(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】バルーンカテーテルおよびバルーン配置方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20230928BHJP
【FI】
A61M25/10 512
A61M25/10 500
(21)【出願番号】P 2021509298
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012226
(87)【国際公開番号】W WO2020196230
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019055362
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 靖夫
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0099789(US,A1)
【文献】特開2017-169740(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122218(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/164281(WO,A1)
【文献】特開2017-060614(JP,A)
【文献】特開2005-211492(JP,A)
【文献】国際公開第2017/139357(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤が外表面に被覆されたバルーンがバルーンカテーテルのシャフトの外周面に折りたたまれた状態で保護チューブの内部に配置されたバルーンカテーテルであって、
前記バルーンは、前記バルーンの径方向外側へ突出しつつ前記シャフトの周方向の同一方向へ曲げられた複数の羽根部と、前記シャフトに接する複数の基礎部と、を有し、
前記羽根部は、突出する側に位置する羽根先端部と、前記基礎部に繋がる羽根基端部と、前記羽根先端部および羽根基端部の間に位置する羽根中間部と、を有し、
前記羽根先端部は、前記保護チューブ側を向く羽根先端外側部と、前記シャフト側を向く羽根先端内側部と、を有し、
前記羽根先端外側部は、前記保護チューブの内周面に接触し、
前記羽根中間部は、前記バルーンの内表面同士が接触して形成され、
前記羽根中間部および羽根基端部は、前記保護チューブの内周面から離れて
おり、
前記羽根中間部は、前記保護チューブ側を向く羽根中間外側部と、前記シャフト側を向く羽根中間内側部と、を有し、
前記羽根中間内側部は、隣接する他の羽根部および前記基礎部から離れており、
前記羽根中間部の全体において、前記バルーンの内表面同士が接触していることを特徴とするバルーンカテーテル。
【請求項2】
前記羽根先端内側部は、隣接する他の羽根部および前記基礎部から離れていることを特徴とする請求項
1に記載のバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記保護チューブとバルーンの間に挟まれる柔軟な保護フィルムを有
し、
前記バルーンと前記保護チューブとは、前記保護フィルムを介して間接的に接触することを特徴とする請求項1
または2に記載のバルーンカテーテル。
【請求項4】
薬剤が外表面に被覆されたバルーンがシャフトの外周面に拡張可能に配置されたバルーンカテーテルの前記バルーンを保護チューブの内部に配置するバルーン配置方法であって、
前記バルーンの内部を減圧しつつ、前記バルーンに径方向外側へ突出する複数の羽根部および前記シャフトに接する複数の基礎部を形成するステップと、
前記バルーンの内部の減圧状態を保持して前記羽根部を前記シャフトの周方向の同一方向へ曲げるステップと、
前記バルーンの内部の減圧状態を保持して当該バルーンを前記保護チューブに挿入するステップと、を有
し、
前記羽根部を形成するステップにおいて、前記羽根部に、突出する側に位置する羽根先端部と、前記基礎部に繋がる羽根基端部と、前記羽根先端部および羽根基端部の間に位置して前記バルーンの内表面同士が接触している羽根中間部と、を形成し、
前記バルーンを前記保護チューブに挿入するステップにおいて、前記羽根先端部の前記保護チューブ側を向く羽根先端外側部を、前記保護チューブの内周面に接触させ、前記羽根中間部および羽根基端部を、前記保護チューブの内周面から離して配置し、前記羽根中間部の前記シャフト側を向く羽根中間内側部を隣接する他の羽根部および前記基礎部から離して配置することを特徴とするバルーン配置方法。
【請求項5】
前記羽根部を形成するステップにおいて、前記羽根部を加熱することを特徴とする請求項
4に記載のバルーン配置方法。
【請求項6】
前記羽根部を折りたたむステップにおいて、前記羽根部を加熱することを特徴とする請求項
4または
5に記載のバルーン配置方法。
【請求項7】
前記バルーンを前記保護チューブに挿入するステップにおいて、前記バルーンと保護チューブの間に、柔軟な保護フィルムを配置
して、前記バルーンと前記保護チューブとを前記保護フィルムを介して間接的に接触させることを特徴とする請求項
4~
6のいずれか1項に記載のバルーン配置方法。
【請求項8】
前記羽根部および基礎部を形成するステップにおいて、前記羽根部を押し込むために前記バルーンを囲むように並ぶ複数の第1移動部材とバルーンとの間に柔軟なフィルムを介在させ、
前記羽根部を曲げるステップにおいて、前記羽根部を曲げるために前記バルーンを囲むように並ぶ複数の第2移動部材とバルーンとの間に柔軟なフィルムを介在させることを特徴とする請求項
4~
7のいずれか1項に記載のバルーン配置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテルおよびバルーン配置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体管腔内に生じた病変部の改善のために、バルーンカテーテルが用いられている。バルーンカテーテルは、通常、長尺なシャフトと、シャフトの先端側に設けられて径方向に拡張可能なバルーンとを備えている。収縮されているバルーンを、細い生体管腔を経由して体内の目的場所まで到達させた後に拡張させることで、病変部を押し広げることができる。
【0003】
しかしながら、病変部を強制的に押し広げると、平滑筋細胞が過剰に増殖して病変部に新たな狭窄(再狭窄)が発症する場合がある。このため、最近では、バルーンの外表面に狭窄を抑制するための薬剤をコーティングした薬剤被覆バルーン(Drug-coated Balloon:DCB)が用いられている。薬剤溶出バルーンは、拡張することで外表面にコーティングされている薬剤を病変部へ放出し、これにより、再狭窄を抑制することができる。
【0004】
一般的に、バルーンは、小径に収縮させるために、カテーテルのシャフトに巻き付けるように折りたたまれる。例えば特許文献1には、径方向外側へ突出する羽根部をバルーンに形成し、羽根部をカテーテルのシャフトに巻き付けるように折りたたむことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バルーンの隣接する羽根部同士が接触すると、羽根部上の薬剤コート層同士が接触し、剥離する可能性がある。また、バルーンは、表面の薬剤コート層を保護するために保護チューブに収容される場合がある。この場合、薬剤コート層と保護チューブの接触によって、薬剤コート層の剥離が生じやすい。また、バルーンカテーテルの保管時や輸送時に、バルーンカテーテルに振動が作用する場合がある。このような場合も、薬剤コート層同士の接触や、薬剤コート層と保護チューブの接触によって、薬剤コート層の剥離が生じやすい。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、バルーンの外表面に被覆される薬剤の剥離を抑制できるバルーンカテーテルおよびバルーン配置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係るバルーンカテーテルは、薬剤が外表面に被覆されたバルーンがバルーンカテーテルのシャフトの外周面に折りたたまれた状態で保護チューブの内部に配置されたバルーンカテーテルであって、前記バルーンは、前記バルーンの径方向外側へ突出しつつ前記シャフトの周方向の同一方向へ曲げられた複数の羽根部と、前記シャフトに接する複数の基礎部と、を有し、前記羽根部は、突出する側に位置する羽根先端部と、前記基礎部に繋がる羽根基端部と、前記羽根先端部および羽根基端部の間に位置する羽根中間部と、を有し、前記羽根先端部は、前記保護チューブ側を向く羽根先端外側部と、前記シャフト側を向く羽根先端内側部と、を有し、前記羽根先端外側部は、前記保護チューブの内周面に接触し、前記羽根中間部は、前記バルーンの内表面同士が接触して形成され、前記羽根中間部および羽根基端部は、前記保護チューブの内周面から離れており、前記羽根中間部は、前記保護チューブ側を向く羽根中間外側部と、前記シャフト側を向く羽根中間内側部と、を有し、前記羽根中間内側部は、隣接する他の羽根部および前記基礎部から離れており、前記羽根中間部の全体において、前記バルーンの内表面同士が接触していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成したバルーンカテーテルは、バルーンの羽根先端外側部以外の部位が、保護チューブと略接触しない。このため、バルーンが保護チューブと接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。また、羽根中間部においてバルーンの内表面同士が接触して羽根部が薄く形成されるため、羽根部がバルーンの他の部位と接触し難い。このため、羽根部がバルーンの他の部位と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0010】
前記羽根中間部は、前記保護チューブ側を向く羽根中間外側部と、前記シャフト側を向く羽根中間内側部と、を有し、前記羽根中間内側部は、隣接する他の羽根部および前記基礎部から離れていている。これにより、隣接する羽根部同士の間、および羽根部と基礎部の間に空間が形成される。このため、羽根部が他の羽根部や基礎部と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0011】
前記羽根先端内側部は、隣接する他の羽根部および前記基礎部から離れていてもよい。これにより、隣接する羽根部同士の間、および羽根部と基礎部の間に空間が形成される。このため、羽根部が他の羽根部や基礎部と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0012】
前記羽根中間部の全体において、前記バルーンの内表面同士が接触している。これにより、羽根中間部の全体が薄く形成されるため、隣接する羽根部同士の間、および羽根部と基礎部の間に空間が形成されやすくなる。このため、羽根部が他の羽根部や基礎部と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0013】
前記保護チューブとバルーンの間に挟まれる柔軟な保護フィルムを有し、前記バルーンと前記保護チューブとは、前記保護フィルムを介して間接的に接触してもよい。これにより、バルーンの外表面の薬剤が、柔軟な保護フィルムを介して保護チューブに接触するため、薬剤の剥離を抑制できる。また、保護チューブを設けることで、バルーンを保護フィルムで覆った状態のまま、バルーンを保護チューブに挿入したり、保護チューブから取り出したりすることも可能である。このため、バルーンを保護チューブに挿入する際、および/またはバルーンを保護チューブから取り出す際に、羽根部が保護チューブと擦れることによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0014】
上記目的を達成する本発明に係るバルーン配置方法は、薬剤が外表面に被覆されたバルーンがシャフトの外周面に拡張可能に配置されたバルーンカテーテルの前記バルーンを保護チューブの内部に配置するバルーン配置方法であって、前記バルーンの内部を減圧しつつ、前記バルーンに径方向外側へ突出する複数の羽根部および前記シャフトに接する複数の基礎部を形成するステップと、前記バルーンの内部の減圧状態を保持して前記羽根部を前記シャフトの周方向の同一方向へ曲げるステップと、前記バルーンの内部の減圧状態を保持して当該バルーンを前記保護チューブに挿入するステップと、を有し、前記羽根部を形成するステップにおいて、前記羽根部に、突出する側に位置する羽根先端部と、前記基礎部に繋がる羽根基端部と、前記羽根先端部および羽根基端部の間に位置して前記バルーンの内表面同士が接触している羽根中間部と、を形成し、前記バルーンを前記保護チューブに挿入するステップにおいて、前記羽根先端部の前記保護チューブ側を向く羽根先端外側部を、前記保護チューブの内周面に接触させ、前記羽根中間部および羽根基端部を、前記保護チューブの内周面から離して配置し、前記羽根中間部の前記シャフト側を向く羽根中間内側部を隣接する他の羽根部および前記基礎部から離して配置することを特徴とする。
【0015】
上記のように構成したバルーン配置方法は、内部の流体が排出されて折りたたまれた羽根部の形状を保持しつつ、バルーンを保護チューブに挿入できる。このため、羽根部の保護チューブに対する接触面積を小さくできるとともに、羽根部がバルーンの他の部位と接触することを抑制できる。このため、羽根部がバルーンの他の部位と接触すること、および羽根部が保護チューブに接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0016】
前記バルーン配置方法は、前記羽根部を形成するステップにおいて、前記羽根部を加熱してもよい。これにより、羽根部の形状を、バルーンの内部の流体が排出された状態で良好に保持することができる。
【0017】
前記バルーン配置方法は、前記羽根部を折りたたむステップにおいて、前記羽根部を加熱してもよい。これにより、バルーンの内部の流体が排出された羽根部を、シャフトに折りたたんだ状態で、良好に保持することができる。
【0018】
前記バルーン配置方法は、前記バルーンを前記保護チューブに挿入するステップにおいて、前記バルーンと保護チューブの間に、柔軟な保護フィルムを配置して、前記バルーンと前記保護チューブとを前記保護フィルムを介して間接的に接触させてもよい。これにより、バルーンを保護チューブに挿入する際に、バルーンの外表面の薬剤が、柔軟な保護フィルムを介して保護チューブに接触する。このため、薬剤の剥離を抑制できる。
【0019】
前記バルーン配置方法は、前記羽根部を形成するステップにおいて、前記羽根部に、突出する側に位置する羽根先端部と、前記基礎部に繋がる羽根基端部と、前記羽根先端部および羽根基端部の間に位置する羽根中間部と、を形成し、前記バルーンを前記保護チューブに挿入するステップにおいて、前記羽根先端部の前記保護チューブ側を向く羽根先端外側部を、前記保護チューブの内周面に接触させ、前記羽根中間部および羽根基端部を、前記保護チューブの内周面から離して配置する。これにより、バルーンの羽根先端外側部以外の部位が、保護チューブと略接触しない。このため、バルーンが保護チューブと接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0020】
前記バルーン配置方法は、前記羽根部および基礎部を形成するステップにおいて、前記羽根部を押し込むために前記バルーンを囲むように並ぶ複数の第1移動部材とバルーンとの間に柔軟なフィルムを介在させ、前記羽根部を曲げるステップにおいて、前記羽根部を曲げるために前記バルーンを囲むように並ぶ複数の第2移動部材とバルーンとの間に柔軟なフィルムを介在させてもよい。これにより、バルーンに羽根部および基礎部を形成する際、および羽根部を曲げる際に、バルーンの表面をフィルムにより保護して、バルーンから薬剤が剥離することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】バルーンカテーテルの先端部の断面図である。
【
図3】バルーンカテーテルの先端部におけるバルーンの長軸と直交する断面図である。
【
図4】バルーン折りたたみ装置を示す斜視図である。
【
図6】プリーティング部の第1移動部材を示す正面図である。
【
図8】フォールディング部の第2移動部材を示す正面図である。
【
図9】プリーティング部にバルーンが挿入された状態を示す断面図である。
【
図10】プリーティング部によりバルーンに羽根部を形成した状態を示す断面図である。
【
図11】フォールディング部により羽根部を折りたたんだ状態を示す断面図である。
【
図12】バルーンカテーテルの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。本明細書において、バルーンカテーテルの血管に挿入する側を「遠位側」、操作する手元側を「近位側」と称することとする。
【0023】
本発明の実施形態に係るバルーンカテーテル10は、血管等の生体管腔に挿入されて狭窄した病変部まで押し込まれて、拡張可能なバルーン30によって病変部を押し広げるためのデバイスである。
【0024】
まず、バルーンカテーテル10の構造を説明する。バルーンカテーテル10は、
図1~3に示すように、長尺なカテーテル本体20と、カテーテル本体20の遠位部に設けられるバルーン30と、バルーン30を覆う保護チューブ15と、カテーテル本体20の近位部に固着されたハブ26とを有している。バルーン30は、バルーン本体31と、バルーン本体31の外表面に被覆される薬剤コート層40とを有している。薬剤コート層40を有するバルーン30は、使用されるまで、保護チューブ15により覆われて保護される。
【0025】
カテーテル本体20は、遠位側端部および近位側端部が開口した管体である外管21と、外管21の内部に配置される管体である内管22(シャフト)とを備えている。内管22は、外管21の中空内部に納められており、カテーテル本体20は、遠位部において二重管構造となっている。内管22の中空内部は、ガイドワイヤを挿通させるガイドワイヤルーメン24である。また、外管21の中空内部であって、内管22の外側には、バルーン30の拡張用流体を流通させる拡張ルーメン23が形成される。内管22は、外管21の壁面を側方へ貫通する開口部25において外部に開口している。内管22は、外管21の遠位端よりもさらに遠位側まで突出している。
【0026】
バルーン30は、近位側端部が外管21の遠位部に固定され、遠位側端部が内管22の遠位部に固定されている。これにより、バルーン30の内部が拡張ルーメン23と連通している。拡張ルーメン23を介してバルーン30に拡張用流体を注入することで、バルーン30を拡張させることができる。拡張用流体は気体でも液体でもよく、例えばヘリウムガス、CO2ガス、O2ガス等の気体や、生理食塩水、造影剤等の液体を用いることができる。
【0027】
バルーン30の長軸方向における中央部には、拡張させた際に外径が等しい円筒状のストレート部34が形成され、ストレート部34の長軸方向の両側に、外径が徐々に変化するテーパ部33が形成される。そして、ストレート部34の外表面の全体に、薬剤を含む薬剤コート層40が被覆されている。なお、バルーン30において薬剤コート層40を形成する範囲は、ストレート部34のみに限定されず、ストレート部34に加えてテーパ部33の少なくとも一部が含まれてもよく、または、ストレート部34の一部のみであってもよい。
【0028】
ハブ26は、外管21の拡張ルーメン23と連通して拡張用流体を流入出させるポートである近位開口部27が形成されている。
【0029】
バルーン30の長軸方向の長さは特に限定されないが、好ましくは5~500mm、より好ましくは10~300mm、さらに好ましくは20~200mmである。
【0030】
バルーン30の拡張時の外径は、特に限定されないが、好ましくは1~10mm、より好ましくは2~8mmである。
【0031】
バルーン本体31の構成材料は、ある程度の柔軟性を有するとともに、血管や組織等に到達した際に拡張されて、その表面に有する薬剤コート層40から薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有することが好ましい。具体的には、樹脂や、金属で構成されるが、薬剤コート層40が設けられるバルーン本体31の少なくとも外表面は、樹脂で構成されていることが好ましい。バルーン本体31の少なくとも外表面の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ナイロンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。そのなかでも、好適にはポリアミド類が挙げられる。
【0032】
薬剤コート層40は、薬剤を含んでいる。薬剤コート層40は、添加剤(賦形剤)を含んでもよい。薬剤は、結晶型、非結晶質(アモルファス)型、またはこれらの混合であってもよい。薬剤が結晶型である場合、例えば、均質な(白い)結晶が、バルーン30の全周に形成される(アモルファスを実質的に含まない)。
【0033】
薬剤は、水溶性薬剤でもよいが、水不溶性薬剤であることが好ましい。水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度が、pH5~8で1mg/mL未満である。その溶解度は、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。
【0034】
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
【0035】
水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。本明細書においてラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスとは、同様の薬効を有する限りそれらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルは類似体の関係にある。ラパマイシンとエベロリムスは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
【0036】
添加剤は、特に限定されないが、例えば、水溶性の低分子化合物を含む。水溶性の低分子化合物の分子量は、50~2000であり、好ましくは50~1000であり、より好ましくは50~500であり、さらに好ましくは50~200である。水溶性の低分子化合物は、水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは10~5000質量部、より好ましくは50~3000質量部、さらに好ましくは100~1000質量部である。水溶性の低分子化合物の構成材料は、セリンエチルエステル、グルコースなどの糖類、ソルビトールなどの糖アルコール、クエン酸エステル、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、尿素、水溶性ポリマー、造影剤、アミノ酸エステル、短鎖モノカルボン酸のグリセロールエステル、医薬として許容される塩および界面活性剤等、あるいはこれら二種以上の混合物等が使用できる。
【0037】
バルーン本体31に薬剤コート層40を被覆する方法は、特に限定されない。例えば、バルーン本体31を、その軸心を中心に回転させつつ長軸方向へ移動させて、薬剤、添加剤および溶媒を含むコーティング液を、バルーンの表面に螺旋を描くように塗布してもよい。バルーンの表面に塗布されたコーティング液は、溶媒が蒸発することで薬剤コート層40を形成する。または、バルーン本体31をコーティング液にディッピングしたり、バルーン本体31にコーティング液をスプレーしたりすることで、薬剤コート層40を形成してもよい。
【0038】
保護チューブ15は、バルーン30を覆って保護し、バルーン30からの薬剤の脱落を抑制する部材である。保護チューブ15は、バルーンカテーテル10を使用する前に取り除かれる。保護チューブ15は、柔軟な材料により構成され、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
【0039】
バルーン30は、
図3に示すように、後述するバルーン折りたたみ装置100により、バルーン30の径方向外側へ突出する複数の羽根部32(1つの場合はプリート(pleat)、複数の場合はプリーツ(pleats))が形成されて、折りたたまれている。羽根部32は、ひだであり、薄い材料に形成される細長い折り目である。複数の羽根部32は、バルーン30の周方向に略均等に形成されている。各々の羽根部32は、内管22に巻きつくように、バルーン30の周方向の同じ方向へ折りたたまれた状態で、保護チューブ15の内部に配置されている。
図3に示す例では、4つの羽根部32が形成されている。
【0040】
バルーン30は、複数の羽根部32と、隣接する羽根部32の間に位置する複数の基礎部35とを有している。各々の基礎部35は、内管22の外周面に接触している。羽根部32および基礎部35は、内管22の周方向に沿って交互に配置されている。羽根部32は、バルーン30の略長軸方向に延びる折り目によって形成される。羽根部32の長軸方向の長さは、バルーン30の長さを超えない。羽根部32がカテーテル本体20から径方向外側に突出する方向の長さは、特に限定されないが、約1~8mmである。羽根部32の数は特に限定されないが、例えば2~7枚程度である。なお、バルーン30が拡張すると、基礎部35が内管22から離れるとともに、羽根部32において接触または向き合っているバルーン30の内表面同士が離れ、略円筒形状となることができる(
図9を参照)。なお、バルーン30の内表面とは、バルーン30の流体が流入する内部空間側に位置する表面である。
【0041】
羽根部32は、突出する側に位置する羽根先端部51と、内管22に近接する羽根基端部53と、羽根先端部51および羽根基端部53の間に位置する羽根中間部52と、を有している。
【0042】
各々の羽根先端部51は、保護チューブ15側を向く羽根先端外側部51Aと、内管22側を向く羽根先端内側部51Bとを有している。羽根先端部51の内側には、バルーン30の内表面により、微小な先端空間部51Cが画定されている。先端空間部51Cは、形成されなくてもよい。羽根先端外側部51Aの少なくとも一部は、保護チューブ15の内周面に接触している。全て(本実施形態では4つ)の羽根先端外側部51Aが、保護チューブ15の内周面に接触することが好ましいが、これに限定されない。羽根先端内側部51Bは、隣接する他の羽根部32および基礎部35と接触せずに離れている。なお、羽根先端内側部51Bの微小な範囲が、他の羽根部32または基礎部35と接触することはあり得る。
【0043】
各々の羽根中間部52は、保護チューブ15側を向く羽根中間外側部52Aと、内管22側を向く羽根中間内側部52Bとを有している。羽根中間部52は、バルーン30の内表面同士が接触して薄く形成されている。なお、羽根中間部52において、バルーン30の内表面同士が微小な範囲で離れている(接触していない)ことはあり得る。羽根中間外側部52Aは、保護チューブ15の内周面および他の羽根部32から離れている(接触していない)。なお、羽根中間外側部52Aの微小な範囲が、保護チューブ15の内周面または他の羽根部32と接触することはあり得る。羽根中間内側部52Bは、隣接する他の羽根部32および基礎部35から離れている(接触していない)。なお、羽根中間内側部52Bの微小な範囲が、隣接する他の羽根部32または基礎部35と接触することはあり得る。
【0044】
羽根基端部53は、基礎部35と羽根中間部52の間に位置するとともに、バルーン30の内表面同士が離れて形成されている。羽根基端部53の内部には、バルーン30の内表面および内管22の外周面により、微小な基端空間部53Cが画定されている。羽根基端部53は、隣接する他の羽根部32から離れている(接触していない)。なお、羽根基端部53の微小な範囲が、隣接する他の羽根部32と接触することはあり得る。
【0045】
各々の羽根部32は、バルーン30の他の部位と略接触せず、かつ羽根先端外側部51A以外は、内管22の内周面と略接触しない。また、各々の基礎部35は、バルーン30の他の部位と略接触しない。このため、羽根部32に設けられる薬剤コート層40は、羽根先端外側部51Aを除き、他の部位とほとんど接触していない。このため、バルーン30からの薬剤の剥離が抑制される。また、バルーン30は、周方向に略均一に配置される各々の羽根先端外側部51Aで、保護チューブ15の内周面と接触する。このため、保護チューブ15は、バルーン30の薬剤コート層40と接触する面積が小さくても、バルーン30に良好に保持される。
【0046】
内管22の長軸と直交する断面において、各羽根部32の羽根先端内側部51Bおよび羽根中間内側部52Bの合計範囲の大きさ(断面における合計長さ)のうち、バルーン30の他の部位と接触する範囲の大きさ(断面における長さ)は、特に限定されないが、好ましくは50%以下であり、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、さらに好ましくは0%である。各羽根部32の内管22に向く側が、バルーン30の他の部位と接触する範囲が小さいほど、接触による薬剤の剥離を抑制できる効果が向上する。
【0047】
内管22の長軸と直交する断面において、バルーン30の外表面と保護チューブ15の内周面の間の面積は、特に限定されないが、保護チューブ15の内周面と内管22の外周面の間の面積の50%以上が好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。バルーン30の外表面と保護チューブ15の内周面の間の面積の比率が高いほど、バルーン30の外表面が他の部位と接触し難くなり、接触による薬剤の剥離を抑制できる効果が向上する。
【0048】
次に、バルーン折りたたみ装置100について説明する。バルーン折りたたみ装置100は、バルーン30を内管22に対し巻き付けるように折りたたむことのできる装置である。
【0049】
バルーン折りたたみ装置100は、
図4に示すように、基台110と、プリーティング部120と、フォールディング部130と、支持台140と、加減圧装置160とを有している。プリーティング部120、フォールディング部130および支持台140は、台状に形成された基台110に配置されている。
【0050】
プリーティング部120は、
図10に示すように、バルーン30に径方向に突出する羽根部32を形成できる。フォールディング部130は、
図11に示すように、バルーン30に形成された羽根部32を周方向に寝かせて折りたたむことができる。支持台140は、
図3に示すように、バルーン30に羽根部32を形成して折りたたむ間、バルーンカテーテル10を保持できる。加減圧装置160は、バルーン30の内部に流体を供給して加圧できるとともに、バルーン30の内部から流体を吸引して減圧できる。
【0051】
基台110には、プリーティング部120に対して第1フィルム155および第2フィルム156を供給するフィルム供給部150が、プリーティング部120に隣接して配置されている。また、基台110には、フォールディング部130に対して第1フィルム181および第2フィルム182を供給するフィルム供給部180が、フォールディング部130に隣接して配置されている。
【0052】
プリーティング部120は、基台110に対して垂直な前面板121を有し、前面板121はバルーンカテーテル10の遠位部を挿入可能な挿入孔121aを有している。また、フォールディング部130は、基台110に対して垂直な前面板131を有し、前面板131はバルーンカテーテル10の遠位部を挿入可能な挿入孔131aを有している。フォールディング部130の前面板131は、プリーティング部120の前面板121が向く方向と異なる方向へ向いている。
【0053】
支持台140のプリーティング部120を向く位置と、フォールディング部130を向く位置の両方へ向けるように、回動可能である。支持台140は、基台110に回動可能に載置される基部141と、基部141上を水平移動可能な保持台142とを有している。保持台142は、上面にバルーンカテーテル10を保持できる。保持台142は、基部141の上面をスライド移動し、プリーティング部120またはフォールディング部130へ向かって前進または後退可能である。バルーンカテーテル10を保持した保持台142が、プリーティング部120へ向かって前進または後退することで、バルーン30が、プリーティング部120の挿入孔121aに挿入され、または引き抜かれる。また、バルーンカテーテル10を保持した保持台142が、フォールディング部130へ向かって前進または後退することで、バルーン30が、フォールディング部130の挿入孔131aに挿入され、または引き抜かれる。
【0054】
加減圧装置160は、例えばポンプである。加減圧装置160は、シリンジやインデフレータ等であってもよい。加減圧装置160は、バルーンカテーテル10の近位開口部27に連結可能な加減圧チューブ161を有している。加減圧チューブ161は、近位開口部27に流体を供給するとともに、近位開口部27から流体を吸引する。加減圧チューブ161には、開閉を手動で操作できる活栓162が設けられてもよい。活栓162は、例えば三方活栓である。
【0055】
次に、プリーティング部120の構造について詳述する。プリーティング部120は、
図5、6に示すように、内部に複数の第1移動部材122を有している。第1移動部材122の数は、バルーン30に形成される羽根部32の数と一致する。ここでは、第1移動部材122が3つ設けられる場合を説明する。各第1移動部材122は、挿入されるバルーンカテーテル10の長軸方向に沿う各位置における断面形状が、同形状で形成される板状の部材である。第1移動部材122は、バルーン30が挿通される中心領域の中心を基準として、それぞれが120度の角度をなすように、中心領域を囲んで配置されている。すなわち、各第1移動部材122は、周方向において等角度毎に配置されている。第1移動部材122は、外周端部付近に回動中心部122aを有し、この回動中心部122aを中心として回動することができる。また、第1移動部材122は、回動中心部122aより内周側に、長軸方向に延びる移動ピン122dを有している。移動ピン122dは、プリーティング部120内で回転可能な回転部材124に形成される嵌合溝124aに嵌合している。回転部材124は、略水平方向に延びる梁部126に連結されている。回転部材124は、油圧シリンダーやモータ等の駆動源125から力を受けて傾く梁部126から回転力を受けて回動可能である。回転部材124が回転すると、嵌合溝124aに嵌合する移動ピン122dが周方向へ移動し、これにより、各々の第1移動部材122が回動中心部122aを中心として回動する。3つの第1移動部材122が回動することにより、第1移動部材122に囲まれた中心領域を狭めることができる。なお、第1移動部材122の数は、2つ以上であれば、特に限定されない。
【0056】
第1移動部材122は、回動中心部122aと反対側の内周端部に、略弧状の第1形状形成部122bと第2形状形成部122cとを有している。第1形状形成部122bは、第1移動部材122が回動するのに伴い、プリーティング部120内に挿通されるバルーン30の表面に当接して、バルーン30に径方向に突出する羽根部32を形成することができる。第2形状形成部122cは、第1移動部材122が回動するのに伴い、バルーン30に形成される羽根部分に当接し、羽根部32を所定方向に湾曲させることができる。また、プリーティング部120は、第1移動部材122を加熱するためのヒーター(図示しない)を有している。プリーティング部120は、第1移動部材122を加熱するためのヒーターを有さなくてもよい。第1移動部材122のバルーンカテーテル10の長軸方向に沿う長さは、バルーン30の長さよりも長い。また、第1移動部材122の第1形状形成部122b及び第2形状形成部122cの長さは、第1移動部材122の全長に渡っていてもよいし、渡っていなくてもよい。
【0057】
第1移動部材122には、フィルム供給部150から樹脂製の第1フィルム155および第2フィルム156が供給される。各フィルムを案内するため、プリーティング部120内には複数の回転軸部123が設けられている。第1フィルム155は、第1フィルム保持部151から回転軸部123を介して、上部に配置されている第1移動部材122の表面に係っている。また、第1フィルム155は、第1移動部材122から回転軸部123を経て、図示しないモータ等の駆動源により回転駆動されるフィルム巻取部153に至っている。第2フィルム156は、第2フィルム保持部152から回転軸部123を介して、下部に配置されている2つの第1移動部材122に係っている。また、第2フィルム156は、回転軸部123を経て、フィルム巻取部153に至っている。これらにより、バルーン30が挿通されるプリーティング部120の中心位置は、第1フィルム155と第2フィルム156に囲まれた状態となっている。第1フィルム保持部151および第2フィルム保持部152の各々からフィルムが供給され、フィルム巻取部153で、2つのフィルムが重なって回収される。
【0058】
第1フィルム155と第2フィルム156は、バルーン30がプリーティング部120に挿入され、第1移動部材122が回動してバルーン30に羽根部32を形成する際に、バルーン30が第1移動部材122の表面に直接接触しないように保護する。バルーン30の羽根部32を形成した後、第1フィルム155と第2フィルム156はフィルム巻取部153に所定長さが巻き取られる。すなわち、第1フィルム155および第2フィルム156のバルーン30に一度接触した部分は、再度バルーン30に接触せず、バルーン30が挿入される度に新しい部分がプリーティング部120の中心位置に供給される。
【0059】
図5に示すように、バルーン30の挿入前の状態において、3つの第1移動部材122の第1形状形成部122b及び第2形状形成部122cは、それぞれ離隔した状態となっている。複数の第1移動部材122に囲まれる領域は、それぞれ略弧状の第1形状形成部122bに囲まれており、拡張したバルーン30を挿入できる。
【0060】
次に、フォールディング部130の構造について詳述する。フォールディング部130は、
図7、8に示すように、内部に10個の第2移動部材132を有している。各第2移動部材132は、挿入されるバルーンカテーテル10の長軸方向に沿う各位置における断面形状が、同形状で形成される板状の部材である。第2移動部材132は、バルーンが挿通される中心位置を基準として、それぞれが36度の角度をなすように配置されている。すなわち、各第2移動部材132は、周方向において等角度毎に配置されている。第2移動部材132は、略中央付近に回動中心部132aを有し、この回動中心部132aを中心として回動することができる。また、各第2移動部材132は、略外周端部付近に、軸方向に延びる移動ピン132cを有している。移動ピン132cは、フォールディング部130内で回転可能な回転部材133に形成される嵌合溝133aに嵌合している。回転部材133は、略水平方向に延びる梁135に連結されている。回転部材133は、油圧シリンダーやモータ等の駆動源134から力を受けて傾く梁135から回転力を受けて回動可能である。回転部材133が回転すると、嵌合溝133aに嵌合する移動ピン132cが周方向へ移動し、これにより、各々の第2移動部材132が回動中心部132aを中心として回動する。10個の第2移動部材132が回動することにより、第2移動部材132に囲まれた中心部の空間領域を狭めることができる。なお、第2移動部材132の数は、10個に限定されない。
【0061】
第2移動部材132は、先端側が屈曲すると共に、先端部132bは尖った形状を有している。先端部132bは、第2移動部材132が回動するのに伴い、フォールディング部130内に挿通されるバルーン30の表面に当接して、バルーン30に形成された羽根部32を周方向にたたむことができる。このとき、羽根部32を内管22(シャフト)に対して寝かせるようにたたむことができ、または、羽根部32を内管22から浮かせた状態(接触していない状態)でたたむこともできる。また、フォールディング部130は、第2移動部材132を加熱するためのヒーター(図示しない)を有している。フォールディング部130は、第2移動部材132を加熱するためのヒーターを有さなくてもよい。
【0062】
第2移動部材132には、フィルム供給部180から樹脂製の第1フィルム181および第2フィルム182が供給される。各フィルムの供給構造は、プリーティング部120の場合と同様である。第1フィルム181と第2フィルム182は、第2移動部材132によって囲まれた中央の空間領域を挟むように対向配置される。これら第1フィルム181と第2フィルム182により、フォールディング部130に挿入されたバルーン30は、第2移動部材132の表面に直接接触しないようにすることができる。第1フィルム181と第2フィルム182は、第2移動部材132を経て、図示しないモータ等の駆動源により回転駆動されるフィルム巻取部183に至っている。
【0063】
図8に示すように、バルーン30の挿入前の状態において、各第2移動部材132の先端部132bは、それぞれ周方向に離隔した状態となっている。第2移動部材132に囲まれた中心領域であって第1フィルム181と第2フィルム182の間には、羽根部32を形成されたバルーン30を挿入することができる。
【0064】
次に、バルーン折りたたみ装置100を用いて、バルーン30を折りたたんで保護チューブ15に配置する方法を説明する。
【0065】
まず、
図4に示すように、バルーン30に羽根部32を形成するために、カテーテル本体20を、支持台140の保持台142に載置する。ガイドワイヤルーメン24には、芯材101(
図2を参照)が挿入される。芯材101の遠位端は、バルーン30の遠位端から遠位側に位置する。芯材101の近位端は、バルーン30の内部に位置してもよく、ガイドワイヤルーメン24の近位側の開口部25から遠位側に位置してもよく、または、ガイドワイヤルーメン24の近位側の開口部25から近位側に位置してもよい。芯材101の遠位端が、バルーン30の遠位端よりも遠位側に位置すれば、芯材101の長さは、第1移動部材122や第2移動部材132よりも短くてもよい。芯材101は、長軸方向において、第1移動部材122や第2移動部材132の全体と重なる長さでもよい。また、第1移動部材122や第2移動部材132は、長軸方向において、ガイドワイヤルーメン24の近位側の開口部25と重ならなくてもよい。なお、芯材101は、挿入されなくてもよい。バルーンカテーテル10の近位開口部27には、加減圧装置160の加減圧チューブ161が連結される。バルーン30は、加減圧装置160により加圧および減圧されていない自然状態で、自己の形状により広がった状態となっている。
【0066】
次に、保持台142を基部141上でスライド移動させて、バルーンカテーテル10を挿入孔121aからプリーティング部120に挿入する。プリーティング部120の第1移動部材122は、加熱されていることが好ましいが、加熱されていなくてもよい。バルーン30は、
図9に示すように、複数の第1移動部材122に囲まれる中心領域に配置される。
【0067】
次に、加減圧装置160を調節して、バルーン30から流体を徐々に吸引して排出させつつ、駆動源125により回転部材124(
図5を参照)をさらに回転させる。これにより、
図10に示すように、第1移動部材122が回動する。このため、各第1移動部材122の第1形状形成部122bが互いに近づき、第1移動部材122間の中心領域が、内管22の外径程度まで狭まる。これに伴い、第1移動部材122間の中心領域に挿入されたバルーン30は、第1形状形成部122bによって内管22に対し押し付けられ、基礎部35が形成される。バルーン30のうち第1形状形成部122bによって押圧されない部分は、第1移動部材122の先端部と、当該第1移動部材122に隣接する第1移動部材122の第2形状形成部122cとの間の隙間に押し出され、一方に湾曲した羽根部32が形成される。第1移動部材122により、バルーン30は約50~60度に加熱される。このため、形成された羽根部32はそのままの形を維持することができる。このようにして、バルーン30に複数の羽根部32および基礎部35が形成される。バルーン30は、加熱されなくてもよい。バルーン30の内部には、加減圧装置160による減圧と、第1移動部材122により押されることによる加圧が作用する。加減圧装置160による減圧と、駆動源125により駆動される第1移動部材122による加圧は、バルーン30の内圧が、大気圧よりも多少高い程度で維持されるように調節される。これにより、第1移動部材122により押されてバルーン30に羽根部32が形成される前に、バルーン30が加減圧装置160によって急激に収縮されることを防止できる。したがって、バルーン30は、第1移動部材122により適切に押されて、羽根部32が形成される。なお、バルーン30に羽根部32を形成する際に、加減圧装置160により吸引するのではなく、近位開口部27を大気に開放してもよい。近位開口部27の開放は、三方活栓である活栓162により容易に行うことができる。バルーン30に羽根部32を形成する工程が完了した後、バルーン30の内部を減圧した状態を維持する。そのために、加減圧装置160により減圧し続けてもよいが、活栓62を閉じてもよい。バルーン30は、羽根部32を形成する工程において、内部の流体がほとんど排出される。
【0068】
羽根部32を形成する工程において、各第1移動部材122のバルーン30と接触する表面は、第1フィルム155および第2フィルム156によって覆われている。このため、バルーン30は、第1移動部材122の表面に直接接触することはない。バルーン30に羽根部32を形成した後、第1移動部材122を元の位置に戻すように回動させる。この後、バルーン30は、プリーティング部120から引き抜かれる。
【0069】
次に、
図4に示すように、保持台142を基部141の上面で移動させてプリーティング部120から離間させ、バルーンカテーテル10をプリーティング部120から引き抜く。次に、支持台140を基台110の上面でスライド移動させ、フォールディング部130の前面板131に向き合う位置に、支持台140を位置決めする。この後、保持台142を基部141の上面で移動させて、バルーン30の内部の減圧状態を維持したまま、バルーンカテーテル10を挿入孔131aからフォールディング部130内に挿入する。フォールディング部130の第2移動部材132は既に50~60度程度に加熱されている。なお、第2移動部材132は、加熱されなくてもよい。
【0070】
羽根部32が形成されたバルーン30をフォールディング部130に挿入した後、
図7に示すように、駆動源134を作動させて回転部材133を回転させる。これにより、
図11に示すように、第2移動部材132が回動し、各第2移動部材132の先端部132bが互いに近づく。このため、第2移動部材132間の中心領域が狭まる。これに伴い、第2移動部材132間の中心領域に挿入されたバルーン30は、各第2移動部材132の先端部132bによって羽根部32が周方向に寝かされた状態となる。羽根部32は、バルーン30の内部の減圧状態が維持されたまま、折りたたまれる。すべての羽根部32は、一方向(時計回りまたは反時計回り)に曲げられる。一方向に曲げられた羽根部32は、隣接する羽根部32に接触しないように曲げられた状態で維持される。第2移動部材132は、バルーン30の挿入前に予め加熱されており、第2移動部材132によってバルーン30が加熱されるので、第2移動部材132により周方向に寝かされた羽根部32は、そのままの形を維持することができる。このとき、各第2移動部材132のバルーン30と接触する表面は、第1フィルム181および第2フィルム182によって覆われている。このため、バルーン30は、第2移動部材132の表面に直接接触することはない。
【0071】
バルーン30の羽根部32を折りたたんだ後、第2移動部材132を元の位置に戻すように回動させる。羽根部32は、第2移動部材132により押されて折りたたまれた状態から、ある程度起き上がってもよい。次に、バルーン30の内部の減圧状態を維持したまま、バルーン30をフォールディング部130から引き抜く。次に、支持台140からバルーンカテーテル10を取り外し、バルーン30の内部の減圧状態を維持したまま、
図2、3に示すように、バルーン30を筒状の保護チューブ15に挿入する。羽根部32は、一度折りたたまれた後に折りたたみが戻って曲がった状態で、保護チューブ15内で保持される。羽根部32は、一つの弧を形成する。これにより、バルーン30の折りたたみおよび保護チューブ15への配置が完了する。バルーン30は、内部の流体がほとんど排出された状態の羽根部32および基礎部35が形成されて、保護チューブ15に挿入される。羽根部32は、保護チューブ15内で付勢されている。したがって、羽根部32から保護チューブ15を取り除くと、羽根部32の形状は、多少変化する。
【0072】
なお、
図3に示すバルーン30は、4つの羽根部32を有する形態である。4つの羽根部32を形成するためには、前述のプリーティング部20に、4つの第1移動部材122が設けられる。
【0073】
以上のように、本実施形態に係るバルーンカテーテル10は、薬剤が外表面に被覆されたバルーン30がバルーンカテーテル10の内管22(シャフト)の外周面に折りたたまれた状態で保護チューブ15の内部に配置されたバルーンカテーテル10であって、バルーン30は、バルーン30の径方向外側へ突出しつつ内管22の周方向の同一方向へ曲げられた複数の羽根部32と、内管22に接する複数の基礎部35と、を有し、羽根部32は、突出する側に位置する羽根先端部51と、基礎部35に繋がる羽根基端部53と、羽根先端部51および羽根基端部53の間に位置する羽根中間部52と、を有し、羽根先端部51は、保護チューブ15側を向く羽根先端外側部51Aと、内管22側を向く羽根先端内側部51Bと、を有し、羽根先端外側部51Aは、保護チューブ15の内周面に接触し、羽根中間部52は、バルーン30の内表面同士が接触して形成され、羽根中間部52および羽根基端部53は、保護チューブ15の内周面から離れている。
【0074】
上記のように構成したバルーンカテーテル10は、バルーン30の羽根先端外側部51A以外の部位が、保護チューブ15と略接触しない。このため、バルーン30が保護チューブ15と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。また、羽根中間部52においてバルーン30の内表面同士が接触して羽根部32が薄く形成されるため、羽根部32がバルーン30の他の部位と接触し難い。このため、羽根部32がバルーン30の他の部位(例えば、他の羽根部32や基礎部35)と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。また、羽根部32が緩く巻かれるため、羽根部32がきつく(隙間なく)巻かれる場合と比較して、隣接する羽根部32の間に保護空間が形成されて、薬剤を良好に保護できる。
【0075】
また、羽根中間部52は、保護チューブ15側を向く羽根中間外側部52Aと、内管22側を向く羽根中間内側部52Bと、を有し、羽根中間内側部52Bは、隣接する他の羽根部32および基礎部35から離れている。これにより、隣接する羽根部32同士の間、および羽根部32と基礎部35の間に空間が形成される。このため、羽根部32が他の羽根部32や基礎部35と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0076】
また、羽根先端内側部51Bは、隣接する他の羽根部32および基礎部35から離れている。これにより、隣接する羽根部32同士の間、および羽根部32と基礎部35の間に空間が形成される。このため、羽根部32が他の羽根部32や基礎部35と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0077】
また、羽根中間部52の全体において、バルーン30の内表面同士が接触している。これにより、羽根中間部52の全体が薄く形成されるため、隣接する羽根部32同士の間、および羽根部32と基礎部35の間に空間が形成されやすくなる。このため、羽根部32が他の羽根部32や基礎部35と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0078】
また、本発明は、薬剤が外表面に被覆されたバルーン30が内管22の外周面に拡張可能に配置されたバルーンカテーテル10のバルーン30を保護チューブ15の内部に配置するバルーン配置方法をも提供し得る。本バルーン配置方法は、バルーン30の内部を減圧しつつ、バルーン30に径方向外側へ突出する複数の羽根部32および内管22に接する複数の基礎部35を形成するステップと、バルーン30の内部の減圧状態を保持して羽根部32を内管22の周方向の同一方向へ曲げるステップと、バルーン30の内部の減圧状態を保持して当該バルーン30を保護チューブ15に挿入するステップと、を有する。
【0079】
上記のように構成したバルーン配置方法は、内部の流体が排出されて折りたたまれた羽根部32の形状を保持しつつ、バルーン30を保護チューブ15に挿入できる。このため、羽根部32の保護チューブ15に対する接触面積を小さくできるとともに、羽根部32がバルーン30の他の部位と接触することを抑制できる。このため、羽根部32がバルーン30の他の部位と接触すること、および羽根部32が保護チューブ15に接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0080】
また、バルーン配置方法は、羽根部32を形成するステップにおいて、羽根部32を加熱してもよい。これにより、羽根部32の形状を、バルーン30の内部の流体が排出された状態で良好に保持することができる。
【0081】
また、バルーン配置方法は、羽根部32を折りたたむステップにおいて、羽根部32を加熱してもよい。これにより、バルーン30の内部の流体が排出された羽根部32を、内管22に折りたたんだ状態で、良好に保持することができる。
【0082】
また、バルーン配置方法は、羽根部32を形成するステップにおいて、羽根部32に、突出する側に位置する羽根先端部51と、基礎部35に繋がる羽根基端部53と、羽根先端部51および羽根基端部53の間に位置する羽根中間部52と、を形成し、バルーン30を保護チューブ15に挿入するステップにおいて、羽根先端部51の保護チューブ15側を向く羽根先端外側部51Aを、保護チューブ15の内周面に接触させ、羽根中間部52および羽根基端部53を、保護チューブ15の内周面から離して配置する。これにより、バルーン30の羽根先端外側部51A以外の部位が、保護チューブ15と略接触しない。このため、バルーン30が保護チューブ15と接触することによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0083】
また、バルーン配置方法は、羽根部32および基礎部35を形成するステップにおいて、羽根部32を押し込むために前記バルーン30を囲むように並ぶ複数の第1移動部材122とバルーン30との間に柔軟なフィルム155、156を介在させ、羽根部32を曲げるステップにおいて、羽根部32を曲げるためにバルーン30を囲むように並ぶ複数の第2移動部材132とバルーン30との間に柔軟なフィルム181、182を介在させてもよい。これにより、バルーン30に羽根部32および基礎部35を形成する際、および羽根部32を曲げる際に、バルーン30の表面をフィルムにより保護して、バルーン30から薬剤が剥離することを抑制できる。なお、フィルムの形態は、上述した形態に限定されない。
【0084】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述の実施形態に係るバルーンカテーテル10は、ラピッドエクスチェンジ型(Rapid exchange type)であるが、オーバーザワイヤ型(Over-the-wire type)であってもよい。
【0085】
また、
図12に示す変形例のように、バルーンカテーテル10は、保護チューブ15とバルーン30の間に挟まれる柔軟な保護フィルム16を有してもよい。保護フィルム16は、保護チューブ15の構成に含まれ得る。これにより、バルーン30の外表面の薬剤が、柔軟な保護フィルム16を介して保護チューブ15に接触するため、薬剤の剥離を抑制できる。また、保護チューブ15を設けることで、バルーン30を保護フィルム16で覆った状態のまま、バルーン30を保護チューブ15に挿入したり、保護チューブ15から取り出したりすることも可能である。このため、バルーン30を保護チューブ15に挿入する際、および/またはバルーン30を保護チューブ15から取り出す際に、羽根部32が保護チューブ15と擦れることによって生じる薬剤の剥離を抑制できる。
【0086】
また、バルーン30は、薬剤コート層40を有さなくてもよい。本実施形態に係るバルーンカテーテル10は、薬剤コート層40を有さなくても、バックフォールドの発生を抑制できるとともに、折りたたまれたバルーン30を拡張させやすくなる。
【0087】
また、プリーティング部とフォールディング部は、異なる装置に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10 バルーンカテーテル
15 保護チューブ
16 保護フィルム
22 内管(シャフト)
30 バルーン
32 羽根部
35 基礎部
40 薬剤コート層
51 羽根先端部
51A 羽根先端外側部
51B 羽根先端内側部
51C 先端空間部
52 羽根中間部
52A 羽根中間外側部
52B 羽根中間内側部
53 羽根基端部
53C 基端空間部
100 バルーン折りたたみ装置
120 プリーティング部
130 フォールディング部
160 加減圧装置