(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】パターン形成方法および焼成装置
(51)【国際特許分類】
H05K 3/12 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
H05K3/12 610D
(21)【出願番号】P 2022061740
(22)【出願日】2022-04-01
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2021116236
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000184735
【氏名又は名称】株式会社小森コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】大島 眞吾
(72)【発明者】
【氏名】池田 英樹
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-119915(JP,A)
【文献】国際公開第2020/212347(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/076603(WO,A2)
【文献】特開2011-174036(JP,A)
【文献】特開2021-91142(JP,A)
【文献】特開2015-184141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位体積当たりの熱容量が3000[kJ/m
3・K]以上、かつ、熱伝導率が45[W/m・K]以上の金属から構成された固定板の上に、導電性ペーストによるペーストパターンが形成された樹脂基板を固定し、
前記固定板に固定された前記樹脂基板に形成された前記ペーストパターンに近赤外線を照射して前記ペーストパターンを焼成し、前記樹脂基板の上に導電性パターンを形成する
パターン形成方法。
【請求項2】
請求項1記載のパターン形成方法において、
前記近赤外線は、ピーク波長域が0.8~1.7μmとされていることを特徴とするパターン形成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のパターン形成方法において、
前記樹脂基板は、固定機構により前記固定板に固定することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項4】
請求項3記載のパターン形成方法において、
前記固定機構は、前記樹脂基板を前記固定板に固定する粘着層であることを特徴とするパターン形成方法。
【請求項5】
単位体積当たりの熱容量が3000[kJ/m
3・K]以上、かつ、熱伝導率が45[W/m・K]以上の金属から構成された固定板と、
前記固定板の上に固定された導電性ペーストによるペーストパターンが形成された樹脂基板の前記ペーストパターンに近赤外線を照射する光源と
を備える焼成装置。
【請求項6】
請求項5記載の焼成装置において、
前記近赤外線は、ピーク波長域が0.8~1.7μmとされていることを特徴とする焼成装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の焼成装置において、
前記樹脂基板を前記固定板に固定する固定機構を備えることを特徴とする焼成装置。
【請求項8】
請求項7記載の焼成装置において、
前記固定機構は、粘着層から構成されていることを特徴とする焼成装置。
【請求項9】
請求項1記載のパターン形成方法において、
前記固定板に熱を伝導拡散させて前記樹脂基板におけるダメージの発生を防止して前記樹脂基板の上に前記導電性パターンを形成するパターン形成方法。
【請求項10】
請求項5記載の焼成装置において、
前記固定板は、熱を伝導して拡散させて前記樹脂基板におけるダメージの発生を防止する焼成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン形成方法および焼成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板などのプリンテッドエレクトロニクスの分野において、樹脂基板に対する配線の形成について広く研究され、例えば、スクリーン印刷などにより配線パターンを形成する技術が開発されている。この種の配線基板の製造では、パターンの形成、加熱(焼成)などの工程がある。この種の加熱は、一般に、赤外線などによるランプアニールが主流となっている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現在、フレキシブル基板を用いたプリント配線基板が数多く用いられている。この種のフレキシブル基板の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)といった樹脂が用いられるようになっている。この種の材料は、耐熱性が低いため、従来の赤外線照射による加熱では、照射強度を高くすることができない。照射強度を高くして焼成を実施すると、樹脂基板が変形し、また、形成しているパターンの剥がれるなどの問題がある。このため、従来の技術では、低い照射強度で処理をするため、焼成の工程に多くの時間を要するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、耐熱性が低い樹脂による基板が用いられていても、導電性ペーストの焼成がより短時間で実施できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るパターン形成方法は、単位体積当たりの熱容量が3000[kJ/m3・K]以上、かつ、熱伝導率が45[W/m・K]以上の金属から構成された固定板の上に、導電性ペーストによるペーストパターンが形成された樹脂基板を固定し、固定板に固定された樹脂基板に形成されたペーストパターンに近赤外線を照射してペーストパターンを焼成し、樹脂基板の上に導電性パターンを形成する。
【0007】
上記パターン形成方法の一構成例において、近赤外線は、ピーク波長域が0.8~1.7μmとされている。
【0008】
上記パターン形成方法の一構成例において、樹脂基板は、固定機構により固定板に固定する。
【0009】
上記パターン形成方法の一構成例において、固定機構は、樹脂基板を固定板に固定する粘着層である。
【0010】
本発明に係る焼成装置は、単位体積当たりの熱容量が3000[kJ/m3・K]以上、かつ、熱伝導率が45[W/m・K]以上の金属から構成された固定板と、固定板の上に固定された導電性ペーストによるペーストパターンが形成された樹脂基板のペーストパターンに近赤外線を照射する光源とを備える。
【0011】
上記焼成装置の一構成例において、近赤外線は、ピーク波長域が0.8~1.7μmとされている。
【0012】
上記焼成装置の一構成例において、樹脂基板を固定板に固定する固定機構を備える。
【0013】
上記焼成装置の一構成例において、焼成装置において、固定機構は、粘着層から構成されている。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、単位体積当たりの熱容量が3000[kJ/m3・K]以上、かつ、熱伝導率が45[W/m・K]以上の金属から構成された固定板の上で、近赤外線を照射して焼成を実施するので、耐熱性が低い樹脂による基板が用いられていても、導電性ペーストの焼成がより短時間で実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る焼成装置の構成を示す構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係るパターン形成方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る焼成装置について
図1を参照して説明する。この焼成装置は、固定板101および光源102を備える。
【0017】
固定板101は、単位体積当たりの熱容量が3000[kJ/m3・K]以上、かつ、熱伝導率が45[W/m・K]以上の金属から構成されている。単位体積当たりの熱容量[kJ/m3・K]は、物体の固有物性値である比熱[kJ/kg・K]×密度[kg/m3]により求めることができる。固定板101は、例えば、板厚を0.3mm以上とすることができる。固定板101は、例えば、銅から構成することができる。また、固定板101は、銅の組成を84~96%とした丹銅から構成することができる。また、固定板101は、銅の組成を59~71.5%とした黄銅から構成することができる。また、固定板101は、アルミニウム青銅から構成することができる。また、固定板101は、タングステン鋼から構成することができる。また、固定板101は、圧延鋼板から構成することができる。
【0018】
光源102は、固定板101の上に固定された導電性ペーストによるペーストパターン112が形成された樹脂基板111のペーストパターン112に近赤外線を照射する。近赤外線は、ピーク波長域が0.8~1.7μmとされている。また、光源102は、固定板101の上に、図示しない支持部により指示されている。光源102は、樹脂基板111の表面から、おおよそ100mm離れた箇所に配置することができる。光源102は、例えば、複数の近赤外線ランプから構成することができる。光源102は、例えば、アドフォス(Adphos)社製、NIRシリーズを利用することができる。
【0019】
また、この焼成装置は、樹脂基板111を固定板101に固定する固定機構113を備えることができる。固定機構113は、例えば、粘着性を有する物質から構成された粘着層から構成することができる。固定機構113は、例えば、ゲル状の粘着物質を塗布することで形成された粘着層や、粘着性を有するエラストマーのシートなどから構成することができる。
【0020】
次に、本発明の実施の形態に係るパターン形成方法について、
図2を参照して説明する。以下では、上述した焼成装置を用いたパターン形成方法について例示する。
【0021】
まず、第1工程S101で、単位体積当たりの熱容量が3000[kJ/m3・K]以上、かつ、熱伝導率が45[W/m・K]以上の金属から構成された固定板101の上に、導電性ペーストによるペーストパターン112が形成された樹脂基板111を固定する。また、樹脂基板111は、固定機構113により固定板101に固定することができる。固定機構113は、樹脂基板111を固定板101に固定する粘着層とすることができる。
【0022】
樹脂基板111は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド(PI)などの樹脂から構成されたものである。樹脂基板111は、例えば、厚さ30μm~10mmのシート状とされている。
【0023】
導電性ペーストは、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、錫などの金属微粒子や導電性のカーボン微粒子を、樹脂バインダに分散させたものとすることができる。導電性ペーストは、例えば、藤倉化成株式会社製のナノ銀ペーストである。ペーストパターン112は、例えば、よく知られたスクリーン印刷法により形成することができる。また、ペーストパターン112は、インクジェット法により形成することができる。ペーストパターン112は、例えば、厚さ2~10μmとすることができる。また、用いる樹脂バインダによっては、ペーストパターン112の厚さを25μmとすることができる。
【0024】
次に、第2工程S102で、固定板101に固定された樹脂基板111に形成されたペーストパターン112に光源102から出射される近赤外線を照射して、ペーストパターン112を焼成し、樹脂基板111の上に導電性パターンを形成する。導電性パターンは、例えば、金属パターンである。照射する近赤外線は、ピーク波長域が0.8~1.7μmとされている。
【0025】
近赤外線(ピーク波長域0.8~1.7μm)が照射されたペーストパターン112では、含まれている金属微粒子が、照射された近赤外線を吸収して発熱する。一方、樹脂基板111は、照射された近赤外線をあまり吸収しないため、あまり発熱しない。このため、近赤外線の照射により、選択的にペーストパターン112が加熱される。このため、樹脂基板111が高温になることを抑制した状態で、近赤外線の照射強度を高くして選択的にペーストパターン112を高温に加熱することができる。
【0026】
一方、ペーストパターン112が加熱されるため、ペーストパターン112が形成されている箇所の樹脂基板111が加熱されることになるが、この樹脂基板111の熱は、固定板101に伝導して拡散していく。この結果、ペーストパターン112が形成されている箇所の樹脂基板111においても、熱の上昇が抑制されるものとなる。
【0027】
これらの結果、実施の形態によれば、樹脂基板111におけるダメージの発生を防止した状態で、ペーストパターン112の焼成をより迅速に短時間で実施することが可能となる。例えば、処理時間30秒~1分でペーストパターン112の焼成が実施できる。
【0028】
次に、実験の結果について以下の表1に示す。実験においては、表1に示す各材料による樹脂基板(シート)の各々に、導電性ペースト(藤倉化成株式会社製のナノ銀ペースト)による所定のパターンを形成し、各ランプによる加熱(ランプアニール)を1分間実施した。
【0029】
光源「近赤外線」は、ピーク波長0.8~1.7μmの近赤外線ランプ3本を用い、総出力13kw、エネルギー密度380kw/m2の条件とした。光源「Xeランプ」は、(ピーク波長0.4~0.6μmのXeランプを用いた。光源「遠赤外線」は、ピーク波長3~4μmの遠赤外線ランプ1本を用い、総出力1.25kw、エネルギー密度40kw/m2とした。
【0030】
また、パターンサイズ「30μm以下」:線幅30μm以下の配線パターンとし、パターンサイズ「1000μm」:線幅1000μm以下の配線パターンとし、パターンサイズ「10mm」:1辺10mmの正方形パターンとした。また、各パターンの厚さは2~10μmとした。
【0031】
上述した条件において、処理時間1分以内で、各パターンの導通が確認され、かつ樹脂基板(シート)の変形が観察されない試料について、判定結果を「○」とした。また、上記条件が満たされない場合、判定結果を「×」とした。導通は、熱風乾燥炉による焼成の90%以上の抵抗値を基準とした。
【0032】
【0033】
表1に示されているように、単位体積当たりの熱容量が3000[kJ/m3・K]以上、かつ、熱伝導率が45[W/m・K]以上の金属から構成されている基板においては、判定結果が「○」となっている。
【0034】
以上に説明したように、本発明によれば、単位体積当たりの熱容量が3000[kJ/m3・K]以上、かつ、熱伝導率が45[W/m・K]以上の金属から構成された固定板の上で、近赤外線を照射して焼成を実施するので、耐熱性が低い樹脂による基板が用いられていても、導電性ペーストの焼成がより短時間で実施できるようになる。
【0035】
例えば、プリント基板などにおける配線パターン(導電性パターン)の形成は、スクリーン印刷により実施しており、1層の配線パターンの形成に要する時間は、1分程度である。これに対し、配線パターンを焼成して配線とするために、現在一般に行われている焼成乾燥の工程は、数十分から一時間以上の時間がかかり、この焼成乾燥の工程にかかる時間の短縮が課題となっている。
【0036】
また、新たなフレキシブル基板の素材としてPET、PEN、PIなどの合成樹脂が用いられるようになっているが、PI以外の合成樹脂は耐熱性が低く、焼成や乾燥時の高温により製造上の不具合(印刷部分の割れ、剥離、基板の穴あき、変形など)が発生する場合がある。これに対し、本発明によれば、樹脂基板製造時の熱変形を抑制し、かつ、効率よく短時間で基板の製造を行うことができるようになる。
【0037】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0038】
101…固定板、102…光源、111…樹脂基板、112…ペーストパターン、113…固定機構。