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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】臓器モデルの残留応力特徴部
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20230928BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B9/00 Z
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022025584
(22)【出願日】2022-02-22
(62)【分割の表示】P 2018549262の分割
【原出願日】2017-04-25
(65)【公開番号】P2022078132
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】62/327,925
(32)【優先日】2016-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503000978
【氏名又は名称】アプライド メディカル リソーシーズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】ホフステッター グレゴリー ケイ
【審査官】早川 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-532451(JP,A)
【文献】特表2016-510138(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002411(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00-9/56
17/00-19/26
23/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬組織構造体であって、
第1の形状の弛緩状態を有する第1の材料であって、該第1の材料は、延伸状態に置かれるように構成されている第1の材料と、
第2の材料であって、前記第1の材料が前記延伸状態にある間に前記該第1の材料上に被着される第2の材料と、を備え、
前記第1の材料は、弛緩状態に戻るように構成され、前記第1の材料への前記第2の材料の被着が、前記弛緩状態における前記第1の材料の前記第1の形状を異なる第2の形状に変化させる、模擬組織構造体。
【請求項2】
前記第1の材料は、弾性を有する、請求項1に記載の模擬組織構造
【請求項3】
前記第2の材料は未硬化であり、硬化するように構成されている、請求項1に記載の模擬組織構造体。
【請求項4】
前記第2の材料は、予め決められた位置で第1の材料上に被着される、請求項1に記載の模擬組織構造体。
【請求項5】
前記第1の材料上の予め決められた位置が、前記第1の材料に切られた1つ以上の穴に対応する、請求項1に記載の模擬組織構造体。
【請求項6】
前記異なる第2の形状は、前記第2の材料が前記第1の材料上に被着された場所に対応する複数の凹部および凸部からなる、請求項1記載の模擬組織構造
【請求項7】
前記第1の材料が、延伸状態にある間、全方向に均一に延伸される、請求項1記載の模擬組織構造
【請求項8】
延伸状態において、前記第1の材料は一方向にのみ延伸されている、請求項1記載の模擬組織構造体。
【請求項9】
前記第1の材料が、複数の隙間を有するメッシュ層である、請求項1に記載の模擬組織構造体。
【請求項10】
前記第2の材料が、前記第1の材料の複数の隙間内に組み込まれるように、前記第1の材料上に被着される、請求項9に記載の模擬組織構造体。
【請求項11】
前記第1の材料が、第1の延伸方向と第2の延伸方向とを有し、前記第1の材料が、延伸状態にある間に前記第2の延伸方向に比べて前記第1の延伸方向に関してより大きな距離にわたって延伸されるように構成されている、請求項9に記載の模擬組織構造体。
【請求項12】
前記第1の材料が前記延伸状態にある間に前記第1の材料上にも配置される管状血管をさらに備える、請求項1に記載の模擬組織構造体。
【請求項13】
前記管状血管は、前記第1の材料の周囲に螺旋状に配置されている、請求項12に記載の模擬組織構造
【請求項14】
前記第1の材料の前記異なる第2形状が、螺旋状の曲がりくねった形状のものである、請求項12に記載の模擬組織構造体。
【請求項15】
前記第1の材料がパターン付けされている、請求項1に記載の模擬組織構造
【請求項16】
前記異なる第2の形状は、前記第1の材料が延伸状態から弛緩状態に戻るときに、前記第2の材料に力を及ぼすことによって生じる、請求項1に記載の模擬組織構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科用訓練ツール、特に外科的処置又は外科手技を教示するとともに練習させるための模擬組織構造体及び臓器モデル並びにこれらの製作方法に関する。
【0002】
〔関連出願の説明〕
本願は、2016年4月26日に出願された米国特許仮出願第62/327,925号(発明の名称:Residual stress features in organ models)の優先権及び権益主張出願である。
【背景技術】
【0003】
手術に関して高度熟練技能が一般に外科医に必要であり、特に腹腔鏡下外科的処置又は外科的手技を実施するのに必要である。腹腔鏡下手術では、外科用器械及び腹腔鏡を腹腔内に配置するために通す直径約5~10ミリメートルのトロカール又は小径円筒形管の挿入を可能にするよう数個の小さな切開創が腹部に設けられる。腹腔鏡は、術野を照明し、そして拡大イメージを体内からビデオモニタに送り、このビデオモニタは、外科医に臓器及び組織の拡大図を提供する。外科医は、モニタ上のライブビデオフィードを観ながらトロカールを通って配置された外科用器械を操作することによって手術を行う。外科医は、裸眼で臓器及び組織を直接的には観察しないので、三次元観察ではなくモニタ上の二次元イメージによって視覚的情報が得られる。二次元イメージにより三次元環境を表示する際の情報の失われかたは、相当なものである。特に、器械を三次元で操作するためのガイドとして二次元イメージを観察する場合には奥行知覚が低下する。
【0004】
さらに、トロカールは、小さな切開創を通って挿入されて腹壁に当てて配置されるので、器械の操作は、器械に対して支点(てこ支点)の作用を有する腹壁によって制限される。支点作用は、器械を制限された動きに拘束するアンギュレーションの一点を定める。また、1つの直線上の方向における手の動きにより逆方向の先端部の動きが拡大される。器械の動きが逆方向でスクリーン上で観察されるだけでなく、拡大された先端部の動きは、腹壁の上方の器械長さ部分がどれだけかで決まる。このてこの作用は、動きを拡大するだけでなく、ユーザに反映されるツール先端部の力も拡大する。それ故、支点を備えた器械の操作では、意図的な学習と訓練が必要であり、直感的に明らかではない。
【0005】
また、外科用器械がシールを備えたポートを通って配置され、これらシールは、ツールの逆方向によって生じるスティックスリップ摩擦を引き起こす。例えば、スティックスリップ摩擦は、例えば組織に対する引っ張りから押しに急に変化する場合にツールの逆方向から生じる場合がある。かかる運動中、シールのゴム部品がツールシャフトと擦れあい、それにより外科用器械とシールの摩擦又は運動が生じ、その後、摩擦に打ち勝ち、器械は、シールに対して摺動する。シールと器械のインターフェースのところのスティックスリップ摩擦又はオイルキャニング(oil-canning)は、非直線的力を生じさせる。
【0006】
ハンド・アイ協調技能が必要であり、特にビデオモニタ上での観察により手の動きとツール先端部の動きと相関させることによりかかる技能を練習しなければならない。また、腹腔鏡下手術では、ツールを触ってこれを介して受け取る感覚が低下する。触覚が減少し又は歪められるので、外科医は、熟練した腹腔鏡下手術の根底をなす1組の核となる触覚技能を開発しなければならない。これら技能の全ての獲得は、腹腔鏡下訓練における主要な課題のうちの1つであり、本発明の目的は、腹腔鏡下技能の訓練及び技術の性能のためのシステム及び方法を向上させることにある。
【0007】
新米医師が腹腔鏡下技能を学習しなければならないだけでなく、熟練腹腔鏡外科医は、古くなった技能を磨くとともに新たに導入された外科的処置に特有の新たな手術法を学びかつ練習しようと努める。手術室での訓練を習得することができるが、好ましくは手術室の外での迅速かつ効果的な訓練法を工夫する関心が高まった。手術室の外での適度なレベルの技能を達成した外科医は、かかる外科医が手術室に入ったときに良好に準備され、それにより有益な手術室での経験をかくして最適化することができ、患者に対する危険性が低くなるとともにコストが減少する。外科医に手術室の外での基本的な外科的技能を熟知させるため、種々のシミュレータ(模擬訓練装置)が案出されて試験された。外科的シミュレータの一例は、カリフォルニア州所在のアプライド・メディカル・リソーシーズ・コーポレーション(Applied Medical Resources Corporation)によって製造され、そして米国特許第8,764,452号明細書に記載されたSIMSEI(登録商標)腹腔鏡訓練装置であり、この米国特許を参照により引用し、その記載内容全体を本明細書の一部とする。SIMSEI(登録商標)腹腔鏡訓練装置は、ユーザによる直接観察からは隠された模擬腹腔内の三次元の生きている又は偽の臓器を採用する。
【0008】
腹腔鏡シミュレータ内における生きているヒト又は動物の臓器を用いることは、内部臓器に関して鮮度を必要とする。また、生きている臓器は、訓練生を細菌などによる感染から保護するよう衛生設備を構築することを必要とする。外科手術の訓練を実施した後に用いられる器械の衛生管理及び滅菌のために追加のコストもまた必要である。また、使用済みの生きている臓器を適正に処分しなければならない。さらに、生きている臓器の臭いが鼻につく場合があり、技術及び技能への訓練生の集中力を削ぐ場合がある。したがって、生きている臓器及び組織を模倣した人工臓器及び組織が望ましく、したがって、外科用訓練において生きている臓器に取って代わることができる。
【0009】
多くの人工臓器が外科用訓練において生きているヒト又は動物の臓器に代えて用いられている。典型的には、これら人工臓器モデルは、シリコーン、ウレタンエラストマー、スチレンエラストマーなどで作られている。これら人工臓器は、例えば切開され、操作され又は縫合されたときに適正に応答しなければならず、しかも実際の手術と同じフィーリング及び触覚上の特性を提供しなければならない。しかしながら、多くの人工臓器は、人工臓器と本物の臓器のギャップを橋渡しするのに必要なある特定の特性及びリアリズムを欠いている。さらに、リアリズムの程度は、腹腔鏡下技能の訓練に特有の技能を教示する手段を提供することを目標にする必要がある。したがって、ある特定のリアリズムが開放式手術環境と比較したときに腹腔鏡下環境においてより重要な場合がある。したがって、人工臓器及び組織及び特に腹腔鏡下技能の訓練のために標的とされ、また非腹腔鏡下技能の訓練のためにも使用できる人工臓器及び組織が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第8764452号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明の一観点によれば、模擬組織構造体を製作する方法が提供される。本方法は、第1の端部、第2の端部、長手方向軸線及び外径を備えたマンドレルを用意するステップを含む。本方法は、中央孔を有する少なくとも1つの弾性リングを用意するステップを含む。少なくとも1つの弾性リングは、マンドレルの外径よりも小さな弛緩直径を有する。本方法は、少なくとも1つの弾性リングを長手方向軸線に対して横方向にマンドレル上に延伸してマンドレルが中央孔内に位置するとともに少なくとも1つのリングがマンドレルの外周部周りに拡張される位置に至らせるステップを含む。本方法は、未硬化シリコーンの層をマンドレル及び少なくとも1つの延伸された弾性リングに被着させるステップを含む。本方法は、層を硬化させてこの層を弾性リングが拡張されている間に弾性リングにくっつけるステップを含む。本方法は、層を硬化させるステップの実施後、層及び弾性リングを取り外すステップを含む。本方法は、弾性リングがその弛緩直径に向かって戻ることができるようにするステップを含む。
【0012】
本発明の別の観点によれば、模擬組織構造体を製作する方法が提供される。本方法は、少なくとも1つの弾性ストリップを用意するステップを含む。弾性ストリップは、長さ及び幅を有し、弛緩長さが幅よりも長い。本方法は、弾性ストリップを延伸してその長さを伸長させるステップを含む。本方法は、弾性ストリップが伸長されている間に未硬化シリコーンの層を弾性ストリップに被着させるステップを含む。本方法は、層を硬化させて層を延伸された弾性ストリップにくっつけるステップを含む。本方法は、層を硬化させるステップの実施後、弾性ストリップを延伸されるとともに伸長されている状態から解除するステップを含む。
【0013】
本発明の別の観点によれば、模擬組織構造体を製作する方法が提供される。本方法は、少なくとも1つの弾性シートを用意するステップを含む。シートは、長手方向軸線に沿って長さを有するとともに横方向軸線に沿って幅を有しかつ上面と下面との間に定められた厚さを有する。本方法は、弾性シートを延伸するステップを含む。本方法は、未硬化シリコーンの層を弾性シートに延伸中に被着させるステップを含む。本方法は、層を硬化させてこの層を延伸後の弾性ストリップにくっつけるステップを含む。本方法は、層を硬化させるステップの実施後、延伸後弾性ストリップを弛緩させるステップを含む。
【0014】
本発明の別の観点によれば、模擬組織構造体を製作する方法が提供される。本方法は、非延伸幅及び非延伸長さを備えた弛緩状態を有する弾性の第1の材料を用意するステップを含む。本方法は、第1の材料を延伸するステップを含む。本方法は、第2の材料を用意するステップを含む。本方法は、第1の材料が延伸されている間及び第1の材料と第2の材料が第1の形状に保持されている間に第2の材料を第1の材料にくっつけるステップを含む。本方法は、第1の材料が弛緩長さに向かって戻って第1の形状とは異なる第2の形状を備えた模擬組織構造体を形成することができるようにするステップを含む。
【0015】
本発明の別の観点によれば、模擬組織構造体が提供される。模擬組織構造体は、長手方向軸線に沿って長さを備えるとともに横方向軸線に沿って幅を備えた弾性材料の第1の層を有する。模擬組織構造体は、第1の層に連結された弾性材料の第2の層を有し、第1の層は、第1の形状にあるときに長手方向軸線及び横方向軸線のうちの少なくとも一方に沿って圧縮力を第2の層に及ぼす。圧縮力は、第1の層及び第2の層を第2の層と平衡状態にある圧縮力によって定められる第2の形状に動かし、第2の形状は、解剖学的形状である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のマンドレル及び複数の非延伸状態のシリコーンリングの上から見た斜視図である。
図2】本発明に従ってマンドレル周りに延伸された複数のシリコーンリングの上から見た斜視図である。
図3】本発明に従ってマンドレル周りに延伸されるとともにシリコーン層と重ね合わされた複数のシリコーンリングの上から見た斜視図である。
図4】本発明の模擬組織構造体の上から見た斜視図である。
図5】本発明のマンドレル及び非延伸状態のシリコーンリングの上から見た斜視図である。
図6】本発明に従ってマンドレルの一端部周りに延伸されたシリコーンリングの上から見た斜視図である。
図7】本発明に従ってマンドレル周りに延伸されるとともにシリコーン層と重ね合わされたシリコーンリングの上から見た斜視図である。
図8】本発明の模擬組織構造体の上から見た斜視図である。
図9】本発明に従ってモールドに隣接して位置する非延伸状態のシリコーンリングの上から見た斜視図である。
図10】本発明に従ってモールドにクリップ留めされた延伸後のシリコーンストリップの上から見た斜視図である。
図11】本発明に従ってモールドにクリップ留めされるとともにシリコーン層と重ね合わされた延伸後のシリコーンストリップの上から見た斜視図である。
図12】本発明の模擬組織構造体の上から見た斜視図である。
図13】本発明のマンドレル、複数の非延伸状態のシリコーンリング及び非延伸状態のシリコーンストリップの上から見た斜視図である。
図14】本発明に従ってマンドレル周りに延伸された複数のシリコーンリング及びマンドレルの横付けに延伸されるとともにシリコーン層と重ね合わされたストリップの上から見た斜視図である。
図15】本発明の模擬組織構造体の上から見た斜視図である。
図16】本発明のマンドレル及び非延伸状態のパターン付けシートの上から見た斜視図である。
図17】本発明のマンドレル及び延伸後のパターン付けシートの上から見た斜視図である。
図18】本発明に従って延伸後のパターン付けされたシートによって部分的に巻かれたマンドレルの上から見た斜視図である。
図19】本発明に従ってシリコーン層と重ね合わされた延伸後のパターン付けされたシートによって巻かれたマンドレルの上から見た斜視図である。
図20】本発明の模擬組織構造体の上から見た斜視図である。
図21】本発明に従ってシリコーン層と重ね合わされた弾性材料のストリップの上から見た斜視図である。
図22】本発明に従って矢印の方向に延伸されている間に弾性材料のストリップ上に螺旋状に配置された細長い血管の上から見た斜視図である。
図23】本発明に従って平衡状態にある図22の模擬組織構造体の上から見た斜視図である。
図24】本発明に従って弛緩状態にある穴を備えた弾性材料のシートの平面図である。
図25】本発明に従って延伸状態にあるシートの平面図であり、シートが延伸されている間にシートがこのシートに硬化されて被着されたシリコーン層で覆われた穴を備えている状態を示す図である。
図26】本発明に従って平衡非延伸状態にある図25の模擬組織構造体の上から見た斜視図である。
図27】本発明に従って延伸状態にあるシートの平面図であり、シートが矢印の方向に延伸されている間にシリコーン層が硬化されてシートに被着されている状態を示す図である。
図28】本発明の平衡非延伸状態にある図25の模擬組織構造体の上から見た斜視図である。
図29】本発明のメッシュ材料の層の平面図である。
図30】本発明に従って矢印の方向に間隔を置いた状態で延伸されたメッシュ材料の複数のストリップ及び硬化してこれらストリップに被着されたシリコーン層の平面図である。
図31】本発明の模擬組織構造体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の説明は、当業者が外科用ツールを製作して使用するとともに本明細書において説明した方法を実施することができるようにするために提供されており、かかる説明は、本発明者の発明を実施する本発明者によって想定される最適態様を記載している。しかしながら、種々の改造は、当業者には明らかなままである。これら改造例は、本発明の範囲に含まれることが想定されている。かかる実施形態の種々の実施形態又は観点が種々の図に示されるとともに明細書全体にわたって説明されている。しかしながら、注目されるべきこととして、別々に図示され又は説明されているが、各実施形態及びその観点は、別段の明示の指定がなければ、他の実施形態及びこれらの観点のうちの1つ又は2つ以上と組み合わせ可能である。各組み合わせが明示的に記載されていないことは、明細書を読みやすくするために過ぎない。
【0018】
人体内には、収縮することができる弁があり、組織平面が一体となるとともにテーパし、あるいは組織平面がこれらの通常の状態では引張り状態にあるような多数の解剖学的例が存在する。加うるに、人体内には、ある特定の方向に優先的に延伸する解剖学的構造が存在し、またそうではない解剖学的構造体が存在する。これら例の全ては、現行の製造技術を用いて臓器モデルを作成している間に模倣するのが困難である。
【0019】
本発明によれば、かかる模擬組織構造体10を製造するプロセスは、一般に、あらかじめ製作されたシリコーン片又はシートを用意するステップを含む。シリコーン片を延伸して延伸形態で定位置に保持する。シートを延伸している間に未硬化シリコーン液体を延伸後のシリコーン片に塗布して硬化させ、それにより層を形成する。湿潤状態のシリコーンの硬化を終わらせると、完成品をモールド又はマンドレルから取り外す。あらかじめ製作された延伸状態のシリコーンが弛緩し、上述の層を含む最終のシリコーンの物体の形状を変えるその非延伸形態に向かう傾向がある。変形形態では、弾性メッシュの片又はシートをあらかじめ製作されたシリコーン片又はシートに代えて採用し、未硬化シリコーンを延伸後の弾性メッシュ片に塗布し、そして硬化させて層を形成する。メッシュを用いる場合、模擬組織構造体の最終形状は、湿潤シリコーンがメッシュの隙間を満たしてレトラクション度を減少させるので、延伸後のシリコーンと比較して劇的な変化度が小さい。しかしながら、結果として最終模擬組織構造体をもたらす延伸特性は、有利には、別の方向への完全延伸を可能にしながら一方向における延伸を制限するよう個別調整できる。さらに別の形態では、未硬化シリコーンの延伸後のシリコーン片又は延伸後のメッシュ片に塗布する代わりに、休止状態にありかつ延伸されていない硬化後のシリコーン片を定位置に位置させた状態で延伸後片に接着する。
【0020】
特に図1図4を参照すると、この方法の一形態では、シリコーンリング型バンド12を円柱状マンドレル14上に嵌める。あらかじめ製作されたシリコーン型バンド12及びマンドレル14を図1に示すように用意する。マンドレル14は、バンド12の休止状態の応力を受けていない直径よりも大きい外径を有する。マンドレル14をマンドレル回転装置内に配置する前に、多数のあらかじめ製作された硬化後のシリコーンバンド12をマンドレル14上に延伸して図2に示されているように長さに沿って均等に離す。次に、マンドレル14が回転している間に未硬化シリコーンの層16をマンドレル14上にかつあらかじめ製作された延伸シリコーンリング12上に塗布する。シリコーン層16を硬化させる。その後、模擬組織構造体10をマンドレル14から取り外す。多数のバンド12をマンドレル14上で延伸、次に硬化シリコーン層16と一緒にマンドレルから取り外すと、バンド12は、これらの通常の縮小休止形状及び直径に戻ろうとする。外側層16を硬化させてバンド12に被着させてこれらを相互連結して図4に示されているように一体構造体10にする。結果的に得られる一体形の模擬組織構造体10は、図4に示されているようにバンド12の同一の場所において減少直径の複数の場所18を有する。模擬組織構造体10は、形状が実質的に円筒形であり、中央ルーメンが長手方向軸線に沿って近位端のところの開口部と遠位端のところの開口部との間に延びている。模擬組織構造体10は、減少直径場所18では、マンドレル14から取り外されると、本物の結腸の見た目及び感触を模倣した起伏のあるシリコーン管を形成する。このようにこの方法は、例えば結腸内に模擬ヒューストン弁を作るために使用できる。
【0021】
この方法の別の形態では、模擬手術の実施のために通す模擬生まれつき口20を有する模擬組織構造体10を作る。例えば、模擬生まれつき口20、例えば模擬肛門を製作するため、あらかじめ製作されたシリコーンリング型バンド12及びマンドレル14を図5に示すように用意する。マンドレル14は、模擬生まれつき口20が形成されることが望ましいマンドレル14に沿う所望の場所にバンド12の非延伸状態の休止内径よりも大きな外径を有する。バンド12をマンドレルのその所望の場所周りに、この場合、図6に示すようにマンドレル14の一端部周りに延伸し、そして湿潤状態のシリコーンの層16を図7に示すようにマンドレル14及びバンド12に塗布する。シリコーン層16を硬化させ、次にこの構造体をマンドレル14から取り外す。層16が硬化して延伸状態の硬化シリコーンバンド12に被着した結果として、バンド12のその場所、すなわちあらかじめ製作されたシリコーンバンド12の端部は、その通常の非延伸直径に戻ろうとし、それにより図8に示されているような硬化後のシリコーンの周りの外側層16と比較して模擬組織構造体10の減少直径の面状場所18を作る。この方法の変形例では、減少直径を有する成形された収縮端部を次に再び、この場合、経肛門アダプタモールド(図示せず)に設けられている中央ペグ上で延伸するのが良い。次に、シリコーンをモールド内に注ぎ込むことによって別のシリコーン層を延伸状態の端部に塗布し、そしてバンド及び第1の層にくっつくようにする。いったん硬化すると、あらかじめ延伸された状態の構造体をペグから取り外し、バンドは、再び収縮して、その元のサイズに戻る。
【0022】
この方法の別の形態では、休止長さxを有する硬化済みシリコーンのストリップ22を図9に示すように用意する。シリコーンストリップ22を長さyまで延伸し、そして図10に示されているように長さxよりも大きな長さyの状態で定位置に保持する。ストリップ22を図10に示すように何らかの手段、例えばクリップ26によってモールド24に、又は例えばマンドレル14に取り付ける。湿潤状態の未硬化シリコーンの層16を図11に示すように延伸状態のストリップ22上にかつこの周りに被着させる。未硬化層シリコーン16を硬化させる。この構造体をモールド24又はマンドレル14から取り外すことにより、必然的にストリップ22を延伸状態に保っている力が除かれる。その結果、ストリップ22は、その通常の弛緩長さxに向かって戻ろうとし、このストリップは、動いてこの周りの硬化シリコーン層16を収縮させ、それにより図12に示すようにストリップ22周りにしわを作るとともに束ねる。加工片をモールド又はマンドレルから取り外すと、延伸状態のストリップは、弛緩し、図12に示すように新たな今や硬化済みのシリコーン層16を束ねる。
【0023】
次に図13図15を参照すると、1つ又は2つ以上の方法の組み合わせを採用することができる。例えば、バンド12をストリップ22と一緒にマンドレル14上に採用することができる。1つ又は2つ以上のバンド12、マンドレル14及び少なくとも1つのストリップ22を図13に示すように用意する。バンド12は、マンドレル14の外径よりも小さな休止内径を有する。ストリップ22は、休止長さxを有し、このストリップを長さyまで延伸し、そして図14に示すようにマンドレル14に沿って定位置に保持する。円形のフープ状バンド12を図14に示すように延伸してストリップ22及びマンドレルに嵌める。変形例として、バンド12を延伸してストリップ22とマンドレル14との間に配置する。未硬化湿潤シリコーンの外側層16を図14に示すように1つ又は2つ以上のバンド12及び1つ又は2つ以上のストリップ22にかつマンドレル14上に塗布して硬化させる。外側層が硬化を終了すると、この製作物をマンドレル14から取り外し、すると、結果として得られた模擬組織構造体10が図15に示されている。図15で理解できるように、硬化製作物を取り外すと、バンド12は、これらの休止した通常の直径/形態に戻ろうとし、硬化済みシリコーン層16を内方に引いて谷部を備えた管状構造体又はリング12の場所に減少半径方向寸法を備えた管状構造を形成する。また、延伸後のストリップ22は、その通常の休止寸法に戻るととともに短くなろうとし、それにより硬化済みシリコーン層16をストリップ22の長さに沿って収縮状態にし、それにより幾つかの場合には、図14に示すように、結果として得られた組織構造体10にストリップ22の側部で外側層16に窪みを有する自然な曲率を与える。
【0024】
次に図16図20を参照すると、パターン付けされたストリップ22がマンドレル14上に採用された模擬組織構造体10を製作する別の形態が示されている。パターン付けストリップ22は、所望のパターン/形態に切断された硬化後シリコーン及び/又はメッシュ材料の片である。メッシュは、採用される場合、延伸可能なメッシュである。図16図20に示されている形態では、パターン付けされたストリップ22は、横方向ストリップと交差した長手方向スパインを備えたH状の形が繰り返したままである。パターン付けストリップ22を図17の矢印の方向にマンドレル14に沿って長手方向に延伸する。パターン付けストリップ22を図18に示すように延伸されている間にマンドレル14に巻き付け、そして接着剤又は他の締結具によってマンドレル14上の定位置にくっつける。次に、未硬化シリコーン層16を延伸されたパターン付けストリップ22及びマンドレル14に被着させ、そして硬化させる。層16を硬化させると、製作物をマンドレル14から取り外す。硬化層16をパターン付けストリップ22に結合し、延伸されたパターン付けストリップ22及び/又はメッシュは、自然に弛緩して延伸状態の平衡形態に戻り、その結果、図20に示された独特のルーメン付き模擬組織構造体10がパターン付けストリップ22によって与えられた方向性曲率を有し、球状部分が横方向ストリップ相互間に形成され、開口部が横方向ストリップ相互間の空間によって形成される。
【0025】
次に図21図23を参照すると、模擬組織構造体10を形成する別の形態が示されている。硬化済みシリコーンの薄いストリップ22を図21の矢印で示すようにその長手方向軸線に沿って延伸する。延伸位置では、未硬化シリコーンの薄い層16を延伸されたストリップ22の表面に被着させる。層16が依然として湿潤状態にある間にシリコーンで作られた中実又は中空管状血管28を延伸状態のストリップ22上に配置する。一形態では、血管28を図22に示すように延伸状態のストリップ22周りに螺旋状に配置する。血管28を張力を加えないで血管28内に巻き付け、シリコーンの湿潤層16を硬化させて血管28にくっつける。硬化すると、最終の模擬組織構造体10は、図23に示された螺旋状の曲がりくねった血管である。
【0026】
次に図24図26を参照すると、模擬組織構造体10を形成する別の形態が示されている。シリコーンのあらかじめ製作されたシート30を用意する。穴32を図24に示すようにシート30から切り抜く。穴を備えたシート30を図25の矢印で示すように一様に延伸する。穴32は、任意的なサイズ及び形状のものであって良い。未硬化シリコーン層16を延伸状態の穴32上に覆って被着させ、そして図25に示すように硬化させる。変形例として、延伸状態の穴32よりも僅かに大きくかつ相補形状を有するあらかじめ製作された硬化済みシリコーンパッチ36を図25に示すように延伸状態の穴32上の定位置に接着する。両方の場合、シート30を剥離してステージングプラットホームから取り外すと、シート30は、非延伸状態の平衡位置に戻り、そして今や、別の扁平なシート30に硬化シリコーン層16によって形成されたドーム特徴部を有する。層16のドーム状特徴部は、図26に示すように弛緩状態の扁平なシート30から上方に延びる。
【0027】
次に図27及び図28を参照すると、別の形態では、扁平で硬化済みのシリコーンシート30には穴が設けられていない。穴のないシート30は、図27の矢印の方向に一様に引き伸ばされ、未硬化シリコーン層16がシート30の1つ又は2つ以上の領域に被着されている。湿潤状態のシリコーンを塗布して硬化させたシート30上の領域は、丸くなって新たに追加されたシリコーン層16から遠ざかっており、すなわち、被着されたシリコーン層16の領域では、新たに塗布されたシリコーンの層16を有する構造体の側部は、凸状であり、延伸されたシート30の側部は、凹状である。この技術は、特に薄膜状の層が他の構造体につながる領域に模擬解剖学的構造を作るために用いられる他の点において扁平なシートの形状を個別調整する上で有用である。
【0028】
図29図31を参照すると、本発明の模擬組織構造体10を形成する別の形態が示されている。上述したように、メッシュが採用されて延伸されるとともに未硬化シリコーン層が延伸されたメッシュに被着される場合、湿潤状態のシリコーンは、メッシュの隙間に入り、メッシュ対応のレトラクションに起因して生じる模擬組織構造体10の品質は、非多孔性の材料に対して顕著さが少ない。しかしながら、メッシュを利用した模擬組織構造体10は、有利な触覚的特性を提供する。メッシュ層38を用意し、そしてメッシュ層38を一方向にのみその弾性限度まで延伸する一方でメッシュ層38を他の方向において弛緩状態にしたままにすると、別の方向と比較して一方向に優先的に伸びる摸擬解剖学的構造体を形成することができる。未硬化シリコーン層16の被着前にメッシュ層38を一方向に延伸することを特徴とする模擬組織構造体へのメッシュ層38のこの用途を用いると、優先的に伸びるシート又は曲がるに足るほど可撓性を有するが容易には伸びない他の摸擬解剖学的構造体、例えば摸擬腱を製作することができる。この別の例は、メッシュのストリップを摸擬腸の側壁中に組み込んで摸擬腸を吹送すると、摸擬腸は、円周方向に拡張するが、長手方向には拡張しない。メッシュ材料は、グループ分けされ又はグループ分けされていない相互に係止しているフィラメントの織り合わされ又は絡み合わされた編組体又はネットワークであり、それにより小さな実質的に一様な窓/隙間を備えた開放テクスチャ構造体を形成する。フィラメント状要素の2つの交差した系が織り交ぜられて1つの系の各フィラメント状要素が他の系のフィラメント状要素の上部に交互に案内されるようにメッシュの編組体が形成されている。編組体のかかるパターンは、平織りと呼ばれている。特定単位長さ内の交差部の数は、ウィーブの密度を定め、交差部が多いと、それによりウィーブをより緊密にするとともに窓のサイズが小さくなる。ウィーブの配置及び密度のために、メッシュ材料は、バンドが互いに上下にかつ互いに対して滑ることができるのでメッシュ材料は、横方向軸線に沿って延びることができ、それにより窓のサイズを大きくする。横方向に延伸されたときにメッシュの幅が広がることにより、メッシュの長さは減少する。メッシュ材料はまた、メッシュの長手方向軸線に沿って延びることができる。長手方向に延伸されたときのメッシュの長さが長くなることにより、メッシュ層の幅が減少する。メッシュ材料は、ウィーブの形状及び方向に応じて優勢な又は一次的な延伸方向を有することができ、この場合、メッシュ材料は、一次的延伸方向に全体として垂直な劣勢な又は二次的な延伸方向に対して長い距離伸びる。図29は、一次的で優勢な延伸方向40及び二次的で劣勢な延伸方向42を有するウィーブを形成する複数のフィラメントを有するメッシュ材料のシート38を示している。メッシュシート38は、ストリップ44の状態に切断されるのが良い。ストリップ44を互いに間隔を置いて配置し、次に二次的延伸方向42の方向に延伸して二次的延伸方向42において最大の伸び率にする。メッシュストリップ44を最大伸び率の状態に維持し、未硬化シリコーン層16を図30に示すようにメッシュストリップ44に被着される。メッシュストリップ44が延伸された状態のままである間にシリコーン層16を硬化させる。シリコーン層16が硬化した後、メッシュストリップ44及びシリコーン層16を所望どおりにトリムする。図29図31を参照すると、ストリップ44を解除すると、その結果得られる模擬組織構造体10は、一次的で優勢な延伸方向42において延伸性が極めて高く、また、構造体10の最終形状に対する取るに足りないほどの小規模な効果を有する二次的で劣勢な延伸方向における延伸に抵抗するが、触覚品質、例えば延伸に対する大規模な作用効果を有する。
【0029】
上述した方法は、未硬化シリコーンをあらかじめ製作されるとともに延伸されたシリコーン又はメッシュ材料を注意深く組み合わせることを含み、その結果、摸擬解剖学的構造の生きているような感じと外観が得られる。結果としての摸擬組織構造体により得られる作用効果の度合いは、あらかじめ製作された延伸状態のシリコーン片と用いられている湿潤状態のシリコーンの両方の厚さ及びジュロメータを変えることによって制御できる。硬化後のシリコーンと用いられている湿潤状態のシリコーンとの厚さ及びジュロメータの差が大きければ大きいほど、結果として得られる模擬組織構造体に対する作用効果がそれだけ一層大きくなるとともに一層劇的になる。
【0030】
これら技術の全ては、残留応力を摸擬解剖学的構造体中に意図的に組み込むやり方である。残留応力を有する構造体を含む人体には多くの例が存在し、これら技術の目的は、これら本物の組織構造体を見た目、感じ及び製造性の面で真似ることにある。
【0031】
現在、成形の複雑さを軽減するために数個の片の状態で多くの臓器構造体が作られている。次に、所望の湾曲した形状を得るためにこれらの片を互いに接着する。有利には、本発明に従って残留応力を生じさせるためにあらかじめ延伸された片を使用することにより、複雑さの少ないモールドを用いることができる。加うるに、湾曲した摸擬腸を作るため、真っ直ぐな管に現在「よじり」を加えており、その目的は、所望の経路を得ることにある。有利には、本発明の残留応力は、よじれにより管を潰すことなくより現実的な曲線を作ることを助けることができ、更に容易な脱型を可能にする。
【0032】
本明細書において開示した実施形態に対する種々の改造を行うことができることは言うまでもない。したがって、上述の説明は、本発明を限定するものと解されてはならず、単に好ましい実施形態の例示として解されるべきである。当業者であれば、本発明の範囲及び精神に含まれる他の改造を想定するであろう。
図1
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