(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】電子聴診装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
A61B7/04 M
A61B7/04 R
A61B7/04 B
A61B7/04 ZDM
(21)【出願番号】P 2021140143
(22)【出願日】2021-08-30
(62)【分割の表示】P 2020031277の分割
【原出願日】2015-09-08
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】317007266
【氏名又は名称】エア・ウォーター・バイオデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131015
【氏名又は名称】三輪 浩誉
(72)【発明者】
【氏名】大久保 英幸
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3035983(JP,U)
【文献】特開2004-056660(JP,A)
【文献】特開昭56-020436(JP,A)
【文献】特開2008-301236(JP,A)
【文献】特開2014-052553(JP,A)
【文献】特開2013-168856(JP,A)
【文献】国際公開第2012/140818(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0102908(US,A1)
【文献】特開2007-181136(JP,A)
【文献】特開2011-135442(JP,A)
【文献】特開平10-024033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 7/00 - 7/04
H04R 1/46
H04R 3/00 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者に接触させて音を取得するためのセンサ部と、前記センサ部により取得された音に関連する音信号を第1所定時間遅延させて入力遅延信号を生成する遅延部と、前記遅延部から出力された前記入力遅延信号を増幅して出力する増幅部と、を備える電子聴診装置における制御方法であって、
前記音信号のレベルが第1閾値以上となった後に前記増幅部のゲインを第1ゲイン値まで低減する第1制御工程と、
前記第1制御工程の後、第2所定時間経過した後に、前記音信号のレベルが
、第1閾値以下の第2閾値以下であることを条件に前記ゲインを第2ゲイン値まで増加する第2制御工程と、
を備えることを特徴とする制御方法。
【請求項2】
被測定者に接触させて音を取得するためのセンサ部と、
前記センサ部により取得された音に関連する音信号を第1所定時間遅延させて入力遅延信号を生成する遅延部と、
前記遅延部から出力された前記入力遅延信号を増幅して出力する増幅部と、
前記増幅部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記音信号のレベルが第1閾値以上となった後に前記増幅部のゲインを第1ゲイン値まで低減し、
前記制御部は、前記ゲインを前記第1ゲイン値まで低減してから第2所定時間経過した後に、前記音信号のレベルが
、第1閾値以下の第2閾値以下であることを条件に前記ゲインを第2ゲイン値まで増加する
ことを特徴とする電子聴診装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子聴診装置、制御方法、コンピュータプログラム及び該コンピュータプログラムを格納する記録媒体の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置では、検出された音が電子回路により増幅される。例えば聴診時に装置が被測定者の皮膚に触れたときに生じる音は、例えば呼吸音や心音等の生体音に比べて大きく、増幅率によっては聴診者が不快に感じるおそれがある。そこで、この種の装置では、音量の自動調整が図られる。
【0003】
例えば特許文献1には、マイクにより取得された所定時間分の音声信号をバッファ部に保存し、該保存された音声信号が全て入れ替わる毎に、該保存された音声信号の代表値に基づいて利得を算出する技術が開示されている。ここでは特に、前回算出された利得と今回算出された利得との変化分の絶対値が閾値以上の場合、前回算出された利得を所定の変動上限分だけ変化させて得た値を、今回の利得とすることにより、音声の急激な変動を抑えることが開示されている。
【0004】
或いは、特許文献2には、低レベルの音声入力信号に対しては、予め定められたリニア領域のゲインを適用し、中間レベルの音声入力信号に対しては、リニア領域のゲインよりも小さいコンプレッサ領域のゲインを適用し、高レベルの音声入力信号に対しては、音声入力信号の振幅が更に増加しても音声出力信号レベルの絶対値の増加が停止されるようにゲインを制御する技術が開示されている。
【0005】
或いは、特許文献3には、入力信号レベルの絶対値が基準レベル以上のときは、音声信号自動利得制御に係るゲインを小さくするアタック処理を行うと共に、入力信号レベルの絶対値が基準レベルより小さいときは、音声信号自動利得制御に係るゲインを基準値に戻すリリース処理を行う装置が開示されている。ここでは特に、アタック処理の連続回数に基づいて、応答係数が設定され、該設定された応答係数に基づいてリリース処理のゲインが設定されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-52553号公報
【文献】特開2011-44909号公報
【文献】特開2007-181136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術では、予期せず入力される過大な音に対応できないという技術的問題点がある。また、特許文献3に記載の技術では、応答係数によっては、アタック処理により音声信号自動利得制御に係るゲインが低下してからリリース処理によってゲインが戻るまでの期間が比較的長くなる可能性があるという技術的問題点がある。
【0008】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、聴取者に不快感を与えるようなノイズを低減しつつ、適切に聴診可能な電子聴診装置、制御方法、コンピュータプログラム及び記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子聴診装置は、上記課題を解決するために、被測定者に接触させて音を取得するためのセンサ部と、前記センサ部により取得された音に関連する音信号を第1所定時間遅延させて入力遅延信号を生成する遅延部と、前記遅延部から出力された前記入力遅延信号を増幅して出力する増幅部と、前記増幅部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記音信号のレベルが第1閾値以上となった後に前記増幅部のゲインを第1ゲイン値まで低減し、前記制御部は、前記ゲインを前記第1ゲイン値まで低減してから第2所定時間経過した後に、前記音信号のレベルが、第1閾値以下の第2閾値以下であることを条件に前記ゲインを第2ゲイン値まで増加する。
【0013】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】聴診時に電子聴診装置により取得される音信号の一例であり、上段は音信号のレベルを表しており、下段は音信号に含まれる周波数成分の分布を表している。
【
図2】第1実施例に係る電子聴診装置の全体構成を示す全体構成図である。
【
図3】第1実施例に係る電子聴診装置の制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図6】第1実施例に係るゲイン処理を示すフローチャートである。
【
図7】第1実施例の変形例に係る電子聴診装置の制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図8】第2実施例に係る電子聴診装置の制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図10】第2実施例に係る限処理を示すフローチャートである。
【
図11】第2実施例の変形例に係る電子聴診装置の制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電子聴診装置等に係る実施形態について説明する。
【0016】
(電子聴診装置)
本発明の電子聴診装置に係る実施形態について説明する。
【0017】
第1実施形態に係る電子聴診装置は、被測定者に接触させて音を取得するためのセンサ部と、該センサ部により取得された音に関連する音信号のレベルを変更して出力信号を出力する出力部と、該出力部を制御する制御部と、を備える。
【0018】
センサ部は、音を取得する際に、被測定者の体表に直接接触されてもよいし、例えば布等を介して間接的に接触されてもよい。「音信号のレベルを変更」とは、音信号のレベルを増幅させる場合に限らず、減衰させる場合も含む概念である。
【0019】
制御部は、センサ部が被測定者に接触してから第1所定時間、出力信号のレベルが低下するように出力部を制御する。
【0020】
「第1所定時間」は、実験的若しくは経験的に、又はシミュレーションにより、例えば、センサ部が被測定者に接触したことに起因して発生する音に関連する音信号を取得し、該取得された音信号の継続時間を求め、該求められた継続時間の最小値又は該最小値に所定値を加えた値として設定すればよい。
【0021】
「センサ部が被測定者に接触したこと」は、例えば、既存の接触検知センサ等を用いて検知されてもよいし、センサ部が被測定者に接触したことに起因して生じる比較的レベルの大きい音信号を検知して、接触が検知されてもよい。
【0022】
本願発明者の研究によれば、電子聴診装置のセンサ部(例えば、チェストピース)を被測定者に接触させた際又は被測定者から離した際、或いは、被測定者の体表上で滑らせた際に、生体音に比べて著しく大きい音が生じ、聴取者が不快感を覚えるおそれがあることが判明している。
【0023】
本実施形態では、上述の如く、制御部によりセンサ部が被測定者に接触してから第1所定時間、出力信号のレベルが低下するように出力部が制御される。このため、本実施形態に係る電子聴診装置によれば、聴取者が不快感を覚えることを抑制しつつ、適切な聴診が可能となる。
【0024】
本実施形態に係る電子聴診装置の一態様では、第1所定時間は、センサ部が被測定者に接触した際に生じる音に関連する音信号の継続時間に基づいて設定されている。
【0025】
この態様によれば、出力信号のレベルが低下している期間を比較的短くし、当該電子聴診装置の対象である生体音を聞き逃すことを抑制することができる。
【0026】
本実施形態に係る電子聴診装置の他の態様では、当該電子聴診装置は、センサ部が被測定者に接触したことを検知する検知手段を更に備える。制御部は、検知手段によりセンサ部が被測定者に接触したことが検知されてから第1所定時間、出力信号のレベルが低下するように出力部を制御する。
【0027】
この態様によれば、比較的容易にして、センサ部が被測定者に接触したことを検知することができ、実用上非常に有利である。
【0028】
本実施形態に係る電子聴診装置の他の態様では、当該電子聴診装置は、音信号を、第2所定時間遅延させる遅延部を更に備える。
【0029】
この態様によれば、音信号が取得(入力)されてから出力信号が出力されるまでに、少なくとも第2所定時間の遅延が生じるので、制御部が、センサ部が被測定者に接触した直後に、出力信号のレベルが低下するように出力部を制御することにより、聴取者が不快感を覚えるような音が当該電子聴診装置から出力されることを防止することができる。
【0030】
「第2所定時間」は、例えば聴取者が、視覚情報と聴覚情報とのズレに起因して違和感を覚えない程度の時間とすることが望ましい。
【0031】
(制御方法)
本発明の制御方法に係る実施形態について説明する。
【0032】
実施形態に係る制御方法は、被測定者に接触させて音を取得するためのセンサ部と、該センサ部により取得された音に関連する音信号のレベルを変更して出力信号を出力する出力部と、を備える電子聴診装置における制御方法である。当該制御方法は、センサ部が被測定者に接触してから第1所定時間、出力信号のレベルが低下するように出力部を制御する制御工程を備える。
【0033】
本実施形態に係る制御方法によれば、上述した実施形態に係る電子聴診装置と同様に、聴取者が不快感を覚えることを抑制しつつ、適切な聴診が可能となる。
【0034】
(コンピュータプログラム)
本発明のコンピュータプログラムに係る実施形態について説明する。
【0035】
実施形態に係るコンピュータプログラムは、被測定者に接触させて音を取得するためのセンサ部を備える電子聴診器に搭載されたコンピュータを、センサ部により取得された音に関連する音信号のレベルを変更して出力信号を出力する出力部と、センサ部が被測定者に接触してから第1所定時間、出力信号のレベルが低下するように出力部を制御する制御部と、として機能させる。
【0036】
実施形態に係るコンピュータプログラムによれば、当該コンピュータプログラムを、電子聴診装置に備えられたコンピュータに実行させれば、上述した実施形態に係る電子聴診装置を比較的容易にして実現できる。これにより、上述した実施形態に係る電子聴診装置と同様に、聴取者が不快感を覚えることを抑制しつつ、適切な聴診が可能となる。
【0037】
(記録媒体)
本発明の記録媒体に係る実施形態について説明する。
【0038】
実施形態に係る記録媒体は、上述した実施形態に係るコンピュータプログラムを格納する。
【0039】
実施形態に係る記録媒体によれば、例えばCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(DVD Read Only Memory)等の記録媒体から、上述した実施形態に係るコンピュータプログラムを、電子聴診装置が備えるコンピュータに読み込んで実行させれば、上述した実施形態に係る電子聴診装置を比較的容易にして実現できる。これにより、上述した実施形態に係る電子聴診装置と同様に、聴取者が不快感を覚えることを抑制しつつ、適切な聴診が可能となる。
【実施例】
【0040】
本発明の電子聴診装置に係る実施例を図面に基づいて説明する。
【0041】
<第1実施例>
本発明の電子聴診装置に係る第1実施例について、
図1乃至
図6を参照して説明する。
【0042】
(問題点)
先ず、電子聴診装置を用いて被測定者(例えば患者)を聴診する際の問題点について、
図1を参照して説明する。
図1は、聴診時に電子聴診装置により取得される音信号の一例であり、上段は音信号のレベルを表しており、下段は音信号に含まれる周波数の分布を表している。
【0043】
図1上段において、比較的小さい信号レベルの音信号は、被測定者の呼吸音に起因するものである。他方、比較的大きい信号レベルの音信号は、電子聴診装置のチェストピースを被測定者の体表に接触させた時又はチェストピースを被測定者から離した時に生じる音に起因するものである。
【0044】
このように、電子聴診装置のチェストピースを被測定者の体表に接触させた時又は被測定者から離した時、或いは、被測定者の体表上で滑らせた際に、生体音に比べて著しく大きい音が生じる。
【0045】
また、
図1下段からわかるように、チェストピースを被測定者の体表に接触させた時等に生じる音は、低周波数(例えば数十Hz)から10KHz以上までと、比較的広帯域にわたる周波数の音を含んでいる。
【0046】
この結果、チェストピースを被測定者の体表に接触させた時等に生じる音は、聴取者(つまり、電子聴診装置のユーザ)に不快感を与える。以下説明する本実施例に係る電子聴診装置は、チェストピースを被測定者の体表に接触させた時等に生じる音により聴視者が不快感を覚えることを抑制するものである。
【0047】
(電子聴診装置の構成)
本実施例に係る電子聴診装置の構成について
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、第1実施例に係る電子聴診装置の全体構成を示す全体構成図である。
図3は、第1実施例に係る電子聴診装置の制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【0048】
図2において、電子聴診装置100は、チェストピースに内蔵されたセンサ部10と、制御ユニット20と、イヤホン部30とを備えて構成されている。センサ部10及び制御ユニット20間、並びに制御ユニット20及びイヤホン部30間は、信号ケーブルにより相互に接続されている。
【0049】
図3において、制御ユニット20は、アナログデジタル変換部(A/D部)21、Delay部22、増幅部23、デジタルアナログ変換部(D/A部)24、レベル判定部25、ゲイン決定部26及びカウンタ部27を備えて構成されている。
【0050】
センサ部10から出力される音に関連する音信号は、制御ユニット20のA/D部21に入力されデジタル信号に変換される。該デジタル信号は、Delay部22において所定の遅延時間だけ遅延された後、増幅部23により増幅され、D/A部24によりアナログ信号に変換される。
【0051】
Delay部22に係る遅延時間は、視覚情報と聴覚情報とのズレに起因して聴取者が違和感を覚えない程度の時間に設定されている。本実施例では遅延時間は、例えば9ミリ秒に設定されている。尚、遅延時間が120ミリ秒以下であれば、聴取者が視覚情報と聴覚情報とのズレを感知できないことが、一般に知られている。
【0052】
レベル判定部25は、A/D部21から出力されたデジタル信号の信号レベルの絶対値が、閾値1以上であるか否かを判定する。デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上であると判定された場合、レベル判定部25は、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上である旨を示す信号を、ゲイン決定部25及びカウンタ部27に送信する。他方、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値1より小さいと判定された場合、レベル判定部25は、典型的には、信号を出力しない。
【0053】
カウンタ部27は、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上である旨を示す信号を受信した場合、カウンタの初期値から予め定められた値まで所定間隔で値を変更し、カウンタの値を変更する度に、カウンタの値を示す信号をゲイン決定部26に送信する。尚、カウンタの「初期値から予め定められた値まで」に相当する期間は、Delay部22における遅延時間と同じ又は該遅延時間よりも短い。
【0054】
ゲイン決定部26は、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上である旨を示す信号を受信した場合、カウンタ部27から出力された信号により示される値に応じて、増幅部23のゲインを決定し、該決定されたゲインとなるように増幅部23を制御する。より具体的には、ゲイン決定部26は、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上である旨を示す信号を受信した場合、現在のゲインから予め定められたゲインまで、カウンタ部27から出力された信号により示される値に応じて、増幅部23のゲインを徐々に下げる。
【0055】
「閾値1」は、例えば、電子聴診装置100の対象である被測定者の生体音に起因する入力信号の信号レベルの変化幅を求め、該求められた変化幅の上限値より所定値だけ大きな値として設定すればよい。
【0056】
ここで、増幅部23のゲインが低減される場合の制御ユニット20の動作について、
図4を参照して説明を加える。
図4は、音信号の時間変化の一例を示す図である。
【0057】
制御ユニット20に入力された入力信号(
図4における点線参照)は、Delay部22により所定の遅延時間だけ遅延される。
図4では、Delay部22により、時刻t1と時刻t2との差に相当する時間(ここでは、9ミリ秒)だけ遅延される。この結果、入力信号と、Delay部22から出力される入力遅延信号(
図4における破線参照)とは、時刻t1と時刻t2との差に相当する時間だけズレた信号となる。
【0058】
レベル判定部25は、入力信号(厳密には、A/D部21によりデジタル信号に変換された入力信号)の信号レベルの絶対値と閾値1とを逐次比較している。
図4における時刻t1において、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値1を超えた場合、レベル判定部25は、入力信号が閾値1以上である旨を示す信号を、ゲイン決定部26及びカウンタ部27に送信する。
【0059】
この結果、時刻t1以降、増幅部23のゲインがゲイン決定部26により徐々に低減され、時刻t2に、増幅部23のゲインが例えばゼロとなる(
図4における細い実線参照)。制御ユニット20から出力される出力信号(
図4における太い実線参照)は、Delay部22から出力される入力遅延信号に、増幅部23のゲインを乗じたものであるので、時刻t1以降、出力信号の信号レベルの絶対値が徐々に低下し、時刻t2に、出力信号の信号レベルの絶対値がゼロとなる。
【0060】
図4において、時刻t2は、閾値1を超える信号レベルの絶対値を有する入力信号に対応する入力遅延信号がDelay部22から出力されるタイミングである。このとき、増幅部23のゲインはゼロであるので、出力信号の信号レベルの絶対値はゼロとなる。従って、電子聴診装置100の聴取者に対し、閾値1を超えるような過大な音が電子聴診装置100から出力されることはない。
【0061】
レベル判定部25は、デジタル信号(入力信号)の信号レベルの絶対値が閾値1以上であると判定され、増幅部23のゲインが低減された後(例えば、
図4における時刻t2から)、所定時間(例えば、18ミリ秒)経過後に、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さいか否かを判定する。デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さいと判定された場合、レベル判定部25は、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さい旨を示す信号を、ゲイン決定部26及びカウンタ部27に送信する。
【0062】
カウンタ部27は、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さい旨を示す信号を受信した場合、カウンタの初期値から予め定められた値まで所定間隔で値を変更し、カウンタの値を変更する度に、カウンタの値を示す信号をゲイン決定部26に送信する。
【0063】
ゲイン決定部26は、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さい旨を示す信号を受信した場合、カウンタ部27から出力された信号により示される値に応じて、増幅部23のゲインを決定し、該決定されたゲインとなるように増幅部23を制御する。より具体的には、ゲイン決定部26は、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さい旨を示す信号を受信した場合、現在のゲインから予め定められたゲイン(典型的には、ゲインの初期値)まで、カウンタ部27から出力された信号により示される値に応じて、増幅部23のゲインを徐々に上げる。
【0064】
「閾値2」は、例えば、電子聴診装置100の対象である生体音に起因する入力信号のレベルの変化幅の上限値より大きく、閾値1以下の値として設定すればよい。
【0065】
ここで、増幅部23のゲインが増加される場合の制御ユニット20の動作について、
図5を参照して説明を加える。
図5は、音信号の時間変化の他の例を示す図である。
【0066】
図5の時刻t3において、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上であると判定され、時刻t3~t4の期間に増幅部23のゲインが低減され、時刻t4において増幅部23のゲインがゼロとされたとする。
【0067】
レベル判定部25は、時刻t4から所定時間(例えば18ミリ秒)経過した時刻t5において、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さいか否かを判定する。ここでは、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さいので、レベル判定部25は、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さい旨を示す信号を、ゲイン決定部26及びカウンタ部27に送信する。
【0068】
この結果、時刻t5以降、増幅部23のゲインがゲイン決定部26により徐々に増加され、時刻t6に、増幅部23のゲインが初期値に戻る(
図5における細い実線参照)。従って、制御ユニット20から出力される出力信号(
図5における太い実線参照)も、時刻t5以降、出力信号の信号レベルの絶対値が徐々に上昇し、時刻t6に、出力信号の信号レベルの絶対値が戻る。
【0069】
このように構成すれば、電子聴診装置100の聴取者が、過大な音を聞くことを防ぎつつ、対象とする生体音を聞き逃す時間を比較的短くすることができる。
【0070】
尚、増幅部23のゲインを増加させる、
図5における時刻t5~t6の期間の長さは、典型的には、Delay部22における遅延時間と同じ又は該遅延時間よりも短いが、該遅延時間よりも長くてもよい。
【0071】
他方、デジタル信号の信号レベルの絶対値が閾値2以上であると判定された場合、レベル判定部25は、現在のゲインを維持する旨を示す信号を、ゲイン決定部26及びカウンタ部27に送信する。
【0072】
(ゲイン処理)
次に、以上のように構成された電子聴診装置100の制御ユニット20が実行するゲイン処理について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0073】
図6において、先ず、制御ユニット20のレベル判定部25は、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上であるか否かを判定する(ステップS101)。入力信号の信号レベルの絶対値が閾値1より小さいと判定された場合(ステップS101:No)、レベル判定部25は、再びステップS101の処理を行う。
【0074】
他方、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上であると判定された場合(ステップS101:Yes)、レベル判定部25は、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上である旨の信号を、ゲイン決定部26及びカウンタ部27に出力する。ゲイン決定部26は、信号レベルの絶対値が閾値1以上であると判定された入力信号よりもN1サンプル前(例えば、
図4における時刻t1と時刻t2との差に相当する時間前)の入力信号がDelay部22から出力されるタイミングから、増幅部23のゲインを低減し始め、信号レベルの絶対値が閾値1以上であると判定された入力信号がDelay部22から出力されるタイミングで、増幅部23のゲインが最小(ここでは、ゼロ)となるように増幅部23を制御する(ステップS102)。
【0075】
次に、レベル判定部25は、増幅部23のゲインが最小となった後、N2サンプル(例えば、
図5における時刻t4と時刻t5との差に相当する時間)待機する。この際、ゲイン決定部26は、増幅部23のゲインを最小のまま維持する(ステップS103)。
【0076】
N2サンプル経過した後、レベル判定部25は、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値2以上であるか否かを判定する(ステップS104)。入力信号の信号レベルの絶対値が閾値2以上であると判定された場合(ステップS104:Yes)、レベル判定部25は、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値2以上である旨を示す信号を、ゲイン決定部26及びカウンタ部27に送信した後、ステップS103の処理を行う。
【0077】
他方、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さいと判定された場合(ステップS104:No)、レベル判定部25は、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さい旨を示す信号を、ゲイン決定部26及びカウンタ部27に出力する。ゲイン決定部26は、カウンタ部27から出力されるカウンタの値に応じて、増幅部23のゲインを徐々に増加する(ステップS105)。
【0078】
尚、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値1以上であることに起因して増幅部23のゲインを最小とした後に、増幅部23のゲインが増加されているときに、閾値2以上(又は閾値1以上)の信号レベルの絶対値を有する入力信号が、制御ユニット20に入力された場合、ゲイン決定部26は、カウンタ部27から出力されるカウンタの値に応じて、増幅部23のゲインを徐々に低減してよい。
【0079】
<変形例>
上述した第1実施例の変形例について、
図7を参照して説明する。
図7は、
図3と同趣旨の、第1実施例の変形例に係る電子聴診装置の制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【0080】
上述した第1実施例では、制御ユニット20のDelay部22から出力された信号が、増幅部23により増幅されている。本変形例では、
図7に示すように、Delay部22から出力された信号が、D/A部24によりアナログ信号に変換された後に、増幅部23により増幅される。
【0081】
<第2実施例>
本発明の電子聴診装置に係る第2実施例について、
図8乃至
図10を参照して説明する。第2実施例では、電子聴診装置の構成が一部異なっている以外は、上述した第1実施例と同様である。よって、第2実施例について、第1実施例と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点についてのみ、
図8乃至
図10を参照して説明する。
【0082】
図8は、
図3と同趣旨の、第2実施例に係る電子聴診装置の制御ユニットの構成を示すブロック図である。
図9は、
図4と同趣旨の、音信号の時間変化の他の例を示す図である。
図10は、
図6と同趣旨の、第2実施例に係るゲイン処理を示すフローチャートである。
【0083】
本実施例では、電子聴診装置100のチェストピースに接触検出部40が、センサ部10と共に内蔵されている。尚、接触検出部40には、既存の各種態様を適用可能であるので、その詳細についての説明は割愛する。
【0084】
接触検出部40は、例えばチェストピースの被測定者の体表への接触等の接触を検出した場合に、接触を検出した旨を示す信号を、制御ユニット20のゲイン決定部20及びカウンタ部27へ送信する(
図8参照)。
【0085】
カウンタ部27は、接触を検出した旨を示す信号を受信した場合、カウンタの初期値から予め定められた値まで所定間隔で値を変更し、カウンタの値を変更する度に、カウンタの値を示す信号をゲイン決定部26に送信する。
【0086】
ゲイン決定部26は、接触を検出した旨を示す信号を受信した場合、カウンタ部27から出力された信号により示される値に応じて、増幅部23のゲインを決定し、該決定されたゲインとなるように増幅部23を制御する。より具体的には、ゲイン決定部26は、接触を検出した旨を示す信号を受信した場合、現在のゲインから予め定められたゲインまで、カウンタ部27から出力された信号により示される値に応じて、増幅部23のゲインを徐々に下げる。
【0087】
ここで、増幅部23のゲインが低減される場合の制御ユニット20の動作について、
図9を参照して説明を加える。
【0088】
制御ユニット20に入力された入力信号(
図9における点線参照)は、Delay部22により所定の遅延時間だけ遅延される。この結果、入力信号と、Delay部22から出力される入力遅延信号(
図9における破線参照)とは、時刻t7と時刻t8との差に相当する時間だけズレた信号となる。
【0089】
図9の時刻t7において、接触検出部40が接触を検出し、接触を検出した旨を示す信号をゲイン決定部26及びカウンタ部27に送信すると、ゲイン決定部26により、時刻t7以降、増幅部23のゲインが徐々に低減され、時刻t8に、増幅部23のゲインが最小となる(
図4における細い実線参照)。
【0090】
制御ユニット20から出力される出力信号(
図4における太い実線参照)は、Delay部22から出力される入力遅延信号に、増幅部23のゲインを乗じたものであるので、時刻t7以降、出力信号の信号レベルの絶対値が徐々に低下し、時刻t8に、出力信号の信号レベルの絶対値が最小となる。
【0091】
図9において、時刻t8は、接触が検出された時点に入力された入力信号に対応する入力遅延信号がDelay部22から出力されるタイミングである。このとき、増幅部23のゲインは最小であるので、出力信号の信号レベルの絶対値は最小となる。従って、電子聴診装置100の聴取者に対し、チェストピースの接触に起因する過大な音が電子聴診装置100から出力されることはない。
【0092】
カウンタ部27は、増幅部23のゲインを低減するための予め定められた値を出力した後、所定の待機時間経過後に、増幅部23のゲインを戻す(増加する)ためのカウンタの値を、ゲイン決定部26に対して送信する。この待機時間中は、増幅部23のゲインが最小で維持される。
【0093】
ここで上記待機時間は、実験等により、チェストピースが、例えば被測定者等に接触したことに起因して発生した音に関連する入力信号の継続時間を求め、該求められた継続時間の最大値又は該最大値に所定値を加えた値として設定すればよい。本実施例では、上記待機時間は、例えば160ミリ秒に設定されている。
【0094】
ゲイン決定部26は、カウンタ部27から出力された信号により示される値に応じて、増幅部23のゲインを決定し、該決定されたゲインとなるように増幅部23を制御する。より具体的には、ゲイン決定部26は、現在のゲインから予め定められたゲイン(典型的には、ゲインの初期値)まで、カウンタ部27から出力された信号により示される値に応じて、増幅部23のゲインを徐々に上げる。
【0095】
上述した第1実施例では、入力信号の信号レベルの絶対値が閾値2より小さいと判定された場合に、最小にされた増幅部23のゲインが増加される。本実施例では、接触検出部40により接触が検出され、増幅部23のゲインが最小にされた後、所定の待機時間経過後に増幅部23のゲインが増加される。
【0096】
(ゲイン処理)
次に、以上のように構成された電子聴診装置100の制御ユニット20が実行するゲイン処理について、
図10のフローチャートを参照して説明する。
【0097】
図10において、先ず、制御ユニット20のゲイン決定部26及びカウンタ部27は、接触検出部40により接触が検出されたか否かを判定する(ステップS201)。尚、接触が検出されたか否かは、接触検出部40からの信号により判定すればよい。接触が検出されていないと判定された場合(ステップS201:No)、ゲイン決定部26及びカウンタ部27は、再びステップS201の処理を行う。
【0098】
他方、接触が検出されたと判定された場合(ステップS201:Yes)、ゲイン決定部26は、接触が検出された時点に入力された入力信号よりもN1サンプル前(例えば、
図9における時刻t7と時刻t8との差に相当する時間前)の入力信号がDelay部22から出力されるタイミングから、増幅部23のゲインを低減し始め、接触が検出された時点に入力された入力信号がDelay部22から出力されるタイミングで、増幅部23のゲインが最小(ここでは、ゼロ)となるように増幅部23を制御する。この際、カウンタ部27からゲイン決定部26に、カウンタの値を示す信号が逐次出力される。(ステップS202)
次に、カウンタ部27は、増幅部23のゲインが最小となった後、N2サンプル(例えば、160ミリ秒、上記待機時間に相当)経過したか否かを判定する(ステップS203)。この際、ゲイン決定部26は、増幅部23のゲインを最小のまま維持する。N2サンプル経過していないと判定された場合(ステップS203:No)、カウンタ部27は、再びステップS203の処理を行う。
【0099】
他方、N2サンプル経過したと判定された場合(ステップS203:Yes)、カウンタ部27は、増幅部23のゲインを戻す(増加する)ためのカウンタの値を、ゲイン決定部26に対して送信する。ゲイン決定部26は、カウンタ部27から出力されるカウンタの値に応じて、増幅部23のゲインを徐々に増加する(ステップS204)。
【0100】
本実施例に係る「Delay部22」、「増幅部23」及び「接触検出部」は、夫々、本発明に係る「遅延部」、「出力部」及び「接触検知手段」の一例である。本実施例に係る「ゲイン決定部26」及び「カウンタ部27」は、本発明に係る「制御部」の一例である。本実施例において「接触が検出された時点から増幅部23のゲインが最小となった時点までの期間(例えば、
図5における時刻t3~時刻t4の期間)」と、「待機時間」とが合計された時間が、本発明に係る「第1所定時間」の一例である。本実施例に係る「遅延時間」は、本発明に係る「第2所定時間」の一例である。
【0101】
<変形例>
上述した第2実施例の変形例について、
図11を参照して説明する。
図11は、
図8と同趣旨の、第2実施例の変形例に係る電子聴診装置の制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【0102】
上述した第2実施例では、制御ユニット20のDelay部22から出力された信号が、増幅部23により増幅されている。本変形例では、
図11に示すように、Delay部22から出力された信号が、D/A部24によりアナログ信号に変換された後に、増幅部23により増幅される。
【0103】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電子聴診装置、制御方法、コンピュータプログラム及び記録媒体もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0104】
10…センサ部、20…制御ユニット、21…A/D部、22…遅延部、23…増幅部、24…D/A部、25…レベル判定部、26…ゲイン決定部、27…カウンタ部、30…イヤホン、40…接触検出部、100…電子聴診装置