(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】パッシブイオン放射線治療計画のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61N5/10 H
A61N5/10 N
A61N5/10 M
A61N5/10 K
(21)【出願番号】P 2021535610
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2019086201
(87)【国際公開番号】W WO2020127659
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-04
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】フレデリクソン,アルビン
(72)【発明者】
【氏名】エングウォール,エリック
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-521721(JP,A)
【文献】特表2009-531138(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0346566(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0296885(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0281974(US,A1)
【文献】特表2018-510664(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03108932(EP,A1)
【文献】特開2011-224342(JP,A)
【文献】特開2012-002772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のビーム角度から送達される少なくとも第1のビームとして送達されるイオン放射線に患者を曝露するように設計されたイオン治療のための放射線治療計画を最適化する方法であって、前記方法は、コンピュータソフトウェアによって指令されるコンピュータにより自動的に行われ、ここでは、前記放射線治療計画が前記第1のビームの送達中に前記第1のビームのフルエンスの調整を含むように、前記第1のビームの送達中に
拡大ブラッグピーク(SOBP)を形成するための飛程調整装置
(9)の設定および/または前記
第1のビームを横方向に成形するための開口部要素
(11)の設定の変動を可能にするようにセットアップされた最適化問題を用い、
前記飛程調整装置(9)および前
記開口部要素(11)を備えるパッシブ装置を用いて各ビームが成形され
、前記最適化問題は、前記放射線治療計画が前記第1のビームの送達中に前記第1のビームの横方向調整を含むように、少なくとも前記第1のビームの送達中に前記開口部要素(11)の設定の変動を可能にするようにセットアップされ、前記最適化問題は、前記第1のビームおよびの少なくとも第1および第2のセグメントでの送達のために少なくとも前記第1のビームを最適化するようにセットアップされ、前記放射線治療計画は、前記第1および第2のセグメントについて異なる、前記開口部要素(11)のための設定を有する、方法。
【請求項2】
前記最適化問題は、得られる放射線治療計画が第1および第2のビーム角度からそれぞれ少なくとも第1のビームおよび第2のビームでイオン放射線を送達するように設計されるようにセットアップされ、前記方法は前記第1のビームの送達中に各ビームのフルエンスを調整する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記最適化問題は、少なくとも前記第1のビームを最適化するようにセットアップされ、ここでは制御点が使用されて前記第1のビームの少なくとも第1および第2のセグメントを定め、かつ前記開口部要素(11)のための設定は前記第1および第2のセグメントで異なる、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記最適化問題は、前記放射線治療計画が前記第1のビームの送達中に前記第1のビームの深さの調整を含むように、少なくとも前記第1のビームの送達中に前記飛程調整装置(9)の変動を可能にするようにセットアップされる、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記最適化問題は、前記第1のビームの少なくとも第1および第2のセグメントにおける送達のために少なくとも前記第1のビームを最適化
するようにセットアップされ、
前記放射線治療計画は、前記第1および第2のセグメントについて異なる、前記飛程調整装置(
9)のための設定
を有する、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記最適化問題は、少なくとも前記第1のビームを最適化するようにセットアップされ、ここでは制御点が使用されて前記第1のビームの少なくとも第1および第2のセグメントを定め、かつ前記飛程調整装置(9)のための設定は前記第1および第2のセグメントで異なる、請求項
4に記載の方法。
【請求項7】
前記パッシブ装置は飛程補償装置(15)を備え、かつ前記最適化は前記飛程補償装置(15)の設定の変動を可能にするようにセットアップされる、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
コンピュータ内で実行されるときに、前記コンピュータに請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法を行わせるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品。
【請求項9】
放射線治療のために線量計算を行うためのコンピュータシステム(51)であって、前記コンピュータシステムが処理手段(53)を備え、前記コンピュータシステムが、請求項
8に記載のコンピュータプログラム製品が、実行されるときに、前記処理手段(53)を制御するように、前記コンピュータプログラム製品をその中に記憶しているプログラムメモリ(55)を有する、コンピュータシステム(51)。
【請求項10】
イオンが第1のビーム角度から送達される少なくとも第1のビームで患者に送達されるパッシブイオン計画を送達するための放射線治療送達システムであって、前記システムが、拡大ブラッグピーク(SOBP)を形成するための飛程調整装置(9)と、前記第1のビームを横方向に成形するための開口部要素(11)とを備え、前記システムが、前記第1のビームの送達中に前記第1のビームのフルエンスを調整するために、少なくとも前記第1のビームの送達中に前記開口部要素(11)の設定および前記飛程調整装置(9)の設定のうちの少なくとも1つを変えるための制御手段(16)をさらに備え
、ここでは、前記パッシブイオン計画が、前記第1のビームの送達中に前記第1のビームのフルエンスの調整を含むように、前記第1のビームの送達中に前記飛程調整装置(9)の設定および/または前記開口部要素(11)の設定の変動を可能にするようにセットアップされた最適化問題を用い、前記システムを用いて各ビームが成形され、前記最適化問題は、前記パッシブイオン計画が前記第1のビームの送達中に前記第1のビームの横方向調整を含むように、少なくとも前記第1のビームの送達中に前記開口部要素(11)の設定の変動を可能にするようにセットアップされ、前記最適化問題は、前記第1のビームおよびの少なくとも第1および第2のセグメントでの送達のために少なくとも前記第1のビームを最適化するようにセットアップされ、前記放射線治療計画は、前記第1および第2のセグメントについて異なる、前記開口部要素(11)のための設定を有する、システム。
【請求項11】
前記開口部要素(11)は、前記第1のビームの横方向形状を変えることができる要素を備え、かつ前記制御手段(16)は、前記開口部要素(11)を制御して、少なくとも1つのビーム角度のために前記開口部要素(11)の複数の設定を使用することにより前記少なくとも1つのビームを横方向に調整するように構成されている、請求項
10に記載のシステム。
【請求項12】
前記制御手段(16)は、少なくとも2つの異なるSOBP幅が同じビームに適用されるように、前記飛程調整装置(9)を制御して前記SOBP幅を変えるように構成されている、請求項
10または
11に記載のシステム。
【請求項13】
飛程補償装置(15)であって、前記制御手段(16)は、少なくとも2つの異なるビーム飛程が同じビームに適用されるように、前記飛程補償装置(15)を制御してビーム飛程を変えるように構成されている、飛程補償装置(15)をさらに備える、請求項
10~
12のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン(例えば、陽子または炭素のようなより重いイオン)のビームで腫瘍を標的にするパッシブイオン放射線治療計画のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は癌などの疾患を治療するためによく使用されている。各種放射線源を使用することができる。今日使用されている主な種類の放射線は光子線である。陽子および炭素イオン治療などのイオン系治療法は光子線治療よりも高価であるが、それらの利点により、より一般的になりつつある。イオンビームはその初期エネルギーによって決定される有限の飛程を有するため、特に線量の蓄積をより正確に制御することができる。またイオンは、ブラッグピークとして知られている領域内のそれが停止する深さの近くでそのエネルギーの大部分を放出する。
【0003】
パッシブイオン治療では幅広の照射野を適用し、かつ標的に可能な限り正確に一致するようにビームを成形するためにパッシブ装置と呼ばれる物理的要素を使用する。ビームエネルギーは患者の体内におけるイオンの最大飛程を制御する。ビームの横方向形状は、非透過性材料、例えばタングステンまたは黄銅のブロックまたはコリメータなどの、ビームラインの中に開口部を画定する要素によって制御される。高線量領域の幅、すなわち拡大ブラッグピーク(SOBP)は、例えば飛程調整装置すなわちリッジフィルタによって制御される。典型的には飛程補償装置も使用され、これは患者の解剖学的構造において、異なる横方向位置においてビームの最大深さに異なるように影響を与えるためにビーム軌道内に配置される。この補償装置はイオンビームの局所飛程を短くするものであり、腫瘍の遠位縁部に一致させるために非均一に成形されている。慣例的に、パッシブイオン治療計画のための設定すなわち開口部の形状、SOBPの飛程および幅ならびにこの補償装置の形状は、順方向治療計画法によって作成される。
【0004】
欧州特許出願第15173971号は、最適化によるパッシブイオン放射線治療計画に関するものであり、送達システムの主要構成要素を開示している。その基本的な原理は、パッシブイオン治療計画のための設定を、最適化目的を用いる逆方向治療計画により決定するというものである。この従来の出願の目的は、各ビーム角度のためにSOBPの最適な飛程および幅を見つけると共に、正確な線量分布を達成するためのブロックを設計することにある。
【0005】
最適化は、ペンシルビームスキャニングなどのアクティブスキャニングイオン技術では標準的なものとして使用されている。この種の送達では、腫瘍を3次元全てにおいて覆うためにスポットとも呼ばれる多数の小さい(ペンシル)ビームが使用される。これらのスポットを異なるエネルギー層にグループ化して異なる深さの腫瘍に到達させる。エネルギー層の中では、これらのスポットをビームラインの中のスキャニング磁石によって横方向に分布させる。所望の線量分布は最適化により達成し、それによりスポットの強度を変える。
【0006】
現在のところ、パッシブ技術ではなくアクティブ技術に対してより重点が置かれる傾向がある。その主な理由は、アクティブスキャニング技術によりコンフォーマルな線量分布を得ることがより容易であると同時に、補償装置およびブロック開口部などの患者特有のハードウェアが必要とされない点にある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、パッシブイオン系治療計画の計画を向上させることにある。
【0008】
本発明は、少なくとも第1のビーム角度から少なくとも第1のビームとして送達されるイオン放射線に患者を曝露するように設計されたイオン治療のための放射線治療計画を最適化する方法であって、ここでは、前記計画がビームの送達中にビームのフルエンスの調整を含むように、第1のビームの送達中に飛程調整装置の設定および/または開口部要素の設定の変動を可能にするようにセットアップされた最適化問題を用い、拡大ブラッグピーク(SOBP)を形成するための飛程調整装置およびビームを横方向に成形するための開口部要素を備えたパッシブ装置を用いて各ビームが成形される方法に関する。飛程調整装置の設定は典型的には、電流、エネルギーおよび送達時間のうちの1つ以上を含む。
【0009】
好ましい実施形態では、最適化問題は、得られる放射線治療計画が少なくとも第1および第2のビーム角度からそれぞれ少なくとも第1のビームおよび第2のビームでイオン放射線を送達するように設計されることになるようにセットアップされ、本方法はビームの送達中に各ビームのフルエンスを調整する工程を含む。
【0010】
最適化問題は好ましくは、前記計画がビームの送達中にビームの横方向調整を含むように、少なくとも第1のビームの送達中に開口部要素の設定の変動を可能にするようにセットアップされる。これは開口部の変動によりビームの横方向調整を可能にする。開口部要素はMLC、ジョー(Jaw)または虹彩型絞りあるいはイオン放射線治療に適したあらゆる他の可変開口部成形要素であってもよい。MLCが使用される場合、それを静的MLCまたは動的MLCとして、あるいはいくつかの他の方法で機能するように制御してもよい。
【0011】
MLCが使用され、かつ静的MLCとして制御される場合、最適化問題は、少なくとも第1のビームを少なくとも第1および第2のセグメントでの送達のために最適化し、かつ開口部要素の設定が第1および第2のセグメントで異なる場合に計画を戻すようにセットアップしてもよい。
【0012】
MLCが使用され、かつ動的MLCとして制御される場合、最適化問題は少なくとも第1のビームを最適化するようにセットアップしてもよく、ここでは制御点が使用されて少なくとも第1のビームの少なくとも第1および第2の部分を定め、かつ開口部要素の設定は第1および第2の部分で異なる。
【0013】
開口部要素を制御する代わりとして、あるいはそれに加えて、最適化問題は、前記計画がビームの送達中にビームの深さの調整を含むように、少なくとも第1のビームの送達中に飛程調整装置の変動を可能にするようにセットアップしてもよい。これによりビームの送達中に線量の深さプロファイルの変動を可能にする。飛程調整装置はリッジフィルタまたは飛程調整ホイール、あるいはビーム飛程を調整するためのあらゆる他の好適な装置であってもよい。またSOBPは当該技術分野において一般的である平坦な形状を有するように成形されていてもよいが、あらゆる他の好適な形状が与えられていてもよい。
【0014】
最適化問題は、少なくとも第1および第2のセグメントでの送達のために少なくとも第1のビームを最適化し、飛程調整装置のための設定が第1および第2のセグメントで異なる場合に計画を戻すようにセットアップしてもよい。あるいは、最適化問題は少なくとも第1のビームを最適化するようにセットアップされ、ここでは制御点を使用して少なくとも第1のビームの少なくとも第1および第2の部分を定め、かつ飛程調整装置のための設定は第1および第2の部分で異なる。これは、上に考察されているように、どのようにMLCが制御されるかに依存することになる。
【0015】
本発明は、コンピュータで実行された場合にコンピュータに上記請求項のいずれか1項に記載の方法を行わせるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品にも関する。
【0016】
本発明は、放射線治療のために線量計算を行うためのコンピュータシステムであって、本システムは処理手段を備え、前記コンピュータシステムは、コンピュータプログラム製品が実行されるときに処理手段を制御することになるように上に概説されているコンピュータプログラム製品がその中に記憶されているプログラムメモリを有するコンピュータシステムにも関する。
【0017】
本発明は、イオンが少なくとも第1のビーム角度から少なくとも第1のビームで患者に送達されるパッシブイオン計画を送達するための放射線治療送達システムであって、本システムは、拡大ブラッグピーク(SOBP)を形成するための飛程調整装置と、ビームを横方向に成形するための開口部要素とを備え、本システムは、ビームの送達中にビームのフルエンスを調整するために、少なくとも第1のビームの送達中に開口部要素の設定および/または飛程調整装置の設定を変えるための制御手段をさらに備えるシステムにも関する。
【0018】
開口部要素は好ましくは、ビームの横方向形状を変えることができる要素を備え、この場合に制御手段は、開口部要素を制御して、少なくとも1つのビーム角度のために開口部要素の複数の設定を使用することにより少なくとも1つのビームを横方向に調整するように構成されていなければならない。
【0019】
制御手段は、ビームの深さプロファイルの調整を可能にするために、少なくとも2つの異なるSOBP幅が同じビームに適用されるように飛程調整装置を制御してSOBP幅を変えるようにさらに構成されていてもよい。
【0020】
当該技術分野において一般的であるように、本システムは飛程補償装置およびあらゆる他の好適な構成要素をさらに備えていてもよい。
【0021】
最適化は好ましくは線量レベルに基づく最適化関数を含むが、LETまたはイオンが停止する実際の飛跡末端などのあらゆる他の関連する量に関する最適化関数をさらに含んでもよい。本方法はロバスト最適化のあらゆる好適な方法と組み合わせることができる。それを多基準最適化と組み合わせてもよい。
【0022】
以下では、例として添付の図面を参照しながら本発明についてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】パッシブイオン治療のためのシステムの例を示す。
【
図4】本発明に係る線量計画で使用することができるコンピュータシステムを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明を実装することができるパッシブイオン治療のための送達システムの例を概略的に示す。イオン治療を受ける患者1が
図1の右側に概略的に示されている。患者1の体内の関心領域ROIすなわち標的3は、放射線治療を受ける臓器または他の組織を表す。標的3の最大の幅はwとして示されている。当該技術分野において一般的であるように、患者の体内において放射線を回避することが特に重要となる領域である重要領域が定められている場合もあるが、
図1には示されていない。
【0025】
放射線源5は、典型的には標的3の遠位端に到達する所望の最大飛程を達成するのに十分なエネルギーを有するイオンビーム7を提供する。典型的には1つまたは2つの散乱装置(図示せず)が幅広の照射野を形成するように配置されている。あるいは均一なスキャニング技術またはワブラー法を使用して幅広の照射野を形成してもよい。パッシブイオン治療では、その後にパッシブ装置を用いて線量を標的すなわち関心領域に対して成形する。最初に、
図4に関連して以下でより詳細に考察するように、SOBPを形成するために放射線の経路に飛程調整装置9を配置する。つまり飛程調整装置9は、標的3の領域を覆うのに十分な幅でなければならないSOBPの(ビーム方向に沿った)幅wを決定する。飛程調整装置9の後に、ブロック11として
図1に示されているビーム成形装置11を配置してビームを横方向に成形する。典型的にイオンが透過しない黄銅または他の材料から作られたブロック11は、ビームを通過させるための開口部13を有する。ブロックの代わりに、ビームを横方向に成形するのに好適な別の種類の装置を使用してもよい。好適な装置としては以下でより詳細に考察するように、マルチリーフコリメータ(MLC)、ジョー(Jaw)、虹彩型絞りが挙げられる。MLCはセグメント化MLC(SMLC、静的MLCと呼ぶ場合もある)または動的MLC(DMLC)として、あるいは送達システムの特性に応じた別の好適な方法で機能するように制御してもよい。
【0026】
最大のイオンビーム飛程が標的上の最遠位点と一致するように、ビームエネルギーを選択する。当然ながら、より複雑な患者の幾何学的形状および標的形状が生じることが多く、その飛程は標的の少なくとも一部には大き過ぎる。腫瘍の遠位端までの水等価距離におけるばらつきを補償するために、飛程補償装置15を導入して、イオンビームの断面にわたって局所飛程を制御する。これは
図1に示されていないが、飛程補償装置の厚さを当該技術分野でよく知られている方法でビーム軌道にわたって変化させて、ビームエネルギーを各点において標的の遠位端に適合させる。
【0027】
飛程調整装置9はSOBPを形成するように配置されている。リップルフィルタおよび可変厚を有する回転ディスクである飛程調整ホイールなどの、そのような飛程調整装置が当該技術分野で知られている。同時係属中の出願(欧州特許第18183065.4号)は、フィルタを変えることを必要とすることなく動的に変化させることができるリップルフィルタを開示している。
【0028】
本発明によれば、ビーム角度として知られている少なくとも1つの角度、好ましくは多くの異なる角度から与えられる放射線に患者を曝露する。これはあらゆる好適な方法で、すなわちガントリーを回転させること、あるいは患者が位置決めされる椅子またはカウチを移動させることにより達成してもよい。
【0029】
本発明は、当該治療計画が各ビーム内での調整を可能にする送達パラメータの変動を含む場合に、イオン系放射線治療をさらに向上させることができるという洞察に基づいている。これを達成するために送達システムは、飛程調整装置9および横方向ビーム成形装置11の少なくとも1つを制御するように構成された制御手段16をさらに備える。この制御では、横方向ビーム成形装置11の設定を変えることによる少なくとも2つの異なる横方向調整および/または飛程調整装置9の設定を変えることによる2つの異なる深さ調整を適用するために、1つの特定のビーム角度の送達中に飛程調整装置9または横方向ビーム成形装置11のいずれかあるいはそれらの両方の設定を変える。
【0030】
図4は、深さの関数として相対線量に換算した患者の体内での陽子ビームのSOBPを概略的に示す。図から分かるように、線量は平坦域から最大値(距離wにわたって一定である)になるまで増加する。SOBP後に、線量は短い距離の中でゼロまで低下する。ビームの最大飛程はRとして示されている。陽子ビームが標的を通って移動する際に最大放出エネルギーが生じ、その後に放出エネルギーは可能な限り早くゼロまで低下する。他のイオンの深さ線量形状は、核分裂片から生じるSOBP後の低い線量テールが存在すること以外は陽子の場合と同様である。
【0031】
放射線治療計画を向上させるために、ビームの飛程ならびにパッシブ装置すなわち飛程調整装置9、横方向ビーム成形装置11および飛程補償装置15の設計を変えてもよい。慣例的にこれは、患者の幾何学的形状の光線追跡によりパッシブ装置の設計を計算することにより順方向治療計画法によって行われており、これらのパラメータは各ビーム内で一定に維持される。各ビームの調整を可能にするイオン系治療計画の最適化を可能にするために、送達システムの要素の少なくとも1つの異なる設定を考慮に入れるように、特に各ビームの送達中にMU、飛程調整装置および/または開口部要素の異なる設定を可能にするように最適化問題を設計しなければならない。これを行う方法は、使用される要素すなわち送達システムのセットアップによって決まる。これについては以下で異なる要素で考察する。
【0032】
横方向ビーム成形装置11はMLCであってもよい。当該治療において少なくとも1つのビームのために複数のMLC位置が存在する場合、これによりビームの横方向調整が得られる。MLCリーフ位置は最適化における変数として含めることができ、これにより最適化アルゴリズムは、線量の品質を測定するいくつかの少なくとも部分的に線量に基づく関数によって測定した場合に患者のために最も有益な線量分布が得られる調整を決定することができる。
【0033】
SMLCを用いる静的コリメーションでは、各ビームを多くのセグメントとしてそのビーム角度から送達する。各セグメントは、MLCのリーフ位置設定によって与えられる開口部形状およびビームが開口部を通して放射線を送達する時間に比例するセグメントMUによって定める。好ましくは、ビームの横方向調整は以下の方法で達成する。すなわち、セグメントを送達した際にビームをオフにし、MLCリーフは移動して新しい開口部を形成し、その後にビームをオンにして次のセグメントを送達する。従って本実施形態によれば、ビームがオンの間はMLCリーフは移動しない。ビームから送達される総フルエンスはそのセグメントのフルエンスの合計である。
【0034】
DMLCを用いる動的コリメーションでは、ビームがオンの間にMLCリーフは移動する。典型的には、必ずしもそうではないが、リーフは照射野の一方から他方にスイープする。これにより高度に調整された照射野を得ることができる。リーフが左から右にスイープし、かつ線量率をdで示す場合、右のリーフが所与の点を曝露する時点はRであり、左のリーフがその点を覆う時点はLであり、故にその点から送達されるフルエンスはd(L-R)である。一般に可変線量率の場合、その点からのフルエンスはRからLへの線量率の積分である。RおよびLは大きな制限なしに変更することができるため(リーフに対する制限は最大のリーフ速度および最大で許容される治療時間である)、ほぼあらゆるフルエンスマップを送達することができる。
【0035】
DMLCおよびSMLCの両方を使用する場合、制御点を使用して当該治療計画の詳細を当該マシンに伝える。SMLC治療の場合、同じリーフ位置を有するが異なる累積MUを有する2つの制御点としてセグメントを定める。
【0036】
可変開口部を有する全ての種類の横方向ビーム成形装置の場合、最適化問題制約の中に、強度調整の程度に関して当該計画の複雑性を制限するためにビーム成形装置を2つの連続した制御点の間でどのくらい変えることができるかを含めることが好適であり得る。より高い程度の調整により、セットアップの不確実性に対してより敏感な計画が得られる。またより低い程度の調整により、有利であるより短い治療期間が得られる。MUを制御点の間でどのくらい変えることができるかに関する制約を含めることも可能である。特に低いMUを有する多くのセグメントを有することは、当該計画を相互影響に対して敏感にさせる場合があるので望ましくない。絶対項または相対項の中に最小セグメント面積に対する制約を含めることが可能な場合もある。標的のより大きい部分が各セグメントによって覆われるので、最小セグメント面積に対する高い制限により、より低い調整が得られる。
【0037】
本発明の実施形態によれば、1つのビームの送達中に飛程調整装置9の設定を変えることにより深さの調整を可能にするように、SOBPの形状を最適化することができる。SOBPは複数の個々のブラッグピークから構築される。これらのそれぞれを重みによって制御することができる。個々のブラッグピークの重みを最適化における変数として含める場合、深さの調整は1つのビームの送達中に重みを変えることができるような方法で達成する。横方向調整の場合のように、異なるセグメントのために異なるセットの変数を使用すること、または制御点において変数のセットを変えるのを可能にすることにより、深さの調整を達成してもよい。
【0038】
各ブラッグピークの重みを個々に最適化する代わりに、飛程内のブラッグピークの重みと幅との関係が予め定められているとしても飛程および幅を変えることができるように、各SOBPの飛程および幅を最適化してもよい。重み間の関係は好ましくは、SOBPが飛程と幅との間隔において平坦となるように設定する。これを達成するために、飛程および幅の外側にあるブラッグピークの全ての重みを0に設定することができる間は、SOBPのために予め定められた重みのセットを使用してもよい。この場合、セグメントまたは制御点ごとの飛程および幅の設定により深さの調整が得られる。
【0039】
個々のブラッグピークの重みを自由に変えることができるSOBPの完全な形状の最適化を行う場合には、深さの調整も達成することができる。この場合、SOBPの形状は計画ごと、ビームごと、あるいは上記のとおりセグメントまたは制御点ごとに決定してもよい。
【0040】
SOBPの調整を制限する最適化問題に1つ以上の制約を含めることも可能な場合がある。例えば、SOBPの隣接する重みが互いに異なること、あるいは平坦なSOBPを生じる予め定められた重みとは異なることが許容される程度を制限するために、制約を追加してもよい。
【0041】
当該技術分野で知られているように最適化は、方程式(1):
【数1】
(式中、f(x)は変数xの品質尺度であり、かつXは許容される変数値のセットである)
に示されている一般的な形式を有する最適化問題を解くことを含む。
【0042】
当業者であれば、例えば物理的線量または生物学的モデルに基づく品質を測定する多くの方法を知っている。一例として、f(x)は、
【数2】
(式中、d(x)は変数xの関数としての線量であり、かつgは例えば線量の品質を
【数3】
(式中、
【数4】
はボクセルiのための所望の線量レベルであり、かつw
iはボクセルiの重要度重みである)
として測定する)
であってもよい。
【0043】
当業者であれば知っているように、xに依存するが線量に依存しない関数または例えば、
【数5】
(式中、hは例えばxのための異なる品質尺度、すなわちMLCの形状の平滑度または隣接するセグメント間で飛程および幅を変更するために必要とされる時間である)
として、xおよび線量の両方に依存する関数を検討することも可能である。
【0044】
セットXの例として、x=(r,w)がSOBPの飛程および幅であれば、
【数6】
である。
【0045】
あるいは、x=(l,r)がそれぞれMLCの左および右のリーフの位置であれば、Xは、
【数7】
(式中、mは左のリーフと右のリーフとの間の最小のギャップである)
となり得る。
【0046】
当業者であれば知っているように、多くの可能な制限が存在し、上に記載されているものは例としてのみの役割を果たす。他の可能なパラメータとしては、相互嵌合および最大の先端差が挙げられる。典型的には、xはr,wまたはl,rよりも多くの変数を含み、セグメント重みまたは制御点のMUなどの変数を含む。
【0047】
最適化問題がセットアップされている場合、それは当該技術分野で知られている異なる方法で解くことができる。そのような方法としては、xに対するfの勾配に関する情報を用いてどのようにしてxを変えるべきかを決定する勾配法ならびに焼きなまし法または遺伝的アルゴリズムなどの確率論的方法が挙げられる。
【0048】
上で考察されている最適化はマシンパラメータ最適化であり、ここでは送達システムを制御するパラメータを直接最適化する。典型的には、セグメント、制御点またはSOBPに対して最適化を行うことができる状況に辿り着くために予備計算工程を行う。予備計算工程は、場合により達成できないフルエンスマップに基づく最適化を含む場合が多く、ここでは各ビクセル(bixel)重みを個々に変えることができ、これをその後にマシンパラメータによりセグメントまたは制御点に変換する。ビクセルは、治療計画中に強度分布最適化または線量計算のために強度調整されたビームを細分するために使用される小さい強度要素として定める。
【0049】
フルエンスマップの送達可能なセグメントまたは制御点への変換は、当該技術分野で知られている様々な方法で行うことができる。例えばSMLC技術を用いた送達のために、フルエンスマップを例えば等距離レベルまたはクラスター化を用いて多くのレベルに離散化して、様々な距離を有するレベルを決定することができる。次いで離散化したフルエンスマップの各レベルをマシン制約を満たす多くのセグメントに変換することができる。
【0050】
あるいは列生成法(直接開口最適化と呼ぶ場合もある)を使用することができ、ここではセグメントを繰り返し生成する。各ビームのために、フルエンスマップの勾配を使用してマシン制約を満たすどのセグメント形状が局所的に最も解を向上させるかを計算することができる。次いで、そのセグメントを現在のセグメントのセットに追加し、かつセグメント重みの最適化を行う。
【0051】
DMLC技術を用いた送達の場合、フルエンスマップからマシンパラメータへの変換を典型的には分析的に、あるいは線形プログラミングを用いて行う。次いで各ビクセルの重みにより、右および左のリーフがそれぞれビクセルを横切り始める時間の差を決定する。
【0052】
多くのさらなる特徴を本発明に係るセットアップと組み合わせることができる。標的を移動させるために、横方向ビーム成形装置の調整可能な開口部を使用して標的を追跡することもできる。またロバストな目的関数を治療計画の最適化に追加することができる。ロバスト性は、セットアップ、飛程(CTから密度への変換)、患者の幾何学的形状(臓器の動き)または送達時間構造(相互影響)における不確実性に基づいていてもよい。
【0053】
MLCおよびSOBPに対応している変数によって導入される複数の自由度は多種多様な治療を可能にする。ユーザがオプションを探索するのを可能にするために、パレート面ナビゲーションの形態の多基準最適化(MCO)を使用してもよい。この文脈でのパレート最適化は、Thiekeら「A new concept for interactive radiotherapy planning with multicriteria optimization:First clinical evaluation(多基準最適化を用いた対話型放射線治療計画のための新しい概念:最初の臨床的評価)」,Radiotherapy and Oncology 85(2),292-298,2007」およびCraftら「An approach for practical multiobjective IMRT treatment planning(実用的な多目的IMRT治療計画のための手法)」,International Journal of Radiation Oncology*Biology*Physics, 69(5),1600-1607,2007において考察されている。そのような多基準最適化は、上の全ての手法のために行うことができる。この方法は予め計算された計画の線量分布の加重和を利用することにより機能する。望ましい組み合わせを見つけた場合、送達可能な計画を計算しなければならない。これは典型的には模擬工程で計算し、ここではナビゲートされる線量を複製するために最適化が行われる。得られた計画は常にナビゲートされる線量を正確に複製するわけではない。しかし、いくつかの治療技術は計画を組み合わせるのに大変適しており、劣化させる変換を必要とすることなく直接に送達可能な計画が得られる。これはフォトンDMLCおよびVMATについて記載されている(Craftら「Plan averaging for multicriteria navigation of sliding window IMRT and VMAT(スライディングウィンドウIMRTおよびVMATの多基準ナビゲーションを平均化する計画)」,Medical Physics 41(2),021709,2014)。
【0054】
パッシブ陽子線治療の場合、模擬工程を含むMCOをあらゆる送達技術のために使用することができる。直接送達可能なMCOは以下の設定で使用することができる。
・予め定められたか最適化されたSOBPを含むDMLC。全ての計画は同じ形状のSOBPを有していなければならないが、それらの形状は異なるビームのために異なってもよく、異なる計画は各ビームの重みを個々に調整することができる。
・全ての計画において同じセグメントを有するが各計画(およびさらには各セグメント)は個々のSOBPを有することができるSMLC。単純な変形はブロックと、ビームごとにたった1つのセグメントとを含むがSOBPが異なる計画を有することである。
【0055】
図3は、本発明の方法の工程を定めるフローチャートである。工程S31では、上記のように最適化問題を定める。最適化問題は、前記計画がビームの送達中にビームのフルエンスの調整を含むように、第1のビームの送達中に飛程調整装置の設定および/または開口部要素の設定の変動を可能にするようにセットアップされる。工程S32では、最適化問題を使用して治療計画を最適化する。
【0056】
図4は、本発明の方法を行うことができるコンピュータシステムの概略図である。コンピュータ51は、プロセッサ53、データメモリ54およびプログラムメモリ55を備える。好ましくはキーボード、マウス、ジョイスティック、声認識手段またはあらゆる他の利用可能なユーザ入力手段の形態のユーザ入力手段58も存在する。
【0057】
データメモリは可変設定などの本方法で使用するためのデータを保持するように構成されている。
【0058】
当然のことながらデータメモリ54は概略的にのみ示されている。それぞれが1つ以上の異なる種類のデータを保持するいくつかのデータメモリユニットが存在してもよく、例えば値セットのための1つのデータメモリ、目的関数のための1つのデータメモリなどが存在してもよい。
【0059】
プログラムメモリ55は、本発明の実施形態に従って最適化を行うためにプロセッサを制御するように構成されたコンピュータプログラムを保持する。