磁ブレーキは、電磁石により作動されるブレーキディスクを備える。コイルばねで構成される「パーキングブレーキ」は、その外側を周壁に圧着させることで締め付けを行う。また、ばねで囲まれた中空部には、噛み合いクラッチが設けられており、ばねの2つの屈曲端部がそれぞれ噛み合いクラッチの一部に係合している。モータを始動させると、ばねの一端又は他端を噛み合いクラッチで引っ張って伸長させることで、バネの直径が小さくなる。これにより、ばねと周壁との係合が解除される。このばねは、クラッチばねとして機能しており、ブレーキとして機能するものではない。このような「パーキングブレーキ」は、例えば、LINAK A/SのWO2005/079134号公報に開示されている。このようなブレーキは、効果的ではあるが、比較的高価である上に、比較的大きな空間を占める構成であり、アクチュエータの組み込み長さの増大につながる。パーキングブレーキの他にも、セルフロック式に近いねじピッチのスピンドルの場合に一般的に用いられる種類のブレーキには、コイルばねで連結された2つの円筒形要素を含むものがある。2つの円筒形要素の間にはニードルベアリングが配置されており、一方の円筒形要素の自由端と固定部分との間には摩擦板が配置されている。スピンドルを一方の方向に回転させると、2つの円筒形要素が互いに離間するので、スピンドルは自由に回転可能になる。スピンドルを反対の方向に回転させると、2つの円筒形要素が連結されて摩擦板に作用し、スピンドルを停止させる。このばねも、2つの円筒形要素を係合させ、また、離間させるものであり、クラッチばねとして機能している。このようなブレーキは、例えば、椿本チエインのUS5,910,92号公報に開示されている。なお、この種のブレーキは、もともとは、米国のWarner Electric社により開発され、市場に導入されたものである。このようなの構成ブレーキは十分に有用であるが、構成部品の数が比較的多く、コストが比較的高く、多くの空間を必要とする。より簡単な別の構成のブレーキとして、スピンドル端部、又は、トランスミッションにおける歯車の円筒形要素の周囲にコイルばねを配置しただけのものも公知である。スピンドルを一方の方向に回転させると、ばねが緩んで円筒形要素から離間するので、スピンドルは自由に回転になる。これは、ばねの巻き方向が、回転によってばねの巻きが円筒形要素から解けて、ばねの直径が拡大するように配向されていることによる。スピンドルを反対方向に回転させると、ばねは、より緊密に円筒形要素に巻き付いて制動力を発揮するので、モータへの電源供給の遮断時に、スピンドルを静止状態に保持することができる。この制動力は、作動要素を初期位置に向けて戻す際には、モータによって解除可能な大きさに調整される。つまり、このブレーキは、作動要素が初期位置に向かって移動するだけで機能し、即ち、作動要素の戻り速度を低下させるので、このブレーキは、モータへの電力供給の遮断時に、スピンドルの停止を能動的に補助する構成である。上述のブレーキとは異なり、この構成では、ばねが実際にブレーキとして機能するものであり、つまり、ばね自体が、制動力を発揮するものである。このブレーキは、LINAK A/Sにより開発及び導入されたものであり、LINAK A/SのEP0662573号公報に開示されている。このブレーキは、効果的であり、また、非常に安価であるので、幅広く利用されている。しかしながら、摩擦力が明確ではなく、様々な条件のうちでも特に潤滑状態及び温度に依存するため、制動力を決定することは困難である。また、ドイツのOKINにより、円形の断面を有するばねブレーキが開示されている。この構成では、隣接する巻き線部の間の隙間が潤滑剤の蓄積部として機能する。反対側におけるばねの接触面は、断面形状が方形で接触面が平坦なばねとは異なり、線形である。加えて、このばねは、従来、プラスチック製のウォーム歯車における円筒状の突出エッジに配置されるものであり、ばねがプラスチックに食い込んでしまう傾向がある。このことも、制動力の特定を困難する要因となっている。また、アクチュエータの動作中、ウォームギアには熱が発生する。加えて、完全停止させるまでの制動中、また、戻り動作中には、ばねとウォーム歯車の円筒形要素との間に摩擦熱も発生する。この熱は、ウォーム歯車の寸法安定性に悪影響を与え、時間の経過とともに、ばねが円筒形要素に食い込みやすくなる。この課題は、例えば、ウォーム歯車の円筒形要素の周りに金属製のブッシュ(bushing)を配置して、この金属製ブッシュにばねが接触し、ウォーム歯車には直接接触しない構成とすることで、解決することができる。しかしながら、この技術では、ウォーム歯車の発熱の問題を解決することはできず、加えて、ブッシュが回転する際にばねを擦ることで発生するノイズについても解決することはできない。
【0005】
本発明は、後者の構成のブレーキを出発点としており、同様に簡易な構成でありながら、上述した課題の少なくともいくつかを回避することができる別のブレーキ構成を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0006】
上記目的は、本発明の請求項1に記載したリニアアクチュエータを構成することにより、達成することができる。円筒形要素は、雄ねじ部を有し、当該雄ねじ部には、ナットが嵌められている。ばねは、ナットの一端側と、円筒形要素に設けられたストッパとの間において、当該円筒形要素周りに配置されている。これにより、ばねがナットを押圧して、当該ナットの他端側を接触面に圧接させる。この構成により、ナットの一端側が接触面を擦ることで、制動力が生成される。したがって、生成される制動力は、ばねの力に依存して決まる。ばねの力が大きいほど、制動力も大きくなる。加えて、制動力は、ナットと接触面との間の摩擦にも依存する。即ち、摩擦が大きければ、それにより生じる制動力も大きくなる。最終的には、ねじピッチも、制動力に重要である。ねじピッチが小さければ、制動力も大きくなる。円筒形要素がねじピッチで一方向に回転すると、ナットと接触面との間の摩擦により、ナットがねじ戻りを起こして接触面から離れれようとする。一方、円筒形要素がねじピッチで逆方向に回転すると、ナットのねじが締って接触面に近づく傾向がみられ、よって、制動力が増加する。
【0007】
一実施形態では、上記ばねは、円筒形であり、よって、円筒形要素のねじに対して簡単に押し込むことができる。ここでは、ばねの力が決定要因となる。ただし、接触面と筒形要素の周りのばねの張力が極めて重要であるEP0 662 573号公報によるばねブレーキの場合とは異なり、ばねワイヤの精度について特別な要件はない。
【0008】
代替的な実施形態において、上記ばねは、ねじりばねであり、その一端は、ナット内に保持され、他端は、円筒形要素に保持される。ナットにおけるばね端部は、長穴にて好適に保持され、円筒形要素におけるばね端部は、長溝にて好適に保持される。
【0009】
上述したように、ブレーキは、アクチュエータの円筒形要素に配置することが可能であり、一実施形態においては、スピンドルの軸後端に配置される。つまり、スピンドルユニットは、アクチュエータに設置可能な状態のブレーキを有するユニットとして構成することができる。
【0010】
別の実施形態では、ブレーキは、モータ軸に配置される。この構成は、ブレーキに作用するトルクがあまり大きくない場合に有利である。
【0011】
ブレーキの円筒形要素は、回転要素(rotating element)によって構成することができ、その周りにブレーキを配置することができる。一実施形態では、円筒形要素は、回転要素に配置される別個の要素として構成される。したがって、ねじ切りされた円筒形要素を、より精密に製造することができ、場合によっては、適切なプラスチック材料を成形した部品として形成することができる。
【0012】
ブレーキのナットと協働する接触面は、別個の要素により構成することも可能であるが、例えば、ハウジングの側面など、アクチュエータが既に備えている表面を利用することが好ましい。
【0013】
以下に、本発明によるリニアアクチュエータについて、添付図面を参照して、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】2つの部分から成るハウジングを備えるリニアアクチュエータを、ハウジングの一方の部分を取り外した状態で示す図である。
【
図2】アクチュエータのブレーキの詳細部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、2つの部分から成るプラスチック製のハウジング1を有するアクチュエータを示しており、可逆電気モータ2が備えられている。この電気モータは、ウォームギア3を介して、スピンドル4とスピンドルナット5を駆動する。スピンドルナットには、作動ロッド6(内管としても知られる)が、この作動ロッド6を案内する外管7に覆われた状態にて固定されている。スピンドル4の一端は、ベアリング8とともにハウジングの内部に埋め込まれている。本アクチュエータは、ハウジング1の後端に設けられた後方取付け部9、及び、作動ロッド6の自由端に設けられた前方取付け部10によって、構造体に取り付けられている。
【0016】
スピンドル4の軸4aには、ブレーキ機構11が設けられている。この詳細は、
図2、
図3及び
図4を参照して説明する。
雄ねじ部12aを有する円筒形要素12が、
スピンドル4に対して回転不能に固定されるブッシュとして、スピンドル4の軸
端部4aに取り付けられている。
雄ねじ部12aには、ナット13が被せられている。円筒形要素12の前端には、リング状のストッパ14が固定されている。このストッパ14とナット13の前面との間には、ナット13に圧縮力を加えるコイル又はコイルばね15が配置されている。円筒形要素12とナット13のねじは、セルフロック機能を有していないので、ナット13が後方にねじ戻りして接触面16に接触することになる。この例では、接触面
16は、スピンドル4のベアリング8用の座部(seat)
として機能するリング形状部19の一方の面である。スピンドル4の最後端には、アクチュエータのトランスミッションの出力段を相互接続するためのクラッチ部18が設けられている。図面に示されているように、ベアリング
8は、リング形状部19とクラッチ部18に埋め込まれている。